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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064688
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】アルミニウム合金ブレージングシート
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20240507BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20240507BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240507BHJP
   C22F 1/043 20060101ALN20240507BHJP
   C22F 1/04 20060101ALN20240507BHJP
【FI】
C22C21/00 E
C22C21/00 J
C22C21/00 L
C22C21/00 M
C22C21/00 D
C22C21/02
C22F1/00 651A
C22F1/00 614
C22F1/00 627
C22F1/00 630M
C22F1/00 682
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 623
C22F1/00 683
C22F1/00 694A
C22F1/00 685Z
C22F1/00 694B
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
C22F1/00 691A
C22F1/00 640A
C22F1/043
C22F1/04 B
C22F1/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173453
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】522160125
【氏名又は名称】MAアルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】川上 隆之
(72)【発明者】
【氏名】吉野 路英
(57)【要約】
【課題】本発明は、必要な箇所へのろうの供給性を向上させたアルミニウム合金ブレージングシートの提供を目的とする。
【解決手段】本発明のアルミニウム合金ブレージングシートは、アルミニウム合金からなる心材の少なくとも一方の面にAl-Si系合金からなるろう材が組み合わされたアルミニウム合金ブレージングシートにおいて、ドロップ型流動性試験において、加工が施されていない状態のろう流動係数をKsとしたとき、1%以上の加工ひずみを付与した状態において1.5×Ks以上の流動係数を有し、かつ、前記ろう材から前記心材へのろう付後のろう侵食量が心材厚さの10%未満であり、ろう溶融直前温度において前記心材の再結晶率が90%以上であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金からなる心材の少なくとも一方の面にAl-Si系合金からなるろう材が組み合わされたアルミニウム合金ブレージングシートにおいて、
ドロップ型流動性試験において、加工が施されていない状態のろう流動係数をKsとしたとき、1%以上の加工ひずみを付与した状態において1.5×Ks以上の流動係数を有し、かつ、前記ろう材から前記心材へのろう付後のろう侵食量が心材厚さの10%未満であり、ろう溶融直前温度において前記心材の再結晶率が90%以上であることを特徴とするアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項2】
前記心材が、質量%で、
Fe:0.05%以上1.0%以下、
Mn:0.05%以上1.2%以下、
Si:0.05%以上1.0%以下
の少なくとも1種以上の元素を含有し、
かつ、各添加量をCFe、CMn、CSiとするとき、
Fe+1.5CMn+1.6CSi≦3.0の関係を満たす各元素の添加量であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項3】
前記ろう材に、
Si:5.0%以上10.0%以下
を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はアルミニウム合金ブレージングシートに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用熱交換器には、ろう付という工程において、ろう材である融点の低いアルミニウム合金のみを溶融させて多くの部材を接合する手法が用いられる。ろう材の供給方法は、ろう材成分を直接部材へ塗布する方法、シート状のものを介する方法等が存在する。
ろう材の供給方法として、取り扱い性やコストに優れることから、今日では、高い強度を持ち合わせた融点の高いアルミニウム合金を心材として、その他方に融点の低いアルミニウム合金をろう材として貼り合わせたブレージングシートが用いられる。
【0003】
ブレージングシートに関し、以下の特許文献1に記載の如く、ろう材/中間材/心材/ろう材の4層材であり、中間材と心材とろう材の組成を限定し、流動性試験においてひずみ付加前後の流動係数の比を特定した構成が知られている。
特許文献1に記載のブレージングシートは、ろう付の障害となるアルミニウムの酸化被膜を効果的に破壊し、ろう付性を確保するために添加するMgに関し、溶融ろうに対する拡散性を調整する目的でなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-021106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、熱交換器は高性能化に対応するため複雑な形状を有するものが多く、例えばフィンとチューブの接合やチューブとヘッダープレートの接合など、その箇所ごとによって接合に所望されるろうの量は異なる。ブレージングシートに貼り合わされるろう材は、熱交換器の中で最もろうが必要な箇所の接合を補填するために、ろう材のクラッド率やSi添加量を決定するため、接合部にろうを求めない箇所には、ろう量が過多となってしまい、ろう侵食などの問題を引き起こすこととなる。
【0006】
また、ブレージングシート特有の現象として、調質O材を使用したい場合、熱交換器部材の加工の際に5~20%程度のひずみが施された場合において、ろう付時にろう材が心材を激しくろう侵食することがある。これらの問題より、心材のろう侵食を抑制しつつ、接合するべき箇所のみへろうを充填することは困難であった。
【0007】
本発明は、これらの問題を解決するためになされたものであり、加工ひずみが付加されない箇所にはろうの供給を抑制し、ろうを必要とする箇所にはひずみを付加することでろうの供給を促進してろうを充分に充填できるようにしたアルミニウム合金ブレージングシートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本形態のアルミニウム合金ブレージングシートは、アルミニウム合金からなる心材の少なくとも一方の面にAl-Si系合金からなるろう材が組み合わされたアルミニウム合金ブレージングシートにおいて、ドロップ型流動性試験において、加工が施されていない状態のろう流動係数をKsとしたとき、1%以上の加工ひずみを付与した状態において1.5×Ks以上の流動係数を有し、かつ、前記ろう材から前記心材へのろう付後のろう侵食量が心材厚さの10%未満であり、ろう溶融直前温度において前記心材の再結晶率が90%以上であることを特徴とする。
【0009】
(2)本形態に係る(1)に記載のアルミニウム合金ブレージングシートにおいて、前記心材が、質量%で、Fe:0.05%以上1.0%以下、Mn:0.05%以上1.2%以下、Si:0.05%以上1.0%以下の少なくとも1種以上の元素を含有し、かつ、各添加量をCFe、CMn、CSiとするとき、CFe+1.5CMn+1.6CSi≦3.0の関係を満たす各元素の添加量であることが好ましい。
【0010】
(3)本形態に係る(1)または(2)に記載のアルミニウム合金ブレージングシートにおいて、前記ろう材に、Si:5.0%以上10.0%以下を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、加工ひずみが付加されない箇所にはろうの供給がなされず、ろうを必要とする箇所にはひずみを付加することでろうを充填できるようにしたアルミニウム合金ブレージングシートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係るブレージングシートの一例を示す部分断面図である。
図2】本発明に係るブレージングシートを適用して構成された熱交換器の一例を示す斜視図である。
図3】ろう付相当熱処理を施す場合の熱履歴曲線の一例を示すグラフである。
図4】ろう流動係数を測定するために実施するドロップ型流動性試験について示す説明図であり、(A)はろう付相当熱処理前の試験片を示す斜視図、(B)はろう付相当熱処理後の試験片を示す斜視図である。
図5】再結晶率90%以上の心材の一例を示す組織写真である。
図6】再結晶率90%未満の心材の一例を示す組織写真である。
図7】ろう付相当熱処理後、ろう侵食率7%のブレージングシートの一例を示す断面組織写真である。
図8】ろう付相当熱処理後、ろう侵食率15%のブレージングシートの一例を示す断面組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
本実施形態のアルミニウム合金ブレージングシート1は、一例として、図1に示すように、アルミニウム合金からなる心材2の両面にアルミニウム合金からなるろう材3をクラッド層としてクラッドした3層構造を採用できる。また、ろう材3を心材2の片面のみに向けた2層構造を採用しても良い。
なお、ブレージングシート1は、ろう材を複層構造とすることができるので、例えば、図1の2点鎖線に示すように心材2とろう材3との間に更に別のろう材3Aを1層以上設けた構造、あるいは、心材2とろう材3との間に犠牲材3Bなどの別の層を1層以上設けた複層構造とすることもできる。
【0014】
本実施形態の心材2を構成するアルミニウム合金は、特に組成に制限はなく、いずれの組成のアルミニウム合金でもよい。一例を挙げるならば、質量%で、Fe:0.05~1.0%、Mn:0.05~1.2%、Si:0.05~1.0%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成のアルミニウム合金などを用いることができる。心材用アルミニウム合金には、前述の元素に加え、Mg:0.5%以下と、Cu:1.0%以下と、Zn:3.0%以下のうち少なくとも1種以上を含んでいても良く、これら元素の他にCr、Ti、Zr、Niの少なくとも1種を0.3%以下含有していてもよい。
【0015】
前記心材2の片面または両面において最表面に位置するように配置されたろう材3(クラッド層)は、質量%で、Si:5.0~10.0%を含有していることが望ましい。また、ろう材3にSiの他に、Zn:6.0%以下、Mg:2.0%以下、Sr:0.05%以下の少なくとも1種を含有していてもよい。ろう材は、前述の元素を含み、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有する。
なお、本願明細書に記載の数値範囲において「~」を用いて上限値と下限値を規定した場合、特に表記しない限り、以上、以下を意味する。よって、例えば、5.0~10.0%は5.0%以上10.0%以下を意味する。
【0016】
「心材用アルミニウム合金の組成」
「Fe:0.05~1.0%」
本実施形態の心材用アルミニウム合金は、例えば、Feを0.05~1.0%含有している。
Feは、Siと共に添加することでAl-Fe-Si系化合物を形成し、ろう溶融直前の心材の再結晶粒を粗大化する働きをしめす。また、固溶強化、Al-Fe系化合物およびAl-Fe-Si系化合物の形成により心材2の材料強度を向上するために添加する。Fe含有量が0.05%未満では、原料に不純物として含まれる濃度以下となるため製造コストが高くなる。
Fe含有量が1.0%を超えると、粗大なAl-Fe系化合物が増加し、ろう溶融直前での再結晶粒が微細となり、心材2がろう侵食されるおそれがある。
「Mn:0.05~1.2%」
本実施形態の心材用アルミニウム合金は、例えば、Mnを0.05~1.2%含有している。
Mnは、ろう溶融直前の心材の再結晶粒を粗大にするため添加する。また、固溶強化、Al-Mn系化合物およびAl-Mn-Si系化合物の形成により心材2の材料強度を向上するために添加する。Mn含有量が0.05%未満では、熱交換器の構造を維持するための強度が不足する傾向となる。
Mn含有量が1.2%を超えると、化合物が増加し、ろう付時の再結晶を阻害するため、ろう溶融直前温度にて再結晶が完了せず、心材2がろう侵食されるおそれがある。
【0017】
「Si:0.05~1.0%」
本実施形態の心材用アルミニウム合金は、例えば、Siを0.05~1.0%含有している。
Siは、ろう溶融直前の心材の再結晶粒を粗大にするため添加する。また、固溶強化およびAl-Fe-Si系化合物もしくはAl-Mn-Si系化合物の形成により心材2の材料強度を向上するために添加する。Si含有量が0.05%未満では、熱交換器の構造を維持するための強度が不足する傾向となる。
Si含有量が1.0%を超えると、心材の融点が低下するため、心材2がろう侵食されるおそれがある。また、ろう材からのSi拡散によりろう侵食が生じ易くなる。
「Mg:0.5%以下」
本実施形態の心材用アルミニウム合金は、例えば、Mgを0.5%以下含有してよい。
Mgは、任意添加成分であるが、固溶強化、Mg-Si系化合物の形成により心材2の材料強度を向上するために添加する。Mgを含んでいない場合、所望の強度向上効果が得られない。Mg含有量が0.5%を超えた場合、ろう付時に使用するフラックスと反応し、化合物を形成するため、ろう付性を低下させるおそれがある。Mg含有量については、0.05~0.5%の範囲であることが好ましい。
【0018】
「Cu:1.0%以下」
本実施形態の心材用アルミニウム合金は、例えば、Cuを1.0%以下含有してよい。
Cuは、任意添加成分であるが、固溶強化により心材2の材料強度を向上するために添加する。心材用アルミニウム合金にCuを含んでいない場合、所望の強度向上効果が得られない。Cu含有量が1.0%を超えると母相融点が低下し、ろう付時に局部溶融が生じるおそれがある。また、ろう付後に耐食性が低下するおそれもある。Cu含有量については、0.05~1.0%の範囲であることが好ましい。
「Cr、Ti、Zr、Niの少なくとも1種を0.3%以下」
本実施形態の心材用アルミニウム合金は、例えば、Cr、Ti、Zr、Niの少なくとも1種を0.3%以下含有してよい。
Cr、Ti、Zr、Niは、いずれも任意添加成分であるが、心材2の材料強度を向上するために添加する。これらが含まれていない場合、所望の強度向上効果を得られない。Cr、Ti、Zr、Niの少なくとも1種について0.3%を超えて含有させると、鋳造時に巨大な金属間化合物を生成し、圧延性が低下するおそれがある。
【0019】
「Zn:3.0%以下」
本実施形態の心材用アルミニウム合金は、例えば、Znを3.0%以下含有してよい。
Znは、任意添加成分であるが、被防食体と当該犠牲陽極体がろう付された場合に犠牲陽極作用で被防食体を防食するために添加する。Znを含まない場合、所望する犠牲陽極作用が得られず、被防食体の腐食が促進するおそれがある。Zn含有量が3.0%を超えると、自己耐食性が低下するおそれがある。
【0020】
以上、心材用アルミニウム合金に含有される各元素の添加量について説明したが、FeとMnとSiの各添加量をCFe、CMn、CSiと記載するとき、これら添加量は、CFe+1.5CMn+1.6CSi≦3.0の関係を満たす関係であることが好ましい。
Fe含有量とMn含有量とSi含有量が上述の関係式を満たす関係である場合、ろう付熱処理中に再結晶が進行し易く、ろう侵食防止に効果的である。
【0021】
「ろう材用アルミニウム合金の組成」
「Si:5.0~10.0%」
本実施形態のろう材用アルミニウム合金は、Siを5.0%以上10.0%以下含有している。ろう材用アルミニウム合金において、SiはAlの融点を低下させるので、ろう付中に溶融させ、他部材とろう付するためにSiを添加している。Si含有量が5.0%未満の場合、十分な溶融ろうが得られず、ろう付不良が発生するおそれがある。Si含有量が10.0%を超える場合、溶融ろう量が増加し、溶融ろうの供給量が必要以上に増加するため、目的以外の箇所へのろう供給が施されてしまうおそれがある。
「Zn:6.0%以下」
本実施形態のろう材用アルミニウム合金は、Znを6.0%以下含有することができる。本実施形態のろう材用アルミニウム合金においてZnは任意添加成分であり、Znを添加するのは、心材2もしくは被防食体とろう材がろう付接合された際に、犠牲陽極作用で心材2もしくは被防食体を防食するために添加する。Znを添加しない場合、所望する犠牲陽極作用が得られず耐食性が低下するおそれがある。ただし、6.0%を超える量のZnを添加すると、自己耐食性が低下するおそれがある。
【0022】
「Mg:2.0%以下」
本実施形態のろう材用アルミニウム合金は、Mgを2.0%以下含有することができる。
本実施形態のろう材用アルミニウム合金においてMgは任意添加成分であるが、Mgを添加することにより、ろう材に含まれるSiと化合物を形成し、材料強度を高めることができる。
また、Mgはろう付時に材料表面のAl酸化被膜を破壊するため、フラックスを使用しないろう付法に使用できる。
ろう材用アルミニウム合金において、Mg含有量が2.0%を超えると表面にMg酸化被膜を形成し、ろう付性を低下させるおそれがある。
【0023】
「Sr:0.05%以下」
本実施形態のろう材用アルミニウム合金は、Srを0.05%以下含有することができる。
本実施形態のろう材用アルミニウム合金においてSrは任意添加成分であるが、Srを添加することにより、鋳造時の共晶Siの微細化を促進できる。Srを添加していない場合、所望する共晶Siの微細化を促進できなくなるおそれがある。Srの含有量が0.05%を超えると、鋳造時に巨大な金属間化合物を生成し、圧延性が低下するおそれがある。
【0024】
「製造条件」
[ろう材の準備]
ろう材は、目的組成の合金溶湯から例えば半連続鋳造により鋳塊を得、均質化処理、面削を経て熱間圧延により目的の厚さの板状のろう材予備体を得ることができる。
[心材の準備]
心材は、目的組成の合金溶湯から例えば半連続鋳造により鋳塊を得、均質化処理、面削を経て目的の厚さの板状の心材予備体を得ることができる。
【0025】
「均質化処理」
得られた心材の鋳塊あるいは予備体に対し、400℃以上600℃未満、処理時間3時間以上12時間未満の範囲で均質化処理を施すことができる。これにより、所望する特性を得るための適切な金属間化合物の分散状態が得られる。所望温度以下の条件を施すと、所望する金属間化合物の分散状態が得られず、ろう付熱処理中に心材が再結晶しないことでろう侵食が発生するおそれがある。上述の温度範囲を超える温度加熱では、ろう付時に再結晶粒の成長を阻害する金属間化合物の分散量が少なく、早期に再結晶が完了し結晶粒が微細となることでろう付熱処理中に心材をろう侵食するおそれがある。均質化処理温度として、より好ましくは450℃~550℃の範囲である。
ろう材は切削性向上などのため400℃~550℃、1時間以上10時間以下の範囲で均質化処理を行っても良い。
【0026】
「貼り合わせ」
板状に加工したろう材予備体を板状に加工した心材予備体に組み合わせ、後述する熱間圧延と冷間圧延により目的のクラッド率のブレージングシートを得る。
貼り合わせを行う場合のクラッド率は、例えば、ろう材:心材=5~20%:80~95%の範囲で設定することができる。
ただし、最終の板厚におけるろう材の厚さを80μm以上に設定する必要がある。ろう材厚さが80μm未満の場合、所望するろう材の特性を得ることができない。
【0027】
「熱間圧延」
ろう材用アルミニウム合金または心材予備体とろう材予備体を組み合わせたクラッド材は、熱間圧延を経て板材とされる。熱間圧延では、1パス当たりの圧下率と終了時の仕上げ温度を設定することができる。熱間圧延は500℃前後の温度で負荷され、圧延終了後に貼り合わせた板材はコイル化され室温まで冷却される。
「冷間圧延」
中間焼鈍までの冷間圧延の条件は、特に規定されるものではないが、1パス当たりの圧下率を20~50%の間で実施することが好ましい。
【0028】
「中間焼鈍」
中間焼鈍は、心材およびろう材を再結晶させるために施す。
昇温速度20~100℃/時間で250~400℃、処理時間3~10時間の範囲で施すことができる。中間焼鈍温度が250℃未満では再結晶を完了できないおそれがあり、400℃を超える温度の場合、異常粒成長が生じて不均一な再結晶粒となるおそれがある。
「最終冷間圧延」
最終冷間圧延は、中間焼鈍後に圧下率6~13%の範囲で実施される。
中間焼鈍後に最終冷間圧延を実施しない場合、プレート形状へ加工した箇所において微小ひずみが蓄積しエロージョンを生じる。より好ましくは、冷間圧延は2パス以上で実施され、1パス目を5%以上、2パス目以降を2%以下で実施される。これによりろう材の再結晶は粗大化し未加工部のろう流動性が低下する。
製造上、圧下率6%未満でアルミニウム合金を安定的に圧下することができず、製造不可となる。また、圧下率6%未満ではろう付時に心材をエロージョンする恐れがある。圧下率を13%より大きくすると、圧延時にろう材に与えられる加工ひずみが増大するため、ろう付中にろう材の再結晶粒が促進され、再結晶粒が微細となることで、ろう流動性を助長し、成形時における未加工部のろう流動量が増加するため、所望とする特性を得ることができない。
【0029】
「ろう流動係数:K」
以上説明したブレージングシート1は、加工されていないときのドロップ型流動性試験におけるろう流動係数KをKsとしたとき、1%以上の加工ひずみを付与した箇所のろう流動係数Kが1.5×Ks以上である。
【0030】
本実施形態のブレージングシート1は、ろう付後のろう材3から心材2へのろう侵食が心材2の厚さの10%未満である。
また、本実施形態のブレージングシート1は、ろう付時のろう溶融直前温度において心材2の再結晶率が90%以上である。
以上説明のブレージングシート1は、加工ひずみが付与されていない箇所には、ろう供給は抑制されるか、ほぼなされず、ろうを充填したい箇所に加工ひずみを付与しておくことで、必要な箇所にろうを充填することが可能となる。
【0031】
例えば、自動車用バッテリー冷却プレートなどのプレート材料において、窪み加工により部分的にひずみを付加し、窪み部分のみろう付接合することで構成する熱交換器に適用することができる。
あるいは、熱交換器のチューブ材にろう材を供給したい部分のみ加工を施すことで必要な箇所のみろうを供給して接合する構成の熱交換器に適用することができる。
【0032】
図2は、アルミニウム製の熱交換器4を示している。この熱交換器4は、コルゲート形状のフィン5を有し、アルミニウム合金製のチューブ6と補強材7とヘッダープレート8を組み込み、ろう付によってこれらが一体化されている。
【0033】
図2に示す構成の熱交換器4であるならば、ブレージングシート1を加工してヘッダープレート8が構成されている。ヘッダープレート8においてチューブ6が貫通する部分に透孔が形成されているが、この透孔周りの部分が加工ひずみにより、ろう流動係数がその他の部分より大きくなっている。チューブ6が貫通する部分周りにおいて溶融ろうが良好に流動する結果、充分な大きさのフィレットを形成でき、良好なろう付ができる。
従って、本実施形態の構造により、ろう付性に優れ、接合強度が高い優れた熱交換器4を得ることができる。
【0034】
なお、図2に示す例ではヘッダープレート8を例示し、ヘッダープレート8の透孔周りとその近傍の溶融ろうの流れを促進し、充分な大きさのフレット生成を促進できると説明した。しかし、本実施形態の構成は、他の種々の形状のろう付対象物を備えた熱交換器に広く適用可能であり、ろう付対象物において加工ひずみが付与されている部分において溶融ろうの流れを促進できることに意味がある。
熱交換器の構造は種々の構造が知られており、熱交換器の構造により各構成部材の形状も様々である。しかし、いずれにおいてもろう付する構成を採用する場合、形状が複雑となる部分において、溶融ろうを流すための隙間やスペースが小さくなる傾向となる。従って、ブレージングシートによる熱交換器の構成部材において加工ひずみが付与されている領域で溶融ろうの流動性を高めることは、良好なろう付性を確保する上で重要な指標となる。
【0035】
ところで、本実施形態のブレージングシート1において、ろう材3と心材2の間にろう材として機能する中間層を設けた構成を採用してもよい。
さらに、Znを添加したアルミニウム合金を犠牲防食層として、ろう材をクラッドしていない心材の表面にクラッドして犠牲防食層を設けてもよい。
本実施形態に適用し得るブレージングシートは、ろう材/心材/犠牲材/ろう材の四層構造でも良いし、ろう材/犠牲材/心材/犠牲材/ろう材の五層構造であっても良い、また、第1のろう材/第2のろう材/心材/ろう材の四層構造、あるいは、第1のろう材/第2のろう材/犠牲材/心材/犠牲材/ろう材の六層構造など、クラッド構成は特に限定されるものではない。
【実施例0036】
以下の表1~表11に示す組成の心材とろう材を備えたアルミニウム合金ブレージングシートを作製した。表1~表11に示す組成のアルミニウム合金から半連続鋳造により鋳塊を得た後、各鋳塊に対し、表12~表22に示す温度と時間で均質化処理した。
均質化処理後の心材予備体と板状のろう材予備体を重ね合わせて熱間圧延と冷間圧延を施し、冷間圧延の最終圧下率を表12~表22に示す圧下率に設定し、No.1~No.326のブレージングシートを得た。これらブレージングシートの厚さは1.0mmである。
また、これらのブレージングシートは、クラッド率10%の片面ろう材構成である。
各ブレージングシートに対し、以下に示す条件で窒素ガス雰囲気中においてろう付に相当する熱処理を施した。
【0037】
ろう付相当熱処理は、窒素ガス雰囲気中で図3の温度履歴に示すように平均昇温速度100~400℃/分で400℃を超えるまで昇温し、その後、10分~15分間程度かけて600℃に到達するまで昇温し、585℃~630℃の温度域に2~10分程度保持する。その後、50~100℃/分の速度で300℃まで空冷する条件とした。
【0038】
「ろう溶融直前の心材の再結晶率」
ろう溶融直前の心材の再結晶率は、ろう溶融直前の温度で材料を取り出した後、断面を機械研磨し、バーカー氏液(HBF:HO=1:30)にて陽極酸化処理を実施後、光学顕微鏡にて観察した。各ブレージングシート試料について、再結晶率について以下の基準により判定し、後記する表12~表22に評価結果を示した。図5に再結晶率90%以上の試料の組織写真を示し、図6に再結晶率90%未満の試料の組織写真を示す。
図5図6を対比して明らかなように、図5に示す試料では再結晶が完了した結果、最終圧延後の再結晶粒とは異なるサイズの再結晶粒が占める組織を示すが、図6に示す試料では中間焼鈍時の再結晶粒を観察できる組織を示す。
×…90%未満
○…90%以上95%未満
◎…95%以上
【0039】
「ろう付後の心材へのろう侵食率」
機械研磨にて断面観察される心材の厚さが、ろう付前の厚さに対して、ろう付後の厚さの減少割合にて10%以下であることが好ましい。10%を超えると部材強度が低下し、熱交換器としての構造強度を保てなくなる。
図7に断面観察の結果、ろう侵食率7%であった試料の一例を示し、図8に断面観察の結果、ろう侵食率15%であった試料の一例を示す。なお、図7図8に示す試料は、断面観察状況を説明するための参考試料である。
【0040】
「1%のひずみを付与した場合の流動係数」
ろう付相当熱処理後のブレージングシートに対し、以下のドロップ型流動性試験によりろう流動係数Kを求めた。
引張試験機にて1%ひずみを付与したブレージングシートについて、幅22mm、長さ60mmに裁断した試験片(図4(A)参照)を作製し、この試験片を垂直に保持したまま加熱炉に装入し、上述のろう付相当熱処理を施す。各試験片の上部に吊り下げ用の丸孔を形成し、丸孔を利用し、試験片を吊り下げた状態で加熱炉に装入した。
【0041】
ろう付熱処理に伴う加熱により、ろう材が溶融して濡れ広がり、濡れ拡がった溶融ろうは重力で試験片下部に流動し、図4(B)に示す肉厚のろう溜り部を生成する。
ここで、ブレージングシート全体の重量(W)と、前述のろう溜り部を含むろう付熱処理後の試験片の下部約1/4(全長に対する1/4=15mm)の重量(W)を求め、以下の計算式から、ろう流動係数(K)を計算により求めた。
K=(4W-W)/(3W×ろう材クラッド率)
【0042】
先の計算式に基づき算出された流動係数を以下の基準で評価し、後述する表12~表22に記載した。
×…1.5倍未満
〇…1.5倍以上2.0倍未満
◎…2.0倍以上
以上説明した各ブレージングシートの心材組成とろう材組成について、以下の表1~表11に記載し、各ブレージングシートの均質化温度、均質化時間、最終圧下率について、以下の表12~表22に記載するとともに、各ブレージングシートの心材ろう侵食率と、心材の再結晶率と、ろう流動係数Ksについて以下の表12~表22に記載した。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
【表4】
【0047】
【表5】
【0048】
【表6】
【0049】
【表7】
【0050】
【表8】
【0051】
【表9】
【0052】
【表10】
【0053】
【表11】
【0054】
【表12】
【0055】
【表13】
【0056】
【表14】
【0057】
【表15】
【0058】
【表16】
【0059】
【表17】
【0060】
【表18】
【0061】
【表19】
【0062】
【表20】
【0063】
【表21】
【0064】
【表22】
【0065】
表1~表11に示すNo.1~No.288の試料は、ドロップ型流動性試験において、加工が施されていない状態のろう流動係数をKsとしたとき、1%の加工ひずみを付与した状態において1.5×Ks以上の流動係数を有するブレージングシートである。
これらのブレージングシートは、ろう材から心材へのろう付後のろう侵食量が心材厚さの10%未満であり、ろう溶融直前温度において前記心材の再結晶率が90%以上のブレージングシートである。
また、No.1~No.288のブレージングシートは、ろう付相当熱処理後の再結晶率が90%以上であった。
【0066】
No.1~288のブレージングシートは、ろう材から心材へのろう付後のろう侵食量が心材厚さの10%未満であるので、ブレージングシートを用いてろう付を行った場合であっても、心材がろう侵食されていないろう付構造を実現できる。
また、これらのブレージングシートを用いて種々形状のヘッダープレートを構成した場合、加工ひずみを付与した部分のろう流動係数を高くすることができる。このことは、ヘッダープレートとチューブをろう付接合し、熱交換器を製造する場合、加工ひずみを付与した部分とその部分に近接しているチューブとの間の領域で溶融ろうの流動性を高めることができ、ヘッダープレートとチューブの近接部分に溶融ろうを充分に供給することができる。
【0067】
なお、フィンは種々の形状に加工されて熱交換器に適用されるので、フィンに対しろう付接合される被接合材は種々形状の構成があり、この被接合材とフィンとの接合部形状も様々であるが、被接合材に対しフィンが接近する部分を加工ひずみ付与領域としておくことにより、被接合材とフィンとの良好なろう付性を確保できる。
【0068】
表10に示すNo.289~No.299のブレージングシートは、いずれかの成分が望ましい含有量の上限を超えている試料である。
No.289~No.299のブレージングシートは、表21に示すように心材ろう侵食率が11~20%と高く、加工ひずみを付与した部分の流動係数が、加工ひずみを付与していない部分の流動係数の1.5倍よりも低かった。また、No.291~No.293、No.296~299のブレージングシートは、心材の再結晶率も90%未満であった。
【0069】
表11に示すNo.300~No.308のブレージングシートは、Fe:0.05%以上1.0%以下、Mn:0.05%以上1.2%以下、Si:0.05%以上1.0%以下の望ましい範囲のFe含有量、Mn含有量、Si含有量ではあるが、各添加量の合計量の式の値(CFe+1.5CMn+1.6CSi)が3.0を超える試料である。
表11に示すNo.300~No.308のブレージングシートは、表22に示すように心材ろう侵食率が14~20%と高く、心材の再結晶率が90%未満であり、流動係数の比も1.5倍よりも低かった。
なお、No.300~308のブレージングシートはろう付相当熱処理中に再結晶しきっていないために激しいろう侵食を生じている。
【0070】
表11に示すNo.309~No.311のブレージングシートは、望ましい範囲のSi含有量、Fe含有量、Mn含有量よりもSi含有量、Fe含有量、Mn含有量が多い試料であり、各添加量の合計量の式の値(CFe+1.5CMn+1.6CSi)が3.0を超える試料である。
表11に示すNo.309~No.311のブレージングシートは、表22に示すように心材ろう侵食率が12~13%と高く、流動係数の比も1.5倍よりも低かった。
No.310のブレージングシートは結晶粒が微細のため、激しいろう侵食を受けた。
No.309、No.311のブレージングシートは、心材の再結晶率が90%未満であった。
【0071】
No.312~No.314のブレージングシートは、心材成分とろう材成分が望ましい範囲ではあるが、No.312のブレージングシートは、表22に示すように均質化温度が低く、No.313のブレージングシートは最終圧下率が高く、No.314のブレージングシートは最終圧下率が低い試料である。
これらのブレージングシートは、流動係数の比が1.5倍より低く、かつ、心材ろう侵食率が高いか、心材の再結晶率が低い試料であった。
No.311、312、314のブレージングシートは、ろう付相当熱処理中に再結晶しきっていないために激しいろう侵食を生じている。
【0072】
No.315のブレージングシートは、表11に示すようにろう材のSi含有量が低い試料、No.316のブレージングシートは、ろう材のSi含有量が高い試料であり、表22に示すように流動係数の比が1.5倍より低くなった。
No.317~No.323のブレージングシートは、表11に示すように心材にMg、Cu、Cr、Ti、Zr、Ni、Znのいずれかを各元素の望ましい含有量より多く含有させた試料である。
No.317のブレージングシートは、ろう付性が低下し、No.318のブレージングシートは、心材融点の低下によりろう侵食率が上昇し、No.319~322のブレージングシートは、鋳造時に巨大な金属間化合物が生成し、圧延時に問題を生じた。
No.323のブレージングシートは心材の自己耐食性が低下し、324のブレージングシートは、ろう材の自己耐食性が低下し、No.325のブレージングシートはろう付性が低下し、No.326のブレージングシートは、鋳造時に巨大な金属間化合物が生成し、圧延時に問題を生じた。
No.327のブレージングシートは、2パス目の圧下率が高く、流動係数が1.5倍未満となり、No.328のブレージングシートは、1パス目の圧下率が低く、流動係数が1.5倍未満となった。
【0073】
以上の説明から、アルミニウム合金の心材とろう材を組み合わせ、加工ひずみを付与したブレージングシートの場合、ひずみを加えていない領域と加工ひずみを付与した領域のろう付処理前後のろう流動係数の比が1.5倍以上であり、ろう熔融直前温度における再結晶率が90%以上のブレージングシートであれば、目的のブレージングシートを提供できることが分かった。
【符号の説明】
【0074】
1…アルミニウム合金ブレージングシート、2…心材、3…ろう材、3A…ろう材、3B…犠牲材、4…熱交換器、5…フィン、5a…、折曲部、6…チューブ。


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8