(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064377
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】デヒドロジンゲロン及び/又はシリンギルデヒドロジンゲロンの製造方法、並びに、デヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物
(51)【国際特許分類】
C07C 45/74 20060101AFI20240507BHJP
C07C 49/255 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
C07C45/74
C07C49/255 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172924
(22)【出願日】2022-10-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行者名:リグニン学会、刊行物名:第66回リグニン討論会 講演集、34~35頁、発行年月日:2021年11月1日 集会名:第66回リグニン討論会、主催:リグニン学会、開催日:2021年11月4日
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100175019
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 健朗
(74)【代理人】
【識別番号】100195648
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 悠太
(74)【代理人】
【識別番号】100104329
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 卓治
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】三亀 啓吾
(72)【発明者】
【氏名】土田 哲平
(72)【発明者】
【氏名】二村 唯月
(72)【発明者】
【氏名】原 崇
(72)【発明者】
【氏名】小椋 彩香
(72)【発明者】
【氏名】正木 美波
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC44
4H006AD16
4H006BC10
4H006BD70
(57)【要約】
【課題】高い収率で得られるデヒドロジンゲロン及び/又はシリンギルデヒドロジンゲロンの製造方法、並びに、生理活性を有するデヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物を提供する。
【解決手段】デヒドロジンゲロン及び/又はシリンギルデヒドロジンゲロンの製造方法は、混合物調製工程と、酸化分解工程と、冷却工程と、縮合反応工程と、第1の遠心分離工程と、酸性水溶液調製工程と、第2の遠心分離工程と、抽出工程と、減圧濃縮工程と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグノセルロースを含む材料とアルカリ水溶液と酸化剤とを含む混合物を調製する混合物調製工程と、
前記混合物を加熱して酸化分解する酸化分解工程と、
前記酸化分解工程後の混合物を冷却する冷却工程と、
前記冷却工程後の混合物にアセトンを添加し縮合反応させる縮合反応工程と、
前記縮合反応工程後の混合物を遠心分離してアルカリ性上澄み液を得る第1の遠心分離工程と、
前記アルカリ性上澄み液に酸を添加して酸性水溶液を得る酸性水溶液調製工程と、
前記酸性水溶液を遠心分離して酸性上澄み液を得る第2の遠心分離工程と、
前記酸性上澄み液から式(1)で表されるデヒドロジンゲロン及び/又は式(2)で表されるシリンギルデヒドロジンゲロンを含む溶液を得る抽出工程と、
前記式(1)で表されるデヒドロジンゲロン及び/又は前記式(2)で表されるシリンギルデヒドロジンゲロンを含む溶液を減圧濃縮して前記式(1)で表されるデヒドロジンゲロン及び/又は前記式(2)で表されるシリンギルデヒドロジンゲロンを得る減圧濃縮工程と、を含む、デヒドロジンゲロン及び/又はシリンギルデヒドロジンゲロンの製造方法。
【化1】
【化2】
【請求項2】
前記アルカリ水溶液は、強塩基性を有する、請求項1に記載のデヒドロジンゲロン及び/又はシリンギルデヒドロジンゲロンの製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ水溶液に含まれる溶質のモル濃度は、0.1mol/L~5mol/Lである、請求項1又は2に記載のデヒドロジンゲロン及び/又はシリンギルデヒドロジンゲロンの製造方法。
【請求項4】
前記縮合反応工程における反応温度は、0℃~60℃である、請求項1に記載のデヒドロジンゲロン及び/又はシリンギルデヒドロジンゲロンの製造方法。
【請求項5】
DPPHラジカル消去活性、神経細胞死の抑制効果、及び抗酸化酵素の発現効果を有する、式(1)で表されるデヒドロジンゲロン及び式(2)で表されるシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物。
【化3】
【化4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デヒドロジンゲロン及び/又はシリンギルデヒドロジンゲロンの製造方法、並びに、デヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物に関する。
【背景技術】
【0002】
リグニンからリグニンダイマー及びその前駆体であるデヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを生成する方法が検討されている。例えば、非特許文献1にアセトンをリグニンに添加した後に酸化銅分解する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】T. Tsuchida, T. Watanabe, K. Mikame, Trans. Mat. Res. Soc. Japan, 46[1], 25-28,(2021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の方法で得られるリグニンダイマー及びその前駆体の生成量は、アセトンをリグニンに添加しないで酸化銅分解する方法に比べて増加する。しかし、上記の方法で得られるリグニンダイマーの前駆体の量は、依然単離できるほどの量ではない。また、単離できる量が少ないことからリグニン由来のデヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物に関する生理活性は検討されていない。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものである。すなわち、本発明は、高い収率で得ることができるデヒドロジンゲロン及び/又はシリンギルデヒドロジンゲロンの製造方法、並びに、生理活性を有するデヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のとおりである。
[1]デヒドロジンゲロン及び/又はシリンギルデヒドロジンゲロンの製造方法は、リグノセルロースを含む材料とアルカリ水溶液と酸化剤とを含む混合物を調製する混合物調製工程と、前記混合物を加熱して酸化分解する酸化分解工程と、前記酸化分解工程後の混合物を冷却する冷却工程と、前記冷却工程後の混合物にアセトンを添加し縮合反応させる縮合反応工程と、前記縮合反応工程後の混合物を遠心分離してアルカリ性上澄み液を得る第1の遠心分離工程と、前記アルカリ性上澄み液に酸を添加して酸性水溶液を得る酸性水溶液調製工程と、前記酸性水溶液を遠心分離して酸性上澄み液を得る第2の遠心分離工程と、前記酸性上澄み液から式(1)で表されるデヒドロジンゲロン及び/又は式(2)で表されるシリンギルデヒドロジンゲロンを含む溶液を得る抽出工程と、前記式(1)で表されるデヒドロジンゲロン及び/又は前記式(2)で表されるシリンギルデヒドロジンゲロンを含む溶液を減圧濃縮して前記式(1)で表されるデヒドロジンゲロン及び/又は前記式(2)で表されるシリンギルデヒドロジンゲロンを得る減圧濃縮工程と、を含む。
【0007】
【0008】
【0009】
[2]前記アルカリ水溶液は、強塩基性を有する、ようにしてもよい。
【0010】
[3]前記アルカリ水溶液に含まれる溶質のモル濃度は、0.1mol/L~5mol/Lである、ようにしてもよい。
【0011】
[4]前記縮合反応工程における反応温度は、0℃~60℃である、ようにしてもよい。
【0012】
[5]式(1)で表されるデヒドロジンゲロン及び式(2)で表されるシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物は、DPPHラジカル消去活性、神経細胞死の抑制効果、及び抗酸化酵素の発現効果を有する。
【0013】
【0014】
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高い収率で得ることができるデヒドロジンゲロン及び/又はシリンギルデヒドロジンゲロンの製造方法、並びに、生理活性を有するデヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態のデヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物のPDA-GPC分析の結果であり、(a)は溶出チャート、(b)はUVスペクトルを示す図である。
【
図2】実施形態のデヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物のLC/MS分析の結果であり、(a)はUVクロマトグラム、(b)はMSクロマトグラム、(c)は混合物に含まれる化合物の質量情報を示す図である。
【
図3】実施形態のデヒドロジンゲロンの
1H NMR分析、
13C NMR分析、及び、HMQC及びHMBCによる2次元NMR測定から調べたデヒドロジンゲロンの化学シフトを示す図である。
【
図4】実施形態のシリンギルデヒドロジンゲロンの
1H NMR分析、
13C NMR分析、及び、HMQC及びHMBCによる2次元NMR測定から調べたシリンギルデヒドロジンゲロンの化学シフトを示す図である。
【
図5】84時間縮合反応させて得られた実施形態のデヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物のPDA-GPC分析の結果であり、(a)は溶出チャート、(b)はUVスペクトルを示す図である。
【
図6】84時間縮合反応させて得られた実施形態のデヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物のLC/MS分析の結果であり、(a)はMSクロマトグラム、(b)及び(c)は混合物に含まれる化合物の質量情報を示す図である。
【
図7】実施形態のデヒドロジンゲロンを含む混合物のPDA-GPC分析の結果であり、(a)は溶出チャート、(b)はUVスペクトルを示す図である。
【
図8】実施形態のデヒドロジンゲロンを含む混合物のLC/MS分析の結果であり、(a)はUVクロマトグラム、(b)はMSクロマトグラム、(c)は混合物に含まれる化合物の質量情報を示す図である。
【
図9】アセトンを混合液に加えてから酸化分解反応及び縮合反応させて得られた混合物のPDA-GPC分析による結果であり、(a)は溶出チャート、(b)はUVスペクトルを示す図である。
【
図10】ジンゲロン、デヒドロジンゲロン、及びシリンギルデヒドロジンゲロンのそれぞれで処理したサンプルについて、MTT法により求めた神経細胞の生存率を示す図である。
【
図11】(a)はジンゲロン、又は、デヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物を加えた神経細胞のウエスタンブロット法によるHO-1及びNQO1のバンドを示す図であり、(b)はHO-1及びNQO1の発現量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という。)について詳細に説明する。以下の実施形態は、本発明を説明するための例であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変更して実施できる。
【0018】
本実施形態にかかるデヒドロジンゲロン及び/又はシリンギルデヒドロジンゲロンの製造方法について説明する。
(製造方法)
デヒドロジンゲロン及び/又はシリンギルデヒドロジンゲロンの製造方法は、混合物調製工程と、酸化分解工程と、冷却工程と、縮合反応工程と、第1の遠心分離工程と、酸性水溶液調製工程と、第2の遠心分離工程と、抽出工程と、減圧濃縮工程と、を含む。
【0019】
(混合物調製工程)
デヒドロジンゲロン及び/又はシリンギルデヒドロジンゲロンを製造するために、リグノセルロースを含む材料と、アルカリ水溶液と、酸化剤とを含む混合物を調製する。
リグノセルロースを含む材料は、デヒドロジンゲロン及び/又はシリンギルデヒドロジンゲロンを製造するための原料である。リグノセルロースを含む材料は、リグノセルロースを含む植物であれば特に限定されない。リグノセルロースを含む植物としては、針葉樹材、広葉樹材、草本植物などが挙げられる。
針葉樹材としては、スギ、エゾマツ、カラマツ、クロマツ、トドマツ、ヒメコマツ、イチイ、ネズコ、ハリモミ、イラモミ、イヌマキ、モミ、サワラ、トガサワラ、アスナロ、ヒバ、ツガ、コメツガ、ヒノキ、イチイ、イヌガヤ、トウヒ、イエローシーダー(ベイヒバ)、ロウソンヒノキ(ベイヒ)、ダグラスファー(ベイマツ)、シトカスプルース(ベイトウヒ)、ラジアータマツ、イースタンスプルース、イースタンホワイトパイン、ウェスタンラーチ、ウェスタンファー、ウェスタンヘムロック、タマラック及びこれらの関連樹種が挙げられる。
広葉樹材としては、ブナ、アカシア、パラセリアンテス・ファルカタリア、白樺、アスぺン、アメリカンブラックチェリー、イエローポプラ、ウォールナット、カバザクラ、ケヤキ、シカモア、シルバーチェリー、タモ、チーク、チャイニーズエルム、チャイニーズメープル、ナラ、ハードメイプル、ヒッコリー、ピーカン、ホワイトアッシュ、ホワイトオーク、ホワイトバーチ、レッドオーク及びこれらの関連樹種が挙げられる。
草本植物としては、イネ、サトウキビ、ムギ、トウモロコシ、パイナップル、オイルパームなどの農産物及びその廃棄物、ケナフ、綿などの繊維植物及びその廃棄物、タケ、ササなどが挙げられる。
抽出効率の観点から、リグノセルロースを含む材料は、針葉樹材、広葉樹材が好ましい。
デヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンの両方を同時に製造する観点から、リグノセルロースを含む材料は、広葉樹材、草本植物が好ましい。なお、リグノセルロースを含む材料が針葉樹材であるとき、デヒドロジンゲロンのみを製造することができる。
リグノセルロースを含む材料は、粉末状、チップ状、角材状、丸太状、フレーク状、繊維状などの形状を有してもよい。リグノセルロースを含む材料からリグニンを効率よく分解し抽出する観点から、形状は、表面積の大きい粉末状、チップ状、フレーク状、繊維状を有することが好ましい。
【0020】
アルカリ水溶液及び酸化剤は、リグノセルロースを含む材料を酸化分解するために使用する薬剤である。
アルカリ水溶液は、強塩基性を有する水溶液であれば、特に限定されない。溶質としては、強塩基性を示す溶質であれば特に制限はなく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどが挙げられる。溶質は、1種又は2種以上の溶質を組み合わせてもよい。溶質のモル濃度は、例えば、0.1mol/L~5mol/Lである。加えるアルカリ水溶液の量は、例えば、リグノセルロースを含む材料1gに対して20mL以上である。加えるアルカリ水溶液の量は、廃液処理の観点からリグノセルロースを含む材料1gに対して100mL以下であることが好ましい。
【0021】
酸化剤は、酸化触媒として機能するものであれば、特に限定されない。リグノセルロースを含む材料からリグニンを効率よく分解し抽出する観点から、酸化剤としては、例えば、酸化銅、酸化鉄、ニトロベンゼン、過マンガン酸カリウムなどが挙げられる。酸化剤は、1種又は2種以上の酸化剤を組み合わせてもよい。加える酸化剤の量は、効率的に反応を進める観点からリグノセルロースを含む材料1gに対して0.5g以上が好ましく、廃液処理の観点から1g以下が好ましい。
【0022】
(酸化分解工程)
混合物調製工程において調製した混合物を加熱して酸化分解する。酸化分解する際の温度は、混合物中に含まれるリグノセルロースが効率的に分解される温度であれば、特に限定されない。温度は、酸化分解を促進する観点から、例えば、120℃~200℃である。また、得られる化合物の収率を上げる観点から、所定の温度で10分以上、混合物を酸化分解することが好ましい。
【0023】
(冷却工程)
混合物の酸化分解を停止させるために混合物を冷却する。混合物を冷却した後の温度は、酸化分解が停止する温度であれば特に限定されない。混合物を冷却した後の温度は、例えば、5℃~35℃である。
【0024】
(縮合反応工程)
冷却工程後、混合物にアセトンを添加し縮合反応させる。縮合反応工程における反応温度は、縮合反応を効率的に進める観点から、0℃~60℃である。混合物に添加するアセトンの量は、特に限定されないが、得られる化合物の収率を上げる観点から、1mol/C9以上であることが好ましい。ここで、混合物に加えるアセトンの量を表す単位は、mol/C9である。C9は、リグニンを構成する基本単位フェニルプロパンを意味する。1mol/C9のアセトンの量は、フェニルプロパン単位当たりの1mol量のアセントを意味する。なお、リグニンは、リグノセルロースを酸化分解することで得られる化合物である。
【0025】
(第1の遠心分離工程)
縮合反応工程後の混合物を遠心分離してアルカリ性上澄み液を得る。遠心分離の条件は、混合物からアルカリ性上澄み液を得ることができれば、特に限定されない。遠心分離の条件は、例えば、3000rpm~3500rpm、5分~10分である。
【0026】
(酸性水溶液調製工程)
得られたアルカリ性上澄み液に酸を添加して酸性水溶液を得る。使用する酸は、特に限定されないが、例えば、塩酸、硝酸などが挙げられる。酸は、アルカリ性上澄み液が酸性に変化するまで加えられる。酸性とは、pH1~pH4である。
【0027】
(第2の遠心分離工程)
酸性水溶液を遠心分離して酸性上澄み液を得る。遠心分離の条件は、酸性水溶液から酸性上澄み液と酸に不要な物質を分離することができれば、特に限定されない。遠心分離の条件は、例えば、3000rpm~3500rpm、5分~10分である。
【0028】
(抽出工程)
抽出により、酸性上澄み液から下記式(1)で表されるデヒドロジンゲロン及び/又は下記式(2)で表されるシリンギルデヒドロジンゲロンを含む溶液を得る。抽出は液液抽出が好ましい。液液抽出で使用する溶媒は、酸性上澄み液から下記式(1)で表されるデヒドロジンゲロン及び/又は下記式(2)で表されるシリンギルデヒドロジンゲロンを液液抽出できる溶媒であれば特に限定されない。液液抽出で使用する溶媒としては、例えば、酢酸エチル、ジエチルエーテルなどが挙げられる。
【0029】
【0030】
【0031】
(減圧濃縮工程)
上記式(1)で表されるデヒドロジンゲロン及び/又は上記式(2)で表されるシリンギルデヒドロジンゲロンを含む溶液を減圧濃縮して、上記式(1)で表されるデヒドロジンゲロン及び/又は上記式(2)で表されるシリンギルデヒドロジンゲロンを得る。減圧濃縮の条件は、抽出工程で使用した溶媒に応じて適宜設定することができる。
【0032】
以上、本実施形態の製造方法によれば、デヒドロジンゲロン及び/又シリンギルデヒドロジンゲロンを得ることができる。
ここで、本実施形態のデヒドロジンゲロン及び/又はシリンギルデヒドロジンゲロンの製造過程では以下の反応が生じていると考えられる。具体的には、下記に示すスキーム1の反応によりデヒドロジンゲロンが生成され、スキーム2の反応によりシリンギルデヒドロジンゲロンが生成していると考えられる。
【0033】
【0034】
【0035】
スキーム1のバニリン及びスキーム2のシリンガアルデヒドは、リグノセルロースを酸化分解して得られるリグニンを更に酸化分解することで得られる化合物である。
バニリン及びシリンガアルデヒドの両方を得ることができるリグノセルロースを含む材料としては、例えば、広葉樹材が挙げられる。バニリンのみを得ることができるリグノセルロースを含む材料としては、例えば、針葉樹材が挙げられる。
リグノセルロースを含む材料として広葉樹材を使用したとき、本実施形態にかかる製造方法によれば、デヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物を得ることができる。また、リグノセルロースを含む材料として針葉樹材を使用したとき、本実施形態にかかる製造方法によれば、デヒドロジンゲロンのみを得ることができる。
【0036】
(デヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物)
リグノセルロースを含む材料として広葉樹材を使用し本実施形態の製造方法から得られたデヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物は、例えば、DPPHラジカル消去活性、神経細胞死の抑制効果、及び抗酸化酵素の発現効果などの生理活性を有する。DPPHラジカル消去活性は、細胞内に発生するラジカルを消去する活性である。また、神経細胞死の抑制効果は、デヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物を加えて前処理を行った後の神経細胞の生存率が高くなる効果である。また、抗酸化酵素の発現効果は、デヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物を加えた神経細胞で発生する抗酸化酵素が増加する効果である。DPPHは、1,1-Diphenyl-2-picrylhydrazylの略語である。
以上、本実施形態のデヒドロジンゲロン及び/又はシリンギルデヒドロジンゲロンの製造方法、デヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物について説明した。
【実施例0037】
以下、実施例により、本発明を更に詳しく説明する。本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
脱脂シラカバ木粉0.1g、2mol/L(2N)の水酸化ナトリウム水溶液2.0mL、酸化銅0.05gをステンレス製オートクレーブにそれぞれ入れて混合物を得た。この混合物を撹拌しながら、180℃で60分、酸化分解反応を行った。その後、得られた混合物を20℃~30℃まで冷却した。次に、アセトン15mol/C9をこの混合物に添加して25℃で180分、縮合反応を行った。次に、得られた混合物を回転数3000rpm~3500rpm、5分~10分の条件で遠心分離し、アルカリ性上澄み液とアルカリ性に不溶な混合物に分離した。なお、以下、アルカリ性上澄み液をアルカリ可溶画分という。また、アルカリに不溶な混合物をアルカリ不溶画分という。
アルカリ可溶画分に1mol/Lの塩酸を徐々に加えて、pH2.0の酸性を有するアルカリ可溶画分に調製した。次に、このアルカリ可溶画分を回転数3000rpm~3500rpm、5分~10分の条件で遠心分離し、酸性上澄み液と酸に不溶な混合物に分離した。なお、以下、酸性上澄み液を酸可溶画分という。また、酸に不溶な混合物を酸不溶画分という。
得られた酸可溶画分を酢酸エチル30mLで3回抽出した。抽出して得られた酢酸エチルをエバポレーターで減圧濃縮して、デヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物を得た。混合物の収率は、脱脂シラカバ木粉0.1gに対して、デヒドロジンゲロンが0.9%であり、シリンギルデヒドロジンゲロンが3.7%であった。収率は、LC/MS分析で得られたUVクロマトグラムとMSクロマトグラムの結果から定量して求めた。
なお、実施例1で使用した遠心分離機は、久保田商事社製 Model 6200である。
【0039】
得られた混合物について、PDA-GPC分析、LC/MS分析、及びNMR分析を行った。なお、PDAは、Photodiode Array Detectorの略語である。GPCは、Gel Permeation Chromatographyの略語である。LC/MSは、Liquid Chromatography Mass Spectrometryの略語である。NMRは、Nuclear Magnetic Resonanceの略語である。
<PDA-GPC分析>
図1(a)の溶出チャートにおいて、リテンションタイム33分付近に320nm付近に吸収波長を有する化合物が増加していることが確認できた。また、
図1(b)のUVスペクトルにおいても、リテンションタイム33分付近に320nm付近に吸収波長を有する化合物が増加していることが確認できた。なお、
図1(b)に示す280nm付近から370nm付近までの範囲で強い吸収が確認され、さらに320nm付近から350nm付近までの範囲においてより強い吸収が確認された。なお、デヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物は、320nm付近の波長を吸収する性質を有する。
PDA-GPC分析で使用した分析機器は、島津製作所社製LC20である。カラムは、昭和電工社製Shodex KF-804とKF-802を連結したカラムを使用した。分析条件は、40℃、流速0.60mL/分とした。また、溶離液として、0.01mol/Lのリン酸を含有するテトラヒドロフラン(THF)を使用した。
【0040】
<LC/MS分析>
図2(a)のUVクロマトグラムにおいて、リテンションタイム12分付近に320nm付近の吸収波長を有する化合物のピークを確認した。
図2(b)のMSクロマトグラムにおいて、リテンションタイム12分付近に特定の化合物の存在を示すピークを確認した。
図2(c)は、リテンションタイム12分付近で確認された化合物の質量情報を示したものである。
図2(c)から、得られた混合物に分子量221の化合物と分子量191の化合物が多く含まれることが分かった。分子量221の化合物は、分子量222であるシリンギルデヒドロジンゲロンであると推定される。また、分子量191の化合物は、分子量192であるデヒドロジンゲロンであると推定される。
LC/MS分析で使用した分析機器は、島津製作所社製LCMS2010Aである。カラムは、インタクト社製Imtakt Candenza CD-C18 100×3.0mmを使用した。APCIイオン化法により測定した。分析条件は、APCl(-)、40℃、流速0.25mL/分とした。また、溶離液として、35%メタノールを使用した。APCIは、Atmospheric Pressure Chemical Ionizationの略語である。
【0041】
<NMR分析>
得られたデヒドロジンゲロン、シリンギルデヒドロジンゲロンのそれぞれについて、1H NMR分析、13C NMR分析、及び、HMQC及びHMBCによる2次元NMR測定を行った。なお、HMQCは、Heteronuclear Multiple Quantum Correlationの略語である。HMBCは、Heteronuclear Multiple Bond Correlationの略語である。
【0042】
(デヒドロジンゲロンのNMR分析)
図3は、NMR分析及び2次元NMR測定により得られた化学シフトを示す。得られた化学シフトから、デヒドロジンゲロンが得られていることが分かった。
(シリンギルデヒドロジンゲロンのNMR分析)
図4は、NMR分析及び2次元NMR測定により得られた化学シフトを示す。得られた化学シフトから、シリンギルデヒドロジンゲロンが得られていることが分かった。
NMR分析で使用した分析機器は、Bruker社製 AVANCE III HD 400 Nanobayである。分析条件は、400MHzとした。また、溶媒として、CDCl
3を使用した。
【0043】
以上の分析より、実施例1にかかる製法から、デヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物が得られていることが分かった。
【0044】
以下の実施例及び比較例において使用した装置及び分析機器は、実施例1で使用した装置及び分析機器と同じ装置及び分析機器である。
次に、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を変えて検討を行った。
(実施例2)
水酸化ナトリウム水溶液の濃度を0.1mol/L(0.1N)に変えた以外は、実施例1と同じ条件により反応を進め、デヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物を得た。得られた混合物について、PDA-GPC分析を行ったところ、溶出チャートのピーク面積は、実施例1の
図1(a)に示すピーク面積より小さかった。このことから、実施例2で得られた混合物の生成量は、実施例1で得られた混合物の生成量よりも少ないことが分かった。
【0045】
(実施例3)
水酸化ナトリウム水溶液の濃度を3mol/L(3N)に変えた以外は、実施例1と同じ条件により反応を進め、デヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物を得た。得られた混合物について、PDA-GPC分析を行ったところ、溶出チャートのピーク面積は、実施例1の
図1(a)に示すピーク面積より小さかった。このことから、実施例3で得られた混合物の生成量は、実施例1で得られた混合物の生成量よりも少ないことが分かった。
【0046】
(実施例4)
水酸化ナトリウム水溶液の濃度を4mol/L(4N)に変えた以外は、実施例1と同じ条件により反応を進め、デヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物を得た。得られた混合物について、PDA-GPC分析を行ったところ、溶出チャートのピーク面積は、実施例1の
図1(a)に示すピーク面積より小さかった。このことから、実施例4で得られた混合物の生成量は、実施例1で得られた混合物の生成量よりも少ないことが分かった。
【0047】
(実施例5)
水酸化ナトリウム水溶液の濃度を5mol/L(5N)に変えた以外は、実施例1と同じ条件により反応を進め、デヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物を得た。得られた混合物について、PDA-GPC分析を行ったところ、溶出チャートのピーク面積は、実施例1の
図1(a)に示すピーク面積より小さかった。このことから、実施例5で得られた混合物の生成量は、実施例1で得られた混合物の生成量よりも少ないことが分かった。
【0048】
実施例2~5にかかる製法によりデヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物が得られることが分かった。実施例1及び実施例2~5の中で、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を2mol/L(2N)にした実施例1の混合物が最も多く生成することが分かった。
【0049】
次に、縮合反応の温度を変えて検討を行った。
(実施例6)
縮合反応の温度を0℃に変えた以外は、実施例1と同じ条件により反応を進め、デヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物を得た。得られた混合物について、PDA-GPC分析を行ったところ、溶出チャートのピーク面積は、実施例1の
図1(a)に示すピーク面積より小さかった。このことから、実施例6で得られた混合物の生成量は、実施例1で得られた混合物の生成量よりも少ないことが分かった。
【0050】
(実施例7)
縮合反応の温度を3℃に変えた以外は、実施例1と同じ条件により反応を進め、デヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物を得た。得られた混合物について、PDA-GPC分析を行ったところ、溶出チャートのピーク面積は、実施例1の
図1(a)に示すピーク面積より小さかった。このことから、実施例7で得られた混合物の生成量は、実施例1で得られた混合物の生成量よりも少ないことが分かった。
【0051】
(実施例8)
縮合反応の温度を15℃に変えた以外は、実施例1と同じ条件により反応を進め、デヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物を得た。得られた混合物について、PDA-GPC分析を行ったところ、溶出チャートのピーク面積は、実施例1の
図1(a)に示すピーク面積より小さかった。このことから、実施例8で得られた混合物の生成量は、実施例1で得られた混合物の生成量よりも少ないことが分かった。
【0052】
(実施例9)
縮合反応の温度を60℃に変えた以外は、実施例1と同じ条件により反応を進め、デヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物を得た。得られた混合物について、PDA-GPC分析を行ったところ、溶出チャートのピーク面積は、実施例1の
図1(a)に示すピーク面積より小さかった。このことから、実施例9で得られた混合物の生成量は、実施例1で得られた混合物の生成量よりも少ないことが分かった。
【0053】
実施例6~9にかかる製法によりデヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物が得られることが分かった。実施例1及び実施例6~9の中で、縮合反応の温度を25℃にした実施例1の混合物が最も多く生成することが分かった。
【0054】
次に、縮合反応の時間を変えて検討を行った。
(実施例10)
縮合反応の時間を24時間に変えた以外は、実施例1と同じ条件により反応を進め、デヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物を得た。得られた混合物について、PDA-GPC分析を行ったところ、溶出チャートのピーク面積は、実施例1の
図1(a)に示すピーク面積より小さかった。このことから、実施例10で得られた混合物の生成量は、実施例1で得られた混合物の生成量よりも少ないことが分かった。
【0055】
(実施例11)
縮合反応の時間を84時間に変えた以外は、実施例1と同じ条件により反応を進め、デヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物を得た。得られた混合物について、PDA-GPC分析を行った。この結果を
図5に示す。
図5(a)の溶出チャートにおいて、リテンションタイム33分付近に320nm付近に吸収波長を有する化合物の存在を確認した。また、この320nm付近に吸収波長を有する化合物の溶出チャートのピーク面積は、実施例1における
図1(a)の320nm付近に吸収波長を有する化合物の溶出チャートのピーク面積より小さかった。このことから、実施例11で得られた混合物の生成量は、実施例1で得られた混合物の生成量よりも少ないことが分かった。
ここで、
図5(a)の溶出チャート、及び
図5(b)のUVスペクトルにおいて、リテンションタイム31分付近に、370nm付近の吸収波長を有する化合物の存在を確認した。この370nm付近に吸収波長を有する化合物について、さらに調べるべくLC/MS分析を行った。
MSクロマトグラムにおいて、
図6(a)に示すようにリテンションタイム20分付近、及びリテンションタイム22分付近にそれぞれ特定の化合物の存在を示すピークを確認した。
リテンションタイム20分付近で確認された化合物の質量情報を調べた結果を
図6(b)に示す。
図6(b)から、得られた混合物に分子量355の化合物と分子量385の化合物が含まれることが分かった。分子量355の化合物は、下記式(3)で表されるデヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンから生成される分子量356の二次縮合物であると推定される。分子量385の化合物は、下記式(4)で表される2つのシリンギルデヒドロジンゲロンから生成される分子量386の二次縮合物であると推定される。
次に、リテンションタイム22分付近で確認された化合物の質量情報を調べた結果を
図6(c)に示す。
図6(c)から、得られた混合物に分子量325の化合物が含まれることが分かった。分子量325の化合物は、下記式(5)で表される2つのデヒドロジンゲロンから生成される分子量325の二次縮合物であると推定される。
以上から、本実施形態にかかる製造条件において縮合反応の時間を調整することにより、デヒドロジンゲロンから得られる二次縮合物、シリンギルデヒドロジンゲロンから得られる二次縮合物、及び、デヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンから得られる二次縮合物が効率的に得られることが分かった。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
実施例10、11にかかる製法によりデヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物が得られることが分かった。さらに、縮合反応の時間を変えて検討した結果、実施例1における縮合反応の時間を180分(3時間)にしたとき、その混合物が最も多く生成することが分かった。また、実施例11において、縮合反応の時間を48時間にすることで、デヒドロジンゲロンから得られる二次縮合物、シリンギルデヒドロジンゲロンから得られる二次縮合物、及び、デヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンから得られる二次縮合物が効率的に得られた。
【0060】
次に、アセトンの量を変えて検討を行った。
(実施例12)
アセトンの量を5mol/C
9に変えた以外は、実施例1と同じ条件により反応を進め、デヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物を得た。得られた混合物について、PDA-GPC分析を行ったところ、溶出チャートのピーク面積は、実施例1の
図1(a)に示すピーク面積より小さかった。このことから、実施例12で得られた混合物の生成量は、実施例1で得られた混合物の生成量よりも少ないことが分かった。
【0061】
次に、実施例13において、実施例1で使用した広葉樹材である脱脂シラカバ木粉を針葉樹材であるヒノキ木粉に変えて実験を行った。
(実施例13)
ヒノキ木粉0.1g、2mol/L(2N)の水酸化ナトリウム水溶液2.0mL、酸化銅0.05gをステンレス製オートクレーブにそれぞれ入れて混合物を得た。この混合物を撹拌しながら、180℃で60分、酸化分解反応を行った。その後、得られた混合物を室温まで冷却した。次に、アセトン15mol/C9をこの混合物に添加して25℃で180分、縮合反応を行った。次に、得られた混合物を回転数3000rpm~3500rpm、5分~10分の条件で遠心分離し、アルカリ可溶画分とアルカリ不溶画分に分離した。
アルカリ可溶画分に1mol/Lの塩酸を徐々に加えて、pH2.0の酸性を有するアルカリ可溶画分に調製した。次に、このアルカリ可溶画分を回転数3000rpm~3500rpm、5分~10分の条件で遠心分離し、酸可溶画分と酸不溶画分に分離した。
得られた酸可溶画分を酢酸エチル30mLで3回抽出した。抽出して得られた酢酸エチルをエバポレーターで減圧濃縮して、デヒドロジンゲロンを含む混合物を得た。
【0062】
得られたデヒドロジンゲロンを含む混合物について、PDA-GPC分析、及びLC/MS分析を行った。
<PDA-GPC分析>
図7(a)の溶出チャートにおいて、リテンションタイム33分付近に320nm付近に吸収波長を有する化合物が増加していることが確認できた。また、
図7(b)のUVスペクトルにおいても、リテンションタイム33分付近に320nm付近に吸収波長を有する化合物が増加していることが確認できた。デヒドロジンゲロンを含む混合物は、320nm付近の波長を吸収する性質を有する。
【0063】
<LC/MS分析>
図8(a)のUVクロマトグラムにおいて、リテンションタイム11.5分付近に320nm付近の吸収波長を有する化合物のピークを確認した。
図8(b)のMSクロマトグラムにおいて、リテンションタイム11.5分付近に特定の化合物の存在を示すピークを確認した。
図8(c)は、リテンションタイム11.6分付近で確認された化合物の質量情報を示したものである。
図8(c)から、得られた混合物に分子量191の化合物が多く含まれることが分かった。分子量191の化合物は、分子量192であるデヒドロジンゲロンであると推定される。なお、実施例1で確認された分子量221の化合物は、実施例13では確認されなかった。
以上、実施例13にかかる製法から得られた混合物のPDA-GPC分析、及びLC/MS分析から、針葉樹材であるヒノキ木粉を使用したとき、デヒドロジンゲロンのみが生成することが分かった。
【0064】
次に、酸化分解反応の後にアセトンを加えて縮合反応させた実施例1とは異なり、アセトンを加えてから酸化分解反応、縮合反応させた比較例1について検討した。
(比較例1)
脱脂シラカバ木粉0.1g、1mol/L(1N)の水酸化ナトリウム水溶液2.0mL、酸化銅0.05g、アセトン15mol/C9をステンレス製オートクレーブにそれぞれ入れて混合物を得た。この混合物を撹拌しながら、180℃で60分、酸化分解反応及び縮合反応を行った。次に、得られた混合物を回転数3000rpm~3500rpm、5分~10分の条件で遠心分離し、アルカリ可溶画分とアルカリ不溶画分に分離した。
アルカリ可溶画分に1mol/Lの塩酸を徐々に加えて、pH2.0の酸性を有するアルカリ可溶画分に調製した。次に、このアルカリ可溶画分を回転数3000rpm~3500rpm、10分の条件で遠心分離し、酸可溶画分と酸不溶画分に分離した。
得られた酸可溶画分を酢酸エチル30mLで3回抽出した。抽出して得られた酢酸エチルをエバポレーターで減圧濃縮して混合物を得た。
【0065】
<PDA-GPC分析>
図9(a)の溶出チャートにおいて、リテンションタイム33分付近に320nm付近に吸収波長を有する化合物のピークは確認できなかった。また、
図9(b)のUVスペクトルにおいても、リテンションタイム33分付近に320nm付近に吸収波長を有する化合物の存在は確認できなかった。
以上のことから、デヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物は、比較例1にかかる製法により、ほぼ生成されないことが分かった。
【0066】
(デヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物の生理活性)
次に得られたデヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物の生理活性として、DPPHラジカル消去活性、神経細胞死の抑制効果、抗酸化酵素の発現効果について調べた。
【0067】
(DPPHラジカル消去活性)
DPPHラジカル消去活性の評価は、DPPHラジカル消去活性評価法により行った。このDPPHラジカル消去活性評価法は、DPPHラジカル溶液と試料溶液を混合し、一定時間反応させた後に520nmの吸光度を測定して、試料のラジカル消去活性を評価する方法である。この測定においてDPPHラジカルが減少すると吸光度が減少する。
(デヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物のDPPHラジカル消去活性)
(実施例14)
まず、実施例1で得られたデヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物のモル濃度が0.1mmol/Lである試料溶液を調製した。この試料溶液で使用した溶媒はジメチルスルホキシドである。
次に、この試料溶液800μLと、MES(2-(N-morpholino)ethanesulfonic acid)のモル濃度が200mmol/LであるMES緩衝液500μLと、50%エタノール水溶液200μLと、DPPHのモル濃度が0.8mmol/LであるDPPHラジカル溶液500μLと、を含む混合液を調製した。この混合液を室温で20分反応させた後、混合液の520nmの吸光度を測定した。使用した吸光光度計は、日本分光社製V-630である。
上記で使用した各薬品自体の色の影響を排除するために、リファレンス溶液を調製し、吸光度を測定した。
試料溶液に使用した溶媒ジメチルスルホキシド800μLと、MESのモル濃度が200mmol/LであるMES緩衝液500μLと、50%エタノール水溶液200μLと、DPPHのモル濃度が0.8mmol/LであるDPPHラジカル溶液500μLと、を含むリファレンス溶液を調製した。上述した混合液を測定したときと同じように、リファレンス溶液を室温で20分反応させた後、リファレンス溶液の520nmの吸光度を測定した。
(評価)
リファレンス溶液の吸光度に対して試料溶液を含む混合液の吸光度が減少した割合を吸光度減少率(%)として算出して評価した。デヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物は、吸光度減少率は83.3%であった。
【0068】
(フェルラ酸のDPPHラジカル消去活性)
(比較例2)
比較例2では、実施例14で使用したデヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物を、フェルラ酸に変えてDPPHラジカル消去活性の評価を行った。
なお、フェルラ酸は、ポリフェノールの1種でありラジカル消去活性を有する物質として知られている。
(評価)
フェルラ酸の吸光度減少率は、70.1%であった。分析機器は、実施例14で使用した分析機器と同じ分析機器を使用した。また、分析条件は、実施例14の分析条件と同じ条件とした。
以上の結果から、デヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物は、DPPHラジカル消去活性を有する。さらに、実施例14にかかる混合物は、フェルラ酸よりも高いDPPHラジカル消去活性を有することが分かった。
【0069】
次に、神経細胞死の抑制効果、抗酸化酵素の発現効果について調べた。なお、神経細胞死の抑制効果にかかる評価では、デヒドロジンゲンロン、シリンギルデヒドロジンゲンロン、単体の物質を使用した。また、ジンゲンロンを比較対象物質として使用した。抗酸化酵素の発現効果にかかる評価では、それぞれ準備したデヒドロジンゲンロン及びシリンギルデヒドロジンゲンロンの混合物を使用した。また、ジンゲンロンを比較対象物質として使用した。
【0070】
(神経細胞死の抑制効果)
(実施例15)
神経細胞死の抑制は、神経細胞の生存率を求めて評価した。評価方法は、MTT(3-(4,5-di-methylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazolium bromide, yellow tetrazole)法を採用した。MTTは、生きている細胞内のミトコンドリアにおいて紫色のホルマザンへ還元される。MTT法は、このホルマザンの吸光度を測定して、細胞の生存率を求める方法である。細胞が生きているとミトコンドリアが機能し、MTTがホルマザンへ還元される。この細胞の生存率が高いほど細胞死が少ない。
(使用した神経細胞)
神経細胞は、ヒト神経芽腫細胞株SK-N-SH(ATCC HTB-11)を使用した。また、この神経細胞を含む細胞培養液(10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地)を準備し、96well細胞培養マイクロプレートを培養器とした。
(前処理)
ジンゲロン(Z)を細胞培養液に加えて24時間培養した。細胞培養液に加えた後のジンゲロン(Z)の濃度は、1μmol/Lとした。
(細胞死の誘発)
前処理を行った各培養液から、ジンゲロン(Z)を含む培養液を除去し、新しい細胞培養液(10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地)、及びパラコート(Paraquat,PQ)を加え、24時間培養した。神経細胞を含む培養液に加えた後のパラコートの濃度は、500μmol/Lとした。なお、パラコートは、酸化ストレス誘発剤である。
デヒドロジンゲロン(DZ)、及びシリンギルデヒドロジンゲロン(SDZ)も、ジンゲロン(Z)と同じような手順でそれぞれ細胞培養液を準備し、前処理を行い、細胞死を誘発させた。
(測定試料の調製)
細胞死を誘発させた各細胞培養液100μLに、5mg/mLのMTT溶液を5μL加えて、4時間培養した後、培養液を吸引除去し、50μLのジメチルスルホキシドを加えて、プレート表面に接着しているSK-N-SH細胞内で生成したホルマザンを溶解させ、測定試料を得た。また、前処理をせず、かつ、パラコートを加えていない神経細胞を含む細胞培養液100μLに5mg/mLのMTT溶液を5μL加えて、4時間培養したリファレンス(Control)を準備した。さらに、前処理をせず細胞死の誘発を行った神経細胞を含む細胞培養液100μLに5mg/mLのMTT溶液を5μL加えて、4時間培養した測定試料(UT)を準備した。
(評価)
得られた各測定試料の550nmにおける吸光度を測定した。測定に使用した吸光光度計(吸光マイクロプレートリーダー)は、Bio-Rad社製Model 680である。リファレンス(Control)の吸光度の値を100%として、各測定試料の生存率を算出した。
図10に示すように、前処理を行った測定試料は、前処理を行わない測定試料(UT)に比べて、神経細胞の生存率が高いことが分かった。即ち、神経細胞死が抑制されていることが分かった。
以上のことから、デヒドロジンゲンロン及びシリンギルデヒドロジンゲンロンを含む混合物も、神経細胞死の抑制効果を有することが期待される。
【0071】
次に、抗酸化酵素の発現効果について調べた。
(抗酸化酵素の発現効果)
(実施例16)
抗酸化酵素の発現誘導は、酸化ストレスに対する防御機能を発現する際に重要な働きを担う抗酸化酵素(HO-1、NQO1)の発現量により評価した。この抗酸化酵素の発現量が多いほど、酸化ストレスに対する高い防御機能が発揮され、神経細胞死が抑制される。評価方法は、HO-1及びNQO1に特異的な一次抗体を用いたウエスタンブロット法を採用した。HO-1は、酵素ヘムオキシゲナーゼ-1を表す。NQO1は、NAD(P)Hキノンオキシドレダクターゼ1を表す。
(使用した神経細胞)
神経細胞は、ヒト神経芽腫細胞株SK-N-SH(ATCC HTB-11)を使用した。また、この神経細胞を含む細胞培養液(10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地)を準備した。
(試料の調製)
(1)サンプルZ1
ジンゲロン(Z)を細胞培養液に加えて24時間培養した。細胞培養液に加えた後のジンゲロン(Z)の濃度は、1ppmとした。
(2)サンプルMix0.1
デヒドロジンゲンロン(DZ)とシリンギルデヒドロジンゲンロン(SDZ)とをDZ:SDZ=1:4.2の割合で加えた混合物を細胞培養液に加えて24時間培養した。細胞培養液に加えた後の混合物の濃度は、0.1ppmとした。
(3)サンプルMix1
デヒドロジンゲンロン(DZ)とシリンギルデヒドロジンゲンロン(SDZ)とをDZ:SDZ=1:4.2の割合で加えた混合物を細胞培養液に加えて24時間培養した。細胞培養液に加えた後の混合物の濃度は、1ppmとした。
(4)サンプルMix10
デヒドロジンゲンロン(DZ)とシリンギルデヒドロジンゲンロン(SDZ)とをDZ:SDZ=1:4.2の割合で加えた混合物を細胞培養液に加えて24時間培養した。細胞培養液に加えた後の混合物の濃度は、10ppmとした。
(5)none(未処理)
混合物を加えずに細胞培養液を24時間培養した。
(評価)
HO-1及びNQO1の発現量をウエスタンブロット法により評価した。その評価において使用した内部標準タンパク質は、β-actinである。この評価結果を
図11に示す。
図11(a)は、各サンプルのHO-1及びNQO1のバンド結果を示す。
図11(b)は、検出された各サンプルのバンド結果を抗酸化酵素別に数値化して、その数値化した値をnone(未処理)に対する相対値としてそれぞれ算出した値を示す。
図11(b)に示すように、デヒドロジンゲンロン(DZ)とシリンギルデヒドロジンゲンロン(SDZ)との混合物含むサンプルは、ジンゲンロン(Z)を含むサンプルよりも抗酸化酵素が増えることが分かった。また、混合物の濃度が高くなると、抗酸化酵素も増えることが分かった。
上記の結果からデヒドロジンゲンロン(DZ)とシリンギルデヒドロジンゲンロン(SDZ)との混合物は、抗酸化酵素を増やすことが可能である。また、このような混合物を使用することで神経細胞の酸化ストレスに対する防御機能が高まり、神経細胞死の抑制へと繋がる。
以上のことから、実施形態にかかるデヒドロジンゲンロン及びシリンギルデヒドロジンゲンロンを含む混合物も、神経細胞死の抑制効果、及び抗酸化酵素の発現効果を有すると考えられる。
【0072】
以上、本実施形態にかかるデヒドロジンゲロン及び/又はシリンギルデヒドロジンゲロンの製造方法によれば、リグニンダイマーの前駆体であるデヒドロジンゲロン及び/又はシリンギルデヒドロジンゲロンを高い収率で得ることができる。また、デヒドロジンゲロン及びシリンギルデヒドロジンゲロンを含む混合物は、生理活性としてDPPHラジカル消去活性、神経細胞死の抑制効果、及び抗酸化酵素の発現効果を有する。
【0073】
以上、本発明について実施形態を用いて説明したが、本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施形態ではなく、請求の範囲によって示される。そして、請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。