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特開2024-64798アミン高沸化合物の除去方法及びアミン生成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064798
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】アミン高沸化合物の除去方法及びアミン生成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 209/90 20060101AFI20240507BHJP
   C07C 209/48 20060101ALI20240507BHJP
   C07C 211/27 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
C07C209/90
C07C209/48
C07C211/27
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173669
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】野島 順
(72)【発明者】
【氏名】神原 豊
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC52
4H006AD11
4H006AD40
4H006BC51
4H006BC52
(57)【要約】
【課題】ニトリル化合物の水素化反応によってアミン生成物を得る反応において生成したアミン高沸化合物を効率よく除去可能なアミン高沸化合物の除去方法及びこれを利用したアミン生成物の製造方法を提供する。
【解決手段】ニトリル化合物の水素化反応によってアミン生成物を得る反応において生成したアミン高沸化合物を、加熱下でアミン化合物を含むアミン除去剤を用いて除去する除去工程を含む、アミン高沸化合物の除去方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトリル化合物の水素化反応によってアミン生成物を得る反応において生成したアミン高沸化合物を、加熱下でアミン化合物を含むアミン除去剤を用いて除去する除去工程を含む、アミン高沸化合物の除去方法。
【請求項2】
前記ニトリル化合物が、下記式(1)で示される化合物である、請求項1に記載のアミン高沸化合物の除去方法。
【化1】

(式中、X及びXは、各々独立して、炭素数1~3のアルキル基を示す。R~Rは、各々独立して、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。n及びmは、各々独立して0又は1を示す。)
【請求項3】
前記ニトリル化合物が、下記式(2)で示されるジニトリル化合物である、請求項1に記載のアミン高沸化合物の除去方法。
【化2】

(式中、R~Rは、各々独立して、水素原子又はメチル基を示し、R~Rの少なくとも1つは水素原子である。)
【請求項4】
前記アミン除去剤は、前記アミン生成物と異なるアミン化合物を含む、請求項1に記載のアミン高沸化合物の除去方法。
【請求項5】
前記アミン除去剤は、前記アミン化合物として、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、メタキシリレンジアミン、アニリン、1,6-ヘキサンジアミン、3-アミノメチル-3,5,5-トリメチル-1-アミノシクロヘキサン、p-ベンゼンジエチルアミン、及び、これらの組み合わせから選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1に記載のアミン高沸化合物の除去方法。
【請求項6】
前記アミン除去剤は、前記アミン化合物として1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、メタキシリレンジアミン、アニリン、及び、これらの組み合わせから選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1に記載のアミン高沸化合物の除去方法。
【請求項7】
前記除去工程において、100℃以上で前記アミン高沸化合物を除去する、請求項1に記載のアミン高沸化合物の除去方法。
【請求項8】
前記除去工程において、前記アミン除去剤の還流によって前記アミン高沸化合物を除去する、請求項1に記載のアミン高沸化合物の除去方法。
【請求項9】
前記除去工程において、減圧下で前記アミン高沸化合物を除去する、請求項1に記載のアミン高沸化合物の除去方法。
【請求項10】
前記除去工程において、1kPa~80kPaで前記アミン高沸化合物を除去する、請求項1に記載のアミン高沸化合物の除去方法。
【請求項11】
反応装置内でニトリル化合物の水素化反応によってアミン生成物を得るアミン生成工程と、
前記アミン生成工程において生成したアミン高沸化合物を、請求項1~請求項10のいずれか一項に記載のアミン高沸化合物の除去方法によって除去する除去工程を含む、アミン生成物の製造方法。
【請求項12】
さらに、蒸留装置内で前記アミン生成物を蒸留精製する蒸留精製工程を含み、前記除去工程において、前記反応装置内及び前記蒸留装置内の少なくとも一方において前記アミン高沸化合物を除去する、請求項11に記載のアミン生成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミン高沸化合物の除去方法及びアミン生成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化学物質の製造において合成の際に発生した副生物に対する技術が多く知られている。例えば、カルバミン酸エステル化合物を熱分解して対応するイソシアネート化合物を製造する方法においてはポリマー状の固形物が各装置内に付着することが知られているが、これらポリマー状固形物を、アミン化合物を用いて熱時洗浄する技術等が開発されている(例えば、下記特許文献1参照)。
【0003】
また、近年では、ポリアミド等の樹脂の原料として有用なパラベンゼンジエタンアミン等のアミン化合物の開発が進められている。アミン化合物の製造方法としては、フェニレンジアセトニトリルをメチル化し、続いて水素化する方法が知られており、例えば、メチル化剤としてヨウ化メチルを使用し、還元剤としてボラン錯体を使用する技術が開発されている(例えば、下記特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-5774号公報
【特許文献2】特表2004-503527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、ニトリル化合物の水素化反応(以下、「水素添加」と称することもある。)において、高沸点であるアミンの高分子成分(以下、「アミン高沸化合物」と称することがある。)が副生物として発生することがある。アミン高沸化合物は、合成や蒸留に用いた装置内に付着し易く、熱効率を低下させ、場合によっては装置閉塞の原因となるため、これらを除去することが必要となる。しかし、これらアミン高沸化合物は、汎用の溶媒(アセトン等)を用いた洗浄では取り除くことが困難である。このように、現状では製造装置内に付着したアミン高沸化合物を取り除く有効な手段はなく、現状定期的に操業を停止して機械的に除去しなければならないため、操業率が低下し、コストが嵩む原因となっており、ニトリル化合物の水素化反応の際に生じるアミン高沸化合物を効率よく除去できる手段の開発が切望されている。
【0006】
本発明によれば、ニトリル化合物の水素化反応によってアミン生成物を得る反応において生成したアミン高沸化合物を効率よく除去可能なアミン高沸化合物の除去方法及びこれを利用したアミン生成物の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の実施形態を含む。
<1>
ニトリル化合物の水素化反応によってアミン生成物を得る反応において生成したアミン高沸化合物を、加熱下でアミン化合物を含むアミン除去剤を用いて除去する除去工程を含む、アミン高沸化合物の除去方法。
<2>
前記ニトリル化合物が、下記式(1)で示される化合物である、前記<1>に記載のアミン高沸化合物の除去方法。
【化1】

(式中、X及びXは、各々独立して、炭素数1~3のアルキル基を示す。R~Rは、各々独立して、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。n及びmは、各々独立して0又は1を示す。)
<3>
前記ニトリル化合物が、下記式(2)で示されるジニトリル化合物である、前記<1>又は<2>に記載のアミン高沸化合物の除去方法。
【化2】

(式中、R~Rは、各々独立して、水素原子又はメチル基を示し、R~Rの少なくとも1つは水素原子である。)
<4>
前記アミン除去剤は、前記アミン生成物と異なるアミン化合物を含む、前記<1>~<3>のいずれか一つに記載のアミン高沸化合物の除去方法。
<5>
前記アミン除去剤は、前記アミン化合物として、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、メタキシリレンジアミン、アニリン、1,6-ヘキサンジアミン、3-アミノメチル-3,5,5-トリメチル-1-アミノシクロヘキサン、p-ベンゼンジエチルアミン、及び、これらの組み合わせから選ばれる少なくとも一種を含む、前記<1>~<3>のいずれか一つに記載のアミン高沸化合物の除去方法。
<6>
前記アミン除去剤は、前記アミン化合物として1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、メタキシリレンジアミン、アニリン、及び、これらの組み合わせから選ばれる少なくとも一種を含む、前記<1>~<3>のいずれか一つに記載のアミン高沸化合物の除去方法。
<7>
前記除去工程において、100℃以上で前記アミン高沸化合物を除去する、前記<1>~<6>のいずれか一つに記載のアミン高沸化合物の除去方法。
<8>
前記除去工程において、前記アミン除去剤の還流によって前記アミン高沸化合物を除去する、前記<1>~<7>のいずれか一つに記載のアミン高沸化合物の除去方法。
<9>
前記除去工程において、減圧下で前記アミン高沸化合物を除去する、前記<1>~<8>のいずれか一つに記載のアミン高沸化合物の除去方法。
<10>
前記除去工程において、1kPa~80kPaで前記アミン高沸化合物を除去する、前記<1>~<9>のいずれか一つに記載のアミン高沸化合物の除去方法。
<11>
反応装置内でニトリル化合物の水素化反応によってアミン生成物を得るアミン生成工程と、
前記アミン生成工程において生成したアミン高沸化合物を、前記<1>~前記<10>のいずれか一つに記載のアミン高沸化合物の除去方法によって除去する除去工程を含む、アミン生成物の製造方法。
<12>
さらに、蒸留装置内で前記アミン生成物を蒸留精製する蒸留精製工程を含み、前記除去工程において、前記反応装置内及び前記蒸留装置内の少なくとも一方において前記アミン高沸化合物を除去する、前記<11>に記載のアミン生成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ニトリル化合物の水素化反応によってアミン生成物を得る反応において生成したアミン高沸化合物を効率よく除去可能なアミン高沸化合物の除去方法及びこれを利用したアミン生成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0010】
《アミン高沸化合物の除去方法》
本実施形態のアミン高沸化合物の除去方法(以下、単に「本実施形態の除去方法」と称することがある。)は、ニトリル化合物の水素化反応によってアミン生成物を得る反応において生成したアミン高沸化合物を、加熱下でアミン化合物を含むアミン化合物(以下、「除去用アミン化合物」と称することがある)を含むアミン除去剤を用いて除去する除去工程を含む。
【0011】
〈ニトリル化合物〉
本実施形態の除去方法に用いることのできるニトリル化合物は、ニトリル基を有する化合物であれば特に限定はないが、例えば、反応性、及び、ポリアミド、硬化剤等の用途としての有用性の点で、モノニトリル化合物、ジニトリル化合物、が好ましく、ジニトリル化合物がさらに好ましく、下記式(1)で示されるニトリル化合物が特に好ましい。
【0012】
【化3】

(式中、X及びXは、各々独立して、炭素数1~3のアルキル基を示す。R~Rは、各々独立して、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。n及びmは、各々独立して0又は1を示す。)
【0013】
及びXよって示される炭素数1~3のアルキル基は、各々独立して、2~4価のアルキル基である。また、式中n及びmは、各々X又はXの数を示し、例えば、0の場合にはニトリル基(シアノ基)が環構造に直接結合している化合物となる。
及びXよって示される炭素数1~3のアルキル基としては、反応性、及び、ポリアミド、硬化剤等の用途としての有用性の点で、炭素数1の2~4価のアルキル基、炭素数2の2~4価のアルキル基が好ましい。
【0014】
また、R~Rによって示される炭素数1~3のアルキル基は各々独立して1価のアルキル基であり、反応性及びポリアミド、硬化剤等の用途としての有用性の点で、メチル基が好ましい。R~Rとしては、反応性の点で、R~R全てが水素原子、又は、R~Rの1~3個はメチル基であることが好ましく、全て水素原子、又は、4個中2個がメチル基であることがさらに好ましく、R~R全てが水素原子、又は、R及びRのいずれか一方とR及びRのいずれか一方とがメチル基であることが特に好ましい。
【0015】
本実施形態におけるニトリル化合物としては、ポリアミド、硬化剤等の用途としての有用性の点で、下記式(2)で示されるジニトリル化合物がさらに好ましい。
【化4】

(式中、R~Rは、各々独立して、水素原子又はメチル基を示し、R~Rの少なくとも1つは水素原子である。)
【0016】
式(1)で示されるジニトリル化合物としては、n=m=1であり、X及びXが炭素数1~3のアルキル基であり、且つ、R~Rが全て水素原子、又は、R及びRのいずれか一方とR及びRのいずれか一方とがメチル基である化合物が好ましい。式(1)で示されるニトリル基としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。
【0017】
【化5】
【0018】
〈アミン生成物〉
本実施形態において、「アミン生成物」とは、ニトリル化合物の水素化反応によって得られるアミン化合物を意味する。アミン生成物は、例えば、以下の本実施形態のアミン生成物の製造方法によって得ることができる。
【0019】
本実施形態のアミン生成物の製造方法は、反応装置内でニトリル化合物の水素化反応によってアミン生成物を得るアミン生成工程と、前記アミン生成工程において生成したアミン高沸化合物を、本実施形態のアミン高沸化合物の除去方法によって除去する除去工程を含む。さらに、本実施形態のアミン生成物の製造方法は必要に応じて他の工程を含んでいてもよく、例えば、蒸留装置内で前記アミン生成物を蒸留精製する蒸留精製工程を含み、前記除去工程において、前記反応装置内及び前記蒸留装置内の少なくとも一方において前記アミン高沸化合物を除去する態様であってもよい。
【0020】
(アミン生成工程)
-水素化反応―
アミン生成工程では、通常、反応槽、分離塔及び冷却器からなる反応装置が使用される。ニトリル化合物の水素化反応は、例えば、アンモニア及び水素化触媒の存在下、水素雰囲気下で実施されることが好ましい。下記の反応では、ニトリル化合物(p-キシリレンジシアニド;PXDCN)を液体アンモニア(liqNH)に仕込み、水素雰囲気下で、加熱及び加圧を行うことで、アミン生成物(p-ベンゼンジエチルアミン;p-BDEA)が合成される。また、当該反応の際に、アミン高沸化合物が副生物として生じる。
【0021】
【化6】

・R-Co:ラネーコバルト触媒
・liqNH:液体アンモニア
【0022】
水素化触媒としては、通常のニトリル水添反応に用いられる触媒を採用することもでき、具体的には、Ni及び/又はCoを含有する触媒を用いることができる。一般には、Ni及び/又はCoを、Al、SiO、けい藻土、SiO-Al、及びZrOに沈殿法で担持した触媒、ラネーニッケル又はラネーコバルト等のラネー触媒が好適に用いられる。固体触媒は、繰り返し使用することができるため、工業的製造に適している。これらの中では、反応をより有効かつ確実に進行させる観点から、ラネーコバルト触媒及びラネーニッケル触媒が好ましい。触媒は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0023】
水素化触媒〔x〕に対するニトリル化合物〔y〕の質量比〔y/x〕は、好ましくは2~30であり、より好ましくは5~20であり、さらに好ましくは8~10である。水素化触媒に対するニトリル化合物の質量比を前記範囲内とすることにより、得られるジアミン生成物の収率及び選択率を高めることができる傾向にある。
【0024】
ニトリル化合物の水素化反応には、通常の水素化反応に用いられる溶媒を採用することもでき、具体的には、液体アンモニア、アンモニア水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、及びtert-ブタノール等のアルコール、メタキシレン、メシチレン、及びプソイドキュメンのような芳香族炭化水素が挙げられる。溶媒は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0025】
ニトリル化合物〔w〕に対するアンモニア〔v〕のモル比〔v/w〕は、好ましくは10~150であり、より好ましくは25~100であり、さらに好ましくは35~50である。前記モル比を10以上とすることにより、二量化等の高沸化合物が減少して成績が向上する傾向であり、前記モル比を150以下とすることにより、その後の液体アンモニアの除去にかかる時間が短縮され、生産効率が向上する。
【0026】
ニトリル化合物の水素化反応の反応温度は、好ましくは40~160℃であり、より好ましくは60~140℃であり、さらに好ましくは80~120℃である。水素化反応の反応温度を40℃以上とすることにより、反応性が向上し、水素化反応の反応温度を160℃以下とすることにより、二量体等の高沸化合物が減少する傾向がある。
【0027】
ニトリル化合物の水素化反応の圧力は、好ましくは1~20MPaであり、より好ましくは4~16MPaであり、さらに好ましくは8~12MPaである。水素化反応の圧力を前記範囲内とすることにより、得られるジアミン生成物の収率及び選択率を高めることができる傾向にある。
【0028】
ニトリル化合物の水素化反応は反応が完了するまで実施すればよいが、反応時間として、例えば、0.5~8時間、1~6時間、又は2~4時間を挙げることができる。
【0029】
-メチル化反応(メチル付加工程)-
本実施形態においては、例えば、上述の式(1)又は(2)に示される化合物のように、メチル基を有するジニトリル化合物を用いてアミン生成物を合成することができる。この場合、アミン生成工程は、ニトリル化合物の水素化反応に先立ち、ニトリル化合物を炭酸カリウム及び炭酸ジメチルの存在下でメチル化して、メチル付加化合物を得るメチル付加工程、を含むことができる。
【0030】
メチル付加工程では、炭酸カリウムと炭酸ジメチルとを組み合わせて使用することにより、例えばジニトリル化合物を選択的にメチル化することが可能である。本明細書において「選択的にメチル化」とは、導入するメチル基の数を制御することを意味する。
【0031】
メチル付加工程においてジニトリル化合物を選択的にメチル化する場合、ジニトリル化合物に対する炭酸カリウムのモル比は、好ましくは2.0~3.5であり、より好ましくは2.0~3.0であり、さらに好ましくは2.0~2.5である。前記範囲とすることにより、例えば、式(1)及び(2)中のR及びRのいずれか一方とR及びRのいずれか一方とがメチルである化合物を選択的に得ることができる。
【0032】
メチル付加工程においてジニトリル化合物を選択的にメチル化する場合、ジニトリル化合物に対する炭酸ジメチルのモル比は、好ましくは3.0~18.0であり、より好ましくは5.0~14.0であり、さらに好ましくは7.0~10.0である。前記モル比を3.0以上とすることにより、反応が速くなり、前記モル比を18.0以下とすることにより、経済性を高めることができる。
【0033】
メチル化反応の反応温度は、好ましくは180~230℃であり、より好ましくは190~220℃であり、さらに好ましくは200~210℃である。前記範囲とすることにより、例えば、式(1)及び(2)中のR及びRのいずれか一方とR及びRのいずれか一方とがメチル基である化合物を選択的に得ることができる。
【0034】
メチル化反応は反応が完了するまで実施すればよいが、反応時間として、例えば、2~16時間、4~12時間、又は6~8時間を挙げることができる。
【0035】
(アミン生成物)
アミン生成工程で得られるアミン生成物としては上述の式(1)又は(2)で示されるニトリル化合物由来のアミン化合物であることが好ましい。アミン生成物の具体例としては、特に限定はないが、ポリアミド、硬化剤等の用途としての有用性の点で、例えば、以下の化合物が好適に挙げられる。
【0036】
【化7】
【0037】
(アミン高沸化合物)
本実施形態において、「アミン高沸化合物」とは、ニトリル化合物の水素化反応によってアミン生成物を得る反応において生成したアミン化合物を意味し、本実施形態の除去方法の対象となる化合物である。アミン高沸化合物は沸点が高く、その沸点は特に限定されるものではないが、本実施形態において除去の対象とするアミン高沸化合物の沸点は、例えば、300℃以上、さらに具体的には500℃以上である。
【0038】
対象となるアミン高沸化合物は、アミン生成工程において用いられたニトリル化合物に由来する化合物であり、例えば、下記に示すものが挙げられる。
【0039】
【化8】

(式中、m、n、o、及び、pは、各々独立して0又は1を示す。X~Xは、各々独立して、炭素数1~3のアルキル基を示す。R~Rは、各々独立して、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示す。R~Rは、各々独立して、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、又は、アミノ基、若しくは、炭素数1~4のアルキルアミノ基を示す。qは1~10000を示す。)
【0040】
(蒸留精製工程)
本実施形態のアミン生成物の製造方法は、蒸留装置内でアミン生成物を蒸留精製する蒸留精製工程を含むことができる。蒸留精製工程では、アミン生成工程から回収されたアミン生成物を蒸留精製することによって、高純度のアミン化合物を分離回収することができる。この精製工程の蒸留操作は、通常、蒸留塔として充填塔、棚段塔等を用い、回分式又は連続式で行うことができる。
【0041】
(他の工程)
上述のように、本実施形態のアミン生成物の製造方法では必要に応じて溶媒再生工程等、他の工程を含むことができる。
【0042】
〈除去工程〉
上述のように、ニトリル化合物の水素化反応により生成したアミン高沸化合物によって各工程の装置内に固形物が付着する。このアミン高沸化合物が付着し易い箇所は、例えば、アミン生成工程では反応槽及び多段塔等の反応装置内、蒸留精製工程では、蒸留釜、リボイラー及び多段塔等の蒸留装置内等が挙げられる。また各工程で使用されているポンプ、弁、配管等の各種機器内でもアミン高沸化合物が付着する。
本実施形態の除去方法及びアミン生成物の製造方法は、上述のアミン高沸化合物を、加熱下で、アミン化合物を含むアミン除去剤を用いて除去する除去工程を含む。
【0043】
(アミン除去剤)
本実施形態のアミン高沸化合物の除去方法は、アミン化合物(除去用アミン化合物)を含むアミン除去剤を用いてアミン高沸化合物を除去する方法である。アミン除去剤は、除去用アミン化合物をそのまま用いてもよいし、他の成分(例えば、反応溶媒等)を含んでいてもよい。他の成分を含む場合、アミン除去剤中の除去用アミン化合物の含有量は、アミン除去剤の全量に対し、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が特に好ましい。
【0044】
除去用アミン化合物は、アミン化合物であれば特に限定はないが、例えば、脂肪族、脂環族、芳香族及びアラルキルのモノ及びポリアミン化合物を挙げることができる。また、除去用アミン化合物は、アミン生成工程において得られるアミン生成物と異なるアミン化合物であってもよいし、得られるアミン生成物と構造を同一とするアミン化合物であってもよい。ここで、「アミン生成物と異なるアミン化合物」とは、アミン生成工程において得られたアミン生成物と構造的に異なり、且つ、アミノ基を有する化合物を意味する。さらに、「構造的に異なる」とは、分子式の異なることを意味する。アミン除去剤としては、さらなるアミン高沸化合物の生成及び付着の原因を抑制する観点から、アミン生成工程において得られたアミン生成物と異なるアミン化合物を用いることが好ましい。
さらに、後述する除去用アミン化合物の還流の観点から、除去用アミン化合物としては、アミン高沸化合物よりも沸点が低い化合物が好ましく、例えば、沸点が50~300℃である化合物がさらに好ましく、沸点が150~250℃が特に好ましい。
【0045】
除去用アミン化合物の具体例として、例えば、n-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-オクチルアミン、2,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,8-オクタメチレンジアミン等の脂肪族アミン化合物類;シクロヘキシルアミン、1,3-及び1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、3-アミノメチル-3,5,5-トリメチル-1-アミノシクロヘキサン(別名:イソホロンジアミン)、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、1-メチル-2,4-ジアミノシクロヘキサン、1-メチル-2,6-ジアミノシクロヘキサン等の脂環式アミン化合物類;アニリン、メタ及びパラトルイジン、ナフチルアミン、1,3-及び1,4-フェニレンジアミン、1-メチル-2,4-ジアミノベンゼン、1-メチル-2,6-ジアミノベンゼン、2,4,-及び4,4,-ジアミノジフェニルメタン、4,4,-ジアミノビフェニル、1,5-及び2,6-ナフタレンジアミン等の芳香族アミン化合物類;1,3-及び1,4-ビス(アミノメチル)ベンゼン、p-ベンゼンジエチルアミン、1,5-及び2,6-ビス(アミノメチル)ナフタレン等のアラルキルアミン化合物類である。
これらの化合物の中でも、洗浄能力の点で、下記1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、下記メタキシリレンジアミン(別名:1,3-ビス(アミノメチル)ベンゼン)、下記アニリン、下記1,6-ヘキサンジアミン、下記3-アミノメチル-3,5,5-トリメチル-1-アミノシクロヘキサン(別名:イソホロンジアミン)、下記p-ベンゼンジエチルアミン、及び、これらの組み合わせから選ばれる少なくとも一種が好ましく、溶媒等を用いてふき取りが容易な点で、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、メタキシリレンジアミン、アニリン、及び、これらの組み合わせから選ばれる少なくとも一種がさらに好ましい。
【0046】
【化9】
【0047】
除去工程で用いられるアミン除去剤の量は、装置の形状によって異なるので一義的に決定されないが、装置に付着しているアミン高沸化合物がアミン除去剤に接触するのに十分な量が必要である。通常、アミン除去剤がアミン高沸化合物を溶解するのに必要な量は、アミン高沸化合物に対する除去用アミン化合物が0.1~100質量倍が好ましく、1~100質量倍がさらに好ましく、10~100質量倍が特に好ましい。
【0048】
(温度条件)
本実施形態における除去工程は、加熱下で、装置内に付着したアミン高沸化合物を、アミン除去剤を用いて除去するため、その処理温度が極めて重要である。その作用機構は明らかでないが、装置内に付着したアミン高沸化合物は一定の温度以上に保持されたアミン除去剤に接触すると、アミン高沸化合物と装置表面との界面から剥離が起こり、次いでアミン高沸化合物とアミン除去剤とが反応、或いは、アミン高沸化合物がアミン除去剤に溶解するものと推測される。
【0049】
アミン除去剤により熱時洗浄する際の対象となる装置内の温度は、100℃以上が好ましく、150~300℃がさらに好ましい。アミン除去剤の温度が上述の温度範囲内にあると、アミン除去剤による洗浄効果が高まり、且つ、アミン除去剤自体の変質を抑制することができる。
【0050】
(還流)
本実施形態における除去工程では、アミン除去剤が効率的に装置の内壁等に行き渡るようにするため、アミン除去剤の還流によってアミン高沸化合物を除去することができる。除去用アミン化合物の還流は装置内で行われ、例えば、反応槽内の温度を除去用アミン化合物の沸点以上として除去用アミン化合物を気化させて反応槽内を上昇させ、反応槽の上部に設置された冷却器によって液化することで、除去用アミン化合物を還流させて十分に装置の内壁等に行き渡らせることができ、効率的にアミン除去剤とアミン高沸化合物とを接触させることができる。
【0051】
(圧力)
本実施形態における除去工程は、減圧下でアミン高沸化合物を除去することができる。例えば、減圧下で除去を行う場合、反応槽及び蒸留釜にアミン除去剤を仕込んだ後、反応槽等の装置内を加熱し、当該温度範囲でアミン除去剤(除去用アミン化合物)が沸騰するように操作圧力を調整することで、全還流状態を保持することができる。このように減圧下でアミン高沸化合物を行うことで、アミン高沸化合物の気化やさらなるアミン高沸化合物の生成を抑制しつつ、アミン除去剤(除去用アミン)を気化させて装置内に還流させることができる。これにより、効率的に装置内のアミン高沸化合物を除去することができる。
【0052】
除去工程を減圧下で行う場合、装置内の圧力としては、例えば、100kPa未満とすることができ、1kPa~80kPaが好ましく、3kPa~60kPaがさらに好ましい。
【0053】
(拭き取り工程)
本実施形態の除去方法は、除去工程の後に、対象となる装置内を、溶媒を用いて拭き取る工程を行ってもよい。当該ふき取り工程の際に用いることのできる溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミドやN-メチル-2-ピロリドン、アセトン、メタノール、テトラヒドロフラン等の汎用溶媒を用いることができる。
【0054】
蒸留装置内でアミン生成物を蒸留精製する蒸留精製工程を含む場合、除去工程において、反応装置内及び蒸留装置内の少なくとも一方においてアミン高沸化合物を除去することが好ましい。本実施形態の除去方法の一実施態様を具体的に示すと、例えば、アミン生成工程及び蒸留精製工程を行った後、これら工程に用いる反応装置及び蒸留装置の少なくとも一方に、アミン除去剤を仕込み、上述の温度範囲で沸騰するように操作圧力を調整して全還流状態を保持する。これにより反応槽、蒸留釜、多段塔に付着したアミン高沸化合物を効率よく除去することができる。また、ポンプ、弁、配管内に付着したアミン高沸化合物は、上述の温度範囲に保持されたアミン除去剤を循環させることにより除去することができる。このアミン除去剤による熱時洗浄時間(除去工程における処理時間)は、特に限定はないが、0.1~5時間の範囲、通常は0.5~2時間の範囲である。ここで得られる洗浄処理溶液は蒸留塔又は蒸発器を用いてアミン除去剤とアミン高沸化合物とに分離できる。
【0055】
以上、本発明について実施形態を用いて説明したが、本発明は上述の説明に限定されるものではない。
【実施例0056】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0057】
[実施例1]
回分式反応により、下記のようにp-キシリレンジシアニド(以後、「PXDCN」と称することがある)のニトリル基の水素化反応(水素添加)を行った。窒素供給配管及び水素供給配管、排ガス用ベント、並びに、熱電対保護管を備えた内容積300mLの電磁撹拌式オートクレーブを、反応装置に用いた。オートクレーブの加熱にはビーカー用マントルヒーターを用いた。
【0058】
【化10】


・R-Co:ラネーコバルト触媒
・liqNH:液体アンモニア
【0059】
オートクレーブに水漬けのラネーコバルト触媒3g(水を含まない重量)、PXDCNを25g、液体アンモニア100gを仕込んだ。窒素でオートクレーブ内を置換後、水素を4MPa封入し、600~800rpmで30分間程度撹拌しながら100℃まで昇温した。オートクレーブ内が100℃となったら、オートクレーブ内の圧力が10MPaで一定となるように減圧分の水素を供給した。水素流量が0となったら、反応を終了し、氷水で冷却した。水素及びアンモニアをベントから排気した後、オートクレーブを開放し、メタノールを用いて反応液を加圧濾過器にて触媒と濾別した。ガスクロマトグラフを用いて内部標準法で反応液の分析を行ったところ、転化率100%、収率86%でニトリル基の水添化物(p-ベンゼンジエチルアミン;以降、「p-BDEA」と称することがある)を得た。
【0060】
エバポレータを用いてメタノールを揮発させた後、反応液を200mLの多口フラスコに移し、蒸留塔(KIRIYAMA PAC,有限会社桐山製作所製)、冷却塔、ウィットマー分留器、冷却トラップに接続した真空ポンプ、圧力制御装置、圧力計、電流量制御付き温度調整器に繋いだフラスコ用マントルヒーター及びリボンヒーター、還流比を設定可能な電磁弁、受器を接続し、減圧蒸留を行った。蒸留を最高温度300℃で16時間継続して留分を受器で回収した。
【0061】
フラスコ内の滞留液を全量抜き出した後、ガラス内面を確認したところガラス壁面にアミン高沸化合物が固着していた。フラスコ内に洗浄用アミン化合物として1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(以下、「1,3-BAC」と称することがある。)50mLを仕込み、200℃、油回転真空ポンプによる減圧下(5kPa)で4時間、撹拌子で撹拌し洗浄用アミン化合物をフラスコ内で還流させた。その後、洗浄用アミン化合物を抜き出した。
洗浄後、フラスコ内を確認したところ、ガラス内面を確認することができ、アミン高沸化合物が除去されたことが確認できた。拭き取りによる残滓の除去は、全ての実施例の中で最も容易であった。
【0062】
[実施例2]
洗浄用アミン化合物をメタキシリレンジアミン(以下、「MXDA」と称することがある。)に変更し、且つ、洗浄時の圧力を3kPa、洗浄時間を5時間とした以外は、実施例1と同様の方法でフラスコ内の洗浄を行った。洗浄後、液を抜き出しフラスコ内を確認したところ、ガラス内面を確認することができ、アミン高沸化合物が除去されたことが確認できた。拭き取りによる残滓の除去は、実施例1に次いで容易であった。
【0063】
[実施例3]
洗浄用アミン化合物をアニリンに変更し、且つ、洗浄時の圧力を60kPa、洗浄時間を5時間とした以外は、実施例1と同様の方法でフラスコ内の洗浄を行った。洗浄後、液を抜き出しフラスコ内を確認したところ、ガラス面が現れ、アミン高沸化合物が除去されたことが確認できた。拭き取りによる残滓の除去は、実施例2と同様に容易であった。
【0064】
[実施例4]
洗浄用アミン化合物を1,6-ジアミノヘキサンに変更し、且つ、洗浄時の圧力を50kPa、洗浄時間を5時間とした以外は、実施例1と同様の方法でフラスコ内の洗浄を行った。洗浄後、液を抜き出しフラスコ内を確認したところ、ガラス内面を確認することができ、アミン高沸化合物が除去されたことが確認できた。拭き取りによる残滓の除去は、実施例3に次いで容易であった。
【0065】
[実施例5]
洗浄用アミン化合物をイソホロンジアミンに変更し、且つ、洗浄時の圧力を20kPa、洗浄時間を5時間とした以外は、実施例1と同様の方法でフラスコ内の洗浄を行った。洗浄後、液を抜き出しフラスコ内を確認したところ、ガラス内面を確認することができ、アミン高沸化合物が除去されたことが確認できた。拭き取りによる残滓の除去は、実施例4に次いで容易であった。
【0066】
[実施例6]
洗浄用アミン化合物をp-BDEAに変更し、且つ、洗浄時の圧力を2kPaとした以外は、実施例1と同様の方法でフラスコ内の洗浄を行った。洗浄後、液を抜き出しフラスコ内を確認したところ、ガラス内面を確認することができ、アミン高沸化合物が除去されたことが確認できた。拭き取りによる残滓の除去は、実施例5と同様に容易であった。
【0067】
[比較例1]
洗浄用アミン化合物をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に変更し、且つ、洗浄時の圧力を30kPa、洗浄時間を5時間とした以外は、実施例1と同様の方法でフラスコ内の洗浄を行った。洗浄後、液を抜き出しフラスコ内を確認したところ、ガラス内面にアミン高沸化合物と思われる固着物が残存しており、拭き取りによる除去も不可能であった。
【0068】
[比較例2]
洗浄用アミン化合物をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に変更し、且つ、洗浄時の圧力を30kPa、洗浄時間を5時間とした以外は、実施例1と同様の方法でフラスコ内の洗浄を行った。洗浄後、液を抜き出しフラスコ内を確認したところ、ガラス内面にアミン高沸化合物と思われる固着物が残存しており、拭き取りによる除去も不可能であった。