(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064721
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】電磁波シールド膜形成用水系分散体
(51)【国際特許分類】
C09D 175/04 20060101AFI20240507BHJP
C09D 5/33 20060101ALI20240507BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20240507BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240507BHJP
C08L 75/04 20060101ALI20240507BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
C09D175/04
C09D5/33
C09D5/02
C09D7/61
C08L75/04
C08K3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173520
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100193404
【弁理士】
【氏名又は名称】倉田 佳貴
(72)【発明者】
【氏名】猪飼 敬幸
【テーマコード(参考)】
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
4J002BG012
4J002CK031
4J002CK041
4J002DA036
4J002DE027
4J002DF007
4J002EN007
4J002ET017
4J002FA106
4J002FD202
4J002FD206
4J002FD207
4J002FD310
4J002GQ00
4J002HA06
4J038DG001
4J038HA026
4J038KA09
4J038KA12
4J038MA10
4J038MA13
4J038MA14
4J038NA19
4J038NA20
4J038PB09
4J038PC05
(57)【要約】
【課題】本発明では、樹脂基材に対する塗工性及び密着性が良好であり、かつ良好な電気的性質を有する電磁波シールド膜を得ることができる、新規な電磁波シールド膜形成用水系分散体を提供する。
【解決手段】本発明の電磁波シールド膜形成用水系分散体は、
水、カーボンブラック、及びウレタンディスパージョンを含有しており、
前記ウレタンディスパージョンの粒子の質量の、前記カーボンブラックの質量に対する比が、0.55~1.20である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、カーボンブラック、及びウレタンディスパージョンを含有しており、
前記ウレタンディスパージョンの粒子の質量の、前記カーボンブラックの質量に対する比が、0.55~1.30である、
電磁波シールド膜形成用水系分散体。
【請求項2】
前記ウレタンディスパージョンの粒子の質量の、前記カーボンブラックの質量に対する比が、0.85~1.15である、請求項1に記載の水系分散体。
【請求項3】
前記ウレタンディスパージョンの粒子の、レーザー回折法により測定した平均粒子径が、50nm以下である、請求項1又は2に記載の水系分散体。
【請求項4】
揮発性塩基を更に含有しており、前記揮発性塩基の含有率が、0.1~3.0質量%である、請求項1又は2に記載の水系分散体。
【請求項5】
ゲル化剤を更に含有している、請求項1又は2に記載の水系分散体。
【請求項6】
前記ゲル化剤が、アルカリ膨潤会合型のゲル化剤である、請求項4に記載の水系分散体。
【請求項7】
前記カーボンブラックが、中空シェル状の構造を有し、かつ窒素吸着法で測定したBET比表面積が1000m2/g以下である、請求項1又は2に記載の水系分散体。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の水系分散体を、樹脂基材に塗布し、これを乾燥して、電磁波シールド膜を得ることを含む、電磁波吸収シートの製造方法。
【請求項9】
4探針法により測定した前記電磁波シールド膜の表面抵抗率が、400Ω/□以下である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
樹脂基材、及び前記樹脂基材上の電磁波シールド膜を含み、
前記電磁波シールド膜が、請求項1又は2に記載の水系分散体を乾燥したものである、電磁波吸収シート。
【請求項11】
前記電磁波シールド膜のDRY膜厚が100μm以下であり、かつ体積抵抗率が1.0Ω・cm以下である、請求項10に記載の電磁波吸収シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波シールド膜形成用水系分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータ、携帯電話、タブレット端末等の電子機器が普及し、家庭や会社に限らず、屋内、屋外のどこにいても、これらの電子機器を用いて情報のやりとりができるようになっている。しかし、これらの電子機器は利便性が高い反面、電子機器から発生する不要な電磁波(ノイズ)が、他の電子機器や電気製品に誤作動等の悪影響を及ぼすことが問題となっている。このような問題を解決するため、種々の電磁波抑制シートが開示されている。
【0003】
特許文献1では、電磁波を発生する部材および/またはそれを覆う部材に電磁波シールド効果を有する膜を形成するのに用いる電磁波シールド膜形成用組成物であって、液状をなし、インクジェット方式により吐出されるものであり、電磁波抑制材料で構成された粉末を含むことを特徴とする電磁波シールド膜形成用組成物が開示されている。
【0004】
特許文献2では、電磁波抑制物質を含有する樹脂組成物(A)からなり、上記樹脂組成物(A)が、100%モジュラスが1~7MPaのポリウレタン系樹脂(a1)を含有するものであることを特徴とする電磁波抑制シートが開示されている。
【0005】
特許文献3では、塗膜形成樹脂と、ピッチ系カーボンファイバーとを含む電波吸収塗料組成物であって、該組成物の固形分100体積%に対するピッチ系カーボンファイバーの含有量が2~15体積%である、電波吸収塗料組成物が開示されている。
【0006】
特許文献4では、水分散型共重合樹脂化合物および溶剤溶解型共重合樹脂化合物を混合した樹脂と、非イオン系界面活性剤と、導電材料とを含有することを特徴とする電磁波シールド塗料が開示されている。
【0007】
特許文献5では、水と、水系エマルション若しくは増粘剤と、磁性体担持コイル状炭素繊維と、を含有する電磁波吸収コーティング剤が開示されている。
【0008】
特許文献6では、中空構造を有する炭素粒子を含む黒色顔料と、樹脂と、を含む複合粒子が分散されてなり、前記樹脂は、アクリル系樹脂であり、前記アクリル系樹脂は、酸価が10mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であり、かつ、中和率が80%未満である、インクジェット記録用インクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2013-168399号公報
【特許文献2】特開2017-45782号公報
【特許文献3】特開2020-111730号公報
【特許文献4】特開2015-220233号公報
【特許文献5】特開2015-172152号公報
【特許文献6】特許第5930176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明では、樹脂基材に対する塗工性及び密着性が良好であり、かつ良好な電気的性質を有する電磁波シールド膜を得ることができる、新規な電磁波シールド膜形成用水系分散体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討したところ、以下の手段により上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、下記のとおりである:
〈態様1〉水、カーボンブラック、及びウレタンディスパージョンを含有しており、
前記ウレタンディスパージョンの粒子の質量の、前記カーボンブラックの質量に対する比が、0.55~1.30である、
電磁波シールド膜形成用水系分散体。
〈態様2〉前記ウレタンディスパージョンの粒子の質量の、前記カーボンブラックの質量に対する比が、0.85~1.15である、態様1に記載の水系分散体。
〈態様3〉前記ウレタンディスパージョンの粒子の、レーザー回折法により測定した平均粒子径が、50nm以下である、態様1又は2に記載の水系分散体。
〈態様4〉揮発性塩基を更に含有しており、前記揮発性塩基の含有率が、0.1~3.0質量%である、態様1~3のいずれか一項に記載の水系分散体。
〈態様5〉ゲル化剤を更に含有している、態様1~4のいずれか一項に記載の水系分散体。
〈態様6〉前記ゲル化剤が、アルカリ膨潤会合型のゲル化剤である、態様5に記載の水系分散体。
〈態様7〉前記カーボンブラックが、中空シェル状の構造を有し、かつ窒素吸着法で測定したBET比表面積が1000m2/g以下である、態様1~6のいずれか一項に記載の水系分散体。
〈態様8〉態様1~7のいずれか一項に記載の水系分散体を、樹脂基材に塗布し、これを乾燥して、電磁波シールド膜を得ることを含む、電磁波吸収シートの製造方法。
〈態様9〉4探針法により測定した前記電磁波シールド膜の表面抵抗率が、400Ω/□以下である、態様8に記載の方法。
〈態様10〉樹脂基材、及び前記樹脂基材上の電磁波シールド膜を含み、
前記電磁波シールド膜が、態様1~7のいずれか一項に記載の水系分散体を乾燥したものである、電磁波吸収シート。
〈態様11〉前記電磁波シールド膜の乾燥膜厚が100μm以下であり、かつ体積抵抗率が1.0Ω・cm以下である、態様10に記載の電磁波吸収シート。
【発明の効果】
【0012】
樹脂基材に対する塗工性及び密着性が良好であり、かつ良好な電気的性質を有する電磁波シールド膜を得ることができる、新規な電磁波シールド膜形成用水系分散体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、バインダーとしてウレタンディスパージョンを用いた場合における、バインダーの質量のカーボンブラックの質量に対する比と、得られた電磁波シールド膜の表面抵抗率との関係を示すグラフである。
【
図2】
図2は、バインダーとしてスチレンアクリル樹脂又はアクリル樹脂を用いた場合における、バインダーの質量のカーボンブラックの質量に対する比と、得られた電磁波シールド膜の表面抵抗率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
《電磁波シールド膜形成用水系分散体》
本発明の電磁波シールド膜形成用水系分散体は、
水、カーボンブラック、及びウレタンディスパージョンを含有しており、
前記ウレタンディスパージョンの粒子の質量の、前記カーボンブラックの質量に対する比が、0.55~1.20である。
【0015】
本発明者らは、上記の構成により、樹脂基材に対する塗工性が良好であり、かつ良好な電気的性質を有する電磁波シールド膜を得ることができることを見出した。
【0016】
ウレタンディスパージョンの粒子の質量の、カーボンブラックの質量に対する比は、0.55以上、0.60以上、0.65以上、0.70以上、0.80以上、又は0.85以上であってよく、また1.30以下、1.20以下、1.15以下、1.10以下、1.05以下、又は1.00以下であってよい。また、このような範囲にある質量比では、得られる電磁波シールド膜の表面抵抗率が低い値となり、それによって、電磁波吸収性が良好となる。理論に拘束されることを望まないが、このような比では、カーボンブラックの表面を覆って導電性を阻害することなく、適度にカーボンブラックを分布させることができることから、このような良好な電磁波吸収性が得られると考えられる。
【0017】
本発明の電磁波シールド膜形成用水系分散体は、随意の分散剤を含有していてよい。この場合、カーボンブラックに対する分散剤の質量比は、0.17以上、0.18以上、又は0.19以上であってよく、また、この質量比は、0.40以下、0.35以下、0.30以下、0.28以下、0.25以下、又は0.23以下であってよい。
【0018】
本発明の電磁波シールド膜形成用水系分散体は、揮発性塩基を含有していることが、塗膜のはじきを抑制する観点から好ましい。
【0019】
本発明の電磁波シールド膜形成用水系分散体は、ゲル化剤を更に含有していることが、所望の厚さの電磁波シールド膜、例えばDRY膜厚が5μm以上、7μm以上、10μm以上、15μm以上、17μm以上、20μm以上、25μm以上、又は30μm以上の電磁波シールド膜を得る観点から好ましい。
【0020】
以下では、本発明の各構成要素について説明する。
【0021】
〈水〉
水としては、蒸留水、イオン交換水等を用いることができる。
【0022】
〈カーボンブラック〉
カーボンブラックとしては、例えばケッチェンブラック等を用いることができる。カーボンブラックは、中空シェル状の構造を有することができる。
【0023】
窒素吸着法により測定した、カーボンブラックのBET比表面積は、1000m2/g以下、900m2/g以下、800m2/g以下、700m2/g以下、600m2/g以下、500m2/g以下、400m2/g以下、又は300m2/g以下であってよい。このBET比表面積は、100m2/g以上、又は200m2/g以上であってよい。
【0024】
カーボンブラックの含有率は、電磁波シールド膜形成用水系分散体の質量に対して、5質量%以上、6質量%以上、又は7質量%以上であってよく、また15質量%以下、12質量%以下、10質量%以下、又は8質量%以下であってよい。
【0025】
〈分散剤〉
分散剤としては、例えばポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルアセタール、ポリアクリル酸及びその塩、ポリエチレンオキサイド、酢酸ビニル-ポリビニルピロリドン共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体及びその塩、イソブチレン無水マレイン酸共重合体及びその塩等の水溶性樹脂を用いることができる。
【0026】
分散剤の含有率は、カーボンブラックに対する上記の分散剤の比を満足するように、適宜選択することができる。分散剤の含有率は、電磁波シールド膜形成用水系分散体の質量に対して、例えば0.1質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、0.7質量%以上、0.9質量%以上、1.0質量%以上、1.1質量%以上、1.3質量%以上、又は1.5質量%以上であってよく、また6.0質量%以下、5.5質量%以下、5.0質量%以下、4.5質量%以下、4.0質量%以下、3.5質量%以下、3.0質量%以下、2.8質量%以下、又は2.5質量%以下であってよい。
【0027】
〈ウレタンディスパージョン〉
ウレタンディスパージョンは、カーボンブラックのバインダーとして用いられる粒子のディスパージョン(分散体)であり、水系ディスパージョンの形態で提供されるものを用いることができる。
【0028】
レーザー回折法により測定した、ウレタンディスパージョンの粒子の平均粒子径は、800nm以下、750nm以下、700nm以下、650nm以下、600nm以下、550nm以下、500nm以下、450nm以下、400nm以下、350nm以下、300nm以下、250nm以下、230nm以下、200nm以下、170nm以下、150nm以下、130nm以下、110nm以下、100nm以下、90nm以下、80nm以下、70nm以下、60nm以下、50nm以下、又は40nm以下であってよい。本明細書において採用される平均粒子径は、レーザー回折法において体積基準により算出されたメジアン径(D50)の値である。レーザー回折法による測定は、例えば粒度分布測定装置 MT3300II(マイクロトラック・ベル株式会社)を用いて行うことができる。
【0029】
ウレタンディスパージョンの粒子の含有率は、電磁波シールド膜形成用水系分散体の質量に対して、3質量%以上、4質量%以上、又は5質量%以上であることが、電磁波シールド膜形成用水系分散体を樹脂基材に塗布した際のはじきを抑制する観点から好ましい。この含有率は、15質量%以下、13質量%以下、又は11質量%以下であってよい。また、このような範囲にある含有率では、得られる電磁波シールド膜の表面抵抗率が低い値となり、それによって、電磁波吸収性が良好となる。
【0030】
〈揮発性塩基〉
揮発性塩基としては、乾燥工程により揮発させることができる塩基、特に25℃における蒸気圧が1mmHg超である塩基を用いることができる。このような揮発性塩基としては、例えばアンモニア、尿素、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール等を用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、混合させて用いてもよい。
【0031】
揮発性塩基の含有率は、電磁波シールド膜形成用水系分散体の質量に対して、0.1質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、0.7質量%以上、1.0質量%以上、1.1質量%以上、1.3質量%以上、1.5質量%以上、又は1.7質量%以上であってよく、また3.0質量%以下、2.8質量%以下、2.5質量%以下、2.2質量%以下、又は2.0質量%以下であってよい。
【0032】
〈ゲル化剤〉
ゲル化剤としては、例えばアルカリ膨潤型、特にアルカリ膨潤会合型のゲル化剤を用いることが、電磁波シールド膜形成用水分散体におけるカーボンブラックの分散状態を維持し、それによって、得られた電磁波シールド膜の電磁波吸収性を良好にする観点から好ましい。
【0033】
ここで、「アルカリ膨潤型」のゲル化剤とは、未中和のアクリル系ポリマーであって主にカルボキシル基のような酸基をポリマーの立体構造の中に包含したものであり、アルカリで中和することで一旦膨潤し、さらに中和を続けることで最終的には溶解に至るものをいう。
【0034】
本発明では、このアルカリ膨潤型のゲル化剤の中でも、アルカリ膨潤会合型のゲル化剤を用いることが好ましい。ここで、「アルカリ膨潤会合型」のゲル化剤とは、ポリマーが膨潤した際に、分子中の疎水性の部分が他分子のその部分と会合し、分子間が緩やかな結合を形成することで、増粘性を発揮させるものをいう。
【0035】
アルカリ膨潤会合型のゲル化剤には、大きく分けて二つの増粘作用があると考えられる。第1の増粘作用は、水又は極性溶媒との混合部中でのアルカリ領域のみで溶解し、分子中のカルボキシル基などの親水基が水和膨張して、溶液中での立体障害となり、粘性が上昇する作用をいう。第2の増粘作用は、分子中の疎水基と親水基とがそれぞれ別個に、インク中の成分、たとえば顔料、溶剤、界面活性剤のそれぞれ疎水基と親水基と会合吸着してネットワーク状の集合体を形成し、粘性が上昇する作用をいう。
【0036】
本発明のアルカリ膨潤会合型のゲル化剤としては、カルボキシル基及び疎水基を有するポリマーを用いることができる。疎水基としては、例えば鎖状又は環状の炭化水素基、芳香族炭化水素基、ハロゲン化アルキル基、オルガノシリコン基(-SiR3)、フッ化炭素基(-CnF2n+1)等を挙げることができる。具体的なポリマーとしては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸共重合体、ポリメタクリル酸共重合体などが挙げられる。
【0037】
ゲル化剤の含有率は、電磁波シールド膜形成用水系分散体の質量に対して、0.03質量%以上、0.05質量%以上、0.07質量%以上、0.10質量%以上、又は0.12質量%以上であることが、所望の厚さの電磁波シールド膜を得る観点から好ましく、また0.25質量%以下、0.22質量%以下、0.20質量%以下、0.18質量%以下、又は0.15質量%以下であることが、電磁波シールド膜形成用水系分散体の塗布適性の観点から好ましい。
【0038】
《電磁波吸収シートの製造方法》
電磁波吸収シートを製造する本発明の方法は、上記の水系分散体を樹脂基材に塗布し、これを乾燥して、電磁波シールド膜を得ることを含む。
【0039】
このようにして得た電磁波シールド膜の、4探針法により測定した表面抵抗率は、400Ω/□以下、380Ω/□以下、350Ω/□以下、又は320Ω/□以下であることができる。この表面抵抗率は、例えば100Ω/□以上、150Ω/□以上、又は180Ω/□以上であることができる。このような表面抵抗率により、電磁波シールド膜の良好な電磁波吸収性を得ることができる。4探針法における探針間隔は、10mmである。
【0040】
塗布は、アプリケーター、バーコーター、インクジェットプリンター、コンマコーター、グラビアコーター、スクリーン等を用いて行うことができる。
【0041】
樹脂基材としては、例えばポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ナイロン、アラミド等のポリアミド系樹脂、ポリカーボネート等を用いることができる。
【0042】
《電磁波吸収シート》
本発明の電磁波吸収シートは、樹脂基材、及び樹脂基材上の電磁波シールド膜を含む。上記の電磁波シールド膜は、請求項1又は2に記載の水系分散体を乾燥したもの、特に上記の方法により得たものである。
【0043】
電磁波シールド膜のDRY膜厚は、100μm以下であってよい。このDRY膜厚は、90μm以下、80μm以下、70μm以下、60μm以下、50μm以下、40μm以下、30μm以下、20μm以下、15μm以下、12μm以下、10μm以下、7μm以下、又は5μm以下であることができる。このDRY膜厚は、触針式表面形状測定器、例えばBRUKER社のDektakを用いて測定することができる。
【0044】
電磁波シールド膜の体積抵抗率は、1.0Ω・cm以下、0.8Ω・cm以下、0.5Ω・cm以下、0.4Ω・cm以下、又は0.3Ω・cm以下であることができる。この体積抵抗率は、JIS C 2139:2008に準拠して、周囲温度25℃、相対湿度40%RHの条件で測定したものである。
【実施例0045】
実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0046】
《電磁波シールド膜形成用水系分散体の作製》
〈実施例1〉
60質量部のカーボンブラックトナー、15質量部のウレタンディスパージョン、1質量部の界面活性剤、1質量部のトリエチルアミン(TEA)、及び0.1質量部の防腐剤を混合して、実施例1の電磁波シールド膜形成用水系分散体を作製した。
【0047】
カーボンブラックトナーは、7.8質量部のカーボンブラック(CB)、0.78質量部のアミノメチルプロパノール(AMP)、1.56質量部の分散剤としてのスチレンアクリル樹脂(SA)、及び49.86質量部の水を含有している。
【0048】
ここで用いるウレタンディスパージョンは、水中にウレタンディスパージョンの粒子が分散している水系ウレタンディスパージョンである。
【0049】
〈実施例2~7及び比較例1~24〉
用いる物質及び含有率を表1~4に示すように変更したことを除き、実施例1と同様にして、実施例2~7及び比較例1~24の電磁波シールド膜形成用水分散体を作製した。
【0050】
表1~4に示す他の物質の詳細は以下のとおりである。また、固形分を記載しているものについては、これらの表では、固形分の質量を記載している。
ウレタンA:ハイドランWLS201(DIC社、固形分35%、平均粒子径35nm)
ウレタンB:ハイドランWLS213(DIC社、固形分35%、平均粒子径27nm)
ウレタンC:ハイドランHW-920(DIC社、固形分50%、平均粒子径204nm)
スチレンアクリルA:ジョンクリル 52J(BASFジャパン株式会社、Tg56℃、溶解、固形分60%)
スチレンアクリルB:ジョンクリル JDX6180(BASFジャパン株式会社、Tg134℃、溶解、固形分27%)
アクリルA:ジョンクリルPDX-7780(BASFジャパン株式会社、Tg92℃、平均粒子径114nm、固形分48%)
アクリルB:ジョンクリルPDX-7734(BASFジャパン株式会社、Tg40℃、平均粒子径73nm、固形分41.4%)
アクリルC:ジョンクリルPDX-7356(BASFジャパン株式会社、Tg25℃、平均粒子径70nm、固形分45.5%)
アクリルD:ジョンクリルPDX-7357(BASFジャパン株式会社、Tg-4℃、平均粒子径99nm、固形分49.5%)
アクリルE:ジョンクリルPDX-7430(BASFジャパン株式会社、Tg30℃、平均粒子径752nm、自己架橋、固形分38%)
アクリルF:ジョンクリル352D(BASFジャパン株式会社、Tg56℃、平均粒子径99nm、固形分45%)
アクリルG:ジョンクリル89J(BASFジャパン株式会社、Tg98℃、平均粒子径114nm、固形分48%)
アクリルH:ウルトラゾールCMX-235(アイカ工業株式会社、Tg-15℃、平均粒子径185nm、固形分45%)
アクリルI:ウルトラゾールLTC-100(アイカ工業株式会社、平均粒子径216nm)
アクリルJ:ポリゾールAP-3720N(Tg9℃、平均粒子径147nm、固形分51%)
界面活性剤:オルフィン4200、日信化学工業株式会社
防腐剤:ビオサイド1700、株式会社タイショーテクノス
分散剤SA:ジョンクリル 63J(BASFジャパン株式会社、Tg73℃、溶解型、固形分30%)
【0051】
《評価》
作製した電磁波シールド膜形成用水系分散体を、アプリケーターを用い、WET膜厚の設定値を50μmに設定して、10cm×10cmのポリエチレンテレフタレートフィルムの全面に塗工した。次いで、塗工した電磁波シールド膜形成用水分散体を乾燥して、電磁波シールド膜を有する電磁波吸収シートを得た。
【0052】
〈塗膜はじき〉
作製した電磁波シールド膜の塗膜のはじきを、外観の目視により評価した。
A:一様かつ平坦な塗膜が形成されていた。
B:表面の凹凸が少し見られるものの、一様な塗膜が形成されていた。
C:ポリエチレンテレフタレートフィルムの表面が視認できる程度にはじきが生じていた
D:ポリエチレンテレフタレートフィルムの表面の過半が露出する程度にはじきが生じていた。
【0053】
〈密着性〉
クロスカット試験法により、電磁波シールド膜の密着性を評価した。具体的には、カッターを用いて得られた電磁波シールド膜に複数の切り込みを、約1mm間隔で格子状に入れた。次いで、この切り込みを覆うようにしてセロハンテープ(登録商標)を貼付し、これを約60°の角度で剥がし、テープへの電磁波シールド膜の付着状態を目視により確認した。評価基準は以下のとおりである。
A:電磁波シールド膜がテープに付着していなかった。
B:電磁波シールド膜がテープに微量付着していたものの、電磁波シールド膜の外観に影響する程度の剥離は見られなかった。
C:電磁波シールド膜がテープに付着し、それによって、電磁波シールド膜の欠けが点在していた。
D:電磁波シールド膜の多くの領域が剥離したが、剥離した量は過半に満たなかった。
E:電磁波シールド膜の過半が剥離した。
【0054】
〈表面抵抗率〉
密着性において十分な結果が得られた「ウレタンA」、「ウレタンB」、「ウレタンC」、「スチレンアクリルA」、「スチレンアクリルB」、及び「アクリルD」のバインダーを用いた電磁波シールド膜について、表面抵抗率を、探針間隔10mmの4探針プローブと抵抗率計ミリオームハイテスタ3227(日置電機)とからなる装置を用いて測定した。
【0055】
実施例及び比較例の構成及び評価結果を表1~4及び
図1に示す。
【表1】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
「ウレタンA」、「ウレタンB」、「ウレタンC」、「スチレンアクリルA」、「スチレンアクリルB」、及び「アクリルD」以外のバインダーを用いた水分散体から得た電磁波シールド膜は、少なくとも密着性において、十分な結果が得られなかった。
【0060】
また、「ウレタンA」、「ウレタンB」及び「ウレタンC」を用いた場合に関し、バインダーの質量のカーボンブラックの質量に対する比を横軸とし、表面抵抗率を縦軸として、測定結果をプロットし、プロットした点から得た二次近似曲線を、
図1に示す。「スチレンアクリルA」、及び「アクリルD」を用いた場合についても、同様に二次近似曲線を作成し、これを
図2に示す。
【0061】
図1によれば、「ウレタンA」、「ウレタンB」及び「ウレタンC」を用いた場合は、ウレタンディスパージョンの粒子の質量のカーボンブラックの質量に対する比が比較的小さい範囲、具体的には0.55~1.30の範囲において、良好な密着性を提供しつつ、表面抵抗率の低い値が得られており、特に、0.85~1.15の範囲においては、表面抵抗率の極小値が得られていることが理解できよう。
【0062】
《ゲル化剤を用いた場合の評価》
〈実施例1’〉
上記の実施例1の電磁波シールド膜形成用水系分散体を、アプリケーターを用い、WET膜厚の設定値を80μmに設定して、10cm×10cmのポリエチレンテレフタレートフィルムの全面に塗工した。次いで、塗工した電磁波シールド膜形成用水分散体を乾燥して、電磁波シールド膜を有する電磁波吸収シートを得た。実施例1で得た電磁波シールド膜から、WET膜厚の設定値を80μmに変更して得た電磁波シールド膜を、表5では、実施例1’とする。次いで、得られた電磁波シールド膜のDRY膜厚の実測値を測定した。
【0063】
DRY膜厚の測定は、触針式表面形状測定器(Dektak、BRUKER社)を用いて行った。また、WET膜厚の設定値に、固形分の含有率、すなわちCB、バインダー、及び分散剤の合計含有率を乗算することにより、DRY膜厚の理論値を算出した。
【0064】
〈実施例8〉
各成分の種類及び含有率が、表5に示すとおりになるようにこれらを変更したことを除き、実施例1と同様にして、実施例8の電磁波シールド膜形成用水系分散体及び電磁波シールド膜を作製した。ゲル化剤としては、アルカリ膨潤会合型のゲル化剤(プライマルTT-935、ローム・アンド・ハース・ジャパン社、固形分5%)を用いた。その他の物質の詳細は、表1~4と同じである。次いで、実施例1’と同様にして、電磁波シールド膜のDRY膜厚の実測値及び理論値を得た。
【0065】
〈実施例1’A、1’B、1’C、8A、8B及び8C〉
実施例1’及び8の電磁波シールド膜形成用水系分散体の塗工距離を更に長くして得た電磁波シールド膜を、それぞれ実施例1’A及び8Aとする。具体的には、コンマコーターを用い、WET膜厚の設定値を80μmとして、電磁波シールド膜形成用水系分散体を20m塗工した。
【0066】
また、WET膜厚の設定値を160μmに変更したことを除き、実施例1’、8、1’A及び8Aと同様にして得た、電磁波シールド膜を、それぞれ実施例1’B、8B、1’C及び8Cとする。
【0067】
次いで、実施例1’及び8と同様にして、電磁波シールド膜のDRY膜厚の実測値及び理論値を得た。
【0068】
《評価》
上記のはじき、密着性及び表面抵抗率の評価に加え、得られたこれらの電磁波シールド膜について、以下の式から、電磁波シールド膜の体積抵抗率を算出した。
体積抵抗率(Ω・cm)=表面抵抗率(Ω/□)×DRY膜厚(μm)×10-4
【0069】
実施例1及び5の構成及び評価結果を表5に示す。
【0070】
【0071】
表5から、ゲル化剤を含有している実施例8は、短い塗工距離においては、ゲル化剤を含有していない実施例1’と同様の性能を有することが理解できよう。
【0072】
一方、長い塗工距離及び厚いWET厚さの設定値においては、実施例8A、8B、及び8Cは、ゲル化剤を含有していない実施例1’と同様の性能を有しつつ、実施例1’A、1’B、1’Cとそれぞれ比較して、理論値に近いDRY膜厚を有する電磁波シールド膜が得られていることが理解できよう。