(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064476
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】虚像表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 27/02 20060101AFI20240507BHJP
G02B 3/14 20060101ALI20240507BHJP
H04N 5/64 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
G02B3/14
H04N5/64 511A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173085
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】武田 高司
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 淳
【テーマコード(参考)】
2H199
【Fターム(参考)】
2H199CA12
2H199CA25
2H199CA27
2H199CA30
2H199CA46
2H199CA47
2H199CA48
2H199CA53
2H199CA58
2H199CA59
2H199CA62
2H199CA63
2H199CA64
2H199CA65
2H199CA74
2H199CA77
2H199CA91
2H199CA96
2H199CA97
(57)【要約】
【課題】焦点や輻輳の変更に関して、応答性を高めることや機構の小型化を図ること。
【解決手段】虚像表示装置100は、虚像を表示する第1画像表示装置2aと、虚像を表示する第2画像表示装置2bと、装着者USの視線方向の物体距離を検出する視線方向距離検出装置70aと、物体距離に応じて第1画像表示装置2a及び第2画像表示装置2bによる表示状態を制御する画像表示制御部DCと、装着者USの眼の前方に配置され第1画像表示装置2a及び第2画像表示装置2bから射出される画像光MLのs偏光成分に対して焦点距離が変化する液晶レンズ41とを備える。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
虚像を表示する第1画像表示装置と、
虚像を表示する第2画像表示装置と、
装着者の視線方向の物体距離を検出する視線方向距離検出装置と、
前記物体距離に応じて前記第1画像表示装置及び前記第2画像表示装置による表示状態を制御する画像表示制御部と、
装着者の眼の前方に配置され前記第1画像表示装置及び前記第2画像表示装置から射出される画像光の偏光成分に対して焦点距離が変化する液晶レンズと
を備える、虚像表示装置。
【請求項2】
前記液晶レンズは、中心部と周辺部とで印可電圧が異なり、複屈折の分布状態の変更によりレンズ効果を変更する、請求項1に記載の虚像表示装置。
【請求項3】
前記液晶レンズは、前記印可電圧が共通する複数の円形又は長円の輪帯部分を有する、請求項2に記載の虚像表示装置。
【請求項4】
前記画像表示制御部は、前記物体距離に応じて前記第1画像表示装置及び前記第2画像表示装置による表示画像の輻輳角を調整する、請求項1に記載の虚像表示装置。
【請求項5】
前記画像表示制御部は、前記物体距離に応じて前記液晶レンズのパワーを調整する、請求項1に記載の虚像表示装置。
【請求項6】
前記表示画像の輻輳角を調整する操作装置を備える、請求項4に記載の虚像表示装置。
【請求項7】
前記液晶レンズのパワーを調整する操作装置を備える、請求項5に記載の虚像表示装置。
【請求項8】
前記第1画像表示装置及び前記第2画像表示装置は、表示素子と、投射光学系と、コンバイナーとをそれぞれ備え、
前記液晶レンズは、前記コンバイナーを通過した外界光を、レンズ効果のない状態で通過させる、請求項1に記載の虚像表示装置。
【請求項9】
前記コンバイナーは、偏光ビームスプリッターを有し、p偏光の外界光を透過させ、
前記液晶レンズは、s偏光の前記画像光に対して位相差を与えて結像状態を調整し、前記p偏光に対して位相差を与えない、請求項8に記載の虚像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、虚像の観察を可能にする虚像表示装置に関し、特に物体距離に応じて表示状態を制御する虚像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
虚像表示装置として、外界光を視認可能にする画像表示部と、使用者の視線方向及び視線方向の対象物までの距離を検出する視線方向距離検出部と、画像表示部の表示動作を制御する表示制御部とを備え、画像表示部が、投射される表示画像の輻輳と焦点とを変更する焦点輻輳変更部を有し、表示制御部が、視線方向距離検出部の検出した視線方向と対象物までの距離とに基づいて、焦点輻輳変更部を制御するものが公知となっている(特許文献1)。この装置では、観察者の視認している外界の対象物に対して対象物と略同じ輻輳かつフォーカス状態の画像を表示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記装置では、焦点輻輳変更部において、相対的に変位する一対のレンズや、光学面形状が変化する液体レンズといった可動部が必要となり、応答性を高めることや機構の小型化が容易でない。また、焦点輻輳変更部が、光線束が比較的細くなっている投射部に組み込まれており、面精度の低下を生じさせやすい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面における虚像表示装置は、虚像を表示する第1画像表示装置と、虚像を表示する第2画像表示装置と、装着者の視線方向の物体距離を検出する視線方向距離検出装置と、物体距離に応じて第1画像表示装置及び第2画像表示装置による表示状態を制御する画像表示制御部と、装着者の眼の前方に配置され第1画像表示装置及び第2画像表示装置から射出される画像光の偏光成分に対して焦点距離が変化する液晶レンズとを備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】第1実施形態の虚像表示装置の装着状態を説明する外観斜視図である。
【
図3】表示部の光学的構造を説明する側方断面図である。
【
図4】液晶レンズの構造及び機能を説明する図である。
【
図5】液晶レンズに形成される電極パターンと、電極パターンの変形例とを説明する図である。
【
図7】制御回路等を含む回路系を説明するブロック図である。
【
図8】制御装置によって制御される輻輳角と焦点面との関係を説明する図である。
【
図9】輻輳の変化に伴う表示画像の変更を説明する図面である。
【
図10】虚像表示装置の動作を説明するチャートである。
【
図12】第2実施形態の虚像表示装置を説明する図である。
【
図13】第3実施形態の虚像表示装置を説明する図である。
【
図14】第4実施形態の虚像表示装置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[第1実施形態]
以下、
図1、2等を参照して、本発明の第1実施形態に係る虚像表示装置について説明する。
【0008】
図1は、ヘッドマウントディスプレイ(以下、HMDとも称する。)200の装着状態を説明する斜視図である。HMD200は、これを装着する観察者又は装着者USに虚像としての映像を認識させる。
図1等において、X、Y、及びZは、直交座標系であり、+X方向は、HMD200又は虚像表示装置100を装着した観察者又は装着者USの両眼EYの並ぶ横方向に対応し、+Y方向は、装着者USにとっての両眼EYの並ぶ横方向に直交する上方向に相当し、+Z方向は、装着者USにとっての前方向又は正面方向に相当する。±Y方向は、鉛直軸又は鉛直方向に平行になっている。
【0009】
HMD200は、右眼用の第1表示装置100Aと、左眼用の第2表示装置100Bと、表示装置100A,100Bを支持するテンプル状の一対の支持装置100Cと、情報端末であるユーザー端末88とを備える。第1表示装置100Aは、上部に配置される第1表示駆動部102aと、メガネレンズ状で眼前を覆う第1コンバイナー103aと、第1コンバイナー103aをその前方から覆う光透過カバー104aとで構成される。第2表示装置100Bも同様に、上部に配置される第2表示駆動部102bと、メガネレンズ状で眼前を覆う第2コンバイナー103bと、第2コンバイナー103bをその前方から覆う光透過カバー104bとで構成される。支持装置100Cは、装着者USの頭部に装着される装着部材であり、外観上一体化されている表示駆動部102a,102bを介して一対のコンバイナー103a,103bの上端側と、一対の光透過カバー104a,104bの上端側とを支持している。一対の表示駆動部102a,102bを組み合わせたものを駆動装置102と呼ぶ。一対の光透過カバー104a,104bを組み合わせたものをシェード104と呼ぶ。
【0010】
図2は、HMD200の平面図であり、駆動装置102のケースCSの内部を透視表示したものである。第1表示装置100Aは、第1画像表示装置2aとして、第1表示駆動部102aの前方部分に配置された第1表示素子11aと、第1表示素子11aの後方に配置された第1投射光学系12aと、第1投射光学系12aの下方に配置されたコンバイナー103aとを備え、焦点距離変更装置40として、コンバイナー103aの後方に配置された液晶レンズ41を備える。第1表示素子11aは、画像光MLを形成し、第1投射光学系12aは、第1表示素子11aからの画像光MLを受け、コンバイナー103aは、第1投射光学系12aから射出される画像光MLを眼EYに向けて部分的に反射する。第2表示装置100Bは、第2画像表示装置2bとして、第2表示駆動部102bの前方部分に配置された第2表示素子11bと、第2表示素子11bの後方に配置された第2投射光学系12bと、第2投射光学系12bの下方に配置されたコンバイナー103bとを備え、焦点距離変更装置40として、コンバイナー103aの後方に配置された液晶レンズ41を備える。第1表示装置100Aと第2表示装置100Bとは、光学的に同一又は左右反転させたものである。
【0011】
駆動装置102には、表示装置100A,100Bを構成する投射光学系12a,12b等の他に、測距部71と、視線検出部72a,72bとが組み込まれている。ここで、測距部71と視線検出部72a,72bとは、使用者の視線方向及び視線方向にある対象物までの距離を検出する視線方向距離検出装置70aとして機能する。
【0012】
測距部71は、視線方向距離検出装置70aの一部として、観察者が観察する外界像の各部までの距離を計測可能にする。測距部71は、各種の測距原理を利用した機構とでき、例えばフラッシュライダー(flash LiDAR)のような、赤外線を投光してイメージセンサーで検出する際に、位相差や遅延時間を検出するものを用いることができる。また、視差から距離を決定するステレオカメラを用いることもできる。
【0013】
一方の視線検出部72aは、視線方向距離検出装置70aの一部として、観察者の右側の眼EYの向き、つまり右眼の視線方向を検出する。視線検出部72aは、例えばLEDといった赤外又は可視用の光源75と、光源75で照明された眼EYを撮影するカメラ76とを有し、目尻、角膜反射等を基準として、虹彩その他部分の動きを検出する。上記視線検出部72は、HMD200又は虚像表示装置100を装着する観察者ごとに視線方向のキャリブレーションを行って適合性を向上させるようなものであってもよい。他方の視線検出部72bは、観察者の左側の眼EYの向き、つまり左眼の視線方向を検出するものであり、上記一方の視線検出部72aと同様の構造を有する。
【0014】
両視線検出部72a,72bの出力(例えば平均値)を利用することで、観察者の視線方向が分かる。測距部71は、視線の方向又は角度に対して測距を行うことで、観察者が注視する対象物までの対象距離を測定することができる。測距部71が距離画像を計測するものである場合、測距部71によって得た距離画像と、視線検出部72a,72bによって得た視線の方向又は角度との関係から、観察者が注視する対象物を特定することができ、注視する対象物までの距離(以下、対象距離とも呼ぶ)を測定することができる。
【0015】
図3は、第1表示装置100Aの構造を説明する側方断面図である。第1表示装置100Aは、第1表示素子11aと第1表示部20aと回路部材80aとを備える。第1表示素子11aは、画像光生成装置であり、映像素子とも呼ぶ。第1表示部20aは、虚像を形成する結像光学系であり、投射レンズ21と、プリズムミラー22と、偏光板23と、シースルーミラー24と、液晶レンズ41とを有する。第1表示部20aのうち、投射レンズ21、プリズムミラー22、及び偏光板28は、第1表示素子11aからの画像光MLが入射する第1投射光学系12aとして機能し、シースルーミラー24は、
図1等に示す第1コンバイナー103aに相当し、第1投射光学系12aから射出される画像光MLを瞳位置PP又は眼EYに向けて部分的に反射する。第1表示部20aにおいて、第1投射光学系12aと偏光板23とシースルーミラー24と液晶レンズ41とは、図示を省略するフレーム部材によってアライメントされた状態で一体化されている。
【0016】
第1表示装置100Aにおいて、第1表示素子11aは、自発光型の画像光生成装置である。第1表示素子11aは、画像光MLを第1投射光学系12aに射出する。第1表示素子11aは、例えば有機EL(有機エレクトロルミネッセンス、Organic Electro-Luminescence)ディスプレイであり、2次元の表示面11dにカラーの静止画又は動画を形成する。第1表示素子11aは、回路部材80aに駆動されて表示動作を行う。第1表示素子11aは、有機ELディスプレイに限らず、無機EL、有機LED、LEDアレイ、レーザーアレイ、量子ドット発光型素子等を用いた表示デバイスに置き換えることができる。第1表示素子11aは、自発光型の画像光生成装置に限らず、デジタル・マイクロミラー・デバイスのような光変調素子を光源によって一様に照明することによって画像を形成するものであってもよい。
【0017】
第1表示部20aは、軸外し光学系OSであり、シースルーミラー24及びプリズムミラー22よって、基準面であるYZ面に平行な軸外し面内で光軸AXが折り曲げられている。YZ面に平行で紙面に対応する軸外し面において、投射レンズ21から反射面22bまでの光路部分P1と、反射面22bからシースルーミラー24までの光路部分P2と、シースルーミラー24から瞳位置PPまでの光路部分P3とが、Z字状に2段階で折り返されている。これに対応して、投射レンズ21から反射面22bまでの光軸部分AX1と、反射面22bからシースルーミラー24までの光軸部分AX2と、シースルーミラー24から瞳位置PPまでの光軸部分AX3とは、Z字状に2段階で折り返される配置となっている。シースルーミラー24において、光軸AXが交差する中央箇所の法線は、Z方向に対してθ=40~50°程度の角度をなす。この第1表示部20aでは、第1表示装置100Aを構成する光学素子21,22,23,24が縦方向に高さ位置を変えて配列されることになり、第1表示装置100Aの横幅の増大を防止することができる。さらに、プリズムミラー22等での反射による光路の折り畳みによって、光路部分P1~P3又は光軸部分AX1~AX3がZ字状に2段階で折り返される配置となっており、かつ、光路部分P1,P3又は光軸部分AX1,AX3が比較的水平に近いため、第1表示部20aを上下方向や前後方向に関しても小型化することできる。
【0018】
第1表示部20aのうち、投射レンズ21から反射面22bまでの光路部分P1は、視点を基準とする後方に向かってやや斜め上方向又はZ方向に平行に近い方向に延びている。反射面22bからシースルーミラー24までの光路部分P2は、前方に向かって斜め下方向に延びている。シースルーミラー24から瞳位置PPまでの光路部分P3は、後方に向かってやや斜め上方向又はZ方向に平行に近い方向に延びている。光路部分P3に対応する光軸部分AX3を外界側に延長した射出光軸EXは、前方の+Z方向に平行な中心軸HXに対して10°程度下向きに傾いて延びる。これは、人間の視線が水平方向より下側に約10°傾いた若干の伏し目状態で安定するからである。なお、瞳位置PPに対して水平方向に延びる中心軸HXは、第1表示装置100Aを装着した装着者USが直立姿勢でリラックスして正面に向いて水平方向又は水平線を注視した場合を想定したものとなっている。
【0019】
第1表示部20aのうち、投射レンズ21は、第1レンズ21o、第2レンズ21p、及び第3レンズ21qを含む。投射レンズ21は、第1表示素子11aから射出された画像光MLを受けて、プリズムミラー22に入射させる。投射レンズ21は、第1表示素子11aから射出された画像光MLを平行光束に近い状態に集光する。投射レンズ21を構成する各レンズ21o,21p,21qの入射面及び射出面は、自由曲面又は非球面であり、YZ面に平行で光軸AXと交差する縦方向に関して、光軸AXを挟んで非対称性を有し、横方向又はX方向に関して光軸AXを挟んで対称性を有する。第1レンズ21o、第2レンズ21p、及び第3レンズ21qは、例えば樹脂で形成されるが、ガラス製とすることもできる。投射レンズ21を構成する第1レンズ21o、第2レンズ21p、及び第3レンズ21qの光学面には、反射防止膜を形成することができる。
【0020】
プリズムミラー22は、ミラーとレンズとを複合させた機能を有する屈折反射機能を有する光学部材であり、投射レンズ21からの画像光MLを屈折させつつ反射する。プリズムミラー22は、投射レンズ21側に配置される入射面22aと、光軸AXを折り曲げる反射面22bと、反射面22bに対向して入射面22aとは対称的な方向に配置される射出面22cとを有する。プリズムミラー22を構成する光学面である入射面22aと反射面22bと射出面22cとは、YZ面に平行で光軸AXと交差する縦方向に関して、光軸AXを挟んで非対称性を有し、横方向又はX方向に関して光軸AXを挟んで対称性を有する。プリズムミラー22の光学面、つまり入射面22aと反射面22bと射出面22cとは、自由曲面又は非球面である。プリズムミラー22は、例えば樹脂で形成されるが、ガラス製とすることもできる。反射面22bについては、全反射によって画像光MLを反射するものに限らず、金属膜又は誘電体多層膜からなる反射面とすることもできる。詳細な図示は省略するが、入射面22a及び射出面22c上には、反射防止膜を形成することができる。
【0021】
偏光板23は、透過型の偏光板であり、プリズムミラー22の射出面22cに対向して配置されている。偏光板23は、平行平板である基板の片面上にs偏光透過膜を形成した光学素子であり、画像光MLのうちs偏光成分を高い透過率で透過させ、p偏光成分を吸収又は反射によって実質的に遮断する。第1表示素子11aから射出されプリズムミラー22等を経て偏光板23に入射する画像光MLは、電場の振動方向がYZ面又は紙面に垂直なs偏光と、電場の振動方向がYZ面又は紙面に平行なp偏光とを含む。偏光板23を通過した画像光MLは、YZ面に垂直な振動方向に制限されたs偏光のみを含む偏光となる。
【0022】
シースルーミラー24すなわち第1コンバイナー103aは、プリズムミラー22から射出され偏光板23を通過した画像光MLを反射するとともに外界光OLを部分的に透過させる。シースルーミラー24は、プリズムミラー22からの画像光MLを瞳位置PPに向けて反射する。
【0023】
シースルーミラー24は、眼EY又は瞳孔が配置される瞳位置PPを覆うとともに瞳位置PPに向かって凹形状を有し、外界に向かって凸形状を有する凹面ミラーである。シースルーミラー24は、拡大レンズ又はコリメーターであり、表示面11dの各点から射出された画像光MLの主光線であって、第1投射光学系12aのプリズムミラー22の射出側近傍に中間像IMとして結像した後で広がった画像光MLの主光線を瞳位置PPに収束させる。シースルーミラー24は、凹面ミラーとして、画像光生成装置である第1表示素子11aに形成され第1投射光学系12aによって再結像された中間像IMを拡大視することを可能にする。シースルーミラー24は、中間像IMと瞳位置PPとの間に配置される観点で、画角に相当する有効領域EA以上の広がりを有することが必要となる。
【0024】
シースルーミラー24は、板状体24bの裏面上に透過性反射膜24aを形成した構造を有する半透過型のミラー板である。シースルーミラー24の透過性反射膜24aは、反射面24cとして機能し、s偏光及びp偏光を略均等に反射する。反射面24cは、YZ面に平行で光軸AXと交差する縦方向に関して、光軸AXを挟んで非対称性を有し、横方向又はX方向に関して光軸AXを挟んで対称性を有する。シースルーミラー24の反射面24cは、自由曲面又は非球面である。反射面24cは、有効領域EA以上の広がりを有する。反射面24cが有効領域EAよりも広い外領域に形成されている場合、有効領域EAの背後からの外界像と、上記外領域の背後からの外界像とに関して、見え方の差が生じにくくなる。
【0025】
シースルーミラー24の外側面24o上には、p偏光透過膜である偏光膜24pが形成されている。シースルーミラー24の偏光膜24pや透過性反射膜24aは、外界光OLを部分的に透過させる。これにより、外界のシースルー視が可能になり、外界像に虚像を重ねることができる。この際、板状体24bが数mm程度以下に薄ければ、外界像の倍率変化を小さく抑えることができる。反射面24cの画像光MLや外界光OLに対する反射率は、画像光MLの輝度確保や、シースルーによる外界像の観察を容易にする観点で、想定される画像光MLの入射角範囲(有効領域EAに相当)において10%以上50%以下とする。シースルーミラー24の基材である板状体24bは、例えば樹脂で形成されるが、ガラス製とすることもできる。板状体24bは、これを周囲から支持する支持板61と同一の材料で形成され、支持板61と略同一の厚みを有する。透過性反射膜24aは、例えば膜厚を調整した複数の誘電体層からなる誘電体多層膜で形成される。透過性反射膜24aは、膜厚を調整したAl、Ag等の金属の単層膜又は多層膜であってもよい。透過性反射膜24aは、例えば蒸着を利用した積層によって形成できるが、シート状の反射膜を貼り付けることによっても形成できる。偏光膜24pは、例えばヨウ素吸着させたPVAを特定方向に延伸した樹脂シートであるが、これに限らず、誘電体多層膜で形成されるものであってもよい。
【0026】
シースルーミラー24の前方には、光透過カバー104aが配置されている。光透過カバー104aは、高い光透過性を有する薄板状の部材であり、その上端は、ケースCS(
図2参照)に支持されている。光透過カバー104aは、外界に向かって凸形状を有し、一様な厚みを有する。光透過カバー104aは、画像光MLの結像に影響せず、その曲率は、シースルーミラー24と干渉しない範囲で、任意に設定することができる。光透過カバー104aは、数mm程度以下に薄く、外界像の観察に殆ど影響を与えない。光透過カバー104aは、例えば樹脂で形成され、表面に反射防止膜やハードコート層を形成してもよい。
【0027】
液晶レンズ41は、可変パワーレンズであり、第1画像表示装置2aから射出される画像光MLのs偏光成分に対して機能する。つまり、液晶レンズ41は、画像光MLに対してレンズ機能又はレンズ効果を発揮し、レンズ機能又はレンズ効果を変化させることができる。液晶レンズ41は、画像光MLのs偏光成分に対する複屈折の分布状態の変更によりレンズ効果を変更することができる。液晶レンズ41は、シースルーミラー24と瞳位置PPとの間に配置されている。つまり、液晶レンズ41は、装着者USの眼EYの前方に配置されている。液晶レンズ41は、外部からの制御信号に応じてs偏光である画像光MLに対して作用するパワーを増減変化させることができるが、p偏光である外界光OLに対して作用せず平行平板として機能する。つまり、液晶レンズ41は、コンバイナー103aを通過した外界光OLを、レンズ効果のない状態で通過させる。
【0028】
液晶レンズ41は、眼EYに近い箇所であって画像光MLの光線束が比較的広がった位置に配置されている。このように光線束が比較的広がった位置では、液晶レンズ41による波面の乱れを抑制することが容易であり、画像の劣化を低減することができる。
【0029】
図4は、液晶レンズ41の構造や機能を説明する図である。
図5は、液晶レンズ41に形成される電極パターンを説明する平面図である。
図4中で、上側α1は、液晶レンズ41の概念的な斜視図であり、下側α2は、液晶レンズ41のリタデーションの分布状態を例示するチャートである。
図5中で、領域AR1は、液晶レンズ41に付与される基本的な電極パターンを説明する概念図であり、領域AR2は、液晶レンズ41に付与される変形例の電極パターンを説明する概念図である。液晶レンズ41は、偏光成分に対してレンズの役割をするレンズ、すなわち偏光成分に作用するレンズ機能を有するレンズであり、外部からの制御によってレンズ機能すなわちパワーを変化させることができる。液晶レンズ41は、レンズ部材41aと駆動回路41cとを備える。レンズ部材41aは、対向する2つの光透過基板43a,43bと、光透過基板43a,43bの内面側に設けられた2つの電極層44a,44bと、電極層44a,44bに挟まれた液晶層45とを備える。なお、図示を省略しているが、電極層44a,44bと液晶層45との間には、配向膜が配置され、液晶層45の初期配向状態を調整している。第1の電極層44aは、輪体部分として、XY面に沿って同心に配置される多数の電極47を含み、各電極47は、環状の透明電極である。多数の電極47は、互いに離間し、外側に位置する電極47ほど横幅が狭まっている。電極47の横幅は、レンズ部材41aによる屈折作用の精度に影響する。各電極47は、途中経路上では不図示の絶縁層によって絶縁された配線48を介して駆動回路41cに接続されている。第2の電極層44bは、XY面に平行に延びる共通電極であり、光透過基板43bに沿って一様に形成されている。多数の電極47には、異なる印加電圧V1~V7が印可され、複屈折又はリタデーションの分布状態を変化させる。液晶レンズ41に凸レンズの効果を持たせる場合、印加電圧V1を印加電圧V7よりも高くし、印加電圧V2~V6を電圧範囲V1~V7内で徐々に変化させた値に設定する。この場合、s偏光に関しては、周辺部である最も外側に配置される電極47に印可される電圧が高くなってリタデーションが減少し、比較的大きな位相差が与えられ波面が進み、周辺部である最も外側の電極47に印可される電圧が低くなってリタデーションが元に近い状態に維持され、大きな位相差が与えられず波面が進まない。よって、所定の焦点面FPに設定された像RIから液晶レンズ41に入射する発散する状態の画像光ML
0は、s偏光であり、液晶レンズ41を通過することで凸レンズとしての作用を受け、略コリメートされた状態の画像光ML
PRとなる。画像光ML
PRを逆に辿った仮想的な画像光ML
PIは、無限遠の像からのものと一致する。この場合、外界光OLに対応する外界像を画像光ML
PIに対応する像RIに重ねて表示することができる。以上において、印加電圧V1~V7の相対的比率を略維持して低電圧とした場合、中心と周辺でリタデーションの差が減少し、液晶レンズ41の正のパワーの絶対値が減少する。つまり、液晶レンズ41に高電圧VHを印可することで、パワーの絶対値を増加させることができ、液晶レンズ41に低電圧VLを印可することで、パワーの絶対値を減少させることができ、駆動回路41cによって液晶レンズ41を外部から調整可能な可変焦点レンズとして機能させることができる。
【0030】
図6は、液晶レンズ41を凹レンズとして動作させる場合を説明する図である。
図6中で、上側β1は、液晶レンズ41の概念的な斜視図であり、下側β2は、液晶レンズ41のリタデーションの分布状態を例示するチャートである。液晶レンズ41に凹レンズの効果を持たせる場合、印加電圧V7を印加電圧V1よりも高くし、印加電圧V2~V6を電圧範囲V1~V7内で徐々に変化させた値に設定する。この場合、s偏光に関しては、中心部である最も内側に配置される電極47に印可される電圧が高くなってリタデーションが減少し、大きな位相差が与えられ波面が進み、周辺部である最も外側の電極47に印可される電圧が低くなってリタデーションが元に近い状態に維持され、大きな位相差が与えられず波面が進まない。よって、コリメートされた状態の画像光ML
0は、s偏光であり、液晶レンズ41を通過することで凹レンズとしての作用を受け、発散する状態の画像光ML
PRとなる。画像光ML
PRを逆に辿った仮想的な画像光ML
PIは、所定の焦点面FPから発散するとみなされ、所定の焦点面FPに虚像VIを形成する。多数の電極47への印加電圧V1~V7をゼロとした場合、コリメートされた状態の画像光ML0は、液晶レンズ41をそのまま直進し、平行光線のままに維持される。以上において、印加電圧V1~V7の相対的比率を略維持して低電圧とした場合、中心と周辺でリタデーションの差が減少し、液晶レンズ41の負のパワーの絶対値が減少する。つまり、液晶レンズ41の負のパワーを調整することができる。
【0031】
なお、外界光OLについては、p偏光であり、液晶レンズ41を通過しても、印加電圧V1~V7の値に関わらずリタデーションがXY面内で一様に保たれるので、位相差が与えられず、液晶レンズ41のレンズ作用の影響を受けない。
【0032】
第1の電極層44aを構成する電極47の数は、上記に限らず、液晶レンズ41に要求される精度等を考慮して様々に設定することができる。
【0033】
図5(A)に示す電極パターンは、複数の円形の輪帯部分が同心状に配置されるものであったが、
図5(B)に示すように、複数の楕円形又は長円形の輪帯部分が同心状に配置されるものであってもよい。この場合、眼幅の個体差を許容しつつ焦点調整を行うことが可能になる。
【0034】
以上では、液晶レンズ41が、中心から周辺に向かってリタデーションが徐々に減少又は増加するものであるとして説明したが、液晶レンズ41は、例えば国際公開WO2009/072670号明細書に開示のようにフレネル型のレンズとすることもできる。
【0035】
光路について説明すると、第1表示素子11aからの画像光MLは、投射レンズ21に入射して略コリメートされた状態で投射レンズ21から射出される。投射レンズ21を通過した画像光MLは、プリズムミラー22に入射して入射面22aを屈折されつつ通過し、反射面22bによって100%に近い高い反射率で反射され、射出面22cで再度屈折される。プリズムミラー22からの画像光MLは、偏光板23を経てs偏光のみとなり、一旦中間像IMを形成した後、シースルーミラー24に入射する。シースルーミラー24に入射した画像光MLは、反射面24cによって部分的に反射される。シースルーミラー24で反射された画像光MLは、液晶レンズ41を経て装着者USの眼EY又は瞳孔が配置される瞳位置PPに入射する。瞳位置PPには、シースルーミラー24を通過したp偏光の外界光OLも入射する。つまり、第1表示装置100Aを装着した装着者USは、外界像に重ねて、画像光MLによる虚像を観察することができる。瞳位置PPに入射する画像光MLは、有限距離に設定された所定の焦点面FPからの発散光又は無限遠に相当するコリメート光が基本であるが、液晶レンズ41を制御することにより、無限遠よりも近い任意の焦点面からの発散光と等価な状態にすることができる。一方で、外界光OLは、液晶レンズ41の作用を受けないので、自然な外界像の観察が可能になる。
【0036】
以上の説明において、画像光MLが有限距離に設定された所定の焦点面FPからの発散光である場合、焦点面FPは、例えば0.5m~2.5m先に設定される。
【0037】
図7を参照して、HMD200すなわち虚像表示装置100の回路系80について説明する。HMD200は、回路系80として、制御装置81と、一対の表示素子11a,11bと、測距部71と、視線検出部72a,72bと、ユーザー端末回路89とを含む。制御装置81は、画像表示制御部DCとして機能する。
図3に示す第1表示装置100Aに組み込まれた回路部材80aと、第2表示装置100Bに組み込まれた同様の回路部材(不図示)とは、回路系80の一部である。
【0038】
制御装置81は、演算処理装置81aと、記憶装置81mと、データ通信インターフェース81cとを有する。
【0039】
演算処理装置81aは、測距部71及び視線検出部72a,72bから出力される信号に基づいて、観察者が注視する対象物までの距離(つまり対象距離)を決定し、対象距離に対応する輻輳角に適合する画像シフト量を決定する。この画像シフト量を輻輳調整シフト量と呼ぶ。
【0040】
記憶装置81mには、第1表示装置100A及び第2表示装置100Bに表示動作を行わせるプログラムが格納されている。また、記憶装置81mには、情報端末であるユーザー端末88から取得した画像や演算処理装置81aで生成した画像等が記憶される。また、記憶装置81mは、フレームメモリ83を有しており、フレームメモリ83には、演算処理装置81aで生成され表示素子11a,11bに出力するための画像データが格納されている。記憶装置81mには、測距部71及び視線検出部72a,72bの出力に基づいて決定された輻輳調整シフト量もリアルタイムで更新されつつ記録される。
【0041】
制御装置81は、データ通信インターフェース81cを介して、ユーザー端末回路89から画像データに対応する表示データを受け取る。演算処理装置81aは、ユーザー端末回路89から取得した表示データ又は画像データに対して、輻輳調整シフト量に基づいて、表示面11d上の表示画像を左右にシフトさせる補正処理を施す。制御装置81は、データ通信インターフェース81cを介してフレームメモリ83に格納された処理後の表示データである画像データを各表示素子11a,11bに出力する。
【0042】
ユーザー端末回路89は、ユーザー端末88に組み込まれるものであり、主制御装置89aと、記憶装置89mと、データ通信インターフェース98cと、移動体用無線通信装置89tと、ユーザーインターフェース装置89iとを有する。ユーザー端末回路89は、移動体用無線通信装置89tにより、不図示の通信ネットワークを経由して外部のサーバー等の各種装置と通信することができる。記憶装置89mは、ユーザー端末回路89を動作させる基本的なプログラムが格納され、この基本的プログラム上で動作するアプリケーションソフトとして、例えば動画再生用のビューアやウェブブラウザ等を含む複数のアプリケーションソフトが格納されている。ユーザー端末回路89は、ユーザーが操作するユーザーインターフェース装置89iからの要求に応じて動作し、記憶装置89mにアプリケーションソフトに関連付けられて保管された動画や静止画を所定のフォーマットで制御装置81に対して出力し、或いは移動体用無線通信装置89tを介して様々なコンテンツに対応する動画や静止画を取得し、取得した表示データを所定のフォーマットで制御装置81に対して出力する。
【0043】
ユーザー端末回路89は、装着者USの様々な操作を受け付ける。例えば、主制御装置89aは、ユーザーインターフェース装置89iを介して装着者USの指示を受け付ける。具体的には、装着者USが表示画像について焦点位置や輻輳角に違和感があるときや、焦点位置や輻輳角を積極的に調整したい場合、装着者USは、ユーザーインターフェース装置89iを介して焦点位置や輻輳角の設定を入力することができ、主制御装置89aは、焦点位置や輻輳角の設定値をデータ通信インターフェース81cを介して制御装置81に出力する。制御装置81は、ユーザー端末回路89から指定された輻輳角の設定値に基づいて表示素子11a,11bを動作させ、設定された輻輳角に対応する動作を表示素子11a,11bに行わせる。また、制御装置81は、ユーザー端末回路89から指定された焦点位置の設定値に基づいて液晶レンズ41を動作させ、設定された焦点位置に虚像が形成されるように液晶レンズ41のパワーを調整する。この場合、ユーザー端末回路89は、装着者が操作するものであり、表示画像の輻輳角と焦点距離との少なくとも一方を調整するための操作装置として機能する。
【0044】
図8は、虚像表示装置100の制御装置81(
図7参照)によって制御される輻輳角と焦点面との関係を説明する概念図である。制御装置81は、測距部71及び視線検出部72a,72bの出力信号に基づいて算出した対象距離d1~d4から、これに対応する輻輳角α1~α4及びこれに対応する輻輳調整シフト量を決定する。制御装置81は、表示データ又は画像データに対して、輻輳角α1~α4に対応する輻輳調整シフト量だけ表示画像をシフトさせる補正処理を行う。ここで、両表示素子11a,11bに設定される輻輳調整シフト量は、輻輳角α1~α4の半値に相当する大きさで鼻寄りのシフト量である。制御装置81は、表示画像をシフトさせる補正処理を行った場合、輻輳調整シフト量又は輻輳角α1~α4を与える対象距離d1~d4に焦点面FP1~FP4が配置されるように、液晶レンズ41の駆動回路41cに対して制御信号を出力し液晶レンズ41のパワーを修正する。これにより、装着者USの両眼EYには、虚像表示装置100により、注視する対象物までの対象距離と一致する焦点面上にある虚像であって、この対象距離に対応する輻輳角で各表示素子11a,11bに形成された表示画像を観察する。
【0045】
図9は、表示素子11a,11bに表示される画像を説明する図である。
図9中で、領域BR2は、あるタイミングで右の第1表示素子11aに形成される表示画像DI1を示し、領域BR1は、同じタイミングで左の第2表示素子11bに形成される表示画像DI2を示す。なお、表示画像DI1,DI2は、元画像OIの一部となっており、表示画像DI1,DI2の中心軸X1,X2は、元画像OIの中心軸X0と一致している。この場合、対象距離が無限大であり、輻輳角はゼロである。このため、第1表示素子11aに形成される表示画像と、第2表示素子11bに形成される表示画像とにおける輻輳調整シフト量はゼロとなっている。
図9中で、領域BRは、別のタイミングで右の第1表示素子11aに形成される表示画像を示し、領域BRは、前記別のタイミングで左の第2表示素子11bに形成される表示画像を示す。この場合、対象距離が有限の比較的近距離であり、輻輳角は数度以上である。このため、第1表示素子11aに形成される表示画像DI1と、第2表示素子11bに形成される表示画像DI2とにおける輻輳調整シフト量CAはかなり大きくなっている。右眼用の表示画像DI1は、鼻から離れる方向で領域選択されており、左眼用の表示画像DI2は、鼻から離れる方向で領域選択されている。よって、右眼を鼻寄りに輻輳角の半角だけ傾け、左眼を鼻寄りに輻輳角の半角だけ傾けることで、両眼にとってズレのない画像が観察される。
【0046】
図10は、制御装置81の動作を概念的に説明するフローチャートである。制御装置81の演算処理装置81aは、測距部71及び視線検出部72a,72bの出力信号に基づいて対象距離を算出し、この対象距離を記憶装置81mに例えば手元作業位置情報として保持する(ステップS11)。次に、演算処理装置81aは、記憶装置81mに保持された対象距離から焦点面の位置である焦点位置を算出する(ステップS12)。焦点位置は、対象距離と正確に一致する必要はなく近似的なものであってもよい。次に、演算処理装置81aは、液晶レンズ41のパワーを調節して焦点位置に虚像を形成させるように、各電極47に印可するべき印加電圧V1~V7を算出する(ステップS13)。その後、演算処理装置81aは、液晶レンズ41の駆動回路41cに対して、印加電圧V1~V7を含む電圧情報を制御信号として出力する(ステップS14)。以上と並行して、演算処理装置81aは、ステップS11で得た対象距離から右眼用の輻輳調整シフト量CAを算出し、元画像OIに対して輻輳調整シフト量CAに相当するシフトを与える補正処理によって、右輻輳画像を生成する(ステップS21)。次に、演算処理装置81aは、ステップS21で得た右輻輳画像を第1表示素子11aの駆動回路に出力する(ステップS22)。演算処理装置81aは、ステップS11で得た対象距離から左眼用の輻輳調整シフト量CAを算出し、元画像OIに対して輻輳調整シフト量CAに相当するシフトを与える補正処理によって、左輻輳画像を生成する(ステップS23)。次に、演算処理装置81aは、ステップS23で得た左輻輳画像を第2表示素子11bの駆動回路に出力する(ステップS24)。第1表示素子11aによって表示される右輻輳画像を右眼で観察し、第2表示素子11bによって表示される左輻輳画像を左眼で観察する場合に、両画像が重畳しているとするならば、両眼が対象距離に対応する輻輳角を実現する視線方向を向いていることになる。つまり、両眼EYのピント状態と輻輳状態とが一致し、眼精疲労が生じにくくなる。
【0047】
以上の動作では、注視する対象物までの対象距離に合わせて焦点位置と輻輳調整シフト量とを調整しているが、注視する対象物までの対象距離が所定以下となる手元作業位置となった場合にのみ、対象距離に合わせて焦点位置と輻輳調整シフト量とを調整してもよい。手元作業位置として、例えば1m以下を設定することができる。この場合、本や資料を読む距離(0.3m)や、ディスプレイを見る距離(0.5~0.7m)において、両眼EYのピント状態と輻輳状態とを一致させることができ、虚像表示装置100によって表示される画像を違和感なく観察することができる。
【0048】
以上の説明では、視線の検出結果に基づいて観察者が注視する対象物までの対象距離を決定しているが、視線の検出は必須ではない。例えば、虚像表示装置100の正面方向に存在する物体像が画角内の中心に近い位置に存在する度合いや、虚像表示装置100の正面方向に存在する物体像が画角に占める割合を判定して優先する対象物を特定し、対象距離を決定することができる。
【0049】
図11は、変形例の動作を説明する図である。この場合、装着者USであるユーザーが焦点位置や輻輳角を自分で調整できるようにしている。装着者USがユーザー端末回路89を操作して焦点位置の調整を要求している場合(ステップS31)、演算処理装置81aは、計測された対象距離をユーザー端末回路(操作装置)89から指定された対象距離に書き換える修正を行う(ステップS32)。ユーザー端末回路89からの指定は、対象距離そのものであってもよいが、距離の加算値又は減算値に相当するものであってもよい。
【0050】
以上で説明した第1実施形態の虚像表示装置100は、虚像を表示する第1画像表示装置2aと、虚像を表示する第2画像表示装置2bと、装着者USの視線方向の物体距離を検出する視線方向距離検出装置70aと、物体距離に応じて第1画像表示装置2a及び第2画像表示装置2bによる表示状態を制御する画像表示制御部DCと、装着者USの眼の前方に配置され第1画像表示装置2a及び第2画像表示装置2bから射出される画像光MLのs偏光成分に対して機能する液晶レンズ41を含む焦点距離変更装置40とを備える。
【0051】
上記虚像表示装置では、第1画像表示装置2a及び第2画像表示装置2bが、装着者USの眼の前方に配置され各画像表示装置から射出される画像光MLのs偏光成分に対して機能する液晶レンズ41を含む焦点距離変更装置40を有するので、液晶レンズ41によって画像光MLのs偏光成分に対して迅速な焦点調節が可能になり、画像表示制御部DCの制御下で画像表示装置2a,2bを動作させることにより迅速な輻輳調整が可能になる。また、液晶レンズ41を装着者USの眼の前方において光線束が比較的太くなっている光路上に配置するので、面精度の乱れを抑制することが容易になる。
【0052】
〔第2実施形態〕
以下、第2実施形態の虚像表示装置について説明する。なお、第2実施形態の虚像表示装置、第1実施形態の虚像表示装置を部分的に変更したものであり、第1実施形態の虚像表示装置と共通する部分については説明を省略する。
【0053】
図12を参照して、第2実施形態の虚像表示装置100又はHMD200では、第1実施形態を説明する
図3に示す偏光板23が省略されている。また、シースルーミラー124は、板状体24bの裏面上に反射面24cとして偏光反射膜124aを形成した光学素子である。偏光反射膜124aは、例えば誘電体多層膜からなる。シースルーミラー124は、反射型の偏光板として機能する。シースルーミラー124又は反射面24cは、内側から入射するs偏光である画像光MLを高い反射率で反射する偏光ビームスプリッターである。また、反射面24cは、外側から入射する外界光OLのうちp偏光成分を高い透過率で透過させ、s偏光成分を反射によって実質的に遮断する。この場合、プリズムミラー22の光射出側の光路部分P2において、画像光MLは、s偏光とp偏光とを含む。シースルーミラー124に入射した画像光MLのうち、s偏光は、反射面24cで反射されて液晶レンズ41を通過し、虚像を形成する。シースルーミラー124に入射した画像光MLのうち、p偏光は、反射面24cを透過し、眼EYに到達せず、虚像の形成に寄与しない。シースルーミラー24の偏光反射膜124aは、外界光OLのうちp偏光を透過させる。外界光OLは、p偏光として液晶レンズ41を通過し、液晶レンズ41のレンズ作用の影響を受けない。
【0054】
〔第3実施形態〕
以下、第3実施形態の虚像表示装置について説明する。なお、第3実施形態の虚像表示装置、第1実施形態の虚像表示装置を部分的に変更したものであり、第1実施形態の虚像表示装置と共通する部分については説明を省略する。
【0055】
図13は、第3実施形態の虚像表示装置100又はHMD200に組み込まれる第1表示部20aを説明する平面図である。この場合、
図3に示す投射レンズ21、プリズムミラー22、偏光板28、及びシースルーミラー24に代えて、投射レンズ321及び導光体26が用いられている。導光体26は、導光部材26aと光透過部材26bとを接着層CCを介して接合したものである。導光部材26aや光透過部材26bは、可視域で高い光透過性を示す樹脂材料で形成されている。導光部材26aは、第1~第5面S11~S15を有し、これらのうち第1及び第3面S11,S13は、互いに平行な平面であり、第2、第4、及び第5面S12,S14,S15は、全体として凸の光学面であり、例えば自由曲面からなる。光透過部材26bは、第1~第3透過面S21~S23を有し、これらのうち第1及び第3透過面S21,S23は、互いに平行な平面であり、第2透過面S22は、全体として凹の光学面であり、例えば自由曲面からなる。導光部材26aの第2面S12と光透過部材26bの第2透過面S22とは、凹凸を反転させた等しい形状を有し、両者の一方の表面に部分反射面MCが形成されている。部分反射面MCは、偏光反射膜であり、内側から入射するs偏光である画像光MLを高い反射率で反射する。また、反射面24cは、外側から入射する外界光OLのうちp偏光成分を高い透過率で透過させる。
【0056】
部分反射面MCがハーフミラーのような偏光に関して反射特性に差がない場合、投射レンズ321と導光体26との間にs偏光を透過させる偏光板23を配置し、第3透過面S23上にp偏光透過膜である偏光膜25を形成する。この場合、s偏光の画像光MLが外部に漏れだす可能性が低減され、プライバシー性が高まる。
【0057】
〔第4実施形態〕
以下、第4実施形態の虚像表示装置について説明する。なお、第4実施形態の虚像表示装置、第1実施形態の虚像表示装置を部分的に変更したものであり、第1実施形態の虚像表示装置と共通する部分については説明を省略する。
【0058】
図14は、第4実施形態の虚像表示装置100又はHMD200に組み込まれる第1表示部20aを説明する平面図である。この場合、
図3に示す投射レンズ21、プリズムミラー22、偏光板28、及びシースルーミラー24に代えて、投射レンズ321及び導光光学系30が用いられている。導光光学系30は、外界側の外平面31aと瞳位置PP側の内平面31bとを有する平板状の部材である。外平面31aと内平面31bとは平行に延び、外平面31a及び内平面31b間の本体31cは、可視光線域で透過性を有する均一な屈折媒体となっている。導光光学系30のうち、投射レンズ321に対向する入射側の端部には、平面鏡33が設けられ、導光光学系30のうち射出側の端部には、ハーフミラーアレイ34が埋め込まれている。ハーフミラーアレイ34は、多数のハーフミラー34aを導光方向に配列したものである。ハーフミラー34aは、S偏光を部分的に反射するように反射率が調整された偏光ミラーである。この場合、投射レンズ321から射出された画像光MLは、投射レンズ21を経てコリメートされ、導光部材31dの一端において、導光部材31d中に入射し、平面鏡33で反射されて本体31c内を伝搬し、ハーフミラーアレイ34に入射する。ハーフミラーアレイ34は、偏光ミラーとしてs偏光の画像光MLを分岐しつつ反射することによって、横方向に瞳サイズを拡大し、コリメートされた状態のs偏光の画像光MLを導光光学系30外に射出させる。
【0059】
ハーフミラーアレイ34が偏光に関して反射特性に差がない場合、投射レンズ321と導光光学系30との間にs偏光を透過させる偏光板23を配置し、ハーフミラーアレイ34における外側面431a上にp偏光透過膜である偏光膜25を形成する。
【0060】
〔変形例その他〕
以上実施形態に即して本発明を説明したが、本発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0061】
上記実施形態において、表示部20a,20b又は画像表示装置2a,2bを構成する光学要素は、単なる例示であり、レンズの枚数、ミラーの数、光路の折り曲げ方向等は、用途に応じて適宜変更することができる。
【0062】
シースルーミラー24やハーフミラーアレイ34は、ホログラムや回折素子を用いて光路を変化させるものに置き換えることができる。
【0063】
表示素子11a,11bは、特定方向に偏光した画像光を発生する光変調型又は自発光型の表示パネルに置き換えることができる。また、表示素子11a,11bは、三色の画像光をクロスダイクロイックプリズムで合成してカラー画像を形成するものであってもよい。
【0064】
以上では、シースルーミラー124によって例えばs偏光の画像光MLを反射しているが、p偏光の画像光MLを反射して、液晶レンズ41を通過させることもできる。この場合、液晶レンズ41は、p偏光に対してレンズとして機能し、s偏光に対して平行平板として機能するように、例えば向きを変更する。
【0065】
以上では、説明を省略したが、液晶レンズ41と瞳位置PPとの間に視度調整用のインナーレンズを配置することができる。インナーレンズは、液晶レンズ41と一体化することができる。或いは、液晶レンズ41自体に装着者USが有する近視を矯正する視度調整機能を付加することもできる。
【0066】
以上では、HMD200が頭部に装着されて使用されることを前提としたが、上記虚像表示装置100は、頭部に装着せず双眼鏡のようにのぞき込むハンドヘルドディスプレイとしても用いることができる。つまり、本発明において、ヘッドマウントディスプレイには、ハンドヘルドディスプレイも含まれる。
【0067】
具体的な態様における虚像表示装置は、虚像を表示する第1画像表示装置と、虚像を表示する第2画像表示装置と、装着者の視線方向の物体距離を検出する視線方向距離検出装置と、物体距離に応じて第1画像表示装置及び第2画像表示装置による表示状態を制御する画像表示制御部と、装着者の眼の前方に配置され第1画像表示装置及び第2画像表示装置から射出される画像光の偏光成分に対して焦点距離が変化する液晶レンズとを備える。
【0068】
上記虚像表示装置では、第1画像表示装置及び第2画像表示装置が装着者の眼の前方に配置され、各画像表示装置から射出される画像光の偏光成分に対して焦点距離が変化する液晶レンズを有するので、液晶レンズによって画像光の偏光成分に対して迅速な焦点調節が可能になり、画像表示制御部の制御下で画像表示装置動作させることにより迅速な輻輳調整が可能になる。また、液晶レンズを装着者の眼の前方において光線束が比較的太くなっている光路上に配置するので、波面の乱れを抑制することが容易になる。
【0069】
具体的な態様における虚像表示装置において、液晶レンズは、中心部と周辺部とで印可電圧が異なり、複屈折の分布状態の変更によりレンズ効果を変更する。この場合、液晶レンズのパワーの調整精度を簡易に向上させることができる。
【0070】
具体的な態様における虚像表示装置において、液晶レンズは、印可電圧が共通する複数の円形又は長円の輪帯部分を有する。
【0071】
具体的な態様における虚像表示装置において、画像表示制御部は、物体距離に応じて第1画像表示装置及び第2画像表示装置による表示画像の輻輳角を調整する。
【0072】
具体的な態様における虚像表示装置において、画像表示制御部は、物体距離に応じて液晶レンズのパワーを調整する。例えば輻輳角を調整とパワーの調整とを連動させる場合、輻輳角の調整と焦点の調整とを整合させて、輻輳角に対応する距離と焦点距離とを略一致させた状態とすることで、装着者の眼への負担を低減することができる。
【0073】
具体的な態様における虚像表示装置において、表示画像の輻輳角と液晶レンズのパワーとの少なくとも一方を調整する操作装置を備える。この場合、装着者が操作装置を操作して輻輳角と焦点とを好みの状態に調整することができる。
【0074】
具体的な態様における虚像表示装置において、第1画像表示装置と第2画像表示装置とは、表示素子と、投射光学系と、コンバイナーとをそれぞれ備え、液晶レンズは、コンバイナーを通過した外界光を、レンズ効果のない状態で通過させる。この場合、薄型のコンバイナーを用いて外界光と画像光との合成が可能になる。
【0075】
具体的な態様における虚像表示装置において、コンバイナーは、偏光ビームスプリッターを有し、p偏光の外界光を透過させ、液晶レンズは、s偏光の画像光に対して位相差を与えて結像状態を調整し、p偏光に対して位相差を与えない。この場合、偏光ビームスプリッターによって、効率よく画像光を反射しつつ外界光を透過させることができ、液晶レンズによってs偏光の画像光の結像状態を迅速かつ精密に調整することができる。
【符号の説明】
【0076】
2a…第1画像表示装置、2b…第2画像表示装置、11a,11b…表示素子、20a…第1表示部、20b…第2表示部、21…投射レンズ、22…プリズムミラー、23…偏光板、24…シースルーミラー、24a…透過性反射膜、24c…反射面、24p…偏光膜、25…偏光膜、26…導光体、28…偏光板、30…導光光学系、31d…導光部材、33…平面鏡、34…ハーフミラーアレイ、40…焦点距離変更装置、41…液晶レンズ、41a…レンズ部材、41c…駆動回路、44a…第1の電極層、44b…第2の電極層、45…液晶層、47…電極、48…配線、70a…視線方向距離検出装置、71…測距部、72…視線検出部、72a,72b…視線検出部、80…回路系、81…制御装置、89…ユーザー端末回路、100…虚像表示装置、100A…第1表示装置、100B…第2表示装置、100C…支持装置、103a,103b…コンバイナー、AX1~AX3…光軸部分、DC…画像表示制御部、DI1,DI2…表示画像、EP…瞳位置、EY…眼、FP1~FP4…焦点面、ML…画像光、OI…元画像、OL…外界光、PP…瞳位置、US…装着者、X0…中心軸、X1,X2…中心軸