(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064221
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】抗菌性シート
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240507BHJP
B32B 38/06 20060101ALI20240507BHJP
B29C 59/02 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
B32B38/06
B29C59/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172647
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000116828
【氏名又は名称】旭化成パックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100173473
【弁理士】
【氏名又は名称】高井良 克己
(72)【発明者】
【氏名】友野 正樹
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
4F209
【Fターム(参考)】
4F071AA18
4F071AA20
4F071AA39
4F071AA43B
4F071AA88
4F071AF04Y
4F071AF25Y
4F071AF28
4F071AF52Y
4F071AG05
4F071AG15
4F071AH12
4F071BB06
4F071BC02
4F071BC08
4F071CD05
4F100AK01A
4F100AK03A
4F100AK07A
4F100AT00B
4F100DD07A
4F100DD07B
4F100EH17
4F100EJ18
4F100EJ50
4F100EJ91B
4F100GB41
4F100GB81
4F100JC00A
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4F100YY00A
4F209AA11
4F209AF01
4F209AG01
4F209AG05
4F209PA08
4F209PB02
4F209PC05
4F209PN04
4F209PN06
4F209PQ09
(57)【要約】
【課題】多頻度の使用や表面の拭き取りによっても微細な凹凸部が変形しにくいことにより抗菌性能が維持され、優れた抗菌性を発揮することができる、抗菌性物品の表面を形成可能な抗菌性シートを提供する。
【解決手段】抗菌性シートは、少なくとも一方側の面において、密集した凸部を有する構造を備えた樹脂層を有し、JIS Z2801に準拠した抗菌評価試験にて、前記凸部表面の24時間後の抗菌活性値が2.0以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方側の面において、密集した凸部を有する構造を備えた樹脂層を有し、JIS Z2801に準拠した抗菌評価試験にて、前記凸部表面の24時間後の抗菌活性値が2.0以上である、抗菌性シート。
【請求項2】
前記樹脂層のマルテンス硬さが0.1~50N/mm2である、請求項1に記載の抗菌性シート。
【請求項3】
前記樹脂層はポリオレフィン系樹脂を含む、請求項1又は2に記載の抗菌性シート。
【請求項4】
前記樹脂層の表面における純水の静的接触角が110度以上である、請求項1又は2に記載の抗菌性シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空調機器、家電製品、調理用機器、医療機器等の物品においては、清潔な環境を保つために、物品表面に対する細菌等の付着、及び付着した細菌等の繁殖を防ぐことができる抗菌性の付与が求められている。
従来、各種物品に抗菌性を付与するためには、例えば光触媒材料や銀イオンが用いられている。例えば特許文献1には、室内空間のような微弱光下においても、高い防汚性と高い抗菌性及び抗ウイルス性とを両立させることを目的とした材料として、撥水性樹脂バインダーと、光触媒材料と、亜酸化銅とを含有し、前記光触媒材料と前記亜酸化銅とが複合化している撥水性光触媒組成物及びその塗膜が開示されている。
特許文献2には、バクテリア、ウイルス、細菌などを分解除去することができる材料として、光触媒活性を有するアパタイトを含む光触媒粉体を含有する組成物が開示されており、光触媒粉体は、表面がイガグリ形状であると、光触媒として機能する表面積が拡大し、微生物との接触効率がより向上すると記載されている。
また、特許文献3には、表層に抗菌物質を有する抗菌性ガラスであって、表層において、ガラス表面から深さ30μm以内に銀イオンの拡散層と、ガラス表面から深さ方向にみ15μm以上の圧縮層とを有する抗菌性ガラスが開示されている。
【0003】
特許文献1~3に記載されるような、光触媒材料や銀イオン等の抗菌性物質を用いた抗菌性物品は、抗菌性物質が表面から剥離、脱落すると、抗菌機能が維持されないという問題がある。
一方で、特許文献4には、表面粗さ(Ra)0.2μm以上、最大粗さ(Rt)1μm以上、0.5μm以上の粗さ(Pc)5ケ/mm以上の表面粗さをもつプラスチックフィルムの表面の微細凹部に、1μm以下の粒径を持つ、銀を含む無機化合物を定着させることにより、抗菌性を有する無機化合物の剥離、脱落を抑制し、抗菌機能を長期間保持できると記載されている。
【0004】
また、非特許文献1には、微小突起構造体を表面に有し、樹脂組成物の硬化物からなる微細凹凸層を備える抗菌性物品が、細菌の細胞膜に、複数の微小突起の先端部が食い込み、細胞膜が破れ、細菌が死滅することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-210557号公報
【特許文献2】特開2012-239499号公報
【特許文献3】特開2013-71878号公報
【特許文献4】特開平9-57893号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】E.P.Ivana,J.Hasan,H.K.Webb,V.K.Truong,G.S.Watson,V.A.Baulin,S.Pogodin,J.Y.Wang,M.J.Tobin,C.Lobbe,R.J.Crawford,Small,8,2489(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載されるような、光触媒材料を用いた抗菌性物品は、光照射がされない場合には抗菌性が発揮されない。
特許文献3や特許文献4に記載されるような、銀を含む抗菌性物質を用いた抗菌性物品は、抗菌性が不十分であり、更なる抗菌性の向上が求められている。また、銀を含む抗菌性物質を用いた抗菌性物品においては、金属アレルギーによる人体への影響等が懸念されている。
【0008】
また、非特許文献1の抗菌性物品は、表面に付着した汚れを溶剤で拭き取る際に、凹凸部が変形してしまい、抗菌性を長期間にわたって保持することが難しい。
【0009】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、多頻度の使用や表面の拭き取りによっても微細な凹凸部が変形しにくいことにより抗菌性能が維持され、優れた抗菌性を発揮することができる、抗菌性物品の表面を形成可能な抗菌性シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、少なくとも一方側の面において、密集した凸部を有する構造を備えた樹脂層を有し、JIS Z2801に準拠した抗菌評価試験にて、前記凸部表面の24時間後の抗菌活性値が2.0以上である、抗菌性シートが、多頻度の使用や表面の拭き取りによっても微細な凹凸部が変形しにくいことにより抗菌性能が維持され、優れた抗菌性を発揮することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、下記のとおりである。
[1]少なくとも一方側の面において、密集した凸部を有する構造を備えた樹脂層を有し、JIS Z2801に準拠した抗菌評価試験にて、前記凸部表面の24時間後の抗菌活性値が2.0以上である、抗菌性シート。
[2]前記樹脂層のマルテンス硬さが0.1~50N/mm2である、[1]に記載の抗菌性シート。
[3]前記樹脂層はポリオレフィン系樹脂を含む、[1]又は[2]に記載の抗菌性シート。
[4]前記樹脂層の表面における純水の静的接触角が110度以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の抗菌性シート。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、多頻度の使用や表面の拭き取りによっても微細な凹凸部が変形しにくいことにより抗菌性能が維持され、優れた抗菌性を発揮することができる、抗菌性物品の表面を形成可能な抗菌性シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態に係る抗菌性シートの表面の上面SEM写真である。
【
図2】本実施形態に係る抗菌性シートの表面の斜視SEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0015】
本実施形態に係る抗菌性シートについて説明する。
本実施形態に係る抗菌性シートは、少なくとも1つの樹脂層を備え、密集した凸部を有する構造を備えた樹脂層であって、前記凸部の立体形状は、略同一形状であり、前記凸部は、格子形状に配置される。格子形状としては、例えば、斜方格子(cmm格子:菱形格子、中心矩形格子、二等辺三角格子ともいう。)、六角格子(p6m格子:正三角格子ともいう。)、正方格子(p4m格子)、矩形格子(pmm格子:原始矩形格子ともいう。)、平行体格子(p2格子:歪斜格子ともいう。)等の平面格子形状が挙げられる。
【0016】
上記樹脂層の複数の凸部は、上記表面に対して略垂直な方向へ突出しており、上記抗菌性シートは、上記樹脂層の表面に複数の凸部を備えるフィルムである。
【0017】
上記樹脂層は、熱可塑性樹脂組成物から形成されていてもよい。上記熱可塑性樹脂組成物が含む原料成分としては限定されず、適宜選択することができる。
熱可塑性樹脂組成物は、例えば、熱可塑性樹脂を含む。
【0018】
(熱可塑性樹脂)
上記熱可塑性樹脂としては、具体的には、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂などが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、上記具体例のうち、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記ポリオレフィン樹脂としては、具体的には、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、線上低密度ポリエチレン(mLLPE)などのポリエチレン(PE);ポリプロピレン(PP);ポリビニルアルコール(PVA);エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA);エチレン-アクリル酸メチル共重合体(EMA);エチレン-アクリル酸共重合体(EAA);エチレン-メタクリル酸メチル共重合体(EMMA);エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA);エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA);アイオノマー樹脂;エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH);環状オレフィンポリマー(COP);環状オレフィンコポリマー(COC)などが挙げられる。ポリオレフィン樹脂としては、上記具体例のうち、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記ポリエステル樹脂としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などが挙げられる。ポリエステル樹脂としては、上記具体例のうち、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記シリコーン樹脂としては、具体的には、ポリ(ジメチル)シロキサン、メチルフェニルジメチルポリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン/ポリメチルフェニルシロキサンコポリマー、ポリメチルシロキサン、テトラメチルポリメチルシロキサン、ポリメチルシロキサン・ポリジメチルシロキサンコポリマーなどが挙げられる。
上記フッ素系樹脂としては、具体的には、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、ペルフルオロアルキルビニルエーテルなどのモノマーの重合体、または、2種以上のモノマーの共重合体などが挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、上記具体例のうち、ポリオレフィン樹脂を用いることが好ましい。
ポリオレフィン樹脂としては、上記具体例のうち、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)及びエチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)からなる群より選択される1種または2種以上を用いることが好ましく、ポリプロピレン(PP)を用いることがより好ましい。
【0019】
ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンの単独重合体、すなわちポリプロピレンであってもよいし、プロピレンと、プロピレンと共重合可能な他のコモノマー(例えば、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン等のα-オレフィン;酢酸ビニル、ビニルアルコール等)との共重合体であってもよい。これらのポリプロピレンは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
また、熱可塑性樹脂は、メルトフローレート(MFR)が1.0g/10分以上10g/10分以下であることが好ましい。MFRを1.0g/10分以上とすることで、以降説明するシート製造方法において、凸部形状を安定的に賦形することが可能になる。また、MFRを10g/10分以下とすることで、厚みムラの少ないシートの製造を可能にする。
【0021】
熱可塑性樹脂組成物中には、上記熱可塑性樹脂以外に、酸化防止剤、界面活性剤、離型剤などの添加剤を含んでもよい。
以下、代表成分について説明する。
【0022】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤およびチオエーテル系酸化防止剤から選択される1種以上を使用できる。
フェノール系酸化防止剤としては、具体的には、ペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、3,9-ビス{2-〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕-1,1-ジメチルエチル}2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,6-ヘキサンジオール-ビス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、2,6-ジフェニル-4-オクタデシロキシフェノール、ステアリル(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ジステアリル(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ホスホネート、チオジエチレングリコールビス〔(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、4,4'-チオビス(6-t-ブチル-m-クレゾール)、2-オクチルチオ-4,6-ジ(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェノキシ)-s-トリアジン、2,2'-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチル-6-ブチルフェノール)、2,-2'-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、ビス〔3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-t-ブチルフェニル)ブチリックアシッド〕グリコールエステル、4,4'-ブチリデンビス(6-t-ブチル-m-クレゾール)、2,2'-エチリデンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェノール)、2,2'-エチリデンビス(4-s-ブチル-6-t-ブチルフェノール)、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、ビス〔2-t-ブチル-4-メチル-6-(2-ヒドロキシ-3-t-ブチル-5-メチルベンジル)フェニル〕テレフタレート、1,3,5-トリス(2,6-ジメチル-3-ヒドロキシ-4-t-ブチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2,4,6-トリメチルベンゼン、1,3,5-トリス〔(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル〕イソシアヌレート、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、2-t-ブチル-4-メチル-6-(2-アクリロイルオキシ-3-t-ブチル-5-メチルベンジル)フェノール、3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4-8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン-ビス〔β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコールビス〔β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート〕、1,1'-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2'-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2'-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2'-メチレンビス(6-(1-メチルシクロヘキシル)-4-メチルフェノール)、4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、3,9-ビス(2-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニルプロピオニロキシ)1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、4,4'-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4'-ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)サルファイド、4,4'-チオビス(6-t-ブチル-2-メチルフェノール)、2,5-ジ-t-ブチルヒドロキノン、2,5-ジ-t-アミルヒドロキノン、2-t-ブチル-6-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2,4-ジメチル-6-1-メチルシクロヘキシル、スチレネイティッドフェノール、2,4-ビス((オクチルチオ)メチル)-5-メチルフェノールなどが挙げられる。
リン系酸化防止剤としては、具体的には、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニルホスファイト)、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチル-5-メチルフェニル)-4
,4'-ビフェニレンジホスホナイト、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホネート-ジエチルエステル、ビス-(2,6-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(ミックスドモノandジ-ノニルフェニルホスファイト)、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メトキシカルボニルエチル-フェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-オクタデシルオキシカルボニルエチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられる。
チオエーテル系酸化防止剤としては、具体的には、ジラウリル-3,3'-チオジプロピオネート、ビス(2-メチル-4-(3-n-ドデシル)チオプロピオニルオキシ)-5-t-ブチルフェニル)スルフィド、ジステアリル-3,3'-チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール-テトラキス(3-ラウリル)チオプロピオネートなどが挙げられる。
酸化防止剤としては、上記具体例のうち、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
(界面活性剤)
界面活性剤としては限定されず、熱可塑性樹脂の種類に応じて、公知の界面活性剤を選択できる。
界面活性剤としては、具体的には、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステルなどの多価アルコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレン化合物などが挙げられる。
【0024】
(離型剤)
離型剤としては限定されず、熱可塑性樹脂の種類に応じて、公知の離型剤を選択できる。
離型剤としては、具体的には、カルナバワックスなどの天然ワックス;モンタン酸エステルワックス、酸化ポリエチレンワックスなどの合成ワックス;ステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸およびその金属塩類;パラフィンなどが挙げられる。離型剤としては、上記具体例のうち、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
(樹脂層の製造方法)
樹脂層の製造方法は限定されず、熱可塑性樹脂組成物の含有成分に応じて、公知の製造方法を選択することができる。
樹脂層の製造方法としては、具体的には、共押出法、インフレーション押出法、Tダイ押出法などが挙げられる。
【0026】
(積層構造)
本実施形態に係る抗菌性シートは、例えば、少なくとも1つの樹脂層を備えていればよい。すなわち、抗菌性シートは、例えば、一つのみ樹脂層を備えていてもよいし、複数の樹脂層を積層した積層構造を備えていてもよい。
複数の樹脂層を、それぞれ、異なる熱可塑性樹脂組成物で構成することによって、本実施形態に係る抗菌性シートに複数の機能を付与することができる。
なお、本実施形態に係る抗菌性シートが複数の樹脂層を有する場合、その層の数は限定されず、例えば、2層であってもよいし、3層であってもよい。ここで、本実施形態に係る抗菌性シートの積層構造が、複数の樹脂層備える場合、複数の樹脂層同士は後述する接着層によって接合されていてもよい。
【0027】
(接着層)
接着層を形成する材料としては限定されず、樹脂層を形成する原料成分と、求められる接着強度とに応じて、公知の接着成分を用いて接着層を形成することができる。
接着成分としては、具体的には、エチレン-メタクリレート-グリシジルアクリレート三元共重合体;ポリオレフィンに対して、一塩基性不飽和脂肪酸、二塩基性不飽和脂肪酸、またはこれらの無水物をグラフト重合したものなどが用いられる。
なお、上記接着成分のポリオレフィンとしては、具体的には、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)などのポリエチレン(PE);ポリプロピレン(PP);エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)などが挙げられる。
また、上記一塩基性不飽和脂肪酸としては、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられる。
さらに、上記二塩基性不飽和脂肪酸としては、具体的には、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。
また、上記無水物としては、具体的には、無水アクリル酸、無水メタクリル酸、無水マレイン酸、無水フマル酸、無水イタコン酸などが挙げられる。
接着成分としては、上記具体例のうち、ポリオレフィンに対して、一塩基性不飽和脂肪酸、二塩基性不飽和脂肪酸、またはこれらの無水物をグラフト重合したものが好ましい。ポリオレフィンに対して、一塩基性不飽和脂肪酸、二塩基性不飽和脂肪酸、またはこれらの無水物をグラフト重合したものとしては、具体的には、マレイン酸をグラフト重合したポリプロピレンを用いることが好ましい。これにより、複数の樹脂層を適切な強度で接着することができ、抗菌性シートの作製時において、凸部の形状の転写を妨げないという点で不都合がない。
【0028】
(抗菌性シートの製造方法)
次いで、本実施形態に係る抗菌性シートの製造方法について説明する。
まず、上述した積層構造に応じて、1層のみの樹脂層を準備または、複数の樹脂層を積層する。複数の樹脂層を積層する方法としては、具体的には、複数の樹脂層を、上述した接着層を介して共押出する方法などが挙げられる。
抗菌性シートは、上記積層構造の樹脂層に対して、凸部の形状を転写することにより製造される。すなわち、凸部は、上述した樹脂層と同様の熱可塑性樹脂組成物により形成される。これにより、複数の凸部が樹脂層表面に配置される。なお、積層構造が、複数の樹脂層を有する場合、少なくとも積層構造が最外層に備える1つの樹脂層に凸部の形状を転写すればよい。
凸部の形状を転写する方法としては、例えば、インプリント成形、レーザー加工、機械加工などが挙げられる。凸部の形状を転写する方法としては、上記具体例のうち、インプリント成形を用いることが好ましい。すなわち、本実施形態に係る抗菌性シートは、例えば、インプリント成形体であることが好ましい。なお、インプリント成形とは、樹脂層を加熱により軟化させ、次いで、所望の凸部の微細形状が刻まれた金型に対して樹脂層を加圧して押し付けることによって、樹脂層表面に凸部の微細形状を転写する成形方法である。これにより、生産性を維持しつつ、凸部の微細形状を精度よく樹脂層に転写することができる。
【0029】
なお、本実施形態に係る抗菌性シートにおいて、凸部を備える位置は限定されない。凸部は、例えば、抗菌性シートの一方面全てに形成されてもよく、抗菌性シートの両面に形成されてもよい。
【0030】
前記、インプリント成形においては、陽極酸化処理とエッチング処理との繰り返しにより、微細形状が刻まれた金型を作成することができる。陽極酸化処理とエッチング処理については、例えば、特開2003―43203号公報に記載されている方法を用いることができる。他にも、Siや石英などの基板に対してフォトリソグラフィー法で微細構造を形成する方法で金型を作製することが出来る。例えば、特開2016-192519号公報に記載されている方法を用いることが出来る。
【0031】
(凸部)
本実施形態に係る抗菌性シートにおいて、凸部の形状は略同一形状であり、複数の凸部は樹脂層表面に格子形状に配置される。
凸部の形状としては、具体的には、レンズ形状、円錐形状、円柱形状、円錐台形状、多角錐形状、多角柱形状及び多角台形状からなる群より選択される1種とすることができる。凸部の形状としては、上記具体例のうち、レンズ形状、円錐形状及び多角錐形状からなる群より選択される1種であることが好ましく、円錐形状であることがより好ましい。
【0032】
樹脂層の面内方向において、凸部及び樹脂層が接する面の面積の真円相当径は、上限値として、例えば、500nm以下であることが好ましく、450nm以下であることがより好ましく、400nm以下であることが更に好ましく、350nm以下であることが一層好ましく、250nm以下であることが殊更好ましい。上記真円相当径が上記上限以下であれば、抗菌効果を発揮する凸部の数を抗菌性シート中で高密度とすることができ、優れた抗菌性を発揮することができる。
また、樹脂層の面内方向において、凸部及び樹脂層が接する面の面積の真円相当径は、下限値として、例えば、100nm以上であることが好ましく、150nm以上であることがより好ましく、175nm以上であることがより好ましい。上記真円相当径が上記下限以上であれば、樹脂層に対して、凸部形状を精度よく転写することができる。
なお、本実施形態において、凸部及び樹脂層が接する面の面積とは、凸部1つあたりの面積のことを示す。
【0033】
隣り合う凸部間の間隔は、上限値として、例えば、500nm以下であることが好ましく、450nm以下であることがより好ましく、400nm以下であることがさらに好ましく、350nm以下であることが一層好ましく、200nm以下であることが殊更好ましい。上記間隔が上記上限以下であれば、抗菌効果を発揮する凸部の数を抗菌性シート中で高密度とすることができ、優れた抗菌性を発揮することができる。
隣り合う凸部間の間隔は、下限値として、例えば、10nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましく、75nm以上であることがさらに好ましい。上記間隔が上記下限以上であれば、樹脂層に対して、凸部形状を精度よく転写することができる。
なお、本実施形態において、凸部間の間隔とは、任意の2つの凸部間の最小長さを示す。
【0034】
抗菌性シートの少なくとも一方側の面において、密集した凸部を有することは、例えば、隣り合う凸部間の間隔と凸部及び樹脂層が接する面の面積の真円相当径との比(間隔/真円相当径)を指標とすることができる。
隣り合う凸部間の間隔と凸部及び樹脂層が接する面の面積の真円相当径との比(間隔/真円相当径)は、上限値として、例えば、5以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましく、3以下であることがさらに好ましく、2以下であることが一層好ましく、1以下であることが殊更好ましい。上記間隔と真円相当径との比(間隔/真円相当径)が上記上限以下であれば、抗菌効果を発揮する凸部の数を抗菌性シート中で高密度とすることができ、優れた抗菌性を発揮することができる。
隣り合う凸部間の間隔と凸部及び樹脂層が接する面の面積の真円相当径との比(間隔/真円相当径)は、下限値として、例えば、0.02以上であることが好ましく、0.05以上であることがより好ましく、0.07以上であることがさらに好ましく、0.08以上であることが一層好ましく、0.10以上であることが殊更好ましい。上記間隔と真円相当径との比(間隔/真円相当径)が上記下限以上であれば、樹脂層に対して、凸部形状を精度よく転写することができる。
【0035】
隣り合う凸部間のピッチ間隔は、上限値として、例えば、1000nm以下であることが好ましく、700nm以下であることがより好ましく、500nm以下であることがさらに好ましく、300nm以下であることが一層好ましく、200nm以下であることが殊更好ましい。上記間隔が上記上限以下であれば、抗菌効果を発揮する凸部の数を抗菌性シート中で高密度とすることができ、優れた抗菌性を発揮することができる。
隣り合う凸部間のピッチ間隔は、下限値として、例えば、10nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることがさらに好ましい。上記間隔が上記下限以上であれば、樹脂層に対して、凸部形状を精度よく転写することができる。
なお、本実施形態において、凸部間のピッチ間隔とは、任意の隣り合う2つの凸部同士の中心間距離を示す。
【0036】
抗菌性シートの少なくとも一方側の面において、密集した凸部を有することは、例えば、凸部及び樹脂層が接する面の面積の真円相当径と隣り合う凸部間のピッチ間隔との比(真円相当径/ピッチ間隔)を指標とすることができる。
凸部及び樹脂層が接する面の面積の真円相当径と隣り合う凸部間のピッチ間隔との比(真円相当径/ピッチ間隔)は、上限値として、例えば、0.98以下であることが好ましく、0.96以下であることがより好ましく、0.94以下であることがさらに好ましく、0.92以下であることが一層好ましく、0.91以下であることが殊更好ましい。上記真円相当径とピッチ間隔との比(真円相当径/ピッチ間隔)が上記上限以下であれば、樹脂層に対して、凸部形状を精度よく転写することができる。
凸部及び樹脂層が接する面の面積の真円相当径と隣り合う凸部間のピッチ間隔との比(真円相当径/ピッチ間隔)は、下限値として、例えば、0.15以上であることが好ましく、0.20以上であることがより好ましく、0.25以上であることがさらに好ましく、0.27以上であることが一層好ましく、0.30以上であることが殊更好ましい。上記真円相当径とピッチ間隔との比(真円相当径/ピッチ間隔)が上記下限以上であれば、抗菌効果を発揮する凸部の数を抗菌性シート中で高密度とすることができ、優れた抗菌性を発揮することができる。
【0037】
抗菌性シートの少なくとも一方側の面において、密集した凸部を有することは、例えば、抗菌性シートの単位面積に占める凸部及び樹脂層が接する面の面積の比(凸部面積/抗菌性シート単位面積)を指標とすることができる。
抗菌性シートの単位面積に占める凸部及び樹脂層が接する面の面積の比(凸部面積/抗菌性シート単位面積)は、上限値として、例えば、0.76以下であることが好ましく、0.73以下であることがより好ましく、0.70以下であることがさらに好ましく、0.68以下であることが一層好ましく、0.65以下であることが殊更好ましい。上記抗菌性シートの単位面積に占める凸部面積の比(凸部面積/抗菌性シート単位面積)が上記上限以下であれば、樹脂層に対して、凸部形状を精度よく転写することができる。
抗菌性シートの単位面積に占める凸部及び樹脂層が接する面の面積の比(凸部面積/抗菌性シート単位面積)は、下限値として、例えば、0.02以上であることが好ましく、0.05以上であることがより好ましく、0.07以上であることがさらに好ましく、0.10以上であることが一層好ましく、0.15以上であることが殊更好ましい。上記抗菌性シートの単位面積に占める凸部面積の比(凸部面積/抗菌性シート単位面積)が上記下限以上であれば、抗菌効果を発揮する凸部の数を抗菌性シート中で高密度とすることができ、優れた抗菌性を発揮することができる。
【0038】
抗菌性シートの少なくとも一方側の面において、密集した凸部を有することは、例えば、抗菌性シートの単位面積当たりの凸部数(凸部数/抗菌性シート単位面積)を指標とすることができる。
抗菌性シートの単位面積当たりの凸部数(凸部数/抗菌性シート単位面積)は、上限値として、例えば、1億個/mm2以下であることが好ましく、9千5百万個/mm2以下であることがより好ましく、9千万個/mm2以下であることがさらに好ましく、8千5百万個/mm2以下であることが一層好ましく、8千万個/mm2以下であることが殊更好ましい。上記抗菌性シートの単位面積当たりの凸部数(凸部数/抗菌性シート単位面積)が上記上限以下であれば、樹脂層に対して、凸部形状を精度よく転写することができる。
抗菌性シートの単位面積当たりの凸部数(凸部数/抗菌性シート単位面積)は、下限値として、例えば、100万個/mm2以上であることが好ましく、150万個/mm2以上であることがより好ましく、200万個/mm2以上であることがさらに好ましく、250万個/mm2以上であることが一層好ましく、300万個/mm2以上であることが殊更好ましい。上記抗菌性シートの単位面積当たりの凸部数(凸部数/抗菌性シート単位面積)が上記下限以上であれば、抗菌効果を発揮する凸部の数を抗菌性シート中で高密度とすることができ、優れた抗菌性を発揮することができる。
【0039】
凸部の高さは、上限値として、例えば、100nm以下であることが好ましく、75nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがさらに好ましい。上記高さが上記上限以下であれば、樹脂層に対して、凸部形状を精度よく転写することができる。
また、凸部の高さは、下限値として、例えば、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、15nm以上であることが更に好ましく、20nm以上であることが一層好ましく、30nm以上であることが殊更好ましい。上記高さが上記下限以上であれば、凸部の比表面積を大きくすることができ、また凸部の鋭利性が高くなることによって凸部が細菌の細胞膜を突き刺して細菌を死滅させやすい形状となり、優れた抗菌性を発揮することができる。
なお、本実施形態において、凸部の高さとは、樹脂層の面内方向と垂直な方向において
、樹脂層と凸部が接する面から、凸部が存在する位置までの最大長さを示す。
【0040】
凸部の高さと凸部及び樹脂層が接する面の面積の真円相当径とのアスペクト比(高さ/真円相当径)は、上限値として、例えば、1.5以下であることが好ましく、1.2以下であることがより好ましく、1.0以下であることがさらに好ましい。上記アスペクト比が上記上限以下であれば、凸部が変形しにくい形状となり、多頻度の使用や表面の拭き取りによっても微細な凹凸部が変形しにくいことにより抗菌性能を維持することができる。
凸部の高さと凸部及び樹脂層が接する面の面積の真円相当径とのアスペクト比(高さ/真円相当径)は、下限値として、例えば、0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましく、0.3以上であることがさらに好ましい。上記アスペクト比が上記下限以上であれば、凸部の鋭利性が高くなることによって凸部が細菌の細胞膜を突き刺して細菌を死滅させやすい形状となり、優れた抗菌性を発揮することができる。
【0041】
本発明の抗菌性シートは、樹脂層のマルテンス硬さが、好ましくは0.1N/mm2以上、より好ましくは0.3N/mm2以上、さらに好ましくは0.5N/mm2以上、好ましくは50N/mm2以下、より好ましくは40N/mm2以下、さらに好ましくは30N/mm2以下であることが重要である。マルテンス硬さとは、ISO 14577準拠のインデンテーション試験法にて測定および算出を行い、測定の際、超微小硬さ試験システム(商品名:“ピコデンター”(登録商標)HM500、株式会社フィッシャー・インストルメンツ社製)を用いて測定することができる。この測定方法において、圧子は、ビッカース圧子であって、ダイヤモンド正四角錘形状で、かつ最大径400μmのものを用いることができる。なお、接着層の厚みによる依存をなくすため、押し込み荷重を0.5mNと小さく設定し、押し込み深さをおおよそ1μmとなるように設定する。
【0042】
マルテンス硬さが上記範囲であることにより、例えば抗菌性シート表面をアルコールや次亜塩素酸水や水などを含む不織布などで汚れをふき取った際に、凸部形状が崩壊することなく維持され、この結果、抗菌性も維持されることが考えられる。
【0043】
マルテンス硬度は、例えば、熱可塑性樹脂の材料等により調整することができる。具体的には、樹脂の分子構造、架橋密度、重合度、平均分子量、ガラス転移温度等により、マルテンス硬度を調整することができる。樹脂の架橋密度や重合度が高くなると、マルテンス硬度が大きくなる傾向にある。樹脂の平均分子量が大きくなると、マルテンス硬度が大きくなる傾向にある。樹脂のガラス転移温度が高くなると、マルテンス硬度が大きくなる傾向にある。
【0044】
抗菌性シートは、JIS Z2801に準拠した抗菌評価試験にて、前記凸部表面の24時間後の抗菌活性値が2.0以上であり、2.5以上であることが好ましく、3.0以上であることがより好ましい。抗菌活性値は、実施例に記載の方法により測定される。
【0045】
本実施形態に係る抗菌性シートは、凸部が微生物の細胞膜を突き刺して微生物を死滅させることにより、抗菌効果を発揮する。微生物の大きさはその種類によって異なるが、凸部の直径よりも大きい大きさの微生物に対して、本実施形態に係る抗菌性シートは特に有効である。例えば、凸部の2次元的な大きさが約200nmである場合、約0.5μm以上の大きさの微生物(例、大きさが約1μmである緑膿菌等)に対して特に有効な殺菌作用を有すると考えられる。なお、ウイルスは細胞膜を有しないが、ウイルス核酸を取り囲むカプシドと呼ばれるタンパク質の殻を有している。ウイルスは、この殻の外側に膜状のエンベロープを有するウイルスと、エンベロープを有しないウイルスとに分けられる。エンベロープを有するウイルスにおいては、エンベロープは主として脂質からなるので、エンベロープに対して凸部が同様に作用すると考えられる。エンベロープを有するウイルスとして、例えば、インフルエンザウイルスやエボラウイルスが挙げられる。エンベロープを有しないウイルスにおいては、このカプシドと呼ばれるタンパク質の殻に対して凸部が同様に作用すると考えられる。
【0046】
凸部表面の水に対する静的接触角は、110度以上であることが好ましく、120度以上であることがより好ましく、130度以上であることがさらに好ましい。
静的接触角を上記下限以上とすることで、限りなく凸部の表層部分に水やアルコールを存在させることができ、不織布等で表面を軽く撫でただけで拭き取ることが可能になる為、凸部への荷重負荷を低減させ、結果として凸部形状の維持と共に抗菌性が維持される。
【0047】
(抗菌性物品)
本実施形態に係る抗菌性シートは、例えば、抗菌性物品の表面に貼付することにより、抗菌性物品の表面を形成するために用いることができる。抗菌性物品としては、特に限定されず、用具および部品全般が挙げられ、例えば、コンピュータのキーボード、ドアの取っ手、ベッドの手すり、ワゴン、スマートフォン等の画面等が挙げられる。
【実施例0048】
次に、本発明の実施例について説明する。
各実施例、各比較例の抗菌性シートを、以下の方法で作製した。
【0049】
(フィルムモールド作製)
まず、表面に易接着コートされたポリエステルフィルム(東洋紡社製)の易接着コート面に含フッ素UV硬化樹脂を塗布し、表面に微細凹凸構造を有する金型を押付けながらUVを照射することで樹脂を硬化させた後、金型から剥離させることでフィルムモールドを作製した。
【0050】
(複層化フィルム作製)
(実施例1)
次に、押出樹脂としてホモポリマーのポリプロピレン(サンアロマー社製、MFR=2.0)を設定220℃でTダイから溶融押出し、フィルムモールドの微細凹凸構造を有する面にコーティングし、直後にニップロール(エア圧:0.5MPa)で押し付けた後に冷却、巻き取ることで、複層化されたポリプロピレンフィルムを作製した。
【0051】
(実施例2)
次に、押出樹脂としてホモポリマーのポリプロピレン(サンアロマー社製、MFR=5.0)を設定220℃でTダイから溶融押出し、フィルムモールドの微細凹凸構造を有する面にコーティングし、直後にニップロール(エア圧:0.5MPa)で押し付けた後に冷却、巻き取ることで、複層化されたポリプロピレンフィルムを作製した。
【0052】
(実施例3)
次に、押出樹脂としてホモポリマーのポリプロピレン(サンアロマー社製、MFR=8.0)を設定220℃でTダイから溶融押出し、フィルムモールドの微細凹凸構造を有する面にコーティングし、直後にニップロール(エア圧:0.5MPa)で押し付けた後に冷却、巻き取ることで、複層化されたポリプロピレンフィルムを作製した。
【0053】
(実施例4)
次に、押出樹脂として低密度ポリエチレン(旭化成社製、MFR=5.0)を設定200℃でTダイから溶融押出し、フィルムモールドの微細凹凸構造を有する面にコーティングし、直後にニップロール(エア圧:0.5MPa)で押し付けた後に冷却、巻き取ることで、複層化されたポリエチレンフィルムを作製した。
【0054】
(実施例5)
次に、押出樹脂として環状オレフィンコポリマー(三井化学社製、MFR=10)を設定230℃でTダイから溶融押出し、フィルムモールドの微細凹凸構造を有する面にコーティングし、直後にニップロール(エア圧:0.5MPa)で押し付けた後に冷却、巻き取ることで、複層化された環状オレフィンコポリマーフィルムを作製した。
【0055】
(比較例1)
次に、押出樹脂としてホモポリマーのポリプロピレン(サンアロマー社製、MFR=1.0)を設定200℃でTダイから溶融押出し、フィルムモールドの微細凹凸構造を有する面にコーティングし、直後にニップロール(エア圧:0.5MPa)で押し付けた後に冷却、巻き取ることで、複層化されたポリプロピレンフィルムを作製した。
【0056】
(比較例2)
次に、アクリル系UV硬化樹脂をフィルムモールドの微細凹凸構造を有する面にコーティングし、UVにて樹脂を硬化させた後に巻き取ることで、複層化されたアクリル系UV硬化樹脂フィルムを作製した。
【0057】
(微細凹凸フィルム作製)
次に、各実施例、及び比較例にて複層化されたフィルムからフィルムモールドを剥離させることで、金型の微細凹凸構造が反転された微細凹凸フィルムを作製した。
得られた微細凹凸フィルムの凸部をSEM観察したところ、互いに独立した複数の凸部が格子状(六角格子状)に配置されていることが確認された(
図1、
図2)。
【0058】
(マルテンス硬度の測定)
各実施例、及び比較例で得られた抗菌性シートについて、マルテンス硬度を以下の方法により測定した。
超微小硬度計(ダイナミック超微小硬度計、「DUH-211S」、島津製作所社製)を用いて、室温(23℃)において、荷重を連続的に増加させながらピラミッド形状のダイヤモンド圧子をサンプル(ナノ凹凸構造を有する面)に押し込み、押込み深さが500nmに到達したときの試験荷重F(N)を測定し、表面にできたピラミッド形のくぼみの対角線の長さからその表面積A(mm2)を計算し、試験荷重F(N)を表面積Aで割ることにより、マルテンス硬度を算出した。
【0059】
(抗菌性能評価)
JIS Z 2801:2010(フィルム密着法)に基づいて、抗菌性試験を実施した。具体的には、実施例、比較例で得られた抗菌性シートそれぞれに、汚染物質として大腸菌、黄色ブドウ球菌を滴下し、25℃環境下、24時間暗所にて保管した。その後、生菌数をカウントし、抗菌活性値を算出した。抗菌活性値は、2.0以上で合格(抗菌性あり)となる。性能評価は、初期値、および清掃を想定した水拭き後の評価を行った。
【0060】
(接触角)
接触角計(協立界面科学社製、DMs-401)を用いて、純水2.0μLを微細凹凸フィルム表面に着滴させた際の静的接触角をN=10で測定し、その平均値を算出した。
【0061】
(拭き取り試験)
静動摩擦測定器(東洋精機製作所社製、TR型)を用いて、ステージの上に水を十分に染み込ませたキムタオル(日本製紙クレシア製)を敷き、その上に63mm×63mm、重さ約200gの治具に微細凹凸フィルムを貼り付け、治具をワイヤーで測定器と繋ぎ、100mm/minの速度でステージ100mmを動かして、微細凹凸フィルム表面をキムタオルで拭き取ることを想定した試験を実施した。ステージの移動回数は、規定回数として10回とした。移動1回目と10回目の動摩擦係数を測定した。規定回数移動後にサンプルを治具から剥がし、拭き取り面の状態を電子顕微鏡(日立ハイテク社製、S-3400N)で観察した。評価基準は、構造物の拭き取り面の変化状態が拭き取り前の状態と比べて凸部の潰れが発生していなかったものを良好(+)、構造物の拭き取り面の変化状態が拭き取り前と比べて凸部の潰れが発生していたものを不良(-)とした。
【0062】
【表1】
表中の略称
PP:ポリプロピレン
LDPE:低密度ポリエチレン
COC:環状オレフィンコポリマー
MFR:メルトフローレート
【0063】
表1に示したように、実施例1~5で得られた本発明の抗菌性シートは、優れた抗菌性を発揮しつつ拭き取りによる微細凹凸構造物の変化が抑制されたことが確認された。一方、比較例1で得られた抗菌性シートは、抗菌活性値が低いため、十分な抗菌性を発揮しなかったと確認した。また、比較例2で得られた抗菌性シートは、拭き取り試験における動摩擦係数の経時変化及び構造物の拭き取り面の変化状態観察から、拭き取りによる微細凹凸構造物の変化が顕著に生じ、本発明の目的を達成できなかったと確認した。
本発明によれば、多頻度の使用や表面の拭き取りによっても微細な凹凸部が変形しにくいことにより抗菌性能が維持され、優れた抗菌性を発揮することができる、抗菌性物品の表面を形成可能な抗菌性シートを提供することができる。