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特開2024-64822冷間圧延方法、鋼板の製造方法、冷間圧延設備及び鋼板の製造設備
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064822
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】冷間圧延方法、鋼板の製造方法、冷間圧延設備及び鋼板の製造設備
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/58 20060101AFI20240507BHJP
   B21B 37/38 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
B21B37/58 B
B21B37/38 Z
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173723
(22)【出願日】2022-10-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】青江 信一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤田 昇輝
(72)【発明者】
【氏名】藤沢 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】沼澤 義典
(72)【発明者】
【氏名】原田 悦充
(72)【発明者】
【氏名】松原 行宏
(72)【発明者】
【氏名】吉田 翔
【テーマコード(参考)】
4E124
【Fターム(参考)】
4E124AA02
4E124BB01
4E124DD02
4E124EE01
4E124EE16
4E124GG05
(57)【要約】
【課題】破断の発生を抑止できる冷間圧延方法、鋼板の製造方法、冷間圧延設備及び鋼板の製造設備が提供される。
【解決手段】冷間圧延方法は、圧延対象材に冷間圧延を施す冷間圧延機(10)の出側における冷間圧延後の圧延対象材の伸び差率分布の非対称成分の指標に基づいて冷間圧延機のレベリング目標値を算出する工程と、レベリング目標値に基づいて冷間圧延機のレベリング制御を行う工程と、を含み、伸び差率分布の非対称成分の指標は、伸び差率分布と奇関数との相関に基づき算出されるものであって、奇関数は1次冪関数と0次より大きい絶対値の冪関数の積により算出される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延対象材に冷間圧延を施す冷間圧延機の出側における冷間圧延後の前記圧延対象材の伸び差率分布の非対称成分の指標に基づいて前記冷間圧延機のレベリング目標値を算出する工程と、
前記レベリング目標値に基づいて前記冷間圧延機のレベリング制御を行う工程と、を含み、
前記伸び差率分布の非対称成分の指標は、前記伸び差率分布と奇関数との相関に基づき算出されるものであって、前記奇関数は1次冪関数と0次より大きい絶対値の冪関数を乗じて得られる、冷間圧延方法。
【請求項2】
前記奇関数は3次冪関数である、請求項1に記載の冷間圧延方法。
【請求項3】
前記冷間圧延機は複数のスタンドを備え、
3次以上の高次相関に基づく前記レベリング制御は、前記複数のスタンドのうち、最終スタンドを除く全てのスタンドにおいて実行される、請求項1に記載の冷間圧延方法。
【請求項4】
前記非対称成分の指標において、前記圧延対象材のOP側とDR側の形状差が20I-unit以下となるように前記レベリング目標値が算出される、請求項1に記載の冷間圧延方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の冷間圧延方法によって前記圧延対象材として鋼板を冷間圧延する冷間圧延工程を含む、鋼板の製造方法。
【請求項6】
圧延対象材に冷間圧延を施す冷間圧延機と、
前記冷間圧延機の出側における冷間圧延後の前記圧延対象材の伸び差率分布の非対称成分の指標に基づいて前記冷間圧延機のレベリング目標値を算出して、前記レベリング目標値に基づいて前記冷間圧延機のレベリング制御を行う制御部と、を備え、
前記伸び差率分布の非対称成分の指標は、前記伸び差率分布と奇関数との相関に基づき算出されるものであって、前記奇関数は1次冪関数と0次より大きい絶対値の冪関数を乗じて得られる、冷間圧延設備。
【請求項7】
前記奇関数は3次冪関数である、請求項6に記載の冷間圧延設備。
【請求項8】
前記冷間圧延機は複数のスタンドを備え、
3次以上の高次相関に基づく前記レベリング制御は、前記複数のスタンドのうち、最終スタンドを除く全てのスタンドにおいて実行される、請求項6に記載の冷間圧延設備。
【請求項9】
前記非対称成分の指標において、前記圧延対象材のOP側とDR側の形状差が20I-unit以下となるように前記レベリング目標値が算出される、請求項6に記載の冷間圧延設備。
【請求項10】
請求項6から9のいずれか一項に記載の冷間圧延設備を備え、前記冷間圧延設備によって前記圧延対象材として鋼板を冷間圧延する、鋼板の製造設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、冷間圧延方法、鋼板の製造方法、冷間圧延設備及び鋼板の製造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、冷延薄鋼鈑等の圧延対象材(以下、単に「圧延材」とも称する)を冷間圧延する際に、圧延材の通板性を安定化させた状態で冷間圧延が行われることが望ましい。圧延材の通板性は、圧延材の長手方向及び幅方向の厚み精度を良好に保ちながら圧延材の形状(又は平坦度)を良好にすることにより安定化する。一方で、軽量化による燃費抑制等を目的として、高負荷、且つ、圧延前板厚の薄い薄物硬質材等の難圧延材のニーズが高まっている。このような難圧延材は、冷間圧延時の圧延負荷を抑えるために、冷間圧延の前工程の熱間圧延で薄引きされた後に冷間圧延工程に送られる。
【0003】
ところで、難圧延材は、熱間圧延時の形状不良に起因したコイル先尾端の曲がりが残存した状態で次コイルと接合される場合がある。そのような接合部を冷間圧延する場合、冷間圧延機のロールギャップ、レベリング、ベンダー、中間ロールシフトなどに対する変動が自動制御によって吸収できない。そのため、冷間圧延後の圧延材の形状が悪かったり、冷間圧延中に板破断したりする可能性がある。
【0004】
近年、冷間圧延機の制御因子の多くは冷間圧延機に搭載されたアクチュエータによって自動制御される。例えば特許文献1に示すように、圧延機出側に形状計を設置し、形状計の形状データ(伸び差率分布)の対称成分と非対称成分を算出し、非対称成分で圧延機のレベリングを、対称成分でベンダーを自動制御する形状フィードバック(FB)制御が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-156419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
破断の発生を抑止するためには、幅端付近のユニット張力の張りを小さくし、幅端付近の非対称性を小さくする必要がある。しかしながら特許文献1のような1次冪関数の相関で表される非対称成分の指標では、幅中央部の伸び差率に影響されて、幅端付近の非対称成分をうまく制御できない。
【0007】
本開示の目的は、破断の発生を抑止できる冷間圧延方法、鋼板の製造方法、冷間圧延設備及び鋼板の製造設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本開示の一実施形態に係る冷間圧延方法は、
圧延対象材に冷間圧延を施す冷間圧延機の出側における冷間圧延後の前記圧延対象材の伸び差率分布の非対称成分の指標に基づいて前記冷間圧延機のレベリング目標値を算出する工程と、
前記レベリング目標値に基づいて前記冷間圧延機のレベリング制御を行う工程と、を含み、
前記伸び差率分布の非対称成分の指標は、前記伸び差率分布と奇関数との相関に基づき算出されるものであって、前記奇関数は1次冪関数と0次より大きい絶対値の冪関数を乗じて得られる。
【0009】
(2)本開示の一実施形態として、(1)において、
前記奇関数は3次冪関数である。
【0010】
(3)本開示の一実施形態として、(1)又は(2)において、
前記冷間圧延機は複数のスタンドを備え、
3次以上の高次相関に基づく前記レベリング制御は、前記複数のスタンドのうち、最終スタンドを除く全てのスタンドにおいて実行される。
【0011】
(4)本開示の一実施形態として、(1)から(3)のいずれかにおいて、
前記非対称成分の指標において、前記圧延対象材のOP側とDR側の形状差が20I-unit以下となるように前記レベリング目標値が算出される。
【0012】
(5)本開示の一実施形態に係る鋼板の製造方法は、
(1)から(4)のいずれかの冷間圧延方法によって前記圧延対象材として鋼板を冷間圧延する冷間圧延工程を含む。
【0013】
(6)本開示の一実施形態に係る冷間圧延設備は、
圧延対象材に冷間圧延を施す冷間圧延機と、
前記冷間圧延機の出側における冷間圧延後の前記圧延対象材の伸び差率分布の非対称成分の指標に基づいて前記冷間圧延機のレベリング目標値を算出して、前記レベリング目標値に基づいて前記冷間圧延機のレベリング制御を行う制御部と、を備え、
前記伸び差率分布の非対称成分の指標は、前記伸び差率分布と奇関数との相関に基づき算出されるものであって、前記奇関数は1次冪関数と0次より大きい絶対値の冪関数を乗じて得られる。
【0014】
(7)本開示の一実施形態として、(6)において、
前記奇関数は3次冪関数である。
【0015】
(8)本開示の一実施形態として、(6)又は(7)において、
前記冷間圧延機は複数のスタンドを備え、
3次以上の高次相関に基づく前記レベリング制御は、前記複数のスタンドのうち、最終スタンドを除く全てのスタンドにおいて実行される。
【0016】
(9)本開示の一実施形態として、(6)から(8)のいずれかにおいて、
前記非対称成分の指標において、前記圧延対象材のOP側とDR側の形状差が20I-unit以下となるように前記レベリング目標値が算出される。
【0017】
(10)本開示の一実施形態に係る鋼板の製造設備は、
(6)から(9)のいずれかの冷間圧延設備を備え、前記冷間圧延設備によって前記圧延対象材として鋼板を冷間圧延する。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、破断の発生を抑止できる冷間圧延方法、鋼板の製造方法、冷間圧延設備及び鋼板の製造設備を提供することができる。また、破断の発生が抑止されることによって、安定性、生産性に優れる鋼板の製造が可能になる。圧延対象材(特に高負荷、且つ、圧延前板厚の薄い難圧延材)を冷間圧延する際にも、冷間圧延の安定性を確保しつつ、歩留よく冷間圧延をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る冷間圧延方法を行う冷間圧延設備の構成例を示す模式図である。
図2図2は、出側形状の伸び差率分布の例を示す図である。
図3図3は、レベリング制御のブロック図を示す図である。
図4図4は、形状Λ1の変化を例示するグラフである。
図5図5は、レベリング制御出力の変化を例示するグラフである。
図6図6は、std-1のレベリング変更量を例示する図である。
図7図7は、std-1の出側の伸び差率分布を例示する図である。
図8図8は、std-1のレベリング変更量を例示する図である。
図9図9は、誤差の周波数とレベリング更新量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本開示の一実施形態に係る冷間圧延方法、鋼板の製造方法、冷間圧延設備及び鋼板の製造設備が説明される。各図中、同一又は相当する部分には、同一符号が付されている。本実施形態の説明において、同一又は相当する部分については、説明を適宜省略又は簡略化する。
【0021】
図1は、本実施形態に係る冷間圧延方法を行う冷間圧延設備の構成例を示す。本実施形態において、冷間圧延設備は鋼板の製造設備の一部であって、圧延対象材である鋼材(鋼板)を冷間圧延する。換言すると、本実施形態に係る冷間圧延方法は、鋼板の製造方法において圧延対象材を冷間圧延する冷間圧延工程として用いられる。
【0022】
図1において、右手側が圧延対象材の搬送方向上流側であり、左手側が圧延対象材の搬送方向下流側である。図1に示す連続冷間圧延機(冷間圧延機10)は対象材に冷間圧延を施す機械であって、N個のスタンド(std-1~std-N)を有して構成されている。Nは1以上の整数であって、例えば5である。すなわち冷間圧延機10は複数のスタンドを備える。各スタンドには、出側(下流側)に形状計30(図1の30-1~30-N)が設置されている。形状計30は幅方向に分割された荷重計である。荷重計は鋼板から受ける垂直抗力を測定し、垂直抗力から幅方向の伸び差率分布を算出する。図2は出側形状の伸び差率分布の例を示す。伸び差率分布はI-unitを単位として示されており、正が伸び、負が張りを表す。伸び差率は、ある長手方向の区間で鋼板曲面に沿った長さとその幅方向での平均値の差をその平均値の差で割った値で定義される。I-unitは伸び差率に10を掛けた値である。また、図2の横軸において左側がOP側(オペレータ側)、右側がDR側(ドライブ側)である。
【0023】
また、各スタンドには、冷間圧延機10の制御を行う制御部20(図1の20-1~20-N)が設置されている。本実施形態において、制御部20は、形状計30からの伸び差率分布を入力し、レベリングとベンダー荷重の目標値を出力する。以下において、冷間圧延機10のレベリングについての制御はレベリング制御と称される。
【0024】
図3はレベリング制御のブロック図を示す。図3における矢印はデータの流れを示す。また、「i」は図1の1~Nのいずれかに対応する。すなわち、本実施形態におけるレベリング制御は、複数のスタンド(std-1~std-N)の全てのスタンドにおいて実行される。
【0025】
制御部20-iは、概要として、冷間圧延機10(std-i)の出側における冷間圧延後の圧延対象材の伸び差率分布の非対称成分の指標に基づいて冷間圧延機10(std-i)のレベリング目標値を算出する。そして、制御部20-iは、レベリング目標値に基づいて冷間圧延機10(std-i)のレベリング制御を行う。以下に、レベリング目標値を算出する処理の詳細が説明される。ここで、以下において、スタンドの順番によらない処理の説明については、「i」又は「N」などの添え字を付さない。例えば制御部20-iは、単に制御部20と表記される。
【0026】
まず、制御部20は、形状計30からの伸び差率分布を入力し、以下の式(1)で示される評価関数Jで評価した。
【0027】
【数1】
【0028】
制御部20は、評価関数Jを最小とするようなレベリング更新量(Δl)とベンダー更新量(Δb)を探索して求める。ここで、xは正規化された幅方向位置である。eはベンダー影響係数である。eはレベリング影響係数である。kは形状偏差(出側形状と目標形状との差)である。図3に示すように、制御部20はレベリング更新量を積分(PI制御)してレベリング目標値を算出する。そして、制御部20はレベリング目標値に基づいて冷間圧延機10のレベリング制御を行う。レベリング制御の目的は、図2の出側形状を左右対称にするようなレベリング目標値を算出することである。
【0029】
式(1)からレベリング更新量とベンダー更新量を、解析的に求めることができる。レベリング更新量(Δl)は以下の式(2)で計算される。また、ベンダー更新量(Δb)は以下の式(3)で計算される。
【0030】
【数2】
【0031】
式(2)の右辺分子は、それぞれ関数であるkとxの相関である。相関とは類似度の指標であり、相関が大きいほど、関数同士が類似していることになる。この例において、関数xは1次冪関数であるため、形状偏差kの1次相関と呼ぶことにする。レベリング更新量は、形状偏差kの1次相関であり、制御で認識される非対称成分の指標である。形状の非対称成分と対称成分の制御がおのおの独立であり、出側形状の1次相関を非対称性の指標としており、式(1)は標準的なレベリング制御則、つまり従来手法である。
【0032】
ここで、レベリング制御の不具合事例が説明される。図4は形状Λ1のグラフであり、横軸が時間、縦軸が形状Λ1である。横軸の1目盛りが10秒である。また、縦軸の形状Λ1の単位はI-unitである。形状Λ1は、伸び差率分布を最小二乗法による6次多項式関数で近似し、近似した関数に基づいて求めたOP側とDR側との差である。換言すると、形状Λ1は、圧延対象材のOP側とDR側の形状差である。
【0033】
ここで、不具合事例としてstd-1(最上流のスタンド)の形状Λ1がゼロにならずに、std-1とstd-2の間で破断が発生したとする。このような不具合が生じる場合に、レベリング制御出力は例えば図5のようになる。図5の縦軸のレベリングは、制御部20から出力されるレベリングの変更量を意味しており、レベリング目標値に対応する。単位はμmである。図5の横軸は図4と同じである。図5の例では、std-1の出側形状がOP伸びなので、レベリング制御出力はDR閉じ方向に動かないといけない。しかし、std-1のレベリング制御出力はDR閉じ気味に動いているもののその動きが遅く、出側形状の非対称性を修正しきれていない。ここで、OP伸びとは、圧延対象材がOP側で伸びている状態をいう。DR伸びは、DR側について同様であることをいう。また、DR閉じとは、DR側のワークロールギャップを狭くすることであって、結果的にOP伸びにすることをいう。OP閉じは、OP側について同様であることをいう。
【0034】
図6は、この不具合事例におけるstd-1のレベリング変更量を示す。図6における「探索」は式(2)で表されるstd-1のレベリング更新量を示す。また、図6における「出力」はstd-1のレベリング制御出力を示す。レベリング更新量は、どちらかといえばOP伸びであるが、形状Λ1ほど明らかにOP伸びを示していない。
【0035】
また図7は、この不具合事例におけるstd-1の出側の伸び差率分布を示す。縦軸及び横軸は、図2と同様である。人間がみると、明らかにOP伸びであると認知できるが、式(2)の1次相関で表されるレベリング更新量は、図7のような伸び差率分布に対してもOP伸びとならず、ほとんど伸び無しとなってしまう。ここで、各グラフの上部には、破断までの時間が示されている。
【0036】
ここで、伸び差率近似曲線のOP側とDR側の差で算出される形状Λ1は、人間が認識する非対称性と比較的近いことが知られている。また、図7の分布形状からわかるように幅端の情報を重視する必要があることがわかる。
【0037】
以上の検討に基づき、以下の式(4)の評価関数Jが用いられた。この場合に、レベリング更新量(Δl)は以下の式(5)で計算され、右辺の分子を3次相関にすることができる。
【0038】
【数3】
【0039】
図8はレベリング更新量を3次相関とした場合のstd-1のレベリング変更量を示す。図6と同様に、「探索」がstd-1のレベリング更新量を示し、「出力」がstd-1のレベリング制御出力を示す。図8では、レベリング更新量がOP伸びとなり、改善されていることがわかる。また、レベリング制御出力はDR閉じ方向となっている。
【0040】
ここで、上記の実施形態では、伸び差率分布に奇関数として3次冪関数を乗じて3次相関としたが、3次以外の高次の相関で考えることができる。一般に、評価関数Jを以下の式(6)とすることができる。この場合に、レベリング更新量(Δl)は以下の式(7)で計算され、右辺の分子をp次相関にすることができる。pは1以上の実数である。ただし、pが1の場合には従来の手法に対応する。
【0041】
【数4】
【0042】
つまり奇関数は、1次冪関数と0次より大きい絶対値の冪関数を乗じて得られて、p次相関とすることができる。より高次の相関を用いれば、形状Λ1により近づける(すなわち、人間が認識する非対称性に近づける)ことができるが、形状計30の誤差影響を受けやすくなる。ここで、式(7)において、形状偏差kを測定誤差モデルsin(ωx)とすると、レベリング更新量の誤差影響は以下の式(8)とすることができる。
【0043】
【数5】
【0044】
ここで、レベリング影響係数(e)を1とし、ωはモデル化された誤差の周波数である。ωが大きいほど、波長の短い、高周波の誤差となる。また、レベリング更新量をωの関数とみなして、式(8)を以下の式(9)に変形することができる。ここで、Fは超幾何関数である。
【0045】
【数6】
【0046】
図9は誤差の周波数(ω)とレベリング更新量(Δl)の関係を示す。図9の横軸は誤差の周波数ω(単位無し)である。図9の次数が大きくなるほど高周波の誤差の影響を受けやすくなることがわかる。
【0047】
3次相関に基づくレベリング制御を少なくとも最上流スタンドに適用し、好ましくは最終スタンド以外の上流側の4スタンドに適用して、最終スタンドに1次相関に基づくレベリング制御を適用するのがよい。最終スタンド(最下流スタンド)については、下流のライン向けに形状を作り込む必要があるため、1次相関であることが好ましい。つまり、最終スタンドを除く全てのスタンドにおいて、3次以上の高次相関に基づくレベリング制御が実行されてよい。また、例えばシリコンを1.5%以上含むような破断しやすい鋼種のみに、3次以上の高次相関が適用されてよい。
【0048】
(実施例)
式(4)の評価関数Jによるレベリング制御を用いることで、std-1~std-4の形状Λ1を20I-unit以下に抑制することができるようになった。下記の表1に示す通り、高次相関を用いた発明例では破断率を低下させることができた。ここで、破断率は比較例及び各発明例において約1000個のコイルを対象に計算された。std-1~std-5の欄はレベリング更新量(Δl)を計算する式(7)における相関の次数、すなわちp次の値を示す。また、外れ率は「形状不良コイル/全コイル」で算出された。
【0049】
【表1】
【0050】
本開示の実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形又は修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。
【符号の説明】
【0051】
10 冷間圧延機
20 制御部
30 形状計
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9