(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064403
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】プラスチック材料に無機物を浸透させる方法及び無機物浸透装置
(51)【国際特許分類】
B29C 31/02 20060101AFI20240507BHJP
C08L 101/02 20060101ALI20240507BHJP
C08J 3/12 20060101ALI20240507BHJP
B29B 13/02 20060101ALI20240507BHJP
B29B 9/16 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
B29C31/02
C08L101/02
C08J3/12 Z
B29B13/02
B29B9/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172970
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】597022643
【氏名又は名称】ワッティー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003018
【氏名又は名称】弁理士法人プロテクトスタンス
(72)【発明者】
【氏名】森田 成二
(72)【発明者】
【氏名】古市 雅隆
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 城治
(72)【発明者】
【氏名】菅波 希衣子
【テーマコード(参考)】
4F070
4F201
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA02
4F070AA32
4F070AA47
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4F070DA55
4F070DB03
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4F201AA01
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4F201BN01
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4F201BQ45
4F201BQ50
4F201BR02
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4F201BR50
4J002AB011
4J002AB021
4J002AB051
4J002BB031
4J002BB121
4J002BC031
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4J002CF181
4J002CG001
4J002GQ01
(57)【要約】
【課題】 プラスチック材料に金属を浸透させる無機物浸透装置を提供する。
【解決手段】 無機物浸透装置(100)は、プラスチック材料を入れるチャンバー部(20)と、チャンバー部(20)を回転しプラスチック材料を揺動させる回転手段(MT)と、チャンバー部を加熱しプラスチック材料を加熱するチャンバーヒーター(29)と、チャンバー部内を10Pa以下の真空状態にする真空ポンプ(VP)と、ガス状態の無機物をチャンバー部内に提供する第1プリカーサ提供部(11)と、を備える。そして無機物浸透装置は、チャンバー部のプラスチック材料を真空状態にし、その後ガス状態の無機物をチャンバー部内に提供し、プラスチック材料を加熱し揺動させて、有機・無機ハイブリッド材料を製造する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック材料を入れるチャンバー部と、
前記チャンバー部を回転し、前記プラスチック材料を揺動させる回転手段と、
前記チャンバー部を加熱し、前記プラスチック材料を加熱するチャンバーヒーターと、
前記チャンバー部内を、10Pa以下の真空状態にする真空ポンプと、
ガス状態の無機物を前記チャンバー部内に提供する第1プリカーサ提供部と、を備え、
前記チャンバー部の前記プラスチック材料を真空状態にし、その後ガス状態の無機物を前記チャンバー部内に提供し、前記プラスチック材料を加熱し揺動させて、有機・無機ハイブリッド材料を製造する、無機物浸透装置。
【請求項2】
ガス状態の酸化・還元物を前記チャンバー部内に提供する第2プリカーサ提供部を、備える請求項1に記載の無機物浸透装置。
【請求項3】
不活性ガスを前記チャンバー部内に提供する不活性ガスタンクを、備える請求項1又は請求項2に記載の無機物浸透装置。
【請求項4】
前記プラスチック材料は、難分解性プラスチック及び生分解性プラスチックを含み、
前記無機物は、金属化合物及びシリコン化合物を含む、請求項1に記載の無機物浸透装置。
【請求項5】
チャンバー部に入れられたプラスチック材料を加熱する加熱工程と、
前記チャンバー部を10Pa以下の真空状態にする真空工程と、
前記チャンバー部内に、ガス状態の無機物を提供する無機物提供工程と、
前記チャンバー部内で、前記プラスチック材料を揺動させる揺動工程と、を備え、
前記プラスチック材料にガス状態の前記無機物を浸透させ、有機・無機ハイブリッド材料を製造する製造方法。
【請求項6】
前記揺動工程後に、前記チャンバー部内を排気する排気工程と、
前記排気工程後、前記チャンバー部内に、酸化・還元物を提供する酸化・還元物提供工程と、
前記チャンバー部内で、前記有機・無機ハイブリッド材料を揺動させる揺動工程と、を備え、
前記有機・無機プラスチック材料を酸化・還元させ、酸化・還元された有機・無機ハイブリッド材料を製造する請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記加熱工程は、前記プラスチック材料を80℃から150℃に加熱し、
前記無機物提供工程は、真空状態の前記チャンバー部をガス状態の無機物を提供して100Paから1000paにする、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難分解性プラスチック材料もしくは生分解性プラスチック材料に、金属等の無機物を浸透させる無機物浸透装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PP(ポロプロピレン)、ポリアミド等のプラスチック材料(射出成形材料、繊維材料を含む)などが広く使われている。一般に、プラスチック材料は、耐熱性が低くまた強度的にも弱い等の問題があった。耐熱性を上げたり強度を上げたプラスチック材料が提案されているが、さらに耐熱性が高く又は強度に優れた材料が求められている。例えば、特許文献1は、二次電池の電池材料としてLラクチド構造を有するポリ乳酸(PLA)に金属を供給するための製造方法及び製造装置が開示されている。
【0003】
しかし、特許文献1はPLAのLラクチド構造に金属化合物を供給して、変性ポリ乳酸(PLA)を得た後、重合させるものである。また触媒などを用いた製造装置で変性ポリ乳酸が製造されているという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2019/009286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする問題点は、難分解性プラスチック材料に金属を浸透できない点、生分解性のある木材から抽出されるプラスチック材料に金属を浸透できない点である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、難分解性プラスチック材料又は生分解性プラスチック材料(以下、特に区別する必要がない場合には、両者をまとめてプラスチック材料と呼ぶことがある。)に金属を浸透させる方法及びその無機物浸透装置を提供することである。
【0007】
実施形態の無機物浸透装置は、プラスチック材料を入れるチャンバー部と、チャンバー部を回転しプラスチック材料を揺動させる回転手段と、チャンバー部を加熱しプラスチック材料を加熱するチャンバーヒーターと、チャンバー部内を10Pa以下の真空状態にする真空ポンプと、ガス状態の無機物をチャンバー部内に提供する第1プリカーサ提供部と、を備える。そして無機物浸透装置は、チャンバー部のプラスチック材料を真空状態にし、その後ガス状態の無機物をチャンバー部内に提供し、プラスチック材料を加熱し揺動させて、有機・無機ハイブリッド材料を製造する。
【0008】
実施形態の無機物浸透装置は、ガス状態の酸化・還元物をチャンバー部内に提供する第2プリカーサ提供部を備えてもよい。
また不活性ガスをチャンバー部内に提供する不活性ガスタンクを備えてもよい。
プラスチック材料は、難分解性プラスチック及び生分解性プラスチックを含み、無機物は、金属化合物及びシリコン化合物を含むことが好ましい。
【0009】
実施形態の製造方法は、チャンバー部に入れられたプラスチック材料を加熱する加熱工程と、チャンバー部を10Pa以下の真空状態にする真空工程と、チャンバー部内に、ガス状態の無機物を提供する無機物提供工程と、チャンバー部内で、プラスチック材料を揺動させる揺動工程と、を備える。そしてこの製造方法で、プラスチック材料にガス状態の無機物を浸透させ、有機・無機ハイブリッド材料を製造することができる。
【0010】
実施形態の製造方法は、上記揺動工程後に、チャンバー部内を排気する排気工程と、排気工程後、チャンバー部内に、酸化・還元物を提供する酸化・還元物提供工程と、チャンバー部内で、有機・無機ハイブリッド材料を揺動させる揺動工程と、を備える。実施形態の製造方法は、有機・無機プラスチック材料を酸化・還元浸透させ、酸化・還元された有機・無機ハイブリッド材料を製造することができる。
また、加熱工程は、プラスチック材料を80℃から150℃に加熱することが好ましく、無機物提供工程は、真空状態のチャンバー部をガス状態の無機物を提供して100Paから1000paにすることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の無機物浸透装置及びその方法は、難分解性プラスチック材料又は生分解性プラスチック材料に金属等の無機物を浸透させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】プラスチック材料に金属を供給する方法を示したフローチャート1である。
【
図3】プラスチック材料に金属を供給する方法を示したフローチャート2である。
【
図4】プラスチック材料から有機・無機物のハイブリッド材料への変化の概念図である。
【
図5】プラスチック材料から有機・無機物のハイブリッド材料への変化の概念図である。
【
図6】プラスチック材料及び有機・無機物のハイブリッド材料の物性評価の結果を示した表1である。
【
図7】プラスチック材料及び有機・無機物のハイブリッド材料の物性評価の結果を示した表2である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態を図面を参照しながら説明する。説明に用いる
図1はこれら実施形態を理解できる程度に概略的に示してあり、大きさ又は厚み等は誇張して描いている場合がある。
【0014】
<<無機物浸透装置100の構成>>
図1は、実施形態の無機物浸透装置100の断面概略図である。無機物浸透装置100は、大別して、プリカーサ供給部10とチャンバー部20とからなる。プリカーサ供給部10は、本実施例では2種類のプリカーサをチャンバー部20内に投入する。図示しないが3種類以上のプリカーサをチャンバー部20に投入する構成にしてもよい。
【0015】
<プリカーサ供給部10の構成>
プリカーサ供給部10は、第1プリカーサ提供部11と、第1プリカーサバッファタンク15と、ノズル及びバルブ18を有する配管12とを有する。またプリカーサ供給部10は、第2プリカーサ提供部13と、ノズル及びバルブ18を有する配管14とを有する。図示されていないが第2プリカーサバッファタンクが配管14上に配置されてもよい。
【0016】
第1プリカーサ提供部11には室温状態で固体もしくは液体の第1プリカーサ源が入れられ、気体(ガス)の第1プリカーサを発生させる。気体の第1プリカーサを発生させるため、第1プリカーサ提供部11はヒーター19を有している。図示されていないが、気体の温度を維持するため、第1プリカーサ提供部11及び第1プリカーサバッファタンク15にヒーターを配置してもよく、配管12の先端のノズル及び配管12の一部又は全部にヒーターが配置されてもよい。気体の第1プリカーサは50℃から150℃に加熱されている。第2プリカーサ提供部13には固体、液体もしくは気体の第2プリカーサ源が入れられ、気体の第2プリカーサを発生させる。第2プリカーサを昇華又は気化させるため、第2プリカーサ提供部13もヒーター19を有していることが好ましい。気体の温度を維持するため、配管14の先端のノズル及び配管14の一部又は全部にヒーターが配置されてもよい。バルブ18は、気体の第1プリカーサもしくは第2プリカーサの供給を開始又は停止させる役目を有する。
【0017】
第1プリカーサ提供部11、第2プリカーサ提供部13、配管12,14、第1プリカーサバッファタンク15等は、固体、液体もしくは気体状態のプリカーサが付着しないように、ステンレス製もしくはアルミ合金製の容器もしくは配管であることが好ましい。鉄製の容器もしくは配管の場合には、それらの内側がプリカーサが付着しないように、フッ素コーティングすることが好ましい。
【0018】
第1プリカーサ提供部11には、金属化合物もしくはシリコン化合物(以下、両者をまとめて無機物と総称することがある。)が入れられる。液体もしくは固体の無機物は、ヒーター19で加熱され、気体となって第1プリカーサバッファタンク15に配管12を経由してチャンバー部20に送られる。後述するチャンバー部20の体積が大きい場合には、気体状態の第1プリカーサが足りなくなる場合があり、第1プリカーサバッファタンク15の容量は大きい方が好ましい。チャンバー部20の体積が小さい場合には、第1プリカーサバッファタンク15が配置されなくても良い。
【0019】
第2プリカーサ提供部13には、酸化もしくは窒化又は還元させるための気体を発生させる蒸留水、液体アンモニアもしくは気体状態の水素等が入れられる。液体もしくは気体の固体の第2プリカーサは、ヒーター19で加熱され、気体となって配管12を経由してチャンバー部20に送られる。チャンバー部20の体積が大きい場合には、第2プリカーサバッファタンクが配置されることが好ましい。
【0020】
<チャンバー部20の構成>
チャンバー部20は、プラスチック材料を入れられる樹脂容器26と、樹脂容器26を回転させるための回転容器24と、樹脂容器26内を真空にするための真空容器22と、真空容器22等を密閉する蓋部21とを有する。蓋部21、真空容器22、回転容器24及び樹脂容器26は、ステンレス製もしくはアルミニウム製の容器であり、その形状は、直方体・円筒などの箱形状であればよい。なお、チャンバー部20が床面から角度θ(20度から80度)に傾いて配置されることが好ましい。作業者が樹脂容器26を着脱したり、固定された樹脂容器26にプラスチック材料を出し入れしたりしやすいからである。
【0021】
樹脂容器26は、回転容器24から着脱可能であってもよく、回転容器24に固定されていてもよい。樹脂容器26が回転容器24から着脱可能な場合には、チャンバー部20から外された樹脂容器26に、作業者がプラスチック材料を入れたり、処理済みの有機・無機物のハイブリッド材料を出したりし易い。樹脂容器26は、回転容器24にネジやボルト等の締結具で固定されてもよい。
【0022】
回転容器24は、樹脂容器26を回転させるため、回転モータMTと回転モータMTの回転を伝える軸25とが接続されている。回転モータMTと回転容器24とは軸25を介して直接接続されてもよく、またはギアやベルト及び軸25を介して間接的に接続されてもよい。回転容器24は、回転モータMTにより5rpm-200rpmで回転できればよく、回転容器24の回転数は一定でもよく可変できるようにしてもよい。本実施形態では、軸25は真空容器22を貫通しているので、真空容器22に取り付けられた磁性流体シール(不図示)によって真空容器22が真空となった場合においても回転することが可能である。
【0023】
円筒形の回転容器24の底面には、チャンバーヒータ29が取り付けられている。チャンバーヒータ29の熱が回転容器24を介して樹脂容器26を加熱するためである。。チャンバーヒータ29の熱により樹脂容器26内のプラスチック材料は80℃から150℃に加熱される。チャンバーヒータ29は、回転容器24の側面に取り付けられても良いし、樹脂容器26の側面に取り付けられても良い。樹脂容器26が回転容器24に固定される形態であれば、チャンバーヒータ29は樹脂容器26に取り付けられることが好ましい。また、チャンバーヒータ29は真空容器22に取り付けられてもよく、蓋21に取り付けられても良い。この形態の場合には、チャンバーヒータ29の熱は、真空容器22及び蓋21を介して樹脂容器26に熱が伝導される。なお、チャンバーヒータ29を回転容器24及び蓋21など複数個所に取り付けられても良い。
【0024】
真空容器22は、樹脂容器26内を真空にさせる装置であり、真空容器22には配管27が接続されており、その配管27に真空ポンプVPが接続される。真空ポンプVPは、樹脂容器26内を10-3Paから10Paの真空状態にすることができることが好ましい。各種の真空ポンプVPを多段に配置すれば、真空度を上げることができる。例えば、真空容器22にターボ分子ポンプを接続しターボ分子ポンプにドライポンプを接続すると、樹脂容器26内を1×10―3Pa以下の真空度にすることが可能となる。また、真空容器22にメカニカルブースターポンプを接続しメカニカルブースターポンプにロータリーポンプを接続することで10Pa以下の真空度にすることが可能となる。なお、真空ポンプVPにはいろいろの種類があるが、樹脂容器26内を10-3Paから10Paの真空状態にすることができれば、その種類は問わない。
【0025】
また配管27には、排ガス除去部GRが接続される。第1プリカーサ提供部11から発生した金属化合物もしくはシリコン化合物の気体が樹脂容器26に供給され、それらが有機・無機物のハイブリッド材料に浸透する。浸透しきれなかった金属化合物もしくはシリコン化合物の気体を、排ガス除去部GRが除去する。排ガス除去部GRは、例えば吸着フィルター、活性炭フィルターもしくは二酸化炭素トラップ液等、又はそれらの組み合わせである。、排ガス除去部GRを通過したガスは、安全なガスとなり大気中に放出される。
【0026】
蓋21は、真空容器22内を密閉するものであり、蓋21又は蓋21と接する真空容器22にOリング等の密閉部材が配置されている。蓋21には、配管12及び配管14が取り付けられ、蓋21が閉じられた状態で、配管12のノズル及び配管14のノズルが、樹脂容器26内に届くように配置されることが好ましい。
【0027】
また、蓋21には、ノズル及びバルブ38を有する配管33が取り付けられている。配管33には不活性ガスタンク31が取り付けられている。不活性ガスタンク31には、不活性ガス、例えば、窒素ガスもしくはアルゴンガス等が気体状態で貯蔵されている。なお、不活性ガスタンク31は、真空状態になっているチャンバー部20内を大気圧に戻すために使用される。不活性ガスの代わりに大気を使用する場合には、不活性ガスタンク31等は設けなくても良い。
【0028】
図1には、タイマー、温度センサー類及びコンピュータ等の制御装置などが描かれていない。しかし、バルブ18、バルブ38、ヒーター19、チャンバーヒータ29、回転モータMT及び真空ポンプVPは、タイマー、温度センサー類の入力に基づき、制御装置で自動的に制御されても良い。
【0029】
<<プリカーサの材料>>
第1プリカーサは、金属化合物もしくはシリコン化合物(以下、両者を総称して無機物と呼ぶことがある。)である。金属化合物の金属としては、アルミニウム化合物、鉄化合物、チタン化合物、ニッケル化合物、銅化合物、亜鉛化合物などの遷移金属化合物が挙げられる。アルミニウム化合物としては、トリメチルアルミニウム、塩化アルミニウムなどが挙げられる。鉄化合物としては、ビス(N,N'-ジイソプロピルプロピオンアミジネート)アイアン(Bis(di-isopropylbutanamidinate)iron)、ビス(N,N'-ジイソプロピルプロピオンアミジネート)アイアン(Bis(di-isopropylpropionamidinate)ironなどが挙げられる。シリコン化合物としては、トリス(ジメチルアミノ)シラン(TDMAS)などが挙げられる。
【0030】
第2プリカーサは、水(H2O)もしくはオゾン(O3)等の酸化用プリカーサ、アンモニアもしくは水素などの還元用プリカーサが挙げられる。
【0031】
<<難分解性プラスチック材料又は生分解性プラスチック材料>>
難分解性プラスチック材料又は生分解性プラスチック材料は、直径0.2-3mmで長さが0.2mm-5mmのペレット状、直径が0.2mm未満で長さが5mm以上の繊維状、直径1mm以上の球形状の粒子状、もしくは直径1mm以下の粉体である。
【0032】
難分解性プラスチック材料は、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエステル)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、PS(ポリスチレン)、COP(シクロオレフィンポリマー)、COC(シクロオレフィンコポリマー)等の汎用プラスチックである。
【0033】
生分解性プラスチック材料は、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)リヒドロキシアルカン酸(PHA)、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)、PHBH(R-3-ヒドロキシブタン酸(3HB)とR-3-ヒドロキシヘキサン酸(3HH)とから成る共重合ポリエステル)、ヘミセルロースもしくはその誘導体材料である。
【0034】
以下のヘミセルロース及びヘミセルロース誘導体について詳述する。ヘミセルロースは非晶質であり非常に均一性が良く、また、融解した後の液体は流動性も良く射出成形材料としては好適である。木は主として、セルロース、ヘミセルロース、リグニンという3種類の成分から構成されているが、セルロースは結晶性が高くまた繊維状の物質でありそのままでは射出成形材料の主成分としてはあまり適していない。また、リグニンも結晶性が高く流動性が悪いことから射出成形材料の主成分としてはあまり適していない。
【0035】
ヘミセルロースには、マンナン、グルカン、キシラン、キシログルカンといったものがある。本実施形態では、これらのマンナン、グルカン、キシラン、キシログルカンを生分解性の非晶質樹脂材料として使うことができる。最も良好なヘミセルロースは、キシランである。ヘミセルロースの分子量は1,000~100,000であるが30,000~100,000の場合が射出成形を行った際のプラスチック成形物の強度が良好である。また、ヘミセルロースにはセルロースが50%含まれていても良いし、リグニンが50%含まれていても問題ない
【0036】
ヘミセルロースは生分解性が良好なことが特徴である。ヘミセルロースはセルロース及びリグニンよりも生分解速度が早く、また5℃以上で生分解する。土の中に埋められた場合、ヘミセルロースは土壌中の微生物によって分解され、常温・大気中においても微生物により分解されて3ヶ月後には水と炭酸ガスになる。同様に海水中においても微生物によって分解される。
【0037】
ヘミセルロースの基本構造の分子式は化学式1で示される。
化学式1
【化1】
ここにおいてR1及びR2は置換基を示す。R1又はR2は水素、窒素、アルキル基、アセチル基、アシル基、アリール基、ホスホニル基、プロぺニル基、アセトニル基、カルボニル基、カルボキシル基などを含むがこれらに限定されない。また、フッ素、臭素、塩素、ヨウ素などでも良いし、それらをを含む置換基であっても良い。また、イオン液体構造を形成するカチオンやアニオンといったイオン化置換基であっても良い。なお、nは2以上の整数である。
【0038】
木材から抽出されるヘミセルロース原料はR1及びR2は水素である。本実施形態では、R1又はR2が水素以外の置換基に置換されたものをヘミセルロース誘導体と呼ぶ。代表的なヘミセルロース誘導体は、R1及びR2はアセチル基に置換されている。アセチル基は化学式2に示される。これはヘミセルロース原料をアセチル化反応を行うことで水素をアセチル基に変更することができる。
化学式2
【化2】
【0039】
ヘミセルロース原料もしくはヘミセルロース誘導体は他の難分解性プラスチック材料と溶融混錬することができる。このようにして混練された樹脂ペレットを射出成形装置に投入し成形金型を交換することで様々な形状のプラスチック成形物を得ることができる。本実施形態では、ヘミセルロース原料もしくはヘミセルロース誘導体と他の難分解性プラスチック材料を混練した樹脂材料をヘミセルロース混合樹脂と呼ぶ。ヘミセルロース混合樹脂が土中あるいは海水中に入れられた場合、ヘミセルロース原料もしくはヘミセルロース誘導体自体が他の難分解性プラスチック材料に分子レベルで混ざり合っていることからヘミセルロース原料もしくはヘミセルロース誘導体が微生物によって生分解すると他の難分解性プラスチック材料も分子レベルで分解することになり生分解が進行する。すなわち、ヘミセルロース原料もしくはヘミセルロース誘導体は他の難分解性プラスチック材料自体に生分解性を持たせるといった役割を果たす。
【0040】
他の難分解性プラスチック材料としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA、アクリル)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)などがあげられるがこれらの樹脂に限られることはない。他の樹脂材料としては化学式3のような分子式の樹脂を混合することもできる。
化学式3
【化3】
ここで、R3は置換基を表し、水素、窒素、アルキル基、アセチル基、アシル基、アリール基、ホスホニル基、プロぺニル基、アセトニル基、カルボニル基、カルボキシル基などであるがこれらに限定されない。また、フッ素、臭素、塩素、ヨウ素などでも良いし、それらをを含む置換基であっても良い。また、イオン液体構造を形成するカチオンやアニオンといったイオン化置換基であっても良い。A、Qはそれぞれ独立に単結合または連結基を表し、Qが連結基である場合、Qとしては、アルキレン基、-O-、-NH2-、カルボニル基などを含む基が挙げられる。Aが連結基である場合、Aとしては、アルキレン基、-O-、-C(=O)O-などを含む基が挙げられる。mは1以上の整数である。mが2以上の場合には上記構造式のR3が同一でも異なっても良く、Qも同一であっても異なっていてもよく、AとQとが同一であっても異なっていてもよい。
【0041】
ヘミセルロース原料及びヘミセルロース誘導体は、メタクリレート化の化学反応もしくはアクリレート化の化学反応を適用ができる。この化学反応が適用された場合は、ヘミセルロースメタクリレートもしくはヘミセルロースアクリレートというモノマーとなる。これらモノマーは、ヘミセルロース原料あるいはヘミセルロース誘導体にメタクリル基あるいはアクリロイル基が付いている分子構造を有する。なお、メタクリレート化、アクリレート化に限られない。本実施形態では、これらをヘミセルロースモノマーと呼ぶ。
【0042】
ヘミセルロースモノマーを重合反応することで樹脂となりヘミセルロースポリマーが得られる。ヘミセルロースポリマーには様々な樹脂材料の性質を持たせることができる。ヘミセルロースメタクリレートを重合することで得られるポリヘミセルロースメタクリレートはヘミセルロースとポリメチルメタクリレート(PMMA)の両方の性質を持っており生分解性を持つと同時に透明性が高く強度も良好なプラスチックである。ヘミセルロースポリマーとしてはは化学式4の基本分子構造を有するものがある。ヘミセルロースポリマーの分子量(重量平均分子量Mw)は1,000~10,000,000であるが、分子量30,000~1,000,000の場合、射出成形が行われた際の成形物として強度が良好である。R1、R2,R3、A、Q,m、nは上述した通りである。
化学式4
【化4】
【0043】
<<無機物浸透方法>>
図2は、無機物浸透方法を説明したフローチャートである。
樹脂容器26にプラスチック材料が入れられる(ステップS21)。作業者は、樹脂容器26が着脱できるのであれば回転容器24から外した状態で材料を入れ、樹脂容器26が固定であれば角度θで傾いているチャンバー部20内の樹脂容器26に材料を入れる。
【0044】
作業者は、第1プリカーサ提供部11に第1プリカーサの液体もしくは固体を入れ、第1プリカーサ提供部がヒーター19で加熱される(ステップS22)。ヒーター19の加熱によって、液体の第1プリカーサは気化しガスになり、固体の第1プリカーサは昇華してガスとなる。ガス状態の第1プリカーサは50℃から150℃に加熱されている。
【0045】
第1プリカーサの加熱と同時期又は前後して、チャンバー部20内がチャンバーヒータ29で加熱され、樹脂容器26が設定温度まで加熱される(ステップS23)。樹脂容器26内で、プラスチック材料は80℃から150℃に加熱される。
作業者により、蓋21が密閉される(ステップS24)。
【0046】
真空ポンプVPにより真空容器22が真空にされ、真空容器22内の樹脂容器26内も真空にさせる(ステップS25)。樹脂容器26内の真空度は10Pa以下が好ましい。真空度が10Pa以下になったら真空ポンプVPは停止して、その真空度が維持される。
【0047】
次に、配管12のバルブ18が開けられ、ガス状態の第1プリカーサが樹脂容器26内に供給される(ステップS26)。ガス状態の第1プリカーサが供給されることで、樹脂容器26内のガス圧が100Paから1000Paになる。そして例えばガス圧が500paになったらバルブ18が閉じられ、第1プリカーサの供給が止められる(ステップS27)。同時期に、第1プリカーサ提供部の加熱が止められる(ステップS28)。樹脂容器26内では、プラスチック材料が加熱されており、ガス状態の第1プリカーサが充満している。
【0048】
次に、プラスチック材料が樹脂容器26内で回転させられる(ステップS29)。プラスチック材料が回転することで材料表面からガス状態の第1プリカーサが浸透していく。浸透した第1プリカーサの分子は材料の分子に付着し結合する。プラスチック材料は有機材料から有機・無機物のハイブリッド材料となる。
【0049】
所定時間経過後、プラスチック材料にガス状態の第1プリカーサが十分に浸透する。そこで樹脂容器26の回転は止められる(ステップS30)。なお、上記説明ではステップS26とステップS29とが順に行われたが、ステップS26とステップS29とが同時に開始してもよい。
【0050】
多くのガス状態の第1プリカーサが、プラスチック材料に浸透するため、樹脂容器26内にはガス状態の第1プリカーサがほとんど残っていない。しかし、樹脂容器26内からすべてのガス状態の第1プリカーサを排出するため、真空ポンプVPを起動し、浸透しきれなかった第1プリカーサの気体を、排ガス除去部GRが除去する(ステップS31)。
【0051】
次に、不活性ガスタンク31内の不活性ガスがバルブ38が開かれることで、チャンバー部20に供給される(ステップS32)。不活性ガスが大気圧に達したところでバルブ38が閉められる。これで作業者が蓋21を開けることができる。
【0052】
また同時に又は前後して、チャンバーヒータ29が止まり、チャンバー20が室温まで下げられる(ステップS33)。そして蓋21が開けられ、有機・無機物のハイブリッド材料が、樹脂容器26から取り出される(ステップS34)。
【0053】
以上は、プラスチック材料に第1プリカーサが浸透する例である。ステップS40以降は、プラスチック材料に第1プリカーサ及び第1プリカーサが浸透する例である。
【0054】
ステップS31に続いて、配管14のバルブ18が開けられ、ガス状態の第2プリカーサが樹脂容器26内に供給される(ステップS41)。ガス状態の第2プリカーサが供給されることで、樹脂容器26内のガス圧が100Paから1000Paになる。そして例えば500paになったらバルブ18が閉じられ、第2プリカーサの供給が止められる(ステップS42)。樹脂容器26内では、有機・無機物のハイブリッド材料が加熱されており、ガス状態の第2プリカーサが充満している。
【0055】
次に、有機・無機物のハイブリッド材料が樹脂容器26内で回転させられる(ステップS43)。有機・無機物のハイブリッド材料が回転することで材料表面からガス状態の第2プリカーサが浸透していく。浸透した第2プリカーサの分子は有機・無機物のハイブリッド材料の分子に付着し結合する。有機・無機物のハイブリッド材料は酸化・還元された有機・無機物のハイブリッド材料となる。
【0056】
所定時間経過後、有機・無機物のハイブリッド材料にガス状態の第2プリカーサが十分に浸透する。そこで樹脂容器26の回転は止められる(ステップS44)。
樹脂容器26内からすべてのガス状態の第2プリカーサを排出するため、真空ポンプVPを起動し、浸透しきれなかった第2プリカーサの気体を、排ガス除去部GRが除去する(ステップS45)。
【0057】
次に、不活性ガスタンク31内の不活性ガスがバルブ38が開かれることで、チャンバー部20に供給される(ステップS46)。不活性ガスが大気圧に達したところでバルブ38が閉められる。また同時に又は前後して、チャンバーヒータ29が止まり、チャンバー部20が室温まで下げられる(ステップS47)。
そして蓋21が開けられ、ハイブリッド材料が、樹脂容器26から取り出される(ステップS48)。
【実施例0058】
実施例1は、プラスチック材料としてセルロース誘導体を使用した例である。ルロース誘導体は市販の酢酸プロピオン酸セルロース(セルロースアセテートプロピオネート:CAP)を用いた。セルロース誘導体に可塑剤としてTPP(トリフェニルホスフェート)を20%混練し、その混錬したものを押出機と冷却ステージとペレタイザとを用いてペレット状にした。
【0059】
このセルロース誘導体のペレット1kgを無機物浸透装置100のチャンバー部20内に供給した。チャンバー部20温度は120℃に設定された。チャンバー部20は円筒構造をしており円筒の底面の中心を主軸として回転させた。回転数は40rpmに設定された。また、チャンバー部20内を真空ポンプVPによって排気し、チャンバー部20内を5paの真空状態とした。
【0060】
第1プリカーサとして常温で液体のトリメチルアルミニウムが第1プリカーサ提供部11に入れられた。第1プリカーサ提供部11で液体のトリメチルアルミニウムを130℃に加熱し、トリメチルアルミニウムのガスがチャンバー部20内に供給された。チャンバー部20内のガス圧が500Paとなるまでトリメチルアルミニウムのガスが供給され、配管12のバルブ18が閉じられた。こうして回転した樹脂容器26内部にトリメチルアルミニウムガスが封じ込められる。チャンバー部20内ではペレットが回転に合わせて揺動しており、トリメチルアルミニウムのガスがペレット内部に浸透し、セルロース誘導体とトリメチルアルミニウムのガスとが化学反応する。特にセルロース誘導体のカルボニル基に金属が結合した分子構造となる。このトリメチルアルミニウムのガスが供給された時間は1000秒であった。その後、チャンバー部20を真空ポンプVPによって、トリメチルアルミニウムのガスと化学反応によって生成されたガスとが除去される。
【0061】
その後、第2プリカーサとして水蒸気(H2O)ガスがチャンバー部20内に供給され、ガス圧が250Paとなるまで水蒸気が供給され、その後配管14のバルブ18が閉じられた。このようにして回転したチャンバー部20内部に水蒸気ガスが封じ込められる。チャンバー部20内ではペレットが回転に合わせて揺動し、水蒸気ガスがペレット内部に浸透する。そして、セルロース誘導体と水蒸気ガスとが化学反応する。特にセルロース誘導体のカルボニル基にアルミニウム(Al)が結合した部分が酸化された分子構造、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムといった金属酸化物であるアルミニウム酸化物を含んだ構造の置換基となる。この水蒸気ガスを供給した時間は250秒であった。その後、チャンバー部20が真空ポンプVPで排気され、窒素ガスが供給された後、蓋21が開放されペレットが取り出された。
【0062】
以上、セルロース誘導体から酸化された有機・無機物のハイブリッド材料への変化の概念図を
図4(A)に示す。nは2以上の整数であり、Mは金属元素を示す。実施例1ではアルミニウムである。また、この酸化された有機・無機物のハイブリッド材料のペレットを使って試験片を射出成形によって作成し、ペレットと共に物性評価に使用した。物性評価の結果は
図6に示す。セルロース誘導体と実施例1との物性評価に示されるように、置換基に金属元素が結合されることによって、有機・無機物のハイブリッド材料が強度、硬度、耐熱性、密度等で優れていることがわかる。
実施例2は、難分解性プラスチック材料としてポリメチルメタクリレート(PMMA)を使用した例である。PMMAを押出機と冷却ステージとペレタイザとを用いてペレット状にした。
このPMMAのペレット1kgを無機物浸透装置100のチャンバー部20内に供給した。チャンバー部20の温度は100℃に設定された。回転容器24が軸25を中心に回転数20rpmで回転させた。また、チャンバー部20内を真空ポンプVPによって排気し、チャンバー部20内を5paの真空状態とした。
第1プリカーサとして常温で液体のトリメチルアルミニウムが第1プリカーサ提供部11に入れられた。第1プリカーサ提供部11で液体のトリメチルアルミニウムを130℃に加熱し、トリメチルアルミニウムのガスがチャンバー部20内に供給された。チャンバー部20内のガス圧が500Paとなるまでトリメチルアルミニウムのガスが供給され、配管12のバルブ18が閉じられた。これにより回転した樹脂容器26内部にトリメチルアルミニウムガスが封じ込められる。チャンバー部20内ではペレットが回転に合わせて揺動しており、トリメチルアルミニウムのガスがペレット内部に浸透し、PMMAとトリメチルアルミニウムのガスとが化学反応する。特にPMMAのカルボニル基に金属が結合した分子構造となる。このトリメチルアルミニウムのガスが供給された時間は1000秒であった。その後、チャンバー部20を真空ポンプVPによって、トリメチルアルミニウムのガスと化学反応によって生成されたガスとが除去される。