(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064297
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】生分解性樹脂組成物およびそれを用いた樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20240507BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20240507BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20240507BHJP
C08L 101/16 20060101ALN20240507BHJP
【FI】
C08L67/02 ZBP
C08K3/26
C08K3/34
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172784
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】390008442
【氏名又は名称】丸尾カルシウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100150326
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 知久
(74)【代理人】
【識別番号】100076820
【弁理士】
【氏名又は名称】伊丹 健次
(72)【発明者】
【氏名】兼森 猛
(72)【発明者】
【氏名】前場 武司
【テーマコード(参考)】
4J002
4J200
【Fターム(参考)】
4J002CF03W
4J002CF03X
4J002DE236
4J002DJ047
4J002FB096
4J002FB166
4J002FB236
4J002FB246
4J002FB256
4J002FD010
4J002FD020
4J002FD070
4J002FD090
4J002FD130
4J002FD170
4J002FD320
4J002GA01
4J002GT00
4J200AA04
4J200AA06
4J200AA28
4J200BA19
4J200BA20
4J200CA01
4J200DA02
4J200EA10
4J200EA11
(57)【要約】
【課題】 成形性および取扱い性に優れ、かつ良好な分解性を有する、生分解性樹脂組成物およびそれを用いた樹脂成形体を提供すること。
【解決手段】 本発明の生分解性樹脂組成物は生分解性樹脂と無機物質粉末とを含有する。ここで、生分解性樹脂と無機物質粉末との質量比は70:30から90:10であり、生分解性樹脂はポリブチレンアジペートテレフタレートおよびポリブチレンサクシネート系樹脂を含み、そして無機物質粉末は炭酸カルシウムおよびタルクを含む。さらに、炭酸カルシウムは所定範囲の50%粒子径、空気透過法による比表面積およびJIS標準篩の篩残分を満たす粒子であり、タルクは所定範囲の50%粒子径およびBET比表面積を満たす粒子である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性樹脂と無機物質粉末とを含有する、生分解性樹脂組成物であって、
該生分解性樹脂と該無機物質粉末との質量比が70:30から90:10であり、
該生分解性樹脂がポリブチレンアジペートテレフタレートおよびポリブチレンサクシネート系樹脂を含み、そして
該無機物質粉末が炭酸カルシウムおよびタルクを含み、
該炭酸カルシウムが下記(1)~(3)を満足する粒子:
0.8≦A1≦3.0 (1)
13,000≦B≦30,000 (2)
C≦10 (3)
(ここで、
A1はマイクロトラックMT3300レーザー式粒度分布計により測定した50%粒子径(d50)(μm)であり、
Bは空気透過法による比表面積(cm2/g)であり、そして
Cは目開き45μmのJIS標準篩の篩残分(ppm)である)
であり、
該タルクが下記(4)~(5)を満足する粒子:
1.0≦A2≦10.0 (4)
D/A2≦4.0 (5)
(ここで、
A2はマイクロトラックMT3300レーザー式粒度分布計により測定した50%粒子径(d50)(μm)であり、そして
DはBET比表面積(m2/g)である)
である、組成物。
【請求項2】
前記ポリブチレンサクシネート系樹脂が、ポリブチレンサクシネートアジペートおよびポリブチレンサクシネートからなる群から選択される少なくとも1つの樹脂である、請求項1に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリブチレンアジペートテレフタレートが50,000から300,000の重量平均分子量を有し、前記生分解性樹脂の質量を基準として50質量%から95質量%の割合で含有されている、請求項1に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の生分解性樹脂組成物を含有する、樹脂成形体。
【請求項5】
フィルムの形態を有する、請求項4に記載の樹脂成形体。
【請求項6】
農業用フィルムの形態を有する、請求項5に記載の樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性樹脂組成物およびそれを用いた樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸(PLA)に代表される生分解性樹脂は、環境中の加水分解や微生物代謝を通じて自然界に元来存在する物質にまで分解可能である。このため、生分解性樹脂は、環境に優しい樹脂として注目かつ多用されており、今後もさらなる用途の拡大が期待されている。
【0003】
PLAは、汎用性プラスチックに匹敵する機械的強度を有している。しかし、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートに代表される石油化学系ポリエステルと比較すると耐熱性に乏しい。PLAはまた、比較的良好な硬度を有するが、柔軟性や加工性に欠け、比重が高く軽量性に劣る点も指摘されている。加えて、近年、PLAは需要の増加により入手自体が困難であり、コストの上昇も懸念されている。
【0004】
一般に、生分解性樹脂は樹脂粘度が高くてハンドリング可能な温度範囲が狭く、付着性もあるため成形加工性が悪い。また、製造コストが高く、石油化学系プラスチックから代替品として普及するためには、この点も大きな課題である。
【0005】
原料としてPLAを用いた場合、高温での成形および長時間の溶融状態を必要とするために熱分解が起こり易く、成形加工することが非常に難しい点も指摘されている。
【0006】
さらに、PLAから構成されるフィルムでは、律速である加水分解反応が、常温付近において比較的緩慢であり、微生物が資化するまでには相当の時間を要する。特に農業用フィルム(マルチフィルム)の用途では、フィルム表面から土壌中の微生物による酵素の作用によって分解が進行する。このため、条件次第ではフィルムを構成する生分解性樹脂が完全に分解するまでに著しい時間を要し、鍬込み後、土中に長期間残存する点が懸念されている。すなわち生分解性の特性が十分に活かされておらず、さらなる改良が所望されている。
【0007】
一方、特許文献1および2には、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)およびPLAと、炭酸カルシウムおよびタルクとを組み合わせた樹脂組成物がマルチフィルムのようなフィルムとして有用であることが記載されている。
【0008】
しかし、これらに記載のポリエステルフィルムは、30μmを下回るような薄手のフィルムに成形した場合、特にMD(押出し)方向のフィルム伸度が十分とは言えず、その汎用性を欠くものである。また、PLAの加工温度が高いため、コンパウンド化の際にドローダウンが起こり易く、加工性が劣る点も指摘されている。さらに、PBATおよびPLAの融点が互いに大きく異なっている。このため、これらの樹脂をブレンドする際には均一に混練することが困難であり、このことに起因して得られるポリエステルフィルムの機械的特性にバラツキが生じ易いという懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2014/075998号
【特許文献2】国際公開第2012/152820号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、成形性および取扱い性に優れ、かつ良好な分解性を有する、生分解性樹脂組成物およびそれを用いた樹脂成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、生分解性樹脂と無機物質粉末とを含有する、生分解性樹脂組成物であって、
該生分解性樹脂と該無機物質粉末との質量比が70:30から90:10であり、
該生分解性樹脂がポリブチレンアジペートテレフタレートおよびポリブチレンサクシネート系樹脂を含み、そして
該無機物質粉末が炭酸カルシウムおよびタルクを含み、
該炭酸カルシウムが下記(1)~(3)を満足する粒子:
0.8≦A1≦3.0 (1)
13,000≦B≦30,000 (2)
C≦10 (3)
(ここで、
A1はマイクロトラックMT3300レーザー式粒度分布計により測定した50%粒子径(d50)(μm)であり、
Bは空気透過法による比表面積(cm2/g)であり、そして
Cは目開き45μmのJIS標準篩の篩残分(ppm)である)
であり、
該タルクが下記(4)~(5)を満足する粒子:
1.0≦A2≦10.0 (4)
D/A2≦4.0 (5)
(ここで、
A2はマイクロトラックMT3300レーザー式粒度分布計により測定した50%粒子径(d50)(μm)であり、そして
DはBET比表面積(m2/g)である)
である、組成物である。
【0012】
1つの実施形態では、上記ポリブチレンサクシネート系樹脂は、ポリブチレンサクシネートアジペートおよびポリブチレンサクシネートからなる群から選択される少なくとも1つの樹脂である。
【0013】
1つの実施形態では、上記ポリブチレンアジペートテレフタレートは50,000から300,000の重量平均分子量を有し、上記生分解性樹脂の質量を基準として50質量%から95質量%の割合で含有されている。
【0014】
1つの実施形態では、上記の生分解性樹脂組成物を含有する、樹脂成形体である。
【0015】
1つの実施形態では、本発明の樹脂成形体はフィルムの形態を有する。
【0016】
1つの実施形態では、本発明の樹脂成形体は農業用フィルムの形態を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、フィルムなどの樹脂成形体を簡便に得ることができる。得られた樹脂成形体は優れた機械的強度を有するとともに、分解性が高められている。例えば、農業用フィルムの形態に成形されかつ使用された場合、土壌中で生分解した後に残留する成分が土壌を汚染することもなく、比較的短期間で生分解を促すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(生分解性樹脂組成物)
本発明の生分解性樹脂組成物は、生分解性樹脂および無機物質粉末を含有する。
【0019】
(生分解性樹脂)
本発明において、生分解性樹脂はポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)およびポリブチレンサクシネート系樹脂を含む。
【0020】
PBATは、生分解性を有するランダム共重合体であり、具体的にはアジピン酸と、1,4-ブタンジオールと、テレフタル酸とをモノマー成分とするコポリエステルである。PBATは公知の生分解性樹脂の中でも生分解性が高く、市販により入手可能である。PBATはまた、強度、耐熱性などの物性がバランス良く優れており、汎用のポリエチレンに類似した物性を有することが知られている。このため、汎用のプラスチック成形法を用いて容易に成形可能である。
【0021】
PBATの重量平均分子量(MW)は、好ましくは50,000~300,000、より好ましくは100,000~200,000である。このような範囲内の重量平均分子量を有するPBATは、概して生分解性や成形性、強度等の物性バランスに優れる。
【0022】
PBATはまた、本発明の組成物を構成する生分解性樹脂の質量を基準として、好ましくは50質量%~95質量%、より好ましくは70質量%~95質量%、さらにより好ましくは80質量%~95質量%の割合で含有されている。ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)は種々の生分解性樹脂の中でも生分解性が高く、量産されているので入手が容易である。強度や耐熱性等の物性とのバランスにも優れ、また汎用のポリエチレンに物性が近いため汎用のプラスチック成形法で成形可能である。そのため、生分解性樹脂組成物の用途等に応じた好ましい物性の樹脂への改質することも容易である。
PBATの含有量が95質量%を上回ると、得られる樹脂組成物が柔らくなり過ぎて、ペレット化した際にカッティングが困難となることがある。
【0023】
ポリブチレンサクシネート系樹脂は、例えば、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)およびポリブチレンサクシネート(PBS)、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0024】
PBSAは、アジピン酸と、1,4-ブタンジオールと、コハク酸とをモノマー成分とするコポリエステルであり、植物由来の生分解性プラスチックとして市販により入手可能である。PBSAはまた、それ自体が成形性に優れたものとして知られている。
【0025】
PBSは、コハク酸と、1,4-ブタンジオールとをモノマー成分とするコポリエステルであり、植物由来の生分解性プラスチックとして市販により入手可能である。PBSはまた、ヒートシール性、相容性、耐熱性および柔軟性に優れたものとして知られている。
【0026】
ポリブチレンサクシネート系樹脂は、本発明の組成物を構成する生分解性樹脂の質量を基準として、好ましくは50質量%~5質量%であり、より好ましくは30質量%~5質量%であり、さらにより好ましくは20質量%~5質量%である。
【0027】
本発明においては、上記ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)にポリブチレンサクシネート系樹脂が併用されていることにより、得られる樹脂組成物の成形加工性が向上し、フィルムの柔軟性を調節することが容易となる。特にマルチフィルムを展張する際、土壌の固い地域と柔らかい地域とでは畝面へのフィルムのなじみ性に影響があるので、フィルムの柔軟性は重要な性質である。したがって、フィルムに適度な柔軟性を付与することができる点で、本発明の樹脂組成物から得られるマルチフィルムは、土壌の固さに依存する使用地域の制限から開放される。
【0028】
なお、生分解性樹脂は、上記以外の生分解性を有する樹脂(その他の生分解性樹脂)を含んでいてもよい。その他の生分解性樹脂の例としては、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、3-ヒドロキシ酪酸-3-ヒドロキシヘキサン酸共重合ポリエステル(PHBH)、澱粉ポリエステル樹脂、酢酸セルロース(ジアセテート)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリグリコール酸(PGA)、およびポリエチレンテレフタレートサクシネート(PETS)、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。その他の生分解性樹脂は、上記PBATおよびポリブチレンサクシネート系樹脂による本発明の効果を阻害しない範囲において適切な含有量が当業者によって選択され得る。
【0029】
また、上記生分解性樹脂のメルトフローレート(MFR)は、JIS K7210(1999年)に基づいて190℃にて荷重2.16kgで測定した値で、0.1g/10分以上10g/10分以下であることが好ましく、生分解性樹脂のMFRは成形性と機械強度の観点から、より好ましくは8g/10分以下、特に好ましくは6g/10分以下である。MFRが10g/10分より高いとフィルム製膜機による成形加工が困難となるためである。生分解性樹脂のMFRは、分子量により調節することが可能である。
【0030】
(無機物質粉末)
本発明において、無機物質粉末は、例えば無機フィラーとして機能し得る。ここで、本発明の生分解性樹脂組成物に含まれる上記した生分解性樹脂と、無機物質粉末との質量比(質量%)は、70:30~90:10であり、好ましくは75:25~90:10であり、より好ましくは75:25~85:15である。ここで、生分解性樹脂と無機物質粉末との質量比の範囲において、無機物質粉末の割合が10質量%を下回ると、そのような樹脂組成物から得られるフィルムの離型性が悪化して加工性に劣り、さらに生分解性の物性が十分に発揮できないことがある。生分解性樹脂と無機物質粉末との質量比の範囲において、無機物質粉末の割合が30質量%を上回ると、そのような樹脂組成物から得られるフィルムを薄膜化したときのフィルム強度が低下することがある。
【0031】
無機物質粉末としては、炭酸カルシウムおよびタルクを含有することが必要である。
【0032】
炭酸カルシウムおよびタルクは、得られるフィルムの表面積を増大させることができる。さらに本発明の生分解性樹脂組成物が土壌中で分解する際に炭酸カルシウムおよびタルクが適宜脱落することにより、これらが脱落した後に残る生分解性樹脂部分が土壌中の微生物が生産する分解酵素と接触する面積を増加させることが可能となる。その結果、構成成分である生分解性樹脂の生分解速度を一層高める効果が期待される
【0033】
このような観点から、品質や価格が安定し工業的に大量に入手できる炭酸カルシウムおよびタルクに使用は経済的にも優位であり、また、成形性の向上にも有効に作用し、生分解性に優れた生分解性樹脂組成物を良好な成形性および生産性の下で提供できる。
【0034】
(炭酸カルシウム)
上記無機物質粉末を構成し得る炭酸カルシウムとしては、石灰石を機械的に粉砕した、いわゆる重質炭酸カルシウムであってもよく、例えば炭酸ガス化合法によって得ることができる沈降性炭酸カルシウムであってもよい。作業性・コスト面から当該炭酸カルシウムは重質炭酸カルシウムであることが好ましい。炭酸カルシウムの原料である石灰石は、日本国内に高純度なものが豊富に産出し、非常に経済的に入手できる。炭酸カルシウムとしては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
炭酸カルシウムの分散性または反応性を高めるために、炭酸カルシウム粒子の表面を予め表面改質しておいてもよい。表面改質法としては、プラズマ処理等の物理的な方法や、カップリング剤や界面活性剤で表面を化学的に表面処理するもの等が例示できる。カップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤やチタンカップリング剤等が挙げられる。界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性および両性のいずれであってもよく、例えば、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸塩等が挙げられる。
【0036】
上記表面改質を施すことにより、炭酸カルシウムの分散性等を高めることができる。一方、表面改質を施されていない炭酸カルシウムは、成形時における表面処理剤の熱分解等による臭気の発生リスクを低減できる点でむしろ好ましい場合もある。
【0037】
無機物質粉末を構成する炭酸カルシウムは、例えば、無機物質粉末の質量を基準として好ましくは5質量%~95質量%、より好ましくは10質量%~90質量%、特に好ましくは20質量%~80質量%である。
【0038】
本発明において、炭酸カルシウムの50%粒子径(d50)A1は、マイクロトラックMT3300レーザー式粒度分布計により測定した際、0.8μm~3.0μmであり、好ましくは1.0μm~2.8μmであり、より好ましくは1.3μm~2.5μmであり、特に好ましくは1.6μm~2.2μmである。50%粒子径(d50)が0.8μmを下回ると、炭酸カルシウムの粒子自体が細かくなり過ぎた結果、その表面積が増大し、ハンドリング性が悪化し、例えば上記生分解性樹脂と混練した際の組成物の粘度が著しく上昇し、フィルムの製造が困難になるおそれがある。50%粒子径(d50)が3.0μmを上回ると、例えば、生分解性フィルムを成形した場合に、フィルム表面より当該炭酸カルシウム粒子が突出して、脱落したり、表面性状や機械的強度等を損なうおそれがある。特に、炭酸カルシウムは、その粒度分布において50%粒子径(d50)が45μm以上の粒子を含有しないことが好ましい。
【0039】
上記50%粒子径(d50)の測定には、溶媒としてメタノールが使用され得る。さらに測定に際しては、測定に用いるメタノールスラリーに前分散として株式会社日本精機製作所製超音波分散機Ultra Sonic Generator US-300Tを使用することができる。
【0040】
また本発明において、炭酸カルシウムの空気透過法による比表面積Bは13,000cm2/g~30,000cm2/gであり、好ましくは15,000cm2/g~25,000cm2/gであり、より好ましくは18,000cm2/g~23,000cm2/gである。比表面積がこの範囲内にあることにより、得られる成形品の物性が改善され、生分解反応の起点となる表面を多く有することとなり、自然環境下における生分解性が良好に促進され得る。さらにその一方で、炭酸カルシウム粒子を配合することによる樹脂組成物の加工性の低下を抑制することもできる。
【0041】
なお、炭酸カルシウムの空気透過法による比表面積は、例えば恒圧粉体比表面積装置(株式会社島津製作所製:SS-100)を使用して、下記の測定条件で測定され得る。
炭酸カルシウムの比重:2.7g/mL
試料:2.7g
通過させる水の量:5mL
試料層の厚み:比表面積10,000cm2/g未満の場合は、8~9mmに調製
比表面積10,000cm2/g以上20,000cm2/g以下の場合は、9~12mmに調製
比表面積20,000cm2/g超過の場合は、12~13mmの間に調製
【0042】
また本発明において、このような炭酸カルシウムは、炭酸カルシウム粒子の形態を有する。当該炭酸カルシウム粒子における炭酸カルシウムの含有割合としては、95質量%以上が好ましく、97質量%以上がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましい。炭酸カルシウム粒子における炭酸カルシウムの含有割合を95質量%とすること、つまり炭酸カルシウム粒子を高純度とすることにより、人体および環境への影響を抑制でき、かつ成形加工する機械の摩耗を低減することができる。
【0043】
なお、上記炭酸カルシウムの純度は、JIS K8617炭酸カルシウムに準じた方法により測定可能である。
【0044】
さらに本発明において、炭酸カルシウムは、下記の篩試験方法で測定される目開き45μmのJIS標準篩の篩残分Cが10ppm以下であり、好ましくは5ppm以下である。篩残分Cが10ppmを超えるとフィルムを薄膜化した場合、フィルム強度が低下する、フィッシュアイが発生しやすくなるとの懸念がある。
【0045】
篩残分Cを測定するための篩試験方法は以下のようにして行われる。
【0046】
まず試料500gが2Lのステンレスビーカーに量り取られ、1000gの工業用メタノールを加えてスラリーが調製される。次いで、このスラリーを内径200mmの目開き45μmのJIS標準篩上に注ぎながら、刷毛で軽く混ぜることにより試料が通過させられる。刷毛に付いた固形物も水を用いて洗い落し、篩通過液が完全に透明になるまで、刷毛を用いて軽く篩上が掃かれる。次に、内径75mmの目開き45μmのJIS標準篩に残物が移され、乾燥機(105℃)内に30分以上放置される。その後、デシケーターで15分放冷した後、残物を薬包紙に取り篩残分が計算される。
【0047】
(タルク)
上記無機物質粉末を構成し得るタルクは「滑石」を粉末化したものであり、水、珪素、酸素、マグネシウムなどを含有し、含水ケイ酸マグネシウムとも呼ばれる。なめらかで吸着性に富む無機材料である。
【0048】
無機物質粉末を構成するタルクは、例えば、無機物質粉末の質量を基準として好ましくは5質量%~95質量%、より好ましくは10質量%~90質量%、特に好ましくは20質量%~80質量%である。
【0049】
本発明において、タルクの50%粒子径(d50)A2は、マイクロトラックMT3300レーザー式粒度分布計により測定した際、1.0μm~10.0μmであり、好ましくは2.0μm~8.0μmであり、より好ましくは3.0μm~5.0μmである。50%粒子径(d50)が1.0μmを下回ると、タルクの粒子自体が細かくなり過ぎてその表面積が増大し、ハンドリング性が悪化し、例えば上記生分解性樹脂と混練した際の組成物の粘度が著しく上昇し、フィルムの製造が困難になるおそれがある。50%粒子径(d50)が10.0μmを上回ると、例えば、生分解性フィルムを成形した場合に、フィルム表面より当該タルク粒子が突出して、脱落したり、表面性状や機械的強度等を損なうおそれがある。特に、タルクは、その粒度分布において50%粒子径(d50)が45μm以上の粒子を含有しないことが好ましい。
【0050】
また本発明において、タルクのBET比表面積Dを上記50%粒子径(d50)A2で割った数値のアスペクト比(D/A2)が4.0以下であることが好ましく、より好ましくは3.0以下である。D/A2が4.0以下であることによって、タルクの樹脂への混練が容易になり、また当該タルクが結晶核剤となって得られるフィルムの弾性率を向上させ、フィルム強度を高く維持することができる。
【0051】
なお、上記タルクのBET比表面積Dは、例えばBET比表面積測定装置(Mountech社製Macsorb)を用いて、下記のようにして測定することができる。
【0052】
まず、測定対象のタルク0.2g~0.3gが測定装置に充填され、前処理として窒素とヘリウムとの混合ガス雰囲気下で200℃にて5分間の加熱処理が行われる。その後、液体窒素の環境下で低温低湿物理吸着を行うことにより当該比表面積が測定され得る。
【0053】
無機フィラーとして機能し得るその他の無機物質粉末としては、無水シリカ、雲母、マイカ、クレイ、酸化チタン、珪藻土、アロフェン、ベントナイト、チタン酸カリウム、ゼオライト、セピオライト、スメクタイト、カオリン、カオリナイト、ガラス、石灰石、カーボン、ワラステナイト、焼成パーライト、珪酸カルシウム、珪酸ナトリウム等の珪酸塩、生石灰、酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム等の水酸化物、炭酸第二鉄、酸化亜鉛、酸化鉄、リン酸アルミニウム、および硫酸バリウム、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0054】
(その他の成分)
本発明の生分解性樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲において、上記成分に加えて、任意のその他の成分がさらに含まれていてもよい。このようなその他の成分は、単独または2種以上の組み合わせが使用され得る。また、このような成分の種類や配合量は、得ようとする効果等に応じて当業者により適宜選択され得る。
【0055】
その他の成分の例としては、可塑剤、充填剤(炭酸カルシウムおよびタルクを除く)、色剤、滑剤、カップリング剤、流動性改良材、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、安定剤、帯電防止剤、発泡剤等が挙げられる。
【0056】
その他の成分のより具体的な例について説明する。
【0057】
可塑剤としては、例えば、クエン酸アセチルトリブチル、クエン酸トリエチル、クエン酸トリエチル、クエン酸アセチルトリエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジアリール、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジ-2-メトキシエチル、酒石酸ジブチル、o-ベンゾイル安息香酸エステル、ジアセチン、およびエポキシ化大豆油、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0058】
充填剤は、上記炭酸カルシウムおよびタルク以外の無機材料で構成されるものであり、例えば、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、チタン、鉄、亜鉛等の炭酸塩(炭酸カルシウムを除く)、硫酸塩、珪酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、酸化物、若しくはこれらの水和物を含有する。充填剤の例としては、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、長石、石英、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、リン酸マグネシウム、硫酸バリウム、珪砂、カーボンブラック、モリブデン、珪藻土、セリサイト、シラス、亜硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、チタン酸カリウム、ベントナイト、ウォラストナイト、および黒鉛、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。充填剤は合成のものであっても天然鉱物由来のものであってもよい。
【0059】
着色剤は、公知の有機顔料、無機顔料、あるいは染料のいずれであってもよい。色剤の具体的な例としては、アゾ系、アンスラキノン系、フタロシアニン系、キナクリドン系、イソインドリノン系、ジオオサジン系、ペリノン系、キノフタロン系、ペリレン系顔料等の有機顔料や群青、酸化チタン、チタンイエロー、酸化鉄(弁柄)、酸化クロム、亜鉛華、カーボンブラック等の無機顔料、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0060】
滑剤は、当該技術分野において公知のものが使用され得る。滑剤の具体的な例としては、高級脂肪酸系、脂肪族炭化水素系、脂肪酸アミド系、脂肪酸エステル系等の滑剤が挙げられる。成形加工時の生分解性樹脂およびフィラーの分散性が向上して流動性を高めることができ、かつ離型性、ロール離れおよび金属離れを改善して成形性を高めることができるとの理由から、脂肪酸アミド系が好ましい。これらは単独で使用しても2種以上併用してもよい。
【0061】
酸化防止剤としては、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ペンタエリスリトール系酸化防止剤等の単独または任意の組み合わせが使用され得る。リン系酸化防止剤の具体的な例としては亜リン酸エステル、リン酸エステル等のリン系酸化防止安定剤が挙げられる。
【0062】
ここで、亜リン酸エステルとしては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2、4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、等の亜リン酸のトリエステル、ジエステル、モノエステル等、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0063】
リン酸エステルとしては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(ノニルフェニル)ホスフェート、および2-エチルフェニルジフェニルホスフェート、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0064】
フェノール系の酸化防止剤としては、α-トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン、シナピルアルコール、ビタミンE、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネイト、2-t-ブチル-6-(3’-t-ブチル-5’-メチル-2’-ヒドロキシベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2,6-ジ-t-ブチル-4-(N,N-ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホネイトジエチルエステル、およびテトラキス[3-(3-5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタン、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0065】
難燃剤としては、例えば、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、金属水和物などの非リン系非ハロゲン系難燃剤の1種またはそれ以上の組み合わせが挙げられる。ハロゲン系難燃剤としては、例えば、ハロゲン化ビスフェニルアルカン、ハロゲン化ビスフェニルハーテル、ハロゲン化ビスフェニルチオエーテル、ハロゲン化ビスフェニルスルフォンなどのハロゲン化ビスフェノール系化合物、臭素化ビスフェノールA、臭素化ビスフェノールS、塩素化ビスフェノールA、塩素化ビスフェノールSなどのビスフェノールービス(アルキルエーテル)系化合物等が挙げられる。リン系難燃剤としては、例えば、トリス(ジエチルホスフォン酸)アルミニウム、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、リン酸トリアリールイソプロピル化物、クレジルジ2,6-キシレニルホスフェート、芳香族縮合リン酸エステル等が挙げられる。金属水和物としては、例えば、アルミニウム三水和物、二水酸化マグネシウム等が挙げられる。このような難燃剤に加えて、さらに、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等の酸化アンチモン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アルミ、酸化モリブデン、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等を難燃助剤として併用してもよい。
【0066】
発泡剤は、溶融混練機内で溶融状態にされている原料の生分解性樹脂組成物に混合し、または圧入し、固体から気体、液体から気体に相変化するもの、または気体そのものであり、主として発泡シートの発泡倍率(発泡密度)を制御するために使用される。本発明の生分解性樹脂組成物に溶解した発泡剤は、常温で液体のものは樹脂温度によって気体に相変化して溶融樹脂に溶解し、常温で気体のものは相変化せずそのまま溶融樹脂に溶解する。溶融樹脂に分散溶解した発泡剤は、溶融樹脂を押出ダイからシート状に押出した際に、圧力が開放されるのでシート内部で膨張し、シート内に多数の微細な独立気泡を形成した発泡シートを提供することができる。発泡剤は、副次的に本発明の生分解性樹脂組成物の溶融粘度を下げる可塑剤として作用し、当該生分解性樹脂組成物を可塑化状態にするための温度を低くできる。
【0067】
発泡剤としては、例えば、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類;シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類;クロロジフルオロメタン、ジフロオロメタン、トリフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロメタン、ジクロロフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、クロロメタン、クロロエタン、ジクロロトリフルオロエタン、ジクロロペンタフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ジフロオロエタン、ペンタフルオロエタン、チリフルオロエタン、ジクロロテトラフルオロエタン、トリクロロトリフルオロエタン、テトラクロロジフルオロエタン、パーフルオロシクロブタンなどのハロゲン化炭化水素類;二酸化炭素、窒素、空気などの無機ガス;水などが挙げられる。
【0068】
本発明の生分解性樹脂組成物はまた、その生分解性を早めたい場合には、さらなる追加成分とし生石灰および/または消石灰を含有していてもよい。このような追加成分によって得られる生分解性樹脂組成物の生分解性を促進させることができる。一般に生分解性樹脂の生分解性は、土壌中の細菌や温度、湿度等の要因により変動する。このため、マルチフィルムのような用途が予定されている場合は、あらかじめ設置される現地の環境で予備実験等が行われ、当該追加成分の配合量を決定することが望ましい。生石灰もしくは消石灰は、目開き75μmのJIS標準篩の篩残分が0.5%以下であることが好ましく、0.3%以下であることがより好ましい。篩残分が0.5%を超えるとフィルムを薄膜化した場合、フィルム強度が低下する可能性があり、また、フィッシュアイが発生することがある。
【0069】
(生分解性樹脂組成物の作製)
本発明の生分解性樹脂組成物は、上記の成分を用いて、例えば、樹脂組成物の製造方法として従来知られている方法に基づいて作製され得る。
【0070】
本発明の生分解性樹脂組成物は、例えば、成分の混合および溶融混練等を経て得ることができる。
【0071】
混合や溶融混練のタイミングは、採用しようとする成形方法(押出成形、射出成形、真空成形等)に応じて適宜設定できる。例えば、成形機にホッパーから投入する前に生分解性樹脂、炭酸カルシウムおよび/またはタルクを混練溶融してもよく、成形機と一体で成型と同時に生分解性樹脂、炭酸カルシウムおよび/またはタルクを混練溶融してもよい。混練溶融は、生分解性樹脂に炭酸カルシウムおよび/またはタルクを均一に分散させる傍ら、高い剪断応力を作用させて混練することが好ましく、例えば二軸混練機で混練することが好ましい。
【0072】
得られる生分解性樹脂組成物の形態は特に限定されず、例えば、ペレットの形態を有していてもよい。本発明の生分解性樹脂組成物がペレットの形態を有する場合、その形状は特に限定されず、例えば、円柱、球形、楕円球状等であってもよい。ペレットを得るための造粒工程は、当事者が通常用いる手順または装置によって行われ得る。例えば、二軸押出機等を用いて上記生分解性樹脂を溶融しながら、炭酸カルシウムおよびタルク、並びに必要に応じて上記その他の成分を投入して溶融混練し、ストランド形状に押出して冷却した後、ペレタイザーによってペレットの形態に加工してもよい。得られたペレットは十分に乾燥して水分を除去した後、成形することで、所望のフィルムを得ることができる。
【0073】
本発明において、ペレットのサイズは特に限定されない。例えば、ペレットが球形ペレットの形態を有する場合、その直径は1mm~10mmであってもよい。楕円形状のペレットの形態を有する場合、例えば、縦横比0.1~1.0、縦横の長さ1mm~10mmであってもよい。円柱ペレットの形態を有する場合、例えば、直径1mm~10mmかつ長さ1mm~10mmであってもよい。
【0074】
(樹脂成形体)
本発明の生分解性樹脂組成物から任意の成形体を得ることができる。例えば、本発明の生分解性樹脂組成物はフィルムに成形可能である。
【0075】
以下、本発明の生分解性樹脂組成物をフィルムに成形する場合について説明する。
【0076】
フィルム化にあたっては公知のインフレーション法やTダイ法に用いる製膜機が使用可能である。本発明の生分解性樹脂組成物を用いて得られるフィルムは、例えばマルチフィルムとしての利用に適しており、引張強度のバランスが良好である。このためインフレーション法で製造するのが特に好ましい。
【0077】
本発明により作製可能なフィルムの厚さは、好ましくは0.005mm~0.030mmであり、より好ましくは0.01mm~0.025mmである。厚さが0.005mm未満であるフィルムは、生分解性フィルムとして使用するに十分な機械的強度を有していないことがある。厚さが0.030mmを超えるフィルムは、土壌中で効率良く生分解性を促すために使用後に鍬等を用いて土壌中に埋め込むことが困難となる場合がある。
【0078】
上記フィルムを得るための成形条件は、使用する生分解性樹脂組成物の組成や、成形品の種類等に応じて当業者によって適宜選択され得る。
【0079】
このようにして得られるフィルムは、その成形時または成形後に、一軸もしくは二軸方向、または多軸方向に延伸されたものであってもよい。
【実施例0080】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0081】
(評価方法)
以下の実施例1~8および比較例1~10においての各物性値はそれぞれ以下の方法を用いて得た。
【0082】
(樹脂のメルトフローレイト(MFR)の測定)
樹脂のメルトフローレイト(MFR)を、JIS K7210(1999年)に基づき、メルトインデクサーを用いて190℃、荷重2.16kgにて測定した。単位はg/10分であった。
【0083】
(重量平均分子量(Mw))
重量平均分子量を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン値に換算して得た。測定機器は、検出器としては示差屈折計(株式会社島津製作所製RID-6A)、ポンプ(株式会社島津製作所製LC-10AT)、およびカラム(東ソー株式会社製TSKgelG2000HXL、TSKgelG3000HXLとTSKguardcolumnHXL-Lを直列に接続したもの)を使用した。溶離液にはクロロホルムを使用し、温度40℃、流速1.0mL/分、濃度1mg/mLの試料を6μL注入した。
【0084】
(コンパウンド化)
まず、実施例および比較例について、表1に記載の配合比の原材料を、同方向回転二軸混練押出機(D=32mmφ、L/D=60、株式会社プラスチック工学研究所製)を用い170℃、スクリュー回転数250rpm、押出量22kg/時間で混練、水中にストランドで押出し、冷却、カットし、ペレットを作製した。なお、表1中の組成の数値の単位は「質量%」である。
【0085】
得られたペレットから、フィルム押出し機(ラボプラストミル2D30W2型:東洋精機株式会社製)を用いて170℃でTダイから押し出し、厚さ15μmの無延伸マルチフィルムを得た。得られたマルチフィルムから作製した試験片を用いて強度試験を行った。得られた結果を表1に示す。
【0086】
(生分解性フィルムの評価)
上記で得られた生分解性フィルムを(i)引張強度・伸度(MD方向:押出し方向、TD方向:横手方向)、(ii)生分解性、(iii)製膜性について下記の方法で評価し、農業用フィルムとしての利用に適しているかどうかの評価を行った。その結果を表1に示す。
(1)引張強度、伸度:JIS K6781に準拠して測定した。
(2)生分解性:コンポスト条件下における生分解性をJIS K6953に準拠して測定した。
(3)製膜性:以下の基準で評価した。
○:問題無く連続的に製膜可能であった。
△:製膜できるが、安定性が困難であった。
×:製膜できなかった。
【0087】
(材料)
以下の実施例1~8および比較例1~10において使用した成分はそれぞれ以下のものであった。
【0088】
(生分解性樹脂)
P1:ミヤコ化学株式会社製ポリブチレンアジペートテレフタレートTH801T、重量平均分子量Mw:106,000、MFR:5.0g/10分、融点:120℃
P2:PTTMCC Biochem社製ポリブチレンサクシネートBioPBS FZ91、MFR:5.0g/10分、融点:113℃
P3:Total Cabion社製ポリ乳酸Luminy LX175、MFR:3.0g/10分、融点:155℃
【0089】
(炭酸カルシウム)
炭酸カルシウム1:丸尾カルシウム株式会社製MCコートS-20(平均粒径:2.0μm、比表面積:20,000cm2/g、45μm篩残分1ppm以下)
炭酸カルシウム2:丸尾カルシウム株式会社製カルテックスS-5A(平均粒径:1.0μm、比表面積:26,000cm2/g、45μm篩残分1ppm以下)
炭酸カルシウム3:丸尾カルシウム株式会社製MCコートS-17(平均粒径:2.6μm、比表面積:15,600cm2/g、45μm篩残分8ppm)
炭酸カルシウム4:丸尾カルシウム株式会社製スーパーSSS(平均粒径:4.0μm、比表面積:12,000cm2/g、45μm篩残分10ppm)
炭酸カルシウム5:丸尾カルシウム株式会社製カルファインYM-23(平均粒径:0.6μm、比表面積:40,000cm2/g、45μm篩残分1ppm以下)
炭酸カルシウム6:丸尾カルシウム株式会社製MCコートS-15(平均粒径:2.9μm、比表面積:13,100cm2/g、45μm篩残分12ppm)
【0090】
(タルク)
タルク1:富士タルク工業株式会社製 FH-105(アスペクト比=D/A2=2.0 平均粒径:4.7μm、BET比表面積:9.5m2/g)
タルク2:富士タルク工業株式会社製 MS412(アスペクト比=D/A2=0.375 平均粒径:12μm、BET比表面積:4.5m2/g)
【0091】
(引張強さ、および切断時伸び)
フィルム押出し機で作製した試験片の引張試験を、株式会社島津製作所製精密万能試験機を用いて、23℃の温度で行った。試験片の形状としては、JIS K7161:2014のダンベル形試験片を用いた。延伸速度は50mm/分であった。得られた応力-歪曲線より、引張強さ(単位:MPa)および切断時伸び(単位:%)を測定した。
【0092】
なお、引張強さおよび切断時伸びの値が高いほど、引張強さおよび切断時伸びが良好であることを意味する。また、引張強さの評価基準および切断時伸びの評価基準はそれぞれ以下の通りである。
【0093】
(引張強さの評価基準)
A:引張強さが30MPa以上であった。
B:引張強さが25MPa以上30MPa未満であった。
C:引張強さが20MPa以上25MPa未満であった。
D:引張強さが20MPa未満であった。
【0094】
(切断時伸びの評価基準)
A:切断時伸びが300%以上であった。
B:切断時伸びが250%以上300%未満であった。
C:切断時伸びが200%以上250%未満であった。
D:引張強さが200%未満であった。
【0095】
【0096】
表1に示すように、本発明に従い生分解性樹脂と無機物質粉末とを70:30~90:10の質量比で配合した実施例1~8では、成形性と生分解性の双方に優れたフィルムを得ることができた。
【0097】
一方、無機物質粉末の配合比が低い比較例2、無機物質粉末を配合しなかった比較例1のものでは、成形性が著しく劣り、生分解性が不十分であった。また、無機物質粉末の配合比が極端に高い比較例3では、フィルム強度が著しく劣っていた。生分解性樹脂にポリ乳酸(PLA)を配合した比較例4では、MD方向の伸度が低下しており、また、生分解性が不十分であった。無機物質粉末に炭酸カルシウムまたはタルクを単独で配合した比較例5~6では、フィルムの強度・伸度の両方が十分満足できるものではなかった。
【0098】
炭酸カルシウムの平均粒径が大きい比較例7、タルクの平均粒径が大きい比較例10および炭酸カルシウムの45μm篩残分が多い比較例9は、成形加工性が著しく劣り、また引張強度も劣っていた。また、炭酸カルシウムの平均粒径が小さい比較例8は、製膜性が不均一で成形加工性が著しく劣り、またMD方向の伸度が低下していた。
【0099】
上記試験において、生分解性樹脂P2の代わりに、PBSAからなる生分解性樹脂を用いたところ、上記の結果と同様の結果が得られたことを確認した。