(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064687
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】試料分析方法、キャピラリ電気泳動用溶液、及び試料分析用キット
(51)【国際特許分類】
G01N 27/447 20060101AFI20240507BHJP
【FI】
G01N27/447 315K
G01N27/447 301A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173451
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大賀 美咲
(72)【発明者】
【氏名】大沼 直嗣
(57)【要約】
【課題】アルブミン及びγ-グロブリンを従来の方法よりも短時間で分離することができる、試料分析方法、キャピラリ電気泳動用溶液、及び試料分析用キットの提供。
【解決手段】アルカリ性溶液中において、キャピラリ電気泳動により試料中のアルブミン及びγ-グロブリンを分離する分離工程を含み、且つ上記アルカリ性溶液が、カチオン性ポリマーを含有する、試料分析方法等。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ性溶液中において、キャピラリ電気泳動により試料中のアルブミン及びγ-グロブリンを分離する分離工程を含み、且つ
前記アルカリ性溶液が、カチオン性ポリマーを含有する、試料分析方法。
【請求項2】
前記カチオン性ポリマーの重量平均分子量が、10,000~500,000である、請求項1に記載の試料分析方法。
【請求項3】
前記カチオン性ポリマーの重量平均分子量が、15,000~150,000である、請求項1又は請求項2に記載の試料分析方法。
【請求項4】
前記カチオン性ポリマーが、ジメチルアミン-アンモニア-エピクロルヒドリン重合物、ジメチルアミン-エピクロルヒドリン重合物、ジアリルアミン-アクリルアミド重合物、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリジアリルアミン、アリルアミン-ジアリルアミン重合物、ポリメチルジアリルアミン及びジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合物からなる群より選択される1つ以上を含む、請求項1又は請求項2に記載の試料分析方法。
【請求項5】
アルカリ性溶液の総質量に対する前記カチオン性ポリマーの含有率が、0.01質量%~10質量%である、請求項1又は請求項2に記載の試料分析方法。
【請求項6】
前記分離工程におけるキャピラリ電気泳動の泳動時間が、50秒以上、250秒未満である、請求項1又は請求項2に記載の試料分析方法。
【請求項7】
前記アルカリ性溶液のpHが、8.5~12.0である、請求項1又は請求項2に記載の試料分析方法。
【請求項8】
カチオン性ポリマーを含有し、且つキャピラリ電気泳動によるアルブミン及びγ-グロブリンの分離に用いられる、キャピラリ電気泳動用溶液。
【請求項9】
請求項8に記載のキャピラリ電気泳動用溶液を含む容器と、
試料保持槽、泳動液保持槽及びキャピラリ流路を有し、前記試料保持槽と前記泳動液保持槽とが前記キャピラリ流路により連通する電気泳動チップと、
を含む、試料分析用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、試料分析方法、キャピラリ電気泳動用溶液、及び試料分析用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査の現場において、赤血球に含まれるヘモグロビン、血清中に含まれるアルブミン、グロブリン等のタンパク質などの分析が日常的に行われている。
例えば、ヘモグロビンにおいては、糖尿病の診断や病状把握のための分析対象としてHbA1cがある。また、異常ヘモグロビン症、βサラセミア症の診断のための分析対象としては、HbS(鎌状赤血球ヘモグロビン)、HbC、HbD、HbE、HbA2、HbF等が広く用いられている。特許文献1には、キャピラリ電気泳動により、カチオン性ポリマーを含むアルカリ性溶液中で各種ヘモグロビンを分離することを含む試料分析方法が記載されている。
【0003】
また、血清中のアルブミン及びγ-グロブリンは、多発性骨髄腫、ネフローゼ症候群、肝硬変、栄養障害等の様々な疾患の指標として用いられている。
例えば、多発性骨髄腫の患者では、骨髄にある形質細胞ががん化することにより正常な抗体産生が行われず、異常産生された単クローン性の免疫グロブリン又はその一部が、血清又は尿中に出現するM蛋白血症を示す。そのため、M蛋白質は、多発性骨髄腫の診断及び治療効果の目安となる重要な指標である。臨床検査において、アルブミン及びγ-グロブリンを測定する方法として、BCP改良法、Biuret法、電気泳動法を用いた血清蛋白分画法等が知られているが、M蛋白質の検出には電気泳動法による測定が必須である。
通常、血清中の免疫グロブリンの多くは、ポリクローナルな抗体であるため、電気泳動を行った際にγ-グロブリン分画にブロードなピーク示す。
一方、M蛋白質は、モノクローナル抗体であり、単一な電荷を有するため、γ-グロブリン分画にMピークと呼ばれるシャープなピークを示す。そのため、電気泳動法では、M蛋白質の有無を鑑別することが可能である。
【0004】
このように、電気泳動法によるアルブミン及びγ-グロブリン等の血清蛋白質の検査は、M蛋白質の検出、様々な疾患の病態把握に有用であるため、血清蛋白異常症のスクリーニング検査として広く用いられている。
電気泳動法を用いた蛋白分画検査の中でもキャピラリ電気泳動法は、分析時間が短く多くの検体を処理できることから、近年需要が高まっている。
【0005】
キャピラリ電気泳動法によるアルブミン及びγ-グロブリンの分離方法として、例えば、特許文献2には、25℃で8.8~10.7の範囲のpKaを有する生物学的緩衝液を含む緩衝系及び緩衝系のイオン強度を増加できる少なくとも1つの添加剤を含む、キャピラリーチューブに試料を導入する、少なくとも1つの工程を含むことを特徴とする、タンパク質構成成分を含む臨床試料を分析するためのアルカリ性pHの自由溶液のキャピラリ電気泳動法が記載されており、単クローングロブリン血症を有する血清に含まれるアルブミン及びγ-グロブリンを含む各グロブリンを10分以内に分離したことが記載されている。
特許文献3には、タンパク質構成成分を含む試料を分析するための、アルカリ性pHの自由溶液のキャピラリ電気泳動法であって、緩衝系を含むキャピラリーチューブに試料を導入する少なくとも1つの工程を含むことを特徴とし、該緩衝系はさらに、1つ以上のタンパク質構成成分と疎水的に相互作用することができ、該タンパク質構成成分に、1つ以上の負の荷電を与え、電気泳動度を調整できる、少なくとも1つの添加剤を含む、前記電気泳動法が記載されており、正常な血清に含まれるアルブミン及びγ-グロブリンを含む各グロブリンを10分以内に分離したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-136135号公報
【特許文献2】特開2004-517338号公報
【特許文献3】特表2004-517339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のキャピラリ電気泳動法は、アルブミン及びγ-グロブリンを分離するために10分程度の時間を要しており、臨床検査の現場等において大量の検体を分析する場合、これを短縮するために、キャピラリを複数備えるシステムを用意する必要があった。
【0008】
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、アルブミン及びγ-グロブリンを従来の方法よりも短時間で分離することができる、試料分析方法、キャピラリ電気泳動用溶液、及び試料分析用キットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の実施形態に係る試料分析方法は、アルカリ性溶液中において、キャピラリ電気泳動により試料中のアルブミン及びγ-グロブリンを分離する分離工程を含み、且つ
前記アルカリ性溶液が、カチオン性ポリマーを含有する。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一実施形態によれば、アルブミン及びγ-グロブリンを従来の方法よりも短時間で分離することができる、試料分析方法、キャピラリ電気泳動用溶液、及び試料分析用キットを提供することできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1Aは、キャピラリ電気泳動チップの一実施形態を示す上面図である。
図1Bは、
図1Aに示す電気泳動チップの断面図である。
【
図2】
図2Aは、実施例1の試料分析方法において、試料Aを用いて得られたエレクトロフェログラムを示す。
図2Bは、実施例1の試料分析方法において、試料Bを用いて得られたエレクトロフェログラムを示す。
【
図3】
図3Aは、実施例2の試料分析方法において、試料Aを用いて得られたエレクトロフェログラムを示す。
図3Bは、実施例2の試料分析方法において、試料Bを用いて得られたエレクトロフェログラムを示す。
【
図4】
図4は、実施例3の試料分析方法において、試料Bを用いて得られたエレクトロフェログラムを示す。
【
図5】
図5Aは、実施例4の試料分析方法において、試料Cを用いて得られたエレクトロフェログラムを示す。
図5Bは、実施例4の試料分析方法において、試料Dを用いて得られたエレクトロフェログラムを示す。
【
図6】
図6は、実施例5の試料分析方法において、試料Eを用いて得られたエレクトロフェログラムを示す。
【
図7】
図7は、実施例6の試料分析方法において、試料Fを用いて得られたエレクトロフェログラムを示す。
【
図8】
図8は、比較例1の試料分析方法において、試料Gを用いて得られたエレクトロフェログラムを示す。
【
図9】
図9は、比較例2の試料分析方法において、試料Hを用いて得られたエレクトロフェログラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一例である実施形態について説明する。これらの説明及び実施例は、実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。
なお、本明細書において、数値範囲を示す「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0013】
各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。
組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数
種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
本開示において、「工程」という語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において実施形態を図面を参照して説明する場合、当該実施形態の構成は図面に示された構成に限定されない。また、各図における部材の大きさは概念的なものであり、部材間の大きさの相対的な関係はこれに限定されない。
【0014】
[試料分析方法]
本開示の実施形態に係る試料分析方法(以下、「特定試料分析方法」とも記す。)は、アルカリ性溶液中において、キャピラリ電気泳動により試料中のアルブミン及びγ-グロブリンを分離する分離工程を含み、且つ上記アルカリ性溶液(以下、「特定アルカリ性溶液」とも記す。)が、カチオン性ポリマーを含有する。
【0015】
特定試料分析方法によれば、アルブミン及びγ-グロブリンを従来の方法よりも短時間で分離することができる。上記効果が奏される理由は明らかではないが、以下のように推測される。
分析対象物質であるアルブミン及びγ-グロブリンは、アルカリ性溶液中において負に帯電する。そして、これらの分析対象物質は、試料導入側に負電極を接触させて電圧を印加すると分析対象物質の電荷および電気浸透流によって正電極側へ移動する。
一方、カチオン性ポリマーは、カチオン性基を有しているため、正電極側から負電極側へ移動する。電気泳動中にキャピラリ内で分析対象物質とカチオン性ポリマーが結合-解離を繰り返して相互作用することにより分析対象物質は正に帯電するため、分析対象物質を負電極側へ引き戻す力が発生する。カチオン性ポリマーは、電荷が大きいことから、カチオン性ポリマーと相互作用した分析対象物質間の電荷差は、本来分析対象物質が持つ電荷差よりも大きくなる。したがって、分析対象物質間の泳動速度の差が大きくなることから、アルブミン及びγ-グロブリンを短時間で効率よく分離することが可能になると推測される。
【0016】
<分離工程>
特定試料分析方法は、特定アルカリ性溶液中において、キャピラリ電気泳動により試料中のアルブミン及びγ-グロブリンを分離する分離工程を含む。
【0017】
特定アルカリ性溶液中におけるキャピラリ電気泳動による試料中のアルブミン及びγ-グロブリンの分離は、特定アルカリ性溶液が充填されたキャピラリ流路に試料を導入し、試料の導入後、キャピラリ流路の全体又は一部に電圧を印加することにより行うことができる。上記電圧の印加により、試料中のアルブミン及びγ-グロブリンを電気泳動させることができ、分離することができる。
キャピラリ流路への電圧の印加は、キャピラリ流路の試料導入側に負電極を接触させ、特定アルカリ性溶液供給側に正電極を接触させることにより行うことができる。
【0018】
キャピラリ流路の断面形状は、特に限定されるものではなく、円形状であってもよく、矩形状であってもよく、その他の形状であってもよい。
矩形状の場合、キャピラリ流路の流路高さ及び流路幅は、それぞれ、1μm~1000μmであることが好ましく、10μm~200μmであることがより好ましく、25μm~100μmであることが更に好ましい。円形状の場合、キャピラリ流路の内径は、10μm以上又は25μm以上が好ましく、100μm以下又は75μm以下が好ましい。
キャピラリ流路の流路長は、10mm~150mmであることが好ましく、20mm~60mmであることがより好ましい。
【0019】
キャピラリ流路の材質としては、ガラス、溶融シリカ、プラスチック等が挙げられる。プラスチックとしては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等が挙げられる。
【0020】
分離工程は、上記したキャピラリ流路がマイクロチップ化されたキャピラリ電気泳動チップを使用して行ってもよい。
キャピラリ電気泳動チップは、試料保持槽、泳動液保持槽及びキャピラリ流路を有することができ、試料保持槽と泳動液保持槽とはキャピラリ流路により連通する。
キャピラリ電気泳動チップのサイズは、特に限定されるものではなく、適宜調整することが好ましい。キャピラリ電気泳動チップのサイズは、例えば、長さ10mm~200mm、幅1mm~60mm、厚み0.3mm~5mmとすることができる。
【0021】
試料保持槽及び泳動液保持槽の容積は、キャピラリ流路の内径及び長さに応じて適宜決定されるが、それぞれ、1mm3~1000mm3であることが好ましく、5mm3~100mm3であることがより好ましい。
試料保持槽に充填する試料の量は、特に限定されるものではなく、1μL~70μLとすることができる。
泳動液保持槽に充填する特定アルカリ性溶液の量は、特に限定されるものではなく、1μL~70μLとすることができる。
【0022】
キャピラリ流路の両端に印加する電圧は、500V~10000Vであることが好ましく、500V~5000Vであることがより好ましい。
【0023】
分離工程におけるキャピラリ電気泳動の泳動時間は、50秒以上、250秒未満であることが好ましく、60秒以上、200秒以下であることがより好ましい。
【0024】
キャピラリ流路内において、負電極側から正電極側に向かう液流を生じさせてもよい。液流としては、電気浸透流等が挙げられる。
【0025】
キャピラリ流路は、その内壁がカチオン性物質又はアニオン性物質で被覆されていることが好ましい。
カチオン性物質によりキャピラリ流路の内壁を被覆することによって、キャピラリ流路の内壁をプラスに帯電させることができる。その結果、キャピラリ流路内に負電極側から正電極側に向かう電気浸透流を容易に生じさせることができる。
アニオン性物質によりキャピラリ流路の内壁を被覆した場合、キャピラリ流路の内壁はマイナスに帯電するが、特定アルカリ性溶液に含有されるカチオン性ポリマーがマイナスに帯電したキャピラリ流路の内壁に結合する。これにより、キャピラリ流路の内壁はプラスに帯電され、上記と同様にキャピラリ流路内に負電極側から正電極側に向かう電気浸透流を容易に生じさせることができる。
【0026】
カチオン性物質は、特に限定されるものではなく、カチオン性官能基を有するシランカップリング剤等を使用することができる。分離精度を向上する観点から、カチオン性物質は、第4級アンモニウム塩基を有するポリマーであることが好ましい。
【0027】
アニオン性物質は、特に限定されるものではなく、アニオン性基を有する多糖類、アニオン性官能基を有するシランカップリング剤等を使用することができる。
アニオン性基を有する多糖類としては、硫酸化多糖類、カルボン酸化多糖類、スルホン酸化多糖類、リン酸化多糖類等が挙げられる。
硫酸化多糖類としては、コンドロイチン硫酸、へパリン、へパラン、フコイダン、これらの塩等が挙げられる。カルボン酸化多糖類としては、アルギン酸、ヒアルロン酸、これらの塩等が挙げられる。
【0028】
図1A及び
図1Bに、キャピラリ電気泳動チップの一実施形態を示す。
図1Aは、キャピラリ電気泳動チップの一実施形態を示す上面図であり、
図1Bは、
図1Aに示す電気泳動チップの断面図である。
図1A及びBに示すキャピラリ電気泳動チップは、キャピラリ流路1、試料保持槽2及び泳動液保持槽3を備え、試料保持槽2及び泳動液保持槽3は、キャピラリ流路1により連通している。キャピラリ流路1には検出部4が形成されている。
試料保持槽2及び泳動液保持槽3は、キャピラリ流路1の両端に電圧を印加するための電極をそれぞれ備えていてもよい(図示せず)。具体的には、試料保持槽2(試料導入側)が負電極を備え、泳動液保持槽3(特定アルカリ性溶液供給側)が正電極を備えることができる。
【0029】
検出部4の位置、すなわち、分離に要する長さ(試料保持槽2から検出部4までの距離、
図1Aにおけるx)は、キャピラリ流路1の長さ等により適宜決定できる。キャピラリ流路1の長さ(
図1Aにおけるx+y)が10mm~150mmである場合、試料保持槽2から検出部4までの距離(x)は、5mm~140mmであることが好ましく、10mm~100mmであることがより好ましく、15mm~50mmであることが更に好ましい。
【0030】
-特定アルカリ性溶液-
本開示において、「アルカリ性」とは、pH7.0超であることを意味する。特定アルカリ性溶液のpHは、アルブミン及びγ-グロブリンの等電点よりも高いことが好ましく、8.5~12.0であることが好ましく、9.0~11.0であることがより好ましく、9.0~10.0であることが更に好ましい。
なお、本開示において、特定アルカリ性溶液のpHは、25℃における特定アルカリ性溶液のpHであり、電極を浸漬してから30分経過後にpHメータを用いて測定する。pHメータとしては、堀場製作所社製のF-72又はこれと同程度の装置を使用することができる。
【0031】
特定アルカリ性溶液は、カチオン性ポリマーを含有する。特定アルカリ性溶液は、カチオン性ポリマーを2種以上含有してもよい。
本開示において、「カチオン性ポリマー」とは、カチオン性基を有するポリマーを意味する。
本開示において、「カチオン性基」とは、カチオン基及びイオン化されてカチオン基となる基を包含する。
カチオン性基としては、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基、第4級アンモニウム塩基、イミノ基等が挙げられる。これらの中でも、アルブミン及びγ-グロブリンの分離時間を短縮する観点からは、第1級アミノ基又は第2級アミノ基が好ましく、第2級アミノ基がより好ましい。
【0032】
カチオン性ポリマーは、水溶性であることが好ましい。なお、本開示において、「水溶性」とは、対象物質が25℃の水に対して1質量%以上溶解することを意味する。
【0033】
第1級~第3級アミノ基又は第1級~第3級アミノ基にイオン化されうるカチオン性基を有するカチオン性ポリマーとしては、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、ポリオルニチン、ポリジアリルアミン、ポリメチルジアリルアミン、ポリエチレンイミン、ジアリルアミン-アクリルアミド重合物、ジメチルアミン-アンモニア-エピクロルヒドリン重合物、アリルアミン-ジアリルアミン重合物等が挙げられる。
イミノ基又はイミノ基にイオン化されうるカチオン性基を有するカチオン性ポリマーとしては、ポリエチレンイミン等が挙げられる。
第4級アンモニウム塩基又は第4級アンモニウム塩基にイオン化されうるカチオン性基を有するカチオン性ポリマーとしては、ポリクオタニウム、ジメチルアミン-アンモニア-エピクロルヒドリン重合物、ジメチルアミン-エピクロルヒドリン重合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合物等が挙げられる。
本開示において「ポリクオタニウム」とは、第4級アンモニウム基を有するモノマーに由来する構成単位を含むカチオン性ポリマーをいう。ポリクオタニウムは、INCI(InternationalNomenclatureforCosmeticIngredients)directoryで確認できる。ポリクオタニウムとしては、一又は複数の実施形態において、ポリクオタニウム-6(poly(diallyldimethylammoniumchloride)、ポリクオタニウム-7(copolymerofacrylamideanddiallyldimethylammoniumchloride)、ポリクオタニウム-4(Diallyldimethylammoniumchloride-hydroxyethylcellulosecopolymer)、ポリクオタニウム-22(copolymerofacrylicacidanddiallyldimethylammoniumchloride)等のポリジアリルジメチルアンモニウム塩、及びポリクオタニウム-2(poly[bis(2-chloroethyl)ether-alt-1,3-bis[3-(dimethylamino)propyl]urea])等が挙げられる。
また、カチオン性ポリマーとしては、上記アンモニウム塩以外にも、一又は複数の実施形態において、ホスホニウム塩、オキソニウム塩、スルホニウム塩、フルオロニウム塩、クロロニウム塩等のオニウム塩のカチオンポリマーも利用できる。
ヒドラジド基又はヒドラジド基にイオン化されうるカチオン性基を有するカチオン性ポリマーとしては、アミノポリアクリルアミド等が挙げられる。
【0034】
アルブミン及びγ-グロブリンの分離時間を短縮する観点からは、カチオン性ポリマーは、ジメチルアミン-アンモニア-エピクロルヒドリン重合物、ジメチルアミン-エピクロルヒドリン重合物、ジアリルアミン-アクリルアミド重合物、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ジアリルアミン重合物、アリルアミン-ジアリルアミン重合物、メチルジアリルアミン重合物及びジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合物からなる群より選択される1つ以上を含むことが好ましく、ジメチルアミン-アンモニア-エピクロルヒドリン重合物、ジメチルアミン-エピクロルヒドリン重合物、ジアリルアミン-アクリルアミド重合物、ポリエチレンイミン及びポリアリルアミンからなる群より選択される1つ以上を含むことがより好ましく、ジメチルアミン-アンモニア-エピクロルヒドリン重合物及びジアリルアミン-アクリルアミド重合物からなる群より選択される1つ以上を含むことが更に好ましい。
上記したカチオン性ポリマーは塩の状態であってもよく、塩酸塩等が挙げられる。
【0035】
アルブミン及びγ-グロブリンの分離時間を短縮する観点からは、カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、10,000~500,000であることが好ましく、12,000~300,000であることがより好ましく、15,000~150,000であることが更に好ましく、20,000~130,000であることが特に好ましく、20,000~100,000であることが最も好ましい。
カチオン性ポリマーの重量平均分子量を上記数値範囲とすることにより、アルブミン及びγ-グロブリンの分離時間が短縮される理由は明らかではないが、以下のように推測される。
アルブミン及びγ-グロブリン(代表成分としてIgG)の等電点は、それぞれpH5付近とpH5~9付近である。
アルブミンはγ-グロブリンに比べて等電点が低いことから、アルカリ性溶液中において、γ-グロブリンよりもアルブミンの負電荷が大きくなるため、カチオン性ポリマーとの相互作用が強くなる。
したがって、カチオン性ポリマーの重量平均分子量を500,000以下とすることにより、カチオン性ポリマーとの相互作用によって生じる負電極側へアルブミンを引き戻す力と、γ-グロブリンを引き戻す力との差が過度に大きくなってしまうことを抑制することができ、アルブミン及びγ-グロブリンの分離時間を更に短縮することができると推測される。
また、カチオン性ポリマーの重量平均分子量を10,000以上とすることにより、カチオン性ポリマーとの相互作用によって生じる負電極側へアルブミンを引き戻す力と、γ-グロブリンを引き戻す力との差が過度に小さくなってしまうことを抑制することができ、分離精度を向上することができると推測される。
本開示において、カチオン性ポリマーの重量平均分子量はカタログ値を参照する。重量平均分子量のカタログ値がない場合、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により測定されるポリエチレングリコール換算の重量平均分子量とする。
【0036】
アルブミン及びγ-グロブリンの分離時間を短縮する観点からは、特定アルカリ性溶液の総質量に対するカチオン性ポリマーの含有率は、0.01質量%~10質量%であることが好ましく、0.05質量%~8.0質量%であることがより好ましく、0.1質量%~5.0質量%であることが更に好ましく、1.0質量%~3.0質量%であることがより更に好ましい。
【0037】
カチオン性ポリマーは、従来公知の方法により合成したものを使用してもよく、市販されるものを使用してもよい。
【0038】
特定アルカリ性溶液は、水を含有してもよい。水としては、蒸留水、イオン交換水、純水、超純水等が挙げられる。
特定アルカリ性溶液の総質量に対する水の含有率は、特に限定されるものではなく、10質量%~99.9質量%とすることができる。
【0039】
特定アルカリ性溶液は、非界面活性剤型の両イオン性物質(非界面活性剤型のベタイン等)、pH緩衝物質、微生物の繁殖等を抑制するための保存剤などの添加剤を含有してもよい。保存剤としては、例えば、アジ化ナトリウム、エチルパラベン、プロクリン等が挙げられる。
本開示において、「非界面活性剤型の両イオン性物質」とは、ミセルを形成しない両イオン性物質を意味する。また、本開示において、「ミセルを形成しない」とは、水性媒体中においてミセルを形成しない又は実質的にミセルを形成しないことを意味する。更に、本開示において、「実質的にミセルを形成しない」とは、臨界ミセル濃度が200mmol/L以上が好ましく、より好ましくは300mmol/L以上、更に好ましくは両イオン性物質が臨界ミセル濃度を持たないことを意味する。
本開示において、「両イオン性物質」とは、正電荷基と負電荷基とを同一分子内の隣り合わない位置に有し、正電荷を有する原子には解離しうる水素原子が結合しておらず、分子全体として電荷を有しない化合物を意味する。
【0040】
-試料-
試料はアルブミン及びγ-グロブリンを含有する。
γ-グロブリンとしては、IgG、IgM、IgA、IgD及びIgEが挙げられるが、試料はこれらの中から選択される1つ以上を含んでいればよく、2つ以上を含んでいてもよい。
試料の総質量に対するアルブミン及びγ-グロブリンの含有量は、特に限定されるものではなく、0.001質量%~100質量%とすることができる。
試料の形態は特に限定されるものではなく、試料原料を調製したものであってもよく、試料原料そのものであってもよい。
試料原料としては、アルブミン及びγ-グロブリンを含む原料、生体試料等が挙げられる。
生体試料としては、血液、血清、血漿又はこれらから調製されたもの等が挙げられ、血清及び血漿が好ましく、血清がより好ましい。
血液、血清及び血漿は、生体から採取された血液、血清及び血漿が挙げられ、ヒト以外の哺乳類の血液、血清及び血漿、ヒトの血液、血清及び血漿等が挙げられる。
【0041】
分離精度を向上する観点から、試料は、カチオン性ポリマーを含有するアルカリ性溶液を含有することが好ましい。
上記アルカリ性溶液を含有する試料は、上記アルカリ性溶液を用いて試料原料を希釈することにより得ることができる。希釈率は、容量基準で、1.2倍~100倍であることが好ましく、2倍~60倍であることがより好ましく、3倍~50倍であることが更に好ましい。希釈に使用する材料は特に限定されるものではなく、pH調整剤(例えば、塩酸等)、界面活性剤(例えば、エマルゲンLS-110(花王製)等)、防腐剤(例えば、アジ化ナトリウム等)、イオン強度調整剤(例えば、塩化ナトリウム等)、屈折率調整剤(例えば、スクロース等の糖類)などが挙げられる。
また、上記アルカリ性溶液は、キャピラリ流路に充填される特定アルカリ性溶液と同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0042】
<検出工程>
特定試料分析方法は、分離工程において分離されたアルブミン及びγ-グロブリンを検出する検出工程を含むことができる。
アルブミン及びγ-グロブリンの検出は、光学的手法により検出することにより行うことができる。光学的手法による検出としては、例えば、吸光度の測定が挙げられる。
より具体的には、分離されたアルブミン及びγ-グロブリンに対し波長280nmの光を照射し、縦軸を吸光度、横軸を時間とする吸光度スペクトルを得ることにより、アルブミン及びγ-グロブリンを検出することができる。
アルブミン及びγ-グロブリンの分離にキャピラリ電気泳動チップを使用する場合、波長280nmの光は、検出部に照射することが好ましい。
【0043】
上記した吸光度スペクトルの波形を時間について微分することにより得られるエレクトロフェログラム(微分波形)を用いてアルブミン及びγ-グロブリンの検出を行ってもよい。
【0044】
図1A及び
図1Bを参照し、特定試料分析方法の一実施形態を説明する。なお、特定試料分析方法は以下に説明するものに限定されない。
【0045】
まず、キャピラリ電気泳動チップの泳動液保持槽3に、カチオン性ポリマーを含有する特定アルカリ性溶液を泳動液として充填し、毛細管現象により特定アルカリ性溶液をキャピラリ流路1に充填する。
【0046】
次いで、特定アルカリ性溶液が充填されたキャピラリ電気泳動チップの試料保持槽2に試料を添加する。
【0047】
試料保持槽2に添加する試料は、試料原料である血清を上記アルカリ性溶液により希釈することにより調製できる。
【0048】
試料保持槽2に負電極、泳動液保持槽3に正電極を接触させ(図示せず。)、キャピラリ流路1の両端、すなわち、試料保持槽2及び泳動液保持槽3との間に電圧を印加する。これにより、試料保持槽2からキャピラリ流路1に試料が導入され、アルブミン及びγ-グロブリンを含む試料が試料保持槽2から泳動液保持槽3に向かって移動するとともに、アルブミン及びγ-グロブリンの分離が行われる。
【0049】
そして、検出部4において、波長280nmの光を照射し、吸光度測定装置により、吸光度を測定することにより、アルブミン及びγ-グロブリンの検出を行う。
【0050】
本開示の試料分析方法は、多発性骨髄腫、ネフローゼ症候群、肝硬変、栄養障害等の診断及び治療等の用途に利用することができる。
【0051】
[キャピラリ電気泳動用溶液]
本開示の実施形態に係るキャピラリ電気泳動用溶液は、カチオン性ポリマーを含有し、且つキャピラリ電気泳動によるアルブミン及びγ-グロブリンの分離に用いられる。
キャピラリ電気泳動用溶液の好ましい態様については、特定試料分析方法において使用する特定アルカリ性溶液と同様であるため、ここでは記載を省略する。
【0052】
[試料分析用キット]
本開示の実施形態に係る試料分析用キットは、上記したキャピラリ電気泳動用溶液を含む容器と、試料保持槽、泳動液保持槽及びキャピラリ流路を有し、試料保持槽と泳動液保持槽とがキャピラリ流路により連通する電気泳動チップと、を含む。
キャピラリ電気泳動用溶液及び電気泳動チップの好ましい態様については、特定試料分析方法において使用する特定アルカリ性溶液及び電気泳動チップと同様であるため、ここでは記載を省略する。
【0053】
キャピラリ電気泳動用溶液を含む容器の材質としては、ガラス、溶融シリカ、プラスチック等が挙げられる。プラスチックについては、上記したため、ここでは記載を省略する。
【0054】
本開示は、以下の実施形態に関しうる。
<1> アルカリ性溶液中において、キャピラリ電気泳動により試料中のアルブミン及びγ-グロブリンを分離する分離工程を含み、且つ
上記アルカリ性溶液が、カチオン性ポリマーを含有する、試料分析方法。
<2> 上記カチオン性ポリマーの重量平均分子量が、10,000~500,000である、上記<1>に記載の試料分析方法。
<3>カチオン性ポリマーの重量平均分子量が、15,000~150,000である、上記<1>又は<2>に記載の試料分析方法。
<4> 上記カチオン性ポリマーが、ジメチルアミン-アンモニア-エピクロルヒドリン重合物、ジメチルアミン-エピクロルヒドリン重合物、ジアリルアミン-アクリルアミド重合物、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ジアリルアミン重合物、アリルアミン-ジアリルアミン重合物、メチルジアリルアミン重合物及びジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合物からなる群より選択される1つ以上を含む、上記<1>~<3>のいずれか1つに記載の試料分析方法。
<5> アルカリ性溶液の総質量に対する上記カチオン性ポリマーの含有率が、0.01質量%~10質量%である、上記<1>~<4>のいずれか1つに記載の試料分析方法。
<6> 上記分離工程におけるキャピラリ電気泳動の泳動時間が、50秒以上、250秒未満である、上記<1>~<5>のいずれか1つに記載の試料分析方法。
<7> 上記アルカリ性溶液のpHが、8.5~12.0である、上記<1>~<6>のいずれか1つに記載の試料分析方法。
<8> カチオン性ポリマーを含有し、且つキャピラリ電気泳動によるアルブミン及びγ-グロブリンの分離に用いられる、キャピラリ電気泳動用溶液。
<9> 上記<8>に記載のキャピラリ電気泳動用溶液を含む容器と、
試料保持槽、泳動液保持槽及びキャピラリ流路を有し、上記試料保持槽と上記泳動液保持槽とが上記キャピラリ流路により連通する電気泳動チップと、
を含む、試料分析用キット。
【実施例0055】
以下に実施例について説明するが、本開示はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、「部」及び「%」はすべて質量基準である。
また、以下の実施例及び比較例においては、連続試料導入法により電気泳動を行った。
【0056】
<分離デバイスと測定機器>
分離デバイスとしては、
図1に示す構造のキャピラリ流路1を有する樹脂製のチップ(流路幅40μm、流路高さ40μm、流路長:30mm、試料保持槽2から検出部4までの距離(x)20mm)を用いた。試料保持槽2及び泳動液保持槽3の容量は60μLとした。キャピラリ流路の内壁は、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドで被覆した。
測定装置は、自社製の電気泳動装置を用いた。
【0057】
<<実施例1>>
下記の各物質を混合して、pHが9.8となるまで、水酸化ナトリウム及び水を加え、特定アルカリ性溶液(キャピラリ電気泳動用溶液)1を調製した。なお、特定アルカリ性溶液1の総質量に対するカチオン性ポリマーの含有率は、1.5質量%とした。
(特定アルカリ性溶液1の組成)
・ジメチルアミン-アンモニア-エピクロルヒドリン重合物1(カチオン性ポリマー、センカ製、KHE102L、重量平均分子量20,000~100,000) 1.5質量%
・アジ化ナトリウム 0.02質量%
・エマルゲンLS-110(花王製) 0.1質量%
・水酸化ナトリウム水溶液
・水
【0058】
下記組成のアルブミン・γ-グロブリン混合溶液1を用意した。
(アルブミン・γ-グロブリン混合溶液1の組成)
・250mg/mLアルブミン(Wako製、010-27601) 25質量体積%
・250mg/mLγ-グロブリン(Sigma社製、G4386-1G) 25質量体積%
【0059】
上記アルブミン・γ-グロブリン混合溶液1を、下記組成の希釈液1(pH8.8)により、希釈する(希釈率41倍(容量基準))ことにより試料Aを得た。
なお、希釈液1において、塩酸及び水は、溶液のpHが8.8となるまで加えた。
(希釈液1の組成)
・ポリエチレンイミン(カチオン性ポリマー、Wako製、重量平均分子量70,000) 0.75質量%
・スクロース 7.87質量%
・塩化ナトリウム 0.26質量%
・アジ化ナトリウム 0.018質量%
・エマルゲンLS-110(花王製) 0.40質量%
・塩酸
・水
【0060】
アルブミン及びγ-グロブリンを含むヒト生体由来血清試料を用意し、上記組成の希釈液(pH8.8)により、希釈する(希釈率7倍(容量基準))ことにより試料Bを得た。
【0061】
泳動液保持槽3に特定アルカリ性溶液1を60μL添加し、毛細管現象によりキャピラリ流路1内に特定アルカリ性溶液1を充填した。
【0062】
試料保持槽2に試料Aを60μL添加した。
次いで、試料保持槽2に負電極、泳動液保持槽3に正電極を接触させ、75μAの定電流制御にて電圧を印加して電気泳動を開始した。
【0063】
電気泳動が行われている間、検出部4に280nmの光を照射し、その吸光度を測定し、吸光度スペクトルを得た。吸光度スペクトルの波形を時間について微分することによりエレクトロフェログラムを得た。なお、電気泳動は200秒間行った。得られたエレクトロフェログラムを
図2Aに示す。
なお、光の照射、吸光度の測定及びエレクトロフェログラムの取得には、自社製の試作機を使用した。
【0064】
試料Aを試料Bに変更した以外は、上記と同様にして、エレクトロフェログラムを得た。得られたエレクトロフェログラムを
図2Bに示す。
【0065】
図2A及び
図2Bに示すエレクトロフェログラムから明らかなように、カチオン性ポリマーを含有する特定アルカリ性溶液を使用する実施例1の試料分析方法によれば、200秒以内に、アルブミン及びγ-グロブリンを分離できた。
【0066】
<<実施例2>>
下記の各物質を混合して、pHが9.8となるまで、水酸化ナトリウム及び水を加え、特定アルカリ性溶液(キャピラリ電気泳動用溶液)2を調製した。なお、特定アルカリ性溶液2の総質量に対するカチオン性ポリマーの含有率は、1.5質量%とした。
(特定アルカリ性溶液2の組成)
・ジメチルアミン-アンモニア-エピクロルヒドリン重合物2(カチオン性ポリマー、センカ製、KHE105L、重量平均分子量100,000~500,000) 1.5質量%
・アジ化ナトリウム 0.02質量%
・エマルゲンLS-110(花王製) 0.1質量%
・水酸化ナトリウム水溶液
・水
【0067】
特定アルカリ性溶液1を特定アルカリ性溶液2に変更した以外は、実施例1と同様にして、試料Aを用いたエレクトロフェログラム及び試料Bを用いたエレクトロフェログラムを得た。得られたエレクトロフェログラムを、それぞれ、
図3A及び
図3Bに示す。
【0068】
図3A及び
図3Bに示すエレクトロフェログラムから明らかなように、カチオン性ポリマーを含有する特定アルカリ性溶液を使用する実施例2の試料分析方法によれば、200秒以内に、アルブミン及びγ-グロブリンを分離できた。
【0069】
<<実施例3>>
下記の各物質を混合して、pHが9.8となるまで、水酸化ナトリウム及び水を加え、特定アルカリ性溶液(キャピラリ電気泳動用溶液)3を調製した。なお、特定アルカリ性溶液3の総質量に対するカチオン性ポリマーの含有率は、1.5質量%とした。
(特定アルカリ性溶液3の組成)
・ジメチルアミン-エピクロルヒドリン重合物1(カチオン性ポリマー、センカ製、KHE107L、重量平均分子量20,000~100,000) 1.5質量%
・アジ化ナトリウム 0.02質量%
・エマルゲンLS-110(花王製) 0.1質量%
・水酸化ナトリウム水溶液
・水
【0070】
特定アルカリ性溶液1を特定アルカリ性溶液3に変更し、泳動時間を60秒に変更した以外は、実施例1と同様にして、試料Bを用いたエレクトロフェログラムを得た。得られたエレクトロフェログラムを、
図4に示す。
【0071】
図4に示すエレクトロフェログラムから明らかなように、カチオン性ポリマーを含有する特定アルカリ性溶液を使用する実施例3の試料分析方法によれば、60秒以内に、アルブミン及びγ-グロブリンを分離できた。
【0072】
<<実施例4>>
下記の各物質を混合して、pHが9.8となるまで、水酸化ナトリウム及び水を加え、特定アルカリ性溶液(キャピラリ電気泳動用溶液)4を調製した。なお、特定アルカリ性溶液4の総質量に対するカチオン性ポリマーの含有率は、1.5質量%とした。
(特定アルカリ性溶液4の組成)
・ジアリルアミン塩-アクリルアミド重合物1(カチオン性ポリマー、センカ製、KCA100L、重量平均分子量20,000~100,000) 1.5質量%
・アジ化ナトリウム 0.02質量%
・エマルゲンLS-110(花王製) 0.1質量%
・水酸化ナトリウム水溶液
・水
【0073】
下記組成のアルブミン・γ-グロブリン混合溶液2を用意した。
(アルブミン・γ-グロブリン混合溶液2の組成)
・40mg/mLアルブミン(Wako製、010-27601) 4質量体積%
・40mg/mLγ-グロブリン(Sigma社製、G4386-1G) 4質量体積%
【0074】
上記アルブミン・γ-グロブリン混合溶液2を、下記組成の希釈液2(pH8.8)により、希釈する(希釈率7倍(容量基準))ことにより試料Cを得た。
なお、希釈液2において、塩酸及び水は、溶液のpHが8.8となるまで加えた。
(希釈液2の組成)
・ポリエチレンイミン(カチオン性ポリマー、Wako製、重量平均分子量70,000) 0.75質量%
・非界面活性剤型スルホベタイン(東京化成製、NDSB-201、3-(1-ピリジノ)プロパンスルホン酸) 8.05質量%
・スクロース 7.87質量%
・塩化ナトリウム 0.26質量%
・アジ化ナトリウム 0.018質量%
・エマルゲンLS-110(花王製) 0.4質量%
・塩酸
・水
【0075】
アルブミン及びγ-グロブリンを含むヒト生体由来血清試料を用意し、上記組成の希釈液(pH8.8)により、希釈する(希釈率7倍(容量基準))ことにより試料Dを得た。
【0076】
特定アルカリ性溶液1を特定アルカリ性溶液4に変更し、試料Aを試料C又は試料Dに変更し、泳動時間を150秒に変更した以外は、実施例1と同様にして、試料C又は試料Dを用いたエレクトロフェログラムを得た。得られたエレクトロフェログラムを、それぞれ、
図5A及び
図5Bに示す。
【0077】
図5A及び
図5Bに示すエレクトロフェログラムから明らかなように、カチオン性ポリマーを含有する特定アルカリ性溶液を使用する実施例4の試料分析方法によれば、150秒以内に、アルブミン及びγ-グロブリンを分離できた。
【0078】
<<実施例5>>
下記の各物質を混合して、pHが9.0となるまで、3-ヒドロキシプロパンスルホン酸を加え、特定アルカリ性溶液(キャピラリ電気泳動用溶液)5を調製した。なお、特定アルカリ性溶液5の総質量に対するカチオン性ポリマーの含有率は、1.0質量%とした。
(特定アルカリ性溶液5の組成)
・ポリエチレンイミン(カチオン性ポリマー、Wako製、重量平均分子量70,000) 1.0質量%
・非界面活性剤型スルホベタイン(東京化成製、NDSB-201、3-(1-ピリジノ)プロパンスルホン酸) 10.06質量%
・アジ化ナトリウム 0.02質量%
・3-ヒドロキシプロパンスルホン酸
・水
【0079】
上記アルブミン・γ-グロブリン混合溶液2を、特定アルカリ性溶液5により、希釈する(希釈率7倍(容量基準))ことにより試料Eを得た。
【0080】
特定アルカリ性溶液4を特定アルカリ性溶液5に変更し、試料Cを試料Eに変更し、泳動時間を120秒に変更した以外は、実施例4と同様にして、試料Eを用いたエレクトロフェログラムを得た。得られたエレクトロフェログラムを、
図6に示す。
【0081】
図6に示すエレクトロフェログラムから明らかなように、カチオン性ポリマーを含有する特定アルカリ性溶液を使用する実施例5の試料分析方法によれば、120秒以内に、アルブミン及びγ-グロブリンを分離できた。
【0082】
<<実施例6>>
下記の各物質を混合して、pHが9.8となるまで、3-ヒドロキシプロパンスルホン酸を加え、特定アルカリ性溶液(キャピラリ電気泳動用溶液)6を調製した。なお、特定アルカリ性溶液6の総質量に対するカチオン性ポリマーの含有率は、1.0質量%とした。
(特定アルカリ性溶液6の組成)
・ポリアリルアミン(カチオン性ポリマー、ニットーボーメディカル製、重量平均分子量25,000) 1.0質量%
・アジ化ナトリウム 0.02質量%
・3-ヒドロキシプロパンスルホン酸
・水
【0083】
上記アルブミン・γ-グロブリン混合溶液2を、下記組成の希釈液3(pH9.8)により、希釈する(希釈率7倍(容量基準))ことにより試料Fを得た。
なお、希釈液3において、3-ヒドロキシプロパンスルホン酸は、溶液のpHが9.8となるまで加えた。
(希釈液3の組成)
・ポリアリルアミン(カチオン性ポリマー、ニットーボーメディカル製、重量平均分子量25,000) 1.0質量%
・非界面活性剤型スルホベタイン(東京化成製、NDSB-201、3-(1-ピリジノ)プロパンスルホン酸) 10.06質量%
・アジ化ナトリウム 0.02質量%
・3-ヒドロキシプロパンスルホン酸
・水
【0084】
特定アルカリ性溶液4を特定アルカリ性溶液6に変更し、試料Cを試料Fに変更し、泳動時間を60秒に変更した以外は、実施例4と同様にして、試料Fを用いたエレクトロフェログラムを得た。得られたエレクトロフェログラムを、
図7に示す。
【0085】
図7に示すエレクトロフェログラムから明らかなように、カチオン性ポリマーを含有する特定アルカリ性溶液を使用する実施例6の試料分析方法によれば、60秒以内に、アルブミン及びγ-グロブリンを分離できた。
【0086】
<<比較例1>>
下記の各物質を混合して、pHが9.8となるまで、3-ヒドロキシプロパンスルホン酸を加え、特定アルカリ性溶液(キャピラリ電気泳動用溶液)10を調製した。
(特定アルカリ性溶液10の組成)
・アルギニン 1.74質量%
・アジ化ナトリウム 0.02質量%
・3-ヒドロキシプロパンスルホン酸
・水
【0087】
上記アルブミン・γ-グロブリン混合溶液2を、特定アルカリ性溶液10により、希釈する(希釈率7倍(容量基準))ことにより試料Gを得た。
【0088】
特定アルカリ性溶液4をアルカリ性溶液10に変更し、試料Cを試料Gに変更し、泳動時間を200秒に変更した以外は、実施例4と同様にして、試料Gを用いたエレクトロフェログラムを得た。得られたエレクトロフェログラムを、
図8に示す。
【0089】
図8に示すエレクトロフェログラムから明らかなように、カチオン性ポリマーを含有していないアルカリ性溶液を使用する比較例1の試料分析方法では、200秒以内に、アルブミン及びγ-グロブリンを分離することができなかった。
【0090】
<<比較例2>>
下記の各物質を混合して、pHが9.8となるまで、3-ヒドロキシプロパンスルホン酸を加え、アルカリ性溶液(キャピラリ電気泳動用溶液)11を調製した。
(特定アルカリ性溶液11の組成)
・アルギニン 1.74質量%
・ポリエチレングリコール(非イオン性ポリマー、Wako製) 1.0質量%
・アジ化ナトリウム 0.02質量%
・3-ヒドロキシプロパンスルホン酸
・水
【0091】
上記アルブミン・γ-グロブリン混合溶液2を、特定アルカリ性溶液11により、希釈する(希釈率7倍(容量基準))ことにより試料Hを得た。
【0092】
特定アルカリ性溶液4をアルカリ性溶液11に変更し、試料Cを試料Hに変更し、泳動時間を200秒に変更した以外は、実施例4と同様にして、試料Hを用いたエレクトロフェログラムを得た。得られたエレクトロフェログラムを、
図9に示す。
【0093】
図9に示すエレクトロフェログラムから明らかなように、カチオン性ポリマーを含有していないアルカリ性溶液を使用する比較例2の試料分析方法では、200秒以内に、アルブミン及びγ-グロブリンを分離することができなかった。