(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064441
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】ヒートパイプ、定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20240507BHJP
【FI】
G03G15/20 515
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173029
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 岳行
(74)【代理人】
【識別番号】100085040
【弁理士】
【氏名又は名称】小泉 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100108925
【弁理士】
【氏名又は名称】青谷 一雄
(74)【代理人】
【識別番号】100087343
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 智廣
(72)【発明者】
【氏名】小柳 聖
(72)【発明者】
【氏名】小林 丈太
(72)【発明者】
【氏名】森 恵太郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和善
(72)【発明者】
【氏名】宮田 敏行
(72)【発明者】
【氏名】井上 徹
【テーマコード(参考)】
2H033
【Fターム(参考)】
2H033AA03
2H033AA24
2H033BA25
2H033BA26
2H033BA27
2H033BB28
2H033BE03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】長手方向に沿って良好な熱伝導性能を長期間にわたり維持することが可能なヒートパイプ、及びこれを用いた定着装置及び画像形成装置を提供する。
【解決手段】内部に作動液64を封入した中空の部材であって、予め内面が酸化処理された管状部材63と、管状部材63の内部に封入されて液化した作動液64を毛細管現象により管状部材63の長手方向に沿って移動させる手段であって、予め表面が酸化処理された移動手段の一例としてのウィック65とを備えるヒートパイプ。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に液体を封入した中空の部材であって、予め内面が酸化処理された管状部材と、
前記管状部材の内部に封入されて液化した前記液体を毛細管現象により前記管状部材の長手方向に沿って移動させる手段であって、予め表面が酸化処理された移動手段と、
を備えるヒートパイプ。
【請求項2】
前記管状部材及び前記移動手段は、前記液体を封入する以前に加熱されることで酸化処理が施される請求項1に記載のヒートパイプ。
【請求項3】
前記管状部材及び前記移動手段の酸化処理は、液化した前記液体が毛細管現象により前記管状部材の長手方向に沿って移動するのを阻害しない程度に実行される請求項2に記載のヒートパイプ。
【請求項4】
前記管状部材及び前記移動手段の酸化処理は、第1の時間よりも長く、第2の時間よりも短くなるよう施される請求項3に記載のヒートパイプ。
【請求項5】
前記液体は、純水からなる請求項1に記載のヒートパイプ。
【請求項6】
前記管状部材及び前記移動手段は、前記純水と反応して酸化物を生成する請求項5に記載のヒートパイプ。
【請求項7】
被定着部材を加熱する加熱手段と、
前記加熱手段に接触するヒートパイプと、
を備え、
前記ヒートパイプとして請求項1乃至6のいずれかに記載のヒートパイプを用いた定着装置。
【請求項8】
記録媒体に画像を形成する画像形成手段と、
前記記録媒体に前記画像を定着する定着手段と、
を備え、
前記定着手段として請求項7に記載の定着装置を用いた画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ヒートパイプ、定着装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、定着装置に関する技術としては、例えば、特許文献1及び2等に開示されたものが既に提案されている。
【0003】
特許文献1は、記録材上の画像をニップ部にて加熱する画像加熱部材と、前記画像加熱部材に熱を供給する加熱源と、前記画像加熱部材のうち、記録材の搬送方向と直交する長手方向の一部分を送風により冷却する冷却ファンと、前記加熱源及び前記冷却ファンの動作を制御する制御手段と、を有する画像加熱装置であって、前記加熱源は、記録材の搬送方向と直交する長手方向に互いに異なる発熱分布を有する複数の発熱体を有し、前記複数の発熱体への通電比率を変更することで発熱分布を変更可能であり、前記制御手段は、前記冷却ファンの動作時に、前記冷却ファンによる冷却領域に対応する長手方向領域における発熱量を、冷却開始前に比べて大きくなるように前記加熱源の通電を制御するよう構成したものである。
【0004】
特許文献2は、走行駆動される定着フィルムと、それを挟んで圧接する加熱体と加圧部材を有し、定着フィルムを挟んで加熱体と加圧部材との加圧で形成される定着ニップ部の定着フィルムと加圧部材との間に未定着顕画像を担持した記録材を導入して走行する定着フィルムと共に定着ニップ部を移動通過させることで、加熱体から定着フィルムを介して記録材に熱エネルギーを与えて顕画像を加熱定着する定着装置であり、前記加熱体の前記定着フィルムとの当接面とは反対側に、100〔kcal/mhr℃〕以上の熱伝導率を有する高熱伝導部材が設けられているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第525386号公報
【特許文献2】特開平05-289555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明の目的は、長手方向に沿って良好な熱伝導性能を長期間にわたり維持することが可能なヒートパイプ、及びこれを用いた定着装置及び画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載された発明は、内部に液体を封入した中空の部材であって、予め内面が酸化処理された管状部材と、
前記管状部材の内部に封入されて液化した前記液体を毛細管現象により前記管状部材の長手方向に沿って移動させる手段であって、予め表面が酸化処理された移動手段と、
を備えるヒートパイプである。
【0008】
請求項2に記載された発明は、前記管状部材及び前記移動手段は、前記液体を封入する以前に加熱されることで酸化処理が施される請求項1に記載のヒートパイプである。
【0009】
請求項3に記載された発明は、前記管状部材及び前記移動手段の酸化処理は、液化した前記液体が毛細管現象により前記管状部材の長手方向に沿って移動するのを阻害しない程度に実行される請求項2に記載のヒートパイプである。
【0010】
請求項4に記載された発明は、前記管状部材及び前記移動手段の酸化処理は、第1の時間よりも長く、第2の時間よりも短くなるよう施される請求項3に記載のヒートパイプである。
【0011】
請求項5に記載された発明は、前記液体は、純水からなる請求項1に記載のヒートパイプである。
【0012】
請求項6に記載された発明は、前記管状部材及び前記移動手段は、前記純水と反応して酸化物を生成する請求項5に記載のヒートパイプである。
【0013】
請求項7に記載された発明は、被定着部材を加熱する加熱手段と、
前記加熱手段に接触するヒートパイプと、
を備え、
前記ヒートパイプとして請求項1乃至6のいずれかに記載のヒートパイプを用いた定着装置である。
【0014】
請求項8に記載された発明は、記録媒体に画像を形成する画像形成手段と、
前記記録媒体に前記画像を定着する定着手段と、
を備え、
前記定着手段として請求項7に記載の定着装置を用いた画像形成装置である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載された発明によれば、長手方向に沿って良好な熱伝導性能を長期間にわたり維持することが可能なヒートパイプ、及びこれを用いた定着装置及び画像形成装置を提供することができる。
【0016】
請求項2に記載された発明によれば、管状部材及び移動手段を同時に酸化処理することが可能となる。
【0017】
請求項3に記載された発明によれば、管状部材及び移動手段の酸化処理を過剰に施した場合に比べて、液化した液体が毛細管現象により管状部材の長手方向に沿って移動するのを阻害するのを抑制できる。
【0018】
請求項4に記載された発明によれば、管状部材及び移動手段の酸化処理は、第1の時間未満であり、且つ第2の時間を超える場合に比べて、酸化処理による液体の移動を阻害することなく、ヒートパイプの効果を長期間維持することが可能となる。
【0019】
請求項5に記載された発明によれば、液体は、純水以外からなる場合に比べて、コストが上昇するのを抑制できる。
【0020】
請求項6に記載された発明によれば、管状部材及び移動手段は、純水と反応して酸化物を生成する場合でも、ヒートパイプの効果を長期間維持することが可能となる。
【0021】
請求項7に記載された発明によれば、ヒートパイプとして請求項1乃至6のいずれかに記載のヒートパイプを用いない場合に比べて、長手方向に沿って良好な熱伝導性能を長期間にわたり維持することが可能となり、良好な定着性を維持することができる。
【0022】
請求項8に記載された発明によれば、定着手段として請求項7に記載の定着装置を用いない場合に比べて、良好な定着性を維持することができ、画質の維持が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】この発明の実施の形態1に係る定着装置を適用した画像形成装置を示す全体構成図である。
【
図2】この発明の実施の形態1に係る定着装置を示す断面構成図である。
【
図4】セラミックヒータの発熱部を示す平面構成図である。
【
図5】この発明の実施の形態1に係る定着装置の要部を示す断面構成図である。
【
図6】セラミックヒータの発熱温度を示すグラフである。
【
図7】搬送方向と交差する方向に沿った長さが短い記録用紙を定着する状態を示す斜視構成図である。
【
図8】この発明の実施の形態1に係る定着装置の作用を示すグラフである。
【
図9】この発明の実施の形態1に係るヒートパイプを示す断面構成図である。
【
図10】この発明の実施の形態1に係るヒートパイプの作用を示す模式図である。
【
図11】従来のヒートパイプの熱伝導性能の経時変化を示すグラフである。
【
図12】この発明の実施の形態1に係るヒートパイプの焼成時間を示す図表である。
【
図13】この発明の実施の形態1に係るヒートパイプの熱伝導性能の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0025】
[実施の形態1]
図1は、実施の形態1に係る定着装置を適用した画像形成装置を示すものである。
【0026】
<画像形成装置の全体の構成>
実施の形態1に係る画像形成装置1は、例えばカラープリンタとして構成されたものである。この画像形成装置1は、現像剤4を構成するトナーで現像されるトナー像を形成する複数の作像装置10と、各作像装置10で形成されたトナー像をそれぞれ保持して最終的に記録媒体の一例としての記録用紙5に二次転写する二次転写位置まで搬送する中間転写装置20と、中間転写装置20の二次転写位置に供給すべき所要の記録用紙5を収容して搬送する給紙装置50と、中間転写装置20で二次転写された記録用紙5上のトナー像を定着させる定着手段の一例としての定着装置40等を備えている。複数の作像装置10及び中間転写装置20は、記録用紙5に画像を形成する画像形成手段2を構成している。なお、図中の1aは画像形成装置1の装置本体を示し、この装置本体1aは支持構造部材、外装カバー等で形成されている。また、図中の二点鎖線は、装置本体1a内において記録用紙5が搬送される主な搬送経路を示す。画像形成手段2は、フルカラーの画像を形成する画像形成手段に限定されるものではなく、モノクロの画像を形成する画像形成手段であっても良いことは勿論である。
【0027】
作像装置10は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)及びブラック(K)の4色のトナー像をそれぞれ専用に形成する4つの作像装置10Y,10M,10C,10Kで構成されている。これらの4つの作像装置10(Y,M,C,K)は、装置本体1aの内部空間において傾斜した状態で1列に並べた状態となるよう配置されている。
【0028】
4つの作像装置10は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)及びシアン(C)のカラーの作像装置10(Y,M,C)と、ブラック(K)の作像装置10Kとから構成されている。ブラックの作像装置10Kは、中間転写装置20の中間転写ベルト21の移動方向Bに沿った最も下流側に配置されている。画像形成装置1は、画像形成モードとして、カラーの作像装置10(Y,M,C)及びブラック(K)の作像装置10Kを動作させてフルカラーの画像を形成するフルカラーモードと、ブラック(K)の作像装置10Kのみを動作させて白黒(モノクロ)の画像を形成する白黒モードとを備える。
【0029】
各作像装置10(Y,M,C,K)は、
図1に示されるように、像保持体の一例としての回転する感光体ドラム11を備えており、この感光体ドラム11の周囲に、次のようなトナー像形成手段の一例としての各装置が主に配置されている。主な装置とは、感光体ドラム11の像形成が可能な周面(像保持面)を所要の電位に帯電させる帯電装置12と、感光体ドラム11の帯電された周面に画像の情報(信号)に基づく光を照射して電位差のある(各色用の)静電潜像を形成する露光装置13と、その静電潜像を対応する色(Y,M,C,K)の現像剤4のトナーで現像してトナー像にする現像装置14(Y,M,C,K)と、その各トナー像を中間転写装置20に転写する一次転写手段の一例としての一次転写装置15(Y,M,C,K)と、一次転写後における感光体ドラム11の像保持面に残留して付着するトナー等の付着物を取り除いて清掃するドラム清掃装置16(Y,M,C,K)等である。
【0030】
感光体ドラム11は、接地処理される円筒状又は円柱状の基材の周面に感光材料からなる光導電性層(感光層)を有する像保持面を形成したものである。この感光体ドラム11は、図示しない駆動装置から動力が伝達されて矢印Aで示す方向に回転するように支持されている。
【0031】
帯電装置12は、感光体ドラム11に接触した状態で配置される接触型の帯電ロールで構成される。帯電装置12には帯電用電圧が供給される。帯電用電圧としては、現像装置14が反転現像を行うものである場合、現像装置14から供給されるトナーの帯電極性と同じ極性の電圧又は電流が供給される。なお、帯電装置12としては、感光体ドラム11の表面に非接触状態で配置されるスコロトロン等の非接触型の帯電装置を用いてもよい。
【0032】
露光装置13は、感光体ドラム11の軸方向に沿って配列された複数の発光素子としてのLED(Light Emitting Diode)により感光体ドラム11に画像情報に応じた光を照射して静電潜像を形成するLEDプリントヘッドからなる。なお、露光装置13としては、画像情報に応じて構成されるレーザー光を感光体ドラム11の軸方向に沿って偏向走査するものを用いても良い。
【0033】
現像装置14(Y,M,C,K)はいずれも、開口部と現像剤4の収容室が形成された筐体140の内部に、現像剤4を保持して感光体ドラム11と向き合う現像領域まで搬送する現像ロール141と、現像剤4を攪拌しながら現像ロール141を通過させるよう搬送する2つのスクリューオーガー等の攪拌搬送部材142,143と、現像ロール141に保持される現像剤の量(層厚)を規制する層厚規制部材144などを配置して構成したものである。この現像装置14には、その現像ロール141と感光体ドラム11の間に現像用電圧が図示しない電源装置から供給される。また、現像ロール141や攪拌搬送部材142,143は、図示しない駆動装置からの動力が伝達されて所要の方向に回転する。さらに、上記4色の現像剤4(Y,M,C,K)としては、非磁性トナーと磁性キャリアを含む二成分現像剤が使用される。
【0034】
一次転写装置15(Y,M,C,K)は、感光体ドラム11の周囲に中間転写ベルト21を介して接触し回転するとともに一次転写用電圧が供給される一次転写ロールを備えた接触型の転写装置である。一次転写用電圧としては、トナーの帯電極性と逆の極性を示す直流の電圧が図示しない電源装置から供給される。
【0035】
ドラム清掃装置16は、一部が開口する容器状の本体160と、一次転写後の感光体ドラム11の周面に所要の圧力で接触するように配置されて残留トナー等の付着物を取り除いて清掃する清掃板161と、清掃板161で取り除いたトナー等の付着物を回収して図示しない回収システムに送り出すよう搬送するスクリューオーガー等の送出部材162等で構成されている。清掃板161としては、ゴム等の材料からなる板状の部材(例えばブレード)が使用される。
【0036】
中間転写装置20は、
図1に示されるように、各作像装置10(Y,M,C,K)の上方の位置に存在するように配置される。この中間転写装置20は、感光体ドラム11と一次転写装置15(一次転写ロール)の間となる一次転写位置を通過しながら矢印Bで示す方向に回転する中間転写ベルト21と、中間転写ベルト21をその内面から所望の状態に保持して回転自在に支持する複数のベルト支持ロール22~27と、ベルト支持ロール25に支持されている中間転写ベルト21の外周面(像保持面)側に配置されて中間転写ベルト21上のトナー像を記録用紙5に二次転写させる二次転写手段の一例としての二次転写装置30と、二次転写装置30を通過した後に中間転写ベルト21の外周面に残留して付着するトナー、紙粉等の付着物を取り除いて清掃するベルト清掃装置28とで主に構成されている。
【0037】
中間転写ベルト21としては、例えばポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂等の合成樹脂にカーボンブラック等の抵抗調整剤などを分散させた材料で製作される無端状のベルトが使用される。また、ベルト支持ロール22はベルト清掃装置28の対向ロールを兼ねる図示しない駆動装置によって回転駆動される駆動ロールとして構成され、ベルト支持ロール23は中間転写ベルト21の画像形成面を形成する面出しロールとして構成され、ベルト支持ロール24は中間転写ベルト21に張力を付与する張力付与ロールとして構成され、ベルト支持ロール25は二次転写装置30と対向する対向ロールとして構成され、ベルト支持ロール26,27は中間転写ベルト21の従動ロールとして構成されている。
【0038】
二次転写装置30は、
図1に示されるように、中間転写装置20におけるベルト支持ロール25に支持されている中間転写ベルト21の外周面部分である二次転写位置において、中間転写ベルト21の周面に接触して回転するとともに二次転写用電圧が供給される二次転写ロール31を備えた接触型の転写装置である。また、二次転写ロール31又は中間転写装置20のベルト支持ロール25には、トナーの帯電極性と逆極性又は同極性を示す直流の電圧が二次転写用電圧として図示しない電源装置から供給される。
【0039】
定着装置40は、記録用紙5の導入口及び排出口が形成された筐体41の内部に、矢印で示す方向に回転するとともに表面温度が所定の温度に保持されるよう加熱手段によって加熱される加熱ベルト42と、この加熱ベルト42の軸方向にほぼ沿う状態で所定の圧力で接触して回転する加圧ロール43などを配置して構成されたものである。この定着装置40では、加熱ベルト42と加圧ロール43が接触する接触部が所要の定着処理(加熱及び加圧)を行う定着処理部となる。なお、定着装置40については、後に詳述する。
【0040】
給紙装置50は、作像装置10(Y,M,C,K)の下方側の位置に存在するように配置される。この給紙装置50は、所望のサイズ、種類等の記録用紙5を積載した状態で収容する単数(又は複数)の用紙収容体51と、用紙収容体51から記録用紙5を1枚ずつ送り出す送出装置52とで主に構成されている。用紙収容体51は、例えば、装置本体1aの正面(使用者が操作時に向き合う側面)側に引き出すことができるように取り付けられている。
【0041】
記録用紙5としては、例えば、電子写真方式の複写機、プリンタ等に使用される普通紙やトレーシングペーパー等の薄紙、あるいはOHPシート等が挙げられる。定着後における画像表面の平滑性をさらに向上させるには、記録用紙5の表面もできるだけ平滑であることが好ましく、例えば、普通紙の表面を樹脂等でコーティングしたコート紙、印刷用のアート紙等の坪量が相対的に大きい所謂厚紙なども好適に使用することができる。
【0042】
給紙装置50と二次転写装置30との間には、給紙装置50から送り出される記録用紙5を二次転写位置まで搬送する単数又は複数の用紙搬送ロール対53,54や搬送ガイド55で構成される給紙搬送路56が設けられている。給紙搬送路56において二次転写位置の直前の位置に配置される用紙搬送ロール対54は、例えば記録用紙5の搬送時期を調整するロール(レジストロール)として構成されている。また、二次転写装置30と定着装置40との間には、二次転写装置30から送り出される二次転写後の記録用紙5を定着装置40まで搬送するための用紙搬送路57が設けられている。さらに、画像形成装置1の装置本体1aに形成される用紙の排出口に近い部分には、定着装置40から出口ロール36により送り出される定着後の記録用紙5を装置本体1aの上部の用紙排出部58に排出するための用紙排出ロール対59aを備えた排出搬送路59が設けられている。
【0043】
図1中符号200は、画像形成装置1の動作を統括的に制御する制御装置を示している。制御装置200は、図示しないCPU(Central Processing Unit)やROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、あるいはこれらCPUやROM等を接続するバス、通信インターフェイスなどを備えている。また、符号201は画像形成装置1が外部の機器と通信を行う通信部を、202は通信部201を介して入力される画像情報を処理する画像処理部をそれぞれ示している。
【0044】
<画像形成装置の動作>
以下、画像形成装置1による基本的な画像形成動作について説明する。
【0045】
ここでは、まず、前記4つの作像装置10(Y,M,C,K)を使用して、4色(Y,M,C,K)のトナー像を組み合わせて構成されるフルカラー画像を形成するフルカラーモードにおける動作を説明する。
【0046】
画像形成装置1は、図示しないユーザインターフェイスやプリンタドライバ等から通信部201を介して制御装置200がフルカラーの画像形成動作(プリント)の要求の指令情報を受けると、4つの作像装置10(Y,M,C,K)、中間転写装置20、二次転写装置30、定着装置40等が始動する。
【0047】
そして、各作像装置10(Y,M,C,K)においては、
図1に示されるように、まず各感光体ドラム11が矢印Aで示す方向に回転し、各帯電装置12が各感光体ドラム11の表面を所要の極性(実施の形態1ではマイナス極性)及び電位にそれぞれ帯電させる。続いて、露光装置13が、帯電後の感光体ドラム11の表面に対し、画像形成装置1に入力される画像の情報を画像処理部202によって各色成分(Y,M,C,K)に変換して得られる画像の信号に基づいて発光される光を照射し、その表面に所要の電位差で構成される各色成分の静電潜像をそれぞれ形成する。
【0048】
続いて、各作像装置10(Y,M,C,K)が、感光体ドラム11に形成された各色成分の静電潜像に対し、所要の極性(マイナス極性)に帯電された対応する色(Y,M,C,K)のトナーを現像ロール141からそれぞれ供給して静電的に付着させて現像を行う。この現像により、各感光体ドラム11に形成された各色成分の静電潜像は、その対応する色のトナーでそれぞれ現像された4色(Y,M,C,K)のトナー像として顕像化される。
【0049】
続いて、各作像装置10(Y,M,C,K)の感光体ドラム11上に形成された各色のトナー像が一次転写位置まで搬送されると、一次転写装置15(Y,M,C,K)が、その各色のトナー像を中間転写装置20の矢印Bで示す方向に回転する中間転写ベルト21に対して順番に重ね合わされるような状態で一次転写させる。
【0050】
また、一次転写が終了した各作像装置10(Y,M,C,K)では、ドラム清掃装置16が付着物を掻き取るように除去して感光体ドラム11の表面を清掃する。これにより、各作像装置10(Y,M,C,K)は、次の作像動作が可能な状態にされる。
【0051】
続いて、中間転写装置20では、中間転写ベルト21の回転により一次転写されたトナー像を保持して二次転写位置まで搬送する。一方、給紙装置50では、作像動作に合わせて所要の記録用紙5を給紙搬送路56に送り出す。給紙搬送路56では、レジストロールとしての用紙搬送ロール対54が記録用紙5を転写時期に合わせて二次転写位置に送り出して供給する。
【0052】
二次転写位置においては、二次転写装置30が、中間転写ベルト21上のトナー像を記録用紙5に一括して二次転写させる。また、二次転写が終了した中間転写装置20では、ベルト清掃装置28が、二次転写後の中間転写ベルト21の表面に残留したトナー等の付着物を取り除いて清掃する。
【0053】
続いて、トナー像が二次転写された記録用紙5は、中間転写ベルト21から剥離された後に用紙搬送路57を介して定着装置40まで搬送される。定着装置40では、回転する加熱ベルト42と加圧ロール43との間の接触部に二次転写後の記録用紙5を導入して通過させることにより、必要な定着処理(加熱及び加圧)をして未定着のトナー像を記録用紙5に定着させる。最後に、定着が終了した後の記録用紙5は、用紙排出ロール対59aにより、例えば、装置本体1aの上部に設置された用紙排出部58に排出される。
【0054】
以上の動作により、4色のトナー像を組み合わせて構成されるフルカラー画像が形成された記録用紙5が出力される。
【0055】
<定着装置の構成>
図2はこの実施の形態1に係る定着装置を示す断面構成図である。
【0056】
定着装置40は、所謂フリーベルトニップ方式を採用している。定着装置40は、
図2に示されるように、大別して、回転する無端状のベルトからなる第1の回転体の一例としての加熱ベルト42を有する加熱装置の一例としての加熱ユニット44と、加熱ユニット44に対して圧接される第2の回転体の一例としての加圧ロール43を備えている。加熱ベルト42と加圧ロール43の間には、未定着像の一例としての未定着トナー像Tを保持した被加熱体(被定着部材)の一例としての記録用紙5が通過する領域である定着ニップ部Nが形成されている。なお、記録用紙5は、搬送方向と交差する方向に沿った中央を基準(所謂センターレジ)として搬送される。
【0057】
加熱ユニット44は、
図2に示されるように、加熱ベルト42と、加熱ベルト42の内部に配置され、加熱ベルト42を加熱する面状発熱部材の一例としてのセラミックヒータ45と、同じく加熱ベルト42の内部に配置され、セラミックヒータ45を加熱ベルト42を介して加圧ロール43の表面に圧接させるよう支持する支持手段の一例である支持部材46と、同じく加熱ベルト42の内部に配置され、支持部材46を加圧ロール43に圧接させるよう保持する保持手段の一例としての保持部材47と、加熱ベルト42の内部に配置され、加熱ベルト42の内周面に付与される潤滑剤を保持する潤滑剤保持手段の一例としてのフェルト部材48等を備えている。
【0058】
なお、面状発熱部材の一例としてのセラミックヒータ45は、後述するように、発熱部自体が面状である必要はなく、発熱部が直線状に形成されたものであっても、加熱ベルト42を加熱するセラミックヒータの下端面が面状であれば良い。
【0059】
加熱ベルト42は、可撓性を有する材料からなり、装着前の状態である自由形状が薄肉円筒形の無端状ベルトとして構成されている。加熱ベルト42は、
図3に示されるように、基材層421と、基材層421の表面に被覆された弾性体層422と、弾性体層422の表面に被覆された離型層423とを備える。加熱ベルト42は、必ずしも、基材層421と弾性体層422と離型層423のすべてを備えている必要はなく、基材層421のみ、あるいは基材層421と離型層423などから構成しても良い。基材層421は、ポリイミド、ポリアミド、ポリイミドアミド等の耐熱性を有する合成樹脂や、ステンレス、ニッケル、銅等の薄肉の金属によって形成される。弾性体層422は、耐熱性を有するシリコーンゴムやフッ素ゴム等の弾性体からなる。離型層423は、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)やポリテトラフロオロエチレン(PTFE)等によって形成される。加熱ベルト42は、例えば、その厚さが50~200μm程度に設定可能である。
【0060】
セラミックヒータ45は、
図4及び
図5に示されるように、セラミック製の基板451と、基板451の表面に長手方向に沿って直線状に複数本形成された第1乃至第3の発熱部452
1~452
3と、第1乃至第3の発熱部452
1~452
3に個別に通電するための第1乃至第3の電極453
1~453
3と、第1乃至第3の発熱部452
1~452
3の他端部に共通に通電する共通電極454と、少なくとも第1乃至第3の発熱部452
1~452
3の表面を被覆するガラス被覆層455とを備えている。
【0061】
第1乃至第3の発熱部452
1~452
3は、
図4に示されるように、基板451の幅方向に沿って互いに平行に配置されている。第1乃至第3の発熱部452
1~452
3は、当該第1乃至第3の発熱部452
1~452
3を構成する発熱材料の線幅及び/又は厚さを異ならせることにより、各第1乃至第3の発熱部452
1~452
3の長手方向に沿った発熱領域が異なるよう設定されている。なお、第1乃至第3の発熱部452
1~452
3は、その長手方向に沿った長さが等しく設定されている。
【0062】
第1の発熱部4521は、長手方向に沿った発熱領域の中央Cを基準にして左右に長さL1の領域にわたり発熱するように、発熱領域の中央Cに位置する長さL1の領域が発熱材料の線幅が細く電気抵抗が大きくなるよう設定されている。第1の発熱部4521は、長さL1の両端部に位置する領域が発熱材料の線幅が太く電気抵抗が小さくなるよう設定されており、発熱しないか発熱しても極僅かとなるよう構成されている。
【0063】
第2の発熱部4522は、第1の発熱部4521とは逆に、長手方向に沿った中央Cを基準にして左右に長さL1以外の領域にわたり発熱するように、長手方向に沿った中央Cを基準にして左右に長さL1以外の領域が発熱材料の線幅が細く設定されている。第2の発熱部4522は、長さL1の両端部に位置する領域が発熱材料の線幅が太く設定されており、発熱しないか発熱しても極僅かとなるよう構成されている。
【0064】
第3の発熱部4523は、第1及び第2の発熱部4521,4522と異なり、長手方向に沿った発熱領域の中央Cを基準にして左右に長さL3の領域にわたり発熱するように、発熱領域の中央Cに位置する長さL3の領域が発熱材料の線幅が細く電気抵抗が大きくなるよう設定されている。第3の発熱部4523は、長さL3の両端部に位置する領域が発熱材料の線幅が太く電気抵抗が小さくなるよう設定されており、発熱しないか発熱しても極僅かとなるよう構成されている。
【0065】
図6は、第1乃至第3の発熱部452
1~452
3の発熱温度を模式的に示したグラフである。
【0066】
第1の発熱部452
1は、
図6に示されるように、長手方向に沿った発熱領域の中央Cを基準にして左右に長さL1の領域にわたり予め設定された設定温度となるよう発熱する。第2の発熱部452
2は、長手方向に沿った中央Cを基準にして左右に長さL1以外の領域にわたり予め設定された設定温度となるよう発熱する。第3の発熱部452
3は、長手方向に沿った発熱領域の中央Cを基準にして左右に長さL3の領域にわたり予め設定された設定温度となるよう発熱する。
【0067】
第1の発熱部452
1は、
図4に示されるように、記録用紙5の搬送方向と交差する方向に沿った長さがL1の中程度の長さを有する記録用紙5を加熱定着する際に使用される。
【0068】
第2の発熱部4522は、第1の発熱部4521と同時に使用され、記録用紙5の搬送方向と交差する方向に沿った長さがL1+2・L2である大きいサイズを有する記録用紙5を加熱定着する際に使用される。
【0069】
第3の発熱部4523は、記録用紙5の搬送方向と交差する方向に沿った長さがL3の最も小さいサイズを有する記録用紙5を加熱定着する際に使用される。
【0070】
保持部材47は、
図2に示されるように、例えば、ステンレスやアルミニウム、あるいは鋼鉄等の金属製の板材から構成される。保持部材47は、定着ニップ部Nの加熱ベルト42の回転方向に沿った上流側及び下流側において、セラミックヒータ45の表面に対して略垂直にそれぞれ配置された垂直板部471,472と、垂直板部471,472の基端部を連結するよう水平方向に沿って配置された水平板部473とから断面略コ字形状に形成されている。
【0071】
加熱ベルト42は、
図5に示されるように、セラミックヒータ45の定着ニップ部Nと反対側の面に接触するよう配置された温度センサ49によって定着ニップ部Nの温度が検知される。セラミックヒータ45は、上述したように、長手方向に沿った発熱領域が異なる第1乃至第3の発熱部452
1~452
3を備えている。そのため、温度センサ49は、第1乃至第3の発熱部452
1~452
3に対応してセラミックヒータ45の長手方向に沿って複数(例えば、3つ)配置される。加熱ベルト42は、温度センサ49の検知結果に基づいてセラミックヒータ45の各第1乃至第3の発熱部452
1~452
3への通電を図示しない温度制御回路によって制御することにより、記録用紙5のサイズに応じて定着ニップ部Nが所要の定着温度(例えば、200℃程度)となるよう加熱される。
【0072】
支持部材46は、
図2に示されるように、例えば、射出成形等により所要の形状に一体成形された耐熱性を有する合成樹脂からなる。耐熱性を有する合成樹脂としては、例えば、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、あるいはこれらの複合材料などが挙げられる。
【0073】
支持部材46は、定着ニップ部Nにおいてセラミックヒータ45を加熱ベルト42を介して加圧ロール43に加圧するよう支持するセラミックヒータ45の平面形状に対応した細長い矩形状の支持用凹部461を有している。支持部材46は、加熱ベルト42の長手方向に沿った全長よりも長く配設されている。
【0074】
支持部材46には、
図2に示されるように、定着ニップ部Nの加熱ベルト42の回転方向に沿った上流側に加熱ベルト42を定着ニップ部Nへと案内する断面形状が曲面形状に形成された第1の案内部462が設けられている。支持部材46の下端面463は、平面形状に形成されている。また、支持部材46には、定着ニップ部Nの加熱ベルトの回転方向に沿った下流側に、定着ニップ部Nを通過した加熱ベルト42に非接触状態となるよう加熱ベルト42の湾曲形状よりも内側に屈曲した屈曲部464が設けられている。
【0075】
また、支持部材46には、
図2に示されるように、定着ニップ部Nと反対側の面に保持部材47の垂直板部471,472の先端が当接する当接部465,466が設けられている。
【0076】
加圧ロール43は、
図2に示されるように、ステンレスやアルミニウム、あるいは鉄(薄肉高張力鋼管)等の金属からなる円柱形状又は円筒形状の芯金431と、芯金431の外周に相対的に厚く被覆されたシリコーンゴムやフッ素ゴム等の耐熱性を有する弾性体からなる弾性体層432と、弾性体層432の表面に薄く被覆されたポリテトラフロオロエチレン(PTFE)やパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)等からなる離型層433を有している。なお、加圧ロール43の内部には、必要に応じてハロゲンランプ等からなる加熱手段(加熱源)を配置しても良い。
【0077】
加圧ロール43は、その長手方向(軸方向)に沿った両端部が定着装置40の図示しない装置ハウジングのフレームに軸受部材を介して回転可能に支持されている。加圧ロール43は、回転軸を兼ねる芯金431の軸方向に沿った一端部に取り付けられた図示しない駆動ギアを介して駆動装置により矢印C方向に沿って所要の速度で回転駆動される。なお、加熱ベルト42は、回転駆動される加圧ロール43に圧接されて従動回転する。
【0078】
上記の如く構成される定着装置40は、
図2に示されるように、記録用紙5の搬送方向と交差する方向に沿った中央を基準(所謂センターレジ)として搬送され加熱及び加圧されて、未定着トナー像Tが記録用紙5上に定着される。このとき、定着装置40は、
図7に示されるように、加熱ベルト42の長手方向に沿った長さが相対的に短い小サイズの記録用紙5に連続して定着した場合など、第1乃至第3の発熱部452
1~452
3が記録用紙5のサイズに応じて切り替えられて発熱するにしても、記録用紙5のサイズと第1乃至第3の発熱部452
1~452
3の発熱領域とが一致しない場合もあり、加熱ベルト42の長手方向に沿った両端部に位置する非通紙領域では当該加熱ベルト42の熱が記録用紙5によって奪われることがないため、
図8に示されるように、非通紙領域の温度が上昇する傾向にある。
【0079】
そこで、従来の定着装置では、加熱手段の長手方向に沿った端部の温度上昇を抑制するため、加熱体の定着フィルムとの当接面とは反対側に高熱伝導部材を設ける技術が提案されている(特許文献2等)。
【0080】
しかしながら、このように加熱体の定着フィルムとの当接面とは反対側に高熱伝導部材を設けた場合には、定着動作の開始時に、加熱体の熱容量が高熱伝導部材を設けられている分だけ増加し、加熱体を所要の定着開始温度まで加熱するように要する時間、いわゆるウオームアップタイムが長くなるという技術的課題が新たに生じる。
【0081】
この実施の形態1では、面状発熱手段の被加熱体と反対側の面に接触するよう配置され、面状発熱手段の長手方向に沿った熱伝導を促進する熱伝導促進手段を備えるように構成している。
【0082】
すなわち、この実施の形態1に係る定着装置40は、
図2に示されるように、セラミックヒータ45の背面側に熱伝導促進手段の一例としての外径が相対的に小さい2本のヒートパイプ61,62を設けている。
【0083】
ヒートパイプ61,62は、
図9に示されるように、ステンレスやアルミニウム等の熱伝導率が相対的に高い金属によって両端部が閉塞された気密且つ中空な円筒形状に形成されたパイプ本体63と、パイプ本体63の内部に密封された純水等の液体からなる作動液64と、パイプ本体63の内周面に全長にわたり設けられ、液化した作動液64を毛細管現象により本体の長手方向に沿って搬送する作動液搬送部(移動手段)の一例としてのウイック(Wick)65とを備えている。ウイック65としては、例えば、銅製の細線や焼結金属、あるいは金網等が用いられる。
【0084】
ヒートパイプ61,62は、
図10に示されるように、その長手方向に沿って相対的に温度が高い領域HIで内部に密封された作動液64が気化し、気化した作動液64は、当該作動液64の気化に伴う圧力上昇によりパイプ本体63の長手方向に沿った相対的に温度が低く圧力に低い領域へと移動する。そして、ヒートパイプ61,62は、その長手方向に沿った相対的に温度が低い領域で気化した作動液64が液化する。液化した作動液64は、ウイック65の毛細管現象によりパイプ本体63の長手方向に沿って相対的に温度が高い低い領域LOへと移動する。
【0085】
ヒートパイプ61,62は、上記の動作を繰り返すことにより、パイプ本体63の長手方向に沿って温度が相対的に高い領域HIから相対的に低い領域LOへと通常の熱伝導等による熱の移動と比較して非常に大きな熱量を長手方向に沿って速やかに伝達する。
【0086】
この実施の形態1では、ヒートパイプ61,62としてパイプ本体63の外径が2~3mmと非常に細いヒートパイプを採用している。ヒートパイプ61,62としては、熱伝導率が104(W/m・K)以上のものを用いるのが望ましい。なお、ヒートパイプ61,62の外径は、2~3mmに限定されるものではなく、これよりも大きいものであっても勿論良い。ただし、ヒートパイプ61,62の外径が2~3mm程度と大幅に小さく小径であると、ヒートパイプ61,62自体の熱容量が小さく望ましい。
【0087】
ヒートパイプ61,62は、
図5に示されるように、第1乃至第3の発熱部452
1~452
3の長手方向と交差する方向に沿った中心C1~C3と支持部材46の内壁面467,468との間において、セラミックヒータ45の加圧ロール43と反対側に位置する裏面456に接触するよう配置されている。
【0088】
更に説明すると、第1のヒートパイプ61は、セラミックヒータ45の加圧ロール43と反対側に位置する裏面456において、第1の発熱部4521の長手方向と交差する方向に沿った中心C1と支持部材46の一方の内壁面467との間であって、且つ当該第1の発熱部4521の長手方向と交差する方向に沿った中心C1と支持部材46の一方の内壁面467との距離L4の1/2より支持部材46寄りに配置されている。第1のヒートパイプ61は、支持部材46の温度上昇を抑制する観点から支持部材46と接触するように配置するのが望ましい。
【0089】
一方、第2のヒートパイプ62は、セラミックヒータ45の加圧ロール43と反対側に位置する裏面456において、第3の発熱部4523の長手方向と交差する方向に沿った中心C3と支持部材46の内壁面468との間であって、且つ当該第3の発熱部4523の長手方向と交差する方向に沿った中心C3と支持部材46の他方の内壁面468との距離L5の1/2より支持部材46寄りに配置されている。第2のヒートパイプ62は、支持部材の温度上昇を抑制する観点からやはり支持部材46と接触するように配置するのが望ましい。
【0090】
なお、図示例では、第2のヒートパイプ62がセラミックヒータ45の第3の発熱部4523と一部重なるよう配置されているが、セラミックヒータ45は、上述したように、線幅が広い領域は基本的に発熱しないか発熱しても極僅かとなるよう構成されているため、第3の発熱部4523からの発熱がセラミックヒータに直接伝わることはないか、伝わったとしても極僅かである。
【0091】
ところで、一般的に熱伝導率が高い金属である銅等からなるヒートパイプ61,62は、定着装置40のセラミックヒータ45のような200℃程度の高温での使用を想定していない。
【0092】
そのため、本発明者等の研究によれば、通常、銅と水は不活性であるが、200℃程度の高温で銅と水とが長時間にわたり接触すると、次の化学式で示されるような酸化反応が発生する。
H20+Cu⇔CuO+H2
【0093】
酸化反応により発生した水素(H2)は、ヒートパイプ61,62の内部において不活性ガスとして滞留するため、水蒸気の移動を阻害し、当該ヒートパイプ61,62の熱伝導性能が低下するに至る。
【0094】
その結果、本発明者等の研究によれば、定着装置40において定着処理を受ける記録用紙5の累積的な枚数が約300kPV(30万枚)の前後に達すると、
図11に示されるように、ヒートパイプ61,62の熱伝導性能が急激に低下して、セラミックヒータ45の長手方向に沿った両端部における温度上昇を抑制することができない事態を招くことになる。
【0095】
そこで、この実施の形態1に係るヒートパイプは、内部に液体を封入した中空の部材であって、予め内面が酸化処理された管状部材と、管状部材の内部に封入されて液化した前記液体を毛細管現象により前記管状部材の長手方向に沿って移動させる手段であって、予め表面が酸化処理された移動手段とを備えるように構成されている。
【0096】
すなわち、この実施の形態1に係るヒートパイプ61,62は、その製造工程において、長手方向に沿った一端部が封止された銅等の金属からなるパイプ本体63の内周面に、銅等の細線からなるウイック65を収容し、その後、パイプ本体63の内部に作動液の一例としての純水を注入して封入するのではなく、パイプ本体63の内周面に銅等の細線からなるウイック65を収容した後に、パイプ本体63の内面及びウイック65の表面を予め酸化処理する酸化処理工程が実施される。
【0097】
酸化処理工程は、パイプ本体63の内周面にウイック65を収容した状態、且つパイプ本体63の長手方向に沿った他端部は開口したままの状態で、高温炉の内部に入れて加熱(焼成)することにより、銅等の金属からなるパイプ本体63及びウイック65を空気中の酸素と反応させて酸化処理を施して酸化物を生成することにより行われる。
【0098】
高温炉内部の温度は、例えば、定着装置40の定着温度と略等しい200℃程度あるいはそれよりも高い245℃程度に設定される。また、パイプ本体63の内周面及びウイック65の表面を焼成することにより酸化処理を施す時間は、
図12に示されるように、第1の時間の一例としての4時間以上、第2の時間の一例としての8時間以下に設定されることが望ましい。
【0099】
焼成時間が4時間未満であると、パイプ本体63の内周面及びウイック65の表面の酸化処理が不十分となる虞れがあり、焼成時間が8時間を超えると、パイプ本体63の内周面及びウイック65の表面の酸化処理が過剰となり、これらパイプ本体63の内周面及びウイック65の表面が過剰な酸化処理によって微細な凹凸が生じ、液化した水が長手方向に沿って移動する際の毛細管現象を阻害する虞れがある。
【0100】
<定着装置の動作>
この実施の形態1に係る定着装置では、次のようにして、長手方向に沿って良好な熱伝導性能を長期間にわたり維持することが可能なヒートパイプ、及びこれを用いた定着装置及び画像形成装置を提供することが可能となっている。
【0101】
すなわち、この実施の形態1に係る定着装置40は、
図2に示されるように、セラミックヒータ45の第1乃至第3の発熱部452
1~452
3のうち、少なくとも一つ以上が発熱することにより加熱ベルト42を加熱する。
【0102】
加熱された加熱ベルト42は、加圧ロール43と共に
図2中矢印C方向に沿って回転し、定着ニップ部Nにおいて未定着トナー像Tを保持した記録用紙5を加熱及び加圧することにより定着処理を行う。
【0103】
定着装置40では、定着処理を行うごとに、セラミックヒータ45の第1乃至第3の発熱部4521~4523のうち、少なくとも一つ以上が発熱し、セラミックヒータ45の裏面側に配置されたヒートパイプ61,62は、セラミックヒータ45とともに約200℃程度の高温に加熱される。そして、定着装置40は、定着処理が終了すると、セラミックヒータ45への通電が遮断されて室温に等しい温度に冷却され、次の定着処理が開始されるまで室温に等しい温度に維持される。
【0104】
ところで、ヒートパイプ61,62は、銅等の金属からなるパイプ本体63とウイック65を備え、内部に純水を封入して構成されている。
【0105】
通常、ヒートパイプ61,62のパイプ本体63及びウイック65を構成する金属材料である銅と水は不活性であるが、定着装置40の定着温度である200℃程度の高温で銅と水とが長時間にわたり接触すると、次の化学式で示されるような酸化反応が発生する。
H20+Cu⇔CuO+H2
【0106】
しかしながら、この実施の形態1に係る定着装置40では、ヒートパイプ61,62のパイプ本体63及びウイック65に予め酸化処理が施されている。そのため、ヒートパイプ61,62は、200℃程度の高温において長時間にわたり接触しても、銅が酸化されて水素(H2)が発生する酸化反応が生じないか又は抑制される。
【0107】
そのため、この実施の形態1に係る定着装置40では、
図13に示されるように、長期間にわたり使用した場合であっても、ヒートパイプ61,62のパイプ本体63及びウイック65が酸化されることに起因した熱伝導性能の低下が抑制され、定着装置40が寿命に達するまで良好な熱伝導性能を維持することができる。
【0108】
なお、
図13においては、ある期間において一時的に低下したヒートパイプ61,62の熱伝導性能が再度上昇する傾向がみられるが、これは、銅と水との酸化反応が可逆的な反応であり、銅と水との酸化反応によって発生した水素(H
2)が酸化銅(CuO)の酸素(O)と反応して水(H
20)に戻るためであると考えられる。
【0109】
なお、前記実施の形態では、面状発熱手段としてセラミックヒータを用いた場合について説明したが、面状発熱手段としては、セラミックヒータに限定されるものではなく、定着ニップ部Nにおいて文字通り面状に発熱するものであれば良い。
【0110】
また、前記実施の形態では、加圧手段として加圧ロールを用いた場合について説明したが、加圧手段としては加圧ベルトを用いたものであっても良い。
【0111】
また、本発明は、電子写真方式の画像形成装置で説明を行ったが、電子写真方式の画像形成装置に限られるものではなく、例えば、インクによる未乾燥層の画像(未定着のインク画像)を保持して搬送された用紙に接してその未定着インク画像を用紙上に定着する、インクジェット方式の画像形成装置等にも適用することができる。
【0112】
(付記)
(((1)))
内部に液体を封入した中空の部材であって、予め内面が酸化処理された管状部材と、
前記管状部材の内部に封入されて液化した前記液体を毛細管現象により前記管状部材の長手方向に沿って移動させる手段であって、予め表面が酸化処理された移動手段と、
を備えるヒートパイプ。
【0113】
(((2)))
前記管状部材及び前記移動手段は、前記液体を封入する以前に加熱されることで酸化処理が施される(((1)))に記載のヒートパイプ。
【0114】
(((3)))
前記管状部材及び前記移動手段の酸化処理は、液化した前記液体が毛細管現象により前記管状部材の長手方向に沿って移動するのを阻害しない程度に実行される(((2)))に記載のヒートパイプ。
【0115】
(((4)))
前記管状部材及び前記移動手段の酸化処理は、第1の時間よりも長く、第2の時間よりも短くなるよう施される(((3)))に記載のヒートパイプ。
【0116】
(((5)))
前記液体は、純水からなる(((1)))に記載のヒートパイプ。
【0117】
(((6)))
前記管状部材及び前記移動手段は、前記純水と反応して酸化物を生成する(((5)))に記載のヒートパイプ。
【0118】
(((7)))
被定着部材を加熱する加熱手段と、
前記加熱手段に接触するヒートパイプと、
を備え、
前記ヒートパイプとして(((1)))乃至(((6)))のいずれかに記載のヒートパイプを用いた定着装置。
【0119】
(((8)))
記録媒体に画像を形成する画像形成手段と、
前記記録媒体に前記画像を定着する定着手段と、
を備え、
前記定着手段として(((7)))に記載の定着装置を用いた画像形成装置。
【0120】
(((1)))に係るヒートパイプによれば、長手方向に沿って良好な熱伝導性能を長期間にわたり維持することが可能なヒートパイプ、及びこれを用いた定着装置及び画像形成装置を提供することができる。
【0121】
(((2)))に係るヒートパイプによれば、管状部材及び移動手段を同時に酸化処理することが可能となる。
【0122】
(((3)))に係るヒートパイプによれば、管状部材及び移動手段の酸化処理を過剰に施した場合に比べて、液化した液体が毛細管現象により管状部材の長手方向に沿って移動するのを阻害するのを抑制できる。
【0123】
(((4)))に係るヒートパイプによれば、管状部材及び移動手段の酸化処理は、第1の時間未満であり、且つ第2の時間を超える場合に比べて、酸化処理による液体の移動を阻害することなく、ヒートパイプの効果を長期間維持することが可能となる。
【0124】
(((5)))に係るヒートパイプによれば、液体は、純水以外からなる場合に比べて、コストが上昇するのを抑制できる。
【0125】
(((6)))に係るヒートパイプによれば、管状部材及び移動手段は、純水と反応して酸化物を生成する場合でも、ヒートパイプの効果を長期間維持することが可能となる。
【0126】
(((7)))に係る定着装置によれば、ヒートパイプとして(((1)))乃至(((6)))のいずれかに記載のヒートパイプを用いない場合に比べて、長手方向に沿って良好な熱伝導性能を長期間にわたり維持することが可能となり、良好な定着性を維持することができる。
【0127】
(((8)))に係る画像形成装置によれば、定着手段として(((7)))に記載の定着装置を用いない場合に比べて、良好な定着性を維持することができ、画質の維持が可能となる。
【符号の説明】
【0128】
1…画像形成装置
1a…画像形成装置本体
40…定着装置
42…加熱ベルト
43…加圧ロール
45…セラミックヒータ
452…発熱部
456…セラミックヒータの裏面
61,62…ヒートパイプ
63…パイプ本体
64…作動液
65…ウイック