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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064699
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】医療器具及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/00 20060101AFI20240507BHJP
   A61L 29/06 20060101ALI20240507BHJP
   A61L 29/08 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
A61M25/00 610
A61L29/06
A61L29/08 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173470
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】中島 亮
【テーマコード(参考)】
4C081
4C267
【Fターム(参考)】
4C081AC08
4C081BA14
4C081BB01
4C081CA271
4C081CA272
4C081DA03
4C081DC03
4C081EA06
4C267AA01
4C267BB06
4C267CC08
4C267CC20
4C267CC22
4C267CC23
4C267CC24
4C267CC26
4C267GG02
4C267HH16
(57)【要約】
【課題】抗菌性を比較的長期間に渡って発揮することが可能な医療器具を提供する。
【解決手段】基体(1)と、前記基体の表面に形成された中間層(2)と、前記中間層の前記基体と反対側の表面に積層された表層(3)と、を備えた医療器具であり、前記中間層は、抗菌性金属微粒子と、シランカップリング剤に由来する化合物とを含み、前記表層は、親水性ポリマーを含む、医療器具(10)。前記中間層は、前記抗菌性金属微粒子及び前記シランカップリング剤に由来する化合物のみによって形成されていることが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、前記基体の表面に形成された中間層と、前記中間層の前記基体と反対側の表面に積層された表層と、を備えた医療器具であり、
前記中間層は、抗菌性金属微粒子と、シランカップリング剤に由来する化合物とを含み、
前記表層は、親水性ポリマーを含む、医療器具。
【請求項2】
前記中間層は、前記抗菌性金属微粒子及び前記シランカップリング剤に由来する化合物のみによって形成されている、請求項1に記載の医療器具。
【請求項3】
前記シランカップリング剤に由来する化合物は、前記表層の官能基と化学結合を形成している、請求項2に記載の医療器具。
【請求項4】
前記シランカップリング剤に由来する化合物は、前記基体の表面の官能基と化学結合を形成している、請求項3に記載の医療器具。
【請求項5】
前記抗菌性金属微粒子は少なくとも銀粒子を含む、請求項4に記載の医療器具。
【請求項6】
前記基体がシリコーンゴム製である、請求項5に記載の医療器具。
【請求項7】
前記医療器具は尿道カテーテルである、請求項6に記載の医療器具。
【請求項8】
基体の表面に、抗菌性金属微粒子及びシランカップリング剤を含む溶液を塗布し、前記シランカップリング剤が有する第1の官能基と前記基体の表面の官能基とが反応することにより化学結合させ、前記シランカップリング剤に由来する化合物が前記基体の表面に結合し、かつ前記抗菌性金属微粒子を含む中間層を形成する工程と、
前記中間層の表面に、イソシアネート化合物、ポリオール及び親水性ポリマーを含む溶液を塗布することにより、前記イソシアネート化合物又は前記ポリオールと、前記中間層を構成する前記シランカップリング剤に由来する化合物が有する第2の官能基とを反応させて結合させ、前記親水性ポリマーを含む3次元架橋ネットワークを有する表層を形成する工程と、を含む、医療器具の製造方法。
【請求項9】
前記シランカップリング剤の前記第1の官能基がアルコキシ基又はアルコキシ基が加水分解してなる水酸基であり、前記第2の官能基がイソシアネート基である、請求項8に記載の医療器具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性と抗菌性を兼ね備えたコーティングを有する医療器具及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血管、消化器官、泌尿器官等に挿入するカテーテルの表面に親水性や抗菌性を付与するためのコーティングを施すことが行われている。例えば尿道に挿入する尿道カテーテルの表面には、水で膨潤して滑りやすくなる表層が形成されており、尿道への挿入が容易になっている。しかしながら、尿道カテーテルの挿入時に尿道に多少の傷が発生することもあるので、親水性だけでなく、抗菌性を付与することも重要である。
【0003】
特許文献1にはカテーテル基体の表面をクロム酸で前処理し、スズイオン含有塩を含む水溶液に浸漬した後、銀含有塩を含む水溶液に浸漬し、さらに希酸中に白金及び金の塩を含む安定化溶液に浸漬し、乾燥することによって、抗菌層を形成する方法が開示されている。同文献では、続けて、抗菌層の表面にPVP及びポリ尿素ネットワークからなる親水性の表層を形成し、2層構造からなるコーティングを形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5685539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の医療デバイスにあっては、抗菌層に含まれる銀などの微量作用金属イオンが親水性表層を透過して外部へ浸出することにより抗菌性を発揮する。抗菌層に含まれる微量作用金属の量は限られているので、浸出速度が速いと、抗菌作用は一過性のものとなり、長期間に渡る抗菌性を発揮することはできない。特許文献1の実験では最大300秒後の銀の浸出量を測定しているが、尿道カテーテルは数日から数週間に渡って尿道に留置することがあるので、一過性の抗菌作用では不十分である。
【0006】
本発明は、抗菌性を比較的長期間に渡って発揮することが可能な医療器具及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]基体と、前記基体の表面に形成された中間層と、前記中間層の前記基体と反対側の表面に積層された表層と、を備えた医療器具であり、前記中間層は、抗菌性金属微粒子と、シランカップリング剤に由来する化合物とを含み、前記表層は、親水性ポリマーを含む、医療器具。
[2] 前記中間層は、前記抗菌性金属微粒子及び前記シランカップリング剤に由来する化合物のみによって形成されている、[1]に記載の医療器具。
[3] 前記シランカップリング剤に由来する化合物は、前記表層の官能基と化学結合を形成している、[1]又は[2]に記載の医療器具。
[4] 前記シランカップリング剤に由来する化合物は、前記基体の表面の官能基と化学結合を形成している、[1]~[3]の何れか一項に記載の医療器具。
[5] 前記抗菌性金属微粒子は少なくとも銀粒子を含む、[1]~[4]の何れか一項に記載の医療器具。
[6] 前記基体がシリコーンゴム製である、[1]~[5]の何れか一項に記載の医療器具。
[7] 前記医療器具は尿道カテーテルである、[1]~[6]の何れか一項に記載の医療器具。
[8] 基体の表面に、抗菌性金属微粒子及びシランカップリング剤を含む溶液を塗布し、前記シランカップリング剤が有する第1の官能基と前記基体の表面の官能基とが反応することにより化学結合させ、前記シランカップリング剤に由来する化合物が前記基体の表面に結合し、かつ前記抗菌性金属微粒子を含む中間層を形成する工程と、前記中間層の表面に、イソシアネート化合物、ポリオール及び親水性ポリマーを含む溶液を塗布することにより、前記イソシアネート化合物又は前記ポリオールと、前記中間層を構成する前記シランカップリング剤に由来する化合物が有する第2の官能基とを反応させて結合させ、前記親水性ポリマーを含む3次元架橋ネットワークを有する表層を形成する工程と、を含む、医療器具の製造方法。
[9] 前記シランカップリング剤の前記第1の官能基がアルコキシ基又はアルコキシ基が加水分解してなる水酸基であり、前記第2の官能基がイソシアネート基である、[8]に記載の医療器具の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の医療器具が備える抗菌層は、少なくとも数日間に渡って抗菌性金属微粒子のイオンを浸出し、抗菌性を発揮し続けることができる。また、本発明の医療器具の表層は、抗菌層に対して高い密着性を示し、表層を水中で擦っても容易には剥がれない強度を示し得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る医療器具の一例のカテーテルの断面図である。
図2】実施例で作製したカテーテルの大腸菌に対する抗菌活性の試験結果である。
図3】実施例で作製したカテーテルの緑膿菌に対する抗菌活性の試験結果である。
図4】実施例で作製したカテーテルの腸球菌に対する抗菌活性の試験結果である。
図5】実施例で作製したカテーテルの銀イオンの溶出量の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪医療器具≫
本発明の第一態様は、基体と、前記基体の表面に形成された中間層と、前記中間層の前記基体と反対側の表面に積層された表層と、を備えた医療器具であり、前記中間層は、抗菌性金属微粒子と、シランカップリング剤に由来する化合物とを含み、前記表層は、親水性ポリマーを含む、医療器具である。
【0011】
本態様の一例として、以下ではカテーテルの場合を説明する。図1に例示するカテーテル10は、シリコーンゴム製のチューブであるカテーテル基体1と、カテーテル基体1の外周面1aに形成された中間層2と、中間層2の外周面2aに形成された表層3とを有する。
【0012】
中間層2は、抗菌性金属微粒子と、シランカップリング剤に由来する化合物とを含む。シランカップリング剤は中間層2の形成時の材料である。シランカップリング剤は反応性に優れた官能基を有するので、通常、中間層2に接するカテーテル基体1及び表層3のうち少なくとも一方の表面の官能基と反応している。本態様では、この反応後の物質(反応生成物)をシランカップリング剤に由来する化合物という。
【0013】
抗菌性金属微粒子は、従来から抗菌性が知られている金属イオンを発生する微粒子であればよく、例えば、銀、銀塩、金、亜鉛、銅、セリウム等が挙げられる。これらの金属は抗菌性を発揮するのであれば酸化されていてもよく、他の元素との化合物を形成していてもよい(例えば銀化合物、銅化合物等)。抗菌性金属微粒子を構成する金属の種類は1種類であってもよく、2種類以上を任意に組み合わせてもよい。
【0014】
抗菌性金属微粒子の一次粒子径としては、1~100nmが好ましく、1~50nmがより好ましく、1~30nmがさらに好ましい。上記範囲であると中間層からの金属イオンの浸出が一過性で終わらず、数十日間に渡って穏やかに浸出を継続させることができる。
抗菌性金属微粒子の一次粒子径は、電子顕微鏡(SEM若しくはTEM)で中間層に含まれる抗菌性金属微粒子の10個以上の長径を測定した平均値とする。
【0015】
中間層2はシランカップリング剤に由来する化合物を含むので、抗菌性金属微粒子からの金属イオンの浸出が穏やかに継続する。このメカニズムとしては、シランカップリング剤に由来する化合物がカテーテル基体1又は表層3に結合し、アンカーした状態であるため、中間層2における抗菌性金属微粒子からの金属イオンの拡散や運動が中間層2内において低減されていることが要因として考えられる。
【0016】
中間層2は穏やかに抗菌性金属微粒子から金属イオンを浸出させることができるので、中間層2は大量の抗菌性金属微粒子を含有する必要がない。浸出量が単位時間当たり一定であると仮定すれば、中間層2が大量の抗菌性金属微粒子を含有すれば、浸出可能な期間を延ばすことは原理的に可能である。しかし、大量の抗菌性金属微粒子を含有した中間層2は、カテーテル基体1の外周面1aから剥離しやすく、金属粒子によって光が遮断されるため、カテーテル基体1の流路1bを流通する液体等を視認しづらくなる。また、金属粒子の酸化等により、黄変等の変色を起こす問題もある。
【0017】
中間層2に含まれる抗菌性金属微粒子の含有量は、中間層2に含まれるシランカップリング剤に由来する化合物の含有量100質量部に対して、0.1~20質量部が好ましく、0.5~15質量部がより好ましく、1.0~10質量部がさらに好ましい。
上記範囲であると、抗菌性金属微粒子から金属イオンを数十日間に渡って穏やかに浸出させ続けることができ、中間層2を通してカテーテル基体1の流路1b内を視認することができ、金属の変色による外観不良を目立たなくすることができる。
【0018】
中間層2を形成する1種以上のシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2‐(3,4‐エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3‐グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3‐グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3‐グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3‐グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p‐スチリルトリメトキシシラン、3‐メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3‐メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3‐メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3‐メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3‐アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N‐2-(アミノエチル)-3‐アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N‐2‐(アミノエチル)‐3‐アミノプロピルトリメトキシシラン、3‐アミノプロピルトリメトキシシラン、3‐アミノプロピルトリエトキシシラン、3‐トリエトキシシリル‐N‐(1,3‐ジメチル‐ブチリデン)プロピルアミン、N‐フェニル‐3‐アミノプロピルトリメトキシシラン、N‐(ビニルベンジル)-2-アミノエチル‐3‐アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、3‐ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、3‐メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3‐メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3‐イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらのなかでも、N‐2-(アミノエチル)-3‐アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N‐2‐(アミノエチル)‐3‐アミノプロピルトリメトキシシラン、3‐アミノプロピルトリメトキシシラン、3‐アミノプロピルトリエトキシシラン、3‐トリエトキシシリル‐N‐(1,3‐ジメチル‐ブチリデン)プロピルアミン、N‐フェニル‐3‐アミノプロピルトリメトキシシラン、N‐(ビニルベンジル)-2-アミノエチル‐3‐アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、3‐イソシアネートプロピルトリエトキシシランが特に好ましい。
なかでも、活性水素基を形成するアルコキシ基及びイソシアネート基を有するシランカップリング剤が好ましい。シランカップリング剤が有するアルコキシ基が加水分解して形成される水酸基等の活性水素基は、例えばカテーテル基体1の外周面1aに存在する水酸基と脱水縮合することにより化学結合を形成することができる。また、シランカップリング剤が有するイソシアネート基やアミノ基は、例えば表層3を構成するイソシアネート化合物、ポリオール又は親水性ポリマーが有する官能基と反応して化学結合を形成することができる。つまり、中間層2を構成するシランカップリング剤がカテーテル基体1と表層3を化学的に架橋することができる。
上記の化学結合を形成することにより、中間層2とカテーテル基体1の接着性や、中間層2と表層3の接着性を格段に向上させることができる。
【0019】
中間層2の乾燥時の厚さは、0.05~5.0μmが好ましく、0.05~1.0μmがより好ましく、0.05~0.5μmがさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、充分な量の抗菌性金属微粒子を含有することができ、比較的長期間に渡って浸出を続けて抗菌性を発揮することができる。
上記範囲の上限値以下であると、中間層2の強度が向上し、中間層2を介在したカテーテル基体1と表層3の接着性をより高めることができる。また、中間層2の透明性が高まり、カテーテル1の流路1bの内部を視認することが容易になる。
中間層2の厚さは、厚さ方向の断面を電子顕微鏡等の拡大観察手段で観察し、代表的な任意の5カ所について測定した平均値とする。
【0020】
中間層2における抗菌性金属微粒子からの金属イオンの浸出の程度の制御を容易にする観点から、中間層2は前記抗菌性金属微粒子及び前記シランカップリング剤に由来する化合物のみによって形成されていることが好ましい。
【0021】
表層3に含まれる1種以上の親水性ポリマーとしては、例えば、ポリビニル化合物、ポリ(ビニルアルコール)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ヘパリン、デキストラン、キサンタンガム、多糖類、誘導体化多糖類、セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリヒドロキシアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアルキレンオキシド、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリアクリル酸、上記ポリマーのコポリマー、ビニル化合物とアクリレート又は無水物とのコポリマー、ビニルピロリドンとヒドロキシエチルメチルアクリレートとのコポリマー、ポリビニルピロリドンのカチオン性コポリマー、及びポリメチルビニルエーテルとマレイン酸無水物とのコポリマー、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレングリコール(PEG)、ヒアルロン酸及びその塩と誘導体、アルギン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸、キチン、キトサン、アガロース、キサンタン、デルマタン硫酸、ケラチン硫酸、エミルザン、ジェラン、カードラン、アミロース、カラギーナン、アミロペクチン、デキストラン、グリコーゲン、デンプン、ヘパリン硫酸、及び限界デキストリンならびにそれらの断片、合成親水性ポリマー等が挙げられる。最も好ましい親水性ポリマーは、ポリビニルピロリドン(PVP)である。
【0022】
表層3は親水性ポリマーを保持し得る3次元架橋ネットワークを有することが好ましい。3次元架橋ネットワークとは、表層の厚みを保持し、表層の全体に架橋構造が存在する張り巡らされた構造をいう。3次元架橋ネットワークの少なくとも一部には、ポリウレタン又はポリ尿素のネットワークを有することが好ましい。ポリウレタン又はポリ尿素のネットワークは、例えば多官能イソシアネート化合物を、水酸基又はアミノ基を有する多官能化合物と反応させて形成することができる。ポリウレタン又はポリ尿素のネットワークを形成するイソシアネート化合物の一部のイソシアネート基は中間層2を構成するシランカップリング剤が有する官能基と反応し、化学結合を形成し得る。
【0023】
表層3の乾燥時の総質量に対する親水性ポリマーの含有量は、例えば、50~95質量%が好ましく、70~95質量%がより好ましく、85~95質量%がさらに好ましい。ここで、残部はポリウレタン又はポリ尿素のネットワークであることが好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、良好な親水性が得られ、水で膨潤したときの滑らかさがより向上する。
上記範囲の上限値以下であると、ポリウレタン又はポリ尿素のネットワークの含有量が相対的に増加し、結果として、中間層2に含まれる抗菌性金属微粒子からの金属イオンが表層3を透過しやすくなる。
【0024】
表層3の乾燥時の厚さは、5μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましい。厚さの下限は特に制限されず、例えば0.5μmが挙げられる。
上記範囲の下限値以上であると、充分な親水性が得られるとともに、抗菌性金属微粒子からの金属イオンの浸出を穏やかにすることができ、比較的長期間に渡って浸出を続けて抗菌性を発揮することができる。
上記範囲の上限値以下であると、抗菌性金属微粒子からの金属イオンの浸出が極度に低下することを防止でき、充分な抗菌性を発揮することができる。
表層3の厚さは、厚さ方向の断面を電子顕微鏡等の拡大観察手段で観察し、代表的な任意の5カ所について測定した平均値とする。
【0025】
カテーテル基体1の構成材料は特に制限されず、公知の材料を適用でき、例えばシリコーンゴム、ラテックスゴム、熱可塑性エラストマー、その他のゴム、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリレート、ポリオレフィン、その他のビニルポリマー、ポリエステル、ポリアミド、スチレンブロックコポリマー(SBS)、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)等が挙げられる。
【0026】
カテーテル基体1の中間層2が接する外周面1aには、水酸基等の活性水素基を形成する目的で、コロナ処理、低圧水銀UV照射処理、エキシマUV照射処理、プラズマ処理等の公知の表面処理を行ってもよい。
【0027】
以上ではカテーテルの表面に中間層及び表層が備えられている場合を説明したが、本発明はカテーテル以外の医療器具の全般に渡って適用することができる。その他の医療器具としては、内視鏡及び喉頭鏡、栄養補給又はドレナージ若しくは気管内使用のための管、避妊具、創傷包帯、コンタクトレンズ、移植片(implantates)、体外血液導管(extracorporeal blood conduits)、膜(例えば透折用膜)、血液フィルター、循環補助機器等が挙げられる。
本態様の基体の構成材料は樹脂成形品に制限されず、SUS等の金属であってもよい。
【0028】
≪医療器具の製造方法≫
本発明の第二態様は、医療器具の製造方法であり、下記の工程の少なくとも1つを有する。本態様により、第一態様の医療器具を容易に製造することができる。
本態様の一例の実施形態は、表面処理工程と、中間層形成工程と、表層形成工程と、を有する。
【0029】
表面処理工程は、基体の表面に水酸基を形成する表面処理を行う工程である。表面処理の方法としては、基体の材料に応じて公知方法を適用すればよい。例えば基体材料がシリコーンゴムである場合には、エキシマUV照射が好ましい。基体の表面に水酸基を形成することにより、次工程で中間層形成用の溶液の濡れ性が高まり、中間層の形成が容易になる。また、基体表面の水酸基は中間層形成用の溶液に含まれるシランカップリング剤と反応し得る。
【0030】
中間層形成工程は、前記基体の表面に、抗菌性金属微粒子及びシランカップリング剤を含む溶液(以下、溶液Aということがある。)を塗布し、前記シランカップリング剤が有する第1の官能基(例えばアルコキシ基から形成される水酸基)と前記基体の表面の官能基とが反応することにより化学結合させ、前記シランカップリング剤に由来する化合物が前記基体の表面に結合し、かつ前記抗菌性金属微粒子を含む中間層を形成する工程である。
抗菌性金属微粒子及びシランカップリング剤の説明は第一態様と同じ説明であるので、ここで重複する説明は省略する。
【0031】
溶液Aは、抗菌性金属微粒子及びシランカップリング剤を分散し得る分散媒を含むことが好ましい。分散媒としては、塗布する基体表面に対する濡れ性が良好であるものを適宜選択すればよく、例えば、トルエン等の非極性溶媒が挙げられる。
【0032】
溶液Aに含まれる抗菌性金属微粒子の含有量は、溶液Aの総質量に対して、50~5000ppmが好ましく、100~3000ppmがより好ましく、500~3000ppmがさらに好ましい。
上記好適な範囲であると、前述の好適な厚さの中間層を形成することが容易であり、比較的長期間に渡って抗菌性金属微粒子を浸出可能な中間層を形成しやすい。
【0033】
溶液Aに含まれるシランカップリング剤の含有量は、溶液Aの総質量に対して、0.5~10質量%が好ましく、1.0~7.0質量%がより好ましく、2.0~4.0質量%がさらに好ましい。
上記好適な範囲であると、前述の好適な厚さの中間層を形成することが容易であり、比較的長期間に渡って抗菌性金属微粒子から金属イオンを浸出可能な中間層を形成しやすい。
【0034】
中間層形成工程において、基体に溶液Aを塗布する方法は特に制限されず、公知方法が適用でき、溶液Aに基体を浸漬してもよいし、コーター等で塗り付けてもよいし、エアスプレー等で吹き付けてもよい。
【0035】
基体に溶液Aを塗布した後、基体表面の官能基とシランカップリング剤が反応するための反応時間を確保してもよい。
【0036】
基体に溶液Aを塗布し、必要に応じて反応時間を確保した後、基体Aの表面から溶液Aの溶媒を除去し、乾燥させることにより、抗菌性金属微粒子及びシランカップリング剤に由来する化合物を含む中間層を基体表面に形成することができる。
乾燥方法は特に制限されず、自然乾燥でもよいし、温風を吹き付ける風乾でもよいし、高温の乾燥室内に置いてもよい。
【0037】
表層形成工程は、前段で形成した中間層の表面に、イソシアネート化合物、ポリオール及び親水性ポリマーを含む溶液(以下、溶液Bということがある。)を塗布することにより、これらの成分と前記中間層を構成する前記シランカップリング剤に由来する化合物が有する第2の官能基(例えばイソシアネート基、アミノ基等)とを反応させて結合させ、前記親水性ポリマーを含む3次元架橋ネットワークを有する表層を形成する工程である。
具体的には例えば、ポリオール、ポリイソシアネート、親水性ポリマー及び有機溶媒を含む溶液Bを塗布した後、架橋及び乾燥させることにより形成することができる。これから形成された表層は、親水性ポリマー及び3次元架橋ネットワーク(例えば架橋ポリウレタン網状体)を含有するものとなる。このような構造を有すると、表層の表面が長期に亘って潤滑性を有することできる。
【0038】
親水性ポリマーの説明は第一態様と同じ説明であるので、ここで重複する説明は省略する。
【0039】
溶液Bに含まれる1種以上のイソシアネート化合物は、分子当たり少なくとも2つの未反応のイソシアネート基を含むポリイソシアネートが好ましく、例えば、ポリイソシアネート単量体、ポリイソシアネート誘導体などが挙げられる。
ポリイソシアネート単量体としては、例えば、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネートなどが挙げられる。
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(2,4-又は2,6-トリレンジイソシアネートもしくはその混合物)(TDI)、フェニレンジイソシアネート(m-、p-フェニレンジイソシアネートもしくはその混合物)、4,4’-ジフェニルジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ジフェニルメタンジイソシネート(4,4’-、2,4’-または2,2’-ジフェニルメタンジイソシネートもしくはその混合物)(MDI)、4,4’-トルイジンジイソシアネート(TODI)、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートなどが挙げられる。
芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、キシリレンジイソシアネート(1,3-または1,4-キシリレンジイソシアネートもしくはその混合物)(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(1,3-または1,4-テトラメチルキシリレンジイソシアネートもしくはその混合物)(TMXDI)、ω,ω’-ジイソシアネート-1,4-ジエチルベンゼンなどの芳香脂肪族ジイソシアネートなどが挙げられる。
また、脂肪族イソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、リジンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアナートメチル(NBDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等を挙げることができる。さらに、脂環式イソシアネートとしては、例えば、トランスシクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、H6XDI(水添XDI)、H12MDI(水添MDI)、4,4’-ジシクロへキシルメタンジイソシアネート等を挙げることができる。
脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3-シクロペンタンジイソシアネート、1,3-シクロペンテンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート(1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート)、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート)(IPDI)、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(4,4’-、2,4’-または2,2’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート、これらのTrans,Trans-体、Trans,Cis-体、Cis,Cis-体、もしくはその混合物))(H12MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート(メチル-2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,6-シクロヘキサンジイソシアネート)、ノルボルナンジイソシアネート(各種異性体もしくはその混合物)(NBDI)、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(1,3-または1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンもしくはその混合物)(HXDI)などの脂環族ジイソシアネートが挙げられる。これらポリイソシアネート単量体は、単独使用または2種類以上併用することができる。
ポリイソシアネート誘導体としては、例えば、上記したポリイソシアネート単量体の多量体(例えば、2量体、3量体(例えば、イソシアヌレート変性体、イミノオキサジアジンジオン変性体)、5量体、7量体など)、アロファネート変性体(例えば、上記したポリイソシアネート単量体と、後述する低分子量ポリオールとの反応より生成するアロファネート変性体など)、ポリオール変性体(例えば、ポリイソシアネート単量体と後述する低分子量ポリオールとの反応より生成するポリオール変性体(アルコール付加体)など)、ビウレット変性体(例えば、上記したポリイソシアネート単量体と、水やアミン類との反応により生成するビウレット変性体など)、ウレア変性体(例えば、上記したポリイソシアネート単量体とジアミンとの反応により生成するウレア変性体など)、オキサジアジントリオン変性体(例えば、上記したポリイソシアネート単量体と炭酸ガスとの反応により生成するオキサジアジントリオンなど)、カルボジイミド変性体(上記したポリイソシアネート単量体の脱炭酸縮合反応により生成するカルボジイミド変性体など)、ウレトジオン変性体、ウレトンイミン変性体などが挙げられる。
さらに、ポリイソシアネート誘導体として、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(クルードMDI、ポリメリックMDI)なども挙げられる。
これらポリイソシアネート誘導体は、単独使用または2種類以上併用することができる。また、上記ポリイソシアネート化合物は、単独使用または2種類以上併用することができる。さらに、本発明において用いられるポリイソシアネートは、ブロックポリイソシアネートであってもよい。
【0040】
溶液Bに含まれるポリオールは、前記親水性ポリマーとは異なる化合物であり、ヒドロキシ基を分子内に少なくとも2つ有する化合物である。具体的には、ポリウレタンの調製に通常使用される各種のポリオールが適用でき、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリアクリレートポリオール、ポリカーボネートポリオールから選択された少なくとも1種のポリオールであることが好ましい。
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール-エチレングリコール等のポリアルキレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、テトラヒドロフランとアルキレンオキサイドとの共重合ポリオール、これらの各種変性体、これらの混合物等が挙げられる。
ポリエステルポリオールは、分子内に2つ以上のエステル結合と、2つ以上のヒドロキシ基を有する。ポリエステルポリオールとしては、例えば、ジカルボン酸と本明細書で例示している他のポリオールとの縮合反応物等が挙げられる。ジカルボン酸としては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。
ポリアクリレートポリオールとしては、例えば、ヒドロキシ基含有モノマーと他のオレフィン系不飽和モノマー、例えば(メタ)アクリル酸のエステル、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルエステル、マレイン酸モノアルキルエステル及びマレイン酸ジアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル及びフマル酸ジアルキルエステル、α-オレフィン並びに他の不飽和オリゴマー及び不飽和ポリマーとのコポリマーが挙げられる。
ポリカーボネートポリオールは、分子内に2つ以上のカーボネート結合と、2つ以上のヒドロキシ基を有する。ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、後述のポリオールとカーボネート化合物との縮合反応物等が挙げられる。また、カーボネート化合物としては、例えば、ジアルキルカーボネート、ジアリールカーボネート、アルキレンカーボネート等が挙げられる。ポリカーボネートポリオールの原料として用いられるポリオールとしては、例えば、ヘキサンジオール、ブタンジオール等のジオール、2,4-ブタントリオール等のトリオールなどが挙げられる。
ポリオールの数平均分子量は、イソシアネートとの相溶性に優れる点で、1000~8000が好ましく、1000~5000がより好ましい。ここで数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレンに換算したときの分子量である。
【0041】
溶液Bには、ポリオールとポリイソシアネートとの反応に通常使用される助剤や触媒を添加してもよい。助剤としては、例えば、鎖延長剤、架橋剤等が挙げられる。鎖延長剤、架橋剤としては、例えば、グリコール類、ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、アミン類等が挙げられる。触媒としては、例えば、N,N-ジメチルアミノエタノール、N,N-ジメチル-シクロヘキサミン-ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、N-エチルモルホリン、N,N,N’,N’,N”-ペンタメチル-ジエチレン-トリアミン、および1-2(ヒドロキシプロピル)イミダゾール等の第3級アミン、スズ、オクタン酸スズ、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズメルカプチド、アセチルアセトン第二鉄、オクタン酸鉛、ジブチルスズジリシノレエート、炭酸カルシウム、鉄(III)アセチルアセトネート等の金属触媒が挙げられる。
【0042】
溶液Bを構成する溶媒としては、イソシアネート基と反応しないものが好ましく、例えば、塩化メチレン、臭化メチレン、ジブロモメタン、ジブロモエタン、ジクロロエタン、ジクロロエチレン、臭化n-プロピル、酢酸エチル、アセトン、クロロホルム、メチルエチルケトン、アセトニトリル、メチルベンキソエート、酢酸ベンジル、シクロヘキサノン、1,3-ジオキソラン及びN-メチルピロリドン等が挙げられる。
【0043】
溶液Bにおけるポリオールとポリイソシアネートとの混合割合は、ポリオールに含まれる水酸基(OH)と、ポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基(NCO)とのモル比[NCO/OH]が0.7以上1.15以下であるのが好ましい。このモル比は、ポリウレタンの加水分解を防止することができる点で、0.85以上1.10以下であるのがより好ましい。
【0044】
溶液Bに含まれるイソシアネート化合物の含有量は、溶液Bの総質量に対して、0.01~0.80質量%が好ましく、0.05~0.40質量%がより好ましく、0.10~0.20質量%がさらに好ましい。
上記好適な範囲であると、親水性ポリマーを保持しやすく、比較的長期間に渡って抗菌性金属微粒子からの金属イオンを浸出可能な表層を形成しやすい。
【0045】
溶液Bに含まれる親水性ポリマーの含有量は、溶液の総質量に対して、0.1~5.0質量%が好ましく、0.5~3.0質量%がより好ましく、1.0~2.0質量%がさらに好ましい。
上記好適な範囲であると、前述の好適な厚さの表層を形成することが容易であり、比較的長期間に渡って抗菌性金属微粒子からの金属イオンを浸出可能な表層を形成しやすい。
【0046】
表層形成工程において、溶液Bを中間層の表面に塗布する方法は特に制限されず、公知方法が適用でき、溶液Bに基体を浸漬してもよいし、コーター等で塗り付けてもよいし、エアスプレー等で吹き付けてもよい。
【0047】
溶液Bを塗布した後、中間層の表面や3次元架橋ネットワークの中で親水性ポリマーが反応したり吸着したりするための時間を確保してもよい。通常、数分~数時間で反応や吸着を完了させることができる。
【0048】
溶液Bを塗布し、必要に応じて反応時間を確保した後、中間層の表面から溶液Bの溶媒を除去し、乾燥させることにより、親水性ポリマーを含む3次元架橋ネットワークを含む表層を形成することができる。
乾燥方法は特に制限されず、自然乾燥でもよいし、温風を吹き付ける風乾でもよいし、高温の乾燥室内に置いてもよい。
【実施例0049】
[実施例1]
本発明の医療器具の一例として第一態様で説明したカテーテルを次の方法によって製造した。
<中間層の形成>
シリコーンゴム製の外径14Fr、長さ400mmのカテーテルシャフト(基体)を準備し、その外周面にエキシマUVを照射して表面に水酸基を形成した。
中間層形成用溶液(溶液A)として、銀粒子(平均粒子径:10nm)を1000ppm、シランカップリング剤(化合物名:3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン)を6質量%で溶媒(トルエン)に分散したものを準備した。この溶液Aにカテーテルシャフトを浸漬した後、取り出し、自然乾燥させ、中間層を形成した。
【0050】
<表層:架橋ポリウレタン網状体の形成>
以下の原料を混合し、表層形成用組成物(架橋ポリウレタン網状体形成用組成物:溶液B)を調製した。
(1)ポリエチレングリコール(分子量1000):100質量部
(2)ポリイソシアネート(商品名「ミリオネートMR-200」、東ソー株式会社製):30質量部
(3)ポリビニルピロリドン(商品名「K-90」、株式会社日本触媒社製):300質量部
(4)触媒:ジブチルスズラウレート:0.6質量部
(5)溶媒:ジブロモメタン:20000質量部
ここで、ポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基(NCO)とポリエチレングリコールに含まれる水酸基(OH)とのモル比[NCO/OH]=1.1/1であった。
ディッピング法によりカテーテルチューブの表面に表層形成用組成物を塗布し、架橋及び乾燥させてポリビニルピロリドンを含む架橋ポリウレタン網状体からなる表層を形成した。
【0051】
実施例1で作製したカテーテルの中間層および表層の厚さは、それぞれ0.5μm、2μmであった。中間層及び表層は透明であり、カテーテル内部の流路を通過する液体を視認することができた。
実施例1で作製したカテーテルの表層を水で膨潤させた後、指で擦っても、表層は容易には剥離せず、潤滑な表面状態を維持した。
【0052】
[実施例2]
溶液Aに含まれる銀粒子濃度を500ppmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、中間層及び表層を備えたカテーテルを作製した。
【0053】
[実施例3]
溶液Aに含まれる銀粒子濃度を2000ppmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、中間層及び表層を備えたカテーテルを作製した。
【0054】
<抗菌性の評価>
実施例1~3で作製したカテーテルを所定量の人工尿に24時間浸漬し、この浸漬中にカテーテルから人工尿中に銀イオンを溶出させた。このようにして得た人工尿に含まれる銀イオンを定量した後(人工尿1g当たりの銀イオン含有量の測定後)、大腸菌、緑膿菌又は腸球菌を接種し、公知のシェーク法抗菌試験を実施し、測定した生菌数から各人工尿の抗菌活性を算出した。その結果を「人工尿浸漬日数 0日」の結果として、図2~5に示す。図中、C1000が実施例1の結果、C500が実施例2の結果、C2000が実施例3の結果である。抗菌活性値が高いほど、抗菌性が高いことを意味する。
同様に、新品の各カテーテルを所定量の人工尿に14日間浸漬した後、これらのカテーテルをそれぞれ新しい別の所定量の人工尿に24時間浸漬した。このようにして得た人工尿に含まれる銀イオンを定量した後、各菌を接種し、シェーク法にて抗菌活性を算出した。その結果を「人工尿浸漬日数 14日」の結果として、図2~5に示す。
同様に、新品の各カテーテルを所定量の人工尿に31日間浸漬した後、これらのカテーテルをそれぞれ新しい別の所定量の人工尿に24時間浸漬した。このようにして得た人工尿に含まれる銀イオンを定量した後、各菌を接種し、シェーク法にて抗菌活性を算出した。その結果を「人工尿浸漬日数 31日」の結果として、図2~5に示す。
本試験において、「人工尿浸漬日数 31日」の抗菌活性が概ね2以上であることが好ましく、2超であることがより好ましい結果であると評価した。
【0055】
以上の結果から、本発明に係る実施例1~3のカテーテルにあっては、中間層にシランカップリング剤に由来する化合物を含むので、中間層から抗菌性の銀イオンが31日以上に渡って浸出し、抗菌性を発揮することが明らかである。また、中間層及び表層を通してカテーテル内を流通する液体を視認することができ、表層の中間層に対する密着性が優れていることも確認できた。
【符号の説明】
【0056】
1…カテーテル基体、2…中間層、3…表層。
図1
図2
図3
図4
図5