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  • 特開-焼結用金属粉末 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064473
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】焼結用金属粉末
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/052 20220101AFI20240507BHJP
   B22F 1/065 20220101ALI20240507BHJP
   B22F 10/34 20210101ALI20240507BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20240507BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20240507BHJP
【FI】
B22F1/052
B22F1/065
B22F10/34
B33Y70/00
B22F3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173082
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】佐野 世樹
(72)【発明者】
【氏名】間 慶輔
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018BA01
4K018BA02
4K018BA03
4K018BA04
4K018BA08
4K018BA09
4K018BA13
4K018BA15
4K018BA16
4K018BA17
4K018BA20
4K018BB03
4K018BB04
4K018CA44
4K018DA11
4K018EA51
4K018EA60
4K018KA63
(57)【要約】
【課題】高い充填性、高い流動性および高い焼結性を有する焼結用金属粉末を提供すること。
【解決手段】レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により体積基準の粒度分布を測定し、前記粒度分布を、横軸を粒径とし、縦軸を相対粒子量とする直交座標系にプロットして粒度分布曲線を描いたとき、前記粒度分布曲線は、粒径D1[μm]に極大値を持つ第1ピーク部と、前記粒径D1より大きい粒径D2[μm]に極大値を持つ第2ピーク部と、を有し、前記粒径D2は、30.0μm以下であり、前記第1ピーク部の高さを1とするとき、前記第2ピーク部の高さは、0.60以上3.00以下であり、撮像画像から算出される平均円形度が0.70以上1.00以下であることを特徴とする焼結用金属粉末。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により体積基準の粒度分布を測定し、前記粒度分布を、横軸を粒径とし、縦軸を相対粒子量とする直交座標系にプロットして粒度分布曲線を描いたとき、
前記粒度分布曲線は、粒径D1[μm]に極大値を持つ第1ピーク部と、前記粒径D1より大きい粒径D2[μm]に極大値を持つ第2ピーク部と、を有し、
前記粒径D2は、30.0μm以下であり、
前記第1ピーク部の高さを1とするとき、前記第2ピーク部の高さは、0.60以上3.00以下であり、
撮像画像から算出される平均円形度が0.70以上1.00以下であることを特徴とする焼結用金属粉末。
【請求項2】
前記第1ピーク部の高さを1とするとき、前記第2ピーク部の高さは0.80以上2.00以下である請求項1に記載の焼結用金属粉末。
【請求項3】
前記粒径D1を1とするとき、前記粒径D2は、5.0以上9.0以下である請求項1または2に記載の焼結用金属粉末。
【請求項4】
前記粒径D2は、10.0μm以上25.0μm以下である請求項1または2に記載の焼結用金属粉末。
【請求項5】
前記粒度分布曲線は、前記粒径D1と前記粒径D2との間の粒径D3に極小値を持つボトム部を有し、
前記第1ピーク部の高さを1とするとき、前記ボトム部の高さは、0.10以下である請求項1または2に記載の焼結用金属粉末。
【請求項6】
真密度を1とするとき、タップ密度が0.65以上である請求項1または2に記載の焼結用金属粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結用金属粉末に関するものである。
【背景技術】
【0002】
三次元の立体物を造形する技術として、近年、金属粉末を用いた積層造形法が普及しつつある。立体物を造形する手法としては、結合させる原理に応じて、粉末焼結積層造形(SLS : Selective Laser Sintering)法、バインダージェット法、熱溶融積層(FDM : Fused Deposition Modeling)法等が知られている。
【0003】
このうち、例えばバインダージェット法は、スキージー等を用いて金属粉末を層状に均し、粉末層を形成する工程と、粉末層の一部にバインダー液を供給し、固化させる工程と、を有し、これらを繰り返すことにより、立体物を造形する技術である。また、得られた立体物に焼結処理を施すことにより、立体物の形状を持つ金属焼結体を製造することができる。この方法によれば、金型等を用いることなく、目的とする立体形状をなす金属焼結体が効率よく得られる。
【0004】
金属焼結体の機械的強度を高めるためには、粉末層において金属粉末の充填率を高めることが重要である。充填率を高めることにより、造形される立体物の機械的強度が高められ、最終的には金属焼結体の機械的強度を高めることができる。
【0005】
例えば、特許文献1には、二峰性の粒度分布を持つ粉末を用いて粉末床を形成する工程と、この粉末床にレーザーを照射して選択的に焼結させる工程と、を有する部品の積層造形方法が開示されている。二峰性の粒度分布を持つ粉末は、単峰性の粒度分布を持つ粉末に比べて、充填時の緊密性に優れる。このため、二峰性の粒度分布を持つ粉末を用いることにより、気孔率が低い焼結体を形成可能な粉末床を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2016-505415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の二峰性の粒度分布を持つ粉末は、流動性について考慮されていない。粉末の流動性は、スキージー等を用いて粉末床を形成する場合に必要な特性である。粉末の流動性が低い場合、粉末自体の潜在的な充填性が高くても、粉末床の充填性を高めることが困難である。
【0008】
一方、流動性を高めるためには、粉末の粒径を大きくする方法が知られている。しかしながら、粉末の粒径を大きくすると、焼結性が低下する。そこで、高い充填性、高い流動性および高い焼結性を有する焼結用金属粉末の開発が課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の適用例に係る焼結用金属粉末は、
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により体積基準の粒度分布を測定し、前記粒度分布を、横軸を粒径とし、縦軸を相対粒子量とする直交座標系にプロットして粒度分布曲線を描いたとき、
前記粒度分布曲線は、粒径D1[μm]に極大値を持つ第1ピーク部と、前記粒径D1より大きい粒径D2[μm]に極大値を持つ第2ピーク部と、を有し、
前記粒径D2は、30.0μm以下であり、
前記第1ピーク部の高さを1とするとき、前記第2ピーク部の高さは、0.60以上3.00以下であり、
撮像画像から算出される平均円形度が0.70以上1.00以下である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る焼結用金属粉末について得られた粒度分布曲線の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の焼結用金属粉末を添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
1.焼結用金属粉末の粒度分布
実施形態に係る焼結用金属粉末は、バインダーとともに成形された後、焼結処理に供される粉末である。このような焼結用金属粉末は、粒度分布曲線が2つのピーク部を有するバイモーダル分布(二峰性分布)を有する。
【0013】
具体的には、実施形態に係る焼結用金属粉末について、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により体積基準の粒度分布を測定し、この粒度分布を、横軸を粒径、縦軸を相対粒子量とする直交座標系にプロットして粒度分布曲線PSDを描く。このようにして作成された粒度分布曲線PSDは、粒径D1[μm]に極大値を持つ第1ピーク部P1と、粒径D1より大きい粒径D2[μm]に極大値を持つ第2ピーク部P2と、を有する。レーザー回折散乱式粒度分布測定装置としては、例えば、日機装株式会社製マイクロトラック、HRA9320-X100等が挙げられる。
【0014】
図1は、実施形態に係る焼結用金属粉末について得られた粒度分布曲線PSDの一例を示す図である。なお、図1の横軸は対数軸である。
図1に示す粒度分布曲線PSDは、粒径D1[μm]に極大値を持つ第1ピーク部P1と、前記粒径D1より大きい粒径D2[μm]に極大値を持つ第2ピーク部P2と、を有する曲線である。
【0015】
この粒度分布曲線PSDは、第1ピーク部P1の高さH1を1とするとき、第2ピーク部P2の高さH2が0.60以上3.00以下になっている。また、粒径D2は、30.0μm以下である。さらに、実施形態に係る焼結用金属粉末は、撮像画像から算出される平均円形度が0.70以上1.00以下である。
【0016】
このような構成によれば、バイモーダル分布が最適化されているため、第1ピーク部P1に属する粒子(小径粒子)と第2ピーク部P2に属する粒子(大径粒子)との量的バランスが良好であり、高い充填性および高い流動性を有する焼結用金属粉末が得られる。また、円形度が高い粒子を高い比率で含んでいることから、充填性および流動性をより高めることができる。さらに、粒径D2が前記範囲内に設定されていることで、粒径D1はより小径になることから、焼結用金属粉末には高い焼結性が付与される。その結果、高い充填性、高い流動性および高い焼結性を有する焼結用金属粉末が得られる。
【0017】
なお、充填性および流動性は、焼結用金属粉末およびバインダーを含む組成物を成形する場合に、成形体の密度および寸法精度を左右する。成形体は、例えばプレス成形体、射出成形体、押出成形体等であってもよいし、3Dプリンターを用いた積層造形法により作製される積層造形体であってもよい。焼結用金属粉末を用いることで、これらの成形体の密度および寸法精度を高めることができる。特に、積層造形法のうち、粉末床の形成と粉末の結合とを繰り返す方法、例えば粉末焼結積層造形法、バインダージェット法では、粉末床の充填性が重要になるため、実施形態に係る焼結用金属粉末が好適である。そして、得られた成形体を用いることにより、強度や剛性等の機械的強度に優れ、かつ、寸法精度にも優れる金属焼結体を製造することができる。
【0018】
また、第1ピーク部P1の高さH1を1とするとき、第2ピーク部P2の高さH2の比H2/H1は、前述したように0.60以上3.00以下とされるが、0.70以上2.50以下であることが好ましく、0.80以上2.00以下であることがより好ましく、0.80以上1.20以下であるのがさらに好ましい。これにより、小径粒子と大径粒子との量的バランスが特に良好になり、より高い充填性および流動性を有する焼結用金属粉末が得られる。なお、高さH1とは、粒度分布曲線PSDが描かれている直交座標系の縦軸に沿って、原点から第1ピーク部P1のピークトップまでの高さのことをいう。また、高さH2とは、縦軸に沿って、原点から第2ピーク部P2のピークトップまでの高さのことをいう。
【0019】
なお、高さH1に対する高さH2の比H2/H1が前記下限値を下回ると、小径粒子の体積比率が大きくなりすぎるため、小径粒子と大径粒子の量的バランスが崩れ、充填性および流動性が低下する。一方、高さH1に対する高さH2の比H2/H1が前記上限値を上回ると、大径粒子の体積比率が大きくなりすぎるため、前述した量的バランスが崩れやすくなり、充填性および流動性が低下する。また、全体として粒径が過大になるため、焼結用金属粉末の焼結性が低下する。
【0020】
また、粒径D2は、前述したように30.0μm以下とされるが、10.0μm以上25.0μm以下であるのが好ましく、20.0μm以上25.0μm以下であるのがより好ましい。これにより、表面粗さが小さく、寸法精度が高い金属焼結体を製造可能な焼結用金属粉末が得られる。
【0021】
なお、粒径D2が前記上限値を上回ると、全体として粒径が過大になるため、焼結用金属粉末の充填性および焼結性が低下する。また、製造される金属焼結体の表面粗さが大きく、寸法精度が低くなる。一方、粒径D2が前記下限値を下回ってもよいが、その場合、粒径D1との差が小さくなりすぎたり、粒径D1をより小さくする必要が生じたりするおそれがある。そうすると、焼結用金属粉末の充填性および流動性が低下するおそれがある。
【0022】
一方、粒径D1は、0.5μm以上15.0μm以下であるのが好ましく、1.0μm以上10.0μm以下であるのがより好ましく、2.0μm以上5.0μm以下であるのがさらに好ましい。これにより、表面粗さが小さく、寸法精度が高い金属焼結体を製造可能な焼結用金属粉末が得られる。
【0023】
また、焼結用金属粉末は、前述したように平均円形度が0.70以上1.00以下とされるが、好ましくは0.75以上1.00以下とされ、より好ましくは0.77以上1.00以下とされる。なお、平均円形度が前記下限値を下回ると、焼結用金属粉末を構成する粒子の転動性が低下するため、焼結用金属粉末の充填性および流動性の少なくとも一方が低下する。
【0024】
焼結用金属粉末が含む粒子の円形度は、次のようにして測定される。
まず、走査型電子顕微鏡(SEM)で複数の粒子が写った画像(二次電子像)を撮像する。次に、得られた画像を画像処理ソフトウェアに読み込ませる。画像処理ソフトウェアには、例えば、株式会社マウンテック製の画像解析式粒度分布測定ソフトウェア「Mac-View」等が用いられる。なお、1つの画像に50~100個の粒子が写るように、撮像倍率を調整する。そして、合計300個以上の粒子像が得られるように、複数枚の画像を取得する。
次に、ソフトウェアを用いて、各粒子像の円形度を算出し、平均値を求める。得られた平均値が、粒子の撮像画像から算出される平均円形度となる。
【0025】
また、粒径D1を1とするとき、粒径D2は、特に限定されないが、5.0以上9.0以下であるのが好ましく、6.0以上8.0以下であるのがより好ましく、7.0以上7.7以下であるのがさらに好ましい。粒径D1に対する粒径D2の比D2/D1が前記範囲内であれば、粒径D1と粒径D2のバランスが良好になる。これにより、大径粒子同士の隙間に小径粒子が入り込んで充填率を高めやすくなる。また、粒子同士の接触点が多くなり、焼結現象が起こりやすくなる。その結果、焼結用金属粉末の充填性および焼結性を高めることができる。
【0026】
なお、粒径D1に対する粒径D2の比D2/D1が前記下限値を下回ると、この比が小さくなりすぎるため、大径粒子同士の隙間に小径粒子が入り込みにくくなり、充填率が低下するおそれがある。一方、粒径D1に対する粒径D2の比D2/D1が前記上限値を上回ると、隙間が大きくなりすぎるため、充填率が低下するとともに、大径粒子の焼結性が低下するおそれがある。
【0027】
さらに、図1に示す粒度分布曲線PSDは、粒径D1と粒径D2との間の粒径D3に極小値を持つボトム部Bを有する。第1ピーク部P1の高さH1を1とするとき、ボトム部Bの高さH3は、0.10以下であるのが好ましく、0.01以上0.05以下であるのがより好ましい。高さH3とは、粒度分布曲線PSDが描かれている直交座標系の縦軸に沿って、原点からボトム部Bの底までの高さのことをいう。
【0028】
このような粒度分布曲線PSDを示す焼結用金属粉末では、粒径D1と粒径D2のバランスがより良好になり、さらに高い充填性および高い焼結性を有する焼結用金属粉末が得られる。
【0029】
なお、高さH1に対する高さH3の比H3/H1が前記上限値を上回ると、粒径D1と粒径D2との差が小さくなるため、焼結用金属粉末の充填性が低下するとともに、粒子同士の接触点が減少し、焼結性が低下するおそれがある。一方、高さH1に対する高さH3の比H3/H1が前記下限値を下回ってもよいが、粒径D1と粒径D2との差が大きくなるため、粒径D1が小さくなりすぎるか、または、粒径D2が大きくなりすぎてしまい、流動性または焼結性の低下を招くおそれがある。
【0030】
また、粒径D1を1とするとき、粒径D3は、特に限定されないが、1.5以上5.0以下であることが好ましく、2.0以上4.0以下であることがより好ましく、2.5以上3.5以下であることがさらに好ましい。粒径D1に対する粒径D3の比D3/D1が前記範囲内であれば、粒径D1と粒径D2のバランスも特に良好になり、さらに高い充填性および高い焼結性を有する焼結用金属粉末が得られる。
【0031】
なお、粒径D1に対する粒径D3の比D3/D1が前記下限値を下回ると、粒径D1と粒径D2との差が小さくなるため、焼結用金属粉末の流動性および焼結性が低下するおそれがある。一方、粒径D1に対する粒径D3の比D3/D1が前記上限値を上回ると、粒径D1と粒径D2との差が大きくなるため、粒径D1が小さくなりすぎるか、または、粒径D2が大きくなりすぎてしまい、流動性または焼結性の低下を招くおそれがある。
【0032】
なお、焼結用金属粉末についての粒度分布曲線が有するピーク部の数は、2つに限定されず、3つ以上であってもよい。すなわち、焼結用金属粉末について粒度分布曲線を描いたとき、その粒度分布曲線はマルチモーダル分布を有していてもよい。粒度分布曲線が3つ以上のピーク部を有する場合、隣り合う2つのピーク部のうち、一方が第1ピーク部P1に相当し、他方が第2ピーク部P2に相当していればよい。また、その場合、残る1つ以上のピーク部については、その高さが、前述した高さH1、H2の双方より低ければよく、好ましくは低い方の半分未満とされ、より好ましくは低い方の1/4以下とされる。
【0033】
2.焼結用金属粉末の構成材料
焼結用金属粉末の構成材料は、特に限定されず、いかなる金属材料であってもよい。一例としては、Fe、Ni、Co、Cu、Ag、Al、Ti、Mo、W、Ta、Zr等の単体、またはこれらを主成分とする合金、金属間化合物等が挙げられる。
【0034】
このうち、Fe系合金としては、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、析出硬化系ステンレス鋼のようなステンレス鋼、低炭素鋼、炭素鋼、耐熱鋼、ダイス鋼、高速度工具鋼、Fe-Ni系合金、Fe-Ni-Co系合金等が挙げられる。
Ni系合金としては、例えば、Ni-Cr-Fe系合金、Ni-Cr-Mo系合金、Ni-Fe系合金等が挙げられる。
Co系合金としては、例えば、Co-Cr系合金、Co-Cr-Mo系合金、Co-Al-W系合金等が挙げられる。
Ti系合金としては、例えば、Tiと、Al、V、Nb、Zr、Ta、Mo等の金属元素との合金が挙げられ、具体的には、Ti-6Al-4V、Ti-6Al-7Nb等が挙げられる。
【0035】
なお、焼結用金属粉末は、単一の組成を有する粒子の集合体であってもよいし、互いに異なる組成を有する粒子、つまり2種類以上の粒子の集合体であってもよい。後者の場合、各組成に由来する特性を併せ持つ金属焼結体を製造可能な焼結用金属粉末が得られる。
【0036】
また、焼結用金属粉末は、非金属粉末と混合された状態で用いられてもよい。非金属粉末としては、例えばガラス粉末、セラミック粉末のような無機粉末が挙げられる。
【0037】
このうち、セラミック粉末の構成材料としては、例えば、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ホウ素、酸化イットリウムのような酸化物系セラミックス、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化チタン、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステンのような非酸化物系セラミックス等が挙げられる。
【0038】
また、焼結用金属粉末は、任意の添加剤と混合された状態で用いられてもよい。添加剤としては、例えば、防錆剤、酸化防止剤等が挙げられる。
また、焼結用金属粉末を構成する各粒子には、表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、例えば、カップリング剤処理等が挙げられる。カップリング剤は、官能基および加水分解性基を有し、粒子の表面に官能基を導入するために用いられる。官能基としては、例えば、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、アミノ基、環状構造含有基、フルオロアルキル基、フルオロアリール基、ニトロ基、アシル基、シアノ基等が挙げられる。
【0039】
3.焼結用金属粉末の各種特性
焼結用金属粉末の平均粒径は、特に限定されないが、3.0μm以上30.0μm以下であるのが好ましく、4.0μm以上20.0μm以下であるのがより好ましく、5.0μm以上15.0μm以下であるのがさらに好ましい。これにより、充填性、流動性および焼結性をそれぞれさらに高めた焼結用金属粉末が得られる。また、このような焼結用金属粉末を用いることにより、表面粗さが小さく、寸法精度が高い金属焼結体が得られる。
【0040】
焼結用金属粉末の平均粒径とは、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて取得された焼結用金属粉末の体積基準での累積粒度分布において、頻度の累積が小径側から50%である粒子径D50のことをいう。
【0041】
なお、焼結用金属粉末の平均粒径が前記下限値を下回ると、焼結用金属粉末が細かくなりすぎるため、充填性が低下するおそれがある。一方、焼結用金属粉末の平均粒径が前記上限値を上回ると、焼結用金属粉末が粗くなりすぎるため、焼結性が低下するおそれがある。
【0042】
焼結用金属粉末の真密度を1とするとき、焼結用金属粉末のタップ密度は、特に限定されないが、0.65以上であるのが好ましく、0.67以上0.80以下であるのがより好ましく、0.69以上0.77以下であるのがさらに好ましい。真密度に対するタップ密度の比が前記範囲内であれば、充填性および流動性が十分に高い焼結用金属粉末が得られる。
【0043】
なお、真密度に対するタップ密度の比が前記下限値を下回ると、焼結用金属粉末の充填性または流動性が不足しているおそれがある。一方、真密度に対するタップ密度の比が前記上限値を上回ってもよいが、製造バラつきが大きくなるおそれがあるため、前記上限値以下であるのが好ましい。
【0044】
なお、焼結用金属粉末のタップ密度(固めかさ密度)は、焼結用金属粉末にカップリング剤処理を施した後、ホソカワミクロン株式会社製、粉体特性評価装置、パウダテスタ(登録商標)PT-Xにより測定される。カップリング剤には、フェニルトリメトキシシランが用いられる。
【0045】
4.焼結用金属粉末の製造方法
前述した焼結用金属粉末は、例えば、第1粉末と、第1粉末より平均粒径が大きい第2粉末と、を混合する方法で製造される。
【0046】
第1粉末および第2粉末は、それぞれいかなる方法で製造された粉末であってもよい。製造方法の例としては、例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、回転水流アトマイズ法等の各種アトマイズ法の他、還元法、カルボニル法、粉砕法等が挙げられる。
【0047】
また、第1粉末および第2粉末は、製造方法が互いに同じであってもよいが、互いに異なっていてもよい。
【0048】
また、このようにして製造された第1粉末および第2粉末に対し、必要に応じて分級を行ってもよい。これにより、第1粉末および第2粉末の各粒度分布を目的とする分布に調整することができる。その結果、焼結用金属粉末の粒度分布曲線を目的とする形状に制御することができる。分級の方法としては、例えば、ふるい分け分級、慣性分級、遠心分級、風力分級のような乾式分級、沈降分級のような湿式分級等が挙げられる。
また、第1粉末および第2粉末には、例えば、加熱処理、プラズマ処理、オゾン処理、還元処理等の各種前処理が施されていてもよい。
【0049】
5.金属焼結体の用途
焼結用金属粉末は、各種成形法により成形された後、脱脂、焼結されることにより、金属焼結体となる。得られる金属焼結体は、例えば、自動車用部品、自転車用部品、鉄道車両用部品、船舶用部品、航空機用部品、宇宙輸送機用部品のような輸送機器用部品、パソコン用部品、携帯電話端末用部品、タブレット端末用部品、ウェアラブル端末用部品のような電子機器用部品、冷蔵庫、洗濯機、冷暖房機のような電気機器用部品、工作機械、半導体製造装置のような機械用部品、原子力発電所、火力発電所、水力発電所、製油所、化学コンビナートのようなプラント用部品、時計用部品、金属食器、宝飾品、眼鏡フレームのような装飾品、医療用メス、鉗子のような医療器具、の全体または一部を構成する材料として用いられる。
【0050】
6.実施形態が奏する効果
以上のように、実施形態に係る焼結用金属粉末は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により体積基準の粒度分布を測定し、この粒度分布を、横軸を粒径とし、縦軸を相対粒子量とする直交座標系にプロットして粒度分布曲線PSDを描いたとき、この粒度分布曲線PSDが、第1ピーク部P1と、第2ピーク部P2と、を有する。第1ピーク部P1は、粒径D1[μm]に極大値を持つ。第2ピーク部P2は、粒径D1より大きい粒径D2[μm]に極大値を持つ。また、粒径D2は、30.0μm以下である。さらに、第1ピーク部P1の高さH1を1とするとき、第2ピーク部P2の高さH2は、0.60以上3.00以下である。また、撮像画像から算出される平均円形度が0.70以上1.00以下である。
【0051】
このような構成によれば、粒度分布曲線PSDのバイモーダル分布が最適化されているため、小径粒子と大径粒子との量的バランスが良好であり、高い充填性および高い流動性を有する焼結用金属粉末が得られる。また、円形度が高い粒子を高い比率で含んでいることから、充填性および流動性をより高めることができる。さらに、粒径D2が前記範囲内に設定されていることで、粒径D1はより小径になることから、焼結用金属粉末には高い焼結性が付与される。その結果、高い充填性、高い流動性および高い焼結性を有する焼結用金属粉末が得られる。
【0052】
また、粒度分布曲線PSDでは、第1ピーク部P1の高さH1を1とするとき、第2ピーク部P2の高さH2が0.80以上2.00以下であることが好ましい。これにより、小径粒子と大径粒子との量的バランスが特に良好になり、より高い充填性および流動性を有する焼結用金属粉末が得られる。
【0053】
また、粒度分布曲線PSDでは、粒径D1を1とするとき、粒径D2が5.0以上9.0以下であることが好ましい。これにより、粒径D1と粒径D2のバランスが良好になる。その結果、大径粒子同士の隙間に小径粒子が入り込んで充填率を高めやすくなる。また、粒子同士の接触点が多くなり、焼結現象が起こりやすくなる。その結果、焼結用金属粉末の充填性および焼結性を高めることができる。
【0054】
また、粒度分布曲線PSDでは、粒径D2が、10.0μm以上25.0μm以下であることが好ましい。これにより、表面粗さが小さく、寸法精度が高い金属焼結体を製造可能な焼結用金属粉末が得られる。
【0055】
また、粒度分布曲線PSDは、粒径D1と粒径D2との間の粒径D3に極小値を持つボトム部Bを有する。第1ピーク部P1の高さH1を1とするとき、ボトム部Bの高さH3は、0.10以下であることが好ましい。これにより、粒径D1と粒径D2のバランスがより良好になり、さらに高い充填性および高い焼結性を有する焼結用金属粉末が得られる。
【0056】
また、焼結用金属粉末の真密度を1とするとき、焼結用金属粉末のタップ密度が0.65以上であることが好ましい。真密度に対するタップ密度の比が前記範囲内であれば、充填性および流動性が十分に高い焼結用金属粉末が得られる。
【0057】
以上、本発明の焼結用金属粉末について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、焼結用金属粉末は、前述した粒子同士が凝集してなる集合体、または結着されてなる集合体の形態をなしていてもよい。
【実施例0058】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
7.焼結用金属粉末の製造
7.1.サンプルNo.1
構成材料が同じで平均粒径の異なる第1粉末および第2粉末を用意し、これらを混合して、焼結用金属粉末を得た。得られた焼結用金属粉末の粒度分布曲線を表すパラメーターおよび平均円形度を表1に示す。なお、第1粉末および第2粉末には、水アトマイズ法により製造された析出硬化系ステンレス鋼17-4PH(SUS630)の粉末を用いた。
【0059】
7.2.サンプルNo.2~17
焼結用金属粉末の粒度分布曲線を表すパラメーターおよび平均円形度を表1に示すように変更した以外は、サンプルNo.1と同様にして焼結用金属粉末を得た。
【0060】
7.3.サンプルNo.18
表1に示す粒径D1の第1粉末のみを、サンプルNo.18の焼結用金属粉末とした。
【0061】
7.4.サンプルNo.19
表1に示す粒径D2の第2粉末のみを、サンプルNo.19の焼結用金属粉末とした。
【0062】
【表1】
【0063】
7.5.サンプルNo.20~29
焼結用金属粉末の粒度分布曲線を表すパラメーターおよび平均円形度を表2に示すように変更した以外は、サンプルNo.1と同様にして焼結用金属粉末を得た。
【0064】
【表2】
【0065】
なお、表1および表2においては、各サンプルNo.の焼結用金属粉末のうち、本発明に相当するものについては「実施例」、本発明に相当しないものについては「比較例」とした。
【0066】
8.焼結用金属粉末の評価
各実施例および各比較例の焼結用金属粉末について、タップ密度を測定した。そして、構成材料の真密度7.78g/cmに対するタップ密度の比を算出した。測定結果および算出結果を表3および表4に示す。
【0067】
9.金属焼結体の評価
各実施例および各比較例の焼結用金属粉末を用い、バインダージェット法により、直方体形状をなす積層造形体を作製した。作製した積層造形体のサイズは、長さ40mm、幅20mm、厚さ5mmであった。バインダー溶液には、ステアリン酸エマルションを用いた。
【0068】
続いて、作製した積層造形体(成形体)に脱脂処理を施して脱脂した後、焼成炉にて焼結させた。焼結条件は、アルゴン雰囲気において、1100℃×3時間とした。これにより、金属焼結体を得た。
【0069】
9.1.相対密度
得られた金属焼結体の密度を測定した。次に、用いた焼結用金属粉末の真密度に対する、測定した密度の相対値、すなわち相対密度を算出した。そして、算出した相対密度を以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を表3および表4に示す。
【0070】
A:相対密度が99.5%以上である
B:相対密度が99.0%以上99.5%未満である
C:相対密度が98.5%以上99.0%未満である
D:相対密度が98.0%以上98.5%未満である
E:相対密度が97.5%以上98.0%未満である
F:相対密度が97.5%未満である
【0071】
9.2.引張荷重
得られた金属焼結体を長さ方向に引っ張る荷重試験を行った。次に、破断するまでの最大荷重を引張荷重として測定した。次に、測定した引張荷重について、サンプルNo.19の焼結用金属粉末を用いて作製した金属焼結体の引張荷重(基準値)に対する相対値を算出した。そして、算出した相対値を以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を表3および表4に示す。
【0072】
A:引張荷重の相対値が基準値の120%以上である
B:引張荷重の相対値が基準値の115%以上120%未満である
C:引張荷重の相対値が基準値の110%以上115%未満である
D:引張荷重の相対値が基準値の105%以上110%未満である
E:引張荷重の相対値が基準値の100%超105%未満である
F:引張荷重の相対値が基準値の100%以下である
【0073】
9.3.表面粗さ
得られた金属焼結体の最大面について、表面粗さを測定した。この表面粗さは、算術平均粗さRaのことであり、JIS B 0671-1:2002に規定された方法に準じて測定した。次に、測定した表面粗さについて、サンプルNo.19の焼結用金属粉末を用いて作製した金属焼結体の表面粗さ(基準値)に対する相対値を算出した。そして、算出した相対値を以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を表3および表4に示す。
【0074】
A:表面粗さの相対値が基準値の80%未満である
B:表面粗さの相対値が基準値の80%以上85%未満である
C:表面粗さの相対値が基準値の85%以上90%未満である
D:表面粗さの相対値が基準値の90%以上95%未満である
E:表面粗さの相対値が基準値の95%以上100%未満である
F:表面粗さの相対値が基準値の100%以上である
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
【0077】
表3および表4から明らかなように、各実施例の焼結用金属粉末は、真密度に対するタップ密度の比が良好であった。このことから、各実施例の焼結用金属粉末は、充填性および流動性に優れることが認められる。
【0078】
また、各実施例の焼結用金属粉末を用いて作製した金属焼結体は、相対密度および引張荷重が良好であった。つまり、各実施例の焼結用金属粉末を用いることで、充填率の高い成形体を製造することができること、この成形体を焼結させることで高密度の金属焼結体を製造できること、および、かかる金属焼結体は機械的強度が高いこと、が明らかとなった。このことから、各実施例の焼結用金属粉末は、充填性、流動性および焼結性に優れることが認められる。
【0079】
さらに、各実施例の焼結用金属粉末を用いて作製された金属焼結体は、表面粗さが良好、つまり相対的に平滑であった。これも、各実施例の焼結用金属粉末が、充填性に優れることを裏付けている。
【符号の説明】
【0080】
B…ボトム部、D1…粒径、D2…粒径、D3…粒径、H1…高さ、H2…高さ、H3…高さ、P1…第1ピーク部、P2…第2ピーク部、PSD…粒度分布曲線
図1