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特開2024-64274低蛋白パン製造用原料組成物及びパンの製造方法
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  • 特開-低蛋白パン製造用原料組成物及びパンの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064274
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】低蛋白パン製造用原料組成物及びパンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 10/00 20060101AFI20240507BHJP
   A21D 2/10 20060101ALI20240507BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20240507BHJP
   A23L 29/212 20160101ALI20240507BHJP
   A23L 33/10 20160101ALN20240507BHJP
【FI】
A21D10/00
A21D2/10
A21D13/00
A23L29/212
A23L33/10
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172740
(22)【出願日】2022-10-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-05-16
(71)【出願人】
【識別番号】591173213
【氏名又は名称】三和澱粉工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】砂子 道弘
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 揚
(72)【発明者】
【氏名】塚田 真樹子
【テーマコード(参考)】
4B018
4B025
4B032
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018MD34
4B018ME07
4B018ME14
4B018MF04
4B018MF13
4B025LB25
4B025LD02
4B025LG07
4B025LP03
4B032DB01
4B032DG02
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK15
4B032DK18
4B032DK43
4B032DK55
4B032DL01
4B032DL20
4B032DP33
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】食感、外観、風味に優れる低蛋白パン製造用原料組成物、パン焼成用生地及びパンの製造方法の提供。
【解決手段】小麦粉の一部を湿熱処理澱粉を含む澱粉に置換したパン製造用原料組成物であって、パン生地物性を実質的に変化させない、上記パン製造用原料組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉の一部を湿熱処理澱粉を含む澱粉に置換したパン製造用原料組成物であって、パン生地物性を実質的に変化させない、上記パン製造用原料組成物。
【請求項2】
前記湿熱処理澱粉の蛋白含量が1質量%未満である、請求項1に記載のパン製造用原料組成物。
【請求項3】
前記湿熱処理澱粉の前記小麦粉に対する置換割合が前記小麦粉の1~50質量%である、請求項1又は2に記載のパン製造用原料組成物。
【請求項4】
食塩を添加しない条件下でもパン生地物性を実質的に変化させない、請求項1又は2に記載のパン製造用原料組成物。
【請求項5】
前記湿熱処理澱粉が、水溶性成分量が0.1~5%、かつ膨潤度が10~60mLである、請求項1又は2に記載のパン製造用原料組成物。
【請求項6】
前記湿熱処理澱粉がコーンスターチを原料とする、請求項5に記載のパン製造用原料組成物。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のパン製造用原料組成物に水を添加し混錬する工程を含む、パン焼成用生地の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載のパン焼成用生地を焼成する工程を含む、パンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食感、外観、風味に優れる腎臓病患者用の低蛋白パン製造用原料組成物、パン焼成用生地及びパンの製造方法に関する。また、本発明のパン製造用原料組成物はパン生地物性を実質的に変化させないので、パン製造時の作業性を向上することを可能とする。さらには、食塩をほとんど添加せずに低蛋白含量を保持する低蛋白・低塩用穀粉組成物及び低蛋白・低塩パンの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、腎臓病患者の食事において、疾患のステージにかかわらずナトリウムは6g/日未満とし、蛋白質は疾患のステージ進行に伴い摂取制限が指導されており、このため腎臓病患者用のパンも低蛋白、低ナトリウムのものが望まれる。特に主食からの蛋白質摂取を抑え、必須アミノ酸をバランスよく含んでいる肉や魚、卵、乳製品などからの蛋白質摂取が推奨されている。主食の一つであるパンについても主原料となる小麦粉に代わり、澱粉を使用する低蛋白パンが提供されている。このように、主食であるパンにおいて小麦粉に代わり、澱粉を使用することは、不足するエネルギーを補う上でも重要であり、その使用手段として従前より種々提案されている。
特許文献1にはパン用小麦粉に澱粉(小麦粉澱粉、馬鈴薯澱粉)を配合して、その含有蛋白量を6.5~7.5%とした低蛋白パン用穀粉組成物を主原料とし、製パンする方法が開示されている。
特許文献2には、パンの主原料である小麦粉の50%以上を澱粉に置換し、増粘多糖類と食物繊維とを併用添加することにより、発酵及び焼成中に発生するガスを生地中に保持させて、ソフトな食感を有する製パン手段が開示されている。
特許文献3には、小麦粉25~50質量部、α化澱粉を除く澱粉45~70質量部及びα化澱粉5~15質量部を含むことで低蛋白パンを製造する手段が提案されている。
特許文献4には、小麦粉原料の一部に、架橋でん粉、ヒドロキシプロピルでん粉及びα化でん粉を配合したことを特徴とする低蛋白パン製造用原料組成物が開示されている。該低蛋白パン製造用原料組成物を用いて、パンを製造することにより、蛋白含有量が6.2重量%以下に調整される。
特許文献5には、パン生地として、低蛋白米粉又は低蛋白米粉と小麦澱粉を主成分とした粉生地に、1.5%重量以上の増粘多糖類、及び適宜量のα化澱粉(α化低蛋白米粉又は粳米α粉)と、βアミラーゼを添加してなる生地を使用した、小麦粉パンの1/10以下の蛋白含有量とした極低蛋白パンが開示されている。
特許文献6には、アルファー化澱粉及び増粘多糖類を含有する生地を用いて、膨らみ、食感、外観を通常のベーカリー製品に近づける方法が開示されている。
特許文献7には、アミロース含量20%以上の生でん粉と酢酸でん粉又はリン酸架橋でん粉等の化学修飾されたでん粉とを含有し、さらにDE25~40のデキストリンを含有するベーカリー製品様低たんぱく食品製造用生地が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5-007448号公報
【特許文献2】特開平11-155467号公報
【特許文献3】特開2001-224300号公報
【特許文献4】特開2015-033370号公報
【特許文献5】特開2006-158298号公報
【特許文献6】国際公開2019/146629号公報
【特許文献7】国際公開WO19/088239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術による低蛋白パンは、生地の機械耐性が低く、パンの内層や外層に荒れが生じ、食感や風味に優れないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その結果、小麦粉の一部を湿熱処理澱粉を含む澱粉に置き換えたパン製造用原料組成物により、低蛋白含量を保持しながら、パン生地物性を実質的に変化させない腎臓病患者用のパン製造用原料組成物の完成を可能とし、食感、外観、風味に優れる低蛋白パンを実現させた。本発明のパン製造用原料組成物はパン生地物性を実質的に変化させないので、パン製造時の作業性を向上することを可能とした。さらに、食塩を添加しない条件下若しくはごく少量の食塩添加量の条件下でも、本発明のパン製造用原料組成物はパン生地物性を実質的に変化させないため、本発明のパン製造用原料組成物により低蛋白かつ低塩なパンが得られることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、以下のものに関する。
[1]
小麦粉の一部を湿熱処理澱粉を含む澱粉に置換したパン製造用原料組成物であって、パン生地物性を実質的に変化させない、上記パン製造用原料組成物。
[2]
前記湿熱処理澱粉の蛋白含量が1質量%未満である、[1]に記載のパン製造用原料組成物。
[3]
前記湿熱処理澱粉の前記小麦粉に対する置換割合が前記小麦粉の1~50質量%である、[1]又は[2]に記載のパン製造用原料組成物。
[4]
食塩を添加しない条件下でもパン生地物性を実質的に変化させない、[1]から[3]のいずれかに記載のパン製造用原料組成物。
[5]
前記湿熱処理澱粉が、水溶性成分量が0.1~5%、かつ膨潤度が10~60mLである、請求項[1]~[4]のいずれかに記載のパン製造用原料組成物。
[6]
前記湿熱処理澱粉がコーンスターチを原料とする、[5]に記載のパン製造用原料組成物。
[7]
[1]~[6]のいずれかに記載のパン製造用原料組成物に水を添加し混錬する工程を含む、パン焼成用生地の製造方法。
[8]
[7]に記載のパン焼成用生地を焼成する工程を含む、パンの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれは、低蛋白含量を保持しつつ、食感(しっとり感、歯切れ)、外観、風味においてバランスよく優れた腎臓病患者用の低蛋白パン製造用原料組成物、パン焼成用生地及びパンの製造方法を提供することができる。本発明のパン製造用原料組成物はパン生地の物性を実質的に変化させないので、低蛋白含量を保持しつつ、優れた食感、外観、風味を有する低蛋白パンの製造を可能とし、さらにパン製造工程における作業性を向上させることもできる。さらには、食塩を添加しない条件下若しくはごく少量の食塩添加量の条件下でも、本発明のパン製造用原料組成物がパン生地物性を実質的に変化させないため、低蛋白・低塩パン用穀粉組成物、パン焼成用生地及び低蛋白・低塩パンの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】小麦粉に対する澱粉置換割合が40%の実施例4~6及び比較例2~3、参照例のトルク値の測定チャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、小麦粉の一部を湿熱処理澱粉を含む澱粉に置換したパン製造用原料組成物であって、パン生地物性を実質的に変化させない、上記パン製造用原料組成物である。
本発明において、パン生地物性を実質的に変化させないとは、以下の判断基準による。
Chopin Tchnologies社製Mixolab2を使用し、まず、小麦粉(強力粉)の最適加水量を、測定条件ChopinS(粉+水の全重量70g、混練速度80rpm、混練温度30℃、混練時間30分)にて最大トルク値が1.1Nmとなる時の加水量として決定する。なお、トルク値は、Mixolab2の専用ソフトウェアで表示されるSmooth torqueの値を採用する。続いて、小麦粉の一部を澱粉に置き換えて、小麦粉の最適加水量と同加水量にて測定条件ChopinS(粉+水の全重量70g、混練速度80rpm、混練温度30℃、混練時間30分)で測定し、この時の最大トルク値が0.92Nm以上となる場合に、パン生地物性を実質的に変化させないと判断する。
本発明において、「パン生地物性を実質的に変化させない」とは、「小麦粉(強力粉)の一部を湿熱処理澱粉を含む澱粉に置換しても小麦粉(強力粉)の生地物性を保持することができる」ことを意味する。
【0010】
本発明における湿熱処理澱粉とは、澱粉質材料を水分の存在下に高温で処理したものであり、例えば、1967年にL.SAIRがシリアルケミストリー(44巻、1月号、8~26頁)に開示した方法、特開平4-130102号に開示された減圧・加圧加熱法、R.Stute, Starch、44巻(6)、205-214(1992年)に記載された20%の水分含量の澱粉を、回転式オートクレーブ中、100℃以上で数時間処理する方法等によって得られるが、特にこれらの方法に限定されるものではない。
湿熱処理澱粉の蛋白含量は1質量%未満であることが好ましく、より好ましくは蛋白含量0.5質量%以下、さらに好ましくは蛋白含量0.3質量%以下である。
【0011】
湿熱処理澱粉の作製に用いる澱粉質材料としては、蛋白含量が1質量%未満である澱粉を選択する。好ましくは蛋白含量0.5質量%以下、さらに好ましくは蛋白含量0.3質量%以下である。このような澱粉質材料としては、例えばコーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、ワキシー馬鈴薯澱粉、タピオカ、ワキシータピオカ、小麦澱粉、米澱粉、もち米澱粉、サゴ澱粉、甘藷澱粉、えんどう豆澱粉、緑豆澱粉、及びこれらの加工澱粉、具体的にはアセチル化、エーテル化、架橋化、酸化、酸処理。酵素処理したものが挙げられる。これらは、単独であっても、複数のものの組合せでも良い。
好ましくはコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉から選ばれる一種又は複数の組み合わせであり、さらに好ましくはコーンスターチである。コーンスターチを使用することにより、水溶性成分量及び膨潤度を適切に調整することが可能となる。また、食品に添加可能な界面活性剤、塩類、糖類、有機酸、蛋白、脂肪等を適宜添加してもよい。
【0012】
湿熱処理澱粉の特性は、後述する水溶性成分量と膨潤度を測定することによって規定することができる。本発明に好ましい湿熱処理澱粉の特性としては、水溶性成分量が0.1~5%、膨潤度が10~60mL、さらに好ましくは水溶性成分量が0.2~2%、膨潤度が15~55mL、最も好ましくは水溶性成分量が0.6~1.5%、膨潤度が20~50mLである。水溶性成分量を0.1%以上とすることで、吸水性が高くなりパン生地物性が緩くならず、ハンドリングが良くなる。水溶性成分量が5%以下であると、吸水性が低くなってパン生地がべとつかなくなりハンドリングが良くなる。また、膨潤度が10mL以上であると、澱粉粒子の加熱による膨らみが適度に大きくなり焼成後のパンがパサつかなくなる。膨潤度が60mL以下であると、澱粉粒子が加熱により崩壊することもなく、焼成後のパンが硬くなりすぎることもない。
【0013】
水溶性成分量は以下のように測定する。5.0gの澱粉(乾燥試料重量)を蒸留水95ml中に分散させ、常温にて10分間攪拌する。その後、2,000gで10分間遠心分離した上清をアルミカップ中に30g秤量し(分散液重量)、105℃で16時間蒸発乾固する。放冷後に重量を測定し(蒸発乾固重量)、下式により水溶性成分を求める。

【数1】

【0014】
膨潤度は以下のように測定する。蒸留水70gを500mL容ステンレスビーカーに入れ、80℃の恒温槽中で加温する。そこに3gの澱粉を入れ、200rpmで攪拌しながら10分間加熱する。その後、100mLメスシリンダーに移して蒸留水で100mLにメスアップし、室温で16時間静置した際の沈降容積を膨潤度とする。
【0015】
本発明のパン製造用原料組成物は、パン製造用原料組成物に含まれる小麦粉の1~50質量%を湿熱処理澱粉に置換することによって、外観、風味、食感が良好なパンを、パン生地物性が変化することによる付着等の作業性の低下を気にすることなく製造することができる。ここで小麦粉とはパンの製造で一般的に使用される強力粉を指し、強力粉の蛋白含量は11.5~12.5質量%程度である(参考、光琳「製パン材料の科学」、1992年、p.6)。パン製造用原料組成物に含まれる小麦粉の上記湿熱処理澱粉への置換割合は1~50質量%の範囲内で適宜調整することが可能であるが、特に置換割合を40~50質量%とすることにより、パン製造用原料組成物中の蛋白含量を6.2~7.5質量%程度とすることができ、小麦粉の40~50質量%を上記湿熱処理澱粉に置換したパン製造用原料組成物を用いることによって重症度の高い腎臓病患者用の低蛋白パンを製造することが可能となる。
【0016】
本発明のパン製造用原料組成物は、小麦粉を置換した湿熱処理澱粉に加えて、さらに他の澱粉を含んでもよい。追加で加えることのできる澱粉として、例えばコーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、ワキシー馬鈴薯澱粉、タピオカ、ワキシータピオカ、小麦澱粉、米澱粉、もち米澱粉、サゴ澱粉、甘藷澱粉、えんどう豆澱粉、緑豆澱粉、及びこれらの加工澱粉、具体的にはアルファー化、部分アルファー化、アセチル化、エーテル化、架橋化、酸化、酸処理、酵素処理したものが挙げられる。これらは、単独であっても、複数のものの組合せでも良い。追加で加えることのできる澱粉の添加量は、小麦粉を置換した湿熱処理澱粉の量の10質量%以下、好ましくは7質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、最も好ましくは3質量%以下である。添加量が10質量%以下とすることでパン生地物性が変化して付着による作業性が低下することもない。
【0017】
パン生地に添加される食塩の効果の一つに、ミキシング特性、伸展性への影響がある。食塩はパン生地の粘着性を減少させ、パン生地を引き締める作用を持ち、さらには生地の抗張力・伸展性を共に増加させる(参考、光琳「製パン材料の科学」p.183-184)。本発明の小麦粉の一部を蛋白含量1質量%未満の湿熱処理澱粉に置き換えたパン製造用原料組成物を用いることにより、パン生地中に食塩を添加しなくても、粘着性が抑制され、生地の抗張力・伸展性を保つことができる。本発明のパン製造用原料組成物は、食塩無添加の条件下でもパン生地物性を実質的に変化させない。
【0018】
パン生地への食塩の添加量は、一般的には小麦粉(強力粉)に対して1~2質量%であるが、一方で本発明のパン製造用原料組成物に対しては、パン製造用原料組成物全量の0~2質量%の間で食塩添加量を適宜調整することができる。
【0019】
本発明は、パン製造用原料組成物から得られるパン焼成用生地の製造方法も開示する。具体的には、上記パン製造用原料組成物に水を添加し混錬する工程を含むものであり、一般的におこなわれている中種法、直捏法、湯種法などいずれの方法も採用することができ、本製造方法に於いてパン製造用原料組成物に対して、食塩、イースト、イーストフード、砂糖、油脂類など、パンの膨らみや味、食味を良くするために必要な材料を適宜配合することができる。さらに、冷凍生地とする場合にはアスコルビン酸のような抗酸化剤、グルコアミラーゼのような酵素を配合することもできる。
【0020】
さらに本発明は、上記パン生地を焼成する工程を含む、パンの製造方法を開示する。上記パン生地は、常法に従って発酵、分割、丸め、ねかし、成型、型詰めされた後、焼成される。焼成条件は通常の方法と変わらず、例えば角型食パンであれば200~210℃、30分間程度として焼き上がりを見て微調整する。
【0021】
上記パンを具体的に例示すると、角型、山型などの食パン類、バゲット、ブール、パリジャンなどのフランスパン、菓子パン、バンズ、テーブルロールなどの各種ロール類の他、ピザクラスト、イーストドーナツ、中華まんなどが挙げられる。
【実施例0022】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これにより何ら限定されるものではない。
【0023】
以下の実施例/比較例において、物性/特性の評価は下記の方法で行った。
(1)澱粉中の蛋白含量の測定
食品表示基準の公定法(令和3年9月15日消食表第389号 別添 栄養成分等の分析方法等)に記載のケルダール法により測定した。なお、換算係数としてコーンスターチは6.25、小麦粉は5.70を使用した。
(2)水溶性成分量及び膨潤度の測定
水溶性成分量は以下のように測定した。
5.0 gの澱粉(乾燥試料重量)を蒸留水95ml中に分散させ、常温にて10分間攪拌した。その後、2,000gで10分間遠心分離した上清をアルミカップ中に30g秤量し(分散液重量)、105℃で16時間蒸発乾固した。放冷後に重量を測定し(蒸発乾固重量)、下式により水溶性成分を求めた。

【数2】


(3)最大トルク値の測定
本発明において、パン生地物性を実質的に変化させないとは、以下の判断基準を採用した。
Chopin Tchnologies社製Mixolab2を使用し、まず、小麦粉(強力粉)の最適加水量を、測定条件ChopinS(粉+水の全重量70g、混練速度80rpm、混練温度30℃、混練時間30分)にて最大トルク値が1.1Nmとなる時の加水量として決定した。続いて、小麦粉の一部を澱粉に置き換えて、小麦粉の最適加水量と同加水量にて測定条件ChopinS(粉+水の全重量70g、混練速度80rpm、混練温度30℃、混練時間30分)で最大トルク値を測定した。得られた最大トルク値が0.92Nm以上となる場合に、パン生地物性を実質的に変化させないと判断した。
【0024】
特開平4-130102号に開示された減圧・加圧加熱法により作製された湿熱処理澱粉である、デリカスターHM-131(実施例1)、デリカスターH-100(実施例2)、デリカスターH-200(実施例3)(いずれも三和澱粉工業株式会社製)について蛋白含量、水溶性成分量及び膨潤度を測定した。結果を表1に示す。なお、これらの湿熱処理澱粉は、いずれも三和澱粉工業株式会社製コーンスターチYを湿熱処理したものである。コーンスターチY(比較例1)についても蛋白含量、水溶性成分量及び膨潤度を測定した。結果を表1に示す。

【表1】
【0025】
(実施例4、参照例)
日清製粉株式会社製ミリオン(強力粉) 100質量%に対し、その20質量%、30質量%、40質量%、50質量%をデリカスターHM-131で置換して100質量%とした、当該小麦粉と湿熱処理澱粉からなるパン製造用原料組成物(実施例4)のMixolab2測定での最大トルク値の結果を表2に示す。参照例の日清製粉株式会社製ミリオン(強力粉)(蛋白含量12.2質量%)の最大トルク値が1.1Nmとなる時の加水量(最適加水量)は63%であったため、当該加水量において澱粉置換割合を変えて測定を行った。
【0026】
(実施例5~6、比較例2)
実施例4におけるデリカスターHM-131を、それぞれデリカスターH-100(実施例5)、デリカスターH-200(実施例6)、湿熱処理を行っていないコーンスターチY(比較例2)とする以外は実施例4と同様に行ってMixolab2を用いて最大トルク値を測定した。結果を表2に示す。
【0027】
(比較例3)
日清製粉株式会社製フラワー(薄力粉)(蛋白含量9.2質量%)(比較例3)についても63%の加水量における最大トルク値を測定した。結果を表2に示す。
【表2】

【0028】
デリカスターHM-131、H-100、H-200の湿熱処理澱粉を用いた場合は、いずれの置換割合でも最大トルク値が0.92Nm以上であり、生地物性が実質的に変化しないと判断できた。一方で、コーンスターチYではいずれの置換割合でも0.92Nmより低い値となり、生地物性の変化が大きかった。さらに、強力粉より蛋白含量の低い薄力粉では大幅に最大トルク値が低下した。湿熱処理澱粉は、生地中の蛋白含量を下げながらも生地物性を変化させない点で、有効であることが確認できた。
【0029】
一例として、澱粉置換割合が40%の実施例4~6、比較例2~3、及び参照例のトルク値の測定チャートを図1に示す。
【0030】
(製パン試験:実施例7~17、対照例、比較例4~7)
対照例の配合に対して、強力粉を表3-1、3-2に示す割合で湿熱処理澱粉又はコーンスターチに置き換えたパン製造用原料組成物を調製し、さらに表3-1、3-2に示す他の成分を添加してパン焼成用生地を調製し、それらのパン焼成用生地を用いて食パンを作製した。
製パンは、ホームベーカリ―(Panasonic社製SD-SB4)を用いて、オートメニュー5「早焼き食パン」にて行った。「早焼き食パン」の工程は、ミキシング17分→ねかし9分→ミキシング17分→発酵47分→焼成25分である。

【表3-1】

【表3-2】
【0031】
焼成したパンについて、膨らみ及び食感(食べ応え、舌触り、ふんわり感、粉っぽさ)の評価を行った。
【0032】
(膨らみの評価)
膨らみは対照例と同等で内層が均一でキメが細かいものが良く、対照例より膨らみが大きいと内層が不均一でキメが粗くなって好ましくない。また対照例より膨らみが小さい場合にも内層が不均一で詰まっており好ましくない。
評価の精度を高めるために、膨らみの指標として焼成したパンの高さについても評価した。一度に全ての配合で焼成するのは難しいため、対照例と常に比較しながら評価した。高さについても対照例を100とした時の相対値を示した。
結果を表4に示す。
【0033】
(食感の評価)
食感はよく訓練されたパネリスト6名によって評価した。
官能評価におけるパネリストのバイアス(偏り)を排除し、評価の精度を高めるために、サンプルは、焼成1日後のパンをスライサーで1.9cmにスライスし、クラスト(皮)を除き、クラム(内層)部分を一口大にカットし、これを官能評価に供した。その際、評価対象のサンプルの配合組成はパネルに知らせずに提示した。また、評価を実施するにあたり、パネリスト全員で討議し、各評価項目の特性に対してすり合わせを行って、各パネルが共通認識を持つようにした。
各項目について、以下に示す指標を基に評価を行った。

食べ応え :評点5 対照例と同等のボリューム感を感じる
評点1 食べ応え無くスカスカしている
舌触り :評点5 対照例と同程度に滑らかである
評点1 ザラツキあり
ふんわり感:評点5 対照例と同程度にふんわりソフトである
評点1 スカスカしている
粉っぽさ :評点5 対照例と同程度に粉っぽさを感じずしっとりしている
評点1 粉っぽい

6名の結果を平均し、平均値について以下に示す指標で区分分けした。
◎(優):4点以上
○(良):3点以上 4点未満
△(可):2点以上 3点未満
×(不可):2点未満
結果を表4に示す。
【0034】
【表4-1】

【表4-2】
【0035】
強力粉の30質量%を湿熱処理澱粉で置換した実施例7、8(パン製造用原料組成物の蛋白含量8.6%)では、生地物性が変化しないため、強力粉のみ配合した対照例と同等の膨らみとなった。食感は実施例7、8ではやや粉っぽいものの、しっかりした好ましい食感であった。
強力粉の1質量%を湿熱処理澱粉で置換した実施例11、12(パン製造用原料組成物の蛋白含量12.1%)では、強力粉のみ配合した対照例と同等の膨らみとなった。食感は実施例11、12では対照例と同様にしっかりした好ましい食感であった。
強力粉の40質量%を湿熱処理澱粉で置換した実施例13、14(パン製造用原料組成物の蛋白含量7.4%)では、生地物性が変化しないため、強力粉のみ配合した対照例と同等の膨らみとなった。食感は実施例13、14ではやや粉っぽく、実施例14では舌ざわり、ふんわり感にやや劣るものの、しっかりした好ましい食感であった。
強力粉の50質量%を湿熱処理澱粉で置換した実施例15、16(パン製造用原料組成物の蛋白含量6.2%)では、生地物性が変化しないため、強力粉のみ配合した対照例と同等の膨らみとなった。食感は実施例15、16ではやや粉っぽく、実施例16では舌ざわり、ふんわり感にやや劣るものの、しっかりした好ましい食感であった。
一方で、薄力粉を使用した比較例4は、生地物性が弱いため、強力粉の場合と比較して膨らみが大きくなった。食感は見た目のボリューム感に反して、ザラザラしてボロボロ崩れて好ましくない食感だった。
さらに、強力粉での配合(対照例)について、食塩を無くした比較例5について評価したところ、膨らみが大きくなった。これは、食塩が無いことによって生地の抗張力・伸展性が劣るためと考えられる。食感は、好ましい甘みを感じたものの、キメが粗くスカスカとしており食べ応えが悪く好ましい食感ではなかった。
同様に、湿熱処理澱粉を置換配合した上で、食塩を無くした実施例9、10、17についても評価を実施した。比較例5とは違い、食塩を添加した場合の実施例7、8、16とそれぞれ同等の膨らみ(高さ)を示した。湿熱処理澱粉の生地物性を変化させない効果は食塩を無くした配合でも同様に発揮され、焼成後の膨らみ度合いも変えなかったと思われる。食感についても変化は見られないか、むしろ向上した。
コーンスターチで強力粉の40質量%を置換配合した上で、食塩有りとした比較例6、食塩無しとした比較例7(パン製造用原料組成物の蛋白含量7.4%)について評価を実施した。比較例6は生地物性が弱いため、強力粉の場合と比較して膨らみが極端に小さくなった。さらに食感も硬くボロボロと崩れて好ましくなかった。比較例7は、コーンスターチを置換配合したことによる膨らみ低下と、食塩を無くしたことによる膨らみ向上が相殺されるためか、対照例と同等の膨らみとなった。しかしながら、内層はキメが粗く、食感も粉っぽくザラザラとして硬くて好ましくないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば食感、外観、風味に優れる腎臓病患者用の低蛋白パン製造用原料組成物が提供される。
図1
【手続補正書】
【提出日】2023-03-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉の一部を、水溶性成分量が0.1~5%かつ膨潤度が10~60mLである湿熱処理澱粉からなる澱粉に置換したパン製造用原料組成物であって、該パン製造用原料組成物はパン生地物性を実質的に変化させ該小麦粉は非熱処理デュラム粉砕物及び乾熱処理小麦粉を含まない、上記パン製造用原料組成物。
【請求項2】
前記湿熱処理澱粉の蛋白含量が1質量%未満である、請求項1に記載のパン製造用原料組成物。
【請求項3】
前記湿熱処理澱粉の前記小麦粉に対する置換割合が前記小麦粉の1~50質量%である、請求項1又は2に記載のパン製造用原料組成物。
【請求項4】
食塩を添加しない条件下でもパン生地物性を実質的に変化させない、請求項1又は2に記載のパン製造用原料組成物。
【請求項5】
前記湿熱処理澱粉がコーンスターチを原料とする、請求項に記載のパン製造用原料組成物。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のパン製造用原料組成物に水を添加し混錬する工程を含む、パン焼成用生地の製造方法。
【請求項7】
請求項に記載のパン焼成用生地を焼成する工程を含む、パンの製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0003
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0003】
【特許文献1】特開平5-007448号公報
【特許文献2】特開平11-155467号公報
【特許文献3】特開2001-224300号公報
【特許文献4】特開2015-033370号公報
【特許文献5】特開2006-158298号公報
【特許文献6】国際公開2019/146629号公報
【特許文献7】国際公開2019/088239号公報