(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064746
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】シーリング材
(51)【国際特許分類】
C09K 3/10 20060101AFI20240507BHJP
【FI】
C09K3/10 G
C09K3/10 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173559
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥田 章子
(72)【発明者】
【氏名】小林 利充
(72)【発明者】
【氏名】堀居 令奈
【テーマコード(参考)】
4H017
【Fターム(参考)】
4H017AA04
4H017AA25
4H017AB15
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素の排出量の低減を図る。
【解決手段】シーリング材用基材30~90%と、炭酸カルシウムを含む無機充填材10~70%と、が混合されているシーリング材であって、前記炭酸カルシウムは、石灰石から製造された石灰石由来炭酸カルシウムと、生物から製造され、400℃以上の焼成によらない生物由来炭酸カルシウムと、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シーリング材用基材30~90%と、炭酸カルシウムを含む無機充填材10~70%と、が混合されているシーリング材であって、
前記炭酸カルシウムは、
石灰石から製造された石灰石由来炭酸カルシウムと、
生物から製造され、400℃以上の焼成によらない生物由来炭酸カルシウムと、
を含むことを特徴とするシーリング材。
【請求項2】
請求項1に記載のシーリング材であって、
前記生物由来炭酸カルシウムは、前記シーリング材の0.1%以上20%未満である、
ことを特徴とするシーリング材。
【請求項3】
請求項1に記載のシーリング材であって、
前記生物由来炭酸カルシウムは、最大粒径150μm以下である、
ことを特徴とするシーリング材。
【請求項4】
請求項1~3の何れかに記載のシーリング材であって、
前記シーリング材用基材は、変形追従性と復元性を有する、
ことを特徴とするシーリング材。
【請求項5】
請求項1~3の何れかに記載のシーリング材であって、
前記生物由来炭酸カルシウムは、表面未処理である、
ことを特徴とするシーリング材。
【請求項6】
請求項1~3の何れかに記載のシーリング材であって、
前記生物は貝類であり、前記生物由来炭酸カルシウムは貝殻から製造される、
ことを特徴とするシーリング材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シーリング材に関する。
【背景技術】
【0002】
シーリング材は、樹脂(例えば、変成シリコーン系樹脂など)に、無機充填材や可塑剤などを配合して製造される。無機充填材としては、一般的に石灰石から製造された炭酸カルシウムが利用されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シーリング材を製造する際、無機充填材として上記の炭酸カルシウムを添加することに伴い、二酸化炭素(CO2)が排出されていた。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、二酸化炭素の排出量の低減を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための主たる発明は、シーリング材用基材30~90%と、炭酸カルシウムを含む無機充填材10~70%と、が混合されているシーリング材であって、前記炭酸カルシウムは、石灰石から製造された石灰石由来炭酸カルシウムと、生物から製造され、400℃以上の焼成によらない生物由来炭酸カルシウムと、を含むことを特徴とするシーリング材である。
【0007】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、二酸化炭素の排出量の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態のシーリング材の組成を示す図である。
【
図2】貝殻由来炭酸カルシウムの製造および添加処理の一例を示すフロー図である。
【
図3】比較例(基剤と硬化剤)の組成を示す図である。
【
図4】実施例1~3の引張応力、伸び率の試験結果を示す図である。
【
図6】23℃50%RHにおける粘度変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0011】
(態様1)
シーリング材用基材30~90%と、炭酸カルシウムを含む無機充填材10~70%と、が混合されているシーリング材であって、前記炭酸カルシウムは、石灰石から製造された石灰石由来炭酸カルシウムと、生物から製造され、400℃以上の焼成によらない生物由来炭酸カルシウムと、を含むことを特徴とするシーリング材。
【0012】
態様1のシーリング材によれば、生物由来炭酸カルシウムを添加することで、製造時における二酸化炭素の排出量の低減を図ることができる。
【0013】
(態様2)
態様1に記載のシーリング材であって、前記生物由来炭酸カルシウムは、前記シーリング材の0.1%以上20%未満であることが望ましい。
【0014】
態様2のシーリング材によれば、製造時の作業性を向上でき、また、目地などに充填させやすくできる。
【0015】
(態様3)
態様1または態様2に記載のシーリング材であって、前記生物由来炭酸カルシウムは、100メッシュ篩を通過する粒子であって、最大粒径150μm以下であることが望ましい。
【0016】
態様3のシーリング材によれば、石灰石由来炭酸カルシウムのみの場合と同等の特性を得ることができる。
【0017】
(態様4)
態様1~態様3の何れかに記載のシーリング材であって、前記シーリング材用基材は、変形追従性と復元性を有することが望ましい。
【0018】
態様4のシーリング材によれば、目地を止水するに適した硬さを超えて固まらないようにでき、充填された目地などの動きに従って変形追従できる。
【0019】
(態様5)
態様1~態様4の何れかに記載のシーリング材であって、前記生物由来炭酸カルシウムは、表面未処理であることが望ましい。
【0020】
態様5のシーリング材によれば、カップリング剤による表面処理を生物由来炭酸カルシウムに施さなくてもよい。これにより製造を簡易化できる。
【0021】
(態様6)
態様1~態様5の何れかに記載のシーリング材であって、前記生物は貝類であり、前記生物由来炭酸カルシウムは貝殻から製造されることが望ましい。
【0022】
態様6のシーリング材によれば、通常廃棄される貝殻を有効利用でき、さらに二酸化炭素の排出量を低減することができる。
【0023】
===実施形態===
<シーリング材について>
シーリング材は、構造物の防水性(止水性)や気密性を保持するために、継ぎ目(例えば、タイルの目地やコンクリートの打継ぎ部)や隙間(例えば、外壁の隙間)に充填する材料である。また、モルタルやコンクリートのひび割れの補修にも適している。このような用途から、シーリング材には、充填された目地やひび割れの動きに従って変形でき、さらにそのような動きの繰り返しに耐えること(変形追従性と復元性)が要求される。
【0024】
なお、シーリング材は、樹脂(変成シリコーン系樹脂やアクリル樹脂など)に、無機充填材や可塑剤などを配合して製造される。無機充填材としては、一般的に、石灰石から製造された炭酸カルシウム(以下、石灰石由来炭酸カルシウムともいう)が利用されている。
【0025】
ところで、石灰石由来炭酸カルシウムを用いて、シーリング材を製造する際には二酸化炭素(以下、CO2)が排出される。
【0026】
本実施形態では、海洋副産物である貝類の貝殻から製造した炭酸カルシウム(以下、貝殻由来炭酸カルシウムともいう)を利用することでCO2の排出量の低減を図っている。
【0027】
<本実施形態のシーリング材>
図1は、本実施形態のシーリング材の組成を示す図である。
【0028】
図1に示すように、本実施形態のシーリング材は、樹脂を含むシーリング材用基材30-90%と、無機充填材(含炭酸カルシウム)10-70%を有している。なお、本実施形態において「%」は、「重量%」であり、
図1の含有量(%)は、シーリング材100%に対する量(割合)を示している。例えば、シーリング材用基材が30%の場合、無機充填材は70%である。また、シーリング材用基材が90%の場合、無機充填材は10%である。
【0029】
本実施形態において、シーリング材用基材は、シーリング材のうち無機充填材(炭酸カルシウム)以外の成分であり、上述した樹脂や、可塑剤などが含まれる。また、シーリング材用基材は、シーリング材に要求される変形追従性と復元性を有している。これにより、シーリング材が硬くなりすぎず、充填された目地などの動きに従って変形追従できる。
【0030】
シーリング材用基材に含まれる樹脂としては、変成シリコーン系、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、アクリルシリコン樹脂系、シリコーン系、シリル化アクリレート系などを用いることができる。
【0031】
なお、シーリング材用基材の構成(組成)は特に限定されず、例えば、1成分系でもよいし、基剤(主剤)と硬化剤の2成分系でもよい。
【0032】
また、
図1に示すように、本実施形態のシーリング材には、炭酸カルシウムとして、貝殻由来炭酸カルシウム(生物由来炭酸カルシウムに相当)が0.1-20%(正確には20%未満)含まれている。より具体的には、無機充填材として用いられる石灰石由来炭酸カルシウムの一部を、貝殻由来炭酸カルシウムで代替している。換言すると、本実施形態のシーリング材は、石灰石由来炭酸カルシウムと、貝殻由来炭酸カルシウムとを含む。例えば、無機充填材(炭酸カルシウム)が70%のシーリング材の場合、石灰石由来炭酸カルシウム50%-69.9%と、貝殻由来炭酸カルシウム0.1-20%が含まれる。
【0033】
なお、貝殻由来炭酸カルシウムとしては、例えば、ホタテ、アワビ、カキなどの貝類の貝殻から製造したもの(炭酸カルシウム)を用いることができる。
【0034】
また、後述するように、貝殻由来炭酸カルシウムの最大粒径は150μm以下(より好ましくは10μm以下)である。これにより、石灰石由来炭酸カルシウムと同等の特性を得ることができる。
【0035】
<製造時のCO2排出量について>
シーリング材用基材に石灰石由来炭酸カルシウムを添加(混合)した場合、1kg当たりの配合量に応じて0.0879kgのCO2が発生する。具体的には、以下に示すように配合量に応じてCO2が発生する。
40%の場合、0.0879×0.4=0.003516(kg-CO2/kg)
30%の場合、0.0879×0.3=0.002637(kg-CO2/kg)
20%の場合、0.0879×0.2=0.001758(kg-CO2/kg)
10%の場合、0.0879×0.1=0.000879(kg-CO2/kg)
【0036】
一方、海洋副産物(ここでは、ホタテ貝)が成長する過程で固定した炭酸カルシウム量は、-0.44(kg-CO2/kg)である。このため、CO2の発生量は以下のようにマイナスになる。
30%添加の場合、-0.44×0.3=-0.132(kg-CO2/kg)
20%添加の場合、-0.44×0.2=-0.088(kg-CO2/kg)
10%添加の場合、-0.44×0.1=-0.044(kg-CO2/kg)
【0037】
よって、例えば、炭酸カルシウム40%配合する場合に、以下のように石灰石由来炭酸カルシウムを貝殻由来炭酸カルシウムで代替したときのCO2排出量は、
30%代替(石灰石由来炭酸カルシウム10%)の場合、
0.000879-0.132=-0.12321(kg-CO2/kg)
20%代替(石灰石由来炭酸カルシウム20%)の場合、
0.001758-0.088=-0.07042(kg-CO2/kg)
10%代替(石灰石由来炭酸カルシウム30%)の場合、
0.002637-0.044=-0.01763(kg-CO2/kg)
となり、いずれもCO2の排出量がマイナスになる。
【0038】
このように、貝殻由来炭酸カルシウムを添加することで、CO2の排出量を低減する(ここではマイナスにする)ことができる。なお、貝殻由来炭酸カルシウムの添加量を多くするほど、二酸化炭素の排出量を低減できるが、20%にすると、混合する際に粘度が低くなり、混錬に時間を要するようになった(作業性が低下した)。また、目地への充填が困難になった。このため、貝殻由来炭酸カルシウムの添加量は0.1%以上20%未満が望ましい。これにより、作業性を向上でき、また、目地などに充填させやすくできる
【0039】
また、一般的に、貝の貝殻は、当該貝の身を食した後に廃棄される。本実施形態では、廃棄される貝殻を用いて(再利用して)、貝殻由来炭酸カルシウムを製造することができ、その貝殻由来炭酸カルシウムを用いてシーリング材を製造することで、添加する炭酸カルシウムの製造に伴って排出されるCO2を低減、あるいはマイナスにする(吸収する)ことが可能である。
【0040】
また、ホタテの貝殻から製造した貝殻由来炭酸カルシウムを添加すると、ホタテの抗菌性によって、シーリング材がダンゴムシに食べられるという被害が縮小した。よって、シーリング材に貝殻由来炭酸カルシウムを添加することにより、ダンゴムシ等による被害対策としての効果も期待できる。
【0041】
<貝殻由来炭酸カルシウムの製造および添加処理について>
図2は、貝殻由来炭酸カルシウムの製造および添加処理の一例を示すフロー図である。
【0042】
まず、貝殻を洗浄する(S01)。海水系の貝の場合、粉砕した後に不純物として含まれる塩分が0.15%以下、及び炭酸カルシウムが95%以上になるように洗浄することが望ましい。
【0043】
次に、貝殻を乾燥させる(S02)。ここで、仮に、高温焼成(例えば400℃以上の焼成)を実施すると、貝殻に含まれる炭酸カルシウムから固定した二酸化炭素が脱離し、酸化カルシウムに組成を変えてしまうおそれがある(炭酸カルシウムとして利用できなくなる)。
【0044】
そこで、本実施形態では、上述したような400℃以上の焼成を行わず、400℃未満の低温熱処理を行って水分のみの脱離を促進し、乾燥させる。
【0045】
次に、貝殻をハンマーや粉砕機等で細かく粉砕する(S03)。さらに、砕いた貝殻を乳鉢等ですり潰す(S04)。なお、工業的には、ボールミルなどの粉砕機を用いる。
【0046】
次に、すり潰した貝殻を、所定の篩(本実施形態では100メッシュ篩)にかけて分級する(S05)。なお、メッシュとは、金網にスペックを表すために用いられる単位のことであり、1インチ(25.4mm)に網目がいくつあるかを表している。つまり、100メッシュとは、1インチの中の網目の数が100であることを示している。なお、100メッシュ篩の目の開き(径)は149μmであるので、篩を通った生物由来炭酸カルシウムの最大粒径も149μmとなる。本実施形態では、最大粒径を149μmとしたが、より網目の小さいメッシュの篩を用いて最大粒径を10μm以下とすることが好ましい。
【0047】
そして、篩を通った粒(具体的には、最大粒径が150μm以下の粒)を、石灰石由来炭酸カルシウムの代替としてシーリング材用基材に添加する(S06)。
【0048】
なお、本実施形態において、貝殻由来炭酸カルシウムは、カップリング剤による表面処理を施していない(表面未処理である)。これにより、貝殻由来炭酸カルシウムの製造を簡易化できる。
【0049】
また、貝殻由来炭酸カルシウムの製造は上述した方法には限られない。例えば、貝殻を粉砕した後に乾燥を行っても良い。
【0050】
<<実施例>>
貝殻由来炭酸カルシウムを用いたシーリング材の性能評価を行った。
【0051】
<試験概要>
・シーリング材組成
比較例:セメダイン株式会社製の2成分形変成シリコーン系シーリング材(
図3参照)
実施例1:カワイマテリアル株式会社製のホタテ粉末約6%配合
実施例2:山陽クレー工業株式会社製のカキ粉末約6%配合
実施例3:有限会社北栄製ホタテ粉末(200メッシュ篩で分級)約6%配合
・混合比:基剤/硬化剤/カラーペースト=100/3.6/3.6(重量比)
・被着体:アルミニウム陽極酸化被膜
・プライマー:MP-200
・試験体形状:JIS A 1439 5.12.2による(H型試験体)
・初期養生条件:23℃50%RH×7日間+50℃×7日間
・試験条件:初期養生後
水浸漬後(初期養生+23℃水浸漬×7日間)
加熱後(初期養生+90℃×14日)
・評価方法:JIS A 1439 5.20引張接着性試験による
・評価項目:50%引張応力、最大引張応力、最大荷重時の伸び率、破壊状態
・試験回数:3回
【0052】
なお、
図3は、比較例(基剤と硬化剤)の組成を示す図である。
図3の含有量は、基剤と硬化剤のそれぞれにおける含有量を示している。実施例1~3では、比較例のシーリング材の炭酸カルシウム(石灰石由来炭酸カルシウム)の一部を、上記の貝殻由来炭酸カルシウムで代替した。
【0053】
<試験結果>
図4は、実施例1~3の引張応力、伸び率の試験結果を示す図である。なお、図には各シーリング材(実施例1~3)について3回の試験結果の平均値が示されている。いずれにおいても、約6%配合することによる物性面への影響は確認されない。また、図示していないが破壊状態は、いずれもシーリング材の凝集破壊100%であった。
【0054】
また、
図5は、性状・性能についての結果を示す図である。また、
図6は23℃50%RHにおける粘度変化を示す図である。
図6の横軸は混合後の時間であり、縦軸は粘度である。
図5、
図6の試験結果においても、実施例1~3に問題は確認されない。
【0055】
これらの結果により、貝殻由来炭酸カルシウムを添加した実施例1~3の性能に問題ないことが確認された。
【0056】
また、実施例1~3では、比較例の炭酸カルシウム(石灰石由来炭酸カルシウム)の一部を貝殻由来炭酸カルシウムに代替しているので、製造時のCO2の排出量は比較例よりも少なくなる。よって、実施例1~3ではCO2の排出量を低減することができる。
【0057】
===その他の実施形態について===
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。
【0058】
前述の実施形態では、貝殻由来炭酸カルシウムは、海水系の貝(ホタテ、カキなど)の貝殻から製造されていたがこれには限られない。例えば、淡水系の貝の貝殻を用いても良い。また、貝類以外の生物から製造してもよい。