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特開2024-64837レンズ装置、およびレンズ装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064837
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】レンズ装置、およびレンズ装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01Q 19/06 20060101AFI20240507BHJP
   H01Q 15/08 20060101ALI20240507BHJP
   G02B 7/00 20210101ALI20240507BHJP
【FI】
H01Q19/06
H01Q15/08
G02B7/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173743
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】矢嶋 悟
(72)【発明者】
【氏名】梶原 健
【テーマコード(参考)】
2H043
5J020
【Fターム(参考)】
2H043AB03
2H043AB05
2H043AB26
5J020AA02
5J020BB01
5J020BB12
(57)【要約】
【課題】導波路を導波される電磁波の強度分布及び位相分布を調整するための装置であって、短時間で安価に製造することが可能な装置を実現する。
【解決手段】レンズ装置(1)は、導波路(2)を導波される電磁波に順に作用する複数の誘電体レンズ(11a,12a)を備えており、これら複数の誘電体レンズ(11a,12a)によって、電磁波の強度分布及び位相分布を調整する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導波路を導波される電磁波に順に作用する複数の誘電体レンズを備え、
前記複数の誘電体レンズによって、前記電磁波の強度分布及び位相分布を調整する、
ことを特徴とするレンズ装置。
【請求項2】
前記複数の誘電体レンズは、前記電磁波の進行方向、または、前記電磁波の進行方向に直交する面上での前記電磁波の強度分布の中心または対称性を変化させる、
ことを特徴とする請求項1に記載のレンズ装置。
【請求項3】
前記複数の誘電体レンズは、第1誘電体レンズと第2誘電体レンズとを含んでおり、
前記第1誘電体レンズは、前記導波路を導波された前記電磁波の進行方向を、前記導波路の中心軸と平行な第1方向から、前記第1方向とは異なる第2方向に変化させ、
前記第2誘電体レンズは、前記第1誘電体レンズを透過した前記電磁波の進行方向を、前記第2方向から第3方向に変化させる、
ことを特徴とする請求項1に記載のレンズ装置。
【請求項4】
前記導波路は、導波管であり、
一端側の底面が前記第1誘電体レンズとして機能し、他端側がテーパー状に広がって開口した円筒状の第1ユニットと、
一端側の底面が前記第2誘電体レンズとして機能し、他端側がテーパー状に広がって開口した円筒状の第2ユニットと、によって構成され、
前記第2ユニットの前記一端側が前記第1ユニットの前記他端側に挿嵌されている、
ことを特徴とする請求項3に記載のレンズ装置。
【請求項5】
前記電磁波は、ミリ波であり、
前記導波路は、ミリ波をマルチモード伝送する導波管である、
ことを特徴とする請求項1に記載のレンズ装置。
【請求項6】
前記複数の誘電体レンズは、それぞれ、前記導波路に挿抜可能なユニットに収められている、
ことを特徴とする請求項1に記載のレンズ装置。
【請求項7】
前記複数の誘電体レンズは、それぞれ、リボルバー型のユニットに収められており、当該ユニットを回転させることによって、前記導波路に挿入される誘電体レンズを切り替え可能である、
ことを特徴とする請求項1に記載のレンズ装置。
【請求項8】
請求項1に記載のレンズ装置の製造方法であって、
前記誘電体レンズを3Dプリンタにより造形するレンズ造形工程を含んでいる、
ことを特徴とするレンズ装置の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載のレンズ装置の製造方法であって、
前記誘電体レンズの各部の厚みを多項式により表現し、前記レンズ装置から出力される電磁波の強度分布及び位相分布が目標とする強度分布及び位相分布に近づくよう、前記多項式の係数を設定する伝搬計算工程を含んでいる、
ことを特徴とするレンズ装置の製造方法。
【請求項10】
前記多項式は、Zernike多項式である、
ことを特徴とする請求項9に記載のレンズ装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導波路を導波される電磁波に作用するレンズ装置に関する。また、本発明は、そのようなレンズ装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導波路を導波されるミリ波の強度分布及び位相分布を調整するための装置として、2枚のミラーを組み合わせたMOU(Matching Optical Unit)が広く用いられている。MOUを開示した文献としては、例えば、非特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Yasuhisa Oda et al.,“A Method for Gyrotron Beam Coupling into a Corrugated Waveguide”, Fusion Science and Technology, Vol. 61, Apr. 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、MOUには、その製造に長い時間と高い費用とが掛かるという問題があった。
【0005】
本発明の一態様は、この問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、導波路を導波される電磁波の強度分布及び位相分布を調整するための装置であって、短時間で安価に製造することが可能な装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るレンズ装置は、導波路を導波される電磁波に順に作用する複数の誘電体レンズを備え、前記複数の誘電体レンズによって、前記電磁波の強度分布及び位相分布を調整する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、導波路を導波される電磁波の強度分布及び位相分布を調整するための装置であって、短時間で安価に製造することが可能な装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】(a)は、本発明の一実施形態に係るレンズ装置の断面図であり、(b)は、そのレンズ装置及び導波路の断面図である。
図2】(a)は、図1に示すレンズ装置及び導波路の断面図であり、(b)及び(c)は、そのレンズ装置に入力される電磁波の強度分布及び位相分布を示すグラフであり、(d)及び(e)は、そのレンズ装置から出力される電磁波の強度分布及び位相分布を示すグラフである。
図3図1に示すレンズ装置の製造方法の流れを示すフロー図である。
図4図3に示す伝搬計算工程の一具体例を示す模式図である。
図5図1に示すレンズ装置の第1の変形例を示す斜視図である。
図6図1に示すレンズ装置の第2の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(レンズ装置の構成)
本実施形態に係るレンズ装置1の構成について、図1を参照して説明する。図1の(a)は、レンズ装置1の断面図である。図1の(b)は、レンズ装置1及び導波路2の断面図である。
【0010】
レンズ装置1は、導波路2を導波される電磁波の強度分布及び位相分布を調整するための装置である。本実施形態においては、この導波路2として、プラズマ加熱用のミリ波をマルチモード伝送可能な導波管、例えば、周波数170GHzのミリ波をマルチモード伝送する口径50mmのコルゲート導波管を想定する。また、本実施形態においては、レンズ装置1に入力される電磁波のモードとして、基本モードもしくは、基本モードを主に含む実測混合モードを想定する。
【0011】
レンズ装置1は、導波路2を導波される電磁波に順に作用する複数の誘電体レンズを備えている。本実施形態においては、これら複数の誘電体レンズとして、第1誘電体レンズ11aと第2誘電体レンズ12aとを用いている。
【0012】
本実施形態においては、屈折率1.6の紫外線硬化樹脂により構成された円筒状の第1ユニット11の一端側の底面を、第1誘電体レンズ11aとして利用する。第1ユニット11の他端側は、開口している。第1ユニット11の側壁11bは、中間部から開口端までがテーパー状に広がっている。また、本実施形態においては、屈折率1.6の紫外線効果樹脂により構成された円筒状の第2ユニット12の一端側の底面を、第2誘電体レンズ12aとして利用する。第2ユニット12の他端側は、開口している。第2ユニット12の側壁12bは、レンズ端から開口端までがテーパー状に広がっている。第1ユニット11及び第2ユニット12は、例えば、3Dプリンタにより造形することができる。
【0013】
第1ユニット11は、側壁外周面のレンズ端から中間部までが導波路2の側壁内周面に面接触するように、導波路2に挿嵌される。この際、テーパー開始位置において第1ユニット11の側壁外周面が導波路2の側壁端面に当接することによって、第1誘電体レンズ11aの中心軸が導波路2の中心軸と一致するように、導波路2に対する第1ユニットの位置が決められる。また、第2ユニット12は、側壁外周面のレンズ端から開口端までが第1ユニット11の側壁内周面に面接触に当接するように、第1ユニット11に挿嵌される。この際、第2ユニット12の側壁外周面に設けられた凸部12cが第1ユニット11の側壁外周面に設けられた凸部11cに当接することによって、第2誘電体レンズ12aの中心軸が第1誘電体レンズ11aの中心軸と一致するように、第1ユニット11に対する第2ユニットの位置が決められる。
【0014】
レンズ装置1によれば、第1誘電体レンズ11a及び第2誘電体レンズ12aの各部における位相遅延量を適宜設定することによって、出力される電磁波の強度分布及び位相分布を目標とする強度分布及び位相分布に近づけることができる。例えば、目標とする強度分布及び位相分布を、レンズ装置1に入力される電磁波のモードと異なるモードの強度分布及び位相分布とした場合、レンズ装置1は、モード変換器として機能することになる。
【0015】
本実施形態においては、第1誘電体レンズ11a及び第2誘電体レンズ12aの各部における位相遅延量の設定を、第1誘電体レンズ11a及び第2誘電体レンズ12aの各部の厚みを設定することにより実現する。ただし、第1誘電体レンズ11a及び第2誘電体レンズ12aの各部における位相遅延量の設定を、第1誘電体レンズ11a及び第2誘電体レンズ12aの各部の誘電率を設定する(例えば、各部に添加するドーパントの量を設定する)ことにより実現してもよい。
【0016】
なお、第1誘電体レンズ11a及び第2誘電体レンズ12aを構成する材料は、誘電体であればよく、紫外線硬化樹脂に限定されない。例えば、第1誘電体レンズ11a及び第2誘電体レンズ12aを構成する材料は、ダイヤモンドであってもよい。この場合、レンズ装置1を、1MW級のミリ波に作用させることができる。
【0017】
また、導波路2を導波される電磁波は、プラズマ加熱用のミリ波(周波数170GHz程度)に限定されない。例えば、導波路2を導波される電磁波は、5G通信用のミリ波(最大周波数50GHz程度)やBeyond-5G通信用のミリ波(周波数100GHz程度)などであってもよい。或いは、導波路2を導波される電磁波は、赤外光や可視光であってもよい。この場合、導波路2として、光ファイバを用いてもよい。
【0018】
(レンズ装置の機能)
本実施形態に係るレンズ装置1の機能について、図2を参照して説明する。図2の(a)は、レンズ装置1及び導波路2の断面図である。図2の(b)及び(c)は、レンズ装置1に入力される電磁波の強度分布及び位相分布を示すグラフである。図2の(d)及び(e)は、レンズ装置1から出力される電磁波の強度分布及び位相分布を示すグラフである。
【0019】
図2に示すレンズ装置1において、目標とする強度分布は、ピーク位置が導波路2の中心軸からx軸負方向側にシフトした強度分布であり、目標とする位相分布は、フラットな(一様な)位相分布である。このため、第1誘電体レンズ11aは、導波路2を導波された電磁波の進行方向(等位相面に直交する方向)を、導波路2の中心軸と平行な第1方向v1から、第1方向v1(v1x=0,v1y=0)とは異なる第2方向v2(v2x<0,v2y=0)に変化させるように、各部の厚みが設計されている。また、第2誘電体レンズ12aは、第1誘電体レンズ11aを透過した電磁波の進行方向を、第2方向v2から第1方向v1に変化させるように、各部の厚みが設計されている。
【0020】
これにより、導波路2を導波される電磁波に関して、図2の(b)に示すように、導波路2の中心軸上にピークを有する強度分布を、図2の(d)に示すように、目標とする強度分布、すなわち、導波路2の中心軸よりもX軸負方向側にピークを有する強度分布に近づけることができる。また、図2の(c)に示すように、導波路2の中心軸にピークを有する位相分布を、図2の(e)に示すように、目標とする位相分布、すなわち、フラットな位相分布に近づけることができる。
【0021】
例えば、ITER計画に含まれる水平ランチャーの設計では、入力されるミリ波ビームにピーク位置ずれが生じても動作が破綻しないことを検証する必要がある。このような検証作業を行うためには、ミリ波ビームのピーク位置ずれを人為的に生じさせることが必要になる。ミリ波ビームのピーク位置ずれを人為的に生じさせることが可能な手段としては、例えば、モード生成器又はMOU(Matching Optical Unit)が挙げられる。しかしながら、理想的なモードを生成するモード生成器は製造されているものの、ピーク位置ずれを生じさせる(理想的なモードを壊す)モード生成器は製造されていない。このため、モード生成器を用いてミリ波ビームのピーク位置ずれを生じさせる場合、長い時間(例えば年単位)と高い費用(例えば百万円単位)とを掛けて専用品を製造する必要がある。MOUについても、同様のことが言える。これに対して、レンズ装置1を用いれば、水平ランチャーの検証作業を容易に実施することができる。しかも、レンズ装置1は、例えば3Dプリンタを用いれば、短時間(例えば、1週間程度)で安価(例えば、千円程度)に製造することができる。したがって、このような検証作業に要する時間を大幅に短縮し、かつ、このような検証作業に要する費用を大幅に低減することができる。
【0022】
なお、ここでは、水平ランチャーの検証作業に適したレンズ装置1について説明したが、レンズ装置1の用途はこれに限定されない。また、強度分布及び位相分布の変化のさせ方も、レンズ装置1の用途によって自由に設定することができる。例えば、ここでは、強度分布のピークを導波路2の中心軸上から導波路2の中心軸外に変化させるレンズ装置1について説明したが、逆に、強度分布のピークを導波路2の中心軸外から導波路2の中心軸上に変化させるレンズ装置1を実現することも可能である。
【0023】
(レンズ装置の製造方法)
本実施形態に係るレンズ装置1の設計方法について、図3を参照して説明する。図3は、レンズ装置1の製造方法S1の流れを示すフロー図である。
【0024】
製造方法S1は、屈折率測定工程S101、伝搬計算工程S102、自由度追加工程S103、3Dモデル生成工程S104、レンズ造形工程S105、性能試験工程S106、計算方法変更工程S107、及び造形方法変更工程S108を含んでいる。これらの工程は、人が実施してもよいし、人の制御により装置が実施してもよいし、計算機が実施してもよいし、計算機の制御によって装置が実施してもよい。
【0025】
第1誘電体レンズ11a及び第2誘電体レンズ12aを構成する誘電体材料の屈折率が未知である場合、屈折率測定工程S101が実施される。屈折率測定工程S101は、第1誘電体レンズ11a及び第2誘電体レンズ12aを構成する誘電体材料の屈折率を測定する工程である。第1誘電体レンズ11a及び第2誘電体レンズ12aを構成する誘電体材料の屈折率が既知である場合、その屈折率を用いて伝搬計算工程S102が実施される。第1誘電体レンズ11a及び第2誘電体レンズ12aを構成する誘電体材料の屈折率が未知である場合、屈折率測定工程S101において測定された屈折率を用いて伝搬計算工程S102が実施される。
【0026】
伝搬計算工程S102は、レンズ装置1から出力される電磁波の強度分布及び位相分布が目標とする強度分布及び位相分布に近づくように、第1誘電体レンズ11a及び第2誘電体レンズ12aの各部の厚みを設定する工程である。また、伝搬計算工程S102においては、更に、第1誘電体レンズ11a及び第2誘電体レンズ12aの各部の厚みが設定された厚みに一致する場合にレンズ装置1から出力される電磁波の強度分布及び位相分布が算出される。伝搬計算工程S102の具体例については後述する。
【0027】
伝搬計算工程S102において算出された、レンズ装置1から出力される電磁波の強度分布及び位相分布の精度が低い場合(目標とする強度分布及び位相分布との差が予め定められた閾値を上回る場合)、自由度追加工程S103が実施される。自由度追加工程S103は、伝搬計算工程S102において考慮する第1誘電体レンズ11a及び第2誘電体レンズ12aの各部の厚みの自由度(例えば、各部の厚みを表現する多項式の次数)を増やす工程である。伝搬計算工程S102及び自由度追加工程S103は、伝搬計算工程S102において算出された、レンズ装置1から出力される電磁波の強度分布及び位相分布の精度が十分に高くなるまで(目標とする強度分布及び位相分布との差が予め定められた閾値を下回るまで)、繰り返し実施される。
【0028】
3Dモデル生成工程S104は、各部の厚みが伝搬計算工程S102において設定された厚みに一致する第1誘電体レンズ11a及び第2誘電体レンズ12aを表現する3Dモデルを生成する工程である。本実施形態では、3Dモデル生成工程S104において、第1ユニット11全体及び第2ユニット12全体を表現する3Dモデルが生成される。
【0029】
レンズ造形工程S105は、3Dモデル生成工程S104にて生成された3Dモデルに従って第1誘電体レンズ11a及び第2誘電体レンズ12aを造形する工程である。本実施形態では、レンズ造形工程S105において、第1ユニット11全体及び第2ユニット12全体が造形される。レンズ造形工程S105における第1誘電体レンズ11a及び第2誘電体レンズ12a(本実施形態では第1ユニット11全体及び第2ユニット12全体)の造形には、例えば、3Dプリンタを用いることができる。
【0030】
性能試験工程S106は、レンズ造形工程S105において造形された第1誘電体レンズ11a及び第2誘電体レンズ12a(本実施形態では第1ユニット11全体及び第2ユニット12全体)を導波路2に取り付け、レンズ装置1から出力される電磁波の強度分布及び位相分布を実測する工程である。
【0031】
性能試験工程S106において実測された、レンズ装置1から出力される電磁波の強度分布及び位相分布の精度が十分に高い場合(目標とする強度分布及び位相分布との差が予め定められた閾値を下回る場合)、製造方法S1が完了する。
【0032】
一方、性能試験工程S106において実測された、レンズ装置1から出力される電磁波の強度分布及び位相分布の精度が低く(目標とする強度分布及び位相分布との差が予め定められた閾値を上回り)、且つ、その誤差要因が伝搬計算工程S102における計算にある場合、計算方法変更工程S107においてその計算方法が変更され、伝搬計算工程S102以降の工程が再び実施される。また、性能試験工程S106において実測された、レンズ装置1から出力される電磁波の強度分布及び位相分布の精度が低く(目標とする強度分布及び位相分布との差が予め定められた閾値を上回り)、且つ、その誤差要因がレンズ造形工程S105における造形にある場合、造形方法変更工程S108においてその造形方法が変更され、レンズ造形工程S105以降の工程が再び実施される。
【0033】
製造方法S1によれば、出力される電磁波の強度分布及び位相分布が目標とする強度分布及び位相分布に一致するレンズ装置1を製造することができる。
【0034】
(伝搬計算工程の具体例)
伝搬計算工程S102の一具体例について、図4を参照して説明する。図4は、伝搬計算工程S102の一具体例を示す模式図である。
【0035】
本具体例においては、位置(x,y)における第1誘電体レンズ11aの厚みδ1(x,y)及び第2誘電体レンズ12aの厚みδ2(x,y)を、それぞれ、動径次数n次以下のZernike多項式により表現する。例えば、動径次数2次以下のZernike多項式を用いた場合、位置(x,y)における第1誘電体レンズ11aの厚みδ1(x,y)及び第2誘電体レンズ12aの厚みδ2(x,y)は、それぞれ、下記の式により表現される。
【0036】
【数1】
また、複素電場分布Ein(x,y)の電磁波がレンズ装置1に入力された場合、レンズ装置1から出力される電磁波の複素電場分布Eout(x,y)は、下記の式により表現される。下記の式において、Dはモード分解演算を表す演算子であり、D-1はモード合成演算(モード分解演算の逆演算)を表す演算子である。また、fmnはmnモードの基底関数を表し、kmnはmnモードの波数を表し、dは第1誘電体レンズ11aから第2誘電体レンズ12aまでの距離を表す。なお、第1誘電体レンズ11aから第2誘電体レンズまでの空間が自由空間である場合、モード分解演算はフーリエ変換により実現される。なお、複素電場分布Eout(x,y)は、レンズ装置1から出力される電磁波の位相分布及び強度分布の両方を表す。したがって、複素電場分布Eout(x,y)を目標とする複素電場分布E(x,y)に近づけることは、レンズ装置1から出力される電磁波の位相分布及び強度分布を、目標とする位相分布及び強度分布に近づけることと等価である。
【0037】
【数2】
本具体例においては、上記の式により表された複素電場分布Eout(x,y)が、目標とする複素電場分布E(x,y)に近づくように係数p1~p5,q1~q5を更新する処理を、上記の式により表された複素電場分布Eout(x,y)が十分に収束するまで繰り返す。これにより、位置(x,y)における第1誘電体レンズ11aの厚みδ1(x,y)及び第2誘電体レンズ12aの厚みδ2(x,y)が設定される。
【0038】
なお、発明者らは、位置(x,y)における第1誘電体レンズ11aの厚みδ1(x,y)及び第2誘電体レンズ12aの厚みδ2(x,y)を表現する多項式系として、(1)動径次数2以下のZernike多項式(自由度4)、(2)動径次数4以下のZernike多項式(自由度14)、(3)動径次数6以下のZernike多項式(自由度27)、(4)動径次数8以下のZernike多項式(自由度44)、(5)動径次数10以下のZernike多項式(自由度65)を用いた場合のそれぞれについて、精度判定を行った。その結果、何れの場合においても、水平ランチャーの検証作業に利用可能なミリ波ビームを生成できることが確かめられた。また、高次モードを抑制するためには、動径次数8以下のZernike多項式を用いれば十分であることが確かめられた。すなわち、徒に計算コストを上昇させることなく、高次モードを抑制した伝搬計算を行うためには、動径次数8以下のZernike多項式を用いることが好ましいことが確かめられた。
【0039】
(変形例1)
レンズ装置1の第1の変形例について、図5を参照して説明する。図5は、レンズ装置1の第1の変形例を示す斜視図である。
【0040】
本変形例において、第1誘電体レンズ11aを納めた第1ユニット11は、導波路2に形成されたスロット2aに挿抜可能に構成されている。また、本変形例において、第2誘電体レンズ12aを納めた第2ユニット12は、導波路2に形成されたスロット2bに挿抜可能に構成されている。
【0041】
このように、第1誘電体レンズ11a及び第2誘電体レンズ12aを、それぞれ、導波路2に挿抜可能な第1ユニット11及び第2ユニット12に収めることによって、導波路2を導波する電磁波に作用させる第1誘電体レンズ11a及び第2誘電体レンズ12aを、レンズ装置1の用途に応じて簡単に交換することができる。
【0042】
(変形例2)
レンズ装置1の第2の変形例について、図6を参照して説明する。図6は、レンズ装置1の第2の変形例を示す斜視図である。
【0043】
本変形例において、複数の第1誘電体レンズ11aを納めた第1ユニット11は、リボルバー型に構成されている。このため、第1ユニット11を回転させることによって、複数の第1誘電体レンズ11aの何れを導波路2に形成されたスロット2aに挿入するかを切り替え可能である。また、本変形例において、複数の第2誘電体レンズ12aを納めた第2ユニット12は、リボルバー型に構成されている。このため、第2ユニット12を回転させることによって、複数の第2誘電体レンズ12aの何れを導波路2に形成されたスロット2bに挿入するかを切り替え可能である。
【0044】
このように、複数の第1誘電体レンズ11a及び第2誘電体レンズ12aを、それぞれ、リボルバー型の第1ユニット11及び第2ユニット12に収めることによって、導波路2を導波する電磁波に作用させる第1誘電体レンズ11a及び第2誘電体レンズ12aを、レンズ装置1の用途に応じて更に簡単に交換することができる。
【0045】
(まとめ)
態様1に係るレンズ装置は、導波路を導波される電磁波に順に作用する複数の誘電体レンズを備え、前記複数の誘電体レンズによって、前記電磁波の強度分布及び位相分布を調整する、ことを特徴とする。
【0046】
上記の構成によれば、導波路を導波される電磁波の強度分布及び位相分布を調整するための装置であって、短時間で安価に製造することが可能な装置を実現することができる。
【0047】
態様2に係るレンズ装置は、態様1に係るレンズ装置において、前記複数の誘電体レンズは、前記電磁波の進行方向、または、前記電磁波の進行方向に直交する面上での前記電磁波の強度分布の中心または対称性を変化させる、ことを特徴とする。
【0048】
上記の構成によれば、(1)導波路を導波される電磁波の進行方向、または(2)前記電磁波の進行方向に直交する面上での前記電磁波の強度分布の中心または対称性を変化させることができる。電磁波の強度分布の中心の変化として、強度分布の中心を導波路の中心からずらすことが挙げられる(例えば、図2の(b)と(d))。電磁波の強度分布の対称性の変化として、中心に対して円形に近い等強度線から楕円形に近い等強度線への変化を挙げることができる(例えば、図2の(b)と(d))。
【0049】
態様3に係るレンズ装置は、態様1に係るレンズ装置において、前記複数の誘電体レンズは、第1誘電体レンズと第2誘電体レンズとを含んでおり、前記第1誘電体レンズは、前記導波路を導波された前記電磁波の進行方向を、前記導波路の中心軸と平行な第1方向から、前記第1方向とは異なる第2方向に変化させ、前記第2誘電体レンズは、前記第1誘電体レンズを透過した前記電磁波の進行方向を、前記第2方向から第3方向に変化させる、ことを特徴とする。
【0050】
上記の構成によれば、ピーク位置が導波路の中心軸からずれた強度分布を有する電磁波を生成することができる。これにより、例えば、入力されるミリ波ビームにピーク位置ずれや傾きが生じても水平ランチャーの動作が破綻しないことを検証する検証作業を容易に行うことができる。なお、第3方向の一例として、第1方向が挙げられる。
【0051】
態様4に係るレンズ装置は、態様3に係るレンズ装置において、前記導波路は、導波管であり、一端側の底面が前記第1誘電体レンズとして機能し、他端側がテーパー状に広がって開口した円筒状の第1ユニットと、一端側の底面が前記第2誘電体レンズとして機能し、他端側がテーパー状に広がって開口した円筒状の第2ユニットと、によって構成され、前記第2ユニットの前記一端側が前記第1ユニットの前記他端側に挿嵌されている、ことを特徴とする。
【0052】
上記の構成によれば、第1誘電体レンズ及び第2誘電体レンズを導波路に容易に取り付けることができる。
【0053】
態様5に係るレンズ装置は、態様1~4の何れか一態様に係るレンズ装置において、前記電磁波は、ミリ波であり、前記導波路は、ミリ波をマルチモード伝送する導波管である、ことを特徴とする。
【0054】
上記の構成によれば、導波路を導波されるミリ波の強度分布及び位相分布を調整するための装置であって、短時間で安価に製造することが可能な装置を実現することができる。
【0055】
態様6に係るレンズ装置は、態様1~5の何れか一態様に係るレンズ装置において、前記複数の誘電体レンズは、それぞれ、前記導波路に挿抜可能なユニットに収められている、ことを特徴とする。
【0056】
上記の構成によれば、電磁波に作用させる誘電体レンズを容易に取り換えることができる。
【0057】
態様7に係るレンズ装置は、態様1~5の何れか一態様に係るレンズ装置において、前記複数の誘電体レンズは、それぞれ、リボルバー型のユニットに収められており、当該ユニットを回転させることによって、前記導波路に挿入される誘電体レンズを切り替え可能である、ことを特徴とする。
【0058】
上記の構成によれば、電磁波に作用させる誘電体レンズを容易に切り替えることができる。
【0059】
本発明の態様8に係る製造方法は、態様1~7の何れか一態様に係るレンズ装置の製造方法であって、前記誘電体レンズを3Dプリンタにより造形するレンズ造形工程を含んでいる、ことを特徴とする。
【0060】
上記の構成によれば、更に短時間で更に安価に製造することが可能なレンズ装置を実現することができる。
【0061】
本発明の態様9に係る製造方法は、態様1~7の何れか一態様に係るレンズ装置の製造方法であって、前記誘電体レンズの各部の厚みを多項式により表現し、前記レンズ装置から出力される電磁波の強度分布及び位相分布が目標とする強度分布及び位相分布に近づくよう、前記多項式の係数を設定する伝搬計算工程を含んでいる、ことを特徴とする。
【0062】
上記の構成によれば、誘電体レンズの各部の厚みを容易に設定することができる。
【0063】
e多項式である、ことを特徴とする。
【0064】
上記の構成によれば、誘電体レンズの各部の厚みを精度良く設定することができる。
【0065】
(付記事項)
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0066】
1 レンズ装置
11 第1ユニット
11a 第1誘電体レンズ
12 第2ユニット
12a 第2誘電体レンズ
2 導波路
図1
図2
図3
図4
図5
図6