(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064846
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】真空保冷容器
(51)【国際特許分類】
F25D 3/00 20060101AFI20240507BHJP
F25D 23/06 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
F25D3/00 D
F25D23/06 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173764
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】594112978
【氏名又は名称】ワコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086346
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 武信
(72)【発明者】
【氏名】西田 耕平
【テーマコード(参考)】
3L044
3L102
【Fターム(参考)】
3L044AA04
3L044BA03
3L044CA02
3L044CA04
3L044CA17
3L044DC04
3L044KA01
3L044KA04
3L102JA08
3L102JA09
3L102MB30
(57)【要約】
【課題】真空断熱構造を備えた保冷容器の保温性能を高め、長期に亘って保温状態を維持することができる保冷容器の提供を図る。
【解決手段】真空断熱構造を備えた保冷空間12と、保冷空間12内に被収納物を出し入れする開口部13とを備える。保冷空間12の内壁面14に熱伝導可能に直接又は熱伝導部材23を介して接する冷却体22を備えた冷却部材21が着脱可能に配置される。冷却部材21が内壁面14を冷却して、内壁面に沿って伝達される外部からの熱移動を、抑制するよう構成する。冷却部材21の冷却体22には、固液2相間の相変化をなす保冷剤を軟質または硬質のケース内に封入した保冷剤デバイスや、冷却機能を備えた電子冷却デバイスなどを用いることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空断熱構造を備えた保冷空間と、前記保冷空間内に被収納物を出し入れする開口部とを備えた真空保冷容器において、
前記保冷空間の内壁面に対して熱伝導可能に接する冷却部材が着脱可能に配置され、
前記冷却部材が前記内壁面を冷却して、前記内壁面に沿って伝達される外部からの熱移動を、抑制するよう構成したことを特徴とする真空保冷容器。
【請求項2】
前記冷却部材は、板状又はリング状をなす熱伝導部材と、前記熱伝導部材を冷却する冷却体とを備え、
前記冷却体は、前記熱伝導部材に対して熱伝導可能に接触しており、
前記熱伝導部材は、前記保冷空間の前記内壁面に対して熱伝導可能に接触しており、
前記熱伝導部材は、前記内壁面に対して着脱可能であり、前記冷却体に対して着脱可能又は着脱不能であることを特徴とする請求項1に記載の真空保冷容器。
【請求項3】
前記冷却部材は、冷却体によって構成され、
前記冷却体は、前記保冷空間の前記内壁面に対して熱伝導可能に直接接触していることを特徴とする請求項1に記載の真空保冷容器。
【請求項4】
前記冷却体は、固液2相間の相変化をなす保冷剤を軟質または硬質のケース内に封入した保冷剤デバイスと、冷却機能を備えた電子冷却デバイスとの少なくとも何れか一方あることを特徴とする請求項1又は2に記載の真空保冷容器。
【請求項5】
前記冷却体の少なくとも一部が前記保冷空間の内部側に位置しており、前記冷却体によって前記保冷空間内が冷却されるものであることを特徴とする請求項2又は3に記載の真空保冷容器。
【請求項6】
前記冷却体が前記保冷空間の外側に位置していることを特徴とする請求項2又は3に記載の真空保冷容器。
【請求項7】
前記保冷空間の前記内壁面は、前記冷却部材を支持する凸部を備えたことを特徴とする請求項1に記載の真空保冷容器。
【請求項8】
前記開口部を閉ざす蓋体に前記冷却部材が取り付けられたことを特徴とする請求項1に記載の真空保冷容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空断熱構造を備えた真空保冷容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、真空保冷容器はいわゆる魔法瓶として飲料などの液体を運ぶために使われていた。
【0003】
ところが、特許文献1に示されるように、細胞や組織などの生体試料を所定の温度に維持して輸送したり、温度管理が必要な医薬品を所定の温度に維持して輸送したりする必要性が高まり、より長時間保冷空間内の温度維持が可能な真空保冷容器の開発が求められている。
【0004】
たとえば、特許文献1には、「第2の容器に保温対象物を収容し、第2の容器を第1の容器に保冷剤と共に収納する」保冷容器が開示されている。この特許文献1にあっては、「保温対象物を長期に亘って好適に保冷することができる。とくに、第1の容器及び/又は第2の容器を真空断熱構造にすることで、保温性能を高めることができる。そして、第1の容器を真空断熱構造とした場合には、長期に亘って保温状態を維持することができる。また、第2の容器を真空断熱構造とした場合には、保温対象物は、保冷剤から急激な冷却を受けることがなく、緩やかに冷却されるから、保温対象物にヒートショックを与えることなく保冷を行なうことができる」という効果が記載されている。
【0005】
発明者は、保冷空間内の温度維持を伸ばすことが可能な真空保冷容器を開発せんとして、従来の真空保冷容器を再検討したところ、真空断熱構造をなす保冷空間の壁伝いの熱移動を抑えることが重要であるという知見を得た。
【0006】
真空保冷容器は真空状態を長期にわたり維持するためにステンやチタンなどの金属で製造されることが多い。ところが、金属がゆえに熱伝導率が高く、開口部からの壁伝いの熱移動が生じてしまっていた。
いわゆる魔法瓶のように、被収納物が液体であれば内壁面に直接接しているため、被収納物自体が開口部からの壁伝いの熱移動を抑制する機能を果たしていた。
【0007】
しかし、最近、特許文献1に示すように、医薬品などの固体を輸送したり、液体であってもケースに収納したものを輸送したりする際にも真空保冷容器が使われ、保冷時間を延ばすために内部に冷媒(保冷剤やドライアイス)を収納するようになってきた。ところが、それらの冷媒は内壁面と接していないため、壁伝いの熱移動を抑えることができていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、真空断熱構造を備えた保冷容器において、開口部からの保冷空間の内壁面沿いの熱移動に着目することによって、保温性能を高めることを課題とする。また、長期に亘って保温状態を維持することができる保冷容器の提供を図る。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、開口部からの保冷空間の内壁面沿いの熱移動に着目することが、上記の課題の解決には重要であるとの知見を得てなされたものであり、真空断熱構造を備えた保冷空間と、前記保冷空間内に被収納物を出し入れする開口部とを備えた真空保冷容器において、前記保冷空間の内壁面に接する冷却部材が着脱可能に配置され、前記冷却部材が前記内壁面を冷却して、前記内壁面に沿って伝達される外部からの熱移動を、抑制するよう構成した真空保冷容器を提供することにより上記の課題を解決した。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、開口部からの保冷空間の内壁面沿いの熱移動を抑制することができる真空保冷容器を提供することができたものである。
また本発明は、所定温度の保温状態を維持するのに有利な真空保冷容器を提供することができたものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1の実施の形態にかかる保冷容器を示すもので、(A)は縦断面説明図、(B)はその要部拡大図、(C)は(B)の要部拡大図。
【
図2】本発明の第2の実施の形態にかかる保冷容器の縦断面説明図。
【
図3】本発明の第3の実施の形態にかかる保冷容器断面説明図。
【
図4】本発明の第4の実施の形態にかかる保冷容器を示すもので、(A)は縦断面説明図、(B)はその要部拡大図。
【
図5】本発明の第5の実施の形態にかかる保冷容器を示すもので、(A)は縦断面説明図、(B)はその要部拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
[第1の実施の形態(
図1)]
この形態に係る真空保冷容器11は、内外二重壁を備えた有底筒状の真空断熱構造の容器である。内外二重壁は、上端の開口部13で一体に接合されており、内外二重壁間は略真空状態に保たれている。この内外二重壁の材質は略真空状態を保つことができる剛性を備えているものを用いることができ、ステンレススチールやチタンなどの金属やその合金が好適に採用される。
【0015】
開口部13から下方の保冷空間12内の被収納物(図示せず)を出し入れすることができる。被収納物(図示せず)は特に限定されるものではなく、液体でも固体でも気体でも構わないし、別の容器に収納された液体や固体や気体でも構わない。
【0016】
開口部13の下方の内壁には、雌ねじが形成されており、この雌ねじに内蓋体31の雄ねじが螺合することにより開閉可能に開口部13を閉ざしている。また、さらに外側に外蓋体32を着脱可能に設けて実施しても構わない。
雌ねじの下方には凸部15が内壁面14から内方に向けて環状に突出形成されている。
【0017】
この凸部15に冷却部材21が着脱可能に支持されている。冷却部材21は凸部15を含む内壁面14に熱伝導可能に接触しているもので、冷却部材21が内壁面14を冷却する。これによって、内壁面14に沿って開口部13から伝達される外部からの熱移動を抑制する。
【0018】
熱伝導部材23は、その熱伝導性が真空保冷容器11の内壁面14の熱伝導性と同じかそれより高いことが好ましい。従って熱伝導部材23は、銅、アルミニウムやニッケルその合金などの金属材料で構成されているか被覆されているものであることが好ましいが、熱伝導性の高いものであればセラミック材料などのその他の材質で構成しても構わない。
この例では冷却部材21は、円板状をなすアルミニウムなどの金属製の熱伝導部材23と、熱伝導部材23を冷却する冷却体22とを備えたものとして実施されている。
内壁面14に対する接触面積を増やすことなどを目的として、熱伝導部材23の外周部に筒状などのフィンを設けて実施しても構わない。
【0019】
冷却体22には、ドライアイスなど保冷空間12及び被収納物(図示せず)を冷却し得るものを適宜採用することができるが、この例では、固液2相間の相変化をなす保冷剤を軟質または硬質のケース内に封入した保冷剤デバイスが採用されている。
冷却体22は、その上端面が熱伝導部材23に対して熱伝導可能に接触している。熱伝導部材23は冷却体22に対して着脱可能に接触していても構わないし、着脱不能に接触していても構わないし、熱伝導部材23が冷却体22の上記ケースの一部を構成していても構わない。
【0020】
この例では冷却体22は、円筒状をなしており、その全体が保冷空間12の内部に収納されている。冷却体22の下端面と真空保冷容器11の底面との間に被収納物(図示せず)が収納される。従って、冷却体22は保冷空間12及び被収納物(図示せず)を冷却することは勿論、熱伝導部材23を介して上端の開口部13の付近の内壁面14に熱伝導可能に接触して冷却することによって、冷却体22による保冷効果が顕著に向上したことは発明者においても驚くべき事実であった。
【0021】
特に、冷却体22として固液2相間の相変化をなす保冷剤を軟質または硬質のケース内に封入した保冷剤デバイスを用いて実施した場合、一般に保冷剤が時間の経過とともに相変化をなして、保冷空間12内の保冷温度が上昇してしまうが、この実施の形態にあっては所定の保冷温度を保つことができる保冷時間を飛躍的に伸ばすことができることが確認された。
【0022】
[第2の実施の形態(
図2)]
次に、第2の実施の形態に係る真空保冷容器11は、熱伝導部材23が冷却体22の下端に配置されている例を示している。この例では内壁面14に凸部15は設けられていないが、凸部15を設けることを妨げるものではない。冷却体22は、熱伝導部材23を介して内壁面14に熱伝導可能に接触することによって内壁面14を冷却すると共に、熱伝導部材23より下方の保冷空間12を冷却する。
なお、この第2の実施の形態以降の実施の形態で説明していない部分については、第1の実施の形態と実質的に同じであり、その説明を省略する。
【0023】
[第3の実施の形態(
図3)]
次に、第3の実施の形態に係る真空保冷容器11は、冷却部材21として、熱伝導部材23が冷却体22の上下方向の中ほどに配置されているもの例を示している。この例では、熱伝導部材23としてリング状のものを用いることができ、冷却体22はリング状の熱伝導部材23の中央孔を上下に貫通して配置されている。
【0024】
[第4の実施の形態(
図4)]
次に、第4の実施の形態に係る真空保冷容器11は、熱伝導部材23を用いずに、冷却体22が内壁面14に対して熱伝導可能に直接接触している冷却部材21の例を示している。この例では冷却体22の上端寄りの大外径部分26が下方の小外径部分27よりも一回り大きく形成されている。大外径部分26の外周壁が内壁面14に対して熱伝導可能に接触しており、その下端の段差部分が凸部15によって下方から支持されている。
【0025】
[第5の実施の形態(
図5)]
次に、第5の実施の形態に係る真空保冷容器11も、熱伝導部材23を用いずに、冷却体22が内壁面14に対して熱伝導可能に直接接触している冷却部材21の例である。この例の冷却体22は、下方の小外径部分27より上方に向かうに従って徐々に外径が大きくなるテーパ部分28が形成されている。テーパ部分28の上方にさらに大外径部分26を設けても構わないが、図のように設けずに実施しても構わない。
【0026】
内壁面14には凸部15を設けても構わないが、この例ではテーパ部分28に沿うようなテーパ面16が内壁面14に形成され、このテーパ面16にテーパ部分28が熱伝導可能に接触して支持されている。
【0027】
[その他の実施の形態(図示せず)]
上述の各実施の形態では、冷却部材21の冷却体22として保冷剤を用いたものを採用したが、ペルチェ素子などの冷却機能を備えた電子冷却デバイスを用いて実施しても構わない。
上述の各実施の形態では、冷却部材21と内蓋体31との間にわずかな間隔を有するものを示したが、接触したものとして実施しても構わない。さらに熱伝導部材23や保冷剤デバイスのケースを内蓋体31と一体化したものとして実施しても構わない。
【実施例0028】
以下本発明の理解を高めるために、実施例を示すが、本発明はこの実施例に限定して理解されるべきではない。
【0029】
[実施例の真空保冷容器]
第1の実施の形態に示した基本構造を有する魔法瓶型の真空保冷容器を用意した。ただし実施例の真空保冷容器は開口部の内径が内部の保冷空間の内径よりも小さくなっているものを用いた。実施例の真空保冷容器の保冷空間の内容量は約600ミリリットルであり、そのほぼ下半分の中心に、保冷温度-15°Cの保冷剤82gを封入した硬質の筒状ケースを配置した。この筒状ケースの中央空間に被収納物として検体容器を配置した。この筒状ケースの上に保冷温度-15°Cの保冷剤124gを封入した硬質のボトル状ケースを配置した。このボトル状ケースの上端面に熱伝導部材としてアルミニウム製の円形板を接着して、その外周を保冷空閑の内壁面の凸部に接触した状態で支持させた。さらに、筒状ケースとボトル状ケースの外側に、保冷温度-15°Cの保冷剤78gを封入した軟質のパウチ状ケースを配置した。
【0030】
[比較例の真空保冷容器]
上記比較例の真空保冷容器に、同条件の保冷剤を封入した2種類の硬質のケースと軟質のケースと被収納物とを配置した。ただし、比較例で熱伝導部材を用いずに、被収納物の上にボトル状ケースを載置するに止めた。
【0031】
[保冷温度試験]
実施例及び比較例の真空保冷容器を出願人の実験室室内に静置して、保冷温度試験を行なった結果を
図6のグラフに示す。なお、両真空保冷容器の保冷空間には被収納物と共に温度ロガーを配置して、時間経過に伴う温度変化を記録した。
図6のグラフから明らかなように、比較例にあっては試験開始後約45時間経過後に温度上昇が始まったのに対して、実施例にあっては試験開始後約55時間経過後に温度上昇が始まったものであり、実施例にあっては比較例に比べて保温時間を10時間伸ばすことが可能となったことが確認された。