(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064235
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】濃度の推定方法、濃度の推定プログラム、及び濃度の推定システム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/27 20060101AFI20240507BHJP
G01N 21/01 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
G01N21/27 Z
G01N21/01 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172677
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】507214083
【氏名又は名称】メタウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 俊
(72)【発明者】
【氏名】久本 祐資
(72)【発明者】
【氏名】山口 太秀
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB05
2G059CC02
2G059DD20
2G059EE02
2G059EE13
2G059FF01
2G059FF08
2G059KK04
2G059MM01
2G059MM03
2G059MM05
2G059PP06
(57)【要約】
【課題】濃度の推定精度を向上することができる、濃度の推定方法、濃度の推定プログラム、及び濃度の推定システムを提供する。
【解決手段】本発明に係る濃度の推定方法は、測定対象物に関する画像データを取得するステップと、濃度毎に規定された複数の色見本の、当該各色見本の色に関する第1色情報を取得するステップと、前記画像データから前記測定対象物の色に関する第2色情報を取得するステップと、前記各第1色情報と前記第2色情報とを複数の推定方法により比較することで、前記測定対象物の濃度を推定するステップと、前記複数の推定方法によって推定された前記濃度の中から、当該濃度に適した前記推定方法による前記濃度を、推定結果として採用するステップと、を備えている。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物に関する画像データを取得するステップと、
濃度毎に規定された複数の色見本の、当該各色見本の色に関する第1色情報を取得するステップと、
前記画像データから前記測定対象物の色に関する第2色情報を取得するステップと、
前記各第1色情報と前記第2色情報とを複数の推定方法により比較することで、前記測定対象物の濃度を推定するステップと、
前記複数の推定方法によって推定された前記濃度の中から、当該濃度に適した前記推定方法による前記濃度を、推定結果として採用するステップと、
を備えている、濃度の推定方法。
【請求項2】
前記複数の推定方法は、低濃度域の推定に適した第1推定方法と、高濃度域の推定に適した第2推定方法と、を含む、
請求項1に記載の濃度の推定方法。
【請求項3】
前記第1推定方法は、ユークリッド距離を用いた推定方法であり、
前記第2推定方法は、CIEDE2000を用いた推定方法である、
請求項2に記載の濃度の推定方法。
【請求項4】
前記第1色情報は、前記色見本を撮影した撮影データから取得される、請求項1に記載の濃度の推定方法。
【請求項5】
前記推定するステップでは、
前記各第1色情報と前記第2色情報から算出された色差と、前記各色見本の濃度との関係を、前記各推定方法に基づいて算出し、
前記色差が最も小さい前記色見本の濃度の近傍で、前記関係をフィッティングすることで、前記色差が最小となる濃度を算出する、
請求項1に記載の濃度の推定方法。
【請求項6】
少なくとも1つのコンピュータに、
濃度毎に規定された複数の色見本の、当該各色見本の色に関する第1色情報を取得するステップと、
測定対象物の色に関する第2色情報を取得するステップと、
前記各第1色情報と前記第2色情報とを複数の推定方法により比較することで、前記測定対象物の濃度を推定するステップと、
前記複数の推定方法によって推定された前記濃度の中から、当該濃度に適した前記推定方法による前記濃度を、推定結果として採用するステップと、
を実行させる、濃度の推定プログラム。
【請求項7】
濃度毎に規定された複数の色見本の、当該各色見本の色に関する第1色情報を取得する第1色情報取得部と、
測定対象物の色に関する第2色情報を取得する第2色情報取得部と、
前記各第1色情報と前記第2色情報とを複数の推定方法により比較することで、前記測定対象物の濃度を推定する濃度推定部と、
前記複数の推定方法によって推定された前記濃度の中から、当該濃度に適した前記推定方法による前記濃度を、推定結果として採用する推定結果算出部と、
を備えている、濃度の推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃度の推定方法、濃度の推定プログラム、及び濃度の推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水道水の塩素濃度は、水道法によって0.1mg/L以上に保持することが定められている。そのため、水道水の塩素濃度は種々の施設でチェックされる必要がある。このような塩素濃度のチェックを簡易に行うため、非特許文献1には、取得した水道水に薬剤を添加した後、呈色した水を撮影し、その色と色見本との比較により塩素濃度を推定するアプリケーションが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】株式会社協立理化学研究所、"スマートパッチテスト"、[online]、[令和4年8月18日検索]、https://kyoritsu-lab.co.jp/smartpacktest
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、推定された塩素濃度の結果によっては、浄水場の運転計画に関わるため、塩素濃度の推定には精度が求められる。そのため、精度の高い塩素濃度の推定方法が要望されていた。このような問題は、塩素濃度だけではなく、色と濃度との間に関連のある測定対象において、濃度を推定する場合全般に生じうる問題である。本発明は、この問題を解決するためになされたものであり、濃度の推定精度を向上することができる、濃度の推定方法、濃度の推定プログラム、及び濃度の推定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る濃度の推定方法は、測定対象物に関する画像データと、を取得するステップと、濃度毎に規定された複数の色見本の、当該各色見本の色に関する第1色情報を取得するステップと、前記画像データから前記測定対象物の色に関する第2色情報を取得するステップと、前記各第1色情報と前記第2色情報とを複数の推定方法により比較することで、前記測定対象物の濃度を推定するステップと、前記複数の推定方法によって推定された前記濃度の中から、当該濃度に適した前記推定方法による前記濃度を、推定結果として採用するステップと、を備えている。
【0006】
本発明に係る濃度の推定プログラムは、コンピュータに、濃度毎に規定された複数の色見本の、当該各色見本の色に関する第1色情報を取得するステップと、測定対象物の色に関する第2色情報を取得するステップと、前記各第1色情報と前記第2色情報とを複数の推定方法により比較することで、前記測定対象物の濃度を推定するステップと、前記複数の推定方法によって推定された前記濃度の中から、当該濃度に適した前記推定方法による前記濃度を、推定結果として採用するステップと、を実行させる。
【0007】
本発明に係る濃度の推定システムは、濃度毎に規定された複数の色見本の、当該各色見本の色に関する複数の第1色情報を取得する第1色情報取得部と、測定対象物の色に関する第2色情報を取得する第2色情報取得部と、前記各第1色情報と前記第2色情報とを複数の推定方法により比較することで、前記測定対象物の濃度を推定する濃度推定部と、前記複数の推定方法によって推定された前記濃度の中から、当該濃度に適した前記推定方法による前記濃度を、推定結果として採用する推定結果算出部と、を備えている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、濃度の推定の精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る濃度の推定システムの一実施形態を示す概略図である。
【
図3】携帯端末のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図4】サーバのハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図5】携帯端末のソフトウェア構成を示すブロック図である。
【
図6】サーバのソフトウェア構成を示すブロック図である。
【
図8】ユークリッド距離を用いて算出した塩素濃度と色差の関係のフィッティングを説明する図である。
【
図9】CIEDE2000を用いて算出した塩素濃度と色差の関係のフィッティングを説明する図である。
【
図10】水の塩素濃度の推定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る濃度の推定システムを水の塩素濃度の推定システムに適用した一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態に係る推定システムは、家庭、公共施設、浄水場などの種々の施設で取得された水の色から塩素濃度を推定するシステムである。
【0011】
<1.システム概要>
図1は、本実施形態に係る塩素濃度の推定システムの概略構成図である。
図1に示すように、本実施形態に係る塩素濃度の推定システムは、携帯端末1と、この携帯端末1とインターネットなどの回線を通じて接続されたサーバ2と、を備えている。また、この推定システムでは、
図2に示すようなテストキット3を使用する。テストキット3は、矩形状の台紙31と、測定対象となる水を収容する容器32と、を備えている。台紙31の上部には、7つの矩形状の色見本311~317が描かれている。各色見本311~317は、塩素濃度に応じて着色されており、塩素濃度が高いほど、色見本の色も濃くなっている。なお、塩素濃度が高いほど、水は濃い赤色になるが、ここではグレーで表している。但し、本実施形態に係る色見本の色は一例であり、これとは異なる色であってもよく、少なくとも各色見本の色が相違していればよい。本実施形態では、台紙31の左から右に向かって並ぶ7つの色見本311~317の上方に予め確認された塩素濃度が記載されている。具体的には、各色見本311~317の塩素濃度である、0.00mg/L、0.10mg/L、0.20mg/L、0.40mg/L、1.00mg/L、2.00mg/L、5.00mg/Lの数値が記載されている。
【0012】
また、台紙31の下部には、上述した測定対象となる容器32を配置可能な枠34が設けられている。容器32は、透明の樹脂材料などで形成されており、例えば、シリンジなどで取得した水を容器32に注入した後、密閉できるようになっている。このとき、水には、DPD試薬等の薬剤を添加し呈色する。容器32は透明であるため、収容した水の色を容器32の外から視認可能となっている。そして、水が注入された容器32を枠34内に配置した後、後述する撮影を行う。
【0013】
こうして、水が密閉された容器32を台紙31に配置した後、ユーザは、この台紙31を携帯端末1のカメラで撮影する。携帯端末1は、撮影により取得された画像データをサーバ2に送信し、サーバ2において水の塩素濃度を推定する。推定された塩素濃度は、携帯端末1に送信されて表示されるようになっている。以下、本実施形態に係る携帯端末1及びサーバ2について詳細に説明する。
【0014】
<2.携帯端末のハードウェア構成>
図3は携帯端末のハードウェア構成を示すブロック図である。
図3に示すように、携帯端末1は、制御部11、記憶部12、表示部13、入力部14、撮像部15、及び通信インタフェース16が電気的に接続されたコンピュータであり、例えば、スマートフォン、タブレットコンピュータなどで構成することもできる。なお、
図3では、通信インタフェース17を「通信I/F」と記載している。
【0015】
制御部11は、CPU、RAM、ROM等を含み、プログラム及びデータに基づいて各種情報処理を実行するように構成される。記憶部12は、例えば、HDD、SSD等の補助記憶装置で構成され、入出力プログラム121、画像データ122、及び携帯端末1を駆動するための種々のデータを記憶する。入出力プログラム121は、上述した台紙31を撮影することで台紙の画像データ122を取得するためのプログラムである。また、入出力プログラム121は、取得した画像データ122をサーバ2に送信するとともに、サーバ2で推定された水の濃度を受信し、これを携帯端末1の表示部に表示させるためのプログラムでもある。制御部11は、この入出力プログラム121を解釈及び実行することで、後述する各処理を実行するように構成される。
【0016】
画像データ122は、撮影した台紙31全体が写るデータである。すなわち、この画像データ122は、台紙31の画像、台紙31に記載された各色見本311~317の画像、及び容器32に収容された水の色の画像を含むデータである。
【0017】
表示部13は、例えば、ディスプレイであり、入力、出力等を表示するのに利用される。ディスプレイは、公知の液晶ディスプレイ等を用いることができる。入力部14は、キーボードなどであり、上述した入力を行うためのものである。また、表示部13及び入力部14を兼ねたタッチパネルディスプレイを用いることもできる。以下では、一例として、入力部14による入力は、タッチ入力で行うこととする。撮像部15は、台紙31を撮影するためのカメラを含む。
【0018】
通信インタフェース16は、例えば、有線LAN(Local Area Network)モジュール、無線LANモジュール等であり、有線又は無線通信を行うためのインタフェースである。すなわち、通信インタフェース17は、サーバ2や他の装置と通信を行うように構成された通信部の一例である。
【0019】
なお、携帯端末1の具体的なハードウェア構成は、実施形態に応じて、適宜、構成要素の省略、置換及び追加が可能である。例えば、制御部11は、複数のプロセッサを含んでもよい。制御部11は、FPGAにより構成されてもよい。記憶部12は、制御部11に含まれるRAM及びROMにより構成されてもよい。また、携帯端末1は、本システム用の専用の携帯端末であってもよいし、汎用のスマートフォンなどに、上述した入出力プログラムをインストールして使用することもできる。
【0020】
<3.サーバのハードウェア構成>
図4は、本実施形態に係るサーバ2のハードウェア構成の一例である。このサーバ2は、制御部21、記憶部22、外部インタフェース23、及び通信インタフェース24が電気的に接続されたコンピュータであり、例えば、汎用のパーソナルコンピュータ、専用のコンピュータ等で構成することができるほか、タブレットコンピュータなどで構成することもできる。また、サーバ2を複数のコンピュータで構成することもできる。なお、
図4では、外部インタフェース23及び通信インタフェース24を「外部I/F」及び「通信I/F」と記載している。
【0021】
制御部21は、CPU、RAM、ROM等を含み、プログラム及びデータに基づいて各種情報処理を実行するように構成される。記憶部22は、例えば、HDD、SSD等の補助記憶装置で構成され、推定プログラム221、推定結果データ222、及びサーバ2を駆動するための種々のデータを記憶する。その他、携帯端末1から送信された画像データ122等のデータも記憶される。推定プログラム221は、携帯端末1から送信された画像データ122から、水の塩素濃度を推定するためのプログラムである。
【0022】
推定結果データ222は、推定プログラム221によって推定された塩素濃度であり、過去に推定された塩素濃度も含む。
【0023】
外部インタフェース23は、外部装置と接続するためのインタフェースであり、接続する外部装置に応じて適宜構成される。本実施形態では、外部インタフェース23が、表示装置4及び入力装置5に接続されている。表示装置4は、例えば、ディスプレイであり、上述した入力、出力等を表示するのに利用される。ディスプレイは、特には限定されず、公知の液晶ディスプレイ等を用いることができる。入力装置5は、キーボード、マウスなどであり、上述した入力を行うためのものである。その他、外部インタフェース23には、各種の外部装置を適宜接続することができる。例えば、表示装置4及び入力装置5を兼ねたタッチパネルディスプレイを用いることができる。
【0024】
通信インタフェース24は、例えば、有線LAN(Local Area Network)モジュール、無線LANモジュール等であり、有線又は無線通信を行うためのインタフェースである。すなわち、通信インタフェース24は、携帯端末1や他の装置と通信を行うように構成された通信部の一例である。
【0025】
なお、サーバ2の具体的なハードウェア構成は、実施形態に応じて、適宜、構成要素の省略、置換及び追加が可能である。例えば、制御部21は、複数のプロセッサを含んでもよい。また、制御部21は、FPGAにより構成されてもよい。記憶部22は、制御部21に含まれるRAM及びROMにより構成されてもよい。
【0026】
<4.携帯端末のソフトウェア構成>
図5は、本実施形態に係る携帯端末のソフトウェア構成の一例である。携帯端末1においては、以下の処理が行われる。すなわち、携帯端末1の制御部11は、記憶部12に記憶された入出力プログラム121をRAMに展開すると、その入出力プログラム121をCPUにより解釈及び実行して、
図5に示すように、画面制御部111、データ取得部112、及び送受信部113として機能する。
【0027】
画面制御部111は、表示部13に表示する画面の制御を行う。例えば、後述するように、台紙31を撮影するための画面を表示するなどの処理を行う。データ取得部112は、撮像部15を起動し、表示部13に撮像部15のカメラで撮像された像を表示する。そして、ユーザの操作によって台紙31を撮影し、画像データ122を取得する。取得された画像データ122は記憶部12または制御部11のRAMに記憶される。送受信部113は、取得された画像データ122をサーバ2に送信する。また、送受信部113が推定結果データ223をサーバ2から取得すると、画面制御部111は、推定結果を表示する出力画面43を表示部13に表示する。
【0028】
<5.サーバのソフトウェア構成>
図6は、本実施形態に係るサーバのソフトウェア構成の一例である。サーバ2においては、以下の処理が行われる。すなわち、サーバ2の制御部21は、記憶部22に記憶された推定プログラム221をRAMに展開すると、その推定プログラム221をCPUにより解釈及び実行して、
図6に示すような送受信部211、第1色情報取得部212、第2色情報取得部213、濃度推定部214、及び推定結果算出部215として機能する。
【0029】
送受信部211は、携帯端末1からの画像データ122の受信と、携帯端末1への推定結果データ223の送信を行う。第1色情報取得部212は、受信した画像データ122から各色見本311~317の色を抽出し、各色見本の色情報(第1色情報)を取得する。色情報の取得方法は特には限定されず、種々の方法があるが、以下では、その一例について説明する。まず、ヒストグラム均一化を行い、各色見本311~317の色を濃くする。次に、濃くした色から赤色の抽出を行う。例えば、HSV色空間において、H:0~108、S:0~255、V:0~255の範囲にある色の部分を色見本311~317の領域として抽出する。但し、この例は色見本311~317が赤の場合の例であり、赤以外の場合には、HSV色空間の他の数値範囲が適用される。あるいは、HSV色空間以外の色空間を用いることもできる。
【0030】
次に、ラベリング処理を行い、色見本311~317にラベル番号を付して各色見本及び塩素濃度を特定するとともに、各色見本311~317のRGBの画素値を取得する。具体的には、例えば、最も左側にある色見本311の左上角及び右上角のX座標、上辺及び下辺の平均Y座標、色見本間の重心間の距離の平均を算出し、これに基づいて、矩形状に形成された各色見本311~317の領域の座標を特定する。続いて、各色見本の領域内の所定領域(例えば、各色見本の幅の60%程度の正方形の領域)をトリミングし、その領域内の画素郡(例えば、60ピクセル角)の中央値を色情報として算出する。こうして、各色見本311~317のRGBの画素値を取得し、台紙31に記載された塩素濃度と対応づける。
【0031】
一方、第2色情報取得部213は、画像データ122に含まれる容器32内の水の画像を抽出し、公知の画像処理により、水の色情報(第2色情報)を算出する。本実施形態における水の色情報は、各色見本の色情報と同じくRGBの画素値である。
【0032】
このとき、第2色情報取得部213による色情報の算出には種々の方法があるが、一例を示す。まず、画像データ122をグレースケール化し、ムラを軽減する。次に、画像データ122に二値化処理を施し、枠34を白くすることでその輪郭を得る。続いて、輪郭内にある容器32の内部の領域を限定し、その領域の内部の色を水の画像として抽出する。例えば、水の画像に含まれる全画素から、Rの中央値を算出し、さらにこのRの中央値以上の画素値を有する画素を抽出する。そして、抽出された画素の中で、Rが中央値である複数の画素郡(例えば、一辺が60画素の領域)を特定し、その画素郡におけるRGBの平均値を色情報として算出する。
【0033】
濃度推定部214は、まず、第1色情報取得部212で取得された各色見本の色情報と、第2色情報取得部213で算出された水の色情報との色差を算出する。この色差の算出に当たっては、複数の手法を用いる。本実施形態では、一例として、公知の手法であるユークリッド距離及びCIEDE2000を用いる。
【0034】
ユークリッド距離は、以下の式により算出される。この式において、α
r、α
g、α
bは、それぞれ色見本のRGBの画素値、β
r、β
g、β
bは、それぞれ水の色のRGBの画素値である。
【数1】
【0035】
一方、CIEDE2000は、以下の式により算出される。
【数2】
【0036】
上記2つの手法により色差を算出すると、以下のような色差データが得られる。
【表1】
【0037】
また、表1の数値をグラフ化すると、
図7のようになる。ここでは、最も色差が小さくなる塩素濃度が濃度の推定値と考えられるが、さらに推定の精度を上げるため、次のような処理を行う。すなわち、
図7のグラフの中で、色差が最も小さい塩素濃度を中央値として3つの塩素濃度/色差を選択し(
図7の枠で囲まれた3点)、これら3点を用いて2次関数のグラフを描いくようにフィッティングを行う。そして、フィッティングにより得られたグラフにおける最小の色差に対応する塩素濃度を推定値として取得する。なお、フィッティングは、2次関数を用いることに限定されず、採用する点の数に応じて、3次関数を用いることもできる。また、フィッティングに用いる点の数も特には限定されない。
【0038】
図8はユークリッド距離を用いて得られた3点のフィッティングの例を示し、
図12はCIEDE2000を用いて得られた3点のフィッティングの例を示している。例えば、
図8に示すように、ユークリッド距離により算出された色差は、塩素濃度が1.00mg/Lのときに最小であるため、これを中央値として前後の2点、つまり0.40mg/Lと2.00mg/Lを採用し、合計3点を用いて2次関数によるフィッティングを行う。こうして得られた2次関数式において色差が最小となる色見本濃度を推定値とする。この例では、1.28が推定値となる。
【0039】
一方、
図9に示すように、CIEDE2000により算出された色差は、塩素濃度が1.00mg/Lであるため、これを中央値として前後の2点、つまり0.40mg/Lと2.00mg/Lを採用し、合計3点を用いて2次関数によるフィッティングを行う。こうして得られた2次関数式において色差が最小となる色見本濃度を推定値とする。この例では、1.16が推定値となる。
【0040】
これらの2つの手法について、本発明者が検討したところ、次のような知見を得られた。発明者らは、塩素濃度及び色が既知の複数のサンプルに対し、ユークリッド距離とCIEDE2000を用いてそれぞれ上記のような塩素濃度の推定を行った。その結果、以下のような評価が得られた。
【表2】
【0041】
この表2において、Aは実用に耐えうる適切な評価が得られたことを示し、Bは概ね実用に耐え得る評価が得られたことを示し、Cは実用に使用できない不適切な評価が得られたことを示している。
【0042】
水道法においては、水の塩素濃度を0.1mg/L以上に保持することが規定されている。上記の表2によれば、例えば、CIEDE2000を用いると、真の濃度が0.15mg/Lであるにもかかわらず、推定値が0.00g/mLとなっている。そのため、この推定値に基づけば、塩素濃度を増大させる必要があり、浄水場では、本来不要な運転管理業務を行うことになってしまう。一方、ユークリッド距離を用いると、真の濃度が0.15mg/Lであるときに、推定値が0.1mg/Lを超える0.22mg/Lであるため、この推定値に基づけば、塩素濃度を調整する運転管理が不要となる。したがって、基準値である0.1mg/Lを基準とする正しい運転管理を行うためには、ユークリッド距離を採用する方が適している。
【0043】
したがって、少なくともCの評価となった推定値は、真の濃度が0より大きいにもかかわらず0と推定してしまうため実用上、使用できないが、A,Bについては、管理方針に基づいて、管理者が適宜、いずれかの推定値の採用を決定すればよい。例えば、Aは真の濃度と近傍一致であるが、BはAよりは既知の濃度と差がある。しかしながら、Bの評価であっても、実用上問題のないことが本発明者により確認されている。
【0044】
一方、例えば、0.20~0.60mg/Lといった高濃度域では、CIEDE2000の方が真の濃度に近い推定値が得られている。
【0045】
以上の結果より、本発明者らは、0.15mg/Lを基準値として、この基準値以下の濃度が推定値として算出された場合には、ユークリッド距離を用いて算出された推定値を採用することとし、この基準値を超える濃度が推定値として算出された場合には、CIEDE2000を用いて算出された推定値を採用することとした。したがって、本実施形態では、ユーリッド距離を用いた推定方法(第1推定方法)が低濃度域の推定に適していると考えられ、CIEDE2000を用いた推定方法(第2推定方法)が高濃度域の推定に適していると考えられる。
【0046】
なお、基準値としての0.15mg/Lは一例であり、これ以外の基準値を用いることもできる。
【0047】
上述したようにフィッティングによって得られた推定値(1.28mg/L、1.16mg/L)は、いずれも基準値である0.15mg/Lより大きいため、CIEDE2000により算出された推定値を採用する。すなわち、本実施形態では、推定結果として、1.16mg/Lを水の塩素濃度とする。この塩素濃度は、推定結果データ224として、記憶部22に記憶する。
【0048】
こうして、推定結果としての水の塩素濃度が得られると、送受信部211は、これを過去の履歴とともに携帯端末1に送信する。
【0049】
<6.水の塩素濃度の推定処理>
次に、水の濃度の推定処理について、
図10のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0050】
まず、推定対象となる水をシリンジなどで取得し、容器32に注入する。次に、この容器32を台紙31の上に配置する。次に、携帯端末において入出力プログラムを起動し、携帯端末1のログイン画面41にパスワードを入力する。これにより、携帯端末1の表示部13には撮影画面42が表示される。続いて、携帯端末1により台紙31の撮影を行うとともに、撮影画面42に表示された質問に回答する。これにより、画像データ122が取得される(ステップS1)。ユーザがアップロードボタンを携帯端末1の送受信部113は、取得された画像データ122と質問の回答をサーバ2に送信する(ステップS2)。
【0051】
画像データ122を受信したサーバ2では、画像データ122から各色見本の色情報が取得されるとともに、水の色情報が算出される(ステップS3)。次に、得られた色情報からユークリッド距離及びCIEDE2000を用いて色差を算出する(ステップS4)。続いて、得られた色差と塩素濃度との関係式から上述した3点をそれぞれ選択し、フィッティングを行う。そして、得られたグラフより、色差が最小となる色見本の濃度を、推定値として取得する(ステップS5)。
【0052】
これに続いて、ユークリッド距離及びCIEDE2000を用いて得られた推定値と、上述した基準値0.15mg/Lとを比較し、両推定値が基準値よりも低ければ、ユークリッド距離を用いて算出された推定値を推定結果として採用し、両推定値が基準値よりも高ければ、CIEDE2000を用いて算出された推定値を推定結果として採用する(ステップS6)。
【0053】
そして、サーバ2は得られた推定結果を過去の履歴とともに携帯端末1に送信する(ステップS7)。携帯端末1は、得られた推定結果を表示部13の画面に表示する(ステップS8)。
【0054】
<7.特徴>
以上のように、本実施形態によれば、次の効果を得ることができる。
(1)色差を算出するための2つの手法を用いているため、算出された推定値に応じて、適切な手法で算出された推定値を採用することができる。したがって、塩素濃度の推定の精度を向上することができる。上記のように、CIEDE2000を用いた推定では、誤差は小さいものの、低濃度域で推定値が低く算出されてしまう傾向がある。そのため、真の塩素濃度が、水道法で規定されている0.1mg/L以上であっても、これよりも小さい推定値が算出されるおそれがある。これにより、誤って塩素量を増やす運用が採られる可能性があり、安全面での課題がある。
【0055】
一方、ユークリッド距離を用いた推定では、高濃度域の色見本は粗となっているため、高濃度域では精度が低く、推定誤差が生じやすいという課題があった。したがって、本実施形態のように、低濃度域と高濃度域で、それぞれ特色のある2つの手法を組み合わせることで、安全性と精度とを兼ね備えた推定結果を得ることができる。
【0056】
(2)各手法では、色差を算出した後、さらに色差が小さい複数の点を用いてフィッティングを行っていため、色差が最小となる塩素濃度をより正確に算出することができる。
【0057】
(3)濃度推定のための処理を、携帯端末1ではなく、サーバ2で行っているため、携帯端末1の処理能力が低くても、推定値の算出の高速化が可能である。
【0058】
<8.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。また、以下の変形例は適宜組み合わせ可能である。
【0059】
(1)上記実施形態では、色差を算出する手法として、ユークリッド距離及びCIEDE2000を用いたが、これに限定されるものではない。すなわち、色差を算出できる手法であれば、これ以外の手法を用いることもできる。例えば、CIE76、CIE94などを用いることができる。上記実施形態では、濃度域に応じて複数の手法を使い分けているが、濃度域以外の他の観点から複数の手法を使い分けることもできる。また、3以上の手法を適宜組み合わせて用いることもできる。
【0060】
(2)上記のように複数の推定方法が存在する場合、どの推定方法を使用するかは種々の判断方法があり、例えば、以下のように判断することができる。但し、このほかの判断を行うこともできる。
・既知の濃度に最も近い推定値を算出する推定方法を採用する。
・既知の濃度から所定範囲内の推定値を算出する推定方法を採用する。複数ある場合には、運用される地域の水の管理指針を考慮しながら、いずれを採用することもできる。
・既知の濃度が0よりも大きいにもかかわらず、0の推定値を算出する推定方法は採用しない。
【0061】
こうして、複数の推定方法を用いる場合には、上述した判断方法にしたがって、いずれの推定方法を採用すべきかの閾値(例えば、上述した0.15mg/L)を設定することができる。
【0062】
(3)台紙31に記載されている色見本311~317の数や種類は特には限定されず、例えば、地域や浄水場の状況に応じて適宜変更が可能である。
【0063】
(4)上記実施形態では、各手法において、色差の最も小さい色見本の塩素濃度を算出した後、フィッティングによりさらに色差の小さい塩素濃度を求めているが、フィッティングを用いず、色差の最も小さい色見本の塩素濃度を推定値とすることもできる。例えば、色見本の数が多い場合には、フィッティングを用いなくても、精度の高い推定値を算出することができる。
【0064】
(5)色見本及び測定対象の水の色情報は、RGB以外に限定されるものではなく、例えば、HSV色空間における色相、彩度、明度、CIE LAB表色系におけるL*、a*、及びb*を色情報とすることもできる。また、画像データ122から色見本や水の色情報を算出する方法は特には限定されず、上述した各種の色情報が算出できればよい。
【0065】
(6)上記実施形態では、台紙31に記載された各色見本311~317から色情報を算出するとともに各塩素濃度と対応付けているが、これ以外の方法でもよい。例えば、各台紙31にIDを記載しておき、そのIDを画像データ122から特定することで、その台紙31に記載されている各色見本の塩素濃度と色情報との関係を特定する。この場合、画像データ122を携帯端末1からサーバ2に送信し、サーバ2において画像データ122からIDを抽出する。また、例えば、サーバ2の記憶部22には、色見本に関する以下のようなテーブルを各ID毎に記憶しておき、このテーブルを参照することで、色見本の塩素濃度と色情報(例えば、RGBの画素値)との関係を特定することができる。
【表3】
【0066】
したがって、サーバ2では、画像データ122からIDを読み取り、対応するテーブルを参照することで、台紙31に記載された各色見本の塩素濃度と色情報との関係を特定することができる。そして、上記のように画像データ122から容器32の水の色の画像を抽出し、水の色情報を算出する。これにより、上記のように、水の塩素濃度を推定することができる。なお、他の色の組合せの色見本が記載された台紙31を複数準備し、それぞれに異なるIDを付すとともに、各IDに対応した上記のようなテーブルを準備しておくこともできる。これにより、環境等に応じて色の異なる複数種の水の塩素濃度等を推定することができる。また、IDは、例えば、番号、記号、バーコード、QRコード(登録商標)など、種々の形態がある。あるいは、台紙31に記載の色見本311~317の塩素濃度を読み取り、これを用いて色情報との関係を特定することもできる。
【0067】
以上の方法では、台紙31を撮影した撮影データから色見本に関する情報(上述した色見本の色の画像、ID、塩素濃度など)を抽出し、ここから第1色情報を取得している。また、本発明の画像データは、少なくとも測定対象物である水の画像が含まれていればよい。したがって、上述した撮影データは、画像データに含まれるもの、あるいは画像データとは別に取得されるものであってもよい。例えば、上述した色見本に関する情報のみを別途撮影して撮影データを得てもよい。
【0068】
あるいは、携帯端末1の操作画面上で、色見本を特定する情報をユーザに入力させることもできる。例えば、台紙31にIDを記載しておき、操作画面のプルダウンメニュー等で、該当するIDを選択させることもできる。こうして選択された色見本に関する情報をサーバ2に送信すれば、上記のように水の塩素濃度を推定することができる。
【0069】
なお、色見本の塩素濃度と色情報との関係(例えば、上述したテーブル)は、上記のようにサーバ2に記憶しておいてもよいし、携帯端末1に記憶しておいてもよい。例えば、携帯端末1に記憶している場合には、色見本の塩素濃度と色情報との関係を、画像データ122とともにサーバ2に送信するようにすればよい。
【0070】
(7)上記実施形態では、濃度の推定をサーバ2で行っているが、携帯端末1で行うこともできる。例えば、サーバ2に記憶されている推定プログラム221、色見本データ222を携帯端末1に記憶し、これを用いて塩素濃度の推定を携帯端末1で行うこともできる。また、サーバ2で行う処理、つまり
図6で示す処理(機能構成)の一部を携帯端末1で行うこともできる。すなわち、上述した複数の処理を、複数のコンピュータに割り当てて行うことができる。
【0071】
(8)上記実施形態では、塩素濃度の推定を行う例について説明したが、これに限定されず、濃度と色との間に関連のあるような測定対象物において、濃度を推定する場合に適用することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 :携帯端末
2 :サーバ
112 :データ取得部
122 :画像データ
212 :第1色情報取得部
213 :第2色情報取得部
214 :濃度推定部
215 :推定結果算出部
221 :推定プログラム
311~317 :色見本