(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064665
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】同期電動機の磁極位置補正量算出装置及び方法並びに同期電動機の制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 6/16 20160101AFI20240507BHJP
H02P 21/18 20160101ALI20240507BHJP
【FI】
H02P6/16
H02P21/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173423
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000100861
【氏名又は名称】アイダエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(72)【発明者】
【氏名】山口 芳弘
【テーマコード(参考)】
5H505
5H560
【Fターム(参考)】
5H505AA02
5H505AA16
5H505AA18
5H505AA19
5H505CC05
5H505DD03
5H505DD08
5H505DD11
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG02
5H505GG04
5H505JJ17
5H505JJ23
5H505JJ24
5H505JJ25
5H505LL07
5H505LL22
5H505LL41
5H505MM19
5H505PP01
5H560AA08
5H560BB04
5H560BB12
5H560BB18
5H560DA07
5H560DB20
5H560DC12
5H560EB01
5H560HA09
5H560HB06
5H560JJ15
5H560RR03
5H560SS07
5H560TT11
5H560TT15
5H560XA02
5H560XA04
5H560XA12
5H560XA13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】同期電動機を停止させた状態で精度の良い磁極位置補正量を求めることができる同期電動機の磁極位置補正量算出装置及び方法並びに同期電動機の制御装置を提供する。
【解決手段】同期電動機10の磁極位置補正量算出装置200は、プロセッサと、多相の同期電動機の電動機定数及び磁極位置補正量の演算式を記憶するメモリとを備え、プロセッサは、磁極位置補正量の算出時にブレーキにより同期電動機10の回転軸を固定させ、同期電動機10の回転軸が固定された状態で磁極位置補正量算出用の電流指令を出力する。そして、電流指令に応じた制御上の電圧指令又は制御上把握している電圧と、制御上把握している電流とを取得し、取得した電圧指令又は電圧と、電流と、メモリに記憶された電動機定数、演算式とに基づいて磁極位置補正量を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセッサと、多相の同期電動機の電動機定数及び磁極位置補正量の演算式を記憶するメモリとを備え、前記同期電動機の実際の磁極位置と前記同期電動機に備えられた磁極位置センサから出力される制御上の磁極位置とのずれを示す前記磁極位置補正量を算出する同期電動機の磁極位置補正量算出装置であって、
前記プロセッサは、
前記磁極位置補正量の算出時にブレーキにブレーキ制御信号を出力し、前記同期電動機の回転軸を固定する処理と、
前記同期電動機の回転軸が固定された状態で電流指令を出力する処理と、
前記電流指令に応じた制御上の電圧指令又は制御上把握している電圧と、制御上把握している電流とを取得する処理と、
前記取得した前記電圧指令又は前記電圧と、前記電流と、前記メモリに記憶された前記電動機定数と、前記演算式とに基づいて前記磁極位置補正量を算出する処理と、を行う、
同期電動機の磁極位置補正量算出装置。
【請求項2】
前記プロセッサは、前記同期電動機の実際のd-q座標上の電流の時間微分値がゼロとならない制御上のdc-qc座標上の前記電流指令を出力する、
請求項1に記載の同期電動機の磁極位置補正量算出装置。
【請求項3】
前記プロセッサは、ステップ状の前記電流指令を出力する、
請求項2に記載の同期電動機の磁極位置補正量算出装置。
【請求項4】
前記プロセッサは、前記電流指令を出力してから、測定精度の高い時刻における制御上のdc-qc座標上の前記電圧指令又は制御上のdc-qc座標上の前記電圧と、制御上のdc-qc座標上の前記電流とを取得する、
請求項1に記載の同期電動機の磁極位置補正量算出装置。
【請求項5】
前記メモリは、
前記磁極位置補正量の演算式として、以下の[数1]式又は[数2]式を記憶し、
【数1】
【数2】
前記電動機定数として、前記[数1]式又は前記[数2]式に表わされた、前記同期電動機の相抵抗Ra、d軸インダクタンスL
d又はq軸インダクタンスL
qを記憶し、
前記プロセッサは、前記電圧指令として、dc軸電圧指令v
dc
*、qc軸電圧指令v
qc
*を取得し、又は前記電圧として、制御上のdc-qc座標上のdc軸電圧v
dc、qc軸電圧v
qcを取得し、前記電流として、制御上のdc-qc座標上のdc軸電流i
dc、qc軸電流i
qcを取得し、
前記プロセッサは、前記相抵抗Ra、d軸インダクタンスL
d又はq軸インダクタンスL
q、前記dc軸電圧指令v
dc
*又はdc軸電圧v
dc、qc軸電圧指令v
qc
*又はqc軸電圧v
qc、dc軸電流i
dc、及びqc軸電流i
qcに基づいて前記[数1]式又は[数2]式を実行して(ただし、v
dc
*を使用する場合はv
dc
*の値を[数1]式又は[数2]式のv
dcに代入し、v
qc
*を使用する場合はv
qc
*の値を[数1]式又は[数2]式のv
qcに代入する)、前記磁極位置補正量Δθ
re’を算出する、
請求項1に記載の同期電動機の磁極位置補正量算出装置。
【請求項6】
前記メモリは、
前記磁極位置補正量の演算式として、以下の[数3]式又は[数4]式を記憶し、
【数3】
【数4】
(ただし、t’:積分開始時刻、t:積分終了時刻)
前記電動機定数として、前記[数3]式又は前記[数4]式に表わされた、前記同期電動機の相抵抗Ra、d軸インダクタンスL
d又はq軸インダクタンスL
qを記憶し、
前記プロセッサは、前記電圧指令として、dc軸電圧指令v
dc
*、qc軸電圧指令v
qc
*を取得し、又は前記電圧として、制御上のdc-qc座標上のdc軸電圧v
dc、qc軸電圧v
qcを取得し、前記電流として、制御上のdc-qc座標上のdc軸電流i
dc、qc軸電流i
qcを取得し、
前記プロセッサは、前記相抵抗Ra、d軸インダクタンスL
d又はq軸インダクタンスL
q、前記dc軸電圧指令v
dc
*又はdc軸電圧v
dc、qc軸電圧指令v
qc
*又はqc軸電圧v
qc、dc軸電流i
dc、及びqc軸電流i
qcに基づいて前記[数3]式又は[数4]式を実行して(ただし、v
dc
*を使用する場合はv
dc
*の値を[数3]式又は[数4]式のv
dcに代入し、v
qc
*を使用する場合はv
qc
*の値を[数3]式又は[数4]式のv
qcに代入する)、前記磁極位置補正量Δθ
re’を算出する、
請求項1に記載の同期電動機の磁極位置補正量算出装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の同期電動機の磁極位置補正量算出装置と、
前記同期電動機を通常運転させる通常運転モードと磁極位置補正量算出モードとを有し、前記通常運転モード又は前記磁極位置補正量算出モードを選択するモード選択部と、
前記磁極位置センサから出力される磁極位置情報を前記磁極位置補正量により補正する磁極位置調整部と、
前記同期電動機に流れる電流を検出する電流センサと、
電流指令と前記電流センサにより検出される電流と、前記磁極位置調整部により調整された前記磁極位置情報とに基づいて前記同期電動機を電流制御する電流制御部と、を備え、
前記プロセッサは、前記通常運転モードが選択されると、前記電流制御部における前記電流指令を通常運転モード用の電流指令に切り替え、前記磁極位置補正量算出モードが選択されると、前記電流制御部における前記電流指令を前記通常運転モード用の電流指令に切り替え、かつ前記磁極位置補正量を算出するための前記処理を行う、
同期電動機の制御装置。
【請求項8】
プロセッサと、多相の同期電動機の電動機定数及び磁極位置補正量の演算式を記憶するメモリとを備えた装置が実行する同期電動機の磁極位置補正量算出方法であり、前記同期電動機の実際の磁極位置と前記同期電動機に備えられた磁極位置センサから出力される制御上の磁極位置とのずれを示す前記磁極位置補正量を算出する同期電動機の磁極位置補正量算出方法であって、
前記プロセッサが、前記磁極位置補正量の算出時にブレーキにブレーキ制御信号を出力し、前記同期電動機の回転軸を固定するステップと、
前記プロセッサが、前記同期電動機の回転軸が固定された状態で電流指令を出力するステップと、
前記プロセッサが、前記電流指令に応じた制御上の電圧指令又は制御上把握している電圧と、制御上把握している電流とを取得するステップと、
前記プロセッサが、前記取得した前記電圧指令又は前記電圧と、前記電流と、前記メモリに記憶された前記電動機定数と、前記演算式とに基づいて前記磁極位置補正量を算出するステップと、を行う、
同期電動機の磁極位置補正量算出方法。
【請求項9】
前記電流指令は、前記同期電動機の実際のd-q座標上の電流の時間微分値がゼロとならない制御上のdc-qc座標上の電流指令である、
請求項8に記載の同期電動機の磁極位置補正量算出方法。
【請求項10】
前記電流指令は、ステップ状の電流指令である、
請求項9に記載の同期電動機の磁極位置補正量算出方法。
【請求項11】
前記制御上の電圧指令又は制御上把握している電圧と、前記制御上把握している電流は、前記電流指令を出力してから、測定精度の高い時刻における制御上のdc-qc座標上の電圧指令又は制御上のdc-qc座標上の電圧と、制御上のdc-qc座標上の電流である、
請求項8に記載の同期電動機の磁極位置補正量算出方法。
【請求項12】
前記メモリは、
前記磁極位置補正量の演算式として、以下の[数5]式又は[数6]式を記憶し、
【数5】
【数6】
前記電動機定数として、前記[数5]式又は前記[数6]式に表わされた、前記同期電動機の相抵抗Ra、d軸インダクタンスL
d又はq軸インダクタンスL
qを記憶し、
前記プロセッサが、前記電圧指令として、dc軸電圧指令v
dc
*、qc軸電圧指令v
qc
*を取得し、又は前記電圧として、制御上のdc-qc座標上のdc軸電圧v
dc、qc軸電圧v
qcを取得し、前記電流として、制御上のdc-qc座標上のdc軸電流i
dc、qc軸電流i
qcを取得し、
前記プロセッサが、前記相抵抗Ra、d軸インダクタンスL
d又はq軸インダクタンスL
q、前記dc軸電圧指令v
dc
*又はdc軸電圧v
dc、qc軸電圧指令v
qc
*又はqc軸電圧v
qc、dc軸電流i
dc、及びqc軸電流i
qcに基づいて前記[数5]式又は[数6]式を実行して(ただし、v
dc
*を使用する場合はv
dc
*の値を[数5]式又は[数6]式のv
dcに代入し、v
qc
*を使用する場合はv
qc
*の値を[数5]式又は[数6]式のv
qcに代入する)、前記磁極位置補正量Δθ
re’を算出する、
請求項8から11のいずれか1項に記載の同期電動機の磁極位置補正量算出方法。
【請求項13】
前記メモリは、
前記磁極位置補正量の演算式として、以下の[数7]式又は[数8]式を記憶し、
【数7】
【数8】
(ただし、t’:積分開始時刻、t:積分終了時刻)
前記電動機定数として、前記[数7]式又は前記[数8]式に表わされた、前記同期電動機の相抵抗Ra、d軸インダクタンスL
d又はq軸インダクタンスL
qを記憶し、
前記プロセッサが、前記電圧指令として、dc軸電圧指令v
dc
*、qc軸電圧指令v
qc
*を取得し、又は前記電圧として、制御上のdc-qc座標上のdc軸電圧v
dc、qc軸電圧v
qcを取得し、前記電流として、制御上のdc-qc座標上のdc軸電流i
dc、qc軸電流i
qcを取得し、
前記プロセッサが、前記相抵抗Ra、d軸インダクタンスL
d又はq軸インダクタンスL
q、前記dc軸電圧指令v
dc
*又はdc軸電圧v
dc、qc軸電圧指令v
qc
*又はqc軸電圧v
qc、dc軸電流i
dc、及びqc軸電流i
qcに基づいて前記[数7]式又は[数8]式を実行して(ただし、v
dc
*を使用する場合はv
dc
*の値を[数7]式又は[数8]式のv
dcに代入し、v
qc
*を使用する場合はv
qc
*の値を[数7]式又は[数8]式のv
qcに代入する)、前記磁極位置補正量Δθ
re’を算出する、
請求項8から11のいずれか1項に記載の同期電動機の磁極位置補正量算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は同期電動機の磁極位置補正量算出装置及び方法並びに同期電動機の制御装置
に係り、特に同期電動機の磁極位置センサで検出された磁極位置を補正する補正量を求める技術に関する。
【背景技術】
【0002】
同期電動機の瞬時トルクを制御する方法としてベクトル制御が知られている。この制御では、回転子の磁極位置をロータリーエンコーダなどの磁極位置センサで把握し、磁極位置に対して適切に電流を通電させることで瞬時トルクの制御を行っている。
【0003】
磁極位置センサを制御システムに適用する際、磁極位置センサで把握する磁極位置(制御上の磁極位置)と電動機の磁極位置(実際の磁極位置)を合わせる磁極位置合わせが行われる。
【0004】
ここで、多極の同期電動機では、極対数をpとすると、電気角検出のための磁極位置センサの分解能は1/p倍になるため、磁極位置合わせの際に制御上の磁極位置と、実際の磁極位置との間の誤差が生じやすい。そのため、磁極位置合わせ後に、磁極位置をさらに精密に微調整するための磁極位置微調整が行われる。
【0005】
磁極位置微調整の方法の例として、特許文献1には、同一トルク指令で運転される複数台の同期電動機において、各電動機の入力電力を測定して、入力電力がバランスするように磁極位置を微調整する方法が開示されている。この方法は、複数台の同期電動機を使用するシステムにおいて、個々の電動機だけを調整する数々の公知の方法を適用する場合と比べて、容易かつ迅速に複数台の同期電動機の磁極位置を調整可能となるという優れた技術思想であるが、調整のためとはいえ、制御上の磁極位置と実際の磁極位置との間の誤差がある状態で複数台の同期電動機を回転させるので、調整中にシステムに不具合(特許文献1、段落[0091]参照)が生じる虞がある。また、原理上仕方ないことではあるが、複数台の同期電動機を回転させるので、調整のための設備規模が大きくなる。
【0006】
特許文献2には、電動機をブレーキ拘束状態とし、現在位置と異なる位置指令を与え、一定のトルクを出力した状態とし、そのときのトルク指令を検出し、磁極位置補正値を変化させて、トルク指令がある閾値より小さくなる補正値を、繰り返し試行で探索する方法が開示されている。特許文献2の方法は、簡単な構成で、また電動機単体で磁極位置補正量を求められるが、繰り返し試行であるため調整に時間がかかり、また、ある閾値以下となったら調整を終了するので、原理的に精度の良い磁極位置補正量を求めることができない。また、意図的にトルクを発生させる方法のため、ブレーキを電動機トルクに対し十分対抗できる大きなものを用意する必要がある。また、繰り返し試行をするので、ブレーキに繰り返し力がかかり、ブレーキの寿命を縮める虞がある。また、特許文献2の構成では一定トルクを出力するために、速度指令と速度検出値の偏差を比例増幅器に入力しているが、比例増幅器と並列に構成されている積分増幅器に入力しても影響が出ないように、積分増幅器を無効化する必要があると考える。つまり、調整のためだけに速度制御系の構成を変更する必要があり、制御システムが複雑化する。
【0007】
特許文献3には、電動機をブレーキ拘束状態とし、電動機に高周波電流が重畳した3相交流電流を通電して、検出した高周波電流、高周波電圧、角周波数から、各電流ベクトルの向きにおけるインダクタンスを算出して、d軸(永久磁石中心軸)方向のインダクタンスが最小となる位置を繰り返し試行で探索する方法が開示されている。この方法は非突極型の同期電動機に適用でき、定常交流理論に基づいた簡易な演算方法でインダクタンスを算出して磁極位置補正値を求めているが、高周波電圧重畳部、高周波電流検出部という特殊な制御部、検出部を必要とするのでシステムが複雑化する。また、繰り返し試行で磁極位置補正量を求めるので、特許文献2と同様に調整に時間がかかる。また、特許文献3の段落[0056]にある通り、適切なバイアス電流を見出す必要があり、これを見出すのも時間と手間がかかる。
【0008】
特許文献4には、油圧ブレーキ動作した時の惰性回転時に、電動機を無負荷開放させた時、またはid指令=0A、iq指令=0Aにして制御的な無負荷にした時の、誘起電圧またはd軸電圧指令値、q軸電圧指令値を測定して、磁極位置補正量を算出する方法が開示されている。この方法は特許文献2、3の繰り返し試行の方法と比べて精度の良い磁極位置補正量を求められるが、無負荷誘起電圧を測定するため回転させる必要があり、停止状態では適用できない。
【0009】
非特許文献1には、同期電動機に磁極位置センサが設けられていない同期電動機のセンサレス制御法が開示されている。非特許文献1の1091ページに記載があるように、停止時や低速回転時に高周波を注入して位置推定する方法が知られているが、高周波電圧を重畳する手段が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010-268612号公報
【特許文献2】特開2016-129491号公報
【特許文献3】特開2015-15830号公報
【特許文献4】特開2014-30356号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「拡張誘起電圧モデルに基づく突極型永久磁石同期モータのセンサレス制御」、電気学会論文誌D部門、122巻12号、平成14年(2002年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本開示の技術に係る一つの実施形態は、同期電動機の磁極位置センサで検出された磁極位置を補正する装置において、磁極位置センサの検出結果を調整のための設備を大型化することなく、繰り返し試行により複数回の試験をすることなく、制御システムを複雑化することなく、また、同期電動機を停止させた状態で精度の良い磁極位置補正量を求めることができる同期電動機の磁極位置補正量算出装置及び方法並びに同期電動機の制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1態様に係る発明は、プロセッサと、多相の同期電動機の電動機定数及び磁極位置補正量の演算式を記憶するメモリとを備え、前記同期電動機の実際の磁極位置と前記同期電動機に備えられた磁極位置センサから出力される制御上の磁極位置とのずれを示す前記磁極位置補正量を算出する同期電動機の磁極位置補正量算出装置であって、前記プロセッサは、前記磁極位置補正量の算出時にブレーキにブレーキ制御信号を出力し、前記同期電動機の回転軸を固定する処理と、前記同期電動機の回転軸が固定された状態で電流指令を出力する処理と、前記電流指令に応じた制御上の電圧指令又は制御上把握している電圧と、制御上把握している電流とを取得する処理と、前記取得した前記電圧指令又は前記電圧と、前記電流と、前記メモリに記憶された前記電動機定数と、前記演算式とに基づいて前記磁極位置補正量を算出する処理と、を行う、同期電動機の磁極位置補正量算出装置である。
【0014】
本発明の第1態様によれば、磁極位置補正量の算出時にブレーキにより同期電動機の回転軸を固定するとともに、同期電動機の回転軸が固定された状態で磁極位置補正量算出用の電流指令を出力する。そして、前記電流指令に応じた制御上の電圧指令又は制御上把握している電圧と、制御上把握している電流とを取得し、取得した電圧指令又は電圧と、電流と、前記メモリに記憶された電動機定数、演算式とに基づいて磁極位置補正量を算出する。即ち、前記演算式の計算に必要な電動機定数及び演算式内の変数を取得し、演算式を実行して磁極位置補正量を算出するため、制御システムが複雑化することなく、同期電動機を停止させた状態で精度の良い磁極位置補正量を短時間で求めることができる。
【0015】
本発明の第2態様に係る同期電動機の磁極位置補正量算出装置は、第1態様において、前記プロセッサは、前記同期電動機の実際のd-q座標上の電流の時間微分値がゼロとならない制御上のdc-qc座標上の前記電流指令を出力することが好ましい。
【0016】
本発明の第3態様に係る同期電動機の磁極位置補正量算出装置は、第2態様において、前記プロセッサは、ステップ状の前記電流指令を出力することが好ましい。
【0017】
本発明の第4態様に係る同期電動機の磁極位置補正量算出装置は、第1態様において、前記プロセッサは、前記電流指令を出力してから、測定精度の高い時刻における制御上のdc-qc座標上の前記電圧指令又は制御上のdc-qc座標上の前記電圧と、制御上のdc-qc座標上の前記電流とを取得することが好ましい。
【0018】
本発明の第5態様に係る同期電動機の磁極位置補正量算出装置は、第1態様において、前記メモリは、前記磁極位置補正量の演算式として、以下の[数1]式又は[数2]式を記憶し、
【0019】
【0020】
【0021】
前記電動機定数として、前記[数1]式又は前記[数2]式に表わされた、前記同期電動機の相抵抗Ra、d軸インダクタンスLd又はq軸インダクタンスLqを記憶し、
前記プロセッサは、前記電圧指令として、dc軸電圧指令vdc
*、qc軸電圧指令vqc
*を取得し、又は前記電圧として、制御上のdc-qc座標上のdc軸電圧vdc、qc軸電圧vqcを取得し、前記電流として、制御上のdc-qc座標上のdc軸電流idc、qc軸電流iqcを取得し、
前記プロセッサは、前記相抵抗Ra、d軸インダクタンスLd又はq軸インダクタンスLq、前記dc軸電圧指令vdc
*又はdc軸電圧vdc、qc軸電圧指令vqc
*、又はqc軸電圧vqc、dc軸電流idc、及びqc軸電流iqcに基づいて、前記[数1]式又は[数2]式の演算を実行して(ただし、vdc
*を使用する場合はvdc
*の値を[数1]式又は[数2]式のvdcに代入し、vqc
*を使用する場合はvqc
*の値を[数1]式又は[数2]式のvqcに代入する)、前記磁極位置補正量Δθre’を算出する。
【0022】
前記[数1]式及び[数2]式のうちのいずれの演算式を使用するかは、適宜選択できるようにしてもよい。
【0023】
本発明の第6態様に係る同期電動機の磁極位置補正量算出装置は、第1態様において、前記メモリは、前記磁極位置補正量の演算式として、以下の[数3]式又は[数4]式を記憶し、
【0024】
【0025】
【数4】
(ただし、t’:積分開始時刻、t:積分終了時刻)
【0026】
前記電動機定数として、前記[数3]式又は前記[数4]式に表わされた、前記同期電動機の相抵抗Ra、d軸インダクタンスLd又はq軸インダクタンスLqを記憶し、
前記プロセッサは、前記電圧指令として、dc軸電圧指令vdc
*、qc軸電圧指令vqc
*を取得し、又は前記電圧として、制御上のdc-qc座標上のdc軸電圧vdc、qc軸電圧vqcを取得し、前記電流として、制御上のdc-qc座標上のdc軸電流idc、qc軸電流iqcを取得し、
前記プロセッサは、前記相抵抗Ra、d軸インダクタンスLd又はq軸インダクタンスLq、前記dc軸電圧指令vdc
*又はdc軸電圧vdc、qc軸電圧指令vqc
*又はqc軸電圧vqc、dc軸電流idc、及びqc軸電流iqcに基づいて前記[数3]式又は[数4]式の演算を実行して(ただし、vdc
*を使用する場合はvdc
*の値を[数3]式又は[数4]式のvdcに代入し、vqc
*を使用する場合はvqc
*の値を[数3]式又は[数4]式のvqcに代入する)、前記磁極位置補正量Δθre’を算出する。
【0027】
前記[数3]式及び[数4]式のうちのいずれの演算式を使用するかは、適宜選択できるようにしてもよい。
【0028】
また、前記[数3]式、[数4]式は微分演算を含む結果、測定データにノイズが含まれている場合、微分計算の結果が発散する虞があるが、前記[数3]式、[数4]式では微分演算の代わりに積分演算を含むようにし、微分演算を回避している。
【0029】
第7態様に係る発明は、第1態様から第6態様のいずれかの同期電動機の磁極位置補正量算出装置と、前記同期電動機を通常運転させる通常運転モードと磁極位置補正量算出モードとを有し、前記通常運転モード又は前記磁極位置補正量算出モードを選択するモード選択部と、前記磁極位置センサから出力される磁極位置情報を前記磁極位置補正量により補正する磁極位置調整部と、前記同期電動機に流れる電流を検出する電流センサと、電流指令と前記電流センサにより検出される電流と、前記磁極位置調整部により調整された前記磁極位置情報とに基づいて前記同期電動機を電流制御する電流制御部と、を備え、前記プロセッサは、前記通常運転モードが選択されると、前記電流制御部における前記電流指令を通常運転モード用の電流指令に切り替え、前記磁極位置補正量算出モードが選択されると、前記電流制御部における前記電流指令を前記通常運転モード用の電流指令に切り替え、かつ前記磁極位置補正量を算出するための前記処理を行う、同期電動機の制御装置である。
【0030】
第8態様に係る発明は、プロセッサと、多相の同期電動機の電動機定数及び磁極位置補正量の演算式を記憶するメモリとを備えた装置が実行する同期電動機の磁極位置補正量算出方法であり、前記同期電動機の実際の磁極位置と前記同期電動機に備えられた磁極位置センサから出力される制御上の磁極位置とのずれを示す前記磁極位置補正量を算出する同期電動機の磁極位置補正量算出方法であって、前記プロセッサが、前記磁極位置補正量の算出時にブレーキにブレーキ制御信号を出力し、前記同期電動機の回転軸を固定するステップと、前記プロセッサが、前記同期電動機の回転軸が固定された状態で電流指令を出力するステップと、前記プロセッサが、前記電流指令に応じた制御上の電圧指令又は制御上把握している電圧と、制御上把握している電流とを取得するステップと、前記プロセッサが、前記取得した前記電圧指令又は前記電圧と、前記電流と、前記メモリに記憶された前記電動機定数と、前記演算式とに基づいて前記磁極位置補正量を算出するステップと、を行う、同期電動機の磁極位置補正量算出方法である。
【0031】
本発明の第9態様に係る同期電動機の磁極位置補正量算出方法は、第8態様において、前記電流指令は、前記同期電動機の実際のd-q座標上の電流の時間微分値がゼロとならない制御上のdc-qc座標上の電流指令であることが好ましい。
【0032】
本発明の第10態様に係る同期電動機の磁極位置補正量算出方法は、第9態様において、前記電流指令は、ステップ状の電流指令であることが好ましい。
【0033】
本発明の第11態様に係る同期電動機の磁極位置補正量算出方法は、第8態様において、前記制御上の電圧指令又は制御上把握している電圧と、前記制御上把握している電流は、前記電流指令を出力してから、測定精度の高い時刻における制御上のdc-qc座標上の電圧指令又は制御上のdc-qc座標上の電圧と、制御上のdc-qc座標上の電流であることが好ましい。
【0034】
本発明の第12態様に係る同期電動機の磁極位置補正量算出方法は、第8態様から第11態様のいずれかにおいて、前記メモリは、前記磁極位置補正量の演算式として、以下の[数5]式又は[数6]式を記憶し、
【0035】
【0036】
【0037】
前記電動機定数として、前記[数5]式又は前記[数6]式に表わされた、前記同期電動機の相抵抗Ra、d軸インダクタンスLd又はq軸インダクタンスLqを記憶し、
前記プロセッサが、前記電圧指令として、dc軸電圧指令vdc
*、qc軸電圧指令vqc
*を取得し、又は前記電圧として、制御上のdc-qc座標上のdc軸電圧vdc、qc軸電圧vqcを取得し、前記電流として、制御上のdc-qc座標上のdc軸電流idc、qc軸電流iqcを取得し、
前記プロセッサが、前記相抵抗Ra、d軸インダクタンスLd又はq軸インダクタンスLq、前記dc軸電圧指令vdc
*又はdc軸電圧vdc、qc軸電圧指令vqc
*又はqc軸電圧vqc、dc軸電流idc、及びqc軸電流iqcに基づいて前記[数5]式又は[数6]式の演算を実行して(ただし、vdc
*を使用する場合はvdc
*の値を[数5]式又は[数6]式のvdcに代入し、vqc
*を使用する場合はvqc
*の値を[数5]式又は[数6]式のvqcに代入する)、前記磁極位置補正量Δθre’を算出する。
【0038】
本発明の第13態様に係る同期電動機の磁極位置補正量算出方法は、第8態様から第11態様のいずれかにおいて、前記メモリは、前記磁極位置補正量の演算式として、以下の[数7]式又は[数8]式を記憶し、
【0039】
【0040】
【数8】
(ただし、t’:積分開始時刻、t:積分終了時刻)
【0041】
前記電動機定数として、前記[数7]式又は前記[数8]式に表わされた、前記同期電動機の相抵抗Ra、d軸インダクタンスLd又はq軸インダクタンスLqを記憶し、
前記プロセッサが、前記電圧指令として、dc軸電圧指令vdc
*、qc軸電圧指令vqc
*を取得し、又は前記電圧として、制御上のdc-qc座標上のdc軸電圧vdc、qc軸電圧vqcを取得し、前記電流として、制御上のdc-qc座標上のdc軸電流idc、qc軸電流iqcを取得し、
前記プロセッサが、前記相抵抗Ra、d軸インダクタンスLd又はq軸インダクタンスLq、前記dc軸電圧指令vdc
*又はdc軸電圧vdc、qc軸電圧指令vqc
*又はqc軸電圧vqc、dc軸電流idc、及びqc軸電流iqcに基づいて前記[数7]式又は[数8]式の演算を実行して(ただし、vdc
*を使用する場合はvdc
*の値を[数7]式又は[数8]式のvdcに代入し、vqc
*を使用する場合はvqc
*の値を[数7]式又は[数8]式のvqcに代入する)、前記磁極位置補正量Δθre’を算出する。
【発明の効果】
【0042】
本発明の一態様によれば、同期電動機の磁極位置センサで検出された磁極位置を補正する装置において、調整のための設備を大型化することなく、繰り返し試行により複数回の試験をすることなく、制御システムを複雑化することなく、また、電動機停止状態で精度の良い磁極位置補正量を求めることができる。
【0043】
本発明の他の態様によれば、電流指令は、実際のd-q座標上の電流の時間微分値がゼロとならないような制御上のdc-qc座標上の電流指令であればよく、例えば特許文献3のような特殊な高周波電圧発生手段を設けないで済む構成とすることができ、システムの複雑化を回避することができる。
【0044】
本発明の更に他の態様によれば、測定精度の高い時刻における制御上のdc-qc座標上の電圧指令又は制御上のdc-qc座標上の電圧と、制御上のdc-qc座標上の電流とを取得することで、より精度の良い磁極位置補正量を演算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】
図1は本発明に係る同期電動機の制御装置と、それが接続されている同期電動機及び同期電動機が駆動する機械装置の全体構成図である。
【
図2】
図2は、dc-qc軸電流指令演算部141の一例を示す機能ブロック図である。
【
図3】
図3は、本発明に係る同期電動機の磁極位置補正量算出装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、d-q座標とdc-qc座標とが、Δθ
reだけずれている状況を示す図である。
【
図5】
図5は、同期電動機の磁極位置補正量算出方法の第1実施形態を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、第1実施形態における磁極位置補正量算出のシミユレ一ション結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、第1実施形態における磁極位置補正量算出のシミユレ一ションで使用した一部のブロック線図である。
【
図8】
図8は、第1実施形態における磁極位置補正量算出のシミユレ一ションで使用した残りのブロック線図である。
【
図9】
図9は、通常運転モードにおける同期電動機の制御を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、第1実施形態及び第2実施形態により算出される磁極位置補正量のシミユレ一ション結果を示すグラフである。
【
図11】
図11は、第1実施形態から第3実施形態により算出される磁極位置補正量のシミユレ一ション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下添付図面に従って本発明に係る同期電動機の磁極位置補正量算出装置及び方法の好ましい実施形態について詳説する。
【0047】
図1は本発明に係る同期電動機の制御装置と、それが接続されている同期電動機及び同期電動機が駆動する機械装置の全体構成図である。
【0048】
[同期電動機の制御装置]
図1において、同期電動機の制御装置1には、本発明に係る同期電動機の磁極位置補正量算出装置200、及び磁極位置調整部170が含まれる。
【0049】
図1に示す同期電動機10は、回転駆動型であるが、水平駆動型(リニア電動機)でもよい。本明細書では回転駆動型で説明する。
【0050】
同期電動機10は回転子(図示せず)の機械装置20に連結する側(負荷側)にドライブ軸が設けられており、ドライブ軸を介して機械装置20に連結されている。また、同期電動機10には回転子を固定するためのブレーキ14が取り付けられている。ブレーキ14は、
図1では同期電動機10の反負荷側に取り付けられているが、負荷側でもよい。また、同期電動機10に取り付けるのではなく、ドライブ軸と機械的に連結された機械装置20側に取り付ける構成でもよい。
【0051】
機械装置20は、
図1ではプレス機械を例として挙げているが、これに限定されず、例えば電気鉄道車両、自動車、クレーンなどの建設機械等の産業機械でもよい。また、機械装置20がなく、同期電動機10単体でもよい。その場合は、同期電動機10にブレーキ14を取り付ける。
【0052】
ブレーキ14はブレーキ制御部180により開閉制御される。開動作で同期電動機10は回転子が回転可能となり、閉動作で回転子が拘束状態(固定状態)となる。ブレーキ制御部180は上位制御装置100からのブレーキ制御指令Bc*を受けてブレーキ14を制御する。後述するように、ブレーキトルクは同期電動機10の最大トルクまでは必要なく、例えば最大トルクの半分程度でもよい。このため、プレス機械で使用されるような、主軸電動機ヘの電力遮断後の制動用ブレーキトルク、又は主軸電動機による静止動作後のスライドを保持できる程度のブレーキトルクでよく、同期電動機10を駆勤する装置に備えられた既存のブレーキをそのまま使用できる。
【0053】
磁極位置センサ12は、同期電動機10の磁極位置を検出するためのもので、同期電動機10に取り付けられている。
図1では同期電動機10の回転軸に取り付けられているが、これに限定されず、回転軸と機械的に連結された機械装置20側に取り付けてもよい。磁極位置センサ12にはロータリーエンコーダなどが適用される。検出された磁極位置は、後述の磁極位置調整部170により調整され、調整された磁極位置は、周知のべクトル制御の座標変換の演算や速度制御の演算に利用される。
【0054】
同期電動機10は多相の同期電動機である。
図1では一般的な3相の同期電動機10で説明する。
【0055】
電流制御部140から出力される3相交流電圧指令(vuc
*、vvc
*、vwc
*)は、PWM(Pulse Width Modulation)変換部150に出力され、ここでPWM変換されてサーボアンプ164に加えられる。サーボアンプ164の他の入力には、3相交流電源160からの3相交流電力がコンバータ162により直流電力に変換され、コンバータ162から直流電力が加えられる。サーボアンプ164は、直流電力を3相の交流電力に変換する装置であり、周知のインバータである。サーボアンプ164は、PWM変換された3相交流電圧指令に応じて直流電力を3相の交流電力に変換し、変換した3相の交流電力を同期電動機10に印加して同期電動機10を駆動する。
【0056】
本例の同期電動機の制御装置1は、同期電動機10を通常運転させる通常運転モードと磁極位置補正量算出モードとを有し、モード選択部110は、操作者からの選択指示に応じて通常運転モード又は磁極位置補正量算出モードを示すモード指令M*を上位制御装置100に出力する。
【0057】
上位制御装置100は、モード選択部110から通常運転モードを示すモード指令M*を入力すると、ブレーキ14を開動作させるブレーキ制御指令Bc*をブレーキ制御部180に出力し、ブレーキ制御部180によりブレーキ14が開動作した後に同期電動機10を通常運転させる。
【0058】
また、上位制御装置100は、モード選択部110から磁極位置補正量算出モードを示すモード指令M*を入力すると、ブレーキ14を閉動作させるブレーキ制御指令Bc*をブレーキ制御部180に出力し、ブレーキ制御部180によりブレーキ14が閉動作した後に同期電動機10の運転を、磁極位置補正量を算出するため運転にする。
【0059】
次に、同期電動機10の速度制御、電流制御(べクトル制御)システムについて簡単に説明する。
【0060】
上位制御装置100から予め設定された速度指令N*が加算器112の正入力に出力される。加算器112の負入力には、速度演算部130により演算された速度Nが加えられており、加算器112は、速度指令N*と速度Nとの偏差(N*-N)を求め、その偏差(N*-N)を速度制御部120に出力する。速度制御部120は、偏差(N*-N)に応じたトルク指令T*を出力する。トルク指令T*は、電流制御部140のdc-qc軸電流指令演算部141に入力される。
【0061】
図2は、dc-qc軸電流指令演算部141の一例を示す機能ブロック図である。dc-qc軸電流指令演算部141の他の入力には、上位制御装置100から通常運転モード又は磁極位置補正量算出モードを切り替える信号M
dq
*が加えられており、信号M
dq
*が、磁極位置補正量算出モードへの切替え信号の場合、磁極位置補正量算出モード用のdc軸電流指令、qc軸電流指令演算部141Aを選択して、磁極位置補正量算出モード用のdc軸電流指令i
dc
*、qc軸電流指令i
qc
*を出力し、信号M
dq
*が、通常運転モードへの切替え信号の場合、通常運転モード用のdc軸電流指令、qc軸電流指令演算部141Bを選択して、通常運転モード用のdc軸電流指令i
dc
*、qc軸電流指令i
qc
*を出力する。
【0062】
通常運転モードでは、idc
*を、例えば0となるように指令してもよいし、最大トルク、最大効率、力率=1となるように指令してもよい。iqc
*は、トルク指令T*を元に、例えば同期電動機10のトルク方程式から演算されて指令される。
【0063】
磁極位置補正量算出モードで出力されるidc
*、iqc
*については後述する。
【0064】
図1に戻って、dc-qc軸電流指令演算部141から出力されるdc軸電流指令i
dc
*、qc軸電流指令i
qc
*は、それぞれ加算器142、143の正入力に加えられる。加算器142、143の負入力には、座標変換部146からdc軸電流i
dc、qc軸電流i
qcが加えられる。座標変換部146は、多相/dc-qc変換部であり、電流センサ166によって検出された3相交流電流(i
u、i
v、i
w)を、dc軸電流i
dc、qc軸電流i
qcに回転座標変換する。尚、座標変換部146には、磁極位置調整部170により調整された磁極位置θ
re’を入力しており、座標変換部146は、この磁極位置θ
re’も使用して3相交流電流(i
u、i
v、i
w)をdc-qc軸の電流i
dc、i
qcに変換する。
【0065】
加算器142は、dc軸電流指令idc
*とdc軸電流idcとの偏差(idc
*-idc)を求め、その偏差(idc
*-idc)をdc軸電流制御部144に出力し、加算器143は、qc軸電流指令iqc
*とqc軸電流iqcとの偏差(iqc
*-iqc)を求め、その偏差(iqc
*-iqc)をqc軸電流制御部145に出力する。
【0066】
dc軸電流制御部144は、入力した偏差(idc
*-idc)に基づいてdc軸電圧指令vdc
*を出力し、qc軸電流制御部145は、入力した偏差(iqc
*-iqc)に基づいてqc軸電圧指令vqc
*を出力する。
【0067】
dc軸電流制御部144、qc軸電流制御部145は、例えば比例制御器(P制御)、積分制御器(I制御)を並列に接続した構成であるが、本発明の主たる目的は磁極位置補正量を算出することにあるため、これに限定されない。微分制御器(D制御)をさらに並列に加えて、いわゆるPID制御として構成されてもよく、要はidc
*にidcが追従し、iqc
*にiqcが追従するように制御する構成の制御器であれば、如何なるものでもよい。
【0068】
dc軸電圧指令vdc
*、qc軸電圧指令vqc
*は、座標変換部147に加えられる。座標変換部147は、dc-qc/多相変換部であり、dc軸電圧指令vdc
*、qc軸電圧指令vqc
*を、3相交流電圧指令vuc
*、vvc
*、vwc
*に回転座標変換する。尚、座標変換部147には、磁極位置調整部170により調整された磁極位置θre’を入力しており、座標変換部147は、この磁極位置θre’も使用してdc軸電圧指令vdc
*、qc軸電圧指令vqc
*を、3相交流電圧指令vuc
*、vvc
*、vwc
*に変換する。
【0069】
3相交流電圧指令vuc
*、vvc
*、vwc
*は、前述したようにPWM変換部150によりPWM変換された後にサーボアンプ164に出力され、ここで増幅されて同期電動機10に出力される。これにより、同期電動機10は、電流制御(べクトル制御)される。
【0070】
上記のことは3相以上の多相交流でも、多相交流電流を回転子に同期した座標変換を行って、2次元の電流ベクトルを生成し、これを制御する構成とすれば、3相でも多相でも本質的に同じであり、3相に限定されないことは言うまでもない。
【0071】
磁極位置調整部170は、磁極位置センサ12で検出された、真の磁極位置θreからΔθreずれた磁極位置θre+Δθreから、磁極位置補正量算出装置200により出力された磁極位置補正量Δθre’を減算することで磁極位置を調整する。調整された磁極位置θre’は、速度演算部130や座標変換部146、147に入力される。
【0072】
[同期電動機の磁極位置補正量算出装置のハードウェア構成]
図3は、本発明に係る同期電動機の磁極位置補正量算出装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【0073】
図3に示す磁極位置補正量算出装置200は、例えば、コンピュータにより構成され、プロセッサ210、メモリ220、入出力インターフェース230等を備える。この磁極位置補正量算出装置200は、
図1に示したように同期電動機の制御装置1に組み込まれている。
【0074】
プロセッサ210は、CPU(Central Processing Unit)等から構成され、メモリ220に記憶されたファームウェア、磁極位置補正量算出用のプログラムを含む各種のプログラムを実行し、磁極位置補正量算出装置200の各部を統括制御するとともに、磁極位置補正量を算出するための処理を実行する。
【0075】
メモリ220は、フラッシュメモリ、ROM(Read-only Memory)、及びRAM(Random Access Memory)、ハードディスク装置等を含む。フラッシュメモリ、ROM又はハードディスク装置は、ファームウェアを含む各種のプログラム等を記憶する不揮発性メモリである。RAMは、プロセッサ210による処理の作業領域として機能するとともに、フラッシュメモリ等に格納されたプログラム等を一時的に記憶する。尚、プロセッサ210が、メモリ220の一部(RAM)を内蔵していてもよい。
【0076】
また、メモリ220は、同期電動機10の電動機定数及び磁極位置補正量の演算式を記憶する。電動機定数は、本例では、同期電動機10の相抵抗Ra、d軸インダクタンスLdまたはq軸インダクタンスLqである。尚、磁極位置補正量の演算式の詳細については後述する。
【0077】
更に、メモリ220は、磁極位置補正量算出モードでの同期電動機10の電流制御中に、各種の指令データ(本例では、dc軸電圧指令vdc
*、qc軸電圧指令vqc
*)、及び測定データ(本例では、dc軸電流idc、qc軸電流iqc)を一時的に記憶したり、磁極位置補正量が算出された場合には、その磁極位置補正量Δθre’を記憶する記憶装置として機能する。
【0078】
入出力インターフェース230は、各種の測定データ、指令データを入力するとともに、磁極位置補正量Δθre’を磁極位置調整部170に出力する。また、入出力インターフェース230は、上位制御装置100と接続され、上位制御装置100との間で必要な情報の送受信が可能である。
【0079】
尚、上位制御装置100もコンピュータで構成することができる。この場合、上位制御装置100と磁極位置補正量算出装置200とは、同一のコンピュータで構成してもよいし、別々のコンピュータで構成してもよい。
【0080】
<磁極位置補正量算出装置及び方法の第1実施形態>
プロセッサ210は、磁極位置補正量算出モードでの同期電動機10の電流制御中に取得し、メモリ220に記憶された、dc軸電圧指令vdc
*、qc軸電圧指令vqc
*と、dc軸電流idc、qc軸電流iqcと、メモリ220に予め記憶された電動機定数(電動機の相抵抗Ra、d軸インダクタンスLdまたはq軸インダクタンスLq)及び磁極位置補正量の演算式とを使用し、磁極位置補正量Δθre’を演算する。演算した磁極位置補正量Δθre’は、磁極位置調整部170に出力される。
【0081】
次に、磁極位置補正量の算出方法について述べる。
【0082】
磁極位置センサ12で検出した磁極位置が真の磁極位置θreからΔθreずれている場合、制御上把握しているdc-qc座標と、実際のd-q座標とはΔθreずれる。
【0083】
図4は、d-q座標とdc-qc座標とが、Δθ
reだけずれている状況を示す図である。
【0084】
非特許文献1では、この状況における拡張誘起電圧モデルの推定回転座標γ-δ座標の方程式が導出されている。本明細書では、この推定回転座標γ-δ座標の電圧方程式を参考に磁極位置補正量の算出方法を説明する。
【0085】
説明の都合上、推定回転座標γ-δ座標を、制御上把握しているdc-qc座標に記載を変更する。また、非特許文献1に記載の
図1のように推定γ-δ座標を、実際のd-q座標に対して数学的正回転方向(左回転)にΔθ
re進んだ角度として定義するならば、非特許文献1の拡張誘起電圧モデルのγ-δ座標の方程式は、Δθ
reの符号を正負逆とするのが正しいので、これも正しい式に記載を変更する。次式に、制御上把握しているdc-qc座標の方程式を示す。
【0086】
【0087】
ここで、
vdc:制御上把握しているd軸電圧
vqc:制御上把握しているq軸電圧
idc:制御上把握しているd軸電流
iqc:制御上把握しているq軸電流
Ra:同期電動機の相抵抗
Ld:同期電動機のd軸インダクタンス
Lq:同期電動機のq軸インダクタンス
ke:同期電動機の誘導起電力定数
P:微分演算子
id:実際のd軸電流
iq:実際のq軸電流
ωre:電気角における角速度
Δθre:磁極位置センサ12で検出した磁極位置と真の磁極位置との差のずれの角度
上述したように、磁極位置補正量算出モードでは回転子をブレーキで拘束している。この場合、式(1)において、ωre=0となる。また、は、dc-qc座標のd-q座標に対する回転速度であるが、磁極位置センサ12を使用している場合、dc-qc座標とd-q座標がずれていようと同期はしており、つまりΔθreは常に一定なので、時間微分したはゼロ(=0)となり、次式を得る。
【0088】
【0089】
(2)式より、次式が成り立つ。微分演算子Pは、d/dtに記載を変更している。
【0090】
【0091】
式(3)は、入力信号vdc、idcから出力sinΔθreを求め、また、入力信号vqc、iqcから出力cosΔθreを求めることができることを示している。
【0092】
そして、cosΔθre、sinΔθreより、次式を用いて磁極位置補正量Δθre’(=Δθre)を算出する。
【0093】
【0094】
式(4)を見て分かるように、
図1の構成では知ることのできない実際のq軸電流i
qが、sinΔθ
reをcosΔθ
reで除算する過程で消滅するので、制御上把握しているdc-qc座標の値と、電動機定数のみでΔθ
re’が演算可能となる。また、式(4)では、電動機定数は、相抵抗R
aとd軸インダクタンスL
dの値だけ必要であり、q軸インダクタンスL
qの値は必要とせず、L
qの値に関してロバストな演算方法である。式(4)は非常に簡潔な式であるが、これはブレーキ14を使用して回転子を固定して、式(1)のω
re=0とし、磁極位置センサを使用して、式(1)の=0とした効果であることを強調しておく。
【0095】
尚、
図1の構成では、v
dc、v
qcのフィードバック値を取得していないので、dc軸電圧指令v
dc
*、qc軸電圧指令v
qc
*を演算に使用する。しかし、これに限らず、
図1の構成に電圧センサを追加して同期電動機の3相電圧データを取得し、これを座標変換してdc-qc座標系に変換したv
dc、v
qcを使用してもよい。
【0096】
また、式(1)、(2)より明らかであるが、ωre=0の場合、diq/dt=0(即ち、iqが定値)とすると、cosΔθre、sinΔθreの項が消滅してしまうので、Δθreを求めるには、実際のd-q座標上のq軸電流iqの時間微分値をdiq/dt≠0とすることが必要である。
【0097】
公知の技術では非特許文献1の1091ページに記載があるように、停止時や低速回転時に高周波を注入して位置推定する方法が知られている。具体的にはdc軸電圧指令vdc
*に高周波電圧を重畳させて、Δθre≠0の場合に流れるqc軸電流iqcが高周波電流となるようにし、cosΔθre、sinΔθreの項が消滅するのを回避するとともに、iqcのゼロ点を検出して磁極位置を求めるという方法である。
【0098】
本発明ではそのような特殊な高周波電圧を発生させる制御器は必要なく、代わりに実際のd-q座標上のq軸電流iqの時間微分値をdiq/dt≠0となるような、制御上dc-qc座標上の電流を指令することで、diq/dt≠0を実現する。一例として、ステップ状のdc軸電流指令idc
*、及びqc軸電流指令iqc
*=0を指令する。即ち、ステップ状のdc軸電流指令idc
*は、理論上、0から無限大の周波数成分を含み、それに応じて出力されるdc軸電圧指令vdc
*もそのような周波数成分を含み、Δθre≠0の場合は、diq/dt≠0となるq軸電流iqやdc軸電流idc、qc軸電流iqcが流れることを利用する。
【0099】
dc軸電流指令idc
*は、ステップ状でなくても、diq/dt≠0となるようなdc軸電流idc、qc軸電流iqcが流れるなら何でもよく、ランプ状や正弦波信号でもよい。ステップ状のdc軸電流指令は、コンピュータやマイコンでの実装が簡単である。また、qc軸電流指令iqc
*=0としているが、0でなくてもよい。qc軸電流指令iqc
*=0の場合は、最も電動機トルクが小さくなる利点を有する。また、ランプ状のdc軸電流指令に比べてiqcの値が大きくなるため、磁極位置補正量の算出精度が良いという利点を有する。
【0100】
一方、ランプ状のdc軸電流指令の場合は逆にiqcの値を小さくできるので、ブレーキトルクをステップ状のdc軸電流指令に比べて小さくて済む利点がある。また、各諸量の変化がステップ状のdc軸電流指令に比べて緩やかになるので、制御上把握している電圧指令(または制御上把握している電圧)と制御上把握している電流のサンプリング速度を小さくできる利点を有する。
【0101】
また、ステップ状のdc軸電流指令idc
*でなく、ステップ状のqc軸電流指令iqc
*を指令してもよい。この場合、電動機トルクがブレーキトルクより大きくならないように気を付ける必要がある。
【0102】
ここで、本発明は公知の高周波電圧を重畳する方法のように、Δθre≠0の場合に流れる制御上のqc軸電流のゼロ点を検出する方法ではないことから、公知の高周波電圧を重畳する方法とは原理的に全く異なるのは明らかであり、公知のdc軸電圧指令に高周波電圧を重畳する技術思想を、ステップ状のdc軸電流指令を出力する技術思想として単純に想起したものではないことを強調しておく。
【0103】
逆に、磁極位置センサレスの回転制御において、高周波電圧の重畳は開始時の低周波数域で行われるが、このときに実際のd-q座標上のq軸電流iqの時間微分値をdiq/dt≠0となるような、制御上のdc-qc座標上の電流指令する(例えば、ステップ状の電流指令)、またはステップ状の直流電圧のような定常交流でない電流指令または電圧を印加すると、制御動作の急変を招いて制御不能になる虞があるだけでなく、qc軸電流のゼロ点を検出することも困難なので、有用な磁極位置情報を取り出せるとは到底思えないことは言うまでもないだろう。ステップ状の電流指令は回転子を固定した停止時において有効であるので、そのことからも公知の高周波電圧を重畳する方法とは異なることは明らかであり、当業者が容易に想到したものではないと確信する次第である。
【0104】
また、磁極位置補正量算出モードに入る前に、磁極位置センサ12の磁極位置を公知の方法(例えば、特開2015-133881のような同期電動機に直流励磁電流を流した時に電動機が停止する位置から磁極位置を求める方法)によって調整しておけば、磁極位置補正量算出モードで同期電動機に流れるq軸電流iqやqc軸電流iqcを予め小さくできる。このため、調整中に電動機のトルクが過大に大きくならず、例えばプレス機械のブレーキのように、スライド静止時を保持する程度のブレーキトルクでよい。
【0105】
以上の原理により、磁極位置補正量Δθre’を算出するのが、磁極位置補正量算出装置200の第1実施形態である。
【0106】
図5は、同期電動機の磁極位置補正量算出方法の第1実施形態を示すフローチャートであり、第1実施形態の同期電動機の磁極位置補正量算出装置は、
図1または
図3に示した同期電動機の磁極位置補正量算出装置200により実行される。
【0107】
図5において、ステップS1で磁極位置補正量算出モードを選択する。磁極位置補正量算出モードの選択は、
図1のモード選択部110において行われる。選択は、例えば操作者がモード選択部110に設けられたタッチパネルなど(図示せず)を操作することにより行うことができる。
【0108】
磁極位置補正量算出モードが選択されると、ステップS2で上位制御装置100は速度指令N*(=0)を出力し、また、磁極位置補正量算出モード用のdc-qc軸電流指令となるように、dc-qc軸電流指令演算部141に切替え信号Mdq
*を出力する。
【0109】
ステップS3でdc-qc軸電流指令演算部は、idc
*=0、iqc
*=0を指令し、同期電動機10を停止させる。
【0110】
ステップS4で上位制御装置100はブレーキ制御部180にブレーキ14を閉動作させるブレーキ制御指令Bc
*を出力して、ブレーキ14を閉動作させる。
【0111】
ステップS5でdc-qc軸電流指令演算部141は、ステップ状のdc軸電流指令idc
*と、qc軸電流指令iqc
*(=0)を出力する。
【0112】
ステップS6で磁極位置補正量算出装置200のプロセッサ210(
図3)は、ステップS5の指令後の、dc軸電圧指令v
dc
*、qc軸電圧指令v
qc
*と、dc軸の電流i
dc、qc軸の電流i
qcを取得し、メモリ220に記億させる。
【0113】
プロセッサ210は、これらの記憶された値とメモリ220内に予め記憶された電動機定数(同期電動機の相抵抗Ra、d軸インダクタンスLd)に基づいて、式(4)の演算を実行し、磁極位置補正量Δθre’を算出し、メモリ220に磁極位置補正量Δθre’を記憶して磁極位置補正量算出モードを終了する。尚、ここでは、メモリ220にvdc
*、vqc
*、idc、iqcを記憶させたが、記憶させずに、測定と同時に演算してもよい。ただし、メモリ220に記憶させる場合は、微分や積分の演算において、ある時刻の測定点及びその前後の時刻の複数の測定点を使って高精度の演算が可能となる利点を有する。また、式(4)もメモリ220に記憶されている。
【0114】
上記の妥当性を検証するため、
図5のフローチャートに基づいて、磁極位置補正量算出モードを制御シミュレーションした結果を
図6に示す。
【0115】
同期電動機10は永久磁石同期電動機とした。
図7及び
図8に、シミュレーションで使用したブロック線図を示す。
図7及び
図8は本来、一つの図面で表示すべきだが、紙面の都合上2つに分割した。また、伝達関数表現のブロックと、時間領域表現の座標変換ブロックとが混在しているが、これは説明の都合上の表現である。パソコンやマイコンでの実際の計算は、伝達関数表現のsは、時間領域では微分の計算、また、1/sは、時間領域においては積分の計算、時定数をτとして、1/(1+τs)は時間領域では一階の微分方程式の計算(一次遅れ要素の計算)を表わすことを踏まえて、時間領域のデータと電動機定数から各ブロック要素の演算を時間領域で行って磁極位置補正量Δθ
re’を計算できる。
【0116】
電動機定数は、非特許文献1から引用して下記の表1に示す値とした。制御ゲインは電動機定数をもとに適宜決めた。
【0117】
【0118】
磁極位置補正量算出モードでは、速度指令N*を0に制御し、また、ブレーキ14で回転子を固定していることから、実際の回転数も0であるので、速度制御部120の演算出力であるトルク指令T*は常にゼロとなる。よって、シミュレーションでは速度制御部120の演算は省略している。
【0119】
また、実際の回転数Nが0であるので、同期電動機10の誘導起電力など、速度に関わる量も0として計算を省略している。さらに、
図7を見て分かるように、dc軸電流制御部144、qc軸電流制御部145は一般的に使われている比例積分制御器であるが、先にも述べたたように本発明の主たる目的は磁極位置補正量の算出であるので、これに限定するものではないのは言うまでもない。
【0120】
また、
図1のPWM変換部150の計算は省略している。これは厳密には
図1の構成と異なるが、電圧型PWMインバータで駆動された同期電動機10の電流は、同期電動機10のRL回路の作用により、PWMの影響が緩和されて正弦波とみなして差支えないことが経験的に分かっており、その場合、入力である電圧も、交流理論によれば等価的に正弦波と考えてよいことを根拠にした。即ち、シミュレーションでのサーボアンプは仮想の線形電力増幅器としている。
【0121】
さらに、座標変換したモデルで計算しているので、シミュレーションでは3相交流電圧指令v
uc
*、v
vv
*、v
wc
*を演算する必要がなく、dc軸電圧指令v
dc
*、qc軸電圧指令v
qc
*を演算し、それらから直接、
図7に記載の座標変換ブロックの演算をして実際のd軸電圧v
d、q軸電圧v
q を算出するようにしている。そして、シミュレーションで計算されたv
dc
*、v
qc
*、i
dc、i
qcと、予め記億された電動機定数から、式(4)を用いて磁極位置補正量Δθ
re’を計算する。
【0122】
磁極位置のずれ角Δθreは、5°(弧度法だと、Δθre=5×π÷180rad)とした。5°は、公知の方法(例えば特開2015-133881)によって調整した場合の磁極位置のずれ角の最大値(経験値)である。ステップ状のdc軸電流指令は時刻t=0で、0Aから定格電流の√3倍(即ち、5×√3A)に立ち上がる指令とした。
【0123】
図6より、演算された磁極位置補正量Δθ
re’は、最もqc軸電流i
qcの大きい(したがって、測定精度がよい)時刻0.001秒付近で、約4.9989°であった。真値Δθ
re(=5°)に対して、磁極位置補正量Δθ
re’(=4.9989°)は、0.0011°のずれであり、よく一致していると言える。
【0124】
図6ではこの時刻以降でさらに真値5°に漸近していくが、これは過渡現象から定常状態に向かうにつれ、i
dc、i
qcの変化が緩やかになり、離散化した微分の計算結果でも、理論上の微分計算の結果に近づくためと考えられる。時間刻み幅を細かくしていけば、時刻t=0付近の過渡現象時の急激に変化しているデータでも真の値Δθ
re=5°に、より近づくことを確認している。また、過渡現象が収束すると、i
qcの値は0に漸近するので、定常状態に近づいた時のデータは測定誤差が伴う虞がある。よって、i
qcの絶対値が大きくなる時刻付近のデータを使えば、測定誤差の影響を小さくできる。また、i
qcの絶対値が大きくなるのは過渡現象の途中までなので、この途中のデータだけ測定するようにすれば、測定誤差の影響を小さくでき、かつパソコン又はマイコンのメモリ220を節約できる。これは、i
qcだけでなく、他のv
dc
*、v
qc
*、i
dcについても同様であり、どの時刻のデータを使用するかは最も測定精度が高くなると考えられる時刻を総合的に判断すればよい。
【0125】
また、Δθre=0に調整された通常運転時の、例えばdc軸電流idc=0、qc軸電流iqcが定格電流5Aの√3倍(即ち、5×√3A)のときの同期電動機10のトルクと比べると、磁極位置補正量算出時の電流におけるトルクは1%程度だった。
【0126】
このように、調整前の磁極位置のずれの角度Δθreが5°程度であれば、補正量算出時に流れる電流によるトルクは十分小さい。このため、プレス機械で使用されるような、主軸電動機への電力遮断後の制動用ブレーキトルクまたは、主軸電動機による静止動作後のスライドを保持できる程度のブレーキトルクでよく、同期電動機10を駆動する装置に備えられた既存のブレーキをそのまま使用できる。
【0127】
また、ブレーキトルクがいかなる電流ベクトルでの電動機トルクよりも常に上回るのであれば、本方法は、-180°≦Δθre≦180°(ただし、Δθre≠90°、-90°)の広範囲で使用可能である。Δθre=90°、-90°のときは、cosΔθre=0となるので、式(3)又は式(4)では0で除算することになり適用できない。しかし、90°ぴったりでなければ、例えば、Δθre=89°、-89°では、ほぼ正しい磁極位置補正量が演算できていることを確認している。また、先にも述べたように、磁極位置補正量算出モードに入る前に、磁極位置センサ12の磁極位置を公知の方法(例えば特開2015-133881のような同期電動機に直流励磁電流を流した時に電動機が停止する位置から磁極位置を求める方法)によって調整しておけば、Δθre=90°、-90ということはまずあり得ず、実用上はほとんど問題ないと言える。
【0128】
磁極位置補正量算出モード終了後は、モード選択部110で通常運転モードを選択し、同期電動機10の通常運転を行う。通常運転では前記のとおり、磁極位置調整部170において、磁極位置センサ12で検出された磁極位置θre+Δθreから、磁極位置補正量算出装置200のメモリ220に記憶されている磁極位置補正量Δθre’を減算することで、磁極位置θre+Δθreを磁極位置θre’に調整し、この調整した磁極位置θre’をもとに同期電動機10を運転する。
【0129】
通常運転モードの具体的なフローチャートを、
図9に示す。
【0130】
図9において、ステップS11でモード選択部110により通常運転モードを選択する。通常運転モードが選択されると、ステップS12で上位制御装置100はブレーキ制御部180にブレーキ14を開動作させるブレーキ制御指令B
c
*を出力して、ブレーキ14を開動作させる。
【0131】
ステップS13で上位制御装置100から速度指令N*を出力し、また、通常運転モード用のdc-qc軸電流指令となるように、dc-qc軸電流指令演算部141に切替え信号Mdq
*を出力する。
【0132】
ステップS14でdc-qc軸電流指令演算部141はトルク指令T*に応じてdc軸電流指令idc
*、qc軸電流指令iqc
*を出力し、同期電動機10を運転させる。
【0133】
以上をまとめると、本発明の同期電動機10の磁極位置センサ12で検出された磁極位置を補正する装置は、公知技術に比べて以下の利点を有し、公知技術に比べて優れた同期電動機の磁極位置補正量算出装置及び方法を得ることが可能となる。
【0134】
1. 単一の同期電動機で調整を行うため、設備を大型化することがない。
【0135】
2. 繰り返し試行による複数回の試験をすることがない。また、閾値を設けることなく磁極位置補正量を算出しているので磁極位置補正量の精度が良い。
【0136】
3. 高周波電圧発生部のような特殊な制御器が不要である。そのため制御システムを複雑化することがない。
【0137】
4. 同期電動機の停止状態で補正量を算出できる。
【0138】
5. 主にd軸回路に電流を通電させる試験のため、調整前のΔθreが小さければ、ブレーキトルクは小さくて良い。
【0139】
<磁極位置補正量算出装置及び方法の第2実施形態>
磁極位置補正量算出装置及び方法の第1実施形態では、磁極位置補正量Δθreの演算において、d軸インダクタンスLdを使用している。当業者では周知のことであるが、永久磁石同期電動機が磁気飽和を生じている場合、正確なd軸インダクタンスLdの値を回転試験によって求めることは原理的に不可能である。これは誘導起電力ke×ωreと、ωre×Ld×idの分離が困難なためである。
【0140】
Ldの測定法について述べた電気学会のある論文では、誘導起電力定数keが一定であるとの仮定のもとに、無負荷発電機運転で測定したkeをそのまま負荷時にも適用してLdを求めているが、例えば、keがq軸電流iqに応じて変化するモータには適用することができない。
【0141】
また、Ldの測定法について述べた電気学会の別の論文では、ke×ωreの影響をなくすため、静止試験によってLdを求めているが、同期電動機には大なり小なり構造に起因する空間高調波の影響があり、Ldの値が回転子の位置に応じて変化することを完全に考慮して静止試験で測定するのは高調波の次数が高くなると容易ではない。発明者の知る限り、いまだ永久磁石同期電動機のLdの規格化された測定法はない。当業者の間で、Ldの値をあまり触れたがらず、とりあえず回転できればいいということで、正確な値であるか疑わしいLdの値を内心忸怩たる思いで使用しているのが、永久磁石同期電動機のべクトル制御が発展しきった現在でも日常であると確信する。
【0142】
そのような状況なので、第1実施形態のLdの値を演算に使用する方法は当業者がかなり浚巡する虞がある。しかも、第1実施形態では、d軸方向にステップ状のd軸電流指令を与えているので、磁気飽和している場合はd軸電流の依存性を考慮して、Ldを事前に算出する必要があり、Ldの算出に手間がかかる。
【0143】
これは式(2)を、以下に示す式(5)を用いて、式変形することで解決できる。
【0144】
【0145】
式(5)より、次式が成り立つ。
【0146】
【0147】
式(6)を式(2)に代入すると、Δθreが定数であることを考慮して、次式を得る。
【0148】
【0149】
式(7)により、次式が成り立つ。
【0150】
【0151】
式(8)は、入力信号vdc、idcから出力cosΔθreを求め、また、入力信号vqc、iqcから出力sinΔθreを求めることができることを示している。
【0152】
そして、cosΔθre、sinΔθreより、次式を用いて磁極位置補正量Δθre’(=Δθre)を算出する。
【0153】
【0154】
即ち、第2実施形態は、式(9)の演算を実行して磁極位置補正量Δθre’を算出するものである。この場合、式(9)は、メモリ220に記憶させておく。
【0155】
式(9)を見て分かるように、
図1の構成では知ることのできない実際のd軸電流i
dが、sinΔθ
reをcosΔθ
reで除算する過程で消滅するので、第1実施形態と同様に制御上把握しているdc-qc座標の値と、電動機定数のみで磁極位置補正量Δθ
re’が演算可能となる。また、式(7)より、Δθ
reを求めるには、実際のd-q座標上のd軸電流i
dの時間微分値をdi
d/dt≠0とすることが必要であることが分かる。
【0156】
また、電動機定数は、相抵抗R
aとq軸インダクタンスL
qの値だけ必要であり、d軸インダクタンスL
dの値は必要とせず、L
dの値に関してロバストな演算方法である。また、
図6にも示したように、qc軸電流i
qcは十分小さいので(Δθ
reが0に近いときはq軸電流i
qも十分小さいので)、磁気飽和のない線形領域(その領域ではL
qの値はほぼ一定)の一点の値を用いればよく、どのL
qの値を使用すればよいか悩むことがない。
【0157】
上記の妥当性を検証するため、第1実施形態と同様に磁極位置補正量算出モードを制御シミュレーションした。
【0158】
第2実施形態のシミュレーションでは、第1実施形態の式(4)を、式(9)に変更しているが、それ以外は第1実施形態と同じである。
【0159】
磁極位置補正量Δθ
re’の演算結果を、
図10の破線に示す。
図10には、第1実施形態の磁極位置補正量Δθ
re’の演算結果も実線で示している。
【0160】
図10に示す通り、第2実施形態のΔθ
re’は、時刻t=0sの最初から5.0000°であり、真値5°とほぼ一致した。第1実施形態より高精度なのは、L
qの値がL
dの値の約4倍なので、このため微分項が約4倍になり、他の項との和または差の演算結果との誤差が小さくなったためと考える。一般に永久磁石同期電動機は逆突極性(L
d<L
q)を示すものが多いので、第2実施形態の方法が、第1実施形態の方法よりも演算精度では有利と言える。
【0161】
一方、永久磁石のない同期リラクタンス電動機では、逆突極性(Lq<Ld)を示すものが多いので、第1実施形態の方法が第2実施形態の方法よりも演算精度で有利である。また、同期リラクタンス電動機では永久磁石がないので、誘導起電力定数keが0である。したがって、精度の良いLdの値を求めることができるので、その理由からも第1実施形態の計算方法の方が適している。
【0162】
以上より、同期電動機の種類に応じて、第1実施形態、第2実施形態の計算方法を適宜選択して演算すればよいと言える。
【0163】
<磁極位置補正量算出装置及び方法の第3実施形態>
第1実施形態の式(4)や第2実施形態の式(9)では、微分演算を行っている。一般に微分は測定データにノイズが含まれている場合、微分計算の結果が発散する虞があることが知られているため、同期電動機のべクトル制御システムでは使われないことが多い。
【0164】
微分演算を回避するには、第1実施形態の式(2)、または第2実施形態の式(7)の両辺を積分して、微分項を定数項にすればよい。
【0165】
まず、第1実施形態の式(2)の積分について述べる。
【0166】
式(2)を、時刻t=t’から時刻t=tまで積分すると、次式を得る。
【0167】
【0168】
時刻t=t’におけるq軸電流をiq(t')、dc軸電圧をvdc(t')、qc軸電圧をvqc(t')、dc軸電流をidc(t')、qc軸電流をiqc(t')とし、時刻t=tにおけるq軸電流をiq(t)、dc軸電圧をvdc(t)、qc軸電圧をvqc(t)、dc軸電流をidc(t)、qc軸電流をiqc(t)とすると、次式に整理できる。
【0169】
【0170】
そして、cosΔθre、sinΔθreより、次式を用いて磁極位置補正量Δθre’(=Δθre)を算出する。
【0171】
【数20】
(ただし、t’:積分開始時刻、t:積分終了時刻)
第2実施形態の式(7)についても同様に積分して、次式を得る。
【0172】
【数21】
(ただし、t’:積分開始時刻、t:積分終了時刻)
【0173】
即ち、第3実施形態は、式(12)又は式(13)の演算を実行して磁極位置補正量Δθre’を算出するものである。この場合、式(12)又は式(13)は、メモリ220に記憶させておく。
【0174】
式(12)、式(13)も、第1実施形態の式(4)、第2実施形態の式(9)と同様に制御上把握しているdc-qc座標の値と、電動機定数のみで磁極位置補正量Δθre’が演算可能となる。
【0175】
上記の妥当性を検証するため、第1実施形態、第2実施形態と同様に磁極位置補正量算出モードを制御シミュレーションした。
【0176】
第3実施形態のシミュレーションでは、第1実施形態の式(4)を式(12)に変更し、また、第2実施形態の式(9)を式(13)に変更し、それ以外は同じである。また、ここでは、まず、時刻t’=0とした。
【0177】
式(12)による磁極位置補正量Δθ
re’の演算結果を、
図11の実線に示す。また、式(13)による磁極位置補正量Δθ
re’の演算結果を、
図11の点線に示す。
図11には、第1実施形態(式(4))による磁極位置補正量Δθ
re’の演算結果を破線で示し、第2実施形態(式(9))による磁極位置補正量Δθ
re’の演算結果を一点鎖線で併せて示している。
【0178】
図11に示す通り、式(12)により演算したΔθ
re’は、最もqc軸電流i
qcの大きい(したがって、測定精度がよい)時刻0.001秒付近で、約4.9870°であった。真値Δθ
re(=5°)に対して0.00130°のずれであり、よく一致していると言える。式(13)により演算したΔθ
re’は、時刻0.001秒付近で、約4.9998°であった。真値Δθ
re(=5°)に対して0.0002°のずれであり、よく一致していると言える。
【0179】
時刻0.001秒以降でさらに真値5°に漸近していくが、これは過渡現象から定常状態に向かうにつれ、idc、iqcの変化が緩やかになり、離散化した積分の計算結果でも、理論上の積分計算の結果に近づくためと考えられる。また、第1実施形態や第2実施形態に比べて時刻t=0付近のΔθre’の演算結果と真値との誤差が大きい理由は、時刻t=0はidc、iqcが0のため、t=0付近の数値積分の計算結果と、理論上の積分計算結果との誤差が大きく、しかも積分なのでこの影響が積算されてしばらく続くためと考えられる。そこで、例えばt'=0.00099秒とし、t=0.001秒として式(12)を計算すると、この時間区間内の式(12)のΔθre’は、ほぼ5.0094°となり、式(13)のΔθre’は、ほぼ5、0001となり、いずれも時刻t’=0にしたときと比べて、より真値に近くなることを確認した。
【0180】
以上より式(12)、または式(13)を使用するときは、演算精度の高いデータを適宜選定して、そのデータ群の時刻間で演算すれば、よりΔθre’の演算精度を向上できる。
【0181】
[その他]
本実施形態において、例えば、磁極位置補正量算出装置200のプロセッサ210のように各種の処理を実行する処理部(processing unit)のハードウェア的な構造は、次に示すような各種のプロセッサ(processor)である。各種のプロセッサには、ソフトウェア(プログラム)を実行して各種の処理部として機能する汎用的なプロセッサであるCPU(Central Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などの製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device:PLD)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路などが含まれる。
【0182】
1つの処理部は、これら各種のプロセッサのうちの1つで構成されていてもよいし、同種または異種の2つ以上のプロセッサ(例えば、複数のFPGA、あるいはCPUとFPGAの組み合わせ)で構成されてもよい。また、複数の処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。複数の処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第1にクライアントやサーバなどのコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウェアの組合せで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが複数の処理部として機能する形態がある。第2にシステムオンチップ(System On Chip:SoC)などに代表されるように、複数の処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、各種の処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサを1つ以上用いて構成される。
【0183】
更に、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子などの回路素子を組み合わせた電気回路(circuitry)である。
【0184】
また、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0185】
1…制御装置
10…同期電動機
12…磁極位置センサ
14…ブレーキ
20…機械装置
100…上位制御装置
110…モード選択部
112、142、143…加算器
120…速度制御部
130…速度演算部
140…電流制御部
141…dc-qc軸電流指令演算部
141A…磁極位置補正量算出モード用のdc軸電流指令、qc軸電流指令演算部
141B…通常運転モード用のdc軸電流指令、qc軸電流指令演算部
144…dc軸電流制御部
145…qc軸電流制御部
146、147…座標変換部
150…PWM変換部
160…3相交流電源
162…コンバータ
164…サーボアンプ
166…電流センサ
170…磁極位置調整部
180…ブレーキ制御部
200…磁極位置補正量算出装置
210…プロセッサ
220…メモリ
230…入出力インターフェース