(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064614
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】インクジェット捺染方法及びインクジェット捺染用セット
(51)【国際特許分類】
D06P 5/28 20060101AFI20240507BHJP
C09D 11/54 20140101ALI20240507BHJP
C09D 11/40 20140101ALI20240507BHJP
D06P 5/00 20060101ALI20240507BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240507BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240507BHJP
B44C 1/17 20060101ALI20240507BHJP
C09B 1/54 20060101ALN20240507BHJP
C09B 1/22 20060101ALN20240507BHJP
C09B 1/28 20060101ALN20240507BHJP
C09B 25/00 20060101ALN20240507BHJP
C09B 29/085 20060101ALN20240507BHJP
C09B 29/09 20060101ALN20240507BHJP
C09B 57/02 20060101ALN20240507BHJP
C09B 57/12 20060101ALN20240507BHJP
【FI】
D06P5/28
C09D11/54
C09D11/40
D06P5/00 104
B41J2/01 101
B41J2/01 501
B41M5/00 100
B41M5/00 120
B44C1/17 J
B44C1/17 F
C09B1/54
C09B1/22
C09B1/28
C09B25/00 Z
C09B29/085 E
C09B29/09 C
C09B57/02 D
C09B57/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173340
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100080953
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 克郎
(72)【発明者】
【氏名】宮佐 亮太
(72)【発明者】
【氏名】加賀田 尚義
(72)【発明者】
【氏名】小口 稔明
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 弘
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
3B005
4H157
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FA10
2C056FB03
2C056FC01
2C056FD13
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4H157AA02
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4J039GA25
(57)【要約】
【課題】得られる印捺物の変退色がより抑制されるインクジェット捺染方法を提供する。
【解決手段】昇華性染料を含むインクジェットインク組成物を記録ヘッドから吐出して中間転写媒体Aに付着させる吐出工程と、前記中間転写媒体Aに付着した前記昇華性染料を、布帛Bに昇華転写する転写工程と、を含み、前記昇華性染料と、前記布帛Bの前記昇華転写が施される面の部材と、のCOSMO-RS法を用いて計算される、25℃における親和性パラメータLn(gamma)が5以下である、インクジェット捺染方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇華性染料を含むインクジェットインク組成物を記録ヘッドから吐出して中間転写媒体Aに付着させる吐出工程と、
前記中間転写媒体Aに付着した前記昇華性染料を、布帛Bに昇華転写する転写工程と、を含み、
前記昇華性染料と、前記布帛Bの前記昇華転写が施される面の部材と、のCOSMO-RS法を用いて計算される、25℃における親和性パラメータLn(gamma)が5以下である、
インクジェット捺染方法。
【請求項2】
前記Ln(gamma)が3以下である、
請求項1に記載のインクジェット捺染方法。
【請求項3】
前記Ln(gamma)が0以下である、
請求項1に記載のインクジェット捺染方法。
【請求項4】
前記部材が、綿又はポリプロピレンの少なくとも1種を含む、
請求項1に記載のインクジェット捺染方法。
【請求項5】
前記部材がポリエチレンテレフタレートを含む場合、前記ポリエチレンテレフタレートの含有量が、前記布帛Bの総量に対して、0質量%超5質量%以下である、
請求項1に記載のインクジェット捺染方法。
【請求項6】
前記インクジェットインク組成物が2種以上の前記昇華性染料を含み、
いずれの前記昇華性染料に対する前記Ln(gamma)も5以下である、
請求項1に記載のインクジェット捺染方法。
【請求項7】
前記転写工程の前に、前処理液組成物を前記布帛Bの前記昇華転写が施される前記面に予め付着させる前処理工程を更に含み、
前記前処理液組成物は、ジカルボン酸化合物とジオール化合物を構成単位として含む樹脂を含有する、
請求項1に記載のインクジェット捺染方法。
【請求項8】
前記ジカルボン酸化合物が、テレフタル酸と、イソフタル酸と、を含有し、
前記ジオール化合物が、エチレングリコールを含有し、
前記エチレングリコールの含有量は、前記ジオール化合物の総量に対して30mоl%以上100mоl%以下である、
請求項7に記載のインクジェット捺染方法。
【請求項9】
前記ジオール化合物が、ネオペンチルグリコールを含有し、
前記ネオペンチルグリコールの含有量は、前記ジオール化合物の総量に対して0mоl%超70mоl%以下である、
請求項8に記載のインクジェット捺染方法。
【請求項10】
前記昇華性染料が、Disperse Orange 25、Disperse Blue 360、Disperse Blue 359、Disperse Yellow 54、Disperse Yellow 232、Solvent Orange 60、Disperse Violet 28、Disperse Red 60、Disperse Brown 27からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、
請求項1に記載のインクジェット捺染方法。
【請求項11】
前記前処理液組成物が、架橋剤を更に含有する、
請求項7に記載のインクジェット捺染方法。
【請求項12】
昇華性染料を含有するインクジェットインク組成物と、前記昇華性染料が昇華転写される布帛Bと、のインクジェット捺染用セットであって、
前記昇華性染料と、前記布帛Bの前記昇華転写が施される面の部材と、のCOSMO-RS法を用いて計算される、25℃における親和性パラメータLn(gamma)が5以下である、
インクジェット捺染用セット。
【請求項13】
昇華性染料を含有するインクジェットインク組成物と、前処理液組成物と、のインクジェット捺染用セットであって、
前記前処理液組成物は、前記昇華性染料が昇華転写される布帛Bを前処理するものであり、
前記前処理液組成物は、樹脂粒子を含有し、
前記昇華性染料と、前記樹脂粒子と、のCOSMO-RS法を用いて計算される、25℃における親和性パラメータLn(gamma)が5以下である、
インクジェット捺染用セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット捺染方法及びインクジェット捺染用セットに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、比較的単純な装置で、高精細な画像の記録が可能であり、各方面で急速な発展を遂げている。その中で、より安定して高品質な記録物を得ることについて種々の検討がなされている。例えば、特許文献1には、より多くの種類の被記録媒体を採用でき、昇華性染料を用いて高精細な印刷物を得ることを目的として、溶媒、バインダ樹脂及び昇華性染料を含み、バインダ樹脂は溶媒に分散又は乳濁しており、昇華性染料はバインダ樹脂の粒子中に含まれるインクを、被記録媒体上に塗布するインク塗布工程等を含み、バインダ樹脂としてポリエステル系樹脂を含むことを特徴とする印刷方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のように、ポリエステル系バインダ樹脂を含むインクを用いても、記録物は経時により変退色を生じることがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のインクジェット捺染方法は、昇華性染料を含むインクジェットインク組成物を記録ヘッドから吐出して中間転写媒体Aに付着させる吐出工程と、上記中間転写媒体Aに付着した上記昇華性染料を、布帛Bに昇華転写する転写工程と、を含み、上記昇華性染料と、上記布帛Bの上記昇華転写が施される面の部材と、のCOSMO-RS法を用いて計算される、25℃における親和性パラメータLn(gamma)が5以下である。
【0006】
本発明のインクジェット捺染用セットは、昇華性染料を含有するインクジェットインク組成物と、上記昇華性染料が昇華転写される布帛Bと、のインクジェット捺染用セットであって、上記昇華性染料と、上記布帛Bの上記昇華転写が施される面の部材と、のCOSMO-RS法を用いて計算される、25℃における親和性パラメータLn(gamma)が5以下である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施形態の捺染方法で用いる記録装置の一例を示す図である。
【
図2】本実施形態の捺染方法で用いる計算結果の一部を示す図である。
【
図3】本実施形態の捺染方法で用いる計算結果の一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右などの位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0009】
1.インクジェット捺染方法
本実施形態に係るインクジェット捺染方法(以下、単に「本捺染方法」ともいう。)は、昇華性染料を含むインクジェットインク組成物を記録ヘッドから吐出して中間転写媒体Aに付着させる吐出工程と、中間転写媒体Aに付着した昇華性染料を、布帛Bに昇華転写する転写工程と、を含み、昇華性染料と、布帛Bの昇華転写が施される面の部材と、のCOSMO-RS法を用いて計算される、25℃における親和性パラメータLn(gamma)が5以下である。
【0010】
一般に昇華性染料を含有する染料インク組成物は、ポリエステル系繊維に染着しやすい傾向がある一方、綿布帛とでは染着性に劣る傾向にある。このように、インク組成物と記録面の部材との組み合わせは印捺物の性質に大きく影響する。そのため、所望の物性を有する印捺物を得るために、綿布帛に前処理を施すことで、綿への染着性を付与することが試みられている。しかしながら、このような手法で染着性を付与することができるとしても、記録物が経時的に変色や退色(以下、まとめて「変退色」ともいう。)しないようにすることは困難であった。
【0011】
そこで、本発明者らは、鋭意検討した結果、昇華性染料と、布帛の昇華転写が施される面の部材と、のCOSMO-RS法を用いて計算される、25℃における親和性パラメータLn(gamma)が低くなると、得られる印捺物の変退色を少なくすることを見出した。その要因は、明らかではないが、親和性パラメータLn(gamma)が低いほど、染料と記録面の部材との親和性が高くなり、その親和性向上によって変退色が抑制されると推察される。ただし、要因はこれに限定されない。
【0012】
以下、本実施形態に係る親和性パラメータLn(gamma)、吐出工程、転写工程、インクジェットインク組成物、転写媒体、及びインクジェット捺染用セット等について詳説する。
【0013】
本捺染方法では、昇華染料等の分散染料を含むインク組成物を、記録ヘッドである液体噴射ヘッドで吐出して中間転写媒体Aに付着させ、中間転写媒体Aのインク組成物が付着された面と、処理液組成物が付着した布帛面と、を対向させた状態で加熱し、インク組成物に含まれる分散染料を、処理液組成物が付着した布帛に転写させる。このような捺染方法を間接捺染記録方法とも称する。このような捺染方法で、布帛の形態に限定されず、良好に印捺することができる。
【0014】
1.1.親和性パラメータLn(gamma)
本捺染方法では、昇華性染料と、布帛Bの昇華転写が施される面の部材と、のCOSMO-RS法を用いて計算される25℃における親和性パラメータLn(gamma)が5以下である。上記親和性パラメータLn(gamma)が5以下である、昇華性染料と布帛Bの昇華転写が施される面の部材を用いると、変退色がより抑制される印捺物を得ることができる。同様の観点から、上記親和性パラメータLn(gamma)は、3以下であるとより好ましく、0以下であると更に好ましい。なお、Ln(gamma)の下限は特に限定されないが、-3以上であってもよく、-1以上であってもよい。
【0015】
親和性パラメータLn(gamma)は、活量係数γの自然対数を表す。本実施形態において、Ln(gamma)を得るための最初のステップとしては、密度汎関数法に基づく量子化学計算により、分子の表面におけるscreening chargeσを求める。次いで、screening chargeσの度数分布関数であるα-prоfile、px(σ)から、COSMO-RS法により統計力学に基づき分子Xの活量係数γを求めLn(gamma)を得る。各ステップに用いるソフトウェアは、特に限定されないが、好ましくは、最初のステップにおいてTURBOMOLE(COSMOlogic社製)であり、次のステップにおいてはCOSMOtherm(COSMOlogic社製)である。COSMO-RS法を用いて、かつ、25℃においてLn(gamma)が計算されれば、各ステップにおける詳細な計算方法は、特に限定されないが、例えば、後述の実施例のとおり行うとよい。
【0016】
親和性パラメータLn(gamma)は、布帛の繊維種や後述する前処理工程、あるいは、昇華性染料の種類によって調整することができる。
【0017】
1.2.吐出工程
本捺染方法の吐出工程は、昇華性染料を含むインクジェットインク組成物を記録ヘッドから吐出して中間転写媒体Aに付着させる。より具体的には、圧力発生手段を駆動させて、記録ヘッドの圧力発生室内に充填されたインク組成物をノズルから吐出させる。
【0018】
本工程では、複数種のインク組成物を用いてもよい。これにより、例えば、表現することのできる色域をより広くすることができる。本発明の効果をより有効かつ確実にさせる観点からは、複数種のインク組成物を用いる場合、各インク組成物における染料に対するLn(gamma)は5以下、3以下、又は0以下であるとよい。
【0019】
1.3.前処理工程
本捺染方法は、転写工程の前に、前処理液組成物を布帛Bの前記昇華転写が施される面に予め付着させる前処理工程を更に含んでもよい。前処理工程を行うことにより、印捺物の変退色がより抑制され、耐擦性が向上する傾向にある。前処理工程において、前処理液組成物を布帛に付着させる方法としては、スプレーにより噴射することにより付着させてもよく、インクジェット法により布帛に付着させてもよい。
【0020】
インク組成物をインクジェット記録装置により中間転写媒体Aに付着させる際、又は前処理液組成物を布帛Bに付着させる際、用いるインクジェット記録装置としては、特に限定されず、シリアル型、及びライン型のいずれでも使用することができる。インクジェット記録装置の一例として、
図1に、シリアル型記録装置の斜視図を示す。
図1に示すように、シリアル型記録装置10は、搬送部120と、記録部130とを備えている。搬送部120は、シリアル型記録装置に給送された記録媒体Fを記録部130へと搬送し、記録後の記録媒体をシリアル型記録装置の外に排出する。具体的には、搬送部120は、各送りローラーを有し、送られた記録媒体Fを副走査方向T1へ搬送する。
【0021】
また、記録装置における記録部130は、搬送部120から送られた記録媒体Fに対してインク組成物を吐出するノズルを有するインクジェットヘッド131を搭載するキャリッジ134と、キャリッジ134を記録媒体Fの主走査方向S1、S2に移動させるキャリッジ移動機構135を備える。ここで、記録媒体Fは、中間転写媒体Aであってもよいし、布帛Bであってもよい。
【0022】
また、記録装置における記録部130は、インク組成物又は前処理液組成物を吐出するノズルを有する。
【0023】
シリアル型記録装置の場合には、インクジェットヘッド131として記録媒体の幅より小さい長さであるヘッドを備え、ヘッドが移動し、複数パス(マルチパス)で記録が行われる。また、シリアル型記録装置では、所定の方向に移動するキャリッジ134にヘッド131が搭載されており、キャリッジの移動に伴ってヘッドが移動することにより記録媒体上にインク組成物を吐出する。これにより、2パス以上(マルチパス)で付着が行われる。なお、パスを主走査ともいう。パスとパスの間には記録媒体を搬送する副走査を行う。つまり主走査と副走査を交互に行う。
【0024】
1.3.1.前処理液組成物
本捺染方法の前処理液組成物は、染料インク組成物による捺染を行う前に、媒体の記録を行う面に対して付着させて用いるものである。前処理液組成物による前処理が施された記録媒体の面では、得られる印捺物の変退色がより抑制される傾向にある。前処理液組成物は、樹脂を含み、必要に応じて、架橋剤、水、その他の成分等を含む。
【0025】
1.3.1.1.樹脂
本捺染方法の前処理液組成物は、樹脂を含む。樹脂は、樹脂エマルジョンであってもよい。樹脂としては、特に制限されないが、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、及びアクリル樹脂が挙げられる。本発明の効果をより有効かつ確実に奏する観点からは、樹脂として、多価カルボン酸由来の構成単位と多価アルコール由来の構成単位を含有する樹脂が好ましく、ジカルボン酸化合物由来の構成単位とジオール化合物由来の構成単位を含有する樹脂がより好ましく、ポリエステル樹脂が好ましい。
【0026】
多価カルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、フタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸および、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2-カリウムスルホテレフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、グルタル酸、コハク酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、無水トリメリット酸、無水フタル酸、無水コハク酸、及びp-ヒドロキシ安息香酸、並びにこれらの塩が挙げられる。塩としては、例えば、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、及びマグネシウム塩が挙げられる。これらの中でも、本発明の効果をより有効かつ確実に奏する観点からは、多価カルボン酸として、テレフタル酸、又はイソフタル酸を含むと好ましい。
【0027】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、p-キシリレングリコール、ビスフェノールA-エチレングリコール付加物、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリテトラメチレンオキシドグリコール、ジメチロールプロピオン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジメチロールエチルスルホン酸ナトリウム、ジメチロールエチルスルホン酸カリウム、及びジメチロールプロピオン酸カリウムが挙げられる。これらのなかでも、本発明の効果をより有効かつ確実に奏する観点からは、多価アルコールとして、エチレングリコール、又はネオペンチルグリコールを含むと好ましい。
【0028】
このなかでも樹脂は、ジカルボン酸化合物として、テレフタル酸と、イソフタル酸と、を含有し、ジオール化合物として、エチレングリコールを含有し、エチレングリコールの含有量がジオール化合物の総量に対して30mоl%以上100mоl%以下であることが好ましい。このような態様により、得られる印捺物の変退色がより一層抑制される傾向にある。同様の観点から、上記エチレングリコールの含有量は、ジオール化合物の総量に対して40mоl%以上100mоl%以下であるか、50mоl%以上100mоl%以下であるとより好ましい。
【0029】
また、樹脂は、ジカルボン酸化合物として、テレフタル酸と、イソフタル酸と、を含有し、ジオール化合物として、エチレングリコールと、ネオペンチルグリコールとを含有し、エチレングリコールの含有量がジオール化合物の総量に対して30mоl%以上100mоl%以下であり、ネオペンチルグリコールの含有量が、ジオール化合物の総量に対して0mоl%超70mоl%以下であると好ましい。このような態様により、得られる印捺物の変退色がより一層抑制される傾向にある。
【0030】
ポリエステル樹脂は、ヒドロキシル基、カルボキシル基、及びスルホン酸基、並びにこれらのナトリウム塩を含むことが好ましい。これらの基を含むことで、ポリエステル樹脂は、架橋剤と良好に反応することが可能となり、布帛との密着性が良好となる傾向にある。そのため、より十分な変退色の抑制、及び堅牢性を有する印捺物を得ることが可能となる。なお、これらの基は、ポリエステル樹脂中に、1種、又は2種以上含んでもよい。
【0031】
樹脂の含有量は、特に限定されないが、好ましくは、前処理液組成物の総量に対して、0.5質量%以上10質量%以下であるか、1.0質量%以上8.0質量%以下であるか、2.0質量%以上7.0質量%以下である。樹脂の含有量が上記範囲内にあることで、本発明の効果をより有効かつ確実に奏する。
【0032】
また、同様の観点から、ポリエステル樹脂の含有量は、好ましくは、前処理液組成物の総量に対して、0.5質量%以上10質量%以下であるか、1.0質量%以上8.0質量%以下であるか、2.0質量%以上7.0質量%以下である。
【0033】
1.3.1.2.架橋剤
前処理液組成物は、架橋剤を更に含有すると好ましい。架橋剤を含有することにより架橋性を付与でき、樹脂と、染料と、布帛との結着性が向上する傾向にある。
【0034】
架橋剤としては、公知の架橋剤から適宜選択して用いることができ、常温で架橋反応を開始するものであってもよく、熱により架橋反応を開始するものであってもよい。このような架橋剤としては、例えば、自己架橋性を有する架橋剤、不飽和カルボン酸成分と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物、及び多価の配位座を有する金属等が挙げられる。
【0035】
より具体的には、架橋剤として、ポリイソシアネート系化合物、ポリエポキシ系化合物など、ポリエステル系樹脂に含まれる水酸基および/またはカルボキシル基と反応する官能基を有する化合物が挙げられる。
【0036】
ポリイソシアネート系化合物としては、特に限定されないが、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、などのポリイソシアネートがあげられ、また、上記ポリイソシアネートと、トリメチロールプロパン等のポリオール化合物とのアダクト体や、これらポリイソシアネート化合物のビュレット体、イソシアヌレート体、等があげられる。
【0037】
架橋剤の含有量は、本発明の効果をより有効かつ確実に奏する観点から、好ましくは、前処理液組成物の総量に対して、固形分換算で0.1質量%以上10質量%以下であるか、0.5質量%以上5.0質量%以下であるか、1.0質量%以上3.0質量%以下である。
【0038】
また、同様の観点から、架橋剤に対する樹脂の質量比(樹脂:架橋剤)は、1:1.2以上1:0.01以下であるか、1:0.70以上1:0.05以下であると好ましい。
【0039】
1.3.1.3.水
前処理液組成物は、水を含んでもよい。水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、及び蒸留水のような純水、及び超純水が挙げられる。
【0040】
本実施形態の前処理液組成物における水の含有量は、前処理液組成物の総量に対して、好ましくは70質量%以上99質量%以下であり、より好ましくは80質量%以上98質量%以下であり、さらに好ましくは90質量%以上97質量%以下である。
【0041】
1.3.1.4.その他の成分
前処理液組成物には、界面活性剤、溶解助剤、粘度調整剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、防かび剤、腐食防止剤、及びキレート化剤などの種々の添加剤を含んでもよい。
添加剤の含有量は、処理液組成物の総量に対して、例えば、それぞれ0.01質量%以上5.0質量%以下程度である。なお、添加剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
1.4.前乾燥工程
本捺染方法は、前乾燥工程を含んでもよい。前乾燥工程は、前処理液組成物が付着した布帛Bに加熱や送風などを行い、前処理液組成物を乾燥する工程である。布帛Bを加熱するための加熱ユニットとしては、特に制限されないが、例えば、加温機能を備える、プラテンヒータや温風ヒータやIRヒータ等や、加温機能を備えない、送風機等が挙げられる。
【0043】
前乾燥工程における乾燥温度は、好ましくは80℃以上150℃以下であり、より好ましくは90℃以上140℃以下であり、さらに好ましくは100℃以上130℃以下である。ここで、乾燥温度は布帛表面の記録がされる領域における平均温度をいう。また、乾燥時間は、30秒以上10分以下であり、より好ましくは40秒以上5.0分以下であり、さらに好ましくは50秒以上3.0分以下である。
【0044】
1.5.転写工程
本捺染方法の転写工程では、中間転写媒体Aに付着した昇華性染料を、布帛Bに昇華転写する。より具体的には、中間転写媒体Aの昇華性染料が付着した面と、布帛Bの記録面と、を対向させた状態で加熱し、中間転写媒体Aに付着した昇華性染料を、布帛Bに転写させる工程である。これにより、昇華性染料が転写され、昇華性染料が付着した布帛Bである印捺物が得られる。
【0045】
本工程では、インク組成物が付着した中間転写媒体Aの面と、布帛Bの記録面とを密着させた状態で加熱することが好ましい。これにより、得られる印捺物の画像がより鮮明になる傾向にある。
【0046】
加熱する方法としては、例えば、上記によるスチーミング、乾熱によるヒートプレス、サーモゾル、過熱蒸気によるHTスチーマー、並びに加圧蒸気によるHPスチーマーが和えられる。昇華染料が付着した布帛Bに対して、直ちに加熱処理が施されてもよく、所定時間経過後に加熱処理が施されてもよい。より鮮明な印捺物を得る観点からは、加熱方法として乾熱を行うとよい。
【0047】
加熱温度は、本発明の効果をより有効かつ確実に奏する観点から、好ましくは、160℃以上220℃以下であり、180℃以上200℃以下である。また、上記加熱温度にすることで、転写に要するエネルギーをより少なくすることができ、印捺物の生産性に優れる傾向がある。
【0048】
加熱時間は、加熱温度にもよるが、本発明の効果をより有効かつ確実に奏する観点から、好ましくは、30秒以上120秒以下であり、40秒以上90秒以下である。また、上記加熱時間にすることで、転写に要するエネルギーを少なくすることができ、印捺物の生産性に優れる傾向がある。
【0049】
1.6.記録媒体
本捺染方法では、インク組成物を記録ヘッドから吐出して付着させるための中間転写媒体Aと、中間転写媒体Aに付着した昇華性染料を昇華転写させた布帛Bを記録媒体として用いる。
【0050】
1.6.1.中間転写媒体A
中間転写媒体Aとしては、例えば、普通紙等の紙、及びインク受容層が設けられた記録媒体等を用いることができる。上記のインク受容層が設けられた記録媒体は、例えば、インクジェット用専用紙、及びコート紙等で呼称される。これらの中では、シリカ等の無機粒子を含有するインク受容層が設けられた紙がより好ましい。これにより、中間転写媒体Aに付与されたインク組成物が乾燥する過程で、記録面に滲み等が抑制された中間記録物を得ることができる。また、このような媒体であれば、さらに記録面の表面に分散染料を留めやすく、後の転写工程において、分散染料の昇華をより効率的に行うことができる。
【0051】
1.6.2.布帛B
本捺染方法の布帛Bは、布帛Bの昇華転写が施される面の部材と、昇華性染料と、のCOSMO-RS法を用いて計算される、25℃における親和性パラメータLn(gamma)が5以下であれば、特に限定されない。布帛Bを構成する繊維としては、特に限定されないが、例えば、綿、ポリエステル、ウール等の、天然繊維・合成繊維、不織布が挙げられる。このなかでも、得られる印捺物の変退色をより抑制する観点からは、上記部材として、綿布、ポリプロピレン不織布、綿とポリエステルの混紡布の少なくとも1種が好ましく、綿布、ポリプロピレン不織布の少なくとも1種がより好ましい。
綿とポリエステルの混紡布は、混紡布中のポリエステルの比率が0%超50%以下であることが好ましく、0%超45%以下であることがより好ましい。
【0052】
また、上記布帛Bがポリエチレンテレフタレート繊維を含む場合、ポリエチレンテレフタレート繊維の含有量は、布帛Bの総量に対して、0質量%超5質量%以下であることが好ましい。このような態様によれば、得られる印捺物の変退色がより抑制される傾向にある。
【0053】
1.7.インクジェットインク組成物
本実施形態のインクジェットインク組成物(以下、単に「インク組成物」ともいう。)は、昇華性染料と、その他必要に応じてインク組成物に用いられる成分を含む。以下、本実施形態のインク組成物に含まれ得る成分について詳説する。
【0054】
1.7.1.昇華性染料
インク組成物は昇華性染料を含み、必要に応じて更にその他の染料や顔料等の色材を含んでいてもよい。本明細書において、「昇華性染料」とは、加熱により昇華する性質を有する染料をいう。色材は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
インク組成物は2種以上の昇華性染料を含み、いずれの昇華性染料に対するLn(gamma)も5以下であることが好ましい。そのような態様と方法を用いると、得られる印捺物の変退色がより抑制される傾向にある。同様の観点から、インク組成物が2種以上の昇華性染料を含み、いずれの昇華性染料に対するLn(gamma)も3以下であるとより好ましく、0以下であると更に好ましい。
【0056】
昇華性染料としては、特に限定されず、例えば、Disperse Yellow 3、7、8、23、39、51、54、60、71、86、232;Disperse Orange 1、1:1、5、20、25、33、56、60、76;Disperse Brown 2、27;Disperse Red 11、50、53、55、55:1、59、60、65、70、75、93、146、158、190、190:1、207、239、240、364;Disperse Violet 8、17、23、27、28、29、36、57;Disperse Blue 14、19、26、26:1、35、55、56、58、64、64:1、72、72:1、81、81:1、91、95、108、131、141、145、359、360等が挙げられる。
【0057】
上述の昇華性染料のなかでも、本発明の効果をより有効かつ確実に奏する観点から、Disperse Orange 25、Disperse Blue 360、Disperse Blue 359、Disperse Yellow 54、Disperse Yellow 232、Solvent Orange 60、Disperse Violet 28、Disperse Red 60、Disperse Brown 27からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むと好ましい。
【0058】
昇華性染料の含有量は、特に限定されないが、好ましくは、インク組成物の総量に対して、1質量%以上30質量%以下であるか、2質量%以上25質量%以下であるか、3質量%以上20質量%以下であるか、5質量%以上10質量%以下である。昇華性染料の含有量が上記範囲内であることにより、得られる印捺物の変退色がより抑制される傾向にある。
【0059】
1.7.2.分散剤
インク組成物は、分散剤を含んでもよい。インク組成物が分散剤を含むと、染料の分散性が向上し、インク組成物が目詰まり信頼性に優れる傾向にある。分散剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
分散剤としては、特に限定されず、例えば、ナフタレンスルホン酸ナトリウム・ホルマリン縮合物、及び樹脂が挙げられる。本発明の効果をより有効かつ確実に奏する観点からは、ナフタレンスルホン酸ナトリウム・ホルマリン縮合物を含むと好ましい。
ナフタレンスルホン酸ナトリウム・ホルマリン縮合物は、アニオン系分散剤の一種であり、芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物である。このような分散剤を用いることで分散安定性や吐出安定性等が向上する傾向にある。
【0061】
ノニオン系分散剤としては、特に限定されないが、例えば、フィトステロールのエチレンオキサイド付加物、コレスタノールのエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0062】
また、高分子分散剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリアクリル酸部分アルキルエステル、ポリアルキレンポリアミン、ポリアクリル酸塩、スチレン-アクリル酸共重合物、ビニルナフタレン-マレイン酸共重合物等が挙げられる。
【0063】
分散剤の含有量は、特に限定されないが、好ましくは、インク組成物の総量に対して、1.0質量%以上30質量%以下であるか、3.0質量%以上20質量%以下であるか、5.0質量%以上10質量%以下である。分散剤の含有量を上記範囲内にすることで、組成物の保存安定性や吐出安定性が向上する傾向にある。
【0064】
1.7.3.水溶性有機溶剤
インク組成物は水溶性有機溶剤を含んでもよい。水溶性有機溶剤としては、特に限定されず、例えば、グリセリン;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等のグリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールモノエーテル類;2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチルピロリドン(HEP)等のラクタム化合物;メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコール、n-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、iso-ブタノール、n-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、及びtert-ペンタノール等のアルコール類が挙げられる。なお、水溶性有機溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0065】
上記化合物のなかでも、水溶性有機溶剤として、グリセリン、プロピレングリコール、及びトリエチレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むと好ましく、上記群より選ばれる少なくとも2種を含むとより好ましく、グリセリン、プロピレングリコール、及びトリエチレングリコールを含むと更に好ましい。水溶性有機溶剤として上記化合物を用いると、本発明の効果をより有効かつ確実に奏することができる。
【0066】
水溶性有機溶剤の合計含有量は、特に限定されないが、好ましくは、インク組成物の総量に対して、5質量%以上50質量%以下であるか、10質量%以上40質量%以下であるか、15質量%以上30質量%以下である。水溶性有機溶剤の合計含有量が上記範囲内にあることで、本発明の効果をより有効かつ確実に奏することができる。
【0067】
1.7.4.水
インク組成物は、水を含む。水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、及び蒸留水のような純水、及び超純水が挙げられる。
【0068】
水の含有量は、本発明の効果をより有効かつ確実に奏する観点から、インク組成物の総量に対して、30質量%以上95質量%以下であることが好ましく、40質量%以上90質量%以下であることがより好ましく、50質量%以上80質量%以下であることが更に好ましく、55質量%以上75質量%以下であることがより更に好ましい。
【0069】
1.7.5.界面活性剤
インク組成物は、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、シリコーン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、及びフッ素系界面活性剤が挙げられる。本発明の効果をより有効かつ確実に奏する観点からは、界面活性剤としてシリコーン系界面活性剤を用いることが好ましい。なお、界面活性剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0070】
シリコーン系界面活性剤としては、ポリシロキサン系化合物、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。ポリシロキサン系化合物としては、特に限定されないが、例えばポリエーテル変性オルガノシロキサンが挙げられる。ポリエーテル変性オルガノシロキサンの市販品としては、例えば、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-348(以上商品名、ビックケミー・ジャパン社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(以上商品名、信越化学工業社製)が挙げられる。このなかでも、本発明の効果をより有効かつ確実に奏する観点からは、BYK-348を用いると好ましい。
【0071】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及び2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのアルキレンオキサイド付加物、並びに2,4-ジメチル-5-デシン-4-オール及び2,4-ジメチル-5-デシン-4-オールのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0072】
フッ素系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物が挙げられる。
【0073】
界面活性剤の含有量は、インク組成物の総量に対して、0.1質量%以上3.0質量%以下であると好ましく、0.2質量%以上2.0質量%以下であるとより好ましく、0.3質量%以上1.0質量%以下であると更に好ましい。界面活性剤の含有量が上記範囲内にあることで、本発明の効果がより有効かつ確実に奏される。
【0074】
2.インクジェット捺染用セット
本実施形態のインクジェット捺染用セット(以下、単に「捺染用セット」ともいう。)は、昇華性染料を含有するインクジェットインク組成物と、昇華性染料が昇華転写される布帛Bと、のセットであり、昇華性染料と、布帛Bの昇華転写が施される面の部材と、のCOSMO-RS法を用いて計算される、25℃における親和性パラメータLn(gamma)が5以下である。捺染用セットが上記条件を満たすことにより、得られる印捺物の変退色がより抑制され、また風合いにも優れる。同様の観点から、捺染用セットの25℃における親和性パラメータLn(gamma)は、3以下であると好ましく、0以下であるとより好ましい。
【0075】
また、捺染用セットが、昇華性染料を含有するインクジェットインク組成物と、前処理液組成物と、のインクジェット捺染用セットであって、前処理液組成物は、昇華性染料が昇華転写される布帛Bを前処理するものであり、前処理液組成物が樹脂粒子を含有し、昇華性染料と、樹脂粒子と、のCOSMO-RS法を用いて計算される、25℃における親和性パラメータLn(gamma)が5以下であると、得られる印捺物の変退色がより一層抑制され、また風合いにも一層優れる傾向にある。
【実施例0076】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0077】
1.樹脂の合成
1.1.ポリエステル樹脂の合成
表1に記載の組成となるように、ジカルボン酸及びアルキレングリコールを含む混合物を用意した。この混合物をオートクレーブに投入し、220℃にて4時間加熱し、エステル化反応をさせた。次いで、触媒としてテトラブチルチタネートをオートクレーブに添加し、温度を230℃まで昇温させた後、圧力を徐々に低下させ1.5時間後に13Paとなるようにした。同条件下で更に重縮合反応を続け、4時間後、窒素ガスを導入してオートクレーブ中を常圧に戻し、室温まで冷却することでポリエステル樹脂PET-1,PES-1,PES-2をそれぞれ合成した。なお、表1における各成分の配合量はモル%である。
【0078】
1.2.ポリプロピレン樹脂の合成
固/液撹拌装置(もしくは乳化機)に、ポリプロピレン樹脂、及び水(分散剤)の原料を投入し、40℃以下の温度で攪拌混合した。次いで、槽内の温度を100~190℃の温度に保ちつつ、粗大粒子が無くなるまで300分間攪拌を続けた。
【0079】
【0080】
2.前処理液組成物の調製
表2に記載の組成となるように、混合物用タンクに各成分を入れ、混合撹拌し、さらに5μmのメンブレンフィルターでろ過することにより、前処理液組成物をそれぞれ得た。なお、表2における各成分の配合量の数値は質量%を示す。架橋剤の配合量は、固形分換算で算出した配合量(質量%)を表す。
【0081】
表において使用した成分の詳細は以下のとおりである。
[樹脂分散液]
・PET-1(合成ポリエステル樹脂)
・PES-1(合成ポリエステル樹脂)
・PES-2(合成ポリエステル樹脂)
・PP-1(合成ポリプロピレン樹脂)
[架橋剤]
・ヘキサメチレンジイソシアネート(商品名「フィキサー#220」、イソシアネート基含有化合物、固形分量:40質量%、株式会社村山化学研究所製)
【0082】
【0083】
3.インクジェットインク組成物の調製
表3に記載の組成となるように、混合物用タンクに各成分を入れ、スターラーで2時間混合撹拌した。その後、孔径1μmのメンブレンフィルターでろ過することにより、各例のインクジェットインク組成物を得た。
【0084】
表において使用した略号や成分の詳細は以下のとおりである。
[染料]
・DOr25(Disperse Orange 25)
・DB360(Disperse Blue 360)
・DY54(Disperse Yellow 54)
・SO60(Solvent Orange 60)
・DV28(Disperse Violet 28)
・DR60(Disperse Red 60)
・DB359(Disperse Blue 359)
・DY232(Disperse Yellow 232)
・DBr27(Disperse Brown 27)
[分散剤]
・ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物(商品名「デモール(登録商標)NL」、花王株式会社製)
[水溶性有機溶剤]
・プロピレングリコール
・グリセリン
・メチルトリグルコール
[界面活性剤]
・BYK348(商品名、シリコーン系界面活性剤、ビックケミー・ジャパン株式会社製)
【0085】
【0086】
4.印捺物の作製
4.1.前処理液工程:前処理液組成物が付着した布帛Bの作製
各例に記載の組成を有する処理液組成物を用いて、前処理液組成物を布帛に付着させた。具体的には、次のようにして、前処理液組成物が付着した布帛を得た。
【0087】
布帛として、白色の綿ブロード#4000(商品名、日清紡株式会社製)または、白色のポリプロピレン不織布スプリトップSP(商品名、前田工繊製)または、白色の綿55%ポリエステル45%混紡布CP443044(商品名、赤堀産業製)に、前処理液組成物を浸漬させ、絞り率が80%となるようにマングルローラーにて、前処理液組成物を布に塗布した。その後、110℃で3分間乾燥させて、前処理液組成物が付着した布をそれぞれ得た。また、絞り率(S)は、以下の式により算出した。
S(%)=[(A-B)/B]×100
なお、上記の式において、Sは、絞り率(%)を、Aは処理液組成物が付着した布の質量を、Bは処理液組成物が付着する前の布の質量を、それぞれ示す。
【0088】
4.2.吐出工程:インク組成物が付着した中間転写媒体Aの作製
各例のインク組成物を用いて、インクジェットプリンターPX-G930(商品名、セイコーエプソン株式会社製)のカートリッジに充填した。その後、中間転写媒体としてコート紙(商品名「TRANSJET Sportline1254」、Cham Paper社製)のコート層が設けられた面に、720dpi×720dpiの解像度で、かつ100%Dutyのインク吐出量の場合におけるインク打ち込み量が12mg/inch2の条件で、付着させて、塗り潰しパターンを有する画像を形成した。これにより、インク組成物が付着した中間記録媒体を得た。
【0089】
4.3.転写工程:印捺物の作製
(綿、綿55%ポリエステル45%混紡布への昇華転写)
上記で得られたインク組成物が付着した中間記録媒体の画像が形成された面と、上記で得られた前処理液組成物が付着した布帛、又は前処理をしていない布帛の面とを対向した状態で、ヒートプレス機(商品名「TP-608M」、太陽精機株式会社製)を用いて、温度200℃、圧力4.2N/cm3、及び60秒間の条件でプレスし、中間記録媒体の昇華染料を布帛に熱転写し、昇華染料が付着した布帛である印捺物をそれぞれ得た。
【0090】
(ポリプロピレン不織布への昇華転写)
上記で得られたインク組成物が付着した中間記録媒体の画像が形成された面と、上記で得られた前処理液組成物が付着したポリプロピレン不織布、又は前処理をしていないポリプロピレン不織布の面とを対向した状態で、上記ヒートプレス機を用いて、温度140℃、圧力3N/cm3、及び40秒間の条件でプレスし、中間記録媒体の昇華染料を布帛に熱転写し、昇華染料が付着した布帛である印捺物をそれぞれ得た。
【0091】
5.印捺物の評価
5.1.変退色
上記で得られた印捺物を25℃の室温にて、1時間放置した。その後、蛍光分光濃度計(商品名「FD-7」、コニカミノルタ株式会社製)を用いて、下記の測定条件にて、放置後の印捺物のそれぞれにおける、Cインクに対する発色濃度(OD値)を測定した。その後、印捺物を25℃の室温にて3日間放置し、同様の条件にて、放置後の印捺物のそれぞれの発色濃度(OD値)を測定した。
(測定条件)
・室温:25℃
・観測光源:D65
・観測視野:2°
・ステータス:T
・偏光フィルター:非装着
【0092】
捺染をした直後の印捺物に対するOD値と、3日間放置後の印捺物に対するOD値とを対比して、次の評価基準に従って、実施例、及び比較例におけるそれぞれの印捺物の変退色性を評価した。
(評価基準)
AAA:OD値の変化率が、1%未満であった
AA :OD値の変化率が、1%以上2%未満であった
A :OD値の変化率が、2%以上5%未満であった
B :OD値の変化率が、5%以上10%未満であった
C :OD値の変化率が、10%以上であった
【0093】
5.2.風合い
上記得られた印捺物のそれぞれの風合い性を官能試験にて評価した。具体的には、得られた印捺物について、判定者が、以下の基準に従って、その感触を官能評価し、風合い性を評価した。それらの結果を表に示す。
(評価基準)
AA:印捺物が柔らかく、ごわついた感触が認められない
A :印捺物がやや硬く、少しごわついた感触が認められる
B :印捺物が硬く、顕著にごわついた感触が認められる
【0094】
6.親和性パラメータLn(gamma)の計算
6.1.量子化学計算
量子化学計算はTURBOMOLEを用いて行われた。電子相関を表す汎関数はBP86、基底関数はdef2-TZVPDである。BP86はGeneralized Gradient Approximation(GGA)である。分子を仮想的な外部導体に埋め込むConductor-like Screening Modelを用いる。分子が外部導体に埋め込まれる空間は、van-der-Waals半径で規定される領域である。外部導体がつくる分子表面の遮蔽電荷を、分子表面要素kごとに求めσkとする。分子Xにおけるσkの度数分布がσ-profile pX(σ)である。
【0095】
なお、本実施例で用いたp
X(σ)について、前処理液において用いた高分子に関するものを
図2に、また、染料分子に関するものを
図3に示した。
【0096】
6.2.COSMO-RS法による計算
高分子中に色材分子が溶けている系Sを仮定する。分子同士が接する分子表面では、screening charge σに対して、3つの過剰なエネルギーE
misfit、E
HB、E
vdWが生じる。これらを、それぞれ(1)、(2)、(3)に示す。E
misfitはmisfit energyとよばれ、静電的なエネルギーを表す。E
HBは水素結合によるエネルギー、また、E
vdWはvan-der-Waalsの分散力によるエネルギーに対応する。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【数7】
【数8】
【数9】
【0097】
なお、評価対象の布が混紡布などの複数の化学構造を含む場合は、重量%で最も多く含有される化学構造をシミュレーションの対象とした。
【0098】
上記計算において、活量係数の計算には、以下の文献を参照することができる。なお、COSMO-RS法の計算で使用したソフトウェアは、BIOVIA COSMOtherm 2022である。
・Klamt, A. J. Phys. Chem. 99, 2224 (1995).
・Klamt, A.; Jonas, V.; Burger, T.; Lohrenz, J. C. J. Phys. Chem. A 102, 5074 (1998).
・Eckert, F. and A. Klamt, AIChE Journal, 48, 369 (2002).
また、樹脂中の自由体積によるコンビナトリアル項は、以下の文献に記載されているElbroの手法により化学ポテンシャルへ取り入れることができる。
・Elbro, H. S.; Fredenslund, A.; Rasmussen, P. A. Macromolecules 23, 4707 (1990).
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
7.評価結果
表4~7に、各例で用いたインク組成物の組成、印刷用布、並びに評価結果を示した。これらの結果から、昇華性染料を含むインクジェットインク組成物を記録ヘッドから吐出して中間転写媒体Aに付着させる吐出工程と、中間転写媒体Aに付着した昇華性染料を布帛Bに昇華転写する転写工程とを含み、昇華性染料と布帛Bの昇華転写が施される面の部材とのCOSMO-RS法を用いて計算される25℃における親和性パラメータLn(gamma)が5以下であるインクジェット捺染方法によれば、変退色が少ない印捺物が得られることがわかる。
10…シリアル型記録装置、120…搬送部、130…記録部、131…インクジェットヘッド、134…キャリッジ、135…キャリッジ移動機構、F…記録媒体、S1,S2…主走査方向、T1…副走査方向。