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特開2024-64825樹脂組成物、架橋物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064825
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】樹脂組成物、架橋物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/22 20060101AFI20240507BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240507BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20240507BHJP
   C08L 61/10 20060101ALI20240507BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
C08L23/22
C08K3/22
C08L23/26
C08L61/10
C08J3/24 A CES
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173726
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100211177
【弁理士】
【氏名又は名称】赤木 啓二
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】若林 健太
(72)【発明者】
【氏名】西 美幸
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA12
4F070AA15
4F070AA19
4F070AB07
4F070AB11
4F070AB16
4F070AC14
4F070AC37
4F070AE03
4F070AE08
4F070AE16
4F070FA17
4F070FB06
4F070FC06
4F070GA01
4F070GA08
4F070GB03
4F070GC02
4J002BB18W
4J002BB20X
4J002BB24X
4J002BP01W
4J002CC03Y
4J002CC04Y
4J002DE106
4J002EJ008
4J002EJ018
4J002EN008
4J002EV237
4J002EW008
4J002EW047
4J002EZ047
4J002FD038
4J002FD146
4J002FD14Y
4J002FD207
4J002GN00
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】柔軟性、水蒸気バリア性および耐熱性に優れる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリイソブチレン骨格を有するエラストマー100質量部、シラン変性樹脂10~150質量部およびポリイソブチレン骨格を有するエラストマーの架橋剤2.5~25質量部を含む樹脂組成物であって、樹脂組成物の架橋後の水蒸気透過度が3.0g・mm/(m・24h)以下であることを特徴とする。ポリイソブチレン骨格を有するエラストマーの架橋剤は、好ましくは、亜鉛華およびアルキルフェノールホルムアルデヒド系樹脂を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイソブチレン骨格を有するエラストマー100質量部、シラン変性樹脂10~150質量部およびポリイソブチレン骨格を有するエラストマーの架橋剤2.5~25質量部を含む樹脂組成物であって、樹脂組成物の架橋後の水蒸気透過度が3.0g・mm/(m・24h)以下である、樹脂組成物。
【請求項2】
ポリイソブチレン骨格を有するエラストマーの架橋剤が亜鉛華およびアルキルフェノールホルムアルデヒド系樹脂を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
亜鉛華の含有量がポリイソブチレン骨格を有するエラストマー100質量部を基準として1~10質量部であり、アルキルフェノールホルムアルデヒド系樹脂の含有量がポリイソブチレン骨格を有するエラストマー100質量部を基準として1.5~15質量部である、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
シラン変性樹脂がポリオレフィン系熱可塑性樹脂をシラン化合物によって変性して得られた樹脂である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
シラン変性樹脂がシラン変性ポリプロピレンである、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
樹脂組成物がシラノール縮合触媒を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
ポリイソブチレン骨格を有するエラストマーがブチルゴムまたは変性ブチルゴムである、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
樹脂組成物がポリイソブチレン骨格を有するエラストマー100質量部を基準として1~10質量部の老化防止剤を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
樹脂組成物の150℃における破断強度TB150が1.0MPa以上である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の樹脂組成物の架橋物。
【請求項11】
架橋物が、シラン変性樹脂を含むマトリックスとマトリックス中に分散したポリイソブチレン骨格を有するエラストマーを含むドメインとを含み、マトリックスが架橋している、請求項10に記載の架橋物。
【請求項12】
架橋物が、シラン変性樹脂を含むマトリックスとマトリックス中に分散したポリイソブチレン骨格を有するエラストマーを含むドメインとを含み、ドメインが架橋している、請求項10に記載の架橋物。
【請求項13】
請求項10に記載の架橋物を製造する方法であって、前記方法は、ポリイソブチレン骨格を有するエラストマー、シラン変性樹脂およびポリイソブチレン骨格を有するエラストマーの架橋剤を溶融混練して、ドメインが架橋した樹脂組成物を調製する工程、および成形時にドメインが架橋した樹脂組成物にシラノール縮合触媒を添加して成形する工程を含む、方法。
【請求項14】
成形時にドメインが架橋した樹脂組成物にシラノール縮合触媒を添加して成形する工程の後に、成形されたドメインが架橋した樹脂組成物を水または水蒸気と接触させて、マトリックスが架橋した樹脂組成物を製造する工程を含む、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、その架橋物および架橋物の製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、自動車のエアコンディショナーに使用される冷媒輸送ホースの作製に用いることができる柔軟性、耐熱性および水蒸気バリア性に優れた樹脂組成物、その架橋物および架橋物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車への軽量化要求が高まる中、これまで自動車に使われていたゴム製のホースを、ゴムに代えてバリア性の高い樹脂で作製し、薄肉化することにより、軽量化を実現しようとする取り組みがある。特に、現行の自動車のエアコンディショナーの冷媒輸送ホースは主材料がゴムであり、その主材料をバリア性の高い樹脂で置き換えることができれば、軽量化が実現できる。
【0003】
特開平4-145284号公報(特許文献1)には、フレオンガスのような冷媒を輸送するためのホースの外管を、熱可塑性ポリオレフィン樹脂とEPDMまたはブチル系ゴムとからなる熱可塑性エラストマーで形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4-145284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動車のエアコンディショナー等は自動車の限られた狭いスペースに搭載されるため、冷媒輸送ホースは、柔軟性に優れ狭いスペースでも取付け易いことが求められる。また、ホース外側からの水蒸気の透過は、エアーコンディショナー内部での水分の凍結を生じる原因となるため、冷媒輸送ホースの外管を形成する材料は水蒸気バリア性に優れることが必要とされる。さらに、エンジンルーム内の高温多湿の環境下で長期使用に耐える耐久性も求められる。
【0006】
しかし、特許文献1に記載の樹脂ホースの外管を構成する熱可塑性エラストマーは、熱可塑性ポリオレフィン樹脂を用いているため、耐熱性が必ずしも十分ではない。
本発明は、樹脂ホースの外管を作製するのに使用することができる、柔軟性、水蒸気バリア性および耐熱性に優れる樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明(I)は、ポリイソブチレン骨格を有するエラストマー100質量部、シラン変性樹脂10~150質量部およびポリイソブチレン骨格を有するエラストマーの架橋剤2.5~25質量部を含む樹脂組成物であって、樹脂組成物の架橋後の水蒸気透過度が3.0g・mm/(m・24h)以下であることを特徴とする。
本発明(II)は、本発明(I)の樹脂組成物の架橋物である。
本発明(III)は、本発明(II)の架橋物を製造する方法であって、前記方法は、ポリイソブチレン骨格を有するエラストマー、シラン変性樹脂およびポリイソブチレン骨格を有するエラストマーの架橋剤を溶融混練して、ドメインが架橋した樹脂組成物を調製する工程、および成形時にドメインが架橋した樹脂組成物にシラノール縮合触媒を添加して成形する工程を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明は以下の実施態様を含む。
[1]ポリイソブチレン骨格を有するエラストマー100質量部、シラン変性樹脂10~150質量部およびポリイソブチレン骨格を有するエラストマーの架橋剤2.5~25質量部を含む樹脂組成物であって、樹脂組成物の架橋後の水蒸気透過度が3.0g・mm/(m・24h)以下である、樹脂組成物。
[2]ポリイソブチレン骨格を有するエラストマーの架橋剤が亜鉛華およびアルキルフェノールホルムアルデヒド系樹脂を含む、[1]に記載の樹脂組成物。
[3]亜鉛華の含有量がポリイソブチレン骨格を有するエラストマー100質量部を基準として1~10質量部であり、アルキルフェノールホルムアルデヒド系樹脂の含有量がポリイソブチレン骨格を有するエラストマー100質量部を基準として1.5~15質量部である、[2]に記載の樹脂組成物。
[4]シラン変性樹脂がポリオレフィン系熱可塑性樹脂をシラン化合物によって変性して得られた樹脂である、[1]に記載の樹脂組成物。
[5]シラン変性樹脂がシラン変性ポリプロピレンである、[1]に記載の樹脂組成物。
[6]樹脂組成物がシラノール縮合触媒を含む、[1]に記載の樹脂組成物。
[7]ポリイソブチレン骨格を有するエラストマーがブチルゴムまたは変性ブチルゴムである、[1]に記載の樹脂組成物。
[8]樹脂組成物がポリイソブチレン骨格を有するエラストマー100質量部を基準として1~10質量部の老化防止剤を含む、[1]に記載の樹脂組成物。
[9]樹脂組成物の150℃における破断強度TB150が1.0MPa以上である、[1]に記載の樹脂組成物。
[10][1]に記載の樹脂組成物の架橋物。
[11]架橋物が、シラン変性樹脂を含むマトリックスとマトリックス中に分散したポリイソブチレン骨格を有するエラストマーを含むドメインとを含み、マトリックスが架橋している、[10]に記載の架橋物。
[12]架橋物が、シラン変性樹脂を含むマトリックスとマトリックス中に分散したポリイソブチレン骨格を有するエラストマーを含むドメインとを含み、ドメインが架橋している、[10]に記載の架橋物。
[13][10]に記載の架橋物を製造する方法であって、前記方法は、ポリイソブチレン骨格を有するエラストマー、シラン変性樹脂およびポリイソブチレン骨格を有するエラストマーの架橋剤を溶融混練して、ドメインが架橋した樹脂組成物を調製する工程、および成形時にドメインが架橋した樹脂組成物にシラノール縮合触媒を添加して成形する工程を含む、方法。
[14]成形時にドメインが架橋した樹脂組成物にシラノール縮合触媒を添加して成形する工程の後に、成形されたドメインが架橋した樹脂組成物を水または水蒸気と接触させて、マトリックスが架橋した樹脂組成物を製造する工程を含む、[13]に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂組成物は、架橋後、柔軟性、水蒸気バリア性および耐熱性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の樹脂組成物は、ポリイソブチレン骨格を有するエラストマー、シラン変性樹脂およびポリイソブチレン骨格を有するエラストマーの架橋剤を含む。
【0011】
ポリイソブチレン骨格を有するエラストマーは、ポリイソブチレン骨格を有する限り限定されないが、好ましくはブチルゴム(IIR)、変性ブチルゴム、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体であり、より好ましくはブチルゴムまたは変性ブチルゴムである。
ポリイソブチレン骨格とは、複数のイソブチレンが重合して形成された化学構造、すなわち-[-CH-C(CH-]-(ただし、nは2以上の整数である。)で表される化学構造をいう。
ブチルゴムとは、イソブチレンと少量のイソプレンを共重合させて得られたイソブチレン-イソプレン共重合体をいい、IIRと略称される。
変性ブチルゴムとは、イソプレン骨格に二重結合とハロゲン等が存在するブチルゴムをいう。変性ブチルゴムは、好ましくはハロゲン化ブチルゴムであり、より好ましくは臭素化ブチルゴム、塩素化ブチルゴムであり、さらに好ましくは臭素化ブチルゴムである。
スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体はSIBSと略称される。
樹脂組成物がポリイソブチレン骨格を有するエラストマーを含むことにより、樹脂組成物の柔軟性および水蒸気バリア性が向上する。
ポリイソブチレン骨格を有するエラストマーは、動的架橋することが好ましい。動的架橋することにより、耐久性が向上する。
【0012】
樹脂組成物は、シラン変性樹脂を含む。樹脂組成物は、シラン変性樹脂を含むことにより、耐熱性が向上する。
シラン変性樹脂とは、シラン化合物で変性された樹脂をいう。シラン変性樹脂は、好ましくはポリオレフィン系熱可塑性樹脂をシラン化合物によって変性して得られた樹脂であり、より好ましくはポリオレフィン系熱可塑性樹脂をシラン化合物によって変性して得られた加水分解性シリル基(好ましくはアルコキシシリル基)を有する架橋性樹脂である。
【0013】
シラン化合物は、限定するものではないが、好ましくは式(1)で表される化合物である。
-SiR 3-n (1)
ただし、Rはエチレン性不飽和炭化水素基であり、Rは炭化水素基であり、Yは加水分解可能な有機基であり、nは0~2の整数である。
は好ましくは炭素数2~10のエチレン性不飽和炭化水素基であり、たとえばビニル基、プロペニル基、ブテニル基、シクロヘキセニル基、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピル基等が挙げられる。
は好ましくは炭素数1~10の炭化水素基であり、たとえばメチル基、エチル基、プロピル基、デシル基、フェニル基等が挙げられる。
Yは好ましくは炭素数1~10の加水分解可能な有機基であり、たとえばアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基など)、ホルミルオキシ基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基等が挙げられる。
シラン化合物の具体例としては、たとえば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられ、これらの中でも、ビニルトリメトキシシランが好ましい。
【0014】
シラン変性樹脂を構成するポリオレフィン系熱可塑性樹脂としては、限定するものではないが、ポリエチレン、エチレンとα-オレフィンの共重合体、ポリプロピレン、プロピレンと他のα-オレフィンの共重合体等が挙げられる。好ましくは、ポリプロピレン、プロピレンと他のα-オレフィンの共重合体であり、特に好ましくはポリプロピレンである。
【0015】
加水分解性シリル基とは、加水分解によりシラノール基(≡Si-OH)を生成する基をいい、好ましくは式(2)で表される基である。
-SiR 3-n (2)
ただし、RおよびYは前述のとおりである。
【0016】
架橋性樹脂とは、架橋反応が可能であるが、未だ架橋されていない樹脂をいう。架橋反応の種類は限定されず、過酸化物による架橋であってもよいが、好ましくは水分による架橋(水架橋)である。
【0017】
シラン化合物で変性する方法は、限定するものではないが、グラフト化または共重合が挙げられる。グラフト化は、樹脂にシラン化合物をグラフト反応で付加する方法であり、より具体的には、ポリオレフィンの炭素-水素結合を開裂させて炭素ラジカルを発生させ、これにエチレン性不飽和炭化水素基を有するシラン化合物が付加する反応である。変性は、好ましくは、有機過酸化物等のラジカル発生剤の存在下に、樹脂と式(1)のシラン化合物とを溶融混錬することにより行うことができる。共重合は、好ましくは、樹脂を構成するモノマーと式(1)のシラン化合物とをラジカル共重合することによって行うことができる。
【0018】
シラン変性樹脂は、好ましくはシラン変性ポリプロピレンである。シラン変性樹脂は、市販されており、本発明に使用するシラン変性樹脂として市販品を使用することができる。シラン変性樹脂の市販品としては、三菱ケミカル株式会社製「リンクロン」(登録商標)が挙げられる。
【0019】
シラン変性樹脂の含有量は、ポリイソブチレン骨格を有するエラストマー100質量部を基準として、10~150質量部であり、好ましくは10~100質量部であり、より好ましくは10~80質量部である。シラン変性樹脂の含有量が少なすぎると、押出加工性が悪化し、多すぎると、柔軟性を確保することができない。
【0020】
樹脂組成物は、ポリイソブチレン骨格を有するエラストマーの架橋剤を含む。「ポリイソブチレン骨格を有するエラストマーの架橋剤」を以下単に「架橋剤」ともいう。樹脂組成物は、架橋剤を含むことにより、架橋後(動的架橋後)の耐熱性が向上する。
架橋剤は、好ましくは、亜鉛華およびアルキルフェノールホルムアルデヒド系樹脂を含む。架橋剤が亜鉛華およびアルキルフェノールホルムアルデヒド系樹脂を含むことにより、架橋後(動的架橋後)の樹脂組成物に、150℃の環境にも耐えることができる耐熱性を付与することができる。
【0021】
亜鉛華とは、酸化亜鉛であり、化学式ZnOで表される亜鉛の酸化物をいう。亜鉛華は、市販されており、本発明に市販品を使用することができる。市販品の例としては、正同化学工業株式会社製酸化亜鉛3種が挙げられる。
【0022】
アルキルフェノールホルムアルデヒド系樹脂とは、式(3)で表される化合物をいう。
【化1】
式(3)中、Xはヒドロキシル基またはハロゲンであり、YおよびY′は水素またはアルキル基であり、Zはアルキル基またはハロゲンであり、nは0~20の整数である。XおよびZを構成するハロゲンは、好ましくは、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素であり、より好ましくは臭素である。Y、Y′およびZを構成するアルキル基は、好ましくは炭素数1~8のアルキル基である。
式(3)で表される構造式は直鎖であるが、アルキルフェノールホルムアルデヒド系樹脂は、常法に従って合成し、分枝部分があってもよい。
なお、Xが臭素のものは臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂と称する。
アルキルフェノールホルムアルデヒド系樹脂は、市販されており、本発明に市販品を使用することができる。市販品の例としては、日立化成株式会社製アルキルフェノール-ホルムアルデヒドレジン「ヒタノール」(登録商標)2501Yが挙げられる。
【0023】
架橋剤の含有量は、ポリイソブチレン骨格を有するエラストマー100質量部を基準として、2.5~25質量部であり、好ましくは2.5~20質量部であり、より好ましくは2.5~18質量部である。架橋剤の含有量が少なすぎると、エラストマーの動的架橋が不足し、熱時強度が低下する。多すぎると、樹脂のシラン架橋を阻害し、熱時強度が低下する。
亜鉛華の含有量は、ポリイソブチレン骨格を有するエラストマー100質量部を基準として、1~10質量部であり、好ましくは2~8質量部であり、より好ましくは3~8質量部である。亜鉛華の含有量が少なすぎると、エラストマーの動的架橋が不足し、熱時強度が低下する。多すぎると、樹脂のシラン架橋を阻害し、熱時強度が低下する。
アルキルフェノールホルムアルデヒド系樹脂の含有量は、ポリイソブチレン骨格を有するエラストマー100質量部を基準として、1.5~15質量部であり、好ましくは1.5~10質量部であり、より好ましくは2~10質量部である。アルキルフェノールホルムアルデヒド系樹脂の含有量が少なすぎると、エラストマーの動的架橋が不足し、熱時強度が低下する。多すぎると、樹脂のシラン架橋を阻害し、熱時強度が低下する。
【0024】
樹脂組成物の架橋後の水蒸気透過度は、3.0g・mm/(m・24h)以下であり、好ましくは2.5g・mm/(m・24h)以下であり、より好ましくは2.0g・mm/(m・24h)以下である。
水蒸気透過度が上記の数値範囲内にあることにより、柔軟性と水蒸気バリア性を両立できる。
水蒸気透過度は、水蒸気透過試験機を用いて、温度60℃、相対湿度95%で測定する。
【0025】
樹脂組成物は、好ましくは、シラノール縮合触媒を含む。樹脂組成物は、水または水蒸気と接触することにより、シラン変性樹脂が架橋するが、シラノール縮合触媒を含むことにより、シラン変性樹脂の架橋が促進される。
シラノール縮合触媒としては、限定するものではないが、金属有機酸塩、チタネート、ホウ酸塩、有機アミン、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、無機酸、有機酸、無機酸エステル、ビスマス化合物などが挙げられる。
【0026】
金属有機酸塩としては、限定するものではないが、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクトエート、酢酸第一錫、オクタン酸第一錫、ナフテン酸コバルト、オクチル酸鉛、ナフテン酸鉛、オクチル酸亜鉛、カプリル酸亜鉛、2-エチルヘキサン酸鉄、オクチル酸鉄、ステアリン酸鉄などが挙げられる。
チタネートとしては、限定するものではないが、チタン酸テトラブチルエステル、チタン酸テトラノニルエステル、ビス(アセチルアセトニトリル)ジ-イソプロピルチタネートなどが挙げられる。
有機アミンとしては、限定するものではないが、エチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルソーヤアミン、テトラメチルグアニジン、ピリジンなどが挙げられる。
アンモニウム塩としては、限定するものではないが、炭酸アンモニウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドなどが挙げられる。
ホスホニウム塩としては、限定するものではないが、テトラメチルホスホニウムハイドロオキサイドなどが挙げられる。
無機酸としては、限定するものではないが、硫酸、塩酸などが挙げられる。
有機酸としては、限定するものではないが、酢酸、ステアリン酸、マレイン酸、トルエンスルホン酸、アルキルナフチルスルホン酸等のスルホン酸などが挙げられる。無機酸エステルとしては、限定するものではないが、リン酸エステルなどが挙げられる。
ビスマス化合物としては、限定するものではないが、2-エチルヘキサン酸ビスマスなどの有機ビスマスが挙げられる。
【0027】
シラノール縮合触媒は、好ましくは金属有機酸塩、スルホン酸、リン酸エステルであり、より好ましくは錫の金属カルボン酸塩、たとえばジオクチル錫ジラウレート、アルキルナフチルスルホン酸、エチルヘキシルリン酸エステルである。なお、シラノール縮合触媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0028】
シラノール縮合触媒の含有量は、シラン変性樹脂100質量部を基準として、好ましくは0.0001~0.5質量部、より好ましくは0.0001~0.3質量部である。
【0029】
なお、シラノール縮合触媒は、樹脂とシラノール縮合触媒とを配合したシラノール縮合触媒含有マスターバッチとして用いることが好ましい。このシラノール縮合触媒含有マスターバッチに用いることのできる樹脂としては、ポリオレフィンなどが挙げられ、好ましくはポリエチレン、ポリプロピレン、それらの共重合体などである。
シラノール縮合触媒を、樹脂とシラノール縮合触媒とを配合したシラノール縮合触媒含有マスターバッチとして用いる場合、マスターバッチ中のシラノール縮合触媒の含有量は、限定するものではないが、好ましくは0.1~5.0質量%である。なお、シラノール縮合触媒含有マスターバッチは、市販品を用いることができ、たとえば三菱ケミカル株式会社製「PZ010」を用いることができる。
【0030】
樹脂組成物は、好ましくは、老化防止剤を含む。老化防止剤を含むことにより、押出成形性が安定する。
老化防止剤としては、限定するものではないが、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系熱安定剤、金属不活性化剤、イオウ系耐熱安定剤などが挙げられ、好ましくはヒンダードフェノール系酸化防止剤であり、より好ましくはペンタエリトリトールエステル構造を含むヒンダードフェノール系酸化防止剤である。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の具体例としては、BASFジャパン株式会社製IRGANOX(登録商標)1010(ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート])が挙げられる。
老化防止剤の含有量は、ポリイソブチレン骨格を有するエラストマー100質量部を基準として、好ましくは1~10質量部であり、より好ましくは2~8質量部であり、さらに好ましくは3~7質量部である。
【0031】
樹脂組成物は、ポリイソブチレン骨格を有するエラストマー以外のエラストマー、シラン変性樹脂以外の樹脂、架橋剤、シラノール縮合触媒および老化防止剤以外の添加剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で含むことができる。
シラン変性樹脂以外の樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂などを挙げることができる。ポリオレフィン樹脂としては、ポリプロピレンが挙げられる。シラン変性樹脂に加え、ポリプロピレンを含むことにより、樹脂成分の粘度が安定するため、熱時強度が発現しやすい相構造となる。また、ポリプロピレンの水蒸気バリア性が良好のため、組成物全体の水蒸気バリア性が良好となる。
【0032】
樹脂組成物は、いかなる相構造を有していてもよいが、好ましくは、海島構造または共連続構造を有する。共連続構造であれば柔軟性に優れる。樹脂組成物は、より好ましくは、シラン変性樹脂を含むマトリックス(海相)と、マトリックス中に分散したポリイソブチレン骨格を有するエラストマーを含むドメイン(島相)とからなる海島構造を有する。
【0033】
本発明(I)の樹脂組成物は、未架橋樹脂組成物である。
【0034】
本発明(II)は、本発明(I)の樹脂組成物の架橋物である。
本発明(I)の樹脂組成物は、ポリイソブチレン骨格を有するエラストマーの架橋温度以上の温度に加熱することにより、ポリイソブチレン骨格を有するエラストマーが架橋され、好ましくは、前記架橋温度以上の温度で混錬することにより、ポリイソブチレン骨格を有するエラストマーが動的架橋され、耐熱性に優れる架橋物が得られる。
本発明(I)の樹脂組成物は、シラノール縮合触媒の存在下または不存在下で、水または水蒸気と接触することにより、シラン変性樹脂が架橋され、耐熱性に優れる架橋物が得られる。
本発明(II)の架橋物は、好ましくは、ポリイソブチレン骨格を有するエラストマーが動的架橋し、かつ、シラン変性樹脂が架橋したものである。
架橋物は、好ましくは、シラン変性樹脂を含むマトリックス(海相)と、マトリックス中に分散したポリイソブチレン骨格を有するエラストマーを含むドメイン(島相)とからなる海島構造を有し、マトリックスもドメインも架橋している。マトリックスおよびドメインの架橋が耐熱性に寄与する。
【0035】
本発明(III)は、本発明(II)の架橋物を製造する方法に関する。
本発明(III)の製造方法は、ポリイソブチレン骨格を有するエラストマー、シラン変性樹脂およびポリイソブチレン骨格を有するエラストマーの架橋剤を溶融混練して、ドメインが架橋した樹脂組成物を調製する工程、および成形時にドメインが架橋した樹脂組成物にシラノール縮合触媒を添加して成形する工程を含む。
【0036】
ポリイソブチレン骨格を有するエラストマーおよびシラン変性樹脂を溶融混練して、ドメインが架橋した樹脂組成物を調製する工程を、以下、単に「溶融混錬工程」ともいう。
溶融混練は、限定するものではないが、混錬機、単軸または二軸混練押出機などを用いて行うことができる。
溶融混練の温度は、溶融混練ができる限りにおいて限定されないが、好ましくは170~240℃である。
溶融混練の時間は、目的の混錬物を調製できる限りにおいて限定されないが、好ましくは2~10分である。
溶融混練工程では、ポリイソブチレン骨格を有するエラストマーと、シラン変性樹脂と、架橋剤と、必要に応じて老化防止剤などの各種添加剤とを混錬機などに投入して溶融混練する。
ただし、溶融混錬工程ではシラノール縮合触媒は添加しないことが好ましい。溶融混錬工程でシラノール縮合触媒を添加した場合は、溶融混錬工程で調製したドメインが架橋した樹脂組成物は、大気中の水蒸気と接触すると、樹脂組成物中のシラン変性樹脂が徐々に架橋し、架橋した後の樹脂組成物は成形がしにくくなる。したがって、シラノール縮合触媒は、成形時にドメインが架橋した樹脂組成物に添加することが好ましい。
【0037】
成形時にドメインが架橋した樹脂組成物にシラノール縮合触媒を添加して成形する工程を、以下、単に「シラノール縮合触媒添加成形工程」ともいう。
成形時とは、成形と同時または成形前6時間以内をいう。
成形は、限定するものではないが、押出成形、射出成形などが挙げられるが、好ましくは押出成形である。押出成形は、限定するものではないが、混練押出機を用いて行うことができ、好ましくは単軸押出機を用いて行う。
シラノール縮合触媒の添加は、押出機に投入する前にドメインが架橋した樹脂組成物に添加してもよいし、ドメインが架橋した樹脂組成物とシラノール縮合触媒を同時に押出機に投入してもよいし、ドメインが架橋した樹脂組成物とシラノール縮合触媒を押出機の別々の投入口に投入してもよい。
シラノール縮合触媒は、それ自体を直接、ドメインが架橋した樹脂組成物に添加してもよいが、樹脂とシラノール縮合触媒とを配合したシラノール縮合触媒含有マスターバッチとして添加することが好ましい。
成形の条件は、目的の成形品を作製できる限り、限定されない。
【0038】
架橋物の製造方法は、好ましくは、成形時にドメインが架橋した樹脂組成物にシラノール縮合触媒を添加して成形する工程の後に、成形されたドメインが架橋した樹脂組成物を水または水蒸気と接触させて、マトリックスが架橋した樹脂組成物を製造する工程(以下、単に「水接触工程」ともいう。)を含む。
シラノール縮合触媒添加成形工程によって成形されたドメインが架橋した樹脂組成物は、大気中の水蒸気と接触すると、組成物中のシラン変性樹脂が徐々に架橋し、樹脂組成物の架橋物を生成するが、迅速に架橋物を製造したいときは、水接触工程を実施することが好ましい。
水または水蒸気と接触させる方法は、限定するものではないが、水浴中に浸漬する方法、水を噴霧する方法、水蒸気を含む雰囲気に置く方法などが挙げられるが、好ましくは、水蒸気を含む雰囲気に置く方法である。水蒸気を含む雰囲気に置く方法では、温度が室温~200℃、好ましくは室温~100℃、相対湿度が30~100%、好ましくは40~90%の空気中に、1分~1月、好ましくは1時間~1週間、より好ましくは1~4日、静置する。より具体的には、温度25℃、相対湿度50%の空気中に72時間以上静置するのが好ましい。
水接触工程により、ドメインが架橋した樹脂組成物中のシラン変性樹脂の加水分解性シリル基(好ましくはアルコキシシリル基)が加水分解してシラノール基を生成し、シラノール基同士が縮合反応してシロキサン結合(Si-O-Si)を形成して架橋し、樹脂組成物の架橋物が得られる。
【0039】
架橋物の150℃における破断強度TB150は、好ましくは1.0MPa以上であり、より好ましくは1.2~30MPaであり、さらに好ましくは1.5~25MPaである。架橋物の150℃における破断強度TB150を上記数値範囲内にするには、エラストマーの架橋や、樹脂成分の架橋のバランスが重要である。150℃における破断強度を以下単に「150℃破断強度」ともいう。
樹脂組成物の架橋後とは、樹脂組成物を十分に架橋した後をいい、架橋の条件は、十分に架橋される限り限定されないが、たとえば、シラノール縮合触媒(三菱ケミカル株式会社製シラン架橋剤マスターバッチPZ010)を樹脂組成物100質量部に2~5質量部添加し、樹脂組成物を200℃の温度で5分間溶融混錬した後、温度25℃および相対湿度50%の空気中に72時間静置する。
十分に架橋とは、樹脂組成物のTB150の架橋時間1hあたりの変動が10%以内となった状態をいう。
【実施例0040】
[原材料]
以下の実施例および比較例において使用した原材料は次のとおりである。
IIR: エクソンモービル・ケミカル社製ブチルゴム「エクソンブチル」268
Br-IIR: エクソンモービル・ケミカル社製臭素化ブチルゴム「Exxon Bromobutyl」2255
PP/EPDM: エクソンモービル・ジャパン合同会社製PP/EPDM熱可塑性エラストマー「サントプレーン」(登録商標)111-35
樹脂系架橋剤-1: 日立化成株式会社製アルキルフェノール-ホルムアルデヒドレジン「ヒタノール」(登録商標)2501Y
樹脂系架橋剤-2:田岡化学工業株式会社製臭素化アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂「タッキロール」(登録商標)250-I
亜鉛華: 正同化学工業株式会社製酸化亜鉛3種
シラン変性樹脂: 三菱ケミカル株式会社製シラン変性ポリプロピレン「リンクロン」(登録商標)XPM800HM
PP: 株式会社プライムポリマー製プロピレンホモポリマー「プライムポリプロ」(登録商標)J108M
老化防止剤: BASFジャパン株式会社製ヒンダードフェノール系酸化防止剤「IRGANOX」(登録商標)1010
シラノール縮合触媒: 三菱ケミカル株式会社製シラン架橋剤マスターバッチ「触媒MB」PZ010
【0041】
[実施例1~11および比較例1~2]
各原材料を、表1および表2に示す配合比率で混合し、樹脂組成物を調製した。
調製した樹脂組成物を、二軸混練押出機(株式会社日本製鋼所製)に投入し、235℃で3分間混練した。混練物を二軸混練押出機から連続的にストランド状に押出し、水冷後、カッターで切断することにより、ペレット状のドメインが動的架橋した樹脂組成物を得た。
ドメインが動的架橋した樹脂組成物を、550mm幅T型ダイス付40mmφ単軸押出機(株式会社プラ技研製)を用いて、シリンダーおよびダイスの温度を試料組成物中の最も融点の高いポリマー成分の融点+10℃に設定し、冷却ロール温度50℃、引き取り速度3m/minの条件で平均厚み0.2mmのシートに成形した。得られたシートを温度25℃および相対湿度50%の空気中に72時間静置して、マトリックスを架橋し、シート状の樹脂組成物の架橋物を得た。
ドメインが動的架橋した樹脂組成物について、押出加工性を評価し、架橋物について、水蒸気透過度、10%モジュラス、押出加工性および150℃における破断強度を測定・評価した。測定・評価結果を表1および表2に示す。
【0042】
[比較例3]
エクソンモービル・ジャパン合同会社製PP/EPDM熱可塑性エラストマー「サントプレーン」(登録商標)111-35を、比較例3として、水蒸気透過度、10%モジュラス、押出加工性および150℃における破断強度を測定・評価した。測定・評価結果を表2に示す。
【0043】
測定・評価方法は、以下のとおりである。
[水蒸気透過度の測定]
GTRテック株式会社製水蒸気透過試験機を用いて、シート状の樹脂組成物の架橋物の水蒸気透過度を、温度60℃、相対湿度95%で測定した。
水蒸気透過度は水蒸気バリア性の指標であり、水蒸気透過度が小さいほど水蒸気バリア性が優れる。
【0044】
[柔軟性の評価]
シート状の樹脂組成物の架橋物を、JIS 3号ダンベル形状に打ち抜き、JIS K6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方」に規定されている測定方法に準拠して、温度25℃および速度500mm/minの条件下で引張試験を行い、得られた応力ひずみ曲線から10%伸張時における応力(10%モジュラス)を求めた。
10%モジュラスは柔軟性の指標であり、10%モジュラスが小さいほど柔軟性が優れる。柔軟性は、10%モジュラスが10MPa以下のときは合格、10%モジュラスが10MPaを超えるときは不合格と判定される。
【0045】
[押出加工性の評価]
ペレット状のドメインが動的架橋した樹脂組成物を、550mm幅T型ダイス付40mmφ単軸押出機(株式会社プラ技研製)を用いて、シリンダーおよびダイスの温度を試料組成物中の最も融点の高いポリマー成分の融点+10℃に設定し、冷却ロール温度50℃、引き取り速度3m/minの条件で平均厚み0.2mmのシートに成形した。問題なく成形できた場合を○、軽微な粒や穴開きやシート端部の切れなどが発生した場合を△、深刻な粒や穴開きやシート端部の切れなどが発生した場合を×として評価した。
【0046】
[150℃破断強度の測定]
シート状の樹脂組成物の架橋物を、JIS 3号ダンベル形状に打ち抜き、JIS K6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方」に規定されている測定方法に準拠して、温度150℃および速度500mm/minの条件下で引張試験を行い、得られた応力ひずみ曲線から破断したときの応力すなわち破断強度TB150を求めた。
150℃破断強度は耐熱性の指標であり、150℃破断強度が高いほど耐熱性が優れる。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
本開示は、以下の発明を包含する。
発明[1] ポリイソブチレン骨格を有するエラストマー100質量部、シラン変性樹脂10~150質量部およびポリイソブチレン骨格を有するエラストマーの架橋剤2.5~25質量部を含む樹脂組成物であって、樹脂組成物の架橋後の水蒸気透過度が3.0g・mm/(m・24h)以下である、樹脂組成物。
発明[2] ポリイソブチレン骨格を有するエラストマーの架橋剤が亜鉛華およびアルキルフェノールホルムアルデヒド系樹脂を含む、発明[1]に記載の樹脂組成物。
発明[3] 亜鉛華の含有量がポリイソブチレン骨格を有するエラストマー100質量部を基準として1~10質量部であり、アルキルフェノールホルムアルデヒド系樹脂の含有量がポリイソブチレン骨格を有するエラストマー100質量部を基準として1.5~15質量部である、発明[2]に記載の樹脂組成物。
発明[4] シラン変性樹脂がポリオレフィン系熱可塑性樹脂をシラン化合物によって変性して得られた樹脂である、発明[1]~[3]のいずれか一つに記載の樹脂組成物。
発明[5] シラン変性樹脂がシラン変性ポリプロピレンである、発明[1]~[4]のいずれか一つに記載の樹脂組成物。
発明[6] 樹脂組成物がシラノール縮合触媒を含む、発明[1]~[5]のいずれか一つに記載の樹脂組成物。
発明[7] ポリイソブチレン骨格を有するエラストマーがブチルゴムまたは変性ブチルゴムである、発明[1]~[6]のいずれか一つに記載の樹脂組成物。
発明[8] 樹脂組成物がポリイソブチレン骨格を有するエラストマー100質量部を基準として1~10質量部の老化防止剤を含む、発明[1]~[7]のいずれか一つに記載の樹脂組成物。
発明[9] 樹脂組成物の150℃における破断強度TB150が1.0MPa以上である、発明[1]~[8]のいずれか一つに記載の樹脂組成物。
発明[10] 発明[1]~[9]のいずれか一つに記載の樹脂組成物の架橋物。
発明[11] 架橋物が、シラン変性樹脂を含むマトリックスとマトリックス中に分散したポリイソブチレン骨格を有するエラストマーを含むドメインとを含み、マトリックスが架橋している、発明[10]に記載の架橋物。
発明[12] 架橋物が、シラン変性樹脂を含むマトリックスとマトリックス中に分散したポリイソブチレン骨格を有するエラストマーを含むドメインとを含み、ドメインが架橋している、発明[10]または[11]に記載の架橋物。
発明[13] 発明[10]~[12]のいずれか一つに記載の架橋物を製造する方法であって、前記方法は、ポリイソブチレン骨格を有するエラストマー、シラン変性樹脂およびポリイソブチレン骨格を有するエラストマーの架橋剤を溶融混練して、ドメインが架橋した樹脂組成物を調製する工程、および成形時にドメインが架橋した樹脂組成物にシラノール縮合触媒を添加して成形する工程を含む、方法。
発明[14] 成形時にドメインが架橋した樹脂組成物にシラノール縮合触媒を添加して成形する工程の後に、成形されたドメインが架橋した樹脂組成物を水または水蒸気と接触させて、マトリックスが架橋した樹脂組成物を製造する工程を含む、発明[13]に記載の方法。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の樹脂組成物は、冷媒輸送ホースのような柔軟性、耐熱性および水蒸気バリア性を必要とする成形品を作るための材料として好適に利用することができる。