(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064439
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】電波散乱装置
(51)【国際特許分類】
H01Q 15/14 20060101AFI20240507BHJP
H04B 7/145 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
H01Q15/14 Z
H04B7/145
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173025
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000232287
【氏名又は名称】日本電業工作株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149113
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 謹矢
(72)【発明者】
【氏名】丸山 央
(72)【発明者】
【氏名】陸田 裕子
(72)【発明者】
【氏名】萩原 弘樹
【テーマコード(参考)】
5J020
5K072
【Fターム(参考)】
5J020AA03
5J020BA01
5J020BC04
5J020CA01
5J020CA03
5J020DA03
5J020DA04
5K072AA29
5K072BB02
5K072GG01
(57)【要約】
【課題】メタサーフェス反射板におけるFSS(Frequency Selective Surfaces:周波数選択性表面)機能を有する層と誘電体層とを貼り合わせずに密着させることが可能な電波散乱装置を提供する。
【解決手段】誘電体により構成される基材6と、この基材6の一面側に設けられ、接地電極を含む接地電極ユニット5と、基材6の他面側に、固定されずに設けられ、表面電極が配列された1または複数の表面電極ユニットと、この表面電極ユニットを覆い、表面電極ユニットを押さえる第1状態と、表面電極ユニットを押さえる圧力が抑制された第2状態とを有する押さえ部材200と、を備える。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体により構成される基板と、
前記基板の一面側に設けられ、接地電極を含む接地電極ユニットと、
前記基板の他面側に、固定されずに設けられ、表面電極が配列された1または複数の表面電極ユニットと、
前記表面電極ユニットを覆い、当該表面電極ユニットを押さえる第1状態と、当該表面電極ユニットを押さえる圧力が抑制された第2状態とを有する押さえ部材と、
を備えることを特徴とする、電波散乱装置。
【請求項2】
前記押さえ部材は、
前記表面電極ユニットを覆うシート部材と、
前記シート部材を保持し、前記第1状態では当該シート部材を前記表面電極ユニットに押し付け、前記第2状態では当該シート部材を当該表面電極ユニットに押し付ける力を抑制する留め具と、
を備えることを特徴とする、請求項1に記載の電波散乱装置。
【請求項3】
前記留め具は、前記シート部材を、当該シート部材の面に平行な方向に移動可能に保持することを特徴とする、請求項2に記載の電波散乱装置。
【請求項4】
前記留め具は、前記シート部材の辺が挿入される溝を有し、当該シート部材が当該溝に挿入される深さが調整可能であることを特徴とする、請求項2に記載の電波散乱装置。
【請求項5】
前記留め具は、
反射面の相対する2か所の端部にそれぞれ設けられて、前記シート部材の対抗する2辺を保持し、
前記2か所の端部に軸を平行にして配置された回転軸を介して前記表面電極ユニットに対する角度を変更可能であり、
前記押さえ部材は、
前記第1状態において、前記留め具の角度を、前記シート部材が前記表面電極ユニットに押し当てられる程度に深くし、
前記第2状態において、前記留め具の角度を、前記第1状態よりも浅くすることを特徴とする、請求項2乃至請求項4の何れかに記載の電波散乱装置。
【請求項6】
前記留め具は、
反射面の相対する2か所の端部にそれぞれ設けられて、前記シート部材の対抗する2辺を保持し、
前記表面電極ユニットに対する距離を変更可能であり、
前記押さえ部材は、
前記第1状態において、前記留め具の前記表面電極ユニットに対する距離を、前記シート部材が前記表面電極ユニットに押し当てられる程度に短くし、
前記第2状態において、前記留め具の前記表面電極ユニットに対する距離を、前記第1状態よりも長くすることを特徴とする、請求項2乃至請求項4の何れかに記載の電波散乱装置。
【請求項7】
前記留め具は、
反射面の相対する2か所の端部に、相互の位置関係を固定してそれぞれ設けられ、前記シート部材の対抗する2辺を保持し、
前記2か所の端部の一方に設けられた第1の留め具は、当該一方の端部に配置された回転軸を介して前記表面電極ユニットに対する角度を変えるように回転可能であり、
前記2か所の端部の他方に設けられた第2の留め具は、前記第1の留め具の回転に伴って前記反射面から離隔可能であり、
前記押さえ部材は、
前記第1状態において、前記第2の留め具を前記反射面の端部に位置させ、
前記第2状態において、前記第2の留め具を前記反射面から離隔させることを特徴とする、請求項2乃至請求項4の何れかに記載の電波散乱装置。
【請求項8】
前記シート部材は、外力を加えることによる曲げや変形が可能であり、透光性を有する部材であることを特徴とする、請求項2に記載の電波散乱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波散乱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
準ミリ波帯やミリ波帯の電波のように波長が短くなると、電波の直進性が強くなる。このため、ビルなどの電波の透過に対して障壁となる障壁物があると、障壁物で遮られた部分は、電波が届きにくい不感地帯になる。不感地帯の解消には、入射した電波を散乱して電波を不感地帯に照射する電波散乱装置を用いることが有効である。電波散乱装置の一例として、メタサーフェス反射板を用いたものがある。
【0003】
メタサーフェス反射板は、接地電極を含む全面導電膜である第1層と、放射素子であるが配列されてFSS(Frequency Selective Surfaces:周波数選択性表面)機能を有する第2層とを有し、これら第1層と第2層との間に誘電体層を挟んだ構成である。そして、メタサーフェス反射板は、放射素子の形状、誘電体層の誘電率、誘電体層の厚さ(言い換えれば、第1層と第2層の間の距離)等の要素によって、電波の散乱角度が変わる。
【0004】
特許文献1には、メタサーフェス基板と、メタサーフェス基板に対向して配置される誘電体基板と、メタサーフェス基板と誘電体基板との間の距離を調整する調整部と、を有する電波散乱装置が開示されている。また、特許文献1には、誘電体基板を、メタサーフェス基板に対して傾けた状態とすることにより反射波を偏向させることについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
メタサーフェス反射板では、第1層と第2層の間の距離によっても電波の散乱角度が変わることから、第1層と誘電体層、第2層と誘電体層がそれぞれ密着していることが望ましい。そこで、第1層と誘電体層、第2層と誘電体層をそれぞれ貼り合わせて固定することが考えられる。一方、電波散乱装置の散乱角を動的に変更したい場合等、誘電体層に対して第2層を固定できない場合がある。このような場合、第2層と誘電体層とを貼り合わせることなく密着させる手段が求められる。
【0007】
本発明は、メタサーフェス反射板における第2層と誘電体層とを貼り合わせずに密着させることが可能な電波散乱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成する本発明は、誘電体により構成される基板と、この基板の一面側に設けられ、接地電極を含む接地電極ユニットと、基板の他面側に、固定されずに設けられ、表面電極が配列された1または複数の表面電極ユニットと、この表面電極ユニットを覆い、表面電極ユニットを押さえる第1状態と、表面電極ユニットを押さえる圧力が抑制された第2状態とを有する押さえ部材と、を備えることを特徴とする、電波散乱装置である。
より詳細には、この電波散乱装置において、押さえ部材は、表面電極ユニットを覆うシート部材と、このシート部材を保持し、第1状態ではシート部材を表面電極ユニットに押し付け、第2状態ではシート部材を表面電極ユニットに押し付ける力を抑制する留め具と、を備える構成としても良い。
また、この留め具は、シート部材を、シート部材の面に平行な方向に移動可能に保持する構成としても良い。
また、この留め具は、シート部材の辺が挿入される溝を有し、シート部材がこの溝に挿入される深さが調整可能な構成としても良い。
また、この電波散乱装置において、留め具は、反射面の相対する2か所の端部にそれぞれ設けられて、シート部材の対抗する2辺を保持し、この2か所の端部に軸を平行にして配置された回転軸を介して表面電極ユニットに対する角度を変更可能であり、押さえ部材は、第1状態において、留め具の角度を、シート部材が表面電極ユニットに押し当てられる程度に深くし、第2状態において、留め具の角度を、第1状態よりも浅くする構成としても良い。
また、この電波散乱装置において、留め具は、反射面の相対する2か所の端部にそれぞれ設けられて、シート部材の対抗する2辺を保持し、表面電極ユニットに対する距離を変更可能であり、押さえ部材は、第1状態において、留め具の表面電極ユニットに対する距離を、シート部材が表面電極ユニットに押し当てられる程度に短くし、第2状態において、留め具の表面電極ユニットに対する距離を、第1状態よりも長くする構成としても良い。
また、この電波散乱装置において、留め具は、反射面の相対する2か所の端部に、相互の位置関係を固定してそれぞれ設けられ、シート部材の対抗する2辺を保持し、この2か所の端部の一方に設けられた第1の留め具は、一方の端部に配置された回転軸を介して表面電極ユニットに対する角度を変えるように回転可能であり、この2か所の端部の他方に設けられた第2の留め具は、第1の留め具の回転に伴って反射面から離隔可能であり、押さえ部材は、第1状態において、第2の留め具を反射面の端部に位置させ、第2状態において、第2の留め具を前記反射面から離隔させる構成としても良い。
また、この電波散乱装置において、シート部材は、外力を加えることによる曲げや変形が可能であり、透光性を有する部材としても良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、メタサーフェス反射板における第2層と誘電体層とを貼り合わせずに密着させることが可能な電波散乱装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】電波散乱装置により不感地帯を解消する概念を説明する図であり、
図1(A)は、障壁物により生じる不感地帯を電波散乱装置により解消する様子を説明する図、
図1(B)は、電波散乱装置による散乱方向を説明する図である。
【
図2】電波散乱装置で散乱させた散乱ビームの一例を示す図であり、
図2(A)は、V(垂直)偏波を示す図、
図2(B)は、H(水平)偏波を示す図、
図2(C)は、
図2(A)、(B)の電波散乱装置を4倍の面積にした電波散乱装置でのV偏波を示す図である。
【
図3】第1の実施の形態が適用される電波散乱装置の概略構成を示す図であり、(A)は斜視図、(B)は断面図である。
【
図4】表面電極シートについて説明する図であり、(A)は表面電極シートの平面図、(B)は平面状の表面電極シートの断面図、(C)は筒状の表面電極シートの断面図である。
【
図5】表面電極ユニットについて説明する図であり、(A)は表面電極ユニットの平面図、(B)はセルの平面図、(C)はセルのパラメータとその値を示す表である。
【
図6】散乱角θを設定する方法を説明する図である。
【
図7】本実施形態による押さえ部材を備えた電波散乱装置の例を示す図であり、
図7(A)は斜視図、
図7(B)は断面図である。
【
図8】押さえシートを設けた状態の電波散乱装置の層構造を示す図である。
【
図9】押さえ部材の動作を示す図であり、
図9(A)は解放状態を示す図、
図9(B)は押圧状態を示す図である。
【
図10】押さえ部材の留め具の動作を示す図であり、
図10(A)は解放状態における留め具を示す図、
図10(B)は押圧状態における留め具を示す図である。
【
図11】押さえ部材の他の構成例を示す図であり、
図11(A)は解放状態を示す図、
図11(B)は押圧状態を示す図である。
【
図12】押さえ部材の他の構成例を示す図であり、
図12(A)は解放状態を示す図、
図12(B)は押圧状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<電波散乱装置の概要>
図1は、電波散乱装置により不感地帯を解消する概念を説明する図である。
図1(A)は、障壁物により生じる不感地帯を電波散乱装置により解消する様子を説明する図、
図1(B)は、電波散乱装置による散乱方向を説明する図である。
【0012】
図1(A)に示すように、地表1上に3つのビル3(区別する場合は、ビル3a、3b、3c)が並列して設けられている場合を考える。ビル3aの屋上に電波を送受信する基地局アンテナ2が設けられている。
図1(A)では、基地局アンテナ2は、地表1に垂直に配置された複数のアンテナ(放射素子)で構成されたアレイアンテナとして図示されている。そして、ビル3cの屋上に電波散乱装置10(区別する場合には、電波散乱装置10a、10b、10c)が設けられている。電波散乱装置10は、基地局アンテナ2が見通せる位置に設けられている。つまり、基地局アンテナ2が、準ミリ波帯やミリ波帯のように波長が短い電波を送受信する場合であっても、基地局アンテナ2からの電波は、直接電波散乱装置10に入射する。
【0013】
まず、ビル3cの屋上に電波散乱装置10が設けられていないとする。基地局アンテナ2が、準ミリ波帯やミリ波帯のように波長が短い電波を送受信する場合、ビル3bが電波の透過に対する障壁物となる。このため、基地局アンテナ2から送信された電波は、直接には、ビル3bとビル3cとの間の地表1上に届かない。つまり、ビル3bとビル3cとの間の地表1の部分は、不感地帯となる。
【0014】
ここで、
図1(A)のようにビル3cの屋上に電波散乱装置10を設けると、基地局アンテナ2からの電波は、電波散乱装置10により散乱され、散乱ビームがビル3bとビル3cとの間の不感地帯に照射される。電波散乱装置10を設けることで、電波散乱装置10が設けられない場合に発生するビル3bとビル3cとの間の不感地帯が解消される。
【0015】
図1(B)では、基地局アンテナ2は、放射素子がマトリクス状に配列されたアレイアンテナとして示されている。ここでは、基地局アンテナ2と携帯端末4との間で電波を送受信する。
図1(B)に示すように、基地局アンテナ2と携帯端末4との間には、電波の透過に対して障壁となるビル3が存在する。このため、基地局アンテナ2から携帯端末4の方向に直線的に入射するように進む入射ビーム11aは、ビル3が障壁物となって、携帯端末4に届かない(図では、届かないことをバツ印「×」で示している)。
【0016】
一方、基地局アンテナ2から入射する入射ビーム11bが電波散乱装置10で散乱されると、散乱によって生成された散乱ビーム12aが携帯端末4に届く。ここでは、電波散乱装置10には入射ビーム11bが入射角αで入射し、入射角αと異なる散乱角θで散乱ビーム12aが出射する(α≠θ)。なお、電波散乱装置10が鏡面反射する場合には、散乱ビーム12bは、散乱角αで出射する。
図1(B)に示す例において、電波散乱装置10が鏡面反射すると、図中の破線の矢印で示す方向に散乱ビーム12bが生じる。このため、電波は、携帯端末4に届かない。このように、電波散乱装置10が入射角αと異なる散乱角θで電波を散乱するように設定すると、電波散乱装置10の設計が容易になる。
【0017】
本明細書では、電波を散乱させて出射することから、電波散乱装置と表記するが、電波を反射させて出射するとして、電波反射装置としても良い。また、電波散乱装置により散乱されることから散乱ビームと表記するが、反射ビームとしても良い。また、電波散乱装置の垂線方向に対する散乱ビームが出射する角度を散乱角、又は散乱角度と表記するが、反射角、又は反射角度としても良い。
【0018】
図2は、電波散乱装置10で散乱させた散乱ビーム12の一例を示す図である。
図2(A)は、V(垂直)偏波を示す図、
図2(B)は、H(水平)偏波を示す図、
図2(C)は、
図2(A)、(B)の電波散乱装置10を4倍の面積にした電波散乱装置10′でのV偏波を示す図である。なお、
図2(A)、(B)、(C)では、紙面の上側に斜視図を示し、紙面の下側に散乱ビーム12の強度を極座標で示す。斜視図において、図示するようにx方向、y方向およびz方向を設定する。極座標において、紙面に対して、右方向が-x方向、左方向が+x方向、上方向が+z方向である。なお、散乱ビームの強度は、シミュレーションによって求めた。
【0019】
ここでは、電波散乱装置10は、平面形状が長手方向と短手方向とを有する四角形であって、後述するセル#がマトリクス状に配列されたメタサーフェスである。ここで、四角形の長手方向をx方向とし、短手方向をy方向とし、四角形の面に垂直な方向をz方向とする。そして、z軸からx軸に向かう角度をη、z軸からy軸に向かう角度をζとする。ここでは、電波散乱装置10に入射する入射ビーム(
図1(B)における入射ビーム11bに相当)は、角度ηを0度、角度ζを20度に設定されている。つまり、入射ビームは、yz面にあって、z軸からy軸側に20度傾いている。一方、散乱ビーム12は、角度ηを45度、角度ζを0度に設定されている。つまり、散乱ビーム12は、xz面において、z軸からx軸側に45度傾いている。また、電波は、28GHzである。なお、V偏波は、y方向に電界が振動する偏波であり、H偏波は、x方向に電界が振動する偏波である。
【0020】
図2(A)に示すように、V偏波は、xz面において45度(角度η=45度、角度ζ=0度)方向に散乱ビーム12が発生している。そして、散乱ビーム幅は、8度である。同様に、
図2(B)に示すように、H偏波は、xz面において45度(角度η=45度、角度ζ=0度)方向に散乱ビーム12が発生している。そして、散乱ビーム幅は、8度である。つまり、電波散乱装置10は、V偏波とH偏波とに対して同様な散乱特性を有している。ここでの散乱ビーム幅は、-3dBにおける幅である。
【0021】
図2(C)に示す電波散乱装置10′は、
図2(A)、(B)に示した電波散乱装置10を4個配列して構成されている。つまり、面積が4倍となっている。なお、電波散乱装置10′を構成する4個の電波散乱装置10間においては、後述する位相の補正を行っていない。
図2(C)に示す電波散乱装置10′では、散乱ビーム12′におけるV偏波のピーク強度は、
図2(A)に示した電波散乱装置10の散乱ビーム12のピーク強度より大きい。しかし、散乱ビーム12′の散乱ビーム幅は、4度であって、
図2(A)に示した電波散乱装置10の散乱ビーム12の散乱ビーム幅(8度)に比べ狭くなっている。つまり、電波散乱装置10の面積を大きくすると、散乱ビーム幅は逆に狭くなる。
【0022】
以上説明したように、電波散乱装置10は、電波散乱装置10′のように面積を広げても、散乱ビーム幅は広くならない。よって、より広く不感地帯を解消するには、
図1(A)に示したように、散乱ビーム幅が狭くならない間隔で複数の電波散乱装置10を配置することが望ましい。
【0023】
<電波散乱装置の例>
図3~6を用いて、本実施形態の適用対象となる電波散乱装置10の構成例について説明する。
図3は、電波散乱装置10の概略構成を示す図であり、
図3(A)は斜視図、
図3(B)は断面図である。
図3(A)において、図示の矢印のようにx方向、y方向、z方向を設定する。なお、これらの3方向は相互に直交し、各矢印の向きが正(+)の方向である。
図3(B)には、
図3(A)で設定されたx方向、y方向、z方向に対応させた3方向を表す矢印が示されている。
図4は、表面電極シート100について説明する図であり、
図4(A)は表面電極シート100の平面図、
図4(B)は平面状の表面電極シート100Fの断面図、
図4(C)は筒状の表面電極シート100Rの断面図である。
図4(A)乃至
図4(C)の各々には、
図3(A)で設定されたx方向、y方向、z方向に対応させた3方向を表す矢印が示されている。
図5は、表面電極ユニット121について説明する図であり、
図5(A)は表面電極ユニット121の平面図、
図5(B)はセル#の平面図、
図5(C)はセル#のパラメータとその値を示す表である。
図5(A)および
図5(B)には、
図3(A)で設定されたx方向、y方向、z方向に対応させた3方向を表す矢印が示されている。
図6は、散乱角θを設定する方法を説明する図である。
図6に示すx方向(図の横方向)およびz方向(図の縦方向)は、
図3乃至
図5において矢印で示したx方向およびz方向に対応する。
図6では、マトリクス状に並ぶセル#の配列における1列分(x方向)のセル#を示している。
【0024】
図3(A)、(B)に示すように、電波散乱装置10は、基材6と、接地電極ユニット5と、表面電極シート100と、軸部材7(7a、7b)と、保持部材8(8a、8b)とを備える。
【0025】
基材6は、誘電体により構成される基材であって、例えば比誘電率εrが3.3、厚さtが1.53mm(周波数2.45GHzの場合で0.012λ)の誘電体基板である。比誘電率εrおよび厚さtは、他の値であっても良い。
【0026】
接地電極ユニット5は、導電性材料により構成され、接地電極として機能するユニットである。接地電極は、接地電位(GND)に設定されている。接地電極ユニット5は、基材6の片面(
図3(A)における-z方向側の面)に設けられている。接地電極ユニット5は、例えば、両面テープ等の接着剤を用いて基材6の面に固定しても良い。なお、ここでは、接地電極ユニット5の全体が接地電極として機能するものとして説明するが、接地電極ユニット5は接地電極を含んでいれば良く、少なくとも一部が接地電極として機能すれば良い。
【0027】
表面電極シート100は、導電膜により構成されるシート(フィルム)であるシート材110と、シート材110上に配置された表面電極ユニット121(後述)の纏まりであるユニット群120とを含んでいる。表面電極シート100は、基材6の接地電極ユニット5とは異なる側の片面(
図3(A)における+z方向側の面)に設けられる。表面電極シート100(シート材110)は、基材6に対して固定されていない。詳しくは後述するが、
図3乃至
図6に示す電波散乱装置10の構成例において、表面電極シート100は、基材6に対する位置を変更可能に設けられる。具体的には、表面電極シート100は、基材6の面に沿ってずれるように移動可能である。
【0028】
ここで、
図4(A)を参照して、表面電極シート100の詳細を説明する。上記のように、表面電極シート100には、複数の表面電極ユニット121が設けられている。表面電極ユニット121は、基材6を挟んで接地電極ユニット5と対向する位置(
図3(B)の位置100A)にあるときに、ユニットごとに予め定められた散乱角θにて入射ビームを散乱する。以下、表面電極ユニット121が基材6を挟んで接地電極ユニット5と対向し、入射ビームを散乱できる状態であることを、「散乱可能」と記載する場合がある。また、散乱可能な状態において入射ビームを散乱角θで散乱することを、「散乱角θを有する」と記載する場合がある。
【0029】
図4(A)に示す例では、表面電極シート100には、散乱角θ=5、15、25、35、45、55、65度の7種類の表面電極ユニット121が3個ずつ、合計21個設けられている。そして、同じ散乱角θを有する表面電極ユニット121の纏まりとして、散乱角θ=5、15、25、35、45、55、65度のユニット群120が1個ずつ存在する。なお、各散乱角θを有する表面電極ユニット121について区別が必要な場合は、散乱角θを用いて、表面電極ユニット121(θ)と表記する。例えば、散乱角θ=5度の場合、表面電極ユニット121(5deg)、ユニット群120(5deg)、散乱角θ=15度の場合、表面電極ユニット121(15deg)、ユニット群120(15deg)等と記載する。なお、各表面電極ユニット121の散乱角θの値は、例示したものに限定されない。また、表面電極ユニット121の種類は、図示の7種類より多くても良いし、少なくても良い。
【0030】
図4(A)に示す例では、表面電極ユニット121は、x方向およびy方向に沿って縦横に配列されている。より詳しくは、異なる散乱角θを有する7個の表面電極ユニット121がx方向に沿って配列され、同じ散乱角θを有する3個の表面電極ユニット121がy方向に沿って配列されている。また、正のx方向(
図4(B)の例では右方向)に向かうに従い、表面電極ユニット121の散乱角θが大きくなるように配列されている。具体的には、散乱角θ=5、15、25、35、45、55、65度の表面電極ユニット121がこの順で配列されている。なお、表面電極ユニット121の配列および個数は一例であり、限定されるものではない。同じ散乱角θを有する表面電極ユニット121の個数は、図示の3個より多くても良いし、少なくても良い。
【0031】
ここで、表面電極シート100は、柔軟性を有し、外力を加えることによる曲げや変形が可能なものとして構成されている。表面電極シート100は例えば、外力が加わっていない状態では、
図4(B)に示すような平面状となる。ここで、表面電極シート100が「平面状」であるとは、すべての表面電極ユニット121が同一の平面に位置する状態である。また例えば、表面電極シート100を変形させ、筒状とすることもできる。例えば、表面電極シート100のx方向一端側の辺と他端側の辺とを繋ぎ合わせることで、
図4(C)に示すような筒状となる。
図4(C)の例では、筒状の表面電極シート100において、表面電極ユニット121(5deg)と表面電極ユニット121(65deg)とが隣接することになる。以下の説明において、
図4(C)に示すように表面電極シート100のx方向の両端の辺を繋ぎ合わせて筒状とした状態を表面電極シート100R、筒状としていない状態を表面電極シート100Fとして区別する場合がある。
【0032】
図5を参照して、表面電極ユニット121についてより詳しく説明する。表面電極ユニット121には、少なくとも1つの表面電極102のセル#(
図5を用いて後述。以下、単に「セル#」と呼ぶ。)が配列されている。表面電極102は、放射素子である。そして、各表面電極ユニット121は、接地電極ユニット5と対向する場合に、セル#の形状および配列に基づいて定まる散乱角θにて入射ビームを散乱する。
【0033】
図5(A)に示す例において、表面電極ユニット121は、セル#をx方向にj個、y方向にi個備えている。i、jは、1以上の整数(自然数)である。つまり、セル#は、i×j個のセル#を備えている。各セル#を区別する場合には、セル#(i,j)(i,j=1、2、3、…)と表記する。なお、各表面電極ユニット121が備えるセル#の数は、同じであっても良く、異なっていても良い。ここでは、表面電極ユニット121が備えるセル#は、x方向にj個、y方向にi個としたが、x方向に配列されたセル#の数が行ごとに異なっても良く、y方向に配列されたセル#の数が列ごとに異なっても良い。
【0034】
図5(B)に示す例において、セル#は、平面形状が一辺長Dの正方形である。表面電極ユニット121において、セル#は、一辺長Dをピッチとしてx方向およびy方向に配列されている。以下では、セル#は、ピッチDで配列されているとして説明する。例えば、
図5(C)に示すように、周波数28GHzにおいて、一辺長D(ピッチD)は、5mmに設定されている。5mmは、周波数28GHzの波長λの0.467に対応する(0.467λ)。なお、一辺長D(ピッチD)の具体的な値は、周波数などに応じて設定されれば良く、他の値であっても良い。一例として、
図5に示す例では、Dの選択基準を、
D/λ<1/(1+sinθ) (1)
としている。ここで、θは散乱角度である。
【0035】
表面電極102である十字ダイポールは、全体の長さがl、十字部分の幅がwである。
図5(B)に示す例では、幅wは、1mm(周波数28GHzの場合で0.093λ)である。なお、長さlおよび幅wの具体的な値は、周波数などに応じて設定されれば良く、他の値であっても良い。十字ダイポールにおいて、長さlや幅wを変更することにより、散乱角に影響を及ぼす位相差φを制御することができる。以下の説明において、位相差を位相と表記することがある。
図5に示す例では、セル#の表面電極102を十字ダイポールであるとして説明したが、他の形状であっても良い。セル#の表面電極102の平面形状は、例えば、四角形、円形、リング状などの他の形状であっても良い。
【0036】
次に、
図6を参照して、表面電極ユニット121における散乱角θの設定について説明する。セル#(1,j)は、x方向にピッチDで配列されている。そして、セル#の配列に対して垂直方向から(-z方向に向かって)電波が入射し、xz面内において散乱ビーム22がz軸からx軸側に向かって角度θ傾いた方向に散乱されるとする。
図2(A)に示したz軸からx軸に向かう角度ηが角度θの場合に相当する。なお、散乱ビーム22の角度θを散乱角θと表記する。この場合、各セル#間の位相差がφになるように設定すれば良い。つまり、セル#(1,1)の位相が0、セル#(1,2)の位相が-φ、セル#(1,3)の位相が-2φ、セル#(1,4)の位相が-3φ、セル#(1,5)の位相が-4φ、セル#(1,j)の位相が-(j-1)φとなるようにすれば良い。
【0037】
散乱角θを得るために設定される各セル#間の位相差φは、
φ=k・D・sinθ (2)
で表される。なお、kは、波数で2π/λである。ここで、λは、波長である。つまり、隣接するセル#間において、式(2)で設定される位相差φが生じるようにセル#を設定する。
【0038】
なお、
図6では、x方向に配列されたセル#で説明したが、y方向に配列されたセル#に対しても同様にして位相差を設定することができる。また、x方向とy方向とでセル#間の位相差を設定すると、xz面以外の方向に散乱角θを設定できる。ここでは、セル#の配列に対して、垂直に電波が入射する場合を説明したが、セル#の配列に斜めに電波が入射する場合についても、同様な方法により位相差φを設定すれば良い。このように、予め設定された位相差でセル#を配列して散乱角θを設定した電波散乱装置10は、リフレクトアレイと呼ばれることがある。
【0039】
再び
図3(A)を参照して、第1の実施の形態が適用される電波散乱装置10は、同様の表面電極シート100R(
図4(C)参照)を備えている。より詳しくは、
図3(B)に示すように、筒状の表面電極シート100Rにおける内側に軸部材7(7a、7b)と、接地電極ユニット5および基材6とが位置している。
【0040】
軸部材7は、表面電極シート100Rを円周方向に回転させる。より具体的には、
図3(B)の例では、不図示のモータにより駆動されて回転する駆動軸7aと従動軸7bとを備え、軸部材7の回転力が伝達されることで表面電極シート100Rが円周方向に回転する。なお、この軸部材7の構成は一例であって、複数の駆動軸7aまたは複数の従動軸7bを備えていても良く、駆動軸7aのみを備えていても良い。つまり、軸部材7の構成は、表面電極シート100Rを円周方向に回転させ得るものであれば限定されない。
【0041】
ここで、軸部材7が回転し、表面電極シート100Rが円周方向に回転すると、接地電極ユニット5に含まれる接地電極と表面電極シート100上の表面電極ユニット121との位置関係が変化する。軸部材7は、接地電極と表面電極ユニット121との位置関係の調整を可能にする位置調整手段の一例である。
【0042】
保持部材8(8a、8b)は、表面電極シート100と、接地電極ユニット5と、基材6と、軸部材7とを保持する部材であって、表面電極シート100と軸部材7とを回転可能に保持する。
図3に示す例では、軸部材7の軸方向(y方向)の両端において、互いに対向する保持部材8a、8bが設けられている。保持部材8の構成は、
図3の例に限定されるものではなく、表面電極シート100と軸部材7とを回転可能に保持するものであれば良い。
【0043】
先述したように、表面電極ユニット121は、基材6を挟んで接地電極ユニット5と対向することにより、入射ビームを予め定められた散乱角θに散乱可能となる。したがって、
図3(B)の例では、破線で示す領域100Aに位置する表面電極ユニット121が散乱可能となる。本実施形態が適用される電波散乱装置10では、軸部材7により表面電極シート100を円周方向に回転させることで、領域100Aに位置する表面電極ユニット121を切り替えることができる。言い換えると、表面電極ユニット121と接地電極ユニット5との位置関係を調整することで、散乱可能な表面電極ユニット121を切り替えることができる。
【0044】
また、電波散乱装置10では、異なる散乱角θを有する複数の表面電極ユニット121が領域100Aに位置することになる。例えば、ユニット群120(5deg)、120(15deg)、120(25deg)が領域100Aに位置すると、表面電極ユニット121(5deg)、121(15deg)、121(25deg)のすべてが散乱可能となる。そして、軸部材7により表面電極シート100を円周方向に回転させることで、領域100Aに位置する表面電極ユニット121の組合せを切り替えることができる。言い換えると、表面電極ユニット121と接地電極ユニット5との位置関係を調整することで、散乱可能な表面電極ユニット121の組合せを切り替えることができる。より詳しくは、それぞれ異なる散乱角θを有する7種類の表面電極ユニット121を備え、異なる散乱角θを有する3種類の表面電極ユニット121を含むように、散乱可能とする表面電極ユニット121の組合せを切り替えることができる。なお、この構成は一例であって、異なる散乱角θを有する3以上の表面電極ユニット121を備え、異なる散乱角θを有する2以上の表面電極ユニット121を含むように、散乱可能とする表面電極ユニット121の組合せを切り替えることが可能であると良い。
【0045】
<押さえ部材>
図3乃至
図6を参照して説明した電波散乱装置10では、放射素子である表面電極102のセル#の形状および配列を用いて、散乱角θを制御する構成とした。ここで、散乱角は、セル#の形状および配列だけでなく、表面電極ユニット121(表面電極シート100)と接地電極ユニット5との間に挟まれる誘電体である基材6の誘電率や、表面電極ユニット121と接地電極ユニット5との間の距離にも影響を受ける。なお、表面電極ユニット121および接地電極ユニット5がそれぞれ基材6と密着する構成の場合、表面電極ユニット121と接地電極ユニット5との間の距離は、基材6の厚さに等しい。
【0046】
また、上記の電波散乱装置10は、異なる散乱角θを有する複数の表面電極ユニット121を配列した表面電極シート100を基材6に対して移動可能とした。そして、表面電極ユニット121と接地電極ユニット5との位置関係を調整することで、散乱角θを制御する構成とした。このため、上記の電波散乱装置10において、表面電極シート100は基材6に対して接着等による固定はされていない。そして、表面電極シート100が基材6から離隔すると、表面電極ユニット121と接地電極ユニット5との間の距離が変わるため、セル#の形状および配列による散乱角θの制御の想定とは異なる散乱角θの変化が生じてしまう。ここで、表面電極シート100が曲げや変形が可能な柔軟性を有する部材であることを考慮すると、表面電極シート100が基材6から離隔することを抑制する手段を設けることが望まれる。
【0047】
図7は、本実施形態による押さえ部材を備えた電波散乱装置10の例を示す図であり、
図7(A)は斜視図、
図7(B)は断面図である。
図7(A)、(B)に示す電波散乱装置10は、
図3乃至
図6を参照して説明した電波散乱装置10に押さえ部材200を装着した状態である。
図7(A)、(B)に示すように、押さえ部材200は、表面電極シート100に重ねて設けられる押さえシート210と、押さえシート210を保持する留め具220とを備える。以下の説明において、電波散乱装置10の入射ビームを散乱させる側の面(
図7(A)、(B)で+z方向側の面)を「反射面」と呼ぶことがある。
【0048】
押さえシート210は、柔軟性を有し、外力を加えることによる曲げや変形が可能なシート部材である。押さえシート210は、基材6や接地電極ユニット5と同程度の大きさの長方形であり、
図7(A)、(B)に示すように、概ね、表面電極シート100の接地電極ユニット5と対向する領域(
図3(B)の領域100A参照)の全体を覆う。なお、押さえシート210は、表面電極シート100の接地電極ユニット5と対向する領域を覆うことができれば良く、大きさや形状は図示のものに限定されない。押さえシート210は、例えば、柔軟性を有する樹脂により形成される。また、
図7(A)では、押さえシート210が存在することを示すために、
図3(A)に示したユニット群120等を図示していないが、実際には、透光性を有する部材で押さえシート210を構成しても良い。一例として、ポリカーボネートを用いて押さえシート210を構成しても良い。
【0049】
図8は、押さえシート210を設けた状態の電波散乱装置10の層構造を示す図である。なお、
図8では、
図7(B)とは上下方向を反転させて示している。すなわち、
図7(B)ではz方向の正の向きが図の下方を向いているが、
図8では上方を向く(ただし、
図8では矢印によるx、y、z方向の図示を省略している)。
【0050】
上記のように、電波散乱装置10は、接地電極ユニット5と表面電極シート100とで基材6を挟んで構成されており、押さえシート210が表面電極シート100を覆う。したがって、電波散乱装置10は、
図8に示すように、接地電極ユニット5、基材6、表面電極シート100、押さえシート210の順(図の下から上へむかう方向)に重なった層構造をなす。接地電極ユニット5の層は第1層の一例であり、表面電極シート100の層は第2層の一例である。
【0051】
ここで、接地電極ユニット5と基材6とは、密着し、固定されている。一方、基材6と表面電極シート100とは、密着しているが固定されていない。また、表面電極シート100と押さえシート210とは、密着しているが固定されていない。詳しくは後述するが、押さえシート210は、電波散乱装置10に取り付けられると、表面電極シート100を基材6の方向へ押し付ける。このため、表面電極シート100と基材6との間、押さえシート210と表面電極シート100との間は、それぞれ離隔せず密着した状態となる。
【0052】
留め具220は、押さえシート210を保持し、表面電極シート100に押さえシート210を押し当てる部材である。留め具220は、電波散乱装置10の反射面側(
図7(A)、(B)において+z方向側)において、反射面の端部付近に設けられる。
図7(A)、(B)に示す例では、留め具220は、電波散乱装置10のx方向の両端にそれぞれ設けられている。また、留め具220は、電波散乱装置10のy方向の長さにほぼ等しい長さを有し、長方形の押さえシート210の対向する2辺を保持している。なお、留め具220の大きさおよび形状は、電波散乱装置10の形状や押さえシート210の大きさおよび形状に応じて、押さえシート210により反射面側の表面電極シート100を覆うことができるように特定されれば良く、図示の例に限定されない。また、
図7(A)、(B)の例では、留め具220は、電波散乱装置10のx方向の両端に設けられているが、y方向の両端にそれぞれ設ける構成としても良い。
【0053】
<押さえ部材の動作>
図9は、押さえ部材200の動作を示す図であり、
図9(A)は解放状態を示す図、
図9(B)は押圧状態を示す図である。押さえ部材200は、押さえシート210による表面電極シート100を押さえる力が抑制された解放状態と、押さえシート210により表面電極シート100を押さえる押圧状態とを有する。なお、
図9(A)、(B)では、
図8と同様に、
図7(B)とは上下方向を反転させて示している。以下の各図においても同様の向きで図示するものとする。
【0054】
解放状態は、押さえシート210が表面電極シート100に押し付けられていない状態である。解放状態において、押さえシート210は表面電極シート100に接触していても良いし、接触していなくても良い。
図9(A)に示す例では、押さえシート210の中央付近の部位は表面電極シート100に接触しており、その他の部位は表面電極シート100に接触していない。解放状態では、押さえシート210が表面電極シート100を押さえつけていないため、基材6および接地電極ユニット5に対する表面電極シート100の位置を変更したり、基材6から表面電極シート100を離隔させて電波散乱装置10から取り外したりすることが容易になる。
図3を参照して説明した表面電極シート100と接地電極ユニット5との位置関係の調整は、押さえ部材200を解放状態として行うことにより、表面電極シート100の位置を変更する際に基材6や押さえシート210との接触面で擦過が生じることを抑制することができる。解放状態は、第2状態の一例である。
【0055】
押圧状態は、押さえシート210が表面電極シート100に押し付けられている状態である。押圧状態において、押さえシート210は、
図9(B)に示すように、ほぼ全面が表面電極シート100に接触している。押圧状態では、押さえシート210が表面電極シート100を押さえつけているため、表面電極シート100は、基材6に対して離隔することなく密着する。したがって、押さえ部材200を解放状態として表面電極シート100の位置調整が完了した後、押さえ部材200を押圧状態に移行させて、電波散乱装置10を使用することになる。押圧状態は、第1状態の一例である。
【0056】
図10は、押さえ部材200の留め具220の動作を示す図であり、
図10(A)は解放における留め具220を示す図、
図10(B)は押圧状態における留め具220を示す図である。
図10(A)、(B)において、留め具220は、底面部221と、底面部221の両側から立ち上がる側面部222とを備え、断面がコ字状となっている。これにより、留め具220には、押さえシート210が挿入される溝220aが形成される。また、留め具220は、電波散乱装置10に固定された台座230に、回転軸223を介して取り付けられている。台座230は、例えば電波散乱装置10の反射面の端部付近において、保持部材8等に固定される。回転軸223はヒンジを構成する。回転軸223は、電波散乱装置10の反射面の相対する2か所の端部付近にそれぞれ、軸を平行にして設けられる。留め具220は、回転軸223を介して台座230に取り付けられることにより、回転軸223周りに回転可能となり、表面電極シート100に対する角度(言い換えれば、溝220aの向き)を変えることができる(
図10(A)の矢印参照)。
【0057】
押さえ部材200は、留め具220が少なくとも解放状態および押圧状態に対応する二つの角度でロックされるように構成される。解放状態では、
図10(A)に示すように、留め具220の角度が浅くなるため、押さえシート210が表面電極シート100へ向かう角度が浅くなる。これにより、表面電極シート100に対する押さえシート210の押し付けが抑制される。これに対し、押圧状態では、
図10(B)に示すように、留め具220の角度が深くなるため、押さえシート210が表面電極シート100へ向かう角度が深くなる。この角度によって、押さえシート210が表面電極シート100に押し付けられる。
図10(B)に示す例では、押さえシート210が折れ曲がる程度に押し付けられる様子が示されている。留め具220をロックする機構については、ヒンジ構造において一定の位置でロックするために用いられる既存の種々の機構を用いることができ、具体的な機構は限定しない。
【0058】
留め具220の溝220aは、押さえシート210の厚さよりも若干広い幅を有している。これにより、押さえシート210は、留め具220に保持された状態で、面に平行な方向に移動が可能であり、押さえシート210が溝220aに差し込まれた深さを調整可能となっている。そして、解放状態の留め具220の角度が浅い状態では、押さえシート210の両端に位置する留め具220の間隔がわずかに短くなるため、
図10(A)に示すように、押さえシート210が留め具220の溝220aに差し込まれる深さが深くなる。一方、押圧状態の留め具220の角度が深い状態では、押さえシート210の両端に位置する留め具220の間隔がわずかに長くなるため、
図10(B)に示すように、押さえシート210が留め具220の溝220aに差し込まれる深さが浅くなる。このような構成とすることにより、解放状態および押圧状態における留め具220の間隔の差異に起因して押さえシート210に不必要な張力や面方向の圧縮力が働き、押さえシート210が撓んだり、表面電極シート100を押し付ける力が場所によって不均一となったりすることを抑制することができる。
【0059】
<押さえ部材の他の構成例>
図9および
図10を参照して説明した例では、留め具220を回転させることによって解放状態と押圧状態とを切り替える構成について説明したが、解放状態と押圧状態を実現する構成は、上記の構成には限定されない。以下に、他の構成例について説明する。
【0060】
図11は、押さえ部材200の他の構成例を示す図であり、
図11(A)は解放状態を示す図、
図11(B)は押圧状態を示す図である。
図11(A)、(B)に示す構成例において、押さえ部材200は、電波散乱装置10の反射面に向かって近づいたり遠ざかったりするようにスライド可能に設けられる。この押さえ部材200において、留め具220は、
図9および
図10を参照して説明した構成例と異なり、表面電極シート100に対する角度を変更可能には構成されていない。各留め具220は、それぞれ
図9(B)および
図10(B)に示した押圧状態と同様の向きでセットされており、この状態で、表面電極シート100に対する距離を変更する。
【0061】
具体的には、解放状態では、
図11(A)に示すように、表面電極シート100から留め具220までの距離を長くする。これにより、表面電極シート100に対する押さえシート210の押し付けが抑制される。これに対し、押圧状態では、押さえ部材200を表面電極シート100に近づけて(
図11(A)の矢印参照)、
図11(B)に示すように、表面電極シート100から留め具220までの距離を短くする。これにより、押さえシート210が表面電極シート100に押し付けられる。
図11(B)に示す例では、押さえシート210が折れ曲がる程度に押し付けられる様子が示されている。押さえ部材200を電波散乱装置10に対して近づけたり遠ざけたりするための機構については特に限定しない。例えば、電波散乱装置10の保持部材8にレールを設け、
図10(A)、(B)に示したような台座230がこのレール上を移動可能に取り付ける構成としても良い。
【0062】
図12は、押さえ部材200の他の構成例を示す図であり、
図12(A)は解放状態を示す図、
図12(B)は押圧状態を示す図である。
図12(A)、(B)に示す構成例おいて、押さえ部材200は、全体が、扉が開閉するように回転可能に設けられる。特に図示しないが、この押さえ部材200において、押さえシート210の両端を保持する二つの留め具220は、相互の位置関係が固定されている。留め具220の固定手段は特に限定しない。例えば、電波散乱装置10の反射面を囲む形状かつ大きさのフレームに二つの留め具220を取り付けても良い。
【0063】
図12(A)、(B)に示す構成例において、二つの留め具220の一方は、回転軸231を介して電波散乱装置10に取り付けられている。回転軸231は、例えば、
図10(A)、(B)を参照して説明した回転軸223と同様に、電波散乱装置10に固定された台座230に取り付けても良い。回転軸231に取り付けられた留め具220を第1の留め具220とし、他方の留め具220を第2の留め具220とする。第2の留め具220は、第1の留め具220に対する位置関係のみが特定されており、電波散乱装置10に対して固定されていない。したがって、第1の留め具220が回転軸231の周りに回転すると、これに伴って第2の留め具220が電波散乱装置10の反射面から離隔することが可能である。
【0064】
このように構成された押さえ部材200において、解放状態では、
図12(A)に示すように、第1の留め具220が表面電極シート100に対する角度を開くように回転し、第2の留め具220が離隔する。これにより、表面電極シート100に対する押さえシート210の押し付けが抑制される。これに対し、押圧状態では、第1の留め具220が表面電極シート100に対する角度を閉じるように回転し、第2の留め具220が電波散乱装置10の反射部の端部に位置させる。これにより、押さえシート210が表面電極シート100に押し付けられる。
図12(B)に示す例では、押さえシート210が折れ曲がる程度に押し付けられる様子が示されている。
【0065】
この構成では、解放状態において、第1の留め具220が適当な角度でロックされるように構成しても良い。また、押圧状態において、第1の留め具220が最も閉じた状態でロックされるように構成しても良い。さらに、押圧状態における第1の留め具220のロックに代えて、第2の留め具220が電波散乱装置10に固定されるように掛け金等を用いた固定構造を設けても良い。
【0066】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態には限定されない。例えば、上記の実施形態では、押さえ部材200における解放状態と押圧状態の切り替え動作について、3種類の例を示したが、押さえシート210による解放状態と押圧状態とを切り替え可能に実現できる構成であれば、上記構成に限らず、他の様々な構成を取り得る。
【0067】
また、上記の実施形態では、電波散乱装置10として、基材6および接地電極ユニット5に対して表面電極ユニット121の位置関係を調整可能な装置構成を示したが、本実施形態を適用可能な電波散乱装置は、上記の装置に限定されない。例えば、基材6に対して表面電極ユニット121を取り外し、交換可能とした電波散乱装置などに対しても本実施形態を適用し得る。また、上記の実施形態では、基材6と接地電極ユニット5とが固定されている構成としたが、接地電極ユニット5も基材6に対して取り外したり位置を調整したりすることが可能な構成であっても良い。その他、本発明の技術思想の範囲から逸脱しない様々な変更や構成の代替は、本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0068】
5…接地電極ユニット、6…基材、10…電波散乱装置、100…表面電極シート、121…表面電極ユニット、200…押さえ部材、210…押さえシート、220…留め具、#…セル