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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064526
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】電力増幅器
(51)【国際特許分類】
   H03F 1/02 20060101AFI20240507BHJP
   H03F 3/24 20060101ALI20240507BHJP
   H03F 3/60 20060101ALN20240507BHJP
【FI】
H03F1/02
H03F3/24
H03F3/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173170
(22)【出願日】2022-10-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的イノベーション創造プログラム「IoE社会のエネルギーシステム B2 WPTシステムへの応用を見据えたIoE共通基盤技術」委託研究、産業技術力強化法第 17 条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】原 信二
(72)【発明者】
【氏名】丹波 憲之
【テーマコード(参考)】
5J067
5J500
【Fターム(参考)】
5J067AA04
5J067AA41
5J067CA36
5J067CA61
5J067CA92
5J067CA98
5J067FA03
5J067HA09
5J067HA12
5J067HA24
5J067KA29
5J067KA41
5J067LS11
5J067LS12
5J067SA14
5J067TA01
5J500AA04
5J500AA41
5J500AC36
5J500AC61
5J500AC92
5J500AC98
5J500AF03
5J500AH09
5J500AH12
5J500AH24
5J500AH29
5J500AH33
5J500AK12
5J500AK29
5J500AK41
5J500AK68
5J500AS14
5J500AT01
5J500LV08
5J500WU08
(57)【要約】
【課題】効率を改善できる電力増幅器を提供する。
【解決手段】電力増幅器6において、増幅部16は、入力信号を増幅し、増幅された出力信号を出力端子T2から出力する。整合回路(基本波整合回路22)は、出力端子T2に接続される。伝送線路24は、整合回路を通過した出力信号が一端に供給され、所定の特性インピーダンスを有する。フィルタ26は、伝送線路24の他端から出力された出力信号に含まれる基本波を通過させ、出力信号に含まれる高調波を反射させる。出力端子T2から出力される出力信号に含まれる所定の高調波を所定の位相で出力端子T2に戻すように、伝送線路24の長さは定められている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号を増幅し、増幅された出力信号を出力端子から出力する増幅部と、
前記出力端子に接続された整合回路と、
前記整合回路を通過した前記出力信号が一端に供給される、所定の特性インピーダンスを有する伝送線路と、
前記伝送線路の他端から出力された前記出力信号に含まれる基本波を通過させ、前記出力信号に含まれる高調波を反射させるフィルタと、
を備え、
前記出力端子から出力される前記出力信号に含まれる所定の高調波を所定の位相で前記出力端子に戻すように、前記伝送線路の長さは定められている、
ことを特徴とする電力増幅器。
【請求項2】
入力信号を増幅し、増幅された出力信号を出力端子から出力する増幅部と、
電源電圧が供給される一端と、前記出力端子に接続された他端とを有する誘導性素子と、
前記出力端子に一端が接続された、所定の特性インピーダンスを有する伝送線路と、
前記伝送線路の他端から出力された前記出力信号に含まれる基本波を通過させ、前記出力信号に含まれる高調波を反射させるフィルタと、
を備え、
出力特性が所定の特性となる前記増幅部の最適負荷アドミタンスの実部の逆数が前記特性インピーダンスと実質的に等しくなるように、前記電源電圧が設定され、
前記入力信号の周波数において、前記誘導性素子のアドミタンスの虚部は、前記最適負荷アドミタンスの虚部と実質的に等しく、
前記出力端子から出力される前記出力信号に含まれる所定の高調波を所定の位相で前記出力端子に戻すように、前記伝送線路の長さは定められている、
ことを特徴とする電力増幅器。
【請求項3】
前記出力端子と前記フィルタとの間に高調波反射回路が設けられていない、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の電力増幅器。
【請求項4】
前記出力端子から前記フィルタ側を見たインピーダンスが、前記出力信号に含まれる所定の偶数次高調波に関して実質的にゼロであるように、前記伝送線路の長さは定められている、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の電力増幅器。
【請求項5】
前記出力端子から前記フィルタ側を見たインピーダンスが、前記出力信号に含まれる所定の奇数次高調波に関して実質的に無限大であるように、前記伝送線路の長さは定められている、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の電力増幅器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高周波信号を増幅する電力増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信システムや無線電力伝送システムの開発が進められている。これらの技術では、高周波信号を電力増幅し、増幅された信号を負荷に出力する電力増幅器が利用される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-165163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高周波用の電力増幅器の効率を高めるために、電力増幅器のトランジスタの出力端子の後段に高調波反射回路を接続する技術が知られている。高調波反射回路は、出力信号に含まれる高調波を反射する。高調波反射回路は、例えばF級動作の場合、トランジスタの出力端子において偶数次高調波に対して短絡となり、奇数次高調波に対して開放となるように設計される。これにより、トランジスタでの電力消費を低減し、効率を高めることができる。しかし、高調波反射回路は、基本波の周波数において損失を有するため、損失がないと仮定した理想状態と比較して、出力電力が低下し、効率も低下する。
【0005】
本開示はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的の一つは、効率を改善できる電力増幅器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の電力増幅器は、入力信号を増幅し、増幅された出力信号を出力端子から出力する増幅部と、出力端子に接続された整合回路と、整合回路を通過した出力信号が一端に供給される、所定の特性インピーダンスを有する伝送線路と、伝送線路の他端から出力された出力信号に含まれる基本波を通過させ、出力信号に含まれる高調波を反射させるフィルタと、を備える。出力端子から出力される出力信号に含まれる所定の高調波を所定の位相で前記出力端子に戻すように、伝送線路の長さは定められている。
【0007】
本開示の別の態様もまた、電力増幅器である。この電力増幅器は、入力信号を増幅し、増幅された出力信号を出力端子から出力する増幅部と、電源電圧が供給される一端と、出力端子に接続された他端とを有する誘導性素子と、出力端子に一端が接続された、所定の特性インピーダンスを有する伝送線路と、伝送線路の他端から出力された出力信号に含まれる基本波を通過させ、出力信号に含まれる高調波を反射させるフィルタと、を備える。出力特性が所定の特性となる増幅部の最適負荷アドミタンスの実部の逆数が特性インピーダンスと実質的に等しくなるように、電源電圧が設定される。入力信号の周波数において、誘導性素子のアドミタンスの虚部は、最適負荷アドミタンスの虚部と実質的に等しい。出力端子から出力される出力信号に含まれる所定の高調波を所定の位相で前記出力端子に戻すように、伝送線路の長さは定められている。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本開示の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、効率を改善できる電力増幅器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1比較例の無線装置の回路図である。
図2】第1の実施の形態の無線装置の回路図である。
図3図2の電力増幅器と図1の電力増幅器のそれぞれの高周波特性を示す図である。
図4】第2比較例の無線装置の回路図である。
図5】第2の実施の形態の無線装置の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、無線装置に利用される電力増幅器について研究し、以下の知見を得た。図1は、第1比較例の無線装置100の回路図である。無線装置100は、直流電源2、信号源4、電力増幅器106、およびアンテナ8を備える。電力増幅器106は、電力増幅回路110およびフィルタ126を有する。電力増幅回路110は、入力整合回路114、インダクタ(チョークコイル)118、トランジスタ120、基本波整合回路122、および高調波反射回路124を有する。
【0012】
直流電源2は、インダクタ118を介して電源電圧をトランジスタ120のドレインに供給する。インダクタ118は、バイアス電圧供給用インダクタであり、そのインダクタンスは、入力信号の周波数において十分に高いインピーダンスになるよう設定される。
【0013】
入力整合回路114は、信号源4の信号源インピーダンスZとトランジスタ120の入力インピーダンスとのインピーダンス変換を行う。信号源インピーダンスZは、特性インピーダンスZと等しく、例えば50Ωである。
【0014】
トランジスタ120は、信号源4から入力整合回路114を介してゲートに供給される入力信号を電力増幅し、増幅された信号をドレインから基本波整合回路122に出力する。入力信号は高周波信号であり、その周波数は、例えば1GHz以上である。トランジスタ120の出力信号の電力は、例えば500mW以上である。そのため、トランジスタ120は大信号動作を行う。
【0015】
トランジスタ120の大信号動作では、ドレインに接続されるインピーダンスに応じて、他の条件が一定であっても出力電力や効率などの出力特性が変化する。例えば、所定の入力電力、所定の入力周波数の入力信号が供給されたときに最大出力電力や最大効率が得られるインピーダンスは、最適負荷インピーダンスZoptと呼ばれる。
【0016】
基本波整合回路122は、基本波の周波数において、最適負荷インピーダンスZoptと特性インピーダンスZとのインピーダンス変換を行う。つまり、基本波整合回路122は、基本波の周波数において、特性インピーダンスZを最適負荷インピーダンスZoptに変換する。これにより、基本波の周波数において、トランジスタ120のドレインに最適負荷インピーダンスZoptを見せることができ、所定の条件下でトランジスタ120は最適出力を出力できる。トランジスタ120から出力される出力信号は、基本波整合回路122を介して高調波反射回路124に供給される。
【0017】
高調波反射回路124は、基本波整合回路122を通過した出力信号に含まれる基本波を通過させ、高調波を反射させる。既述のように、高調波反射回路124は、例えばF級動作の場合、トランジスタ120の出力端子において偶数次高調波に対して短絡となり、奇数次高調波に対して開放となるように設計される。一般に、高調波反射回路124は、主として2次高調波と3次高調波を反射させる。しかしながら、高調波反射回路124では、一般に法律で規定される不要輻射以下に2次高調波と3次高調波を抑えることが難しい場合がある。また、より高次の高調波は、高調波反射回路124で十分に反射されないため、高調波反射回路124の出力信号において十分に抑圧されない。そこで、高調波等の不要波をアンテナ8から放射させないために、高調波等を抑圧するためのフィルタ126が設けられ、高調波反射回路124を通過した出力信号は、フィルタ126に供給される。
【0018】
フィルタ126は、例えば、ローパスフィルタまたはバンドパスフィルタであり、通過帯域の基本波を通過させ、通過帯域外の信号を抑圧する。フィルタ126は、通過帯域外の信号を反射させることで、抑圧する。フィルタ126を通過した出力信号は、アンテナ8に供給される。アンテナ8は、フィルタ126から供給された出力信号を放射する。
【0019】
基本波の周波数において、フィルタ126およびアンテナ8のそれぞれの入力インピーダンスは、特性インピーダンスZである。
【0020】
ここで、例えば1GHz以上の周波数帯では、高調波反射回路124は、分布定数線路を用いて構成されることが多い。一般に、基本波の周波数における高調波反射回路124の損失は、0.2dB程度以上である。基本波の電力が0.2dB低下すると、ドレイン効率は、約4.7%低下する。また、高調波反射回路124を用いることで、回路構成が複雑になり、電力増幅回路110のサイズを増大させる。
【0021】
本発明者は、これらの知見に基づいて研究を重ね、基本波整合回路122とフィルタ126との間を伝送線路で接続し、伝送線路の長さを適切に設定することで、トランジスタ120の出力端子において、反射された高調波の位相を適切に設定でき、高調波反射回路124を無くすことができ、効率を改善できることを見出した。実施の形態は、このような思索に基づいて案出されたもので、以下にその具体的な構成を説明する。
【0022】
以下、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態について詳細に説明する。なお、説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0023】
(第1の実施の形態)
図2は、第1の実施の形態の無線装置1の回路図である。無線装置1は、例えば無線通信システムや無線電力伝送システムに利用できる。無線装置1は、直流電源2、信号源4、電力増幅器6、およびアンテナ8を備える。
【0024】
電力増幅器6は、信号源4から供給される入力信号を電力増幅して、増幅された信号をアンテナ8に供給する。電力増幅器6とアンテナ8との間に、スイッチなどの他の高周波部品が設けられてもよい。入力信号の周波数と出力信号の電力の範囲の一例は、第1比較例と同じである。直流電源2は、直流の電源電圧を電力増幅器6に供給する。
【0025】
電力増幅器6は、電力増幅回路10、伝送線路24、およびフィルタ26を有する。電力増幅回路10は、入力整合回路14、増幅部16、誘導性素子18、および基本波整合回路22を有する。電力増幅回路10は、パワーアンプとも呼べる。
【0026】
入力整合回路14は、信号源4の信号源インピーダンスZと、増幅部16の入力インピーダンスとのインピーダンス変換を行う。
【0027】
増幅部16は、制御端子T1、出力端子T2および接地端子T3を有し、入力整合回路14を介して制御端子T1に供給される入力信号を電力増幅し、増幅された出力信号を出力端子T2から出力する。接地端子T3は接地される。
【0028】
増幅部16は、半導体材料として例えば化合物半導体を用いたトランジスタ20を含む。トランジスタ20は、一例として、電界効果トランジスタであるとする。増幅部16において、制御端子T1はトランジスタ20のゲートであり、出力端子T2はドレインであり、接地端子T3はソースである。
【0029】
誘導性素子18は、チョークコイルとして機能するインダクタであり、直流電源2から電源電圧が供給される一端と、増幅部16の出力端子T2に接続された他端とを有する。誘導性素子18の一端は、図示しないキャパシタなどにより、入力信号の周波数において交流的に接地される。誘導性素子18は、バイアス電圧供給用のインダクタとして機能する。誘導性素子18は、高周波ショートスタブなどの伝送線路であってもよい。
増幅部16の制御端子T1にも図示しないバイアス回路からバイアス電圧が供給される。
【0030】
基本波整合回路22は、増幅部16の出力端子T2に接続され、増幅部16の出力信号に含まれる基本波の周波数において、最適負荷インピーダンスZoptと特性インピーダンスZとのインピーダンス変換を行う。
【0031】
伝送線路24は、特性インピーダンスZを有し、基本波整合回路22を通過した出力信号が一端に供給され、他端がフィルタ26に接続される。
【0032】
フィルタ26は、伝送線路24の他端に接続され、伝送線路24の他端から出力された出力信号に含まれる基本波を通過させ、当該出力信号に含まれる高調波を反射させる。フィルタ26は、基本波の周波数において特性インピーダンスZと同等の入力インピーダンスを有する。フィルタ26では、通過帯域外の周波数帯において、反射係数が1であるか、1に近い。フィルタ26を通過した出力信号は、アンテナ8に供給される。フィルタ26として、公知の高周波用のフィルタを用いることができる。
【0033】
このように、第1比較例と異なり、基本波整合回路22とフィルタ26とが伝送線路24により直接接続され、増幅部16の出力端子T2とフィルタ26との間に高調波反射回路が設けられていない。フィルタ26で反射した高調波は、伝送線路24と基本波整合回路22を介して出力端子T2に戻る。
【0034】
伝送線路24の長さを変化させると、例えば2次高調波と3次高調波の位相は、2:3の割合で変化する。増幅部16の出力端子T2から出力される出力信号に含まれる所定の高調波を所定の位相で出力端子T2に戻すように、伝送線路24の長さは予め定められている。所定の位相は、例えば、実質的に同相または実質的に逆相である。増幅部16の出力端子T2から出力される出力信号の電圧波形または電流波形に含まれる所定の高調波を抑制するように、伝送線路24の長さは予め定められている。高調波の抑制により、出力端子T2からトランジスタ20に流れ込む電流波形と出力端子T2に生じる電圧波形の重なりが少なくなる、すなわちトランジスタ20での消費電力が少なくなる。
【0035】
例えば、出力端子T2からフィルタ26側を見たインピーダンスが、出力信号に含まれる所定の偶数次高調波に関して実質的にゼロであるように、伝送線路24の長さは定められている。つまり、出力端子T2は、所定の偶数次高調波に対して実質的に短絡となっている。これにより、出力信号の電圧波形に含まれる所定の偶数次高調波は、抑制される。インピーダンスが実質的にゼロであるとは、所定値以上の効率が得られる程度にインピーダンスが低いことを表す。所定の偶数次高調波は、例えば、2次高調波である。相対的に大きい2次高調波を抑制することで、効率を高めやすい。所定の偶数次高調波は、複数であってもよい。
【0036】
偶数次高調波に関して伝送線路24の長さが定められる代わりに、出力端子T2からフィルタ26側を見たインピーダンスが、出力信号に含まれる所定の奇数次高調波に関して実質的に無限大であるように、伝送線路24の長さは定められていてもよい。つまり、出力端子T2は、所定の奇数次高調波に対して実質的に開放となってもよい。これにより、出力信号の電流波形に含まれる所定の奇数次高調波は、抑制される。インピーダンスが実質的に無限大であるとは、所定値以上の効率が得られる程度にインピーダンスが高いことを表す。所定の奇数次高調波は、例えば、3次高調波である。相対的に大きい3次高調波を抑制することで、効率を高めやすい。所定の奇数次高調波は、複数であってもよい。
【0037】
また、これらを組み合わせてもよい。つまり、出力端子T2からフィルタ26側を見たインピーダンスが、出力信号に含まれる所定の偶数次高調波に関して実質的にゼロであり、かつ、出力信号に含まれる所定の奇数次高調波に関して実質的に無限大であるように、伝送線路24の長さは定められてもよい。さらに、出力端子T2は、所定の奇数次高調波に対して実質的に短絡となってもよく、所定の偶数次高調波に対して実質的に開放となってもよい。
【0038】
このように、所定値以上の効率が得られるように、伝送線路24の長さは定められている。伝送線路24の長さの最適値は、実験またはシミュレーションにより適宜定めることができる。
【0039】
次に、図1の比較例の構成と図2の構成とにおけるシミュレーション結果を説明する。シミュレーションでは、図1の比較例の構成においては、高調波反射回路124を用いて、2次高調波と3次高調波のそれぞれの位相を独立して最適化している。図1の構成と図2の構成において、トランジスタ20とトランジスタ120には共通のシミュレーションモデルを用い、フィルタ26とフィルタ126には共通のシミュレーションモデルを用いている。フィルタ26,126のシミュレーションモデルとして、市販のフィルタのモデルを用いている。特性インピーダンスZは、50Ωである。基本波の周波数は5.8GHzである。図2の構成では、伝送線路24の長さは、3.5mmであり、その5.8GHzでの電気長は40°である。フィルタ26,126の出力で得られた特性を以下で説明する。
【0040】
図3は、図2の電力増幅器6と図1の電力増幅器106のそれぞれの高周波特性を示す。図3(a)は、図2の電力増幅器6の出力電力、利得、ドレイン効率、および電力付加効率の入力電力依存性を示す。入力電力rfinが30dBmのとき、利得Gainは11.268dB、出力電力Poutは41.268dBm、電力付加効率PAEは65.245%、ドレイン効率Pdfは70.511%である。
【0041】
図3(b)は、図1の第1比較例の電力増幅器106の出力電力、利得、ドレイン効率、および電力付加効率の入力電力依存性を示す。入力電力rfinが30dBmのとき、利得Gainは11.234dB、出力電力Poutは41.234dBm、電力付加効率PAEは65.577%、ドレイン効率Pdfは70.914%である。
【0042】
図3(b)の特性では、高調波反射回路124における基本波の損失を無視している。高調波反射回路124における基本波の損失を0.2dBと仮定すると、この損失を考慮したドレイン効率は、70.914-4.7≒66.2%である。高調波反射回路124の損失を考慮した第1比較例の特性と比較し、本実施の形態では、利得は約0.2dB増加し、ドレイン効率は約4.3%改善している。
【0043】
実施の形態によれば、伝送線路24の長さに応じて、フィルタ26で反射された高調波の出力端子T2における位相を調整できるので、出力端子T2からフィルタ26側を見た高調波に対するインピーダンスを実質的にゼロまたは実質的に無限大に設定できる。よって、高周波反射回路を設けることなく、電力増幅器6を高効率化できる。高周波反射回路を設けないため、第1比較例よりも損失を低減できる。
【0044】
また、実施の形態の伝送線路24の線路長は、最大でも電気長180度である。一方、第1比較例の高調波反射回路124は、電気長90度の伝送線路を複数個組み合わせて構成されることが一般的である。そのため、伝送線路24は、高調波反射回路124の面積に比べて小さい面積で実現できる。よって、電力増幅器6のサイズを第1比較例より小型化できる。
【0045】
また、第1比較例では、高調波反射回路は、基本波のインピーダンスに影響を及ぼすため、基本波整合回路と高調波反射回路を独立して設計することは困難であるが、本実施の形態では、そのような設計の困難さを回避できる。
【0046】
(第2比較例)
ここで、本発明者が発明した特開2021-118482号公報に記載の電力増幅器に対して、高調波反射回路124を組み合わせた第2比較例を説明する。
【0047】
図4は、第2比較例の無線装置100Aの回路図である。第2比較例では、特開2021-118482号公報に記載されたように、直流電源2から供給される電源電圧を高めることで最適負荷抵抗Roptを高め、インダクタ118の値を適切に設定することで、トランジスタ120の出力側の容量をキャンセルし、基本波整合回路を無くしている。トランジスタ120のドレインには、高調波反射回路124が直接接続される。
【0048】
この構成では、第1比較例に対して、基本波整合回路が不要であるという利点がある。しかし、第2比較例においても、第1比較例と同様に、高調波反射回路124を用いることで、基本波の周波数において損失があり、回路構成が複雑になり、電力増幅器106のサイズを増大させる。
【0049】
そこで、基本波整合回路を設けない電力増幅器106においても、高調波反射回路124を用いずに、伝送線路の長さにより、フィルタ126で反射された高調波の位相を調整する。以下にその具体的な構成を説明する。
【0050】
(第2の実施の形態)
図5は、第2の実施の形態の無線装置1Aの回路図である。図5に示すように、第2の実施の形態では、基本波整合回路が設けられないことが、第1の実施の形態と異なる。以下、第1の実施の形態との相違点を中心に説明する。
【0051】
電力増幅回路10Aの増幅部16の出力端子T2には、所定の特性インピーダンスZの伝送線路24を介してフィルタ26が直接接続される。つまり、出力端子T2とフィルタ26との間に出力整合回路および高調波反射回路が存在しない。特性インピーダンスZは、最適負荷抵抗Roptと実質的に等しい。フィルタ26は、基本波の周波数において最適負荷抵抗Roptと同等の入力インピーダンスを有する。特性インピーダンスZは、一般的には50Ωであるが、例えば10Ω~100Ω等の他の値であってもよい。
【0052】
増幅部16のトランジスタ20に用いられる化合物半導体の一例として、窒化ガリウム(GaN)などの窒化物半導体が挙げられる。トランジスタ20は、窒化ガリウムを用いた高電子移動度トランジスタ、即ちGaN-HEMT(High Electron Mobility Transistor)であることが好ましい。
【0053】
誘導性素子18は、インダクタンスL1のインダクタであり、第1の実施の形態よりもインダクタンスL1は小さい。インダクタンスL1の詳細は後述する。
【0054】
増幅部16の出力特性が所定の特性となる最適負荷アドミタンスYopt(=1/Zopt)は、増幅部16の出力端子T2からフィルタ26側を見たアドミタンスである。出力特性が所定の特性となるとは、例えば、出力電力が最大となること、ドレイン効率または電力付加効率が最大となることなどを意味する。
【0055】
最適負荷は、誘導性であり、最適負荷抵抗RoptとインダクタLoptの並列接続で表される。そのため、最適負荷アドミタンスYoptは式(1)で表せる。
opt=1/Ropt+1/jωLopt (1)
【0056】
出力電力を一定として電源電圧を増加させると、最適負荷抵抗Roptは増加する。そのため、電源電圧を増加させると、最適負荷アドミタンスYoptは、コンダクタンスが低くなる方向にアドミタンスチャート上を移動する。
【0057】
最適負荷アドミタンスYoptの実部の逆数、つまり最適負荷抵抗Roptが所定の特性インピーダンスZと実質的に等しくなるように、電源電圧が予め設定される。なお、最適負荷アドミタンスYoptの実部の逆数が特性インピーダンスZの-10%~20%の範囲にあるとき、最適負荷アドミタンスYoptの実部の逆数が特性インピーダンスZと実質的に等しいという。最適負荷アドミタンスYoptの実部の逆数は、特性インピーダンスZの±5%の範囲内に設定することが好ましく、最適負荷アドミタンスYoptの実部の逆数と特性インピーダンスZの差は小さい方が好ましい。なぜなら、差が小さいほど最適出力電力に近い値の出力電力を得られるためである。なお、電源電圧は、トランジスタ20のソース・ドレイン間電圧の最大定格を超えないように設定される。
【0058】
入力信号の周波数において、誘導性素子18のアドミタンスの虚部(-1/ωL1)は、最適負荷アドミタンスYoptの虚部(-1/ωLopt)と実質的に等しい。つまり、誘導性素子18のインダクタンスL1は、Loptと実質的に等しい。最適負荷アドミタンスYoptの誘導性成分は、誘導性素子18で実現されているとも言える。なお、誘導性素子18のアドミタンスの虚部が最適負荷アドミタンスYoptの虚部の±10%の範囲にあるとき、誘導性素子18のアドミタンスの虚部が最適負荷アドミタンスYoptの虚部と実質的に等しいという。誘導性素子18のアドミタンスの虚部は、最適負荷アドミタンスYoptの虚部の±5%の範囲内に設定することが好ましく、誘導性素子18のアドミタンスの虚部と最適負荷アドミタンスYoptの虚部との差も、小さい方が好ましい。なぜなら、差が小さいほど最適出力電力に近い値の出力電力を得られるためである。
【0059】
電源電圧を高めることで最適負荷抵抗Roptを高め、誘導性素子18の値を適切に設定することで出力整合回路を無くす構成については、特開2021-118482号公報に記載の技術を利用しているため、これ以上の説明は省略する。
【0060】
フィルタ26で反射した高調波は、伝送線路24を介して出力端子T2に戻る。伝送線路24の長さは、第1の実施の形態と同様に、所定値以上の効率が得られるように予め定められる。
【0061】
本実施の形態によれば、伝送線路24の長さに応じて、フィルタ26で反射された高調波の出力端子T2における位相を調整できるので、高周波反射回路を設けることなく、電力増幅器6Aを高効率化できる。高周波反射回路を設けないため、第2比較例よりも損失を低減できる。電力増幅器6Aのサイズを第2比較例より小型化することもできる。
【0062】
加えて、最適負荷アドミタンスYoptの実部の逆数が特性インピーダンスZと実質的に等しく、その虚部がバイアス電圧供給用の誘導性素子18で実現されているため、増幅部16の出力端子T2に特性インピーダンスZの伝送線路24を介して特性インピーダンスZのフィルタを直接接続することで、概ね最適負荷アドミタンスYoptを増幅部16の出力端子T2に見せることができる。これにより、電力増幅器6は、概ね所望の最適出力電力を出力できる。第1の実施の形態と比較して、出力整合回路を用いる必要がないので出力電力の損失を低減できる。よって、第1の実施の形態に対してドレイン効率と電力付加効率を改善できる。また、第1の実施の形態に対して電力増幅器6Aを小型化、軽量化することもできる。
【0063】
また、化合物半導体のトランジスタ20を用いることで、シリコン(Si)のトランジスタと比較してソース・ドレイン間電圧の最大定格が高いため、電源電圧を高めることができ、最適負荷アドミタンスYoptの実部の選択の幅を広げることができる。
【0064】
また、窒化物半導体のトランジスタ20を用いることで、ガリウムヒ素(GaAs)などのトランジスタと比較してソース・ドレイン間電圧の最大定格がより高いため、電源電圧をより高めることができ、最適負荷アドミタンスYoptの実部の選択の幅をより広げることができる。
【0065】
さらに、トランジスタ20としてGaN-HEMTを用いることで、FETと比較して高出力動作でき、1GHz以上の周波数において出力電力などの特性を向上させることもできる。
【0066】
以上、本開示を実施の形態にもとづいて説明した。本開示は上記実施の形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0067】
本開示の一態様の概要は、次の通りである。本開示のある態様の電力増幅器は、入力信号を増幅し、増幅された出力信号を出力端子から出力する増幅部と、前記出力端子に接続された整合回路と、前記整合回路を通過した前記出力信号が一端に供給される、所定の特性インピーダンスを有する伝送線路と、前記伝送線路の他端から出力された前記出力信号に含まれる基本波を通過させ、前記出力信号に含まれる高調波を反射させるフィルタと、を備え、前記出力端子から出力される前記出力信号に含まれる所定の高調波を所定の位相で前記出力端子に戻すように、前記伝送線路の長さは定められている。
【0068】
この態様によると、効率を改善できる。
【0069】
本開示の別の態様の電力増幅器は、入力信号を増幅し、増幅された出力信号を出力端子から出力する増幅部と、電源電圧が供給される一端と、前記出力端子に接続された他端とを有する誘導性素子と、前記出力端子に一端が接続された、所定の特性インピーダンスを有する伝送線路と、前記伝送線路の他端から出力された前記出力信号に含まれる基本波を通過させ、前記出力信号に含まれる高調波を反射させるフィルタと、を備え、出力特性が所定の特性となる前記増幅部の最適負荷アドミタンスの実部の逆数が前記特性インピーダンスと実質的に等しくなるように、前記電源電圧が設定され、前記入力信号の周波数において、前記誘導性素子のアドミタンスの虚部は、前記最適負荷アドミタンスの虚部と実質的に等しく、前記出力端子から出力される前記出力信号に含まれる所定の高調波を所定の位相で前記出力端子に戻すように、前記伝送線路の長さは定められている。
【0070】
この態様によると、効率を改善できる。
【0071】
前記出力端子と前記フィルタとの間に高調波反射回路が設けられていなくてもよい。この場合、電力増幅器を小型化できる。
【0072】
前記出力端子から前記フィルタ側を見たインピーダンスが、前記出力信号に含まれる所定の偶数次高調波に関して実質的にゼロであるように、前記伝送線路の長さは定められていてもよい。この場合、電力増幅器の効率を改善できる。
【0073】
前記出力端子から前記フィルタ側を見たインピーダンスが、前記出力信号に含まれる所定の奇数次高調波に関して実質的に無限大であるように、前記伝送線路の長さは定められていてもよい。この場合、電力増幅器の効率を改善できる。
【符号の説明】
【0074】
1,1A…無線装置、T1…制御端子、T2…出力端子、T3…接地端子、6,6A…電力増幅器、10,10A…電力増幅回路、14…入力整合回路、16…増幅部、18…誘導性素子、20…トランジスタ、22…基本波整合回路、24…伝送線路、26…フィルタ。
図1
図2
図3
図4
図5