(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064601
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】補償フィルタ装置およびそれを用いたX線撮影装置
(51)【国際特許分類】
A61B 6/40 20240101AFI20240507BHJP
【FI】
A61B6/00 300J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173311
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100093056
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100142930
【弁理士】
【氏名又は名称】戸高 弘幸
(74)【代理人】
【識別番号】100175020
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 知彦
(74)【代理人】
【識別番号】100180596
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 要
(74)【代理人】
【識別番号】100195349
【弁理士】
【氏名又は名称】青野 信喜
(72)【発明者】
【氏名】秋村(波部) 梨里子
(72)【発明者】
【氏名】渥美 圭大
【テーマコード(参考)】
4C093
【Fターム(参考)】
4C093AA01
4C093CA38
4C093EA11
(57)【要約】
【課題】補償フィルタ板を単純な構成で所望の位置へと移動できるとともに、補償フィルタ板の劣化をより確実に回避できる補償フィルタ装置およびこれを用いたX線撮影装置を提供する。
【解決手段】補償フィルタ板25を駆動させる回転板21,23を上下に重ねて積層し、回転板21および補償フィルタ板25が支持箇所を中心にして回転可能に構成し、回転板23に突起55を設けるとともに、突起55に嵌合して移動可能な長穴57を補償フィルタ板25に設け、回転板21は突起73を備え、回転板23は溝部75を備え、突起73および溝部75は、回転板21に対する回転板23の相対的な回転角度が上限または下限になることで互いに干渉して回転板21,23の回転を抑止することで当該相対的な回転角度を所定範囲内に規制させ、突起73と溝部75との干渉は突起55が長穴57の端部に接触する前に発生する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
補償フィルタ板を駆動させる補償フィルタ装置であって、
回転駆動することにより前記補償フィルタ板を駆動させる2つの回転部材を備えるとともに、
前記2つの回転部材をそれぞれ回転駆動させる回転駆動部を各々の前記回転部材ごとに備え、
前記2つの回転部材を上下に重ねて積層し、
前記2つの回転部材のうちの一方の回転部材および前記補償フィルタ板が支持箇所を中心にして回転可能になるように、それぞれを構成し、
前記2つの回転部材のうちの他方の回転部材または前記補償フィルタ板のいずれか一方に突起を設けるとともに、当該突起に嵌合して当該突起が移動可能な長穴を他方に設け、
前記2つの回転部材のうちの一方の回転部材は第1部材を備えるとともに、前記2つの回転部材のうちの他方の回転部材は第2部材を備え、
前記第1部材および前記第2部材は、前記一方の回転部材に対する前記他方の回転部材の相対的な回転角度が所定範囲の上限または下限になることで互いに干渉して前記2つの回転部材の回転を抑止することで、前記相対的な回転角度を前記所定範囲内に規制させ、
前記第1部材と前記第2部材との前記干渉は、前記突起が前記長穴の端部に接触する前に発生するように、前記第1部材および前記第2部材が構成される補償フィルタ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の補償フィルタ装置において、
前記回転部材の中心軸を挟んで対向配置されている複数の前記補償フィルタ板を備え、
複数の前記補償フィルタ板の各々は、前記中心軸を挟んで互いに進退移動するように構成され、
前記一方の回転部材に対する前記他方の回転部材の相対的な回転角度が所定範囲の上限または下限になることで、前記補償フィルタ板の各々は互いに当接して全体として1枚のフィルタ板を形成する補償フィルタ装置。
【請求項3】
請求項1に記載の補償フィルタ装置において、
前記第1部材は突起であり、前記第2部材は前記突起に嵌合して当該突起が移動可能な溝部である補償フィルタ装置。
【請求項4】
請求項1に記載の補償フィルタ装置において、
前記第1部材および前記第2部材は互いに対向するように配置された凸部である補償フィルタ装置。
【請求項5】
被検体にX線を照射するX線管と、
前記被検体を透過したX線を検出するX線検出器と、
前記X線検出器が出力する検出信号を用いてX線画像を生成するX線画像生成部と、
前記X線管と前記X線検出器との間に配置された補償フィルタ装置と、
を備え、
前記補償フィルタ装置は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の補償フィルタ装置であるX線撮影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補償フィルタ板を駆動させる補償フィルタ装置および当該補償フィルタ装置を用いたX線撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の補償フィルタ装置は、X線透視撮影装置を例とするX線撮影装置に用いられ、X線撮影装置のX線管に取り付けられる。そして補償フィルタ装置にはX線に対して半透過である補償フィルタ板が配設されており、当該補償フィルタ板によってハレーションの抑制などを行う。一例として、被検体の一部が他の部分と比較してX線を透過しやすい場合、当該部分でハレーションが発生することがある。補償フィルタ板は、このような部分のX線を半透過させ、ハレーションを抑制する役割を果たす。そのために、補償フィルタ装置は補償フィルタ板を目的の場所へ駆動させて移動させる構成を有している。
【0003】
補償フィルタ板を目的の場所へ駆動させる補償フィルタ装置の従来の構成として、以下のようなものが挙げられる。すなわち
図21に示すように、従来の補償フィルタ装置100は、ギア101と補償フィルタ板110とギア111とを備えている(例えば、特許文献1)。ギア101と補償フィルタ板110とギア111とが順に積層されている。ギア101およびギア111は、図示しないモータによって順逆回転可能に構成されている。
【0004】
ギア101は、上面側の外周部近傍に突起102を備えており、ギア111は下面側の外周部近傍に突起112を備えている。補償フィルタ板110は略矩形状の薄い板状部材であり、補償フィルタ板110の一端側には突起102に嵌合する穴Faが形成されている。そして補償フィルタ板110の他端側には突起112に嵌合して当該突起112が移動可能な長穴Fbが形成されている。
【0005】
そして、突起102が穴Faに嵌合するとともに突起112が長穴Fbに嵌合するように、ギア101と補償フィルタ板110とギア111とを重ねて積層させる。
図22は初期状態における補償フィルタ装置100の平面図である。穴Faに突起102を嵌合させることで、補償フィルタ110は穴Faおよび突起102が配設されている支持箇所を中心にして回転可能となる。
【0006】
補償フィルタ装置100では、ギア101と補償フィルタ板110とギア111とを積層させた状態で、ギア101とギア111との回転方向および回転角度を適宜調節することによって補償フィルタ板110の回転移動および進退移動とを行う。補償フィルタ板110を補償フィルタ装置100の中心軸Pの軸周りに回転移動させる場合、ギア101とギア111とを同じ方向へ同じ速度で回転させる。この場合、補償フィルタ板110はギア101およびギア111とともに中心軸Pの軸周りに回転移動する。
【0007】
補償フィルタ板110をギア101の面に沿って進退移動させる場合、ギア101とギア111とを互いに逆方向へ回転させる。
図23は、ギア101を左回り(反時計回り)に回転させ、ギア111を右回り(時計回り)に同じ速度で回転させる状態を示している。当該回転により、突起102は穴Faとともに左回りに移動して点線から実線の位置へと移動する。また突起112は長穴Fbとともに右回りに移動して点線から実線の位置へと移動する。このとき突起112は長穴Fbの長手方向に沿って移動する。そのため補償フィルタ板110は中心軸Pに対する角度を維持しつつ、
図23における右方向へと移動する。補償フィルタ板110を
図23における左方向へと移動させる場合、ギア101を右回りに回転させるとともにギア111を左回りに同じ速度で回転させる。このように、ギア101およびギア111の回転方向と回転角度とを適宜制御するという比較的単純な構成により、補償フィルタ板110の回転移動および進退移動の各々を制御して所望の位置へと移動させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、このような構成を有する従来例の場合には、次のような問題がある。
【0010】
従来の構成において補償フィルタ板110を進退移動させる場合、ギア101とギア111とを逆向きに回転させる回転角度の大きさに応じて、ギア111に設けられる突起112は長穴Fbに沿って移動する距離が大きくなる。そのため補償フィルタ板110を右側へ移動させる場合においてギア101およびギア111の回転角度が大きくなると、突起102と突起112とは互いに遠ざかるように移動していくので両者の直線距離が大きくなる。そのため、
図24に示すように突起112が長穴Fbの一方の端部(図では上側の端部)に接触し、さらに突起112から長穴Fbの端面に対して押し付ける力B1が加わる。補償フィルタ板110は薄い板状部材であって強度が大きくないので、当該押し付ける力B1によって補償フィルタ板110に歪みまたは破損が発生する問題が懸念される。
【0011】
長穴Fbを補償フィルタ板110の外側(
図24では上側)へ十分に長くした場合、突起112が突起102から最も遠ざかる位置に移動した場合であっても長穴Fbの一方の端部に突起112が接触することを回避できる。しかしながらこの場合であってもさらにギア101とギア111とを逆向きに回転させた場合、突起102および突起112が右側方向へ互いに近づくように移動していくので両者の直線距離が小さくなる。その結果、
図25に示すように、突起112が長穴Fbの他方の端部(
図25では下側の端部)に接触し、さらに突起112から長穴Fbの端面に対して押し付ける力B2が加わる。従って、補償フィルタ板110に歪みまたは破損が発生して補償フィルタ110が劣化するという事態を回避することは困難である。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、補償フィルタ板を単純な構成で所望の位置へと移動できるとともに、補償フィルタ板の劣化をより確実に回避できる補償フィルタ装置およびこれを用いたX線撮影装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち本発明の第1の態様は補償フィルタ板を駆動させる補償フィルタ装置であって、回転駆動することにより前記補償フィルタ板を駆動させる2つの回転部材を備えるとともに、前記2つの回転部材をそれぞれ回転駆動させる回転駆動部を各々の前記回転部材ごとに備え、前記2つの回転部材を上下に重ねて積層し、前記2つの回転部材のうちの一方の回転部材および前記補償フィルタ板が支持箇所を中心にして回転可能になるように、それぞれを構成し、前記2つの回転部材のうちの他方の回転部材または前記補償フィルタ板のいずれか一方に突起を設けるとともに、当該突起に嵌合して当該突起が移動可能な長穴を他方に設け、前記2つの回転部材のうちの一方の回転部材は第1部材を備えるとともに、前記2つの回転部材のうちの他方の回転部材は第2部材を備え、前記第1部材および前記第2部材は、前記一方の回転部材に対する前記他方の回転部材の相対的な回転角度が所定範囲の上限または下限になることで互いに干渉して前記2つの回転部材の回転を抑止することで、前記相対的な回転角度を前記所定範囲内に規制させ、前記第1部材と前記第2部材との前記干渉は、前記突起が前記長穴の端部に接触する前に発生するように、前記第1部材および前記第2部材が構成される。
【0014】
また本発明の第2の態様に係るX線撮影装置は、被検体にX線を照射するX線管と、前記被検体を透過したX線を検出するX線検出器と、前記X線検出器が出力する検出信号を用いてX線画像を生成するX線画像生成部と、前記X線管と前記X線検出器との間に配置された補償フィルタ装置と、を備え、前記補償フィルタ装置は、本発明の第1の態様に係る補償フィルタ装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1の態様に係る補償フィルタ装置によれば、回転駆動することで補償フィルタ板を駆動させる2つの回転部材を上下に重ねて積層させ、回転部材ごとに回転駆動部が設けられている。そのため、2つの回転部材をそれぞれ一方向に回転駆動させることができる。また、2つの回転部材のうちの一方の回転部材と補償フィルタ板とが支持箇所を中心にして回転可能になるように構成されている。さらに、2つの回転部材のうちの他方の回転部材または補償フィルタ板のいずれか一方に突起を設けるとともに、他方には当該突起に嵌合して当該突起が移動可能な長穴を設けることで、当該他方の回転部材によって補償フィルタ板が、当該突起が設けられた箇所で保持されつつ、長穴の範囲内で移動可能となる。従って、各々の回転駆動部によって各々の回転部材を回転駆動させると、各々の回転部材に保持された補償フィルタ板は、回転方向のみならず、長穴の範囲内での移動が可能となり、これらの回転・移動を合わせて補償フィルタ板を意図した場所に移動させることができる。
【0016】
また、2つの回転部材のうちの一方の回転部材は第1部材を備えるとともに、2つの回転部材のうちの他方の回転部材は第2部材を備える。第1部材および第2部材は、一方の回転部材に対する他方の回転部材の相対的な回転角度が所定範囲の上限または下限になることで互いに干渉して前記2つの回転部材の回転を抑止することで、一方の回転部材に対する他方の回転部材の相対的な回転角度を所定範囲内に規制させる。そして第1部材と第2部材との干渉は、突起が長穴の端部に接触する前に発生するように、第1部材および前記第2部材が構成される。このような構成により、突起が長穴の端部に接触して長穴の端面に押し付ける力が加わる前に、第1部材と第2部材との干渉が発生して2つの回転部材の相対的な回転が抑止される。そのため、一方の回転部材に対する他方の回転部材の相対的な回転角度が過度に大きくなることに起因して、突起が長穴の端部に接触して長穴の端面に押し付ける力が加わって補償フィルタ板が劣化することを回避できる。よって、補償フィルタ板を単純な構成で所望の位置へと移動できるとともに、補償フィルタ板の劣化をより確実に回避できる。
【0017】
本発明の第2の態様に係るX線撮影装置によれば、被検体にX線を照射するX線管と、被検体を透過したX線を検出するX線検出器と、X線検出器が出力する検出信号を用いてX線画像を生成するX線画像生成部と、X線管とX線検出器との間に配置された補償フィルタ装置と、を備え、補償フィルタ装置は、本発明の第1の態様に係る補償フィルタ装置である。そのため、補償フィルタ装置が備える各々の回転駆動部によって各々の回転部材を回転駆動させると、各々の回転部材に保持された補償フィルタ板は、回転方向のみならず、長穴の範囲内での移動が可能となり、これらの回転・移動を合わせて補償フィルタ板を意図した場所に移動させることができる。また、突起が長穴の端部に接触して長穴の端面に押し付ける力が加わる前に、第1部材と第2部材との干渉が発生して2つの回転部材の相対的な回転が抑止される。そのため、一方の回転部材に対する他方の回転部材の相対的な回転角度が過度に大きくなることに起因して、突起が長穴の端部に接触して長穴の端面に押し付ける力が加わって補償フィルタ板が劣化することを回避できる。よって、補償フィルタ板を単純な構成で所望の位置へと移動できるとともに、補償フィルタ板の劣化をより確実に回避できるX線撮影装置の実現が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例1に係るX線撮影装置および補償フィルタ装置の概略構成図およびブロック図である。
【
図2】実施例1に係る補償フィルタ装置の概略断面図である。
【
図3】実施例1に係る補償フィルタ装置の構成を説明する分解図である。
【
図4】実施例1に係る回転板および補償フィルタ板の構成を示す平面図である。
【
図5】実施例1に係る補償フィルタ装置の主要な構成を示す斜視図である。
【
図6】実施例1に係る補償フィルタ装置の初期状態を示す概略平面図である。
【
図7】実施例1に係る補償フィルタ装置において、各々の回転板をそれぞれ同方向へ回転させた状態を示す概略平面図である。
【
図8】実施例1に係る補償フィルタ装置において、各々の回転板を互いに逆方向へ回転させた状態を示す概略平面図である。
【
図9】実施例1に係る補償フィルタ装置において、各々の回転板を互いに逆方向へ回転させ、相対回転角度が上限に達した状態を示す概略平面図である。
【
図10】実施例1に係る補償フィルタ装置において、各々の回転板を互いに逆方向へ回転させ、相対回転角度が下限に達した状態を示す概略平面図である。
【
図11】実施例2に係る回転板の構成を示す斜視図である。
【
図12】実施例2に係る補償フィルタ装置の初期状態を示す概略平面図である。
【
図13】実施例2に係る補償フィルタ装置の主要な構成を示す斜視図である。
【
図14】実施例2に係る補償フィルタ装置において、各々の回転板を互いに逆方向へ回転させた状態を示す概略平面図である。
【
図15】実施例2に係る補償フィルタ装置において、各々の回転板を互いに逆方向へ回転させ、相対回転角度が上限に達した状態を示す概略平面図である。
【
図16】実施例2に係る補償フィルタ装置において、各々の回転板を互いに逆方向へ回転させ、相対回転角度が下限に達した状態を示す概略平面図である。
【
図17】第1の変形例に係る回転板および補償フィルタ板の構成を示す斜視図である。
【
図18】第1の変形例に係る回転板および補償フィルタ板の構成を示す平面図である。
【
図19】第2の変形例に係る補償フィルタ装置の主要な構成を示す斜視図である。
【
図20】第2の変形例に係る補償フィルタ装置の構成を示す概略平面図である。
【
図21】従来例に係る補償フィルタ装置の構成を示す斜視図である。
【
図22】従来例に係る補償フィルタ装置の構成を示す平面図である。
【
図23】従来例に係る補償フィルタ装置において、各々のギアを互いに逆方向へ回転させた状態を示す平面図である。
【
図24】従来例に係る補償フィルタ装置の問題点を示す平面図である。
【
図25】従来例に係る補償フィルタ装置の問題点を示す平面図である。
【
図26】比較例に係る補償フィルタ装置の構成を示す平面図である。
【
図27】比較例に係る補償フィルタ装置の問題点を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0019】
以下、図面を参照してこの発明の実施例1を説明する。
【0020】
<全体構成の説明>
実施例1に係るX線撮影装置1は
図1に示すように、X線管3と、X線検出器5と、補償フィルタ装置7と、コリメータ9と、主制御部11と、入力部13と、記憶部15と、表示部17とを備えている。X線管3は、被検体Mに対してX線を照射する。X線検出器5は、X線管3から被検体Mに照射されて透過したX線を検出して電気信号に変換させ、X線検出信号として出力させる。X線検出器5の一例として、FPD(Flat Panel Detector)が挙げられる。本実施例では、X線管3からX線検出器5の中心へ向かう方向(X線照射方向)をz方向とする。
【0021】
補償フィルタ装置7はX線管3のX線照射側に取り付けられており、ハレーションの抑制などを行う。すなわち補償フィルタ装置7は、X線管3とX線検出器5との間に配設される。補償フィルタ装置7の具体的な構成については後述する。コリメータ9は補償フィルタ装置7の下流に配設されており、X線の照射野を制御する。コリメータ9は鉛を例とするX線吸収体で構成されており、コリメータ9の開口部の大きさを調整することで、X線管3から照射されるX線の照射野を制御する。なおコリメータ9は、補償フィルタ装置7の上流側に配設されてもよい。すなわちX線管3から照射されたX線は、補償フィルタ装置7およびコリメータ9を通り、さらに被検体Mを透過した後にX線検出器5によって検出される。
【0022】
主制御部11は、一例として中央処理演算装置(CPU:Central Processing Unit)などの情報処理手段を備えている。主制御部11は、X線管3およびX線検出器5を例とする、X線撮影装置1の各種構成を統括制御する。また主制御部11は画像処理部12を備えている。画像処理部12はX線検出器5の後段に設けられており、X線検出器5から出力されたX線検出信号に基づいてX線画像を生成する。本実施例において、画像処理部12はX線画像生成部に相当する。
【0023】
表示部13は、画像処理部12によって生成されたX線画像およびX線撮影装置1に関する各種情報を表示する。表示部13の一例として、液晶モニタまたは高精度ディスプレイなどが挙げられる。記憶部15は、画像処理部12が生成する各種X線画像、およびX線装置1の動作に関する各種情報などを書き込んで記憶する。記憶された情報は適宜必要に応じて読み出され、主制御部11を介して表示部13などに出力される。記憶部15は、不揮発性メモリを例とする記憶媒体で構成されている。
【0024】
入力部17は、X線撮影装置1の操作に関する操作者の指示を入力するものであり、術者が入力部17に入力する指示に従って主制御部11は統括制御を行う。入力部17に配設される操作用デバイスの例として、キーボード入力式のパネル、タッチ入力式のパネル、マウス、ダイヤル、切り換え式スイッチ、押しボタン式スイッチなどが挙げられる。
【0025】
<補償フィルタ装置の構成>
ここで、補償フィルタ装置7の構成について説明する。補償フィルタ装置7は
図2および
図3に示すように、2つの回転板21および23と、補償フィルタ板25と、2つのモータ27および29と、2つの保持部材31および33と、2つのスペーサ35および37と、これらの構成を収容する下側ベース板39および上側ベース板41とを備えている。下側ベース板39と上側ベース板41との間には一例として2本の支柱43が立設されている。なお、回転板21、回転板23、保持部材31、保持部材33、スペーサ35、スペーサ37、下側ベース板39、および上側ベース板41の各々は、一例として真円状の開口部が中央に設けられている。X線管3から照射されたX線は、これらの開口部を通って被検体Mに照射される。
【0026】
補償フィルタ装置7は、回転板21と回転板23とを上下に重ねて積層し、回転板21と回転板23との間に補償フィルタ板25を介在させて構成している。モータ27は回転板21の側面に取り付けられており、回転板21を中心軸Pの軸周り(z方向の軸周り)に回転駆動させる。モータ27は、回転板21とともに移動しないように構成されている。すなわち回転板21が回転駆動する場合、モータ27の位置は変わらないように構成されている。モータ29は回転板23の側面に取り付けられており、回転板23を中心軸Pの軸周りに回転駆動させる。そしてモータ29は、回転板23とともに移動しないように構成されている。回転板21および回転板23は、本実施例における回転部材に相当する。
【0027】
下側ベース板39は、補償フィルタ装置7のうちX線管3に近い側(
図2では下側)に配設されている。上側ベース板41は、補償フィルタ装置7のうちX線検出器7に近い側(
図2では上側)に配設されている。
【0028】
本実施例において補償フィルタ板25は、一対の補償フィルタ板25Aおよび25Bによって構成されている。補償フィルタ板25Aおよび補償フィルタ板25Bは、中心軸Pを挟んで対向配置されている。補償フィルタ板25Aおよび補償フィルタ板25Bは後述する構成により、互いに近づく方向および互いに離れる方向へと進退移動を行うように構成されている。
【0029】
保持部材31は回転板21の内側に設けられており、回転板21が回転方向以外に移動しないように回転板21の内側を保持する。同様に、保持部材33は回転板23の内側に設けられており、回転板23が回転方向以外に移動しないように回転板23の内側を保持する。スペーサ35は回転板21と下側ベース板39との間に設けられており、回転板21と下側ベース板39との接触を防止する。スペーサ37は回転板23と上側ベース板41との間に設けられており、回転板23と上側ベース板41との接触を防止する。
【0030】
保持部材31の端部(外周部)は、
図3に示すように、下側が窪み31aとなっている。本実施例において、窪み31aは円環状となっている。すなわち保持部材31は、端部以外ではスペーサ35と接触し、端部においては保持部材31とスペーサ35との間の窪み31aに回転板21が嵌合することで、保持部材31により回転板21の内側を保持する。また、保持部材33の端部は、上側が窪み33aとなっている。本実施例において、窪み33aは円環状となっている。保持部材33は、端部以外ではスペーサ37と接触し、端部においては保持部材33とスペーサ37との間の窪み33aに回転板23が嵌合することで、保持部材33により回転板23の内側を保持する。
【0031】
図2などに示すように、下側の保持部材31は補償フィルタ板25に接触しており、保持部材31によって補償フィルタ板25を案内している。補償フィルタ板25は、保持部材31の上面に接触しつつ、保持部材31に案内されながら移動する。
【0032】
下側ベース板39にスペーサ35を載せた状態で、2つの回転板21および23と、補償フィルタ板25と、2つのモータ27および29と、2つの保持部材31および33と、スペーサ37とを載せ、支柱43の各々を立設する。立設された支柱43の上に上側ベース板41を載せることで補償フィルタ装置7が完成する。
【0033】
次に、補償フィルタ装置7の主要な構成について、
図4ないし
図6を用いて説明する。
図4は、補償フィルタ装置7の主要な構成である回転板21、回転板23、および補償フィルタ板25の各々を示す平面図である。
図5は、回転板21、回転板23、および補償フィルタ板25の各々を上下方向(z方向)に重畳させる状態を示す斜視図である。
図6は、回転板21、回転板23、および補償フィルタ板25の各々が重畳された状態を示す平面図である。なお
図6は、初期状態における回転板21、回転板23、および補償フィルタ板25の位置を示している。なお
図1ないし
図3は正面視における補償フィルタ装置7を示している一方、
図5は左側面から見た補償フィルタ装置7の斜視図を示している。
【0034】
補償フィルタ板25Aおよび補償フィルタ板25Bの各々は、
図4および
図5に示すように、フィルタ部43と支持部45とを備えている。フィルタ部43および支持部45は薄い板状部材で構成されている。本実施例において補償フィルタ板25Aおよび補償フィルタ板25Bの各々は、全体として矩形となっており、フィルタ部43の各々は半円形となっているが、形状については適宜変更してよい。フィルタ部43はX線に対して半透過である材料で構成されており、構成材料の一例として銅が挙げられる。
【0035】
フィルタ部43は、補償フィルタ板25のうち中心軸Pに近い側に配設されている。そして補償フィルタ板25Aおよび補償フィルタ板25Bが互いに近づいて当接することにより、補償フィルタ板25Aに設けられているフィルタ部43と、補償フィルタ板25Bに設けられているフィルタ部43とが当接し、全体として円形のフィルタ部43が形成される。フィルタ部43の形状は半円状に限ることはなく、矩形状、略半円状など適宜の形状とすることができる。
【0036】
支持部45は、半円状となっているフィルタ部43の円弧部分を囲繞するように配設されている。支持部45を構成する材料の例として、鉄などが挙げられる。本実施例では回転板21および回転板23はリング形状を有しており、回転板21および回転板23の構成材料として樹脂または金属などが挙げられる。また回転板21および回転板23は補償フィルタ板25より厚い板状部材である。
【0037】
ここで、補償フィルタ板25を移動させる構成について説明する。まず、回転板21の上面には突起51が設けられており、補償フィルタ板25Aには穴53が設けられている。突起51は、穴53に嵌合するように構成されており、穴53に突起51が嵌合することで、補償フィルタ板25Aおよび回転板21は、突起51および穴53が形成されている支持箇所を中心に対して回転可能になるように構成される。
【0038】
また、回転板23の下面には突起55が設けられており、補償フィルタ板25Aには長穴57が設けられている。長穴57は、突起55が嵌合して当該突起55が移動可能となるように構成されている。このような構成により、補償フィルタ板25Aは回転板23によって、突起55が設けられた箇所で保持されつつ、長穴57の範囲内で移動可能となる。補償フィルタ板25Aにおいて、穴53は補償フィルタ板25Aの一端側(
図4では下側、
図5では手前側)に設けられており、長穴57は他端側(
図4では上側)に設けられている。
【0039】
従って、モータ27およびモータ29によって回転板21および回転板23をそれぞれ回転駆動させることにより、その回転方向および回転角度に応じて、補償フィルタ板25Aは中心軸Pの軸周りに回転移動するとともに、中心軸Pに向けて進退移動することが可能となる。そして当該回転移動と進退移動とを合わせることで、補償フィルタ板25Aを意図した場所に移動させることができる。
【0040】
補償フィルタ板25Aと同様の構成は、補償フィルタ板25Bにも設けられている。すなわち回転板23の下面には突起61が設けられており、補償フィルタ板25Bには穴63が設けられている。突起61は、穴63に嵌合するように構成されており、穴63に突起61が嵌合することで、補償フィルタ板25Bおよび回転板23は、突起61および穴63が形成されている支持箇所を中心に対して回転可能になるように構成される。
【0041】
また、回転板21の上面には突起65が設けられており、補償フィルタ板25Bには長穴67が設けられている。長穴67は、突起65が嵌合して当該突起65が移動可能となるように構成されている。このような構成により、補償フィルタ板25Bは回転板21によって、突起65が設けられた箇所で保持されつつ、長穴67の範囲内で移動可能となる。補償フィルタ板25Bにおいて、穴63は補償フィルタ板25Bの一端側(
図4では下側、
図5では手前側)に設けられており、長穴67は他端側(
図4では上側)に設けられている。
【0042】
従って、モータ27およびモータ29によって回転板21および回転板23をそれぞれ回転駆動させることにより、その回転方向および回転角度に応じて、補償フィルタ板25Bは中心軸Pの軸周りに回転移動するとともに、中心軸Pに向けて進退移動することが可能となる。そして当該回転移動と進退移動とを合わせることで、補償フィルタ板25Bを意図した場所に移動させることができる。なお、補償フィルタ板25Aと補償フィルタ板25Bとは、中心軸Pを基準として点対称に配置されており、中心軸Pを基準として対向移動する。すなわち補償フィルタ板25Aと補償フィルタ板25Bとが進退移動をすることにより、補償フィルタ板25は全体として開閉移動を行うこととなる。
【0043】
さらに、実施例1に係る補償フィルタ装置7は、回転板21および回転板23に回転角度規制機構71を備えている。回転角度規制機構71は、回転板21に対する回転板23の相対的な回転角度が所定範囲内に制限されるように、回転板21および回転板23の回転移動を規制する。実施例1において、回転角度規制機構71は、回転板21の上面に設けられている突起73と、回転板23に設けられている溝部75とを備えている。回転板21および回転板23を上下に重畳させた場合に、突起73は溝部75に嵌合するように構成されている。溝部75は、回転板21が回転移動することによって突起73が移動する軌跡に沿う形状(ここでは円弧状の軌跡)となるように構成されている。溝部75の一端側の端面(
図4では右側の端面)を端面75aとする。そして溝部75の他端側の端面(
図4では左側の端面)を端面75bとする。突起73は本実施例における第1部材に相当し、溝部75は本実施例における第2部材に相当する。
【0044】
溝部75の長さは、回転板21に対する回転板23の相対的な回転角度を制限する範囲(本実施例では「相対回転範囲」とする)に応じて適宜定められる。相対回転範囲は、補償フィルタ板25の進退移動を許容する範囲に応じて予め定められる。本実施例では、補償フィルタ板25Aおよび25Bが互いに近づいて当接する場合に、突起73が溝部75の端面75aに当接するように、突起73の位置および溝部75の長さが定められる。
【0045】
なお本実施例において、回転板21に対する回転板23の相対的な回転角度(以下、「相対回転角度」とする)は、回転板23が回転板21に対して右回り方向に回転する場合については正の値をとるものとする。また回転板23が回転板21に対して左回り方向に回転する場合、相対回転角度は負の値をとるものとする。一例として回転板21が右回り方向に20°回転する一方で回転板23が右回り方向に60°回転する場合、相対回転角度は+40°であるものとする。また他の例として回転板21が右回り方向に20°回転する一方で回転板23が左回り方向に30°回転する場合、回転板23は回転板21に対して左回り方向に50°回転しているので、相対回転角度は-50°であるものとする。
【0046】
また、長穴57および長穴67の構成は、回転角度規制機構71の構成に応じて定められる。すなわち、補償フィルタ板25Aが進退移動を行う場合において、突起55が長穴57の端面に接触する前に、突起73が移動して溝部75の端面75aまたは端面75bに当接するように、長穴57の長さおよび位置が定められる。また、補償フィルタ板25Bが進退移動を行う場合において、突起65が長穴67の端面に接触する前に、突起73が移動して溝部75の端面75aまたは端面75bに当接するように、長穴67の長さおよび位置が定められる。
【0047】
<補償フィルタ板の動作の説明>
ここで、回転板21および回転板23をそれぞれ回転移動させたときの補償フィルタ板25の動作について、
図6ないし
図10を用いて説明する。
図6ないし
図10の各々は、回転板21および回転板23をそれぞれ回転させた場合における補償フィルタ板25の動作態様を示す概略平面図である。
図6は初期状態における補償フィルタ装置7の概要平面図である。初期状態において、突起73は溝部75の中央付近に位置している。また初期状態における相対回転角度を0°とする。
【0048】
まずは補償フィルタ板25の各々を回転移動させる動作について説明する。補償フィルタ板25の各々を回転移動させる場合、回転板21および回転板23を同じ方向へ同じ速度で回転させる。この場合、回転板21および回転板23の回転角度は同じとなるので、相対回転角度は0°となる。
【0049】
一例として回転板21および回転板23を右回り方向へ90°回転させた場合、補償フィルタ装置7の概略平面図は
図7に示す通りとなる。回転板21に設けられている突起51、突起65、および突起73は回転板21とともに右回り方向へ90°回転する。そして回転板23に設けられている突起55、突起61、および溝部75は回転板23とともに右回り方向へ90°回転する。
【0050】
補償フィルタ板25Aは穴53に嵌合されている回転板21の突起51に支持されており、補償フィルタ板25Bは穴63に嵌合されている回転板23の突起61に支持されている。そして相対回転角度が0°であるので、回転角度規制機構71において、溝部75に対する突起73の相対位置は変化しない。また相対回転角度が0°であるので、長穴57に対する突起55の相対位置、および長穴67に対する突起65の相対位置も変化しない。その結果、
図7に示すように、補償フィルタ板25Aおよび補償フィルタ板25Bの各々は、中心軸Pに対する距離を変化させることなく、中心軸Pの周りに右回り方向へ90°回転移動する。このように、回転板21および回転板23を同じ方向へ同じ速度で回転させることで、回転板21および回転板23の回転方向および回転角度の大きさに応じて、補償フィルタ板25の各々は中心軸Pに対する距離を変化させることなく、中心軸Pの周りに回転移動することとなる。
【0051】
次に、補償フィルタ板25の各々を進退移動させる動作について説明する。補償フィルタ板25の各々を中心軸Pに対して回転させることなく中心軸Pに向かって進退移動させる場合、回転板21および回転板23を互いに逆方向へ同じ速度で回転させる。このとき、回転板21および回転板23の回転角度の絶対値は等しい。そのため相対回転角度の絶対値は、回転板21および回転板23の回転角度の2倍となる。
【0052】
ここでは補償フィルタ板25の進退移動のうち、補償フィルタ板25を中心軸Pへ近づけるように進行移動させる動作について説明する。
図8は、回転角度規制機構71において突起73が溝部75の端部にまで移動しない程度に回転板21および回転板23を互いに逆向きへ回転させた場合における、補償フィルタ装置7の概略平面図を示している。このとき、回転板21を初期状態から左回り方向へ角度H回転させるとともに、回転板23を右回り方向へ角度H回転させているものとする。この場合、回転板23は回転板21に対して相対的に右回り方向へ回転角度が2Hとなるように回転していることとなる。すなわちこの場合、相対回転角度は「2H」となる。
【0053】
回転板21に設けられている突起51、突起65、および突起73は回転板21とともに、初期状態から左回り方向へ回転角度Hとなるように回転移動する。そして回転板23に設けられている突起55、突起61、および溝部75は回転板23とともに、初期状態から右回り方向へ回転角度Hとなるように回転移動する。そのため、回転角度規制機構71において突起73は溝部75に対して右方向へ相対的に移動する。突起73が相対的に移動する距離は、相対回転角度の大きさ(ここでは2H)に比例する。なお
図8などにおいて、突起51および穴53の初期位置は符号G1を付した点線で示している。また突起61および穴63の初期位置は符号G2を付した点線で示している。
【0054】
また
図8に示すように、突起51が右回りに移動する一方で突起55が左回りに移動することで、平面視における突起51と突起55との距離が長くなる。このとき補償フィルタ板25Aにおいて、穴53は突起51によって支持されている。そのため、長穴57に嵌合している突起55は、突起51と突起55との距離の変化に応じて、長穴57の内部を移動する。ここでは突起51と突起55との距離が長くなっているので、突起55は長穴57の他端側(
図8では上側)に向かって移動する。その結果、補償フィルタ板25Aは中心軸Pに対する角度を維持しつつ、中心軸Pへ近づくように進行移動する。補償フィルタ板25Aが進行移動する距離は、相対回転角度の大きさに応じて定められる。
【0055】
補償フィルタ板25Bについても補償フィルタ板25Aと同様に進行移動が行われる。すなわち
図8に示すように、突起61が左回りに移動する一方で突起65が右回りに移動することで、平面視における突起61と突起65との距離が長くなる。そのため長穴67に嵌合している突起65は、突起61と突起65との距離の変化に応じて、長穴67の他端側に向かって移動する。その結果、補償フィルタ板25Bは中心軸Pに対する角度を維持しつつ、中心軸Pへ近づくように進行移動する。すなわち、補償フィルタ板25Aおよび補償フィルタ板25Bは互いに近づくように移動する。
【0056】
なお
図8に示す状態からさらに回転板21および回転板23を互いに逆向きに回転させた場合、
図9に示される状態となる。
図9は、回転角度規制機構71において突起73が溝部75の端部にまで移動する程度に回転板21および回転板23を互いに逆向きへ回転させた場合における、補償フィルタ装置7の概略平面図を示している。このとき、回転板21を初期状態から左回り方向へ角度K回転させるとともに、回転板23を右回り方向へ角度K回転させているものとする。この場合、回転板23は回転板21に対して相対的に右回り方向へ回転角度が2Kとなるように回転していることとなる。すなわちこの場合、相対回転角度は「2K」となる。
【0057】
回転板21に設けられている突起51、突起65、および突起73は回転板21とともに、初期状態から左回り方向へ回転角度Kとなるように回転移動する。そして回転板23に設けられている突起55、突起61、および溝部75は回転板23とともに、初期状態から右回り方向へ回転角度Kとなるように回転移動する。そのため、回転角度規制機構71において突起73は溝部75に対して右方向へ相対的に移動し、溝部75の一端側の端面75aに接触する。
【0058】
本実施例において、溝部75における端面75aの位置(溝部75の右端の位置)は、相対回転角度が2Kとなった場合に補償フィルタ板25Aと補償フィルタ板25Bとが互いに近づいて当接するように予め定められている。そのため、突起51が右回り方向へ回転角度Kとなるように移動する一方で突起55が左回り方向へ回転角度Kとなるように移動することで、平面視における突起51と突起55との距離が最大となる。そのため、長穴57に嵌合している突起55は、長穴57の一端側に向かって移動する。その結果、補償フィルタ板25Aは中心軸Pに対する角度を維持しつつ、中心軸Pへさらに近づくように進行移動し、平面視において中心軸Pに当接する。
【0059】
また、突起61が左回りに移動する一方で突起65が右回りに移動することで、平面視における突起61と突起65との距離が最大となる。そのため長穴67に嵌合している突起65は、長穴67の一端側に向かって移動する。その結果、補償フィルタ板25Bは中心軸Pに対する角度を維持しつつ、中心軸Pへさらに近づくように進行移動し、平面視において中心軸Pに当接する。すなわち、補償フィルタ板25Aおよび補償フィルタ板25Bはそれぞれ中心軸Pに向かって進行移動することにより、互いに当接することとなる。
【0060】
図9に示される状態では、溝部75の端面75aに突起73が当接することにより、回転板23は回転板21に対してこれ以上右回り方向へ相対的な回転移動を行うことができなくなる。すなわち突起73および溝部75を有する回転角度規制機構71によって、回転板21に対する回転板23の相対的な回転駆動が制限されるので、相対回転角度は上限が2Kとなるように規制される。
【0061】
また実施例1の構成では回転板23を回転板21に対して右回り方向へ相対的に回転させる場合、突起55が長穴57を他端側へ移動して長穴57の端面57aに到達する前に、突起73が一端側へ移動して溝部75の端面75aに接触するように構成されている。言い換えると、突起55が長穴57の端面57aに接触するために必要な相対回転角度の大きさは、回転板23が回転板21に対して実質的に回転可能な相対回転速度の大きさK2より大きい。
【0062】
よって、回転板21に対して回転板23を過剰に右回り方向へ回転させる力を付与した場合であっても、突起73および溝部75によって回転板21に対する回転板23の過剰な右回り方向への回転が制限されるので、相対回転角度はK2より大きくなることはない。その結果、突起55が長穴57の一端側へと過剰に移動して端面57aに接触して端面57aに押圧力が加わることを回避できる。よって、当該押圧力の付与に起因して補償フィルタ板25Aが劣化することを防止できる。
【0063】
このような補償フィルタ板25Aの劣化を回避できる効果は、補償フィルタ板25Bにおいても得ることができる。すなわち回転板23を回転板21に対して右回り方向へ相対的に回転させる場合、突起65が長穴67を他端側へ移動して長穴67の端面67aに到達する前に、突起73が一端側へ移動して溝部75の端面75aに接触するように構成されている。その結果、突起65が長穴67の他端側へと過剰に移動して端面67aに接触して端面67aに押圧力が加わることを回避できる。よって、当該押圧力の付与に起因して補償フィルタ板25Bが劣化することを防止できる。
【0064】
さらに補償フィルタ板25の進退移動のうち、補償フィルタ板25を中心軸Pから遠ざけるように退避移動させる動作について説明する。
図10は、回転角度規制機構71において突起73が溝部75の端部にまで移動する程度に、回転板21および回転板23を互いに逆向きへ回転させて中心軸Pから退避移動させた場合における、補償フィルタ装置7の概略平面図を示している。このとき、回転板21を初期状態から右回り方向へ角度L回転させるとともに、回転板23を左回り方向へ角度L回転させているものとする。この場合、回転板23は回転板21を基準として、相対的に左回り方向へ回転角度が2Lとなるように回転していることとなる。すなわちこの場合、相対回転角度は「-2L」となる。なお本実施例において、溝部75における端面75bの位置(溝部75の左端の位置)は、相対回転角度が「-2L」となった場合に突起73が端面75bに接触するように予め定められている。
【0065】
回転板21に設けられている突起51、突起65、および突起73は回転板21とともに、初期状態から右回り方向へ回転角度Lとなるように回転移動する。そして回転板23に設けられている突起55、突起61、および溝部75は回転板23とともに、初期状態から左回り方向へ回転角度Lとなるように回転移動する。そして、回転角度規制機構71において突起73は溝部75に対して左方向へ相対的に移動し、溝部75の他端側の端面75bに接触する。
【0066】
突起51が右回り方向へ回転角度Lとなるように移動する一方で突起55が左回り方向へ回転角度Lとなるように移動することで、平面視における突起51と突起55との距離が小さくなる。そのため、長穴57に嵌合している突起55は、長穴57の他端側(
図10では下側)に向かって移動する。その結果、補償フィルタ板25Aは中心軸Pに対する角度を維持しつつ、中心軸Pから遠ざかるように退避移動する。
【0067】
また、突起61が左回りに移動する一方で突起65が右回りに移動することで、平面視における突起61と突起65との距離が小さくなる。そのため長穴67に嵌合している突起65は、長穴67の他端側に向かって移動する。その結果、補償フィルタ板25Bは中心軸Pに対する角度を維持しつつ、中心軸Pから遠ざかるように退避移動する。すなわち、補償フィルタ板25Aおよび補償フィルタ板25Bはそれぞれ中心軸Pから遠ざかるように互いに逆向きに退避移動することとなる。
【0068】
図10に示される状態では、溝部75の他端側の端面75bに突起73が当接することにより、回転板23は回転板21に対してこれ以上左回り方向へ相対的な回転移動を行うことができなくなる。すなわち突起73および溝部75を有する回転角度規制機構71によって、回転板21に対する回転板23の相対的な回転駆動が制限されるので、相対回転角度は下限が「-2L」となるように規制される。このように実施例1に係る回転角度規制機構71は、相対回転角度の範囲を上限が2K、下限が-2Lとなるように規制する。相対回転角度の範囲が規制されることにより、長穴57において突起55が移動できる範囲、および長穴67において突起65が移動できる範囲も所定範囲内に規制される。
【0069】
そして実施例1の構成では回転板23を回転板21に対して左回り方向へ相対的に回転させる場合、突起55が長穴57の一端側(
図10では下側)へ移動して長穴57の他端側の端面57bに到達する前に、突起73が他端側(
図10では左側)へ移動して溝部75の端面75bに接触するように構成されている。言い換えると、突起55が長穴57の端面57bに接触するために必要な相対回転角度の絶対値は、回転板23が回転板21に対して実質的に回転可能な相対回転速度の下限「-L2」の絶対値(L2)より大きい。
【0070】
よって、回転板21に対して回転板23を過剰に左回り方向へ回転させる力を付与した場合であっても、突起73および溝部75によって回転板21に対する回転板23の過剰な左回り方向への回転が制限されるので、相対回転角度は-L2より小さくなることはない。その結果、突起55が長穴57の他端側へと過剰に移動して端面57bに接触して端面57bに押圧力が加わることを回避できる。よって、当該押圧力の付与に起因して補償フィルタ板25Aが劣化することを回避できる。
【0071】
このような補償フィルタ板25Aの劣化を回避できる効果は、補償フィルタ板25Bにおいても得ることができる。すなわち回転板23を回転板21に対して左回り方向へ相対的に回転させる場合、突起65が長穴67の一端側へ移動して長穴67の端面67bに到達する前に、突起73が他端側へ移動して溝部75の端面75bに接触するように構成されている。その結果、突起65が長穴67の一端側へと過剰に移動して端面67bに接触して端面67bに押圧力が加わることを回避できる。よって、当該押圧力の付与に起因して補償フィルタ板25Bが劣化することを防止できる。
【0072】
補償フィルタ板25の各々を中心軸Pの回りに回転させつつ中心軸Pに対して進退移動させる場合、補償フィルタ板25の各々を回転させる角度に応じて回転板21および23を同じ方向へ回転駆動させる動作と、補償フィルタ板25の各々を進退移動させる距離に応じて回転板21および23を互いに逆方向へ回転駆動させる動作とを組み合わせる。
【0073】
本実施例では回転角度規制機構71を回転板21および回転板23に備えることにより、同じ方向については回転板21および23を無限に回転できる一方、逆方向の回転については相対回転角度が所定範囲内に制限される。そのため、補償フィルタ板25の各々を自由に回転移動できるとともに、補償フィルタ板25が過剰に進退移動することによる不具合の発生を回避できる。
【0074】
すなわち補償フィルタ板25が進退移動する距離に応じて回転板21に設けられている突起55が補償フィルタ板25の長穴57の内部を移動する構成において、回転板21に設けられている突起55が補償フィルタ板25に設けられている長穴57の端面57aまたは57bに接触する前に、回転角度規制機構71における突起73が溝部75の端面75aまたは端面75bに接触する。突起73が溝部75の端面75aまたは端面75bに接触することによって回転板21および回転板23がさらに回転して相対回転角度が予め定められた所定範囲外となることを抑止するので、補償フィルタ板25がそれ以上進退移動することを防止する。その結果、長穴57の端面57aまたは57bに対して突起55が押圧力を作用させることを回避できるので、当該押圧力によって補償フィルタ板25に歪みまたは破損などが発生することを防止できる。
【0075】
突起73および溝部75は、補償フィルタ板25と比べて厚みがあり強度が高い回転板21または回転板23に設けられている。そのため、突起73が溝部75の端面75aまたは端面75bに接触して押圧力を作用された場合であっても回転板21または回転板23に歪みまたは破損などが発生することを回避できる。そのため、回転板21および回転板23に回転角度規制機構71を設けることによって、補償フィルタ板25が劣化することを回避しつつ、補償フィルタ装置7を構成する部材が劣化することも回避できる。
【0076】
さらに、回転角度規制機構71は回転板21または回転板23に設けられている。すなわち回転角度規制機構71は機械的な構成(ハードウェア)によって、回転板21に対する回転板23の相対的な回転角度が所定範囲内となるように規制する。コンピュータを例とするソフトウェアの制御によって回転板21に対する回転板23の相対的な回転角度を所定範囲内に規制する場合、ソフトウェアの不具合が発生するなどの原因によって回転板23の相対的な回転角度を確実に規制できない事態が懸念される。また、ソフトウェアの信号が回転板23などを回転駆動させる機構に伝達して回転板23の相対的な回転を制限するまでにタイムラグが発生し、回転板23の回転を制限する動作が遅れてしまい、突起55が長穴57の端面57aまたは57bに接触して押圧する事態も懸念される。
【0077】
これに対し、本実施例に係る回転角度規制機構71は突起73および溝部75という機械的な構成によって回転板23の相対的な回転角度を物理的に規制するので、回転板21に対する回転板23の相対的な回転角度を確実に所定範囲内となるように規制することができる。よって、補償フィルタ板25に歪みなどが発生して劣化することを確実に防止できる。
【0078】
さらに、本実施例に係る補償フィルタ装置7では、複数の補償フィルタ板25Aおよび25Bを備える構成であっても、補償フィルタ板同士の干渉に起因する補償フィルタ板25Aまたは25Bの劣化を回避できる。
図21および
図22に示すような従来の補償フィルタ装置100では内蔵されている補償フィルタ板110の数は1枚である。そのため、複数枚の補償フィルタ板110をX線に作用させるには、補償フィルタ板110の枚数に応じた数の補償フィルタ装置100をz方向に積層させるように配置する必要がある。その結果、装置が大型化するという問題が発生する。
【0079】
従来の補償フィルタ装置100において当該問題を回避する構成として、
図26に示すように、複数枚の補償フィルタ板110をz方向に直交する平面(xy平面)の上で対向配置させ、互いに近づけるように駆動させて補償フィルタの開閉を制御する構成が比較例として挙げられる。当該比較例の構成では、複数枚の補償フィルタ板110を中心軸Pに向けて進退移動させることにより、1つの補償フィルタ装置100を用いる場合であっても複数枚の補償フィルタ板110をX線に作用させることができる。しかしながら複数枚の補償フィルタ板110を互いに近づける構成では、
図27に示すように、ギア101およびギア111を互いに逆方向へ回転させすぎることにより、補償フィルタ板110同士が中央部で互いに接触し、さらに互いに押し付け合うことによって押圧力Stが互いに作用する。補償フィルタ板110はギア101と比べて強度が低い構造であるため、当該押圧力Stによって補償フィルタ板110が劣化するという問題が新たに発生する。
【0080】
本実施例に係る補償フィルタ装置7では回転角度規制機構71を備えることにより、相対回転角度を所定範囲内に規制する。補償フィルタ板25Aおよび25Bが進退移動する距離は相対回転角度に応じて定まるので、相対回転角度を規制することにより、補償フィルタ板25Aおよび25Bが進退移動する距離が過度に大きくなることを防止できる。本実施例では相対回転角度の上限が2Kに制限されるので、補償フィルタ板25Aおよび25Bが互いに近づく動作は、
図9に示すように互いに中心軸Pにおいて当接する状態で抑制される。よって、補償フィルタ板25Aおよび25Bが接触してさらに互いに押圧するように移動することが防止されるので、補償フィルタ板25Aおよび25Bを備える補償フィルタ装置7において、補償フィルタ板25Aおよび25Bが干渉することによって各々が劣化することを回避できる。
ここで、実施例2に係る補償フィルタ装置7Aにおける、補償フィルタ板25の動作について説明する。補償フィルタ板25の各々を回転移動させる動作については、実施例1と実施例2とは共通する。すなわち実施例2において補償フィルタ板25の各々を回転移動させる場合、回転板21Aおよび回転板23Aを同じ方向へ同じ速度で回転させる。
次に、実施例2において補償フィルタ板25の各々を進退移動させる場合、実施例1と同様に回転板21Aおよび回転板23Aを互いに逆方向へ同じ速度で回転させる。補償フィルタ板25を中心軸Pへ近づけるように進行移動させる場合、回転板21Aを初期状態から左回り方向へ回転させるとともに、回転板23Aを右回り方向へ回転させる。
この場合、回転板21Aに設けられている突起51、突起65、および壁板79は回転板21Aとともに、初期状態から左回り方向へ回転移動する。そして回転板23Aに設けられている突起55、突起61、および壁板77は回転板23Aとともに、初期状態から右回り方向へ回転角度となるように回転移動する。そのため、回転角度規制機構71Aにおいて壁板77は壁板79Aおよび壁板79Bに挟まれている空間の内部において、右回り方向へ相対的に移動する。壁板77が相対的に移動する距離は、相対回転角度の大きさ(ここでは2H)に比例する。
回転板21Aに設けられている突起51、突起65、および壁板79は回転板21Aとともに、初期状態から左回り方向へ回転角度Kとなるように回転移動する。そして回転板23Aに設けられている突起55、突起61、および壁板77は回転板23Aとともに、初期状態から右回り方向へ回転角度Kとなるように回転移動する。そのため、回転角度規制機構71において壁板77は壁板79に対して右回り方向へ相対的に移動し、壁板79のうち一方の壁板79Aの面に接触する。
本実施例において、壁板79Aの位置は、相対回転角度が2Kとなった場合に補償フィルタ板25Aと補償フィルタ板25Bとが互いに近づいて当接するように予め定められている。そのため、突起51が右回り方向へ回転角度Kとなるように移動する一方で突起55が左回り方向へ回転角度Kとなるように移動することで、平面視における突起51と突起55との距離が最大となる。そのため、長穴57に嵌合している突起55は、長穴57の一端側に向かって移動する。その結果、補償フィルタ板25Aは中心軸Pに対する角度を維持しつつ、中心軸Pへさらに近づくように進行移動し、平面視において中心軸Pに当接する。
また、突起61が左回りに移動する一方で突起65が右回りに移動することで、平面視における突起61と突起65との距離が最大となる。そのため長穴67に嵌合している突起65は、長穴67の一端側に向かって移動する。その結果、補償フィルタ板25Bは中心軸Pに対する角度を維持しつつ、中心軸Pへさらに近づくように進行移動し、平面視において中心軸Pに当接する。すなわち、補償フィルタ板25Aおよび補償フィルタ板25Bはそれぞれ中心軸Pに向かって進行移動することにより、互いに当接することとなる。
また実施例2では実施例1と同様に、回転板23Aを回転板21Aに対して右回り方向へ相対的に回転させる場合、突起55が長穴57を一端側へ移動して長穴57の端面57aに到達する前に、壁板77が右回り方向へ移動して壁板79Aの面に接触するように構成されている。よって、回転板21Aに対して回転板23Aを過剰に右回り方向へ回転させる力を付与した場合であっても、壁板77および壁板79Aによって回転板21Aに対する回転板23Aの過剰な右回り方向への回転が制限されるので、相対回転角度はK2より大きくなることはない。その結果、突起55が長穴57の一端側へと過剰に移動して端面57aに接触して端面57aに押圧力が加わることを回避できる。よって、当該押圧力の付与に起因して補償フィルタ板25Aが劣化することを防止できる。このような補償フィルタ板25Aの劣化を回避できる効果は実施例1と同様に、補償フィルタ板25Bにおいても得ることができる。
回転板21Aに設けられている突起51、突起65、および壁板79は回転板21Aとともに、初期状態から右回り方向へ回転角度Lとなるように回転移動する。そして回転板23Aに設けられている突起55、突起61、および壁板77は回転板23Aとともに、初期状態から左回り方向へ回転角度Lとなるように回転移動する。そのため、回転角度規制機構71において壁板77は壁板79に対して左回り方向へ相対的に移動し、壁板79のうち他方の壁板79Bの面に接触する。
突起51が右回り方向へ移動する一方で突起55が左回り方向へ移動することで、平面視における突起51と突起55との距離が小さくなる。そのため、長穴57に嵌合している突起55は、長穴57の一端側に向かって移動する。その結果、補償フィルタ板25Aは中心軸Pに対する角度を維持しつつ、中心軸Pから遠ざかるように退避移動する。
また、突起61が左回りに移動する一方で突起65が右回りに移動することで、平面視における突起61と突起65との距離が小さくなる。そのため長穴67に嵌合している突起65は、長穴67の一端側に向かって移動する。その結果、補償フィルタ板25Bは中心軸Pに対する角度を維持しつつ、中心軸Pから遠ざかるように退避移動する。すなわち、補償フィルタ板25Aおよび補償フィルタ板25Bはそれぞれ中心軸Pから遠ざかるように互いに逆向きに退避移動することとなる。
そして実施例2においても実施例1と同様に、回転板23Aを回転板21Aに対して左回り方向へ相対的に回転させる場合、突起55が長穴57の一端側へ移動して長穴57の一端側の端面57bに到達する前に、壁板77が左回り方向へ移動して壁板79Bの面に接触するように構成されている。
よって、回転板21Aに対して回転板23Aを過剰に左回り方向へ回転させる力を付与した場合であっても、壁板77および壁板79Bによって回転板21Aに対する回転板23Aの過剰な左回り方向への回転が制限されるので、相対回転角度は-L2より小さくなることはない。その結果、突起55が長穴57の他端側へと過剰に移動して端面57bに接触して端面57bに押圧力が加わることを回避できる。よって、当該押圧力の付与に起因して補償フィルタ板25Aが劣化することを回避できる。このような補償フィルタ板25Aの劣化を回避できる効果は実施例1と同様に、補償フィルタ板25Bにおいても得ることができる。
実施例2では、壁板77および壁板79を有する回転角度規制機構71Aを回転板21Aおよび回転板23Aに備えることにより、突起73および溝部75を有する回転角度規制機構71を備える実施例1と同様の効果を得ることができる。すなわち同じ方向については回転板21Aおよび23Aを無限に回転できる一方、逆方向の回転については相対回転角度が所定範囲内に制限される。そのため、補償フィルタ板25の各々を自由に回転移動できるとともに、補償フィルタ板25が過剰に進退移動することによる不具合の発生を回避できる。回転角度規制機構71Aは機械的な構成である壁板77と壁板79との接触によって相対回転角度が所定範囲外となることを抑止する。よって、ソフトウェアによって相対回転角度を制御する構成と比べて確実かつ迅速に相対回転角度が所定範囲外となることを抑止できる。
第1項に記載の補償フィルタ装置によれば、2つの回転部材を上下に重ねて積層する。2つの回転部材をそれぞれ回転駆動させる回転駆動部を回転部材ごとに備えることで、各回転部材をそれぞれ同じ方向に回転駆動させ続けることが可能となる。また、2つの回転部材のうちの一方の回転部材および補償フィルタ板が支持箇所を中心にして回転可能になるように、それぞれを構成する。さらに、2つの回転部材のうちの他方の回転部材または補償フィルタ板のいずれか一方に突起を設けるとともに、他方に当該突起に嵌合して当該突起が移動可能な長穴を設けることで、当該他方の回転部材によって補償フィルタ板が、当該突起が設けられた箇所で保持されつつ、長穴の範囲内で移動可能となる。したがって、各々の回転駆動部によって各回転部材をそれぞれ回転駆動させると、各回転部材に保持された補償フィルタ板は、回転方向のみならず、長穴の範囲内での進退移動が可能となり、これらの回転移動と進退移動を合わせて、補償フィルタ板を意図した場所に移動させることができる。
また本実施形態に係る補償フィルタ装置では、補償フィルタ板を駆動させる2つの回転部材のうちの一方に第1部材を備えるとともに、他方の回転部材に第2部材を備える。第1部材および前記第2部材は、一方の回転部材に対する他方の回転部材の相対的な回転角度が所定範囲の上限または下限になることで互いに干渉して当該2つの回転部材の回転を抑止することで、一方の回転部材に対する他方の回転部材の相対的な回転角度を前記所定範囲内に規制させる。また、第1部材と前記第2部材との干渉は、突起が長穴の端部に接触する前に発生するように、第1部材および第2部材が構成される。このような構成により、同じ方向については2つの回転部材を無限に回転できる一方、逆方向の回転については一方の回転部材に対する他方の回転部材が相対的に回転する角度は所定範囲内に制限される。そのため、補償フィルタ板を自由に回転移動できるとともに、補償フィルタ板が過剰に進退移動することを防止できる。すなわち相対的に回転する角度が所定範囲を逸脱して補償フィルタ板が過剰に進退移動し、突起が長穴の端部に接触して補償フィルタ板に押圧力が作用して補償フィルタ板が劣化することを回避できる。
第1部材および第2部材は、補償フィルタ装置を構成する回転部材に設けられている。すなわち機械的な構成によって、一方の回転部材に対する他方の回転部材の相対的な回転角度が所定範囲内となるように物理的な規制を行う。そのため、一方の回転部材に対する他方の回転部材の相対的な回転角度を確実に所定範囲内となるように規制することができる。よって、補償フィルタ板に歪みなどが発生して劣化することを確実に防止できる。
(第2項)また第1項に記載の補償フィルタ装置において、前記回転部材(21、23)の中心軸(P)を挟んで対向配置されている複数の前記補償フィルタ板(25A、25B)を備え、複数の前記補償フィルタ板の各々は、前記中心軸を挟んで互いに進退移動するように構成され、前記一方の回転部材(21)に対する前記他方の回転部材(23)の相対的な回転角度が所定範囲の上限(2K)または下限(-2L)になることで、前記補償フィルタ板の各々(25A、25B)は互いに当接して全体として1枚のフィルタ板を形成する。
第2項に記載の補償フィルタ装置によれば、複数の補償フィルタ板を備えており、複数の補償フィルタ板は、回転部材の中心軸を挟んで対向配置されている。そして複数の補償フィルタ板の各々は、回転部材の中心軸を挟んで互いに進退移動するように構成され、一方の回転部材に対する他方の回転部材の相対的な回転角度が所定範囲の上限または下限になることで、補償フィルタ板の各々は互いに当接して全体として1枚のフィルタ板を形成する。このような構成により、複数の補償フィルタ装置をX線照射方向に積層させることなく、複数枚の補償フィルタを備える補償フィルタ装置を実現できる。また、一方の回転部材に対する他方の回転部材の相対的な回転角度が所定範囲の上限または下限になることで、補償フィルタ板の各々は互いに当接して全体として1枚のフィルタ板を形成する。すなわち補償フィルタ板の各々は互いに当接した状態になるとそれ以上近づく方向へ移動することが抑止される。その結果、過剰に補償フィルタ板の各々が近づく方向へ進行移動することにより、互いに当接した補償フィルタ板に対して互いに押し付け合う力がさらに作用し、補償フィルタ板が劣化するという事態を回避できる。
(第3項)また第1項に記載の補償フィルタ装置において、前記第1部材は突起(73)であり、前記第2部材は前記突起(73)に嵌合して当該突起が移動可能な溝部(75)である。
第3項に記載の補償フィルタ装置によれば、突起が溝部に嵌合して移動して溝部の端面に当接することで、一方の回転部材に対して他方の回転部材がこれ以上相対的に回転することを確実に抑止できる。よって、確実に一方の回転部材に対する他方の回転部材の相対的な回転角度を確実に所定範囲内となるように規制することができる。また、突起を溝部に嵌合させることにより、2つの回転部材を上下に重ねて積層させた場合において、積層された2つの回転部材の全体的な高さをより低くすることができる。そのため、補償フィルタ装置をより小型化することができる。
第4項に記載の補償フィルタ装置によれば、互いに対向するように配置された凸部が当接することにより、一方の回転部材に対して他方の回転部材がこれ以上相対的に回転することを確実に抑止できる。よって、確実に一方の回転部材に対する他方の回転部材の相対的な回転角度を確実に所定範囲内となるように規制することができる。
(第5項)本実施形態に係るX線撮影装置(1)は、被検体(M)にX線を照射するX線管(3)と、前記被検体(M)を透過したX線を検出するX線検出器(5)と、前記X線検出器(5)が出力する検出信号を用いてX線画像を生成するX線画像生成部(12)と、前記X線管(3)と前記X線検出器(5)との間に配置された補償フィルタ装置と、を備え、前記補償フィルタ装置は、第1項ないし第3項のいずれかに記載の補償フィルタ装置(7)である。
第5項に記載のX線撮影装置によれば、X線管とX線検出器とX線画像生成部と補償フィルタ装置とを備えるX線撮影装置において、当該補償フィルタ装置は本実施形態に係る補償フィルタ装置である。そのため、補償フィルタ板を単純な構成で所望の位置へと移動できるとともに、補償フィルタ板の劣化をより確実に回避できる。すなわち、2つの回転部材を上下に重ねて積層する。2つの回転部材をそれぞれ回転駆動させる回転駆動部を回転部材ごとに備えることで、各回転部材をそれぞれ同じ方向に回転駆動させ続けることが可能となる。また、2つの回転部材のうちの一方の回転部材および補償フィルタ板が支持箇所を中心にして回転可能になるように、それぞれを構成する。さらに、2つの回転部材のうちの他方の回転部材または補償フィルタ板のいずれか一方に突起を設けるとともに、他方に当該突起に嵌合して当該突起が移動可能な長穴を設けることで、当該他方の回転部材によって補償フィルタ板が、当該突起が設けられた箇所で保持されつつ、長穴の範囲内で移動可能となる。したがって、各々の回転駆動部によって各回転部材をそれぞれ回転駆動させると、各回転部材に保持された補償フィルタ板は、回転方向のみならず、長穴の範囲内での進退移動が可能となり、これらの回転移動と進退移動を合わせて、補償フィルタ板を意図した場所に移動させることができる。
また本実施形態に係るX線撮影装置では、補償フィルタ板を駆動させる2つの回転部材のうちの一方に第1部材を備えるとともに、他方の回転部材に第2部材を備える。第1部材および前記第2部材は、一方の回転部材に対する他方の回転部材の相対的な回転角度が所定範囲の上限または下限になることで互いに干渉して当該2つの回転部材の回転を抑止することで、一方の回転部材に対する他方の回転部材の相対的な回転角度を前記所定範囲内に規制させる。また、第1部材と前記第2部材との干渉は、突起が長穴の端部に接触する前に発生するように、第1部材および第2部材が構成される。このような構成により、同じ方向については2つの回転部材を無限に回転できる一方、逆方向の回転については一方の回転部材に対する他方の回転部材が相対的に回転する角度は所定範囲内に制限される。そのため、補償フィルタ板を自由に回転移動できるとともに、補償フィルタ板が過剰に進退移動することを防止できる。すなわち相対的に回転する角度が所定範囲を逸脱して補償フィルタ板が過剰に進退移動し、突起が長穴の端部に接触して補償フィルタ板に押圧力が作用して補償フィルタ板が劣化することを回避できる。
第1部材および第2部材は、補償フィルタ装置を構成する回転部材に設けられている。すなわち機械的な構成によって、一方の回転部材に対する他方の回転部材の相対的な回転角度が所定範囲内となるように回転部材の回転を規制する。そのため、一方の回転部材に対する他方の回転部材の相対的な回転角度を確実に所定範囲内となるように規制することができる。よって、補償フィルタ板に歪みなどが発生して劣化することを確実に防止できる。
(1)上述した各実施例において、穴53および長穴57は補償フィルタ板25の側に設けられている構成を例示したが、穴53および長穴57は回転板21または回転板23に設けられており、補償フィルタ板25に突起51などが配設されている構成であってもよい。
なお、補償フィルタ板25Bにおいても突起61などが設けられている構成であってもよい。すなわち、補償フィルタ板25Bの一端側の下面に突起61が設けられており、回転板23には突起61が嵌合する穴63が設けられている。穴63に突起61が嵌合することで、補償フィルタ板25Bおよび回転板21は、突起61および穴63が形成されている支持箇所を中心に対して回転可能になる。
このように、本発明に係る補償フィルタ装置では、回転板21および回転板23のうちの一方の(一例として回転板21)と補償フィルタ板25Aとが、突起51および穴53が形成されている支持箇所を中心に対して回転可能になるように構成される。また、回転板21および回転板23のうちの他方(一例として回転板23)と補償フィルタ板25Aとのいずれか一方に突起55を設けるとともに、突起55に嵌合して当該突起55が移動可能な長穴57を他方に設けている。そのため単純な構成により、補償フィルタ板25Aは、中心軸P周りの回転移動と、中心軸Pに対する進退移動とを行うことができる。
(2)上述した実施例1において、補償フィルタ装置7は1つの突起73と1つの溝部75からなる1組の回転角度規制機構71を備える構成を例示したが、補償フィルタ装置7は複数組の回転角度規制機構71を備えてもよい。
突起73Pの形状は突起73と同様であり、溝部75Pの形状は溝部75と同様である。補償フィルタ装置7Cでは、回転板21および回転板23を上下に重畳させた場合に、突起73は溝部75に嵌合するとともに、突起73Pが溝部75Pに嵌合するように構成されている。突起73および突起73Pは本実施例における第1部材に相当し、溝部75および溝部75Pは本実施例における第2部材に相当する。このように、回転板21および回転板23の各々が突起および溝部を備える構造となる。すなわち回転板21と回転板23とは同一の形状となるので、単一の金型および製造工程を用いることによって回転板21と回転板23との各々を製造できる。言い換えると第2の変形例では、回転板21と回転板23とを製造する場合に、それぞれ別の金型または製造工程を用意する必要がない。そのため、補償フィルタ装置7Cの製造コストを低減できる。
(3)上述した実施例1において、回転角度規制機構71における突起73は回転板21に設けられ、溝部75は回転板23に設けられる構成を例示したがこれに限ることはない。すなわち突起73が回転板23に設けられ、溝部75が回転板21に設けられる構成であってもよい。同様に実施例2において、壁板77が回転板21Aに設けられており壁板79が回転板23Aに設けられている構成であってもよい。
(4)上述した各実施例において、穴53および長穴57は補償フィルタ板25Aを上面から下面へと貫通する貫通孔である構成を例として示したが、穴53および長穴57は補償フィルタ板25Aを貫通する構成に限ることはない。すなわち穴53および長穴57は、補償フィルタ板25Aに設けられた窪み状の凹部であってもよい。同様に穴63および長穴67についても貫通孔である構成に限ることはなく、補償フィルタ板25Bに設けられた窪み状の凹部であってもよい。
(5)上述した各実施例において、突起51は下側の回転板21に配設させており突起55は上側の回転板23に配設されているが、逆であってもよい。すなわち突起51を回転板23に配設し、突起55を回転板21に配設してもよい。また突起61を回転板23に配設し、突起65を回転板21に配設してもよい。
(6)上述した実施例2において、回転角度規制機構71Aが備える部材は板状の壁板77および79に限られない。すなわち回転板21および回転板23から凸状に突出する形状であれば、円柱状、角柱状、またはドーム状の突起などであってもよい。
(7)上述した各実施例において、補償フィルタ板25Aおよび25Bは、相対回転角度が上限値になった場合において互いに最も近づき、中心軸Pにおいて互いに当接する構成としているがこれに限られない。すなわち、相対回転角度が下限値になった場合において互いに最も近づき、中心軸Pにおいて互いに当接する構成であってもよい。
(8)上述した各実施例において、補償フィルタ板25は2枚の補償フィルタ板25Aおよび25Bを備える構成を例として説明したが、補償フィルタ板の数は2枚に限ることはなく、1枚であっても3枚以上であってもよい。補償フィルタ板25が3枚以上である場合、各々は中心軸Pを基準として点対称に配置され、互いに中心軸Pに向かって進退移動できるように構成される。そして相対回転角度が上限値または下限値になった場合において、複数枚の補償フィルタ板は互いに中心軸Pにおいて当接して全体として1枚の補償フィルタ板25を形成させる。
このような構成により、各々の補償フィルタ板は当接した状態において回転角度規制機構71が作用して回転板23の相対的な回転が抑止される。そのため、各々の補償フィルタ板は当接した状態においてこれ以上互いに近づくことはない。よって、各々の補償フィルタ板に対して押圧力が作用して劣化することを防止できる。また、複数枚の補償フィルタ板は互いに中心軸Pにおいて当接して全体として1枚の補償フィルタ板25を形成させることにより、補償フィルタ板25の開閉動作を単純な構成で実現できる。