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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064265
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】RNAの分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20240507BHJP
   H01J 49/16 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
G01N27/62 V
H01J49/16 400
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172722
(22)【出願日】2022-10-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り https://www.mssj.jp/conf/70/program/3P-14.html、令和4年6月1日 [刊行物等] 第70回質量分析総合討論会、令和4年6月24日 [刊行物等] 日本核酸医薬学会 第7回年会 事務局、日本核酸医薬学会 第7回年会 講演要旨集、令和4年7月20日 [刊行物等] 日本核酸医薬学会 第7回年会、令和4年8月1日 [刊行物等] 湘南アイパーク×島津製作所セミナー、令和4年10月7日 [刊行物等] 第71回日本感染症学会東日本地方会学術集会・第69回日本化学療法学会東日本支部総会 合同学会、令和4年10月27日
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福山 裕子
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA04
2G041FA11
2G041GA06
2G041GA08
2G041JA08
(57)【要約】
【課題】MALDI質量分析を利用して試料に含まれるRNAを分析する際に、より高感度に均一性高く分子量関連イオンを検出できるようにする。
【解決手段】
マトリックスとして、2,4-ジヒドロキシアセトフェノン(DHAP)及び2,4,6-トリヒドロキシアセトフェノン一水和物(THAP)を含む混合マトリックスを用い、試料に含まれるRNAをマトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析装置により分析する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックスとして、2,4-ジヒドロキシアセトフェノン(DHAP)及び2,4,6-トリヒドロキシアセトフェノン一水和物(THAP)を含む混合マトリックスを用い、試料に含まれるRNAをマトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析装置により分析する、RNAの分析方法。
【請求項2】
前記混合マトリックスのDHAPとTHAPの混合比が30:1~10:1である、
請求項1に記載のRNAの分析方法。
【請求項3】
前記混合マトリックスのマトリックス添加剤としてクエン酸水素二アンモニウムを用い、前記試料に含まれるRNAを分析する、
請求項1に記載のRNAの分析方法。
【請求項4】
RNAを含む試料溶液、DHAPを含むマトリックス溶液、及びTHAPを含むマトリックス溶液を混合して試料/混合マトリックス混合溶液を作製し、あるいは、RNAを含む試料溶液と、DHAP及びTHAPを含む混合マトリックス溶液とを混合して試料/混合マトリックス混合溶液を作製し、該試料/混合マトリックス混合溶液をサンプルプレ-ト上に滴下して作製された前記試料/混合マトリックス混合物を前記マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析装置により測定する、
請求項1~3のいずれかに記載のRNAの分析方法。
【請求項5】
RNAを含む試料溶液と、DHAP及びTHAPを含む混合マトリックス溶液とを混合して作製した試料/混合マトリックス混合物を前記マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析装置により測定することで、前記試料に含まれるRNAを分析する、
請求項1~3のいずれかに記載のRNAの分析方法。
【請求項6】
RNAを含む試料溶液、DHAP及びTHAPのいずれか一方を含むマトリックス溶液、DHAP及びTHAPの他方を含むマトリックス溶液を作製し、これらの試料溶液および各マトリックス溶液から作製した試料/混合マトリックス混合物を前記マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析装置により測定することで、前記試料に含まれるRNAを分析する、
請求項1~3のいずれかに記載のRNAの分析方法。
【請求項7】
前記マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析装置がデジタルイオントラップ型である、
請求項1~3のいずれかに記載のRNAの分析方法。
【請求項8】
2,4-ジヒドロキシアセトフェノン(DHAP)及び2,4,6-トリヒドロキシアセトフェノン一水和物(THAP)を含む、RNAのマトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析用マトリックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RNAの分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸(DNA、RNA)の質量分析方法の一つとして、マトリックス支援レーザ脱離イオン化(Matrix Assisted Laser Desorption / Ionization:MALDI)を用いた質量分析方法(以下、MALDI質量分析という。)が知られている。MALDI質量分析では、レーザ光を吸収しにくい物質やレーザ光により損傷を受けやすい物質をイオン化させるために、マトリックスと呼ばれるイオン化補助剤が使用される。
【0003】
例えば、核酸のMALDI質量分析において、非特許文献1には、3-ヒドロキシピコリン酸(3-hydroxypicolinic acid:3-HPA)、及び1,5-ジアミノナフタレン(1,5-diaminonaphthalene:1,5-DAN)がマトリックスとして用いられることが記載されている。非特許文献2には2,4-ジヒドロキシアセトフェノン(2,4-dihydroxyacetophenone:2,4-DHAP)がマトリックスとして用いられることが記載されている。非特許文献3には、2,4,6-トリヒドロキシアセトフェノン(2, 4, 6-trihydroxyacetophenone:2,4,6-THAP)と2,3,4-トリヒドロキシアセトフェノン(2, 3, 4-trihydroxyacetophenone:2,3,4-THAP)を含む混合マトリックス、及びアントラニル酸(anthranilic acid:AA)とニコチン酸(nicotinic acid:NA)を含む混合マトリックスがマトリックスとして用いられることが記載されている。
【0004】
マトリックスは、通常、所定の溶媒に溶解させたマトリックス溶液として作製され、分析対象物質を含む試料と、様々な方法で混合される。例えば、マトリックス溶液と試料溶液を予め混合して試料/マトリックス混合溶液を作製し、サンプルプレートと呼ばれる金属製の板に複数形成されたウェル(サンプルの滴下部位。例えば、直径2 mmほどの円の外縁を削ったものや、直径2 mmほどの円の内側全体に表面加工処理をしたものなどがある。)に該試料/マトリックス混合溶液を滴下し、乾燥することにより、ウェル上に分析対象物質とマトリックスが混合された試料/マトリックス混合結晶が形成される。或いは、マトリックス溶液と試料溶液をそれぞれウェルに滴下してウェル上で混合し、乾燥することにより試料/マトリックス混合結晶が形成される。いずれの場合も、試料/マトリックス混合結晶が分析用試料としてMALDI質量分析に供される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nathan A. Hagan, 他5名, "Enhanced In-Source Fragmentationin MALDI-TOF-MS of Oligonucleotides Using 1,5-Diaminonapthalene", Journal of the American Society for Mass Spectrometry, (米国), 2012, 23, pp.773-777
【非特許文献2】H. Shimizu, 他6名, "Application of high-resolution ESI and MALDI mass spectrometry to metabolite profiling of small interfering RNA duplex", Journal of Mass Spectrometry, (米国), 2012, 47, pp. 1015-1022
【非特許文献3】Li-Kang Zhang, 他1名, "Matrix-assisted laser desorption/ionization mass spectrometry methods for oligodeoxynucleotides: Improvements in matrix, detection limits, quantification, and sequencing", Journal of the American Society for Mass Spectrometry, (米国), 2000, 11, pp. 854-865
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、核酸のMALDI質量分析用のマトリックスとして知られているマトリックスを用いて分析用試料を調製すると、試料/マトリックス混合結晶がウェル上に不均一に形成されることが多い。そのため、分析対象物質である核酸の分子量関連イオンを得るためにウェル上にレーザ光を照射しても、照射位置によっては、十分な量の分子量関連イオンを生成することができない。ウェル上の試料/マトリックス混合結晶が形成されている箇所で、且つ分析対象物質である試料分子のイオンが比較的検出されやすい箇所(スイートスポットと呼ばれる)にレーザ光を照射することができれば、十分な感度で良好な分子量関連イオンピークを検出することができるが、測定者が未熟な場合、そのような箇所を短時間で探し出すことが難しく、分析に時間がかかってしまう。
【0007】
ウェル上に形成された試料/マトリックス混合結晶上を、ラスタースキャン機能を用いてレーザ照射することにより、より容易に迅速に、試料/マトリックス混合結晶に含まれる分析対象物質の質量分析を行うことができる。しかしながら、試料/マトリックス混合結晶がウェル上に不均一に形成され、ウェル上の結晶部位のばらつきが大きかったり、あるいは、試料/マトリックス混合結晶が不均一で、混合結晶中の試料の分布(位置)のばらつきが大きかったりすると、照射位置によって生成する分析対象物質のイオン量がばらつきやすく、例えば、照射位置により、分析対象物質の分子量関連イオンが過剰に生成されたり、逆に十分な量の分子量関連イオンが生成されなかったりすることが生じやすくなる。
【0008】
さらに、DNAに比べるとRNAは、報告されているMALDI質量分析に用いられるマトリックスの種類が少なく、また、RNA分析用に報告されている従来のマトリックスでは上記問題が生じやすかった。そのため、RNAの高感度で迅速な分析法が望まれていた。
【0009】
本発明の課題は、MALDI質量分析を用いてRNAを分析する際に、分子量関連イオンを高感度に、容易に迅速に検出できる手法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明に係るRNAの分析方法は、
マトリックスとして、2,4-ジヒドロキシアセトフェノン(DHAP)及び2,4,6-トリヒドロキシアセトフェノン一水和物(THAP)を含む混合マトリックスを用い、試料に含まれるRNAをマトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析装置により分析するものである。
【0011】
また、上記課題を解決するために成された本発明に係るRNAのマトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析用マトリックスは、2,4-ジヒドロキシアセトフェノン(DHAP)及び2,4,6-トリヒドロキシアセトフェノン一水和物(THAP)を含むものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るRNAの分析方法によれば、マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析装置を用いて試料に含まれるRNAを分析する際に、比較的均一な試料/マトリックス混合結晶を作成し、高感度に、容易に迅速に分子量関連イオンを検出することができる。また、本発明に係るRNAのマトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析用マトリックスを用いてRNAを含む試料の分析用試料を調製することにより、マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析を行う際に、比較的均一な試料/マトリックス混合結晶を作成し、高感度に、容易に迅速に分子量関連イオンを検出することができる。したがって、試料中のRNAを良好に分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1における、各種マトリックスを用いた場合のパティシラン(センス鎖)のマススペクトルを示す図、及び分子量関連イオンの検出状況を示す表。
図2】実施例2における、各種マトリックスを用いた場合のパティシラン(センス鎖)のマススペクトルを示す図、及び分子量関連イオンの検出状況を示す表。
図3】実施例3における、各種マトリックスを用いた場合のパティシラン(アンチセンス鎖)のマススペクトルを示す図、及び分子量関連イオンの検出状況を示す表。
図4】実施例4における、各種マトリックスを用いた場合のパティシラン(センス鎖)のマススペクトルを示す図、及び分子量関連イオンの検出状況を示す表。
図5】参考例1における、各種マトリックスを用いた場合のミポメルセンのマススペクトルを示す図、及び分子量関連イオンの検出状況を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るRNAの分析方法の一実施形態について、説明する。
【0015】
(分析対象物質)
本実施形態の分析対象物質であるRNAは、生物から得られる天然物又はそれらの加工物であってもよく、化学的に合成された人工合成核酸であってもよい。また、RNAは、修飾RNA、RNA誘導体、RNA医薬品などのRNA関連物質を含む。RNAの重合度(塩基長)は特に限定されないが、数~数十個程度のヌクレオチドが重合したオリゴヌクレオチドであることが好ましい。本実施形態の分析方法は、特に高分子量のRNAを感度良く分析できる観点から、RNAの分子量としては3000以上、中でも6000以上であることが好ましい。
【0016】
(分析用試料の調製)
分析用試料の調製は、分析対象物質であるRNAを含む試料と、マトリックスとして2,4-ジヒドロキシアセトフェノン(2,4-dihydroxyacetophenone:以下、DHAPと表記する。)及び2,4,6-トリヒドロキシアセトフェノン一水和物(2, 4, 6-trihydroxyacetophenone monohydrate:以下、THAPと表記する。)を混合することにより行う。具体的には、例えば、試料溶液、及びDHAPとTHAPを含む混合マトリックス溶液を作製してこれらを予め混合し、あるいは、試料溶液、DHAPを含むマトリックス溶液、THAPを含むマトリックス溶液を作製してこれらを予め混合して試料/混合マトリックス混合溶液を作製し、該試料/混合マトリックス混合溶液をウェル上に滴下して、これを乾燥させる(この方法をpre-mix法と呼ぶ)。試料溶液、及び混合マトリックス溶液をウェル上に別々に滴下して混合し、これを乾燥させてもよく、試料溶液、DHAPを含むマトリックス溶液、及びTHAPを含むマトリックス溶液をウェル上に別々に滴下して混合し、これを乾燥させてもよい(この方法をon-target法と呼ぶ)。このようにして、分析対象物質とマトリックスの混合結晶である試料/マトリックス混合結晶(本発明の試料/マトリックス混合物に相当)がウェル上に形成される。
【0017】
混合マトリックス(あるいは混合マトリックス溶液中)のDHAPとTHAPの混合比は、混合結晶の均一性が向上する観点、及びRNAを感度よく分析することができる観点から、DHAP:THAPが30:1~10:1が好ましく、30:1~15:1がより好ましい。
【0018】
マトリックスあるいはマトリックス溶液は、さらにマトリックス添加剤としてクエン酸水素二アンモニウムを含んでもよい。クエン酸のアンモニウム塩は、クエン酸イオンと結合するアンモニウムイオンの数に応じていくつかの種類が存在するが、本実施形態で好適に用いられるのは、1つのクエン酸イオンに対して2つのアンモニウムイオンが結合した塩である。マトリックス溶液中のクエン酸水素二アンモニウムの濃度は、RNAの分子量関連イオンを感度よく検出することができる観点から、20~100mMが好ましい。マトリックス溶液の溶媒としては、特に限定されず、一般的にマトリックス溶液の溶媒として用いられている溶媒を用いることができる。例えば、アセトニトリル、メタノ-ル、エタノ-ルなどの有機溶媒を20~80%含む水溶液などを用いることができる。中でも、50~70%のアセトニトリルを含む水溶液を用いることが好ましく、50%のアセトニトリルを含む水溶液を用いることが特に好ましい。マトリックス添加剤は、DHAP又はTHAPを含むマトリックス溶液に添加されてもよく、DHAP及びTHAPを含む混合マトリックス溶液に添加されてもよい。
【0019】
(質量分析)
本実施形態の分析方法では、MALDI法によるイオン源を有する質量分析装置(MALDI-MS)が用いられる。MALDI-MSとしては、例えば、飛行時間型(Time of Flight:TOF)のMALDI-TOFMS及びイオントラップ型(Ion trap:IT)のMALDI-ITMSである。ここでいうイオントラップ型のMALDI-ITMSは、イオンを捕捉するためのイオントラップを有するものであり、イオントラップ自体の質量分離機能を利用して該イオントラップ内に捕捉したイオンを質量電荷比(m/z)の小さい順に排出し、イオントラップの外部に配置した検出器でイオンを検出する質量分析装置のほか、イオントラップから一斉に排出されたイオンを例えば飛行時間型質量分離部などのイオントラップの外部に配置した質量分離部で質量電荷比に応じて分離し、同じくイオントラップの外部に配置した検出器で検出する質量分析装置も含むものとする。
【0020】
MALDI-ITMSのイオントラップとしては、高周波(Radio Frequency:RF)電場を用いてイオンの捕捉や排出を行うRFトラップの場合、正弦波状の高周波電圧をリング電極に印加することで発生する電場を利用してイオンを捕捉するイオントラップでもよく、異なる2つの電圧を高速にスイッチングすることにより生じる矩形波電圧をリング電極に印加することで発生する電場を利用してイオンを捕捉するデジタルイオントラップであってもよい。デジタルイオントラップでは、矩形波電圧の振幅(電圧値)を一定に維持したまま周波数を変化させることにより、捕捉可能なイオンのm/zの範囲が制御される。周波数を低周波側にスキャンすると、トラップされているイオンはm/zの小さい順に排出され、それらを検出器で検出することによりマススペクトルが得られる。質量分析装置としては、デジタルイオントラップ型のMALDI-ITMSを用いるのが好ましい。
【0021】
質量分析装置には、ラスタースキャンによる測定の機能が装備されていてもよい。ラスタースキャンによる測定とは、ウェル上の互いに異なる位置に予め設定した多数の測定点のそれぞれにおいて規定回数のレーザ光照射を行って測定データを取得し、それら全ての測定データを積算することによって最終的な測定データを導出する測定手法である。レーザ照射位置を機械的に移動させるため、積算デ-タでは、レーザ照射位置の違いによる測定結果のばらつきの影響を軽減できる。ラスタースキャンによる測定では、手動で照射位置を動かす必要がないため、容易で迅速な測定が可能となる。また、ラスタースキャンによる測定は、人為的な測定位置の選択操作が介入しない自動測定機能であるため、より客観的で再現性の高いデ-タ取得が可能となる。
【0022】
ラスタースキャンの設定条件は、特に限定されないが、使用する装置のサンプルプレートのウェル径、レーザ径などに応じて、適宜、調整できる。サンプルプレートのウェル上、およびウェル上の試料/マトリックス混合物上を、できるだけレーザ照射位置が重複しないよう、ピーク検出に十分な回数だけレーザ照射するのがよい。ラスタースキャンの設定条件の具体的な設定値としては、例えば、直径2 mmの円状のウェルに対し、1ウェルあたり、25ポイント(ウェル上のレーザ照射位置の数が1ウェルあたり25点であることを示す)、4ショット/ポイント(レーザ照射位置1点あたりのレーザ照射数が4回であることを示す)、スぺ-シング:0.2 mm(レーザ照射位置間の間隔が0.2 mmであることを示す)、サイズ:0.8 mm(上記25点のレーザ照射を行う際、0.8 mmだけ横方向に走査した後、折り返してスキャンすることを示す。すなわち、スクエア型のレーザ照射範囲における横軸の長さを示す)などを設定し、それをもとに自動的に算出される5×5=25ポイントのスクエア範囲を、ラスタースキャンする。
【0023】
以下、本発明に係るRNAの分析方法をいくつかの実施例によって説明するが、これらは単なる例示であって、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0024】
<1.試料溶液の調製>
試料溶液として、パティシラン(研究開発用の合成核酸の脱塩精製後の試料。本来はセンスとアンチセンスからなる2本鎖RNAだが、本実施例で用いたのはセンスのみ。センス: 全長は21塩基長、コア配列は19塩基長、3'末端に2塩基のDNAオーバーハング(dTdT)をもつ、MW 6764)(5’-G-Um-A-A-Cm-Cm-A-A-G-A-G-Um-A-Um-Um-Cm-Cm-A-Um-dT-dT-3’、dTはthymidine deoxyribonucleotide、Cmは 2’-O-methylcytidine、Umは 2’-O-methyluridineを示す。:配列番号1)の20pmol/μL水溶液を作製した。
【0025】
<2.マトリックス溶液の調製>
マトリックス溶液として、70mMのクエン酸水素二アンモニウムをマトリックス添加剤として含む2,4-ジヒドロキシアセトフェノン(DHAP)の40mg/mL50%アセトニトリル水溶液(DHAP溶液)及び70mMのクエン酸水素二アンモニウムをマトリックス添加剤として含む2,4,6-トリヒドロキシアセトフェノン一水和物(THAP)の40mg/mL50%アセトニトリル水溶液(THAP溶液)を作製した。作製したDHAP溶液とTHAP溶液を混合比30:1、20:1、15:1、10:1、5:1、3:1、1:1、1:3、1:5、1:10(v/v)で混合し、各混合マトリックス溶液を作製した。
【0026】
<3.分析用試料の調製>
1.の試料溶液と2.のマトリックス溶液を1:1(v/v)で混合し、得られた混合溶液1μLを、サンプルプレート(SUSプレート)のウェル上に滴下した。滴下後、サンプルプレートを超低湿ドライボックス(商品名:McDry、エクアールシー株式会社製)に入れ、乾燥させた。
【0027】
<4.質量分析>
質量分析には、MALDIデジタルイオントラップ型質量分析装置(MALDI-DITMS、商品名:MALDImini-1、株式会社島津製作所製)を用いた。3.のサンプルプレートをMALDI-DITMSに挿入し、ポジティブモードで、ラスタースキャン機能を用いて測定を行った。ラスタースキャンの設定条件は、4 shots/point、25 pointsとした。レーザパワーは、各マトリックスの最適値を用いた。レーザパワーはマトリックスに依存し、ピーク検出には、DHAPよりもTHAPで、より高いレーザパワーが必要となる。各マトリックスのレーザパワーの最適値は、ピーク検出状況を確認しながら設定した。具体的には、感度及び分解能が比較的高い条件を探した。なお、最もレーザパワーの最適値が低かったのは、混合マトリックスであった。
【0028】
<結果>
マトリックスとしてDHAP、THAP、及びDHAPとTHAPを各混合比で含む混合マトリックス(DHAP+THAP)を用いた場合の、パティシランのセンスのマススペクトル、及び[M+H]のピーク検出状況(感度、分解能、塩基脱離状況、付加体検出状況、ラスタースキャン測定によるピーク検出の均一性)をまとめた表を、図1に示す。なお、混合比1:0はDHAPを単独で用いた場合、混合比0:1はTHAPを単独で用いた場合をそれぞれ示す。
【0029】
塩基脱離状況における塩基脱離は、イオン化の過程で分子量関連イオン([M+H])から塩基が脱離する現象のことであり、各マトリックスの特性により、生じやすさが異なる。例えば、ソフトなイオン化を行うマトリックスは塩基脱離を生じにくく、ハードなイオン化を行うマトリックスは塩基脱離を生じやすい。
【0030】
また、付加体検出状況における付加体は、詳細解析はできていないが、m/z値から推測すると、酸化体([M+O]など)、アルカリ金属イオン付加体([M+Na]、[M+O+Na]、[M+2Na]など)、塩基の付加体([M+B+H]など)、マトリックスイオンの付加体([M+m+H]など)などが考えられる。もともと試料に混在していないが、何らかの夾雑物の影響で生じる付加体は、プリパレーションやイオン化の過程などで生じた可能性があり、各マトリックスの特性により、生じやすさが異なる。マトリックスと、試料やアルカリ金属イオンなどとの親和性が関係することも考えられるが、詳細はわかっていない。
【0031】
塩基脱離や付加体検出を生じやすいと、分析対象物である核酸分子が、分子量関連イオン([M+H])だけでなく複数のイオン種としてイオン化され、複数種のピークに分散して検出されるため、結果的に、分子量関連イオンの感度低下を引き起こす。さらに、複数種のイオンピークが検出されることから、データ解析が複雑になる。よって、より塩基脱離、及び付加体ピークの検出が抑制されるマトリックスが望まれる。
【0032】
図1のマススペクトルは、ラスタースキャンによる測定において最終的に得られるマススペクトル(各測定点でのマススペクトルデータを全て積算することにより得られるマススペクトル)である。表中の感度、分解能、塩基脱離状況、及び付加体検出状況は、図1のマススペクトルデータに基づくものである。
【0033】
本実施例において、塩基脱離状況は、[M+H]ピークのS/N値に対する塩基脱離により生じた代表的な塩基脱離イオンピークのS/N値の比率(%)により評価した(表中の括弧内に具体的な各S/N値を示す。)。また、付加体検出状況は、[M+H]ピークのS/N値に対する代表的な付加体ピークのS/N値の比率(%)により評価した(表中の括弧内に具体的な各S/N値を示す。)。
【0034】
ラスタースキャンによるピーク検出の均一性は、S/N>2の感度で[M+H]ピークが検出された測定点の数、S/N>5の感度で[M+H]ピークが検出された測定点の数、及びS/N>10の感度で[M+H]ピークが検出された測定点の数のそれぞれについてのラスタースキャン時の測定点の総数(本実施例では25個)に対する割合(%)により評価した(表中の括弧内に具体的な測定点の数を示す。)。
【0035】
図1より、特に混合比30:1~10:1でDHAPとTHAPを混合した混合マトリックス(DHAP+THAP)を用いた場合に、RNAの分子量関連イオン[M+H]が高感度に検出された。また、DHAPを単独で用いた場合、例えばS/N>10の感度で[M+H]が検出された測定点はラスタースキャンによる測定を行った測定点のうちの6割程度であり(図1(a))、THAPを単独で用いた場合、S/N>10の感度で[M+H]が検出された測定点はラスタースキャンによる測定を行った測定点のうちの2割程度であったが(図1(l))、混合マトリックス(DHAP+THAP、混合比30:1~10:1)を用いた場合は、ラスタースキャンによる測定の9割以上の測定点においてS/N>10の感度で[M+H]のピークが検出された(図1(b)~(e))。分解能は全てのマトリックスにおいて同程度であり、塩基脱離状況、及び付加体ピークの検出状況は、全てのマトリックスにおいて同程度に抑制されていた。
【0036】
以上より、混合マトリックス(DHAP+THAP、混合比30:1~10:1)を用いた場合、DHAP又はTHAPを単独で用いる従来法に比べてRNAの分子量関連イオンの検出感度が向上し、ラスタースキャンによる測定における均一性が向上することが確認された。
【実施例0037】
<2.マトリックス溶液の調製>において、DHAP溶液とTHAP溶液を混合比100:1、50:1、30:1、20:1、15:1、10:1、5:1、1:1(v/v)で混合し、各混合マトリックス溶液を作製した以外は、実施例1と同様の方法によりRNA(パティシランのセンス)の質量分析を行った。
【0038】
<結果>
マトリックスとしてDHAP、THAP、及びDHAPとTHAPを各混合比で含む混合マトリックス(DHAP+THAP)を用いた場合の、パティシランのセンスのマススペクトル、及び[M+H]のピーク検出状況(感度、分解能、塩基脱離状況、付加体検出状況、ラスタースキャン測定によるピーク検出の均一性)をまとめた表を、図2に示す。なお、実施例2は実施例1とは別の日に測定を行った。
【0039】
図2においても、混合マトリックス(DHAP+THAP、混合比30:1~10:1)を用いた場合に、DHAP及びTHAPに比べて感度及び均一性が向上することが確認された。
【実施例0040】
<1.試料溶液の調製>及び<2.マトリックス溶液の調製>以外は、実施例1と同様の方法によりRNA(パティシランのアンチセンス)の質量分析を行った。
【0041】
<1.試料溶液の調製>
試料溶液として、パティシラン(研究開発用の合成核酸の脱塩精製後の試料。本来はセンスとアンチセンスからなる2本鎖RNAだが、本実施例で用いたのはアンチセンスのみ。アンチセンス: 全長は21塩基長、コア配列は19塩基長、3'末端に2塩基のDNAオーバーハング(dTdT)をもつ、MW 6660)(5’-A-U-G-G-A-A-Um-A-C-U-C-U-U-G-G-U-Um-A-C-dT-dT-3’ 、dTはthymidine deoxyribonucleotide、Umは 2’-O-methyluridineを示す。:配列番号2)の20pmol/μL水溶液を作製した。
【0042】
<2.マトリックス溶液の調製>
マトリックス溶液として、実施例1と同様にDHAP溶液及びTHAP溶液を作製した。作製したDHAP溶液とTHAP溶液を混合比30:1、20:1(v/v)で混合し、各混合マトリックス溶液を作製した。また、マトリックス溶液として、70mMのクエン酸水素二アンモニウムをマトリックス添加剤として含む3-ヒドロキシピコリン酸(3-HPA)の40mg/mL50%アセトニトリル水溶液(3-HPA溶液)を作製した。
【0043】
<結果>
マトリックスとして、DHAP、THAP、DHAPとTHAPを各混合比で含む混合マトリックス(DHAP+THAP)、及び3-HPAを用いた場合の、パティシランのアンチセンスのマススペクトル、及び[M+H]のピーク検出状況(感度、分解能、塩基脱離状況、付加体検出状況、ラスタースキャン測定によるピーク検出の均一性)をまとめた表を、図3に示す。
【0044】
図3より、混合マトリックス(DHAP+THAP、混合比30:1、20:1)を用いた場合に、DHAP、THAP、及び3-HPAを単独で用いる従来法に比べて[M+H]が高感度に検出された。また、該混合マトリックスを用いた場合には、ラスタースキャンによる測定の9割以上の測定点においてS/N>10の感度で[M+H]のピークが検出された。さらに、該混合マトリックスを用いた場合、塩基の脱離、付加体ピークの検出が比較的低く抑えられ、分解能はDHAP、THAP、3-HPAのマトリックスと同程度に高かった。
【0045】
以上より、混合マトリックス(DHAP+THAP、混合比30:1、20:1)を用いた場合、実施例1で測定したRNAであるパティシランのセンスに加え、アンチセンスに対しても、高感度に、均一性高く、十分な分解能、塩基脱離状況、及び付加体検出状況で[M+H]を検出することができることが確認された。
【実施例0046】
<2.マトリックス溶液の調製>以外は、実施例1と同様の方法によりRNA(パティシランのセンス)の質量分析を行った。
【0047】
<2.マトリックス溶液の調製>
マトリックス溶液として、実施例1と同様の方法によりDHAP溶液及びTHAP溶液を作製した。作製したDHAP溶液とTHAP溶液を混合比30:1、20:1(v/v)で混合し、各混合マトリックス溶液を作製した。また、実施例3と同様の方法により3-HPA溶液を作製し、作製した3-HPA溶液とTHAP溶液を混合比1:1、1:3(v/v)で混合し、各混合マトリックス溶液を作製した。
【0048】
<結果>
マトリックスとして、DHAP、DHAPとTHAPを各混合比で含む混合マトリックス(DHAP+THAP)、3-HPAとTHAPを各混合比で含む混合マトリックス(3-HPA+THAP)を用いた場合の、パティシランのセンスのマススペクトル、および[M+H]のピーク検出状況(感度、分解能、塩基脱離状況、付加体検出状況、ラスタースキャン測定によるピーク検出の均一性)をまとめた表を、図4に示す。
【0049】
図4より、DHAP+THAPと3-HPA+THAPを比較した結果、DHAP+THAPを用いた場合に、より高感度に、均一性高く、[M+H]が検出された。分解能、塩基脱離状況、及び付加体検出状況は、どちらも同程度だった。以上より、DHAPとTHAPの組み合わせが、RNA分析における感度向上、均一性向上に特に有効であることが確認された。
【参考例1】
【0050】
<1.試料溶液の調製>及び<2.マトリックス溶液の調製>以外は、実施例1と同様の方法によりDNAの質量分析を行った。
【0051】
<1.試料溶液の調製>
試料溶液として、ミポメルセン(研究開発用の合成核酸の脱塩精製後の試料。DNA:全長は20塩基長、MW 7177)(5’-MG-MC-MC-MU-MC-dA-dG-dT-dC-dT-dG-dC-dT-dT-dC-MG-MC-MA-MC-MC-3’、Mは2'-O-(2-methoxyethyl)nucleoside、dは 2’-deoxynucleosideを示す。cytosineとuracilの5位の炭素はメチル基に置換され、全てのヌクレオチド間のホスホジエステル結合はホスホロチオエート結合に置換されている。:配列番号3)の20pmol/μL水溶液を作製した。
【0052】
<2.マトリックス溶液の調製>
マトリックス溶液として、実施例1と同様の方法によりDHAP溶液及びTHAP溶液を作製した。作製したDHAP溶液とTHAP溶液を混合比50:1、30:1、20:1、10:1、5:1、1:1、1:5、1:10、1:30(v/v)で混合し、各混合マトリックス溶液を作製した。
【0053】
<結果>
マトリックスとして、DHAP、THAP、DHAPとTHAPを各混合比で含む混合マトリックス(DHAP+THAP)を用いた場合の、ミポメルセンのマススペクトル、及び[M+H]のピーク検出状況(感度、分解能、塩基脱離状況、付加体検出状況、ラスタースキャン測定によるピーク検出の均一性)をまとめた表を、図5に示す。
【0054】
図5より、DNAであるミポメルセンに対しては、混合マトリックス(DHAP+THAP)による感度向上及び均一性向上の効果が確認されなかった。以上より、DHAP+THAPは、特にRNA分析において有効なマトリックスであることが分かった。
【0055】
[態様]
上述した例示的な実施形態が以下の態様の具体例であることは、当業者には明らかである。
【0056】
(第1項)本発明の一態様に係るRNAの分析方法は、
マトリックスとして、2,4-ジヒドロキシアセトフェノン(DHAP)及び2,4,6-トリヒドロキシアセトフェノン一水和物(THAP)を含む混合マトリックスを用い、試料に含まれるRNAをマトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析装置により分析するものである。
【0057】
2,4-ジヒドロキシアセトフェノン及び2,4,6-トリヒドロキシアセトフェノン一水和物を含む混合マトリックスを用いることにより、分析用試料として形成されるRNAを含む試料とマトリックスからなる試料/混合マトリックス混合結晶の均一性、および混合結晶中のRNA試料の分布の均一性が向上する。このため、マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析装置を用いて試料に含まれるRNAを分析する際に、レーザ照射位置によらず適切な量の分析対象試料の分子量関連イオンを生成することができ、比較的均一に、そのため容易に迅速に、RNAを良好に分析することができる。加えて、RNAの分子量関連イオンを比較的感度高く検出できる。さらに、塩基脱離や付加体ピークの検出を抑制しながら、十分な分解能で、分子量関連イオンを検出できる。
【0058】
(第2項)第1項に記載のRNAの分析方法において、
前記混合マトリックスのDHAPとTHAPの混合比が30:1~10:1であってもよい。
【0059】
これにより、より感度良くRNAを分析することができる。さらに、より均一に適切な量のRNA試料の分子量関連イオンを生成することができる。そのため、容易に迅速にRNAを良好に分析することができる。
【0060】
(第3項)第1項に記載のRNAの分析方法において、
前記混合マトリックスのマトリックス添加剤としてクエン酸水素二アンモニウムを用い、前記試料に含まれるRNAを分析するものであってもよい。
【0061】
クエン酸水素二アンモニウムは、特に高質量分子の感度向上に寄与する。これにより、より感度良くRNAを分析することができる。
【0062】
(第4項)第1項~第3項に記載のRNAの分析方法において、
RNAを含む試料溶液、DHAPを含むマトリックス溶液、及びTHAPを含むマトリックス溶液を混合して試料/混合マトリックス混合溶液を作製し、あるいは、RNAを含む試料溶液と、DHAP及びTHAPを含む混合マトリックス溶液とを混合して試料/混合マトリックス混合溶液を作製し、該試料/混合マトリックス混合溶液をサンプルプレ-ト上に滴下して作製された前記試料/混合マトリックス混合物を前記マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析装置により測定するものであってもよい。
【0063】
RNAを含む試料溶液、DHAPを含むマトリックス溶液、及びTHAPを含むマトリックス溶液を予め混合して試料/混合マトリックス混合溶液を作製し、あるいは、RNAを含む試料溶液と、DHAP及びTHAPを含む混合マトリックス溶液とを予め混合して試料/混合マトリックス混合溶液を作製することで、サンプルプレ-ト上に分析用試料として形成されるRNAを含む試料と混合マトリックスの混合結晶(試料/混合マトリックス混合物)の均一性、および混合結晶中のRNA試料の分布の均一性が、より向上する。このため、マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析装置を用いて試料に含まれるRNAを分析する際に、レーザ照射位置によらず適切な量のRNA試料の分子量関連イオンを生成することができ、比較的均一に、そのため容易に迅速に、さらに感度高く、RNAを良好に分析することができる。
【0064】
(第5項)第1項~第3項に記載のRNAの分析方法において、
RNAを含む試料溶液と、DHAP及びTHAPを含む混合マトリックス溶液とを混合して作製した試料/混合マトリックス混合物を前記マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析装置により測定することで、前記試料に含まれるRNAを分析するものであってもよい。
【0065】
試料溶液と混合マトリックス溶液を調整してから試料/混合マトリックス混合物を作製することで、混合マトリックス中のマトリックス、および混合マトリックスとRNAがいずれも均一に混合されやすくなり、試料/混合マトリックス混合物が形成される均一性、および該混合物中のRNA試料の分布の均一性が、より向上する。これにより、比較的均一に、そのため容易に迅速に、さらに感度高く、RNA分子が検出できる。
【0066】
(第6項)第1項~第3項に記載のRNAの分析方法において、
RNAを含む試料溶液、DHAP及びTHAPのいずれか一方を含むマトリックス溶液、DHAP及びTHAPの他方を含むマトリックス溶液を作製し、これらの試料溶液および各マトリックス溶液から作製した試料/混合マトリックス混合物を前記マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析装置により測定することで、前記試料に含まれるRNAを分析するものであってもよい。
【0067】
試料溶液とマトリックス溶液を調整してから試料/混合マトリックス混合物を作製することで、混合マトリックス中のマトリックス、および混合マトリックスとRNAがいずれも均一に混合されやすくなり、試料/混合マトリックス混合物の均一性、および該混合物中のRNA試料の分布の均一性が、より向上する。これにより、比較的均一に、そのため容易に迅速に、さらに感度高く、RNA分子が検出できる。
【0068】
(第7項)第1項~第3項に記載のRNAの分析方法において、
前記マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析装置がデジタルイオントラップ型であってもよい。
【0069】
デジタルイオントラップ型の質量分析装置では、飛行時間型に比べ、フラグメンテーションが生じやすく、また、感度や分解能がイオン量の影響を受けやすい。これにより、本発明の効果が得られやすく、より効果的にRNAを分析することができる。
【0070】
(第8項)本発明の一態様に係るRNAのマトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析用マトリックスは、
2,4-ジヒドロキシアセトフェノン(DHAP)及び2,4,6-トリヒドロキシアセトフェノン一水和物(THAP)を含むものである。
【0071】
これにより、マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析装置を用いて試料に含まれるRNAを分析する際に、比較的均一に適切な量の分子量関連イオンを生成し、より感度高く検出することができ、RNAを良好に分析することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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