(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064840
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】SiCウェハの製造装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/205 20060101AFI20240507BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20240507BHJP
H01L 21/20 20060101ALI20240507BHJP
C30B 29/36 20060101ALI20240507BHJP
C30B 25/20 20060101ALI20240507BHJP
C23C 16/42 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
H01L21/205
H01L21/31 B
H01L21/20
C30B29/36 A
C30B25/20
C23C16/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173749
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤林 裕明
(72)【発明者】
【氏名】長屋 正武
(72)【発明者】
【氏名】大原 淳士
(72)【発明者】
【氏名】星 真一
【テーマコード(参考)】
4G077
4K030
5F045
5F152
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BE08
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5F045AA06
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(57)【要約】
【課題】欠陥が含まれにくいSiCウェハとしつつ、SiCウェハを製造する工程とは別の工程を不要にする。
【解決手段】搭載部50は、種基板10の裏面10b側が載置される載置面61aを有するサセプタ部60と、種基板10の周囲を囲む状態でサセプタ部60に配置されているガイド部70とを有する構成とする。そして、エピタキシャル層11を成長させる際、ステップフロー成長方向の上流側における種基板10とガイド部70との第1間隔L1がステップフロー成長方向の下流側における種基板10とガイド部70との第2間隔L2より狭くなるようにし、ガイド部70は、エピタキシャル層11を成長させる際に種基板11よりも温度が低くなる構成とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素ウェハの製造装置であって、
反応ガスが導入され、炭化珪素で構成されると共にオフ角を有する種基板(10)の表面(10a)側に、炭化珪素で構成されたエピタキシャル層(11)をステップフロー成長させる反応室(20a)を形成する反応室形成部(20)と、
前記反応室に備えられ、前記反応室に前記エピタキシャル層を成長させる反応ガスを供給する反応ガス用供給管(30)と、
前記反応室に配置され、前記種基板が配置される搭載部(50)と、
一端部側に前記搭載部が配置される筒部(41)を有し、前記搭載部を前記種基板と共に回転させる回転装置(40)と、
前記種基板を加熱する加熱装置(80、90)と、を備え、
前記搭載部は、前記種基板の裏面(10b)側が載置される載置面(61a)を有するサセプタ部(60)と、前記種基板の周囲を囲む状態で前記サセプタ部に配置されているガイド部(70)とを有し、前記エピタキシャル層を成長させる際、ステップフロー成長方向の上流側における前記種基板と前記ガイド部との第1間隔(L1)が前記ステップフロー成長方向の下流側における前記種基板と前記ガイド部との第2間隔(L2)より狭くなる構成とされ、
前記ガイド部は、前記エピタキシャル層を成長させる際に前記種基板よりも温度が低くなる構成とされている炭化珪素ウェハの製造装置。
【請求項2】
前記ガイド部は、前記種基板より輻射率が大きい構成とされ、
前記加熱装置は、前記種基板の前記裏面側を加熱する第1加熱装置(80)と、前記種基板の前記表面側を加熱する第2加熱装置(90)と、を有し、
前記第1加熱装置および前記第2加熱装置は、前記種基板の前記裏面側の温度が前記表面側の温度より高くなるように駆動される請求項1に記載の炭化珪素ウェハの製造装置。
【請求項3】
前記ガイド部は、前記種基板より輻射率が小さい構成とされ、
前記加熱装置は、前記種基板の前記裏面側を加熱する第1加熱装置(80)と、前記種基板の前記表面側を加熱する第2加熱装置(90)と、を有し、
前記第1加熱装置および前記第2加熱装置は、前記種基板の前記表面側の温度が前記裏面側の温度より高くなるように駆動される請求項1に記載の炭化珪素ウェハの製造装置。
【請求項4】
前記サセプタ部は、前記載置面の面方向に対する法線方向において、前記種基板の中心が前記サセプタ部の中心よりも前記ステップフロー成長方向の上流側となる構成とされている請求項1ないし3のいずれか1つに記載の炭化珪素ウェハの製造装置。
【請求項5】
前記ガイド部は、筒状とされ、周方向に肉厚が変化した部分を有し、前記サセプタ部の前記載置面の面方向に対する法線方向において、内部の空間(70a)の中心(70c)が前記サセプタ部の中心(60c)と異なる形状とされており、
前記サセプタ部は、前記載置面の面方向に対する法線方向において、前記種基板の中心が前記サセプタ部の中心と一致する状態で配置される構成とされている請求項1ないし3のいずれか1つに記載の炭化珪素ウェハの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素(以下では、単にSiCともいう)で構成されると共にオフ角を有する種基板上にエピタキシャル層を成長させてSiCウェハを製造するためのSiCウェハの製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、SiCで構成されると共にオフ角を有する種基板上にエピタキシャル層を成長させてSiCウェハを構成することが提案されている。また、SiCで構成される種基板上にエピタキシャル層を成長させる場合、エピタキシャル層はステップフロー成長することが報告されている。さらに、オフ角を有する種基板上にエピタキシャル層を成長させる場合、ステップフロー成長方向の上流側で凹凸を含む欠陥が発生し易いことが報告されている。
【0003】
そして、SiCウェハに凹凸を含む欠陥が発生している場合、そのまま欠陥を含むSiCウェハを用いてMOSFET等の半導体素子を形成しようとすると、熱処理時に凹凸部分に応力が集中してSiCウェハが割れる可能性がある。また、半導体素子を形成する際にSiCウェハ上にレジストを配置する工程を含む場合、レジストを剥離する際に当該レジストが凹凸部分に残存し易くなり、異物となる可能性がある。なお、MOSFETは、metal oxide semiconductor field effect transistorの略称である。
【0004】
このため、例えば、特許文献1には、種基板上にエピタキシャル層を成長させてSiCウェハを構成した後、SiCウェハにおけるステップフロー成長方向の上流側に位置する部分を除去することが提案されている。つまり、特許文献1には、種基板上にエピタキシャル層を成長させてSiCウェハを構成した後、欠陥が構成され易い部分を除去することが提案されている。そして、除去したSiCウェハを用いて半導体素子を形成することにより、SiCウェハが割れたり、製造したSiC半導体装置に異物が含まれることを抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、SiCウェハにおけるステップフロー成長方向の上流側に位置する部分を除去することは、SiCウェハを製造する工程とは別の工程が必要となり、製造工程が増加し易くなる。
【0007】
本発明は上記点に鑑み、欠陥が含まれにくいSiCウェハとしつつ、SiCウェハを製造する工程とは別の工程を不要にできるSiCウェハの製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための請求項1は、SiCウェハの製造装置であって、反応ガスが導入され、SiCで構成されると共にオフ角を有する種基板(10)の表面(10a)側に、SiCで構成されたエピタキシャル層(11)をステップフロー成長させる反応室(20a)を形成する反応室形成部(20)と、反応室に備えられ、反応室にエピタキシャル層を成長させる反応ガスを供給する反応ガス用供給管(30)と、反応室に配置され、種基板が配置される搭載部(50)と、一端部側に搭載部が配置される筒部(41)を有し、搭載部を種基板と共に回転させる回転装置(40)と、種基板を加熱する加熱装置(80、90)と、を備え、搭載部は、種基板の裏面(10b)側が載置される載置面(61a)を有するサセプタ部(60)と、種基板の周囲を囲む状態でサセプタ部に配置されているガイド部(70)とを有し、エピタキシャル層を成長させる際、ステップフロー成長方向の上流側における種基板とガイド部との第1間隔(L1)がステップフロー成長方向の下流側における種基板とガイド部との第2間隔(L2)より狭くなる構成とされ、ガイド部は、エピタキシャル層を成長させる際に種基板よりも温度が低くなる構成とされている。
【0009】
これによれば、エピタキシャル層を成長させる際、ガイド部が種基板よりも低温となる。また、エピタキシャル層を成長させる際、種基板とガイド部との第1間隔が種基板とガイド部との第2間隔より狭くなる。このため、エピタキシャル層を成長させる際、欠陥が発生し易い成長方向の上流側でエピタキシャル層が成長し難くなる。したがって、SiCウェハに凹凸が含まれ難くなり、成長方向の上流側を除去する工程を行わなくても、そのまま半導体素子を製造するのに利用することができる。
【0010】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態におけるSiCウェハの製造装置を示す模式図である。
【
図2】SiCにおける、表面粗さと輻射率との関係を示す図である。
【
図3】エピタキシャル層を成長させる際の種基板近傍の模式図である。
【
図4】エピタキシャル層を成長させた後の種基板近傍の模式図である。
【
図5】エピタキシャル層を成長させる際の条件を示した図である。
【
図6】種基板の中心からの距離、成長速度、熱流束の関係を示す図である。
【
図8】第1間隔を0.0mmとした際における
図7中の領域Aの光学顕微鏡写真を二値化した図である。
【
図9】第1間隔を1.5mmとした際における
図7中の領域Aの光学顕微鏡写真を二値化した図である。
【
図10】第1間隔を3.0mmとした際における
図7中の領域Aの光学顕微鏡写真を二値化した図である。
【
図11】SiCウェハの中心からの距離と段差との関係とを示す図である。
【
図13】種基板を搭載部に配置した際の回転前の状態を示す平面図である。
【
図15】種基板を搭載部に配置した際の回転中の状態を示す平面図である。
【
図17】第3実施形態における種基板を搭載部に配置した際の回転中の状態を示す平面図である。
【
図18】
図17中のXVIII-XVIII線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0013】
(第1実施形態)
第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。SiCウェハの製造装置(以下では、単に製造装置ともいう)1は、
図1に示されるように、種基板10の表面10a側に半導体層としてのエピタキシャル層11を成長させてSiCウェハ12を製造する反応室20aを構成するチャンバ20を有する。なお、本実施形態では、チャンバ20が反応室20aを形成する反応室形成部に相当する。
【0014】
チャンバ20は、上方側に、種基板10の表面10a側に結晶薄膜を成長させるための反応ガスを供給する反応ガス用供給管30が設けられている。本実施形態では、SiCをエピタキシャル成長させるため、反応ガスは、例えば、シラン(SiH4)およびプロパン(C3H8)からなる原料ガス、水素および塩化水素(HCl)からなるキャリーガスを含んで構成される。
【0015】
具体的には、反応ガス用供給管30は、チャンバ20の上方側であり、種基板10の表面10aに対向する位置が開口するように配置されている。これにより、反応室20aには、種基板10の表面10aに交差する方向(すなわち、表面10aと略直交する方向)から種基板10の表面10aに向けて反応ガスが供給される。このため、本実施形態の製造装置1は、種基板10の表面10aに向けて反応ガスを吹き降ろすダウンフロー型のガス供給構造であるといえる。
【0016】
また、反応室20aには、下方側に、種基板10が配置される回転装置40が配置されている。本実施形態では、種基板10は、回転装置40に配置された搭載部50上に配置される。
【0017】
回転装置40は、筒部41、回転軸42、および駆動部43等を有する構成とされている。筒部41は、有底円筒形状の部材であって中空室41aを構成するものであり、開口端部側の端部に搭載部50が配置されるようになっている。そして、筒部41は、開口端部側がチャンバ20の上方側(すなわち、反応ガス用供給管30側)に向けられて配置されている。
【0018】
回転軸42は、駆動部43の出力によって回転する軸であり、筒部41と一体的に回転可能なように筒部41に連結されている。駆動部43は、回転力を出力するモータ等で構成されており、回転軸42を回転させるものである。そして、このように構成される回転装置40では、駆動部43の出力によって回転軸42が回転し、筒部41および搭載部50が一体的に回転する。
【0019】
搭載部50は、サセプタ部60とガイド部70とを有する構成とされている。サセプタ部60は、筒部41の開口端部に合わせた外形とされており、筒部41の開口端部に配置されることで筒部41を略閉塞する。これにより、筒部41の中空室41aが略閉塞される。
【0020】
具体的には、サセプタ部60は、一面60aおよび他面60bを有する板状とされており、一面60a側の中央部に、種基板10を収容するための凹部61が形成されている。このため、サセプタ部60は、一面60a側のうちの凹部61との境界部に段差部62が形成された状態となっている。なお、凹部61は、サセプタ部60が回転装置40に配置された際、凹部61の中心が回転軸42の中心軸と一致するように形成されている。
【0021】
また、サセプタ部60は、他面60b側の外縁部に、筒部41の開口端部と嵌合されるための段差部63が形成されている。そして、サセプタ部60は、段差部63が筒部41の開口端部に嵌合されることにより、筒部41に配置される。
【0022】
ガイド部70は、サセプタ部60の外縁部の形状と一致する筒状とされており、一端部に段差部71が設けられている。そして、ガイド部70は、段差部71がサセプタ部60の段差部62に嵌合されることにより、サセプタ部60に備えられている。
【0023】
ここで、本実施形態のガイド部70は、種基板10よりも輻射率の高い構成とされている。本発明者らの検討によれば、
図2に示されるように、SiCは、表面粗さRaが大きいほど輻射率が大きくなることが確認された。したがって、本実施形態では、ガイド部70は、SiCで構成され、種基板10よりも表面粗さRaが大きくされている。なお、ガイド部70の表面粗さRaを大きくするためには、例えば、SiCインゴットを加工してガイド部70を構成する際の加工具を調整することで表面粗さRaが大きくなるようにすればよい。また、ガイド部70の表面粗さRaを大きくするためには、例えば、加工した後にブラスト処理等を行って表面粗さRaが大きくなるようにすればよい。そして、本実施形態のガイド部70は、輻射率が種基板10よりも大きくなるのであればSiCと異なる材料で構成されていてもよく、例えば、カーバイド等で構成されていてもよい。
【0024】
種基板10は、サセプタ部60の凹部61の底面61aを載置面とし、裏面10b側が底面61aと対向するように搭載部50に載置されている。本実施形態では、上記のようにガイド部70が構成されている。このため、種基板10は、ガイド部70内の空間70aに配置されているともいえる。
【0025】
中空室41aには、種基板10を裏面10b側から加熱する加熱装置としての第1ヒータ80が配置されている。第1ヒータ80は、例えば、カーボン製の抵抗加熱ヒータが用いられ、図示を省略しているが、制御部等と接続されて所定温度に加熱される。なお、本実施形態では、第1ヒータ80が第1加熱装置に相当する。
【0026】
チャンバ20には、回転装置40よりも上方側に、種基板10を表面10a側から加熱する加熱装置としての第2ヒータ90が配置されている。第2ヒータ90は、例えば、カーボン製の抵抗加熱ヒータが用いられ、図示を省略しているが、制御部等と接続されて所定温度に加熱される。なお、第2ヒータ90は、例えば、チャンバ20の内壁面に沿って環状に配置される。また、本実施形態では、第2ヒータ90が第2加熱装置に相当する。
【0027】
そして、具体的には後述するが、本実施形態の第1ヒータ80および第2ヒータ90は、中空室41aの温度が反応室20aの温度よりも高温となるように駆動される。言い換えると、第1ヒータ80および第2ヒータ90は、種基板10の裏面10b側の温度が表面10a側の温度よりも高温となるように駆動される。
【0028】
さらに、チャンバ20には、下方側に反応後のガスや未反応ガスを排気するための反応ガス用排気管100が設けられている。反応ガス用排気管100は、チャンバ20側と反対側の部分が図示しない真空ポンプと接続されている。これにより、反応室20aは、所定圧力に維持される。
【0029】
なお、特に図示しないが、中空室41aには、搬送用ロボットによる反応室20aへの種基板10が載置された搭載部50の搬入や、反応室20aからの搭載部50の搬出を補助するための昇降機器が配置されている。この昇降機器は、例えば、搭載部50の搬出時に搭載部50を上昇させて筒部41から引き離すことで搬送用ロボットに搭載部50を受け渡す機能を有するものが用いられる。但し、製造装置1は、種基板10が載置された搭載部50の搬入および搬出を行うものではなく、搭載部50を移動させずに種基板10のみの搬入および搬出を行うようなものであってもよい。
【0030】
以上が本実施形態における製造装置1の構成である。次に、上記の製造装置1を用いて種基板10の表面10a上にエピタキシャル層11を成長させる方法について説明する。
【0031】
まず、上記のような製造装置1では、種基板10が載置された搭載部50を回転装置40によって例えば200rpmで回転させつつ、反応室20aを第1、第2ヒータ80、90によって約1600~1750℃になるまで加熱する。そして、反応ガス用供給管30から反応室20aに向けて反応ガスを供給する。これにより、反応ガスに含まれるシランガスとプロパンガスとが反応し、種基板10上にSiCで構成されるエピタキシャル層11がステップフロー成長してSiCウェハ12が製造される。
【0032】
但し、本実施形態では、具体的には以下のようにしてエピタキシャル層11を成長させる。まず、種基板10は、SiCで構成され、例えば、(0001)Si面に対して0~8°のオフ角を有する4H型ものが用いられる。なお、種基板10は、これに限定されるものではなく、6H型や3C型のものであってもよいし、オフ角の詳細な値も適宜変更可能である。
【0033】
そして、本実施形態では、第1ヒータ80および第2ヒータ90で反応室20aを加熱する際、種基板10の裏面10bが表面10aよりも高温になるようにする。詳しくは、中空室41aの温度が反応室20aの温度よりも高くなるように第1ヒータ80および第2ヒータ90を駆動する。この場合、本実施形態では、上記のように、ガイド部70の輻射率を種基板10の輻射率よりも高くなるようにしている。このため、輻射率の高いガイド部70の方が種基板10よりも放熱が大きくなり、ガイド部70の温度が種基板10よりも低温となる。
【0034】
さらに、本実施形態では、
図3に示されるように、ステップフロー成長方向(以下では、単に成長方向ともいう)において、次の関係が満たされた状態で種基板10にエピタキシャル層11を成長させる。すなわち、成長方向における上流側の種基板10とガイド部70との第1間隔L1が、成長方向における下流側の種基板10とガイド部70との第2間隔L2よりも狭くなる状態で、種基板10にエピタキシャル層11を成長させる。
【0035】
これにより、第1間隔L1となる部分の温度勾配が第2間隔L2となる部分の温度勾配より大きくなるため、成長方向における上流側では、反応ガスに含まれる原料種Mがガイド部70側に流れ易くなる。このため、
図4に示されるように、種基板10における成長方向の上流側でエピタキシャル層11が成長し難くなる。つまり、エピタキシャル層11を成長させる際、凹凸等の欠陥が形成され易い成長方向の上流側でエピタキシャル層が成長し難くなる。
【0036】
本発明者らが
図5に示す条件でエピタキシャル層11を成長させるシミュレーションを行ったところ、
図6に示される結果が得られた。なお、エピタキシャル層11を成長させる条件は、
図5に示されるように、種基板10の表面10aにおける中心温度を1625℃とし、シランの流量を500sccmとし、プロパンの流量を91sccmとし、水素の流量を90sccmとし、塩化水素の流量を5000sccmとしている。また、チャンバ20内の圧力を27kPaとし、エピタキシャル層11の成長量を140μmとしている。そして、種基板10とガイド部70との温度差ΔTが4.6℃となるようにし、第1間隔L1を0~3.0mmの間で変化させている。
【0037】
図6に示されるように、エピタキシャル層11は、成長方向の上流側において、第1間隔L1を狭くするほど原料種Mがガイド部70側に流れ易くなるため、成長速度が遅くなることが確認される。また、エピタキシャル層11は、成長方向の上流側において、第1間隔L1を狭くするほど熱流束の大きさが大きくなることが確認される。なお、
図6は、種基板10の中心からの面方向に沿った距離を示しており、6インチの基板を用いているために75mmが種基板10の端部となる。また、
図6では、種基板10からエピタキシャル層11側に向かう熱流束を負として示しており、熱流束の大きさが熱勾配の大きさに対応している。つまり、
図6より、第1間隔L1を狭くするほど温度勾配が大きくなることが確認される。
【0038】
そして、本発明者らが実際に種基板10上にエピタキシャル層11を成長させたところ、
図8~
図12に示される結果が得られた。なお、
図8~
図12は、上記の
図5の条件でエピタキシャル層11を成長させた際の結果である。また、
図8~
図10は、
図7のようにステップフロー成長させたSiCウェハ12における成長方向の上流側に位置する領域Aについて、光学顕微鏡で得られた結果を二値化した図である。
図11は、SiCウェハ12の中心から70mm離れた位置を基準(すなわち、段差0)とした段差を示している。
図12は、
図8~
図10中のXII-XII線に沿った部分における両端(すなわち、距離が0mmと2mm)を基準(すなわち、段差0)としている。そして、
図11および
図12において、第1間隔L1が0.0mmとは、種基板10とガイド部70とが当接する状態のことである。また、
図11および
図12では、第1間隔L1が1.5μmとは第1間隔L1と第2間隔L2とが等しい状態のことを示し、第1間隔L1が3.0μmとは第1間隔L1が第2間隔L2よりも広い状態のことを示している。
【0039】
図8~
図10に示されるように、第1間隔L1が狭いほど、凹凸を含む欠陥が発生し難くなっていることが確認される。そして、
図11および
図12に示されるように、第1間隔L1が狭いほど凹凸が少ないことが確認され、第1間隔L1が0.0mmの場合には、ほとんど凹凸が形成されないことが確認される。
【0040】
したがって、本実施形態では、第1間隔L1が第2間隔L2より狭くなるようにしている。具体的には、本実施形態では、第1間隔L1を第2間隔L2より狭くするため、次のように種基板10上にエピタキシャル層11を成長させる。
【0041】
すなわち、本実施形態では、
図13および
図14に示されるように、サセプタ部60の凹部61の底面が真円状となるようにする。但し、凹部61の中心は、サセプタ部60における底面61aの面方向に対する法線方向(以下では、単に法線方向ともいう)において、サセプタ部60の中心60c(すなわち、回転軸42の中心軸)と一致するようにする。そして、種基板10の中心10cがサセプタ部60の中心60cよりも成長方向の上流側に位置するように配置する。
【0042】
その後、この状態で回転軸42を回転させ、種基板10上にエピタキシャル層11を成長させる。この際、
図15および
図16に示されるように、種基板10の中心10cがサセプタ部60の中心60cよりも成長方向の上流側に位置するように配置されているため、サセプタ部60が回転することによる遠心力により、種基板10が成長方向の上流側に変位してガイド部70と当接した状態となる。すなわち、第1間隔L1が0.0mmとなる。したがって、第1間隔L1が第2間隔L2より狭い状態で種基板10上にエピタキシャル層11を成長させることができる。なお、上記の
図8は、この方法で第1間隔L1を0.0mmにした結果を示している。
【0043】
以上説明した本実施形態によれば、エピタキシャル層11を成長させる際、ガイド部70が種基板10よりも低温となるようにしている。また、エピタキシャル層11を成長させる際、種基板10とガイド部70との第1間隔L1が種基板10とガイド部70との第2間隔L2より狭くなるようにしている。このため、エピタキシャル層11を成長させる際、欠陥が発生し易い成長方向の上流側でエピタキシャル層11が成長し難くなる。したがって、SiCウェハ12に凹凸が含まれ難くなり、成長方向の上流側を除去する工程を行わなくても、そのまま半導体素子を製造するのに利用することができる。
【0044】
また、本実施形態では、第2間隔L2は、第1間隔L1より広くされている。このため、エピタキシャル層11を成長させる際、成長方向の下流側では、エピタキシャル層11が成長し難くなることを抑制できる。したがって、SiCウェハ12における成長方向の下流側では、良好な結晶品質を有するエピタキシャル層11を成長させることができる。
【0045】
(1)本実施形態では、第1ヒータ80および第2ヒータ90を用いて反応室20aを加熱するようにしている。このため、第1間隔L1となる部分の温度勾配の大きさおよび第2間隔L2となる部分の温度勾配の大きさを調整し易くできる。
【0046】
(2)本実施形態では、種基板10をサセプタ部60に配置する際の位置を調整することにより、エピタキシャル層11を成長させる際に第1間隔L1を0.0mmとできる。このため、エピタキシャル層11を成長させる際に第1間隔L1を0.0mmとするための特別な構成が不要となり、製造装置1が複雑になることを抑制できる。
【0047】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、ガイド部70の構成を変更したものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0048】
本実施形態の製造装置1における基本的な構成は、第1実施形態と同様である。但し、本実施形態では、ガイド部70の輻射率が種基板10の輻射率よりも低い構成とされている。例えば、ガイド部70は、SiCで構成され、種基板10よりも表面粗さRaが小さい構成とされている。
【0049】
そして、本実施形態では、種基板10上にエピタキシャル層11を成長させる際、第1ヒータ80および第2ヒータ90を調整して種基板10の表面10aが裏面10bよりも高温になるようにする。つまり、中空室41aの温度が反応室20aの温度よりも低くなるようにする。これにより、本実施形態では、エピタキシャル層11を成長させる際、種基板10の方がガイド部70よりも吸熱が大きくなり、種基板10がガイド部70よりも高温となる。つまり、ガイド部70が種基板10よりも低温となる。したがって、上記第1実施形態のように第1間隔L1を第2間隔L2より狭くすることにより、成長方向の上流側でエピタキシャル層11が成長することを抑制できる。
【0050】
以上説明した本実施形態のように、ガイド部70の輻射率が種基板10の輻射率よりも低くなる構成としてもよい。このような構成としても、第1ヒータ80および第2ヒータ90を調整して種基板10の表面10aが裏面10bよりも高温になるようにすると共に第1間隔L1を第2間隔L2より狭くすることにより、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0051】
(第3実施形態)
第3実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、ガイド部70の構成を変更したものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0052】
本実施形態の製造装置1では、
図17および
図18に示されるように、ガイド部70は、内部の空間70aの中心70cがサセプタ部60の中心60cよりも成長方向の下流側に位置するように、周方向に肉厚が変化する部分を有する構成とされている。そして、種基板10は、サセプタ部の中心60cと一致するように配置されると共に、成長方向の上流側に位置するガイド部70と当接するように配置される。なお、ガイド部70の肉厚が変化するとは、ガイド部70の内壁面と外壁面との間の長さが変化することである。
【0053】
以上説明した本実施形態によれば、エピタキシャル層を成長させる際、ガイド部70が種基板10よりも低温となり、第1間隔L1が第2間隔L2よりも狭くなるようにしているため、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0054】
(1)本実施形態のように、ガイド部70の形状を調整して第1間隔L1と第2間隔L2との間隔を調整するようにしてもよい。この場合、ガイド部70をサセプタ部60と分離可能な構成としておくことにより、ガイド部70の形状を容易に調整し易くできる。
【0055】
(他の実施形態)
本開示は、実施形態に準拠して記述されたが、本開示は当該実施形態や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0056】
例えば、上記各実施形態では、エピタキシャル層11を成長させる際に第1間隔L1が0.0mmとなる例について説明した。しかしながら、第1間隔L1が第2間隔L2より狭くなるのであれば、第1間隔L1は0.0mmでなくてもよい。例えば、サセプタ部60の底面61aに支持ピン等を配置し、搭載部50を回転させた際に第1間隔L1が0.0mmとならないようにしてもよい。
【0057】
また、上記各実施形態において、サセプタ部60およびガイド部70は、一体化されていてもよい。
【0058】
さらに、上記第1実施形態において、第2ヒータ90は備えられていなくてもよい。同様に、上記第2実施形態において、第1ヒータ80は備えられていなくてもよい。
【0059】
そして、上記各実施形態を組み合わせることもできる。例えば、上記第2実施形態に上記第3実施形態を組み合わせ、ガイド部70の形状を調整することで第1間隔L1と第2間隔L2とを調整するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0060】
10 種基板
10a 表面
10b 裏面
20 エピタキシャル層
20 チャンバ(反応室形成部)
20a 反応室
30 反応ガス用供給管
40 回転装置
41 筒部
50 搭載部
60 サセプタ部
61a 載置面
70 ガイド部
80 第1ヒータ(加熱装置)
90 第2ヒータ(加熱装置)
L1 第1間隔
L2 第2間隔