(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064667
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】既作用荷重算出システム
(51)【国際特許分類】
G01L 1/00 20060101AFI20240507BHJP
G01L 25/00 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
G01L1/00 E
G01L25/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173426
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】近藤 明彦
(72)【発明者】
【氏名】小濱 英司
(72)【発明者】
【氏名】高野 大樹
(72)【発明者】
【氏名】芦田 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】緒方 七重
(57)【要約】
【課題】応力発光材料を用いて、測定時点で物体に既に加わっている既作用荷重を従来の方法よりも簡便に算出することができる既作用荷重の算出方法を提供する。
【解決手段】応力発光材料を用いて測定時点で物体に既に加わっている既作用荷重を算出する方法であって、該算出方法は、応力発光材料が設置され、所定の既作用荷重が加えられた試験物体に動的荷重を加え、その際の動的荷重に対する発光の程度と該試験物体に加えられた所定の既作用荷重との関係を確認するキャリブレーション工程と、
応力発光材料を設置した測定対象物体に動的荷重を加え、動的荷重に対する発光の程度を測定する測定工程と、該キャリブレーション工程で得られた動的荷重に対する発光の程度と該試験物体に加えられた所定の既作用荷重との関係と、該測定工程で測定された動的荷重に対する発光の程度から、測定対象物体に測定時点で既に加わっている既作用荷重を算出する工程とを含むことを特徴とする既作用荷重の算出方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
応力発光材料を用いて測定時点で物体に既に加わっている既作用荷重を算出する方法であって、
該算出方法は、応力発光材料が設置され、所定の既作用荷重が加えられた試験物体に動的荷重を加え、その際の動的荷重に対する発光の程度と該試験物体に加えられた所定の既作用荷重との関係を確認するキャリブレーション工程と、
応力発光材料を設置した測定対象物体に動的荷重を加え、動的荷重に対する発光の程度を測定する測定工程と、
該キャリブレーション工程で得られた動的荷重に対する発光の程度と該試験物体に加えられた所定の既作用荷重との関係と、該測定工程で測定された動的荷重に対する発光の程度から、測定対象物体に測定時点で既に加わっている既作用荷重を算出する工程とを含む
ことを特徴とする既作用荷重の算出方法。
【請求項2】
前記応力発光材料の設置は、応力発光材料を物体中に設置すること又は物体の表面に応力発光性塗料組成物を塗布することにより行われることを特徴とする請求項1に記載の既作用荷重の算出方法。
【請求項3】
前記応力発光材料の設置は、内部又は表面に応力発光材料又は応力発光性塗料組成物を設置した応力発光材料片を物体に設置することにより行われることを特徴とする請求項1に記載の既作用荷重の算出方法。
【請求項4】
前記測定対象物体に測定時点で既に加わっている既作用荷重は、圧縮荷重、引張荷重、ねじり荷重又はせん断荷重であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の既作用荷重の算出方法。
【請求項5】
前記キャリブレーション工程における動的荷重及び前記測定工程における動的荷重は、圧縮荷重、引張荷重、ねじり荷重又はせん断荷重のいずれかの荷重で共通していることを特徴とする請求項1に記載の既作用荷重の算出方法。
【請求項6】
前記測定工程における動的荷重の特徴量は、前記キャリブレーション工程における動的荷重の特徴量と同一又は異なることを特徴とする請求項5に記載の既作用荷重の算出方法。
【請求項7】
応力発光材料を設置した物体に既に加わっている既作用荷重と動的荷重に対する発光の程度との関係を確認する方法であって、
該方法は、応力発光材料が設置され、既作用荷重が加えられた物体に動的荷重を加え、その際の動的荷重に対する発光の程度を確認することを特徴とする既作用荷重と発光との関係を確認する方法。
【請求項8】
前記応力発光材料を設置した物体に加わっている既作用荷重は、圧縮荷重、引張荷重、ねじり荷重又はせん断荷重であることを特徴とする請求項7に記載の既作用荷重と発光との関係を確認する方法。
【請求項9】
前記既作用荷重が加えられた物体に加えられる動的荷重は、圧縮荷重、引張荷重、ねじり荷重又はせん断荷重であることを特徴とする請求項7に記載の既作用荷重と発光との関係を確認する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既作用荷重算出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、構造物等の各種物体の応力状態を計測する方法として、ひずみゲージを用いて測定したひずみ量と材料のヤング率と掛け合わせることで応力を算出する方法、微小な繰り返し荷重による温度変化を赤外線で撮影することで応力分布を解析する方法、透明で均一な光弾性材料を用いて複屈折から解析する方法が知られている。これらの方法に加え、近年、外部からの力学的刺激を受けると発光する応力発光材料を用いて構造物等の物体の応力状態を評価する方法が検討されており、応力発光材料を用いてリアルタイムに応力分布を可視化する測定方法(特許文献1参照)、幅広い材料の応力状態の把握に適用できるよう、エポキシ樹脂等の樹脂と応力発光材料を混合して塗料組成物にしたもの(特許文献2参照)、応力発光性塗料組成物を構造物に塗布して発光の輝度及び模様から構造物に加わっている負荷の程度を判定する負荷測定方法(特許文献3参照)、応力発光体に荷重を加えた状態及び荷重を解放した状態での発光の様子を撮影して残留応力等を算出する方法(特許文献4参照)、光を透過可能で可撓性を有する第1材料、外力が付加されると光を発生する第2材料、光を透過せず可撓性を有する第3材料を組み合わせた外力応答手段を用いた構造物外力検知装置(特許文献5参照)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-215157号公報
【特許文献2】国際公開第2018/135106号
【特許文献3】特開2017-044634号公報
【特許文献4】特開2019-158437号公報
【特許文献5】特開2003-262558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のとおり応力発光材料を用いて構造物等の物体の応力状態を計測、把握する方法が種々提案されているが、従来の測定方法では、既に荷重が加わっている測定対象物体の荷重状態を測定するには、無載荷状態から測定時点までの全ての励起状態と載荷による発光プロセスを計測しておく必要があり、複雑な荷重履歴を受ける場合には、既に加わっている荷重状態を測定することが困難であった。
【0005】
本発明は、上記現状に鑑み、応力発光材料を用いて、測定時点で物体に既に加わっている既作用荷重を従来の方法よりも簡便に算出することができる既作用荷重の算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、測定時点で物体に既に加わっている既作用荷重を従来の方法よりも簡便に算出することができる方法について検討し、応力発光材料が設置され、既作用荷重が加わっている物体に対して動的荷重を加えた場合に、既作用荷重の大きさに応じて発光の程度が変化することを見出した。そして、応力発光材料が設置された試験物体に加えられた所定の既作用荷重の大きさと、該試験物体に対して動的荷重を加えた場合の動的荷重に対する発光の程度との関係を確認するキャリブレーション工程を行った後、応力発光材料が設置された測定対象物体に動的荷重を加えて発光の程度を測定する測定工程を行い、得られた動的荷重に対する発光の程度とキャリブレーション工程で得られた動的荷重に対する発光の程度と該試験物体に加えられた所定の既作用荷重との関係とを用いることで、測定対象物体に測定時点で既に加わっている既作用荷重を算出することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、応力発光材料を用いて測定時点で物体に既に加わっている既作用荷重を算出する方法であって、該算出方法は、応力発光材料が設置され、所定の既作用荷重が加えられた試験物体に動的荷重を加え、その際の動的荷重に対する発光の程度と該試験物体に加わっている所定の既作用荷重との関係を確認するキャリブレーション工程と、応力発光材料を設置した測定対象物体に動的荷重を加え、動的荷重に対する発光の程度を測定する測定工程と、該キャリブレーション工程で得られた動的荷重に対する発光の程度と該試験物体に加えられた所定の既作用荷重との関係と、該測定工程で測定された動的荷重に対する発光の程度から、測定対象物体に測定時点で既に加わっている既作用荷重を算出する工程とを含むことを特徴とする既作用荷重の算出方法である。
【0008】
上記応力発光材料の設置は、応力発光材料を物体中に設置すること又は物体の表面に応力発光性塗料組成物を塗布することにより行われることが好ましい。
【0009】
上記応力発光材料の設置は、内部又は表面に応力発光材料又は応力発光性塗料組成物を設置した応力発光材料片を物体に設置することにより行われることもまた好ましい。
【0010】
上記測定対象物体に測定時点で既に加わっている既作用荷重は、圧縮荷重、引張荷重、ねじり荷重又はせん断荷重であることが好ましい。
【0011】
上記キャリブレーション工程における動的荷重及び前記測定工程における動的荷重は、圧縮荷重、引張荷重、ねじり荷重又はせん断荷重のいずれかの荷重で共通していることもまた好ましい。
【0012】
上記測定工程における動的荷重の特徴量(荷重指標)は、上記キャリブレーション工程における動的荷重の特徴量と同一又は異なることもまた好ましい。
【0013】
本発明はまた、応力発光材料を設置した物体に加わっている既作用荷重と動的荷重に対する発光の程度との関係を確認する方法であって、該方法は、応力発光材料が設置され、既作用荷重が加えられた物体に動的荷重を加え、その際の動的荷重に対する発光の程度を確認することを特徴とする既作用荷重と発光との関係を確認する方法でもある。
【0014】
上記既作用荷重と発光との関係を確認する方法における応力発光材料を設置した物体に加わっている既作用荷重は、圧縮荷重、引張荷重、ねじり荷重又はせん断荷重であることが好ましい。
【0015】
上記既作用荷重と発光との関係を確認する方法における既作用荷重が加えられた物体に加えられる動的荷重は、圧縮荷重、引張荷重、ねじり荷重又はせん断荷重であることもまた好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の既作用荷重の算出方法は、測定対象物体に作用する荷重の履歴を確認することなく測定時点で測定対象物体に既に加わっている既作用荷重を算出することができる方法であることから、様々な物体の荷重状態を確認する方法として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】応力発光材料を設置した物体に動的荷重を加えた場合の荷重指標と応力発光材料の発光強度との関係を示した概念図である。
【
図2】
図1の荷重指標-発光強度の直線の傾きと軸ひずみ速度との関係を示した概念図である。
【
図3】既に荷重が加わっている応力発光材料を設置した物体に動的荷重を加えた場合の応力発光材料の荷重指標と発光強度との関係を示した概念図である。
【
図4】
図3の荷重指標-発光強度の直線の傾きにおける既作用荷重の寄与部分と既作用荷重との関係を示した概念図である。
【
図5】実施例1において、ペレットA1を用いて既作用荷重10Nで載荷した際の荷重測定値と平均発光強度を時間軸に対してプロットしたグラフと、測定中の発光の様子を示す撮影画像である。
【
図6】実施例1において、ペレットA1を用いて保持のための既作用荷重10N、軸ひずみ速度を4種類で載荷した条件における既作用荷重に付加して作用した荷重(既作用荷重は含まない)と平均発光強度の関係を示した図であり、各プロットについて回帰直線と相関係数も示している(
図1に相当)。
【
図7】実施例1において、既作用荷重10Nにおける荷重-平均発光強度の関係における回帰直線の傾き(
図1のαに相当)と軸ひずみ速度の関係を示した図であり、このプロットにおける回帰直線と相関係数も示している(
図2に相当)。
【
図8】実施例1において、10N、100N、200N、300Nの既作用荷重時における、付加して作用した荷重(既作用荷重は含まない)と平均発光強度の関係を示した図であり、各プロットについて回帰直線と相関係数も示している。
【
図9】実施例1において、
図8の軸ひずみ速度1.67% strain・s
-1における付加された荷重-平均発光強度の関係における回帰直線の傾きと既作用荷重の関係を3個のペレットについてプロットした図であり、その平均値をグラフにしたものである。
【
図10】実施例1において、
図9の付加された荷重-平均発光強度の関係における回帰直線の傾き平均と既作用荷重の関係の関係を軸ひずみ速度ごとに示した図である。
【
図11】実施例1を参考にした、既作用荷重を算出する工程の概略図である。
【
図12】実施例2において、ペレットA2を用いて既作用荷重1Nで載荷した際の荷重測定値と平均発光強度を時間軸に対してプロットしたグラフと、測定中の発光の様子を示す撮影画像である。
【
図13】実施例2において、付加された荷重-平均発光強度の関係における回帰直線の傾き平均と既作用荷重の関係の関係を軸ひずみ速度ごとに示した図(実施例1の
図10に相当する図)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0019】
1.既作用荷重の算出方法
本発明の既作用荷重の算出方法は、応力発光材料が設置された試験物体に加わっている所定の既作用荷重と動的荷重に対する発光の程度との関係を確認するキャリブレーション工程と、応力発光材料を設置した測定対象物体に動的荷重を加え、発光の程度を測定する測定工程と、キャリブレーション工程で得られた動的荷重に対する発光の程度と該試験物体に加えられた所定の既作用荷重との関係と、該測定工程で測定された動的荷重に対する発光の程度から、測定対象物体に測定時点で既に加わっている既作用荷重を算出する工程とを含む。
以下にこれらの工程について順に説明する。
【0020】
(1)キャリブレーション工程
本発明におけるキャリブレーション工程は、応力発光材料が設置され、様々な所定の既作用荷重が加えられた試験物体に動的荷重を加え、その際の動的荷重に対する発光の程度と該試験物体に加わっている既作用荷重との関係を確認する工程である。
応力発光材料が設置された物体に動的荷重を加えた場合、その作用の大きさに応じて発光強度は大きくなり、荷重や荷重増分などを基にした荷重指標に対する発光強度は物体に加わる軸ひずみ速度(載荷による単位時間当たりの軸方向の物体のひずみ。縦ひずみ速度ともいう。ねじり荷重においては、ねじれ角速度が相当する。)が大きいほど大きくなる。この関係を概念的に図示したものが
図1、2である。なお、
図1、2では発光強度-荷重指標の関係、及び、α(荷重指標-発光強度の傾き)-軸ひずみ速度の関係はいずれも線形関係として記載しているが、これらは必ずしも線形関係になるとは限らず、曲線になる場合もある。
本発明者は応力発光材料が設置され、既作用荷重が加わっている物体に動的荷重を加えた場合の荷重指標と発光強度との関係について検討し、荷重指標に対する発光強度が、物体に加わる軸ひずみ速度と既作用荷重の大きさに応じて大きくなること、及び、軸ひずみ速度が一定の場合、荷重指標に対する発光強度は物体への既作用荷重に応じて大きくなることを見出した。この関係を概念的に図示したものが
図3、4である。なお、
図3、4では荷重指標-荷重増分の関係、及び、β(既作用荷重の影響を含んだ荷重指標-発光強度の傾き)-軸ひずみ速度の関係はいずれも線形関係として記載しているが、これらは必ずしも線形関係になるとは限らず、曲線になる場合もある。また、βの値によっては、例えばα1を基にした荷重指標-発光強度の傾きと既作用荷重に対する関係がα2を基にした関係よりも小さくなる等して、発光強度-荷重増分の線の位置関係は
図3とは異なる場合がある。
本発明者はこの知見を利用し、測定対象物体に設置した応力発光材料と同じ応力発光材料が設置され、2種類以上の既作用荷重状態(無荷重の状態と所定の既作用荷重が加わっている状態又は2種類以上の既作用荷重が加わっている状態)の試験物体に対して、いずれか1種類以上の所定の軸ひずみ速度で動的荷重を加えた場合の荷重指標と発光強度との関係を確認することで、軸ひずみ速度と、物体への既作用荷重の大きさと、発光強度との関係を確認することができ、この関係を用いることで、応力発光材料が設置された測定対象物体に後述する「(2)測定工程」において説明する所定の軸ひずみ速度で動的荷重を加えた際の発光強度から、測定対象物体への既作用荷重の大きさを算出することが可能となることを見出した。この方法であれば、測定対象物体に作用する荷重の履歴を確認することなく、測定時点で測定対象物体に加わっている既作用荷重を算出することが可能である。
なお、上記においては、発光の程度として荷重や荷重増分などを基にした荷重指標に対する発光強度を用いて説明したが、発光の程度の大きさとの校正可能な対応関係が確認できればよいため、本発明の既作用荷重の算出方法では、荷重や荷重増分などを基にした荷重指標について、応力に換算したり,ひずみエネルギーやひずみエネルギー増分、力積などの指標や、それらの累積値、増分値、正規化した指標、ピーク値などの特徴量を用いてもよい。発光強度に関する指標についても、発光強度の累積値、発光強度の増分値、正規化した指標、ピーク値などの特徴量を用いてもよい。また、既作用荷重についても荷重が作用する面積を考慮した既作用応力としたり、軸ひずみ速度について、ひずみエネルギー増分を代わりに用いることが可能である。
【0021】
上記キャリブレーション工程では、試験物体に対して少なくとも1種類の所定の軸ひずみ速度で動的荷重を加えて発光の程度を確認すればよいが、算出の精度を高める点からは、2種類以上の所定の軸ひずみ速度で動的荷重を加えて発光の程度を確認することが好ましい。より好ましくは、3種類以上の所定の軸ひずみ速度で動的荷重に対する発光の程度を確認することである。
また、キャリブレーション工程では、少なくとも2種類の既作用荷重が加えられた状態の試験物体に対して所定の軸ひずみ速度で動的荷重を加えて発光の程度を確認すればよいが、算出の精度を高める点からは、3種類以上の既作用荷重が加えられた状態の試験物体に対して所定の軸ひずみ速度で動的荷重を加えて発光の程度を確認することが好ましい。より好ましくは、4種類以上の既作用荷重が加えられた状態の試験物体に対して所定の軸ひずみ速度で動的荷重に対する発光の程度を確認することである。
また、軸ひずみ速度と既作用荷重が同一の載荷条件で複数回の載荷を行い、その結果を平均することによっても算出の精度を高めることができる。
キャリブレーション工程では単一の試験物体を用いてもよく、複数の試験物体を用いてもよい。
【0022】
上記キャリブレーション工程においては、応力発光材料を設置した試験物体に対して所定の軸ひずみ速度で動的荷重を加えて発光の程度を確認する。この場合、発光の程度を十分に確認するため、応力発光材料を設置した試験物体に励起光を照射した後に、所定の時間を待機して動的荷重を加えることが好ましい。
【0023】
(2)測定工程
本発明における測定工程は、応力発光材料を設置した測定対象物体に動的荷重を加え、発光の程度を測定する工程である。
測定工程では、一定の軸ひずみ速度(ねじり荷重においては、ねじれ角速度)で動的荷重を加えることになる。
キャリブレーション工程で1種類の所定の軸ひずみ速度で動的荷重を加えて発光の程度を確認した場合、測定工程ではキャリブレーション工程と同じ軸ひずみ速度で測定対象物体に動的荷重を加える必要がある。
一方、キャリブレーション工程で2種類以上の所定の軸ひずみ速度で動的荷重を加えて発光の程度を確認した場合、測定工程で測定対象物体に動的荷重を加える際にいずれの軸ひずみ速度を採用した場合でも発光強度-荷重指標の関係を求めることができる。このため、この場合には測定工程で採用する軸ひずみ速度はキャリブレーション工程で使用したものと同じであってもよく、異なっていてもよい。
測定工程においても、発光の程度を十分に確認するため、応力発光材料を設置した測定対象物体に励起光を照射した後に、所定の時間を待機して動的荷重を加えることが好ましい。
【0024】
(3)既作用荷重を算出する工程
本発明における既作用荷重を算出する工程は、キャリブレーション工程で得られた動的荷重に対する発光の程度と試験物体に既に加わっている既作用荷重との関係と、測定工程で測定された動的荷重に対する発光の程度から、測定対象物体に測定時点で既に加わっている既作用荷重を算出する工程である。
上述したとおり、キャリブレーション工程で得られた軸ひずみ速度と、試験物体に既に加わっている既作用荷重の大きさと、荷重や荷重増分などを基にした荷重指標に対する発光強度との関係を用いることで、測定工程で測定された動的荷重に対する発光の程度から、測定対象物体に測定時点で既に加わっている既作用荷重を求めることができる。
本発明の既作用荷重の算出方法では、測定対象物体への既作用荷重を連続的に観察する必要がなく、また従来のひずみゲージやロードセルのような電源供給や配線が必要な機材を使用する必要がないため、計測に必要なコストやセンサーのメンテナンスコストを削減することができる。更に応力発光材料を励起する場合でも必要な電力は乾電池等のポータブルなバッテリー程度のため、測定対象物体の測定工程はドローン等を用いた遠隔や無人でも行うことが可能である。
【0025】
本発明の既作用荷重の算出方法において、上記測定工程、既作用荷重を算出する工程の具体的な手順は特に制限されないが、以下に具体的な手順の一例を示す。
(1)応力発光材料を設置した測定対象物体に測定対象物体の既作用荷重を伝達して微小なひずみが発生した状態にする。
(2)暗室枠の中で励起用照明により応力発光材料を励起する。
(3)予め定めた所定の時間を待機した後で応力発光材料に動的荷重を加える。
(4)動的荷重の載荷による応力発光材料の発光強度と動的荷重もしくはその特徴量(荷重や荷重増分などを基にした荷重指標)の推移をセンサーで計測する。
(5)計測した発光強度と荷重指標の推移をデータ記録装置に保存する。
(6)荷重指標に対する発光強度とキャリブレーション工程で得られた校正データベースとを比較して測定対象物体の既作用荷重を算出する。
上記(3)工程の所定の時間を待機することについて、励起によって応力発光材料は燐光し、その燐光強度は時間の経過とともに減少するため、測定工程における載荷時の発光強度を一定条件下とするための待機である。
上記(3)工程で加える動的荷重は、軸ひずみ速度が一定になるように載荷するか、荷重や荷重増分などを基にした荷重指標を算出することで行うことができる。
上記工程(6)の校正データベースは、キャリブレーション工程によって得るものであり、既作用荷重、待機時間と動的荷重の荷重指標に対する発光強度を事前に調査して作成した校正係数の関数である。測定工程における載荷の待機時間や軸ひずみ速度を予め定めることで応力発光材料に作用する荷重指標が同程度と考えられる場合は、既作用荷重と発光強度の関係のみを調査した校正データベースでよい。
【0026】
本発明の既作用荷重の算出方法では、測定対象物体と応力発光材料の間で荷重が伝達するように設置する必要があり、物体の中に応力発光材料を設置することにより行ってもよく、塗布型の応力発光材料を用いて、物体の表面に応力発光性塗料組成物を塗布することにより行ってもよい。もしくは、物体の内部又は表面に応力発光材料を設置した応力発光材料片をセンサーとして測定対象物体に設置することにより行ってもよい。
【0027】
上記センサーとして測定対象物体に設置する場合、応力発光材料片には、荷重を伝達する治具を用いて直接荷重が作用してもよく、上記治具と剛性が明らかな枠を介して荷重が作用してもよい。
センサー式の計測システムは、応力発光材料片、励起用照明、既作用荷重伝達治具、測定工程の載荷を行う載荷装置、暗室枠、発光強度計測センサー、データ記録装置、及びデータ処理装置から構成される。励起用照明、測定工程の載荷を行う載荷装置、暗室枠、発光強度計測センサー、データ記録装置、データ処理装置はセンサーを物体に設置した後に取り付けてもよい。またデータ記録装置を外部通信装置として、外部の情報処理端末でデータを記録してもよく、センサー内にデータ処理装置(荷重指標算出、特徴量抽出、校正処理)を持たせてもよい。
上記センサー式を用いれば、物体に後から応力発光材料を設置することができるため、より多くの物体に対して本発明の既作用荷重の算出方法を使用することが可能となる。枠を用いたセンサー式を用いると、枠の剛性を選択することで計測可能な荷重を調整することができる。
【0028】
測定対象物体の内部もしくは表面に応力発光材料を設置した場合、計測システムは、応力発光材料、励起用照明、測定工程の載荷を行う載荷装置、暗室枠、発光強度計測センサー、データ記録装置、及びデータ処理装置から構成される。励起用照明、測定工程の載荷を行う載荷装置、暗室枠、発光強度計測センサー、データ記録装置、データ処理装置はセンサーに後から取り付けてもよい。またデータ記録装置を外部通信装置として、外部の情報処理端末でデータを記録してもよく、センサー内にデータ処理装置(荷重指標算出、特徴量抽出、校正処理)を持たせてもよい。
なお、塗布型の応力発光材料を用いる場合、物体に後から応力発光材料を配置することができるため、より多くの物体に対して本発明の既作用荷重の算出方法を使用することが可能となり、塗布前に物体に作用している荷重を計測するには、塗装後に除荷を行って発光を計測する必要がある。
【0029】
本発明の既作用荷重の算出方法では、測定対象物体に加わっている既作用荷重が静的荷重であっても、動的荷重であっても測定することができる(ただし、既作用荷重が動的荷重である場合、キャリブレーション工程や測定工程で加える動的荷重は既作用荷重よりも十分に短時間で作用する荷重を使用することが必要となる)。また、測定対象物体の複数の計測地点データから測定対象物体の全体の荷重分布などを算出することも可能である。
また、キャリブレーション工程で試験物体に加わっている既作用荷重、及び測定工程で測定対象物体に加わっている既作用荷重は、圧縮荷重、引張荷重、ねじり荷重、せん断荷重のいずれであってもよい。
キャリブレーション工程で試験物体に加わっている既作用荷重と試験物体に加えられる動的荷重の方向が異なる場合、既作用荷重に対する発光強度が低下するなどの影響が生じる。この性質を利用すれば、測定対象物体に既作用荷重と同じ方向に動的荷重を加えられない場合であっても本発明の既作用荷重の算出方法を用いて測定対象物体に測定時点で既に加わっている既作用荷重を算出することができる。
【0030】
本発明の既作用荷重の算出方法では、キャリブレーション工程で試験物体に加える動的荷重、及び、測定工程で測定対象物体に加える動的荷重は、圧縮荷重、引張荷重、ねじり荷重、せん断荷重のいずれであってもよい。校正が可能であれば、キャリブレーション工程で試験物体に加える動的荷重の種類と測定工程で測定対象物体に加える動的荷重の種類とが異なっていてもよいが、通常はキャリブレーション工程で試験物体に加える動的荷重の種類と測定工程で測定対象物体に加える動的荷重の種類とは共通のものを用いる。
【0031】
2.既作用荷重と発光の程度との関係を確認する方法
上述したとおり、本発明者は、応力発光材料が設置され、既作用荷重が加わっている物体に、同じ荷重方向の動的荷重を加えた場合、荷重や荷重増分などを基にした荷重指標に対する発光強度は、物体に加わる軸ひずみ速度と物体に既に加わっている既作用荷重の大きさに応じて大きくなり、また、軸ひずみ速度が一定の場合、荷重や荷重増分などを基にした荷重指標に対する発光強度は物体への既作用荷重に応じて大きくなる関係があることを見出した。この関係を利用することで、物体の既作用荷重を簡便に算出することができる。この算出のために、物体に加わっている荷重と発光との関係を確認する方法、すなわち、応力発光材料を設置した物体に加わっている荷重と動的荷重に対する発光の程度との関係を確認する方法であって、該方法は、応力発光材料が設置され、様々な所定の既作用荷重が加えられた試験物体に動的荷重を加え、その際の動的荷重に対する発光の程度を確認することを特徴とする既作用荷重と発光の程度との関係を確認する方法もまた、本発明の1つである。
【0032】
3.応力発光材料
以下に、本発明において使用する応力発光材料について説明する。
本発明において用いる応力発光材料は、外部からの力学的刺激を受けると発光する特性を有するものである限り特に制限されないが、elastico-luminescenceに分類される、物質の弾性領域における力学的刺激の大きさに応じて発光する材料が望ましい。より望ましくは、ユーロピウム賦活アルミン酸ストロンチウム系応力発光材料等の、アルミン酸ストロンチウムを母体とする応力発光材料である。
【0033】
アルミン酸ストロンチウムは、一般的にSrxAlyOz(0<x、0<y、0<z)で表される化合物である。特に限定されないが、アルミン酸ストロンチウムの具体例としては、SrAl2O4、SrAl4O7、Sr4Al14O25、SrAl12O19、Sr3Al2O6等の種々の化合物が知られている。
【0034】
上記アルミン酸ストロンチウムは、θアルミナ、κアルミナ、δアルミナ、ηアルミナ、χアルミナ、γアルミナ、及びρアルミナから選択される少なくとも1種のアルミナを含有するアルミナ原料又は水酸化アルミニウムと、ストロンチウム源とから合成されたものであるのが好ましい。通常「アルミナ」といえば安価で汎用のαアルミナを指す場合が多いが、θアルミナなどのいわゆる活性アルミナ、又は水酸化アルミニウムを原料として用いれば、αアルミナを用いた場合よりも高い発光強度を達成できるためである。
【0035】
賦活剤としては、ユーロピウム(Eu)イオンを含有することが望ましい。上記応力発光材料中に含まれるEuイオンの量は特に限定されないが、アルミン酸ストロンチウム1モル当たり、0.0001~0.01モル、好ましくは0.0005~0.01モル、より好ましくは0.0005~0.005モルである。Euイオンの量が少なすぎると十分な発光強度を達成することができず、また多すぎても発光強度は飽和する一方で、別の物性にも影響をおよぼすことがある。
【0036】
応力発光材料は、さらに共賦活剤を含んでもよい。共賦活剤としては、特に限定されないが、Eu以外の希土類元素の化合物又はイオンが挙げられる。上記Eu以外の希土類元素の例としては、Sc、Y、Zr、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等から選択される1種以上の元素が挙げられる。これらはイオン半径や価数の異なる元素で置換することにより格子欠陥が形成され、結晶構造がより歪みやすくなる結果、応力発光能が向上するため好ましい。中でも特にNd、Dy、Hoを共賦活剤とした場合には高い発光輝度が得られる点で好ましい。
また、上記希土類元素の化合物としては、上記元素の炭酸塩、酸化物、水酸化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩等が挙げられる。
【0037】
応力発光材料には、さらに、粒子の分散性を高めるための分散剤が添加されていてもよい。分散剤の例としては、特に限定されないが、アニオン系界面活性剤やノニオン系界面活性剤が用いられる。アニオン系界面活性剤としては、ポリカルボン酸アンモニウム、ポリカルボン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム等が挙げられ、ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンモノ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
応力発光材料には、さらに、粒子の結晶性を高めるためにフラックス成分が添加されていても良い。上記フラックス成分としては、特に限定されないが、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化アルミニウム、フッ化アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、臭化アンモニウム、ヨウ化アンモニウム、ヨウ化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム等の化合物が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
また、応力発光材料の表面をシランカップリング剤で被覆して、熱処理を行うことによって、耐水性を高めた応力発光材料であってもよい。
上記シランカップリング剤は、トリアルコキシシランを含むことが望ましい。
また、上記トリアルコキシシランのアルコキシ基以外の置換基は、炭素数3以上の炭化水素基であることが望ましい。
上記のようなシランカップリング剤によると、アルコキシ基以外の置換基の構造により疎水性を高めることができるため、さらに耐水性に優れた応力発光材料として使用することができる。
【0040】
また、上記シランカップリング剤は、フルオロアルキル基を有するシランカップリング剤であることが望ましい。
シランカップリング剤がフルオロアルキル基を有すると、疎水性を高めることができるため、さらに耐水性に優れた応力発光材料として使用することができる。
【0041】
また、上記シランカップリング剤は、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシランであることが望ましい。
3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシランを用いると、特に耐水性に優れた応力発光材料として使用することができる。
【0042】
また、応力発光材料とリン酸化合物を乾式や湿式で混合することにより、応力発光材料の表面をリン酸化合物により改質してなる、表面処理層を有する応力発光材料であってもよい。
このような表面処理層を有する応力発光材料も、充分な耐水性を有する応力発光材料になるため望ましい。
【0043】
リン酸化合物は特に規定されず、無機リン酸塩、有機リン酸塩ともに使用が可能である。その中では水溶性塩(リン酸も含む)が望ましく、具体的には、リン酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、ポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、及びリン酸からなる群から選択された少なくとも1種であることが望ましい。
【0044】
応力発光材料の製造方法は特に限定されるものではないが、特開2017-044634号公報に記載の方法等により製造することができる。
【0045】
本発明の既作用荷重の算出方法を、応力発光材料を物体中に設置することにより行う場合、上述した応力発光材料の粒子とセラミックス材料と混練し、焼結して得た硬化物や、応力発光材料の粒子と硬化性樹脂とを混合し、硬化させて得た硬化物を物体中に設置することにより行うことができる。硬化性樹脂としては後述するものを用いることができる。
【0046】
上記応力発光材料の粒子とセラミックス材料と混練し、焼結して得た硬化物や応力発光材料の粒子と硬化性樹脂とを混合し、硬化させて得た硬化物100質量%中の応力発光材料の粒子の割合は1~90質量%であることが好ましい。このような割合であると、本発明の既作用荷重の算出方法に使用した場合に、発光の程度をより十分に確認することができる。より好ましくは、5~80質量%である。
【0047】
本発明の既作用荷重の算出方法において応力発光性塗料組成物を用いる場合、塗料組成物として、樹脂を含有する塗料組成物が使用される。塗料組成物には、樹脂の他に、必要に応じて、溶剤、分散剤、充填剤、増粘剤、表面調整剤あるいはレベリング剤、硬化剤、架橋剤、顔料、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤を含む光安定剤、難燃剤、硬化用触媒、殺菌剤、及び抗菌剤、密着性付与、等の塗料用添加剤を含有することができる。
【0048】
塗料組成物に用いる樹脂としては熱硬化性樹脂、常温硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、放射線硬化性樹脂等各種のものを用いることができ、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アミノ樹脂等や、オルガノシリケート、オルガノチタネート等が挙げられる。インキ膜形成材料としては、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル樹脂、及び塩素化プロピレン樹脂等が挙げられる。これらの樹脂の中ではエポキシ樹脂又はポリウレタン樹脂を含むことが望ましい。塗料組成物がエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂系塗料又はポリウレタン樹脂を含むポリウレタン樹脂系塗料であると、物体に加わっている負荷の大きさと発光の輝度の対応関係が明確であり、物体に加わっている負荷の程度の判定が容易である。
【0049】
溶剤としては、脂肪族炭化水素類や、芳香族炭化水素(C7~10、例えばトルエン、キシレンおよびエチルベンゼン)、エステルまたはエーテルエステル(C4~10、例えばメトキシブチルアセテート)、エーテル(C4~10、例えば、テトラヒドロフラン、EGのモノエチルエーテル、EGのモノブチルエーテル、PGのモノメチルエーテルおよびDEGのモノエチルエーテル)、ケトン(C3~10、例えば、メチルイソブチルケトン、ジ-n-ブチルケトン)、アルコール(C1~10、例えばメタノール、エタノール、n-およびi-プロパノール、n-、i-、sec-およびt-ブタノール、2-エチルヘキシルアルコール)、アミド(C3~6、例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等)、スルホキシド(C2~4、例えばジメチルスルホキシド)、およびこれらの2種以上の混合溶剤や、水又は前述の混合溶媒等が挙げられる。
【0050】
応力発光性塗料組成物が含んでいてもよい分散剤、充填剤、増粘剤、レベリング剤、硬化剤、架橋剤、顔料、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤を含む光安定剤、難燃剤、硬化用触媒、殺菌剤としては特開2017-044634号公報に記載のもの等を用いることができる。
【0051】
上記応力発光性塗料組成物100質量%中(乾燥後)の応力発光材料の粒子の割合は40~95質量%であることが好ましい。このような割合であると、本発明の既作用荷重の算出方法に使用した場合に、発光の程度をより十分に確認することができる。より好ましくは、50~90質量%である。
【0052】
本発明の既作用荷重の算出方法において応力発光材料を樹脂に混練した応力発光性混練樹脂組成物を用いる事もできる。その場合の樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリアクリル樹脂、ウレタン樹脂、スチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、アクリロニトリルスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリアセタール、ポリカーボネート、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル系樹脂、不飽和ポリエステル、フラン樹脂、ニトロセルロース、プロピオン酸セルロース、エチルセルロース、ポリメチルペンテン、ポリフェニレンエーテル、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、ポリフェニレンオキサイドなどを使用する事ができる。応力発光を確認する為には、透明性のある樹脂が好ましく、上記応力発光性混練樹脂組成物100質量%試料中の応力発光材料の粒子の割合は1~50質量%であることが好ましい。このような割合であると、本発明の既作用荷重の算出方法に使用した場合に、発光の程度をより十分に確認することができる。より好ましくは、3~30質量%である。
【0053】
上記応力発光性混練樹脂組成物は、必要に応じて、分散剤、増粘剤、表面調整剤あるいはレベリング剤、硬化剤、架橋剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤を含む光安定剤、難燃剤、硬化用触媒、殺菌剤、及び、密着性付与剤、等の添加剤を含有することができる。
これらの各添加剤の具体例としては、特開2017-165947号に記載のものと同様のものが挙げられる。
【0054】
本発明の既作用荷重の算出方法は、物体に加わっている荷重を簡便に算出することができる方法であるため、種々の物体に対して用いることが可能であり、例えば、ビル建物、高架橋、橋梁、道路、鉄道レール、支柱、塔、パイプライン及びトンネル等の構造物;床材、タイル、壁材、ブロック材、舗装材、木材、鉄鋼、コンクリート等の建材;歯車、カム等の動力伝達部材;自転車、自動車、電車、船、飛行機等に使用される外装用部品又は内蔵部品(エンジン部品、タイヤ、ベルト等)、軸受部品、軸受用保持器、および、光センサ付軸受、ネジ、ボルト、ナット、ワッシャ等の締結用部品;樹木、岩石等の自然物等に使用することができる。
【実施例0055】
本発明を詳細に説明するために以下に具体例を挙げるが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「%」及び「wt%」とは「重量%(質量%)」を意味する。
【0056】
(製造例1)
応力発光材料1の作成
応力発光材料としてSrAl2O4:Euで表される希土類賦活アルミン酸ストロンチウムを準備し、ポリメタクリル酸メチル樹脂に重量比8%で混合して、熱間埋め込み装置(丸本ストルアス製)を用いて直径25mm、厚さ10mm成形したペレットを切削加工して所定の形状(JIS K 7181:2011に規定するプラスチック-圧縮特性の求め方に従って作製したもので長さ10mm×幅10mm×厚さ4mmのB型試験片の形状)の応力発光材料1を作成した。
【0057】
(実施例1)
応力発光材料が設置された試験物体に予め加えた荷重の大きさ(既作用荷重)と、該試験物体に対して動的荷重を加えた場合の発光の程度との関係を確認するキャリブレーション工程について、圧縮方向の荷重を対象として、製造例1で製造した応力発光材料1を用いて実施した。
また、既作用荷重の算出の精度を高める観点から、このキャリブレーション工程では3個のペレット(ペレットA1、B1、C1)を用いて、同一の載荷条件における発光の程度を確認し、その結果を平均している。
【0058】
応力発光材料を混合したアクリル樹脂ペレットを、暗室で微小強度評価試験機(島津製作所製マイクロオートグラフMST-I type-HR)に設置し、既作用荷重を与え、365nmの紫外線を1分間照射し、1分間待機させた後、JIS K 7181:2011に規定するプラスチック-圧縮特性の求め方に従い、圧縮荷重を加えて応力発光ペレットの発光強度と軸変形量の経時変化を測定した。算出の精度を高める観点から、10N(供試体保持のための荷重)、100N、200N、300Nの既作用荷重において、載荷速度を20mm/min、10mm/min、5mm/min、2mm/min(軸ひずみ速度に換算して、3.33% strain・s
-1、1.67% strain・s
-1、0.833% strain・s
-1、及び、0.333% strain・s
-1)に変更して圧縮試験を行い、応力発光ペレットの発光強度と軸変形量の経時変化を測定した。
発光挙動の観察条件として、カメラ(Black magic design社製)とレンズ(SIGMA社製、撮影時F値1.8)を用いて、解像度6144×3456ピクセル、ISO感度6400、撮影速度50fps、撮影データRGB16bitで撮影した。
発光強度を表す指標として、応力発光ペレットの観察面(長さ10mm×幅10mm)における各画素の緑色成分の輝度値の平均値(以下、平均発光強度)を用いた。荷重指標には、荷重を用いた。
図5は、ペレットA1を用いて既作用荷重10Nで載荷した際の荷重測定値と平均発光強度を時間軸に対してプロットしたグラフと、測定中の発光の様子を示す撮影画像である。
図5より、構造物に加わる荷重が増し、経過時間とともに軸ひずみ量(軸変形量)が大きくなるのに伴い発光輝度が増していることが明確にわかる。
図6は、ペレットA1を用いて既作用荷重10N、軸ひずみ速度を上述の4種類で載荷した条件における既作用荷重に付加して作用した荷重(既作用荷重は含まない)と平均発光強度の関係を示しており、各プロットについて回帰直線と相関係数も示している。(
図1に相当)
図6より、いずれの軸ひずみ速度でも荷重と平均発光強度の間には高い相関関係がみられ、軸ひずみ速度が大きいほど同じ荷重に対して発光強度が高いことが確認できる。
図7は、既作用荷重10Nにおける荷重-平均発光強度の関係における回帰直線の傾き(
図1のαに相当)と軸ひずみ速度の関係を示しており、このプロットにおける回帰直線と相関係数も示している(
図2に相当)。
図7より、荷重-平均発光強度の関係における回帰直線の傾きと軸ひずみ速度には、高い相関関係があることが分かる。よって、試験物体に与えられる軸ひずみ速度に応じて荷重-平均発光強度の関係における回帰直線の傾きが算出できることがわかる。
【0059】
上記の関係をもとに、
図6の軸ひずみ速度1.67% strain・s
-1における荷重-平均発光強度の関係を代表として、
図8に10N、100N、200N、300Nの既作用荷重時における、付加して作用した荷重(既作用荷重は含まない)と平均発光強度の関係を示しており、各プロットについて回帰直線と相関係数も示している。
図8より、いずれの既作用荷重でも荷重と平均発光強度の間には高い相関関係がみられ、既作用荷重が大きいほど同じ付加された荷重に対して発光強度が高いことが確認できる。
図9に、
図8の軸ひずみ速度1.67% strain・s
-1における付加された荷重-平均発光強度の関係における回帰直線の傾きと既作用荷重の関係を3個のペレットについてプロットしており、その平均値をグラフにしている。
図9より、既作用荷重が大きくなるほど、付加された荷重-平均発光強度の関係における回帰直線の傾きは単調に低下する傾向を示していることがわかる。
図10に、
図9の付加された荷重-平均発光強度の関係における回帰直線の傾き平均と既作用荷重の関係の関係を軸ひずみ速度ごとに示している。
図9より、付加された荷重-平均発光強度の関係における回帰直線の傾き平均と既作用荷重の関係は、軸ひずみ速度の増加に伴って単調に低下することがわかる。この軸ひずみ速度と既作用荷重に対する荷重-平均発光強度の関係における回帰直線の傾きを関数で表現することによりキャリブレーション工程を実施した。
以上より、測定工程において、所定の軸ひずみ速度(載荷速度)において、荷重-平均発光強度の関係における回帰直線の傾きを求め、キャリブレーション工程で得られた軸ひずみ速度と既作用荷重に対する荷重-平均発光強度の関係における回帰直線の傾きを表す関数に代入することで、既作用荷重を算出することができる。この一連の工程の一例を
図11に示す。
【0060】
(製造例2)
応力発光材料2の作成
応力発光材料としてSrAl2O4:Euで表される希土類賦活アルミン酸ストロンチウムを準備し、ポリメタクリル酸メチル樹脂に重量比8%で混合して、熱間埋め込み装置(丸本ストルアス製)を用いて直径50mm、厚さ2mm成形したペレットを切削加工して所定の形状(JIS K 7161-2:2014に規定するプラスチック-引張特性の求め方-第2部:型成形に従って作製した1BB型試験片の形状)の応力発光材料2を作成した。
【0061】
(実施例2)
実施例1において、載荷方向を圧縮方向から引張方向に変更した荷重を対象として、製造例2で製造した応力発光材料2を用いて実施した。
また、既作用荷重の算出の精度を高める観点から、このキャリブレーション工程では同様に3個のペレット(ペレットA2、B2、C2)を用いて、同一の載荷条件における発光の程度を確認し、その結果を平均している。
【0062】
応力発光材料を混合したアクリル樹脂ペレット(引張荷重用)は、暗室で微小強度評価試験機(島津製作所製マイクロオートグラフMST-I type-HR)に設置し、既作用荷重を与え、365nmの紫外線を1分間照射し、30秒待機させた後、JIS K 7161-1:2014に規定するプラスチック-引張特性の求め方-第1部:通則に従い、引張荷重を加えて応力発光ペレットの発光強度と軸変形量の経時変化を測定した。算出の精度を高める観点から1N(供試体保持のための荷重)、10N、20N、30Nの既作用荷重において、載荷速度を20mm/min、10mm/min、5mm/min、2mm/min(軸ひずみ速度に換算して、3.33% strain・s
-1、1.67% strain・s
-1、0.833% strain・s
-1、0.333% strain・s
-1)に変更して引張試験を行い、応力発光ペレットの発光強度と軸変形量の経時変化を測定した。
なお、既作用荷重は、ペレットの断面積を考慮すると0.25N/mm
2、2.5N/mm
2、5.0N/mm
2、7.5N/mm
2と、実施例1の圧縮試験と同一である。軸ひずみ速度についても、標線間距離は圧縮試験のペレットと同様に10mmであるため同一である。
発光挙動の観察条件、発光強度を表す指標は実施例1と同様とした。荷重指標には荷重を用いた。なお、平均発光強度は、標線間距離の位置における発光強度の平均値としている。
ペレットA2を用いて既作用荷重1Nで載荷した際の荷重測定値と平均発光強度を時間軸に対してプロットしたグラフと、測定中の発光の様子を示す撮影画像を
図12に示す。
【0063】
得られた測定結果から、実施例1と同様の手順により、実施例1の
図10に相当する、付加された荷重-平均発光強度の関係における回帰直線の傾き平均と既作用荷重の関係の関係を軸ひずみ速度ごとに示した図(
図13)を作成することで、キャリブレーション工程を実施した。
以降は実施例1と同様に、測定工程において、所定の軸ひずみ速度において、荷重-平均発光強度の関係における回帰直線の傾きを求め、キャリブレーション工程で得られた軸ひずみ速度と既作用荷重に対する荷重-平均発光強度の関係における回帰直線の傾きを表す関数に代入することで、既作用荷重を算出することができる。