(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064640
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 13/02 20060101AFI20240507BHJP
F02D 21/08 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
F02D13/02 K
F02D21/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173393
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】谷本 英幸
【テーマコード(参考)】
3G092
【Fターム(参考)】
3G092AA11
3G092AA17
3G092DA08
3G092DA12
3G092DC09
3G092FA24
3G092HA06Z
3G092HC10X
3G092HD07X
3G092HE03Z
3G092HF08Z
(57)【要約】
【課題】EGRガスを吸気通路に還流することができる内燃機関において燃費を向上させることを目的とする。
【解決手段】本発明の内燃機関10のECU20は、車両1の減速要求時にスロットルバルブ124およびEGRバルブ172を閉じると共に、車両1の減速時に吸気バルブ118の閉弁時期を吸気下死点に近づけ、排気バルブ119の閉弁時期を遅角させてオーバーラップ量を増加させるように制御する制御部21を有する。減速時の燃焼不安定を考慮して定常運転時の目標EGR率を下げる必要がないために、燃費を向上させることができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼室から排気された排気ガスを浄化する触媒と、
前記内燃機関の排気通路と吸気通路とを連通するEGR通路と、
前記EGR通路を流れるEGRガスの流量を調整するEGRバルブと、
前記吸気通路に設けられ、前記燃焼室に流入する吸気量を調整するスロットルバルブと
を備える内燃機関の制御装置であって、
車両の減速要求時に前記スロットルバルブおよび前記EGRバルブを閉じると共に、前記車両の減速時に吸気バルブの閉弁時期を吸気下死点に近づけ、排気バルブの閉弁時期を遅角させてオーバーラップ量を増加させるように制御する制御部を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記EGRガスが前記燃焼室に流入することにより失火限界を超えると判定された場合、前記車両の減速時に前記吸気バルブの閉弁時期を吸気下死点に近づけ、前記排気バルブの閉弁時期を遅角させてオーバーラップ量を増加させるように制御し、
前記失火限界に応じて前記吸気バルブの閉弁時期および前記排気バルブの閉弁時期の変化量を変えることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記車両の減速時に前記吸気バルブの閉弁時期を吸気下死点にして、前記排気バルブの閉弁時期を遅角させてオーバーラップ量を増加させるように制御することを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
排気ガスの一部をEGRガスとして吸気通路に還流して燃焼室で燃焼させることにより燃費の向上を図ることができる排気再循環(EGR:Exhaust Gas Recirculation)装置が知られている。EGR装置を備える内燃機関では、燃焼室内のガスに占めるEGRガスの割合を大きくし過ぎると、燃焼が不安定になり失火するおそれがある。したがって、EGR装置を備える内燃機関では、失火を防止するために車両減速時にスロットルバルブを閉じると同時に、EGRバルブを閉じることで燃焼室内へのEGRガスの流入を抑制させる制御を行っている。
【0003】
しかしながら、EGRガスはEGR通路のうちEGRバルブの下流から吸気通路の接続部までの間や、吸気通路のうちEGR通路の接続部から燃焼室までの間に残留している。そのためにスロットルバルブを閉じると同時にEGRバルブを閉じる制御を行っても、残留しているEGRガスが燃焼室内に流入することでEGRガスの割合が一時的に急上昇してしまい失火を防止できない可能性がある。
【0004】
特許文献1には、可変圧縮比機構を備える内燃機関の制御装置が、車両の減速時における失火耐性を向上させるために、車両の減速要求時に機械圧縮比を大きくするように制御することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のように可変圧縮比機構によって車両減速時に機械圧縮比を大きくしたとしても、失火限界を上回る量のEGRガスが流入する場合を考慮すると失火を防止するのに不十分である。したがって、定常運転時のEGR率を失火限界よりも十分に余裕のある設定にする必要があり、結果としてEGR効果が減少してしまい燃費が悪化してしまうという問題がある。
【0007】
本発明は、上述したように問題点に鑑みてなされたものであり、EGRガスを吸気通路に還流することができる内燃機関において燃費を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、内燃機関の燃焼室から排気された排気ガスを浄化する触媒と、前記内燃機関の排気通路と吸気通路とを連通するEGR通路と、前記EGR通路を流れるEGRガスの流量を調整するEGRバルブと、前記吸気通路に設けられ、前記燃焼室に流入する吸気量を調整するスロットルバルブとを備える内燃機関の制御装置であって、車両の減速要求時に前記スロットルバルブおよび前記EGRバルブを閉じると共に、前記車両の減速時に吸気バルブの閉弁時期を吸気下死点に近づけ、排気バルブの閉弁時期を遅角させてオーバーラップ量を増加させるように制御する制御部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、EGRガスを吸気通路に還流することができる内燃機関において燃費を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】内燃機関の制御装置を備える車両の一部の構成を示す概略図である。
【
図2】制御装置による動作を示すフローチャートである。
【
図3】吸気バルブと排気バルブとの開閉タイミングを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る実施形態の内燃機関10は、内燃機関10の燃焼室112から排気された排気ガスを浄化する触媒133と、内燃機関10の排気通路131と吸気通路121とを連通するEGR通路171と、EGR通路171を流れるEGRガスの流量を調整するEGRバルブ172と、吸気通路121に設けられ、燃焼室112に流入する吸気量を調整するスロットルバルブ124とを備える。内燃機関10の制御部21は、車両1の減速要求時にスロットルバルブ124およびEGRバルブ172を閉じると共に、車両1の減速時に吸気バルブ118の閉弁時期を吸気下死点に近づけ、排気バルブ119の閉弁時期を遅角させてオーバーラップ量を増加させるように制御する。このように、吸気バルブ118と排気バルブ119との開閉タイミングを制御して失火を防止することにより、減速時の燃焼不安定を考慮して定常運転時の目標EGR率を下げる必要がないために、燃費を向上させることができる。
【実施例0012】
以下、本発明に係る内燃機関の制御装置について図面を参照して説明する。
図1は、内燃機関の制御装置を備える車両1の一部の構成を示す概略図である。
【0013】
車両1は、内燃機関10と、内燃機関10を制御するECU(Electronic Control Unit)20と、センサ部30とを備える。なお、車両1は、その他に一般的な車両が備える装置を備えており、当該装置の図示および説明を省略する。
【0014】
内燃機関10は、駆動力源としてのエンジン11と、エンジン11の燃焼用の空気を取り入れる吸気系12と、エンジン11からの排気ガスを外部に排出する排気系13と、エンジン11に燃料を供給する燃料系14とを備える。また、内燃機関10は、吸気VVT(Variable Valve Timing)装置15と、排気VVT(Variable Valve Timing)装置16と、排気再循環装置(EGR装置)17等を備える。
【0015】
エンジン11は、吸気行程、圧縮行程、燃焼行程および排気行程からなる一連の4行程を行う。エンジン11は、ピストン111が往復動可能に収容されている燃焼室112と、クランクシャフト116が回転可能に収容されているクランク室113と、燃焼用の空気の入口である吸気ポート114と、排気ガスの出口である排気ポート115とを有している。また、エンジン11は、燃焼室112内に先端が位置するように配置される点火プラグ117と、燃焼室112と吸気ポート114との間に位置する吸気バルブ118と、燃焼室112と排気ポート115との間に位置する排気バルブ119とを有している。なお、エンジン11の構成は特に限定されるものではなく、公知の各種エンジンが適用できる。また、エンジン11は、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの何れであってもよい。
【0016】
吸気系12は、吸気通路121と、エアクリーナ123と、スロットルバルブ124とを含む。吸気通路121は、車両1の外部から取り入れた吸気を、吸気ポート114を経由して燃焼室112に導く通路である。吸気通路121は、主に吸気管122によって構成される。エアクリーナ123は、吸気通路121に配置され、吸気に含まれる塵や埃等の異物を取り除くことで吸気を浄化する。スロットルバルブ124は、吸気通路121に配置され、開閉することで吸気の流量を調整する。スロットルバルブ124は、ECU20による制御に基づいて吸気の流量を調整する。
【0017】
排気系13は、排気通路131と、触媒(触媒コンバータ)133とを含む。排気通路131は、燃焼室112内で燃焼した排気ガスを、排気ポート115を経由して車両1の外部に排気する通路である。排気通路131は、主に排気管132によって構成される。触媒133は、排気ガスに含まれる有害物質を浄化する。触媒133には、例えば、公知の各種三元触媒等が適用できる。
【0018】
燃料系14は、エンジン11に燃料を供給する。燃料系14は、燃料タンクと、燃料ポンプと、インジェクタ141とを含む。燃料ポンプは、燃料タンクに貯留される燃料をインジェクタ141に供給する。インジェクタ141は、燃料タンクから供給された燃料を吸気通路121に噴射する。インジェクタ141は、ECU20による制御に基づいて、燃料の噴射量を調整する。また、インジェクタ141は、燃料を吸気通路121に噴射する場合に限られず、燃焼室112に噴射するように構成してもよい。
【0019】
吸気VVT装置15は、吸気バルブ118の開閉タイミングを可変させる。吸気VVT装置15は、ECU20による制御に基づいて、吸気バルブ118の開閉タイミングを進角または遅角するように変更する。吸気VVT装置15は、油圧式であってもよく電動式であってもよく、公知の装置を用いることができる。
【0020】
排気VVT装置16は、排気バルブ119の開閉タイミングを可変させる。排気VVT装置16は、ECU20による制御に基づいて、排気バルブ119の開閉タイミングを進角または遅角するように変更する。排気VVT装置16は、油圧式であってもよく電動式であってもよく、公知の装置を用いることができる。
【0021】
排気再循環装置17は、燃焼室112内で燃焼した排気ガスの一部をEGRガスとして吸気通路121に還流して再び燃焼室112で燃焼させる。排気再循環装置17は、EGR通路171と、EGRバルブ172とを有する。
EGR通路171は、吸気通路121と排気通路131とを連通させて排気ガスの一部を吸気通路121に還流させる。ここで、EGR通路171を流れる排気ガスがEGRガスである。EGR通路171は、一方の端部が排気管132のうち触媒133の下流側で接続され、他方の端部が吸気管122のうちスロットルバルブ124とエンジン11との間の位置で接続される。
【0022】
EGRバルブ172は、EGR通路171に配置され、開閉することで排気通路131から吸気通路121に還流するEGRガスの量(還流量)を調整する。EGRバルブ172は、ECU20による制御に基づいて、EGRガスの量を調整する。
なお、排気再循環装置17は、EGRガスを冷却するEGRクーラをEGR通路171に配置してもよい。
【0023】
ECU20は、車両1全体を制御する。ECU20は、内燃機関の制御装置に相当する。ECU20は、制御部21を有する。制御部21は、例えば、CPUと、ROMと、RAMとを有する。ROMには、エンジン11、吸気系12、排気系13、吸気VVT装置15、排気VVT装置16、排気再循環装置17を制御するためのプログラムや所定の情報が予め格納されている。RAMは、ワークメモリであり、プログラムやデータを一時的に記憶する。CPUがROMに格納されているプログラムを読み出し、RAMに展開して実行することで、エンジン11、吸気系12、排気系13、吸気VVT装置15、排気VVT装置16、排気再循環装置17を制御する。
【0024】
センサ部30は、車両1における運転状況等を検出して、検出した結果をECU20に送信する。センサ部30は、アクセル開度センサ31と、クランク角センサ32と、スロットル開度センサ33等を有する。
アクセル開度センサ31は、車両1の運転者によるアクセルの操作量を検出する。アクセル開度センサ31により検出された操作量の情報はECU20に送信される。
クランク角センサ32は、クランクシャフト116の角度を検出する。クランクシャフト116により検出された角度の情報はECU20に送信される。
スロットル開度センサ33は、スロットルバルブ124の開度を検出する。スロットル開度センサ33により検出された開度の情報はECU20に送信される。
なお、センサ部30は、ECU20により内燃機関10を制御するために必要な情報を検出して、検出した情報をECU20に送信する。
【0025】
本実施例では、上述したように構成される内燃機関10において、制御部21は吸気VVT装置15と排気VVT装置16とを制御して、吸気通路121やEGR通路171に残留しているEGRガスによる燃焼室内のEGRガスの割合が上昇すること等による失火を防止する。
以下、具体的な、制御部21による動作について
図2のフローチャートを参照して説明する。
図2のフローチャートは、エンジン11の始動後に一定間隔ごとに繰り返し実行される。また、
図2のフローチャートは、制御部21のCPUがROMに格納されているプログラムを読み出し、RAMに展開して実行することで実現される。ここでは、エンジン11が駆動することにより車両1が走行していることを前提としている。
【0026】
S10では、制御部21は、EGRガスが吸気通路121に還流しているか否かを判定する。具体的には、制御部21は、EGRバルブ172が開弁している場合にEGRガスが吸気通路121に還流していると判定することができる。EGRガスが還流している場合にはS11に進み、そうではない場合にはS15に進む。
【0027】
S11では、制御部21は、減速要求により減速を開始したか否かを判定する。運転者はアクセルペダルの踏み込みを解除したり緩めたりすることにより車両1に対して減速を要求する。制御部21は、アクセル開度センサ31により検出されたアクセルペダルの開度の情報に基づいて減速要求を受信し、スロットルバルブ124やインジェクタ141を制御して車両1を減速させる。ここで、まず、制御部21は燃焼室112における失火を防止するために減速要求時にスロットルバルブ124およびEGRバルブ172を閉じるように制御する。EGRバルブ172を閉じることによりEGRガスがEGR通路171に流入しないようにする。制御部21は減速を開始したか否かを車両1のタイヤの回転数を検出するセンサの情報を受信することにより判定してもよく、減速要求を受信することにより減速を開始したと判定してもよい。減速を開始した場合にはS12に進み、そうではない場合にはS15に進む。
【0028】
S12では、制御部21は、失火限界を超えるか否かを判定する。具体的には、制御部21は、(失火限界EGR率-推定EGR率)が閾値よりも小さいか否かを判定する。
ここで、EGR率とは、燃焼室112内に流入されるEGRガスの割合、すなわちERGガスの量/(吸気の量+EGRガスの量)である。また、推定EGR率とは、現時点において推定されるEGR率である。また、失火限界EGR率とは、失火の限界とされるEGR率である。推定EGR率と失火限界EGR率は、運転条件(エンジン回転数、エンジン負荷等)に基づいて予め設計値や試験結果により数値が算出されており、制御部21が数値をテーブルに記憶している。したがって、制御部21は、現時点での運転条件に基づいてテーブルから抽出することにより現時点における、推定EGR率と失火限界EGR率とを取得することができる。また、閾値は予め定めた数値である。失火限界を超えると判定された場合、具体的には(失火限界EGR率-推定EGR率)が閾値よりも小さい場合にはS13に進み、そうではない場合にはS15に進む。
【0029】
S13では、制御部21は、失火限界EGR率に応じて吸気バルブ118の開閉タイミングを、後述するS15における通常制御よりも遅角させるように、吸気VVT装置15を制御する。本実施例では、制御部21は、吸気バルブ118の閉弁時期を通常制御よりも吸気下死点に近づけように制御する。
【0030】
図3は、吸気バルブと排気バルブとの開閉タイミングを示す図である。
図3では横軸がピストンの往復動における行程を示しており、縦軸がバルブのリフト量を示している。横軸のうち上死点はピストンの排気上死点であり、下死点はピストンの吸気下死点である。
図3では、吸気バルブの通常時(通常制御)の開閉タイミング41aを実線で示し、S13による制御時の開閉タイミング41bを破線で示している。ここで、吸気バルブの通常時の開閉タイミング41aでの閉弁時期IVCaは吸気下死点よりも前であるのに対して、制御時の開閉タイミング41bでの閉弁時期IVCbは吸気下死点となっている。
【0031】
S13のように吸気バルブ118の閉弁時期を通常制御よりも吸気下死点に近づけることにより、実圧縮比を高めて失火を防止することができる。また、吸気バルブ118の閉弁時期を通常制御よりも吸気下死点に近づけることにより、新気量(吸気の量)が増加することによりEGR率が低下するために燃焼安定性を向上させることができる。
なお、
図3では、吸気バルブ118の閉弁時期IVCbを吸気下死点にしている。一方、吸気バルブ118の閉弁時期を吸気下死点よりも進角側にすると、吸気行程の途中で吸気バルブ118が閉弁するために、吸気バルブ118の閉弁時期を吸気下死点にする場合よりも新気量が減少してしまう。また、吸気バルブ118を吸気下死点よりも遅角側にすると、圧縮行程で燃焼室112内の新気が吸気通路121に押し戻されるために、吸気バルブ118の閉弁時期を吸気下死点にする場合よりも新気量が減少してしまう。したがって、吸気バルブ118の閉弁時期を吸気下死点にすることによって燃焼安定性を向上させる効果を最大限に向上させることができる。ただし、推定EGR率が失火限界EGR率に対して余裕がある場合、制御部21は吸気バルブ118の閉弁時期を吸気下死点にせずに、吸気下死点に近づけるように制御してもよい。
【0032】
S14では、制御部21は、失火限界EGR率に応じて排気バルブ119の開閉タイミングを、後述するS15における通常制御よりも遅角させるように、排気VVT装置16を制御する。本実施例では、制御部21は、排気バルブ119の閉弁時期を通常制御よりも遅角させてオーバーラップ量を増加させるように制御する。
【0033】
図3では、排気バルブの通常時(通常制御)の開閉タイミング42aを実線で示し、S14による制御時の開閉タイミング42bを破線で示している。ここで、排気バルブの通常時の開閉タイミング42aでの閉弁時期EVCaは排気上死点であるのに対して、制御時の開閉タイミング42bでの閉弁時期EVCbは排気上死点を超えており、吸気バルブと排気バルブとのオーバーラップ量が通常制御よりも増加している。すなわち、
図3に示すように、S13による制御時の吸気バルブの遅角量よりもS14による制御時の排気バルブの遅角量を大きくしている。
【0034】
S14のように排気バルブ119の閉弁時期を遅角させてオーバーラップ量を増加させることにより、オーバーラップ期間中に排気ガスが吸気通路121に吹き返し、燃焼室112内のいわゆる内部EGRガスの量が増加する。また、排気ガスが吸気通路121に吹き返すことで、吸気通路121内の圧力が増加して負圧が小さくなる。これにより、燃焼室112に流入する外部EGR量を低減することができる。低温の外部EGR量を低減させて、高温の内部EGR量を増加させることで、筒内温度が高くなり燃焼を安定させることができる。また、高温の排気ガスが吸気通路121に吹き返すことによって、吸気通路121内の温度が高くなり飽和水蒸気分圧が高くなり凝縮水量を低減することができる。凝縮水量を低減することで、失火を防止することができる。
【0035】
一方、S15では、制御部21は、現時点では失火する可能性が低いことから、上述したS13およびS14の処理を省略して、通常の制御を実行する。具体的には、制御部21は、吸気バルブ118を
図3の実線で示す開閉タイミング41aで開閉するように制御し、排気バルブ119を
図3の実線で示す開閉タイミング42aで開閉するように制御する。
S14およびS15の処理が終了した後、再びS10に戻り上述した処理を繰り返す。
【0036】
図4は、各種タイミングチャートを示す図である。
図4(a)はスロットルバルブの開度を示す図である。
図4(b)はEGRバルブの開度を示す図である。
図4(c)は吸気バルブと排気バルブとの開閉タイミングを示す図である。
図4(d)はオーバーラップ量を示す図である。
図4(e)は推定EGR率を示す図である。
図4(f)は失火限界EGR率を示す図である。また、
図4(c)~
図4(f)のうち実線が通常制御のままであるときのタイミングチャート(比較例)を示し、破線が上述した吸気バルブと排気バルブとの開閉タイミングを制御したときのタイミングチャート(実施例)を示している。
【0037】
図4では、時刻Tにおいて減速が開始されたことにより
図4(a)に示すスロットルバルブの開度が開いた状態から閉まる状態に移行し、
図4(b)に示すEGRバルブの開度が開いた状態から閉まる状態に移行する。
図4(c)では、時刻Tにおいて破線で示すように、吸気バルブの閉弁時期を吸気下死点にし、排気バルブの閉弁時期を遅角させるように制御している。したがって、
図4(d)では、破線で示すように吸気バルブと排気バルブとのオーバーラップ量が増加している。その後、
図4(c)および
図4(d)に示すように、失火限界EGR率に応じて吸気バルブの閉弁時期および排気バルブの閉弁時期を徐々に戻すように制御している。
【0038】
このような制御により、
図4(e)の破線で示す実施例の推定EGR率を、実線で示す比較例の推定EGR率よりも減少させることができる。また、
図4(f)に示すように、破線で示す実施例の失火限界EGR率を、実線で示す比較例の失火限界EGR率よりも高く維持することができる。
【0039】
以上のように、本実施例の制御部21は、車両1の減速要求時にスロットルバルブ124およびEGRバルブ172を閉じると共に、車両1の減速時に吸気バルブ118の閉弁時期を吸気下死点に近づけ、排気バルブ119の閉弁時期を遅角させてオーバーラップ量を増加させるように制御する。吸気バルブ118の閉弁時期を吸気下死点に近づけることで、実圧縮比を高めて失火を防止することができ、排気バルブ119の閉弁時期を遅角させてオーバーラップ量を増加させることで、凝縮水量を低減して失火を防止することができる。このように、吸気バルブ118と排気バルブ119との開閉タイミングを制御することにより、構造が複雑でコストがかかる可変圧縮比機構を用いずに失火を防止することができる。また、減速時の燃焼不安定を考慮して定常運転時の目標EGR率を下げる必要がないために、燃費を向上させることができる。
【0040】
また、本実施例では、制御部21は、失火限界に応じて、すなわち失火限界EGR率に応じて吸気バルブ118の閉弁時期および排気バルブ119の閉弁時期の変化量を変える。例えば、制御部21は、失火限界に余裕がある場合には、吸気バルブ118の閉弁時期および排気バルブ119の閉弁時期を通常制御の側に戻すように制御することができる。このように、失火限界に応じて吸気バルブ118の閉弁時期および排気バルブ119の閉弁時期の変化量を変えることにより、失火防止を適切に行うことができる。
【0041】
また、本実施例では、制御部21は、車両1の減速時に吸気バルブ118の閉弁時期を吸気下死点にして、排気バルブ119の閉弁時期を遅角させてオーバーラップ量を増加させるように制御する。なお、吸気バルブ118を吸気下死点よりも進角側にすると、吸気行程の途中で吸気バルブ118を閉弁するため燃焼室112に流入する新気量が低下する。また、吸気バルブ118を吸気下死点よりも遅角側にすると、混合気を圧縮するときの押し戻しにより燃焼室112内の新気量が低下する。本実施例のように、吸気バルブ118の閉弁時期を吸気下死点にすることにより、燃焼室112内の新気量を増やすことができる。
【0042】
以上、本発明に係る実施例について説明したが、本発明は上述した実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。
上述した実施例では、制御部21が吸気バルブ118と排気バルブ119との開閉タイミングを制御する場合について説明したが、吸気バルブ118および排気バルブ119のうち何れか一方の開閉タイミングを制御して、失火を防止するようにしてもよい。
1:車両 10:内燃機関 15:吸気VVT装置 16:排気VVT装置 17:排気再循環装置(EGR装置) 20:ECU(制御装置) 21:制御部 112:燃焼室 118:吸気バルブ 119:排気バルブ 121:吸気通路 124:スロットルバルブ 131:排気通路 171:EGR通路 172:EGRバルブ