(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064438
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20240507BHJP
F16H 1/32 20060101ALI20240507BHJP
F16H 55/06 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
F16H57/04 D
F16H1/32 B
F16H55/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173023
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】田村 光拡
【テーマコード(参考)】
3J027
3J030
3J063
【Fターム(参考)】
3J027FA22
3J027FA37
3J027FB32
3J027GB03
3J027GC08
3J027GD04
3J027GD08
3J027GD12
3J030BC01
3J030BC02
3J063XC01
3J063XC05
3J063XC08
3J063XD02
3J063XE01
(57)【要約】
【課題】食品機械に組み込まれる歯車装置において、歯車装置の高寿命化を図りつつ、使用できるグリスの選択肢を広げるための技術を提供する。
【解決手段】食品を扱う工程で使用される食品機械に組み込まれる歯車装置であって、第1歯車60と、第1歯車60と噛み合う第2歯車62と、第1歯車60と第2歯車62の噛合部が存在する内部空間に収容されるグリス76と、外部空間に内部空間を通じさせる隙間部82A~82Cと、を備え、第1歯車60は、繊維強化樹脂により構成され、グリス76の収容量は、内部空間の一部により構成されグリスを収容するグリス収容空間90の容積の1%以上30%以下であり、グリス76は、食品グリスに該当しないグリスである。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品を扱う工程で使用される食品機械に組み込まれる歯車装置であって、
第1歯車と、
前記第1歯車と噛み合う第2歯車と、
前記第1歯車と前記第2歯車の噛合部が存在する内部空間に収容されるグリスと、
外部空間に前記内部空間を通じさせる隙間部と、を備え、
前記第1歯車は、繊維強化樹脂により構成され、
前記グリスの収容量は、前記内部空間の一部により構成され前記グリスを収容するグリス収容空間の容積の1%以上30%以下であり、
前記グリスは、食品グリスに該当しないグリスである歯車装置。
【請求項2】
前記隙間部は、シール部材によりシールされていない請求項1に記載の歯車装置。
【請求項3】
前記隙間部は、第1相対回転速度で相対回転する一対の相対回転体の間に形成される低速側隙間部と、前記第1相対回転速度よりも速い第2相対回転速度で相対回転する一対の相対回転体の間に形成される高速側隙間部とを含む請求項2に記載の歯車装置。
【請求項4】
前記グリスの収容量は、前記グリス収容空間の容積の3%以上20%以下である請求項1に記載の歯車装置。
【請求項5】
前記第2歯車は金属系材料により構成される請求項1に記載の歯車装置。
【請求項6】
金属系材料により構成される軸受を備え、
前記軸受の転動体及び転動面の表面粗さは、前記第1歯車及び前記第2歯車の歯面における表面粗さよりも小さい請求項1に記載の歯車装置。
【請求項7】
前記隙間部に設けられるシール軸受を備える請求項1に記載の歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、食品機械に組み込まれる歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、食品機械に組み込まれる歯車装置を開示している。この歯車装置は、歯車対の噛合部が存在する内部空間に収容される食品グリスと、食品グリスを収容するグリス収容空間を封止するオイルシールとを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者は、食品機械に組み込まれる歯車装置において、歯車装置の高寿命化を図りつつ、使用できるグリスの選択肢を広げるための新たなアイデアを見出した。
【0005】
本開示の目的の1つは、食品機械に組み込まれる歯車装置において、歯車装置の高寿命化を図りつつ、使用できるグリスの選択肢を広げるための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある態様の歯車装置は、食品を扱う工程で使用される食品機械に組み込まれる歯車装置であって、第1歯車と、前記第1歯車と噛み合う第2歯車と、前記第1歯車と前記第2歯車の噛合部が存在する内部空間に収容されるグリスと、外部空間に前記内部空間を通じさせる隙間部と、を備え、前記第1歯車は、繊維強化樹脂により構成され、前記グリスの収容量は、前記内部空間の一部により構成され前記グリスを収容するグリス収容空間の容積の1%以上30%以下であり、前記グリスは、食品グリスに該当しないグリスである。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、食品機械に組み込まれる歯車装置において、歯車装置の高寿命化を図りつつ、使用できるグリスの選択肢を広げることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態の食品機械を示す模式図である。
【
図2】第1実施形態の歯車装置を示す側面断面図である。
【
図3】第1実施形態のグリスに関する説明図である。
【
図4】第2実施形態の歯車装置を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態を説明する。同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面では、説明の便宜のため、適宜、構成要素を省略、拡大、縮小する。図面は符号の向きに合わせて見るものとする。
【0010】
まず、本開示の歯車装置を想到するに至った背景から説明する。金属製の金属歯車のみを用いた歯車装置の場合、歯車装置内に収容されるグリスの収容量は、歯車機構の種類により変動するものの、通常、グリス収容空間(後述する)の容積の40%~50%以上とすることが技術常識である。また、この場合、グリスの収容量は、それを減らすための特別な工夫を講じたとしても、グリス収容空間の容積の25%を下回ることはないのが技術常識である(例えば、特開2018-144778号参照)。
【0011】
また、従来、樹脂を用いた単一材料(非複合材料)により樹脂歯車を構成し、樹脂の自己潤滑性を利用して樹脂歯車の樹脂部分と相手歯車の噛合部での摩耗を防止し、歯車対の摩耗防止のために使用していたグリスを省略した歯車装置も知られている。しかしながら、このような歯車装置は樹脂歯車の強度が不十分であり、食品機械に組み込まれる歯車装置として所要の寿命を十分に確保できるものではなかった。これをふまえ、本願発明者は、樹脂歯車の強度を確保するうえで、樹脂歯車の樹脂として強度に優れた繊維強化樹脂の採用を検討した。しかしながら、繊維強化樹脂製の樹脂歯車を用いた場合、グリスを使用しないと、樹脂歯車の外部に露出した繊維が樹脂歯車と噛み合う相手歯車を摩耗させる繊維摩耗を招き、それに起因して歯車装置の低寿命化を招くとの認識を得た。
【0012】
本願発明者は、この対策として、少なくとも微量のグリス(後述するグリス収容空間の容積の1%以上のグリス)を収容することで、繊維摩耗による相手歯車の摩耗を防止することが有効であるとの認識を得た。これにより、樹脂を用いた単一材料により樹脂歯車を構成する場合と比べ、繊維強化樹脂製の樹脂歯車による高強度化と、少なくとも微量のグリスによる繊維摩耗に起因する歯車の低寿命化の防止とを図ることで、歯車装置の高寿命化を図ることができる。
【0013】
また、本願発明者は、少なくとも微量のグリスを収容しつつ、技術常識の通常の数値範囲(40%~50%以上)よりもかなり少ないグリスの収容量(グリス収容空間の容積の30%以下)にするという構成を新たに見出した。本願発明者は、これにより、歯車装置の高寿命化を図りつつ、歯車装置のグリス漏れを防止できることも新たに見出した。特に、このように技術常識の通常の数値範囲よりグリスの収容量をかなり少なくすることで、歯車装置内にグリスを封入するシール部材を使用せずともグリス漏れを防止できることを新たに見出した。このように少ないグリスの収容量としても、歯車装置の高寿命化を図ることができるのは、第一には、歯車対の一方の歯車を繊維強化樹脂製の樹脂歯車とし、樹脂の自己潤滑性を利用して樹脂歯車の樹脂部分(非繊維部分)と相手歯車の噛合部での摩耗を防止できることによる。第二には、前述の通り、少なくとも微量のグリスを収容することで、樹脂歯車の繊維に起因する相手歯車の繊維摩耗を防止できることによる。なお、ここでのグリス漏れとは、歯車装置のグリス収容空間から外部空間にグリスが漏れることをいう。
【0014】
ここで、食品機械に組み込まれる歯車装置では、グリス漏れに備えて後述する食品グリスを使用することが技術常識である。本願発明者は、前述のように少なくとも微量のグリスを収容しつつ、技術常識の通常の数値範囲よりもかなり少ないグリスの収容量にしてグリス漏れを防止することで、歯車装置の長寿命化を図りつつ、食品機械の歯車装置において技術常識である食品グリス以外のグリスを使用できるようになるという、技術常識に反する新たな着想を得た。また、本願発明者は、このように新たに得た着想を元に、歯車装置内に収容するグリスとして、食品グリスに替えて非食品グリス(後述する)を用いるという新たな構成を見出した。これにより、後述のように、使用できるグリスの種類の選択肢を広げることができるようになる。非食品グリスは、食品グリスよりも歯車性能(寿命を含む)の向上に有利なものが多いことから、非食品グリスを採用することで、長寿命化を含む歯車性能の向上が可能となる。以下、このような考えのもとで想到された実施形態の歯車装置の詳細を説明する。
【0015】
図1を参照する。歯車装置10-A~10-Eは、食品を扱う工程で使用される食品機械12に組み込まれる。ここでの「食品」とは、人等の生物が口にいれることを目的としたものをいい、一般的な食料(飲料を含む)の他に、たばこ等の嗜好品、経口剤等の医薬品等を含む。ここでの「食品を扱う工程」とは、例えば、食品に関して製造、加工、搬送、包装、充填、検査等をする工程をいう。ここでの製造は、原料を用いて、その本質を異なるものに変える行為をいう。食品の加工は、食品を用いて、その本質を変えないで、新たな属性を付与する行為をいう。食品の加工は、例えば、食品の切断、整形、選別、破砕、混合、盛り合わせ、小分け、加塩、骨とり、表面あぶり、冷凍、解凍、結着防止等をすることが含まれる。
【0016】
このような食品を扱う工程で使用される食品機械12とは、例えば、ロボット14、洗浄機、脱水機、スライサー、グラインダー、チョッパー、ミキサー、押出機、コンベア、シーラー、包装機、搬送車等をいう。ここでは、食品機械12として、食品の盛り合わせに使用されるロボット14を例に説明する。食品機械12の具体例は特に限定されず、ここに挙げた例以外の各種食品機械であってもよい。
【0017】
本実施形態のロボット14は、多関節ロボットである。本実施形態のロボット14は、関節数を5個としているが、その関節数は特に限定されず、4個以下、6個以上等でもよい。ロボット14は、複数の関節部16-A~16-Eと、複数の関節部16-A~16-Eにより回転可能に直列に連結される複数のロボット部材18-A~18-Fと、を備える。ここでの「回転」には、正方向及び逆方向のそれぞれに回転する「回動」が含まれる。以下、同じ名称の複数の構成要素に関して、ロボット14の先端側から基端側にかけて順に、例えば、「1段目歯車装置10-A」、「2段目歯車装置10-B」と記載することで区別する。他の構成要素(関節部16-A等)も同様である。
【0018】
複数の関節部16-A~16-Eのそれぞれには、関節部16-A~16-Eにおいて連結される二つのロボット部材18-A~18-Fのうち先端側のロボット部材18-A~18-Eを回転させるように駆動する駆動装置(不図示)が組み込まれる。歯車装置10-A~10-Eは、複数の関節部16-A~16-Eのそれぞれの駆動装置の一部として組み込まれ、駆動装置の動力の伝達に用いられる。
【0019】
複数のロボット部材18-A~18-Fのうち最も基端側のロボット部材18-Fは、ロボット14の他の部材を支持するベースとなり、それ以外のロボット部材18-A~18-Eはアーム部材となる。本実施形態において、隣り合うロボット部材18-A~18-Fのうち先端側のロボット部材18-A~18-Eは、関節部16-A~16-Eにおいて、基端側のロボット部材18-B~18-Fに対して回転可能に連結される。
【0020】
複数のロボット部材18-A~18-Fのうちの最も先端側のロボット部材18-Aにはアタッチメント20を着脱可能に搭載する搭載部22が設けられる。アタッチメント20は、例えば、食品等の物品を把持する把持部材(グリッパ)である。アタッチメント20の具体例は特に限定されず、負圧、磁力等により物品を吸着する吸着部材、物品を掬い上げる掬い部材等でもよい。
【0021】
図2を参照する。以下、複数の歯車装置10-A~10-Eに共通する構成要素を説明する。この共通する構成要素を区別せずに総称する場合、その区別するための用語(冒頭の「第1」、末尾の「-A」等)を省略する。例えば、1段目歯車装置10-A、2段目歯車装置10-B等の各歯車装置10-A~10-Eに関して総称する場合、単に歯車装置10と記載する。また、以下、歯車装置10の出力部材52(後述する)の回転中心線C52に沿った方向を単に軸方向といい、その回転中心線C52を円中心とする半径方向及び円周方向を単に径方向及び周方向ともいう。また、軸方向のうちの駆動源30側を入力側といい、それとは反対側を反入力側という。本実施形態においては、複数の歯車装置10-A~10-Eが全て同じ歯車機構を備える例を説明する。各歯車装置10-A~10-Eの歯車機構における大きさや減速比は、各関節の必要トルク・必要強度に応じて異なる。複数の歯車装置10-A~10-Eは、異なる歯車機構を有してもよい。また、全ての歯車装置10-A~10-Eに本開示の歯車装置を採用する必要もなく、少なくとも一部の歯車装置に本開示の歯車装置を採用すればよい。この場合、食品に近い歯車装置10-Aに本開示の歯車装置を採用するのが好ましい。
【0022】
本実施形態の歯車装置10は、筒型の撓み噛合い型歯車機構を用いている。この撓み噛合い型歯車装置10は、駆動源30から回転が入力される起振体軸32と、起振体軸32により撓み変形される外歯歯車34と、外歯歯車34と噛み合う変速用内歯歯車36A及び出力用内歯歯車36Bと、を備える。この他に、歯車装置10は、ケーシング38、入力側カバー40A、反入力側カバー40Bを備える。本実施形態の駆動源30はモータであるが、この他にもギヤモータ、エンジン等でもよい。
【0023】
起振体軸32は、外歯歯車34を撓み変形させる起振体32aと、起振体32aの軸方向両側に設けられる軸部32bと、を備える。起振体軸32は、駆動源30から回転が入力される入力軸の一例となる。起振体軸32の中央部には軸方向に貫通するホロー部32cが形成される。起振体32aの軸方向に直交する断面において、起振体32aの外周形状は楕円状をなし、軸部32bの外周形状は円状をなす。ここでの「楕円」とは、幾何学的に厳密な楕円に限定されず、略楕円も含まれる。
【0024】
外歯歯車34は可撓性を有する筒状部材である。外歯歯車34の外周部には外歯が設けられる。外歯歯車34の軸方向両側には外歯歯車34の軸方向移動を規制する規制部材42が配置される。
【0025】
変速用内歯歯車36Aの内周部には、外歯歯車34の入力側部分の外歯と噛み合う内歯が設けられる。出力用内歯歯車36Bの内周部には、外歯歯車34の反入力側部分の外歯と噛み合う内歯が設けられる。変速用内歯歯車36Aは、外歯歯車34の外歯数(例えば、100)とは異なる内歯数(例えば、102)を持ち、出力用内歯歯車36Bは、外歯歯車34の外歯数と同数の内歯数を持つ。
【0026】
本実施形態のケーシング38は、入力側ケーシング部材38aと反入力側ケーシング部材38bとを備える。入力側ケーシング部材38aと反入力側ケーシング部材38bとはボルト等の連結部材B1により連結される。入力側ケーシング部材38aは、変速用内歯歯車36Aを兼ねている。反入力側ケーシング部材38bは、出力用内歯歯車36Bの径方向外側に配置される。
【0027】
入力側カバー40Aは、外歯歯車34に対して軸方向入力側に配置され、外歯歯車34を入力側から覆っている。入力側カバー40Aは、ボルト等の連結部材B2により変速用内歯歯車36Aと連結される。反入力側カバー40Bは、外歯歯車34に対して軸方向反入力側に配置され、外歯歯車34を反入力側から覆っている。反入力側カバー40Bは、ボルト等の連結部材B3により出力用内歯歯車36Bと連結される。
【0028】
歯車装置10は、外部の被駆動部材50に回転を出力する出力部材52と、外部の被固定部材54に固定される固定部材56と、を備える。本実施形態において被駆動部材50、被固定部材54は、前述したロボット部材18である。出力部材52は、被駆動部材50に回転を出力することで被駆動部材50を駆動する。出力部材52は、ケーシング38及び反入力側カバー40Bの一方であり、固定部材56は、ケーシング38及び反入力側カバー40Bの他方である。本実施形態では反入力側カバー40Bが出力部材52であり、ケーシング38が固定部材56であるが、その逆であってもよい。出力部材52は、ボルト、リベット等の連結部材(不図示)を用いて被駆動部材50に連結される。固定部材56は、ボルト、リベット等の連結部材B4を用いて被固定部材54に連結される。
【0029】
以上の歯車装置10の動作を説明する。起振体軸32の起振体32aが回転すると、起振体32aの形状に合わせた楕円状をなすように外歯歯車34が撓み変形される。このように外歯歯車34が撓み変形すると、外歯歯車34と内歯歯車36A、36Bの噛合位置が起振体32aの回転方向に変化する。このとき、異なる歯数を持つ外歯歯車34と変速用内歯歯車36Aの噛合位置が一周する毎に、これらの噛み合う歯が周方向にずれていく。この結果、これらのうちの一方(本実施形態では外歯歯車34)が自転し、その自転成分が出力回転として出力部材52により取り出される。本実施形態において、外歯歯車34と出力用内歯歯車36Bは、互いに同じ歯数を持つため同期し、外歯歯車34の自転成分は、外歯歯車34と同期する出力用内歯歯車36Bを通して、出力部材52としての反入力側カバー40Bにより取り出される。このとき、起振体軸32に入力された入力回転に対して、外歯歯車34と変速用内歯歯車36Aの歯数差に応じた変速比で変速(ここでは減速)された出力回転が出力部材52により取り出される。
【0030】
図3を参照する。
図3では、説明の便宜のため、部材の断面のハッチングを省略する。以上の歯車装置10は、第1歯車60と、第1歯車60と噛み合う第2歯車62とを備える。本実施形態の第1歯車60は変速用内歯歯車36A及び出力用内歯歯車36Bのそれぞれであり、第2歯車62は外歯歯車34である。
【0031】
歯車装置10は少なくとも一つの軸受70A~70Dを備える。本実施形態の軸受70A~70Dは、起振体軸32の起振体32aと外歯歯車34との間に配置される起振体軸受70Aと、ケーシング38と出力用内歯歯車36Bとの間に配置される主軸受70Bとを含む。軸受70A~70Dは、この他に、入力側カバー40Aと起振体軸32の軸部32bとの間に配置される入力側入力軸受70Cと、反入力側カバー40Bと起振体軸32の軸部32bとの間に配置される反入力側入力軸受70Dとを含む。主軸受70Bは玉軸受を示すが、その具体例は特に限定されず、ローラ軸受、クロスローラ軸受、アンギュラ玉軸受、テーパ軸受等でもよい。入力軸受70C、70Dは玉軸受を例に示すが、その具体例は特に限定されず、ローラ軸受、アンギュラ玉軸受、テーパ軸受等でもよい。
【0032】
軸受70A~70Dは、外輪70a及び内輪70bと、外輪70a及び内輪70bを転動する転動体70cと、を備える。外輪70a及び内輪70bには転動体70cが転動する転動面70dが設けられる。ここでは、説明の便宜から、主軸受70Bの転動面70dのみ符号を付す。いずれの軸受70A~70Dも、専用の外輪70aを備えてもよいし、転動体70cの外周側に配置される外側部材が外輪70aを兼ねていてもよい。ここでは全ての軸受70A~70Dが専用の外輪70aを備える例を示す。同様に、いずれの軸受70A~70Dも、専用の内輪70bを備えてもよいし、転動体70cの内周側に配置される内側部材が内輪70bを兼ねていてもよい。ここでは、起振体軸受70A以外の軸受70B~70Dが専用の内輪70bを備え、起振体軸受70Aの内輪70bは内側部材(ここでは起振体32a)により兼ねられる例を示す。本実施形態の起振体軸受70Aは、二つの外輪70a及び転動体70cを備える複列軸受である。起振体軸受70Aは、複数の転動体70cの位置を保持するリテーナ70eを備える。
【0033】
歯車装置10は、自身の運転時に、互いに相対回転する複数の相対回転体72A~72Cを備える。本実施形態において、複数の相対回転体72A~72Cは、ケーシング38を含む第1相対回転体72Aと、反入力側カバー40Bを含む第2相対回転体72Bと、起振体軸32を含む第3相対回転体72Cとからなる。第1相対回転体72Aは、ケーシング38の他に、主軸受70Bの外輪70aと、変速用内歯歯車36Aと、入力側カバー40Aと、入力側入力軸受70Cの外輪70aとを含む。第2相対回転体72Bは、反入力側カバー40Bの他に、反変速用内歯歯車36Aと、主軸受70Bの内輪70bと、反入力側入力軸受70Dの外輪70aとを含む。第3相対回転体72Cは、起振体32aの他に、反入力側入力軸受70Dの内輪70bと、入力側入力軸受70Cの内輪70bとを含む。各相対回転体72A~72Cそれぞれの構成部材は一体化されている。
【0034】
歯車装置10は、歯車装置10の内部空間74に収容されるグリス76を備える。グリス76は、第1歯車60と第2歯車62の噛合部78が存在する歯車装置10の内部空間74に収容される。この内部空間74には、歯車60、62の噛合部78の他に、歯車装置10の軸受70A~70Dの転動体転動箇所(転動体70c及び転動面70d)が存在している。グリス76は、第1歯車60と第2歯車62の歯面の他に、軸受70A~70Dの転動体転動箇所(転動体70c及び転動面70d)に塗布される。
図3ではグリス76の主な塗布箇所となる歯車60、62の歯面及び転動体70cにハッチングを付す。
【0035】
歯車装置10は、歯車装置10の外部にある外部空間80に内部空間74を通じさせる少なくとも一つの隙間部82A~82Cを備える。隙間部82A~82Cは、歯車装置10の内部空間74において最も外部空間80に近い箇所に設けられる。隙間部82A~82Cは、隙間部82A~82Cの実際のシール部材の有無によらず、隙間部82A~82Cがシール部材によりシールされていないと仮定した場合に、外部空間80に対して内部空間74を連通させる。本実施形態では、後述のように隙間部82A~82Cにシール部材が設けられていない。
【0036】
隙間部82A~82Cは、互いに相対回転する一対の相対回転体72A~72Cの間に形成される。本実施形態の隙間部82A~82Cは、第1相対回転速度で相対回転する一対の相対回転体72A、72Bの間に形成される低速側隙間部82Aと、第1相対回転速度よりも速い第2相対回転速度で相対回転する一対の相対回転体72A~72Cの間に形成される高速側隙間部82B、82Cとを含む。本実施形態の低速側隙間部82Aは、第1相対回転体72Aと第2相対回転体72Bとの間に形成される。本実施形態の高速側隙間部82B、82Cは、第2相対回転体72Bと第3相対回転体72Cとの間に形成される第1高速側隙間部82Bと、第1相対回転体72Aと第3相対回転体72Cとの間に形成される第2高速側隙間部82Cとを含む。なお、第2相対回転体72B及び第3相対回転体72Cの第2相対回転速度と、第1相対回転体72A及び第3相対回転体72Cの第2相対回転速度との間には僅かな違いがある。しかしながら、これらの第2相対回転速度は、第1相対回転体72A及び第2相対回転体72Bの第1相対回転速度と比べると非常に速くなる。
【0037】
単数の相対回転体72A~72Cの径方向内側に形成される空間で、かつ、他の相対回転体72A~72Cとの間で軸方向に挾まれた位置にない空間は、内部空間74の一部となる隙間部82A~82Cに該当せず、外部空間80の一部として取り扱う。この条件を満たす空間とは、例えば、第3相対回転体72Cを構成する起振体32aのホロー部32c内に形成される空間の他、第2相対回転体72Bを構成する反入力側カバー40Bにおいて第1高速側隙間部82Bよりも径方向内側に設けられる空間84をいう。
【0038】
本実施形態において、低速側隙間部82A(の内部空間側には)には、第1相対回転体72Aと第2相対回転体72Bの間隔を保持したまま相対回転を許容する主軸受70B(低速側軸受)が設けられる。また、第1高速側隙間部82B(の内部空間側には)には、第2相対回転体72Bと第3相対回転体72Cの間隔を保持したまま相対回転を許容する反入力側入力軸受70D(第1高速側軸受)が設けられる。また、第2高速側隙間部82C(の内部空間側には)には、第1相対回転体72Aと第3相対回転体72Cの間隔を保持したまま相対回転を許容する入力側入力軸受70C(第2高速側軸受)が設けられる。つまり、隙間部82A~82Cには、隙間部82A~82Cを形成する一対の相対回転体72A~72Cの間隔を保持したまま相対回転を許容する軸受70B~70Dが設けられる。
【0039】
ケーシング38(第1相対回転体72Aの一部)には径方向内側に突き出るとともに低速側隙間部82Aを構成する第1突出部86Aが設けられる。反入力側カバー40B(第2相対回転体72Bの一部)には径方向外側に突き出るとともに低速側隙間部82Aを構成する第2突出部86Bが設けられる。反入力側カバー40B(第2相対回転体72Bの一部)には径方向内側に突き出るとともに第1高速側隙間部82Bを構成する第3突出部86Cが設けられる。入力側カバー40A(第1相対回転体72Aの一部)には径方向内側に突き出るとともに第2高速側隙間部82Cを構成する第4突出部86Dが設けられる。
【0040】
隙間部82A~82Cには、隙間部82A~82Cにおいて最も軸方向寸法及び径方向寸法のいずれかが小さくなる最小隙間部分88が設けられる。ここでは最小隙間部分88にダブルハッチングを付す。低速側隙間部82Aの最小隙間部分88は、低速側隙間部82Aにおいて最も軸方向寸法が小さくなるケーシング38の第1突出部86Aと反入力側カバー40Bの第2突出部86Bとの間に軸方向に挟まれて設けられる。第1高速側隙間部82Bの最小隙間部分88は、第1高速側隙間部82Bにおいて最も軸方向寸法が小さくなる反入力側カバー40Bの第3突出部86Cと反入力側入力軸受70Dの内輪70bとの間に軸方向に挟まれて設けられる。第2高速側隙間部82Cの最小隙間部分88は、第2高速側隙間部82Cにおいて最も径方向寸法が小さくなる入力側カバー40Aの第4突出部86Dと起振体軸32の軸部32bとの間に径方向に挟まれて設けられる。いずれの隙間部82A~82Cの最小隙間部分88も、その隙間部82A~82Cを形成する一対の相対回転体72A~72Cの間隔を保持する軸受70B~70Dよりも外部空間80側に設けられる。例えば、低速側隙間部82Aの最小隙間部分88は、その最小隙間部分88を形成する第1相対回転体72A及び第2相対回転体72Bの間隔を保持する主軸受70Bよりも外部空間80側に設けられるということである。
【0041】
第1歯車60は、繊維強化樹脂により構成される樹脂歯車となる。これにより、第1歯車60の軽量化及び高強度化を図ることができる。この繊維強化樹脂は、ベース樹脂に強化繊維を含有させることで構成される。ベース樹脂は、例えば、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリアセタール(POM)等の各種汎用エンジニアリングチックを採用してもよい。この他にも、ベース樹脂は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)等の各種特殊エンジニアリングプラスチックを採用してもよい。強化繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ザイロン繊維、ボロン繊維等の各種強化繊維を採用してもよい。
【0042】
第2歯車62は金属系材料により構成される。ここでの金属系材料とは、金属を主材とする材料をいう。この金属系材料は、主材となる金属(合金含む)のみによって構成されてもよいし、主材となる金属と他部材との複合材料(繊維強化金属等)によって構成されてもよい。ここで用いられる金属は、例えば、鋳鉄、鉄鋼等の鉄系材料、アルミニウム、アルミニウム合金等のアルミニウム系材料をいう。このように第2歯車62を金属系材料により構成することで、第2歯車62を樹脂系材料により構成する場合と比べて第2歯車62を高強度化でき、歯車装置10の高寿命化を期待できる。また、噛合い部で発生する熱を熱伝導率の高い金属歯車を介して逃がすことができ、樹脂歯車やグリスの摩耗を抑制できる。
【0043】
歯車装置10の軸受70A~70Dは金属系材料により構成される。軸受70A~70Dは、例えば、金属系材料として、高炭素クロム軸受鋼等の鉄鋼材料により構成される。これを実現するうえで、軸受70A~70Dは、外輪70a、内輪70b及び転動体70c、リテーナ70eのそれぞれが金属系材料により構成される。
【0044】
なお、歯車装置10の起振体32a、規制部材42、連結部材B1~B3等は金属系材料により構成される。また、歯車装置10のケーシング38、反入力側カバー40B、入力側カバー40A等は樹脂系材料により構成される。ここでの樹脂系材料は、樹脂を主材とする材料をいう。この樹脂系材料は、主材となる樹脂のみによって構成されてもよいし、主材となるベース樹脂と他部材との複合材料によって構成されてもよい。ここでの複合材料は、例えば、前述した繊維強化樹脂の他に、布ベーク、紙ベーク等をいう。
【0045】
本実施形態の歯車装置10は、前述のように、第1歯車60及び第2歯車62からなる歯車対のうちの少なくとも第1歯車60を繊維強化樹脂製の樹脂歯車とし、少なくとも微量のグリス76を収容しつつ、技術常識よりもかなり少ないグリスの収容量にすることを特徴としている。これを実現するうえで、本実施形態において、グリス76の収容量(体積)[ml]は、内部空間74の一部により構成されグリス76を収容するグリス収容空間90の容積(体積)[ml]の1%以上30%以下であることを条件としている。
【0046】
ここでの「グリス収容空間90」とは、外部空間80に内部空間74を通じさせる隙間部82A~82Cの所定箇所を塞いだ状態にあるときに、その塞いだ箇所よりも内側にある内部空間74の一部をいう。ここでの「内部空間74の一部」とは、グリス76が滞在可能な部分であり、その塞いだ箇所よりも内側にある内部空間74のうち、各歯車60、62や軸受70A~70D等の内部空間74に存在する部材の占有領域を除いた空間をいう。ここでは、グリス収容空間90にハッチングを付して示す。ここでの「所定箇所」とは、オイルシール、シール軸受等のシール部材が隙間部82A~82Cに設けられる場合、そのシール部材の配置箇所をいい、そのシール部材よりも内部空間74の内側がグリス収容空間90となる。これに対して、「所定箇所」は、シール部材が隙間部82A~82Cに設けられない場合、隙間部82A~82Cの最小隙間部分88をいい、その最小隙間部分88よりも内部空間74の内側がグリス収容空間90となる。このグリス収容空間90の容積は、隙間部82A~82Cの所定箇所を塞いだ状態にあるときに、その塞いだ箇所よりも内側にある内部空間74に封入できる液体の体積により特定してもよい。
【0047】
このグリス76の収容量の上限値(30%)は、技術常識の通常の数値範囲(40~50%以上)と比べてかなり少ないことを表現し、かつ、その目安となる望ましい数値範囲を規定するためのものである。この上限値そのものには格別な技術的意義(臨界的意義)は存在しない。後述するように、グリス76の収容量をグリス収容空間90の容積の30%以下とすることで、技術常識の通常の数値範囲(40~50%以上)にする場合と比べ、歯車装置10のグリス漏れを防止できるようになり、それにより食品グリス以外のグリス76を使用できるようになる。特に、歯車装置10内にグリス76を封入するシール部材を使用せずともグリス漏れを防止できるようになる。
【0048】
グリス76の収容量の下限値(1%)は、グリス76を全く使用しない場合と比べて、少なくとも微量のグリスを収容していることを表現し、かつ、その目安となる望ましい数値範囲を規定するためのものである。この下限値には格別な技術的意義(臨界的意義)は存在しない。後述するように、グリス76の収容量をグリス収容空間90の容積の1%以上とすることで、グリス76を全く使用しない場合と比べ、繊維摩耗の防止により歯車装置の高寿命化を期待できるようになる。
【0049】
なお、グリス76の収容量は、好ましくはグリス収容空間90の容積の3%以上20%以下、より好ましくは3%以上15%以下、一層好ましくは4%以上10%以下である。
【0050】
グリス76は、食品グリスに該当しないグリス(以下、非食品グリスという)である。ここでの食品グリスとは、食品機械用潤滑剤の規格において、食品に接触する箇所に使用できる潤滑剤として公的機関に認定されたものをいう。この食品機械用潤滑剤の規格は、例えば、NSF(National Sanitation Foundation)の規格であるNSF H1、NSF 3Hをいうが、これに準じた基準を要求する他の規格であってもよい。NSF H1、NSF 3Hの場合、食品グリスは、これら規格に要求される基準を満たす潤滑剤としてNSFに登録されたものともいえる。
【0051】
食品グリスは、ベビーオイル、ホワイトオイル等をベースオイルとして含有しており、鉱物油を含有していない。これに対して、食品グリス以外の一般的なグリスは、通常、このような鉱物油をベースオイルとして含有している。非食品グリスは、このような鉱物油をベースオイルとして含有するものとして捉えてもよい。非食品グリスは、添加剤として、一般的なグリスに用いられる成分である鉛、アンモニア、カドミウム、ニッケルのいずれかの成分を含有していてもよい。
【0052】
グリス76は、シール部材を用いない場合、グリス漏れを確実に防ぐ観点から、ある程度の硬さを持つことが好ましい。この観点から、グリス76のちょう度番号は、好ましくは1号~6号を採用するとよく、より好ましくは1号~2号を採用するとよい。ここでのちょう度番号とは、JIS K2220に規定されるグリスを混和ちょう度の範囲によって分類した番号をいう。シール部材を用いる場合、グリス76のちょう度番号は000号~0号を採用してもよい。
【0053】
歯車装置10において構成部品間の摩耗を防止するためにグリス76を塗布すべき箇所は、歯車対の噛合部78、軸受70A~70Dの転動体転動箇所(転動体70c及び転動面70d)の二つとなる。このうち、軸受70A~70Dの転動体転動箇所は、歯車対の噛合部78と比べて、その寿命を確保するうえで必要なグリス量が大幅に少ない。このため、歯車装置10に使用される軸受70A~70Dの個数が、通常使用される個数の範囲(例えば、2個以上~6個以下)内であれば、少なくとも微量のグリス(グリス収容空間90の容積の1%以上)を収容することで歯車装置10の寿命の確保に十分となる。
【0054】
軸受70A~70Dの転動体70c及び転動面70dの表面粗さR1は、第1歯車60及び第2歯車62の噛合部78を構成する歯面における表面粗さR2よりも小さくなる。本実施形態において、この条件は全ての軸受70A~70Dにおいて満たされるが、少なくとも一つの軸受70A~70Dにおいてのみ満たされていてもよい。これにより、軸受70A~70Dの表面粗さR1を各歯車60、62の表面粗さR2よりも大きくする場合と比べ、軸受70A~70Dに要求される寿命の確保に必要なグリス量を削減できる。この軸受70A~70Dの寿命の確保に必要なグリス量は、もともと少ないものの、それを一層削減できることになる。ひいては、歯車装置10に収容されるグリスの収容量の削減を期待できる。
【0055】
本実施形態において、歯車装置10の隙間部82A~82Cはシール部材によりシールされていない。ここでのシール部材とは、グリス収容空間90から外部空間80へのグリス76の流出を阻止するためのものをいう。この条件は、本実施形態において、複数の隙間部82A~82Cのそれぞれにおいて満たされる。つまり、低速側隙間部82A、第1高速側隙間部82B及び第2高速側隙間部82Cのそれぞれにおいて満たされる。このように歯車装置10の隙間部82A~82Cにおいてシール部材を省略することで、歯車装置10の低コスト化を図ることができるとともに、シール部材の摺動による損失を削減できる。また、低速側隙間部82A及び高速側隙間部82B、82Cのそれぞれにおいてシール部材を省略することで、歯車装置10の更なる低コスト化・低損失化を図ることができる。
【0056】
以上の歯車装置10の効果を説明する。本実施形態の歯車装置10によれば、少なくとも微量のグリスを収容しつつ、技術常識の通常の数値範囲よりもかなり少ないグリスの収容量にしてグリス漏れを防止することで、食品グリスに替えて非食品グリスを用いることができるようにしている。これにより、樹脂を用いた単一材料により樹脂歯車を構成する場合と比べて歯車装置の高寿命化を図りつつ、次に説明するように、食品グリスを使用する場合よりも使用できるグリス76の種類の選択肢を大幅に広げることができるようになる。
【0057】
食品グリスは、非食品グリスと比べて使用できる成分の種類(ベースオイル、添加剤等)が大きく制限されており、使用温度範囲、寿命等の特性に劣る傾向がある。この点、食品グリスに替えて非食品グリスを採用することで、グリス76に使用できる成分の種類の選択肢を大幅に広げることができる。つまり、使用できるグリス76の種類の選択肢を大幅に広げることができる。また、要望する特性に応じた適切な成分のグリス76を選択することで、その特性に関する容易な高性能化を期待でき、歯車装置10の高性能化・高寿命化も期待できる。また、食品グリスは、通常、非食品グリスと比べて非常に高コストである。食品グリスに替えて非食品グリスを採用することで、使用できるグリス76の選択肢を広げることができるため、安価な非食品グリスを選択することで容易な低コスト化を期待できる。
【0058】
次に、本実施形態の歯車装置10の効果を確認するために行った試験を説明する。本実施形態の歯車装置10は、このように少なくとも微量のグリス(1%以上)を収容しつつ、実際のグリス収容量を技術常識よりもかなり少なくする(30%以下)ことで、歯車装置10の寿命を確保しつつ、食品グリス以外のグリス76を使用できるようになるという技術常識に反する着想自体に新規な特徴がある。このため、前述の通り、グリスの収容量をグリス収容空間90の容積の1%以上30%以下にする数値範囲そのものに臨界的意義は存在しないものの、その効果を確認するための試験を行った。この試験では、
図2に記載の歯車装置10を用いて、グリス76の収容量をグリス収容空間90の容積の5.4%とした。また、この試験では、正回転方向の負荷と逆回転方向の負荷を出力部材52に繰り返し付与した。この負荷は、食品機械12に組み込まれる歯車装置10に付与される平均的な大きさの負荷とした。この結果、食品機械12に組み込まれる歯車装置10に要求される寿命を満足し、シール部材がなくともグリス漏れが生じないことを確認した。
【0059】
また、この試験結果に基づいて、負荷及び使用条件を様々に変更した条件のもとでシミュレーションを行った。ここでの使用条件とは、試験対象となる歯車装置10の使用される多関節ロボットの関節部16-A~16-Eの位置(段数)、多関節ロボット14における歯車装置10の姿勢等をいう。この結果、グリスの収容量がグリス収容空間の容積の1%でも、食品機械12に組み込まれる歯車装置10に要求される寿命を満足するシチュエーションがあることが分かった。また、グリスの収容量がグリス収容空間の容積の30%でも、歯車装置10のグリス漏れが生じないシチュエーションがあることが分かった。さらに、より汎用的に様々な用途に対応可能とするためには、グリス76の収容量は、グリス収容空間90の容積の3%以上20%以下が好ましく、3%以上15%以下がより好ましく、4%以上10%以下がより一層好ましいことが分かった。
【0060】
(第2実施形態)
図4を参照する。以下、第1実施形態で説明した構成要素のうち、以下において説明していない構成要素は、以降の実施形態において第1実施形態と同じ内容が適用される。本実施形態の歯車装置10は、第1実施形態の歯車装置10と比べて、主軸受70B、入力軸受70C、70Dの構成において相違する。低速側隙間部82Aに設けられる主軸受70Bはシール軸受である。高速側隙間部82B、82Cに設けられる入力軸受70C、70Dも同様にシール軸受である。ここでは両者に共通する構成に関して、主軸受70Bを例に説明する。
【0061】
主軸受70Bを構成するシール軸受は、外輪70a、内輪70b、転動体70cの他に、外輪70a及び内輪70bの間に配置されるシール材70fを備える。シール材70fは、グリス収容空間90から外部空間80へのグリスの流出を阻止するためのものである。このように隙間部82A~82Cにおいてシール軸受を配置することで、グリス収容空間90内に収容されるグリスの漏れをより確実に防止できるようになる。このような観点から、本実施形態のように複数の隙間部82A~82Cのそれぞれにシール軸受を配置してもよいし、複数の隙間部82A~82Cのうちの少なくとも一つの隙間部82A~82Cにシール軸受を配置してもよい。
【0062】
このように歯車装置10の隙間部82A~82Cは、シール部材によりシールされていてもよい。このシール部材の具体例は特に限定されないものの、例えば、シール軸受の他にも、オイルシール等により構成されてもよい。また、複数の隙間部82A~82Cの一部がシール部材によりシールされる場合、低速側隙間部82A及び高速側隙間部82B、82Cのいずれか一方のみがシール部材によりシールされていてもよい。この他にも、複数の高速側隙間部82B、82Cのうちの一つと低速側隙間部82Aが個別のシール部材によりシールされていてもよい。
【0063】
なお、本実施形態のグリス収容空間90は、前述の定義に従い、隙間部82A~82Cに設けられるシール部材となるシール軸受よりも内部空間74の内側に設けられる。
【0064】
次に、ここまで説明した各構成要素の変形形態を説明する。
【0065】
歯車装置10に用いられる歯車機構の具体的な種類は特に限定されない。歯車機構は、撓み噛合い型歯車機構の他に、単純遊星歯車機構、偏心揺動型歯車機構、平行軸歯車機構、直交軸歯車機構等でもよい。撓み噛合い型歯車機構の場合、その具体的な種類は特に限定されず、筒型の他、カップ型、シルクハット型でもよい。起振体により撓み変形する撓み歯車は、外歯歯車に替えて内歯歯車としてもよい。偏心揺動型歯車機構の場合、その具体的な種類は特に限定されない。この種類として、出力部材の回転中心にクランク軸が配置されるセンタークランクタイプの他に、出力部材の回転中心からオフセットした位置にクランク軸が配置される振り分けタイプでもよい。
【0066】
第1歯車60、第2歯車62の組み合わせの具体例は特に限定されない。樹脂歯車となる第1歯車60は内歯歯車であり、第2歯車62は外歯歯車である例を説明したが、第1歯車60を外歯歯車とし、第2歯車62を内歯歯車としてもよい。この他にも、第1歯車60、第2歯車62の組み合わせは、一対の傘歯車、ラック及びピニオン、ねじ歯車及びはす歯歯車等としてもよい。
【0067】
歯車装置10の構成部材の素材は第1歯車60が繊維強化樹脂であればよく、他の構成部材の素材は特に限定されない。第2歯車62は、金属系材料に替えて、繊維強化樹脂等の樹脂系材料により構成してもよい。歯車装置10の他の構成部材(例えば、主軸受70B、起振体32a等)に関しても、金属系材料及び樹脂系材料のいずれにより構成してもよい。
【0068】
軸受70A~70Dの転動体70c及び転動面70dの表面粗さR1は、第1歯車60及び第2歯車62の歯面における表面粗さR2以上としてもよい。
【0069】
以上の実施形態及び変形形態は例示である。これらを抽象化した技術的思想は、実施形態及び変形形態の内容に限定的に解釈されるべきではない。実施形態及び変形形態の内容は、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態」との表記を付して強調している。しかしながら、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。
【符号の説明】
【0070】
10…歯車装置、12…食品機械、60…第1歯車、62…第2歯車、70A~70D…軸受、70c…転動体、70d…転動面、72A~72C…相対回転体、74…内部空間、76…グリス、78…噛合部、80…外部空間、82A…低速側隙間部、82B、82C…高速側隙間部、90…グリス収容空間。