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特開2024-64519クラッド鋼板母材の材質模擬試験材の製造方法および材質模擬試験方法ならびにクラッド鋼板の製造条件設計方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064519
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】クラッド鋼板母材の材質模擬試験材の製造方法および材質模擬試験方法ならびにクラッド鋼板の製造条件設計方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 1/38 20060101AFI20240507BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20240507BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240507BHJP
   B32B 15/01 20060101ALI20240507BHJP
   B32B 37/10 20060101ALI20240507BHJP
   B23K 20/04 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
B21B1/38 L
C21D8/02 Z
C21D9/46 Z
B32B15/01 A
B32B37/10
B23K20/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173160
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷澤 彰彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 司
(72)【発明者】
【氏名】堀 勝博
(72)【発明者】
【氏名】高野 峻作
(72)【発明者】
【氏名】小桜 隆雄
【テーマコード(参考)】
4E002
4E167
4F100
4K032
4K037
【Fターム(参考)】
4E002AD12
4E002BC07
4E002BD05
4E002BD07
4E002BD08
4E002BD09
4E167AA02
4E167BB04
4E167CA08
4F100AB02B
4F100AB03A
4F100AB31A
4F100BA02
4F100BA07
4F100EJ17A
4F100EJ17B
4F100EJ19A
4F100EJ19B
4F100EJ30
4F100EJ371
4F100EJ372
4F100EJ37A
4F100EJ37B
4F100EJ421
4F100EJ422
4F100EJ50
4F100JB02
4F100JK10
4K032AA01
4K032AA04
4K032AA08
4K032AA11
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032BA00
4K032BA01
4K032CA01
4K032CA02
4K032CA03
4K032CB01
4K032CB02
4K032CC04
4K032CD05
4K032CD06
4K032CF01
4K037EA01
4K037EA05
4K037EA09
4K037EA11
4K037EA13
4K037EA15
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA31
4K037EB05
4K037EB15
4K037FA01
4K037FA02
4K037FC03
4K037FC04
4K037FD05
4K037FD06
4K037FF01
(57)【要約】
【課題】DWTT性能やHIC性能が要求されるクラッド鋼板の母材性能を安価かつ正確に模擬する技術を提供する。
【解決手段】一のクラッド母材の成分組成を有する鋳片または鋼片を加熱し、続いて熱間圧延して、一のクラッド母材素材を製造する、クラッド母材素材製造模擬工程と、対向材素材を前記一のクラッド母材素材と重ね合わせて、模擬クラッドスラブを組み立てる、クラッドスラブ組立模擬工程と、前記模擬クラッドスラブを加熱し、続いて熱間圧延し、得られたクラッド熱間圧延材に対して、放冷、加速冷却および熱処理から選ばれる一種以上の処理を実施することにより、模擬クラッド鋼板を製造する、クラッド鋼板製造模擬工程と、を有するクラッド鋼板母材の材質模擬試験材の製造方法である。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一のクラッド母材の成分組成を有する鋳片または鋼片を加熱し、続いて熱間圧延して、一のクラッド母材素材を製造する、クラッド母材素材製造模擬工程と、
対向材素材を前記一のクラッド母材素材と重ね合わせて、模擬クラッドスラブを組み立てる、クラッドスラブ組立模擬工程と、
前記模擬クラッドスラブを加熱し、続いて熱間圧延し、得られたクラッド熱間圧延材に対して、放冷、加速冷却および熱処理から選ばれる一種以上の処理を実施することにより、模擬クラッド鋼板を製造する、クラッド鋼板製造模擬工程と、
を有するクラッド鋼板母材の材質模擬試験材の製造方法。
【請求項2】
前記対向材素材の板厚が、
材質模擬試験対象のクラッド鋼板を製造する場合のクラッド合せ材素材の板厚の2倍と、他のクラッド母材素材の板厚との和である、
請求項1に記載のクラッド鋼板母材の材質模擬試験材の製造方法。
【請求項3】
前記対向材素材の板厚が、
材質模擬試験対象のクラッド鋼板を製造する場合のクラッド合せ材素材の板厚と、犠牲材素材の板厚との和である、
請求項1に記載のクラッド鋼板母材の材質模擬試験材の製造方法。
【請求項4】
前記対向材素材の板厚が、
材質模擬試験対象のクラッド鋼板を製造する場合のクラッド合せ材素材の板厚である、
請求項1に記載のクラッド鋼板母材の材質模擬試験材の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の製造方法により前記一のクラッド母材素材から製造されたクラッド鋼板母材の材質模擬試験材に対して、材質模擬試験を実施する、クラッド鋼板母材の材質模擬試験方法。
【請求項6】
請求項5に記載の材質模擬試験を実施した試験結果をもとに、クラッド鋼板の製造条件を設計する、クラッド鋼板の製造条件設計方法。
【請求項7】
クラッド鋼板の製造条件を設計するに際し、前記試験結果と、実際にクラッド鋼板を製造して得られたクラッド鋼板の材質を調査した結果とを対比し、その差異を補正する機械学習を実施する、請求項6に記載のクラッド鋼板の製造条件設計方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、DWTT(Drop Weight Tear Test、落重試験)性能や耐HIC(Hydrogen Induced Cracking)性能が要求されるクラッド鋼板母材の材質模擬試験材の製造方法および材質模擬試験方法ならびにその方法を用いたクラッド鋼板の製造条件設計方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クラッド鋼板とは、ステンレス鋼やNi合金から構成される合せ材と、低合金鋼等から構成される母材とを貼り合わせてなる鋼板である。クラッド鋼板は、異種金属を金属学的に接合させたもので、めっきとは異なり剥離する心配がない。また、クラッド鋼板には、単一の金属や合金では達し得ない新たな特性を付与することができる。
【0003】
クラッド鋼板によれば、使用環境毎の目的に合った機能を有する合せ材を選択すること
により、無垢材(全厚が合せ材の金属組織のような場合をいう)と同等の機能を発揮させることができる。さらに、クラッド鋼板から構成される母材に、高靭性、高強度といった厳しい環境に適した炭素鋼や低合金鋼を適用することで、高靭性や高強度をクラッド鋼板に付与することができる。
【0004】
このように、クラッド鋼板は、無垢材よりも合金元素の使用量が少なく、かつ、無垢材と同等の耐食性能を確保でき、さらに炭素鋼や低合金鋼と同等の強度や靭性を確保できるため、経済性と機能性が両立できるという利点を有する。
【0005】
以上から、ステンレス鋼やNi合金から構成される合せ材を用いたクラッド鋼は非常に有益な機能性鋼材であると考えられており、近年そのニーズが各種産業分野で益々高まっている。
【0006】
クラッド鋼板の1つであるNi合金クラッド鋼板の合せ材としてはAlloy825やAlloy625が代表的である。また、ステンレスクラッド鋼板の合せ材としてはSUS316Lが代表的である。Ni合金クラッド鋼板やステンレスクラッド鋼板は、優れた耐食性能から、パイプライン用途として好ましく用いることができる。
【0007】
また、クラッド鋼板母材に対してHIC性能が要求されることもある。これらの母材に厳しい性能が要求されるクラッド鋼板の開発のためには、母材性能を満足させるための成分、TMCP(Thermo Mechanical Control Process:熱加工制御)あるいは熱処理条件の調整が不可欠である。(非特許文献1参照)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】まてりあ 第35巻第9号(1996年) 976~982ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来技術では、以下のような課題があった。
クラッド鋼板母材の性能評価には、下記の方法が従来から適用されている。
(1)クラッド鋼板を製造し、母材性能を評価する。
(2)母材と同じ成分の無垢材を製造し、母材性能を評価する。
【0010】
方法(1)は、母材性能を正確に評価できるが、クラッド鋼板を製造することになるため、高価な合せ材を用いることになり、コストが大きくなる。つまり、本来、クラッド鋼板は無垢の合せ材よりも低コストで、合せ材の耐食性などを確保できることに利点がある。にもかかわらず、母材材質の評価のために高価な合せ材を使用すれば、低コスト化の利点が低減してしまう。
【0011】
方法(2)は、例えば、サンドクラッドで製造されるクラッド鋼板を模擬する場合でいうと、サンドクラッドと同じ位置に母材の中心偏析を位置させることができない。つまり、サンドクラッドではおおむねスラブの1/4厚さ位置に中心偏析が来るが、無垢材を用いると1/2厚さ位置になる。クラッドスラブの1/4厚さ位置の熱履歴と、無垢材の1/2厚さ位置の熱履歴が異なることから、厳密には製造条件を模擬しているといえない。そのため、HIC性能やDWTT性能を正しく評価できない。
【0012】
また、クラッド鋼板を製造する場合は、図1に示すように普通鋼などの母材の成分を有する母材鋳片1などを加熱3・熱間圧延4して、母材素材6を製造する。また、耐食鋼など合せ材の成分を有する合せ材鋳片2などを加熱3・熱間圧延4して、合せ材素材7を製造する。そして、その母材素材6と合せ材素材7とを用いてクラッドスラブ9を組み立てる。そのクラッドスラブ9を加熱3・熱間圧延4することによりクラッド鋼板14を製造する。したがって、クラッド鋼板の製造にあたっては母材圧延とクラッド圧延の2回の熱間圧延を実施する。ところが、単純に無垢材を加熱・熱間圧延するだけでは、加熱・熱間圧延が1回だけとなるので、厳密には、製造条件が模擬できているとはいえない。そのため、おもにDWTT性能を正しく評価することができない。
【0013】
加えて、機械的性質などの材質の評価にあたり、試験材の板厚の影響を無視することはできない。特に、靭性に関する評価において、板厚の影響が顕著であることは当業者にとって常識的事項である。したがって、クラッド鋼板を製造するのと同様の板厚構成を比例配分して全体を薄物・小型の試験材を実験室的に製造したとしても、得られる母材の板厚が小さいため、実機レベルで製造した場合の材質を再現できるとは限らない。この観点からも、クラッド鋼板の母材性能を模擬する方法が求められていた。
【0014】
本発明は,上記の事情を鑑みてなされたものであって、その目的は、DWTT性能やHIC性能が要求されるクラッド鋼板の母材性能を安価かつ正確に模擬する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明者らは安価かつ正確にクラッド母材の性能を模擬する方法について、鋭意検討した結果下記の方法を見出した。まず、安価に模擬する方法として高価な合せ材を用いることを回避することとした。次に、母材性能を正確に模擬するために、
(1)クラッド鋼板母材と同じ位置に母材の中心偏析が来るような組み立てスラブを用いて圧延すること、
(2)クラッド鋼板の製造時と同じく2回の加熱・熱間圧延およびその後の加速冷却もしくは熱処理あるいはその両方を適用すること、
などが実現可能な方法について検討した。その結果、クラッド鋼板母材と同じ製品厚になる母材素材(a)とクラッド圧延時のクラッドスラブ厚と同じ厚みになる残部厚みを有する対向材素材(b)とを重ねてクラッドスラブとすることにより模擬条件(1)、(2)が実現できることを見出した。
【0016】
本発明は、このような知見に基づいてさらに発展させて完成させたもので、その要旨は、以下の通りである。
[1]一のクラッド母材の成分組成を有する鋳片または鋼片を加熱し、続いて熱間圧延して、一のクラッド母材素材を製造する、クラッド母材素材製造模擬工程と、対向材素材を前記一のクラッド母材素材と重ね合わせて、模擬クラッドスラブを組み立てる、クラッドスラブ組立模擬工程と、前記模擬クラッドスラブを加熱し、続いて熱間圧延し、得られたクラッド熱間圧延材に対して、放冷、加速冷却および熱処理から選ばれる一種以上の処理を実施することにより、模擬クラッド鋼板を製造する、クラッド鋼板製造模擬工程と、を有するクラッド鋼板母材の材質模擬試験材の製造方法。
[2]前記対向材素材の板厚が、材質模擬試験対象のクラッド鋼板を製造する場合のクラッド合せ材素材の板厚の2倍と、他のクラッド母材素材の板厚との和である、[1]に記載のクラッド鋼板母材の材質模擬試験材の製造方法。
[3]前記対向材素材の板厚が、材質模擬試験対象のクラッド鋼板を製造する場合のクラッド合せ材素材の板厚と、犠牲材素材の板厚との和である、[1]に記載のクラッド鋼板母材の材質模擬試験材の製造方法。
[4]前記対向材素材の板厚が、材質模擬試験対象のクラッド鋼板を製造する場合のクラッド合せ材素材の板厚である、[1]に記載のクラッド鋼板母材の材質模擬試験材の製造方法。
[5][1]から[4]のいずれか一に記載の製造方法により前記一のクラッド母材素材から製造されたクラッド鋼板母材の材質模擬試験材に対して、材質模擬試験を実施する、クラッド鋼板母材の材質模擬試験方法。
[6][5]に記載の材質模擬試験を実施した試験結果をもとに、クラッド鋼板の製造条件を設計する、クラッド鋼板の製造条件設計方法。
[7]クラッド鋼板の製造条件を設計するに際し、前記試験結果と、実際にクラッド鋼板を製造して得られたクラッド鋼板の材質を調査した結果とを対比し、その差異を補正する機械学習を実施する、[6]に記載のクラッド鋼板の製造条件設計方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかるクラッド鋼板母材の材質模擬試験材の製造方法および材質模擬試験方法によれば、DWTT性能やHIC性能が要求されるクラッド鋼板の母材性能を安価かつ正確に模擬することができる。さらに、クラッド鋼板の製造条件設計方法に適用して、母材性能に優れたクラッド鋼板を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】クラッド鋼板の製造工程の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0020】
図1に示すようにクラッド鋼板14の製造プロセスの基本は、まず、クラッド母材素材6と、クラッド合せ材素材7とを、適宜積層させてクラッドスラブ9を組み立てる(10)。そののち、そのクラッドスラブ9を加熱(3)し、その加熱されたクラッドスラブ9を熱間圧延する(4)ことにある。得られた圧延体13を切断し、あるいは、必要に応じて剥離すること(8)により、クラッド鋼板14が得られる。
【0021】
クラッドスラブ9を組み立てる(10)にあたり、クラッド母材素材6とクラッド合せ材素材7との重ね合わせ方には大きく分けて次の(1)~(3)の三種類がある。
(1)サンドイッチ方式
サンドイッチ方式においては、クラッド母材素材6/クラッド合せ材素材7/クラッド合せ材素材7/クラッド母材素材6がこの順に重ね合わされる。2つのクラッド合せ材素材7同士の間には、例えば酸化物粉体などの剥離剤が塗布される。サンドイッチ方式で組み立てられたクラッドスラブ9からは、クラッドスラブ9を圧延して製造される圧延体13の上部と下部とを分離することにより、合計2体のクラッド鋼板14が製造される。
(2)犠牲材方式(セミサンドイッチ方式)
犠牲材方式(セミサンドイッチ方式)においては、犠牲材の素材/クラッド合せ材素材7/クラッド母材素材6がこの順に重ね合わされる。犠牲材の素材とクラッド合せ材素材7との間には、例えば酸化物粉体などの剥離剤が塗布される。犠牲材方式で組み立てられたクラッドスラブ9からは、クラッドスラブ9を圧延して製造される圧延体13において、犠牲材を剥離することにより、1体のクラッド鋼板14が製造される。
(3)オープンサンドイッチ方式
オープンサンドイッチ方式においては、一対のクラッド合せ材素材7とクラッド母材素材6がこの順に重ね合わされる。オープンサンドイッチ方式で組み立てられたクラッドスラブ9からは、クラッドスラブ9を圧延して製造される圧延体13そのものが1体のクラッド鋼板14となる。
【0022】
ここで、本明細書において、クラッドスラブ9の全厚を熱間圧延により得られた圧延体13の全厚で除した値をクラッド圧下比と称する。
【0023】
本実施形態において、材質を模擬して試験・評価したいクラッド鋼板14の母材を一のクラッド母材14aと称する。
【0024】
本実施形態にかかるクラッド鋼板母材の材質模擬試験材の製造方法においては、まず、一のクラッド母材14aの成分組成を有する鋳片1あるいは鋼片を加熱(3)し、続いて熱間圧延4を実施して、一のクラッド母材素材6を製造する。この加熱3および熱間圧延4の条件は、母材の材質を模擬したいクラッド鋼板14を製造する際の条件にそろえる。これによって得られる一のクラッド母材素材6は、後工程において、(模擬)クラッドスラブ9を作製する際に使用される。
【0025】
一のクラッド母材素材6の板厚は、母材の材質を模擬したいクラッド鋼板14のクラッド母材14aの板厚にクラッド圧下比で乗じた値とする。
【0026】
次いで、対向材素材と、一のクラッド母材6とを重ね合わせて模擬クラッドスラブ9を組み立てる。
【0027】
サンドイッチ方式の場合、対向材はクラッド母材1枚とクラッド合せ材2枚である。よって、サンドイッチ方式の場合、対向材素材の厚さは、他のクラッド母材の板厚とクラッド合せ材の板厚の2倍との和に、クラッド圧下比を乗じた値となる。
犠牲材方式の場合、対向材はクラッド合せ材1枚と犠牲材1枚である。よって、犠牲材方式の場合、対向材素材の厚さは、クラッド合せ材の板厚と犠牲材の板厚との和にクラッド圧下比を乗じた値となる。
オープンサンドイッチ方式の場合、対向材はクラッド合せ材1枚である。よって、オープンサンドイッチ方式の場合、対向材素材の厚さは、クラッド合せ材の板厚にクラッド圧下比を乗じた値となる。
【0028】
いずれの方式の場合も、実際のクラッド鋼板14の製造の場合と同様、クラッド母材素材6のうちクラッド合せ材素材7に接触する面と、クラッド合せ材素材7のうちクラッド母材素材6に接触する面と、をそれぞれ表面研削(表面手入)しておくこと(5)ができる。
【0029】
なお、いずれの方式の場合も、クラッド合せ材素材7とクラッド母材素材6との間に中間材を挿入して製造する場合には、対向材素材の厚さも中間材の厚さを考慮して適宜調整すればよい。
【0030】
模擬クラッドスラブ9は、単にクラッド母材素材6やクラッド合せ材素材7を重ねあわせたのちに、高真空(11)の雰囲気下で外周を電子ビーム溶接12などにより処理しておくことが好ましい。溶接手段はレーザ溶接であってもよい。
【0031】
本実施形態にかかるクラッド鋼板母材の材質模擬試験材の製造方法においては、得られた模擬クラッドスラブ9を加熱(3)し、続いて熱間圧延(4)してクラッド熱間圧延材13を製造する。ここで、模擬クラッドスラブの加熱条件および熱間圧延条件は、母材の材質を模擬したいクラッド鋼板14を製造する際の条件に、それぞれ、そろえる。
【0032】
得られたクラッド熱間圧延材13に対しては、放冷、加速冷却、および、熱処理、から選ばれる一種以上の処理を実施して、模擬クラッド鋼板14を製造する。これら、放冷、加速冷却、および、熱処理の条件も、母材の材質を模擬したいクラッド鋼板14を製造する際の条件に、それぞれ、そろえる。
【0033】
得られた模擬クラッド鋼板14を切断し、一のクラッド母材14aに相当する部分から、材質模擬試験を実施するための試験片を採取したうえで、その試験片を材質試験に供する。
【0034】
一のクラッド母材14aに相当する部分から試験片が採取可能でさえあれば、さまざまな材質試験を実施することが可能である。たとえば、DWTT(落重試験)や、シャルピー衝撃試験など、試験結果に及ぼす試験片の厚さの影響が大きい材質試験に適用することが好ましい。本実施形態によれば、実際と同サイズの試験片を用いた材質試験が実施でき、本実施形態の有効性が顕著に発揮されるからである。
【0035】
これまで述べてきた方法により母材材質を模擬した試験結果と、実際のクラッド鋼板の母材の材質とを対比したり、フィードバックしたりすることにより、クラッド鋼板の製造条件を設計することができる。
【0036】
ここで、クラッド母材の材質に影響を及ぼす因子としては、(1)母材の鋼成分組成、(2)母材素材を製造する際の加熱温度や圧延条件などの各種の製造条件、のほか、(3)クラッド鋼板製造条件などがあげられる。そして、(3)クラッド鋼板製造条件には、クラッドスラブ加熱温度のほか、圧延温度や圧下率などの熱間圧延条件、圧延後の放冷・加速冷却などの冷却条件、さらに、冷却後の熱処理条件なども含まれる。このように、クラッド母材の材質に影響を及ぼす因子は多岐にわたるので、クラッド鋼板製造条件を設計するうえで、機械学習を適用してもよい。例えば、前述のように多岐にわたるクラッド母材の材質に影響を及ぼす因子を入力層とし、製造されるクラッド鋼板の母材の材質を出力層とする、ニューラルネットワークを考えて機械学習を実施することにより、クラッド鋼板製造条件を設計することができる。
【実施例0037】
合わせ材素材をAlloy825とするクラッド鋼板の模擬製造を行った。一のクラッド母材鋳片は表1の成分組成で製造した。表1に記載された成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。また、対向材用の鋳片も同様に表1の成分組成で製造した。
【0038】
【表1】
【0039】
表2に模擬対象クラッド鋼板の製造条件を示す。表3にクラッド鋼板母材の材質模擬試験材の製造条件を示す。表2中で製品厚欄の表記「27+3」は、クラッド鋼板母材の厚さが27mm、クラッド鋼板合せ材の厚さが3mmであることを表す。表3中で製品厚欄の表記「27+33」は、一のクラッド鋼板母材の模擬試験材の厚さが27mm、対向材の厚さが33mmであることを表す。表2中で組み立て方式欄には、クラッドスラブの組み立て方式を記載している。「サンド」はサンドイッチ方式を、「犠牲材」は犠牲材方式を、「オープン」はオープンサンドイッチ方式を表す。
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
製造した模擬対象クラッド鋼板およびクラッド鋼板母材の材質模擬試験材の母材相当部の材質試験は以下のように実施した。機械的特性の評価は、API-5L規格(API:American Petroleum Institute、アメリカ石油協会)に準拠した引張試験片、DWTT試験片およびHIC試験片を採取し、それぞれ引張試験、DWTT試験およびHIC試験で実施した。
引張試験の評価は降伏強度および引張強度が模擬対象クラッド鋼板と比較して差異が15MPa以内の場合に良好に模擬できているとする。
DWTT試験の評価は、-40℃を試験温度とし、延性破面率(SA)を測定した。模擬対象クラッド鋼板と比較してSAの差異が20%以内の場合に良好に模擬できているとする。
HIC試験の評価は、NACE TM0284 Solution Aで試験し、割れ長さ率(CLR)を測定した。模擬対象クラッド鋼板と比較してCLRの差異が5%以内の場合に良好に模擬できているとする。
材質試験結果を表4に示す。
【0043】
【表4】
【0044】
発明例である鋼板No.A~Eは対応する模擬対象クラッド鋼板の母材材質を良好に模擬できていることがわかる。
比較例は、対応する模擬対象クラッド鋼板と比較していずれかの材質試験結果が良好に模擬できていない。
鋼板No.Fは対応するクラッドスラブを無垢のスラブ鋳片とし、1回目の加熱・熱間圧延を施していないため、DWTT試験やHIC試験の評価が良好でない。
鋼板No.Fはクラッドスラブを無垢のスラブ鋳片としたため、HIC試験の評価が良好でない。
鋼板No.Hは1回目加熱温度が異なるため、DWTT試験の評価が良好でない。
鋼板No.Iはサンドイッチ方式に変えて、無垢材のオープンサンドイッチ方式で模擬したため、降伏強度や引張強度が高めに外れた。
鋼板No.Jはオープンサンドイッチ方式に変えてサンドイッチ方式で模擬したため、降伏強度や引張強度が低めに外れた。
【符号の説明】
【0045】
1 母材鋳片(普通鋼)
2 合せ材鋳片(耐食鋼)
3 (スラブ)加熱
4 (熱間)圧延
5 表面研削(表面手入)
6 母材素材
7 合せ材素材
8 切断・剥離
9 クラッドスラブ
10 クラッドスラブの組立
11 高真空
12 電子ビーム溶接
13 圧延体
14 クラッド鋼板
14a 一のクラッド母材
図1