(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064747
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】仕上げ材
(51)【国際特許分類】
C09D 7/61 20180101AFI20240507BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20240507BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20240507BHJP
C09C 3/04 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
C09D7/61
C09D5/00
C09D201/00
C09C3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173560
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥田 章子
(72)【発明者】
【氏名】小林 利充
(72)【発明者】
【氏名】堀居 令奈
【テーマコード(参考)】
4J037
4J038
【Fターム(参考)】
4J037AA10
4J037DD15
4J037EE29
4J037FF30
4J038CG031
4J038DG001
4J038DL031
4J038GA12
4J038HA206
4J038KA08
4J038KA17
4J038KA20
4J038LA07
4J038MA08
4J038MA10
4J038MA15
4J038NA27
4J038PA18
4J038PB05
4J038PC04
4J038PC06
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素の排出量の低減を図る。
【解決手段】造膜性と硬化性を有する仕上げ材であって、仕上げ材用基材54~75%と、炭酸カルシウムを含む無機充填材20~45%と、各種添加剤1~5%と、が混合されており、前記炭酸カルシウムは、石灰石から製造された石灰石由来炭酸カルシウムと、生物から製造され、400℃以上の焼成によらない生物由来炭酸カルシウムと、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造膜性と硬化性を有する仕上げ材であって、
仕上げ材用基材54~75%と、
炭酸カルシウムを含む無機充填材20~45%と、
各種添加剤1~5%と、
が混合されており、
前記炭酸カルシウムは、
石灰石から製造された石灰石由来炭酸カルシウムと、
生物から製造され、400℃以上の焼成によらない生物由来炭酸カルシウムと、
を含む、ことを特徴とする仕上げ材。
【請求項2】
請求項1に記載の仕上げ材であって、
前記生物由来炭酸カルシウムは、前記仕上げ材の0.1%以上40%未満である、
ことを特徴とする仕上げ材。
【請求項3】
請求項1に記載の仕上げ材であって、
前記生物由来炭酸カルシウムは、最大粒径149μm以下である、
ことを特徴とする仕上げ材。
【請求項4】
請求項1に記載の仕上げ材であって、
前記生物由来炭酸カルシウムは、最大粒径149μm以上、3mm以下である、
ことを特徴とする仕上げ材。
【請求項5】
請求項1~4の何れかに記載の仕上げ材であって、
前記仕上げ用基材は、水性樹脂を含む、
ことを特徴とする仕上げ材。
【請求項6】
請求項5に記載の仕上げ材であって、
前記水性樹脂は、ディスパージョン型である、
ことを特徴とする仕上げ材。
【請求項7】
請求項1~4の何れかに記載の仕上げ材であって、
前記生物は貝類であり、前記生物由来炭酸カルシウムは貝殻から製造される、
ことを特徴とする仕上げ材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仕上げ材に関する。
【背景技術】
【0002】
仕上げ材(例えば塗料)は、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、ふっ素樹脂などの樹脂に、無機充填材や顔料などを配合して製造される。無機充填材としては、一般的に石灰石から製造された炭酸カルシウムが利用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
仕上げ材を製造する際、無機充填材として上記の炭酸カルシウムを添加することに伴い、二酸化炭素(CO2)が排出されていた。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、二酸化炭素の排出量の低減を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための主たる発明は、造膜性と硬化性を有する仕上げ材であって、仕上げ材用基材54~75%と、炭酸カルシウムを含む無機充填材20~45%と、各種添加剤1~5%と、が混合されており、前記炭酸カルシウムは、石灰石から製造された石灰石由来炭酸カルシウムと、生物から製造され、400℃以上の焼成によらない生物由来炭酸カルシウムと、を含むことを特徴とする仕上げ材である。
【0007】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、二酸化炭素の排出量の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】ディスパージョン型の樹脂形態の説明図である。
【
図4】貝殻由来炭酸カルシウムの製造および添加処理の一例を示すフロー図である。
【
図7】レーザー解析・散乱法による粒度分布測定結果を示す図である。
【
図8】蛍光X線分析による元素組成の検出結果を示す図である。
【
図9】X線解析分析による結晶性鉱物の分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0011】
(態様1)
造膜性と硬化性を有する仕上げ材であって、仕上げ材用基材54~75%と、炭酸カルシウムを含む無機充填材20~45%と、各種添加剤1~5%と、が混合されており、前記炭酸カルシウムは、石灰石から製造された石灰石由来炭酸カルシウムと、生物から製造され、400℃以上の焼成によらない生物由来炭酸カルシウムと、を含むことを特徴とする仕上げ材。
【0012】
態様1の仕上げ材によれば、二酸化炭素の排出量の低減を図ることができる。
【0013】
(態様2)
態様1に記載の仕上げ材であって、前記生物由来炭酸カルシウムは、前記仕上げ材の0.1%以上40%未満であることが望ましい。
【0014】
態様2の仕上げ材によれば、作業性の低下を抑制でき、また、仕上げ材の付着性を向上できる。
【0015】
(態様3)
態様1又は態様2に記載の仕上げ材であって、前記生物由来炭酸カルシウムは、最大粒径149μm以下であってもよい。
【0016】
態様3の仕上げ材によれば、平滑な塗膜を形成することができる。
【0017】
(態様4)
態様1又は態様2に記載の仕上げ材であって、前記生物由来炭酸カルシウムは、最大粒径149μm以上、3mm以下であってもよい。
【0018】
態様4の仕上げ材によれば、表面に意匠的に凹凸を形成でき、艶を落とすことができる。
【0019】
(態様5)
態様1~4の何れかに記載の仕上げ材であって、前記仕上げ用基材は、水性樹脂を含むことが望ましい。
【0020】
態様5の仕上げ材によれば、環境に配慮することができる。
【0021】
(態様6)
態様5に記載の仕上げ材であって、前記水性樹脂は、ディスパージョン型であることが望ましい。
【0022】
態様6の仕上げ材によれば、仕上がり性、耐候性等に優れており、塗り替え間隔を長期化できる。これにより、建物運用に関わる二酸化炭素の排出量を低減できる。
【0023】
(態様7)
態様1~6の何れかに記載の仕上げ材であって、
前記生物は貝類であり、前記生物由来炭酸カルシウムは貝殻から製造される、
ことを特徴とする仕上げ材
【0024】
態様7の仕上げ材によれば、通常廃棄される貝殻を有効利用でき、さらに二酸化炭素の排出量を低減することができる。
【0025】
===実施形態===
<仕上げ材について>
仕上げ材とは、建物の内装及び外装に使用され、直接目に触れる部分の表面材料のことであり、床や壁、天井を覆うために使用される材料(例えば塗料)である。なお、本実施形態において、仕上げ材は、造膜性及び硬化性を有する材料である。よって、表面材料ではないシーリング材は仕上げ材には含まない。
【0026】
仕上げ材は、樹脂(アクリル樹脂、ウレタン樹脂など)に、無機充填材や顔料などを配合して製造される。一般的に、無機充填材として、石灰石から製造された炭酸カルシウム(以下、石灰石由来炭酸カルシウムともいう)が利用されている。
【0027】
ところで、石灰石由来炭酸カルシウムを用いて、仕上げ材を製造する際には二酸化炭素(以下、CO2)が排出される。
【0028】
そこで、本実施形態では、無機充填材として、海洋副産物である貝類の貝殻から製造した炭酸カルシウム(以下、貝殻由来炭酸カルシウムともいう)を利用することにより、CO2の排出量の低減を図っている。なお、以下では仕上げ材として塗料を例に挙げて説明する。
【0029】
<本実施形態の塗料>
図1は、本実施形態の塗料の組成を示す図である。
【0030】
図1に示すように、本実施形態の塗料(仕上げ材に相当)には、樹脂を含む塗料用基材(仕上げ用基材に相当)54~75%と、無機充填材(炭酸カルシウム)20~45%と、各種添加剤1~5%が混合されている。各種添加剤としては、造膜助剤、増粘剤、可塑剤、分散剤、沈降防止剤、乳化剤、消泡剤、防藻剤、防カビ剤、防腐剤、皮張り防止剤、乾燥剤、たれ防止剤、つや消し剤等が挙げられる。
【0031】
なお、本実施形態において「%」は、「重量%」であり、
図1の含有量(%)は、塗料100%に対する量(割合)を示している。例えば、塗料用基材が75%の場合、炭酸カルシウムと添加剤との和が25%(例えば炭酸カルシウム20%、添加剤5%)である。
【0032】
塗料用基材に含まれる樹脂は、塗料の主成分の一つである。樹脂としては、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、アクリルシリコン樹脂系、ふっ素樹脂系などを用いることができる。また、樹脂には、大別すると溶剤系、水系、無溶剤系等があるが、環境配慮を目的とし、水性(水系)のものがよい。特に、外部でも使用可能で高耐候性の水性ふっ素樹脂が好ましい。
【0033】
また、水性樹脂はその形態から、水溶性型と水分散型に大別され、後者はさらにエマルション型とディスパージョン型に分けられる。
【0034】
【0035】
エマルションとは、互いに混じりあわない液体の系で、一方(ここでは樹脂)の粒子が他方(ここでは水)に均一に分散している液体である。一般的なエマルションではこの粒子が乳化剤によって分散安定化されている。
【0036】
図2の断面図や塗膜表面写真に示すように、エマルション型では、粒界があり平滑性に欠ける。
【0037】
図3は、ディスパージョン型の樹脂形態の説明図である。
【0038】
ディスパージョンとは、樹脂が水系媒体中に乳化剤を使用することなく分散している水系分散液である。ディスパージョンでは、樹脂自身に親水基が付与しており、その親水基により樹脂が水中で分散(自己分散)している。
【0039】
図3の断面図や塗膜表面写真に示すように、ディスパージョン型では、粒界が無いため、平滑で緻密な膜を形成できる。これにより、エマルション型と比べて、仕上がり性、耐候性の向上を図ることができる。また、乾燥性、耐ブロッキング性、耐湿性、耐水性もエマルション型より優れている。よって、水性樹脂としてはディスパージョン型がより好ましい。なお、ディスパージョン型では耐候性が優れているため、塗り替えの間隔(期間)が長期化する。よって、建物運用(具体的には塗料の塗り替え)に関わるCO
2の排出量(後述)を低減できる。
【0040】
また、
図1に示すように、本実施形態の塗料には、炭酸カルシウムとして、貝殻由来炭酸カルシウム(生物由来炭酸カルシウムに相当)が0.1-40%(正確には40%未満)含まれている。より具体的には、無機充填材として用いられる石灰石由来炭酸カルシウムの一部を、貝殻由来炭酸カルシウムで代替している。換言すると、本実施形態の塗料は、石灰石由来炭酸カルシウムと、貝殻由来炭酸カルシウムとを含む。
【0041】
なお、貝殻由来炭酸カルシウムとしては、例えば、ホタテ、アワビ、カキなどの貝類の貝殻から製造したもの(炭酸カルシウム)を用いることができる。
【0042】
<製造時のCO2排出量について>
塗料用基材に石灰石由来炭酸カルシウムを添加(混合)した場合、1kg当たりの配合量に応じて0.0879kgのCO2が発生する。具体的には、以下に示すように配合量に応じてCO2が発生する。
40%の場合、0.0879×0.4=0.003516(kg-CO2/kg)
30%の場合、0.0879×0.3=0.002637(kg-CO2/kg)
20%の場合、0.0879×0.2=0.001758(kg-CO2/kg)
10%の場合、0.0879×0.1=0.000879(kg-CO2/kg)
【0043】
一方、海洋副産物(ここでは、ホタテ貝)が成長する過程で固定した炭酸カルシウム量は、-0.44(kg-CO2/kg)である。このため、CO2の発生量は以下のようにマイナスになる。
30%添加の場合、-0.44×0.3=-0.132(kg-CO2/kg)
20%添加の場合、-0.44×0.2=-0.088(kg-CO2/kg)
10%添加の場合、-0.44×0.1=-0.044(kg-CO2/kg)
【0044】
よって、例えば、炭酸カルシウム40%配合する場合に、以下のように石灰石由来炭酸カルシウムを貝殻由来炭酸カルシウムで代替したときのCO2排出量は、
30%代替(石灰石由来炭酸カルシウム10%)の場合、
0.000879-0.132=-0.12321(kg-CO2/kg)
20%代替(石灰石由来炭酸カルシウム20%)の場合、
0.001758-0.088=-0.07042(kg-CO2/kg)
10%代替(石灰石由来炭酸カルシウム30%)の場合、
0.002637-0.044=-0.01763(kg-CO2/kg)
となり、いずれもCO2の排出量がマイナスになる。
【0045】
このように、貝殻由来炭酸カルシウムを添加することで、CO2の排出量を低減する(ここではマイナスにする)ことができる。なお、貝殻由来炭酸カルシウムの添加量を多くするほど、二酸化炭素の排出量を低減できるが、40%にすると、混合する際に粘度が低くなり、混錬に時間を要するようになった(作業性が低下した)。また、塗膜付着性、耐候性が悪くなった。このため、塗料(100%)のうち、貝殻由来炭酸カルシウムの添加量は0.1%以上40%未満が望ましい。
【0046】
また、一般的に、貝の貝殻は、当該貝の身を食した後に廃棄される。本実施形態では、廃棄される貝殻を用いて(再利用して)、貝殻由来炭酸カルシウムを製造することができ、その貝殻由来炭酸カルシウムを用いて塗料を製造することで、排出されるCO2を低減、あるいはマイナスにする(吸収する)ことが可能である。
【0047】
<貝殻由来炭酸カルシウムの製造および添加処理について>
図4は、貝殻由来炭酸カルシウムの製造および添加処理の一例を示すフロー図である。
【0048】
まず、貝殻を洗浄する(S01)。海水系の貝の場合、粉砕した後に不純物として含まれる塩分が0.15%以下、及び炭酸カルシウムが95%以上になるように洗浄することが望ましい。
【0049】
次に、貝殻を乾燥させる(S02)。ここで、仮に、高温焼成(例えば400℃以上の焼成)を実施すると、貝殻に含まれる炭酸カルシウムから吸収・固定したCO2が脱離し、酸化カルシウムに組成を変えてしまうおそれがある(炭酸カルシウムとして利用できなくなる)。
【0050】
そこで、本実施形態では、上述したような400℃以上の焼成を行わず、400℃未満の低温熱処理を行って乾燥させる。
【0051】
次に、貝殻をハンマーや粉砕機等で細かく粉砕する(S03)。さらに、砕いた貝殻を乳鉢等ですり潰す(S04)。なお、工業的には、ボールミルなどの粉砕機を利用する。
【0052】
次に、すり潰した貝殻を、所定の篩(本実施形態では100メッシュ篩)にかけて分級する(S05)。なお、メッシュとは、金網にスペックを表すために用いられる単位のことであり、1インチ(25.4mm)に網目がいくつあるかを表している。つまり、100メッシュとは、1インチの中の網目の数が100であることを示している。なお、100メッシュ篩の目の開き(径)は149μmであるので、篩を通った生物由来炭酸カルシウムの最大粒径も149μmとなる。本実施形態では、最大粒径を149μmとするが、より網目の小さいメッシュの篩を用いて最大粒径を10μm以下とすることが好ましい。
【0053】
そして、篩を通った粒(具体的には、最大粒径が149μm以下の粒)を、石灰石由来炭酸カルシウムの代替として添加する(S06)。
【0054】
なお、本実施形態において、貝殻由来炭酸カルシウムは、カップリング剤による表面処理を施していない(表面未処理である)。
【0055】
また、貝殻由来炭酸カルシウムの製造は上述した方法には限られない。例えば、貝殻を粉砕した後に乾燥を行っても良い。
【0056】
上記の例では、最大粒径を149μm(好ましくは10μm以下)とした。これにより、平滑な塗膜を形成することができる。
【0057】
<<実施例>>
以下、実施例について説明する。
【0058】
<光沢保持率と色差ΔEの評価>
・塗料条件
比較例1:水性ふっ素塗料(貝殻由来炭酸カルシウムなし)
実施例1:水性ふっ素塗料(カキ貝殻の炭酸カルシウム10%添加)
実施例2:水性ふっ素塗料(ホタテ貝殻の炭酸カルシウム10%添加)
【0059】
・試験内容
スレート板基材に上記の塗料を塗布し、光沢保持率と色差ΔEを測定した。また、粒度分布や元素組成を評価した。
【0060】
・試験結果
図5は、光沢保持率の試験結果を示す図である。
図5の横軸は、紫外線と水と熱で有機物の劣化を促進する促進耐候性試験の試験時間(H)であり、縦軸は光沢保持率(%)である。なお、一般的に、光沢保持率が80%以下になると艶が変化し、美観上、塗膜が劣化を開始したと認識されるようになる。
【0061】
JIS K 5600(塗料一般試験方法)に準じた、放射照度180W/m
2の条件で試験した結果である
図5に示すように、実施例1,2の光沢保持率は、比較例1とほぼ差がなく、1360時間経過後においても、劣化が見られなかった。このように、比較例と遜色ない結果が得られた。
【0062】
図6は、色差ΔEの試験結果を示す図である。
図6の横軸は試験時間(H)であり、縦軸は色差ΔEである。なお、色差とは、色の違いを表す指標の一つであり、L*a*b*色空間における2点間の直線距離で表される。色差が大きいほど色の違いが大きく、違いを区別しやすく、小さいほど色の違いを区別しにくくなる。例えば、
図6において色差ΔEが2以上になると、色が違う(変化した)と認識されるようになる。ここでは、各塗料について、試験時間0(H)に対する色差ΔEを評価した。
【0063】
図6に示すように、実施例1,2の色差ΔEは、比較例1とほぼ差がなく、1360時間経過後においても、変化が小さかった。このように、比較例と遜色ない結果が得られた。ただし、ここでは図示していないが、実施例1のホタテを40%にすると、色差ΔEが大きくなった。よって、貝殻由来炭酸カルシウムの添加量は塗料の40%未満(前述の条件と同じ)が望ましい。
【0064】
図7は、レーザー解析・散乱法による粒度分布測定結果を示す図である。
図7の横軸は粒径(μm)であり、縦軸は頻度(%)である。図に示すように、ホタテの平均粒径は3.7μmであり、カキの平均粒径は25μmであった。
【0065】
図8は、蛍光X線分析による元素組成の検出結果を示す図である。また、
図9は、X線解析分析による結晶性鉱物の分析結果を示す図である。
【0066】
実施例1,2の元素組成は
図8に示すように、カルシウムが最も多く、次に炭素が多い。また不純物である塩素は、ほとんど含まれていない(0.03%以下)。また、炭酸カルシウム(CaCO
3)の結晶としては、方解石と霰石があるが、
図9に示すように、ホタテでは方解石がほとんど(98%以上)であった。また、ホタテの場合、方解石と霰石で100%となり、それ以外は含まれていない。一方、カキでは方解石が約75%、霰石が約0.5%で、それ以外にも
図9に示す結晶性鉱物が含まれていた。
【0067】
<暴露試験>
・塗料条件
比較例1A:シリコーン樹脂塗料(貝殻由来炭酸カルシウムなし)
実施例1A:シリコーン樹脂塗料(カキ貝殻の炭酸カルシウム10%添加)
実施例2A:シリコーン樹脂塗料(ホタテ貝殻の炭酸カルシウム10%添加)
【0068】
・試験内容
上記の塗料の暴露試験を行い、暴露前と暴露1年後の表面状態を評価した。
【0069】
・試験結果
図10は、暴露試験の試験結果を示す図である。
図10に示すように、比較例1A、実施例1A,2Aのいずれにおいても、特に変化は見られなかった。
【0070】
なお、実施例1,2(実施例1A,2A)では、比較例1(比較例1A)の炭酸カルシウム(石灰石由来炭酸カルシウム)の一部を貝殻由来炭酸カルシウムに代替しているので、製造時のCO2の排出量は比較例1(比較例1A)よりも少なくなる。よって、実施例1,2(実施例1A,2A)では比較例1(比較例1A)よりもCO2の排出量を低減することができる。
【0071】
===その他の実施形態について===
以上、上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。
【0072】
前述の実施形態では、貝殻由来炭酸カルシウムは、海水系の貝(ホタテ、カキなど)の貝殻から製造されていたがこれには限られない。例えば、淡水系の貝の貝殻を用いても良い。また、貝類以外の生物から製造してもよい。
【0073】
また、前述の実施形態では、貝殻由来炭酸カルシウムの最大粒径を149μm以下としていたがこれには限られない。例えば、塗膜表面の艶を落としたい場合、最大粒径は149μm以上3mm以下(好ましくは1mm以下)がよい。これにより、表面に凹凸を形成でき、艶を落とすことができる。