(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064220
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】光学部材、恒星センサ、撮像装置及び宇宙航行体
(51)【国際特許分類】
G03B 11/04 20210101AFI20240507BHJP
G02B 7/02 20210101ALI20240507BHJP
G03B 9/02 20210101ALI20240507BHJP
G03B 17/02 20210101ALI20240507BHJP
G02B 5/00 20060101ALI20240507BHJP
B64G 1/36 20060101ALI20240507BHJP
B64G 1/10 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
G03B11/04 C
G02B7/02 D
G02B7/02 H
G03B9/02 A
G03B17/02
G02B5/00 B
B64G1/36 100
B64G1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172646
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000104652
【氏名又は名称】キヤノン電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神津 聡
【テーマコード(参考)】
2H042
2H044
2H080
2H083
2H100
【Fターム(参考)】
2H042AA06
2H042AA09
2H042AA22
2H044AD01
2H044AG01
2H080AA07
2H080AA30
2H083DD01
2H083DD35
2H100CC01
(57)【要約】
【課題】本発明は、迷光を低減する光学部材を提供することを目的とする。
【解決手段】光が通過する開口部を有するシート材と、前記シート材を保持する環状材と、を備える。前記シート材と前記環状材は、大きい入射角で入射する太陽光線に対する低反射表面を有する。前記シート材は前記開口部側にテーパ面を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光が通過する開口部を有するシート材と、
前記シート材を保持する環状材と、を備え、
前記シート材と前記環状材は、大きい入射角で入射する太陽光線に対する低反射表面を有し、
前記シート材は前記開口部側にテーパ面を有する、
ことを特徴とする光学部材。
【請求項2】
前記大きい入射角は60°以上であり、
前記低反射表面は、前記太陽光線が60°以上の入射角で前記低反射表面に入射した場合の反射率が0.10以下となる表面である、
ことを特徴とする請求項1に記載の光学部材。
【請求項3】
前記低反射表面は、基材と、前記基材上に設けられた第1層と、前記第1層上に設けられた複数の突起部を有する第2層とを備える、
ことを特徴とする請求項2に記載の光学部材。
【請求項4】
前記基材は、アルミニウム又はアルミニウム合金を備え、
前記第1層は、黒色の多孔質の酸化アルミニウムを備え、
前記第2層は、酸化アルミニウムを備える、
ことを特徴とする請求項3に記載の光学部材。
【請求項5】
前記シート材と前記環状材を内包するように保持する環状ユニットと、を備え、
前記環状ユニットは、前記環状ユニットの一方の側に前記シート材と前記シート材の間を保持する複数の前記環状材を備え、前記一方の側とは反対の側に複数のレンズをそれぞれ有する複数のレンズ群と、前記複数のレンズ群の間に設けられた絞りと、を備え、
前記絞りは、前記光が通過する開口部を有し、前記開口部側にテーパ面を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の光学部材。
【請求項6】
前記シート材の前記テーパ面と前記絞りの前記テーパ面は、平面又は曲面である、
ことを特徴とする請求項5に記載の光学部材。
【請求項7】
レンズを通過した光を受光する撮像素子と、
請求項1から6のいずれか一項に記載の光学部材と、を備える、
ことを特徴とする恒星センサ。
【請求項8】
レンズを通過した光を受光する撮像素子と、
請求項1から6のいずれか一項に記載の光学部材と、を備える、
ことを特徴とする撮像装置。
【請求項9】
請求項7に記載の恒星センサを少なくとも1つ以上備える宇宙航行体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部材、恒星センサ、撮像装置及び宇宙航行体に関する。
【背景技術】
【0002】
人工衛星、ロケット、及び月面探査車等の宇宙航行体は、宇宙航行体が向いている方向(すなわち、姿勢)を認識する必要がある。そのため、宇宙航行体は、姿勢検知センサを備えている。姿勢検知センサは、例えば、地磁気及び太陽の情報を取得することで宇宙航行体の姿勢を検知するセンサがある。特に、高精度な姿勢検知センサとして恒星センサ(スタートラッカー)と呼ばれるセンサがある。恒星センサは恒星を撮影し、撮影した恒星の配置に基づいて撮影した恒星が全球のうちのどの恒星に該当するかを判別する。恒星センサは、恒星の判別結果に基づいて、恒星センサが向いている姿勢を導出する。宇宙航行体に対して恒星センサが取り付けられている位置は既知であるため、恒星センサは宇宙航行体の姿勢情報を取得することができる。
【0003】
恒星センサは、レンズ、レンズ鏡筒、及びバッフル(レンズフード)からなる光学系と、撮像素子と駆動回路によって実現される撮影機能、姿勢導出機能、及び通信機能からなる検出系を有する。恒星センサは、いわゆるデジタルカメラと類似する構成を有している。
【0004】
大気の無い宇宙空間では、恒星センサは日照域及び日陰域の両方において恒星を撮影することができる。しかし、撮影する恒星の近傍に太陽、月、又は地球などの迷光源が存在する場合、恒星センサの光学系において迷光が発生する。これにより、恒星センサは、恒星を誤検知するか、あるいは恒星を認識できなくなる。最も明るい迷光源は太陽である。例えば、6等級の恒星の明るさと太陽の明るさとの比は、約1013である。
【0005】
恒星センサの性能を示す項目の一つとして「太陽禁止離角」がある。太陽禁止離角は、恒星センサの光学系の視線方向(光軸方向)に対し、太陽が恒星センサに近づいても恒星センサの性能に問題が生じない角度を示している。ここで、「光学系画角<太陽禁止離角」という関係が成り立つ。つまり、太陽禁止離角が光学系画角に近ければ近いほど(光学系画角≒太陽禁止離角)、恒星センサは全球に渡って姿勢検知できるため、恒星センサの性能は高いことを表す。通常、太陽禁止離角を確保するために、恒星センサにバッフルが取り付けられている。バッフルは、ベーンと呼ばれる開口径付きの羽根材を内包するように保持している。例えば、特許文献1は、撮像素子の有効範囲内に迷光が入射しないように、バッフルの内壁面を黒色塗料で表面処理することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、大きい入射角で入射する太陽光線が撮像素子の有効範囲内に到達するため、恒星センサによる恒星の同定精度の低下を引き起こすことがある。
【0008】
そこで、本発明は、迷光を低減する光学部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的を達成するために、本発明の一実施形態に係る光学部材は、光が通過する開口部を有するシート材と、前記シート材を保持する環状材と、を備え、前記シート材と前記環状材は、大きい入射角で入射する太陽光線に対する低反射表面を有し、前記シート材は前記開口部側にテーパ面を有する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、迷光を低減する光学部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】本発明に係る恒星センサの制御部のハードウェア構成の一例を示す図。
【
図4】本発明に係るバッフルに入射する太陽光と入射角の関係を説明する図。
【
図5】本発明に係る低反射表面処理を適用したベーンの断面図。
【
図6】本発明のベーンと従来の低反射表面処理を適用したベーンの反射率の比較を示す図。
【
図7】本発明に係る低反射表面処理を適用した絞りを説明する図。
【
図8】本発明に係る恒星センサを搭載した宇宙航行体の一例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0013】
(第1実施形態)
図1は、本発明に係る恒星センサの断面図である。
【0014】
恒星センサ1は、宇宙航行体の姿勢を検知するセンサであり、バッフル2、レンズ3、及び検出部4を備える。恒星センサ1は、宇宙航行体として例えば、人工衛星、ロケット、月面探査車及び火星探査車等に搭載される。
【0015】
バッフル2とレンズ3は、光学部材である。本実施形態の光学部材は、恒星センサ1に搭載されるが、これに限定されることはなく、例えば、撮像装置及びあらゆる光学機器に搭載され得る。
【0016】
バッフル2は、複数のベーン7、複数のスペーサー8、及び絞り9を備える。本実施形態のベーン7は4枚であるが、バッフル2のサイズに応じてベーン7の枚数は変更され得る。本実施形態のスペーサー8は3個であるが、ベーン7の枚数に応じて変更され得る。
【0017】
ベーン7は、略中央部に光が通過する開口部を有するシート材である。ベーン7の開口部を通って恒星センサ1内に太陽光及び月光が入射する。ベーン7は、基材65と、基材65上に設けられた第1層60と、第1層60の上に設けられた複数の突起部62を有する第2層61と、を備える。ベーン7は、開口部側に後述のテーパ形状63を有する(
図5を参照)。
【0018】
スペーサー8は、複数のベーン7同士の間隔を調節する部材である。スペーサー8は、ベーン7と同様に、基材65と、第1層と、第2層とを備える。
【0019】
絞り9は、撮像素子5に到達する光線を調節するための部材であり、略中央部に光が通過する開口部を有する。絞り9は、ベーン7と同様に、基材65と第1層と第2層とを備え、開口部側にテーパ形状を有する。
【0020】
検出部4は、撮像素子5、コネクタ6、及び制御部10を備える。撮像素子5、コネクタ6、及び制御部10は、検出系部材である。
【0021】
撮像素子5は、レンズ3を介して受光した光を検出する素子であり、例えば、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサ及びCCD(Charge Coupled Device)センサの少なくともいずれかである。
【0022】
制御部10は、撮像素子5の後段に駆動回路を備え、通信機能を有するコネクタ6を介して外部装置(例えば、撮像装置及び人工衛星)との通信を行うことができる。例えば、恒星センサ1が人工衛星に搭載される場合、コネクタ6は、衛星バスと呼ばれるホスト側と接続される。
【0023】
図2は、本発明に係る恒星センサの制御部のハードウェア構成の一例を示す図である。
【0024】
制御部10は、CPU101、RAM102、及びROM103を備える。
【0025】
CPU101は、恒星センサ1の各構成要素を全般的に制御する装置である。CPU101は、撮像素子5(例えば、CMOSセンサー)が光を変換した画像信号104を受信する。
【0026】
RAM102は、揮発性メモリであり、CPU101から受信した画像信号104(すなわち、画像データ)を格納する。また、RAM102は、CPU101のワーク領域として機能する。
【0027】
ROM103は、不揮発性メモリであり、CPU101のプログラム及び星カタログを記憶する。
【0028】
恒星センサ1の画角内に恒星が存在する場合、撮像素子5は恒星の発する光をレンズ3経由で受光する。CPU101は、撮影した複数の恒星の位置、レンズ3の画角、及びROM103内の星カタログに基づいて、撮影した恒星とカタログの星とをマッチングさせることで恒星を同定する。これにより、CPU101は、全球のどの恒星を撮影しているのかを認識することができ、認識した恒星の位置に基づいて恒星センサ1の姿勢を算出する。CPU101は、算出した恒星センサ1の姿勢をコネクタ6経由で外部装置(例えば、人工衛星)へ出力する。
【0029】
【0030】
ベーン7とスペーサー8は、バッフル2の開口部を通ってバッフル2の内部に収容される。スペーサー8は、ベーン7の光軸方向の位置決めを行っている。バッフル2内にベーン7とスペーサー8が全て収容された後、押さえ環と呼ばれるネジ部材31とバッフル2とが締結される。
【0031】
恒星には一等星(一等級の明るさの星)、二等星(二等級の明るさの星)など星の明るさに応じた等級がそれぞれ付与されている。全天には一等星は21個、二等星は68個、三等星は183個、四等星は585個、五等星は1858個、六等星は5503個が存在する。恒星センサ1の姿勢検出から恒星センサ1の姿勢決定を行うために必要な恒星の数がある。レンズ3の視野角内に必要な恒星の数以上が含まれるように、レンズ3の仕様(例えば、画角、焦点距離、Fナンバー)及び撮像素子5の仕様の決定、及び画像生成プログラムの構築が行われる。本実施形態の恒星センサ1は、六等星までを用いて恒星センサ1の姿勢を算出するが、これに限定されるものではない。
【0032】
恒星センサ1が恒星を撮影する際に、太陽が恒星センサ1に近接した位置にあるとする。太陽と六等星の明るさの比は、約1013となる。太陽光がバッフル2内に入射すると、ベーン7の表面やベーン7のエッジ(内径の端面を指す)及びスペーサー8の内径にて太陽光が反射する。そして、レンズ3に入射した反射光(すなわち、迷光)が撮像素子5の有効エリア内に入射し、かつ、反射光が六等星よりも明るい場合、恒星センサ1が自身の姿勢を決定する際にエラーが生じる。ちなみに、迷光はゴーストやフレアと呼ばれる現象を引き起こす、光学機器にとって有害な光のことである。
【0033】
そのため、バッフル2の内面、すなわち、ベーン7の表面及びスペーサー8の内面には太陽光を低反射するための表面処理が施される。これにより、バッフル2の内面において2回以上の反射(拡散反射)によりレンズ3内に入射する迷光は抑制され、恒星センサ1は自身の姿勢を求めるために必要な等級の恒星を検知することができる。ここで、太陽禁止離角は、恒星センサ1の光軸方向に対し、太陽が恒星センサ1に近づいても恒星センサ1の恒星検知に係る性能に問題が生じない角度である。太陽禁止離角は、光軸方向と恒星センサ1の太陽に対する視線方向とがなす角度で表される。
【0034】
図4は、本発明に係るバッフルに入射する太陽光と入射角の関係を説明する図である。
【0035】
図4に示すように、太陽光がベーン7の内径端面40において1回反射した光(すなわち、迷光)がレンズ3に入射する。ここで、撮像素子5への迷光の影響を低減するため以下の調整が行われる。例えば、ベーン7の内径を大きくするなどによって撮像素子5の有効範囲外に迷光が入射するように調整される。しかしながら、恒星センサ1の内部構成を調整することは困難であり、これらは恒星センサ1の設計上の課題となっている。
【0036】
なお、本実施形態の恒星センサ1では、レンズ3の半画角が7.5°である場合、太陽禁止離角は25°となる。つまり、
図4に図示するように、入射角65°以下ではベーン7の内径端面40に太陽光が入射するため、恒星センサ1による恒星の同定精度が低下するおそれがある。
【0037】
図5は、本発明に係る低反射表面処理を適用したベーンの断面図である。
図5は、
図4のベーン7を拡大した図を示す。
【0038】
ベーン7は、太陽光の反射を低減するために、アルミニウム材料からなる基材65と、基材65上に設けられた、黒色の多孔質の酸化アルミニウムで構成される第1層60と、第1層上に設けられた、複数の突起部62を有する酸化アルミニウムで構成される第2層61とを備える。また、ベーン7は、テーパ形状63とテーパ面64とを備える。テーパ形状63は、
図5に図示するように、ベーン7の開口部側において片テーパ形状(すなわち、ナイフエッジ形状)となっているが、これに限定されず、両テーパ形状であっても良い。あるいは、テーパ形状63は、ベーン7の開口部側の上方及び下方の少なくともいずれかを任意の曲率R(例えば、R0.1などで表記される)でR面取りした丸みを帯びた形状(不図示)であっても良い。さらに、テーパ形状63は、例えばベーン7の上方に片テーパ形状(ナイフエッジ形状)とベーン7の下方にR面取りした丸みを帯びた形状の組み合わせによる形状を有していても良い。ここで、
図5では、テーパ面64はベーン7の片テーパ形状の傾斜部(すなわち、平面)のことを指すが、これに限られない。例えば、テーパ形状63がベーン7の開口部側の上方にR面取りした形状である場合、テーパ面64はベーン7のR面取りした形状に沿った湾曲部(すなわち、曲面)となる。このように、テーパ面64はベーン7の開口部側のテーパ形状63に応じて変化する。
【0039】
基材65は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる。本明細書において、アルミニウム合金とは、アルミニウムを主成分とする合金のことであり、合金100質量部に対してアルミニウムが90質量部以上含まれている合金を指す。基材65の材質は、アルミニウムまたはアルミニウム合金であれば、特に限定されず、高純度アルミニウム、1000系、3000系、5000系等の中から適宜選択され得る。基材65の厚さは、機械的強度を保つという観点から300μm以上であることが好ましい。
【0040】
第1層60は、第2層61から第1層60に入射する太陽光線を吸収する層である。第1層60は、基材65上に設けられた黒色の多孔質の酸化アルミニウムであり、複数の細孔(不図示)を有する。複数の細孔に黒色染色材が充填されることにより、黒色に染色されている。ここで、黒色とは、光の波長が380nm以上780nm以下の範囲において吸収がある色のことを指す。また、光の波長が380nm以上780nm以下の範囲における最小吸収率に対する最大吸収率の比で示される第1層60における黒色度は0.7以上であることが好ましい。
【0041】
細孔の形状は、
図5のベーン7を上面から平面視した際に、円形又は楕円形である。細孔の直径又は長径は、10nm以上60nm以下である。細孔の深さは7μm以上100μm以下である。換言すると、第1層60の厚さは7μm以上100μm以下である。第1層60の厚さが7μm未満である場合、第2層61で反射、拡散、及び散乱された太陽光線を第1層60が十分に吸収できなくなるため、反射率を十分に低減できないおそれがある。一方で、第1層60の厚さを100μmより大きくすることは、製造上困難である。細孔の深さ方向の形状は、黒色染色剤が充填可能な形状であれば特に限定されず、前述した直径又は長径より太くても良く、あるいは細くても良い。
【0042】
黒色染色材は、第1層60に入射する太陽光線の吸収効率を高めるために用いられる。黒色染色材の種類は特に限定されず、染色インクなどの有機材料、ニッケル、コバルト、銅などの金属を含む無機材料であってもよい。
【0043】
第2層61は、複数の突起部62を有する酸化アルミニウムを備える。第2層61は、複数の突起部62の間に太陽光線を入射させることにより、複数の突起部62の間で太陽光線を反射、拡散、及び散乱させることができる。複数の突起部62の間で反射、拡散、及び散乱された太陽光線は、第1層60によって吸収されるため、バッフル2の光路(光軸方向)に戻る太陽光線を低減できる。その結果、第1実施形態の光学部材は、フレアやゴーストの発生に起因する波長550nm以上650nm以下の範囲の太陽光線に対する反射率を低くすることができる。複数の突起部62は、第1層60と接する面から突起が延びる方向に向かって細くなっていることが好ましい。複数の突起部62の先端が先細の形状であることにより、突起部62の間で太陽光線の反射、拡散、及び散乱の効率が良くなる。その結果、バッフル2の光路(光軸方向)に戻る太陽光線をより低減することができる。
【0044】
第2層61の厚さは、2μm以上15μm以下であることが好ましい。換言すると、突起部62の高さは2μm以上15μm以下であることが好ましい。突起部62の高さが上記範囲にある場合、太陽光線の入射角度が大きくても反射率を低くでき、かつ、経年劣化や振動による特性変動を低減できる。突起部62の高さが2μm未満である場合、複数の突起部62の間に入射した太陽光線が十分に反射、拡散、及び散乱しないおそれがある。また、突起部62の高さが15μmより大きくなる場合、経年劣化や振動によって突起部62が破損するおそれがある。
【0045】
突起部62の個数の第1層60の面積に対する割合は、ベーン7を突起部62の延伸方向から平面視した際に、50本/100μm2以上150本/100μm2以下の範囲であることが好ましい。上記割合が50本/100μm2未満である場合、複数の突起部62の間に入射した太陽光線が十分に反射、拡散、及び散乱しないおそれがある。また、上記割合が150本/100μm2より大きくなる場合、太陽光線が全反射するため太陽光線がバッフル2の光路(光軸方向)に戻り、反射率を十分に低減できなくなるおそれがある。
【0046】
突起部62は、太さが0.1μm以上1.1μm以下の範囲である第1形状と、太さが10μm以上50μm以下の範囲である第2形状と、を備えることが好ましい。突起部62が第1形状のみで構成されると、第2層61の厚さを2μm以上に保つのが難しくなるおそれがある。一方、突起部62が第2形状のみで構成されると、太陽光線の入射角度が80°以上である場合の反射率が十分に低減できないおそれがある。なお、突起部62の太さとは、先端から2μmの位置における太さのことである。
【0047】
なお、第2層61は黒色に染色されていても良く、あるいは染色されていなくても良い。
【0048】
ベーン7の波長550nm以上650nm以下の範囲の入射角60°以上における平均の反射率は、0.10%以下であることが好ましい。前記範囲の平均の反射率が0.10%以下であれば、高い光学性能が要求される恒星センサ1等においても適用可能である。平均の反射率は好ましくは0.07%以下であり、より好ましくは0.05%以下である。
【0049】
以上の通り、基材65上に第1層と第2層を設ける表面処理を施すことにより、本発明のベーン7は入斜角60°以上で入射する太陽光線を従来のベーンよりも極低反射に抑えることができる。
【0050】
さらに、ベーン7は開口部側(
図5の右側)にテーパ面64と、テーパ形状63とを有する。テーパ形状63(
図5では一例としてナイフエッジ形状)は、ナイフの刃のように鋭くとがった形状である。基材65の底面とテーパ面64とがなす角度は、例えば30°以下であるが、これに限定されることはない。
図1と
図3に図示するように、ベーン7の外周部はバッフル2によって支持されている。そのため、ベーン7の剛性を保持する観点から、ベーン7の板厚は、例えば、0.3~0.5mmである。前述したベーン7の内径端面40では太陽光の反射が生じるため、ベーン7の基材65の開口部側にテーパ形状63を形成することで太陽光の反射を抑えることができる。これは、ベーン7の基材65にテーパ形状63を形成した場合の内径端面40aの面積(A
1)は、従来のベーン7の内径端面40の面積(A
0)よりも小さくなるからである。なお、ベーン7に対し低反射表面処理を行う一例を説明したが、ベーン7と同様にスペーサー8の表面、絞り9の表面及び内径端面に対し低反射表面処理を適用することができる。
【0051】
以上の通り、ベーン7の基材65上に第1層60と第2層61を形成する処理及び基材65の開口部側にテーパ形状を形成する処理の複合技術によって、バッフル2内の光路(光軸方向)に戻る迷光を抑制することができる。これにより、恒星センサ1は、撮影した恒星に基づく姿勢決定を精度よく行うことができる。
【0052】
(ベーンの製造方法)
基材65としてアルミニウムまたはアルミニウム合金の板材を用意する。板材にテーパ形状63を形成するための切削加工を行う。板材は、切削加工時に板材に付着した汚れや油分を除去する。板材をアセトン等の有機溶媒に浸漬し、超音波洗浄をすることによって脱脂する。また、超音波洗浄では除去できない汚れや傷に対しては、水酸化ナトリウム等の強アルカリ溶液に浸漬して化学的研磨を行う。さらに、化学的研磨で板材の表面に生じるスマットは硫酸もしくは硝酸に浸漬して除去する。
【0053】
次に、アルミニウムまたはアルミニウム合金の板材に対して、陽極酸化処理を行う。陽極酸化処理を行うと、板材はその表面に複数の細孔を備える。これにより、板材上に多孔質(ポーラス構造ともいう)の酸化アルミニウムの被膜が生成される。
【0054】
電解液として硫酸アルミを添加した硫酸を処理槽に溜める。陽極をアルミニウムまたはアルミニウム合金の板材とし、陰極とともに電源と電気的に接続する。陰極の材質は、電解液との反応性が低ければよく、例えば、カーボン、白金、チタン、SUSを用いることができる。また、電解液の温度はチラーによって制御されることが好ましい。電源から陽極、陰極に電圧を10分から120分印加し、陽極酸化処理を行うことにより、アルミニウム金属もしくはアルミニウム合金の表面近傍に細孔が生成される。処理槽から取り出した板材に対し、水を用いて電解液を洗い流す。
【0055】
次に、陽極酸化処理によって板材の細孔に対し、溶剤を浸漬させる。溶剤は酸化アルミニウムに対して濡れ性が良いものが好ましい。溶剤としては、アセトン、イソプロピルアルコール等を使用することができる。また、細孔内に水が多量に残っていると、溶剤との置換に時間を要するため、陽極酸化を施した板材は一度加熱乾燥をすることが好ましい。浸漬時間は例えば、1時間から10時間である。なお、この浸漬工程は省いても構わない。
【0056】
次に、板材の細孔が形成された表面に対してエッチングを行う。処理槽にエッチング液を用意し、その中に細孔が形成された板材を浸漬する。エッチング液の温度は40℃から60℃、エッチング時間は5分から30分であることが好ましい。エッチング液中にポンプにより液流を発生させることが好ましく、液流を均一な速度にすることにより、エッチングレートを制御することができる。エッチング液は、溶剤が充填された細孔内へ溶剤と相溶しながら置換し、細孔深部に侵入していく。そこで、板材の表面と細孔の内壁が同時にエッチングされることにより、酸化アルミニウムの突起部が形成される。
【0057】
なお、第2層61の厚さ及び突起部62の形状は、このエッチングレートにより制御できる。エッチングレートは溶剤の種類、溶剤の浸漬時間およびエッチング液の種類により制御することができる。具体的には、エッチングをより進行させることにより、第2層61の厚さを薄くすることができる、また、エッチングをより進行させることにより、突起部62の先端を細く、かつ短くできる。突起部62をより細くして1μm程度にすると、突起部62の一部は近接する突起部62同士で凝集し、太さが10μm以上50μm以下の範囲の第2形状の突起を形成する。すなわち、太さが0.1μm以上1.1μm以下の範囲である第1形状と、第2形状とを共存させることが可能となる。
【0058】
最後に、突起部62が形成された酸化アルミニウムを黒色に染色する。エッチング後、水洗した酸化アルミニウムの表面を活性化するため、突起部62を有する酸化アルミニウムを硫酸に浸漬する。浸漬時間は30秒から3分である。また、染色するために前処理剤に30秒から3分浸漬し、純水で湯煎する。湯煎したのちに染料を溶解した水溶液に5分から20分浸漬する。そして、最後に再度、水洗してから乾燥させることで、ベーン7を得ることができる。すなわち、細孔は黒色染色材によって充填され、アルミニウムまたは合金よりなる基材65上に黒色の多孔質の酸化アルミニウムを備える第1層60が形成される。それと同時に、第1層60の上には複数の酸化アルミニウムの突起部62を備える第2層61が形成される。
【0059】
なお、水洗した後に酸化アルミニウムの表面に対し硫酸アルミニウムを微量コーティングすることにより、細孔の封孔処理を行っても構わない。以上の通り、ベーン7の製造方法について説明したが、この製造方法はスペーサー8及び絞り9の製造に対しても適用可能である。
【0060】
図6は、本発明のベーンと従来の低反射表面処理を適用したベーンの反射率の比較を示す図である。
【0061】
図6(a)の横軸は入射角(斜角)を示している。入射角(斜角)の定義について
図6(b)を参照しながら説明する。まず、入射角0°(矢印で図示)の場合、ベーン7の表面に対して垂直に光を照射することを表す。入射角0°を基準として、ベーン7の表面に対して斜めから光を照射すると入射角θ(入射角0°の光の照射方向とベーン7の表面に対して斜めの光の照射方向とのなす角度)は大きくなる。入射角θが大きくなるほど、ベーン7の表面に対して斜めから光を照射していることを表す。入射角30°(矢印で図示)の場合よりも入射角60°(矢印で図示)の場合の方がベーン7の表面に対してより斜めから光を照射していることを表す。
【0062】
図6(a)の縦軸は反射率を示している。分光光度計(日本分光株式会社製、商品名:V-770)を用いて、光線の入射角5°~65°の範囲及び可視光波長380~780nmの条件でベーン7の表面における光の反射率を計測した結果である。また、
図6(a)は、従来の表面処理を適用したベーン7の表面における光の反射率の測定結果を示す。●は本発明のベーン7の表面における光の反射率の測定結果を示す。▲は従来の表面処理を適用したベーン7の表面における光の反射率の測定結果を示す。ここで、従来の低反射表面処理とは、黒色塗装のみをベーン7の表面に施す処理のことをいう。一方で、本発明のベーン7は、上記で説明した低反射表面処理(ベーン7の基材65上に第1層60と第2層61を形成する処理)されている。
【0063】
図6(a)に図示するように、従来の低反射表面処理を施したベーン7では入射角θが大きくなるに従い反射率も大きくなる。一方で、本発明のベーン7では入射角θが大きくなっても低反射率を維持している。例えば、本発明のベーン7の反射率は、入射角5°~65°の範囲で0.05以下である。本発明のベーン7は、大きい入射角(例えば、入射角60°以上)で太陽光が恒星センサ1に入射してきた場合であっても、太陽光の反射を抑制できるため、恒星センサ1内の迷光を低減できる。一方で、従来の低反射表面処理を施したベーン7の反射率は、入射角60°以上で急激に上昇している。従来の処理を施したベーン7は、大きい入射角(例えば、入射角60°以上)で太陽光が恒星センサ1に入射してきた場合に太陽光の反射を抑制できないため、恒星センサ1内の迷光を低減できない。
【0064】
図7は、本発明に係る低反射表面処理を適用した絞りを説明する図である。
【0065】
図7は、
図1のレンズ3の近傍を拡大した図である。絞り9は、レンズ群1(前群)とレンズ群2(後群)との間に配置されている。絞り9は、略中央部に開口部を備える。レンズ3に入射した光は絞り9の開口部を通る。レンズ3における迷光を低減する観点から、絞り9に対しベーン7と同様の低反射表面処理を施すことができる。恒星センサ1は、低反射表面処理を適用したベーン7、スペーサー8、及び絞り9を備える。また、恒星センサ1のバッフル2の内面も低反射表面処理されている。これにより、従来よりも迷光を低減した恒星センサ1を提供することができる。
【0066】
図8は、本発明に係る恒星センサを搭載した宇宙航行体の一例を説明する図である。
【0067】
本発明の恒星センサ1は、宇宙航行体として例えば、人工衛星、ロケット、月面探査車及び火星探査車等へ搭載されるが、これに限定されることはない。
図8の宇宙航行体80は、恒星センサ1と恒星センサ1aとが90度直交するように、2台の恒星センサを有している。宇宙航行体80(例えば、人工衛星)は地球観測を行う。宇宙航行体80の円筒開口部82の内部に地球撮像用の光学機器(例えば、撮像装置)が格納されている。従って、円筒開口部82の下方に光軸が向いている。
図8に示すように、地球が太陽光に照らされている(すなわち、地球では昼間である)場合、宇宙航行体80の上方に太陽があり、宇宙航行体80の下方に地球がある。ここで、恒星センサ1及び恒星センサ1aの太陽禁止離角が小さいほど、宇宙航行体80の姿勢変更範囲を拡大することができる。そのため、宇宙航行体80は、地球上の被写体を精度良く撮影することができる。
【0068】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0069】
1 恒星センサ
2 バッフル
3 レンズ
4 検出部
5 撮像素子
6 コネクタ
7 ベーン
8 スペーサー
9 絞り
10 制御部
30 バッフル
31 ネジ部材
60 第1層
61 第2層
62 突起部
63 テーパ形状
64 テーパ面
101 CPU
102 RAM
103 ROM
104 画像信号