(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064801
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】車体の腐食予測方法、車体の腐食予測システム及び車体の腐食予測プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20240507BHJP
G06F 30/15 20200101ALI20240507BHJP
G06F 30/23 20200101ALI20240507BHJP
G01M 17/007 20060101ALN20240507BHJP
G06F 119/04 20200101ALN20240507BHJP
【FI】
G01N17/00
G06F30/15
G06F30/23
G01M17/007 Z
G06F119:04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173676
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】沈 建栄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 晃
【テーマコード(参考)】
2G050
5B146
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050AA05
2G050EB10
5B146AA05
5B146DJ07
5B146EA18
(57)【要約】
【課題】新たに設計される車両に対して精度よく車体の腐食予測を行うことができる車体の腐食予測方法、車体の腐食予測システム及び車体の腐食予測プログラムを提供する。
【解決手段】車体の腐食予測方法は、車体の形状を二次元メッシュで表した車体の形状モデルを構築する工程と、前記車体を取り囲む周辺領域を、三次元メッシュで表した周辺領域の形状モデルを構築する工程と、前記周辺領域の形状モデルの複数の多面体要素に、車体を腐食させる要因に関するデータを関連付ける工程と、前記多面体要素に関連付けされた腐食作用条件と、前記車体の形状モデルの板状要素が有する位置及び傾斜角に関するデータとから、前記板状要素ごとに、単位時間当たりの腐食度合いを算出する工程と、算出された前記単位時間当たりの腐食度合いに基づいて、所定期間経過後の車体の腐食度合いを算出する工程と、を含む。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐食予測を行う対象車両の車両データに基づき、車体の形状を該車体における位置及び傾斜角のデータを含む複数の板状要素により形成した二次元メッシュで表した車体の形状モデルを構築する車体形状モデル構築工程と、
前記車体を取り囲む周辺領域を、複数の多面体要素により形成した三次元メッシュで表した周辺領域の形状モデルを構築する周辺領域形状モデル構築工程と、
所定の地域にて所定の期間、前記車両を使用したと仮定した場合に前記車体を腐食させる要因に関するデータを前記周辺領域の形状モデルの前記複数の多面体要素に関連付ける関連付け工程と、
前記周辺領域の形状モデルの前記多面体要素に関連付けされた腐食作用条件と、前記車体の形状モデルの前記板状要素が有する位置及び傾斜角に関するデータとから、前記板状要素ごとに、単位時間当たりの腐食度合いを算出する単位時間腐食度合い算出工程と、
算出された前記単位時間当たりの腐食度合いに基づいて、所定期間経過後の車体の腐食度合いを算出する腐食度合い算出工程と、
を含むことを特徴とする車体の腐食予測方法。
【請求項2】
前記周辺領域の形状モデルは、前記車体の形状モデルに隣接する第1の周辺領域と、該第1の周辺領域を取り囲む第2の周辺領域と、を含み、
前記第2の周辺領域の前記三次元メッシュは、前記第1の周辺領域の前記三次元メッシュよりも体積の大きい多面体要素で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の車体の腐食予測方法。
【請求項3】
前記単位時間当たりの腐食度合いは、腐食速度であり、
前記単位時間腐食度合い算出工程において、
前記腐食速度は、係数と前記車体を腐食させる要因を表す変数と掛け合わせた項を加減算する多項式によって算出され、
前記係数は、前記板状要素ごとに、予め設定されたマトリックス表から選択されることを特徴とする請求項1又は2に記載の車体の腐食予測方法。
【請求項4】
腐食予測を行う対象車両の車両データと、所定の地域にて所定の期間、前記車両を使用したと仮定した場合に前記車体を腐食させる要因に関するデータを含む環境データと、を取得する取得部と、
車体の形状を該車体における位置及び傾斜角のデータを含む複数の板状要素により形成した二次元メッシュで表した車体の形状モデルを構築するとともに、前記車体を取り囲む周辺領域を、複数の多面体要素により形成した三次元メッシュで表した周辺領域の形状モデルを構築する形状モデル構築部と、
前記周辺領域の形状モデルの前記複数の多面体要素に、前記腐食させる要因に関するデータを関連付けて、該多面体要素に関連付けされた腐食作用条件と、前記車体の形状モデルの前記板状要素が有する位置及び傾斜角に関するデータとから、前記板状要素ごとに、単位時間当たりの腐食度合いを算出するとともに、算出された前記単位時間当たりの腐食度合いに基づいて、所定期間経過後の車体の腐食度合いを算出する演算部と、
を備えたことを特徴とする車体の腐食予測システム。
【請求項5】
情報処理装置によって読み取り可能に構成され、車体に生じる腐食度合いを予測する車体の腐食予測プログラムにおいて、
腐食予測を行う対象車両の車両データに基づき、車体の形状を該車体における位置及び傾斜角のデータを含む複数の板状要素により形成した二次元メッシュで表した車体の形状モデルを構築する車体形状モデル構築ステップと、
前記車体を取り囲む周辺領域を、複数の多面体要素により形成した三次元メッシュで表した周辺領域の形状モデルを構築する周辺領域形状モデル構築ステップと、
所定の地域にて所定の期間、前記車両を使用したと仮定した場合に前記車体を腐食させる要因に関するデータを前記周辺領域の形状モデルの前記複数の多面体要素に関連付ける関連付けステップと、
前記周辺領域の形状モデルの前記多面体要素に関連付けされた腐食作用条件と、前記車体の形状モデルの前記板状要素が有する位置及び傾斜角に関するデータとから、前記板状要素ごとに、単位時間当たりの腐食度合いを算出する単位時間腐食度合い算出ステップと、
算出された前記単位時間当たりの腐食度合いに基づいて、所定期間経過後の車体の腐食度合いを算出する腐食度合い算出ステップと、
を前記情報処理装置に実行させることを特徴とする車体の腐食予測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の使用によって車体に生じる腐食度合いを予測する車体の腐食予測方法、車体の腐食予測システム及び車体の腐食予測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両は、例えば高温多湿の環境下で長年使用されることにより、車体に錆が発生して腐食が生じる。車体の腐食耐性を向上させるため、従来は、使用後の車両を回収し、車体を分解して腐食箇所を調べる方法を採用していたが、車両の回収や分解のためのコストや時間がかかるという問題があった。
【0003】
車体分析のための費用や時間を削減するために、近年では、コンピュータを用いたシミュレーションによって車体の腐食予測を行う方法が開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、コンピュータに組み込まれたニューラルネットワークを用いた車体の腐食予測方法が記載されている。ニューラルネットワークは、自動車が使用されている環境の温度、水かかり量、湿度、塩分量、経過時間、走行距離、自動車とその周辺空間を所定間隔で区切った三次元のメッシュ空間の位置、及び、当該メッシュ空間位置に対応した車体区分を入力データとし、腐食量を出力データとする教師データによって予め学習されている。入力データにおいて、車体区分は、ドア、フロア、ボディサイド、フードなど、自動車を大局的に部位に区分している。
【0005】
この方法では、学習済みのニューラルネットワークに、腐食量を予測する自動車の環境の温度、水かかり量、湿度、塩分量、経過時間、走行距離、メッシュ空間位置、当該空間位置に対応した車体区分を入力し、学習済みニューラルネットワークから出力された結果を腐食量の予測値としてディスプレイに表示させる。このように、ニューラルネットワークを用いた車体の腐食予測方法では、使用後の車両を回収したり分解したりすることなく車体の腐食度合をコンピュータ上でシミュレーションすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、車体の形状が変更された場合に、形状変更に対応した精度の高い予測ができないという問題がある。例えば、雨水が車体に付着した場合、車体表面が垂直面に近い場合には雨水が重力に沿って流れ落ちるため車体に溜り難いが、水平面に近い場合には雨水が溜り易く、これにより腐食が生じやすくなる。
【0008】
特許文献1に記載の方法では、三次元メッシュ空間における位置によって腐食が生じる車体の位置は特定できても、この三次元メッシュ空間において車体の表面形状は特定されていないため、車体の形状変更により腐食の進行度合いにどのような違いが生じるかを適切に予測することができていない。それ故、新たに設計される車体など、教師データの無い車両に対して腐食度合いの予測を行う場合に、予測精度が低くなるという問題があった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、新たに設計される車両に対して精度よく車体の腐食予測を行うことができる車体の腐食予測方法、車体の腐食予測システム及び車体の腐食予測プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態の車体の腐食予測方法は、腐食予測を行う対象車両の車両データに基づき、車体の形状を該車体における位置及び傾斜角のデータを含む複数の板状要素により形成した二次元メッシュで表した車体の形状モデルを構築する車体形状モデル構築工程と、前記車体を取り囲む周辺領域を、複数の多面体要素により形成した三次元メッシュで表した周辺領域の形状モデルを構築する周辺領域形状モデル構築工程と、所定の地域にて所定の期間、前記車両を使用したと仮定した場合に前記車体を腐食させる要因に関するデータを前記周辺領域の形状モデルの前記複数の多面体要素に関連付ける関連付け工程と、前記周辺領域の形状モデルの前記多面体要素に関連付けされた腐食作用条件と、前記車体の形状モデルの前記板状要素が有する位置及び傾斜角に関するデータとから、前記板状要素ごとに、単位時間当たりの腐食度合いを算出する単位時間腐食度合い算出工程と、算出された前記単位時間当たりの腐食度合いに基づいて、所定期間経過後の車体の腐食度合いを算出する腐食度合い算出工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
また、上記目的を達成するために、本発明の一実施形態の車体の腐食予測システムは、腐食予測を行う対象車両の車両データと、所定の地域にて所定の期間、前記車両を使用したと仮定した場合に前記車体を腐食させる要因に関するデータを含む環境データと、を取得する取得部と、車体の形状を該車体における位置及び傾斜角のデータを含む複数の板状要素により形成した二次元メッシュで表した車体の形状モデルを構築するとともに、前記車体を取り囲む周辺領域を、複数の多面体要素により形成した三次元メッシュで表した周辺領域の形状モデルを構築する形状モデル構築部と、前記周辺領域の形状モデルの前記複数の多面体要素に、前記腐食させる要因に関するデータを関連付けて、該多面体要素に関連付けされた腐食作用条件と、前記車体の形状モデルの前記板状要素が有する位置及び傾斜角に関するデータとから、前記板状要素ごとに、単位時間当たりの腐食度合いを算出するとともに、算出された前記単位時間当たりの腐食度合いに基づいて、所定期間経過後の車体の腐食度合いを算出する演算部と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
また、上記目的を達成するために、本発明の一実施形態は、情報処理装置によって読み取り可能に構成され、車体に生じる腐食度合いを予測する車体の腐食予測プログラムにおいて、腐食予測を行う対象車両の車両データに基づき、車体の形状を該車体における位置及び傾斜角のデータを含む複数の板状要素により形成した二次元メッシュで表した車体の形状モデルを構築する車体形状モデル構築ステップと、前記車体を取り囲む周辺領域を、複数の多面体要素により形成した三次元メッシュで表した周辺領域の形状モデルを構築する周辺領域形状モデル構築ステップと、所定の地域にて所定の期間、前記車両を使用したと仮定した場合に前記車体を腐食させる要因に関するデータを前記周辺領域の形状モデルの前記複数の多面体要素に関連付ける関連付けステップと、前記周辺領域の形状モデルの前記多面体要素に関連付けされた腐食作用条件と、前記車体の形状モデルの前記板状要素が有する位置及び傾斜角に関するデータとから、前記板状要素ごとに、単位時間当たりの腐食度合いを算出する単位時間腐食度合い算出ステップと、算出された前記単位時間当たりの腐食度合いに基づいて、所定期間経過後の車体の腐食度合いを算出する腐食度合い算出ステップと、を前記情報処理装置に実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る車体の腐食予測方法、車体の腐食予測システム及び車体の腐食予測プログラムによれば、新たに設計される車両に対して精度よく車体の腐食予測を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る車体の腐食予測システムを示すブロック図である。
【
図2】車体形状モデル及び車体周辺領域形状モデルを示す斜視図である。
【
図3】
図2に示す形状モデルを平面的に示した説明図である。
【
図4】車体形状モデルを構成する板状要素を説明する斜視図である。
【
図5】腐食速度を算出する多項式に使用される係数のマトリックス表を示す図である。
【
図6】腐食予測方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る車体の腐食予測システム10を示すブロック図である。自動車等の車両は、長年の使用によって雨や塩分に晒されることで車体に腐食が生じる。腐食予測システム10は、このような車両の使用によって生じる車体の腐食度合いをコンピュータ上でシミュレーションすることにより予測するものである。車体腐食予測システム10は、情報処理装置である、マイクロコンピュータやパーソナルコンピュータ等の単一のコンピュータ、或いは、ネットワークを介して相互に接続される複数のコンピュータにより構成することができる。
【0016】
車体腐食予測システム10は、情報を入力する入力手段である入力装置12と、記憶手段である外部記憶装置14と、制御手段及び演算手段を構成している演算処理装置16と、表示手段である表示装置18と、を備える。
【0017】
入力装置12は、例えば、キーボード、マウス及び/又はタッチパネル等で構成することができる。外部記憶装置14は、演算処理装置16に接続される外部メモリであって、HDD(hard disk drive)やSSD(solid state drive)等の記憶装置で構成することができる。入力装置12及び/又は外部記憶装置14は、後述する車両データ及び環境データを取得する取得部を構成している。
【0018】
演算処理装置16は、マイクロコンピュータを含む計算機であり、情報処理部である中央処理装置(CPU)、記憶手段を構成するRAMやROM等の内部メモリ、及び、他の装置と交信するための入出力インターフェース等を備えている。演算処理装置16の情報処理部は、CPUに限られず、例えば、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、特定用途向け集積回路(ASIC)、特定用途向け標準製品(ASSP)、システムオンチップ(SOC)等とすることができる。
【0019】
この演算処理装置16は、内部メモリに記憶させた車体の腐食予測プログラム、外部記憶装置14を介して読み取り可能な記録媒体に記録された車体の腐食予測プログラム、或いは、図示していないネットワークや通信装置を介して外部からロードした車体の腐食予測プログラムをCPUで実行することができる。この腐食予測プログラムを実行するにより、演算処理装置16は、入力装置12で指示された予測対象である車両を疑似的に設定された車両使用地域の環境に晒して、車体に生じる腐食度合いをシミュレートする。
【0020】
演算処理装置16は、内部メモリである記憶部21と、形状モデル構築部22と、演算部24と、カウンタ部26と、を備えている。
【0021】
記憶部21は、入力装置12や外部記憶装置14を介して演算処理装置16内に取り込まれたデータを格納することができる。本実施形態では、入力装置12等を介して、腐食予測を行う対象車両に関するデータ(以下、「車両データ」とも称する)と、車両を使用する地域の環境に関するデータ(以下、「環境データ」とも称する)とが演算処理装置21に入力され、これらのデータが記憶部21に格納される。
【0022】
車両データは、車体の設計データ、車体部品の材料に関するデータ、車体を構成するパネル部材の表面に形成された電着塗膜や化成皮膜に関するデータ(例えば、塗膜や皮膜の成分、膜厚のデータ)などを含んでいる。環境データは、所定の地域にて所定の期間、車両を使用したと仮定した場合に、車体を腐食させる要因に関するデータを含んでいる。ここで、車体を腐食させる要因に関するデータとは、例えば、車両を使用する地域における、天気(例えば、気温、湿度、降水量、降雪量など)、道路上の融雪塩散布量、道路上の石の有無や石の量などのデータである。
【0023】
図2及び
図3に示すように、形状モデル構築部22は、車両データに基づいて、車体の形状を該車体における位置及び傾斜角のデータを含む複数の板状要素E
iにより形成した二次元メッシュで表した車体の形状モデル30(以下、「車体形状モデル30」とも称する)を構築する。また、形状モデル構築部22は、車体を取り囲む周辺領域を、複数の多面体要素P
iにより形成した三次元メッシュで表した周辺領域の形状モデル40(以下、「周辺領域形状モデル40」とも称する)を構築する。周辺領域の形状モデル40は、車体形状モデル30に隣接する第1の周辺領域42と、第1の周辺領域42を取り囲む第2の周辺領域44と、を含む。
【0024】
車体形状モデル30は、
図4に示すように、車体を構成する部品を有限要素法によって複数の板状要素E
i(i=1~Nの整数)に分割することで、二次元の数値計算モデルとして表したものである。板状要素E
iの表面形状は、三角形、四角形、その他の多角形を採用することができる。車体形状モデル30が有する各板状要素E
iの頂点では、節点ai(i=1~nの整数)が配置されており、節点aiごとに、X座標値、Y座標値及びZ座標値が特定されている。XYZ直交座標系は、解析対象に対する固定の座標系であり、本実施形態では、解析対象の車体が水平の状態で、Z軸が重力方向Gとなるように予め設定してある。
【0025】
車体形状モデル30の各板状要素Eiは、座標系による位置データとともに、外表面の重力方向Gに対する傾斜角が特定されている。各板状要素Eiは、XYZ直交座標系における位置データ及び傾斜角データに加え、厚さ(板厚)と、表面に形成された電着塗膜及び/又は化成皮膜に関するデータ(例えば、膜の成分、膜厚などのデータ)を保有している。
【0026】
周辺領域形状モデル40は、
図3に示すように、車体を囲む領域を複数の多面体要素P
i(i=1~Mの整数)に分割することで、三次元の数値計算モデルとして表したものである。各多面体要素の各頂点は、車体形状モデル30と同じXYZ直交座標系で、X座標値、Y座標値及びZ座標値が特定されており、これにより、各多面体要素の位置が特定できるように設定されている。なお、これとともに又はこれに代えて、各多面体要素に番号を付して、位置を特定する構成であってもよい。
【0027】
既述のとおり、周辺領域形状モデル40は、第1の周辺領域42と、第2の周辺領域44とを含んでおり、第2の周辺領域44の三次元メッシュは、第1の周辺領域42よりも粗いメッシュになるように、第1の周辺領域42の三次元メッシュよりも体積の大きい多面体要素Piで形成されている。以下の説明では、第1の周辺領域42を構成する多面体要素Piを「多面体要素P1i」、第2の周辺領域44を構成する多面体要素Piを「多面体要素P2i」とも称する。
【0028】
演算部24は、環境データを周辺領域形状モデル40の複数の多面体要素Piに関連付けし、多面体要素Piに関連付けされた腐食作用条件と、車体形状モデル30の板状要素Eiが有する位置及び傾斜角に関するデータとから、板状要素Eiごとに、単位時間当たりの腐食度合いを算出する。
【0029】
本実施形態では、環境データに基づいて、周辺領域形状モデル40の第2の周辺領域44の多面体要素P1iに腐食作用条件の設定をし、その後、この第2の周辺領域44の腐食作用条件に基づいて、第1の周辺領域42の多面体要素Piに、より詳細な腐食作用条件を設定している。第2の周辺領域44の多面体要素P2iには、車両の使用地域における天気データ(例えば、気温、湿度、降水量、降雪量などのデータ)及び路面データ(例えば、道路上に散布される融雪塩量、道路上の石の有無などのデータ)が腐食作用条件として設定される。第1の周辺領域42の多面体要素P1iには、第2の周辺領域44に設定された天気データ及び路面データに基づいて、車体形状モデル30に対する腐食要因の量及び腐食要因の進入速度に関するデータ(例えば、雨や雪の量、車体に当たる石の重量、雨や雪が車体に当たる速度、石が車体に当たる速度などのデータ)が腐食作用条件として設定される。
【0030】
また、本実施形態では、演算部24が、単位時間当たりの腐食度合いとして腐食速度を算出しており、単位時間を1日として、1日当たりの腐食速度(単位:mm/day)を板状要素Eiごとに算出している。1日当たりの腐食速度とは、腐食によって1日に減少する板厚の厚さである。なお、単位時間は1日に限られず、例えば3日や1ヶ月など、適宜設定することができる。
【0031】
演算部24による周辺領域形状モデル40の多面体要素Piへの環境データの関連付け、すなわち多面体要素Piに対する腐食作用条件の設定は、単位時間ごとに行われる。カウンタ部26は、演算部24によって全板状要素Eiの単位時間当たりの腐食速度の計算が完了するごとに、単位時間を加算していく。演算部24は、カウンタ部26によるカウント期間に基づいて、環境データから多面体要素Piに関連付けするデータを選択し、単位時間あたりの腐食速度を算出する。
【0032】
例えば、腐食予測を行う所定の期間を15年、単位時間と1日とした場合、まず、カウンタ部26は、単位時間である1日を加算する。演算部24は、カウンタ部26によるカウント期間に基づき、1日目の環境データを周辺領域形状モデル40の各多面体要素Piに関連付けし、関連付けられた腐食作用条件に基づいて、各板状要素Eiに対して1日目の腐食速度を算出する。腐食速度の算出が完了すると、カウンタ部26は、単位時間である1日を加算する。演算部24は、カウンタ部26によるカウント期間(2日)に基づいて、2日目の環境データを周辺領域形状モデル40の各多面体要素Piに関連付けし、関連付けられた腐食作用条件に基づいて、各板状要素Eiに対して2日目の腐食速度を算出する。このように、環境データに基づく条件付けと、この条件に基づく腐食速度の算出とを3日目、4日目、・・・、x日目と繰り返していき、15年分(すなわち5478日分)の腐食速度を算出する。別の例として、単位時間が3日である場合、演算部24は3日分の環境データを多面体要素Piに関連付けして、関連付けられた3日分の腐食作用条件に基づいて腐食速度を算出する。
【0033】
演算部24が算出する腐食速度は、例えば、係数と車体を腐食させる要因を表す変数と掛け合わせた項を加減算する多項式によって算出することができる。一例として、本実施形態では、以下の式(1)により腐食速度を算出している。
【0034】
腐食速度(単位:mm/day)=a0+(a1×T)+(a2×H)-(a3×Th1)-(a4×Th2)-(a5×E)-(a6×C)+(a7×Mw)+(a8×Ms)+(a9×Msn)+(a10×Tc)+(a11×M) ・・・式(1)
【0035】
式(1)において、a0~a11は係数である。また、式(1)において、Tは温度、Hは湿度、Th1は電着塗膜の膜厚、Th2は化成皮膜の膜厚、Eは電着塗膜の成分、Cは化成皮膜の成分、Mwは水量、Msは塩量、Msnは雪量、Tcは石が当たることによる傷量を示すチッピング率、Mは材料である。
【0036】
式(1)にて、温度T(単位:℃)、湿度H(単位:%)、水量Mw(板状要素Eiの表面に付着する水の厚さ、単位:mm)、塩量Ms(水分あたりの塩の濃度、単位:%)、雪量Msn(板状要素Eiの表面に付着する雪の厚さ、単位:mm)及びチッピング率Tc(石が板状要素Eiの表面に当たる割合、単位:%)は、環境データに基づいて、単位時間ごとに決定される。例えば、温度Tは一日の平均気温とすることができる。
【0037】
また、式(1)にて、電着膜厚Th1(単位:μm)、化成処理膜厚Th2(単位:μm)、電着塗膜の成分E、化成皮膜の成分C及び材料Mは、車両データに基づいて決定される。電着塗膜の成分E、化成皮膜の成分C及び材料Mは、質的変数とすることができる。例えば、電着塗膜の成分E及び化成皮膜の成分Cは、防錆性能が低い場合には「1」、防錆性能が高い場合には「1.2」とすることができる。材料Mは、鉄アルミ合金材料、樹脂材料などであり、例えば、自然電極電位により腐食が生じる鉄アルミ合金材料に対しては「1」、腐食が生じない樹脂材料に対しては「0」とすることができる。一つの板状要素Eiにおいて、膜厚Th1、膜厚Th2、成分E、成分C及び材料Mの値は、腐食予測期間の間、一定値としてもよい。
【0038】
各係数a
0~a
11の値は、板状要素E
iごとに、予め設定されたマトリックス表から選択される。
図5は、マトリックス表の例を示しており、大文字アルファベット順に小さい数値から大きい数値となっている。例えば、係数a
1では、a
1A<a
1B<a
1C<a
1D<a
1Eとなっている。
図5では、各係数a
0~a
11に対してA~Eの5つの数値が設定されているが、数値の数は5つに限られず、例えば、係数a
0に対しては1つ、係数a
1に対しては3つなど、係数ごとに数値の設定数が異なっていてもよい。このように、各係数a
1~a
11には、複数の数値が設定されており、車体モデル30における板状要素E
iの位置や傾斜角に応じて、マトリックス表から各係数a
1~a
11に対して数値が1つずつ選択される。例えば、板状要素E
10が車体下方にあり、表面の傾斜角が水平に近い場合、この板状要素E
10は、車体上方にある垂直な表面の板状要素E
20に比べて水が溜まりやすくなるため、水量Mwの係数a
8の値が大きくなる。このような場合に、演算部24は、式(1)中の係数a
8について、例えば、板状要素E
10に対して係数a
8Eを選択し、板状要素E
20に対して係数a
8B(a
8B<a
8E)を選択する。このように、係数a
0~a
11は、板状要素E
iの位置や傾斜角に応じてマトリックス表から選択される。
【0039】
図5のマトリックス表における各係数a
0~a
11の値は、予め行われた実験結果に基づいて設定される。実験から各係数a
0~a
11を設定する際には、式(1)において、各項の単位が「mm/day」となるようにa
0~a
11の次元が設定される。なお、式(1)において係数a
0は初期値であり、一例として「係数a
0=0」とすることができる。
【0040】
また、演算部24は、算出された単位時間当たりの腐食度合いに基づいて、所定期間経過後の車体の腐食度合いを算出する。具体的には、カウンタ部26によるカウント期間が所定期間に達するまで、演算部24は、単位時間当たりの腐食速度を算出し、これを所定期間分、合算する。これにより、各板状要素Eiにおける所定期間経過後の腐食度合いが算出され、所定期間経過後に、車体の各板状要素(すなわち、車体の各部位)について、どの程度、腐食が進んだかを求めることができる。
【0041】
演算処理装置16で算出された所定期間経過後の車体の腐食度合いのシミュレーションの結果は、表示装置18に表示される。表示装置18は、情報を視覚的に表示可能な装置であり、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、及び/又はブラウン管ディスプレイ等により構成することができる。
【0042】
次に、
図6に示すフローチャートを用いて、本実施形態の車体の腐食予測システム10による車体の腐食予測方法について説明する。
【0043】
まず、ステップS11では、入力装置12及び/又は外部記憶装置14によって、演算処理装置16に、各種の計算条件データが入力される(データ取得工程)。ここで、計算条件データは、上述した車両データと環境データとを含んでいる。
【0044】
次のステップS12では、入力された車両データに基づいて、形状モデル構築部22が、コンピュータ上に車体形状モデル30を構築する(車体形状モデル構築工程)。車体形状モデル30の各板状要素Eiには、板厚とともに、表面に形成された電着塗膜及び/又は化成皮膜の膜厚と成分のデータが関連付けられている。
【0045】
次のステップS13では、形状モデル構築部22が、コンピュータ上に、車体形状モデル30を取り囲む周辺領域形状モデル40を構築する(周辺領域形状モデル構築工程)。既述のとおり、周辺領域形状モデル40は、第1の周辺領域42と、第2の周辺領域44とを含んでいる。
【0046】
次のステップS14では、カウンタ部26のカウント期間tを初期値t0に設定する(t=t0)。本実施形態において初期値t0は、経過期間0日である。
【0047】
次のステップS15では、カウンタ部26のカウント期間に所定の単位時間Δtを加算する(t=t+Δt)。本実施形態では、単位時間である1日を加える。
【0048】
次のステップS16では、環境データを周辺領域形状モデル40の複数の多面体要素Piに関連付ける(関連付け工程)。具体的には、ステップS15でカウンタ部26に加えられた期間における環境データを周辺領域形状モデル40に関連付けして、周辺領域形状モデル40に腐食作用条件を設定する。既述のとおり、本実施形態では、周辺領域形状モデル40の第2の周辺領域44多面体要素P2iに、車両の使用地域における天気データ及び路面データが腐食作用条件のためのデータとして取り込まれる。そして、取り込まれた天気データ及び路面データに基づいて、車体形状モデル30に対する腐食要因の量及び腐食要因の進入速度が算出され、これらが第1の周辺領域42の多面体要素P1iに腐食作用条件として設定される。
【0049】
次のステップS17では、周辺領域形状モデル40の多面体要素Piに関連付けされた腐食作用条件と、車体形状モデル30の板状要素Eiが有する位置及び傾斜角に関するデータとから、演算部24が、板状要素Eiごとに腐食速度を算出する(単位時間腐食度合い算出工程)。本実施形態では、上述した式(1)によって、演算部24が一日当たりの腐食速度を算出する。
【0050】
全ての板状要素Eiに対する腐食速度の計算が終了すると、次のステップS18に移行し、演算処理装置16は、カウンタ部26によるカウント期間tが、腐食予測を行う所定期間tPに達しているか否かを判定する。例えば、腐食予測のための所定期間が15年(5478日)である場合、カウント期間tが5478日に達したか否かを判定する。所定期間tPに達していない場合(ステップS18:No)、ステップS15に移行して、カウント期間に単位時間Δtを加え、これに続くステップS16へ移行する。
【0051】
ステップS18において、カウントされた期間tが、所定期間tPに達している場合(ステップS18:Yes)、ステップS19に移行し、演算部24は、算出された単位時間当たりの腐食速度を所定期間tP分、合算することにより、各板状要素Eiに対する所定期間経過後の腐食度合いを算出する(腐食度合い算出工程)。例えば、腐食予測のための所定期間が15年(5478日)である場合、1日目から5478日目までの腐食速度を合算して、5478日経過後の腐食量を算出する。これにより、15年経過後に車体の各部位に生じる腐食量、すなわち、車体を構成するパネル部品の板厚が減少する量を算出することができる。
【0052】
次のステップS20では、所定期間tP経過後の車体の腐食量のシミュレーション結果、すなわち車体の腐食予測結果を表示装置18に表示させる。
【0053】
上述したように、本実施形態の腐食予測方法によれば、コンピュータ上に車体形状モデル30及び周辺領域形状モデル40を構築し、車体を腐食させる腐食作用条件を周辺領域形状モデル40の各多面体要素Piと関係づけてデータ化することにより、車体形状モデル30の板状要素Eiごとに腐食速度を算出することができる。車体形状モデル30の各板状要素Eiには、それぞれ、車体における位置や傾斜角のデータが設定されているので、板状要素Eiごとに環境が考慮された腐食状況が把握できる。そして、板状要素Eiごとに所定の単位時間当たりの腐食度合いを算出することで、車両の使用環境の変化に応じた腐食速度を得ることができ、これに基づいて、所望する期間経過後の車体の腐食度合いを算出することで、車体腐食量を精度よく予測することが可能となっている。これにより、新たに設計する車体など、車体の形状に変更が生じた場合でも、車体の腐食度合いを高い精度で予測することができる。
【0054】
また、本実施形態の腐食予測方法では、周辺領域形状モデル40を2つの周辺領域に区分しており、第2の周辺領域44に、車両使用地域の天気データ及び路面データが取り込まれ、車体に近接する第1の周辺領域42では、天気データ及び路面データに基づいた腐食要因の量や進入速度のデータが腐食作用条件として設定される。この際、第2の周辺領域44は、第1の周辺領域42よりも体積の大きい多面体要素で構成されているため、演算処理時のデータ量を抑えることができる。また、第1の周辺領域42では、データ量を多くして、腐食予測精度を向上させることができる。このように、周辺領域形状モデル40をメッシュの粗さが異なる領域に分けて、データ量を変えることで、腐食予測精度を高めながら、全体のデータ量が増大化することを抑えて演算処理時間を短縮することができる。
【0055】
また、車体の形状に変更が生じた場合には、周辺領域形状モデル40の第2の周辺領域44のデータを変えることなく、第1の周辺領域42と車体形状モデル30のデータのみを変更して車体の腐食予測を実施することができる。そのため、同じ使用環境下で形状の異なる複数種の車両の腐食予測を行う場合に、第2の周辺領域44における腐食作用条件を併用して、演算処理時間を短縮化することも可能である。
【0056】
また、本実施形態の腐食予測方法において、腐食速度は、係数と腐食させる要因の量、すなわち数値と数値とを掛け合わせた項を腐食要因ごとに加減算した多項式によって算出されるので、簡易な計算によって腐食速度を算出することができる。多項式内の各係数a0~a11は、板状要素Eiごと、すなわち車体における位置や傾斜角によって異なる腐食の生じ易さに応じて、予め設定されたマトリックス表から選択されるので、腐食予測精度を高く維持しながら、腐食速度の演算式を簡易化して、計算処理時間を短縮することができる。
【0057】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0058】
例えば、上述した実施形態では、周辺領域形状モデル40を第1及び第2の周辺領域42,44の2つの領域に区分して、各周辺領域42,44に対して腐食作用条件の設定を行っているが、領域を区分せずに環境データに基づく条件設定を行うことも可能である。
【符号の説明】
【0059】
10 腐食予測システム
12 入力装置
14 外部記憶装置
16 演算処理装置
18 表示装置
21 記憶部
22 形状モデル構築部
24 演算部
26 カウンタ部
30 車体の形状モデル
40 周辺領域の形状モデル
42 第1の周辺領域
44 第2の周辺領域
ai 節点
Ei 板状要素
Pi 多面体要素
P1i 第1の周辺領域の多面体要素
P2i 第2の周辺領域の多面体要素