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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064553
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】窒化物半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/265 20060101AFI20240507BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20240507BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
H01L21/265 601A
H01L21/265 602A
H01L29/78 658A
H01L29/78 652T
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173224
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 健太
(72)【発明者】
【氏名】大川 峰司
(57)【要約】
【課題】高温の熱処理中に窒化物半導体層の表面から窒素が抜けるのを抑えるのに好適なキャップ層を提供する。
【解決手段】窒化物半導体装置(1)の製造方法は、GaNを材料とする窒化物半導体層(14)にドーパントをイオン注入する工程と、窒化物半導体層の表面の少なくとも一部にキャップ層(50)を形成する工程と、熱処理によって前記ドーパントを活性化させるアニール工程と、を備えており、前記キャップ層は、GaNとの格子不整合度が2.5%未満であり、融点が1500℃以上の材料を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体装置(1)の製造方法であって、
GaNを材料とする窒化物半導体層(14)にドーパントをイオン注入する工程と、
窒化物半導体層の表面の少なくとも一部にキャップ層(50)を形成する工程と、
熱処理によって前記ドーパントを活性化させるアニール工程と、を備えており、
前記キャップ層は、GaNとの格子不整合度が2.5%未満であり、融点が1500℃以上の材料を含む、製造方法。
【請求項2】
前記キャップ層は、ScN、ScAl1-xN(0<x≦0.36)、HfN、ZrN、ZnO、ScMgAlO4、MnO、TaC、NbC、Mo、W、ZrB2、WB2、MoB2、ITOからなる群が選択される少なくとも1つの材料を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記キャップ層は、ScNとScAl1-xN(0<x≦0.36)の少なくともいずれか一方の材料を含む、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記キャップ層は、
前記窒化物半導体層の前記表面上に形成されている第1キャップ層(52)と、
前記第1キャップ層上に形成されている第2キャップ層(54)と、を有しており、
前記第1キャップ層の材料が、AlGa1-yN(0≦y≦1)であり、
前記第2キャップ層が、ScN、ScAl1-xN(0<x≦0.36)、HfN、ZrN、ZnO、ScMgAlO4、MnO、TaC、NbC、Mo、W、ZrB2、WB2、MoB2、ITOからなる群が選択される少なくとも1つの材料を含む、請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第1キャップ層は、組成が異なる複数のAlGaN層(56,58)が積層して構成されている、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記第1キャップ層を構成する前記複数のAlGaN層では、前記窒化物半導体層の前記表面から離れるにつれてアルミニウムの組成比が増加するように構成されている、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記第1キャップ層(52)と前記第2キャップ層(54)が厚み方向に交互に繰り返した超格子構造を構成しており、
前記第1キャップ層の材料が、AlGa1-yN(0≦y≦1)であり、
前記第2キャップ層が、ScN、ScAl1-xN(0<x≦0.36)、HfN、ZrN、ZnO、ScMgAlO4、MnO、TaC、NbC、Mo、W、ZrB2、WB2、MoB2、ITOからなる群が選択される少なくとも1つの材料を含む、請求項2に記載の製造方法。
【請求項8】
前記キャップ層上にカーボン膜を形成する工程、をさらに備えている、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、窒化物半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN(窒化ガリウム)を材料とする窒化物半導層にイオン注入されたドーパントを活性化するために、1200℃以上の高温の熱処理が必要とされている。しかしながら、このような高温の熱処理を行うと、窒化物半導体層の表面から窒素が抜けて窒化物半導体層の表面にピットが形成されてしまう。
【0003】
特許文献1は、窒化物半導体層の表面から窒素が抜けるのを抑えるために、窒化物半導体層の表面にAlGaN(窒化アルミニウムガリウム)からなるキャップ層を成膜する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-534058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
AlGaN(窒化アルミニウムガリウム)のキャップ層は、アルミニウムの組成比を小さくすれば、GaN(窒化ガリウム)を材料とする窒化物半導層との格子不整合度が小さくなって高温の熱処理中におけるクラックの発生を抑えられるものの、融点が低くなって耐熱性が悪化してしまう。一方、AlGaN(窒化アルミニウムガリウム)のキャップ層は、アルミニウムの組成比を大きくすれば、融点が高くなって耐熱性が向上するものの、GaN(窒化ガリウム)を材料とする窒化物半導層との格子不整合度が大きくなって高温の熱処理中にクラックが発生してしまう。このように、AlGaN(窒化アルミニウムガリウム)からなるキャップ層は、高温の熱処理におけるクラックの発生の抑制と耐熱性を両立させることが難しい。
【0006】
本明細書は、高温の熱処理中に窒化物半導体層の表面から窒素が抜けるのを抑えるのに好適なキャップ層を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書が開示する窒化物半導体装置(1)の製造方法は、GaNを材料とする窒化物半導体層(14)にドーパントをイオン注入する工程と、窒化物半導体層の表面の少なくとも一部にキャップ層(50)を形成する工程と、熱処理によってドーパントを活性化させるアニール工程と、を備えていてもよい。ここで、窒化物半導体層の表面は、キャップ層を形成しなければアニール工程で外部に露出する面である。窒化物半導体層の表面全体にキャップ層を形成してもよく、窒素抜けによるピットによって電気的特性が影響を受け得る表面の一部のみにキャップ層を形成してもよい。キャップ層は、GaNとの格子不整合度が2.5%未満であり、融点が1500℃以上の材料を含む。上記製造方法で用いられるキャップ層は、特に限定されるものではないが、例えばScN、ScAl1-xN(0<x≦0.36)、HfN、ZrN、ZnO、ScMgAlO4、MnO、TaC、NbC、Mo、W、ZrB2、WB2、MoB2、ITOからなる群が選択される少なくとも1つの材料を含んでもよい。
【0008】
従来からよく用いられるキャップ層の材料であるAlN(窒化アルミニウム)は、GaN(窒化ガリウム)との格子不整合度が2.5%である。AlN(窒化アルミニウム)からなるキャップ層は、高温の熱処理において、GaN(窒化ガリウム)を材料とする窒化物半導体層との格子定数差に起因してクラックの発生が問題となっていた。上記製造方法で用いられるキャップ層に含まれる材料は、GaN(窒化ガリウム)との格子不整合度が2.5%未満であり、GaN(窒化ガリウム)との格子不整合度がAlN(窒化アルミニウム)よりも小さい材料である。このため、上記製造方法で用いられるキャップ層は、AlN(窒化アルミニウム)からなるキャップ層よりもクラックの発生が抑えられる。さらに、上記製造方法で用いられるキャップ層に含まれる材料は、融点が1500℃以上の材料である。このため、上記製造方法で用いられるキャップ層は、高温の熱処理中も安定しており、高い耐熱性を有することができる。このように、上記製造方法で用いられるキャップ層は、高温の熱処理におけるクラックの発生の抑制と耐熱性を両立することができるので、高温の熱処理中に窒化物半導体層の表面から窒素が抜けるのを抑えるのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】半導体装置の一実施形態の要部断面図を模式的に示す。
図2図1の半導体装置を製造する方法の一部の製造フローを示す。
図3図1の半導体装置の製造方法における一製造過程の要部断面図を模式的に示す。
図4図1の半導体装置の製造方法における一製造過程の要部断面図を模式的に示す。
図5図1の半導体装置の製造方法における一製造過程の要部断面図を模式的に示す。
図6図1の半導体装置の製造方法の変形例における一製造過程の要部断面図を模式的に示す。
図7図1の半導体装置の製造方法の変形例における一製造過程の要部断面図を模式的に示す。
図8図1の半導体装置の製造方法の変形例における一製造過程の要部断面図を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本明細書が開示する半導体装置とその製造方法について説明する。各図面において、図示明瞭化を目的とし、共通する構成要素についてはそれらの1つの構成要素にのみ符号を付すことがある。
【0011】
図1に示されるように、半導体装置1は、窒化物半導体基板12と、窒化物半導体層14と、窒化物半導体基板12の下面を被覆するように設けられているドレイン電極32と、窒化物半導体層14の上面の一部を被覆するように設けられているソース電極34と、窒化物半導体層14の上面の一部を被覆するように設けられているプレーナー型の絶縁ゲート40と、を備えている。絶縁ゲート40は、ゲート絶縁膜42とゲート電極44を有している。
【0012】
窒化物半導体基板12は、特に限定されるものではないが、例えばGaN(窒化ガリウム)を材料とする半導体基板であってもよい。窒化物半導体基板12は、n型のドーパントを高濃度に含んでおり、ドレイン領域21として機能する部分でもある。n型のドーパントは、特に限定されるものではないが、例えばシリコンであってもよい。ドレイン領域21は、ドレイン電極32にオーミック接触している。
【0013】
窒化物半導体層14は、窒化物半導体基板12の上面に接するように設けられている。窒化物半導体層14は、GaN(窒化ガリウム)を材料とする半導体層である。窒化物半導体層14は、結晶成長技術を利用して、窒化物半導体基板12の上面から結晶成長して形成されている。窒化物半導体層14には、n型のドリフト領域22と、p-型のボディ領域24と、n+型のソース領域25と、p+型のボディコンタクト領域26と、が形成されている。
【0014】
ドリフト領域22は、ドレイン領域21の上面に接するように設けられており、ドレイン領域21とボディ領域24の間に配置されている。ドリフト領域22はまた、窒化物半導体層14の面方向(紙面左右方向)においてボディ領域24に挟まれるように設けられたJFET領域23を有している。換言すると、JFET領域23は、窒化物半導体層14の上面からボディ領域24を貫通するように設けられたドリフト領域22の一部である。JFET領域23は、窒化物半導体層14の上面に露出する位置に設けられており、絶縁ゲート40に接している。ドリフト領域22は、n型のドーパントをドレイン領域21よりも低濃度に含んでいる。n型のドーパントは、特に限定されるものではないが、例えばシリコンであってもよい。
【0015】
ボディ領域24は、ドリフト領域22の上面に接するように設けられており、JFET領域23の側面に隣接して配置されている。ボディ領域24の一部は、窒化物半導体層14の上面に露出する位置に設けられており、絶縁ゲート40に接している。ボディ領域24は、p型のドーパントを含んでいる。p型のドーパントは、特に限定されるものではないが、例えばマグネシウムであってもよい。
【0016】
ソース領域25は、ボディ領域24の上面に接するように設けられており、ボディ領域24によってドリフト領域22から隔てられている。ソース領域25は、窒化物半導体層14の上面に露出する位置に設けられており、絶縁ゲート40に接している。ソース領域25は、n型のドーパントをドリフト領域22よりも高濃度に含んでいる。n型のドーパントは、特に限定されるものではないが、例えばシリコンであってもよい。ソース領域25は、ソース電極34にオーミック接触している。
【0017】
ボディコンタクト領域26は、ボディ領域24の上面に接するように設けられている。ボディコンタクト領域26は、窒化物半導体層14の上面に露出する位置に設けられている。ボディコンタクト領域26は、p型のドーパントをボディ領域24よりも高濃度に含んでいる。p型のドーパントは、特に限定されるものではないが、例えばマグネシウムであってもよい。ボディコンタクト領域26は、ソース電極34にオーミック接触している。
【0018】
絶縁ゲート40は、窒化物半導体層14の上面の一部に接するように設けられており、酸化シリコンのゲート絶縁膜42及びポリシリコンのゲート電極44を有している。ゲート絶縁膜42は、窒化物半導体層14とゲート電極44の間に配置されており、窒化物半導体層14とゲート電極44の双方に接している。ゲート電極44は、ドリフト領域22の一部であるJFET領域23とソース領域25を隔てる位置のボディ領域24、及び、JFET領域23にゲート絶縁膜42を介して対向している。
【0019】
次に、半導体装置1の動作を説明する。使用時には、ドレイン電極32に正電圧が印加され、ソース電極34が接地される。ゲート電極44にゲート閾値電圧よりも高い正電圧が印加されると、JFET領域23とソース領域25を隔てる部分のボディ領域24、即ち、チャネル領域に反転層が形成される。チャネル領域に形成された反転層を介してソース領域25からJFET領域23に電子が流入する。JFET領域23に流入した電子は、そのJFET領域23及びドリフト領域22を縦方向に流れてドレイン電極32に向かう。これにより、ドレイン電極32とソース電極34が導通し、半導体装置1がターンオンする。ゲート電極44が接地されると、反転層が消失し、半導体装置1がターンオフする。このように、半導体装置1は、ゲート電極44に印加する電圧に基づいてドレイン電極32とソース電極34の間のオンとオフを切り換えるスイッチング動作を実行することができる。
【0020】
(半導体装置1の製造方法)
図2は、半導体装置1を製造するための工程のうちの一部の工程の流れを示す製造フローである。図3図5は、図2の製造フローに対応した製造過程における要部断面図である。
【0021】
まず、図3に示されるように、結晶成長技術を利用して、窒化物半導体基板12の上面から窒化物半導体層14を結晶成長させる(図2のステップS1)。窒化物半導体層14は、n型のドーパントを含むように結晶成長して形成される。
【0022】
次に、図4に示されるように、イオン注入技術を利用して、p型のドーパントおよびn型ドーパントを窒化物半導体層14の上層部の所定領域に注入し、ボディ領域24とソース領域25とボディコンタクト領域26を形成する(図2のステップS2)。これら半導体領域24,25,26を形成する順序は特に限定されるものではない。
【0023】
次に、図5に示されるように、窒化物半導体層14の上面および窒化物半導体基板12の下面に、後述の熱処理中に窒素が抜けるのを抑えるためのキャップ層50を形成する(図2のステップS3)。キャップ層50は、結晶成長技術を利用して、窒化物半導体層14の上面および窒化物半導体基板12の下面から結晶成長して形成される。なお、キャップ層50は、窒化物半導体層14の上面のみに形成されてもよい。窒化物半導体層14の上面は、チャネル領域となる部分を含んでおり、窒素抜けによるピットが形成されると電気的特性が悪影響を受け易い表面である。このため、キャップ層50は、少なくとも窒化物半導体層14の上面に形成されていればよい。
【0024】
キャップ層50に含まれる材料は、GaNとの格子不整合度が2.5%未満であり、融点が1500℃以上の材料である。キャップ層50は、特に限定されるものではないが、例えばScN、ScAl1-xN(0<x≦0.36)、HfN、ZrN、ZnO、ScMgAlO4、MnO、TaC、NbC、Mo、W、ZrB2、WB2、MoB2、ITOからなる群が選択される少なくとも1つの材料を含んでもよい。これら材料で例示されるような層、即ち、GaNとの格子不整合度が2.5%未満であり、融点が1500℃以上の材料で構成される層を本明細書では高融点格子整合層という。
【0025】
次に、半導体領域24,25,26を活性化するための熱処理を実施する(図2のステップS4)。熱処理の温度は、特に限定されるものではないが、例えば1200℃以上かつ1500℃未満であってもよい。このような高温の熱処理により、注入されたドーパント、特に、p型のドーパントであるマグネシウムを良好に活性化させることができる。
【0026】
従来からよく用いられるキャップ層の材料であるAlN(窒化アルミニウム)は、GaN(窒化ガリウム)との格子不整合度が2.5%である。AlN(窒化アルミニウム)からなるキャップ層は、高温の熱処理において、GaN(窒化ガリウム)の窒化物半導体層との格子定数差に起因してクラックの発生が問題となっていた。上記製造方法で用いられるキャップ層50に含まれる材料は、GaN(窒化ガリウム)との格子不整合度が2.5%未満の材料であり、GaN(窒化ガリウム)との格子不整合度がAlN(窒化アルミニウム)よりも小さい材料である。このため、上記製造方法で用いられるキャップ層50は、AlN(窒化アルミニウム)からなるキャップ層よりもクラックの発生が抑えられる。なお、キャップ層50に含まれる材料は、ScNまたはScAl1-xN(0<x≦0.36)であってもよい。これら材料は、GaN(窒化ガリウム)との格子不整合度が0.1%以下の材料である。このため、これら材料のキャップ層50は、高温の熱処理においてクラックの発生が顕著に抑えられる。
【0027】
さらに、上記製造方法で用いられるキャップ層50に含まれる材料は、融点が1500℃以上の材料である。このため、上記製造方法で用いられるキャップ層50は、高温の熱処理中も安定しており、高い耐熱性を有することができる。このように、上記製造方法で用いられるキャップ層50は、高温の熱処理におけるクラックの発生の抑制と耐熱性を両立することができるので、高温の熱処理中に窒化物半導体層14の上面および窒化物半導体基板12の下面から窒素が抜けるのを抑制し、窒化物半導体層14の上面および窒化物半導体基板12の下面にピットが形成されるのを抑制することができる。
【0028】
次に、キャップ層50を除去した後に、既知の製造技術を利用して、絶縁ゲート40、ドレイン電極32およびソース電極34を形成する(図2のステップS5)。これらの工程を経て、図1に示す半導体装置1を製造することができる。
【0029】
キャップ層50は、以下の変形例とすることができる。
【0030】
図6に示すキャップ層50は、第1キャップ層52と、第2キャップ層54と、を有していることを特徴としている。第1キャップ層52は、窒化物半導体層14の上面(または、窒化物半導体基板12の下面)に接するように形成されており、窒化物半導体層14(または、窒化物半導体基板12の下面)と第2キャップ層54の間に配置されている。第2キャップ層54は、第1キャップ層52の表面に接するように形成されており、キャップ層50の最表面に配置されている。第2キャップ層54は、上記した高融点格子整合層で構成されている。
【0031】
第1キャップ層52の材料は、AlGaN(窒化アルミニウムガリウム)である。具体的には、第1キャップ層52の材料は、AlGa1-yN(0≦y≦1)である。AlGaNの第1キャップ層52は、高温の熱処理において、上記した高融点格子整合層よりも窒化物半導体層14の上面(または、窒化物半導体基板12の下面)との間で反応が抑えられる。このため、第1キャップ層52を介在させることにより、高温の熱処理において窒化物半導体層14の上面(または、窒化物半導体基板12の下面)の結晶性を良好に維持することができる。第1キャップ層52の材料は、アルミニウムを必ず含むAlGa1-yN(0<y≦1)であってもよい。この場合、第1キャップ層52と窒化物半導体層14(または、窒化物半導体基板12)の間の格子定数差を低下させることができる。
【0032】
図7に示すキャップ層50は、図6に示す第1キャップ層52が組成の異なる複数のAlGaN層が積層して構成されていることを特徴としている。この例では、第1キャップ層52が組成の異なる2つのAlGaN層が積層して構成されている。この例に代えて、第1キャップ層52が組成の異なる3つ以上のAlGaN層が積層して構成されてもよい。第1キャップ層52は、下側AlGaN層56と、上側AlGaN層58と、を有している。下側AlGaN層56は、窒化物半導体層14の上面(または、窒化物半導体基板12の下面)に接するように形成されており、窒化物半導体層14の上面(または、窒化物半導体基板12の下面)と上側AlGaN層58の間に配置されている。上側AlGaN層58は、下側AlGaN層56の表面に接するように形成されており、下側AlGaN層56と第2キャップ層54の間に配置されている。
【0033】
下側AlGaN層56の材料は、AlyaGa1-yaN(0≦ya≦1)である。上側AlGaN層58の材料は、AlybGa1-ybN(0<yb≦1,yb>ya)である。上側AlGaN層58のアルミニウムの組成比は、下側AlGaN層56のアルミニウムの組成比よりも大きい。このように、第1キャップ層52を構成する複数のAlGaN層において、窒化物半導体層14の上面(または、窒化物半導体基板12の下面)から離れるにつれてアルミニウムの組成比を増加させることにより、第1キャップ層52と窒化物半導体層14(または、窒化物半導体基板12)の間の格子定数差を抑えながら、耐熱性を向上させることができる。
【0034】
図8に示すキャップ層50は、第1キャップ層52と第2キャップ層54が厚み方向に沿って交互に繰り返した超格子構造を構成している。各々のキャップ層52,54の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば10nm以下であってもよい。超格子構造を構成する第1キャップ層52の具体的な材料は、特に限定されるものではないが、例えばAlycGa1-ycN(0.5≦yc≦1)であってもよい。このように、超格子構造を構成する第1キャップ層52のアルミニウムの組成比は比較的高めに設定されている。この超格子構造では、第1キャップ層52が窒化物半導体層14の上面(または、窒化物半導体基板12の下面)に接するように配置されており、第2キャップ層54がキャップ層50の最表面に配置されている。第2キャップ層54は、上記した高融点格子整合層で構成されている。
【0035】
上記したように、超格子構造を構成する第1キャップ層52のアルミニウムの組成比は比較的高い。しかしながら、第1キャップ層52は高融点格子整合層である第2キャップ層と超格子構造を構成しているので、キャップ層50全体では窒化物半導体層14(または、窒化物半導体基板12)との間で格子不整合が緩和されている。一方、超格子構造を構成する第1キャップ層52のアルミニウムの組成比は比較的高いので、キャップ層50全体の耐熱性が向上している。
【0036】
上記では、プレーナー型の絶縁ゲート40を備えた半導体装置1を用いて本明細書が開示する技術に説明したが、本明細書が開示する技術はトレンチ型の絶縁ゲートを備えた半導体装置にも適用可能である。
【0037】
上記の製造方法はさらに、キャップ層50を形成した後であって活性化の熱処理の前に、キャップ層50の表面にカーボン膜を形成する工程を備えていてもよい。カーボン膜が形成されていると、活性化の熱処理中の雰囲気ガスがキャップ層50に侵入することを抑えることができる。
【0038】
以下、本明細書で開示される技術の特徴を整理する。なお、以下に記載する技術要素は、それぞれ独立した技術要素であって、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【0039】
(特徴1)
窒化物半導体装置の製造方法であって、
GaNを材料とする窒化物半導体層にドーパントをイオン注入する工程と、
窒化物半導体層の表面の少なくとも一部にキャップ層を形成する工程と、
熱処理によって前記ドーパントを活性化させるアニール工程と、を備えており、
前記キャップ層は、GaNとの格子不整合度が2.5%未満であり、融点が1500℃以上の材料を含む、製造方法。
【0040】
(特徴2)
前記キャップ層は、ScN、ScAl1-xN(0<x≦0.36)、HfN、ZrN、ZnO、ScMgAlO4、MnO、TaC、NbC、Mo、W、ZrB2、WB2、MoB2、ITOからなる群が選択される少なくとも1つの材料を含む、特徴1に記載の製造方法。
【0041】
(特徴3)
前記キャップ層は、ScNとScAl1-xN(0<x≦0.36)の少なくともいずれか一方の材料を含む、特徴2に記載の製造方法。
【0042】
(特徴4)
前記キャップ層は、
前記窒化物半導体層の前記表面上に形成されている第1キャップ層(52)と、
前記第1キャップ層上に形成されている第2キャップ層(54)と、を有しており、
前記第1キャップ層の材料が、AlGa1-yN(0≦y≦1)であり、
前記第2キャップ層が、ScN、ScAl1-xN(0<x≦0.36)、HfN、ZrN、ZnO、ScMgAlO4、MnO、TaC、NbC、Mo、W、ZrB2、WB2、MoB2、ITOからなる群が選択される少なくとも1つの材料を含む、特徴2又は3に記載の製造方法。
【0043】
(特徴5)
前記第1キャップ層は、組成が異なる複数のAlGaN層(56,58)が積層して構成されている、特徴4に記載の製造方法。
【0044】
(特徴6)
前記第1キャップ層を構成する前記複数のAlGaN層では、前記窒化物半導体層の前記表面から離れるにつれてアルミニウムの組成比が増加するように構成されている、特徴5に記載の製造方法。
【0045】
(特徴7)
前記第1キャップ層(52)と前記第2キャップ層(54)が厚み方向に交互に繰り返した超格子構造を構成しており、
前記第1キャップ層の材料が、AlGa1-yN(0≦y≦1)であり、
前記第2キャップ層が、ScN、ScAl1-xN(0<x≦0.36)、HfN、ZrN、ZnO、ScMgAlO4、MnO、TaC、NbC、Mo、W、ZrB2、WB2、MoB2、ITOからなる群が選択される少なくとも1つの材料を含む、特徴2に記載の製造方法。
【0046】
(特徴8)
前記キャップ層上にカーボン膜を形成する工程、をさらに備えている、特徴1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【0047】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0048】
1:半導体装置、 12:窒化物半導体基板、 14:窒化物半導体層、 21:ドレイン領域、 22:ドリフト領域、 23:JFET領域、 25:ソース領域、 26:ボディコンタクト領域、 32:ドレイン電極、 34:ソース電極、 40:絶縁ゲート、 42:ゲート絶縁膜、 44:ゲート電極、 50:キャップ層、 52:第1キャップ層、 54:第2キャップ層、 56:下側AlGaN層、 58:上側AlGaN層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8