(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064415
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】ポリオレフィン樹脂粒子水分散液の製造方法、ポリオレフィン樹脂粒子水分散液、およびポリオレフィン樹脂粒子
(51)【国際特許分類】
C08J 3/05 20060101AFI20240507BHJP
C08K 5/41 20060101ALI20240507BHJP
C08L 23/00 20060101ALI20240507BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20240507BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
C08J3/05 CES
C08K5/41
C08L23/00
C08L23/08
C08L71/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172989
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 美月
(72)【発明者】
【氏名】今津 直樹
(72)【発明者】
【氏名】浅野 到
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA13
4F070AC12
4F070AC50
4F070AC71
4F070AE14
4F070AE28
4F070BA02
4F070BA04
4F070CA03
4F070CB02
4F070CB15
4F070DA31
4F070DC07
4J002BB031
4J002BB041
4J002BB081
4J002BB121
4J002BB141
4J002CH022
4J002EV186
4J002FD312
4J002FD316
4J002GH00
4J002GJ01
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】小径で粒度分布が狭いポリオレフィン樹脂粒子水分散液を提供する。
【解決手段】(A)ポリオレフィン樹脂、(B)ノニオン性界面活性剤、(C)分子量が1000以下のイオン性界面活性剤、(D)水、を攪拌下において、前記ポリオレフィン樹脂の融点以上に加熱後、前記ポリオレフィン樹脂の結晶化温度未満に冷却する工程を有する、ポリオレフィン樹脂粒子水分散液の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリオレフィン樹脂、(B)ノニオン性界面活性剤、(C)分子量が1000以下のイオン性界面活性剤、(D)水、を攪拌下において、前記ポリオレフィン樹脂の融点以上に加熱後、前記ポリオレフィン樹脂の結晶化温度未満に冷却する工程を有する、ポリオレフィン樹脂粒子水分散液の製造方法。
【請求項2】
前記イオン性界面活性剤がアニオン性界面活性剤である、請求項1に記載のポリオレフィン樹脂粒子水分散液の製造方法。
【請求項3】
前記イオン性界面活性剤がアルキル硫酸エステル塩である、請求項1に記載のポリオレフィン樹脂粒子水分散液の製造方法。
【請求項4】
前記ポリオレフィン樹脂が、ポリエチレン、エチレン共重合体、ポリプロピレン、プロピレン共重合体、のいずれか、またはそれらの混合物である、請求項1~3のいずれかに記載のポリオレフィン樹脂粒子水分散液の製造方法。
【請求項5】
前記ポリオレフィン樹脂が、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体である、請求項4に記載のポリオレフィン樹脂粒子水分散液の製造方法。
【請求項6】
前記ノニオン性界面活性剤がエチレンオキサイド由来の構造単位を含み、その重合度が合計100以上である、請求項1~3のいずれかに記載のポリオレフィン樹脂粒子水分散液の製造方法。
【請求項7】
(A)ポリオレフィン樹脂粒子、(B)ノニオン性界面活性剤、(C)分子量が1000以下のイオン性界面活性剤、(D)水、とで構成されるポリオレフィン樹脂粒子水分散液。
【請求項8】
前記ポリオレフィン樹脂粒子の体積平均粒子径が1.5μm未満である請求項7に記載のポリオレフィン樹脂粒子水分散液。
【請求項9】
前記ポリオレフィン樹脂粒子の粒子径分布指数(D90/D10)が2.9未満である請求項7または8に記載のポリオレフィン樹脂粒子水分散液。
【請求項10】
(A)ポリオレフィン樹脂、(B)ノニオン性界面活性剤と(C)分子量が1000以下のイオン性界面活性剤を含むポリオレフィン樹脂粒子であって、前記(B)ノニオン性界面活性剤と前記(C)分子量が1000以下のイオン性界面活性剤を粒子全体に対して合計5質量%以下含むポリオレフィン樹脂粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン樹脂粒子水分散液を製造する方法、ポリオレフィン樹脂粒子水分散液およびポリオレフィン樹脂粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン樹脂を主成分とする粒子は、その熱特性や優れた耐水性および耐薬品性を活かして、コーティング剤や接着剤、インキ、トナー、樹脂添加剤等として使用されている。特に金属や樹脂フィルムなど多種多様な基材のコーティングに用いられている(例えば特許文献1および2を参照)。
【0003】
小径のポリオレフィン樹脂粒子水分散液の製法として、例えば乳化重合法によりポリオレフィン樹脂粒子水分散液を得る方法や(特許文献3を参照)、ポリオレフィン樹脂と水、塩基性化合物を密閉可能な容器中で加熱、撹拌する方法(特許文献2を参照)が知られている。また、粒径はやや大きいが、ポリオレフィン樹脂粒子水分散液の製法として、ポリオレフィン樹脂を溶媒に溶解させた後、徐冷してポリオレフィン樹脂を析出させる方法や(特許文献1を参照)、ポリオレフィン樹脂を有機溶剤に溶解し、水を加えて転相乳化後、有機溶剤を除去する方法などが知られている(特許文献4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-059869号公報
【特許文献2】特開2004-051661号公報
【特許文献3】特開2003-221267号公報
【特許文献4】特開平3-250005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献に記載されている公知の小径のポリオレフィン樹脂粒子水分散液の製造方法では、有機溶剤や塩基性化合物の使用、高圧ガスの封入に対応した専用設備が必要である。また、有機溶剤などを使用した製造方法では環境負荷が大きくなる。
【0006】
本発明は、有機溶剤や塩基性化合物を使用せず、高圧ガスの封入に対応した専用設備を用いることのないポリオレフィン樹脂粒子水分散液の製造方法、小径で粒度分布が狭いポリオレフィン樹脂粒子水分散液およびポリオレフィン樹脂粒子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために以下の構成を有する。すなわち、
(A)ポリオレフィン樹脂、(B)ノニオン性界面活性剤、(C)分子量が1000以下のイオン性界面活性剤、(D)水、を攪拌下において、前記ポリオレフィン樹脂の融点以上に加熱後、前記ポリオレフィン樹脂の結晶化温度未満に冷却する工程を有する、ポリオレフィン樹脂粒子水分散液の製造方法、である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によって、特殊な設備を必要とせず、環境低負荷の水系プロセスにより、小径で粒度分布が狭いポリオレフィン樹脂粒子水分散液を製造することが可能である。該ポリオレフィン樹脂粒子は小径で粒度分布が狭いため、各種基材上へのコーティングにより均一で平滑な薄膜を作製することが可能である。結晶化度の高いポリオレフィン樹脂特有の熱特性や耐水性、耐薬品性により、各種基材にコーティングすることでヒートシール性、防錆性、撥液性、耐薬品性などを付与できるほか、インクや樹脂添加剤などにも好適に利用できる。また、環境や人体に影響の大きい添加剤を含まないため、医療材料や化粧品等の用途でも利用しやすい。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、下記に記載された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含むものとして理解されるべきである。
【0010】
本発明は、(A)ポリオレフィン樹脂、(B)ノニオン性界面活性剤、(C)分子量が1000以下のイオン性界面活性剤、(D)水、を攪拌下において、前記ポリオレフィン樹脂の融点以上に加熱後、前記ポリオレフィン樹脂の結晶化温度未満に冷却する工程を有する、ポリオレフィン樹脂粒子水分散液の製造方法である。ノニオン性界面活性剤と分子量が1000以下のイオン性界面活性剤の併用により、従来の方法では困難であった体積平均粒子径が1.5μm未満という小径で粒度分布が狭い粒子を、特殊な設備を必要とせず、環境低負荷の水系プロセスにより得られるという効果が発現された。
【0011】
(1)(A)ポリオレフィン樹脂
本発明の(A)ポリオレフィン樹脂とは、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。中でも、融点が低く使用しやすいため、ポリエチレン系樹脂が好ましい。
ポリエチレン系樹脂としては、ポリエチレンおよび/またはポリエチレン共重合体が挙げられる。
ポリエチレンとは、エチレンのみを重合して得られる樹脂および、その樹脂を変性させたものであり、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、酸化ポリエチレン、ポリエチレンワックスなどが挙げられる。
ポリエチレンとしては、従前公知の方法で製造されたものや市販品を使用することができる。具体的な市販されているポリエチレンとしては、例えば、エボリュー(三井化学社製)、エボリューH(三井化学社製)、ハイゼックスミリオン(三井化学社製)、リュブマー(三井化学社製)、サンワックス(三洋化成社製)、スミカセン(住友化学社製)、スミカセン-L(住友化学社製)、スミカセン-E(住友化学社製)、スミカセン-EP(住友化学社製)、エクセレン(住友化学社製)、ノバテックHD(日本ポリエチレン社製)、ノバテックLD(日本ポリエチレン社製)、ノバテックLL(日本ポリエチレン社製)、等が挙げられる。
ポリエチレン共重合体とは、エチレンと他の単量体成分との共重合体であり、他の単量体成分としては、αオレフィン、不飽和カルボン酸、不飽和ジカルボン酸無水物、不飽和カルボン酸エステル、酢酸ビニルなどが挙げられ、これらから選ばれる2種類以上を組み合わせて重合することも可能である。α-オレフィンとしては、エチレンと共重合可能であれば特に限定されず、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-ペンテン、1-ヘプテンなどが挙げられる。不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、メチルマレイン酸、メチルフマル酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸などが挙げられ、不飽和ジカルボン酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などが挙げられ、不飽和カルボン酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタアクリル酸2-エチルヘキシル、メタアクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸グリシジル、などが挙げられる。ポリエチレン系樹脂の中でも、エチレンーアクリル酸共重合体、またはエチレンーメタクリル酸共重合体は、分子内にカルボキシル基を有し水との親和性が良く、界面張力が低下するため、乳化時の油滴サイズが小さくなり、小径で粒度分布が狭いポリオレフィン樹脂粒子を得やすい。
【0012】
ポリエチレン共重合体における、上記のエチレン以外の単量体成分の共重合量は、ポリエチレンの特性を損なわない範囲であればよいが、ポリエチレン共重合体における共重合体構成単位の合計を100質量%としたとき、30質量%以下が好ましく、さらに好ましくは、25質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下であり、さらに好ましくは、15質量%以下である。上記が市販品として入手性に優れ使用しやすい。
ポリエチレン共重合体としては、市販品を使用することができる。具体的な市販されているポリエチレン共重合体としては、例えば、アドマー(三井化学社製)、ニュクレル(三井・ダウ ポリケミカル社製)、ボンドファースト(住友化学社製)、アクリフト(住友化学社製)、フサボンド(ダウ・ケミカル社製)、ロタダー(アルケマ社製)、エバフレックス(三井・ダウ ポリケミカル社製)などが挙げられる。
【0013】
本発明において、ポリオレフィン樹脂の190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(MFR)は、得ようとするポリオレフィン樹脂粒子の粒径に応じて適宜選択可能であるが、15g/10min以上が好ましく、45g/10min以上がさらに好ましく、100g/10min以上が特に好ましい。MFRが上記範囲内のポリオレフィン樹脂は低粘度のため、乳化時の油滴サイズが小さくなり、小径で粒度分布が狭い粒子を得やすい。
なお、ポリオレフィン樹脂のメルトフローレートは、メルトインデクサ(東洋精機社製F-B01)を用い、温度190℃、2160g荷重とし、JIS K7210-2014に準ずる方法で測定する。
【0014】
本発明で使用するポリオレフィン樹脂の量は、(A)~(D)の総量を100質量部とすると、その下限は1質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがさらに好ましく、20質量部以上であることが特に好ましい。ポリオレフィン樹脂が前記下限値以上であることにより、得られるポリオレフィン樹脂粒子水分散液を濃縮せずにそのままコーティング等の用途に使用できるため製造工程が削減できる。また、ポリオレフィン樹脂の量の上限は特になく、(A)~(D)が安定に乳化できる範囲であればよい。
【0015】
(2)(B)ノニオン性界面活性剤
本発明における(B)ノニオン性界面活性剤とは、水中でイオン解離しない水酸基やエーテル結合などを親水基として有する界面活性剤である。ノニオン性界面活性剤としては、溶融したポリオレフィン樹脂と水とを乳化する作用を有する物であればよく、ポリエチレングリコール型界面活性剤、多価アルコール型界面活性剤、などが挙げられる。また、ポリビニルアルコールやその共重合体、ポリビニルピロリドンやその共重合体等の、高分子界面活性剤も使用できる。これらの中でも、エチレンオキサイド由来の構造単位を含むポリエチレングリコール型界面活性剤が好ましい。
【0016】
ポリエチレングリコール型界面活性剤の、エチレンオキサイドの平均付加モル数は1分子内に合計10以上が好ましく、50以上であることがさらに好ましく、100以上であることが最も好ましい。エチレンオキサイドの重合度が上記範囲内であることにより、十分な乳化力が得られる。
【0017】
ポリエチレングリコール型界面活性剤としては、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドエチレンオキサイド付加物、油脂のエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、などが挙げられる。ポリオレフィン樹脂の乳化力の観点から、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物が好ましい。
【0018】
ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物の共重合比率は特に限定されないが、好ましくはエチレンオキサイド比率が50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上、特に好ましくは70質量%以上、最も好ましくは80質量%以上である。エチレンオキサイド比率が上記範囲内であることにより、乳化力が向上する。
【0019】
多価アルコール型界面活性剤としては、グリセロールの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、ソルビトールおよびソルビタンの脂肪酸エステル、ショ糖の脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテル、アルカノールアミン類の脂肪酸アミド、などが挙げられる。
【0020】
本発明で使用するノニオン性界面活性剤の量は、(A)~(D)の総量を100質量部とすると、その下限は0.1質量部以上であることが好ましく、1.0質量部以上であることがさらに好ましい。ノニオン性界面活性剤の量が前記下限値以上であることにより、乳化時にノニオン性界面活性剤が被覆できるポリオレフィン樹脂の表面積が増加し、すなわち小径の油滴を形成できるため、小径のポリオレフィン樹脂粒子を得ることが可能になる。またノニオン性界面活性剤の上限は20質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましい。ノニオン性界面活性剤の量が前記上限値以下であることにより、得られるポリオレフィン樹脂粒子水分散液の粘度上昇が抑えられる。
【0021】
(3)(C)イオン性界面活性剤
本発明における(C)イオン性界面活性剤とは、水中でイオン解離する親水基を有する界面活性剤であり、その分子量は1000以下である。分子量が1000超のイオン性界面活性剤を使用すると、ポリオレフィン樹脂との親和性が低下し、ノニオン性界面活性剤との併用で十分な乳化力を発現できないことがある。イオン性界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、に大きく分類できる。
【0022】
イオン性界面活性剤の分子量は、質量分析法を用いて測定する。界面活性剤が複数含まれており、分離が必要な場合は、液体クロマトグラフィー質量分析計や、キャピラリー電気泳動質量分析計を使用できる。ポリオキシエチレン系のイオン性界面活性剤等、分子量に分布のある場合は、得られるマススペクトルのピークトップの値を分子量とする。
【0023】
アニオン性界面活性剤としては、カルボン酸塩型、硫酸エステル塩型、スルホン酸塩型、リン酸エステル塩型、などが知られており、硫酸エステル型、スルホン酸塩型の界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩等が挙げられる。これらの中でも、ラウリル硫酸ナトリウム塩、ヘキサデシル硫酸ナトリウム塩等のアルキル硫酸エステル塩が好ましい。
【0024】
両性界面活性剤としては、アミノ酸型、ベタイン型、などが知られており、例えば、ラウリルベタイン、ヒドロキシエチルイミダゾリン硫酸エステルナトリウム塩、イミダゾリンスルホン酸ナトリウム塩等が挙げられる。
【0025】
カチオン性界面活性剤としては、アミン塩型、第四級アンモニウム塩型、などが知られており、例えば、アルキルピリジニウムクロライド、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0026】
また、イオン性界面活性剤として、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルコキシフルオロカルボン酸アンモニウム等のフッ素系界面活性剤を使用することもできる。
【0027】
本発明で使用する分子量が1000以下のイオン性界面活性剤の量は、(A)~(D)の総量を100質量部とすると、その下限は0.01質量部以上が好ましく、0.1質量部以上であることがさらに好ましい。分子量が1000以下のイオン性界面活性剤の量が前記下限値以上であることにより、小径で粒度分布が狭いポリオレフィン樹脂粒子を得ることが可能になる。分子量が1000以下のイオン性界面活性剤の量の上限は10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがさらに好ましい。分子量が1000以下のイオン性界面活性剤の量が前記上限値以下であることにより、得られるポリオレフィン樹脂粒子水分散液を使用する際のpH調整が容易になる。
【0028】
(4)(D)水、および、その他成分
本発明で使用する水は、特に限定されないが、蒸留水、RO水、イオン交換水、などの純水や超純水が好適に使用できる。
本発明で使用する水の量は、(A)~(D)の総量を100質量部とすると、その下限は10質量部以上であることが好ましい。水の量が前記下限値以上であることにより、ポリオレフィン樹脂粒子の分散安定性が良くなる。
本発明において、(A)~(D)以外の成分を少量含んでいてもよいが、その合計量は、(A)~(D)の総量を100質量部とすると1質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以下であることがさらに好ましい。
【0029】
(5)製造プロセス
本発明の製造方法は、(A)ポリオレフィン樹脂、(B)ノニオン性界面活性剤、(C)分子量が1000以下のイオン性界面活性剤、(D)水、を攪拌下において、前記ポリオレフィン樹脂の融点以上に加熱後、前記ポリオレフィン樹脂の結晶化温度未満に冷却する工程を有する。前記の攪拌は公知の方法を用いることができる。特に、攪拌羽根による攪拌の場合、攪拌速度は攪拌羽根の形状に合わせて適宜調整可能であるが、ポリオレフィン樹脂が乳化するのに十分であればよい。
攪拌羽根としては、具体的には、プロペラ型、パドル型、フラットパドル型、タービン型、ダブルコーン型、シングルコーン型、シングルリボン型、ダブルリボン型、スクリュー型およびヘリカルリボン型などが例示できるが、系に対して十分に剪断力をかけられるものであれば、これらに限定されるものではない。さらに、効率的な攪拌を行うために、槽内に邪魔板等を設置することができる。
【0030】
本発明における加熱温度は、ポリオレフィンの融点以上である。ポリオレフィンの融点未満であった場合、ポリオレフィンが十分に溶融しないため、小径粒子を得ることができない。加熱温度の下限は、ポリオレフィンの融点以上である限り特に限定されず、得ようとするポリオレフィン樹脂粒子の粒径に応じて適宜調整可能であるが、好ましくはポリオレフィン樹脂の融点より20℃以上、更に好ましくは30℃以上、特に好ましくは40℃以上、最も好ましくは50℃以上である。加熱温度が高いほどポリオレフィンの溶融粘度が小さくなるため、乳化時に小径の油滴を形成しやすく、最終的に小径の粒子を得やすい。加熱温度の上限値は特に限定されず、ポリオレフィン樹脂が熱分解を起こさない範囲(熱分解温度以下)であればよい。
【0031】
なお、ポリオレフィン樹脂の融点は、JIS K7121-1987に記載の手法に従って示差走査熱量計で測定する。例えば、ポリエチレンの場合は、室温から150℃まで昇温速度10℃/分で昇温し(1st Run)、150℃から室温まで降温速度10℃/分で降温したのち、室温から150℃まで昇温速度10℃/分で昇温する(2nd Run)。2nd Runの昇温測定から得られたDSCチャートから融解の吸熱ピークのピークトップ温度(℃)を融点として読み取る。
【0032】
また、(A)~(D)をポリオレフィン樹脂(A)の融点以上に加熱し、その最高温度における加熱時間については、ポリオレフィン樹脂が完全に溶融し、微細な乳化液を形成できる範囲であれば特に限定されないが、好ましくは10分以上である。
【0033】
本発明における冷却速度は、特に限定されないが、均一な粒子径の粒子水分散液を得られることから、0.5℃/分以上であることが好ましい。
【0034】
本発明において、(A)~(D)を攪拌下において、前記ポリオレフィン樹脂の融点以上に加熱後、前記ポリオレフィン樹脂の結晶化温度未満に冷却する。
なお、ポリオレフィン樹脂の結晶化温度は、JIS K7121-1987に記載の手法に従って示差走査熱量計で測定する。室温から150℃まで昇温速度10℃/分で昇温し(1st Run)、150℃から室温まで降温速度10℃/分で降温した際に出現する発熱ピークのピークトップ温度(℃)を結晶化温度として読み取る。
【0035】
(6)ポリオレフィン樹脂粒子水分散液
本発明の一態様として、(A)ポリオレフィン樹脂粒子、(B)ノニオン性界面活性剤および(C)分子量が1000以下のイオン性界面活性剤を含むポリオレフィン樹脂粒子と、(D)水、とで構成されるポリオレフィン樹脂粒子水分散液を挙げることが出来る。かかるポリオレフィン樹脂粒子水分散液は、例えば前述の製造方法により得ることができる。ポリオレフィン樹脂粒子水分散液は、不揮発分濃度が1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上である。
【0036】
なお、ポリオレフィン樹脂粒子水分散液の不揮発分濃度は、140℃での加熱残分の重量から算出する。
【0037】
本発明の製造方法により得られる場合、ポリオレフィン樹脂粒子水分散液は、必要に応じて濾過、遠心分離、エバポレーションなどの従前公知の方法により濃縮したり、乾燥させて粉体として使用したりすることも可能である。
【0038】
なお、本発明の製造方法により得られるポリオレフィン樹脂粒子水分散液から粒子を取り出して使用する場合は、粒子が捕集されるフィルターを用いて濾過を行い、さらに得られたウェットケークの重量の10倍以上の量の水で洗浄し、粒子に含まれる(B)ノニオン性界面活性剤および(C)分子量が1000以下のカチオン性界面活性剤の合計量を、粒子の全重量に対して5質量%以下、好ましくは1質量%以下にして使用することが可能である。
【0039】
また、本発明の課題を解決するのに支障のない範囲であれば、必要に応じてポリオレフィン樹脂粒子水分散液のpHを調整して分散性を向上させたり、無機粒子などの他の成分をポリオレフィン樹脂粒子水分散液に添加して使用してもよい。
【0040】
(7)ポリオレフィン樹脂粒子
本発明の一態様として、体積平均粒子径が好ましくは100.0μm未満、さらに好ましくは10.0μm未満、特に好ましくは1.5μm未満の小径なポリオレフィン樹脂粒子や、粒子径分布指数(D90/D10)が2.9未満であり、粒度分布の狭いポリオレフィン樹脂粒子を挙げることができる。体積平均粒子径が前記上限値以下であることにより、平滑な塗膜を形成できる。かかるポリオレフィン樹脂粒子は、例えば前述の製造方法により得ることができる。ポリオレフィン樹脂粒子の体積平均粒子径の下限値は、好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは0.3μm以上、特に好ましくは0.5μm以上である。体積平均粒子径の下限値が前記下限値以上であることにより、取扱い性が良くなる。ポリオレフィン樹脂粒子は、(A)ポリオレフィン樹脂、(B)ノニオン性界面活性剤、(C)分子量が1000以下のイオン性界面活性剤を含み、前記(B)ノニオン性界面活性剤と前記(C)分子量が1000以下のイオン性界面活性剤を粒子全体に対して合計5重量%以下、好ましくは1質量%以下を含む。ポリオレフィン樹脂粒子が(B)および(C)が前記上限値以下であることにより、粒子の凝集が抑制され、平滑な塗膜を形成できる。
【0041】
なお、ポリオレフィン樹脂粒子の体積平均粒子径は、レーザー回折・散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いて測定することができる。このような粒度分布測定装置としては、例えば、マイクロトラックMT3300EXII(日機装株式会社製)等が挙げられる。また、ポリオレフィン樹脂粒子の粒子径分布指数(D90/D10)とは、ポリオレフィン樹脂粒子の体積平均粒子径と同様の方法で粒度分布を測定し、得られる粒子の総体積を100%として累積カーブを求め、小粒径側からの累積カーブがそれぞれ10%となる値(D10)および90%となる値(D90)から計算される。
【0042】
(8)ポリオレフィン樹脂粒子水分散液の用途
本発明の製造方法で得られるポリオレフィン樹脂粒子水分散液は、塗料、接着剤、インク、トナー、化粧品の添加剤など様々な用途で好適に使用可能である。特に、木材、金属、セラミック、炭素材料、ガラス、プラスチック等の基材にコーティングし塗膜を形成することにより、表面特性を改質することができる。本発明の製造方法で得られるポリオレフィン樹脂粒子は、小径で粒度分布が狭いため、コーティングにより均一で平滑な塗膜を形成できることから、高い防錆性、撥液性、耐溶剤性、接着性などを付与できる。
【実施例0043】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、これらの例のみに本発明が限定されるものではない。先ず、測定方法について説明する。
【0044】
(1)ポリオレフィン樹脂粒子の体積平均粒子径および粒子径分布指数(D90/D10)
日機装株式会社製レーザー回折式粒径分布測定装置(マイクロトラックMT3300EXII)に、ポリオレフィン樹脂粒子水分散液を測定可能濃度になるまで添加し、測定装置内で30Wにて60秒間の超音波分散を行った後、測定時間10秒で体積平均粒子径を測定した。また、同じ方法で測定を行い、粒径分布の小粒径側からの累積度数が90%となる粒径をD90、累積度数が10%となる粒径をD10とした。なお測定時の屈折率は1.60、媒体(イオン交換水)の屈折率は1.333を用いた。
【0045】
(2)ポリオレフィン樹脂粒子水分散液の加熱残分(固形分濃度)
JIS K5601-1-2:2008に従って、ポリオレフィン樹脂粒子水分散液の140℃での加熱残分を測定した。
【0046】
実施例1
1Lのオートクレーブにエチレンーメタクリル酸共重合体a(三井・ダウポリケミカル社製、MFR:100g/10mL、融点:95℃、酸含有率:11量%)60g、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物(ADEKA社製、エチレンオキシド比率80質量%)18g、ラウリル硫酸ナトリウム(Sigma-Aldrich社製)3g、イオン交換水219gを加え密封後、窒素で0.7MPaまで置換した。窒素を放出させながら系の圧力を0.03MPaに調整後、600rpmで攪拌しながら温度を160℃まで昇温させた。この際、系の圧力が0.6MPaに達した。160℃で30分間保持したのち、2℃/分の速度で120℃まで降温し、続いて1℃/分の速度で50℃まで降温した。得られたスラリー液を目開き77μmのナイロンメッシュで濾過してポリオレフィン樹脂粒子水分散液の作製を完了した。得られたポリオレフィン樹脂粒子の体積平均粒子径は1.4μm、粒子径分布指数(D90/D10)は2.3であった。また、粒子水分散液の加熱残分(固形分濃度)は26質量%であった。
【0047】
実施例2
エチレンーメタクリル酸共重合体を、物性の異なるエチレンーメタクリル酸共重合体b(三井・ダウポリケミカル社製、MFR:500g/10mL、融点:95℃、酸含有率:10質量%)に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリオレフィン樹脂粒子水分散液を得た。得られたポリオレフィン樹脂粒子の体積平均粒子径は0.9μm、粒子径分布指数(D90/D10)は2.2であった。また、粒子水分散液の加熱残分(固形分濃度)は27質量%であった。
【0048】
実施例3
ラウリル硫酸ナトリウムの量を1.5gに、イオン交換水の量を229.5gに変更したこと以外は、実施例2と同様にしてポリオレフィン樹脂粒子水分散液を得た。得られたポリオレフィン樹脂粒子の体積平均粒子径は1.0μm、粒子径分布指数(D90/D10)は2.4であった。また、粒子水分散液の加熱残分(固形分濃度)は23質量%であった。
【0049】
実施例4
ラウリル硫酸ナトリウムをヘキサデシル硫酸ナトリウムに変更したこと以外は、実施例3と同様にしてポリオレフィン樹脂粒子水分散液を得た。得られたポリオレフィン樹脂粒子の体積平均粒子径は1.0μm、粒子径分布指数(D90/D10)は2.4であった。また、粒子水分散液の加熱残分(固形分濃度)は24質量%であった。
【0050】
比較例1
ラウリル硫酸ナトリウムを使用せず、イオン交換水の量を222gに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリオレフィン樹脂粒子水分散液を得た。得られたポリオレフィン樹脂粒子の体積平均粒子径は2.3μm、粒子径分布指数(D90/D10)は2.9であり、イオン性界面活性剤無しでは小径化できないことが分かった。また、粒子水分散液の加熱残分(固形分濃度)は26質量%であった。
【0051】
比較例2
エチレンオキシドープロピレンオキシド共重合体を使用せず、イオン交換水の量を237gに変更したこと以外は実施例2と同様の手順で行ったが、ポリオレフィン樹脂の塊状物が得られ、ポリオレフィン樹脂粒子水分散液を得ることはできなかった。
【0052】
本発明の製造方法で得られるポリオレフィン樹脂粒子水分散液は、高結晶度のポリオレフィン固有の高い耐薬品性や耐水性に加えて、粒子が小径で粒度分布が狭いことから、塗料、接着剤、インク、トナー、化粧品の添加剤などに好適に利用できる。特に小径で粒度分布が狭いため、フィルムや金属表面など各種基材上へのコーティングにより均一で平滑な薄膜を作製することが可能であり、高い防錆性、撥液性、耐溶剤性、ヒートシール性などを付与できる。