(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064321
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】電気化学反応システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04746 20160101AFI20240507BHJP
H01M 8/0438 20160101ALI20240507BHJP
H01M 8/04228 20160101ALI20240507BHJP
H01M 8/04303 20160101ALI20240507BHJP
H01M 8/0432 20160101ALI20240507BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20240507BHJP
【FI】
H01M8/04746
H01M8/0438
H01M8/04228
H01M8/04303
H01M8/0432
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172822
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】519322392
【氏名又は名称】森村SOFCテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤木 陽祐
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126BB06
5H127AA07
5H127AC05
5H127BA02
5H127BA05
5H127BA13
5H127BA18
5H127BA34
5H127BA37
5H127BA47
5H127BA59
5H127BB02
5H127BB19
5H127BB39
5H127DA11
5H127DB03
5H127DB23
5H127DB46
5H127DB88
5H127DC02
5H127DC22
5H127EE02
5H127EE03
5H127EE29
5H127EE30
(57)【要約】
【課題】空気極側ガス流路と燃料極側ガス流路との圧力差に起因する不具合の発生を抑制しつつ、電気化学反応モジュールを冷却させる。
【解決手段】電気化学反応システムは、単セルと、空気極側ガス流路と、燃料極側ガス流路と、を有する電気化学反応モジュールと、空気極側ガス流路のガス供給流路に供給する第1のガスの流量を制御する第1の流量制御部と、空気極側ガス流路の圧力を測定する第1の圧力測定部と、制御部とを備える。制御部は、第1の圧力測定部による圧力測定結果に基づき、空気極側ガス流路の少なくとも一部と燃料極側ガス流路の少なくとも一部との圧力差を所定の範囲内に維持しつつ、第1の流量制御部を制御して空気極側ガス流路のガス供給流路に供給する第1のガスの流量を増加させる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層と前記電解質層を挟んで互いに対向する空気極および燃料極とを含む電気化学反応単セルと、前記空気極に面する空気室、前記空気極に第1のガスを供給する第1のガス供給流路、および、前記空気室を通過したガスを排出する第1のガス排出流路からなる空気極側ガス流路と、前記燃料極に面する燃料室、前記燃料室に第2のガスを供給する第2のガス供給流路、および、前記燃料室を通過したガスを排出する第2のガス排出流路からなる燃料極側ガス流路と、を有する電気化学反応モジュールと、
前記第1のガス供給流路に供給する前記第1のガスの流量を制御する第1の流量制御部と、を備える電気化学反応システムにおいて、
さらに、前記空気極側ガス流路の圧力を測定する第1の圧力測定部と、
前記第1の圧力測定部による圧力測定結果に基づき、前記空気極側ガス流路の少なくとも一部と前記燃料極側ガス流路の少なくとも一部との圧力差を所定の範囲内に維持しつつ、前記第1の流量制御部を制御して前記第1のガス供給流路に供給する前記第1のガスの流量を増加させる制御部と、
を備える、
ことを特徴とする電気化学反応システム。
【請求項2】
請求項1に記載の電気化学反応システムにおいて、
さらに、前記第2のガス供給流路に供給する前記第2のガスの流量を制御する第2の流量制御部を備え、
前記制御部は、前記電気化学反応モジュールの運転を停止させるための停止処理の開始以降に、
前記第1の圧力測定部による圧力測定結果に基づき、前記空気極側ガス流路の少なくとも一部と前記燃料極側ガス流路の少なくとも一部との圧力差を所定の範囲内に維持しつつ、前記第1の流量制御部を制御して前記第1のガス供給流路に供給する前記第1のガスの流量を増加させ、
さらに、前記第2の流量制御部を制御して前記第2のガス供給流路に供給する前記第2のガスの流量を減少させる、
ことを特徴とする電気化学反応システム。
【請求項3】
請求項1に記載の電気化学反応システムにおいて、
さらに、前記燃料極側ガス流路の圧力を測定する第2の圧力測定部を備え、
前記制御部は、前記第1の圧力測定部による圧力測定結果と、前記第2の圧力測定部による圧力測定結果とに基づき、前記圧力差を所定の範囲内に維持しつつ、前記第1の流量制御部を制御して前記第1のガス供給流路に供給する前記第1のガスの流量を増加させる、
ことを特徴とする電気化学反応システム。
【請求項4】
請求項1に記載の電気化学反応システムにおいて、
前記制御部は、前記第1のガスの流量の増加制御の開始後、前記圧力差が、前記所定の範囲の上限値よりも小さい基準値以上になったことを条件に、前記第1のガスの流量の増加制御を停止する、
ことを特徴とする電気化学反応システム。
【請求項5】
請求項1に記載の電気化学反応システムにおいて、
前記制御部は、第1の増加率で前記第1のガスの流量を増加させる第1の増加制御を実施し、その後に、前記第1の増加率よりも低い第2の増加率で前記第1のガスの流量を増加させる第2の増加制御を実施する、
ことを特徴とする電気化学反応システム。
【請求項6】
請求項1に記載の電気化学反応システムにおいて、
さらに、前記第2のガス供給流路に供給する前記第2のガスの流量を制御する第2の流量制御部と、
前記電気化学反応モジュールの前記燃料極側ガス流路に連通し、前記燃料室から排出されるガスを燃焼させる燃焼器と、を備え、
前記制御部は、前記第1のガスの流量の増加制御の開始後、前記燃焼器の温度または前記燃焼器の温度に相関する部材の温度が第2の温度以下になったことを条件に、前記第2の流量制御部を制御して前記第2のガス供給流路に供給する前記第2のガスの流量を増加させる、
ことを特徴とする電気化学反応システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、電気化学反応システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、燃料電池モジュールと流量制御部とを備える燃料電池システムが知られている。燃料電池モジュールは、単セルと空気極側ガス流路と燃料極側ガス流路とを有する。単セルは、電解質層と、電解質層を挟んで互いに対向する空気極および燃料極とを含む。空気極側ガス流路は、単セルの空気極に面する空気室と、空気極に例えば酸化剤ガスを供給するガス供給流路と、空気室を通過したガスを排出するガス排出流路とからなる。燃料極側ガス流路は、単セルの燃料極に面する燃料室と、燃料室に例えば燃料ガスを供給するガス供給流路と、燃料室を通過したガスを排出するガス排出流路とからなる。流量制御部は、少なくとも空気極側ガス流路に供給する酸化剤ガスの流量を制御する。
【0003】
このような燃料電池システムの中には、単セルの運転の停止後に、システム温度に基づいて空気極側ガス流路に供給する酸化剤ガスの流量を増やすことにより、システム温度を低下させる燃料電池システムが知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
なお、単セルの運転の停止時に、空気極側ガス流路と燃料極側ガス流路との圧力差(以下、単に「ガス圧力差」ということがある)が上限値内に収まるように酸化剤ガスのガス圧力を制御する燃料電池の制御装置が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-129793号公報
【特許文献2】特開2019-114478号公報
【特許文献3】特開2003-217631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記燃料電池システムでは、酸化剤ガスのガス流量を増やす際、システム温度のみに基づいてガス流量を制御しているため、空気極側ガス流路と燃料極側ガス流路とのガス圧力差が増大し、例えば単セル等の燃料電池モジュールの構成部材の破損や劣化等の不具合が生じるおそれがある。
【0007】
なお、このような課題は、燃料電池セルシステムに限らず、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形の電解セル(以下、「SOEC」という。)を備える電解セルシステムにも共通の課題である。本明細書では、燃料電池単セルと電解単セルとをまとめて電気化学反応単セルと呼び、燃料電池モジュールと電解セルモジュールとをまとめて電気化学反応モジュールと呼び、燃料電池システムと電解セルシステムとをまとめて電気化学反応システムと呼ぶ。
【0008】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本明細書に開示される電気化学反応システムは、電解質層と前記電解質層を挟んで互いに対向する空気極および燃料極とを含む電気化学反応単セルと、前記空気極に面する空気室、前記空気極に第1のガスを供給する第1のガス供給流路、および、前記空気室を通過したガスを排出する第1のガス排出流路からなる空気極側ガス流路と、前記燃料極に面する燃料室、前記燃料室に第2のガスを供給する第2のガス供給流路、および、前記燃料室を通過したガスを排出する第2のガス排出流路からなる燃料極側ガス流路と、を有する電気化学反応モジュールと、前記第1のガス供給流路に供給する前記第1のガスの流量を制御する第1の流量制御部と、を備える電気化学反応システムにおいて、さらに、前記空気極側ガス流路の圧力を測定する第1の圧力測定部と、前記第1の圧力測定部による圧力測定結果に基づき、前記空気極側ガス流路の少なくとも一部と前記燃料極側ガス流路の少なくとも一部との圧力差を所定の範囲内に維持しつつ、前記第1の流量制御部を制御して前記第1のガス供給流路に供給する前記第1のガスの流量を増加させる制御部と、を備える。
【0010】
本電気化学反応システムによれば、例えば、空気極側ガス流路の圧力測定結果を利用しない構成に比べて、空気極側ガス流路と燃料極側ガス流路との圧力差に起因する不具合の発生を抑制しつつ、電気化学反応モジュールを冷却させることができる。
【0011】
(2)上記電気化学反応システムにおいて、さらに、前記第2のガス供給流路に供給する前記第2のガスの流量を制御する第2の流量制御部を備え、前記制御部は、前記電気化学反応モジュールの運転を停止させるための停止処理の開始以降に、前記第1の圧力測定部による圧力測定結果に基づき、前記空気極側ガス流路の少なくとも一部と前記燃料極側ガス流路の少なくとも一部との圧力差を所定の範囲内に維持しつつ、前記第1の流量制御部を制御して前記第1のガス供給流路に供給する前記第1のガスの流量を増加させ、さらに、前記第2の流量制御部を制御して前記第2のガス供給流路に供給する前記第2のガスの流量を減少させる構成としてもよい。本電気化学反応システムによれば、空気室に供給する第1のガスの増加制御に加えて、燃料室に供給する第2のガスの流量の減少制御を実施することにより、電気化学反応モジュールを、より効果的に冷却させることができる。
【0012】
(3)上記電気化学反応システムにおいて、さらに、前記燃料極側ガス流路の圧力を測定する第2の圧力測定部を備え、前記制御部は、前記第1の圧力測定部による圧力測定結果と、前記第2の圧力測定部による圧力測定結果とに基づき、前記圧力差を所定の範囲内に維持しつつ、前記第1の流量制御部を制御して前記第1のガス供給流路に供給する前記第1のガスの流量を増加させる構成としてもよい。本電気化学反応システムによれば、空気室に供給する第1のガスの圧力測定結果に加えて、燃料室に供給する第2のガスの圧力測定結果も利用することにより、第1のガス供給流路と第2のガス供給流路との圧力差を所定の範囲内に、より確実に維持することができる。
【0013】
(4)上記電気化学反応システムにおいて、前記制御部は、前記第1のガスの流量の増加制御の開始後、前記圧力差が、前記所定の範囲の上限値よりも小さい基準値以上になったことを条件に、前記第1のガスの流量の増加制御を停止する構成としてもよい。本電気化学反応システムによれば、圧力差が基準値以上になった場合に第1のガスの流量の増加制御が停止されるため、第1のガスの増加制御中において、圧力差が所定の範囲を超えることを、より確実に抑制することができる。
【0014】
(5)上記電気化学反応システムにおいて、前記制御部は、第1の増加率で前記第1のガスの流量を増加させる第1の増加制御を実施し、その後に、前記第1の増加率よりも低い第2の増加率で前記第1のガスの流量を増加させる第2の増加制御を実施する構成としてもよい。本電気化学反応システムによれば、例えば、第1のガスを常時低い増加率で増加させる構成に比べて、早期に第1のガスの流量を増加させて電気化学反応モジュールを効果的に冷却させることができる。
【0015】
(6)上記電気化学反応システムにおいて、さらに、前記第2のガス供給流路に供給する前記第2のガスの流量を制御する第2の流量制御部と、前記電気化学反応モジュールの前記燃料極側ガス流路に連通し、前記燃料室から排出されるガスを燃焼させる燃焼器と、を備え、前記制御部は、前記第1のガスの流量の増加制御の開始後、前記燃焼器の温度または前記燃焼器の温度に相関する部材の温度が第2の温度以下になったことを条件に、前記第2の流量制御部を制御して前記第2のガス供給流路に供給する前記第2のガスの流量を増加させる構成としてもよい。本電気化学反応システムによれば、燃焼器の温度または燃焼器の温度に相関する部材の温度が第2の温度以下になったことを条件に第2のガスの流量を増加させるため、第2のガスの流量の増加に伴う燃焼器での燃焼による発熱の増加を抑制した状態で、第2のガスによって電気化学反応モジュールを効果的に冷却することができる。
【0016】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、電気化学反応モジュールの制御装置およびその制御方法等の形態で実現することが可能である。
例えば、以下のような電気化学反応モジュールあるいは電気化学反応セルスタックの冷却方法である。
「単セルと、空気極側ガス流路と、燃料極側ガス流路と、を有する電気化学反応モジュール(電気化学反応セルスタック)を冷却する方法であって、空気極側ガス流路の圧力を測定し、その圧力測定結果に基づき、空気極側ガス流路の少なくとも一部と燃料極側ガス流路の少なくとも一部との圧力差を所定の範囲内に維持しつつ、空気極側ガス流路における第1のガス供給流路に供給する第1のガスの流量を増加させる。」
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態における燃料電池システム10の構成を模式的に示す説明図
【
図2】燃料電池スタック100の一のXZ断面構成を示す説明図
【
図3】燃料電池スタック100の他のXZ断面構成を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0018】
A.実施形態:
A-1.燃料電池システム10の構成:
図1は、第1実施形態における燃料電池システム10の構成を模式的に示す説明図である。燃料電池システム10は、燃料電池スタック100と、その他の装置とを備える。以下では、まず燃料電池スタック100の構成について説明し、その後、燃料電池システム10を構成する他の装置の構成について説明する。
【0019】
A-2.燃料電池スタック100の構成:
図2は、燃料電池スタック100の一のXZ断面構成を示す説明図であり、
図3は、燃料電池スタック100の他のXZ断面構成を示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向と呼び、Z軸負方向を下方向と呼ぶものとするが、燃料電池スタック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
【0020】
図2および
図3に示すように、燃料電池スタック100は、複数の発電単位102を備える。なお、燃料電池スタック100は、複数の発電単位102から構成される集合体を上下から挟むように配置される一対のエンドプレート(図示しない)を備える構成でもよい。
【0021】
燃料電池スタック100を構成する各層(発電単位102)の周縁部には、上下方向に貫通する複数の孔が形成されており、各層に形成され互いに対応する孔同士が上下方向に連通して上下方向に延びる連通孔108を構成している。以下の説明では、連通孔108を構成するために燃料電池スタック100の各層に形成された孔も、連通孔108と呼ぶ場合がある。
【0022】
燃料電池スタック100のZ軸方向回りの外周を構成する1つの辺(
図2の紙面奥行き方向に平行な2つの辺の内のX軸正方向側の辺)の付近に位置する1つの連通孔108は、燃料電池スタック100の外部から酸化剤ガスOGが導入され、その酸化剤ガスOGを各発電単位102の後述する空気室166に供給するガス流路である酸化剤ガス供給マニホールド161として機能し、該辺の反対側の辺(
図2の紙面奥行き方向に平行な2つの辺の内のX軸負方向側の辺)の付近に位置する1つの連通孔108は、各発電単位102の空気室166から排出されたガスである酸化剤オフガスOOGを燃料電池スタック100の外部へ排出するガス流路である酸化剤ガス排出マニホールド162として機能する。酸化剤ガス供給マニホールド161および酸化剤ガス排出マニホールド162は、各発電単位102の空気極114(後述)との間でガスのやり取りを行うガス流路である。なお、酸化剤ガスOGとしては、例えば空気が使用される。
【0023】
燃料電池スタック100のZ軸方向回りの外周を構成する辺の内、上述した酸化剤ガス排出マニホールド162として機能する連通孔108に最も近い辺の付近に位置する他の1つの連通孔108は、燃料電池スタック100の外部から燃料ガスFGが導入され、その燃料ガスFGを各発電単位102の後述する燃料室176に供給するガス流路である燃料ガス供給マニホールド171として機能し、上述した酸化剤ガス供給マニホールド161として機能する連通孔108に最も近い辺の付近に位置する他の1つの連通孔108は、各発電単位102の燃料室176から排出されたガスである燃料オフガスFOGを燃料電池スタック100の外部へ排出するガス流路である燃料ガス排出マニホールド172として機能する。燃料ガス供給マニホールド171および燃料ガス排出マニホールド172は、各発電単位102の燃料極116(後述)との間でガスのやり取りを行うガス流路である。なお、燃料ガスFGとしては、例えば都市ガスを改質した水素リッチなガスが使用される。
【0024】
発電単位102は、単セル110と、単セル用セパレータ120と、空気極側フレーム部材130と、空気極側集電体134と、燃料極側フレーム部材140と、燃料極側集電体144と、一対のインターコネクタ150と、一対のIC用セパレータ180とを備えている。単セル用セパレータ120、IC用セパレータ180、空気極側フレーム部材130、燃料極側フレーム部材140の周縁部には、ボルト(図示しない)が挿通される連通孔108に対応する孔が形成されている。
【0025】
インターコネクタ150は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばステンレスにより形成されている。また、IC用セパレータ180は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の貫通孔181が形成されたフレーム状の部材であり、例えばステンレスにより形成されている。IC用セパレータ180における貫通孔181を取り囲む部分は、例えば溶接により、インターコネクタ150の周縁部と接合されている。インターコネクタ150は、発電単位102間の電気的導通を確保する。また、インターコネクタ150およびIC用セパレータ180は、空気室166と燃料室176との一方と、他の発電単位102における空気室166と燃料室176との他方とを区画する。なお、本実施形態では、2つの発電単位102が隣接して配置されている場合、インターコネクタ150およびIC用セパレータ180の1つの組合せは、隣接する2つの発電単位102に共有されている。すなわち、ある発電単位102における上側のインターコネクタ150およびIC用セパレータ180の組合せは、その発電単位102の上側に隣接する他の発電単位102における下側のインターコネクタ150およびIC用セパレータ180の組合せと同一部材である。
【0026】
IC用セパレータ180は、IC用セパレータ180の貫通孔周囲部を含む内側部186と、内側部186より外周側に位置する外側部187と、内側部186と外側部187とを連結する連結部188とを備える。本実施形態では、IC用セパレータ180は、例えば0.05mm以上、0.3mm以下の上下方向の厚さのステンレスから形成されており、内側部186および外側部187は、Z軸方向に略直交する方向に延びる略平板状である。また、連結部188は、内側部186と外側部187との両方に対して下側に突出するように湾曲した形状となっている。連結部188における下側(空気室166側)の部分は凸部となっており、連結部188における上側(燃料室176側)の部分は凹部となっている。このため、連結部188は、Z軸方向における位置が内側部186および外側部187とは異なる部分を含んでいる。
【0027】
単セル110は、電解質層112と、電解質層112を挟んで上下方向に互いに対向する空気極(カソード)114および燃料極(アノード)116とを備える。電解質層112は、略矩形の平板形状部材であり、緻密な層である。電解質層112は、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)等の固体酸化物により形成されている。このように、本実施形態の単セル110は、電解質として固体酸化物を用いる固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。空気極114は、略矩形の平板形状部材であり、多孔質な層である。空気極114は、例えば、ペロブスカイト型酸化物(例えばLSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物))により形成されている。燃料極116は、略矩形の平板形状部材であり、多孔質な層である。燃料極116は、例えば、Niと酸化物イオン伝導性セラミックス粒子(例えば、YSZ)とからなるサーメットにより形成されている。
【0028】
単セル用セパレータ120は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の貫通孔121が形成されたフレーム状の部材であり、例えばステンレスにより形成されている。単セル用セパレータ120の上下方向の厚さは、例えば0.05mm以上、0.3mm以下である。単セル用セパレータ120における貫通孔121を取り囲む部分は、例えばロウ材を含む接合部124により、単セル110(電解質層112)の周縁部と接合されている。単セル用セパレータ120により、空気極114に面する空気室166と燃料極116に面する燃料室176とが区画される。
【0029】
単セル用セパレータ120は、単セル用セパレータ120の貫通孔周囲部を含む内側部126と、内側部126より外周側に位置する外側部127と、内側部126と外側部127とを連結する連結部128とを備える。本実施形態では、内側部126および外側部127は、Z軸方向に略直交する方向に延びる略平板状である。また、連結部128は、内側部126と外側部127との両方に対して下側に突出するように湾曲した形状となっている。連結部128における下側(燃料室176側)の部分は凸部となっており、連結部128における上側(空気室166側)の部分は凹部となっている。このため、連結部128は、Z軸方向における位置が内側部126および外側部127とは異なる部分を含んでいる。
【0030】
空気極側フレーム部材130は、中央付近に略矩形の空気室用孔131が形成されたフレーム状の部材であり、例えばマイカ等の絶縁体により形成されている。空気極側フレーム部材130によって、発電単位102に含まれる一対のIC用セパレータ180間が電気的に絶縁され、その結果、一対のインターコネクタ150間が電気的に絶縁される。空気極側フレーム部材130には、酸化剤ガス供給マニホールド161と空気室166とを連通する酸化剤ガス供給連通流路132と、空気室166と酸化剤ガス排出マニホールド162とを連通する酸化剤ガス排出連通流路133とが形成されている。
【0031】
燃料極側フレーム部材140は、中央付近に略矩形の燃料室用孔141が形成されたフレーム状の部材であり、例えばステンレスにより形成されている。燃料極側フレーム部材140には、燃料ガス供給マニホールド171と燃料室176とを連通する燃料ガス供給連通流路142と、燃料室176と燃料ガス排出マニホールド172とを連通する燃料ガス排出連通流路143とが形成されている。
【0032】
空気極側集電体134は、空気室166内に配置されている。空気極側集電体134は、複数の略四角柱状の集電体要素から構成されており、例えばステンレスにより形成されている。空気極側集電体134は、空気極114とインターコネクタ150とを電気的に接続する。
【0033】
燃料極側集電体144は、燃料室176内に配置されている。燃料極側集電体144は、インターコネクタ対向部146と、電極対向部145と、電極対向部145とインターコネクタ対向部146とをつなぐ連接部(図示しない)とを備えており、例えば、ニッケルやニッケル合金、ステンレス等により形成されている。電極対向部145は、燃料極116の表面に接触しており、インターコネクタ対向部146は、インターコネクタ150の表面に接触しており、その結果、燃料極側集電体144は、燃料極116とインターコネクタ150とを電気的に接続する。なお、電極対向部145とインターコネクタ対向部146との間には、例えばマイカにより形成されたスペーサ149が配置されている。
【0034】
A-3.燃料電池システム10における燃料電池スタック100以外の装置の構成:
次に、燃料電池システム10における燃料電池スタック100以外の装置の構成について説明する。
図1に示すように、燃料電池システム10は、蒸発器310および改質・加熱器330を含む補助器300と、各装置間を結ぶ各種流路とを備える。補助器300は、燃料電池スタック100と共に、断熱材350によって囲まれた断熱空間351に収容されている。なお、
図1では、便宜的に、燃料極側のガス(原燃料ガスRFG、燃料ガスFGおよび燃料オフガスFOGを含む)の流れを一点鎖線で示し、空気極側のガス(酸化剤ガスOGおよび酸化剤オフガスOOGを含む)の流れを実線で示し、排ガスEGの流れを破線で示し、水の流れを二点鎖線で示している。
【0035】
蒸発器310は、内部に空間が形成された箱形部材であり、例えば金属により形成されている。蒸発器310は、純水PWを蒸発させて水蒸気を生成するための装置である。蒸発器310には、純水PWを導入するための純水導入流路251が接続されている。純水導入流路251は、主として配管により構成されており、純水導入流路251上には、イオン交換樹脂252と、浄水タンク・フロート254と、流量制御機構256とが設けられている。給水源から純水導入流路251に供給された水WAは、イオン交換樹脂252においてカルシウムイオン等の除去が行われ、浄水タンク・フロート254において浄化・貯留され、流量制御機構256により制御された流量で、純水PWとして蒸発器310に導入される。
【0036】
また、蒸発器310には、原燃料ガスRFGを導入するための原燃料ガス導入流路261が接続されている。原燃料ガス導入流路261は、主として配管により構成されており、原燃料ガス導入流路261上には、流量制御機構262と、水素添加脱硫器264とが設けられている。ガス源から原燃料ガス導入流路261に供給された原燃料ガスRFGは、水素添加脱硫器264において硫黄成分を除去された状態で、流量制御機構262により制御された流量で蒸発器310に導入される。
【0037】
また、蒸発器310には、改質・加熱器330のハウジング335(後述)から蒸発器310へ排ガスEGを送り出すための排ガス中継流路226と、蒸発器310から改質・加熱器330の改質器331(後述)へ混合ガスを送り出すための混合ガス流路228と、蒸発器310から排ガスEGを排出するための排ガス排出流路223とが接続されている。これらの流路は、主として配管により構成されている。
【0038】
改質・加熱器330は、改質器331と、燃焼器333と、ハウジング335とを備える。ハウジング335は、例えば金属により形成された密閉型の容器であり、改質器331および燃焼器333を収容している。ハウジング335は、内壁336と外壁337とを有する二重壁構造に構成されており、内壁336と外壁337との間に形成された空気流路338には、伝熱用フィン339が配置されている。なお、
図1では、便宜的に、伝熱用フィン339の一部の図示を省略している。ハウジング335には、酸化剤ガスOG(空気)を導入するための空気導入流路271が接続されている。空気導入流路271は、主として配管により構成されており、空気導入流路271上には流量制御機構272が設けられている。空気導入流路271に供給された酸化剤ガスOGは、流量制御機構272により制御された流量でハウジング335の空気流路338に導入される。また、ハウジング335には、燃料電池スタック100の酸化剤ガス供給マニホールド161に向けて酸化剤ガスOGを送り出すための空気極側ガス供給流路61が接続されている。空気極側ガス供給流路61は、主として配管により構成されている。
【0039】
改質器331は、内部に空間が形成された箱形部材であり、例えば金属により形成されている。改質器331は、原燃料ガスRFGを改質して燃料ガスFGを生成するための装置である。改質器331内には、改質反応を促進させる触媒が配置されていてもよい。上述したように、改質器331には、蒸発器310から改質器331へ混合ガスを送り出すための混合ガス流路228が接続されている。また、改質器331には、燃料電池スタック100の燃料ガス供給マニホールド171に向けて燃料ガスFGを送り出すための燃料極側ガス供給流路71が接続されている。燃料極側ガス供給流路71は、主として配管により構成されている。
【0040】
燃焼器333は、内部に空間が形成された箱形部材であり、例えば金属により形成されている。燃焼器333は、酸化剤オフガスOOGおよび燃料オフガスFOGを燃焼させるための装置である。燃焼器333内には、酸化剤オフガスOOGおよび燃料オフガスFOGの燃焼を促進させる触媒が配置されていてもよい。燃焼器333には、燃料電池スタック100の酸化剤ガス排出マニホールド162から酸化剤オフガスOOGが送り出される空気極側ガス排出流路240と、燃料電池スタック100の燃料ガス排出マニホールド172から燃料オフガスFOGが送り出される燃料極側ガス排出流路230とが接続されている。これらの流路は、主として配管により構成されている。
【0041】
A-4.燃料電池システム10の動作:
次に、燃料電池システム10の動作について説明する。
図1に示すように、空気導入流路271を介して改質・加熱器330のハウジング335に形成された空気流路338内に導入された酸化剤ガスOGは、燃焼器333によって生成された燃焼熱(排ガスEG)によって加熱されつつ空気流路338内を流れ、空気極側ガス供給流路61を介して燃料電池スタック100の酸化剤ガス供給マニホールド161に供給される。
図2に示すように、酸化剤ガス供給マニホールド161に供給された酸化剤ガスOGは、酸化剤ガス供給マニホールド161から、各発電単位102の酸化剤ガス供給連通流路132を介して空気室166に供給される。また、
図1に示すように、原燃料ガス導入流路261を介して蒸発器310に原燃料ガスRFGが供給されると共に、純水導入流路251を介して蒸発器310に純水PWが供給されると、蒸発器310において、排ガス中継流路226を介して導入された排ガスEGの熱を利用して純水PWを蒸発させることにより水蒸気が生成されると共に、この水蒸気が原燃料ガスRFGと混合される。水蒸気と混合された原燃料ガスRFGは、混合ガス流路228を介して蒸発器310から改質器331に導入され、改質器331において水蒸気改質され、その結果、水素リッチな燃料ガスFGが生成される。生成された燃料ガスFGは、燃料極側ガス供給流路71を介して燃料電池スタック100の燃料ガス供給マニホールド171に供給される。
図3に示すように、燃料ガス供給マニホールド171に供給された燃料ガスFGは、燃料ガス供給マニホールド171から、各発電単位102の燃料ガス供給連通流路142を介して燃料室176に供給される。
【0042】
各発電単位102の空気室166に酸化剤ガスOGが供給され、燃料室176に燃料ガスFGが供給されると、各発電単位102の単セル110において酸化剤ガスOGに含まれる酸素と燃料ガスFGに含まれる水素との電気化学反応による発電が行われる。この発電反応は発熱反応である。各発電単位102において、単セル110の空気極114は空気極側集電体134を介して一方のインターコネクタ150に電気的に接続され、燃料極116は燃料極側集電体144を介して他方のインターコネクタ150に電気的に接続されている。また、燃料電池スタック100に含まれる複数の発電単位102は、電気的に直列に接続されている。そのため、燃料電池スタック100の出力端子(図示せず)から、各発電単位102において生成された電気エネルギーが取り出される。なお、SOFCは、比較的高温(例えば700℃から1000℃)で発電が行われる。
【0043】
図1および
図2に示すように、各発電単位102の空気室166から酸化剤ガス排出連通流路133を介して酸化剤ガス排出マニホールド162に排出された酸化剤オフガスOOGは、空気極側ガス排出流路240を介して燃焼器333に導入される。また、
図1および
図3に示すように、各発電単位102の燃料室176から燃料ガス排出連通流路143を介して燃料ガス排出マニホールド172に排出された燃料オフガスFOGは、燃料極側ガス排出流路230を介して燃焼器333に導入される。燃焼器333に導入された酸化剤オフガスOOGおよび燃料オフガスFOGは、燃焼器333において混合されて燃焼され、その後、排ガスEGとして排ガス中継流路226を介して蒸発器310へと排出される。なお、燃焼器333において発生する熱により、改質器331における改質反応が促進されると共に、燃料電池スタック100が加熱される。蒸発器310に導入された排ガスEGは、排ガス排出流路223を介して貯湯ユニット290に排出され、給水源から給水用流路259を介して貯湯ユニット290に供給された水WAの加熱に利用される。
【0044】
なお、酸化剤ガスOGは、特許請求の範囲における第1のガスの一例であり、燃料ガスFGは、特許請求の範囲における第2のガスの一例である。空気導入流路271と空気流路338と空気極側ガス供給流路61と酸化剤ガス供給マニホールド161と酸化剤ガス供給連通流路132とは、特許請求の範囲における第1のガス供給流路の一例である。混合ガス流路228と燃料極側ガス供給流路71と燃料ガス供給マニホールド171と燃料ガス供給連通流路142とは、特許請求の範囲における第2のガス供給流路の一例である。酸化剤ガス排出連通流路133と酸化剤ガス排出マニホールド162と空気極側ガス排出流路240とは、特許請求の範囲における第1のガス排出流路の一例である。燃料ガス排出連通流路143と燃料ガス排出マニホールド172と燃料極側ガス排出流路230とは、特許請求の範囲における第2のガス排出流路の一例である。空気室166と上記第1のガス供給流路および第1のガス排出流路の一例である流路は、特許請求の範囲における空気極側ガス流路の一例である。燃料室176と上記第2のガス供給流路および第2のガス排出流路の一例である流路は、特許請求の範囲における燃料極側ガス流路の一例である。これらの各流路と燃料電池スタック100と補助器300とは、特許請求の範囲における電気化学反応モジュールの一例である。
【0045】
流量制御機構272は、上述したように、空気極側ガス流路(空気極側ガス供給流路61、酸化剤ガス供給連通流路132)に供給される酸化剤ガスOGの流量を制御する機構であり、特許請求の範囲における第1の流量制御部の一例である。流量制御機構256および流量制御機構262は、燃料極側ガス流路(純水導入流路251、原燃料ガス導入流路261)に供給される水WAおよび原燃料ガスRFGを制御することにより、燃料極側ガス流路(燃料極側ガス供給流路71、燃料ガス排出連通流路143)に供給される燃料ガスFGの流量を制御する機構であり、特許請求の範囲における第2の流量制御部の一例である。
【0046】
A-5.酸化剤ガスOGおよび燃料ガスFGの流量を調整するための構成:
図1に示すように、燃料電池システム10は、酸化剤ガスOGおよび燃料ガスFGの流量を調整するための構成として、流量制御機構272、流量制御機構256および流量制御機構262に加えて、空気極側圧力計510と、燃料極側圧力計520と、温度計530と、制御部700とを備える。
【0047】
空気極側圧力計510は、空気極側ガス流路の内、例えば空気極側ガス供給流路61に設けられており、空気極側ガス流路の圧力を測定する。燃料極側圧力計520は、燃料極側ガス流路の内、例えば燃料極側ガス供給流路71に設けられており、燃料極側ガス流路の圧力を測定する。温度計530(例えば熱電対)は、例えば燃料電池スタック100の近傍に配置され、燃料電池スタック100の温度(以下、「スタック温度」ともいう)を測定する。なお、空気極側圧力計510は、特許請求の範囲における第1の圧力測定部の一例であり、燃料極側圧力計520は、特許請求の範囲における第2の圧力測定部の一例である。
【0048】
制御部700は、CPU710と、メモリ720とを有し、外部の電源(図示しない)から電力供給されることにより動作可能になる。メモリ720には、燃料電池システム10を制御するための制御プログラムや、各種設定等が記憶されている。CPU710は、メモリ720から読み出したプログラム等に従って、燃料電池システム10の各構成要素を制御する。例えば、制御部700は、流量制御機構272を制御して空気極側流路に供給する酸化剤ガスOGの流量を調整する。また、制御部700は、流量制御機構256と流量制御機構262との少なくとも一方を制御して燃料極側流路に供給する燃料ガスFGの流量を調整する。また、制御部700は、温度計530からの検出信号に基づき、スタック温度を取得する(
図1では、制御部700と温度計530との間の信号線が省略されている)。
【0049】
A-6.空冷制御処理:
制御部700は、所定の停止条件(例えば外部機器等から停止指示を受けたり、燃料電池システム10の異常を検知したりすること)が満たされた場合、
図4に示す冷却制御処理を実行する。冷却制御処理は、空気極側ガス流路(上記第1のガス供給流路の一例である構成)に供給する酸化剤ガスOGの流量(単位時間あたり流量)を増大させて燃料電池システム10(燃料電池スタック100)を早期に冷却させるための処理である。本実施形態では、燃料電池スタック100の運転(発電)停止時に実行される冷却制御処理について説明する。
【0050】
図4は、冷却制御処理を示すフローチャートである。
図4に示すように、制御部700は、燃料電池スタック100の運転(発電反応)を停止させるための運転停止処理を開始する(S110)。運転停止処理の開始以降に、制御部700は、温度計530による測定結果に基づきスタック温度を取得し(S120)、そのスタック温度が基準温度以下であるか否かを判断する(S130)。基準温度は、燃料電池スタック100の運転時よりも低い温度であり、例えば燃料電池スタック100の運転(発電反応)がほぼ完全に停止したとみなすことができる燃料電池スタック100の温度(例えば100℃)である。
【0051】
制御部700は、スタック温度が基準温度よりも高いと判断した場合(S130:NO)、空気極側ガス流路と燃料極側ガス流路との圧力差(以下、単に「ガス圧力差」ということがある)を取得する(S140)。制御部700は、空気極側圧力計510による空気極側ガス流路の圧力の測定結果と、燃料極側圧力計520による燃料極側ガス流路の圧力の測定結果とに基づき、ガス圧力差を取得する。
【0052】
次に、制御部700は、ガス圧力差が基準値以上であるか否かを判断する(S150)。基準値は、所定の範囲の上限値よりも小さい値(所定の範囲の下限値よりも上限値寄りの値)である。所定の範囲とは、例えば、燃料電池システム10における各ガス流路におけるガスの流通に影響を与えないガス圧力差の上限値以下の範囲(許容範囲)である。特に、本実施形態の燃料電池スタック100では、上述したように、単セル用セパレータ120とIC用セパレータ180とによって、空気室166と燃料室176とが区画されている(
図2および
図3参照)。このため、例えば空気極側ガス流路(空気室166)の圧力が、燃料極側ガス流路(燃料室176)の圧力に対して過度に大きくなると、平板部材である単セル用セパレータ120やIC用セパレータ180が燃料室176側に撓むことに起因して、燃料室176のガス流路が狭くなってガス流通性が低下したり、単セル用セパレータ120やIC用セパレータ180が破損したりするおそれがある。所定の範囲は、このような問題が生じないガス圧力差の範囲に設定されることが好ましい。
【0053】
制御部700は、ガス圧力差が基準値未満であると判断した場合(S150:NO)、流量制御機構272を制御して空気極側流路に供給する酸化剤ガスOGの流量(単位時間あたりの流量)を、例えば所定時間だけ増加させる(S180)。空気極側流路に供給する酸化剤ガスOGの温度は、燃料電池スタック100の発電温度よりも低いため、空気極側流路に供給する酸化剤ガスOGの流量が増加するほど、酸化剤ガスOGによる単位時間あたりの冷却効果(吸熱容量)が向上するため、スタック温度の低下速度を速くすることができる。
【0054】
ここで、S180では、酸化剤ガスOGの流量増加制御中の少なくとも一部の期間において、燃料極側ガス流路(燃料極側ガス供給流路71、燃料ガス排出連通流路143)に供給される燃料ガスFGの流量を減少させる。具体的には、制御部700は、流量制御機構262を制御して燃料ガスFGの流量を減少させる。燃料極側ガス流路に供給される燃料ガスFGの流量が減少すれば、燃焼器333の燃焼に利用される燃料が低減するため、やはりスタック温度の低下に貢献する。
【0055】
制御部700は、S180の酸化剤ガスOGの流量増加制御の実行後、S120に戻る。そして、制御部700は、スタック温度を取得し(S120)、スタック温度が基準温度よりも高く(S130:NO)、ガス圧力差が基準値未満であると判断した場合(S150:NO)、再度、酸化剤ガスOGの流量増加制御(S180)を実行する。このとき、一(例えば初回目)の流量増加制御では、第1の増加率で酸化剤ガスOGの流量を増加させ、その後に、他(例えば2回目以降)の流量増加制御では、第1の増加率よりも低い第2の増加率で酸化剤ガスOGの流量を増加させてもよい。ここでいう「増加率」は、単位時間当たりの流量の増加量である。上記一の流量増加制御は、特許請求の範囲における第1の増加制御の一例であり、上記他の流量増加制御は、特許請求の範囲における第2の増加制御の一例である。
【0056】
一方、制御部700は、ガス圧力差が基準値以上であると判断した場合(S150:YES)、流量制御機構272を制御して、空気極側流路に供給する酸化剤ガスOGの流量の増加制御を停止し、酸化剤ガスOGの流量を変更せずに維持しつつ(S160)、S120に戻る。また、制御部700は、S130で、スタック温度が基準温度以下であると判断した場合(S130:YES)、燃料電池スタック100の冷却が完了したとして、運転停止処理を終了し(S170)、本冷却制御処理を終了する。なお、S160の処理において、酸化剤ガスOGの流量の増加制御を停止した後に、酸化剤ガスOGの流量を減少させてもよい。
【0057】
A-7.本実施形態の効果:
以上説明したように、燃料電池システム10では、制御部700は、第1の圧力測定部(空気極側ガス供給流路61)による圧力測定結果に基づき、空気極側ガス流路の少なくとも一部と燃料極側ガス流路の少なくとも一部との圧力差(ガス圧力差)を所定の範囲内に維持しつつ(
図4のS140,S150)、第1の流量制御部(流量制御機構272)を制御して第1のガス供給流路(酸化剤ガス供給連通流路132等)に供給する酸化剤ガスOGの流量を増加させる(S180)。そのため、本実施形態によれば、例えば、空気極側ガス流路の圧力測定結果を利用しない構成に比べて、空気極側ガス流路と燃料極側ガス流路とのガス圧力差に起因する不具合の発生を抑制しつつ、電気化学反応モジュール(燃料電池スタック100)を冷却させることができる。
【0058】
本実施形態によれば、空気室166に供給する酸化剤ガスOGの増加制御に加えて、燃料室176に供給する燃料ガスFGの流量の減少制御を実施してもよい。これにより、燃料電池スタック100を、より効果的に冷却させることができる。
【0059】
本実施形態によれば、空気室166に供給する酸化剤ガスOGの圧力測定結果に加えて、燃料室176に供給する燃料ガスFGの圧力測定結果も利用することにより(
図4のS140)、ガス圧力差を所定の範囲内に、より確実に維持することができる。
【0060】
本実施形態によれば、ガス圧力差が基準値以上になった場合に(
図4のS150:YES)、酸化剤ガスOGの流量の増加制御が停止されるため(S160)、酸化剤ガスOGの増加制御中において、ガス圧力差が所定の範囲を超えることを、より確実に抑制することができる。
【0061】
本実施形態では、空気室166に供給する酸化剤ガスOGを、相対的に高い第1の増加率で増加させ、次に、相対的に低い第2の増加率で増加させてもよい。これにより、本実施形態によれば、例えば、酸化剤ガスOGを常時低い増加率で増加させる構成に比べて、早期に酸化剤ガスOGの流量を増加させて電気化学反応モジュールを効果的に冷却させることができる。
【0062】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0063】
上記実施形態における燃料電池システム10の構成や燃料電池システム10を構成する各部分の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態において、空気極側圧力計510は、空気極側ガス流路の内、空気極側ガス供給流路61以外の流路(例えば空気導入流路271における断熱材350の内側あるいは外側)に設けられてもよいし、空気極側ガス流路の供給側に限らず、排出側の流路(例えば空気極側ガス排出流路240)に設けられてもよい。また、燃料極側圧力計520は、燃料極側ガス流路の内、燃料極側ガス供給流路71以外の流路(例えば混合ガス流路228、原燃料ガス導入流路261における断熱材350の内側あるいは外側)に設けられてもよいし、燃料極側ガス流路の供給側に限らず、排出側の流路(例えば燃料極側ガス排出流路230)に設けられてもよい。
【0064】
上記実施形態の燃料電池スタック100では、単セル用セパレータ120とIC用セパレータ180とは、下側に突出するように湾曲した形状であったが、上側に突出するように湾曲した形状でもよいし、突出部分を有しない平坦状でもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、燃料ガスに含まれる水素と酸化剤ガスに含まれる酸素との電気化学反応を利用して発電を行う燃料電池スタック100を対象としているが、本明細書に開示される技術は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形電解セル(SOEC)の構成単位である電解単セルを複数備える電解セルスタックにも同様に適用可能である。この場合、空気極側流路に流れるガスは、空気であり、この空気が特許請求の範囲における第1のガスの一例である。また、燃料極側流路に流れるガスは、水蒸気および水素の少なくとも一方を含むガスであり、この水蒸気および水素の少なくとも一方を含むガスが特許請求の範囲における第2のガスの一例である。
【0066】
上記実施形態では、固体酸化物形燃料電池(SOFC)を例に説明したが、本明細書に開示される技術は、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)といった他のタイプの燃料電池にも適用可能である。
【0067】
上記実施形態における冷却制御処理(
図4)等の内容は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、燃料電池スタック100の運転停止時に実行される冷却制御処理を説明したが、例えばスタック温度が所定の温度(例えば燃料電池スタック100の通常の運転時よりも高い上限温度)より高くなったと判断された場合に実行される冷却制御処理(
図4のS120~S180)でもよい。例えば、燃料電池スタック100が低出力発電から高出力発電に移行すると、燃料電池スタック100に流れる電流が急増して発熱することによりスタック温度がオーバーシュートするおそれがある。このため、スタック温度が所定の温度(例えば燃料電池スタック100の通常の運転時よりも高い上限温度)より高くなったときに冷却制御処理を実行することにより、スタック温度のオーバーシュートの発生を抑制することができる。このとき、
図4に示す冷却制御処理に対して、制御部700は、S130で、スタック温度が基準温度以下であると判断した場合(S130:YES)、S120に戻り、冷却制御処理を続行することが好ましい。
【0068】
上記実施形態の
図4のS140において、制御部700は、燃料極側圧力計520による燃料極側ガス流路の圧力の測定結果を用いず、空気極側圧力計510による空気極側ガス流路の圧力の測定結果に基づき、ガス圧力差を取得(推定)してもよい。例えば、制御部700は、空気極側圧力計510による空気極側ガス流路の圧力の測定結果と、燃料極側ガス流路の圧力の理論値(例えば実験等により予め求められた理論値(固定値、運転停止処理の開始時からの時間経過に応じた変更値)とに基づき、ガス圧力差を取得してもよい。この場合、燃料極側ガス流路に圧力計(燃料極側圧力計520)を設ける必要がない。また、空気極側圧力計510の測定結果や燃料極側圧力計520の測定結果と、実験的に得られたデータとに基づいて、圧力の測定箇所とは異なる部位の差圧(例えばセパレータ120,180を介して隣り合う燃料室176と空気室166との差圧)を算出してもよい。
【0069】
上記実施形態では、流量増加制御(
図4のS180)において、酸化剤ガスOGの増加率を低下させたが、これに限らず、例えば一の流量増加制御において、酸化剤ガスOGの増加率を、連続的または段階的に増加させてもよい。スタック温度の低下に伴い、空気極側ガス流路中の酸化剤ガスOGの体積が小さくなるため、その分、ガス圧力差が小さくなるため、酸化剤ガスOGの増加率をさらに増加させることができる。また、制御部700は、ガス圧力差に応じて酸化剤ガスOGの増加率を変更してもよい(例えばガス圧力差が小さいほど、酸化剤ガスOGの増加率を高くしてもよい)。
【0070】
上記冷却制御処理(
図4)において、制御部700は、酸化剤ガスOGの流量の増加制御(S180)の開始後、燃焼器333による燃焼炎が形成される燃焼空間の温度が、燃焼器333により形成される燃焼炎の失火が発生する第2の温度(例えば250℃)以下(例えば、スタック温度が200℃)になったことを条件に、第2の流量制御部(流量制御機構256,262)を制御し燃料曲側ガス供給流路に供給する燃料ガスFGの流量を増加させてもよい。このとき、燃焼器333による燃焼炎が形成される燃焼空間の温度は、特許請求の範囲における燃焼器の温度に相関する部材の温度の一例である。例えば燃焼器333の近傍に温度計を配置して、燃焼器333の温度を直接測定してもよい。これにより、燃料ガスFGの流量の増加に伴う燃焼器333での燃焼による発熱の増加を抑制した状態で、燃料ガスFGによって電気化学反応モジュールを効果的に冷却することができる。燃焼器の温度に相関する部材としては、燃料電池スタック100に限らず、例えば改質器331等でもよい。
【0071】
上記実施形態において、ハードウェアによって実現されている構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、反対に、ソフトウェアによって実現されている構成の一部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0072】
10:燃料電池システム 61:空気極側ガス供給流路 71:燃料極側ガス供給流路 100:燃料電池スタック 102:発電単位 108:連通孔 110:単セル 112:電解質層 114:空気極 116:燃料極 120:単セル用セパレータ 121,181:貫通孔 124:接合部 126,186:内側部 127,187:外側部 128,188:連結部 130:空気極側フレーム部材 131:空気室用孔 132:酸化剤ガス供給連通流路 133:酸化剤ガス排出連通流路 134:空気極側集電体 140:燃料極側フレーム部材 141:燃料室用孔 142:燃料ガス供給連通流路 143:燃料ガス排出連通流路 144:燃料極側集電体 145:電極対向部 146:インターコネクタ対向部 149:スペーサ 150:インターコネクタ 161:酸化剤ガス供給マニホールド 162:酸化剤ガス排出マニホールド 166:空気室 171:燃料ガス供給マニホールド 172:燃料ガス排出マニホールド 176:燃料室 180:IC用セパレータ 223:排ガス排出流路 226:排ガス中継流路 228:混合ガス流路 230:燃料極側ガス排出流路 240:空気極側ガス排出流路 251:純水導入流路 252:イオン交換樹脂 254:浄水タンク・フロート 256,262,272:流量制御機構 259:給水用流路 261:原燃料ガス導入流路 264:水素添加脱硫器 271:空気導入流路 290:貯湯ユニット 300:補助器 310:蒸発器 330:改質・加熱器 331:改質器 333:燃焼器 335:ハウジング 336:内壁 337:外壁 338:空気流路 339:伝熱用フィン 350:断熱材 351:断熱空間 510:空気極側圧力計 520:燃料極側圧力計 530:温度計 700:制御部 710:CPU 720:メモリ EG:排ガス FG:燃料ガス FOG:燃料オフガス OG:酸化剤ガス OOG:酸化剤オフガス PW:純水 RFG:原燃料ガス WA:水