(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000648
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】半導体装置及び半導体記憶装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/786 20060101AFI20231226BHJP
H01L 21/28 20060101ALI20231226BHJP
H01L 29/417 20060101ALI20231226BHJP
H10B 12/00 20230101ALI20231226BHJP
H01L 21/8234 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
H01L29/78 616V
H01L29/78 618B
H01L29/78 616U
H01L29/78 617K
H01L29/78 613B
H01L29/78 626A
H01L21/28 301B
H01L21/28 301R
H01L29/50 M
H01L27/108 671Z
H01L27/108 671A
H01L27/06 102A
H01L27/088 A
H01L27/108 651
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099458
(22)【出願日】2022-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河合 宏樹
【テーマコード(参考)】
4M104
5F048
5F083
5F110
【Fターム(参考)】
4M104AA03
4M104AA09
4M104BB02
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4M104HH20
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5F110NN02
5F110NN72
(57)【要約】
【課題】酸化物半導体からの酸素の引き抜きによる特性の低下を抑制することを可能にした半導体装置を提供することにある。
【解決手段】実施形態の半導体装置11は、酸化物半導体層15と、酸化物半導体層15上に設けられた酸化物導電体層17と、酸化物導電体層17上に設けられ、バナジウム酸化物を含む第1酸化物層18と、第1酸化物層18上に設けられた金属配線層19とを具備する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物半導体層と、
前記酸化物半導体層上に設けられた酸化物導電体層と、
前記酸化物導電体層上に設けられ、バナジウム酸化物を含む第1酸化物層と、
前記第1酸化物層上に設けられた金属配線層と
を具備する半導体装置。
【請求項2】
前記第1酸化物層は、
一般式:VOx
(式中、xは0<x≦3.5を満足する数である。)
で表される組成を有するバナジウム酸化物を含む、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記バナジウム酸化物は、1≦x≦2.5を満足する組成を有する、請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記第1酸化物層は、さらにHf、Zr、Ce、Ta、Sc、Y、Er、Ti、Nb、Dy、Sm、Si、Gd、Pr、La、W、Al、Eu、及びMoからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を含む、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第1酸化物層は、
一般式:V1-aMaOy
(式中、MはHf、Zr、Ce、Ta、Sc、Y、Er、Ti、Nb、Dy、Sm、Si、Gd、Pr、La、W、Al、Eu、及びMoからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素、aは0≦a<0.5を満足する数、yは0<y≦3.5を満足する数である。)
で表される組成を有するバナジウム含有酸化物を含む、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記バナジウム含有酸化物は、0<a<0.5を満足する組成を有する、請求項5に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記バナジウム含有酸化物は、1≦y≦2.5を満足する組成を有する、請求項5に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記第1酸化物層は、0.3nm以上5nm以下の厚さを有する、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記第1酸化物層は、アモルファス構造を有する、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項10】
さらに、前記第1酸化物層と前記金属配線層との間に配置され、窒化チタン、窒化タングステン、および窒化タンタルから選ばれる少なくとも1つを含む窒化物層を具備する、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項11】
さらに、前記窒化物層と前記金属配線層との間に配置され、バナジウム酸化物を含む第2酸化物層を具備する、請求項10に記載の半導体装置。
【請求項12】
前記酸化物半導体層は、第1方向に延伸していると共に、前記第1方向における第1端部と該第1端部とは反対側の第2端部とを有し、
前記酸化物半導体層の前記第1方向に延伸する外周面に沿って、絶縁膜を介して設けられた第1電極と、
前記酸化物半導体層の前記第1端部と電気的に接続するように設けられた第2電極と、
前記酸化物半導体層の前記第2端部と電気的に接続するように設けられ、前記酸化物導電体層を含む第3電極とを具備する、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項13】
請求項12に記載の半導体装置と、
前記半導体装置の前記第2電極又は前記第3電極と電気的に接続されたキャパシタと
を具備する半導体記憶装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、半導体装置及び半導体記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インジウム(In)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)等の金属元素の1種又は2種以上を含む金属酸化物からなる酸化物半導体をチャネル領域に用いた酸化物半導体トランジスタは、チャネルリーク電流が小さいという特性を有する。このような酸化物半導体トランジスタにおいては、熱工程により周辺の金属配線の還元反応で酸化物半導体から酸素が引き抜かれるという難点がある。酸化物半導体中の酸素の欠乏は、例えばトランジスタを微細化した際にトランジスタ動作に悪影響を及ぼす。そこで、酸化物半導体からの酸素の引き抜きを抑制することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2015/0279913号明細書
【特許文献2】米国特許第8664097号明細書
【特許文献3】特開2020-115556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、酸化物半導体からの酸素の引き抜きによる特性の低下を抑制することを可能にした半導体装置及び半導体記憶装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の半導体装置は、酸化物半導体層と、前記酸化物半導体層上に設けられた酸化物導電体層と、前記酸化物導電体層上に設けられ、バナジウム酸化物を含む第1酸化物層と、前記第1酸化物層上に設けられた金属配線層とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】第1の実施形態の半導体装置を示す断面図である。
【
図2】比較例の半導体装置の一部を示す断面図である。
【
図3】第1の実施形態の半導体装置の一部を拡大して示す断面図である。
【
図4】各種金属の酸素スカベンジ能の指標(d
av(In-O))を示す図である。
【
図5】各種金属の酸素スカベンジ能の指標(d
av(In-O))と各種金属の酸化物標準生成エンタルピー値(Δ
fH
0)との関係を示す図である。
【
図6】酸化バナジウム(VO及びV
2O
3)とタングステンとの積層モデルの電子状態を示す図である。
【
図7】酸化バナジウム(VO
2及びV
2O
5)とタングステンとの積層モデルの電子状態を示す図である。
【
図8】W中の酸素スカベンジ耐性(E
int)とV中の酸素スカベンジ耐性(E
int)を示す図である。
【
図9】酸化バナジウム(VO及びV
2O
3)とタングステンとの積層モデルにおける酸素スカベンジ能(d
av(O-V))を示す図である。
【
図10】酸化バナジウム(VO
2及びV
2O
5)とタングステンとの積層モデルにおける酸素スカベンジ能(d
av(O-V))を示す図である。
【
図11】タングステンと酸化インジウムとの積層モデルにおける酸素スカベンジ能(d
av(O-In))を示す図である。
【
図12】各種金属の酸化物標準生成エンタルピー値(Δ
fH
0)を示す図である。
【
図13】第2の実施形態の半導体装置を示す断面図である。
【
図14】第2の実施形態の半導体装置の変形例を示す断面図である。
【
図15】第3の実施形態の半導体記憶装置の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の半導体装置及び半導体記憶装置について、図面を参照して説明する。各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態の半導体装置としてのトランジスタ11を示している。トランジスタ11は、縦型トランジスタであって、ゲート電極がチャネル層を囲んで設けられている、いわゆるSurrounding Gate Transistor(SGT)である。
図1に示すトランジスタ11は、基板12、第1電極13としてのゲート電極、ゲート絶縁膜14、チャネル層としての酸化物半導体層15、第2電極16としてのソース電極、第3電極17としての酸化物導電体層からなるドレイン電極、第1酸化物層18、及び金属配線層19を備えている。
図1において、基板12の表面と平行に、かつ互いに交差(例えば直交)する2つの方向をX方向(第2方向)及びY方向(第3方向)、基板12の表面と交差(例えば直交)する方向をZ方向(第1方向)とする。
【0009】
図1に示すトランジスタ11において、半導体基板等の基板12上にはソース電極(第2電極)16が設けられている。ソース電極16上には、基板12の表面と交差するZ方向に延伸する酸化物半導体層15が設けられている。酸化物半導体層15は例えば円柱形状を有する。チャネル層としての酸化物半導体層15の底部がソース電極16と電気的に接している。ゲート絶縁膜14は、Z方向に延伸する酸化物半導体層15の外周面に沿って設けられている。ゲート電極(第1電極)13は、酸化物半導体層15の外周面を覆うように、ゲート絶縁膜14を介して設けられている。ドレイン電極(第3電極)17は、酸化物半導体層15の底部とは反対側の端部と電気的に接続するように設けられている。
【0010】
ドレイン電極17上には、第1酸化物層18が設けられている。第1酸化物層18上には、金属配線層19が設けられている。第1酸化物層18は、後に詳述するように、金属配線層19による酸化物半導体層15中の酸素の引き抜きを抑制する酸素バリア層であり、バナジウム酸化物(VOx)を含んでいる。ゲート電極13の周囲には、層間絶縁膜20が設けられている。なお、円柱形状の酸化物半導体層15に代えて、底部を有する円筒形状の酸化物半導体層15を適用してもよい。この構造では、底部を有する円筒形状の酸化物半導体層15の内部に酸化シリコン等の絶縁膜が充填される。酸化物半導体層15は、ソース電極16とドレイン電極17との間にZ方向、すなわちトランジスタ11の上下方向(各部の製造時における厚さ方向)に延伸するように設けられていればよく、これにより縦型トランジスタが構成される。
【0011】
チャネル層としての酸化物半導体層15には、各種の半導体特性を示す酸化物を用いることができ、特に限定されるものではない。酸化物半導体層15を構成する酸化物としては、例えばインジウム(In)及び錫(Sn)からなる群より選ばれる少なくとも1つの第1金属元素(ME1元素)と、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、及びケイ素(Si)からなる群より選ばれる少なくとも1つの第2金属元素(ME2元素)とを含む金属酸化物(ME1-ME2-O)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。そのような酸化物半導体の代表例としては、In-Ga-Zn-O(IGZO)やIn-Zn-O(IZO)等が挙げられる。
【0012】
ドレイン電極17には、酸化物導電体層が用いられる。ソース電極16についても、酸化物導電体層を用いることが好ましいが、これに限定されるものではない。ドレイン電極17やソース電極16に適用される酸化物導電体層の構成材料としては、例えばIn酸化物(In2O3)、Sn酸化物(SnO2)、InSn酸化物(InSnOx/ITO)、Zn酸化物(ZnO)、AlドープZn酸化物(ZnO:Al/AZO)、GaドープZn酸化物(ZnO:Ga/GZO)、InドープZn酸化物(ZnO:In/IZO)、SiドープZn酸化物(ZnO:Si/SZO)、FドープZn酸化物(ZnO:F/FZO)、Sb(Antimony)ドープSn酸化物(SnO2:Sb/ATO)、FドープSn酸化物(SnO2:F/FTO)、NbドープTi酸化物(TiO2:Nb/TNO)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
金属配線層19の構成材料としては、例えばタングステン(W)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)等やこれらを含む合金(W合金、Mo合金、Ti合金)等が用いられるが、これらに限定されるものではない。ゲート電極13は、金属、金属化合物、導電性酸化物、半導体等を含む。ゲート電極13は、例えばタングステン(W)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、タンタル(Ta)、アルミニウム(Al)等から選ばれる少なくとも1つの元素を含むことができる。ゲート電極13は、アルミニウムを主成分とするアルミニウム合金を含んでいてもよい。ゲート電極13は、窒化チタン(TiN)や窒化タンタル(TaN)等を含んでいてもよい。ゲート絶縁膜14は、シリコン酸化物(SiO)やシリコン窒化物(SiN)等を含むことができる。
【0014】
ところで、
図2に示すように、例えばIGZO(酸化物半導体層)15X上に設けられたITO(ドレイン電極)17X上に、W(金属配線層)19Xを直接配置した構造に対して、半導体装置の製造工程等で熱工程を施した場合、W19Xが酸化されやすいため、W19XがITO17Xを介してIGZO15Xから酸素を奪うことになる。ITO17X自体はIGZO15Xから酸素を奪わないものの、酸素を通しやすいため、W19XによりITO17Xを介してIGZO15Xから酸素が奪われる。IGZO15XのITO17Xとの界面領域に、IGZO15Xから酸素が奪われることによる酸素欠損領域が生じる。酸素欠損領域(低抵抗領域)の発生は、IGZO(酸化物半導体層)15Xの特性の低下要因となり、トランジスタの特性等を低下させることになる。
【0015】
上記したような状態に対して、例えばW19Xを予め酸化することによりIGZO15Xからの酸素の欠損を抑制することが可能になると考えられる。この際、W19Xを酸素量が少ない酸素含有雰囲気中で微酸化した場合には、IGZO15Xからの酸素の吸い込みを十分に抑制することができない。一方、W19Xを強力に酸化した場合、IGZO15Xからの酸素の吸い込みを抑制することが可能となる。ただし、そのような強力に酸化したWO
xは電気抵抗値が増加し、W(金属配線層)19Xとしての特性を損なうことになる。そこで、
図3に示すように、ITO17XとW19Xとの間に、IGZO15Xからの酸素の吸い込み(捕捉)を抑制するバリア膜18Xを配置することが考えられる。バリア膜18Xには、例えばそれ自体が酸化し、それ以上のW19Xの酸化によるIGZO15Xから酸素の引き抜きを抑制することが求められる。
【0016】
例えば、ITO17XとW19Xとの間にチタン酸化物(TiOx)膜等からなるバリア膜18Xを配置することが考えられるが、TiOx膜等はWOxと同様に電気抵抗値が高いため、トランジスタの特性を低下させるおそれがある。このような点に対して、ITO(酸化物導電体層)17XとW(金属配線層)19Xとの間に配置するバリア膜18Xの構成材料としては、酸化しやすい(酸素をスカベンジ(捕捉)しやすい)と共に、W19Xの酸化によりIGZO15Xから酸素が奪われることを抑制しうる金属を用いることが好ましく、かつそのような金属の酸化物の電気抵抗値が小さい材料を用いることが好ましい。
【0017】
図4にIn
2O
3(111)上に配置された各種金属の酸素スカベンジ能の指標(d
av(In-O))を示す。酸素スカベンジ能の指標(d
av(In-O))は、In-Oと金属酸化物との積層膜において、Inのz方向の平均座標(z
av(In))とOのz方向の平均座標(z
av(O))とから、下記の式(1)に基づいて温度500Kでアニールした後に評価した値である。この値を酸素スカベンジ能の指標とする。
d
av(In-O)=z
av(O)-z
av(In) …(1)
図4では、酸素スカベンジ能の指標(d
av(In-O))の大きさに基づいて、各種金属を便宜的に(A)群、(B)群、(C)群、(D)群の4つに分けている。
【0018】
図5に各種金属の酸化物標準生成エンタルピー値(Δ
fH
0)と酸素スカベンジ能の指標(d
av(In-O))との関係を示す。
図5に示すように、酸化物標準生成エンタルピー値(Δ
fH
0)と酸素スカベンジ能の指標(d
av(In-O))との間には相関があるため、酸素スカベンジ能の指標(d
av(In-O))は酸素の捕捉しやすさを示していることが分かる。従って、酸化物導電体層からなるドレイン電極17とW等からなる金属配線層19との間に配置するバリア膜には、
図4における酸素スカベンジ能が大きい(A)群の中から選ばれる金属を適用し、かつそのような金属の酸化物の電気抵抗値が小さい材料を用いることが好ましいことが分かる。
【0019】
図6及び
図7に、W(110)とVO
x(x=1.0、1.5、2.0、2.5)との積層モデルの電子状態を示す。
図6(A)はVO(x=1.0)とWとの積層モデルの電子状態、
図6(B)はV
2O
3(x=1.5)とWとの積層モデルの電子状態、
図7(A)はVO
2(x=2.0)とWとの積層モデルの電子状態、
図7(B)はV
2O
5(x=2.5)とWとの積層モデルの電子状態を示している。これらの図に示すように、VO
xの高酸素濃度化にしたがってバンドギャップが開き、その伝導帯下端はWのフェルミレベルに近づいていく。ただし、伝導帯下端がフェルミレベルよりも高いエネルギーになることはなく、VO
xはWの電子からみてトンネルバリアとして機能しない。これは、VO
xの電子親和力が大きいという特性に由来する。例えば、V
2O
5の電子親和力は7eV以下程度であり、そのため電子に対してトンネルバリアとして機能せず、トランジスタ11のオン抵抗の上昇に寄与しない。
【0020】
図8にWとVの酸素スカベンジ耐性を表すW中のエネルギー変化(E
int)とV中のエネルギー変化(E
int)とを示す。
図8(A)はどちらも体心立方(bcc)構造を有するWとVについて、安定な(110)面を切り出して積層した状態を示している。
図8(B)は、そのようなW及びVのランダムな位置に格子間酸素を存在させた際に、酸素がラジカルで存在するときを基準として、W及びV中におけるE
intを示している。
図8(B)に示されるように、W中のE
intの絶対値の最大値が2.4eVであるのに対し、V中のE
intの絶対値の最大値は7.3eVであり、V中の酸素はW中の酸素より安定であることが分かる。
【0021】
図9及び
図10に、酸化バナジウム(VO
x)とタングステンとの積層モデル(下層にW、上層にVO
xを積層)における酸素スカベンジ能(平均z座標の変位/d
av(O-V))を示す。ここでのd
av(O-V)は、温度500Kでアニールを実施した時間に対して評価されており、d
av(O-V)が時間の経過とともに減少する傾向である場合、VO
xのOはWにスカベンジされることを意味する。
図9は酸化バナジウム(VO及びV
2O
3)とタングステンとの積層モデルにおける酸素スカベンジ能(d
av(O-V))を、
図10は酸化バナジウム(VO
2及びV
2O
5)とタングステンとの積層モデルにおける酸素スカベンジ能(d
av(O-V))を示す。
図11に
図9及び
図10との比較のために、タングステンと酸化インジウム(In
2O
3)との積層モデルにおける酸素スカベンジ能(d
av(O-In)を示す。
図9及び
図10に示すように、VO
xは酸素が高濃度化しても、In
2O
3に比べてW側への酸素スカベンジが軽微であることが分かる。例えば、
図10(B)と
図11との比較から明らかなように、酸素が高濃度のV
2O
5(x=2.5)は僅かに酸素をスカベンジするが、In
2O
3と比較するとその量は小さいことが分かる。
【0022】
上述したように、酸化バナジウム(VOx)は酸化しやすいことに加えて、バナジウム(V)中の酸素はタングステン(W)中の酸素より安定であり、かつ酸化バナジウム(VOx)は酸化インジウム(In2O3)に比べてW側への酸素スカベンジが軽微であることが分かる。さらに、酸化バナジウム(VOx)は高酸素濃度化にしたがってバンドギャップが開いていく。ただし、そのVOxの伝導帯下端はWのフェルミレベルより低く、W側の電子からみてトンネルバリアが生じるほどではないため、トランジスタ11のオン抵抗の上昇に寄与しない。従って、酸化バナジウム(VOx)は酸素バリア膜としての第1酸化物層18の構成材料として好適であることが分かる。また、酸化バナジウム(VOx)は配線金属と比べて体積が小さいため、酸化バナジウム(VOx)が存在しない場合と比較して、酸化物半導体層15から酸素が引き抜かれる量を少なくすることができる。
【0023】
第1酸化物層18の構成材料としての酸化バナジウム(VOx)は、下記の式(2)で表される組成を有することが好ましい。
一般式:VOx …(2)
(式中、xは0<x≦3.5を満足する数である)
式(2)において、xが3.5を超えると酸化バナジウムが不安定になり、酸素バリア機能が低下するおそれがある。酸素バリア機能と低抵抗性とを高める上で、xは1以上2.5以下であることがより好ましい。
【0024】
実施形態のトランジスタ11においては、酸化物導電体層からなるドレイン電極17と金属配線層19との間に、酸素バリア膜として機能するバナジウム酸化物(VOx:0<x≦3.5)を含む第1酸化物層18を配置している。酸化物導電体層からなるドレイン電極17と金属配線層19との間に配置されたVOxを含む第1酸化物層18は、それ自体が酸化し、かつVOx中の酸素が安定であるため、W等からなる金属配線層19の酸化によるIGZO等からなる酸化物半導体層15からの酸素の引き抜きを抑制することができる。VOxを含む第1酸化物層18自体は低抵抗であるため、ドレイン電極17と金属配線層19との間に配置してもオン抵抗の上昇によるトランジスタ11特性の低下を抑制することができる。これらによって、酸化物半導体層15の酸化物導電体層17との界面領域に、酸化物半導体層15から酸素が奪われることによる酸素欠損領域の生成を抑えることができ、トランジスタ11の特性等の低下を抑制することが可能になる。
【0025】
酸素バリア膜として機能する第1酸化物層18は、バナジウム酸化物(VO
x:0<x≦3.5)に加えて、それ以外の金属酸化物を含んでいてもよい。そのような金属酸化物としては、電子親和力への影響が小さい範囲で、酸素との親和性を高めることができ、かつVO
xの低抵抗性を妨げない特性を有する材料を用いることが好ましい。
図12に各種金属の酸化物標準生成エンタルピー値(Δ
fH
0)を示す。
図12に示す金属は酸化物標準生成エンタルピー(Δ
fH
0)の絶対値がVより大きいか、もしくはVと同等のΔ
fH
0を有している。第1酸化物層18は、バナジウム酸化物(VO
x:0<x≦3.5)に加えて、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)、タンタル(Ta)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、エルビウム(Er)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、ジスプロシウム(Dy)、サマリウム(Sm)、ケイ素(Si)、ガドリニウム(Gd)、プラセオジウム(Pr)、ランタン(La)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、ユーロピウム(Eu)、及びモリブデン(Mo)からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物を含んでいてもよい。
【0026】
第1酸化物層18を構成する金属酸化物には、下記の式(3)で表される組成を有するバナジウム含有酸化物を用いることが好ましい。
一般式:V1-aMaOy …(3)
(式中、MはHf、Zr、Ce、Ta、Sc、Y、Er、Ti、Nb、Dy、Sm、Si、Gd、Pr、La、W、Al、Eu、及びMoからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素である)
式(3)において、aは0≦a<0.5を満足する数であり、さらに0<a<0.5を満足する数であってもよい。aが0.5以上であると、VOxによる低抵抗性等が損なわれるおそれがある。aは0.2以下であることがより好ましい。yは0<y≦3.5を満足する数であり、1≦y≦2.5を満足することがより好ましい。
【0027】
上記した式(3)を満足する組成を有するバナジウム含有酸化物を含む第1酸化物層18は、0.3nm以上5nm以下の膜厚を有することが好ましい。第1酸化物層18の膜厚が0.3nm未満であると、酸素バリア膜としての機能が低下するおそれがある。第1酸化物層18の膜厚が5nmを超えると、第1酸化物層18による酸素のスカベンジ量が増大しすぎ、酸素バリア膜としての機能が低下するおそれがある。さらに、バナジウム含有酸化物を含む第1酸化物層18は、アモルファス構造を有することが好ましい。第1酸化物層18が多結晶構造を有すると、結晶粒界を介して酸素が透過して酸素バリア機能が低下するおそれがあるのに対し、一様なアモルファス構造は酸素バリア機能に優れる。
【0028】
(第2の実施形態)
第2の実施形態の半導体装置について、
図13を参照して説明する。
図13は第2の実施形態の半導体装置としてのトランジスタ11を示している。トランジスタ11は、第1の実施形態のトランジスタ11と同様に、縦型トランジスタであって、ゲート電極がチャネル層を囲んで設けられているSGTであり、基本的な構成は第1の実施形態のトランジスタ11と同様である。第2の実施形態のトランジスタ11の第1の実施形態のトランジスタ11との違いは、第1酸化物層18と金属配線層19との間にバリア層として窒化物層21が配置されている点であり、これ以外は第1の実施形態と同様である。
【0029】
バリア層21は、窒化チタン(TiN)、窒化タングステン(WN)、および窒化タンタル(TaN)から選ばれる少なくとも1つを含む窒化物層であり、W等からなる金属配線層19の構成材料が第1酸化物層18や酸化物導電体層17に拡散することを抑制するものである。このようなバリア層21を適用する場合、
図14に示すように、バリア層21と金属配線層19との間に第2酸化物層22を配置してもよい。第2酸化物層22には、第1酸化物層18と同様に、バナジウム含有酸化物を用いることができる。具体的には、前述した式(3)で表される組成を有するバナジウム含有酸化物を用いることができる。その際、式(3)におけるaの値は0≦a<0.5であってもよいし、0<a<0.5であってもよい。
【0030】
(第3の実施形態)
図15は、第3の実施形態の半導体記憶装置を示している。
図15に示す半導体記憶装置は、複数のメモリセルアレイを有する。
図15はメモリセルアレイの回路構成例を説明するための回路図である。
図15に示す半導体記憶装置は、複数のメモリセルMCと、複数のワード線WL(ワード線WLn、ワード線WLn+1、ワード線WLn+2、nは整数)と、複数のビット線BL(ビット線BLm、ビット線BLm+1、ビット線BLm+2、mは整数)とを具備している。
【0031】
複数のメモリセルMCは、行列方向に配列され、メモリセルアレイを構成する。それぞれのメモリセルMCは、電界効果トランジスタ(FET)であるメモリトランジスタMTRと、メモリキャパシタMCPとを備える。メモリトランジスタMTRは、第1の実施形態又は第2の実施形態によるトランジスタ11を具備している。メモリトランジスタMTRのゲートは対応するワード線WLに接続され、ソース又はドレインの一方は対応するビット線BLに接続される。メモリキャパシタMCPの一方の電極はメモリトランジスタMTRのソース又はドレインの他方に接続され、他方の電極は図示しないが特定の電位を供給する電源線に接続される。メモリセルMCは、ワード線WLによるメモリトランジスタMTRのスイッチングによりビット線BLからメモリキャパシタMCPに電荷を蓄積してデータを保持する。複数のメモリセルMCの数は、
図15に示す数に限定されない。
【0032】
メモリキャパシタMCPは、いわゆるピラー型キャパシタ、シリンダー型キャパシタ等の3次元キャパシタであって、図示していないが、セル電極と絶縁膜と第1プレート電極と第2プレート電極とを有する。セル電極はメモリキャパシタMCPの第1電極として機能する。絶縁膜はメモリキャパシタMCPの誘電体層として機能し、セル電極と第1プレート電極との間に設けられる。第1プレート電極はメモリキャパシタMCPの第2電極として機能し、セル電極に対向して設けられる。第2プレート電極は、第1プレート電極に接続される。3次元キャパシタによりメモリセルの面積を小さくできる。
【0033】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0034】
11…トランジスタ、12…基板、13…第1電極、14…絶縁膜、15…酸化物半導体層、16…第2電極、17…第3電極、18…第1酸化物層、19…金属配線層、21…窒化物層、22…第2酸化物層、MC…メモリセル、MTR…メモリトランジスタ、MCP…メモリキャパシタ。