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  • 特開-ボールねじ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064796
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】ボールねじ
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/22 20060101AFI20240507BHJP
   F16H 25/24 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
F16H25/22 D
F16H25/24 M
F16H25/24 N
F16H25/24 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173667
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 晋平
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AA21
3J062AB22
3J062AC07
3J062BA23
3J062BA27
3J062CD06
3J062CD22
3J062CD60
3J062CD67
3J062CD69
3J062CD75
(57)【要約】
【課題】潤滑性を確保しつつも、異物の排出を確保できるボールねじを提供する。
【解決手段】ボールねじは、外周ねじ溝が形成されたねじ軸と、内周ねじ溝が形成されたナットと、対向する前記外周ねじ溝と前記内周ねじ溝とにより形成される複数の転動路内に収容される複数のボールと、前記ボールを前記転動路の一端から他端に戻す第1のチューブ及び第2のチューブと、を有するボールねじであって、前記ボールねじは、圧縮予圧が付与されており、前記第1のチューブは、前記ナットの円周方向上方に配置され、前記第2のチューブは、前記ナットの円周方向下方に配置され、前記ボールねじは、前記ねじ軸の軸線が傾いた状態で配置され、前記第1のチューブが、主荷重を受ける領域側に配置されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周ねじ溝が形成されたねじ軸と、
内周ねじ溝が形成されたナットと、
対向する前記外周ねじ溝と前記内周ねじ溝とにより形成される複数の転動路内に収容される複数のボールと、
前記ボールを前記転動路の一端から他端に戻す第1のチューブ及び第2のチューブと、を有するボールねじであって、
前記ボールねじは、圧縮予圧が付与されており、
前記第1のチューブは、前記ナットの円周方向上方に配置され、前記第2のチューブは、前記ナットの円周方向下方に配置され、
前記ボールねじは、前記ねじ軸の軸線が傾いた状態で配置され、前記第1のチューブが、主荷重を受ける領域側に配置されている、ことを特徴とするボールねじ。
【請求項2】
前記ナットは、前記第1のチューブを取り付ける第1のチューブ取付穴と、前記第2のチューブを取り付ける第2のチューブ取付穴とを有し、前記第2のチューブと前記第2のチューブ取付穴のクリアランスは0.1mm以上である、ことを特徴とする請求項1に記載のボールねじ。
【請求項3】
前記第2のチューブの中心と、前記第2のチューブを取り付ける第2のチューブ取付穴の中心とはオフセットしており、前記第2のチューブと前記第2のチューブ取付穴のクリアランスの最大値が0.1mm以上である、ことを特徴とする請求項1に記載のボールねじ。
【請求項4】
前記主荷重を受ける領域側において、前記ナットの端部と前記ねじ軸との間に接触型シールを配設した、ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のボールねじ。
【請求項5】
前記接触型シールと前記ナットの間にO-リングが配置されている、ことを特徴とする請求項4に記載のボールねじ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械等で使用されるボールねじは、一般に、ねじ軸の外周面に形成されたねじ溝と、ナットの内周面に形成されたねじ溝との間に多数のボールを転動自在に配して構成されている。例えば、ねじ軸に軸回りの回転トルクが与えられると、多数のボールがねじ軸とナットの両ねじ溝間を転動し、これに伴ってナットがねじ軸の軸線方向に往復動するようになっている。
【0003】
ボールねじのナットには、ボールを循環させるための部品が設けられている。ボールを循環させるための部品として、例えばチューブがある。チューブを設けることにより、両ねじ溝間に介装された多数のボールは、チューブのボール掬い上げ部によってチューブ内部すなわちボール戻し路に案内され、該ボール戻し路を介して両ねじ溝間の所定の位置まで戻される。このようなチューブを設けたボールねじが、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-117780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、歯車研削盤のようにボールねじの軸線を傾けて使用する用途がある。傾けて配置されたボールねじにおいて、ナット内でボールやねじ溝を潤滑する潤滑油は、重量に従いナット内部の下方に移動する。ここで、潤滑油がチューブとチューブ取付穴の隙間などから外部へ流出すると、潤滑油不足が発生する。一方、ナット内の潤滑油を完全に封止すると、摩耗紛などの異物が潤滑油内に蓄積して、ボールとねじ溝との間に介在することで、噛み込みなどの不具合を生じさせる恐れがある。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、潤滑性を確保しつつも、異物の排出を確保できるボールねじを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のボールねじは、
外周ねじ溝が形成されたねじ軸と、
内周ねじ溝が形成されたナットと、
対向する前記外周ねじ溝と前記内周ねじ溝とにより形成される複数の転動路内に収容される複数のボールと、
前記ボールを前記転動路の一端から他端に戻す第1のチューブ及び第2のチューブと、を有するボールねじであって、
前記ボールねじは、圧縮予圧が付与されており、
前記第1のチューブは、前記ナットの円周方向上方に配置され、前記第2のチューブは、前記ナットの円周方向下方に配置され、
前記ボールねじは、前記ねじ軸の軸線が傾いた状態で配置され、前記第1のチューブが、主荷重を受ける領域側に配置されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、潤滑性を確保しつつも、異物の排出を確保できるボールねじを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本実施形態にかかるボールねじの断面図である。
図2図2は、圧縮予圧を説明する模式図である。
図3図3は、軸線を傾けた状態で配置されたボールねじの側面図である。
図4図4は、チューブの端部付近を拡大して下面視した図である。
図5図5は、変形例にかかるボールねじのチューブの端部付近を拡大して下面視した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本実施形態のボールねじを示す断面図である。
【0011】
図1に示すように、このボールねじは、ナット1と、ねじ軸2と、複数のボール3と、リング状のシール4と、チューブ5、5’と、チューブ押さえ6で構成されている。ナット1の内周面に螺旋溝(内周ねじ溝)1aが形成され、ねじ軸2の外周面に螺旋溝(外周ねじ溝)2aが形成されている。ナット1の螺旋溝1aとねじ軸2の螺旋溝2aで形成される軌道の間に、ボール3が配置されている。ナット1の軸方向一端にはフランジ11が形成されている。
【0012】
本実施形態においては、ナット1の両端に配設されたシール4は内周がねじ軸2の外周に接する接触型シールであり、シール4の外周とナット1の内周との間は、O-リング7により封止されている。
【0013】
このボールねじは、ボール3の軌道路(螺旋溝1aと螺旋溝2aとで形成される転動路)と、チューブ5、5’とで構成される2個の循環回路を有する。
【0014】
ナット1のフランジ11以外の部分の外周に、2本のチューブ5、5’を配置するための2つの平面部12が180度位相で形成されている。各平面部12に、チューブ5、5’を取り付けるチューブ取付穴16、16’が形成されている。チューブ取付穴16,16’に、コ字状に曲がったチューブ5、5’の端部が差し込まれ、チューブ押さえ6によりそれぞれ固定されている。ナット1内への潤滑油の供給は、ナット1の外周面に配設された潤滑油供給路17を介して行われる。なお、潤滑油供給路17を、螺旋溝1aを1列開けて配設した例を示したが、螺旋溝1a間や螺旋溝1aのゴシックアークの溝底に配設してもよい。
【0015】
一般的にボールねじには、位置決め精度や剛性の向上を目的として予圧が付与されている。予圧方式は、使用するナットの数によりシングルナット予圧とダブルナット予圧に分類され、予圧方向により引張予圧と圧縮予圧に分類される。本実施形態のボールねじは、オフセット予圧又はダブルナット予圧であり圧縮予圧が付与される。圧縮予圧は、図2に示すように、オフセット点Wを基準として両側に配置されたボール3が互いに近接する方向に荷重が作用する予圧をいう。
【0016】
ダブルナット予圧には、二つのナットの間に間座を挟んで予圧を付与する間座予圧と、二つのナットの間にばねを挟んで予圧を付与するばね予圧があるが、いずれでもよい。
【0017】
本実施形態のボールねじは、図3に示すように、水平方向に対し軸線Xを傾けた状態で配置される。このとき、圧縮予圧を採用しているため、ねじ軸2またはねじ軸2に取り付けられた部品の重力によって発生する主荷重Fを受ける領域は、ナット1の軸線方向下側の領域Aである。潤滑油供給路17(図1)からナット1に供給された潤滑油は、矢印Cで示すように領域Aに向かう。
【0018】
本実施形態のボールねじによれば、図3に示すように、ねじ軸2を傾けたときに軸線方向下側にある循環回路のチューブ(以下、第1のチューブという)5をナット1の円周方向上側に配置し、軸線方向上側にある回路のチューブ(以下、第2のチューブという)5’をナット1の円周方向下側に配置する構造となっている。第1のチューブ5は主荷重Fを受ける領域A側に配置され、第2のチューブ5’は反主荷重側の領域B側に配置される。また主荷重Fを受ける領域A側に配設されたシール4及びO-リング7(図1)が、潤滑油の漏洩を阻止する。したがって、主荷重Fを受ける領域Aには、潤滑油が漏洩する箇所がなく潤滑油が溜るため、潤滑不良が発生しにくいという効果を得られる。
【0019】
図4は、第2のチューブ5’の端部付近を拡大して下面視した図である。第2のチューブ5’とチューブ取付穴(以下、第2のチューブ取付穴という)16’との間のクリアランスCL(ここでは平均値とする)は、0.1mm以上であり、潤滑油が通過可能となっている。
【0020】
反主荷重側の領域Bは、第2のチューブ5’がナット1の円周方向下側に配置されるため、ナット1内に一定量溜った潤滑油(油面を一点鎖線Lで示す)は、潤滑油内に含まれる異物とともに反主荷重側の第2のチューブ5’と、第2のチューブ取付穴16’との間のクリアランスCL(図4)を介して、制御された量の潤滑油を流出させることができる。
【0021】
本実施形態のボールねじによれば、主荷重Fを受ける領域Aに溜まった潤滑油を用いることで潤滑不良を抑えつつ、かつ異物を含んだ一定量の潤滑油を流失させることが可能であるため、ボールやねじ溝の摩耗を抑制できる。
【0022】
なお、上述した実施形態では、2つのチューブ5、5’とチューブ取付穴16,16’との間のクリアランスCLを、いずれも0.1mm以上としているが、ナット1の円周方向下側に配置される第2のチューブ5’と第2のチューブ取付穴16’との間のクリアランスCLのみを、0.1mm以上としてもよい。
【0023】
かかる場合、ナット1の円周方向上側に配置される第1のチューブ5と第1のチューブ取付穴16との間のクリアランスCLは、0.1mmより小さくすることが好ましい。このような構成は、2つのチューブ取付穴16,16’の穴径を等しくしたうえで、第1のチューブ5の外径に対し、第2のチューブ5’の外径を小さくすること、もしくは、2つのチューブ5、5’の内径を等しくしたうえで、第1のチューブ取付穴16の穴径に対し、第2のチューブ取付穴16’の穴径を大きくするなどの手法により得ることができる。
【0024】
図5は、変形例にかかる第2のチューブ5’の端部付近を拡大して下面視した図である。本変形例においては、第1のチューブ5と第2のチューブ5’の寸法、及び第1のチューブ取付穴16と第2のチューブ取付穴16’の寸法は、それぞれ等しくなっているものとする。
【0025】
図示していないが、第1のチューブ5の中心と第1のチューブ取付穴16の中心とが一致しているため、クリアランスCLは0.1mmより小さくなっている。これに対し、図5に示すように、第2のチューブ5’の中心は、第2のチューブ取付穴16’の中心に対してオフセットするように、チューブ押さえ6により取り付けられている。このため、第2のチューブ5’と第2のチューブ取付穴16’とのクリアランスCLは、その最大値が0.1mm以上となる。よって、第2のチューブ5’と第2のチューブ取付穴16’とのクリアランスCLを介して、制御された量の潤滑油を流出させることができる。
【0026】
本発明は、上述の実施形態に限定されない。本発明の範囲内において、上述の実施形態の任意の構成要素の変形が可能である。また、上述の実施形態において任意の構成要素の追加または省略が可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 ナット
2 ねじ軸
3 ボール
4 シール
5 第1のチューブ
5’ 第2のチューブ
6 チューブ押さえ
7 O-リング
16 第1のチューブ取付穴
16’ 第2のチューブ取付穴
図1
図2
図3
図4
図5