(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064362
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】マグネット、ステッピングモータおよび時計
(51)【国際特許分類】
H02K 37/14 20060101AFI20240507BHJP
H02K 37/16 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
H02K37/14 K
H02K37/16 K
H02K37/14 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172902
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】500198210
【氏名又は名称】セイコータイムクリエーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】中山 功介
(72)【発明者】
【氏名】岡本 治雄
(57)【要約】
【課題】ロータの静止位置を安定させることができるマグネットを提供する。
【解決手段】マグネット30は、ステッピングモータ1のロータ5用のマグネットであって、ロータ5の回転軸線Oの軸方向から見て円形の外周面33と、軸方向に直交する第1径方向に並ぶ一対の磁極35と、回転軸線Oを挟んで軸方向および第1径方向に直交する第2径方向の両側に設けられた一対の非極部37と、非極部37と回転軸線Oとの間に形成され、外周面33に開口しない肉抜き部39と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステッピングモータのロータ用のマグネットであって、
前記ロータの回転軸線の軸方向から見て円形の外周面と、
前記軸方向に直交する第1径方向に並ぶ一対の磁極と、
前記回転軸線を挟んで前記軸方向および前記第1径方向に直交する第2径方向の両側に設けられた一対の非極部と、
前記非極部と前記回転軸線との間に形成され、前記外周面に開口しない肉抜き部と、
を備えるマグネット。
【請求項2】
ステッピングモータのロータ用のマグネットであって、
前記ロータの回転軸線の軸方向から見て円形の外周面と、
前記軸方向に直交する第1径方向に並ぶ一対の磁極と、
前記回転軸線を挟んで前記軸方向および前記第1径方向に直交する第2径方向の両側に設けられた一対の非極部と、
前記非極部と前記回転軸線との間に形成された肉抜き部と、
を備え、
前記非極部を0とする角度位置を変数とする正弦関数が定義され、
正規化された前記外周面における磁束密度の絶対値は、前記磁極から離れるに従い前記正弦関数の値の絶対値と比較して急峻に減少しているとともに、前記非極部から離れるに従い前記正弦関数の値の絶対値と比較してなだらかに増加している、
マグネット。
【請求項3】
前記軸方向から見て前記回転軸線を通り、前記一対の磁極の間を前記第2径方向に延びる仮想境界線が定義され、
前記肉抜き部は、前記仮想境界線上に形成されている、
請求項1または請求項2に記載のマグネット。
【請求項4】
前記軸方向から見て前記回転軸線を通り、前記一対の磁極の間を前記第2径方向に延びる仮想境界線が定義され、
前記肉抜き部は、前記仮想境界線に対して線対称に配置されている、
請求項1または請求項2に記載のマグネット。
【請求項5】
前記肉抜き部は、前記マグネットを貫通している、
請求項1または請求項2に記載のマグネット。
【請求項6】
前記肉抜き部は、前記マグネットを非貫通である、
請求項1または請求項2に記載のマグネット。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載のマグネットを有するロータと、
前記マグネットの周囲に配設され、コイルにより励磁される一対の励磁極と、
前記一対の励磁極のそれぞれに設けられ、前記回転軸線に向けて突出するとともに前記回転軸線を挟んで互いに対向する一対の主極と、
前記一対の励磁極のそれぞれに設けられ、前記回転軸線に向けて突出するとともに前記回転軸線を挟んで互いに対向し、前記主極よりも前記回転軸線に対して離間した一対の補極と、
を備えるステッピングモータ。
【請求項8】
請求項7に記載のステッピングモータと、
前記ステッピングモータに駆動される指針と、
を備える時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネット、ステッピングモータおよび時計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
永久磁石形のステッピングモータは、ロータがその回転軸線と同軸に配置された円柱状のマグネットを有し、マグネットの周囲に配置された励磁極の極性を変化させることで、ロータを回転させる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来のステッピングモータでは、ロータの静止位置を安定させるために、マグネットの外形を非円形状とする場合がある。この場合には、マグネットの磁極の磁束密度が磁極の周囲の磁束密度に対してより大きくなるようにマグネットの外形を設定することで、ステータコアの特定箇所にマグネットの磁極が確実に向かい合うようになり、ロータの静止位置が安定する。しかしながら、マグネットの外周形状を非円形状とすると、マグネットの金型の設計段階ではマグネットの磁気特性を調整することが難しい。すなわち、非円形状のマグネットに所望の磁気特性を持たせる場合には、マグネットの金型の設計が困難となる可能性がある。したがって、従来のステッピングモータにおいては、静止位置が安定するロータを容易に得ることができる技術の開発が望まれている。
【0005】
そこで本発明は、ロータの静止位置を安定させることができるマグネット、並びにそのマグネットを備えたステッピングモータおよび時計を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に係るマグネットは、ステッピングモータのロータ用のマグネットであって、前記ロータの回転軸線の軸方向から見て円形の外周面と、前記軸方向に直交する第1径方向に並ぶ一対の磁極と、前記回転軸線を挟んで前記軸方向および前記第1径方向に直交する第2径方向の両側に設けられた一対の非極部と、前記非極部と前記回転軸線との間に形成され、前記外周面に開口しない肉抜き部と、を備える。
【0007】
第1の態様によれば、マグネットの磁界の指向性を高めることができる。これにより、非極部近傍とステータとの間に作用する引力が小さくなる。さらに、肉抜き部がマグネットの外周面に開口しないので、マグネットの金型をその内周面が全周にわたって一様に延びるように設計することが可能となる。よって、所望の磁気特性を有するマグネットを比較的容易に設計できる。したがって、ステータの特定箇所にマグネットの磁極が確実に向かい合い、静止位置が安定するロータを得ることができる。
【0008】
本発明の第2の態様に係るマグネットは、ステッピングモータのロータ用のマグネットであって、前記ロータの回転軸線の軸方向から見て円形の外周面と、前記軸方向に直交する第1径方向に並ぶ一対の磁極と、前記回転軸線を挟んで前記軸方向および前記第1径方向に直交する第2径方向の両側に設けられた一対の非極部と、前記非極部と前記回転軸線との間に形成された肉抜き部と、を備え、前記非極部を0とする角度位置を変数とする正弦関数が定義され、正規化された前記外周面における磁束密度の絶対値は、前記磁極から離れるに従い前記正弦関数の値の絶対値と比較して急峻に減少しているとともに、前記非極部から離れるに従い前記正弦関数の値の絶対値と比較してなだらかに増加している。
【0009】
第2の態様によれば、マグネットの磁界の指向性を高めることができる。これにより、非極部近傍とステータとの間に作用する引力が小さくなる。さらに、肉抜き部がマグネットの外周面に開口しないので、マグネットの金型をその内周面が全周にわたって一様に延びるように設計することが可能となる。したがって、所望の磁気特性を有するマグネットを容易に製造できる。したがって、ステータの特定箇所にマグネットの磁極が確実に向かい合い、静止位置が安定するロータを得ることができる。
【0010】
本発明の第3の態様に係るマグネットは、上記第1の態様または第2の態様に係るマグネットにおいて、前記軸方向から見て前記回転軸線を通り、前記一対の磁極の間を前記第2径方向に延びる仮想境界線が定義され、前記肉抜き部は、前記仮想境界線上に形成されていてもよい。
【0011】
第3の態様によれば、肉抜き部のないマグネットに対し、非極部における半径を減少させる改変を加えた構成と実質的に近しくなる。すなわち、一対の磁極間に長軸を有する平面視楕円形状のマグネットと同様に、マグネットの磁界の指向性を高めることができる。したがって、上述した作用効果を奏することができる。
【0012】
本発明の第4の態様に係るマグネットは、上記第1の態様から第3の態様のいずれかの態様に係るマグネットにおいて、前記軸方向から見て前記回転軸線を通り、前記一対の磁極の間を前記第2径方向に延びる仮想境界線が定義され、前記肉抜き部は、前記仮想境界線に対して線対称に配置されていてもよい。
【0013】
第4の態様によれば、マグネット内の磁力線の分布が軸方向から見て仮想境界線に対して線対称となるので、非極部近傍においてマグネットの外周面における磁束密度の絶対値を、非極部から各磁極側に離れるに従い対称に減少させることができる。これにより、非極部近傍とステータとの間に作用する引力によってロータの2つの静止位置が互いに180°ずれた位置から偏ることを抑制できる。したがって、1ステップ毎に確実に180°回転するロータを形成できる。
【0014】
本発明の第5の態様に係るマグネットは、上記第1の態様から第4の態様のいずれかの態様に係るマグネットにおいて、前記肉抜き部は、前記マグネットを貫通していてもよい。
【0015】
第5の態様によれば、肉抜き部の深さの寸法誤差が生じないので、肉抜き部が非貫通の構成と比較して、製造誤差等によるマグネットの磁気特性の変化を生じにくくすることができる。
【0016】
本発明の第6の態様に係るマグネットは、上記第1の態様から第4の態様のいずれかの態様に係るマグネットにおいて、前記肉抜き部は、前記マグネットを非貫通であってもよい。
【0017】
第6の態様によれば、肉抜き部の底部に肉が残るので、肉抜き部が貫通孔とされた構成と比較して、肉抜き部を設けたことによるマグネットの強度低下を抑制できる。
【0018】
本発明の第7の態様に係るステッピングモータは、上記第1の態様から第6の態様のいずれかの態様に係るマグネットを有するロータと、前記マグネットの周囲に配設され、コイルにより励磁される一対の励磁極と、前記一対の励磁極のそれぞれに設けられ、前記回転軸線に向けて突出するとともに前記回転軸線を挟んで互いに対向する一対の主極と、前記一対の励磁極のそれぞれに設けられ、前記回転軸線に向けて突出するとともに前記回転軸線を挟んで互いに対向し、前記主極よりも前記回転軸線に対して離間した一対の補極と、を備える。
【0019】
第7の態様によれば、磁界の指向性が高められたマグネットを有するので、マグネットの非極部近傍と励磁極の補極との間に作用する引力を小さくできる。さらに、マグネットの磁極と励磁極の補極との間に作用する引力を小さくできる。以上により、励磁極の主極にマグネットの磁極を確実に向かい合わせて、ロータの静止位置を安定させることができる。したがって、起動電圧の上昇および消費電力の増大を抑制できるとともに、駆動対象の動作不良の発生を抑制できるステッピングモータを提供できる。
【0020】
本発明の第8の態様に係る時計は、上記第7の態様に係るステッピングモータと、前記ステッピングモータに駆動される指針と、を備える。
【0021】
第8の態様によれば、消費電力が低く、かつ指針の動作不良を抑制された時計を提供できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ロータの静止位置を安定させることができるマグネットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】第1実施形態に係るステッピングモータを示す平面図である。
【
図3】第1実施形態に係るステッピングモータのうちロータ周辺を拡大して示す平面図である。
【
図6】第1実施形態の変形例に係るマグネットの断面図であって、
図4に対応する図である。
【
図7】第2実施形態に係るマグネットを示す平面図である。
【
図8】第3実施形態に係るマグネットを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお以下の説明では、同一または類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それら構成の重複する説明は省略する場合がある。
【0025】
[第1実施形態]
図1は、実施形態の時計を示す正面図である。
本実施形態の時計100は、図示しないケース裏蓋およびガラス102からなる時計ケース101内に、指針110(時針111、分針112、および秒針113)と、指針110と協働して時刻に関する情報を示す文字板120と、指針駆動用のステッピングモータ1を含む図示しないムーブメントと、を備えている。
【0026】
図2は、第1実施形態に係るステッピングモータを示す平面図である。
図2に示すように、ステッピングモータ1は、ステータ3と、円柱状のマグネット30を有し、ステータ3に対して回転軸線Oを中心に回転可能に配設されたロータ5と、を備える。
【0027】
ステータ3は、コイル10と、コイル10が巻回された磁心12と、ロータ5のマグネット30の周囲に配置された一対の励磁極14と、磁心12の両端から延びて励磁極14に1つずつ接続する一対のサイドヨーク18A,18Bと、を備える。本実施形態では、磁心12、励磁極14およびサイドヨーク18A,18Bは、回転軸線Oの軸方向に厚みを有する単一の金属板により、一体的に形成されている。以下の説明では、磁心12、励磁極14およびサイドヨーク18A,18Bからなる部材をステータコア20と称する。ステータコア20は、例えばパーマロイ等の高透磁率材料を用いた板材により形成されている。
【0028】
磁心12は、軸方向から見た平面視で、第1方向Xに延びている。磁心12には、コイル10が巻回されている。
【0029】
一対のサイドヨーク18A,18Bは、第1サイドヨーク18Aおよび第2サイドヨーク18Bである。第1サイドヨーク18Aは、磁心12の一端部から第1方向Xに延びている。第2サイドヨーク18Bは、磁心12の他端部から平面視で第1方向Xに直交する第2方向Yに延びた後、第1サイドヨーク18Aの延出方向と同じ方向に屈曲し、磁心12および第1サイドヨーク18Aと略平行に延びている。各サイドヨーク18A,18Bの先端部には、励磁極14が設けられている。
【0030】
図3は、第1実施形態に係るステッピングモータのうちロータ周辺を拡大して示す平面図である。
図3では、ロータ5が後述する静止位置にある状態を示している。
図3に示すように、各励磁極14は、第1サイドヨーク18Aまたは第2サイドヨーク18Bを介して、コイル10に磁気的に結合している。一対の励磁極14は、回転軸線Oを挟んで互いに対向するように配置されている。励磁極14には、平面視でマグネット30の一部を受け入れる凹部15が形成されている。
【0031】
各励磁極14には、主極22および補極25が設けられている。主極22および補極25は、凹部15の内周縁16に設けられている。主極22および補極25は、凹部15の内周縁16から回転軸線Oに突出している。
【0032】
主極22は、凹部15の内周縁16のうち、ロータ5の正転方向の端部に設けられている。なお、ロータ5の正転方向は、
図3に示す矢印の如く、ステッピングモータ1が搭載される時計の指針を時計回りに回転させる方向である。主極22における回転軸線O側の端部23は、回転軸線Oを中心とする円弧状に延びている。
【0033】
補極25は、凹部15の内周縁16のうち、主極22とは回転軸線O回りの周方向に間隔をあけた箇所に設けられている。補極25は、凹部15の内周縁16のうち、ロータ5の正転方向とは反対方向の端部に設けられている。補極25における回転軸線O側の端部26は、回転軸線Oを中心とする円弧状に延びている。補極25における回転軸線O側の端部26は、主極22における回転軸線O側の端部23よりも回転軸線Oに対して離間している。
【0034】
各励磁極14に主極22および補極25が設けられたことで、ステータコア20には一対の主極22および一対の補極25が設けられている。一対の主極22は、回転軸線Oを挟んで互いに対向している。一対の主極22は、回転軸線Oに対して線対称に形成されている。一対の補極25は、回転軸線Oを挟んで互いに対向している。一対の補極25は、回転軸線Oに対して線対称に形成されている。
【0035】
このように構成されたステータ3は、コイル10から磁束が生じると、磁心12およびサイドヨーク18A,18Bに沿って磁束が流れる。そして、コイル10への通電状態に応じて、励磁極14の極性が切り替えられる。ステータ3は、一対の励磁極14の間に磁界を発生させる。
【0036】
ロータ5は、径方向に2極に着磁されることにより磁気的な極性を持つ。マグネット30は、一対の励磁極14の間に配置されている。マグネット30は、ロータ5のシャフトが挿通されるシャフト孔31と、平面視で円形の外周面33と、軸方向に直交する磁化方向(第1径方向)に並ぶ一対の磁極35と、回転軸線Oを挟んで軸方向および磁化方向に直交する方向(第2径方向)の両側に設けられた一対の非極部37と、非極部37と回転軸線Oとの間に形成された肉抜き部39と、を有する。
【0037】
シャフト孔31は、回転軸線Oと同軸の円孔である。外周面33は、全周にわたって軸方向に一定の幅を有し、平面視で一定の曲率で全周にわたって延びている。
【0038】
一対の磁極35は、N極およびS極である。本実施形態では、マグネット30の磁化方向と平行、かつ平面視で回転軸線Oを通る仮想直線L1と、外周面33とが交差する箇所を磁極35と定義する。また、マグネット30のうち平面視で仮想直線L1を挟む半円状の両部を、それぞれマグネット30の半部30hと称する。
【0039】
非極部37は、外周面33の一部である。非極部37は、磁極35に対して回転軸線Oを中心に90°ずれた位置にある。ここで、平面視で回転軸線Oを通り、一対の磁極35の間を軸方向および磁化方向に直交する方向に延びる仮想境界線L2を定義する。
【0040】
肉抜き部39は、回転軸線Oと各非極部37との間に少なくとも1つずつ形成されている。本実施形態では、肉抜き部39は、マグネット30の各半部30hに1つずつ形成されている。肉抜き部39は、シャフト孔31とは別に設けられている。肉抜き部39は、外周面33に開口しないように形成されている。換言すると、肉抜き部39は、平面視で外周面33よりも内側に形成されている。これにより、外周面33は、穴および欠けの無い、全周にわたって一定の幅で均一に延びる柱面とされている。
【0041】
図4は、
図3のIV-IV線における断面図である。
図4に示すように、肉抜き部39は、マグネット30のうち軸方向を向く少なくとも一端面に開口しているとともに、軸方向に窪んでいる。本実施形態では、肉抜き部39は、マグネット30を軸方向に貫通し、マグネット30の両端面に開口している。
【0042】
図3に示すように、肉抜き部39は、平面視で仮想境界線L2上に形成されている。肉抜き部39は、平面視で仮想直線L1に重ならないように設けられている。マグネット30の各半部30hにおいて、肉抜き部39は、平面視で仮想境界線L2に対して線対称に形成されている。図示の例では、肉抜き部39は、平面視円形状である。マグネット30の一方の半部30hに形成された肉抜き部39と、マグネット30の他方の半部30hに形成された肉抜き部39とは、回転軸線Oに対して互いに線対称、かつ平面視で仮想直線L1に対して線対称に形成されている。
【0043】
ロータ5の磁気ポテンシャルは、ロータ5の角度位置に応じて変化する。ロータ5は、最も磁気ポテンシャルが低くなる位置、すなわち磁力による吸引が最も強くなる位置で安定して静止する。以下、ロータ5が制止する位置を静止位置と称する。ロータ5の磁気ポテンシャルは、マグネット30の磁極35が主極22に最も近接する状態で最も低くなる。このため、静止位置は、平面視で一対の主極22を結ぶ線分に仮想直線L1が略平行となる角度位置である。実質的には、静止位置は、主極22における回転軸線O側の端部23の中心にマグネット30の磁極35が最も近接する位置である。ただし静止位置は、磁極35と補極25との間に作用する引力により、主極22における回転軸線O側の端部23の中心から例えば正転方向に僅かにずれた箇所にマグネット30の磁極35が最も近接する位置であってもよい。マグネット30が静止位置にあるとき、非極部37は、補極25における回転軸線O側の端部26の中心からずれた位置にある。図示の例では、マグネット30が静止位置にあるとき、非極部37は、補極25における回転軸線O側の端部26の中心からロータ5の正転方向にずれた位置にある。
【0044】
本実施形態のマグネット30の作用について説明する。
図5は、マグネットの磁気特性を示すグラフである。
図5において、横軸は一方の非極部37を基準にした場合の角度位置、縦軸はマグネット30の外周面33における磁束密度を正規化した値を示している。
図5において0°(360°)および180°の角度位置はそれぞれ非極部37に相当し、90°および270°の角度位置は磁極35に相当する。また、
図5において実線は実施例、一点鎖線は比較例、破線は比較用の正弦曲線を示している。実施例のマグネットは、本実施形態のマグネット30に相当する。比較例のマグネットは、本実施形態の肉抜き部39が形成されていない点を除き、実施例のマグネットと同様に形成されている。比較用の正弦曲線は、非極部を0とする角度位置を変数とする正弦関数に基づくものである。
【0045】
図5に示すように、実施例および比較例のいずれにおいても、磁極で磁束密度が極値を取り、非極部で磁束密度が0になっている。さらに、比較例のマグネットでは、正規化された磁束密度の絶対値が磁極近傍で磁極から離れるに従い正弦関数の値の絶対値と比較してなだらかに減少しているとともに、非極部近傍で非極部から離れるに従い正弦関数の値の絶対値と比較して急峻に増加している。これに対し、実施例のマグネットでは、正規化された磁束密度の絶対値が磁極近傍で磁極から離れるに従い正弦関数の値の絶対値と比較して急峻に減少しているとともに、非極部近傍で非極部から離れるに従い正弦関数の値の絶対値と比較してなだらかに増加している。すなわちマグネット30に肉抜き部39を設けることで、肉抜き部39が形成されていない構成と比較して、マグネット30の外周面33における磁束密度の値の絶対値は、磁極35から離れるに従い大きく減少し、かつ非極部37から離れるに従い緩やかに増加するようになった。
【0046】
以上に説明したように、本実施形態のマグネット30は、磁化方向に並ぶ一対の磁極35と、回転軸線Oを挟んで軸方向および磁化方向に直交する方向の両側に設けられた一対の非極部37と、非極部37と回転軸線Oとの間に形成され、外周面33に開口しない肉抜き部39と、を備える。この構成によれば、マグネット30の磁界の指向性を高めることができる。これにより、非極部37近傍とステータ3との間に作用する引力が小さくなる。さらに、肉抜き部39がマグネット30の外周面33に開口しないので、マグネット30の金型をその内周面が全周にわたって一様に延びるように設計することが可能となる。よって、所望の磁気特性を有するマグネット30を比較的容易に設計できる。したがって、ステータ3の主極22にマグネット30の磁極35が確実に向かい合い、静止位置が安定するロータ5を得ることができる。
【0047】
また、マグネット30の正規化された外周面33における磁束密度の絶対値は、磁極35から離れるに従い正弦関数の値の絶対値と比較して急峻に減少しているとともに、非極部37から離れるに従い正弦関数の値の絶対値と比較してなだらかに増加している。この構成によれば、非極部37近傍とステータ3との間に作用する引力が小さくなるので、上述した作用効果を奏することができる。
【0048】
さらに、平面視で回転軸線Oを通り、一対の磁極35の間を磁化方向に直交する方向に延びる仮想境界線L2が定義され、肉抜き部39は仮想境界線L2上に形成されている。この構成によれば、肉抜き部のないマグネットに対し、非極部における半径を減少させる改変を加えた構成と実質的に近しくなる。すなわち、一対の磁極間に長軸を有する平面視楕円形状のマグネットと同様に、マグネット30の磁界の指向性を高めることができる。したがって、上述した作用効果を奏することができる。
【0049】
また、肉抜き部39は、仮想境界線L2に対して線対称に配置されている。この構成によれば、マグネット30内の磁力線の分布が軸方向から見て仮想境界線L2に対して線対称となるので、非極部37近傍においてマグネット30の外周面33における磁束密度の絶対値を、非極部37から各磁極35側に離れるに従い対称に減少させることができる。これにより、非極部37近傍とステータ3との間に作用する引力によってロータ5の2つの静止位置が互いに180°ずれた位置から偏ることを抑制できる。したがって、1ステップ毎に確実に180°回転するロータ5を形成できる。
【0050】
肉抜き部39は、マグネット30を貫通している。この構成によれば、肉抜き部39の深さの寸法誤差が生じないので、肉抜き部が非貫通の構成と比較して、製造誤差等によるマグネット30の磁気特性の変化を生じにくくすることができる。
【0051】
ステッピングモータ1は、ロータ5と、マグネット30の周囲に配設され、コイル10により励磁される一対の励磁極14と、一対の励磁極14のそれぞれに設けられ、回転軸線Oに向けて突出するとともに回転軸線Oを挟んで互いに対向する一対の主極22と、一対の励磁極14のそれぞれに設けられ、回転軸線Oに向けて突出するとともに回転軸線Oを挟んで互いに対向し、主極22よりも回転軸線Oに対して離間した一対の補極25と、を備える。この構成によれば、磁界の指向性が高められたマグネット30を有するので、マグネット30の非極部37近傍と励磁極14の補極25との間に作用する引力を小さくできる。さらに、マグネット30の磁極35と励磁極14の補極25との間に作用する引力を小さくできる。以上により、励磁極14の主極22にマグネット30の磁極35を確実に向かい合わせて、ロータ5の静止位置を安定させることができる。したがって、通常の駆動パルスの印加によりロータ5を確実に回転させることが可能となり、起動電圧の上昇および消費電力の増大を抑制できるとともに、駆動対象の動作不良の発生を抑制できる。
【0052】
そして、本実施形態の時計100は、上述したステッピングモータ1を備えるので、消費電力が低く、かつ指針110の動作不良を抑制できる。
【0053】
なお上記第1実施形態では、肉抜き部39がマグネット30を軸方向に貫通しているが、この構成に限定されない。
図6に示すように、肉抜き部39は、マグネット30Aを非貫通であってもよい。この構成によれば、肉抜き部39の底部に肉が残るので、肉抜き部が貫通孔とされた構成と比較して、肉抜き部39を設けたことによるマグネット30Aの強度低下を抑制できる。
【0054】
[第2実施形態]
次に、
図7を参照して、第2実施形態について説明する。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0055】
図7は、第2実施形態に係るマグネットを示す平面図である。
図7に示すように、マグネット30Bは、第1実施形態の肉抜き部39に代えて、平面視で非円形状の肉抜き部39Aを備える。図示の例では、肉抜き部39Aは、平面視楕円形状に形成されている。肉抜き部39Aは、平面視で長手方向が磁化方向に一致するように形成されている。マグネット30Bの各半部30hにおいて、肉抜き部39Aは、平面視で仮想境界線L2に対して線対称に形成されている。
【0056】
本実施形態においても、マグネット30Bに肉抜き部39Aを設けることで、マグネット30Bの外周面33における磁束密度は、磁極35から離れるに従い大きく減少し、かつ非極部37から離れるに従い緩やかに増加するようになった。したがって、本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏する。なお肉抜き部39Aは、マグネット30Bを貫通していてもよいし、非貫通であってもよい。
【0057】
[第3実施形態]
次に、
図8を参照して、第3実施形態について説明する。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0058】
図8は、第3実施形態に係るマグネットを示す平面図である。
図8に示すように、マグネット30Cは、第1実施形態の肉抜き部39に代えて、回転軸線Oと各非極部37との間に複数ずつ形成された肉抜き部39Bを備える。本実施形態では、肉抜き部39Bは、マグネット30Cの各半部30hに2つずつ形成されている。肉抜き部39Bは、平面視で仮想境界線L2上を避けるように配置されている。肉抜き部39Bは、平面視円形状である。マグネット30Cの各半部30hにおいて、肉抜き部39Bは、平面視で仮想境界線L2に対して線対称に配置されている。マグネット30Cの一方の半部30hに形成された肉抜き部39Bと、マグネット30Cの他方の半部30hに形成された肉抜き部39Bとは、回転軸線Oに対して互いに線対称に配置されている。
【0059】
本実施形態においても、マグネット30Cに肉抜き部39Bを設けることで、マグネット30Cの外周面33における磁束密度は、磁極35から離れるに従い大きく減少し、かつ非極部37から離れるに従い緩やかに増加するようになった。したがって、本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏する。なお肉抜き部39Bは、マグネット30Cを貫通していてもよいし、非貫通であってもよい。
【0060】
なお上記第3実施形態では、マグネット30Cの各半部30hにおいて肉抜き部39Bが2つずつ形成されているが、肉抜き部は3つ以上形成されていてもよい。また、マグネットの各半部において1以上の肉抜き部が仮想境界線L2上に形成されていてもよい。さらに、マグネットの各半部において複数の肉抜き部が仮想境界線L2上に形成されている場合、マグネットの一方の半部に形成された肉抜き部と、マグネットの他方の半部に形成された肉抜き部とが、回転軸線Oに対して互いに線対称に配置されていれば、仮想境界線L2上には貫通構造を有する肉抜き部と、非貫通構造を有する肉抜き部とが混在していてもよい。
【0061】
なお、本発明は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した各実施形態および変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1…ステッピングモータ 5…ロータ 10…コイル 14…励磁極 22…主極 25…補極 30,30A,30B,30C…マグネット 33…外周面 35…磁極 37…非極部 39,39A,39B…肉抜き部 100…時計 110…指針 37…非極部 L2…仮想境界線 O…回転軸線