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特開2024-64563非カルシウム型スメクタイトの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064563
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】非カルシウム型スメクタイトの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/40 20060101AFI20240507BHJP
【FI】
C01B33/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173242
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000104814
【氏名又は名称】クニミネ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 道也
【テーマコード(参考)】
4G073
【Fターム(参考)】
4G073BA02
4G073BA03
4G073BA04
4G073BA11
4G073BA36
4G073BA69
4G073BA75
4G073BA76
4G073BB05
4G073BB11
4G073BB24
4G073BD21
4G073CM14
4G073CM15
4G073CM19
4G073CM20
4G073FD01
4G073FD08
4G073GA21
4G073GA40
4G073UB60
(57)【要約】
【課題】カルシウム型スメクタイトのイオン交換反応を促進し、効率的に非カルシウム型スメクタイトを得ることができる、非カルシウム型スメクタイトの製造方法を提供する。
【解決手段】カルシウム型スメクタイトと、アンモニア水又は過酸化水素水と、カルシウムイオン以外の陽イオンとを媒体中で混合し、陽イオン交換反応により非カルシウム型スメクタイトを得ることを含む、非カルシウム型スメクタイトの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム型スメクタイトと、アンモニア水又は過酸化水素水と、カルシウムイオン以外の陽イオンとを媒体中で混合し、陽イオン交換反応により非カルシウム型スメクタイトを得ることを含む、非カルシウム型スメクタイトの製造方法。
【請求項2】
前記のカルシウムイオン以外の陽イオンが、1価の金属イオン又は多価の金属イオンである、請求項1に記載の非カルシウム型スメクタイトの製造方法。
【請求項3】
前記非カルシウム型スメクタイトの浸出陽イオン量に占めるカルシウムイオンの割合が40%以下である、請求項1に記載の非カルシウム型スメクタイトの製造方法。
【請求項4】
前記スメクタイトが、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、及びスチブンサイトから選ばれる1種又は2種以上である、請求項1に記載の非カルシウム型スメクタイトの製造方法。
【請求項5】
前記混合後において、混合液中のアンモニア量が、カルシウム型スメクタイトの混合量100質量部に対して1~100質量部である、請求項1~4のいずれか1項に記載の非カルシウム型スメクタイトの製造方法。
【請求項6】
前記混合後において、混合液中の過酸化水素量が、カルシウム型スメクタイトの混合量100質量部に対して1質量部以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の非カルシウム型スメクタイトの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非カルシウム型スメクタイトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スメクタイトは、アニオン性の結晶層を中和するように結晶層間に陽イオン(交換性陽イオン)が保持されている粘土鉱物である。天然のスメクタイトとしては、前記陽イオンがナトリウムイオンであるナトリウム型スメクタイトや、前記陽イオンがカルシウムイオンであるカルシウム型スメクタイトが一般的である。
【0003】
スメクタイトの特性は、前記結晶層間の陽イオンの種類に大きく依存する。例えば、ナトリウム型スメクタイトは、結晶層を構成するアルミノシリケート層に対するナトリウムイオンの相互作用性が弱く、ナトリウムイオンに水分子が多層に水和して層間が拡大し、無限体積膨張(「無限膨潤」とも称す。)を示す。また、ナトリウム型スメクタイトを、ナトリウムイオン以外の陽イオンを用いた陽イオン交換処理に付すことにより、非ナトリウム型スメクタイトへと簡単に変換することができる。一方、カルシウム型スメクタイトでは、カルシウムイオンがアルミノシリケート層と強く相互作用し、層間への水分子の侵入が制限され、僅かな体積膨張しか示さないことが知られている(非特許文献1)。したがって、カルシウム型スメクタイトを陽イオン交換処理に付して、非カルシウム型スメクタイトへと変換するのは容易ではない。カルシウム型スメクタイトを非カルシウム型スメクタイトへと変換する方法として、例えば、カルシウム型ベントナイトと炭酸ナトリウムとを特定の条件下で混合することにより、その層間陽イオンをナトリウムイオンにイオン交換する方法(活性化ベントナイト製造技術)などが知られているが(非特許文献2)、操作性に劣り、また陽イオン交換の効率にも劣るものである。
【0004】
ナトリウム型スメクタイトは、無限体積膨潤により均一分散性(スラリー状態におけるハンドリング性)に優れ、また、増粘性、液だれ防止性、沈降防止性、止水性、遮水性などを発現することができ、産業上の応用範囲が広い。これに対し、上記の通り、天然スメクタイトとして多く産出されるカルシウム型スメクタイトは、ナトリウム型スメクタイトと比較して使い勝手が悪い。それゆえ、カルシウム型スメクタイトの利用価値を高め、スメクタイト資源を有効利用することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「粘土科学」、一般社団法人日本粘土学会、2007年、第46巻、第2号、p.132~133
【非特許文献2】「粘土ハンドブック(第三版)」、技報堂、日本粘土学会編、2009年4月21日、p.893
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、カルシウム型スメクタイトのイオン交換反応を促進し、効率的に非カルシウム型スメクタイトを得ることができる、非カルシウム型スメクタイトの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
カルシウムイオンは、スメクタイトの結晶層間における安定性が、陽イオンのなかでも高い(結晶層間への侵入能が高い)。そのため、カルシウムイオンよりも結晶層間への侵入能の低い多くの陽イオン(例えば、マグネシウムイオン、鉄イオン、アンモニウムイオン、カリウムイオン、水素イオン、ナトリウムイオン、リチウムイオン等)との間では、イオン交換反応を生じにくい。発明者は、カルシウム型スメクタイトのイオン交換反応の際に、アンモニア水又は過酸化水素水を共存させることにより、結晶層間のカルシウムイオンを、カルシウムイオンよりもスメクタイトの結晶層間への侵入能の低い陽イオンへと、簡単に、かつ効率的にイオン交換できることを見出した。
本発明はこれらの知見に基づき、更に検討を重ねて完成されるに至ったものである。
【0008】
本発明の上記課題は、下記の手段により解決された。
〔1〕
カルシウム型スメクタイトと、アンモニア水又は過酸化水素水と、カルシウムイオン以外の陽イオンとを媒体中で混合し、陽イオン交換反応により非カルシウム型スメクタイトを得ることを含む、非カルシウム型スメクタイトの製造方法。
〔2〕
前記のカルシウムイオン以外の陽イオンが、1価の金属イオン又は多価の金属イオンである、前記〔1〕に記載の非カルシウム型スメクタイトの製造方法。
〔3〕
前記非カルシウム型スメクタイトの浸出陽イオン量に占めるカルシウムイオンの割合が40%以下である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の非カルシウム型スメクタイトの製造方法。
〔4〕
前記スメクタイトが、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、及びスチブンサイトから選ばれる1種又は2種以上である、前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の非カルシウム型スメクタイトの製造方法。
〔5〕
前記混合後において、混合液(混合後の分散液)中のアンモニア量が、カルシウム型スメクタイトの混合量100質量部に対して1~100質量部である、前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の非カルシウム型スメクタイトの製造方法。
〔6〕
前記混合後において、混合液中の過酸化水素量が、カルシウム型スメクタイトの混合量100質量部に対して1質量部以上である、前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の非カルシウム型スメクタイトの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の非カルシウム型スメクタイトの製造方法によれば、カルシウム型スメクタイトを原料としながら、各種陽イオンとのイオン交換反応を、簡単に、効率的に行うことができ、その結果物として非カルシウム型スメクタイトを、簡単に、高効率に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施の形態について具体的に説明するが、本発明は、本発明で規定すること以外はこれらの形態に限定されるものではない。
【0011】
本発明の非カルシウム型スメクタイトの製造方法(以下、「本発明の製造方法」とも称す。)は、原料のスメクタイトとしてカルシウム型スメクタイトを用いる。
本発明ないし本明細書において、「XX型スメクタイト」(例えば、「カルシウム型スメクタイト」)とは、スメクタイトの結晶層間陽イオン(以下、単に「層間陽イオン」とも称す。)のうち最も存在量の多い(モル量の多い)陽イオンがXXイオン(上記の例ではカルシウムイオン)であるスメクタイトを意味する。層間陽イオンの種類及びその存在量(含有割合)は常法により決定することができる。例えば、後述する実施例の項に記載するように、浸出陽イオンを測定することにより決定することができる。
【0012】
(スメクタイト)
スメクタイト(前記カルシウム型スメクタイト、及び後述する非カルシウム型スメクタイト)の種類は特に限定されず、目的に応じて適宜に設定することができる。スメクタイトそれ自体は公知であり、市販もされている。スメクタイトとしては、天然スメクタイトや合成スメクタイトのいずれも使用することができる。
本発明に用いるスメクタイトは、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、及びスチブンサイトから選ばれる1種又は2種以上であることが好ましく、モンモリロナイトがより好ましい。モンモリロナイトしてベントナイトを用いることも好ましい。
【0013】
(カルシウム型スメクタイト)
本発明で用いるカルシウム型スメクタイトにおいて、その浸出陽イオン(Leached Cations:Lc)量(すなわち浸出陽イオンの総量、単位:meq(ミリ当量)/100g、以下同様)に占めるカルシウムイオンの量(すなわち浸出カルシウムイオン量、単位:meq/100g、以下同様)の割合は、50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。前記カルシウム型スメクタイトの浸出陽イオン量に占める浸出カルシウムイオン量は、100%でもよいが、通常は99%以下である。各陽イオンの浸出陽イオン量は、例えば実施例に記載の方法により測定することができる。
前記浸出陽イオンにおける浸出カルシウムイオン以外の浸出陽イオンとしては、例えばナトリウムイオン、及びカリウムイオン等が挙げられる。前記カルシウム型スメクタイトの浸出陽イオン量に占める浸出カルシウムイオン以外の浸出陽イオンの総量の割合は、50%以下が好ましく、40%以下がより好ましく、30%以下がより好ましく、20%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。また、前記浸出カルシウムイオン以外の浸出陽イオンが実質的に検出できないレベルまで抑えられていることも好ましい。
【0014】
本発明で用いる前記カルシウム型スメクタイトの陽イオン交換容量(CEC:Cation Exchange Capacity)は、好ましくは20meq(ミリ当量)/100g以上、より好ましくは25meq/100g以上、さらに好ましくは30meq/100g以上である。また通常、本発明で用いるカルシウム型スメクタイトのCECは250meq/100g以下である。CECは、例えば実施例に記載の方法により測定することができる。
【0015】
(イオン交換反応)
本発明の製造方法では、カルシウムイオン以外の陽イオンを溶解させた媒体中にカルシウム型スメクタイトを分散させ、さらにイオン交換促進剤として、アンモニア水又は過酸化水素水を共存させることにより、イオン交換反応を促進させることができる。なお、上記成分の混合順は特に限定されず、例えば予め媒体中に陽イオンを溶解させた後に、カルシウム型スメクタイトを分散させ、次いでアンモニア水又は過酸化水素水を混合してもよく、また媒体にアンモニア水又は過酸化水素水を加え、さらに陽イオンを溶解させた後に、カルシウム型スメクタイトを分散させてもよい。イオン交換反応において、本発明ないし本明細書において規定する条件以外の条件については、スメクタイトのイオン交換反応において通常用いられる条件を適用することができる。
【0016】
(カルシウムイオン以外の陽イオン)
前記カルシウムイオン以外の陽イオンの種類にはとくに制限はなく、1価の金属イオンや多価の金属イオンを用いることができ、得られる非カルシウム型スメクタイトの用途に応じて適宜決定することができる。例えば、1価の金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、銅(I)イオン、銀(I)イオン等が挙げられる。前記金属イオンとして1価の金属イオンを用いることにより、例えば、得られる非カルシウム型スメクタイトに、より高い膨潤性を付与することができる。
また、例えば多価の金属イオンのうち、2価の金属イオンとしては、ニッケルイオン、亜鉛イオン、銅(II)イオン、鉄(II)イオン、コバルトイオン、スズイオン、マンガン(II)イオン、3価の金属イオンとしては、アルミニウム(III)イオン、インジウムイオン、鉄(III)イオン、タングステンイオン、モリブデンイオン、4価の金属イオンとしては、スズイオン、マンガン(IV)イオン、チタンイオン等が挙げられる。多価の金属イオンを用いることにより、得られる非カルシウム型スメクタイトに、例えば、遷移金属イオンに特有の発色を発現させることもでき、また交換する金属イオンに特有の生化学機能を付与することもできる。
本発明の製造方法では、イオン交換促進剤としてアンモニア水又は過酸化水素水を用いることにより、通常ではカルシウム型スメクタイトとのイオン交換が困難である陽イオンとも効率的にイオン交換反応を進行させることができる。そのため、本発明の製造方法において、上記陽イオンはカルシウムイオンよりも結晶層間への侵入能の低い金属イオンであることが好ましく、1価又は2価の金属イオンであることがより好ましく、1価の金属イオンであることがさらに好ましい。当該陽イオンの好ましい具体例として、ナトリウムイオン、鉄イオン、リチウムイオン等を挙げることができる。
【0017】
陽イオン交換反応において、前記カルシウムイオン以外の陽イオンは、水に対して高い溶解性を示す観点から、例えば、ハロゲン化物、硫化物、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、過塩素酸塩、塩素酸塩に由来のものとすることが好ましい。
陽イオン交換反応において、前記陽イオンの混合量は特に制限されない。本発明の製造方法では、イオン交換促進剤であるアンモニア水又は過酸化水素水を混合することにより、当該イオン交換促進剤を用いない場合と比較して、陽イオンを過剰に混合せずとも、効率的にイオン交換を促進させることができる。例えば、カルシウム型スメクタイト100質量部に対し、前記陽イオンを(陽イオンとして)0.05~100質量部混合することが好ましく、0.1~50質量部混合することがより好ましく、0.2~30質量部混合することがさらに好ましく、0.3~10質量部混合することがさらに好ましい。
【0018】
(イオン交換促進剤)
本発明の製造方法では、イオン交換促進剤として、アンモニア水又は過酸化水素水を用いる。アンモニア水と過酸化水素水を組合せて用いることもできるが、過酸化水素水は強力な酸化剤である一方、アンモニア水には強い還元作用があるため、安全性の観点から、それぞれを単独で用いることが好ましい。アンモニア水及び過酸化水素水の濃度は特に制限されず、混合液中において目的の作用を発現する量のアンモニア又は過酸化水素を供給できればよい。混合するアンモニア水のアンモニア濃度は10~40質量%が好ましく、20~30質量%であることも好ましい。また、混合する過酸化水素水の過酸化水素濃度は、10~50質量%が好ましく、20~40質量%であることも好ましい。例えば、市販のアンモニア水及び過酸化水素水としては、関東化学社製のアンモニア水(水酸化アンモニウム、28~30質量%)や、関東化学社製の過酸化水素水(30~35.5質量%)が挙げられ、これらをアンモニア水や過酸化水素水として混合することも好ましい。
【0019】
本発明の製造方法において、イオン交換反応の際にアンモニア水を共存させることにより、カルシウム型スメクタイトのイオン交換反応が促進されるメカニズムは明らかでないが、カチオン性であるアンモニアがスメクタイトの結晶層間に侵入し層間を拡大することにより、イオン交換反応が促進されると推測される。
【0020】
本発明の製造方法において、カルシウム型スメクタイトの混合量に対するアンモニア水の混合量は特に制限はない。例えばカルシウム型スメクタイトの混合量100質量部に対して、混合液(混合後の分散液)中のアンモニア量が1~100質量部となるようにアンモニア水を混合することができる。イオン交換反応を促進する観点、及びアンモニウムイオンへのイオン交換反応を抑制する観点から、カルシウム型スメクタイトの混合量100質量部に対して前記アンモニア量が3~50質量部となるように混合することが好ましく、5~25質量部となるように混合することがより好ましい。
【0021】
本発明の製造方法において、イオン交換反応の際に過酸化水素水を共存させることにより、カルシウム型スメクタイトのイオン交換反応が促進されるメカニズムは明らかでないが、過酸化水素から発生する酸素がスメクタイト結晶層間に侵入し層間を拡大するように作用することにより、イオン交換が促進されるものと推測される。
【0022】
本発明の製造方法において、カルシウム型スメクタイトの混合量に対する過酸化水素水の混合量は特に制限はない。イオン交換反応を促進する観点から、カルシウム型スメクタイトの混合量100質量部に対して、混合液中の過酸化水素量が1質量部以上となるように過酸化水素水を混合することが好ましく、2質量部以上となるように混合することがより好ましく、5質量部以上となるように混合することがさらに好ましい。また、過酸化水素水の混合量の上限値は特に限定されず、例えば市販の過酸化水素水(例えば、30~35.5質量%程度の濃度)を希釈せずにイオン交換反応の媒体(溶媒)として用いることもできる。カルシウム型スメクタイトの混合量100質量部に対して、過酸化水素量が100質量部以下となるように過酸化水素水を混合することも好ましく、50質量部以下となるように過酸化水素水を混合することも好ましく、25質量部以下となるように過酸化水素水を混合することもできる。
【0023】
(媒体)
本発明で用いられる媒体(液媒体)は、カルシウム型スメクタイトと前記陽イオンとを接触させる場となるものである。前記媒体は常温で液体であればとくに制限はなく、水、又は水を主成分とする水溶液であることが好ましい。本発明の製造方法により得られる非カルシウム型スメクタイトの純度を高める観点から、前記媒体における不純物イオンが少ないことが好ましく、前記水又は水溶液を構成する水は、イオン交換や蒸留等の処理により水中のイオン量を低減させた水であることがより好ましい。
前記媒体が水を主成分とする水溶液である場合、水以外の構成成分としては、スメクタイトの分散向上や、分散後の分液濾過を容易にする観点から、水溶性有機溶媒を用いることもできる。このような水溶性有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、2-ブタノン、テトラヒドロフラン、2-メチルピロリドン等の各種有機溶媒が挙げられる。
【0024】
(非カルシウム型スメクタイト)
本発明の製造方法により得られる非カルシウム型スメクタイトは、その主要な層間陽イオンがカルシウムイオン以外の陽イオン(以下、「非カルシウムイオン」とも称す。)であるスメクタイトである。前記非カルシウム型スメクタイトの主要な層間陽イオンである非カルシウムイオンは、本発明の製造方法において混合される「カルシウムイオン以外の陽イオン」に由来する陽イオンである。すなわち、例えばカルシウムイオン以外の陽イオンとしてXXイオンを用いた場合、得られる非カルシウム型スメクタイト(すなわち、XX型スメクタイト)の主要な層間陽イオンもXXイオンである。
【0025】
本発明の製造方法により得られる非カルシウム型スメクタイトにおいて、その浸出陽イオン量(浸出陽イオンの総量、単位:meq/100g)に占める浸出非カルシウムイオン量の割合は50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。前記非カルシウム型スメクタイトの浸出陽イオン量に占める浸出非カルシウムイオン量は、100%でもよいが、通常は99%以下である。
【0026】
(非カルシウム型スメクタイト中のカルシウムイオン含有量)
本発明の製造方法では、カルシウム型スメクタイト中の層間陽イオンに存在するカルシウムイオンが、カルシウムイオン以外の陽イオンへとイオン交換される。そのため、陽イオン交換反応前のカルシウム型スメクタイトにおける浸出カルシウムイオン量に比べ、陽イオン交換反応後の非カルシウム型スメクタイトにおいて、浸出カルシウムイオン量は減少する。具体的には、前記非カルシウム型スメクタイトの浸出陽イオン量に占める浸出カルシウムイオン量の割合が50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましく、30%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましく、10%以下であることも好ましい。
【0027】
本発明の製造方法により得られる非カルシウム型スメクタイトは、その層間陽イオンである非カルシウムイオンに由来する様々な特性を示す。例えば、層間陽イオンがナトリウムイオンやリチウムイオンなどの1価の金属イオンである場合、得られるイオン交換型スメクタイトに高い膨潤性を付与することができ、水のゲル化剤や高吸湿材料等の用途に用いることができる。また、層間陽イオンが鉄イオン、マンガンイオン、銅イオンなどの遷移金属多価イオンである場合には、得られるイオン交換型スメクタイトが遷移金属多価イオン由来の鮮やかな発色を呈し、化粧品材料として用いることができる。また、例えば、層間陽イオンが銀イオン、銅イオン、亜鉛イオンである場合には、得られるイオン交換型スメクタイトに抗菌、防カビ特性等を付与することができる。
【実施例0028】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
[参考例1:原料スメクタイト]
本実施例では原料スメクタイト粉末として、カルシウム型のスメクタイトであるクニミネ工業社製のクニボンド(製品名、天然モンモリロナイト)を用いた。当該原料スメクタイト粉末そのものを、参考例1として用いた。
【0030】
[実施例1]
蒸留水60gに、陽イオン(鉄(II)イオン)源として硫酸鉄(II)・7水和物(関東化学社製)を1.24g入れ、スターラーで30分間攪拌し完全に溶解させた。その後、前記原料スメクタイト粉末を10.0g加え、室温(20℃)下で1時間攪拌して分散液を得た。その後、当該分散液に、イオン交換促進剤として30質量%濃度のアンモニア水(関東化学社製)を3.0g(原料スメクタイト粉末100質量部に対し、アンモニア量が9質量部)滴下した。なお、アンモニア水の滴下に伴い、緑灰色であった分散液がオレンジ色に変色した。
アンモニア水滴下後の分散液をさらに1時間攪拌後、分散液を減圧濾過してスメクタイトの脱水ケーキを得た。得られた脱水ケーキは、新たに蒸留水を100g加えて室温下で1時間分散した後に減圧濾過する工程を3回繰り返して洗浄処理を行った。洗浄後の脱水ケーキを105℃で17時間乾燥し、その後乾燥物をメノウ乳鉢で粉砕して、実施例1のイオン交換型スメクタイト粉末(非カルシウム型スメクタイト粉末)を得た。
【0031】
[実施例2]
イオン交換促進剤として、上記アンモニア水に代えて30質量%濃度の過酸化水素水(関東化学社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2のイオン交換型スメクタイト粉末を得た。
なお、原料スメクタイト粉末に対する前記過酸化水素水の混合量は、原料スメクタイト粉末100質量部に対して過酸化水素量が9質量部となる量とした。
【0032】
[実施例3]
陽イオン源として、上記硫酸鉄(II)・7水和物の1.24gに代えて水酸化リチウム・1水和物(関東化学社製)を0.186g加え、さらに脱水ケーキの洗浄液として、蒸留水100gに代えて、イソプロピルアルコール60g及び蒸留水40gの混合溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例3のイオン交換型スメクタイト粉末を得た。
【0033】
[実施例4]
イオン交換促進剤として、上記アンモニア水に代えて30質量%濃度の過酸化水素水(関東化学社製)を用いた以外は、実施例3と同様にして、実施例4のイオン交換型スメクタイト粉末を得た。
【0034】
[比較例1]
イオン交換促進剤であるアンモニア水を分散液に滴下しなかった以外は、実施例1と同様にして比較例1のイオン交換処理スメクタイト粉末を得た。
【0035】
[比較例2]
イオン交換促進剤であるアンモニア水を分散液に滴下しなかった以外は、実施例3と同様にして比較例2のイオン交換処理スメクタイト粉末を得た。
【0036】
実施例1~4、比較例1及び2、並びに参考例1の各スメクタイト粉末について、下記の試験を行った。
【0037】
<浸出陽イオンの測定>
上記の各スメクタイト粉末を浸出陽イオン分析に付し、交換性陽イオン組成を解析した。より詳細には、層間に存在する陽イオンの浸出を、1M酢酸アンモニウムを用いて4時間かけて行い、その浸出液を、4100MP-AES分光分析装置(AgilentTechnologies社製)により分析し、浸出陽イオン量を測定した。
なお、実施例1及び2、並びに比較例1の各スメクタイト粉末では、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、及び鉄(II)イオンをそれぞれ測定対象金属イオンとして、実施例3及び4、並びに比較例2の各スメクタイト粉末では、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、及びリチウムイオンをそれぞれ測定対象金属イオンとして、参考例1の原料スメクタイト粉末では、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、鉄(II)イオン、及びリチウムイオンをそれぞれ測定対象金属イオンとして、それぞれ浸出陽イオン量を測定した。結果を表1に示す。
【0038】
<陽イオン交換容量の測定>
上記の各スメクタイト粉末のCECを、陽イオン交換容量測定試験に付して測定した。測定は日本ベントナイト工業会標準試験方法JBAS-106-77に記載の方法により行なった。より詳細には、層間に存在する陽イオンを1M酢酸アンモニウムで完全にアンモニウムイオンへ交換した後、再び該アンモニウムイオンをKCl(塩化カリウム)溶液由来のカリウムイオンで追い出し、その量をアンモニウム電極により定量する方法により測定し、CECを定量した。結果を下記表1に示す。
【0039】
<色味評価>
上記の各スメクタイト粉末について、目視により色味の評価を行った。結果を表1に示す。
【0040】
<膨潤性>
100ccメスシリンダー中に50gの蒸留水を入れたものを7点用意した。これに、上記の各スメクタイト粉末をサンプルとして0.50gを秤量し、0.10gずつサンプル投入間隔が5分間となるように、各メスシリンダーに投入した。全てのサンプルを投入後24時間放置し、メスシリンダー内での膨潤高さを測定した。膨潤高さが5mm未満の場合は膨潤性「無し」と判定し、10mm以上の場合は膨潤性「有り」と判定した。なお、膨潤高さが5mm以上10mm未満となるサンプルはなかった。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1に示す通り、本実施例に用いた原料スメクタイト粉末(参考例1)は、陽イオン交換容量(CEC)が71meq/100g、浸出陽イオン量が、カルシウム57meq/100g、ナトリウム14meq/100gであった。また、鉄(II)イオンとリチウムイオンの浸出陽イオン量は、それぞれ検出限界値以下であった。すなわち、原料スメクタイトの層間陽イオンはカルシウムイオンが主体であり(約80%)、残りはナトリウムイオン(約20%)であった。
また、原料スメクタイト粉末は緑灰色を呈し、さらに膨潤性は示さなかった。
【0043】
イオン交換促進剤であるアンモニア水を分散液中に共存させなかった比較例1のスメクタイト粉末では、鉄(II)イオンに由来する濃オレンジ色を呈さず、イオン交換反応が十分に進行しなかったことが示された。実際、比較例1のスメクタイト粉末を用いた浸出陽イオンの測定の結果は、原料スメクタイト粉末(参考例1)が含有するカルシウムイオンのほとんどが残存していることを示しており、ナトリウムイオンが優先的に鉄(II)イオンへとイオン交換されたに過ぎないことがわかる。
同様に、イオン交換促進剤であるアンモニア水を分散液中に共存させなかった比較例2のスメクタイト粉末では、リチウム型スメクタイトが有する膨潤性を示さず、イオン交換反応が十分に進行しなかったことが示された。浸出陽イオンの測定の結果も、比較例1のスメクタイト粉末と同様に、ナトリウムイオンが優先的にリチウムイオンへとイオン交換されたことを示している。
【0044】
これに対し、イオン交換促進剤であるアンモニア水や過酸化水素水を混合液に共存させてイオン交換反応を行った実施例1~4の各スメクタイト粉末は、鉄(II)イオンに由来する濃オレンジ色を呈し(実施例1及び2)、またリチウム型スメクタイトが有する膨潤性を示し(実施例3及び4)、それぞれ鉄(II)イオンやリチウムイオンへのイオン交換が十分に進行したことが示された。また、浸出陽イオンの測定により、実施例1~4の各スメクタイト粉末では、カルシウムイオン及びナトリウムイオンの溶出量が大きく減少し、鉄(II)イオンやリチウムイオンの溶出量が顕著に増加したことが明らかとなり、イオン交換促進剤によりカルシウムイオンも積極的に鉄(II)イオンやリチウムイオンにイオン交換されたことがわかる。