(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064391
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】時計用部品、時計、および、時計用部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
G04B 19/06 20060101AFI20240507BHJP
G04B 19/10 20060101ALI20240507BHJP
G04B 37/22 20060101ALI20240507BHJP
G04B 1/02 20060101ALI20240507BHJP
A44C 5/00 20060101ALI20240507BHJP
A44C 5/02 20060101ALI20240507BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
G04B19/06 B
G04B19/10 Z
G04B37/22 J
G04B1/02
A44C5/00 E
A44C5/02 B
A44C5/02 D
A44C5/02 F
B41J2/01 109
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172947
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤 飛翔
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EE17
2C056FB09
(57)【要約】
【課題】任意の模様を表現することができる時計用部品、時計、時計用部品の製造方法を提供すること。
【解決手段】本開示の時計用部品は、基材と、基材の少なくとも一部を覆い、色調を調整する機能を有する色調整膜を含む多層膜と、多層膜に対して積層され、所定の屈折率を有し、かつ、任意のパターンで形成される第1透明膜と、第1透明膜または多層膜に対して積層され、第1透明膜とは所定の差の屈折率を有する第2透明膜と、を備えることを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の少なくとも一部を覆い、色調を調整する機能を有する色調整膜を含む多層膜と、
前記多層膜に対して積層され、所定の屈折率を有し、かつ、任意のパターンで形成される第1透明膜と、
前記第1透明膜または前記多層膜に対して積層され、前記第1透明膜とは所定の差の屈折率を有する第2透明膜と、を備えた領域を有する
ことを特徴とする時計用部品。
【請求項2】
基材と、
前記基材の少なくとも一部を覆い、色調を調整する機能を有する色調整膜を含む多層膜と、
前記多層膜に対して積層され、所定の屈折率を有し、かつ、任意のパターンで形成される第1透明膜と、
前記第1透明膜が部分的に形成された前記多層膜に対して積層され、前記第1透明膜とは所定の差の屈折率を有する第2透明膜と、を備えた領域を有する
ことを特徴とする時計用部品。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の時計用部品において、
前記基材には、前記多層膜に覆われる表面に、任意の模様が形成されている
ことを特徴とする時計用部品。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の時計用部品において、
前記第1透明膜の前記任意のパターンは、インクジェットプリンターにより形成されている
ことを特徴とする時計用部品。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の時計用部品において、
前記第1透明膜と前記第2透明膜とは、屈折率の差の絶対値が0.06以上である
ことを特徴とする時計用部品。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の時計用部品において
前記基材の厚さ方向から見た平面視において、前記第1透明膜が形成される箇所と、前記第1透明膜が形成されない箇所との色差が1.6以上である
ことを特徴とする時計用部品。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載の時計用部品を用いて構成される時計であって、
文字板、回転錘、略字、針、ベゼル、および、ベルトのいずれか一つが、前記時計用部品を用いて構成される
ことを特徴とする時計。
【請求項8】
基材の少なくとも一部を覆うように、色調を調整する機能を有する色調整膜を含む多層膜を形成する多層膜形成工程と、
前記多層膜形成工程の後に実施され、前記多層膜に対して、所定の屈折率を有し、かつ、任意のパターンで形成される第1透明膜を積層させる第1透明膜形成工程と、
前記第1透明膜形成工程の後に実施され、前記第1透明膜または前記多層膜に対して、前記第1透明膜とは所定の差の屈折率を有する第2透明膜を積層させる第2透明膜積層工程と、を備える
ことを特徴とする時計用部品の製造方法。
【請求項9】
基材の少なくとも一部を覆うように、色調を調整する機能を有する色調整膜を含む多層膜を形成する多層膜形成工程と、
前記多層膜形成工程の後に実施され、前記多層膜に対して、所定の屈折率を有し、かつ、任意のパターンで形成される第1透明膜を積層させる第1透明膜形成工程と、
前記第1透明膜形成工程の後に実施され、前記第1透明膜が部分的に形成された前記多層膜に対して、前記第1透明膜とは所定の差の屈折率を有する第2透明膜を積層させる第2透明膜積層工程と、を備える
ことを特徴とする時計用部品の製造方法。
【請求項10】
請求項8または請求項9に記載の時計用部品の製造方法において、
前記多層膜形成工程の前に実施され、前記基材の前記多層膜に覆われる表面に任意の模様を形成する基材模様形成工程を備える
ことを特徴とする時計用部品の製造方法。
【請求項11】
請求項8または請求項9に記載の時計用部品の製造方法において、
前記第1透明膜形成工程において、インクジェットプリンターにより任意のパターンで前記第1透明膜を形成する
ことを特徴とする時計用部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計用部品、時計、および、時計用部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、時計用文字板に対して、樹脂を含む材料で構成されたA層と、A層とは異なる樹脂を含む材料で構成され、A層とは異なる屈折率を有するB層と、を積層させた時計が開示されている。
【0003】
特許文献1では、屈折率の異なるA層およびB層を交互に繰り返して配置することにより、時計用文字板としての光の透過性を十分に高いものにしつつ、深い色合いの色調を表現できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、深い色合いの色調を表現できるものの、任意の模様を表現することができず、さらに意匠性を高めることができないとった問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の時計用部品は、基材と、前記基材の少なくとも一部を覆い、色調を調整する機能を有する色調整膜を含む多層膜と、前記多層膜に対して積層され、所定の屈折率を有し、かつ、任意のパターンで形成される第1透明膜と、前記第1透明膜または前記多層膜に対して積層され、前記第1透明膜とは所定の差の屈折率を有する第2透明膜と、を備えた領域を有することを特徴とする。
【0007】
本開示の時計用部品は、基材と、前記基材の少なくとも一部を覆い、色調を調整する機能を有する色調整膜を含む多層膜と、前記多層膜に対して積層され、所定の屈折率を有し、かつ、任意のパターンで形成される第1透明膜と、前記第1透明膜が部分的に形成された前記多層膜に対して積層され、前記第1透明膜とは所定の差の屈折率を有する第2透明膜と、を備えた領域を有することを特徴とする。
【0008】
本開示の時計は、前記時計用部品を用いて構成される時計であって、文字板、回転錘、略字、針、ベゼル、および、ベルトのいずれか一つが、前記時計用部品を用いて構成されることを特徴とする。
【0009】
本開示の時計用部品の製造方法は、基材の少なくとも一部を覆うように、色調を調整する機能を有する色調整膜を含む多層膜を形成する多層膜形成工程と、前記多層膜形成工程の後に実施され、前記多層膜に対して、所定の屈折率を有し、かつ、任意のパターンで形成される第1透明膜を積層させる第1透明膜形成工程と、前記第1透明膜形成工程の後に実施され、前記第1透明膜または前記多層膜に対して、前記第1透明膜とは所定の差の屈折率を有する第2透明膜を積層させる第2透明膜積層工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本開示の時計用部品の製造方法は、基材の少なくとも一部を覆うように、色調を調整する機能を有する色調整膜を含む多層膜を形成する多層膜形成工程と、前記多層膜形成工程の後に実施され、前記多層膜に対して、所定の屈折率を有し、かつ、任意のパターンで形成される第1透明膜を積層させる第1透明膜形成工程と、前記第1透明膜形成工程の後に実施され、前記第1透明膜が部分的に形成された前記多層膜に対して、前記第1透明膜とは所定の差の屈折率を有する第2透明膜を積層させる第2透明膜積層工程と、を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の一実施形態に係る時計を示す正面図。
【
図2】前記実施形態の文字板本体部の要部を示す断面図。
【
図3】前記実施形態の文字板本体部の製造工程を示す図。
【
図4】前記実施形態の文字板本体部の概略を示す正面図。
【
図5】第1透明膜と第2透明膜との屈折率差と、文字板本体部を平面視した場合色差と、の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態の時計1を図面に基づいて説明する。
図1は、時計1を示す正面図である。本実施形態では、時計1は、ユーザーの手首に装着される腕時計として構成される。
図1に示すように、時計1は、金属製のケース2を備える。そして、ケース2の内部には、円板状の文字板10と、秒針3、分針4、時針5と、りゅうず7と、Aボタン8と、Bボタン9とを備える。そして、文字板10は、文字板本体部11と、文字板本体部11に設けられるアワーマーク12とを有している。なお、文字板10は、本開示の時計用部品の一例である。
【0013】
[文字板本体部]
図2は、文字板本体部11の要部を示す断面図である。なお、
図2は、文字板本体部11における基材30を厚さ方向に切断した断面図である。
図2に示すように、文字板本体部11は、基材30と、多層膜31と、第1透明膜32と、第2透明膜33とを備えて構成される。本実施形態では、基材30は、全体にわたって多層膜31に覆われている。すなわち、多層膜31は、基材30の表面301全体を覆うように積層されている。
なお、文字板本体部11は、上記構成に限られるものではなく、例えば、基材30の表面301の一部を覆うように多層膜31が積層されていてもよい。
【0014】
[基材]
基材30の材質は、鉄、真鍮、アルミニウム等の金属や、樹脂等から構成される。なお、基材30を樹脂により構成する場合、当該樹脂は、光を透過させない非透光性樹脂であってもよく、あるいは、光を透過させる透光性樹脂であってもよい。
また、本実施形態では、基材30の表面301には、任意の模様が形成されている。模様の形成方法については特に限定されないが、例えば、切削加工、レーザー加工、化学除去加工、研磨加工、鍛造・鋳造加工等の加工を用いて形成することができる。
【0015】
[多層膜]
多層膜31は、色吸収膜311と色調整膜312とを備えて構成され、基材30の表面301に積層される。
色吸収膜311は、金属を用いて形成される。なお色吸収膜311を構成する金属としては、Ag、Pt、Au、Cu、Al、Cr、Sn、Fe、Ti等や、これらの合金等が好ましい。本実施形態では、色調整膜312に積層されるように、2層の色吸収膜311が形成されている。
色吸収膜311の形成方法としては、特に限定されないが、イオンアシスト蒸着、イオンプレーティング蒸着、真空蒸着、スパッタリング法等が挙げられる。これにより、多層膜31の層構成を任意に変化させることができる。
【0016】
色調整膜312は、光学干渉により色調を調整する膜である。本実施形態では、5層の色調整膜312が形成されている。すなわち、色吸収膜311と色調整膜312とで、7層の多層膜31が構成されている。
また、本実施形態では、色調整膜312は、無機膜を含む膜として構成される。具体的には、色調整膜312は、Ta2O5、SiO2、TiO2、Al2O3、ZrO2、Nb2O5、HfO2、Na5Al3F14、Na3AlF6、AlF3、MgF2、CaF2、BaF2、YF3、LaF3、CeF3、および、NdF3の少なくとも1種を含む材料から構成されることが好ましい。これにより、これらの無機物は化学的安定性が高いので、時計用部品としての外観の安定性や耐久性を高くすることができる。
なお、色調整膜312の形成方法としては、特に限定されないが、イオンアシスト蒸着、イオンプレーティング蒸着、真空蒸着、スパッタリング法等が挙げられる。これにより、多層膜31の層構成を任意に変化させることができる。
【0017】
[第1透明膜]
第1透明膜32は、多層膜31に対して積層され、所定の屈折率を有して入射される光の一部を透過させる透明膜である。本実施形態では、第1透明膜32は、エポキシ塗料により形成されており、屈折率が2.2とされている。
また、第1透明膜32は、任意のパターンとなるように、多層膜31に対して積層されている。すなわち、基材30の厚さ方向から見た平面視において、第1透明膜32が形成された箇所と、第1透明膜32が形成されていない箇所とが存在する。換言すると、多層膜31に対して第1透明膜32が積層されている箇所と、多層膜31が露出している箇所と、が存在する。すなわち、多層膜31に対して第1透明膜32が部分的に形成されている。
【0018】
[第2透明膜]
第2透明膜33は、第1透明膜32または多層膜31に対して積層され、所定の屈折率を有して入射される光の一部を透過させる透明膜である。すなわち、第2透明膜33は、第1透明膜32が形成されている箇所では当該第1透明膜32に積層され、第1透明膜32が形成されない箇所では多層膜31に積層される。換言すると、第2透明膜33は、第1透明膜32が部分的に形成された多層膜31に対して積層される。
また、本実施形態では、第2透明膜33は、アクリル塗料により形成されており、屈折率が1.6とされている。すなわち、本実施形態では、第2透明膜33は、第1透明膜32に対して所定の差の屈折率を有する。より具体的には、第2透明膜33は、第1透明膜32に対して0.6の差の屈折率を有する。
このように、本実施形態では、文字板10は、基材30に対して多層膜31、第1透明膜32、および、第2透明膜33が積層された領域を有する。
【0019】
[文字板の製造方法]
図3は、文字板10の文字板本体部11の製造工程を示す図であり、
図4は、文字板本体部11の概略を示す正面図である。
図3に示すように、先ず、基材模様形成工程として、文字板本体部11における基材30の表面301に、例えば、切削加工、レーザー加工、化学除去加工、研磨加工、鍛造・鋳造加工等の加工を用いて模様を形成する。
【0020】
次に、多層膜形成工程として、文字板本体部11における基材30の表面301に多層膜31を積層させる。具体的には、基材30の表面301に、イオンアシスト蒸着、イオンプレーティング蒸着、真空蒸着、スパッタリング法等により色吸収膜311および色調整膜312を積層させる。
なお、
図3では、模様を形成した基材30の表面301に多層膜31を積層させた状態を示している。
【0021】
次に、第1透明膜形成工程として、多層膜31に第1透明膜32を形成する。具体的には、多層膜31に対して、インクジェットプリンターによりエポキシ塗料を任意のパターンで塗布することにより、第1透明膜32を形成する。本実施形態では、複数の雷マーク様のパターンを形成するように、第1透明膜32を形成する。この際、本実施形態では、インクジェットプリンターを用いて第1透明膜32を形成するので、任意のパターンの第1透明膜32を容易に形成することができる。
【0022】
次に、第2透明膜形成工程として、第1透明膜32または多層膜31に対して積層させるように、第2透明膜33を形成する。具体的には、第1透明膜32または多層膜31に対して、インクジェットプリンターによりアクリル塗料を塗布することにより、第2透明膜33を形成する。すなわち、第1透明膜32が部分的に形成された多層膜31に対して、インクジェットプリンターによりアクリル塗料を塗布することにより、第2透明膜33を形成する。この際、第1透明膜32に対して、屈折率の差の絶対値が0.06以上になるように、第2透明膜33を形成する。
【0023】
このように文字板本体部11を形成することにより、
図4に示すように、多層膜31により文字板本体部11に対して任意の色調を施すことができる。
また、第1透明膜32と第2透明膜33とで屈折率が異なるので、第1透明膜32が形成される箇所と、第1透明膜32が形成されない箇所とで、異なった色調を表現することができる。換言すると、第1透明膜32および第2透明膜33を通して多層膜31および基材30を視認できる箇所と、第2透明膜33のみを通して多層膜31および基材30を視認できる箇所とで透過する光の屈折率が異なることから、異なった色調を表現することができる。これにより、色調の違いにより第1透明膜32のパターンを認識させることができるので、任意の模様を表現することができ、意匠性を高めることができる。
さらに、本実施形態では、多層膜31を積層させる基材30に任意の模様を施すので、基材30に施された模様と第1透明膜32のパターンとにより、多層的で複雑な模様を表現することができる。
【0024】
図5は、第1透明膜32と第2透明膜33との屈折率差と、文字板本体部11を平面視した場合における第1透明膜32が形成される箇所と第1透明膜32が形成されない箇所との色差と、の関係を示す図である。なお、
図5では、アクリル塗料を塗布することで形成した第2透明膜33と、濃紺、緑、グレー、紫、水色の5色の色調を呈する多層膜31とに対して、様々な屈折率の第1透明膜32を形成した文字板本体部11の色調を測定した。色調の測定条件として、CIE標準光源D65で、CIE19644空間にて、入射角0℃の平均反射光を用いてL*a*b*を算出した。また、
図5では、屈折率差として、第2透明膜33の屈折率から第1透明膜32の屈折率を差し引いた値を示している。
【0025】
図5に示すように、濃紺、緑、グレー、紫、水色の5色の色調のいずれも、屈折率の差の絶対値が大きくなるにつれて、第1透明膜32が形成される箇所と第1透明膜32が形成されない箇所との色差が大きくなることが示唆された。
特に、第1透明膜32と第2透明膜33との屈折率の差の絶対値が0.06以上である場合、第1透明膜32が形成される箇所と第1透明膜32が形成されない箇所との色差が1.6以上となることが示唆された。一般的に、色の違いを視認させるためには、1.6以上の色差が必要となる。そのため、第1透明膜32と第2透明膜33との屈折率の差の絶対値を0.06以上とすることで、第1透明膜32が形成される箇所と第1透明膜32が形成されない箇所との色差を1.6以上にすることができて色調が異なることをより確実に視認させることができる。したがって、第1透明膜32のパターンにより表現される任意の模様を視認させることができることが示唆された。
【0026】
[実施形態の作用効果]
このような本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
本実施形態では、基材30の少なくとも一部を覆い、かつ、色調を調整する機能を有する色調整膜312を含む多層膜31を備えるので、文字板10に任意の色調を施すことができる。さらに、本実施形態では、多層膜31に対して、任意のパターンで形成される第1透明膜32と、当該第1透明膜32とは所定の差の屈折率を有する第2透明膜33とを積層させるので、第1透明膜32が形成される箇所と、第1透明膜32が形成されない箇所とで、異なる色調を表現することができる。このため、第1透明膜32のパターンにより任意の模様を表現することができるので、意匠性を高めることができる。
【0027】
本実施形態では、基材30には、多層膜31に覆われる表面301に、任意の模様が形成されているので、第1透明膜32のパターンにより表現される模様に加えて、基材30に形成された模様を表現することができる。そのため、より複雑な模様を表現することができる。
【0028】
本実施形態では、第1透明膜32は、インクジェットプリンターにより任意のパターンが形成されているので、多層膜31に対して、任意のパターンの第1透明膜32を容易に形成することができる。
【0029】
本実施形態では、第1透明膜32と第2透明膜33とは、屈折率の差の絶対値が0.06以上であるので、第1透明膜32が形成される箇所と、第1透明膜32が形成されない箇所とで、色調が異なることをより確実に視認させることができる。そのため、第1透明膜32のパターンにより表現される任意の模様を視認させることができる。
【0030】
本実施形態では、基材30の厚さ方向から見た平面視において、第1透明膜32が形成される箇所と、第1透明膜32が形成されない箇所との色差が1.6以上であるので、第1透明膜32が形成される箇所と、第1透明膜32が形成されない箇所とで、色調が異なることをより確実に視認させることができる。そのため、第1透明膜32のパターンにより表現される任意の模様を視認させることができる。
【0031】
[変形例]
なお、本開示は前述の実施形態に限定されるものではなく、本開示の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本開示に含まれるものである。
【0032】
前記実施形態では、多層膜31は、2層の色吸収膜311および5層の色調整膜312の7層で構成されていたが、これに限定されない。例えば、多層膜31は、色吸収膜と色調整膜とで8層以上となるように構成されていてもよく、あるいは、6層以下となるように構成されていてもよい。
【0033】
前記実施形態では、基材30には、切削加工、レーザー加工、化学除去加工、研磨加工、鍛造・鋳造加工等の加工を用いて模様が形成されていたが、これに限定されない。例えば、基材の表面には、鏡面加工や整面加工が施されていても良い。すなわち、無地の状態の基材に対して、多層膜、第1透明膜、および、第2透明膜が積層されていてもよい。
【0034】
前記実施形態では、文字板本体部11の基材30に対して多層膜31、第1透明膜32、および、第2透明膜33が積層されていたが、これに限定されない。例えば、文字板本体部の基材30に対して多層膜および第2透明膜が積層され、アワーマークに対応する位置に多層膜、第1透明膜、および、第2透明膜が積層されていてもよい。すなわち、アワーマークを表現できるように、第1透明膜のパターンを形成してもよい。このように構成することで、文字板本体部とアワーマークとで異なる色調を表現できるので、文字板本体部の中でアワーマークを視認させることができる。
【0035】
前記実施形態では、第1透明膜32は、インクジェットプリンターにより任意のパターンで形成されていたが、これに限定されない。例えば、第1透明膜は、イオンアシスト蒸着、イオンプレーティング蒸着、真空蒸着、スパッタリング法等により任意のパターンで形成されていてもよい。
同様に、前記実施形態では、第2透明膜33は、インクジェットプリンターにより形成されていたが、これに限定されない。例えば、第2透明膜は、イオンアシスト蒸着、イオンプレーティング蒸着、真空蒸着、スパッタリング法等により任意のパターンで形成されていてもよい。
【0036】
前記実施形態では、本開示の時計用部品は文字板10として構成されていたが、これに限定されない。例えば、本開示の時計用部品は、回転錘、針、ベゼル、および、ベルトのいずれか一つとして構成されていてもよい。
【0037】
[本開示のまとめ]
本開示の時計用部品は、基材と、前記基材の少なくとも一部を覆い、色調を調整する機能を有する色調整膜を含む多層膜と、前記多層膜に対して積層され、所定の屈折率を有し、かつ、任意のパターンで形成される第1透明膜と、前記第1透明膜または前記多層膜に対して積層され、前記第1透明膜とは所定の差の屈折率を有する第2透明膜と、を備えた領域を有することを特徴とする。
本開示では、基材の少なくとも一部を覆い、かつ、色調を調整する機能を有する色調整膜を含む多層膜を備えるので、時計用部品に任意の色調を施すことができる。さらに、本開示では、多層膜に対して、任意のパターンで形成される第1透明膜と、当該第1透明膜とは所定の差の屈折率を有する第2透明膜とを積層させるので、第1透明膜が形成される箇所と、第1透明膜が形成されない箇所とで、異なる色調を表現することができる。このため、第1透明膜のパターンにより任意の模様を表現することができるので、意匠性を高めることができる。
【0038】
本開示の時計用部品は、基材と、前記基材の少なくとも一部を覆い、色調を調整する機能を有する色調整膜を含む多層膜と、前記多層膜に対して積層され、所定の屈折率を有し、かつ、任意のパターンで形成される第1透明膜と、前記第1透明膜が部分的に形成された前記多層膜に対して積層され、前記第1透明膜とは所定の差の屈折率を有する第2透明膜と、を備えた領域を有することを特徴とする。
本開示では、基材の少なくとも一部を覆い、かつ、色調を調整する機能を有する色調整膜を含む多層膜を備えるので、時計用部品に任意の色調を施すことができる。さらに、本開示では、多層膜に対して、任意のパターンで形成される第1透明膜と、当該第1透明膜とは所定の差の屈折率を有する第2透明膜とを積層させるので、第1透明膜が形成される箇所と、第1透明膜が形成されない箇所とで、異なる色調を表現することができる。このため、第1透明膜のパターンにより任意の模様を表現することができるので、意匠性を高めることができる。
【0039】
本開示の時計用部品において、前記基材には、前記多層膜に覆われる表面に、任意の模様が形成されていることが好ましい。
これにより、第1透明膜のパターンにより表現される模様に加えて、基材に形成された模様を表現することができるので、より複雑な模様を表現することができる。
【0040】
本開示の時計用部品において、前記第1透明膜の前記任意のパターンは、インクジェットプリンターにより形成されていることが好ましい。
これにより、多層膜に対して、任意のパターンの第1透明膜を容易に形成することができる。
【0041】
本開示の時計用部品において、前記第1透明膜と前記第2透明膜とは、屈折率の差の絶対値が0.06以上であることが好ましい。
これにより、第1透明膜が形成される箇所と、第1透明膜が形成されない箇所とで、色調が異なることをより確実に視認させることができる。そのため、第1透明膜のパターンにより表現される任意の模様を視認させることができる。
【0042】
本開示の時計用部品において、前記基材の厚さ方向から見た平面視において、前記第1透明膜が形成される箇所と、前記第1透明膜が形成されない箇所との色差が1.6以上であることが好ましい。
これにより、第1透明膜が形成される箇所と、第1透明膜が形成されない箇所とで、色調が異なることをより確実に視認させることができる。そのため、第1透明膜のパターンにより表現される任意の模様を視認させることができる。
【0043】
本開示の時計は、前記時計用部品を用いて構成される時計であって、文字板、回転錘、略字、針、ベゼル、および、ベルトのいずれか一つが、前記時計用部品を用いて構成されることを特徴とする。
【0044】
本開示の時計用部品の製造方法は、基材の少なくとも一部を覆うように、色調を調整する機能を有する色調整膜を含む多層膜を形成する多層膜形成工程と、前記多層膜形成工程の後に実施され、前記多層膜に対して、所定の屈折率を有し、かつ、任意のパターンで形成される第1透明膜を積層させる第1透明膜形成工程と、前記第1透明膜形成工程の後に実施され、前記第1透明膜または前記多層膜に対して、前記第1透明膜とは所定の差の屈折率を有する第2透明膜を積層させる第2透明膜積層工程と、を備えることを特徴とする。
本開示では、基材の少なくとも一部を覆うように、色調を調整する機能を有する色調整膜を含む多層膜を形成するので、時計用部品に任意の色調を施すことができる。さらに、本開示では、色調膜に対して、任意のパターンで形成される第1透明膜と、当該第1透明膜とは所定の差の屈折率を有する第2透明膜とを積層させるので、第1透明膜が形成される箇所と、第1透明膜が形成されない箇所とで、異なる色調を表現することができる。このため、第1透明膜のパターンにより任意の模様を表現することができるので、意匠性を高めることができる。
【0045】
本開示の時計用部品の製造方法は、基材の少なくとも一部を覆うように、色調を調整する機能を有する色調整膜を含む多層膜を形成する多層膜形成工程と、前記多層膜形成工程の後に実施され、前記多層膜に対して、所定の屈折率を有し、かつ、任意のパターンで形成される第1透明膜を積層させる第1透明膜形成工程と、前記第1透明膜形成工程の後に実施され、前記第1透明膜が部分的に形成された前記多層膜に対して、前記第1透明膜とは所定の差の屈折率を有する第2透明膜を積層させる第2透明膜積層工程と、を備えることを特徴とする。
本開示では、基材の少なくとも一部を覆うように、色調を調整する機能を有する色調整膜を含む多層膜を形成するので、時計用部品に任意の色調を施すことができる。さらに、本開示では、色調膜に対して、任意のパターンで形成される第1透明膜と、当該第1透明膜とは所定の差の屈折率を有する第2透明膜とを積層させるので、第1透明膜が形成される箇所と、第1透明膜が形成されない箇所とで、異なる色調を表現することができる。このため、第1透明膜のパターンにより任意の模様を表現することができるので、意匠性を高めることができる。
【0046】
本開示の時計用部品の製造方法において、前記多層膜形成工程の前に実施され、前記基材の前記多層膜に覆われる表面に任意の模様を形成する基材模様形成工程を備えることが好ましい。
これにより、第1透明膜のパターンにより表現される模様に加えて、基材に形成された模様を表現することができるので、より複雑な模様を表現することができる。
【0047】
本開示の時計用部品の製造方法において、前記第1透明膜形成工程において、インクジェットプリンターにより任意のパターンで前記第1透明膜を形成することが好ましい。
これにより、多層膜に対して、任意のパターンの第1透明膜を容易に形成することができる。
【符号の説明】
【0048】
1…時計、2…ケース、3…秒針、4…分針、5…時針、7…りゅうず、8…Aボタン、9…Bボタン、10…文字板(時計用部品)、11…文字板本体部、12…アワーマーク、30…基材、31…多層膜、32…第1透明膜、33…第2透明膜、301…表面、311…色吸収膜、312…色調整膜。