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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064215
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】フロントフォーク
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/44 20060101AFI20240507BHJP
   F16F 9/32 20060101ALI20240507BHJP
   B62K 25/08 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
F16F9/44
F16F9/32 K
B62K25/08 Z
B62K25/08 B
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172640
(22)【出願日】2022-10-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】514241869
【氏名又は名称】カヤバモーターサイクルサスペンション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】網木 裕一
【テーマコード(参考)】
3D014
3J069
【Fターム(参考)】
3D014DD02
3D014DD05
3D014DD08
3D014DE02
3D014DE27
3J069AA46
3J069CC11
3J069CC15
3J069DD47
3J069EE28
3J069EE39
3J069EE46
(57)【要約】
【課題】 アジャスタケースの圧入や、スナップリングの設置をすることなく、アジャスタのキャップからの抜け止めを可能とし、組立てコスト及び加工コストを低減可能なフロントフォークの提供である。
【解決手段】 上記した目的を達成するため、フロントフォークFは、車体側チューブ2の上端部を閉塞するキャップ5に装着されて減衰力可変バルブ4を調整可能なアジャスタ6を備え、アジャスタ6は、キャップ5に対して螺合により周方向で回転可能に装着されるアジャスタ本体60の上端に設けられてアジャスタ本体60の上端から径方向へ延びるレバー61を有し、キャップ5は、車体側チューブ2の上端部を閉塞するキャップ本体50の上端から軸方向へ突出してレバー61に当接するとレバー61の回転を規制するストッパ52と、ストッパ52の上端から開口してフォーク本体1内に連通される空気孔56内に収容されるエアバルブ57とを有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側チューブと車軸側チューブとを摺動自在に嵌合したフォーク本体と、
前記フォーク本体内に収容される被調整部と、
前記車体側チューブの上端部を閉塞するキャップと、
前記キャップに装着されて前記被調整部を調整可能なアジャスタとを備え、
前記アジャスタは、前記キャップ又は前記被調整部に螺合されて前記キャップに対して周方向で回転可能に装着されるアジャスタ本体と、前記アジャスタ本体の上端に設けられて前記アジャスタ本体の上端から径方向へ延びるレバーとを有し、
前記キャップは、前記車体側チューブの上端部を閉塞するキャップ本体と、前記キャップ本体の上端から軸方向へ突出して前記レバーに当接すると前記レバーの回転を規制するストッパと、前記ストッパの上端から開口して前記フォーク本体内に連通される空気孔と、前記空気孔内に収容されるエアバルブとを有する
ことを特徴とするフロントフォーク。
【請求項2】
前記アジャスタ本体は、前記キャップ又は前記被調整部に対して1回転以上ねじ込まれて螺合されており、
前記レバーは周方向に回転操作可能であって、
前記ストッパは、前記キャップ本体の上端における前記レバーの回転軌道上の一部の位置から軸方向へ突出している
ことを特徴とする請求項1に記載のフロントフォーク。
【請求項3】
前記キャップは、内側に前記レバーを回転自在に収容する環状突部を有する
ことを特徴とする請求項1に記載のフロントフォーク。
【請求項4】
前記環状突部の内周に、前記レバーの先端に当接可能な凸部と、前記レバーの先端と当接しない深さをもつ凹部とが周方向で交互に複数設けられており、
所定トルク以上の力で前記レバーが回転操作されると、前記レバーが前記凸部を乗り越えて回転する
ことを特徴とする請求項3に記載のフロントフォーク。
【請求項5】
前記アジャスタの上端と前記レバーのいずれか一方には、軸方向に沿う嵌合孔が形成されており、
前記アジャスタの上端と前記レバーのいずれか他方には、前記嵌合孔に嵌合される嵌合部が設けられており、
前記嵌合孔の内周又は前記嵌合部の外周のいずれか一方には、周方向で配置される複数のスプライン溝又はセレーション溝が設けられており、
前記嵌合孔の内周又は前記嵌合部の外周のいずれか他方には、前記スプライン溝又は前記セレーション溝に歯合する複数のスプライン歯又はセレーション歯が設けられる
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のフロントフォーク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントフォークに関する。
【背景技術】
【0002】
鞍乗車両の前輪を支持するフロントフォークには、鞍乗車両における車体と前輪の車軸との間に介装されて減衰力を発揮するものがある。このようなフロントフォークは、鞍乗車両の車体に連結される車体側チューブと前記車体側チューブに嵌合して前輪車軸に連結される車軸側チューブとを備えて伸縮するフォーク本体と、フォーク本体内に収容されてフォーク本体の伸縮に伴って減衰力を発揮するダンパカートリッジとを備えて構成されるのが一般的である。
【0003】
前記したフロントフォークには、減衰力の特性をユーザーが望む特性へ変更可能なように、減衰力特性を調整するアジャスタが設けられる場合がある。例えば、フォーク本体とダンパカートリッジとの間に形成されるリザーバと、ダンパカートリッジの内部とを連通する連通路の途中にバルブを設け、バルブの開弁圧の調整をアジャスタで行うものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
具体的には、特許文献1のフロントフォークでは、キャップにキャップの上端から開口してフロントフォークの内外を連通する貫通孔が設けられている。そして、貫通孔の内周に円柱状のアジャスタを螺着し、アジャスタの下端とバルブとの間にバルブを閉じる方向に付勢するコイルばねを設置している。これにより、アジャスタを回転操作して、アジャスタが軸方向移動すると、アジャスタとバルブの距離が遠近してコイルばねの付勢力が変わるので、バルブの開弁圧を調整できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-63998号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のフロントフォークでは、貫通孔は、アジャスタが螺合される小径孔部と、小径孔部の上側に設けられて小径孔部よりも大径な大径孔部とを有している。そして、貫通孔の大径孔部の内周には筒状のアジャスタケースが圧入されている。
【0007】
アジャスタケースは、上端内周から内向きに突出する環状のフランジ部を有している。一方、アジャスタは、上端側に設けられてフランジ部の内周に挿通される小径部と、小径部の下端に連なってフランジ部の内径よりも外径が大きい大径部とを有している。
【0008】
これにより、特許文献1のフロントフォークでは、アジャスタケースのフランジ部の下端とアジャスタの大径部の上端が軸方向で対向するので、アジャスタが回転操作によりキャップから抜けるのを防止できる。
【0009】
ところが、上述したように、アジャスタケースはキャップの貫通孔の内周に圧入されているため、フロントフォークの組立時にアジャスタケースを貫通孔の内周に圧入する工程が必要となり、この圧入工程がフロントフォークの組立てコストの増大の原因になっていた。
【0010】
また、特許文献1には、キャップの貫通孔の上端内周に環状溝を設け、当該環状溝にスナップリングを嵌合することで、回転操作によりアジャスタがキャップから抜けるのを防止する方法も開示されている。しかしながら、この場合、キャップの貫通孔の上端内周に環状溝を設ける加工をする必要があるため、加工コストの増大を招く。
【0011】
そこで、本発明は、アジャスタケースの圧入や、スナップリングの設置をすることなく、アジャスタのキャップからの抜け止めを可能とし、組立てコスト及び加工コストを低減可能なフロントフォークの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成させるため、本発明のフロントフォークは、車体側チューブと車軸側チューブとを摺動自在に嵌合したフォーク本体内に収容される被調整部と、前記車体側チューブの上端部を閉塞するキャップに装着されて前記被調整部を調整可能なアジャスタとを備え、前記アジャスタは、前記キャップ又は前記被調整部に螺合されて前記キャップに対して周方向で回転可能に装着されるアジャスタ本体と、前記アジャスタ本体の上端に設けられて前記アジャスタ本体の上端から径方向へ延びるレバーとを有し、前記キャップは、前記車体側チューブの上端部を閉塞するキャップ本体と、前記キャップ本体の上端から軸方向へ突出して前記レバーに当接すると前記レバーの回転を規制するストッパと、前記ストッパの上端から開口して前記フォーク本体内に連通される空気孔と、前記空気孔内に収容されるエアバルブとを有することを特徴とする。この構成によると、アジャスタ本体が螺合によりキャップに装着された状態で、ストッパによってレバーの回転可能な範囲が1回転未満となる。そのため、アジャスタ本体をキャップ又は被調整部に対して少なくとも1回転以上ねじ込んで螺合しておけば、ユーザーによるレバーの回転操作によって、アジャスタがキャップから脱落するのを防止できる。
【0013】
また、本発明のフロントフォークでは、前記アジャスタ本体は、前記キャップ又は前記被調整部に対して1回転以上ねじ込まれて螺合されており、前記レバーは周方向に回転操作可能であって、前記ストッパは、前記キャップ本体の上端における前記レバーの回転軌道上の一部の位置から軸方向へ突出していてもよい。この構成によると、レバーの回転操作可能な範囲がストッパの側部の一端から他端までの周方向の範囲となるので、レバーの回転操作可能な範囲が1回転未満となる。その上、アジャスタ本体がキャップ又は被調整部に対して1回転以上ねじ込まれて螺合されているので、ユーザーによるレバーの回転操作によって、アジャスタがキャップから脱落するのを防止できる。
【0014】
また、本発明のフロントフォークでは、前記キャップは、内側に前記レバーを回転自在に収容する環状突部を有してもよい。この構成によると、レバーが環状突部の内側に収容されて保護されるので、レバーとキャップ本体との間に汚泥等が侵入してレバーの回転が妨げられるのを防止できる。
【0015】
また、本発明のフロントフォークでは、前記環状突部の内周に、前記レバーの先端に当接可能な凸部と、前記レバーの先端と当接しない深さをもつ凹部とが周方向で交互に複数設けられており、所定トルク以上の力で前記レバーが回転操作されると、前記レバーが前記凸部を乗り越えて回転するようにしてもよい。この構成によると、レバーを回転操作する際に、レバーの先端が凹部内に嵌合する瞬間には、レバーを回転操作するユーザーには振動が与えられ、レバーに凸部を乗り越えさせようとするとユーザーにはレバーの回転操作を抑制する抵抗が与えられるので、これらがクリック感となってユーザーに知覚される。よって、レバーを回転操作した際にユーザーへクリック感を与えて被調整部が調整されたことを知覚させ得る。
【0016】
また、本発明のフロントフォークでは、前記アジャスタの上端と前記レバーのいずれか一方には、軸方向に沿う嵌合孔が形成されており、前記アジャスタの上端と前記レバーのいずれか他方には、前記嵌合孔に嵌合される嵌合部が設けられており、前記嵌合孔の内周又は前記嵌合部の外周のいずれか一方には、周方向で配置される複数のスプライン溝又はセレーション溝が設けられており、前記嵌合孔の内周又は前記嵌合部の外周のいずれか他方には、前記スプライン溝又は前記セレーション溝に歯合する複数のスプライン歯又はセレーション歯が設けられてもよい。この構成によると、スプライン溝又はセレーション溝とスプライン歯又はセレーション歯がそれぞれ周方向に連続しているので、スプライン溝又はセレーション歯とスプライン歯又はセレーション歯を歯合してレバーをアジャスタ本体に取り付ける際に、レバーの初期位置の選択自由度が非常に高くなる。よって、被調整部の調整可能範囲の設定自由度が向上する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のフロントフォークによれば、アジャスタケースの圧入や、スナップリングの設置をすることなく、アジャスタのキャップからの抜け止めできるので、組立てコスト及び加工コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態におけるフロントフォークの縦断面図である。
図2】本発明の実施の形態におけるフロントフォーク内に収容されるダンパカートリッジの一部拡大縦断面図である。
図3】本発明の実施の形態におけるフロントフォークの上端側の一部拡大断面図である。
図4】本発明の実施の形態におけるフロントフォークの平面図である。
図5】本発明の実施の形態におけるキャップとアジャスタの分解斜視図である。
図6】本発明の実施の形態におけるレバーを底面側から見た斜視図である。
図7】本発明の実施の形態におけるレバーとアジャスタ本体の変形例の分解縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。いくつかの図面を通して付された同じ符号は、同じ部品を示す。
【0020】
図1に示すように、本実施の形態のフロントフォークFは、車体側チューブ2と車軸側チューブ3とを摺動自在に嵌合したフォーク本体1と、フォーク本体1内に収容される被調整部の一部を構成する減衰力可変バルブ4と、車体側チューブ2の上端部を閉塞するキャップ5と、キャップ5に装着されて減衰力可変バルブ4の減衰力特性を調整可能なアジャスタ6とを備える。
【0021】
また、以下の説明では、車体側チューブ2を鞍乗車両の車体側に配置し、車軸側チューブ3を鞍乗車両の車軸側に配置して、フロントフォークFが鞍乗車両の車体と車軸との間に介装された状態での上下を、単に「上」「下」という。
【0022】
以下、本実施の形態のフロントフォークFの各部について詳細に説明する。フォーク本体1は、図1に示すように、車体側チューブ2内に車体側チューブ2より小径な車軸側チューブ3を符示しない軸受を介して摺動自在に挿入して構成され、伸縮自在とされている。なお、車体側チューブ2を車軸側チューブ3より小径に設定して、車軸側チューブ3内に車体側チューブ2を挿入するようにしてもよい。
【0023】
そして、フォーク本体1内にはダンパカートリッジDが収容されており、このダンパカートリッジDは、フォーク本体1の伸縮に伴って伸縮して減衰力を発揮する。また、図1に示すように、車体側チューブ2の上端部を閉塞するキャップ5とダンパカートリッジDの上端との間にはフォーク本体1を伸長方向に付勢する懸架ばねSが介装されている。
【0024】
ダンパカートリッジDは、図1図2に示すように、車軸側チューブ3の下端開口部を閉塞する図外のボトムキャップに固定されたシリンダ7と、シリンダ7の上端開口部に装着された環状のロッドガイド8と、ロッドガイド8の内周に挿通されてシリンダ7内に移動自在に挿入されるとともに上端が車体側チューブ2の上端開口部を閉塞するキャップ5に連結される筒状のピストンロッド9と、ピストンロッド9に連結されてシリンダ7内に摺動自在に挿入されるとともにシリンダ7内を液体が充填される伸側室R1と圧側室R2に仕切るピストン10とを備えている。
【0025】
また、ダンパカートリッジDとフォーク本体1との間に形成される環状隙間は、液体と気体が充填されるリザーバRとして利用され、このリザーバRはシリンダ7に設けた図示しない孔を通じて圧側室R2に連通している。よって、伸縮時にシリンダ7内に出入りするピストンロッド9の体積分に見合った液体がシリンダ7内とリザーバRとでやり取りされて体積補償できるようになっている。なお、本実施の形態では、液体には作動油が使用されているが、フロントフォークFに使用される液体は、作動油以外にも、例えば、水、水溶液といった液体であってもよい。
【0026】
また、ピストン10は、環状であって、伸側室R1と圧側室R2とを連通する伸側ポート10aおよび圧側ポート10bを備えている。そして、ピストン10の図1中下端には、伸側ポート10aを開閉する環状の伸側リーフバルブ11が積層され、ピストン10の図2中上端には、圧側ポート10bを開閉する環状の圧側リーフバルブ12が積層されている。
【0027】
これらのピストン10、伸側リーフバルブ11及び圧側リーフバルブ12は、ともに、ピストンロッド9の図2中下端に連結されるピストン連結部材13の外周に装着されている。
【0028】
本実施の形態のピストン連結部材13は、図2に示すように、筒状であって、ピストンロッド9の下端外周に螺着される筒状のソケット部13aと、ソケット部13aよりも外径が小径であってソケット部13aから図中下方へ延びる筒状のピストン装着軸13bとを備えている。
【0029】
そして、図2に示すように、ピストン連結部材13のピストン装着軸13bの外周に圧側リーフバルブ12、ピストン10、伸側リーフバルブ11を上からこの順で装着した状態で、ピストン装着軸13bの下端外周にピストンナット14が螺合されている。これにより、圧側リーフバルブ12、ピストン10、伸側リーフバルブ11は、ソケット部13aとピストン装着軸13bとの間に形成される段部と、ピストンナット14とで挟持されて、ピストン装着軸13bの外周に固定される。
【0030】
この際、伸側リーフバルブ11と圧側リーフバルブ12は、ピストン装着軸13bに内周側が固定されており、ともに外周側が撓んでピストン10から離間して、それぞれ対応する伸側ポート10aと圧側ポート10bを開放できるようになっている。
【0031】
また、本実施の形態のピストン連結部材13は、ソケット部13aの伸側室R1に臨む側方から開口して内部に通じる横孔13cと、横孔13cよりも下側の内径を小径にして設けた環状弁座13dとを備えている。
【0032】
なお、環状弁座13dは、内径が小さくなる部分を設けて段部を形成し、この段部で形成されているが、ピストン連結部材13内に筒状或いは環状の部材を装着して、この部材で環状弁座を設けるようにしてもよい。
【0033】
また、ピストン連結部材13の下端は、圧側室R2に臨んでおり、横孔13cが伸側室R1に臨んでいて、横孔13cと、ピストン連結部材13の内部であってこの横孔13cよりも圧側室R2側の部分とで、伸側ポート10aおよび圧側ポート10bを迂回して伸側室R1と圧側室R2とを連通するバイパス路Bを形成している。
【0034】
また、本実施の形態のフロントフォークFは、バイパス路Bの流路面積を調整可能な減衰力可変バルブ4を備えている。減衰力可変バルブ4は、ニードルバルブとされており、図1図2に示すように、前記の環状弁座13dと、ピストン連結部材13内に軸方向移動可能に収容されて環状弁座13dに対して離着座するニードル40とを備えており、ピストンロッド9の内周に摺動自在に挿入されて下端がニードル40の上端に当接する調整ロッド41の上下動によってバイパス路Bの流路面積を変更できる。なお、ニードル40は、調整ロッド41の下端に一体的に連結されてもよい。
【0035】
ニードル40は、図2に示すように、ピストン連結部材13の内周に摺動自在に挿入される円柱状の基部40aと、基部40aより外径が小径で基部40aの下端から延びる軸部40bと、軸部40bの下端に設けられて環状弁座13dに離着座可能な円錐状の弁頭40cとを有している。
【0036】
そして、基部40aとピストン連結部材13の環状弁座13dを形成する段部との間には、コイルばね15が介装されていて、ニードル40は、環状弁座13dから離間する方向へ付勢されている。
【0037】
よって、調整ロッド41をコイルばね15のばね力に抗して押下げると、弁頭40cが環状弁座13dへ近づく。反対に、調整ロッド41を上方向へ移動させると、ニードル40がコイルばね15によって押し上げられて、弁頭40cが環状弁座13dから離間する。このように、調整ロッド41を図2中上下動させると、弁頭40cが環状弁座13dに対して遠近するので、ニードル40と環状弁座13dの間に形成される流路面積(弁開度)を調節できる。なお、バイパス路Bに設けられる減衰力可変バルブ4は、ニードル弁に限定されるものではなく、バイパス路B内の流路面積或いは開弁圧を変更可能な任意のバルブとされてもよい。
【0038】
このように構成されたフロントフォークFでは、フォーク本体1が伸長する場合、ダンパカートリッジDも伸長して、伸側室R1がピストン10によって圧縮される。そして、フォーク本体1の伸長速度が低速であって、伸側室R1の圧力が伸側リーフバルブ11を開弁させるまで至らない場合、減衰力可変バルブ4が開弁している状態では、伸側室R1内の液体がバイパス路Bを通じて圧側室R2へ移動する。この液体の流れに対して減衰力可変バルブ4が抵抗を与えるため、伸側室R1と圧側室R2の圧力に差が生じて、フロントフォークFは伸長作動を抑制する減衰力を発揮する。
【0039】
また、フォーク本体1の伸長速度が高速となり、伸側室R1の圧力が伸側リーフバルブ11を開弁させるようになると、減衰力可変バルブ4が開弁している状態では、伸側室R1内の液体がバイパス路Bだけでなく伸側ポート10aをも通じて圧側室R2へ移動する。この液体の流れに対して減衰力可変バルブ4と伸側リーフバルブ11が抵抗を与えるため、伸側室R1と圧側室R2の圧力に差が生じて、フロントフォークFは伸長作動を抑制する減衰力を発揮する。
【0040】
また、フォーク本体1が収縮する場合、ダンパカートリッジDも収縮して、圧側室R2がピストン10によって圧縮される。そして、フォーク本体1の収縮速度が低速であって、圧側室R2の圧力が圧側リーフバルブ12の開弁圧に至らない場合、減衰力可変バルブ4が開弁している状態では、圧側室R2内の液体がバイパス路Bを通じて伸側室R1へ移動する。この液体の流れに対して減衰力可変バルブ4が抵抗を与えるため、圧側室R2と伸側室R1の圧力に差が生じて、フロントフォークFは収縮作動を抑制する減衰力を発揮する。また、フォーク本体1の収縮速度が高速となり、圧側室R2の圧力が圧側リーフバルブ12の開弁圧に達するようになると、減衰力可変バルブ4が開弁している状態では、圧側室R2内の液体がバイパス路Bだけでなく圧側ポート10bをも通じて伸側室R1へ移動する。この液体の流れに対して減衰力可変バルブ4と圧側リーフバルブ12が抵抗を与えるため、圧側室R2と伸側室R1の圧力に差が生じて、フロントフォークFは収縮作動を抑制する減衰力を発揮する。
【0041】
ここで、本実施の形態の減衰力可変バルブ4は、調整ロッド41を軸方向へ移動させることによりニードル40を上下動させてニードル40の弁開度を調整できるので、フロントフォークFの伸縮両方における減衰力特性(伸縮速度に対する減衰力の特性)を調整できる。したがって、本実施の形態では、減衰力可変バルブ4と調整ロッド41とでフォーク本体1内に収容される被調整部を構成する。
【0042】
つづいて、キャップ5と、キャップ5に装着される減衰力可変バルブ4の減衰力特性を調整可能なアジャスタ6について詳しく説明する。本実施の形態のキャップ5は、図3に示すように、車体側チューブ2の上端内周に外周が螺着されて車体側チューブ2の上端部を閉塞する環状のキャップ本体50と、筒状であって外径がキャップ本体50よりも小径であってキャップ本体50の下端内周から下方へ向けて延びる連結筒部51とを備え、連結筒部51の内周にピストンロッド9の上端外周が螺着されている。また、連結筒部51の上端内周には、内向きに突出する環状のフランジ部51aが設けられており、フランジ部51aの内周には螺子溝が形成されている。
【0043】
アジャスタ6は、図3図4に示すように、キャップ本体50に対して周方向に回転可能に装着されるアジャスタ本体60と、アジャスタ本体60の上端に取り付けられてアジャスタ本体60の上端から径方向に延びるレバー61とを備える。
【0044】
詳細には、本実施の形態のアジャスタ本体60は、図3図4図5に示すように、円柱状であってキャップ本体50の内周に周方向回転自在であって軸方向移動自在に挿入される基部60aと、基部60aより外径が小径であって基部60aの下端から延びてキャップ本体50のフランジ部51aの内周に外周が螺合されるとともに下端が調整ロッド41の上端に当接する螺子軸60bとを備える。そのため、アジャスタ本体60を周方向に回転させると、アジャスタ本体60が送り螺子の要領で軸方向となる図中で上下方向へ移動する。
【0045】
また、基部60aの軸方向長さは、キャップ本体50のフランジ部51aの上端からキャップ本体50の上端までの距離よりも長くなっているため、基部60aの上端がキャップ本体50から上方へ突出している。よって、基部60aは、上端にキャップ本体50から常に外部に露出した状態となる露出部を備える。また、図3図5に示すように、基部60aの露出部の外周には環状溝60a1が形成されている。さらに、基部60aには、上端から開口して軸方向に沿う六角形状の嵌合孔60cが形成されている。
【0046】
次に、本実施の形態のレバー61は、合成樹脂製であって、図3図4図5に示すように、アジャスタ本体60の基部60aに装着される有頂筒状の装着部61aと、装着部61aの外周に連なって径方向に延びるレバー本体61bとを有する。
【0047】
レバー61は、図3図6に示すように、装着部61aの頂部の下端から下方へ向けて突出する六角柱状の嵌合部62を備えている。この嵌合部62は、基部60aに形成された嵌合孔60cの内周形状と符合する形状となっている。そのため、図3に示すように、嵌合部62を嵌合孔60cに嵌合して、装着部61aを基部60aに装着すると、レバー61がアジャスタ本体60に対して回り止めされた状態で取り付けられる。
【0048】
なお、本実施の形態では、レバー61の装着部61aに嵌合部62を設け、アジャスタ本体60の基部60aに嵌合孔60cを設けているが、基部60aに嵌合部を設け、レバー61の装着部61aに嵌合孔を設けてもよい。その場合、例えば、基部60aの露出部の外周の断面形状とレバー61の装着部61aの内周の断面形状を互いに符合する真円以外の形状とすれば、基部60aを嵌合部として、レバー61の装着部61aの内周を嵌合孔として利用できるので、嵌合部と嵌合孔を設けるための加工が最低限で済む。また、本実施の形態では嵌合部62と嵌合孔60cはそれぞれ六角形状に形成されているが、回り止めできればよいので真円以外の形状であれば特に限定されない。
【0049】
なお、本実施の形態では、アジャスタ本体60に設けられた嵌合孔60cにレバー61に設けられた嵌合部62を嵌合することで、レバー61のアジャスタ本体60に対する回り止めを行っているが、レバー61をアジャスタ本体60に対して回り止めする手段は上記した手段には限定されない。
【0050】
また、装着部61aの内径は基部60aの外径と略同じ大きさに設定されており、装着部61aの筒部の下端内周には、内向きに突出する爪63が設けられている。そして、図3に示すように、装着部61aが基部60aに装着された状態で、爪63が基部60aの外周に設けられた環状溝60a1に入り込んで引っ掛かるようになっているので、装着部61aが基部60aから抜けるのを防止できる。
【0051】
なお、装着部61aの周方向における爪63の設置位置は特に限定さないが、図6に示すように、装着部61aの筒部の下端内周におけるレバー本体61bと径方向で対向する位置に爪63が設けられていると、ユーザーがレバー本体61bを摘んでレバー61を操作する際に、装着部61aに対してレバー本体61b側のみからレバー61を持ち上げる方向の力が作用しても、爪63が環状溝60a1に深く引っ掛かるので、レバー61の操作中に装着部61aが基部60aから抜けるのを確実に防止できる。また、爪63の数は特に限定されず、爪63は装着部61aの筒部の下端内周に複数設置されてもよい。このように爪63を装着部61aの筒部の下端内周に複数設置すると、レバー61の装着部61aが基部60aから抜けるのをより確実に防止できる。
【0052】
また、このようなレバー61の装着部61aを基部60aに装着する場合、レバー61は合成樹脂製であって弾性変形できるため、爪63が基部60aの外周に当接すると装着部61aの内径が拡径して、装着部61a内に基部60aを挿入できる。そして、爪63が基部60aの環状溝60a1に対向するまで基部60aが装着部61a内に挿入されると、装着部61aが元の形に戻るので、爪63が環状溝60a1内に入り込んで、レバー61がアジャスタ本体60に対して抜けが防止された状態で取り付けられる。
【0053】
なお、本実施の形態では、レバー61に設けられた爪63をアジャスタ本体60における基部60aの外周に設けられた環状溝60a1に引っ掛けることでレバー61のアジャスタ本体60に対する抜けを防止しているが、レバー61をアジャスタ本体60に対して抜け止めする手段は上記した手段には限定されない。
【0054】
このように本実施の形態では、レバー61は、アジャスタ本体60に対して回り止めされるとともに抜けが防止された状態で取り付けられている。そのため、ユーザーがレバー61のレバー本体61bを摘んでレバー61を回転操作すると、レバー61とともにアジャスタ本体60が周方向に回転するので、アジャスタ本体60が送り螺子の要領で軸方向となる上下方向へ移動する。
【0055】
ここで、詳しくは後述するが、キャップ本体50は、図3図4に示すように、キャップ本体50の上端から軸方向へ突出してレバー61に当接するとレバー61の回転を規制するストッパ52を備えている。
【0056】
さらに、本実施の形態では、レバー61をアジャスタ本体60が下方へねじ込まれる方向にストッパ52に当接するまで回転させても、レバー61の装着部61aの筒部の下端とキャップ本体50の上端との間に隙間が形成される。
【0057】
そのため、アジャスタ本体60を回転させて下方向へ移動させたときに、レバー61の装着部61aの筒部の下端がキャップ本体50の上端に当接しないので、アジャスタ本体60の下方向への移動が阻止されてしまうことがない。
【0058】
また、本実施の形態では、図3に示すように、爪63の上下方向の長さが、環状溝60a1の縦幅よりも短くなっている。そのため、爪63の上下方向の長さと環状溝60a1の縦幅の差の分だけ、レバー61のアジャスタ本体60に対する上下方向の移動が許容される。
【0059】
すると、仮に組立時の誤差により、レバー61の装着部61aの筒部の下端とキャップ本体50の上端との間に形成される隙間が設計よりも小さくなって、アジャスタ本体60を下方向へ移動させた際に、装着部61aの筒部の下端がキャップ本体50の上端に当接したとしても、爪63の上下方向の長さと環状溝60a1の縦幅の差の分だけレバー61がアジャスタ本体60に対して上方向へ移動できる。よって、このような場合にあっても、アジャスタ本体60の下方向への移動が阻止されない。ただし、爪63の上下方向の長さと環状溝60a1の縦幅は同じ大きさに設定されてもよい。
【0060】
また、アジャスタ本体60の螺子軸60bの下端は調整ロッド41の上端に当接しているため、上述したようにアジャスタ本体60を軸方向に上下移動させると、調整ロッド41が軸方向に上下移動して、ニードル40の弁開度を調整できるので、減衰力可変バルブ4の減衰力特性を調整できる。
【0061】
なお、上述したアジャスタ6の構成は、一例であって、減衰力可変バルブ4の減衰力特性を調整可能な限りにおいて、アジャスタ6の構成は特に限定されない。例えば、調整ロッド41をピストンロッド9に対して回り止めしつつ調整ロッド41の上端に内周に螺子溝が設けられた螺子筒部を設け、当該螺子筒部をアジャスタ本体60の螺子軸60bの外周に螺合してもよい。このようにすると、アジャスタ6を周方向に回転操作すれば、調整ロッド41が螺子軸60b上を送り螺子の要領で軸方向移動するので、ニードル40の弁開度を調整できる。
【0062】
また、レバー61のアジャスタ本体60に対する取付方法は、レバー61のアジャスタ本体60に対する回転や抜けが防止される限りにおいて特に限定されない。例えば、レバー61はアジャスタ本体60に対してネジ止めや接着によって取り付けられてもよい。ただし、本実施の形態の取付方法によれば、レバー61をアジャスタ本体60の基部60aに被せて装着するだけでよいため、アジャスタ6の組立てが容易となる。また、本実施の形態では、レバー61は合成樹脂製となっているが、レバー61の材質は、特に限定されず、例えば金属製であってもよい。
【0063】
戻って、キャップ本体50には、図3図4に示すように、キャップ本体50の上端から軸方向へ突出してレバー61に当接するとレバー61の回転を規制するストッパ52が設けられている。
【0064】
具体的には、図4に示すように、ストッパ52は、キャップ本体50の上端におけるレバー61を周方向に回転する場合のレバー本体61bの回転軌道上の一部の位置から軸方向へ突出している。そのため、レバー61の回転操作中に、レバー本体61bが、ストッパ52の側部の一端又は他端に当接すると、レバー61のそれ以上の回転が規制される。つまり、レバー61の回転可能な範囲は、ストッパ52の側部の一端から他端までの周方向の範囲となる。
【0065】
そして、本実施の形態では、レバー61を図4中右回りに回転させてストッパ52の側部の一端に当接させると、アジャスタ本体60が下方向へ最大量移動するので、調整ロッド41も下方向に最大量移動して、ニードル40の弁開度を最小にできる。反対に、レバー61を図4中左回りに回転させてストッパ52の側部の他端に当接させると、アジャスタ本体60が上方向へ最大量移動するので、調整ロッド41も上方向に最大量移動して、ニードル40の弁開度を最大にできる。
【0066】
なお、上述したレバー61の回転方向とニードル40の弁開度の関係は一例であって、レバー61を図4中左回りに回転させるとニードル40の弁開度が大きくなり、レバー61を図4中右回りに回転させるとニードル40の弁開度が小さくなるとしてもよい。
【0067】
また、このようなストッパ52が設けられていると、レバー61の回転可能な範囲は、1回転未満となる。そして、本実施の形態では、アジャスタ本体60の螺子軸60bは、所定の位置に配置されるまで、少なくとも1回転以上キャップ本体50のフランジ部51aに対してねじ込まれて螺合されている。そのため、アジャスタ本体60を1回転未満しか抜け方向(図4中左回り)へ回転できないので、ユーザーによるレバー61の回転操作によって、アジャスタ6がキャップ5から脱落するのを防止できる。
【0068】
また、本実施の形態では、キャップ5は、キャップ本体50の上端から起立して内側にレバー61を回転自在に収容する環状突部53を備え、環状突部53の内周には、レバー61のレバー本体61bの先端に当接可能な凸部54と、レバー61のレバー本体61bの先端と当接しない深さをもつ凹部55とが周方向で交互に設けられている。
【0069】
具体的には、環状突部53は、図3図4に示すように、キャップ本体50の上端外周に沿うように起立して一端と他端がそれぞれストッパ52に連なるC字状に形成されている。
【0070】
また、凸部54は、環状突部53の内周から径方向で内向きに突出して形成されており、各凸部54の先端を通る内接円の中心がレバー61の回転中心と一致するようになっている。そして、上記内接円の直径は、レバー61を周方向に回転させたときにレバー本体61bの先端が通過する仮想円の直径よりも僅かに小さくなるように設定されている。
【0071】
そのため、図4に示すように、レバー61のレバー本体61bの先端が凹部55内に嵌合された状態では、レバー本体61bの先端が2つの凸部54,54に挟まれた状態となるので、レバー61の回転位置を凹部55の数に応じて位置決めできる。
【0072】
さらに、レバー本体61bの先端が凹部55内に嵌合された状態では、ユーザーはレバー本体61bの先端が凸部54を乗り越え可能な所定トルク以上の力でレバー61を回転操作しないと、レバー61を回転させることができない。したがって、レバー61のレバー本体61bの先端が凹部55内に嵌合する瞬間には、レバー61を回転操作するユーザーには振動が与えられ、レバー61に凸部54を乗り越えさせようとするとユーザーにはレバー61の回転操作を抑制する抵抗が与えられるので、これらがクリック感となってユーザーに知覚される。
【0073】
よって、環状突部53の内周に上記したような凸部54と凹部55が設けられていると、レバー61を回転操作した際にユーザーへクリック感を与えて減衰力可変バルブ4の減衰力特性が切り換わったことを知覚させ得る。ただし、レバー61の回転操作時にユーザーにクリック感を知覚させる必要がなければ、凸部54と凹部55は省略されてもよい。
【0074】
また、本実施の形態では、環状突部53の内側にレバー61が収容されているので、レバー61は環状突部53によって保護されて、レバー61とキャップ本体50との間に汚泥等が侵入してレバー61の回転が妨げられるのを防止できる。
【0075】
また、環状突部53の高さは、特に限定されないが、環状突部53の高さを高くすると、その分だけ環状突部53の内側に汚泥等が入りづらくなるので、レバー61とキャップ本体50との間に汚泥等の侵入を防止する効果が向上する。なお、本実施の形態では、環状突部53とストッパ52の高さは等しくなっているが、環状突部53とストッパ52の高さは異なっていてもよい。また、環状突部53とストッパ52は、キャップ本体50の上端に分離して設けられてもよい。
【0076】
なお、鞍乗車両の走行中にレバー61の付近まで汚泥が届く心配がなければ、環状突部53は省略されてもよい。
【0077】
また、本実施の形態のキャップ5は、図3図4に示すように、ストッパ52の上端から開口してキャップ本体50を貫通してフォーク本体1内に連通される空気孔56と、空気孔56内に収容されるエアバルブ57とを備える。
【0078】
本実施の形態のエアバルブ57は、空気孔56の内周に螺着されて、空気孔56を閉塞するバルブである。また、エアバルブ57の上端にはドライバの先端の差込を許容する溝57aが設けられており、前記ドライバを用いてエアバルブ57をキャップ本体50に対して回転操作できるようになっている。
【0079】
ここで、フロントフォークFは繰り返し伸縮すると、フォーク本体1内に収容された作動油から空気が溶け出してフォーク本体1内の気圧が高くなる。そのような場合に、エアバルブ57を緩めてフォーク本体1の内外を空気孔56を介して連通させることで、フォーク本体1内の気圧を大気圧に戻せるようになっている。
【0080】
また、エアバルブ57は、ストッパ52の上端から開口してキャップ本体50を貫通する空気孔56内に収容されている。そのため、エアバルブ57の軸方向位置は、エアバルブ57を収容する空気孔56をキャップ本体50のみに設ける場合に比べて、ストッパ52の突出高さの分だけ上方に位置するので、その分だけフォーク本体1の内部の容積を確保できる。
【0081】
さらに、本実施の形態では、エアバルブ57がキャップ5におけるストッパ52とキャップ本体50を貫通する空気孔56に収容されているので、キャップ本体50が、エアバルブ57を収容可能な肉厚を有する必要がない。よって、キャップ本体50の肉厚を薄くできるので、キャップ5を軽量化できる。
【0082】
なお、本実施の形態のエアバルブ57は、フォーク本体1内の気圧を大気圧に戻すためのエア抜き用のバルブであるが、フォーク本体1のリザーバR内に大気圧以上の圧力の気体を封入し、懸架ばねSに代えて、この気体をフォーク本体1を伸長方向に付勢するエアばねとして機能させる場合には、エアバルブ57は、リザーバR内への気体の給排を行えるものとしてもよい。その場合、エアバルブ57を介して気体の給排を行うことで、エアばねのばね特性を調節できる。
【0083】
前述したように、本実施の形態のフロントフォークFは、車体側チューブ2と車軸側チューブ3とを摺動自在に嵌合したフォーク本体1と、フォーク本体1内に収容される被調整部としての調整ロッド41及び減衰力可変バルブ4と、車体側チューブ2の上端部を閉塞するキャップ5と、キャップ5に装着されて減衰力可変バルブ4の減衰力特性を調整可能なアジャスタ6とを備え、アジャスタ6は、キャップ5に螺合されてキャップ5に対して周方向で回転可能に装着されるアジャスタ本体60と、アジャスタ本体60の上端に設けられてアジャスタ本体60の上端から径方向へ延びるレバー61とを有し、キャップ5は、車体側チューブ2の上端部を閉塞するキャップ本体50と、キャップ本体50の上端から軸方向へ突出してレバー61に当接するとレバー61の回転を規制するストッパ52と、ストッパ52の上端から開口してフォーク本体1内に連通される空気孔56と、空気孔56内に収容されるエアバルブ57とを有している。
【0084】
この構成によると、アジャスタ本体60が螺合によりキャップ5に装着された状態で、ストッパ52によってレバー61の回転可能な範囲が1回転未満となる。そのため、アジャスタ本体60をキャップ5に対して少なくとも1回転以上ねじ込んで螺合しておけば、ユーザーによるレバー61の回転操作によって、アジャスタ6がキャップ5から脱落するのを防止できる。
【0085】
よって、本実施の形態のフロントフォークFでは、従来のフロントフォークのように、キャップに装着したアジャスタの上からアジャスタケースを圧入したり、キャップに設けた貫通孔の内周にスナップリングを嵌合する環状溝を設ける加工をする必要がないため、フロントフォークFの組立てコスト及び加工コストを低減できる。
【0086】
また、この構成によると、エアバルブ57は、ストッパ52の上端から開口してキャップ本体50を貫通する空気孔56内に収容されている。そのため、エアバルブ57の軸方向位置は、エアバルブ57を収容する空気孔56をキャップ本体50のみに設ける場合に比べて、ストッパ52の突出高さの分だけ上方に位置するので、その分だけフォーク本体1の内部の容積を確保できる。
【0087】
さらに、エアバルブ57がキャップ5におけるストッパ52とキャップ本体50を貫通する空気孔56に収容されているので、キャップ本体50が、エアバルブ57を収容可能な肉厚を有する必要がない。よって、キャップ本体50の肉厚を薄くできるので、キャップ5を軽量化できる。
【0088】
また、本実施の形態のフロントフォークFでは、アジャスタ本体60は、キャップ5に対して1回転以上ねじ込まれて螺合されており、レバー61は周方向に回転操作可能であって、ストッパ52は、キャップ本体50の上端におけるレバー61の回転軌道上の一部の位置から軸方向へ突出している。
【0089】
この構成によると、レバー61の回転操作可能な範囲がストッパ52の側部の一端から他端までの周方向の範囲となるので、レバー61の回転操作可能な範囲が1回転未満となる。その上、アジャスタ本体60がキャップ5に対して1回転以上ねじ込まれて螺合されているので、ユーザーによるレバー61の回転操作によって、アジャスタ6がキャップ5から脱落するのを防止できる。
【0090】
また、本実施の形態では、アジャスタ本体60は、キャップ5における連結筒部51のフランジ部51aの内周に螺合されているが、アジャスタ本体60は被調整部を構成する調整ロッド41に螺合されてもよい。具体的には、例えば、調整ロッド41をピストンロッド9に対して回り止めしつつ調整ロッド41の上端に内周に螺子溝が設けられた螺子筒部を設け、当該螺子筒部をアジャスタ本体60の螺子軸60bの外周に螺合してもよい。このようにすると、アジャスタ6を周方向に回転操作すれば、調整ロッド41が螺子軸60b上を送り螺子の要領で軸方向移動するので、ニードル40の弁開度が調整されて、減衰力可変バルブ4の減衰力特性を調整できる。
【0091】
また、本実施の形態では、フロントフォークFの伸縮時に減衰力を発揮する調整ロッド41及び減衰力可変バルブ4を被調整部としているが、被調整部は調整ロッド41及び減衰力可変バルブ4には限定されず、例えば、被調整部を懸架ばねS及び懸架ばねSの端部を支持する一対のばね受として、懸架ばねSの上端を支持するばね受の軸方向位置をアジャスタ6で調整して、懸架ばねSの初期荷重を調整してもよい。
【0092】
また、本実施の形態のフロントフォークFでは、キャップ5は、内側にレバー61を回転自在に収容する環状突部53を有している。この構成によると、レバー61が環状突部53の内側に収容されて保護されるので、レバー61とキャップ本体50との間に汚泥等が侵入してレバー61の回転が妨げられるのを防止できる。ただし、鞍乗車両の走行中にレバー61の付近まで汚泥が届かないあるいはレバー61を保護する必要がなければ、環状突部53は省略されてもよい。
【0093】
また、本実施の形態のフロントフォークFでは、環状突部53の内周に、レバー61の先端に当接可能な凸部54と、レバー61の先端と当接しない深さをもつ凹部55とが周方向で交互に複数設けられており、所定トルク以上の力でレバー61が回転操作されると、レバー61が凸部54を乗り越えて回転するようになっている。
【0094】
この構成によると、レバー61を回転操作する際に、レバー61の先端であるレバー本体61bが凹部55内に嵌合する瞬間には、レバー61を回転操作するユーザーには振動が与えられ、レバー61に凸部54を乗り越えさせようとするとユーザーにはレバー61の回転操作を抑制する抵抗が与えられるので、これらがクリック感となってユーザーに知覚される。よって、レバー61を回転操作した際にユーザーへクリック感を与えて被調整部である減衰力可変バルブ4の減衰力特性が調整されたことを知覚させ得る。
【0095】
また、従来のフロントフォークでは、アジャスタの回転操作時にユーザーへクリック感を与えるために、アジャスタとアジャスタケースとの間にディテント機構を設けていた。このディテント機構は、アジャスタケースの内周に設けた多角形内周部と、アジャスタに側方から開口して上記多角形内周部に対向する袋孔と、袋孔内に収容されてコイルばねによって多角形内周部側に付勢されるボールとを備えて、アジャスタを回転操作すると、ボールが多角形内周部の角のいずれかに嵌合してユーザーにクリック感を知覚させるものであって、構造が複雑であった。
【0096】
これに対し、本実施の形態では、環状突部53の内周に、レバー61の先端に当接可能な凸部54と、レバー61の先端と当接しない深さをもつ凹部55とを周方向で交互に複数設けるだけであるから、構造が簡単である。よって、フロントフォークFの加工も組み立ても容易となり、コストを低減できる。ただし、凸部54と凹部55は省略されてもよい。
【0097】
また、本実施の形態では、レバー61に設けられた嵌合部62とアジャスタ本体60の基部60aに設けられた嵌合孔60cは、それぞれ互いに嵌合する六角状とされている。そのため、レバー61をアジャスタ本体60に取り付ける際に、嵌合部62のどの角を嵌合孔60cのどの角に嵌合させるかで、レバー61の周方向における初期位置が決定される。
【0098】
ここで、レバー61の回転可能な範囲は、前述したように、ストッパ52の側部の一端から他端までの範囲であるため、レバー61の初期位置によって、減衰力可変バルブ4の減衰力特性の調整可能範囲が自動的に決まる。
【0099】
よって、本実施の形態では、嵌合部62のどの角を嵌合孔60cのどの角に嵌合させるかを任意に選択することで、減衰力可変バルブ4の減衰力特性の調整可能範囲を任意に設定することができる。
【0100】
ただし、レバー61に設けられた嵌合部62とアジャスタ本体60の基部60aに設けられた嵌合孔60cをそれぞれ互いに嵌合する六角状とするのに代えて、図7に示すように、嵌合孔60cの内周に周方向に配置される複数のスプライン溝aを設け、嵌合部62の外周にスプライン溝aに歯合する複数のスプライン歯bを設けてもよい。
【0101】
この構成によると、スプライン溝aとスプライン歯bがそれぞれ周方向に連続しているので、スプライン溝aとスプライン歯bを歯合してレバー61をアジャスタ本体60に取り付ける際に、レバー61の初期位置の選択自由度が非常に高くなる。よって、減衰力可変バルブ4の調整可能範囲の設定自由度が非常に高くなる。
【0102】
なお、本実施の形態では、レバー61の装着部61aに嵌合部62を設け、アジャスタ本体60の基部60aに嵌合孔60cを設けているが、基部60aに嵌合部を設け、レバー61の装着部61aに嵌合孔を設けてもよい。
【0103】
また、図7に示す形態では、嵌合孔60cの内周に複数のスプライン溝aを設け、嵌合部62の外周に複数のスプライン歯bを設けているが、嵌合孔60cの内周に複数のスプライン歯bを設け、嵌合部62の外周に複数のスプライン溝aを設けてもよい。また、スプライン溝aとスプライン歯bに代えて、セレーション溝とセレーション歯を設けてもよい。
【0104】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0105】
1・・・フォーク本体、2・・・車体側チューブ、3・・・車軸側チューブ、4・・・減衰力可変バルブ(被調整部)、5・・・キャップ、6・・・アジャスタ、41・・・調整ロッド(被調整部)、60・・・アジャスタ本体、61・・・レバー、50・・・キャップ本体、52・・・ストッパ、53・・・環状突部、54・・・凸部、55・・・凹部、56・・・空気孔、57・・・エアバルブ、60c・・・嵌合孔、62・・・嵌合部、a・・・スプライン溝、b・・・スプライン歯、F・・・フロントフォーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2023-11-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0066
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0066】
なお、上述したレバー61の回転方向とニードル40の弁開度の関係は一例であって、レバー61を図4回りに回転させるとニードル40の弁開度が大きくなり、レバー61を図4回りに回転させるとニードル40の弁開度が小さくなるとしてもよい。