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特開2024-64799抗がん剤分解液及びこれを用いた抗がん剤分解方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064799
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】抗がん剤分解液及びこれを用いた抗がん剤分解方法
(51)【国際特許分類】
   A62D 3/36 20070101AFI20240507BHJP
   C02F 1/461 20230101ALI20240507BHJP
   A62D 101/26 20070101ALN20240507BHJP
   A62D 101/28 20070101ALN20240507BHJP
【FI】
A62D3/36
C02F1/461 Z
A62D101:26
A62D101:28
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173671
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】511101472
【氏名又は名称】プログレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167416
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 佳男
(72)【発明者】
【氏名】山下 智栄子
【テーマコード(参考)】
4D061
【Fターム(参考)】
4D061DA10
4D061DB09
4D061EA02
(57)【要約】
【課題】本発明は、難水溶性の抗がん剤分解液、特にパクリタキセル等タキサン系の抗がん剤を無毒化する抗がん剤分解液及びこれを用いた抗がん剤分解方法に関する。
【解決手段】本発明は、難水溶性の抗がん剤を分解して無毒化する抗がん剤分解液であって、炭酸カリウムを添加した水を電気分解して生成する電解アルカリ水溶液を有効成分として含有し、前記電解アルカリ水溶液のpHが12.5以上、13.5以下であることを特徴とする。分解の対象となる抗がん剤は、タキサン系の抗がん剤であって、パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセルからなる群から選択される抗がん剤である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
難水溶性の抗がん剤を分解して無毒化する抗がん剤分解液であって、炭酸カリウムを添加した水を電気分解して生成する電解アルカリ水溶液を有効成分として含有し、前記電解アルカリ水溶液のpHが12.5以上、13.5以下であることを特徴とする抗がん剤分解剤。
【請求項2】
対象となる前記難水溶性の抗がん剤が、タキサン系の抗がん剤であって、パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセルからなる群から選択される抗がん剤であることを特徴とする請求項1に記載の抗がん剤分解剤。
【請求項3】
炭酸カリウムを添加した水を電気分解して生成したpHが12.5以上13.5以下である電解アルカリ水溶液を用いて、難水溶性の抗がん剤を分解して無毒化することを特徴とする抗がん剤分解方法。
【請求項4】
対象となる前記難水溶性の抗がん剤が、タキサン系の抗がん剤であって、パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセルからなる群から選択される抗がん剤であることを特徴とする請求項3に記載の抗がん剤分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難水溶性の抗がん剤分解液、特にパクリタキセル等タキサン系の抗がん剤を無毒化する抗がん剤分解液及びこれを用いた抗がん剤分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗がん剤は、がん細胞の増殖を抑制し最終的には、その増殖を抑制または死滅させる製剤である。その作用機序は、対象となるがん細胞に浸入し同細胞のDNAの複製や合成の阻害、微小管形成の阻害(細胞分裂阻害)、細胞内代謝の阻害または栄養供給血流の制御等を引き起こす。それゆえ、抗がん剤はがん化した細胞に作用してアポトーシス等の細胞死を引き起こす反面、通常細胞に対しても高い毒性を持つ。このため、抗がん剤の取り扱いには慎重さを要する。
【0003】
現在、各種のがんに対して対応するべく、抗がん剤を使用した化学療法が多く取り入れられている。抗がん剤治療において、抗がん剤については患者個別の用量が医師により決定され、その処方箋に基づき薬剤師により点滴用容器(輸液バッグ)等に分注される。この抗がん剤調製の作業をさらに詳しく見ると、注射針、薬品びん、点滴液等から飛散した抗がん剤の飛沫、エアロゾルが薬剤師等の皮膚に付着すること、またこれらを呼吸器から吸入する一次被曝がある。また、飛散した抗がん剤の液滴に接触した薬剤袋やびん等を介して薬剤師等の皮膚に付着する二次被曝がある。特に、抗がん剤の調製は専門の薬剤師により行われる。そのため、薬剤師や看護師等の医療従事者自身の職業的な抗がん剤被曝の危険性が指摘されている。特に、長期間の作業従事により、医療従事者自身の流産、白血病、膀胱がん等の報告がある。従って、医療従事者の抗がん剤による曝露対策は非常に重要である。
【0004】
この問題に関し、がん薬物療法における曝露対策について作成されたガイドライン(非特許文献1)では、調製後の薬液の運搬・保管時および投与管理時において曝露対策を行うことが強く推奨されている。現状の抗がん剤調製作業においては、防水性のエプロン、二重にした手袋、活性炭入りマスクが着用される。抗がん剤調製作業は調製時に発生するエアロゾルを外部に流出させない生物学的安全キャビネット、閉鎖式調製器具等の薬剤飛散を低減する環境下で行われる。
【0005】
なお、上記ガイドラインP66には、抗がん剤投与後48時間の患者の排泄物・体液の取り扱いについて、「排泄時の周囲への飛散を最小限にするよう注意を促す。例えば、可能なら男女ともに洋式便器を使い、排尿時も男性は座位で行う。水洗便器の蓋を閉めてからフラッシュする。」、同P68には、抗がん剤がこぼれた時の清掃手順として、「抗がん剤がこぼれた区域を洗剤(清掃用)で洗い、水ですすぐを複数回繰り返す。または、抗がん剤を不活化する薬剤がある場合は、拭き取り後、紙か布に染み込ませて拭き洗いし、最後に乾拭きを行う。」と記され、当該薬剤としては、次亜塩素酸ナトリウム溶液や水酸化ナトリウムなどが上げられ、特に、一部の抗がん剤として、5.25%の次亜塩素酸ナトリウムが有効であることが確認されている。
しかしながら、抗がん剤投与を受けている患者が利用するトイレには、尿や排泄物に含まれた微量な抗がん剤が空間や床面に飛沫していることが確認・証明されており、該抗がん剤を健常者が間接的に吸引することによる健康被害が懸念されている。
上述したとおり、抗がん剤中和に効果があるとされる次亜塩素酸ナトリウムは、いわゆる、市販されている液体塩素系漂白剤であるが、アルカリ剤が含まれ、酸性の洗剤と混ぜると塩素ガスが発生するため危険で、ラベルには「混ぜるな危険」等の表示がされている。アルカリ剤は容器中で次亜塩素酸ナトリウムの分解を防ぐためにあるのであるが、強アルカリ性なので、必ずゴム手袋をして使う必要がある。また、市販されている液体塩素系漂白剤は、揮発による毒性も指摘されており、空間に噴霧することはできない。そのため、医療現場や介護現場において、特に、薬剤投与を受けている患者が利用するトイレには尿や排泄物に含まれた微量な薬剤が空間や床面に飛沫していることが明らかとなっていて、その薬剤を健常者が間接的に吸引することによる健康被害が懸念されている。
【0006】
抗がん剤分解剤については、種々の発明が提案されている。
特許文献1に係る発明は、0.1~1.0重量%の光触媒活性な二酸化チタン粒子、及び0.3~0.5重量%の界面活性剤、を含み、分解対象物上に噴霧して使用される光触媒水性組成物によって、抗がん剤を除去する抗がん剤分解法を提案している。
特許文献2に係る発明は、オゾンを含み加湿手段により加湿された空気を作用させて抗がん剤を分解する抗がん剤分解法を提案している。
特許文献3に係る考案は、カリウム、アルミニウム、鉄及びチタンを含む金属組成物とゼオライトを含む抗がん剤分解剤について、触媒としての機能を有し、該触媒効果により空気中の酸素や水分と反応して、ヒドロキシラジカルや過酸化水素水等の活性酸素が生成され、生成された活性酸素により、抗がん剤を分解することができる抗がん剤分解剤を提案している。
特許文献4に係る発明は、次亜塩素酸を有効成分として含有する新規な抗がん剤分解剤を提案している。
しかしながら、特許文献1ないし3の発明は、安価で安全で手軽に利用できるものではない。また、特許文献4の発明のうち、次亜塩素酸ナトリウムは前述したとおり安全性に問題があり、次亜塩素酸水溶液は、抗がん剤であるパクリタキセルの分解については、後述するとおり、分解能が高いわけではない。
【0007】
ところで、抗がん剤のうち、パクリタキセルは微小管重合促進作用を有する代表的な抗がん剤であり、1993年の発売以来、卵巣癌、乳癌、胃癌、子宮体癌、頭頸癌、カポジ肉腫、そして非小細胞肺癌など、様々な腫瘍に対して用いられてきた。そして、パクリタキセルの特徴は、水に対して難溶性であることが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012-91114号公報
【特許文献2】WO2014/208428号公報
【特許文献3】実用新案登録第3225867号公報
【特許文献4】特開2021-27981号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】一般社団法人日本がん看護学会、公益社団法人日本臨床腫瘍学会、一般社団法人日本臨床腫瘍薬学会共編、「がん薬物療法における職業性曝露対策ガイドライン2019年版」(金原出版株式会社)、2019年3月1日発行、P.59-62
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
安価で安全で手軽に利用できるものとしては、次亜塩素酸水溶液があげられ、出願人においても、長期間にわたって、次亜塩素酸水溶液の開発を進め、pH値を、人間の肌のpH値とほぼ同程度の5.5~6.5の範囲の一定値に維持可能な、微酸性の次亜塩素酸水溶液の製造方法及び製造装置を発明し(特許6553955号)、人体に対する影響がきわめて少ない次亜塩素酸水は、安全性に優れていると広く評価されている。当該次亜塩素酸水を抗がん剤分解に効果があるかどうかをシオノギファーマ社に検査依頼したところ、抗がん剤の中でもアルキル化剤を高い分解能で無毒化することが判明した。アルキル化剤は、細胞障害性抗がん剤の代表的な薬剤で、イホスファミド、シクロホスファミド、ダカルバジン、テモゾロミド、ニムスチン、ブスルファン、プロカルバジン、メルファラン、ラニムスチンが該当する。
しかし、次亜塩素酸水溶液は、実施例5の試験結果に示すとおり、抗がん剤であるパクリタキセルの分解については、分解能が高いわけではない。その理由は、組成が水に対して難溶性であるものと考えられる。
そこで、上記問題に鑑み、本発明は、パクリタキセル等タキサン系の抗がん剤を無毒化する抗がん剤分解液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、難水溶性の抗がん剤を分解して無毒化する抗がん剤分解液であって、炭酸カリウムを添加した水を電気分解して生成する電解アルカリ水溶液を有効成分として含有し、電解アルカリ水溶液のpHが12.5以上、13.5以下であることを特徴とする。
なお、分解の対象となる抗がん剤は、タキサン系の抗がん剤であって、パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセルからなる群から選択される抗がん剤である。
【0012】
炭酸カリウムを添加した水を電気分解して生成したpHが12.5以上13.5以下である電解アルカリ水溶液を用いて、難水溶性の抗がん剤を分解して無毒化することを特徴とする抗がん剤分解方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る抗がん剤分解剤によれば、難水溶性の抗がん剤の一つであるタキサン系の抗がん剤、特にパクリタキセル等タキサン系の抗がん剤を無毒化し、安全かつ効率的に抗がん剤被爆防止を講ずることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。なお、本発明の技術的範囲は以下の実施形態に示した具体的な用途などには限定されるものではない。以下、表等を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。
【0015】
なお、従来、塩素系電解質を添加した水を電気分解して酸性電解水とアルカリ性電解水を生成させることは行なわれている。一般的に、このようなアルカリ性電解水は、pHが10.5~12.0の範囲であり、強いアルカリ性を呈するので、弱い殺菌力を有し、同時に油分やタンパク質を含む汚れに対して強い洗浄力を有することが知られており、野菜、果物、畜産品や水産品の洗浄、機械部品や電子材料の洗浄用水としての用途が知られている。
本願発明者は、試験の結果、強いアルカリ性電解水が抗がん剤の一つであるタキサン系の抗がん剤、特にパクリタキセルに高い分解能があることを突き止めたものである。
【0016】
本発明は、難水溶性の抗がん剤を分解して無毒化する抗がん剤分解液であって、炭酸カリウムを添加した水を電気分解して生成する電解アルカリ水溶液を有効成分として含有することを特徴とする。なお、電解アルカリ水溶液のpHは、12.5以上、13.5以下であると好適である。
分解の対象となる抗がん剤は、タキサン系の抗がん剤であって、パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセルからなる群から選択される抗がん剤である。
なお、以下に示す実施例において使用される電解アルカリ水溶液は、炭酸カリウムを添加した水を電気分解した電解アルカリ水溶液を使用していることに留意されたい。
【実施例0017】
実施例1について、詳細に説明する。本願出願人は、本願に係る電解アルカリ水溶液について、パクリタキセルに関する抗がん薬分解性能確認試験を実施したので、これについて説明する。パクリタキセルは、タキサン系の抗がん剤であって、イチイ科の植物成分を原料として半合成された化合物で、細胞が分裂する際に必要な細胞構成成分の一つである微小管を安定化および過剰発現させることにより、がん細胞の増殖を阻害する抗がん剤である。
【0018】
当該試験は、シオノギファーマ株式会社(大阪府摂津市三島2丁目5番1号)を試験場所とし、2021年4月19日~28日に実施された。試験法は、LC/MS/MSを採用した。
まず、被検物質溶液の調製について、パクリタキセル100mgに生理食塩水5mLを加えて溶かしたものを原液(20mL)とし、原液1mLを正確に量り、精製水を加え、正確に20mLとする。さらに、この液5mLを正確に量り、精製水を加え、正確に50mLとし、被検物質溶液とした(100μg/mL)。
分解液Aとしては、本願に使用する電解アルカリ水溶液は、強アルカリ電解水(pH13.5)9mLに、上述被検物質溶液1mLを加えて振り混ぜたものを試料溶液(分解液A)とする。
分解液Bとしては、上述の分解液Aに使用した電解アルカリ水溶液を10倍稀釈した溶液(pH12.5)9mLに、上述被検物質溶液1mLを加えて振り混ぜたものを試料溶液(分解液B)とする。なお、分解液Bは、一般的な清掃を想定し、分解液Aに使用した強アルカリ電解水を10倍稀釈した溶液(pH12.5)を使用している。
さらに、対照溶液として、精製水9mLに、上述被検物質溶液1mLを加えて振り混ぜたものを試料溶液とする。
これらの液を、調製後又は調製後4時間経過後に速やかに測定し、この操作を3回繰り返す。
以上の要領で調製した各分解溶液をLC/MS/MSを用いて測定した。そして、分解液Aと分解液Bについて、対照溶液と比較し、調製直後と調製後4時間経過後のそれぞれの分解効果を確認した。
当該確認試験の結果として、調製直後においては、表1に示すとおり、パクリタキセルに関して、分解液Aの平均分解率は95.3%、分解液Bにおいての平均分解率は67.4%であった。調製後4時間経過後においては、表2に示すとおり、希釈していない強アルカリ電解水、10倍希釈の強アルカリ電解水のいずれも、パクリタキセルの分解率は100%であった。

試験調査内容:抗がん薬分解性能確認試験
試験受付番号:JF21-D003
試験場所:シオノギファーマ株式会社(大阪府摂津市三島2丁目5番1号)
試験日:2021年4月19日~28日
試験法:LC/MS/MS
検体:パクリタキセル
分解液A:本願に係る強アルカリ電解水(pH13.5)を使用
分解液B:分解液Aに使用した電解アルカリ水溶液を10倍希釈したアルカリ電解水(pH12.5)を使用

【表1】
【表2】
なお、表中の「ND」は、検出限界未満を示す。
以上の結果、調製直後の確認試験において、実施例1に使用した希釈していない強アルカリ電解水は、平均で95%以上の、10倍希釈の強アルカリ電解水は67%程度のパクリタキセルを分解することが確認された。また、調製後4時間経過後の確認試験においては、希釈していない強アルカリ電解水、10倍希釈の強アルカリ電解水のいずれも、パクリタキセルを100%分解することが確認された。
【実施例0019】
実施例2を詳細に説明する。本願出願人は、実施例1の分解液AよりもpHがやや低い電解アルカリ水溶液(pH13.0)について、パクリタキセルに関する抗がん薬分解性能確認試験を実施したので、これについて説明する。
【0020】
当該試験は、シオノギファーマ株式会社(大阪府摂津市三島2丁目5番1号)を試験場所とし、2022年6月24日~7月7日に実施された。試験法は、LC/MS/MSを採用した。
まず、被検物質溶液の調製について、パクリタキセル100mgに生理食塩水5mLを加えて溶かしたものを原液(20mL)とし、原液1mLを正確に量り、精製水を加え、正確に20mLとする。さらに、この液5mLを正確に量り、精製水を加え、正確に50mLとし、被検物質溶液とした(100μg/mL)。
分解液Cとしては、本願に使用する電解アルカリ水溶液は、pH13.0の強アルカリ電解水9mLに、上述被検物質溶液1mLを加えて振り混ぜたものを試料溶液とする。この液を、調製後速やかに測定し、この操作を3回繰り返す。
対照溶液として、精製水9mLに、上述被検物質溶液1mLを加えて振り混ぜたものを試料溶液とする。この液を、調製後速やかに測定し、この操作を3回繰り返す。
以上の要領で調製した各分解溶液をLC/MS/MSを用いて測定した。そして、分解液Cについて、対照溶液と比較し、調製直後の分解効果を確認した。
当該確認試験の結果として、調製直後においては、表3に示すとおり、パクリタキセルに関して、分解液Cの平均分解率は88.8%であった。

試験調査内容:抗がん薬分解性能確認試験
試験受付番号:JF22-F006
試験場所:シオノギファーマ株式会社(大阪府摂津市三島2丁目5番1号)
試験日:2022年6月24日~7月7日
試験法:LC/MS/MS
検体:パクリタキセル
分解液C:本願に係る強アルカリ電解水(pH13.0)を使用
【表3】
以上の結果、調製直後の実施例2に係る確認試験において、実施例1に使用した分解液AよりもpHのやや低い強アルカリ電解水(pH13.0)は、88%程度のパクリタキセルを分解することが確認された。
【実施例0021】
実施例3について、詳細に説明する。
本願出願人は、本願に係る電解アルカリ水溶液について、ドセタキセルに関する抗がん薬分解性能確認試験を実施したので、これについて説明する。ドセタキセルとは、タキサン系の抗がん剤であって、イチイ科の植物成分を原料として半合成された化合物で、細胞が分裂する際に必要な細胞構成成分の一つである微小管を安定化および過剰発現させることにより、がん細胞の増殖を阻害する抗がん剤である。
【0022】
当該試験は、シオノギファーマ株式会社(大阪府摂津市三島2丁目5番1号)を試験場所とし、2021年4月21日~28日に実施された。試験法は、LC/MS/MSを採用した。
まず、被検物質溶液の調製について、ドセタキセル100mgに生理食塩水5mLを加えて溶かしたものを原液(20mL)とし、原液1mLを正確に量り、精製水を加え、正確に20mLとする。さらに、この液5mLを正確に量り、精製水を加え、正確に50mLとし、被検物質溶液とした(100μg/mL)。
分解液Aとしては、本願に使用する電解アルカリ水溶液は、強アルカリ電解水(pH13.5)9mLに、上述被検物質溶液1mLを加えて振り混ぜたものを試料溶液(分解液A)とする。
分解液Bとしては、上述の分解液Aに使用した電解アルカリ水溶液を10倍稀釈した溶液(pH12.5)9mLに、上述被検物質溶液1mLを加えて振り混ぜたものを試料溶液とする。なお、分解液Bは、一般的な清掃を想定し、分解液Aに使用した強アルカリ電解水を10倍稀釈した溶液(pH12.5)を使用している。
さらに、対照溶液として、精製水9mLに、上述被検物質溶液1mLを加えて振り混ぜたものを試料溶液とする。
これらの液を、調製後又は調製後4時間経過後に速やかに測定し、この操作を3回繰り返す。
以上の要領で調製した各分解溶液をLC/MS/MSを用いて測定した。そして、分解液Aと分解液Bについて、対照溶液と比較し、調製直後と調製後4時間経過後のそれぞれの分解効果を確認した。
当該確認試験の結果として、調製直後においては、表4に示すとおり、ドセタキセルに関して、分解液Aの平均分解率は95.0%、分解液Bにおいての平均分解率は69.1%であった。調製後4時間経過後においては、表5に示すとおり、希釈していない強アルカリ電解水、10倍希釈の強アルカリ電解水のいずれも、ドセタキセルの分解率は100%であった。

試験調査内容:抗がん薬分解性能確認試験
試験受付番号:JF21-D004
試験場所:シオノギファーマ株式会社(大阪府摂津市三島2丁目5番1号)
試験日:2021年4月21日~28日
試験法:LC/MS/MS
検体:ドセタキセル
分解液A:本願に係る強アルカリ電解水(pH13.5)を使用
分解液B:分解液Aに使用した電解アルカリ水溶液を10倍希釈したアルカリ電解水(pH12.5)を使用
【表4】
【表5】
なお、表中の「ND」は、検出限界未満を示す。
以上の結果、調製直後の確認試験において、実施例3に使用した希釈していない強アルカリ電解水は平均で95%以上の、10倍希釈の強アルカリ電解水は69%程度のドセタキセルを分解することが確認された。また、調製後4時間経過後の確認試験においては、希釈していない強アルカリ電解水、10倍希釈の強アルカリ電解水のいずれも、ドセタキセルを100%分解することが確認された。
【実施例0023】
実施例4を詳細に説明する。本願出願人は、実施例3の分解液AよりもpHがやや低い電解アルカリ水溶液(pH13.0)について、ドセタキセルに関する抗がん薬分解性能確認試験を実施したので、これについて説明する。
【0024】
当該試験は、シオノギファーマ株式会社(大阪府摂津市三島2丁目5番1号)を試験場所とし、2022年6月27日~7月7日に実施された。試験法は、LC/MS/MSを採用した。
まず、被検物質溶液の調製について、ドセタキセル100mgに生理食塩水5mLを加えて溶かしたものを原液(20mL)とし、原液1mLを正確に量り、精製水を加え、正確に20mLとする。さらに、この液5mLを正確に量り、精製水を加え、正確に50mLとし、被検物質溶液とした(100μg/mL)。
分解液Dとしては、本願に使用する電解アルカリ水溶液は、pH13.0の強アルカリ電解水9mLに、上述被検物質溶液1mLを加えて振り混ぜたものを試料溶液とする。この液を、調製後速やかに測定し、この操作を3回繰り返す。
対照溶液として、精製水9mLに、上述被検物質溶液1mLを加えて振り混ぜたものを試料溶液とする。この液を、調製後速やかに測定し、この操作を3回繰り返す。
以上の要領で調製した各分解溶液をLC/MS/MSを用いて測定した。そして、分解液Dについて、対照溶液と比較し、調製直後の分解効果を確認した。
当該確認試験の結果として、調製直後においては、表6に示すとおり、ドセタキセルに関して、分解液Dの平均分解率は89.2%であった。

試験調査内容:抗がん薬分解性能確認試験
試験受付番号:JF22-F007
試験場所:シオノギファーマ株式会社(大阪府摂津市三島2丁目5番1号)
試験日:2022年6月27日~7月7日
試験法:LC/MS/MS
検体:ドセタキセル
分解液D:本願に係る強アルカリ電解水(pH13.0)を使用
【表6】
以上の結果、調製直後の確認試験において、実施例3に使用した分解液AよりもpHのやや低い強アルカリ電解水(pH13.0)は、89%程度のドセタキセルを分解することが確認された。
【実施例0025】
実施例5について、詳細に説明する。本願出願人は、本願に係るアルカリ電解水とは別の抗がん剤分解液として、次亜塩素酸水溶液について、実施例1ないし4とは別の抗がん薬分解性能確認試験を実施したので、これについて説明する。
【0026】
当該試験は、シオノギファーマ株式会社(大阪府摂津市三島2丁目5番1号)を試験場所とし、2020年1月9日~2月12日に実施された。 試験法は、LC/MS/MSを採用した。なお、被検物質溶液については、パクリタキセルを選択した。
まず、被検物質溶液の調製について、パクリタキセル100mgに生理食塩水5mLを加えて溶かしたものを原液(20mL)とし、原液1mLを正確に量り、精製水を加え、正確に20mLとする。さらに、この液5mLを正確に量り、精製水を加え、正確に50mLとし、被検物質溶液とした(100μg/mL)。
分解液Eとしては、次亜塩素酸水溶液9mLに、上述被検物質溶液1mLを加えて振り混ぜたものを試料溶液とする。この液を、調製後速やかに測定し、この操作を3回繰り返す。
対照溶液として、精製水9mLに、上述被検物質溶液1mLを加えて振り混ぜたものを試料溶液とする。この液を、調製後速やかに測定し、この操作を3回繰り返す。
以上の要領で調製した各分解溶液をLC/MS/MSを用いて測定した。そして、分解液Eについて、対照溶液と比較し、被検物質溶液それぞれの分解効果を確認した。

試験調査内容:抗がん薬分解性能確認試験
試験受付番号:JF19-M011
試験場所:シオノギファーマ株式会社(大阪府摂津市三島2丁目5番1号)
試験日:2020年1月9日~2月12日
試験法:LC/MS/MS
検体:パクリタキセル
分解液E:次亜塩素酸水溶液を使用

以下に示す表7は、検体として選択したパクリタキセルの被検物質溶液の分解効果を示す。
【表7】
当該確認試験の結果として、表7に示すとおり、パクリタキセルに関して、分解液Aの平均分解率は1.3%であった。
【0027】
以上の結果、パクリタキセルについての次亜塩素酸水溶液の分解能はほとんど認められないことが確認された。
【0028】
以上、本発明に係る抗がん剤分解剤及びこれを用いた抗がん剤分解方法の実施例を説明してきたが、本発明の技術的範囲を逸脱することなく種々の変更が可能であることは理解されるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明に係る抗がん剤分解剤によれば、難水溶性の抗がん剤の一つであるタキサン系の抗がん剤、特にパクリタキセル等タキサン系の抗がん剤を無毒化し、安全かつ効率的に抗がん剤被爆防止を講ずることができるので、病院等の医療施設のみならず、高齢者施設や住居の居住空間やトイレ、また動物病院等における抗がん剤被爆防止に広く適用することができる。