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特開2024-64797酸化マグネシウム顆粒及びそれを含有する酸化マグネシウム錠剤及び細粒剤、並びにそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064797
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】酸化マグネシウム顆粒及びそれを含有する酸化マグネシウム錠剤及び細粒剤、並びにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 5/08 20060101AFI20240507BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20240507BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20240507BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20240507BHJP
   A61P 1/10 20060101ALI20240507BHJP
   A61P 3/12 20060101ALI20240507BHJP
   A61K 33/08 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
C01F5/08
A61K9/16
A61K9/20
A61P1/04
A61P1/10
A61P3/12
A61K33/08
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173668
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】722010585
【氏名又は名称】セトラスホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100139022
【弁理士】
【氏名又は名称】小野田 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100192463
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 剛規
(74)【代理人】
【識別番号】100169328
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【弁理士】
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 誠司
(72)【発明者】
【氏名】滝口 博俊
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4G076
【Fターム(参考)】
4C076AA31
4C076AA37
4C076BB01
4C076CC16
4C076FF70
4C076GG12
4C076GG14
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086HA04
4C086HA21
4C086HA30
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA35
4C086MA41
4C086NA20
4C086ZA66
4C086ZA72
4C086ZC21
4G076AA02
4G076AB06
4G076AB24
4G076BA43
4G076BA46
4G076BA47
4G076BB04
4G076BD02
4G076CA02
4G076CA11
4G076CA27
4G076CA28
4G076CA40
4G076DA02
4G076DA16
(57)【要約】
【課題】ハンドリング性の向上及び黒ずみ発生の抑制を図るための酸化マグネシウム顆粒及びそれを含有する酸化マグネシウム錠剤及び細粒剤、並びにそれらの製造方法の提供。
【解決手段】水和度が35%以上である酸化マグネシウム顆粒及びそれを含有する酸化マグネシウム錠剤及び細粒剤、並びにそれらの製造方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水和度が35%以上である酸化マグネシウム顆粒。
【請求項2】
BET比表面積が15~150m2/gである、請求項1に記載の酸化マグネシウム顆粒。
【請求項3】
かさ密度が0.4~1.2g/mLである、請求項1に記載の酸化マグネシウム顆粒。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム顆粒を含有する酸化マグネシウム錠剤。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム顆粒を含有する原料を打錠することを含む酸化マグネシウム錠剤の製造方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム顆粒を製造するための方法であって、
水酸化マグネシウムを焼成することにより酸化マグネシウムを得ることを含み、
前記焼成は1000℃以下の温度でのみ実施される、酸化マグネシウム顆粒の製造方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム顆粒を含有する酸化マグネシウム細粒剤。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム顆粒を含有する原料を再度造粒することを含む酸化マグネシウム細粒剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化マグネシウム顆粒及びそれを含有する酸化マグネシウム錠剤及び細粒剤、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化マグネシウム顆粒を含有する錠剤や細粒剤は、制酸、緩下、マグネシウム補給、抗低マグネシウム血症など各種用途へ広く使用されている。
【0003】
ところで、酸化マグネシウム錠剤における打錠成形性向上のために、活性の異なる2種類の酸化マグネシウムを混合することが知られている。例えば、特許文献1において、低活性酸化マグネシウムと中高活性酸化マグネシウムとの混合物である酸化マグネシウム顆粒が開示されている。
【0004】
また、酸化マグネシウム顆粒では、例えば、特許文献2において、水酸化マグネシウム及び/又は炭酸マグネシウムからなる被覆層で覆われる構成が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6343338号公報
【特許文献2】特許第4833567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、酸化マグネシウム顆粒のハンドリング性の向上及び黒ずみ発生の抑制にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、水和度の高い酸化マグネシウム顆粒の取得に成功した。また、本発明者らは、水和度の高い酸化マグネシウム顆粒を用いることにより、ハンドリング性の向上及び黒ずみ発生を抑制できることを見出し、本発明に想到した。
【0008】
即ち、本発明は例えば以下の態様を提供する。
[1] 水和度が35%以上である酸化マグネシウム顆粒。
[2] [1]に記載の酸化マグネシウム顆粒において、BET比表面積が15~150m2/gである。
[3] [1]又は[2]に記載の酸化マグネシウム顆粒において、かさ密度が0.4~1.2g/mLである。
[4] [1]から[3]のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム顆粒を含有する酸化マグネシウム錠剤。
[5] 酸化マグネシウム錠剤の製造方法である。製造方法は、[1]から[3]のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム顆粒を含有する原料を打錠することを含む。
[6] [1]から[3]のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム顆粒を製造するための方法である。上記方法は、水酸化マグネシウムを焼成することにより酸化マグネシウムを得ることを含む。上記焼成は1000℃以下の温度でのみ実施される。
[7] [1]から[3]のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム顆粒を含有する酸化マグネシウム細粒剤である。
[8] 酸化マグネシウム細粒剤の製造方法である。製造方法は、[1]から[3]のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム顆粒を含有する原料を再度造粒することを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酸化マグネシウム顆粒のハンドリング性の向上及び黒ずみ発生の抑制が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例1及び5並びに比較例1及び2で得られた錠剤の側面を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について具体的な実施形態に基づき説明するが、本発明はこれらの形態に限定されるものではなく、その主旨を逸脱しない限りにおいて、任意の改変を加えて実施することが可能である。
【0012】
[酸化マグネシウム顆粒]
酸化マグネシウム顆粒はハンドリングが困難な場合がある。例えば、酸化マグネシウム顆粒では、打錠時の成形性が問題となる。特許文献1では、打錠成形性を向上させるために活性の異なる2種類の酸化マグネシウムを混合することが報告されている。しかしながら、低活性の酸化マグネシウムを混合すると錠剤成形時に、錠剤の表面に黒ずみが発生する。打錠時の黒ずみ発生を抑制すべく、特許文献2では、酸化マグネシウム顆粒の表面を被覆することが報告されている。しかしながら、本発明者らは、顆粒を被覆することで、酸化マグネシウムの純度が下がり、錠剤中の酸化マグネシウム含有量の低下につながることが問題であると考え、検討を行った。本発明者らは、驚くことに、酸化マグネシウム顆粒の水和度を調整することにより、顆粒時のハンドリング性向上と打錠時の黒ずみ発生抑制を達成した。酸化マグネシウム顆粒のハンドリング性向上により、打錠時の成形性も向上し、錠剤化が容易になる。本発明によると、低活性の酸化マグネシウム含有率が極めて小さく、中高活性の酸化マグネシウム含有率が高い錠剤の製造が可能となる。また、本発明によると、酸化マグネシウム顆粒を被覆することなく、錠剤表面の黒ずみ発生を抑制できる。さらに、本発明によると、低活性の酸化マグネシウム含有率が極めて小さく、中高活性の酸化マグネシウム含有率が極めて高い細粒剤の製造が可能となる。細粒剤の製造における造粒工程にて金属摩耗による黒ずみ発生が認められる場合があるが、水和度を調整することで上記黒ずみの発生を抑制することが達成される。なお、本発明で開示される酸化マグネシウム顆粒は、水和度が調整され、錠剤及び細粒剤の製造時に黒ずみ発生を抑制できる範囲に限り、低活性酸化マグネシウムを含んでもよい。
【0013】
酸化マグネシウム顆粒の水和度は、下記式を用いた場合、本発明の奏功の観点から、下限は、30%以上であればよいが、中でも32.5%以上、更には35%以上が好ましい。一方で、上限は特に制限されないものの、水和度が高すぎると水酸化マグネシウムから酸化マグネシウムへの反応が進んでいないことを意味するため、通常70%以下であればよいが、中でも65%以下、更には60%以下が好ましい。なお、酸化マグネシウム顆粒の水和度は、酸化マグネシウム粉末の水和度と必ずしも相関関係にはない。例えば、酸化マグネシウム顆粒は、同じ酸化マグネシウムの粉末を用いた場合であっても、顆粒の密度や顆粒の粒子径によって水和度が変動する。酸化マグネシウム顆粒は、例えば、顆粒密度をより高くすれば、水和度がより低くなる傾向にある。酸化マグネシウム顆粒は、顆粒状態の水和度を上記範囲内で制御されることにより、本発明の作用効果が顕著に奏功される。
【0014】
本明細書において「水和度」は、以下の方法で求められる。
質量既知の磁性るつぼに試料2gを秤量し、水5ml加え、1分間よく混合させ、室温で1時間静置する。静置後、105℃の恒温乾燥器中にて2時間半乾燥させる。乾燥後、デシケーター内に静置し30~60分放冷後、秤量する。電気炉において980℃で1時間加熱する。その後、再度デシケーター内に静置し30~60分放冷後に秤量する。
以下の計算式により、水和度を算出する。
式1:水和度=100×(乾燥後の資料重量(g)-加熱後の資料重量(g))/加熱後の資料重量(g)
【0015】
酸化マグネシウム顆粒のBET比表面積は、焼成前の水酸化マグネシウムの結晶成長度及び不純物含有量、焼成時の水蒸気雰囲気等によって制御される。酸化マグネシウム顆粒は、焼成前水酸化マグネシウムの結晶成長度がより高ければ、BETが高くなる傾向にある。また、酸化マグネシウム顆粒は、焼成前の水酸化マグネシウムの不純物含有量がより多い場合にBETが低くなる傾向にある。さらに、酸化マグネシウム顆粒は、水蒸気量がより多い雰囲気で酸化マグネシウム粉末の焼成を行った場合、BETが低くなる傾向にある。上記の条件を適宜調整し、酸化マグネシウム顆粒のBET比表面積を以下の下限及び上限の範囲内とすることが好ましい。下限は、10m2/g以上、中でも15m2/g以上、更には20m2/g以上が好ましい。上限は、150m2/g以下、100m2/g以下、より好ましくは60m2/g以下、中でも50m2/g以下、更には40m2/g以下が好ましい。この範囲内にBET比表面積を調整することで、酸化マグネシウムの吸水性を抑えることができる。また、打錠時に、耐水性の高い錠剤が成型できる。特に、50m2/g以下の場合は、錠剤にした時に保存安定性に優れる。
【0016】
本明細書において、BET比表面積とは、酸化マグネシウム顆粒のBET法による比表面積を意味する。BET比表面積の具体的な測定方法については、後述の実施例において説明する。
【0017】
酸化マグネシウム顆粒のかさ密度は、焼成前の水酸化マグネシウムの結晶成長度及び後述の粉砕工程における粉砕機の機構や種類によって制御されうる。酸化マグネシウム顆粒は、焼成前水酸化マグネシウムの結晶成長度がより高ければ、かさ密度がより高くなる傾向にある。上記の条件を適宜調整し、酸化マグネシウム顆粒のかさ密度を以下の下限及び上限の範囲内とすることが好ましい。下限は、0.3g/mL以上、中でも0.35g/mL以上、更には0.4g/mL以上が好ましい。上限は、1.0g/mL以下、中でも1.1g/mL以下、更には1.2g/mL以下が好ましい。この範囲内にかさ密度を調整することで、ハンドリング性が更に良好な酸化マグネシウムを得ることができる。
【0018】
かさ密度は、日本薬局方一般試験法3.01かさ密度及びタップ密度測定法に準拠して測定できる。例えば、かさ密度は、100mL ステンレスCup(実測質量値(g)/100(mL))を用いて測定することができる。
【0019】
一態様では、酸化マグネシウム顆粒は、低活性酸化マグネシウムを含まない。低活性酸化マグネシウムを含まない場合、錠剤成形時に黒ずみの発生が抑制できる観点から好ましい。低活性酸化マグネシウムを含まない場合、細粒剤製造時に黒ずみの発生が抑制できる観点から好ましい。一態様では、酸化マグネシウム顆粒は、中高活性酸化マグネシウムからなる。
【0020】
本明細書において、「低活性酸化マグネシウム」とは、水酸化マグネシウムを1000℃~2000℃の平均焼成温度で焼成して得られる酸化マグネシウムを指す場合がある。例えば、「低活性酸化マグネシウム」を得るために、例えば、1000℃~1100℃、1100℃~1200℃、1200℃~1500℃、1500℃~1700℃、1700℃~2000℃といった任意の平均焼成温度が採用できる。「中高活性酸化マグネシウム」とは、水酸化マグネシウムを500℃~900℃の平均焼成温度で焼成して得られる酸化マグネシウムを指す場合がある。例えば、「中高活性酸化マグネシウム」を得るために、例えば、700℃~800℃、800℃~900℃、900℃~1000℃といった任意の平均焼成温度が採用できる。しかしながら酸化マグネシウムの活性は、当該分野で一般的に用いられる指標により求めてもよい。指標としては、例えば、特許文献1に記載のようなCAA値が挙げられる。
【0021】
水酸化マグネシウムは、限定されず、天然又は合成してもよく、市販のものを用いてもよい。例えば、水酸化マグネシウムは、後述の反応工程方法により得ることができる。
【0022】
酸化マグネシウム顆粒の粒子径は、限定されるものではない。平均粒子径の上限は、例えば、1000μm以下、中でも750μm以下、更には500μm以下とすることができる。下限は、例えば、250μm以上、中でも200μm以上、更には150μm以上とすることができる。
【0023】
酸化マグネシウム錠剤の黒ずみおよび酸化マグネシウム細粒剤の黒ずみは、任意の方法で測定できる。例えば、ImageJ(NIH製)のような画像解析ソフトを用いるか、デジタルマイクロスコープ(ハイロックス社製、KH‐8700)を用いて目視で確認するといった任意の方法で測定できる。
【0024】
[酸化マグネシウム顆粒の製造方法]
本実施形態は、酸化マグネシウム顆粒の製造方法に関する。
【0025】
一態様では、製造方法は、水酸化マグネシウムを焼成する反応工程を含む。反応工程では、マグネシウム原料とアルカリ原料を用い、下記の反応を行うことで水酸化マグネシウムを得ることができる。マグネシウム原料として、例えば、海水を用いることができる。海水は、あらかじめ不純物を排除することが好ましい。例えば、精製した海水を用いることができる。アルカリ原料としては、例えば、消石灰(Ca(OH)2)、苛性ソーダ(NaOH)が挙げられる。アルカリ原料は、限定されないものの、酸化マグネシウム顆粒における重金属量を低減させる観点から苛性ソーダが好ましい。
MgCl2+1.8NaOH→0.9Mg(OH)2+1.8NaCl+0.1MgCl2
【0026】
水酸化マグネシウム合成の際に、合成で得られた水酸化マグネシウムスラリーを再添加する種晶反応を採用すると、反応率を高めることができる。種晶反応時に、反応量に対して2倍量から4倍量の水酸化マグネシウムスラリーを反応槽に再添加する。また、種晶反応は、酸化マグネシウム顆粒のかさ密度を好ましい値とする観点でも好ましい。更に、種晶反応により、得られる酸化マグネシウム顆粒のハンドリング性も改善できる。
【0027】
しかしながら、水酸化マグネシウムは、上述のように任意の方法で得ることができ、その入手法は限定されない。
【0028】
一態様では、製造方法は、水酸化マグネシウムを洗浄する洗浄工程を含む。洗浄工程では、反応工程で得られた水酸化マグネシウムを洗浄してもよい。洗浄は、当該分野で一般的に用いられる方法により行うことができる。例えば、洗浄は、洗浄器を用いて行うことができる。洗浄器としては、例えば、減圧ろ過器が挙げられる。洗浄工程を行うことにより、水酸化マグネシウムから余分な塩類を取り除くことができる。余分な塩類としては、ナトリウム塩が挙げられる。
【0029】
一態様では、製造方法は、水酸化マグネシウムを乾燥する乾燥工程を含む。乾燥工程により得られた水酸化マグネシウムを焼成工程に供すると焼成を迅速に行うことができる。乾燥は、当該分野で一般的に用いられる方法により行うことができる。例えば、熱風により乾燥を行うことができる。熱風の温度の上限は、500℃以下、中でも400℃以下、更には300℃以下が好ましい。下限は、80℃以上、中でも90℃以上、更には100℃以上が好ましい。乾燥時間は、乾燥温度により変動し限定されないものの、上限は、200分以下、中でも150分以下、更には100分以下が好ましい。下限は、10分以上、中でも20分以上、更には30分以上が好ましい。
【0030】
一態様では、製造方法は、水酸化マグネシウムを焼成する焼成工程を含む。焼成工程により、酸化マグネシウムが得られる。焼成は、当該分野で一般的に用いられる方法により行うことができる。例えば、焼成は、焼成機を用いて行うことができる。焼成機としては、例えば、ロータリーキルンが挙げられる。更に、限定されないものの、焼成に間接式熱風を採用すると、より活性の高い酸化マグネシウム得ることが可能になる。
【0031】
焼成温度の上限は、平均焼成温度として、1000℃以下、中でも950℃以下、更には900℃以下が好ましい。上限を上記のように設定すると、活性の高い酸化マグネシウム顆粒の原料を得ることができる。上記温度範囲とすることにより、得られる酸化マグネシウムに低活性酸化マグネシウムが含まれないため、黒ずみの発生が抑制できる。また、高温で焼成すると、焼結により粒子の硬度が高まる。粒子の硬度が高まることにより、金属摩耗性が上がる。しかしながら、上記温度範囲とすることにより、このような金属摩耗性を抑制できる。焼成温度の下限は、特に限定されないものの、焼成時間の観点から、450℃以上、中でも470℃以上、更には500℃以上が好ましい。
【0032】
水酸化マグネシウムを上記温度範囲で焼成することで、水和度及びかさ密度が上述の範囲を満たす酸化マグネシウムを得ることが可能となる。また、上記温度範囲内の焼成により得られる酸化マグネシウムでは焼結を抑えることができる。さらに、上記温度範囲内の焼成により得られる酸化マグネシウムを用いると、黒ずみ発生が抑制できる。
【0033】
酸化マグネシウムの水和度及びかさ密度は、水酸化マグネシウムを焼成する際の熱履歴などを適宜調整することにより、制御することができる。熱履歴の具体的な例としては、水酸化マグネシウムを焼成する際の昇温時間、保持温度、保持時間、降温時間等の焼成条件もしくは焼成装置などが挙げられる。焼成装置の例としてはロータリーキルン、トンネルキルン、シャトルキルンが挙げられる。ロータリーキルンの場合、焼成する際のキルンの回転速度、キルンの設置角度、キルンの全長、キルン径等の条件を調整することが出来る。各種の条件は装置によっても様々であるため、実施形態の範囲で適宜調整し、水和度及びかさ密度を調整することが出来る。
【0034】
ここで、本明細書において、水酸化マグネシウムの焼成に関する各用語の意味は、以下のとおりである。
昇温時間:水酸化マグネシウムを焼成する際に、室温から加熱して目的とする最高温度に達するまでの時間を意味する。
保持温度:水酸化マグネシウムを焼成する際に、目的とする平均温度を意味する。焼成温度ともいう。
保持時間:水酸化マグネシウムを焼成する際に、保持温度を維持する時間を意味する。
降温時間:水酸化マグネシウムを焼成する際に、保持時間経過後に保持温度から冷却して室温に達するまでの時間を意味する。なお、冷却は、冷却手段を用いた積極的な冷却のほか、放冷等の緩やかな冷却も含む。
【0035】
平均焼成温度が上記温度範囲内であれば熱履歴は特に限定されない。そのような焼成条件として、昇温時間は設けても設けなくともよい。しかしながら、昇温時間を設ける場合、0.5時間~3時間、例えば、0.5時間~2時間の範囲で設けることができる。保持温度は、350℃~900℃が好ましく、400℃~800℃が更に好ましい。さらに、保持時間は、0時間~3時間が好ましく、0時間~2時間が更に好ましい。また、降温時間は、10時間~40時間が好ましく、15時間~30時間が更に好ましい。
【0036】
キルンの回転速度、キルンの設置角度、キルンの全長、キルン径は特に限定されない。例えば、キルンの回転速度は一回転当たり40~60秒が好ましく、一回転当たり45~55秒がさらに好ましい。キルンの設置角度は1~4%勾配が好ましく、2~3%勾配がさらに好ましい。キルンの全長は10m~30mが好ましく、20m~25mがさらに好ましい。キルン径は1m~2mが好ましく、1.1m~1.4mがさらに好ましい。
【0037】
一態様では、製造方法は、酸化マグネシウムを粉砕する粉砕工程を含む。粉砕は、当該分野で一般的に用いられる方法により行うことができる。例えば、粉砕は、粉砕機を用いて行うことができる。粉砕機としては、例えば、衝撃式粉砕機が挙げられる。
【0038】
一態様では、製造方法は、酸化マグネシウムを分級する分級工程を含む。分級工程により一定の粒度の酸化マグネシウム分級品が得られる。分級品の平均粒子径の上限は、制限されるものではないが、例えば50μm以下、中でも30μm以下、更には20μm以下とすることができる。下限は、例えば1μm以上、中でも3μm以上、更には5μm以上とすることができる。分級は、当該分野で一般的に用いられる分級機を用いて行うことができる。分級機としては、例えば、風力分級機が挙げられる。
【0039】
一態様では、製造方法は、酸化マグネシウムを造粒する造粒工程を含む。造粒工程により、一定の粒度の酸化マグネシウム顆粒が得られる。酸化マグネシウム顆粒の平均粒子径は上述の通りである。一態様では、造粒工程は、酸化マグネシウムを圧縮成形することを含む。圧縮成形は、当該分野で一般的に用いられる方法により行うことができる。例えば、市販の造粒機又はローラーコンパクターを用いることができる。造粒機としては、乾式造粒機が挙げられる。ローラー圧は、限定されないが、例えば、10~20MPaで行うことができる。一態様では、造粒工程は、圧縮成形された酸化マグネシウムを粉砕してもよい。粉砕は、上述の通りである。一態様では、造粒工程は、酸化マグネシウムを整粒することを含む。整粒は、圧縮成形された酸化マグネシウムを用いてもよい。整粒は、当該分野で一般的に用いられる方法により行うことができる。例えば、整粒は、振動篩を用いることにより行うことができる。この場合、振動篩の上網と下網の大きさを調整することにより、上述の平均粒子径を有する酸化マグネシウム顆粒を得ることができる。上述の平均粒子径とすることで、水和度及びかさ密度が、上述の範囲を満たす酸化マグネシウムを得ることが可能となる。
【0040】
[酸化マグネシウム錠剤]
本実施形態は、酸化マグネシウム顆粒を含有する錠剤に関する。一態様では、錠剤は、酸化マグネシウム顆粒を主成分として含有する。
【0041】
酸化マグネシウム錠剤に含まれる酸化マグネシウム顆粒の含有率は、限定されない。例えば、上限として、錠剤全体に対し例えば100質量%以下、95質量%以下、90質量%以下とすることができる。例えば、下限として、錠剤全体に対し例えば70質量%以上、80質量%以上、85質量%以上とすることができる。錠剤には、必要に応じて、添加剤を用いてもよい。添加剤としては、制限されるものではないが、例えば各種の医薬的に許容可能な種々の医薬添加剤、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、色素、風味剤が挙げられる。これらの成分は、何れか1種を単独で又は2種以上を任意の組み合わせで併用してもよい。
【0042】
[酸化マグネシウム錠剤の製造方法]
本実施形態は、酸化マグネシウム錠剤の製造方法に関する。一態様では、製造方法は、酸化マグネシウム顆粒を含有する原料を打錠する打錠工程を含む。一態様では、酸化マグネシウム顆粒を含有する原料は、酸化マグネシウム顆粒を主成分として含有する。原料に含まれる酸化マグネシウム顆粒の含有率は、上述のように、特に限定されず、任意の含有率を採用できる。
【0043】
打錠工程では、原料は当該分野で一般的に用いられる方法により打錠される。例えば、打錠は打錠機を用いることにより行うことができる。打錠圧も限定されない。例えば、一錠当りのパンチ圧として、上限は20kN以下、又は18kN以下、又は16kN以下とすることができる。例えば、下限は2kN以上、又は3kN以上、又は4kN以上とすることができる。杵の形状も限定されない。例えば、形状は、標準R、二段R、糖衣R、隅角R、隅角平面、隅丸平面が挙げられる。
【0044】
一態様では、製造方法は、打錠工程の前に、製造方法は、酸化マグネシウム顆粒を含有する原料を混合する混合工程を含む。混合工程では、酸化マグネシウム顆粒を含有する原料は当該分野で一般的に用いられる方法により混合される。
【0045】
[酸化マグネシウム細粒剤]
本実施形態は、酸化マグネシウム顆粒を含有する細粒剤に関する。一態様では、細粒剤は、酸化マグネシウム顆粒を主成分として含有する。酸化マグネシウム細粒剤に含まれる酸化マグネシウム顆粒の含有率は、酸化マグネシウム錠剤の場合と同様、特に限定されず、任意の含有率を採用できる。
【0046】
酸化マグネシウム細粒の平均粒子径の上限は、制限されるものではないが、例えば通常850μm以下、又は700μm以下、又は500μm以下とすることができる。粒子径の下限は、制限されるものではないが、例えば通常100μm以上、又は200μm以上、又は300μm以上とすることができる。
【0047】
[酸化マグネシウム細粒剤の製造方法]
本実施形態は、酸化マグネシウム細粒剤の製造方法に関する。一態様では、製造方法は、酸化マグネシウム顆粒を含有する原料を造粒する造粒工程を含む。一態様では、酸化マグネシウム顆粒を含有する原料は、酸化マグネシウム顆粒を主成分として含有する。原料に含まれる酸化マグネシウム顆粒の含有率は、上述のように、特に限定されず、任意の含有率を採用できる。
【0048】
造粒工程では、原料が当該分野で一般的に用いられる方法により造粒される。例えば、造粒は、流動層造粒法や乾式造粒法により行うことができる。中でも、所望の平均粒子径及びかさ密度を有するように調整し易いという観点から流動層造粒法が好ましい。造粒工程により、上述のような所望の平均粒子径を有する酸化マグネシウム細粒剤が得られる。
【0049】
以上、本発明の種々の側面について説明したが、本発明はこれらの側面に限定されるものではない。当業者であれば明らかなように、上記の詳細な説明及び後述の実施例等の記載から、本発明の別の任意の側面を抽出することも可能である。
【実施例0050】
以下、本発明を実施例に則して更に詳細に説明するが、これらの実施例はあくまでも説明のために便宜的に示す例に過ぎず、本発明は如何なる意味でもこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
[酸化マグネシウム顆粒の製造
実施例1
以下の工程により実施例1の酸化マグネシウム顆粒を製造した。
1.反応工程
マグネシウム原料として精製した海水を用いた。アルカリ原料として苛性ソーダ(トクヤマ社製)を使用した。これらのマグネシウム原料およびアルカリ原料を用いて、以下の反応を行った。
MgCl2+1.8NaOH→0.9Mg(OH)2+1.8NaCl+0.1MgCl2
水酸化マグネシウム合成の際に、合成で得られた水酸化マグネシウムスラリーを再添加する種晶反応を採用した。種晶反応時に、反応量に対して2倍量から4倍量の水酸化マグネシウムスラリーを反応槽に再添加した。反応温度は特に制御せず、滞留時間は30分以上で連続反応させた。反応工程により水酸化マグネシウムを含む懸濁液が得られた。
2.洗浄工程
反応工程で得られた水酸化マグネシウム懸濁液を軟水器(栗田テクニカルサービス社製)で処理した軟化水で洗浄した。洗浄工程により、ナトリウムを含む塩類を取り除いた。
3.乾燥工程
洗浄工程で得られた水酸化マグネシウム洗浄物を100℃~300℃の熱風で40分乾燥させた。
4.焼成工程
乾燥工程で得られた水酸化マグネシウム乾燥物についてロータリーキルン(岩佐機械工業社)を用い、平均720℃の焼成温度で90分焼成した。昇温時間は設けず、保持温度は平均焼成温度と同じ720℃であり、保持時間は焼成時間と同じ90分であった。焼成後の酸化マグネシウムは、粉砕工程及び分級工程を経て冷却され、降温時間は20時間であった。
5.粉砕工程
焼成工程で得られた酸化マグネシウム焼成物を衝撃式粉砕機(奈良機械製作所社、自由粉砕機)で粉砕した。
6.分級工程
粉砕工程で得られた酸化マグネシウム粉砕物を風力分級機(ホソカワミクロン社、ミクロンセパレータ)で分級し、10μmの粒子径の酸化マグネシウム粒子を得た。
7.造粒工程
分級工程で得られた酸化マグネシウム粒子を、実験用造粒機(フロイント産業製:TF-MINI)を使用し、ロール圧10MPaにて圧縮成型後、解砕した。その後、解砕した酸化マグネシウムを、上網約500μm・下網約160μmの振動篩により整粒した。上網と下網の間の顆粒を実施例1の酸化マグネシウム顆粒とした。
【0052】
実施例2
反応工程において、アルカリ原料として消石灰を使用した。焼成工程において、ロータリーキルンの代わりに間接ロータリーキルンを用いて平均焼成温度720℃の間接式熱風により焼成を行った。それ以外は、実施例1と同じ手順を実施した。
【0053】
実施例3
焼成工程における平均焼成温度を750℃に変更した。それ以外は、実施例1と同じ手順を実施した。
【0054】
実施例4
造粒工程において、実験用造粒機の代わりにローラーコンパクター(フロイント・ターボ社製)を用い、ロール圧20MPaにて圧縮成型した。それ以外は、実施例1と同じ手順を実施した。
【0055】
実施例5
焼成工程における平均焼成温度を900℃に変更した。造粒工程において、実験用造粒機の代わりにローラーコンパクター(フロイント・ターボ社製)を用い、ロール圧20MPaにて圧縮成型した。それ以外は、実施例1と同じ手順を実施した。
【0056】
比較例1
特許文献1に記載の実施例1に準拠した手順にて、酸化マグネシウム顆粒を得た。より具体的には、焼成工程において平均焼成温度750℃で焼成した酸化マグネシウムと平均焼成温度1100℃で焼成した酸化マグネシウムを得た。これらの酸化マグネシウムを1:1で混合し、造粒工程に供した。それ以外は、実施例1と同じ手順を実施した。
【0057】
比較例2
特許文献1に記載の実施例1に準拠した手順にて、酸化マグネシウム顆粒を得た。より具体的には、反応工程において、アルカリ原料として消石灰を使用した。焼成工程において平均焼成温度770℃で焼成した酸化マグネシウムと平均焼成温度1150℃で焼成した酸化マグネシウムを得た。これらの酸化マグネシウムを1:1で混合し、造粒工程に供した。造粒工程において、実験用造粒機の代わりにローラーコンパクター(フロイント・ターボ社製)を用い、ロール圧20MPaにて圧縮成型した。それ以外は、実施例1と同じ手順を実施した。
【0058】
比較例3
反応工程において、アルカリ原料として消石灰を使用した。焼成工程における平均焼成温度を1200℃に変更した。造粒工程において、実験用造粒機の代わりにローラーコンパクター(フロイント・ターボ社製)を用い、ロール圧20MPaにて圧縮成型を試みたが、造粒不可であり、錠剤の成形も出来なかった。
【0059】
本実施例で得られた酸化マグネシウムの顆粒の物性を以下の方法により測定した。
[水和度]
質量既知の磁性るつぼに資料2gを秤量し、水5ml加え、1分間よく混合させ、室温で1時間静置した。静置後、105℃の恒温乾燥器(ヤマト科学社製、低温乾燥機DS-44)中にて2時間半乾燥させた。乾燥後、デシケーター内に静置し30~60分放冷後、秤量した。電気炉(アドバンテック東洋社製、電気マッフル炉 FUW230PA)において980℃で1時間加熱した。その後、再度デシケーター内に静置し30~60分放冷後に秤量した。上記式1により水和度を算出した。
【0060】
[かさ密度]
かさ密度は、ステンレスCup(実測質量値(g)/100(mL))を用いて測定した。BET比表面積は、全自動表面積測定装置(メーカー名マイクロトラックベル)により測定した。
【0061】
[酸化マグネシウム錠剤の製造]
実施例1から5及び比較例1から3の酸化マグネシウム顆粒を打錠機(株式会社菊水製作所製 小型高速回転式錠剤機 VIRG)を用い、以下の条件で打錠した。
杵・・・・・・・φ9
杵立て数・・・・2本
回転盤回転数・・50rpm
錠剤質量・・・・370mg
錠圧・・・・・・10kN
錠剤厚み・・・・打錠圧一定のためフリー
【0062】
得られた錠剤を、走査型電子顕微鏡(keyence社製)を用いて撮影し、黒ずみの有無を目視にて確認した。
【0063】
[結果]
結果を以下の表及び図1に示す。
【表1】
【表2】
【0064】
表1に示すように、1000℃以下の低温で焼成された中高活性酸化マグネシウム単身の場合、水和度が35%以上で、かつかさ密度が0.4~1.2g/mLの範囲内にある酸化マグネシウム顆粒を得ることができた。また、BET比表面積も15~50m2/gの良好な範囲内にあった。更には、表1に示すように、実施例1~5の酸化マグネシウム顆粒を用いた場合、打錠時に黒ずみは見られなかった。図1に実施例1及び5で得られた錠剤を示す。実施例2~4についても、実施例1及び5と同様に、打錠時の黒ずみが見られなかった。一方、中高活性酸化マグネシウムと1000℃を超える高温で焼成された低活性酸化マグネシウムとの混合物の場合、比較例1及び2のかさ密度及びBET比表面積は上記範囲内にあるものの、酸化マグネシウム顆粒の水和度が35%未満となった。また、表2及び図1に示すように打錠時に黒ずみが見られた。これは、低活性酸化マグネシウムを混合することに起因すると考えられる。したがって、本発明のマグネシウム顆粒を用いると、ハンドリング性の向上及び黒ずみ発生の抑制が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、酸化マグネシウム顆粒のハンドリング性の向上及び黒ずみ発生の低減が求められる産業分野、特に医薬品製造及び流通の分野において、極めて高い利用可能性を有する。
図1