(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064700
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】ニオブ錯体およびリチウムを含む粉末および製造方法、並びに、ニオブ酸リチウムを含有する被覆層を有するリチウム二次電池正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 33/00 20060101AFI20240507BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
C01G33/00 A
H01M4/36 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173472
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129470
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 高
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】藤田 英史
(72)【発明者】
【氏名】田上 幸治
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD04
4G048AE05
5H050AA12
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050DA02
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA05
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン二次電池の正極活物質粒子の表面を固体電解質であるニオブ酸リチウムで被覆するためのニオブ酸リチウムの前駆体溶液の調製に適した、ニオブ錯体およびリチウムを含み、かつ水への溶解度の高い粉末を提供する。
【解決手段】ニオブ化合物とリチウム化合物とアルカリと過酸化水素と水とを混合し、ニオブ錯体とリチウムとを含む水溶液を得た後、当該水溶液に凍結処理を施し、前記のニオブ錯体の分解温度以下で乾燥することにより、ニオブ錯体およびリチウムを含む粉末であって、ニオブを25質量%以上75質量%以下含み、当該粉末に含まれる金属元素中でニオブの占める割合が質量比で0.775以上0.950以下、当該粉末を8倍の質量の25℃の水に溶解させたとき、その濾液に含まれるニオブの含有量が溶解前の粉末に含まれるニオブの量の90質量%以上である、ニオブ錯体およびリチウムを含む粉末を得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニオブ錯体およびリチウムを含む粉末であって、前記の粉末がニオブを25質量%以上75質量%以下含み、当該粉末に含まれる金属元素中でニオブの占める割合が質量比で0.775以上0.950以下であり、下記(1)式で定義する水分量ΔWが4.8以上15.0以下である、ニオブ酸リチウム前駆体粉末。
ΔW = W’H - W’L …(1)
ここで、W’HおよびW’Lは、水分気化装置を併用したカールフィッシャー水分計を用い、測定試料の加熱温度300℃および100℃で電量滴定法により測定した水分量WHおよびWL(質量%)から下記(2)~(4)式を用いて算出した値であり、下記(2)式中のWPは測定試料の単位質量中に占める300℃で乾燥した乾燥粉末の割合(質量%)である。
WP = 100(質量%) - WH …(2)
W’H = (WH/WP)×100 …(3)
W’L = (WL/WP)×100 …(4)
【請求項2】
前記の粉末が酸素を含むものであり、ニオブ、リチウムおよび酸素の含有量の合計が85質量%以上である、請求項1に記載のニオブ酸リチウム前駆体粉末。
【請求項3】
体積基準の累積50%粒径D50が1mm以下である、請求項1に記載のニオブ酸リチウム前駆体粉末。
【請求項4】
ニオブ化合物とリチウム化合物とアルカリと過酸化水素と水とを混合し、ニオブ錯体とリチウムとを含有する水溶液を得る工程と、
前記のニオブ錯体とリチウムとを含有する水溶液を凍結させる工程と、
前記のニオブ錯体とリチウムとを含有する水溶液の凍結物を、前記のニオブ錯体の分解温度以下で乾燥する工程と、
を含む、ニオブ酸リチウム前駆体粉末の製造方法。
【請求項5】
ニオブ化合物とリチウム化合物とアルカリと過酸化水素と水とを混合し、ニオブ錯体とリチウムとを含有する水溶液を得る工程と、
前記のニオブ錯体とリチウムとを含有する水溶液を凍結させる工程と、
前記のニオブ錯体とリチウムとを含有する水溶液の凍結物を、前記のニオブ錯体の分解温度以下で乾燥してニオブ酸リチウム前駆体粉末を得る工程と、
前記の工程により得られたニオブ酸リチウム前駆体粉末を水に溶解してニオブ錯体とリチウムを含む水溶液を得る工程と、
リチウム二次電池正極活物質の表面に、前記のニオブ錯体とリチウムを含む水溶液を被覆する工程と、
前記のニオブ錯体とリチウムを含む水溶液で被覆されたリチウム二次電池正極活物質に熱処理を施す工程と、
を含む、ニオブ酸リチウムを含有する被覆層を有するリチウム二次電池用活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の正極活物質粒子の表面を固体電解質であるニオブ酸リチウムを湿式法で被覆するための水溶液を調製するのに適したニオブ錯体リチウムを含む粉末およびその製造方法、並びにニオブ酸リチウムを含有する被覆層を有するリチウム二次電池正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の正極活物質は、従来一般的にリチウムと遷移金属の複合酸化物で構成される。なかでも、Coを成分に持つ複合酸化物であるコバルト酸リチウム(LiCoO2)が多用されている。また、最近ではニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、あるいは三元系(LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2など)や、それらの複合タイプの利用も増加している。
【0003】
リチウムイオン二次電池の電解液としては、電解質LiPF6、LiBF4等のリチウム塩を、PC(プロピレンカーボネート)、EC(エチレンカーボネート)等の環状炭酸エステルと、DMC(ジメチルカーボネート)、EMC(エチルメチルカーボネート)、DEC(ジエチルカーボネート)等の鎖状エステルの混合溶媒に溶解したものが主として用いられている。このような有機溶媒は酸化雰囲気に弱く、特に正極表面でCo、Ni、Mn等の遷移金属に触れると酸化分解反応を起こしやすい。その要因として、正極表面が高い電位であること、高酸化状態の遷移金属が触媒的に作用することなどが考えられる。したがって、電解液と正極活物質を構成する遷移金属(例えばCo、Ni、Mnの1種以上)との接触をできるだけ防止することが、電解液の性能を維持するうえで有効となる。
【0004】
また、前記の有機溶媒系の電解液の問題点を抜本的に解決するための方法として、電解液を不燃性の固体電解質に替えた全固体型のリチウムイオン二次電池が提案されている。
一般に電池の電極反応は、電極活物質と電解液との界面で生起する。ここで、当該電解液に液体の電解液を用いた場合には、電極上に存在する電極活物質の表面に電解液が浸透し、電荷移動の反応界面が形成される。全固体型電池の場合、イオン伝導性を有する固体電解質が電解液の役割を果たすが、固体電解質それ自体は液体のような流動性を持たないため、二次電池を構成する前に電極活物質となる粉体と固体電解質を混合するか、電極活物質となる粉体を固体電解質により被覆して、予め複合化しておく必要がある。
【0005】
ところが、全固体型リチウムイオン二次電池の場合、正極活物質と固体電解質との界面をリチウムイオンが移動する際に発生する抵抗(以下、「界面抵抗」と記載する場合がある。)が増大し、全固体型リチウムイオン二次電池の電池容量等の性能が低下し易いという問題があった。当該界面抵抗の増大は、正極活物質と固体電解質とが反応して正極活物質の表面に高抵抗部位が形成されることが原因であるとされており、正極活物質であるコバルト酸リチウムの表面をニオブ酸リチウムによって被覆することにより、界面抵抗を低減することが可能であることが知られている。ニオブ酸リチウムの被覆方法には様々な手法を用いることが可能であるが、例えば特許文献1~4には、湿式法を用い、正極活物質であるコバルト酸リチウムの表面にニオブ酸リチウム被覆層を形成するための処理液が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-210701号公報
【特許文献2】特開2020-066570号公報
【特許文献3】特開2020-164401号公報
【特許文献4】特開2020-035607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、リチウムとニオブ錯体とを含み、pH値が8.0以上10.5以下の水溶液とその製造方法が開示されている。特許文献2には、ニオブのポリ酸イオンとLiイオンと過酸化水素を含むニオブ酸リチウムの前駆体溶液とその製造方法が開示されている。また、特許文献3には、リチウムとニオブ錯体と亜硝酸を含む溶液およびその製造方法並びに当該溶液を用いたリチウム二次電池用活物質の製造方法が開示されている。これらの特許文献で開示されている水溶液は、いずれもニオブ酸リチウムの前駆体となるものであり、それぞれの特許文献には解決すべき課題として当該水溶液の保存安定性が挙げられている。しかし、本発明者等の検討によると、前記の特許文献1~3に記載の前駆体溶液はいずれも、保存安定性が必ずしも満足できるものではなかった。また、当該前駆体水溶液は、全質量に対する溶媒の質量の占める割合が多く、輸送コストが高いという問題があった。
【0008】
そのため、ニオブとリチウムを含むニオブ酸リチウムの前駆体溶液を乾燥・固化して固体状態で保存し、使用時に水に溶解して水溶液とすることが考えられるが、従来技術で製造したニオブとリチウムを含む粉末は、水溶性が低いという問題点を有していた。とりわけニオブの水への溶解率が低いため、水溶性の高いニオブとリチウムを含む粉末は得られていなかった。
【0009】
例えば、特許文献4には、ニオブイオンとリチウムイオンを含む溶液を乾燥させて得たニオブ酸リチウムの前駆体を、250℃~300℃の温度で加熱してニオブ酸リチウムを得る技術が開示されているが、当該温度条件で加熱して得られるニオブ酸リチウムは水に難溶性である。
【0010】
本発明は、前記の問題点に鑑み、リチウムイオン二次電池の正極活物質粒子の表面を固体電解質であるニオブ酸リチウムで被覆するためのニオブ酸リチウムの前駆体溶液の調製に適した、ニオブ錯体およびリチウムを含み、かつ水への溶解度の高い粉末およびその製造方法を提供すること、および、当該、ニオブ錯体およびリチウムを含み含む粉末を用いてニオブ酸リチウムを含有する被覆層を有するリチウム二次電池正極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
なお、ここで「粉末中に含まれるニオブ錯体」とは、ニオブが配位子(錯化剤)と配位結合した状態を残して固体化したものを指す。したがって、本明細書においてニオブ錯体という用語は、水溶液中で形成される錯体、および、それを固体化したものの双方の意味で用いられるが、その相違は文脈から明らかに読み取ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明においては、
[1]ニオブ錯体およびリチウムを含む粉末であって、前記の粉末がニオブを25質量%以上75質量%以下含み、当該粉末に含まれる金属元素中でニオブの占める割合が質量比で0.775以上0.950以下であり、下記(1)式で定義する水分量ΔWが4.8以上15.0以下である、ニオブ酸リチウム前駆体粉末。
ΔW = W’H - W’L …(1)
ここで、W’HおよびW’Lは、水分気化装置を併用したカールフィッシャー水分計を用い、測定試料の加熱温度300℃および100℃で電量滴定法により測定した水分量WHおよびWL(質量%)から下記(2)~(4)式を用いて算出した値であり、下記(2)式中のWPは測定試料の単位質量中に占める300℃で乾燥した乾燥粉末の割合(質量%)である。
WP = 100(質量%) - WH …(2)
W’H = (WH/WP)×100 …(3)
W’L = (WL/WP)×100 …(4)
[2]前記[1]項のニオブ錯体およびリチウムを含む粉末は、酸素を含むものであり、ニオブ、リチウムおよび酸素の含有量の合計が85質量%以上であることが好ましい。
[3]前記[1]項のニオブ錯体およびリチウムを含む粉末は、体積基準の累積50%粒径D50が1mm以下であることが好ましい。
【0012】
本発明においてはまた、
[4]ニオブ化合物とリチウム化合物とアルカリと過酸化水素と水とを混合し、ニオブ錯体とリチウムとを含有する水溶液を得る工程と、前記のニオブ錯体とリチウムとを含有する水溶液を凍結させる工程と、前記のニオブ錯体とリチウムとを含有する水溶液の凍結物を、前記のニオブ錯体の分解温度以下で乾燥する工程とを含む、ニオブ酸リチウム前駆体粉末の製造方法が提供される。
本発明においてはまた、
[5]ニオブ化合物とリチウム化合物とアルカリと過酸化水素と水とを混合し、ニオブ錯体とリチウムとを含有する水溶液を得る工程と、前記のニオブ錯体とリチウムとを含有する水溶液を凍結させる工程と、前記のニオブ錯体とリチウムとを含有する水溶液の凍結物を、前記のニオブ錯体の分解温度以下で乾燥してニオブ酸リチウム前駆体粉末を得る工程と、前記の工程により得られたニオブ酸リチウム前駆体粉末を水に溶解してニオブ錯体とリチウムを含む水溶液を得る工程と、リチウム二次電池正極活物質の表面に、前記のニオブ錯体とリチウムを含む水溶液を被覆する工程と、前記のニオブ錯体とリチウムを含む水溶液で被覆されたリチウム二次電池正極活物質に熱処理を施す工程とを有する、ニオブ酸リチウムを含有する被覆層を有するリチウム二次電池用活物質の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法により得られるニオブ錯体とリチウムとを含む粉末を水に溶解することにより、ニオブ酸リチウムの前駆体溶液が容易に得られる。当該前駆体溶液を用いてリチウムイオン二次電池用正極活物質の表面に形成したニオブ酸リチウム被覆層には高抵抗層が形成されない。したがって、本発明は全固体型リチウムイオン二次電池の性能向上に寄与しうる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1において得られた粉末の加熱前後のX線回折スペクトルの変化を示す図である。
【
図2】実施例1において得られた粉末を水に溶解し、正極活物質に被覆処理を行ったことによる、XPSスペクトルの変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[正極活物質]
本発明のニオブ錯体とリチウムとを含む粉末から調製した、ニオブ酸リチウムの前駆体溶液で被覆される正極活物質は、例として以下のものが挙げられる。正極活物質はLiと遷移金属Mの複合酸化物でからなるものであり、従来からリチウムイオン二次電池に使用されている物質、例えばリチウム酸コバルト(Li1+XCoO2、-0.1≦X≦0.3)、Li1+XNiO2、Li1+XMn2O4、Li1+XNi1/2Mn1/2O2、Li1+XNi1/3Co1/3Mn1/3O2(いずれも-0.1≦X≦0.3)、Li1+X[NiYLi1/3-2Y/3Mn2/3-Y/3]O2(0≦X≦1、0<Y<1/2)等や、これらのLiあるいは遷移金属元素の一部をAlその他の元素で置換したリチウム遷移金属酸化物や、Li1+XFePO4、Li1+XMnPO4(いずれも-0.1≦X≦0.3)などのオリビン構造を持つリン酸塩などが挙げられる。
【0016】
[ニオブ錯体とリチウムとを含む粉末]
本発明においては、ニオブ酸リチウムの前駆体溶液を調製するためのニオブ錯体とリチウムとを含む粉末が提供される。当該粉末は金属元素としてニオブ、リチウムおよび製造工程に起因する不可避的不純物を含む。粉末中のニオブの含有量は25質量%以上75質量%以下であることが好ましい。
【0017】
ニオブ酸リチウムの前駆体溶液中のニオブ含有量は正極活物質などの電池ユニットの設計に応じて設定されるものであるが、粉末としてはニオブ含有量が高い方が、その後の水溶解による希釈等での濃度調整が容易かつ調整範囲が拡大する。そのため、当該粉末中のニオブの含有量は25質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。また、当該粉末は構成成分としてリチウム、酸素や錯化剤の成分等を含むので、粉末中のニオブの含有量の上限は75質量%を超えない。粉末中のニオブの含有量は50質量%以下であることがより好ましい。
【0018】
当該粉末中の金属元素に占めるニオブの比率は、質量比で0.775以上0.950以下であることが好ましく、質量比で0.850以上0.950以下であることが更に好ましい。金属元素に占めるニオブの比率が0.775未満では、リチウムの比率が過剰になるか、ニオブとリチウム以外の金属元素の含有量が多くなってしまう。リチウムの比率が過剰になると、当該粉末を用いてニオブ酸リチウム前駆体溶液を調製し、正極活物質上に被覆層を形成した場合に、水酸化リチウム等のリチウムイオン伝導性を有さない成分が生成してしまい、電池性能が悪化するので好ましくない。ニオブとリチウム以外の金属元素の含有量が多くなった場合も、当該粉末を用いてニオブ酸リチウム前駆体溶液を調製し、正極活物質上に被覆層を形成した場合に、リチウムイオン伝導性を有さない成分が生成してしまい電池性能が悪化するので好ましくない。また、金属元素に占めるニオブの比率が0.950を超えると後述するLi/Nbのモル比が0.7未満となり好ましくない。
【0019】
当該粉末中に含まれるニオブは錯体を形成していることが好ましい。錯体を形成することで、ニオブの水への溶解率が向上する。なお、ニオブ錯体の形成の有無は、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)により、当該錯体に起因する845±20cm-1の吸収ピークの存在により確認する。
粉末中のニオブ含有量については後述する。
【0020】
当該粉末中に含まれる水分量は、下記(1)式で定義する水分量ΔWが4.8以上15.0以下である。
ΔW = W’H - W’L …(1)
ここで、W’HおよびW’Lは、水分気化装置を併用したカールフィッシャー水分計を用い、測定試料の加熱温度300℃および100℃で電量滴定法により測定した水分量WH(質量%)およびWL(質量%)から下記(2)~(4)式を用いて算出した値であり、下記(2)式中のWPは測定試料の単位質量中に占める300℃で乾燥した粉末の割合(質量%)であり、100(質量%)から後述する水分気化装置を併用したカールフィッシャー水分計を用い、測定試料の加熱温度300℃で電量滴定法により測定した水分量WH(質量%)を引くことで求めることができる。
WP = 100(質量%) - WH …(2)
W’H = (WH/WP)×100 …(3)
W’L = (WL/WP)×100 …(4)
WHは本発明の製造方法により得られたニオブ錯体とリチウムとを含む粉末を、室温から300℃まで昇温して粉末中に含まれる水分を気化して求めた水分量であり、当該粉末中に含まれる配位水、結晶水、付着水等の和である。WHはカールフィッシャー水分計を用いて、測定試料の加熱温度300℃で電量滴定法により測定した水分量を測定し、測定前の試料質量に対する割合を算出することで求めることができる(下記(5)式)。
WH(質量%)=(カールフィッシャー水分計を用いて、測定試料の加熱温度300℃で電量滴定法により測定した水分量/測定前の試料の全質量 )×100 …(5)
一方、WLは前記の粉末を室温から100℃まで昇温した際に気化する水分量であり、付着水の量と考えて良い。また、W’HおよびW’LはWHおよびWLを300℃における粉末の質量で規格化した値になる。したがって、ΔWは本発明の製造方法により得られたニオブ錯体とリチウムとを含む粉末で配位水や結晶水等として、結晶の構成要素として存在する水分量を示す指標になる。
WL(質量%)はカールフィッシャー水分計を用いて、測定試料の加熱温度100℃で電量滴定法により測定した水分量を測定し、測定前の試料質量に対する割合を算出することで求めることができる(下記(6)式)。
WL(質量%)=(カールフィッシャー水分計を用いて、測定試料の加熱温度100℃で電量滴定法により測定した水分量/測定前の試料の全質量)×100 …(6)
本発明のニオブ錯体とリチウムとを含む粉末においては、ΔWは4.8以上である。ΔWを4.8以上とすることにより、当該ニオブ錯体とリチウムとを含む粉末の水への溶解性が向上する。水への溶解性が向上する理由は現時点において明確には判っていないが、本発明者等は、ΔWを4.8以上とすることで溶解性の高いニオブ錯体が安定となり、後述する乾燥時プロセスにおけるニオブ錯体の分解が抑制されるものと推定している。ΔWの下限値は、好ましくは5.0以上であり、更に好ましくは5.2以上である。また、本発明のニオブ錯体とリチウムとを含む粉末においては、ΔWは15以下である。ΔWが15.0を超えると、水への溶解性向上の効果が飽和するとともに、粉末の質量に対する水の質量の占める割合が増加し、輸送コストの増加等を招くので好ましくない。ΔWの上限値は、好ましくは10.0以下であり、さらに好ましくは8.0以下である。
【0021】
本発明により得られるニオブ錯体とリチウムとを含む粉末は、水への溶解性が優れたものであるが、粉末の水溶解性は下記の(7)式で定義されるニオブ錯体およびリチウムを含む粉末のニオブ溶解率により評価する。
ニオブ溶解率(%)=Nbw×100/NbHF …(7)
ここでNbwおよびNbHFは、以下の手順で算出されるニオブの質量である。
ニオブ錯体およびリチウムを含む粉末を秤量し、当該秤量した粉末をその粉末の8倍の質量の25℃の水に溶解した後、目開き0.20μmのメンブレンフィルターで濾過し、得られた濾液中のニオブの濃度を、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES)を用いて測定する。前記で得られた濾液中のニオブ濃度および濾液の質量から算出した、当該秤量した粉末の単位質量当たりから前記の濾液中に溶出したニオブの質量をNbwとする。
ニオブ錯体およびリチウムを含む粉末を秤量し、当該秤量した粉末にフッ化水素酸を加えて溶解し、冷却した後に、得られた溶解液中のニオブの濃度を、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES)を用いて測定する。前記で得られた溶解液中のニオブ濃度および溶解液の体積から算出した、当該秤量した粉末の単位質量当たりに含まれるニオブの質量をNbHFとする。
これら二つの値からニオブ溶解率(Nbw×100/NbHF)を算出し、ニオブ錯体およびリチウムを含む粉末の水溶性の指標とする。
【0022】
本発明のニオブ錯体とリチウムとを含む粉末においては、前記(7)式で定義するニオブ溶解率が90%以上である。ニオブ溶解率が90%未満であると、調製されるニオブ酸リチウム前駆体溶液中にニオブを含む不溶性の固形分が含まれてしまう。最終的に正極活物質表面に形成されるニオブ酸リチウム被覆層に上記の固形分が混入すると被覆層の層厚が不均一になり、薄膜部から高抵抗部位の形成が進んでしまい電池性能が悪化する場合があり好ましくない。ニオブ溶解率は95%以上であることが好ましい。
【0023】
本発明のニオブ錯体とリチウムとを含む粉末は、最終的には正極活物質の表面にニオブ酸リチウムの被覆層を形成するために用いられるので、リチウムとニオブの添加量は等モル付近である必要がある。
【0024】
本発明のニオブ錯体とリチウムとを含む粉末は、リチウムを2.5質量%以上6.0質量%以下含むことが好ましく、3.0質量%以上4.5質量%以下含むことがよりに好ましい。粉末中のリチウムの含有量が2.5質量%未満では、ニオブ酸リチウム前駆体溶液の原料として不要な成分が質量に占める割合が多くなり、輸送コストが高くなるので好ましくない。また、当該粉末は構成成分としてニオブ、酸素や錯化剤の成分等を含むので、粉末中のリチウムの含有量の上限は6.0質量%を超えない。
【0025】
また、当該粉末中に含まれる金属元素中でニオブおよびリチウムの合計の占める割合が質量比で0.80以上1.00以下であることが好ましい。粉末中のニオブおよびリチウムの合計の占める割合が質量比で0.80未満であると、ニオブ酸リチウム前駆体溶液の原料として不要な成分が質量に占める割合が多くなり、輸送コストが高くなるので好ましくない。当該粉末中に含まれる金属元素中でニオブおよびリチウムの合計の占める割合は質量比で0.90以上1.00以下であることが更に好ましい。ニオブとリチウムのモル比Li/Nbは0.7以上1.5以下とすることが好ましい。Li/Nbが0.7未満では、LiNbO3で表されるニオブ酸リチウムに対し、リチウムが欠損することより、最終的に形成されるニオブ酸リチウム被膜中のリチウムイオン導電性が悪化するため好ましくない。また、Li/Nbが1.5を超えると、前駆体溶液を調製した際に、過剰な水酸化リチウムによるpH上昇により、液の保存安定性が悪化するため好ましくない。また、ニオブとリチウムのモル比Li/Nbは1.0以上1.3以下とすることが更に好ましい。
なお、上記のニオブおよびリチウムの含有量は、後述する[ニオブおよびリチウムの含有量の測定]に従う方法により測定することができる。
【0026】
本発明のニオブ錯体とリチウムとを含む粉末の水溶性は、下記(8)式で定義されるニオブ錯体およびリチウムを含む粉末のリチウム溶解率によって定義することもできる。本発明のニオブ錯体とリチウムとを含む粉末においては、リチウム溶解率が80%以上である、ことが好ましい。リチウム溶解率は90%以上であることがより好ましく、さらに好ましくは95%以上である。
リチウム溶解率(%)=Liw×100/LiHF …(8)
ここでLiwおよびLiHFは、以下の手順で算出されるリチウムの質量である。
ニオブ錯体およびリチウムを含む粉末を秤量し、当該秤量した粉末をその粉末の8倍の質量の25℃の水に溶解した後、目開き0.20μmのメンブレンフィルターで濾過し、得られた濾液中のリチウムの濃度を、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES)を用いて測定する。前記で得られた濾液中のリチウム濃度および濾液の質量から算出した、当該秤量した粉末の単位質量当たりから濾液中に溶出したリチウムの質量をLiwとする。
【0027】
ニオブ錯体およびリチウムを含む粉末を秤量し、当該秤量した粉末にフッ化水素酸を加えて溶解し、冷却した後に、得られた溶解液中のリチウムの濃度を、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES)を用いて測定する。前記で得られた溶解液中のリチウム濃度および溶解液の体積から算出した、当該秤量した粉末の単位質量当たりに含まれるリチウムの質量をLiHFとする。
【0028】
リチウム溶解率が80%未満であると、調製されるニオブ酸リチウム前駆体溶液中にニオブまたはリチウムを含む不溶性の固形分が含まれてしまう。最終的に正極活物質表面に形成されるニオブ酸リチウム被覆層に上記の固形分が混入すると被覆層の層厚が不均一になり、薄膜部から高抵抗部位の形成が進んでしまい電池性能が悪化する場合があり好ましくない。
【0029】
本発明のニオブ錯体とリチウムとを含む粉末は、ニオブとリチウム以外に酸素を含むものであり、ニオブ、リチウムおよび酸素の含有量の合計が85質量%以上であることが好ましい。当該粉末はさらに、過酸化水素起因ほかの水素も含むが、水素の質量は無視しうるほど小さいので、ニオブ、リチウムおよび酸素の含有量の合計の上限は100質量%近くになり得る。なお、ニオブ錯体とリチウムとを含む粉末の酸素含有量は、後述実施例の[炭素、酸素の含有量の測定]に記載の酸素濃度は酸素・窒素分析装置を用いて測定された酸素濃度(質量%)の値を用いる。
【0030】
本発明のニオブ錯体とリチウムとを含む粉末は、炭素の含有量が0.5質量%以下であることが好ましい。炭素の含有量が0.5質量%よりも大きいと、最終的に正極活物質表面にニオブ酸リチウム被覆層を形成する際に炭酸リチウムが生成する可能性が高まる。炭酸リチウムはリチウムイオン伝導性が小さいため、電池性能の悪化する場合があり好ましくない。なお、乾燥粉末試料中の炭素濃度は、後述実施例の[炭素、酸素の含有量の測定]に記載の微量炭素・硫黄分析装置を用いて測定される。
【0031】
また、本発明のニオブ錯体とリチウムとを含む粉末を8倍の質量の25℃の水に溶解させた後、目開き0.20μmのメンブレンフィルターで濾過し、得られた濾液に含まれるアンモニウムイオンの含有量は0.5質量%以下であることが好ましい。当該濾液中のアンモニウムイオンの含有量が0.5質量%以下であると、ニオブ錯体およびリチウムを含む粉末を水に溶解しニオブ錯体とリチウムとを含む水溶液であるニオブ酸リチウムの前駆体溶液中のニオブ錯体が安定となり、ニオブ錯体が分解して水に不溶性の固形分が析出するのを抑制でき好ましい。なお、濾液溶液中のアンモニウムイオンの含有量は、後述実施例の[濾液中のアンモニウムイオン量の測定]に記載のイオンクロマトグラフを用いて測定される。
【0032】
本発明のニオブ錯体とリチウムとを含む粉末を8倍の質量の25℃の水に溶解させた後、目開き0.20μmのメンブレンフィルターで濾過し、得られた濾液には目開き0.20μmのメンブレンフィルターを通過した不溶性の微粒子が存在するが、その微粒子の存在量は波長660nmにおける吸光度で定性的に評価することができる。本発明のニオブ錯体およびリチウムを含む粉末を8倍の質量の25℃の水に溶解させた後、目開き0.20μmのメンブレンフィルターで濾過し、得られた濾液の波長660nmにおける吸光度が1.0以下であることが好ましい。なお、このメンブレンフィルターを通過した不溶性微粒子は水溶性で定義する溶解量に含まれる。
【0033】
また、本発明のニオブ錯体およびリチウムを含む粉末は、解砕後の体積基準の累積50%粒径D50が1mm以下であることが好ましい。D50が1mmを超えると水への溶解性が悪くなり、調製されるニオブ酸リチウム前駆体溶液中に粉末の溶け残りが固形分として含まれる可能性が高くなるので好ましくない。D50は500μm以下がより好ましく、さらに好ましくは200μm以下である。D50の好ましい下限は特に限定しないが、通常は10μm程度以上のものが得られる。従って、D50は10μm以上1mm以下の範囲が好ましい。D50は50μm以上がより好ましく、さらに好ましくは100μm以上である。なお、D50はレーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用いて測定される。
上記のニオブ錯体およびリチウムを含む粉末を乾燥した乾燥粉末試料は、水分を含んでいる。当該水分の量はカールフィッシャー法による電量滴定法により測定することができるが、通常は20質量%以下である。また、当該水分は、TG-DTAの測定結果より、付着水ではなく、結晶水であると考えられる。
【0034】
本発明のニオブ錯体およびリチウムを含む粉末は、その粉末の中に非晶質構造の物質を含むものであることが好ましい。ここで非晶質構造の物質を含むものとは、ニオブ錯体およびリチウムを含む粉末が明確な結晶構造を有しないことを意味する。当該ニオブ錯体およびリチウムを含む粉末が構成成分として水を含むと、粉末が非晶質化し易くなる。粉末が非晶質造の物質を含むと、水への溶解性が高くなり、調製されるニオブ酸リチウム前駆体溶液中に粉末の溶け残りが固形分として含まれる可能性が低くなるので好ましい。なお、本発明のニオブ錯体およびリチウムを含む粉末は、その全体が非晶質である必要はなく、その一部が非晶質構造を取ればよい。
ニオブ錯体及びリチウムを含む粉末が非晶質構造の物質を含むものであるか否かは、X線回折測定により得られる回折図形において、2θ:20°~60°の領域で(測定に用いたX線管球がCu管球の場合)ハローなパターンが観察されるか否かによって判断できる。なお、ここで「ハロー」とは、回折図形において明瞭なピークを示さず、ブロードな盛り上がりとして観察されるものである。本発明においては、半値幅が2θ:2°以上であるブロードな盛り上がりをハローとする。
【0035】
[ニオブ錯体とリチウムとを含む粉末の製造方法]
[原料溶液]
本発明のニオブ錯体とリチウムとを含む粉末の製造方法においては、ニオブ化合物、リチウム化合物、ニオブ錯体を水溶液中で可溶化するための錯化剤(配位子)である過酸化水素、アルカリを水に混合し、ニオブ錯体とリチウムとを含有する水溶液である原料溶液(出発物質)を得る。
【0036】
上述したニオブ錯体の配位子は、ニオブ錯体が水溶性となるものであれば良く、特に制限はないが、本実施例においては配位子として過酸化水素を用い、ニオブ酸のペルオキソ錯体([Nb(O2)4]3-)を形成する。ニオブ酸のペルオキソ錯体は、化学構造中に炭素を含有しないので、最終的に生成するニオブ酸リチウムの被覆膜に炭素が残留することがなく、本発明のニオブ錯体とリチウムとを含む粉末の製造方法においては特に好適である。
当該ニオブ酸のペルオキソ錯体は、例えば下記の方法で得ることができる。
過酸化水素水へ、含水酸化ニオブ(Nb2O5・nH2O)を添加して混合する。当該混合において、ニオブ酸は過酸化水素水に溶解しないが、乳白色の懸濁溶液を得ることができる。
【0037】
ニオブ酸の懸濁液へ、アンモニア水等のアルカリを添加し混合することにより透明なニオブ酸のペルオキソ錯体を得ることができる。
当該懸濁液に添加するアルカリの量は、後述するように、最終的に得られるニオブ錯体とリチウムとを含む溶液のpH値が8.0以上11.5以下となる量とすればよい。
さらに、当該懸濁液へ、アルカリとしてアンモニア水を添加する場合、アンモニアが反応中に揮発することを考慮して、アンモニア水の添加量を決めればよい。
また、当該アンモニア水に代えて、アルカリ性溶液を添加することもできる。当該アルカリ性溶液として水酸化リチウム水溶液を選択し、これを添加することもできる。
【0038】
[ニオブ化合物]
無水の酸化ニオブ(Nb2O5)は水に難溶性なので、本発明の製造方法においては、Nb源として非晶質で水に可溶性の含水酸化ニオブを用いる。含水酸化ニオブは一般式Nb2O5・nH2Oで表される物質(nは0ではなく、例えば、3≦n≦16)である。
原料溶液中のニオブの濃度については、本発明では特に規定するものではないが、製造性の観点から、ニオブに関して0.1mol/L~10.0mol/Lであることが好ましい。
【0039】
[リチウム化合物]
本発明の製造方法においては、Li化合物として水酸化リチウム(LiOH)を使用する。LiOHは無水のものでも水和しているものでも、いずれでも構わない。水溶液に添加したLiOHはLi+とOH-に解離し、強アルカリ性を示す。LiOHはそれ自体が強アルカリなので、ニオブ酸を含む水溶液にLiOHを添加すると、系のpHが上昇して酸化ニオブが溶解する。その後ニオブとLiイオンを含むアルカリ性の水溶液に過酸化水素を添加し、ニオブのペルオキソ錯体を形成する。
原料溶液へのLiの添加量は、Li/Nbのモル比で0.7以上1.5以下になるように添加する。その理由については前述してある。
【0040】
[過酸化水素]
本発明のニオブ錯体とリチウムとを含む粉末の製造方法においては、当該粉末の水溶性を確保するためと、当該粉末を水に溶解した際の安定性を確保するために、原料溶液に過酸化水素を添加してニオブを錯化し、ペルオキソ錯体を形成する。添加する過酸化水素の濃度は、ニオブ1molに対して2mol以上25mol以下であることが好ましい。さらに好ましくは4mol以上20mol以下である。過酸化水素の濃度がニオブ1molに対して3mol未満であると、ニオブがペルオキソ錯体を形成できないため好ましくない。また、25molを超えると、原料溶液中に未反応の過酸化水素が残存しニオブ錯体の安定性が悪化するため好ましくない。
【0041】
[pH]
前記のように、LiOHは強アルカリなので、原料溶液はアルカリ性になる。原料溶液のpHはニオブ錯体の不安定化を防ぐため8.0~11.5が好ましい。原料溶液のpHをその領域に調製するために、LiOH以外にさらにアルカリを添加しても構わない。その場合、ニオブ錯体とリチウムとを含む粉末中に不純物として残り難い、アンモニア水や炭酸アンモニウムを添加することが好ましい。なお、ここでpH値は、JIS Z8802に基づき、測定するpH領域に応じた適切な緩衝液を用いて校正し、温度補償電極を備えたpH計により、ガラス電極を用いて測定した値である。
なお、本発明の製造方法により得られるニオブ錯体およびリチウムを含む粉末を8倍の質量の25℃の水に溶解させたとき、その濾液に含まれるアンモニウムイオンの含有量が0.5質量%以下であることが好ましい。
【0042】
[凍結工程]
本発明のニオブ錯体とリチウムとを含む粉末の製造方法において最も重要な技術的特徴は、前記の条件により調製したニオブ錯体とリチウムとを含む原料溶液を凍結する工程を経た後に乾燥して当該粉末を得る点にある。凍結工程を経た後に原料溶液を乾燥すると、得られる粉末の水溶性が向上する。
ニオブ錯体とリチウムとを含有する原料溶液を一度凍結させることにより、得られる粉末の水溶性が向上する理由は現時点では不明確であるが、本発明者等は、水分子が動きにくい状態で次工程の乾燥工程を進めることができるため、ニオブ錯体やリチウムに配位した水分子が残存し易くなり、結果として得られる粉末のΔWが上述で規定した範囲にはいるものと推定している。
凍結工程の温度は、ドライアイスの昇華温度である-78℃以上から前記の原料溶液の凝固点未満とする。凍結工程の温度は、-40℃以上-10℃以下とすることがより好ましい。凍結工程の温度を-10℃以下にすると、ニオブ錯体やリチウムに配位した水分をより多く残すことが可能になり、かつ凍結工程の時間を短縮することができる。また、凍結工程の温度を-40℃以上にすると、ニオブ錯体の水分の凍結による急激な析出を抑制することができる。なお、本発明においては凍結工程の時間は特に規定するものではないが、生産性の観点から、1時間以上72時間以下とすることが好ましい。
【0043】
[乾燥工程]
本発明のニオブ錯体とリチウムとを含む粉末の製造方法においては、前記の凍結工程を経た原料溶液を、ニオブ錯体の分解温度以下で乾燥して当該粉末を得る。ニオブ錯体の分解温度は、原料溶液の調整条件ごとに、熱重量-示唆熱分析(TG-DTA)で予備実験を行い、吸熱ピークの温度を検出し、それを分解温度とする。なお、前記の乾燥は、ニオブ錯体の分解温度以下であれば、原料溶液が凍結した状態および溶液の状態のいずれの状態で行っても構わない。
常圧にてニオブ錯体の分解温度以下で乾燥すると溶媒の揮発速度が遅く、生産性が悪化してしまう。そのため生産性の観点から、前記の原料溶液の乾燥は、当該原料溶液の乾燥温度における水の飽和蒸気圧以下で行うことが好ましい。
乾燥後の粉末には水分が含まれる。当該水分量は後述のカールフィッシャー法による電量滴定法で測定することができる。水分気化(試料加熱)温度は100℃とする。当該水分量は特に限定されないが、例えば1.0質量%~50.0質量%の範囲に設定できる。当該水分量は好ましくは3.0質量%~20.0質量%の範囲に設定できる。
【0044】
得られた乾燥粉末は、解砕してもよい。解砕方法は特に限定されないが、例えば乳鉢を用いて解砕することができる。
【0045】
[リチウム二次電池正極活物質の製造方法]
上述の本発明のニオブ錯体とリチウムとを含む粉末の製造方法により得られたニオブ錯体とリチウムとを含む粉末を水に溶解しニオブ錯体とリチウムとを含む水溶液であるニオブ酸リチウムの前駆体溶液を得る工程と、リチウム二次電池正極活物質の表面にニオブ錯体とリチウムとを含む前駆体溶液である水溶液を被覆する工程と、ニオブ錯体とリチウムとを含む水溶液で被覆されたリチウム二次電池正極活物質に熱処理を施す工程により、ニオブ酸リチウムで被覆されたリチウム二次電池正極活物質を製造することができる。具体的な製造条件については、特許文献1~4に記載された方法または公知の方法を用いることができる。
【実施例0046】
[ニオブ錯体の定性評価]
粉末のニオブ錯体含有の有無は、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)の一回反射ATR法を用いて判定した。具体的には、実施例で得られた乾燥粉末試料をサーモフィッシャー(株)社製のFT-IR装置NICOLET6700及び1回反射ATRアクセサリSmart OMNI-Sampler(ゲルマニウムクリスタル 入射角45°)を用い、スキャン回数が16回、分解能が4の条件で測定した。また、バックグラウンドの測定にはイオン交換水を使用した。
測定したスペクトルについて、FT-IR装置NICOLET6700に付属の解析ソフト(OMNIC Specta)を用いてオートベースライン補正実施した後、オートスムージングを1回実施し、感度50にてピーク検出を行い、波数845cm-1±20cm-1にピークが観察される時に、測定した粉末がニオブ錯体を含有すると判断した。
【0047】
[ニオブおよびリチウムの含有量の測定]
粉末状態の試料、例えば実施例で得られた乾燥粉末試料については、乾燥粉末試料約0.1gを精確に秤量し、当該粉末試料に少量の純水と46質量%のフッ化水素酸1mLを添加し、ホットプレートで140~170℃程度で加熱溶解した。当該溶解液を20~30℃程度の室温まで冷却した後、メスフラスコを用いて定容し、適宜希釈後、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES、アジレント・テクノロジー(株)製CP-720)を用いて希釈液のニオブおよびリチウム濃度を測定し、乾燥粉末試料のニオブおよびリチウムの含有量を算出した。
また、溶液状態の試料、例えば原料溶液については、溶液試料を0.1g分取し、純水15mlと塩酸5mlを添加し、その後、過酸化水素水2mlを添加してニオブおよびリチウムを溶解した溶解液を得た後、定容以降の操作を行った。
【0048】
[水溶性の評価]
実施例で得られた単位質量の乾燥粉末を25℃の水に溶解させた水溶液を濾過して得られた濾液中に溶出したニオブおよびリチウムの質量(下記(7)式および(8)式中のNbwおよびLiw)と、実施例で得られた乾燥粉末中に含まれるニオブおよびリチウムの質量(下記(7)式および(8)式中のNbHFおよびLiHF)から、下記(7)式および(8)式で定義されるニオブ溶解率およびリチウム溶解率を算出した。具体的には以下の手順でニオブ溶解率およびリチウム溶解率を算出した。
【0049】
<1>実施例で得られた乾燥粉末試料1.0gもしくは2.0gを精確に秤量し、その8倍(8.0g、16.0g)の質量の25℃の水に溶解した後、その溶解液をメンブレンフィルター(東洋濾紙(株)製DISMIC-25HP、目開き0.20μm)を用いて濾過した。
<2>上記<1>で得られた濾液中のニオブおよびリチウムの濃度を、前記の溶液状態の試料についての測定方法で測定した。その測定値と前記の得られた濾液の質量から、25℃の水に溶出した単位質量の粉末から前記の濾液中に溶出したニオブおよびリチウムの質量(下記(7)式および(8)式中のNbwおよびLiw)を算出した。
<3>実施例で得られた乾燥粉末試料に含まれるニオブおよびリチウムの質量を、前記の粉末状態の試料についての測定方法で測定した。その測定値と秤量した乾燥粉末試料の質量から、単位質量の乾燥粉末中に含まれていたニオブおよびリチウムの質量(下記(7)式および(8)式中のNbHFおよびLiHF)を算出した。
<4>上記<2>と上記<3>で得られたNbw、Liw、NbHFおよびLiHFの数値から、下記(7)式および(8)式で定義されるニオブ溶解率およびリチウム溶解率を算出した。
ニオブ溶解率(%)=Nbw×100/NbHF …(7)
リチウム溶解率(%)=Liw×100/LiHF …(8)
【0050】
[炭素、酸素の含有量の測定]
乾燥粉末試料中の炭素濃度は微量炭素・硫黄分析装置((株)堀場製作所製ETMA-U510)を、酸素濃度は酸素・窒素分析装置((株)堀場製作所製EMGA-920)をそれぞれ用いて測定した。
【0051】
[濾液中のアンモニウムイオン量の測定]
実施例で得られた乾燥粉末試料1.0gもしくは2.0gを精確に秤量し、その8倍(8.0g、16.0g)の質量の25℃の水に溶解した後、その溶解液をメンブレンフィルター(東洋濾紙(株)製DISMIC-25HP、目開き0.20μm)を用いて濾過し、得られた濾液中のアンモニウムイオン量は、イオンクロマトグラフ(ダイオネクス社製ICS-300型)を用いて測定した。測定に当たっては、陽イオン分子カラムとしてIonPac CS14、溶離液には10mmol/Lメタスルホン酸(いずれもダイオネクス社製)を用いた。
【0052】
[濾液の吸光度の測定]
実施例で得られた乾燥粉末試料1.0gもしくは2.0gを精確に秤量し、その8倍(8.0g、16.0g)の質量の25℃の水に溶解した後、その溶解液をメンブレンフィルター(東洋濾紙(株)製DISMIC-25HP、目開き0.20μm)を用いて濾過し、得られた濾液中の難溶性の成分の内、メンブレンフィルターを通過して濾液に移行した不溶性の微粒子の量を、紫外可視分光光度計(SHIMADZU(株)製UV-1800)を用い、波長660nmにおける吸光度を測定することにより定性的に評価した。なお、測定には石英セル(10mm×10mm×45mm)を用い、測定は25℃で行った。
【0053】
[体積基準累積50%粒径]
乾燥粉末試料を、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(SYMPATEC社製のへロス粒度分布測定装置(HELOS&RODOS(気流式の分散モジュール)))を使用して、分散圧5barで体積基準の粒度分布を測定し、体積基準の累積50%粒子径(D50)を求めた。
【0054】
[水分量]
乾燥粉末試料について、カールフィッシャー水分計(HIRANUMA(株)製、AQS-225010S)と自動加熱水分気化装置(HIRANUMA(株)製、EV-2010)を用い、電量滴定法により水分量を測定した。試料の加熱温度は100℃および300℃とし、キャリヤーガスには窒素ガスを用いた。発生液にはアクアライトRS-A(HIRANUMA(株)製)を用いた。また、対極液にはアクアライトCN(HIRANUMA(株)製)を用いた。
【0055】
[X線回折測定]
乾燥粉末試料について、X線回折測定装置((株)島津製作所製、XRD-6100)を用い、下記測定条件にてX線回折測定を実施した。
管球 :Cu
管電圧 :40kV
管電流 :30mA
発散スリット :1.0°
散乱スリット :1.0°
受光スリット :0.3mm
スキャン速度 :2.0°/min
ステップ幅 :0.02°
【0056】
[XPS(X線光電子分光分析)測定]
XPS測定にはJEOL(株)社製JPS-9200sを用いた。X線源:Al管球、X線源の出力:200Wであり、ワイドスキャン(結合エネルギーが0~1000eVの範囲)で光電子スペクトルを得た。
【0057】
[実施例1]
5Lのビーカーにイオン交換水(抵抗率:17.2MΩ・cm)82.0g、濃度28質量%のアンモニア水288.6g、濃度35質量%の過酸化水素水1424.0g、水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O)33.8g、および含水酸化ニオブ(Nb2O5・nH2O、n=4.6、Nb2O5含有率:76.4質量%)166.7gを投入し、60℃で10時間機械撹拌を行った。得られた溶液を目開き0.5μmの濾紙で濾過し、ニオブ錯体とリチウムとを含有する水溶液を得てニオブ酸リチウムの原料溶液とした。得られたニオブ酸リチウムの原料溶液のニオブおよびリチウムの濃度はそれぞれ4.41質量%および0.38質量%であり、Li/Nbのモル比は1.15であった。
さらに、前記の原料溶液中のアンモニウムイオンの濃度を測定したところ、960ppmであった。また、前駆体溶液の波長660nmにおける吸光度を測定したところ、0.001であった。
【0058】
上記の条件で調製した原料溶液114.2gを容器に分取して冷凍庫内に入れ、雰囲気温度-18℃で24時間保持して原料溶液を凍結した。その後、冷凍庫から取り出した当該容器を真空乾燥機に入れ、25℃に保ちつつゲージ圧:-0.1MPa以下で12時間保持して乾燥品を得た。なお、ゲージ圧とは真空乾燥機内の圧力と大気圧との差圧である。続いて当該乾燥品を乳鉢で解砕し、乾燥粉末9.9gを得た。解砕後の乾燥粉末の体積基準の粒度分布をレーザー回折式粒度分布測定装置で測定したところ、累積50%粒子径D
50は162μmであった。
解砕後の乾燥粉末のX線回折測定を行ったところ、2θ:20°~60°の領域にハローパターンが観察され、ニオブ酸リチウム(LiNbO
3)の結晶に由来するピークがほとんど観察されなかったことから、本実施例で得られた乾燥粉末が非晶質構造のものを主体とする粉末であることが判る。
また、当該乾燥粉末2.0gをマッフル炉に入れ、600℃の大気雰囲気下で2時間熱処理し、続いて乳鉢で解砕し、焼成粉1.3gを得た。得られた焼成粉のX線回折測定を実施したところ、ニオブ酸リチウム(LiNbO
3)の結晶由来のピークが観察されたことから、当該乾燥粉末がニオブ酸リチウムの前駆体であることが確かめられた。
熱処理前後の粉末のX線回折パターンを
図1に示す。
得られた当該乾燥粉末について、上記の通り、試料の加熱温度は100℃および300℃とし、上述の(5)、(6)式からW
HおよびW
Lを求め、得られたW
HおよびW
Lの値から(2)~(4)式を用いてWp、W’
H、W’
LおよびΔWを求めた。
【0059】
当該乾燥粉末から6.4mgの試料を採取し、流量200mL/minのN2雰囲気中、昇温速度10℃/minで30℃~120℃までTG-DTA分析を行ったところ、70℃でニオブ錯体の分解温度と推定される吸熱ピークが観察されたので、上記の乾燥温度はニオブ錯体の分解温度以下である。当該乾燥粉末をFT-IRで測定したところ、ニオブ錯体に帰属される845cm-1±20cm-1のピークが確認されたことから、当該乾燥粉末がニオブ錯体を含むものであることが確認できた。当該乾燥粉末を上掲[ニオブおよびリチウムの含有量の測定]に従い、フッ酸に溶解した水溶液中に含まれる金属元素をICP-AESで測定したところ、乾燥粉末中のニオブの含有量とリチウムの含有量はそれぞれ47.1質量%および4.1質量%であった。また、カールフィッシャー法で測定したΔWは5.8であった。
【0060】
なお、Li/Nbのモル比は1.2であった。以上の測定結果から、当該乾燥粉末はニオブ錯体とリチウムを含む粉末であり、当該乾燥粉末に含まれる金属元素中でニオブの占める割合が質量比で0.92であることが確認できた。また、前記乾燥粉末中のニオブの含有量とリチウムの含有量から、NbHFとLiHFが算出できる。当該乾燥粉末を上掲[水溶性の評価]に従って水に溶解、ろ過して得られた濾液に含まれる金属元素をICP-AESで測定してNbWとLiWを測定し、ニオブ溶解率(%)とリチウム溶解率(%)を算出したところ、Nbの99%、Liの100%が水の中に溶出していた。
【0061】
本実施例で得られた乾燥粉末についての各種測定結果を表1に示す。本実施例で得られた乾燥粉末を再度水に溶解すると、固体化する前の前駆体溶液とほぼ同じ組成のニオブ錯体とリチウムを含む水溶液が得られる。したがって、本発明の製造方法により得られニオブ錯体とリチウムを含む粉末は、リチウムイオン二次電池の正極活物質粒子の表面を固体電解質であるニオブ酸リチウムで被覆するためのニオブ酸リチウムの前駆体溶液の調製に適した、水への溶解度の高い粉末である。また、本発明の製造方法により得られニオブ錯体とリチウムを含む粉末を保管することにより、ニオブ酸リチウムの前駆体を含む水溶液の保存安定性や輸送コストの低減の問題が解消されることが判る。
【0062】
[実施例2]
凍結工程を-25℃、12時間とした以外は実施例1と同じ手順で、実施例2に係るニオブ錯体とリチウムを含む粉末を得た。得られた乾燥粉末の累積50%粒子径D50は143μmであった。得られた当該乾燥粉末について、上記の通り、試料の加熱温度は100℃および300℃とし、上述の(5)、(6)式からWHおよびWLを求め、得られたWHおよびWLの値から(2)~(4)式を用いてWp、W’H、W’LおよびΔWを求めた。乾燥粉末中のニオブの含有量とリチウムの含有量はそれぞれ47.2質量%および4.0質量%であり、ΔWは7.6であった。当該乾燥粉末に関するその他の測定結果を、表1に併せて示す。
【0063】
[比較例1]
凍結工程を行わず、棚型乾燥機を用いて大気雰囲気下、120℃で12時間乾燥した以外は実施例1と同じ手順で、比較例1に係る粉末を得た。得られた乾燥粉末の累積50%粒子径D50は154μmであった。得られた当該乾燥粉末について、上記の通り、試料の加熱温度は100℃および300℃とし、上述の(5)、(6)式からWHおよびWLを求め、得られたWHおよびWLの値から(2)~(4)式を用いてWp、W’H、W’LおよびΔWを求めた。乾燥粉末中のニオブの含有量とリチウムの含有量はそれぞれ47.3質量%および3.9質量%であったが、ΔWは2.2であり、ニオブ溶解率(%)とリチウム溶解率(%)はそれぞれ65%および79%であり、実施例1および実施例2により得られた粉末と比較し、水への溶解性が劣るものであった。当該乾燥粉末に関するその他の測定結果を、表1に併せて示す。
【0064】
[比較例2]
凍結工程を行わなかった以外は実施例1と同じ手順で、比較例2に係るニオブ錯体とリチウムを含む粉末を得た。得られた乾燥粉末の累積50%粒子径D50は140μmであった。得られた当該乾燥粉末について、上記の通り、試料の加熱温度は100℃および300℃とし、上述の(5)、(6)式からWHおよびWLを求め、得られたWHおよびWLの値から(2)~(4)式を用いてWp、W’H、W’LおよびΔWを求めた。乾燥粉末中のニオブの含有量とリチウムの含有量はそれぞれ47.2質量%および4.0質量%であったが、ΔWは4.4で、ニオブ溶解率(%)とリチウム溶解率(%)はそれぞれ86%および100%であり、凍結工程を経ることによりニオブ溶解率が向上することが判る。
【0065】
【0066】
[正極活物質の被覆]
200mLのビーカーにイオン交換水47.2gおよび実施例1により得られたニオブ錯体とリチウムとを含む粉末2.8gを投入し、マグネチックスターラーを用いて25℃で1時間の撹拌を行い、ニオブ酸リチウムの前駆体水溶液を得た。前記のニオブ酸リチウム前駆体水溶液に正極活物質粉末(MTI(株)製、LiNi
0.33Co
0.33Mn
0.33O
2)100gを添加し、マグネチックスターラーを用いて25℃で10分間の撹拌を行い、ニオブ酸リチウムの前駆体水溶液中に正極活物質が分散したスラリーを得た。当該スラリーをコーティング装置((株)カワタ製、JD-1)に投入し、以下の条件で被覆処理を行い、被覆正極活物質を得た。
コーティング装置条件:分散エアー圧力:500kPa、分散エアー温度:200℃、分散補助エアー圧力:150kPa、乾燥エアー温度:135℃、乾燥ブロア風量:900L/min、分級ブロア風量:890L/min。
前記の被覆正極活物質を大気中200℃で5時間乾燥した後、乳鉢で解粒してニオブ酸リチウムを含有する被覆層を有するリチウム二次電池用正極活物質を得た。
図2に、得られたニオブ酸リチウムを含有する被覆層を有するリチウム二次電池用正極活物質を、上記の被覆処理を行ったことによる正極活物質のXPSスペクトルの変化を示す。被覆層を有するリチウム二次電池用正極活物質のワイドスキャンスペクトルではNbの強いピークが観察されるが、被覆前の正極活物質において観察されたNi、CoおよびMnのピークがほぼ消失している。したがって、前記の被覆処理により供試正極活物質の表面がニオブ酸リチウムを含む被覆層で被覆されたと考えられる。