(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064427
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】フォトダイオード
(51)【国際特許分類】
H01L 31/10 20060101AFI20240507BHJP
【FI】
H01L31/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173009
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】501330503
【氏名又は名称】マイクロシグナル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 國寛
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 嵩都
【テーマコード(参考)】
5F149
5F849
【Fターム(参考)】
5F149AA01
5F149AB02
5F149AB07
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5F149BB01
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(57)【要約】
【課題】検出速度が速いフォトダイオードを提供する。
【解決手段】フォトダイオード10は、p型半導体又はn型半導体である第1半導体から成る帯状の領域である第1半導体部111と、前記第1半導体とは逆の型の半導体であって該第1半導体よりもキャリア濃度が低い第2半導体から成り、前記第1半導体部よりも幅が広い帯状の領域である第2半導体部112とが、幅方向に交互に3本以上並んで配置されて成る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型半導体又はn型半導体である第1半導体から成る帯状の領域である第1半導体部と、
前記第1半導体とは逆の型の半導体であって該第1半導体よりもキャリア濃度が低い第2半導体から成り、前記第1半導体部よりも幅が広い帯状の領域である第2半導体部とが、
幅方向に交互に3本以上並んで配置されて成る受光部を備える、フォトダイオード。
【請求項2】
前記受光部が直径30μm以上の円を包含可能な大きさを有する、請求項1に記載のフォトダイオード。
【請求項3】
前記受光部の表面にグレーティングが形成されている、請求項1又は2に記載のフォトダイオード。
【請求項4】
前記第2半導体部の一部に、該第2半導体部の他の部分よりもキャリア濃度が高い高濃度領域を備える、請求項1又は2に記載のフォトダイオード。
【請求項5】
前記受光部の厚さが5μm以下である、請求項1又は2に記載のフォトダイオード。
【請求項6】
前記第2半導体部の幅が2μm以上である、請求項1又は2に記載のフォトダイオード。
【請求項7】
前記第1半導体部の幅が前記第2半導体部の幅の1/2以下である、請求項1又は2に記載のフォトダイオード。
【請求項8】
前記第1半導体部の表面に、検出対象の光を遮光する遮光部を備える、請求項1に記載のフォトダイオード。
【請求項9】
前記第1半導体部及び前記高濃度領域の表面に、検出対象の光を遮光する遮光部を備える、請求項4に記載のフォトダイオード。
【請求項10】
前記遮光部が導電体から成る、請求項8又は9に記載のフォトダイオード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフォトダイオードに関する。
【背景技術】
【0002】
フォトダイオードは光検出素子として作用する半導体ダイオードであり、通常の(電流を特定の方向のみに流すための)半導体ダイオードと同様のp型半導体とn型半導体を接合したpn接合を有する素子に、光を取り込むための構成(窓や光ファイバとの接続部等)を設けたものである。pn接合の代わりに、p型半導体とn型半導体の間にi型半導体(真性半導体)又はそれらp型半導体及びn型半導体よりもキャリア濃度が低いp型若しくはn型半導体を挟んだpin接合を有するフォトダイオードも存在する。これらの構成を有するフォトダイオードではpn接合又はpin接合の境界付近にキャリア(電子及び正孔)がほとんど存在しない空乏層が形成される。フォトダイオードに光が入射したときに、キャリアとなる電子と正孔の対が生成され、これらキャリアが電界によって移動することにより、光電流が生じる。この光電流を検出することにより、フォトダイオードに光が入射したことが検出される。
【0003】
特許文献1には、p型半導体領域(p型領域)とn型半導体領域(n型領域)の境界線を直線ではなく櫛歯状とするとともに、それらp型領域とn型領域を交互に複数並行して配置したフォトダイオードが開示されている。これにより、光を検出する面積を広くし、感度を高めることができる。また、非特許文献1には、それら櫛歯状の各p-n領域の境界にi型半導体領域(i型領域)を配置したフォトダイオードが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Chong LI他5名、"Grating-enabled high-speed high-efficiency surface-illuminated silicon photodiodes"、Optics Express、(米国)、米国光学会、2021年1月21日、第29巻第3号第3458-3464頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光の入射により生成されたキャリアは、空乏層では電界によりドリフトし高速で移動する。ところが、キャリア濃度の高い領域では、光の入射により生成されたキャリアのうち少数キャリア(n型領域では正孔、p型領域では電子)の移動速度が空乏層よりも遅くなる。このことが、光が入射してから光電流が検出(それにより光の入射が検出)されるまでの時間がかかる(検出速度が遅くなる)要因となる。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、検出速度が速いフォトダイオードを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係るフォトダイオードは、
p型半導体又はn型半導体である第1半導体から成る帯状の領域である第1半導体部と、
前記第1半導体とは逆の型の半導体であって該第1半導体よりもキャリア濃度が低い第2半導体から成り、前記第1半導体部よりも幅が広い帯状の領域である第2半導体部とが、
幅方向に交互に3本以上並んで配置されて成る受光部を備えることを特徴とする。
【0009】
ここで前記第2半導体における「前記第1半導体とは逆の型の半導体」は、前記第1半導体を構成する半導体がp型半導体である場合にはn型半導体を指し、前記第1半導体を構成する半導体がn型半導体である場合にはp型半導体を指す。
【0010】
本発明に係るフォトダイオードにおける受光部は、第1半導体部と第2半導体部が幅方向に交互に3本以上並んで配置されていることから、少なくとも「第1半導体部-第2半導体部-第1半導体部」又は「第2半導体部-第1半導体部-第2半導体部」の順に並んだ3本の半導体部(第1半導体部と第2半導体部の総称)を有する。すなわち、第1半導体部と第2半導体部の境界が2本以上存在する。もちろん、4個以上の半導体部(すなわち、3本以上の境界)を有していてもよい。
【0011】
第1半導体部と第2半導体部の境界は、直線であってもよいし、櫛歯状や鋸歯状等の、線長を長くした構成としてもよい。複数の境界は、全てが同一の形状であってもよいし、それぞれ異なっていてもよい。
【0012】
本発明に係るフォトダイオードでは第1半導体部又は第2半導体部が複数存在するが、同一型の半導体部(すなわち、第1半導体部同士、又は、第2半導体部同士)は互いに電気的に直列に接続してもよいし、電気的に並列に接続してもよい。
【0013】
本発明に係るフォトダイオードによれば、受光部が、第1半導体部と、それとは逆の型の半導体から成りそれよりもキャリア濃度が低く幅が広い第2半導体部とを備えることにより、キャリア濃度がより高く且つ幅がより狭い第1半導体部において移動速度の遅い少数キャリアの移動距離が短くなるため、光電流の検出速度を速くすることができる。これにより、例えば本発明に係るフォトダイオードを光通信システムにおける受光素子として用いた際の伝送速度を速く(単位時間あたりに受信可能なデータ量を多く)することができる。
【0014】
また、キャリア濃度が低い第2半導体部の幅を第1半導体部よりも広くすることにより、空乏層が形成される幅が広くなり、フォトダイオードの静電容量を小さくすることができるため、検出できる光の周波数の上限を高くすることができ、それによって使用できる帯域(光の周波数の範囲)が広くなる。この点も、光データ伝送における伝送速度を速くすることに寄与する。
【0015】
このように第2半導体部の方が第1半導体部よりもキャリア濃度が低いことから、第2半導体部はpin接合におけるi型半導体から成る領域とみなすことができる。そうすると、第1半導体部は、pin接合におけるp型半導体から成る領域とn型半導体から成る領域のうちの一方とみなすことができる。それら2つの領域のうちの他方は、第2半導体部のうち、電流を取り出すための配線との接続点付近の領域とすることができる。そのような接続点付近の領域は、電気抵抗が高すぎると配線に電流が流れないため、第2半導体部のその他の領域よりもドーパント不純物を多くドープしておくことが好ましい。
【0016】
本発明に係るフォトダイオードでは、帯状の第1半導体部及び第2半導体部が合わせて幅方向に3本以上並んでいることから、受光部の面積を大きくすることができる。例えば、前記受光部が直径30μm以上の円を包含可能な大きさを有する、という構成を取ることができる。これにより、光データ伝送において一般的に用いられている、シングルモード光ファイバよりもコアの径が大きいマルチモード光ファイバを通して送信される光信号を確実に受信(検出)することができる。
【0017】
本発明に係るフォトダイオードにおいて、前記受光部の厚さは5μm以下とすることができる。これにより、厚さ方向の全体に亘って空乏層を形成することが容易になるため、キャリアの移動速度をより速くすることができる。
【0018】
本発明に係るフォトダイオードにおいて、前記第2半導体部の幅は2μm以上とすることができる。このように第2半導体部の幅を広くすることにより、フォトダイオードの静電容量を十分に小さくすることができ、検出できる光の周波数の上限を十分に高くすることができるため、光データ伝送における伝送速度を十分に速くすることができる。
【0019】
一方、前記第1半導体部の幅は、前記第2半導体部の幅の1/2以下(上述のように第2半導体部の幅が2μm以上である場合には、1μm以下)とすることができる。これにより、受光部を所定の領域内に形成する際に、第1半導体部が占める範囲を狭くして、第2半導体部の幅を十分に確保することができる。また、第1半導体部における少数キャリアの移動距離を短くすることができる。
【0020】
本発明に係るフォトダイオードにおいて、前記受光部の表面にグレーティングを備えていてもよい。これにより、受光部の表面に入射する光の大半が受光部の内部に入射する際にグレーティングによって回折され、受光部内において厚さ方向に垂直な方向(面内方向)の成分を持って進行するため、受光部内における光路長を長くすることができるうえに、臨界角を超える光は全反射して受光部内に閉じ込められるため、さらに受光部内における光路長を長くすることができる。そのため、光がキャリアに変換される確率が高くなり、光の検出感度を高くすることができる。また、それに伴い、入射した光がキャリア形成に寄与することなく受光部の厚さ方向に通過してしまうことを抑えることができることから、受光部の厚さを薄くすることができるため、キャリアの移動速度をより速くすることができることにも寄与する。
【0021】
グレーティングを受光部の表面、側方のいずれに備えている場合にも、グレーティングの溝の方向は、第1半導体部及び第2半導体部の帯が延びる方向に対して、平行であっても垂直であってもよく、さらには(平行でも垂直でもない)傾斜した方向であってもよい。
【0022】
本発明に係るフォトダイオードにおいて、前記第2半導体部の一部に、該第2半導体部の他の部分よりもキャリア濃度が高い高濃度領域を備えていてもよい。この第2半導体部の高濃度領域と第1半導体部にそれぞれ導線を接続することにより、それらの間に流れる電流を検出することができる。この場合、高濃度領域は、pin接合におけるp型半導体から成る領域とn型半導体から成る領域のうち、第1半導体部とは反対の領域に該当する。
【0023】
本発明に係るフォトダイオードにおいて、前記第1半導体部の表面に、検出対象の光を遮光する遮光部を備えていてもよい。これにより、第1半導体部内で少数キャリアが生成されることを抑えることができる。そのため、多数キャリアや第2半導体部に生成される空乏層内のキャリア(電子、正孔とも)による電流とそれらよりも移動速度が遅い少数キャリアによる電流が重なることによって検出される電流の波形が鈍ることを抑えることができる。第2半導体部に高濃度領域を設ける場合には、高濃度領域の表面にも遮光部を備えるとよい。遮光部の材料は、導電体、半導体、絶縁体のいずれでもよいが、導電体とすることにより、外部からノイズとして電磁波が侵入することを防ぐシールドとして当該遮光部を用いることもできる。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、検出速度が速いフォトダイオードを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明に係るフォトダイオードの第1実施形態を示す断面図(a)、並びにその半導体部を示す上面図(b)。
【
図2】第1実施形態における受光部の変形例を示す上面図。
【
図3】第1実施形態のフォトダイオードを、複数の個別フォトダイオードが並列に接続されたものとみなすことを示す模式図。
【
図4】第2実施形態のフォトダイオードを示す断面図(a)、並びにその受光部を示す上面図(b)。
【
図5】第2実施形態における受光部の変形例を示す上面図。
【
図6】第2実施形態の変形例のグレーティングを有する構成を示す断面図。
【
図7】第3実施形態のフォトダイオードを示す断面図(a)、並びにその受光部を示す上面図(b)。
【
図8】第4実施形態のフォトダイオードを示す断面図。
【
図9】第4実施形態の変形例のフォトダイオードを示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1~
図9を用いて、本発明に係るフォトダイオードの実施形態を説明する。
【0027】
(1) 第1実施形態
図1に、第1実施形態のフォトダイオード10を示す。このフォトダイオード10は、基板191と、基板191の表面に形成された絶縁体から成る絶縁体層192と、絶縁体層192の表面に設けられた受光部11と、受光部11を覆うように設けられた表面層193とを有する。
【0028】
基板191の材料には例えばシリコン(Si)を用いることができる。絶縁体層192の材料には例えば酸化シリコン(SiO2)を用いることができる。これらシリコン製の基板191と酸化シリコン製の絶縁体層192を組み合わせたものには、SOI(Silicon On Insulator)ウエハとして公知のものを用いることができる。なお、基板191及び絶縁体層192の材料はこの例には限られず、基板191には導電性の有無に関わらず任意の材料を用いることができ、絶縁体層192には絶縁体であれば任意の材料を用いることができる。なお、絶縁体製の基板191を用いる場合には、別途絶縁体層192を設けなくてもよい。
【0029】
表面層193は、後述の配線等が腐食することを防止すると共に、検出対象の光を透過させて受光部11に導入するために設けられている。表面層193の材料には、検出対象の光が透過可能な絶縁体を用いる。
【0030】
受光部11は、n型半導体である第1半導体から成る帯状(線状)の第1半導体部111と、p型半導体(第1半導体とは逆の型)である第2半導体から成る帯状(線状)の第2半導体部112とをそれぞれ複数本備える。これら第1半導体部111及び第2半導体部112は、1本ずつ交互に帯の幅方向に並んで配置されている。なお、本発明ではこれら第1半導体部111と第2半導体部112を合わせて最低限3本有していればよいため、第1半導体部111と第2半導体部112のうちの一方は1本のみ(この場合、他方は2本)であってもよい。
【0031】
第2半導体部112のp型半導体におけるキャリア(正孔)濃度は、第1半導体部111のn型半導体におけるキャリア(電子)濃度よりも低い。第1半導体及び第2半導体には例えば、シリコンにそれぞれドナー及びアクセプターをドープしたものや、ガリウムヒ素(GaAs)にそれぞれドナー及びアクセプターをドープしたもの等を用いることができる。
【0032】
隣接する第1半導体部111と第2半導体部112の境界は接合されている。第1半導体部111と第2半導体部112が合わせて3本以上存在するため、この境界は合わせて2本以上存在することとなる。
【0033】
第2半導体部112の幅(帯が延びる方向に垂直な方向、あるいは帯の幅方向の大きさ)W
2は、第1半導体部111の幅W
1よりも広い。本実施形態では、W
1=0.3μm、W
2=3μmとした(
図1では図示の都合上、実際よりも第1半導体部111の幅を広く描いている)。これらの幅はW
2>W
1であれば上記の例には限定されないが、第1半導体部111におけるキャリアの移動距離を十分に短くするためにW
1は1μm以下とすることが好ましく、フォトダイオードの静電容量を十分に小さくするためにはW
2は2μm以上とすることが好ましい。
【0034】
第1半導体部111及び第2半導体部112の帯の長さLは、本実施形態では50μmとしたが、この例には限定されない。但し、長さLは、30μm以上とすることが好ましい。また、受光部11全体の幅も30μm以上とすることが好ましい。これら長さL及び全体の幅を共に30μm以上とすることにより、受光部11は直径30μm以上の円形の領域91を包含することができるため、光データ伝送において一般的に用いられているマルチモード光ファイバを通して送信される光信号を確実に入射させることができ、それによってこの光信号を確実に検出することができる。
【0035】
受光部11の厚さtは、本実施形態では0.2μmとしたが、この例には限定されない。但し、厚さ方向の全体に亘って空乏層を形成することが容易になるという点で、厚さtは5μm以下とすることが好ましい。
【0036】
第1半導体部111及び第2半導体部112は、絶縁体層192の上面にエピタキシャル成長させることにより形成することが好ましい。その場合、絶縁体層192は、単結晶から成るものを用いるか、単結晶から成る基板191の表面を酸化させること等により形成するとよい。
【0037】
なお、ここでは第1半導体部111にn型半導体を、第2半導体部112にp型半導体をそれぞれ用いているが、第1半導体部111にp型半導体を、第2半導体部112にn型半導体をそれぞれ用いてもよい。その場合には、第2半導体部112のn型半導体におけるキャリア(電子)濃度を第1半導体部111のp型半導体におけるキャリア(正孔)濃度よりも低くする。
【0038】
これら複数の第1半導体部111には第1の配線(第1配線部)121が並列に接続され、複数の第2半導体部112には第2の配線(第2配線部)122が並列に接続されている。これらの配線には
図1(b)に示すように第1半導体部111及び第2半導体部112とは別体の導線を用いることができる。
【0039】
第2半導体部112のうち第2配線部122との接続部付近には、第2半導体部112の他の部分よりもキャリア(電子)濃度が高い高濃度領域113を形成する。なお、高濃度領域113におけるキャリア濃度は、第1半導体部111における第1半導体のキャリア濃度とは同じであってもよいし、それよりも高くても低くてもよい。高濃度領域113は、例えば、第2半導体部112となる領域に薄膜を形成したうえで、高濃度領域113に第2半導体部112の他の部分よりも濃度が高くなるように、アクセプターとなるイオンを照射することにより作製することができる。高濃度領域113では、第2半導体部112の他の部分よりも電気抵抗率が小さくなる。なお、第1半導体部111のキャリア濃度が第2半導体部112よりも高いことから、第1半導体部111にはこのような高濃度領域は形成されていない。
【0040】
あるいは、
図2に示すように、第1配線部121Aに第1半導体部111と同じ第1半導体から成るものを用いて第1配線部121Aと複数の第1半導体部111を一体のものとして形成すると共に、第2配線部122Aに第2半導体部112と同じ第2半導体から成るものを用いて第2配線部122Aと複数の第2半導体部112を一体のものとして形成してもよい。
図2の例では、第1配線部121Aと複数の第1半導体部111、及び第2配線部122Aと複数の第2半導体部112がそれぞれ、櫛形の形状を呈する。この場合、第2配線部122Aを第2半導体部112よりもキャリア(電子)濃度が高い高濃度領域とする。
【0041】
図1(b)や
図2の例のように複数の第1半導体部111及び複数の第2半導体部112をそれぞれ並列に接続することにより、
図3に示すように、第1半導体部111及び第2半導体部112をそれぞれn個ずつ有する第1実施形態のフォトダイオード10は、第1半導体部111を一方の電極、高濃度領域を他方の電極、第2半導体部112を電極間に挿入された誘電体とする2n個のフォトダイオード(個別フォトダイオード101と呼ぶ)を並列に接続したものとみなすことができる。個々の個別フォトダイオード101の静電容量C
0は、第2半導体の誘電率をε、電極間の誘電体の厚さを第2半導体部112の幅の半分をみなしてW
2/2とすると、C
0=εLt/(W
2/2)で表される。そして、フォトダイオード10全体の静電容量Cは、個別フォトダイオード101の静電容量C
0の和となることから、C=2n×εLt/(W
2/2)となる。
【0042】
例えば、シリコン(誘電率ε≒1×10-10F/m)製の第1半導体部111及び第2半導体部112をそれぞれ15個ずつ有し(n=15)、且つ上記で例示した寸法(W1=0.3μm、W2=3μm、L=50μm、t=0.2μm)を有する場合、フォトダイオード10全体の静電容量Cは約20fFとなる。フォトダイオードの静電容量が小さいほど、検出できる光の周波数の上限を高くすることができ、それによって使用できる帯域(光の周波数の範囲)が広くなるため、光データ伝送における伝送速度(単位時間当たりに伝送可能なデータ量)を多くすることができる。一般に、フォトダイオードの静電容量が200fF以下であれば20Gbps以上の速度でデータを送信することができるため、上記の例のようにフォトダイオード10全体の静電容量Cを約20fFという小さい値にすることにより、伝送速度を十分に速くすることができる。
【0043】
第1実施形態のフォトダイオード10の使用方法は従来のフォトダイオードと同様である。使用時には、空乏層を大きく形成するために第1半導体部111と第2半導体部112のうちn型半導体から成る側が正、p型半導体から成る側が負となる逆バイアス電圧を印加してもよいし、そのような逆バイアス電圧を印加することなく使用してもよい。いずれの場合にも、光が表面層193を通過して受光部11に入射したときにキャリアとなる電子と正孔の対が生成され、これらのキャリアが移動することで流れる光電流を、第1配線部121(121A)及び第2配線部122(122A)を通して検出することにより、光が入射したことを検出する。
【0044】
第1実施形態のフォトダイオード10によれば、第1半導体部111と、それとは逆の型の半導体から成りそれよりもキャリア濃度が低く幅が広い第2半導体部112を備える受光部11を用いることにより、キャリア濃度がより高く且つ幅がより狭い第1半導体部111において移動速度の遅い少数キャリアの移動距離が短くなるため、光電流の検出速度を速くすることができる。一方、キャリア濃度が低い第2半導体部で112の幅を第1半導体部111よりも広くすることにより、空乏層が形成される幅が広くなり、静電容量を小さくすることができるため、検出できる光の周波数の上限を高くすることができ、それによって使用できる帯域が広くなる。さらに、帯状の第1半導体部111及び第2半導体部112が合わせて幅方向に3本以上並んでいることから、光を検出する領域が狭くなってしまうことを防ぐことができる。
【0045】
(2) 第2実施形態
図4に、第2実施形態のフォトダイオード20を示す。このフォトダイオード20は、受光部11Aの表面(表面層193側の面)にグレーティング21を形成したものである。受光部11Aの構成はグレーティング21が形成されている点を除いて第1実施形態における受光部11の構成と同様である。すなわち、受光部11Aは、n型半導体である第1半導体から成る第1半導体部111Aと、p型半導体(第1半導体とは逆の型)であって第1半導体よりもキャリア密度が低い第2半導体から成り幅が第1半導体部111Aよりも広い第2半導体部112Aとが交互に、合わせて3本以上並んで成る。
図4では図示を省略したが、第2実施形態においても第1実施形態と同様の配線及び高濃度領域が設けられている。また、これら第1半導体部111A及び第2半導体部112Aにおいても、第1実施形態と同様の各種変形が可能である。
【0046】
グレーティング21は、受光部11の表面に形成され互いに平行に配置された溝211と、隣接する溝211の間の山212とを有する。
図4に示した例では溝211に垂直な断面が矩形状の溝211及び山212を有するグレーティングを用いたが、三角形等のその他の形状のグレーティングを用いてもよい。また、溝211及び山212は、
図4の例では第1半導体部111及び第2半導体部112の帯が延びる方向に平行に設けたが、それらの帯に垂直な方向に設けてもよいし(
図5)、それらの帯に対して傾斜した方向(平行でも垂直でもない方向)に設けてもよい。また、溝211及び山212の断面形状も
図4(a)に示した矩形状には限定されない。
【0047】
図4の例では受光部11Aの表面にグレーティング21を形成したが、
図6に示すように、第1実施形態と同様の(グレーティングが形成されていない)受光部11の表面にそれとは別体のグレーティング21Aを設けてもよい。グレーティング21Aの材料には、表面層193とは屈折率が異なる材料であって検出対象の光を透過させるものを用いる。この例においても、溝211A及び山212Aが延びる方向や、溝211A及び山212Aの断面形状は、
図6に示した矩形状には限定されない。
【0048】
第2実施形態のフォトダイオード20を使用する際には、第1実施形態の場合と同様に、逆バイアス電圧は印加してもよいし、しなくてもよい。光が表面層193を通して入射すると、グレーティング21(21A)によって回折される。これにより、受光部11A(11)内において各層(表面層193等)に平行な方向の成分を持って進行することで受光部11A(11)における光路長を長くすることができるうえに、臨界角を超える光は全反射して受光部11A(11)内に閉じ込められるため、さらに受光部11A(11)内における光路長を長くすることができる。その結果、光がキャリアに変換される確率が高くなるため、光の検出感度を高くすることができる。それに伴い、入射した光がキャリア形成に寄与することなく受光部11A(11)の厚さ方向に通過してしまうことを抑えることができることから、受光部11A(11)の厚さを薄くすることができるため、キャリアの移動速度をより速くすることができることにも寄与する。
【0049】
(3) 第3実施形態
図7に、第3実施形態のフォトダイオード30を示す。このフォトダイオード30は、基板191と、絶縁体層192と、受光部31と、表面層193とをこの順に積層した構造を有する。基板191、絶縁体層192及び表面層193は、第1実施形態のフォトダイオード10におけるそれらと同じ構成を有するため、詳細な説明を省略する。
【0050】
受光部31は、n型半導体である第1半導体から成る帯状の第1半導体部311と、p型半導体であって第1半導体のキャリア(電子)濃度よりもキャリア(正孔)濃度が低い第2半導体から成る帯状の第2半導体部312と、p型半導体であって第2半導体よりもキャリア(正孔)濃度が高い(第1半導体のキャリア濃度とは同じであってもよいし、それよりも高くても低くてもよい)第3半導体から成る帯状の第3半導体部313とを有する。第3半導体部313は第1実施形態における高濃度領域113と同様の役割を有するため、第3実施形態では高濃度領域113を設ける必要はない。
【0051】
受光部31を構成する各部は、第1半導体部311-第2半導体部312-第3半導体部313-第2半導体部312が幅方向に並んだものを1組として、それらが複数組、幅方向に並んでいる。この構成は、第1半導体部311と第2半導体部312が交互に幅方向に並んでいるものにおいて、第2半導体部312の一部に第3半導体部313が形成されている、とみなすこともできる。フォトダイオード30の製造時には、第3半導体部313となる部分及びその両隣の第2半導体部312となる部分を合わせて薄膜を形成したうえで、前者の部分と後者の部分にそれぞれ異なるキャリア濃度となるようにアクセプターとなるイオンを照射する、という方法を用いることができる。
【0052】
第2半導体部312の幅は第1半導体部311及び第3半導体部313の幅よりも広い。本実施形態では、第1半導体部311及び第3半導体部313の幅をそれぞれ1μm、第2半導体部312の幅を3μmとしたが、この例には限定されない。
【0053】
第1半導体及び第2半導体にはそれぞれ、第1実施形態と同様にシリコンやガリウムヒ素にドナー及びアクセプターをドープしたものを用いることができる。また、第3半導体にも同様の材料を用いることができる。
【0054】
複数の第1半導体部311には第1配線部321が並列に接続され、複数の第3半導体部312には第2配線部322が並列に接続されている。
【0055】
第3実施形態のフォトダイオード30では、第1半導体部311と第3半導体部313がフォトダイオードの電極として機能する。空乏層は主に第2半導体部312の第1半導体部311との境界付近に形成される。このフォトダイオード30の動作は、第1実施形態のフォトダイオード10の動作と同様である。
【0056】
(4) 第4実施形態
図8に、第4実施形態のフォトダイオード40を示す。このフォトダイオード40は、第1実施形態のフォトダイオード10と同様の基板191、絶縁体層192、受光部11及び表面層193を有し、さらに受光部11の表面(受光部11と表面層193の間)のうち第1半導体部111に面する部分に遮光部41を有する。遮光部41は薄膜状の部材であり、導電体であって検出対象の光を透過させない材料から成る。なお、遮光部41の材料は、検出対象の光を透過させない材料であればよく、その電気特性はここで例示した導電体以外であってもよい。第2半導体部112に面する部分には遮光部41は設けられていない。
【0057】
第4実施形態のフォトダイオード40では、表面層193を通して入射した光のうち、第1半導体部111の直上に入射したものは遮光部41によって遮られ、第1半導体部111内に入射しない。一方、第2半導体部112の直上に入射した光は、第2半導体部112内に入射してキャリアの生成に寄与する。このように光を第1半導体部111に入射させないことにより、キャリア濃度の高い第1半導体部111内で、移動速度が遅い少数キャリア(本実施形態の例では正孔)が生成されることを抑えることができ、検出される電流の波形が鈍ることを防ぐことができる。
【0058】
また、導電体製の遮光部41を用いる場合には、当該遮光部41を、外部からノイズとして電磁波が侵入することを防ぐシールドとして用いることができる。
【0059】
図9に、第4実施形態の変形例のフォトダイオード40Aを示す。このフォトダイオード40Aは、第3実施形態のフォトダイオード30においてさらに、受光部31の表面のうち第1半導体部311及び第3半導体部313に面する部分に遮光部41Aを有する。これにより、前述のフォトダイオード40と同様に、キャリア濃度の高い第1半導体部311及び第3半導体部313内で、移動速度が遅い少数キャリア(第1半導体部311では正孔、第3半導体部313では電子)が生成されることを抑えることができる。この場合にも、遮光部41Aの材料を導電体とすることにより、外部からノイズとして電磁波が侵入することを防ぐシールドとして用いることができる。
【0060】
以上、本発明に係るフォトダイオードの複数の実施形態及びそれらの変形例を説明したが、本発明はそれらの実施形態や変形例には限定されず、さらなる変形が可能である。
【0061】
また、上記の各実施形態やそれらの変形例を適宜組み合わせることも可能である。例えば、第3実施形態のフォトダイオード40ではグレーティングを設けていないが、第2実施形態において用いられているグレーティングと同様のものを当該第3実施形態のフォトダイオード40に設けてもよい。
【0062】
[態様]
上述した例示的な実施形態が以下の態様の具体例であることは、当業者には明らかである。
【0063】
(第1項)本発明の一態様に係るフォトダイオードは、
p型半導体又はn型半導体である第1半導体から成る帯状の領域である第1半導体部と、
前記第1半導体とは逆の型の半導体であって該第1半導体よりもキャリア濃度が低い第2半導体から成り、前記第1半導体部よりも幅が広い帯状の領域である第2半導体部とが、
幅方向に交互に3本以上並んで配置されて成る受光部を備える。
【0064】
(第2項)第2項に係るフォトダイオードは、第1項に係るフォトダイオードにおいて、前記受光部が直径30μm以上の円を包含可能な大きさを有する。
【0065】
(第3項)第3項に係るフォトダイオードは、第1項又は第2項に係るフォトダイオードにおいて、前記受光部の表面にグレーティングが形成されている。
【0066】
(第4項)第4項に係るフォトダイオードは、第1項~第3項のいずれか1項に係るフォトダイオードにおいて、前記第2半導体部の一部に、該第2半導体部の他の部分よりもキャリア濃度が高い高濃度領域を備える。
【0067】
(第5項)第5項に係るフォトダイオードは、第1項~第4項に係るフォトダイオードにおいて、前記受光部の厚さが5μm以下である。
【0068】
(第6項)第6項に係るフォトダイオードは、第1項~第5項に係るフォトダイオードにおいて、前記第2半導体部の幅が2μm以上である。
【0069】
(第7項)第7項に係るフォトダイオードは、第1項~第6項に係るフォトダイオードにおいて、前記第1半導体部の幅が前記2半導体部の幅の1/2以下である。
【0070】
(第8項)第8項に係るフォトダイオードは、第1項~第7項に係るフォトダイオードにおいて、前記第1半導体部の表面に、検出対象の光を遮光する遮光部を備える。
【0071】
(第9項)第9項に係るフォトダイオードは、第4項に係るフォトダイオードにおいて、前記第1半導体部及び前記高濃度領域の表面に、検出対象の光を遮光する遮光部を備える。
【0072】
(第10項)第10項に係るフォトダイオードは、第8項又は第9項に係るフォトダイオードにおいて、前記遮光部が導電体から成る。
【符号の説明】
【0073】
10、20、30、40、40A…フォトダイオード
101…個別フォトダイオード
11、11A、31…受光部
111、111A、311…第1半導体部
112、112A、312…第2半導体部
113…高濃度領域
121、121A、321…第1配線部
122、122A、322…第2配線部
191…基板
192…絶縁体層
193…表面層
21、21A…グレーティング
211、211A…グレーティングの溝
212、212A…グレーティングの山
313…第3半導体部
41、41A…遮光部