(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064360
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】異常判定装置
(51)【国際特許分類】
G05B 19/18 20060101AFI20240507BHJP
G05B 19/418 20060101ALI20240507BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
G05B19/18 X
G05B19/418 Z
B23Q17/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172892
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石榑 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】中野 浩之
(72)【発明者】
【氏名】米津 寿宏
【テーマコード(参考)】
3C029
3C100
3C269
【Fターム(参考)】
3C029EE01
3C100AA22
3C100AA27
3C100AA29
3C100AA57
3C100AA63
3C100AA70
3C100BB13
3C100BB15
3C100BB19
3C100BB27
3C269AB01
3C269BB12
3C269CC02
3C269CC15
3C269MN27
3C269MN29
3C269PP02
(57)【要約】
【課題】生産設備又は生産設備により生産される工作物の異常判定の精度向上が図られるとともに、異常判定を早期に行うことができる異常判定装置を提供する。
【解決手段】異常判定装置2は、生産設備1の機械状態又は工作物Wの加工状態にかかる波形データを取得する波形データ取得部201と、波形データから工作物Wの加工工程単位の波形データを抽出する抽出部203と、抽出済み波形データと上記機械状態又は上記加工状態にかかる統計量に基づいたマスター波形データとを比較して抽出済み波形データの時間情報を補正する時間補正部204と、補正済み波形データとマスター波形データとに基づいて統計量を更新する統計量更新部205と、更新済み統計量に基づいて閾値を調整する閾値調整部211と、補正済み波形データと閾値との比較結果に基づいて生産設備1又は工作物Wの異常判定を行う異常判定部213とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生産設備又は上記生産設備により生産される工作物の異常判定を行う異常判定装置であって、該異常判定装置における動作フェーズは、上記異常判定のための閾値を調整する閾値調整フェーズと、上記異常判定を行うための判定フェーズとを含み、
上記生産設備の機械状態又は上記工作物の加工状態にかかる波形データを取得する波形データ取得部と、
上記波形データ取得部で取得された波形データから、上記工作物の加工工程単位の波形データを抽出する抽出部と、
上記閾値調整フェーズであるときに、上記抽出部により抽出された上記波形データに基づいて算出された統計量を記憶する統計量記憶部と、
上記抽出部により抽出された上記波形データと、上記統計量記憶部に記憶された統計量から導出されたマスター波形データとを比較して時間ずれ量を算出し、該時間ずれ量に基づいて上記抽出部により抽出された上記波形データの時間情報を補正する時間補正部と、
上記閾値調整フェーズであるときに、上記時間情報が補正された上記波形データと上記マスター波形データとに基づいて上記統計量を更新する統計量更新部と、
上記更新された上記統計量に基づいて、上記異常判定の上記閾値を調整する閾値調整部と、
上記判定フェーズであるときに、上記時間情報が補正された波形データと上記調整された閾値とを比較する比較部と、
上記比較部の比較結果に基づいて、上記異常判定を行う異常判定部と、
を備える、異常判定装置。
【請求項2】
上記統計量記憶部に記憶された上記統計量は、上記閾値調整フェーズにおいて上記波形データ取得部が取得した複数の上記波形データから算出された時間ごとの平均値と標準偏差を含み、
上記マスター波形データは上記平均値をつなぎ合わせてなる波形を示すデータであって、上記閾値は上記マスター波形データと上記標準偏差とを用いて規定される、請求項1に記載の異常判定装置。
【請求項3】
上記生産設備は上記工作物を加工するための工具を有する工作機械を含み、上記異常判定部は上記異常判定として上記工具の異常判定を行う、請求項1又は2に記載の異常判定装置。
【請求項4】
上記異常判定部の判定結果に基づいて、上記工作機械又は上記工作機械に備えられた部品の劣化状態を推定する劣化状態推定部を含む、請求項3に記載の異常判定装置。
【請求項5】
上記異常判定部は、上記異常判定として上記生産設備により生産される上記工作物の加工状態の異常判定を行う、請求項1又は2に記載の異常判定装置。
【請求項6】
上記統計量更新部は、上記閾値調整フェーズにおいて、上記波形データ取得部が上記波形データを取得するごとに上記統計量の更新を行う、請求項1又は2に記載の異常判定装置。
【請求項7】
上記異常判定装置における動作フェーズを、上記閾値調整フェーズと上記判定フェーズのいずれかに切り替えるフェーズ切替部を備える、請求項1又は2に記載の異常判定装置。
【請求項8】
上記フェーズ切替部は、上記閾値調整フェーズにおいて、上記統計量更新部における上記統計量の更新が所定回数行われたときに上記判定フェーズに切り替える、請求項7に記載の異常判定装置。
【請求項9】
上記異常判定装置が上記閾値調整フェーズ又は上記判定フェーズのいずれであるかを示すフェーズ表示部を備える、請求項1又は2に記載の異常判定装置。
【請求項10】
上記抽出部における上記加工工程単位は、上記工作物を加工する際の上記生産設備に備えられた工具の変更タイミング、又は、上記工作物を加工する際の上記工作物における加工位置の変更タイミングに基づいて規定される、請求項1又は2に記載の異常判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数の予測器を用いて生産設備の状態を予測判定する構成が開示されている。当該構成では、作成された工作物が良品か否かの判定結果を蓄積して、複数の予測器におけるパラメータを再設定して更新することにより予測の精度を向上している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、生産設備の状態は工作物の加工工程ごとに変化する。そのため、特許文献1に開示の構成では、予測器のパラメータの更新は工作物の良品判定の結果を取得した後に行うため、予測器における更新が遅れてしまう場合があり、工作機械の機械状態や工作物の加工状態の異常判定の精度を向上するには改善の余地がある。また、特許文献1に開示の構成では、異常判定を行うに際して、工作物の良品判定の結果を待つ必要があるため、異常判定を早期に行うには改善の余地がある。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、生産設備又は生産設備により生産される工作物の異常判定の精度向上が図られるとともに、異常判定を早期に行うことができる異常判定装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、生産設備又は上記生産設備により生産される工作物の異常判定を行う異常判定装置であって、該異常判定装置における動作フェーズは、上記異常判定のための閾値を調整する閾値調整フェーズと、上記異常判定を行うための判定フェーズとを含み、
上記生産設備の機械状態又は上記工作物の加工状態にかかる波形データを取得する波形データ取得部と、
上記波形データ取得部で取得された波形データから、上記工作物の加工工程単位の波形データを抽出する抽出部と、
上記閾値調整フェーズであるときに、上記抽出部により抽出された上記波形データに基づいて算出された統計量を記憶する統計量記憶部と、
上記抽出部により抽出された上記波形データと、上記統計量記憶部に記憶された統計量から導出されたマスター波形データとを比較して時間ずれ量を算出し、該時間ずれ量に基づいて上記抽出部により抽出された上記波形データの時間情報を補正する時間補正部と、
上記閾値調整フェーズであるときに、上記時間情報が補正された上記波形データと上記マスター波形データとに基づいて上記統計量を更新する統計量更新部と、
上記更新された上記統計量に基づいて、上記異常判定の上記閾値を調整する閾値調整部と、
上記判定フェーズであるときに、上記時間情報が補正された波形データと上記調整された閾値とを比較する比較部と、
上記比較部の比較結果に基づいて、上記異常判定を行う異常判定部と、
を備える、異常判定装置にある。
【発明の効果】
【0007】
上記一態様によれば、閾値調整フェーズにおいて更新された統計量に基づいて、判定フェーズにおける異常判定を行うための閾値が調整されるため、最終的な工作物の良品判定の結果を待つことなく、生産設備の状態の変化を判定フェーズにおける異常判定に早期に反映させることができる。そのため、生産設備の状態の変化に応じて生産設備又は工作物の異常判定を高精度に行うことができるとともに、異常判定を早期に行うことができる。
【0008】
以上のごとく、上記態様によれば、生産設備又は生産設備により生産される工作物の異常判定の精度向上が図られるとともに、異常判定を早期に行うことができる異常判定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1における、生産設備である工作機械及び異常判定装置の斜視概念図。
【
図2】実施形態1における、異常判定装置の構成を示すブロック図。
【
図3】実施形態1における、工作物の加工状態を説明する概念図。
【
図4】実施形態1における、工作物の加工工程の例を説明するフロー図。
【
図5】実施形態1における、工作物の加工工程の例における波形データの例を示す図。
【
図6】実施形態1における、異常判定を説明するフロー図。
【
図7】実施形態1における、(a)閾値調整フェーズにおける波形データの例を示す概念図、(b)マスター波形データ及び閾値の例を示す概念図。
【
図8】実施形態1における、判定フェーズにおける判定用波形データと閾値の例を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態1)
異常判定装置2は、生産設備1又は生産設備1により生産される工作物Wの異常判定を行う。まず、以下に、
図1を参照して異常判定の対象となる生産設備1について説明する。
【0011】
1.生産設備1の概要
異常判定の対象の生産設備1は、加工により工作物を生産するための設備である。加工の種類は限定されず、除去加工、成形加工、付加製造などを例示できる。生産設備1は、除去加工を行うものとして工作機械、成形加工を行うものとして射出加工を行う射出成形機やプレス成形機械をそれぞれ例示できる。本実施形態では、異常判定の対象の生産設備1として工作機械1を例にあげる。ただし、対象の生産設備1は、上述したように、生産設備1の他の機械を適用することができる。
【0012】
工作機械1は、工作物Wを加工する機械であって、切削加工、研削加工等、種々の加工を行うものであって、本実施形態1では、工作機械1は、
図1に示すように、切削加工を行うマシニングセンタを例にあげる。
【0013】
図1に示す工作機械1は、工具Tと工作物Wとを相対的に移動させることにより、工具Tによって工作物Wを加工する装置である。また、工作機械1は、工具交換可能に構成されており、装着された工具Tに応じた加工が可能である。例えば、交換可能な工具Tとしては、ドリル、エンドミル、フライス工具、旋削工具、ネジ切り工具、歯形創成工具等の切削工具、及び、研削工具等である。なお、
図1において、工具交換装置及び工具Tを保管する工具マガジンは、図示しない。また、本例では、工作機械1は、横形マシニングセンタを基本構成とするが、立形マシニングセンタ等、他の構成を適用することができる。
【0014】
図1に示すように、工作機械1は、例えば、相互に直交する3つの直進軸(X軸,Y軸,Z軸)を駆動軸として有する。ここで、工具Tの回転軸線(工具主軸の回転軸線に等しい)の方向をZ軸方向と定義し、Z軸方向に直交する2軸をX軸方向及びY軸方向と定義する。
図1においては、水平方向をX軸方向とし、鉛直方向をY軸方向とする。さらに、工作機械1は、さらに、工具Tと工作物Wとの相対姿勢を変更するための2つの回転軸(Cw軸及びB軸)を駆動軸として有する。また、工作機械1は、工具Tを回転するための回転軸としてのCt軸を有する。
【0015】
つまり、工作機械1は、自由曲面を加工可能な5軸加工機(工具主軸(Ct軸)を考慮すると6軸加工機となる)である。ここで、工作機械1は、Cw軸(基準状態においてZ軸回りの回転軸)及びB軸(基準状態においてY軸回りの回転軸)を有する構成に代えて、A軸(基準状態においてX軸回りの回転軸)及びB軸を有する構成としても良いし、Cw軸及びA軸を有する構成としても良い。
【0016】
工作機械1において、工具Tと工作物Wとを相対的に移動させる構成は、適宜選択可能である。本例では、工作機械1は、工具TをY軸方向及びZ軸方向に直動可能とし、工作物WをX軸方向に直動可能とし、さらに工作物WをCw軸回転及びB軸回転可能とする。また、工具Tは、Ct軸回転可能である。
【0017】
工作機械1は、ベッド10と、工作物保持装置20と、工具保持装置30とを備える。ベッド10は、略矩形状等の任意の形状に形成されており、床面に設置される。工作物保持装置20は、工作物Wをベッド10に対して、X軸方向に直動可能とし、Cw軸回転及びB軸回転可能とする。工作物保持装置20は、X軸移動テーブル21と、B軸回転テーブル22と、工作物主軸装置23とを主に備える。
【0018】
X軸移動テーブル21は、ベッド10に対してX軸方向に移動可能に設けられる。具体的に、ベッド10には、X軸方向(
図1前後方向)へ延びる一対のX軸ガイドレールが設けられ、X軸移動テーブル21は、図示しないリニアモータ又はボールねじ機構等の駆動装置によって駆動されることにより、一対のX軸ガイドレールに案内されながらX軸方向へ往復移動する。
【0019】
B軸回転テーブル22は、X軸移動テーブル21の上面に設置され、X軸移動テーブル21と一体的にX軸方向へ往復移動する。また、B軸回転テーブル22は、X軸移動テーブル21に対し、B軸回転可能に設けられる。B軸回転テーブル22には、図示しない回転モータが収納され、B軸回転テーブル22は、回転モータに駆動されることでB軸回転可能となる。
【0020】
工作物主軸装置23は、B軸回転テーブル22に設置され、B軸回転テーブル22と一体的にB軸回転する。工作物主軸装置23は、工作物WをCw軸回転可能に支持する。工作物主軸装置23は、工作物Wを回転させる回転モータ(図示せず)を備える。このようにして、工作物保持装置20は、工作物Wを、ベッド10に対して、X軸方向へ移動可能とし、且つ、Cw軸回転及びB軸回転可能とする。
【0021】
工具保持装置30は、コラム31と、サドル32と、工具主軸装置33とを主に備える。コラム31は、ベッド10に対してZ軸方向に移動可能に設けられる。具体的に、ベッド10には、Z軸方向(
図1左右方向)へ延びる一対のZ軸ガイドレールが設けられ、コラム31は、図示しないリニアモータ又はボールねじ機構等の駆動装置によって駆動されることにより、一対のZ軸ガイドレールに案内されながらZ軸方向へ往復移動する。
【0022】
サドル32は、コラム31における工作物W側の側面(
図1の左側面)であって、Z軸方向に直交する平面に平行な側面に配置される。このコラム31の側面には、Y軸方向(
図1の上下方向)へ延びる一対のY軸ガイドレールが設けられ、サドル32は、図示しないリニアモータ又はボールねじ機構等の駆動装置に駆動されることで、Y軸方向へ往復移動する。
【0023】
工具主軸装置33は、サドル32に設置されると共に、サドル32と一体的にY軸方向へ移動する。工具主軸装置33は、工具TをCt軸回転可能に支持する。工具主軸装置33は、工具Tを回転させる回転モータ(図示せず)を備える。このように、工具保持装置30は、工具Tを、ベッド10に対して、Y軸方向及びZ軸方向に移動可能とし、且つ、Ct軸回転可能に保持する。
【0024】
工作機械1は、工作機械1における加工中の機械状態又は工作物Wの加工状態に係るデータを検出するセンサ34を備える。センサ34は、工作機械1における駆動装置におけるモータの回転トルクを検出する電流センサ、加工中の音響を取得するマイクやAEセンサ、工作機械1における振動を取得する加速度センサ等とすることができ、本実施形態1では、工具主軸装置33において工具Tを回転させる回転モータの回転トルクを検出する電流センサが備えられている。
【0025】
工作機械1には、工作物主軸装置23及び工具主軸装置33における各駆動装置を制御する制御装置40が接続されている。制御装置40は、演算処理装置(プロセッサ)および記憶装置を備えており、加工プログラムを実行することにより、各駆動装置を制御する。つまり、制御装置40は、工具Tの回転、工作物Wの回転、工作物Wと工具Tとの相対的な移動を制御する。
【0026】
2.異常判定装置2の構成
図2を参照して異常判定装置2の構成について以下に説明する。異常判定装置2は、演算処理装置(プロセッサ)および記憶装置により構成され、
図2に示す、波形データ取得部201、波形データ記憶部202、抽出部203、時間補正部204、統計量更新部205、統計量記憶部206、更新回数記憶部207、フェーズ切替部208、フェーズ表示部209、判定用データ取得部210、閾値調整部211、比較部212、異常判定部213、劣化状態推定部214、フェーズ切替操作部215を備える。
【0027】
まず、
図2に示すように、異常判定装置2は動作フェーズFとして、異常判定のための閾値を調整する閾値調整フェーズF1と、異常判定を行うための判定フェーズF2とを含む。本実施形態では、異常判定装置2は動作フェーズFとして、後述するように閾値調整フェーズF1と判定フェーズF2との一方が選択されるように構成されている。
【0028】
波形データ取得部201は、センサ34により検出されたセンサデータを取得する。
本実施形態では、センサ34により検出された工具主軸装置33における主軸トルクの波形データを取得する。なお、波形データは、横軸に時間、縦軸に主軸トルクの値をプロットして描かれる波形として取得することができる。取得された波形データは波形データ記憶部202に記憶される。
【0029】
抽出部203は、波形データ取得部201で取得された波形データから、工作物Wの加工工程単位の波形データを抽出する。ここで、工作物Wの加工工程単位とは、例えば、複数種類の工具Tを交換しながら工作物Wの加工を行う場合には、各工具Tの使用期間を一つの加工単位とすることができる。すなわち、第1の工具としてドリルT1を使用し、第2の工具としてエンドミルT2を使用する場合は、ドリルT1を使用する期間を第1の加工工程とし、ドリルT1からエンドミルT2に交換してエンドミルT2を使用する期間を第2の加工工程とすることができる。また、工作物Wの加工工程単位について、ドリルT1を使用して複数の穴あけ加工をする場合、第1の穴あけ加工を第1の加工工程、第2の穴あけ加工を第2の加工工程、第3の穴あけ加工を第3の加工工程とすることもできる。
【0030】
時間補正部204は、抽出部203で抽出された波形データと、後述する統計量記憶部に記憶された統計量から導出されたマスター波形データとを比較する。そして、両者における時間ずれ量を算出し、該時間ずれ量に基づいて抽出部203で抽出された波形データ(抽出済み波形データ)の時間情報を補正する。時間ずれ量の算出方法は限定されないが、例えば、所定のプログラムを用いて、マスター波形データにおける少なくとも一部の期間の波形パターンが、抽出済み波形データに最もマッチングするように抽出された波形データの時間をずらした値を時間ずれ量とすることができる。そして、時間補正部204は、当該算出した時間ずれ量の分だけ、抽出済み波形データ全体の時間をずらすことにより、抽出済み波形データの時間補正を行う。
【0031】
統計量更新部205は、生産設備1が異常判定のための閾値を調整する閾値調整フェーズF1であるときに、時間補正部204により時間情報が補正された波形データ(時間補正済み波形データ)とマスター波形データとに基づいて、後述する統計量記憶部206に記憶された統計量を更新する。統計量更新部205による統計量を更新するタイミングは限定されないが、後述する閾値調整フェーズF1において波形データ取得部201が波形データを取得するごとに統計量を更新するようにすることができる。そして、更新された統計量を統計量として統計量記憶部206に記憶する。
【0032】
なお、統計量記憶部206は、統計量が更新される都度、上書き記憶して過去の統計量を保存しないようにしてもよいし、過去の統計量の一部又は全部を記憶した状態で、更新された統計量を最新の統計量として記憶することとしてもよい。本実施形態では、記憶量が無駄に増大することを防止するために、統計量が更新される都度、上書き記憶して過去の統計量を保存しないようにしている。
【0033】
ここで、統計量記憶部206に記憶された統計量は、閾値調整フェーズF1において波形データ取得部201が取得した複数の波形データから算出された時間ごとの平均値と標準偏差を含むものとすることができる。本実施形態では、閾値調整フェーズF1において波形データ取得部201が波形データを取得すると、統計量としての時間ごとの平均値及び標準偏差を更新し、波形データ取得部201が再度波形データを取得すると、波形データ記憶部202では前回の波形データに上書きして新たな波形データを記憶する。そして、統計量更新部205は、統計量記憶部206に記憶された統計量としての時間ごとの平均値及び標準偏差と新たな波形データとに基づいて、統計量としての時間ごとの平均値と標準偏差を更新することとしている。そして、統計量更新部205により統計量が更新された回数を更新回数記憶部207に記憶する。
【0034】
フェーズ切替部208は、異常判定装置2における動作フェーズFを閾値調整フェーズF1と判定フェーズF2のいずれかに切り替える。閾値調整フェーズF1は異常判定のための閾値を調整する動作フェーズであり、判定フェーズF2は異常判定を行うための動作フェーズである。本実施形態では、フェーズ切替部208は、更新回数記憶部207に記憶された統計量の更新回数に基づいて、異常判定装置2における動作フェーズFを閾値調整フェーズF1から判定フェーズF2に切り替えるように構成されている。
【0035】
例えば、異常判定装置2における初期の動作フェーズFは閾値調整フェーズF1に設定されており、フェーズ切替部208は、統計量の更新回数が予め設定された基準回数に到達したときに判定フェーズF2に切り替える。当該基準回数は限定されないが、50~1000回、好ましくは50~100回とすることができる。基準回数を多くすることで統計量の安定化が図れるが、基準回数を多くなりすぎると統計量の算出に用いられる波形データに異常データが含まれ易くなるとともに、異常判定を行うまでに時間がかかりすぎる場合がある。
【0036】
判定用データ取得部210は、判定フェーズF2において異常判定のための波形データ(判定用波形データ)を取得する。判定用データ取得部210は、時間補正部204により補正された波形データ(補正済み波形データ)を判定用波形データとして取得する。
【0037】
閾値調整部211は、更新された統計量に基づいて、異常判定の閾値を調整する。異常判定の閾値は、統計量として更新された上述の平均値をつなぎ合わせてなるマスター波形データと統計量として更新された上述の標準偏差σを用いて規定することができる。例えば、マスター波形データに対して、-nσを下限閾値とし、+mσを上限閾値(n、mは所定の実数)とすることができる。なお、nとmは同一であってもよい。例えば、閾値を、マスター波形データに対して、-3σを下限閾値及び+3σを上限閾値とすることができる。この場合は、後述の異常判定において、判定用波形データがマスター波形データに対して-3σ~+3σの範囲内となる確率は99.7%となる。
【0038】
比較部212は、異常判定装置2における動作フェーズFが異常判定を行うための判定フェーズF2であるときに、判定用波形データ(補正済み波形データ)と閾値調整部211により調整された閾値とを比較する。そして、異常判定部213において、比較部212の比較結果に基づいて、異常判定を行う。本実施形態では、異常判定部213は、比較部212の比較結果が、判定用波形データが下限閾値と上限閾値の範囲内にあることを示す場合は正常と判定し、判定用波形データが所定時間連続して下限閾値と上限閾値の範囲外にあることを示す場合は異常と判定する。
【0039】
異常判定部213における判定結果が異常であることを示す場合、生産設備1である工作機械1に異常が発生していると判定することができる。また、異常が発生した工作機械1により加工された工作物Wにおいて加工状態に異常があると推定することもできる。
【0040】
劣化状態推定部214は、異常判定部213における判定結果に基づいて、工作機械1又は工作機械1に備えられた部品の劣化状態を推定する。工作機械1に備えられた部品は、工具Tや工作機械1の工具主軸装置33や工作物主軸装置23に備えられた図示しない軸受機構などの劣化状態を推定することができる。
【0041】
フェーズ切替操作部215は、フェーズ切替部208による異常判定装置2における動作フェーズFの切り替えを操作することができる。例えば、初期の動作フェーズFが閾値調整フェーズF1であって、その後所定回数の統計量の更新が行われた結果、自動的に判定フェーズF2に切り替わった後、ユーザが任意のタイミングでフェーズ切替操作部215を操作することにより、動作フェーズFを再度閾値調整フェーズF1とすることができる。
【0042】
3.工作物Wの加工方法の例
工作機械1における加工方法の例を、
図3を参照して説明する。
図3に示すように、工作機械1における加工方法の例は、ドリルによる穴あけ加工あって、工作機械1の工具Tとしてドリルを用いて、工作物Wに穴あけ加工(切削加工)を行う場合である。工作機械1における加工方法は、穴あけ加工に限定されず、所定の工具Tに交換することにより他の加工方法を採用することができる。
【0043】
そして、本実施形態では、穴あけ加工の途中で、送り速度を変化させる場合とする。
図3において、加工初期の範囲Aでは、工具Tの送り速度を第一速度Vaとし、加工中期の範囲Bでは、工具Tの送り速度を第二速度Vbとし、加工終期の範囲Cでは、工具Tの送り速度を第三速度Vcとする。ここで、第一速度Vaと第三速度Vcは、同一とし、第二速度Vbは、第一速度Va及び第三速度Vcよりも高速としている。つまり、加工開始直後は、ゆっくり加工を行い、安定した後に高速加工を行い、加工終了深さに近づく前に速度を遅くする。
【0044】
すなわち、工具TとしてのドリルTによる一つの穴H1を形成する穴あけ加工工程DH1は
図4に示すように、まず、ステップS1において穴あけ位置への早送り近接行う。次いで、
図4のステップS2において第1速度Vaにて穴あけ加工を行い、ステップS3において第2速度Vbにて穴あけ加工を行い、ステップS4において第3速度Vcにて穴あけ加工を行う。その後、ステップS5において工具Tを形成した穴から脱出させる。
【0045】
一つの穴H1を形成する加工工程SH1において主軸トルクは、
図5に示すように、ステップS1に対応する第1期間S1では、工具Tの先端は工作物Wに接していないため主軸トルクは初期値となっている。ステップS2に対応する第2期間S2では、工作物Wへの接触と第1速度Vaへの主軸回転速度の上昇とにより主軸トルクが急激に上昇する。その後、ステップS3に対応する第3期間S3では、主軸回転速度が第1速度Vaから第2速度Vbに上昇するように変更されるのに伴って主軸トルクが不安定となるが次第に安定する。そして、ステップS4に対応する第4期間S4では、主軸回転速度が第2速度Vbから第3速度Vcに下降するように変更されるのに伴って主軸トルクが急激に減少する。ステップS5に対応する第5期間S5では、工具Tの脱出に伴って主軸トルクは一層低下して、脱出が完了すると主軸トルクは初期値に戻る。
【0046】
4.異常判定
本実施形態における異常判定装置2における異常判定について説明する。本実施形態では、
図2に示すように、工作物Wに対して、工具としてドリルTを用いて、穴あけ加工により第1の穴H1~第5の穴H5の計5個を形成する。その後、工具を図示しないエンドミルに交換して同一の工作物Wに溝加工を行う。
【0047】
本実施形態における異常判定装置2における異常判定のフローについて
図6を参照しながら説明する。まず、ステップS11において、波形データ取得部201により波形データを取得する。本実施形態では、波形データとしてセンサ34により工具主軸装置33における主軸トルクを取得する。そして、取得された波形データは図示しない平滑化などの前処理を行ったのち、波形データ記憶部202に記憶される。
【0048】
次いで、ステップS12において、抽出部203により、波形データ記憶部202に記憶された波形データから、工作物Wの加工工程単位での波形データを抽出する。本実施形態では、加工工程単位を同一の工具Tを使用して加工する期間、すなわち、工具Tとしてドリルの使用開始後、次のエンドミルに交換するまでの期間とする。すなわち、当該加工工程単位Dにおいて、
図7(a)に示すように、
図3に示す第1の穴H1が形成される期間D1、第2の穴H2が形成される期間D2、第3の穴H3が形成される期間D3、第4の穴H4が形成される期間D4及び第5の穴H5が形成される期間D5を含む。それゆえ、当該加工工程単位Dにおいて、当該工作物Wにおける5個の穴H1~H5が全て形成される。
【0049】
その後、ステップS13において、時間補正部204により、抽出済み波形データと、統計量記憶部206に記憶された統計量から導出されたマスター波形データとを比較して時間ずれ量を算出し、該時間ずれ量に基づいて抽出された波形データの時間情報を補正する。なお、当該ステップS13を初回に行う場合は、統計量記憶部206に統計量が記憶されておらず、マスター波形データが導出できないため、当該ステップS13をスキップし、ステップS14に進む。
【0050】
次いで、ステップS14において、フェーズ切替部208により、異常判定装置2の動作フェーズFが、閾値調整フェーズF1と判定フェーズF2のいずれであるか判定する。なお、動作フェーズFは閾値調整フェーズF1となっている。ステップS14においてF=F1としてステップS15に進み、動作フェーズFが閾値調整フェーズF1であると判定する。
【0051】
そして、ステップS16において、統計量更新部205により、時間情報が補正された波形データ(補正済み波形データ)とマスター波形データとに基づいて統計量を更新する。なお、初回は、統計量としての時間ごとの平均値を補正済み波形データの値とし、時間ごとの標準偏差を0とする。すなわち、補正済み波形データを初回のマスター波形データとする。
【0052】
次いで、ステップS17において、閾値調整部211により、更新された統計量に基づいて、異常判定の閾値を調整する。閾値の調整は、まず、
図7(a)に示すように、取得された補正済み波形データP1、P2、P3、P4、…Pnから、統計量として時間ごとの平均値と標準偏差σが算出され、
図7(b)に示すように、マスター波形データPMとして時間ごとの平均値をつなぎ合わせてなる波形のデータが作成される。そして、異常判定の閾値について、
図7(b)に示すように、マスター波形データPMに対して閾値の下限PMaとして-3σが設定され、上限PMbとして+3σが設定される。なお、
図7(a)に示す取得された複数の補正済み波形データP1、P2、P3、P4、…Pnは複数の工作物Wにおいて取得されたデータであって、後述するようにステップS11~ステップS18を繰り返すことで取得される。
【0053】
そして、ステップS18において、更新回数記憶部207に記憶された更新回数を1回加算する。また、フェーズ表示部209により、動作フェーズFが閾値調整フェーズF1であることを表示する。その後、ステップS19において、フェーズ切替部208により、更新回数記憶部207に記憶された更新回数が基準回数以上であるか否か判定する。更新回数が基準回数以上ではないと判定された場合はステップS18のNoに進み、再度ステップS11に戻る。これにより、更新回数記憶部207に記憶された更新回数が基準回数以上であると判定されるまで、ステップS11~ステップS18を繰り返す。
【0054】
一方、
図6に示すステップS18において、更新回数記憶部207に記憶された更新回数が基準回数以上であると判定された場合はステップS18のYesに進み、ステップS19において、フェーズ切替部208により、動作フェーズFを判定フェーズF2に切り替えて、再度ステップS11に戻り、ステップS12及びステップS13を行う。これにより、フェーズ表示部209により動作フェーズFが判定フェーズF2であることを表示する。そして、ステップS14において、動作フェーズFが判定フェーズF2であると判定され、ステップS20に進む。
【0055】
次いで、ステップS21において、比較部212により、補正済み波形データPxと、閾値PMa、PMbとを比較する。そして、ステップS22において、異常判定部213により、比較部212による比較結果が、
図8に示す符号Px1やPx2の箇所のように、補正済み波形データPxが、所定時間連続して閾値の下限PMaから上限PMbの範囲内にない場合、工作機械1に異常が生じていると判定する。また、補正済み波形データPxが、所定時間連続して閾値の下限PMaから上限PMbの範囲内にある場合は、工作機械1は正常であると判定する。
【0056】
その後、ステップS23において異常ありと判定された場合は、ステップS23のYesに進み、ステップS24において、劣化状態推定部214により、工作機械1又は工作機械1の工具Tの劣化状態を推定する。当該劣化状態の推定は、判定フェーズF2において、判定用波形データPxと閾値PMa、PMbとの比較結果に基づいて行うことができる。
【0057】
劣化状態推定部214による劣化状態の推定は、例えば、判定フェーズF2において、
図8の符号Px2で示す部分のように、判定用波形データPxが閾値下限PMaを大きく下回る場合には、主軸トルクがきわめて小さくなっていることから、工具Tが工作物Wと接しておらず、工具Tが折れたものとして工具Tの劣化状態を推定することができる。一方、
図8の符号Px1で示す部分のように、判定用波形データPxが閾値上限PMbを超える場合には、工具Tは折れてはいないが工具Tに何らかの不具合が生じたものとして工具Tの劣化状態を推定することができる。そして、ステップS24の後、当該異常判定フローを終了する。
【0058】
一方、ステップS23において異常なしと判定された場合は、ステップS23のNoに進み、再度、ステップS11に戻り、ステップS12及びステップS13を行い、ステップS14において判定フェーズF2を継続して、ステップS20~ステップS23の異常判定を行い、ステップS23において異常があれば、
【0059】
なお、
図8において、網掛けで示す領域R1、R2、R3、R4は、
図5に示すように、主軸回転速度が初期値が維持された後に第1速度Vaに変化する領域R1、第1速度Vaから第2速度Vbに変化する領域R2、第2速度Vbから第3速度Vcに変化する領域R3、第3速度Vcから初期値に戻る領域R4であって、主軸回転速度の変化がセンサ34で検出された主軸トルクに影響している。そのため、本実施形態では、当該網掛け示す領域R1、R2、R3、R4においては、異常判定を行わないこととしている。
【0060】
その後、任意のタイミングで、ユーザがフェーズ切替操作部215を介して、動作フェーズFを再度閾値調整フェーズF1にすることにより、再度閾値の調整を行うこととしてもよい。
【0061】
また、ステップS18において、更新回数が基準回数以上となった場合に動作フェーズFを、閾値調整フェーズF1から判定フェーズF2に切り替えることとしたが、これに替えて、任意のタイミングで、ユーザがフェーズ切替操作部215を介して、動作フェーズFを再度閾値調整フェーズF1にすることにより、判定フェーズF2に切り替えることとしてもよい。
【0062】
また、閾値調整フェーズF1において、異常判定となるような波形データが含まれる頻度が高くなるような場合は、異常判定の精度を維持するために、判定フェーズF2において設定する閾値の上限及び下限は±2σとしたりすることで、統計上、判定用波形データの約65%が異常と判定されるように判定基準を厳しくしてもよい。
【0063】
5.作用効果
以下、本実施形態1の異常判定装置2における作用効果について述べる。本実施形態1の異常判定装置2では、閾値調整フェーズF1において更新された統計量に基づいて、判定フェーズF2における異常判定を行うための閾値が設定されるため、最終的な工作物Wの良品判定の結果を待つことなく、生産設備である工作機械1の状態の変化を判定フェーズF2における異常判定に早期に反映させることができる。そのため、工作機械1の状態の変化に応じて工作機械1又は工作物Wの異常判定を高精度に行うことができるとともに、異常判定を早期に行うことができる。
【0064】
また、本実施形態では、統計量記憶部206に記憶された統計量は、閾値調整フェーズF1において波形データ取得部201が取得した複数の波形データから算出された時間ごとの平均値と標準偏差σを含む。そして、マスター波形データPMは上記平均値をつなぎ合わせてなる波形を示すデータであって、上記閾値はマスター波形データPMと標準偏差σとを用いて規定される。これにより、統計量に基づいたマスター波形データPMと標準偏差σとにより異常判定の閾値が規定されるため、異常判定の精度を向上することができる。
【0065】
また、本実施形態では、生産設備は工作物Wを加工するための工具Tを有する工作機械1を含み、異常判定部213は異常判定として工具Tの異常判定を行う。これにより、工具Tの異常判定を高精度かつ早期に行うことができる。
【0066】
また、本実施形態では、異常判定部213の判定結果に基づいて、工作機械1又は工作機械1に備えられた部品の劣化状態を推定する劣化状態推定部214を含む。これにより、工作機械1や工作機械1に備えられた部品の劣化状態を早期に推定することができる。
【0067】
また、本実施形態では、異常判定部213は、異常判定として生産設備により生産される工作物Wの加工状態の異常判定を行う。これにより、工作物Wの加工における異常判定についても高精度かつ早期に行うことができる。
【0068】
また、本実施形態では、統計量更新部205は、閾値調整フェーズF1において、波形データ取得部201が波形データを取得するごとに統計量の更新を行う。これにより、随時統計量の更新が行われることとなり、早期に高精度の異常判定を行うことができる。
【0069】
また、本実施形態では、異常判定装置2における動作フェーズFを、閾値調整フェーズF1と判定フェーズF2のいずれかに切り替えるフェーズ切替部208を備える。これにより、異常判定装置2における動作フェーズFの切り替えが容易となり、早期に高精度の異常判定を行うことができる。
【0070】
また、本実施形態では、フェーズ切替部208は、閾値調整フェーズF1において、統計量更新部における上記統計量の更新が所定回数行われたときに判定フェーズF2に切り替えるように構成されている。これにより、閾値調整フェーズF1から判定フェーズF2への切り替えを自動で行うことができ、作業性の向上を図ることができる。
【0071】
また、本実施形態では、異常判定装置2が閾値調整フェーズF1又は判定フェーズF2のいずれであるかを示すフェーズ表示部209を備える。これにより、ユーザに、当該異常判定装置2により異常判定が行われているか否を容易に確認することができ、作業性に優れる。
【0072】
また、本実施形態では、抽出部203における加工工程単位は、工作物Wを加工する際の生産設備に備えられた工具Tの変更タイミングに基づいて規定している。また、抽出部203における加工工程単位は、工作物Wを加工する際の工作物Wにおける加工位置である穴H1~H5の変更タイミングに基づいて規定することもできる。これらにより、工作物Wの最終的は良品判定に基づいて規定する場合に比べて異常判定を早期に行うことができる。
【0073】
以上のごとく、上記態様によれば、生産設備としての工作機械1又は生産設備により生産される工作物Wの異常判定の精度向上が図られるとともに、異常判定を早期に行うことができる異常判定装置2を提供することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 工作機械
2 異常判定装置
34 センサ
40 制御装置
201 波形データ取得部
202 波形データ記憶部
203 抽出部
204 時間補正部
205 統計量更新部
206 統計量記憶部
207 更新回数記憶部
208 フェーズ切替部
209 フェーズ表示部
210 判定用データ取得部
211 閾値調整部
212 比較部
213 異常判定部
214 劣化状態推定部
215 フェーズ切替操作部