(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064708
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】接合体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20240507BHJP
B32B 7/04 20190101ALI20240507BHJP
【FI】
B32B15/08 P
B32B7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173498
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】片山 和孝
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 正隆
(72)【発明者】
【氏名】高松 成亮
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA18B
4F100AA19B
4F100AA20B
4F100AA37B
4F100AB01A
4F100AB16A
4F100AB17A
4F100AB21A
4F100AB24A
4F100AB31A
4F100AH02A
4F100AK01B
4F100AK42A
4F100AK62B
4F100AL09B
4F100BA02
4F100DG11A
4F100DG12A
4F100EH71A
4F100EJ17
4F100EJ42
4F100GB61
4F100JB16B
4F100JG01A
4F100JL11
(57)【要約】
【課題】 異種材料からなる二つの部材の接合体であって、密着性が高く接合信頼性が高い接合体、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 接合体1は、金属部が露出した接合面11を有する第一部材10と、第一部材10の接合面11に接合され、熱可塑性ポリマーと、塩基性物質と、を有する第二部材20と、を備え、該金属部は、ニッケル、スズ、スズ-ニッケル合金、スズ-ビスマス合金、スズ-銀合金、スズ-銅合金から選ばれる一種以上を有し、該金属部の表面は多価カルボン酸で処理されている。接合体1の製造方法は、第一部材10における金属部が露出した接合面11に、多価カルボン酸を有する溶液を接触させて乾燥することにより、該金属部の表面を該多価カルボン酸で処理する表面処理工程と、第一部材10の接合面11に、熱可塑性ポリマーと、塩基性物質と、を有する第二部材20を積層し、加熱下でプレスするプレス工程と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部が露出した接合面を有する第一部材と、
該第一部材の該接合面に接合され、熱可塑性ポリマーと、塩基性物質と、を有する第二部材と、
を備え、
該金属部は、ニッケル、スズ、スズ-ニッケル合金、スズ-ビスマス合金、スズ-銀合金、スズ-銅合金から選ばれる一種以上を有し、該金属部の表面は多価カルボン酸で処理されていることを特徴とする接合体。
【請求項2】
前記多価カルボン酸は、水溶性である請求項1に記載の接合体。
【請求項3】
前記多価カルボン酸の炭素数は、6以下である請求項1に記載の接合体。
【請求項4】
前記多価カルボン酸は、コハク酸およびクエン酸の少なくとも一方を有する請求項1に記載の接合体。
【請求項5】
前記塩基性物質は、塩基性化合物、および水素結合可能な元素または官能基を有する物質から選ばれる一種以上である請求項1に記載の接合体。
【請求項6】
前記塩基性化合物は、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、ケイ素化合物を有し、水素結合可能な元素または官能基を有する前記物質は、カーボンブラックを有する請求項5に記載の接合体。
【請求項7】
前記第一部材は、導電布である請求項1に記載の接合体。
【請求項8】
前記金属部は、めっき皮膜である請求項1に記載の接合体。
【請求項9】
請求項1に記載の接合体の製造方法であって、
第一部材における、ニッケル、スズ、スズ-ニッケル合金、スズ-ビスマス合金、スズ-銀合金、スズ-銅合金から選ばれる一種以上を有する金属部が露出した接合面に、多価カルボン酸を有する溶液を接触させて乾燥することにより、該金属部の表面を該多価カルボン酸で処理する表面処理工程と、
該第一部材の該接合面に、熱可塑性ポリマーと、塩基性物質と、を有する第二部材を積層し、加熱下でプレスするプレス工程と、
を有することを特徴とする接合体の製造方法。
【請求項10】
前記多価カルボン酸の炭素数は、6以下である請求項9に記載の接合体の製造方法。
【請求項11】
前記多価カルボン酸は、コハク酸およびクエン酸の少なくとも一方を有する請求項9に記載の接合体の製造方法。
【請求項12】
前記塩基性物質は、塩基性化合物、および水素結合可能な元素または官能基を有する物質から選ばれる一種以上である請求項9に記載の接合体の製造方法。
【請求項13】
前記塩基性化合物は、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、ケイ素化合物を有し、水素結合可能な元素または官能基を有する前記物質は、カーボンブラックを有する請求項12に記載の接合体の製造方法。
【請求項14】
前記第一部材は、導電布である請求項9に記載の接合体の製造方法。
【請求項15】
前記金属部は、めっき皮膜である請求項9に記載の接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、異種材料からなる二つの部材が接合された接合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
呼吸状態や心拍数などを測定する生体情報センサ、自動車などの車両に搭載されるステアリングセンサ、着座センサなどには、被検者の動きに対する追従性や、違和感の低減が要求される。このため、エラストマーなどの柔軟な材料を使用したセンサの開発が進んでいる。例えば、特許文献1には、熱可塑性エラストマーを有する絶縁層と、導電性ポリマーからなる網目状電極と、を備える静電容量センサが記載されている。また、特許文献2には、圧電センサ、静電容量センサなどに用いられる電極として、熱可塑性エラストマーと、カーボンブラックを含む導電材と、を有するシート状柔軟電極が記載されている。
【0003】
センサは、配線を介してECU(電子制御ユニット)などに接続される。金属製の電極であれば、はんだ付けなどにより、直接配線と接合することができる。しかしながら、エラストマーなどのポリマーを使用した柔軟電極においては、はんだ付けによる接合は難しい。このため、例えば、柔軟電極中に金属部材を埋め込み、それとの接触を利用して配線と接合したり、その接触を応力による変形で損なわないように、柔軟電極と配線とを金属部材でかしめたりすることが必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2020/066121号
【特許文献2】国際公開第2021/172425号
【特許文献3】特開2018-111788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリマーと金属など、異種材料からなる部材同士を接合する場合、ヤング率の差が大きく、一方の変形に他方が追従して変形することができないため、密着性が低下して、接合信頼性が低くなるという課題がある。例えば、ポリマーを使用した柔軟電極に金属部材を埋め込むと、荷重が加わり変形した場合に、柔軟電極と金属部材との間に隙間が生じやすいため、接触抵抗が大きくなり、導電性が低下する。また、柔軟電極が繰り返し伸縮することにより金属部材が剥離して、柔軟電極と金属部材とが分離するおそれがあり、接合信頼性が低い。また、柔軟電極と配線とを金属部材でかしめて接合すると、接合部分の厚さが増加する。加えて、長期間の使用によりポリマーがへたると、柔軟電極と配線との接触面積が小さくなり、接触抵抗が増加したり、接合部分が破損したりするおそれがある。
【0006】
本開示は、このような実状に鑑みてなされたものであり、異種材料からなる二つの部材の接合体であって、密着性が高く接合信頼性が高い接合体、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記課題を解決するため、本開示の接合体は、金属部が露出した接合面を有する第一部材と、該第一部材の該接合面に接合され、熱可塑性ポリマーと、塩基性物質と、を有する第二部材と、を備え、該金属部は、ニッケル、スズ、スズ-ニッケル合金、スズ-ビスマス合金、スズ-銀合金、スズ-銅合金から選ばれる一種以上を有し、該金属部の表面は多価カルボン酸で処理されていることを特徴とする。
【0008】
本開示の接合体においては、第一部材の接合面に第二部材が接合される。第一部材の接合面の金属部は、所定の金属を有し、その表面は第二部材と接合される前に多価カルボン酸で処理される。金属部の表面を多価カルボン酸で処理すると、表面に存在している酸化膜(不動態膜)が除去されて、ぬれ性が向上する。また、多価カルボン酸は、カルボキシ基(-COOH)を二つ以上有する酸であり、複数の段階で解離、反応する。ある段階において、一部のカルボキシ基から水素が解離すると、それに金属部を構成する金属が反応する。この段階では、塩基性物質と反応したり水素結合したりするカルボキシ基が残っている。他方、第二部材は、塩基性物質を有する。よって、第二部材を接合面に接合すると、残部のカルボキシ基と塩基性物質との間で水素結合などの相互作用が生じて引き合うと考えられる。このように、接合面の金属部の表面を多価カルボン酸処理すると、一部のカルボキシ基は金属との反応により安定化し、残部のカルボキシ基は塩基性物質と相互作用することにより大きな接合力が生じる。結果、密着性が高く接合信頼性が高い接合体を実現することができる。また、本開示の接合体によると、第一部材の金属部を利用して、配線などとの電気的な接続を容易に行うことができる。
【0009】
ちなみに、特許文献3には、異種材料からなる第一固体部材と第二固体部材とが、重合体を含有する接着部材を介して接合される接続構造体が記載されている。特許文献3に記載されている接続構造体においては、二つの固体部材を、各々、接着部材の重合体と化学結合させることにより接合させている。同文献の段落[0111]、[0112]、[0120]には、固体部材の表面を予め酸処理することが記載されているが、酸処理は、固体部材の表面を親水化して重合体との化学結合を形成しやすくするための処理例に過ぎない。
【0010】
(2)上記構成において、前記多価カルボン酸は、水溶性である構成としてもよい。本構成によると、多価カルボン酸処理を水溶液で行うことができる。これにより、VOC(揮発性有機化合物)の排出を抑制し、環境への影響を少なくすることができる。
【0011】
(3)上記いずれかの構成において、前記多価カルボン酸の炭素数は、6以下である構成としてもよい。炭素数が6以下の多価カルボン酸は、水またはアルコールに溶けやすいものが多い。特に、炭素数が4以下のものは水に溶けやすいため、上記(2)の構成の多価カルボン酸処理を水溶液で行う形態を採用しやすい。
【0012】
(4)上記いずれかの構成において、前記多価カルボン酸は、コハク酸およびクエン酸の少なくとも一方を有する構成としてもよい。コハク酸およびクエン酸は、水溶性を有し、比較的金属を腐食しにくいことに加えて、環境負荷が小さく作業性に優れる。
【0013】
(5)上記いずれかの構成において、前記塩基性物質は、塩基性化合物、および水素結合可能な元素または官能基を有する物質から選ばれる一種以上である構成としてもよい。
塩基性化合物、および水素結合可能な元素または官能基を有する物質は、第二部材に所望の特性を付与するために配合される導電材、絶縁材、補強材、難燃材などに用いられる。本構成によると、熱可塑性ポリマーに配合される添加材を利用して、多価カルボン酸処理により生成した「多価カルボン酸と金属との反応物」との相互作用を生じさせることができる。
【0014】
(6)上記(5)の構成において、前記塩基性化合物は、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、ケイ素化合物を有し、水素結合可能な元素または官能基を有する前記物質は、カーボンブラックを有する構成としてもよい。本構成の塩基性化合物は、絶縁性を有する。よって、第二部材に絶縁性を付与したい場合には、本構成の塩基性化合物の一種以上を有する形態が好適である。また、カーボンブラックは、クロメン構造などの塩基性官能基や、カルボニル基、キノン類、金属塩などの水素結合可能な元素または官能基を有する。よって、第二部材に導電性を付与したい場合には、カーボンブラックを有する形態が好適である。
【0015】
(7)上記いずれかの構成において、前記第一部材は、導電布である構成としてもよい。本構成によると、第一部材を柔軟にすることができ、薄くすることができるため、第一部材をFPC(フレキシブルプリント配線板)などに接続する形態に好適である。
【0016】
(8)上記いずれかの構成において、前記金属部は、めっき皮膜である構成としてもよい。めっき処理は、ニッケル、スズなどの種々の金属、合金を用いて実施することができる。本構成によると、めっき処理を利用して、容易に金属部を形成することができる。
【0017】
(9)本開示の接合体の製造方法は、上記本開示の接合体の製造方法の一形態であって、第一部材における、ニッケル、スズ、スズ-ニッケル合金、スズ-ビスマス合金、スズ-銀合金、スズ-銅合金から選ばれる一種以上を有する金属部が露出した接合面に、多価カルボン酸を有する溶液を接触させて乾燥することにより、該金属部の表面を該多価カルボン酸で処理する表面処理工程と、該第一部材の該接合面に、熱可塑性ポリマーと、塩基性物質と、を有する第二部材を積層し、加熱下でプレスするプレス工程と、を有することを特徴とする。
【0018】
本開示の製造方法においては、まず表面処理工程において、第一部材の接合面を多価カルボン酸処理する。次にプレス工程において、処理後の接合面に第二部材を積層し、加熱下でプレスする。このように、本開示の製造方法によると、本開示の接合体を容易に製造することができる。
【0019】
(10)上記(9)の構成において、前記多価カルボン酸の炭素数は、6以下である構成としてもよい。前述したように、炭素数が6以下の多価カルボン酸は、水またはアルコールに溶けやすいものが多い。特に、炭素数が4以下のものは水に溶けやすいため、多価カルボン酸を有する溶液として水溶液を採用することができる。水溶液を採用すると、VOCの排出を抑制し、環境への影響を少なくすることができる。
【0020】
(11)上記(9)または(10)の構成において、前記多価カルボン酸は、コハク酸およびクエン酸の少なくとも一方を有する構成としてもよい。コハク酸およびクエン酸は、水溶性を有し、比較的金属を腐食しにくい。
【0021】
(12)上記(9)から(11)のいずれかの構成において、前記塩基性物質は、塩基性化合物、および水素結合可能な元素または官能基を有する物質から選ばれる一種以上である構成としてもよい。本構成によると、熱可塑性ポリマーに配合される導電材、絶縁材、補強材、難燃材などの添加材を利用して、多価カルボン酸処理により生成した「多価カルボン酸と金属との反応物」との相互作用を生じさせることができる。
【0022】
(13)上記(12)の構成において、前記塩基性化合物は、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、ケイ素化合物を有し、水素結合可能な元素または官能基を有する前記物質は、カーボンブラックを有する構成としてもよい。本構成の塩基性化合物は、絶縁性を有する。よって、第二部材に絶縁性を付与したい場合には、本構成の塩基性化合物の一種以上を有する形態が好適である。また、カーボンブラックは、クロメン構造などの塩基性官能基や、カルボニル基、キノン類、金属塩などの水素結合可能な元素または官能基を有する。よって、第二部材に導電性を付与したい場合には、カーボンブラックを有する形態が好適である。
【0023】
(14)上記(9)から(13)のいずれかの構成において、前記第一部材は、導電布である構成としてもよい。本構成によると、第一部材を柔軟にすることができ、薄くすることができるため、第一部材をFPC(フレキシブルプリント配線板)などに接続する形態に好適である。
【0024】
(15)上記(9)から(14)のいずれかの構成において、前記金属部は、めっき皮膜である構成としてもよい。本構成によると、めっき処理を利用して、容易に金属部を形成することができる。
【発明の効果】
【0025】
本開示の接合体によると、第一部材の接合面の金属部の表面が多価カルボン酸処理されることにより、異種材料からなる第一部材と第二部材との密着性を高め、接合信頼性を高めることができる。本開示の製造方法によると、本開示の接合体を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本開示の接合体と配線との接続形態を示す上面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本開示の接合体およびその製造方法の実施の形態について説明する。なお、実施の形態は以下の形態に限定されるものではなく、当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することができる。
【0028】
<接合体>
本開示の接合体は、金属部が露出した接合面を有する第一部材と、第一部材の接合面に接合され、熱可塑性ポリマーと、塩基性物質と、を有する第二部材と、を備える接合体である。
【0029】
[第一部材]
第一部材は、金属部が露出した接合面を有すれば、材質、形状、大きさなどは特に限定されない。金属部は、ニッケル、スズ、スズ-ニッケル合金、スズ-ビスマス合金、スズ-銀合金、スズ-銅合金から選ばれる一種以上(以下、「ニッケル・スズ系金属」と称す場合がある)を有すればよい。金属部はめっき皮膜であってもよい。なお、金属の種類によっては表面に酸化膜が形成される場合がある。当該酸化膜は、多価カルボン酸処理により除去されると考えられるが、金属部は当該酸化膜を含んでいてもよい。
【0030】
第一部材としては、(a)少なくとも表面がニッケル・スズ系金属で構成された金属板、金属シート、金網など、(b)接合面を含む一部がニッケル・スズ系金属で構成され、他部がそれ以外の材料を含んで構成された複合部材、(c)全体的にニッケル・スズ系金属とそれ以外の材料とから構成された複合部材、などが挙げられる。(c)の複合部材としては、ニッケル・スズ系金属と繊維とから構成された導電布などが挙げられる。導電布のように、第一部材の全体がニッケル・スズ系金属とそれ以外の材料とから構成される場合には、接合面においてニッケル・スズ系金属を有する金属部が露出していればよい。導電布は、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの繊維から形成された布(織布、不織布の両方を含む)の表面が金属でめっき処理されたもの、PETなどの繊維を金属でめっき処理した導電性繊維から形成された布、のいずれでもよい。
【0031】
金属部の表面は、多価カルボン酸で処理されている。多価カルボン酸としては、2価以上のカルボン酸を用いればよく、一種でも二種以上を併用してもよい。例えば、2価のカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、およびフタル酸などの芳香族ジカルボン酸やその異性体などが挙げられる。3価のカルボン酸としては、クエン酸、およびトリメリット酸などの芳香族トリカルボン酸などが挙げられる。水素が段階的に解離することにより、金属部との反応と、第二部材中の塩基性物質との相互作用と、が生じやすくなる。例えば、一段階目と二段階目の酸解離定数(pKa)の差は大きい方が望ましい。
【0032】
後述するように、多価カルボン酸処理は、多価カルボン酸を有する溶液を接合面に接触させて行う。この際、溶媒を水にして環境への影響を少なくするという観点から、多価カルボン酸は水溶性であることが望ましい。また、多価カルボン酸の炭素数は6以下、さらには4以下であることが望ましい。なかでも、水溶性を有し、比較的金属を腐食しにくいという観点から、コハク酸およびクエン酸の少なくとも一方を用いることが望ましい。
【0033】
[第二部材]
第二部材を構成する熱可塑性ポリマーは、一種でも二種以上が併用されてもよい。例えば、スチレン系、オレフィン系、塩ビ系、ウレタン系、エステル系、アミド系などの樹脂またはエラストマーから適宜選択すればよい。このうち、スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)などが挙げられる。オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、低密度ポリエチレン(LDPE、LLDPE)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン-アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMMA)などの他、エチレンとαオレフィンとの共重合体(エチレン-オクテン共重合体)などが挙げられる。熱可塑性ポリマーは、架橋していてもしていなくてもよい。例えば、柔軟で軟化温度が比較的低いという観点においては、オレフィン系の樹脂またはエラストマーが好適である。
【0034】
第二部材を構成する塩基性物質は、用途に応じて適宜選択すればよく、塩基性化合物、および水素結合可能な元素または官能基を有する物質から選ばれる一種以上を用いればよい。塩基性化合物としては、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、ケイ素化合物などが挙げられる。これらの化合物は、絶縁性を有するため、第二部材に絶縁性を付与したい場合に好適である。また、水素結合可能な元素または官能基を有する物質としては、カーボンブラックなどが挙げられる。カーボンブラックは、導電性を有するため、第二部材に導電性を付与したい場合に好適である。
【0035】
第二部材は、熱可塑性ポリマー、塩基性物質に加えて、滑剤、可塑剤、老化防止剤、着色剤などを有してもよい。例えば、滑剤を配合すると、プレス成形により第二部材に荷重が加わっても、せん断力を弱めることができる。このため、塩基性物質としてカーボンブラックが配合される場合には、ストラクチャーが壊れにくくなる。滑剤としては、脂肪酸および脂肪酸化合物から選ばれる一種以上を用いることが望ましい。
【0036】
第二部材は、第一部材の接合面に接合される。例えば、第一部材の接合面が平板状を呈する場合には、第二部材は接合面に積層されて接合される。第一部材が金網、導電布などであって、接合面が網目状を呈する(空隙を有する)場合には、第二部材の一部が接合面の空隙に埋入されるため、接合力がより大きくなる。
【0037】
[用途]
本開示の接合体の用途は、特に限定されない。例えば、圧電センサ、静電容量センサ、アクチュエータなどにおける柔軟電極と配線との接続、あるいは絶縁層(誘電層)と電極との接続などに用いることができる。以下に、本開示の接合体の一適用例として、第二部材を静電容量センサの柔軟電極に具現化した形態を示す。
図1に、本開示の接合体と配線との接続形態の上面模式図を示す。
図1においては、説明の便宜上、接合面に対応する領域にハッチングを施して示す。
【0038】
図1に示すように、接合体1は、第一部材10と、第二部材20と、を有している。第一部材10は、導電布からなり、長方形シート状を呈している。導電布は、PET繊維に、内側から銅めっきおよびニッケルめっきが二層に施された導電性繊維の織布である。第一部材10の後方下面(ハッチングが施された部分)は、第二部材と接合される接合面11である。接合面11には、導電性繊維の最表面のニッケル皮膜が露出している。ニッケル皮膜は、本開示の金属部の概念に含まれる。接合面11は、第二部材20と接合される前にクエン酸水溶液により表面処理されている。第一部材10の前方上面には、配線30がはんだ31により固定されている。
【0039】
第二部材20は、導電性シートからなり、左右方向に延在する帯状を呈している。導電性シートは、オレフィン系熱可塑性エラストマーとカーボンブラックとを有している。第二部材20の右端部は、第一部材10の接合面11に接合されている。第二部材20の一部は、接合面11の空隙(導電布の網目)に埋入されている。第二部材20の下側には、図示しない絶縁層と導電性シートとが、この順に積層されている。すなわち、第二部材20(導電性シート)/絶縁層/導電性シートにより、静電容量センサが構成されている。第二部材20は、静電容量センサの電極として機能する。
【0040】
接合体1においては、接合面11の金属部(ニッケル皮膜)の表面が予めクエン酸処理されているため、金属部の表面に存在している酸化膜が除去されて、ぬれ性が向上する。また、クエン酸による金属部のニッケルとの反応、およびカーボンブラックの特定の官能基との相互作用により、接合力が大きくなる。つまり、第一部材10と第二部材20との密着性が高くなる。他方、第一部材10と配線30とは、はんだ31により強固に固定されている。したがって、接合体1によると、熱可塑性エラストマーを有し柔軟な第二部材20と配線30との電気的な接続を、第一部材10を介して、容易にかつ高い信頼性で行うことができる。
【0041】
<接合体の製造方法>
本開示の接合体の製造方法は、表面処理工程と、プレス工程と、を有する。以下、各工程について説明する。
【0042】
<表面処理工程>
本工程は、第一部材における、ニッケル、スズ、スズ-ニッケル合金、スズ-ビスマス合金、スズ-銀合金、スズ-銅合金から選ばれる一種以上を有する金属部が露出した接合面に、多価カルボン酸を有する溶液(以下、「多価カルボン酸溶液」と称する場合がある)を接触させて乾燥することにより、金属部の表面を多価カルボン酸で処理する工程である。
【0043】
第一部材および接合面の金属部については、前述したとおりである。多価カルボン酸溶液の溶媒は、多価カルボン酸の溶解性などを考慮して水、エタノールなどの溶剤から適宜選択すればよい。VOCの排出を抑制し、環境への影響を少なくするという観点においては、水を用いることが望ましい。多価カルボン酸溶液の濃度は、第二部材との密着性、金属に対する腐食性などを考慮して適宜決定すればよく、例えば、0.001~1mol/L程度にすればよい。
【0044】
接合面と多価カルボン酸溶液との接触方法は、金属部の表面が多価カルボン酸処理できれば特に限定されない。例えば、接合面に多価カルボン酸溶液を塗布したり、第一部材の接合面を含む部分を多価カルボン酸溶液に浸漬したりすればよい。後者の場合、浸漬時間は0.1~1分程度にすればよい。多価カルボン酸溶液を接触させた後は、乾燥して溶媒を気化させる。乾燥温度、時間などは、溶媒に応じて適宜決定すればよい。多価カルボン酸処理の後、余剰の多価カルボン酸を除去して金属の腐食を抑制するという観点から、接合面をアルコールなどにより洗浄してもよい。洗浄した後は、さらに乾燥することが望ましい。
【0045】
<プレス工程>
本工程は、多価カルボン酸で処理した第一部材の接合面に、熱可塑性ポリマーと、塩基性物質と、を有する第二部材を積層し、加熱下でプレスする工程である。接合面に積層する第二部材は、第二部材を製造するための組成物(前駆体)の状態でも、第二部材として製造された後の状態でもよい。プレス温度は、熱可塑性ポリマーの軟化温度、生産性などを考慮して適宜決定すればよい。例えば、オレフィン系エラストマーを用いた場合には、150℃以上250℃以下の温度で行うことが望ましい。プレス時間は、プレス温度に応じて接合が完了する時間にすればよい。プレス圧力も、第一部材と第二部材とが接合できれば特に限定されない。
【実施例0046】
次に、実施例を挙げて本開示をより具体的に説明する。本実施例においては、第一部材としての導電布と、第二部材としてのエラストマーシートと、が接合された接合体サンプルを製造し、両者の密着性を評価した。
【0047】
<接合体サンプルの製造>
[実施例1]
第一部材として、導電布Aを準備した。導電布Aは、PET繊維に、内側から銅めっきおよびニッケルめっきが二層に施された導電性繊維を平織りした織布である。導電布Aは、縦10mm、横80mmの長方形状を呈し、表面には、導電性繊維の最表面のニッケル皮膜が露出している。準備した導電布Aを、次のようにして表面処理した。まず、導電布Aを、濃度0.5mol/Lのクエン酸水溶液に1分間浸漬した。次に、クエン酸水溶液から取り出した導電布Aを、90℃下で2時間乾燥した。その後、導電布Aをエタノールで洗浄し、さらに90℃下で0.5時間乾燥した。
【0048】
第二部材のエラストマーシートを、次のようにして製造した。まず、オレフィン系熱可塑性エラストマー(エチレン-オクテン共重合体)100質量部に、導電性カーボンブラック(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製「ケッチェンブラック(登録商標)EC600JD」)20質量部を配合し、混練機にて190℃で混練してエラストマー組成物を製造した。次に、エラストマー組成物を単軸押出機にてTダイ押出加工して、縦100mm、横200mm、厚さ0.2mmの長方形シート状に成形した。
【0049】
得られた導電布Aを、エラストマーシートの一面に積層して、プレス機にて、温度200℃、圧力1MPaで2分間プレスした。このようにして、導電布A(第一部材)とエラストマーシート(第二部材)とが接合された接合体サンプルを製造した。製造した接合体サンプルを、実施例1のサンプルと称す。
【0050】
[実施例2]
第一部材の表面処理において、クエン酸水溶液をコハク酸水溶液(濃度は同じ0.5mol/L)に変更した点以外は実施例1と同様にして、実施例2のサンプルを製造した。
【0051】
[実施例3]
第一部材の表面処理において、クエン酸水溶液をアジピン酸エタノール溶液(濃度は同じ0.5mol/L)に変更した点以外は実施例1と同様にして、実施例3のサンプルを製造した。
【0052】
[実施例4]
第一部材の導電布Aを導電布Bに変更した点以外は実施例1と同様にして、実施例4のサンプルを製造した。導電布Bは、PET繊維に、スズめっきが一層施された導電性繊維を平織りした織布である。導電布Bの表面には、導電性繊維の最表面のスズ皮膜が露出している。
【0053】
[実施例5]
第二部材のエラストマーシートの製造において、オレフィン系熱可塑性エラストマーに配合する導電性カーボンブラックを、酸化マグネシウム100質量部および水酸化マグネシウム100質量部に変更した点以外は実施例1と同様にして、実施例5のサンプルを製造した。
【0054】
[比較例1]
第一部材の導電布Aの表面処理を行わなかった点以外は実施例1と同様にして、比較例1のサンプルを製造した。すなわち、導電布Aをそのまま第二部材のエラストマーシートに積層させて、プレス機にて、温度200℃、圧力1MPaで2分間プレスした。
【0055】
[比較例2]
第一部材の表面処理において、クエン酸水溶液を塩酸水溶液(濃度は同じ0.5mol/L)に変更した点以外は実施例1と同様にして、比較例2のサンプルを製造した。
【0056】
[比較例3]
第一部材の表面処理において、クエン酸水溶液を酢酸水溶液(濃度は同じ0.5mol/L)に変更した点以外は実施例1と同様にして、比較例3のサンプルを製造した。
【0057】
<評価>
製造した各接合体サンプルにおける導電布とエラストマーシートとの密着性および接触抵抗を評価した。
[評価方法]
まず、製造した各接合体サンプルを、導電布の織り方向が約45度傾斜する方向に、幅10mm、長さ50mmの長方形状に打ち抜いて、評価用サンプルを作製した。次に、評価用サンプルの長手方向両端から各々10mmの位置をチャッキングし、長さ30mmの自然状態(無荷重状態)から長手方向に20%伸長させた状態(自然状態に対して長さを1.2倍にした状態)で卓上型引張試験機に設置して、同方向に3%伸長させた後復元させるという伸縮サイクルを10000回繰り返した。
【0058】
(1)密着性
伸縮試験の後、評価用サンプルを目視で観察し、導電布の浮き、剥がれが見られない場合を密着性良好(後出の表1中、○印で示す)、導電布の浮き、剥がれのいずれかが見られる場合を密着性不良(同表中、×印で示す)、と評価した。
【0059】
(2)接触抵抗
伸縮試験の後、評価用サンプルの電気抵抗を測定した。測定における電極間距離は30mmとした。そして、比較例1の評価用サンプル(表面処理なし)の伸縮試験前の電気抵抗と比較して、電気抵抗が同じか小さい場合を接触抵抗の増加なし(後出の表1中、○印で示す)、電気抵抗が大きい場合を接触抵抗の増加あり(同表中、×印で示す)、と評価した。なお、実施例5のサンプルについては、導電性カーボンブラックを含まず導電性を有しないため、接触抵抗の評価を行わなかった。
【0060】
[評価結果]
表1に、各接合体サンプルの構成、表面処理に用いた溶液の種類、および評価結果をまとめて示す。
【表1】
【0061】
表1に示すように、表面処理を多価カルボン酸を用いて行った実施例1~5のサンプルにおいては、導電布の浮き、剥がれのいずれも見られず、密着性は良好であった。また、実施例1~4のサンプルにおいては、接触抵抗も増加しなかった。これに対して、表面処理を行わなかった比較例1のサンプル、多価カルボン酸以外の酸を用いて表面処理を行った比較例2、3のサンプルにおいては、導電布の浮き、剥がれのいずれかが見られ、所望の密着性を得ることはできず、接触抵抗も増加した。
本開示の接合体は、圧電センサ、静電容量センサ、アクチュエータなどにおける柔軟電極と配線との接続、絶縁層(誘電層)と電極との接続などの他、ヤング率の差が大きい有機物と金属との接合などに用いることができる。