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特開2024-64270超音波トランスデューサおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064270
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】超音波トランスデューサおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H04R 17/00 20060101AFI20240507BHJP
   H04R 31/00 20060101ALI20240507BHJP
   H10N 30/20 20230101ALI20240507BHJP
   H10N 30/30 20230101ALI20240507BHJP
   H10N 30/87 20230101ALI20240507BHJP
   H10N 30/06 20230101ALI20240507BHJP
【FI】
H04R17/00 330K
H04R17/00 330H
H04R31/00 330
H10N30/20
H10N30/30
H10N30/87
H10N30/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172734
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】河野 満治
【テーマコード(参考)】
5D019
【Fターム(参考)】
5D019AA08
5D019BB19
5D019BB25
5D019HH01
(57)【要約】
【課題】共振周波数の調整を容易にすること。
【解決手段】超音波トランスデューサは、上面側から下層に向けて空隙13が設けられた基板10と、前記基板および前記空隙を覆うように設けられた下部電極12と、前記下部電極を覆うように設けられた圧電層14と、平面視における前記空隙の中央領域である第1領域51の前記圧電層を覆うように設けられ平面視における前記空隙の周縁領域である第2領域52の前記圧電層上に設けられていない上部電極16と、前記上部電極および前記第2領域における前記圧電層を覆うように設けられた保護膜と、を備える素子が複数設けられ、前記複数の素子は、前記第1領域の前記保護膜の厚さが前記第2領域の前記保護膜の厚さより薄い第1素子と、前記第2領域の前記保護膜の厚さが前記第1領域の前記保護膜の厚さより薄い第2素子と、を含む。
【選択図】図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面側から下層に向けて空隙が設けられた基板と、
前記基板および前記空隙を覆うように設けられた下部電極と、
前記下部電極を覆うように設けられた圧電層と、
平面視における前記空隙の中央領域である第1領域の前記圧電層を覆うように設けられ平面視における前記空隙の周縁領域である第2領域の前記圧電層上に設けられていない上部電極と、
前記上部電極および前記第2領域における前記圧電層を覆うように設けられた保護膜と、
を備える素子が複数設けられ、
前記複数の素子は、
前記第1領域の前記保護膜の厚さが前記第2領域の前記保護膜の厚さより薄い第1素子と、
前記第2領域の前記保護膜の厚さが前記第1領域の前記保護膜の厚さより薄い第2素子と、
を含む超音波トランスデューサ。
【請求項2】
前記第1素子の前記第2領域の前記保護膜の厚さと前記第2素子の前記第1領域における前記保護膜の厚さとは実質的に同じである請求項1に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項3】
前記複数の素子のうち、平面視における前記基板の中心に対し点対称の位置に配置された2つの素子の前記第1領域における前記保護膜の厚さは実質的に同じである請求項1または2に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項4】
上面側から下層に向けて空隙が設けられた基板と、
前記基板および前記空隙を覆うように設けられた下部電極と、
前記下部電極を覆うように設けられた圧電層と、
平面視における前記空隙の中央領域である第1領域の前記圧電層を覆うように設けられ平面視における前記空隙の周縁領域である第2領域の前記圧電層上に設けられていない上部電極と、
前記上部電極および前記第2領域における前記圧電層を覆うように設けられた保護膜と、
を備える素子が複数設けられ、
前記複数の素子は、
前記第1領域の前記保護膜は、厚膜部と前記厚膜部より薄い薄膜部とを有し、前記第2領域の前記保護膜の厚さは、前記厚膜部の厚さと実質的に同じである第1素子と、
前記第1領域の前記保護膜の厚さは、前記厚膜部の厚さと実質的に同じであり、前記第2領域の前記保護膜は、前記厚膜部の厚さと実質的に同じ厚さを有する部分と前記薄膜部の厚さと実質的に同じ厚さを有する部分とを有する第2素子と、
を含む超音波トランスデューサ。
【請求項5】
上面側から下層に向けて空隙が設けられた基板と、前記基板および前記空隙を覆うように設けられた下部電極と、前記下部電極を覆うように設けられた圧電層と、平面視における前記空隙の中央領域である第1領域の前記圧電層を覆うように設けられ平面視における前記空隙の周縁領域である第2領域の前記圧電層上に設けられていない上部電極と、前記上部電極および前記第2領域における前記圧電層を覆うように設けられた保護膜と、を備える素子を用意し、
前記上部電極と前記下部電極との間に交流信号を印加して共振周波数を測定し、
前記共振周波数が第1値より低いとき、前記第1領域の前記保護膜の一部を除去し、
前記共振周波数が第1値より高いとき、前記第2領域に設けられた前記保護膜の一部を除去する超音波トランスデューサの製造方法。
【請求項6】
前記保護膜の一部の除去は、前記保護膜に局所的にエネルギーを照射することより行う請求項5に記載の超音波トランスデューサの製造方法。
【請求項7】
前記局所的にエネルギーは、レーザ光である請求項6に記載の超音波トランスデューサの製造方法。
【請求項8】
前記エネルギーの照射により前記保護膜の一部が除去された部分の底面に薄膜が残存する請求項6に記載の超音波トランスデューサの製造方法。
【請求項9】
前記薄膜は、前記保護膜が熱によって改質された膜を含む請求項8に記載の超音波トランスデューサの製造方法。
【請求項10】
平面視で中央部に設けられ、前記中央部の上層側から下層に渡り空隙部が設けられた基板と、前記空隙部の上側を覆う下層電極と、平面視における前記空隙部に対応する前記下層電極を覆う圧電層と、平面視における前記空隙部の周辺に設けられず、前記空隙部の中央部を覆う上層電極と、平面視において前記上層電極および前記上層電極の前記周辺の前記圧電層を覆う保護膜と、を備え、
前記上層電極に対応する保護膜、または前記上層電極の前記周辺に対応する保護膜の一部は、再溶融または非晶質化され、前記保護膜の他の部分より薄い薄膜部を形成するpMUT素子を有する超音波トランスデューサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波トランスデューサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
測距センサや指紋センサ等に圧電体を用いた圧電型マイクロマシン超音波トランスデューサ(pMUT:Piezoelectric Micromachined Ultrasonic Transducer)が知られている。複数のpMUT素子をアレイ状に配置した超音波トランスデューサが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-51685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数のpMUTを用いる超音波トランスデューサでは、複数のpMUTの共振周波数を調整することがある。例えば、複数のpMUTの共振周波数がほぼ同じとなるように、共振周波数を調整する。圧電層を含む振動領域の積層膜の一部を除去することにより、共振周波数を低くすることができる。共振周波数を低くするだけでは、共振周波数を調整しきれない場合がある。特許文献1のように、共振周波数を高くするために、振動領域の積層膜に付加膜を形成することが考えられる。しかし、積層膜の一部の除去と、付加膜の形成と、を行うと、製造工程が複雑化する。また、共振周波数を調整する工程において、積層膜の一部を除去する場合、振動に起因する積層膜の劣化が発生する。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、共振周波数の調整を容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上面側から下層に向けて空隙が設けられた基板と、前記基板および前記空隙を覆うように設けられた下部電極と、前記下部電極を覆うように設けられた圧電層と、平面視における前記空隙の中央領域である第1領域の前記圧電層を覆うように設けられ平面視における前記空隙の周縁領域である第2領域の前記圧電層上に設けられていない上部電極と、前記上部電極および前記第2領域における前記圧電層を覆うように設けられた保護膜と、を備える素子が複数設けられ、前記複数の素子は、前記第1領域の前記保護膜の厚さが前記第2領域の前記保護膜の厚さより薄い第1素子と、前記第2領域の前記保護膜の厚さが前記第1領域の前記保護膜の厚さより薄い第2素子と、を含む超音波トランスデューサである。
【0007】
上記構成において、前記第1素子の前記第2領域の前記保護膜の厚さと前記第2素子の前記第1領域における前記保護膜の厚さとは実質的に同じである構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記複数の素子のうち、平面視における前記基板の中心に対し点対称の位置に配置された2つの素子の前記第1領域における前記保護膜の厚さは実質的に同じである構成とすることができる。
【0009】
本発明は、上面側から下層に向けて空隙が設けられた基板と、前記基板および前記空隙を覆うように設けられた下部電極と、前記下部電極を覆うように設けられた圧電層と、平面視における前記空隙の中央領域である第1領域の前記圧電層を覆うように設けられ平面視における前記空隙の周縁領域である第2領域の前記圧電層上に設けられていない上部電極と、前記上部電極および前記第2領域における前記圧電層を覆うように設けられた保護膜と、を備える素子が複数設けられ、前記複数の素子は、前記第1領域の前記保護膜は、厚膜部と前記厚膜部より薄い薄膜部とを有し、前記第2領域の前記保護膜の厚さは、前記厚膜部の厚さと実質的に同じである第1素子と、前記第1領域の前記保護膜の厚さは、前記厚膜部の厚さと実質的に同じであり、前記第2領域の前記保護膜は、前記厚膜部の厚さと実質的に同じ厚さを有する部分と前記薄膜部の厚さと実質的に同じ厚さを有する部分とを有する第2素子と、を含む超音波トランスデューサである。
【0010】
本発明は、上面側から下層に向けて空隙が設けられた基板と、前記基板および前記空隙を覆うように設けられた下部電極と、前記下部電極を覆うように設けられた圧電層と、平面視における前記空隙の中央領域である第1領域の前記圧電層を覆うように設けられ平面視における前記空隙の周縁領域である第2領域の前記圧電層上に設けられていない上部電極と、前記上部電極および前記第2領域における前記圧電層を覆うように設けられた保護膜と、を備える素子を用意し、前記上部電極と前記下部電極との間に交流信号を印加して共振周波数を測定し、前記共振周波数が第1値より低いとき、前記第1領域の前記保護膜の一部を除去し、前記共振周波数が第1値より高いとき、前記第2領域に設けられた前記保護膜の一部を除去する超音波トランスデューサの製造方法である。
【0011】
上記構成において、前記保護膜の一部の除去は、前記保護膜に局所的にエネルギーを照射することより行う構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記局所的にエネルギーは、レーザ光である構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記エネルギーの照射により前記保護膜の一部が除去された部分の底面に薄膜が残存する構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記薄膜は、前記保護膜が熱によって改質された膜を含む構成とすることができる。
【0015】
本発明は、平面視で中央部に設けられ、前記中央部の上層側から下層に渡り空隙部が設けられた基板と、前記空隙部の上側を覆う下層電極と、平面視における前記空隙部に対応する前記下層電極を覆う圧電層と、平面視における前記空隙部の周辺に設けられず、前記空隙部の中央部を覆う上層電極と、平面視において前記上層電極および前記上層電極の前記周辺の前記圧電層を覆う保護膜と、を備え、前記上層電極に対応する保護膜、または前記上層電極の前記周辺に対応する保護膜の一部は、再溶融または非晶質化され、前記保護膜の他の部分より薄い薄膜部を形成するpMUT素子を有する超音波トランスデューサである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、共振周波数の調整を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1(a)は、超音波トランスデューサ内のpMUT素子を示す平面図、図1(b)は、図1(a)のA-A断面図である。
図2図2(a)および図2(b)は、pMUT素子の動作を示す断面図である。
図3図3(a)は、シミュレーション1における厚さT2に対する共振周波数を示す図、図3(b)は、厚さT2に対する結合係数を示す図である。
図4図4(a)は、シミュレーション1における厚さT1に対する共振周波数を示す図、図4(b)は、厚さT1に対する結合係数を示す図である。
図5図5は、実施例1におけるpMUTの平面図である。
図6図6(a)および図6(b)は、図5のA-A断面図である。
図7図7(a)から図7(d)は、実施例1におけるpMUTの製造方法を示す断面図である。
図8図8(a)から図8(d)は、実施例1におけるpMUTの製造方法を示す断面図である。
図9図9は、実施例1における共振周波数の調整方法を示すフローチャートである。
図10図10は、実施例2に係るpMUTの平面図である。
図11図11は、実施例2に係るpMUTの平面図である。
図12図12(a)および図12(b)は、2つのpMUT素子の周波数に対するインピーダンスを示す図、図12(c)は、トランスデューサAおよびBにおける距離に対する音圧を示す図である。
図13図13は、実施例2におけるpMUTの保護膜の厚さを示す平面図である。
図14図14(a)は、実施例3におけるpMUT素子20cの平面図、図14(b)は、図14(a)のA-A断面図である。
図15図15(a)は、実施例3におけるpMUT素子20dの平面図である。図15(b)は、図15(a)のA-A断面図である。
図16図16(a)は、実施例3におけるpMUT素子20eの平面図である。図16(b)は、図16(a)のA-A断面図である。
図17図17(a)は、実施例3におけるpMUT素子20fの平面図である。図17(b)は、図17(a)のA-A断面図である。
図18図18は、実施例3に係るpMUTの製造方法を示す断面図である。
図19図19は、実施例3に係るpMUTの製造方法を示す断面図である。
図20図20(a)から図20(d)は、シミュレーション2におけるpMUT素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照し実施例について説明する
【実施例0019】
まず、pMUT素子について説明する。図1(a)は、超音波トランスデューサ内のpMUT素子を示す平面図、図1(b)は、図1(a)のA-A断面図である。図1(a)では、空隙13を破線で示し、領域51と52とをクロスハッチングで示している。各層の積層方向をZ方向、基板10の平面視における辺の延伸方向をX方向およびY方向とする。なお、1つのチップ内にpMUT素子が複数個で設けられたものを超音波トランスデューサと定義する。
【0020】
pMUT素子20では、基板10の中央部に、空隙13が設けられている。この空隙13は、キャビティまたは空隙部とも呼ぶ。基板10の平面形状は例えば矩形である。なお、空隙13は、基板10を貫通している。空隙13は、基板10を貫通しなくてもよい。この場合、空隙13は、基板10の上面から下に向かって、基板10の厚みよりも浅く設けられていればよい。両者ともに、空隙13は、基板10の上面(または上層)側から下層に向けて(または渡り)形成されている。なお、空隙13の周囲は、基板10からなるリング状の支持層である。
【0021】
基板10および空隙13上に、両者を覆って活性層11が設けられている。この活性層11とは、本来、能動領域であるが、ここでは、基板10の上に設けられたSiから成る層であり、平面的には、圧電層14が設けられた全域に設けられている。下部電極12(下層電極)が活性層11の上面の全面を覆うように設けられている。下部電極12は、少なくとも空隙13を覆うように設けられていればよい。圧電層14は、下部電極12の上面の全面を覆うように設けられている。上部電極16(上層電極)は、平面視における空隙13の周縁領域(図1(a)の領域52)または周辺の圧電層14上に設けられておらず、平面視における空隙13の中央領域(図1(a)の領域51)または中央部の圧電層14を覆うように設けられている。空隙13上において、下部電極12と上部電極16で圧電層14を挟んで設けられている。また、パシベーション膜として、一般には、平面視における基板10の全域に保護膜18が設けられる。あるいは少なくとも上部電極16および上部電極16の周囲において上部電極16から露出した圧電層14を覆うように保護膜18が設けられている。
【0022】
平面視において、空隙13と重なる領域は振動領域50であり、振動領域50における活性層11、下部電極12、圧電層14、上部電極16および保護膜18は、たわみ振動する積層膜15と呼ぶ。なお、活性層11が省略される場合もある。ここで、振動領域50のうち、平面視において空隙13、活性層11、下部電極12、圧電層14および上部電極16が重なる領域を領域51または第1領域と呼ぶ。簡単には、平面視で、上部電極16の形成領域が領域51である。振動領域50のうち、平面視において、領域51と空隙13の外周部(符号13が指す点線部)の間を領域52または第2領域と呼ぶ。つまり振動領域50は、中央の領域51と、この領域51をリング状に囲む領域52からなる。平面視において、空隙13と重ならない領域、または、空隙13の外側の領域は、支持層である基板10から保護膜18まで積層されており、振動現象を抑えている部分であり、ここではアンカー領域54と呼ぶ。アンカー領域54は、振動する積層膜15を固定する部分であり、ほとんど振動しない領域である。領域51における保護膜18の厚さはT1であり、領域52における保護膜18の厚さはT2である。
【0023】
以下に、具体的に、各構成の材料などを説明する。
まず、基板10は、シリコン基板またはSOI(Silicon on insulator)基板(すなわちシリコン基板上にシリコン酸化膜を介してSi層が形成された基板)等である。活性層11は、前記Si層であり、多結晶シリコン層等である。活性層11の厚さは例えば1μm~10μmである。活性層11の上面にシリコン酸化膜等の絶縁層を設けてもよいし、設けなくてもよい。下部電極12および上部電極16は、例えばルテニウム、モリブデン、金、チタン、白金、アルミニウム、銅もしくはクロム等の金属膜から選択された膜、またはこれらの中から複数の膜が選択された積層膜である。また下部電極12と上部電極16とは互いに同じ材料からなる金属膜もよいし、互いに異なる材料からなる金属膜でもよい。下部電極12および上部電極16の厚さは例えば10nm~500nmである。
【0024】
圧電層14の材料は、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、BTO(チタン酸バリウム)、AlN(窒化アルミニウム)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、LiNbO(ニオブ酸リチウム)、LiTaO(タンタル酸リチウム)、ZnO(酸化亜鉛)またはKNN(ニオブ酸カリウムナトリウム)である。圧電層14の厚さは、例えば1μm~10μmである。保護膜18の材料は、例えば酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム等の無機絶縁体である。または保護膜18の材料は、絶縁性の樹脂でもよいし、ガラスでもよい。保護膜18は、圧電層14および上部電極16の表面を被覆し、圧電層14および上部電極16を保護する膜である。保護膜18の厚さT1およびT2は、例えば10nm~1μmである。
【0025】
振動領域50および領域51の平面形状は円形状である。振動領域50の中心56と領域51の中心は一致している。振動領域50の直径は、例えば200μm~2000μm、領域51の直径は、振動領域50よりも小さく、例えば100μm~1500μmである。振動領域50および領域51の平面形状および面積は適宜設定できる。例えば平面形状は、四角形または4角以上の多角形である。
【0026】
pMUT素子における動作を説明する。図2(a)および図2(b)は、pMUT素子の動作を示す断面図である。なお、保護膜18は、省略している。
【0027】
超音波を送信する場合を例に説明する。
図2(a)および図2(b)に示すように、下部電極12と上部電極16との間には、交流電圧を加える制御部30が設けられている。下部電極12と上部電極16との間にこの交流電圧が印加されると、図2(a)と図2(b)に示す矢印のように、活性層11および圧電層14の伸縮および膨張により、上方向33aおよび下方向33bのように振動領域50は上下振動を繰り返す。
【0028】
図2(a)のように、下部電極12および上部電極16に例えばそれぞれ正および負の電圧が加わる。逆圧電効果により、圧電層14内の面方向に圧電層14が伸びるような歪み31aが生じる。活性層11に加わる応力32aは縮む方向の応力となる。これにより、振動領域50は上方向33a(+Z方向)に反る。
【0029】
図2(b)のように、下部電極12および上部電極16に例えばそれぞれ負および正の電圧が加わる。逆圧電効果により、圧電層14内の面方向に圧電層14が縮むような歪み31bが生じる。活性層11に加わる応力32bは伸びる方向の応力となる。これにより、振動領域50は下方向33b(-Z方向)に反る。
【0030】
交流電圧により、図2(a)と図2(b)との状態が繰り返されることにより、振動領域50が上方向33aと下方向33bを交互に繰り返すように振動する。これにより、振動領域50から超音波が放射される。超音波を受信する場合には、外部から振動領域50に超音波を受けると、振動領域50が上方向33aおよび下方向33bに振動する。これにより、振動領域50の活性層11に応力32aおよび32bが加わる。これにより、圧電層14に歪み31aおよび31bが生じる。圧電効果により、下部電極12と上部電極16との間に交流電圧が生成される。この交流電圧(交流信号)を測定することで、超音波を受信できる。
【0031】
[シミュレーション1]
続いて、領域51、52の保護膜に着目して、以下のシミュレーションを試みた。
領域51および領域52における保護膜18の厚さT1およびT2を変え、振動領域50の共振周波数および電気機械結合係数を、有限要素法を用いシミュレーションした。シミュレーション条件は以下である。
基板10:厚さが300μmのシリコン層
活性層11:厚さが3μmの単結晶シリコン層
下部電極12:厚さが0.2μmのクロム層
圧電層14:厚さが1μmの窒化アルミニウム層
上部電極16:厚さが0.2μmのクロム層
保護膜18:厚さがT1およびT2の酸化シリコン層
振動領域50の平面形状:直径D2が1000μmの円形
領域51の平面形状:直径D1が700μmの円形
基板10の平面形状:1辺の長さが2000μmの正方形
領域52の幅は、(1000μm-700μm)/2であり、150μmである。
【0032】
領域51における保護膜18の厚さT1を10nm、100nmおよび1000nmの3タイプとした。領域52における保護膜18の厚さT2を、同様に10nm、100nmおよび1000nmの3タイプした。
【0033】
図3(a)は、シミュレーション1の結果を示し、領域52の保護膜の厚さT2を横軸に示し、縦軸に共振周波数を示す図である。領域51における保護膜18の厚さT1を上記3タイプにおいてシミュレーションした。図3(b)は、領域52の保護膜の厚さT2を横軸に示し、縦軸に結合係数を示す図である。図4(a)は、振動部分である領域51の厚さT1を横軸に示し、縦軸に共振周波数を示す図である。図4(b)は、厚さT1を横軸に示し、縦軸に結合係数を示す図である。結合係数は電気機械結合係数である。
【0034】
図3(a)に示すように、領域51の保護膜18の厚さT1を厚くすると、共振周波数は低くなる。また、領域51の保護膜18を薄くすると共振周波数は高くなる。一方、図4(a)では、領域52の保護膜18の厚さT2を厚くすると共振周波数は高くなる。逆に、領域52の保護膜18を薄くすると共振周波数は低くなる。
【0035】
図3(b)に示すように、領域51の保護膜18の厚さT1を大きくすると、結合係数は小さくなる。一方、図4(b)に示すように、領域52の保護膜18の厚さT2を大きくすると結合係数が小さくなる。これは、保護膜18が厚くなると振動領域50の振動を妨げるためと考えられる。
【0036】
振動領域50内の積層膜15の厚さおよび積層膜15内の材料が均一の場合を仮定すると、共振周波数fは、以下の数1で示される。
【数1】
hは振動領域50における積層膜15の厚さ、Eは、積層膜15のヤング率、ρmは積層膜15の密度、νは積層膜15のポアソン比、rは振動領域50の半径(D2/2)である。
【0037】
数1によれば、積層膜15の厚さhが大きくなると共振周波数fは高くなる。よって、領域52における保護膜18の厚さT2を大きくすると共振周波数が高くなるというシミュレーション1の結果は、数1により説明できる。
【0038】
領域51における保護膜18の厚さT1が大きくなると共振周波数fが低くなるというシミュレーション1の結果は数1では説明できない。この現象の理由は明確ではない。例えば、保護膜18である酸化シリコンのヤング率が活性層11、下部電極12、圧電層14および上部電極16のヤング率より小さいこと、領域51が振動領域50の中央部に設けられていること、あるいは、圧電層14内における振動領域50において中心と端部とで生じる応力の向きが異なること、などが影響しているとも考えられる。例えば、発明者らのシミュレーションによると、振動領域50における中心56と振動領域50の端部(外周付近)とでは、圧電層14に生じる応力(圧電層14の厚さ方向の中点における応力)の方向が逆になる(すなわち、一方は圧縮応力であり、他方は圧縮応力である)ことがわかった。このことが、領域51における保護膜18の厚さT1が大きくなると共振周波数が低くなることに影響している可能性がある。
【0039】
シミュレーション1の結果に基づき、実施例1では、pMUT素子20が複数設けられた超音波トランスデューサにおいて、pMUT素子20の共振周波数を高く調整する場合には、図6(a)のように、領域51の保護膜18の少なくとも一部を除去する。一方、pMUT素子20の共振周波数を低く調整する場合には、図6(b)のように、領域52の保護膜18の少なくとも一部を除去する。これにより、特許文献1のように、別途付加膜を付着する工程が不要となる。つまり実施例1では、製造方法を簡略化し、かつ共振周波数を低くする調整と高くする調整を、両方とも保護膜18を薄くする工程により実現可能となる。
【0040】
[周波数調整された実際のpMUTの構造]
続いて、シミュレーション1の結果に基づく、実施例1の構造について説明する。図5は、実施例1におけるpMUTの平面図である。図5では、空隙13を点線で示し、上部電極16、配線16aおよびパッド16bをクロスハッチングで示している。図6(a)および図6(b)は、図5のA-A断面図である。A-A断面は、パッド24aおよび24bを通る線である。
【0041】
まず外部接続用のパッド24aについて説明する。保護膜18と圧電層14を貫通し、底面に下部電極12が露出する貫通孔22が設けられる。そして、保護膜18の上には、貫通孔22を埋めるパッド24aが設けられる。また、貫通孔22上に保護膜18が設けられていない場合には、貫通孔22を埋めて、圧電層14上にパッド24aが設けられている。パッド24aは貫通孔22を介し下部電極12に電気的に接続されている。圧電層14上には、上部電極16と、上部電極16と一体に形成されかつ接続された配線16aと、配線16aと一体に形成されかつ接続されたパッド16bと、が設けられている。パッド16b上には、例えば金からなるパッド24bが設けられている。パッド24aおよび24b上には保護膜18の開口が設けられている。パッド24aおよび24bは例えば金、プラチナまたはチタンなどの金属層である。または、パッド24aおよび24bは、これらの中から複数の膜が選択された積層膜である。
【0042】
[共振周波数を高くする場合]
図6(a)に示すように、pMUT素子20aでは、主たる振動部分である領域51における保護膜18の厚さT1を、領域52における保護膜18の厚さT2より薄くするため、領域51における保護膜18の少なくとも一部が取り除かれている。
【0043】
[共振周波数を低くする場合]
図6(b)に示すように、pMUT素子20bでは、主たる振動領域の領域51における保護膜18の厚さT1は、領域52における保護膜18の厚さT2より厚い。領域52、または領域52とアンカー領域54では、保護膜18の少なくとも一部が取り除かれている。
【0044】
前述したとおり、領域51と領域52との保護膜18の厚さの調整だけで、共振周波数の増減の調整が可能である。特に、保護膜18へのレーザ光の照射、または保護膜18のエッチングなどのトリミング加工を行うことで、共振周波数の調整が可能となる。
【0045】
[実施例1の製造方法]
図7(a)から図8(d)は、超音波トランスデューサの製造方法を説明する。ただし、図7(a)から図8(d)では、1つのpMUT素子を図示している。
【0046】
図7(a)に示すように、基板10上に活性層11が設けられたウエハを準備する。ウエハには、超音波トランスデューサの形成領域がアレイ状に複数割り付けられている(後述する図10および図11参照)。図7(b)に示すように、活性層11上に下部電極12を形成する。なお、活性層11の上には、シリコン酸化膜等の絶縁層が形成されてもよい。続いて、図7(c)に示すように、下部電極12上に圧電層14を、スパッタリング法などを用いて形成する。続いてこの圧電層14を貫通し、底面に下部電極12が露出した貫通孔22を形成する。貫通孔22は、ウェットエッチング法またはドライエッチング法を用い形成できる。続いて、図7(d)に示すように、圧電層14上に上部電極16を形成する。例えば、圧電層14および貫通孔22上の全面に電極材料を形成する。その後、フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い、電極材料を所望の形状にパターニングする。これにより上部電極16が形成される。上部電極16は、リフトオフ法を用い形成してもよい。
【0047】
続いて、図8(a)に示すように、貫通孔22内を埋め、圧電層14上を被覆するように電極材料を形成する。続いて、電極材料をフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い、所望の形状にパターニングする。これにより、下部電極12と接触したパッド24a、および圧電層14と接触したパッド24bが形成される。続いて、全面に保護膜18を被覆し、フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い、図8(b)に示すように、パッド24aおよび24bの主領域が露出するように、保護膜18に開口部を形成する。これにより、この開口部を除いて全面に保護膜18が形成される。
【0048】
図8(c)に示すように、基板10の一部を除去することで空隙13を形成する。ここでは、基板10の下面からエッチングするため、基板10の上面には、耐エッチングマスクが形成される。また基板10の下面には、フォトレジストが形成され、空隙13に対応する部分が開口される。このフォトレジストをマスクにして、RIE(Reactive Ion Etching)法等のエッチング法を用い、空隙13が形成される。なお、空隙13の上面は、活性層11が露出する。この空隙13が形成された領域は振動領域50となる。これにより、pMUT素子20が用意される。
【0049】
最後に、図8(d)に示すように、パッド24aおよび24bの上面にプローブ38を接触させ、pMUT素子20の上部電極16と下部電極12との間に交流信号を印加し、共振周波数を測定する。測定された共振周波数が目標とする共振周波数より低いとき、図6(a)に示すように、領域51内の保護膜18の少なくとも一部を除去する。このとき、領域52の保護膜18は、除去しない。測定された共振周波数が目標とする共振周波数より高いとき、図6(b)に示すように、領域52の保護膜18の少なくとも一部を除去する。このとき、領域51の保護膜18は、除去しない。なお、保護膜18の除去には、レーザ光を照射する方法またはエッチング法を用いることができる。レーザ光を照射するレーザトリミング法は、ドライで、しかもレーザ光の出力の調整も可能なため、簡単な方法である。その後、ウエハを個々に切断することで、超音波トランスデューサチップとする。
【0050】
図9は、実施例1における共振周波数の調整方法を示すフローチャートである。図9に示すように、超音波トランスデューサ内の最初のpMUT素子には、図8(d)のように、プローブ38が当てられて共振周波数frが測定される(ステップS10)。測定された共振周波数frが閾値fth1(第1値)より低いか判定する(ステップS12)。この判定において、Yes(低い)のとき、図6(a)のように、領域52の保護膜18は除去せずに、領域51の保護膜18の少なくとも一部を除去する(ステップS14)。これにより、pMUT素子の共振周波数が高くなる。その後、ステップS20に進む。
【0051】
ステップS12において、No(高い)のとき、測定された共振周波数frが閾値fth2(第2値)より高いか判定する(ステップS16)。Yesのとき、図6(b)のように、領域51の保護膜18は除去せずに、領域52の保護膜18の少なくとも一部を除去する(ステップS18)。これにより、pMUT素子の共振周波数が低くなる。その後、ステップS20に進む。ステップS16において、NoのときステップS20に進む。
【0052】
ステップS20において、複数のpMUT素子のうち最後のpMUT素子か判定する。Noのとき、次のpMUT素子に進む(ステップS22)。その後、ステップS10に戻り、次のpMUT素子について、共振周波数frを測定する。複数のpMUT素子についてステップS10からS18が完了すると、ステップS20において、Yesと判定し、終了する。
【0053】
ステップS14およびS18における保護膜18の除去は、保護膜18に局所的なエネルギーを照射することで実現でき、例えば基板10の上方から保護膜18にレーザ光を照射することにより行う。エネルギーの照射により保護膜18の一部が除去された部分の底面に薄膜が残存する。この薄膜は、保護膜18の他の部分より薄い薄膜部を形成する。保護膜18が樹脂膜の場合には、エネルギーが照射された保護膜18は、再溶融または再結晶化される。また、保護膜18がシリコン酸化膜、セラミックまたはガラス質膜の場合には、エネルギーが照射された保護膜18は、溶融された後に非晶質化する。このように、薄膜は保護膜18が熱によって改質された膜を含む。特に、レーザ光を照射する場合には、レーザ光の反射板等の制御で照射領域を特定できる。このため、任意の領域(例えば領域51または52)の保護膜18を薄膜化および改質可能である。このとき、領域51または52の保護膜18は、厚み方向にすべて除去してもよいが、完全に取り除くと保護機能を失う。よって、保護膜18におけるレーザ光が照射された部分が薄く残るように、保護膜18の上部を除去することが好ましい。
【0054】
この保護膜18の主な機能は、湿気などの侵入防止、機械的強度の向上、上部電極16の酸化防止を目的としたパシベーションとしての機能である。よって、保護膜18を完全に取り除くことは、好ましくない。
【0055】
この保護膜18として、樹脂を用いる場合、レーザ光を照射した熱により、少なくとも保護膜18の表面は再溶融して、ガラス化する場合がある。一方、保護膜18として、酸化物またはセラミック系の材料を用いる場合、保護膜18の成膜時は、保護膜18は多結晶の集合体の場合がある。この場合、結晶粒の界面に粒界が形成される。その粒界からの不純物浸入が考えられる。しかし保護膜18にレーザ光の照射により保護膜18をガラス化(アモルファス)することにでき、粒界をなくすことが可能で、信頼性の向上につながる。
【実施例0056】
[アレイ状に配置されたpMUT素子]
図10は、実施例2に係る超音波トランスデューサの平面図である。保護膜18の図示を省略し、空隙13を点線で示し、上部電極16、配線16aおよびパッド16bをクロスハッチングで示している
【0057】
図10に示すように、この超音波トランスデューサ100では、基板10の平面形状は正方形であり、pMUT素子20が5行5列のアレイ状に配列されている。なお、下部電極12および圧電層14は基板10の全面に設けられている。空隙13および上部電極16は、pMUT素子20ごとに設けられている。pMUT素子20において、平面視において空隙13と上部電極16とが重なる領域は領域51であり、平面視において空隙13と重なり上部電極16と重ならない領域が領域52である。
【0058】
圧電層14上に配線16a、パッド16b、24aおよび24bが設けられている。それぞれの上部電極16と対応するパッド16bとは、それぞれ配線16aにより電気的に接続される。このパッド16b上には、パッド24bが設けられている。パッド24aは、1つ設けられ、貫通孔22を介し下部電極12に電気的に接続されている。下部電極12は基板10のほぼ全面に設けられており、パッド24aは、各pMUT素子20の下部電極12に電気的に接続されている。
【0059】
図11は、実施例2に係る超音波トランスデューサの平面図である。この超音波トランスデューサ102では、パッド24aおよび24bがpMUT素子20の各々に設けられている。図11では、下部電極12が全面に設けられず、pMUT素子20の下部電極12は、互いに電気的に分離されている。
【0060】
実施例2では、超音波トランスデューサ100および102に複数のpMUT素子20が設けられる。複数のpMUT素子20が同じ周波数において動作することで、送信される超音波の音圧を大きくできる。また、超音波を受信する感度を向上できる。音圧が大きい超音波トランスデューサは、高出力が求められる空中触覚、または、霧化による香りを再現する嗅覚ディスプレイ向けの分子放射制御用デバイスなどに用いることができる。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0061】
続いて、複数のpMUT素子20を有する超音波トランスデューサの問題点について説明する。図12(a)および図12(b)は、2つのpMUT素子の周波数に対するインピーダンスを示す模式図である。図12(a)および図12(b)において、インピーダンスZが極小になる周波数が共振周波数frである。図12(a)および図12(b)は、それぞれトランスデューサAおよびBのpMUT素子に対応する。
【0062】
図12(a)に示すように、トランスデューサAでは、2つのpMUT素子の共振周波数frはほぼ一致している。このように、トランスデューサAでは、複数のpMUT素子20の共振周波数frはほぼ一致しており、理想的な状態である。
【0063】
図12(b)に示すように、トランスデューサBでは、2つのpMUT素子の共振周波数frが異なっている。活性層11、下部電極12、圧電層14および上部電極16の成膜時の膜厚分布、および空隙13を形成するときの活性層11のエッチング量の分布などにより、トランスデューサB内のpMUT素子20の共振周波数がばらついてしまう。このように、トランスデューサBでは、複数のpMUT素子20の共振周波数frがばらついている。
【0064】
図12(c)は、前述のトランスデューサAおよびBで、横軸を距離、縦軸を音圧として、その特性を示す図である。横軸の距離は、超音波トランスデューサから対象物までの距離である。縦軸の音圧は、超音波トランスデューサから送信される超音波を、マイクロホンを用い計測したときの音圧を示している。
【0065】
図12(c)に示すように、トランスデューサAおよびBともに、距離が大きくなると音圧が小さくなる。同じ距離では、トランスデューサBはAに比べ音圧が小さくなる。トランスデューサAでは、全てのpMUT素子20において共振周波数frはほぼ同じである。このため、pMUT素子20を共振周波数frまたはその近傍の同じ周波数において動作させることにより、複数のpMUT素子20は効率的に超音波を送信できる。これにより、音圧が大きくなる。一方、トランスデューサBでは、pMUT素子20の共振周波数がばらついている。このため、pMUT素子20を動作させたときに、あるpMUT素子20では共振周波数またはその近傍において動作し、別のpMUT素子20では、共振周波数から大きく離れた周波数で動作する。これにより、音圧が小さくなってしまう。このため、pMUT素子は意図した特性を示さず、超音波トランスデューサの音圧が小さくなってしまう。
【0066】
図13は、実施例2における超音波トランスデューサの保護膜の厚さを示す平面図である。図13において、保護膜18を除去する前の共振周波数によって、pMUT素子20を構造A~Eに分類している。クロスハッチングを付した領域は、保護膜18の一部を除去した領域であり、クロスハッチングが濃いほど保護膜18が薄いことを示している。
【0067】
表1は、図13における構造A~EのpMUT素子の位置、調整前のft、保護膜の除去量、frシフトを示している。
【表1】
【0068】
pMUT素子の位置は、図13の超音波トランスデューサ100および102における基板10上のpMUT素子20の位置であり、構造Aは、基板10の中心57のpMUT素子20である。構造Bは、中心57より外側のpMUT素子20である。構造Cは、中心57と4隅の間のpMUT素子20である。構造Dは4隅より内側のpMUT素子20である。構造Eは、4隅のpMUT素子20である。
【0069】
圧電層14などの薄膜を成膜するとき、薄膜の厚さは、ウエハの面内位置によって異なる。このように、薄膜の厚さは位置による依存性がある。また、基板10などの薄膜のウェットエッチングまたはドライエッチングのときにはエッチング量の位置依存が生じることがある。これは、エッチングガスまたはエッチング液の濃度分布などで、どうしても避けられない現象である。よって、製造工程の要因により、pMUT素子20の共振周波数frには位置依存が生じることがある。例えば、ウエハの中心と周縁における圧電層14の厚さの差は2~4%で分布する。
【0070】
図13および表1の例では、保護膜18を除去する前において、構造Cの共振周波数frはほぼ目標値である。構造Bの共振周波数frは目標より高く、構造Aの共振周波数frは構造Bより高い。構造Dの共振周波数frは目標より低く、構造Eの共振周波数frは構造Dより低い。
【0071】
25個のpMUT20について、図9の各々ステップS10からステップS22を繰り返す。ステップS10では、パッド24aと24bを用いて、pMUT素子20の各々の共振周波数を測定する。
【0072】
構造CのpMUT素子20では、ステップS12およびS16の判定はともにNoのため、領域51および52ともに保護膜18の除去を行わない。これにより、共振周波数frは変化しない。
【0073】
構造BのpMUT素子20では、ステップS12においてNo、ステップS16においてYesのため、領域51の保護膜18の除去は行わず、領域52の保護膜18の除去を行う(ステップS18)。このとき、領域52の保護膜18の除去量は小さい。これにより、共振周波数frが低くなり、目標値に近づく。構造AのpMUT素子20では、ステップS12においてNo、ステップS16においてYesのため、領域51の保護膜18の除去は行わず、領域52の保護膜18の除去を行う。ステップS18の保護膜18の除去量を構造Bより大きくする。これにより、共振周波数frがより低くなり、目標値に近づく。
【0074】
構造DのpMUT素子20では、ステップS12においてYesのため、領域51の保護膜18の除去を行う(ステップS14)。このとき、領域51の保護膜18の除去量は小さい。領域52の保護膜18の除去を行わない。これにより、共振周波数frが高くなり、目標値に近づく。構造EのpMUT素子20では、領域51の保護膜18の除去を行う(ステップS14)。ステップS14の保護膜18の除去量を構造Dより大きくする。領域52の保護膜18の除去を行わない。これにより、共振周波数frがより高くなり、目標値に近づく。
【0075】
以上により、構造A~Eの共振周波数frがほぼ同じとなり、図12(c)のトランスデューサBのように、音圧を大きくできる。超音波トランスデューサ100および102では、図13のように、構造A~Cの領域51と構造C~Eの領域52の保護膜18の厚さは実質的に等しい。構造Bの領域52の保護膜18は薄くなり、構造Aの領域51の保護膜18は構造Bより薄くなる。構造Dの領域51の保護膜18は薄くなり、構造Eの領域51の保護膜18は構造Dより薄くなる。
【0076】
表1において、共振周波数frの微調整のため、構造A~Cの領域51および構造C~Dの領域52の保護膜18を少し除去してもよい。なお、表1は、pMUT素子20の共振周波数frの分布の一例であり、構造Aの共振周波数frが目標より低く、構造Eの共振周波数frが目標より高い場合もありうる。また、共振周波数frの分布が基板10の中心57および4隅に関係なく非対称となることもある。また、5×5のpMUT素子20をアレイ状に配置した超音波トランスデューサの例を説明したが、pMUT素子20の個数は任意である。また、複数のpMUT素子20はアレイ状に配置しなくてもよい。
【0077】
実施例2では、構造DおよびEのpMUT素子20a(第1素子)は、領域51における保護膜18の厚さT1が領域52における保護膜18の厚さT2より小さい。構造AおよびBのpMUT素子20b(第2素子)は、領域51における保護膜18の厚さT1が領域52における保護膜18の厚さT2より大きい。これにより、構造AおよびBのpMUT素子20aの共振周波数frを低くシフトさせ、構造DおよびEのpMUT素子20bの共振周波数frを高くシフトさせることができる。なお、領域51に保護膜18が設けられていないとき、厚さT1は0であり、この場合でも領域51における保護膜18の厚さT1が領域52における保護膜18の厚さT2より小さいという。同様に、領域52に保護膜18が設けられていないとき、厚さT2は0であり、この場合でも領域51における保護膜18の厚さT1が領域52における保護膜18の厚さT2より大きいという。
【0078】
共振周波数をシフトさせる観点から、構造DおよびEのpMUT素子20aにおいて、領域51における厚さT1は領域52における厚さT2の0.9倍以下が好ましく、0.8倍以下がより好ましく、0.5倍以下がさらに好ましい。また、構造AおよびBのpMUT素子20bにおいて、領域52における厚さT2は領域51における厚さT1の0.9倍以下が好ましく、0.8倍以下がより好ましく、0.5倍以下がさらに好ましい。
【0079】
また、構造AおよびBのpMUT素子20の領域52における保護膜18の厚さと構造DおよびEの領域51における保護膜18の厚さとは実質的に同じである。これにより、構造AおよびBの領域52の保護膜18の一部を除去し、構造DおよびEの領域51の保護膜18の一部を除去すればよいため、特許文献1のように、付加膜を付加しなくてもよい。よって、製造工程を簡略化できる。なお、保護膜18の厚さが同じ(または実質的に同じ)とは、製造誤差または共振周波数の微調整のための保護膜18の厚さの違いを許容し、例えば±10%程度の保護膜18の厚さの違いを許容する。すなわち、保護膜18の厚さがTaおよびTbのとき、例えば2×|Ta-Tb|/(Ta+Tb)≦0.1のとき、保護膜18の厚さTaとTbは同じ(または実質的に同じ)とみなせる。2×|Ta-Tb|/(Ta+Tb)≦0.05でもよい。
【0080】
構造A~Eの各々において、領域51内の保護膜18の厚さT1は略均一であり、領域52内の保護膜18の厚さT2は略均一である。なお、保護膜18の厚さが均一(または略均一)とは、製造誤差程度のばらつきを許容し、例えば±10%程度の保護膜18のばらつきを許容する。すなわち、例えば領域51または52内の保護膜18の厚さの最大値をTmax、最小値をTminとしたとき、例えば、2×|Tmax-Tmin|/(Tmax+Tmin)≦0.1のとき、領域51または52内の保護膜18の厚さは均一(または略均一)とみなせる。2×|Tmax-Tmin|/(Tmax+Tmin)≦0.05でもよい。
【0081】
製造工程に起因した共振周波数の分布は、基板10の中心57に対し点対称となりやすい。そこで、平面視における基板10の中心57に対し点対称の位置に配置された2つのpMUT素子20の領域51における保護膜18の厚さを実質的に同じとし、領域52における保護膜18の厚さは実質的に同じとする。これにより、共振周波数の分布を抑制できる。
【実施例0082】
実施例3に係る超音波トランスデューサの平面図は、実施例2の図10および図11と同じであり説明を省略する。
【0083】
[領域51の厚膜部および薄膜部が同心円状の例]
図14(a)は、pMUT素子20cの平面図、図14(b)は、図14(a)のA-A断面図である。A-A断面は、パッド24aおよび24bを通る線である。
【0084】
pMUT素子20cでは、領域51内に厚膜部58a(第1厚膜部)および薄膜部58b(第1薄膜部)が設けられている。厚膜部58aおよび薄膜部58bは、振動領域50の中心56を中心に同心円状に幅を有し設けられている。領域52およびアンカー領域54における保護膜18の厚さT2は厚膜部58aの保護膜18の厚さT1aとほぼ同じであり、薄膜部58bの保護膜18の厚さT1bは厚さT1aより薄い。薄膜部58bに保護膜18が設けられていないとき、厚さT1bは0であり、この場合にでも、薄膜部58bの保護膜18の厚さT1bは厚さT1aより小さいという。その他の構成は、図6(a)のpMUT素子20aと同じであり説明を省略する。
【0085】
[領域51のドット状の厚膜部の例]
図15(a)は、実施例3におけるpMUT素子20dの平面図である。図15(b)は、図15(a)のA-A断面図である。
【0086】
pMUT素子20dでは、領域51内に厚膜部58aが複数設けられている。複数の厚膜部58aは中心56を中心に点対称または回転対称に設けられている。その他の構成は、図14(a)および図14(b)のpMUT素子20cと同じであり説明を省略する。
【0087】
pMUT素子20cおよび20dのように、領域51において保護膜18の一部を除去するときに、平面視における領域51内の薄膜部58bにおける保護膜18を除去しても、共振周波数を高くすることできる。領域51に厚膜部58aおよび薄膜部58bを設けることで、領域51における保護膜18の表面積が大きくなり、保護膜18の表面からの放熱性を向上できる。また、積層膜15が振動するときの応力を緩和できる。
【0088】
[領域52の厚膜部および薄膜部が同心円状の例]
図16(a)は、実施例3におけるpMUT素子20eの平面図である。図16(b)は、図16(a)のA-A断面図である。
【0089】
pMUT素子20eでは、領域52内に厚膜部59a(第2厚膜部)および薄膜部59b(第2薄膜部)が設けられている。厚膜部59aおよび薄膜部59bは、振動領域50の中心56を中心に同心円状に設けられている。領域51における保護膜18の厚さT1は厚膜部59aの保護膜18の厚さT2aとほぼ同じであり、薄膜部59bの保護膜18の厚さT2bは厚さT2aより小さい。薄膜部59bに保護膜18が設けられていないとき、厚さT2bは0であり、この場合にでも、薄膜部59bの保護膜18の厚さT2bは厚さT2aより小さいという。その他の構成は、図6(b)のpMUT素子20bと同じであり説明を省略する。
【0090】
[領域52のドット状の厚膜部の例]
図17(a)は、実施例3におけるpMUT素子20fの平面図である。図17(b)は、図17(a)のA-A断面図である。
【0091】
pMUT素子20fでは、領域52内に複数の厚膜部59aと薄膜部59bとが設けられている。複数の厚膜部59aは中心56を中心に点対称または回転対称に設けられている。その他の構成は、図16(a)および図16(b)のpMUT素子20eと同じであり説明を省略する。
【0092】
pMUT素子20eおよび20fのように、領域52の保護膜18の一部を除去するときに、領域52内の薄膜部59bの保護膜18を除去しても、共振周波数を低くすることできる。厚膜部58aは振動領域50の外に設けられていてもよい。pMUT素子20eおよび20fの振動は、振動領域50内の積層膜15が主に寄与している。しかしながら、振動領域50近傍のアンカー領域54の積層膜15も振動が微弱ながら加わる。このような場合には、領域52に加え、アンカー領域54の保護膜18にも厚膜部39aと薄膜部39bとを設けてもよい。また、領域52に厚膜部59aおよび薄膜部59bを設けることで、領域52における保護膜18の表面積が大きくなり、保護膜18の表面から、pMUT素子20eおよび20fの放熱を向上できる。
【0093】
図18および図19は、超音波トランスデューサの製造方法を示す断面図である。図13および表1で示したように、5×5のpMUT素子の内、5種類に分けられる構造A~EのpMUT素子20を図示している。
【0094】
図18以前の超音波トランスデューサの製造方法は、図7(a)から図8(c)におけるpMUT素子の製造方法と同じであり、説明を省略する。図18に示すように、構造A~EのpMUT素子20では、圧電層14および上部電極16の上面は、保護膜18により被覆されている。なお、保護膜18は、一般にはスピンコーター法等を用い被覆される。このため、構造A~Eにおける領域51の保護膜18の厚さT1と領域52の保護膜18の厚さT2は全て実質的に同じである。
【0095】
続いて、図19に示すように、薄膜部58bおよび59bを形成する。構造AおよびBでは、領域52内の保護膜18を、例えばレーザ光を照射して除去している。なお、薄膜部59bは、完全に取り除いてもよいが、耐環境性を考慮して残している。また保護膜18は熱が加わるため膜か改質され、上部電極16および圧電層14への湿気の浸入を抑止し、pMUT素子の劣化を抑制している。
【0096】
構造AのpMUT素子20eおよび20fの薄膜部59bの平面面積を、構造BのpMUT素子20eおよび20fの薄膜部59bの平面面積より大きくする。これにより、薄膜部59bの厚さT2bが構造AとBとで同じとしても、構造Aにおける共振周波数のシフトを、構造Bにおける共振周波数のシフトより大きくできる。ここでは、領域52の部分で、pMUT素子毎に、レーザ光を照射する照射面積を変えて、共振周波数を調整している。
【0097】
構造Cでは、領域51および52ともに保護膜18を除去しない。つまり厚膜部として維持されている。これにより、pMUT素子の共振周波数はほぼ変化しない。
【0098】
構造DおよびEでは、領域51内に厚膜部58aと薄膜部58bとが形成されるように、保護膜18の上部を、レーザ光を照射することにより除去する。薄膜部58bの保護膜18は完全に除去しない。これにより、構造DおよびEのpMUT素子は、pMUT素子20cまたは20dとなる。領域51の保護膜18の質量が小さくなるため、共振周波数を高くシフトできる。
【0099】
構造EのpMUT素子20cおよび20dの薄膜部58bの平面面積を、つまり保護膜18を取り除く面積を、構造DのpMUT素子20cおよび20dの薄膜部58bの平面面積より大きくする。これにより、構造Eの共振周波数のシフトを、構造Dの共振周波数のシフトより大きくできる。
【0100】
構造DおよびEのpMUT素子20cおよび20d(第1素子)では、領域51の保護膜18は、厚膜部58aと薄膜部58bとを有し、領域52の保護膜18の厚さは、厚膜部58aの厚さと実質的に同じである。構造AおよびBのpMUT素子20eおよび20f(第2素子)では、領域51の保護膜18の厚さは、厚膜部58aの厚さと実質的に同じであり、領域52の保護膜18は、厚膜部58aの厚さと実質的に同じ厚さを有する部分(厚膜部59a)と薄膜部59bの厚さと実質的に同じ厚さを有する部分(薄膜部59b)とを有する。これにより、製造工程を簡略化できる。
【0101】
実施例3では、領域51において保護膜18の除去量、面積が異なる。これにより、構造DおよびEのpMUT素子20cおよび20dの共振周波数を低くシフトさせることができると同時に、2つのpMUT素子のシフト量を変化させている。
【0102】
構造AおよびBのpMUT素子20eおよび20fは、領域52の保護膜18の除去面積が異なる。これにより、構造AおよびBのpMUT素子20eおよび20fの共振周波数を高くシフトさせると同時に、2つの素子のシフト量を変化させることができる。
【0103】
[シミュレーション2]
薄膜部58bの平面形状を変え、電気機械結合係数kをシミュレーションした。図20(a)から図20(d)は、シミュレーション2におけるpMUT素子の断面図である。
【0104】
図20(a)に示すように、構造Fでは、領域51における保護膜18の厚さT1は均一である。領域52における保護膜18の厚さはT2である。領域51の平面形状は円形状であり、領域51の直径はD1である。
【0105】
図20(b)に示すように、構造Gでは、厚膜部58aの平面形状は、図14(a)のpMUT素子20cと同じである。薄膜部58bの保護膜18を完全に除去し、薄膜部58bには保護膜18は設けられていない。中心の円形の厚膜部58aの直径はD3である。中心の厚膜部58aを囲む厚膜部58aの幅はD4である。厚膜部58aの間隔はD5である。
【0106】
図20(c)に示すように、構造Hでは、厚膜部58aの平面形状は、図15(a)のpMUT素子20dと同じである。薄膜部58bの保護膜18を完全に除去し、薄膜部58bには保護膜18は設けられていない。円形の厚膜部58aの直径はD3である。厚膜部58aの間隔はD5である。
【0107】
図20(d)に示すように、構造Iでは、厚膜部58aの平面形状は、領域51の中心を中心とする円形である。薄膜部58bの保護膜18を完全に除去し、薄膜部58bには保護膜18は設けられていない。円形の厚膜部58aの直径はD3である。
【0108】
構造F~Iの共通のシミュレーション条件は、T2=100nmである以外はシミュレーション1と同じである。D1=700μmである。
構造F:T1=100nm
構造G:T1=128nm、D3=400μm、D4=100μm、D5=30μm
構造H:T1=219nm、D3=100μm、D5=230μm
構造I:T1=306nm、D3=400μm
【0109】
構造F~Iでは、領域51内の保護膜18の体積(すなわち質量)が同じとなるように保護膜18の厚さT1を設定している。シミュレーションした構造F~Iの電気機械結合係数は以下である。
構造F:6.296%
構造G:6.268%
構造H:6.314%
構造I:6.224%
電気機械結合係数の大小関係は、構造H>構造F>構造G>構造Iである。領域51の中心56における保護膜18の厚さの大小関係は、構造H<構造F<構造G<構造Iである。
【0110】
共振周波数のシフトは、領域51内の保護膜18の質量に関係すると考えられることから、共振周波数のシフトを同じとなるように、領域51に厚膜部58aと薄膜部58bを設けた場合、領域51の中心56における保護膜18の厚さを小さくした方が、電気機械結合係数が大きくなる。これは、中心56では振動が大きいため、中心56の保護膜18が厚いと、振動を妨げるためと考えられる。
【0111】
以上より、構造DおよびEのpMUT素子において、平面視において薄膜部58bは領域51の中心56を含むことが好ましい。なお、領域51の中心は例えば領域51の重心である。
【0112】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0113】
10 基板
11 活性層
12 下部電極
13 空隙
14 圧電層
16 上部電極
18 保護膜
20、20a~20f pMUT素子
50 振動領域
51、52、54 領域
56、57 中心
58a、59a 厚膜部
58b、59b 薄膜部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図15
図16
図17
図18
図19
図20