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特開2024-64848量子通信システムおよびその制御方法、並びに中継ノード
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064848
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】量子通信システムおよびその制御方法、並びに中継ノード
(51)【国際特許分類】
   H04L 9/12 20060101AFI20240507BHJP
   H04B 10/291 20130101ALI20240507BHJP
   H04B 10/70 20130101ALI20240507BHJP
【FI】
H04L9/12
H04B10/291
H04B10/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173766
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】522193075
【氏名又は名称】LQUOM株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】堀切 智之
(72)【発明者】
【氏名】洪 鋒雷
(72)【発明者】
【氏名】吉田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】新関 和哉
(72)【発明者】
【氏名】都野 智暉
【テーマコード(参考)】
5K102
【Fターム(参考)】
5K102AA15
5K102AB11
5K102MA03
5K102MB02
5K102MC02
5K102PB01
5K102PB15
5K102PC11
5K102PH31
5K102RB04
5K102RB06
(57)【要約】
【課題】量子通信システムにおける装置規模の大型化を防止する。
【解決手段】係る量子通信システム(1)は、ベル測定ノード(13)と中継ノード(14)とが交互に設けられている。ベル測定ノード(13)は、隣り合う2つのノードからのもつれ光子を用いて、ベル測定を行い、中継ノード(14)は、隣り合う2つのベル測定ノード(13)に対し、もつれ光子を出力する量子もつれ光源(31)・(34)における光源励起レーザと、もつれ光子を記憶する量子メモリ(32)・(35)の書込みおよび読出しを制御するためのメモリ制御レーザ(33)と、光源励起レーザおよびメモリ制御レーザ(33)が出力する光の周波数を安定化するための光周波数コム(38)と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定ノードと中継ノードとが交互に設けられた量子中継部を備え、
前記測定ノードは、隣り合う2つの中継ノードからのもつれ光子を用いて、ベル測定を行い、
前記中継ノードは、
隣り合う2つの測定ノードに対し、前記もつれ光子を出力するための光源励起レーザと、
前記もつれ光子を記憶する量子メモリの書込みおよび読出しを制御するためのメモリ制御レーザと、
前記光源励起レーザおよび前記メモリ制御レーザが出力する光の周波数を安定化するための光周波数コムと、を備える、量子通信システム。
【請求項2】
前記中継ノードは、基準となる周波数である周波数基準を生成する周波数基準デバイスをさらに備え、
前記光周波数コムは、前記周波数基準デバイスからの周波数基準に基づいて前記光の周波数を安定化させる、請求項1に記載の量子通信システム。
【請求項3】
前記周波数基準デバイスは、周波数標準器を搭載した人工衛星から電波を介して受信した信号に基づいて、前記周波数基準を生成する、請求項2に記載の量子通信システム。
【請求項4】
周波数標準器によって安定化されたレーザ装置をさらに備え、
前記周波数基準デバイスは、前記レーザ装置から古典通信路を介して受信した信号に基づいて、前記周波数基準を生成する、請求項2に記載の量子通信システム。
【請求項5】
前記中継ノードは、前記もつれ光子の周波数を変換するための波長変換励起レーザをさらに備え、
前記光周波数コムは、さらに、前記波長変換励起レーザが出力する光の周波数を安定化させる、請求項1に記載の量子通信システム。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか1項に記載の量子通信システムに用いられる中継ノード。
【請求項7】
測定ノードと中継ノードとが交互に設けられた量子中継部を備える量子通信システムの制御方法であって、
前記中継ノードにおいて、もつれ光子を生成するための光源励起レーザと、前記もつれ光子を記憶する量子メモリの書込みおよび読出しを制御するためのメモリ制御レーザと、を動作させるステップと、
前記中継ノードにおいて、前記光源励起レーザおよび前記メモリ制御レーザが出力する光の周波数を、光周波数コムを用いて安定化するステップと、
前記測定ノードにおいて、隣り合う2つの前記中継ノードからのもつれ光子を用いて、ベル測定を実行するステップと、を含む、量子通信システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子通信システムおよびその制御方法、並びに中継ノードに関する。具体的には、本発明は、量子中継を用いた量子通信システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
量子もつれを用いた量子通信システムでは、量子もつれ光源が生成したもつれ光子が、量子メモリにて好適に吸収されるために、上記もつれ光子の周波数および上記量子メモリの吸収可能周波数を安定化させることが重要となっている。
【0003】
特許文献1に記載の量子通信システムには、光源を含む2つのノードと、該2つのノード間を中継する中継器とが設けられている。上記2つのノードには、上記もつれ光子の周波数の安定化のために、気体が封入された気体セルが設けられている。
【0004】
また、非特許文献1に記載の量子通信システムにおける量子中継部分では、量子もつれ光源と中継器とが交互に設けられている。上記中継器には光周波数コムが設けられ、該光周波数コムによって、上記量子もつれ光源の光源励起レーザが出力する光の周波数と、上記中継器の量子メモリ制御レーザが出力する光の周波数とがロックされる。これにより、上記もつれ光子の周波数の安定化と、上記量子メモリの吸収可能周波数の安定化とが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-040022号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K. Mannami et al. “Coupling of a quantum memory and telecommunication wavelength photons for high-rate entanglement distribution in quantum repeaters (optica.org)”, Optics Express Vol. 29, Issue 25, pp. 41522-41533 (2021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の量子通信システムの場合、安定化可能な周波数が上記気体固有の値に限定されることから、利用可能な上記もつれ光子の周波数が制限されることになる。
【0008】
これに対し、非特許文献1に記載の量子もつれ光源および中継器の場合、上記もつれ光子の周波数と上記量子メモリの吸収可能周波数との安定化のために光周波数コムが利用されている。これにより、利用可能な上記もつれ光子の周波数の範囲が特許文献1の場合よりも広くなる。同様に、利用可能な上記量子メモリの吸収可能周波数の範囲が、光周波数コムを利用しない場合に比べて広くなる。
【0009】
しかしながら、非特許文献1の場合、上記量子もつれ光源の光源励起レーザが出力する光の周波数は、上記中継器の光周波数コムによってフィードバック制御される。このため、上記光を上記量子もつれ光源から上記中継器に送信する構成と、上記フィードバック制御のための信号を上記中継器から上記量子もつれ光源に送信する構成とを追加する必要があり、装置規模が大型化することになる。
【0010】
一方、非特許文献1には、追加の光周波数コムを上記量子もつれ光源の付近に設けることが開示されている。しかしながら、この場合、量子通信システムにおける各ノードに光周波数コムを設けることになり、装置規模が大型化することになる。
【0011】
本発明の一態様は、装置規模の大型化を防止できる量子通信システム等を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る量子通信システムは、測定ノードと中継ノードとが交互に設けられた量子中継部を備え、前記測定ノードは、隣り合う2つの中継ノードからのもつれ光子を用いて、ベル測定を行い、前記中継ノードは、隣り合う2つの測定ノードに対し、前記もつれ光子を出力するための光源励起レーザと、前記もつれ光子を記憶する量子メモリの書込みおよび読出しを制御するためのメモリ制御レーザと、前記光源励起レーザおよび前記メモリ制御レーザが出力する光の周波数を安定化するための光周波数コムと、を備える。
【0013】
光源励起レーザは、測定ノードではなく、中継ノードに設けられ、該中継ノードに光周波数コムが設けられている。また、前記測定ノードには、前記光源励起レーザおよび前記メモリ制御レーザを設ける必要がないので、前記光周波数コムを設ける必要もない。従って、前記光周波数コムは、前記中継ノードにのみ設ければよく、その結果、光周波数コムを全てのノードに設ける場合に比べて、量子通信システムの装置規模の大型化を防止できる。
【0014】
本態様に係る量子通信システムは、前記中継ノードは、基準となる周波数である周波数基準を生成する周波数基準デバイスをさらに備え、前記光周波数コムは、前記周波数基準デバイスからの周波数基準に基づいて前記光の周波数を安定化させてもよい。この場合、前記光の周波数をさらに安定化させることができる。
【0015】
本態様に係る量子通信システムでは、前記周波数基準デバイスは、周波数標準器を搭載した人工衛星から電波を介して受信した信号に基づいて、前記周波数基準を生成してもよい。
【0016】
本態様に係る量子通信システムは、周波数標準器によって安定化されたレーザ装置をさらに備え、前記周波数基準デバイスは、前記レーザ装置から古典通信路を介して受信した信号に基づいて、前記周波数基準を生成してもよい。この場合、前記中継ノードの全てを同期させることができるので、安定した量子通信を行うことができる。
【0017】
本態様に係る量子通信システムでは、前記中継ノードは、前記もつれ光子の周波数を変換するための波長変換励起レーザをさらに備え、前記光周波数コムは、さらに、前記波長変換励起レーザが出力する光の周波数を安定化させてもよい。
【0018】
なお、上記構成の量子通信システムに用いられる中継ノードであれば、上記の効果と同様の効果を奏することができる。
【0019】
本発明の別の態様に係る制御方法は、測定ノードと中継ノードとが交互に設けられた量子中継部を備える量子通信システムの制御方法であって、前記中継ノードにおいて、もつれ光子を生成するための光源励起レーザと、前記もつれ光子を記憶する量子メモリの書込みおよび読出しを制御するためのメモリ制御レーザと、を動作させるステップと、前記中継ノードにおいて、前記光源励起レーザおよび前記メモリ制御レーザが出力する光の周波数を、光周波数コムを用いて安定化するステップと、前記測定ノードにおいて、隣り合う2つの前記中継ノードからのもつれ光子を用いて、ベル測定を実行するステップと、を含む。
【0020】
上記の方法によると、量子通信システムの装置規模の大型化を防止すると共に、量子通信の安定化を図ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一態様によれば、装置規模の大型化を防止できる量子通信システム等を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係る量子通信システムの概略構成を示すブロック図である。
図2】上記量子通信システムにおける送信ノード、初段のベル測定ノード、および初段の中継ノードの概略構成を示すブロック図である。
図3】上記量子通信システムのエンドノードにおける量子もつれ光源の概略構成を示すブロック図である。
図4】本発明の別の実施形態係る量子通信システムの概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、説明の便宜上、各実施形態に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付記し、適宜その説明を省略する。
【0024】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、図1図3を参照して説明する。
【0025】
(量子通信システム)
図1は、本実施形態に係る量子通信システムの概略構成を示すブロック図である。本実施形態の量子通信システム1では、量子中継のプロトコル(方式)として、中間一致(meet-in-the-middle:MM)プロトコルが利用されている。
【0026】
図1に示すように、量子通信システム1は、送信ノード11aおよび受信ノード11bと、送信ノード11aおよび受信ノード11bの間に設けられる量子中継部12と、を含む。送信ノード11aおよび受信ノード11bのそれぞれと量子中継部12とは、光ファイバFを介して量子通信可能に接続されている。なお、送信ノード11aおよび受信ノード11bを総称する場合、「エンドノード11」と記載する。
【0027】
量子中継部12には、複数のベル測定ノード13(測定ノード)と複数の中継ノード14とが交互に設けられている。ベル測定ノード13と中継ノード14とは、光ファイバFを介して量子通信可能に接続されている。
【0028】
具体的には、送信ノード11aは、光ファイバFを介して初段のベル測定ノード13に量子通信可能に接続され、初段のベル測定ノード13は、光ファイバFを介して初段の中継ノード14に、量子通信可能に接続される。初段の中継ノード14は、光ファイバFを介して第2段のベル測定ノード13に、量子通信可能に接続され、第2段のベル測定ノード13は、光ファイバFを介して第2段の中継ノード14に、量子通信可能に接続される。以下、これを繰り返し、第k段(kは3以上の整数である。)の中継ノード14は、光ファイバFを介して第(k+1)段のベル測定ノード13に、量子通信可能に接続され、第(k+1)段のベル測定ノード13は、光ファイバFを介して受信ノード11bに、量子通信可能に接続される。
【0029】
(量子通信システムの詳細)
図2は、量子通信システム1における送信ノード11a、初段のベル測定ノード13、および初段の中継ノード14の概略構成を示すブロック図である。なお、受信ノード11bは、送信ノード11aと同様の構成であり、初段以外のベル測定ノード13は、初段のベル測定ノード13と同様の構成であり、かつ、初段以外の中継ノード14は、初段の中継ノード14と同様の構成である。
【0030】
図2に示すように、送信ノード11aは、量子もつれ光源21および単一光子検出器22を含む。
【0031】
量子もつれ光源21は、光源励起レーザを含み、該光源励起レーザからの光を用いて、通信波長帯(例えば、1.50μm~1.58μm)の波長(例えば、1.5μm)を有するもつれ光子対を生成する。上記もつれ光子対の一方は、単一光子検出器22に送出され、上記もつれ光子対の他方は、初段のベル測定ノード13に光ファイバFを介して送信される。以下では、もつれ光子対の一方または他方を称する場合、単に「もつれ光子」と記載することがある。
【0032】
単一光子検出器22は、単一光子であるもつれ光子を検出し、該もつれ光子におけるもつれている自由度について射影測定を行う。該射影測定の結果に基づき、量子鍵が作成され、量子鍵配布(Quantum Key Distribution、QKD)が実現できる。
【0033】
一方、中継ノード14は、第1量子もつれ光源31、第1量子メモリ32、およびメモリ制御レーザ33を含む。
【0034】
第1量子もつれ光源31は、光源励起レーザを含み、該光源励起レーザからの光を用いて、上記通信波長帯の波長(例えば、1.5μm)を有する第1もつれ光子対を生成する。第1もつれ光子対の一方は、第1量子メモリ32に記憶され、第1もつれ光子対の他方は、初段のベル測定ノード13に光ファイバFを介して送信される。メモリ制御レーザ33は、第1量子メモリ32における光子の書込みおよび読出しを制御する。
【0035】
初段のベル測定ノード13は、送信ノード11aから受信したもつれ光子対の他方と、初段の中継ノード14から受信した第1もつれ光子対の他方とに対し、ベル測定を行う。これにより、送信ノード11aにおけるもつれ光子対の他方と、初段の中継ノード14における第1もつれ光子対の他方との間に、量子もつれと呼ばれる量子相関を形成することができる。
【0036】
さらに、中継ノード14は、第2量子もつれ光源34、第2量子メモリ35、およびベル測定器36を含む。第2量子もつれ光源34は、光源励起レーザを含み、該光源励起レーザからの光を用いて、上記通信波長帯の波長(例えば、1.5μm)を有する第2もつれ光子対を生成する。第2もつれ光子対の一方は、第2量子メモリ35に記憶され、第2もつれ光子対の他方は、第2段のベル測定ノード13に光ファイバFを介して送信される。メモリ制御レーザ33は、第1量子メモリ32と同様に、第2量子メモリ35における光子の書込みおよび読出しを制御する。
【0037】
ベル測定器36は、第1量子メモリ32に記憶された第1もつれ光子対の一方と、第2量子メモリ35に記憶された第2もつれ光子対の一方とに対し、ベル測定を行う。これにより、初段の中継ノード14は、第1もつれ光子対の一方、第2もつれ光子対の一方との間に、量子もつれを形成することができる。
【0038】
また、初段の中継ノード14における第1もつれ光子対および第2もつれ光子対のそれぞれは、量子もつれ状態である。従って、初段の中継ノード14は、第1もつれ光子対の他方と、第2もつれ光子対の他方との間に、量子もつれを形成することができる。
【0039】
このように、ベル測定ノード13は、隣り合う2つのノード(エンドノード11または中継ノード14)から受信した2つのもつれ光子の間に量子もつれを形成することができる。また、中継ノード14は、隣り合う2つのベル測定ノード13に送信する2つのもつれ光子の間に量子もつれを形成することができる。従って、量子中継部12は、送信ノード11aが送信するもつれ光子の他方と、受信ノード11bが送信するもつれ光子の他方との間に量子もつれを形成することができる。
【0040】
また、送信ノード11aにおけるもつれ光子対と、受信ノード11bにおけるもつれ光子対とのそれぞれは、量子もつれ状態である。従って、送信ノード11aの単一光子検出器22が検出したもつれ光子の一方と、受信ノード11bの単一光子検出器22が検出したもつれ光子の一方との間に、量子もつれを形成することができる。その結果、送信ノード11aと受信ノード11bとの間にて量子通信を行うことができる。
【0041】
本実施形態では、図2に示すように、エンドノード11(11a・11b)は、周波数基準デバイス23および光周波数コム24をさらに含む。
【0042】
周波数基準デバイス23は、基準となる周波数である周波数基準を生成する。本実施形態では、周波数基準デバイス23は、GPS(Global Positioning System)等の衛星測位システムにおいて、周波数標準器を搭載した人工衛星から電波を介して受信した信号(基準周波数信号)に基づいて、上記周波数基準を生成する。周波数基準デバイス23は、上記周波数基準の信号を光周波数コム24に送出する。
【0043】
光周波数コム24は、スペクトルが離散的で等間隔に並んだ周波数線からなるレーザ光源をいう。なお、光周波数コム24は、公知のものを利用できるのでその詳細は省略する。
【0044】
本実施形態では、光周波数コム24は、周波数基準デバイス23からの基準周波数信号に基づいて、レーザ光を生成する。これにより、上記レーザ光の周波数を安定化させることができる。また、光周波数コム24は、上記レーザ光を量子もつれ光源21に出力する。量子もつれ光源21における上記光源励起レーザは、上記レーザ光に基づいて、光を生成する。これにより、上記光源励起レーザが出力する光の周波数を安定化することができる。なお、図2において、一点鎖線の矢印は安定化の基準を示している。
【0045】
また、本実施形態では、図2に示すように、中継ノード14は、周波数基準デバイス37および光周波数コム38をさらに含む。なお、周波数基準デバイス37は、エンドノード11の周波数基準デバイス23と同様であるので、その説明を省略する。
【0046】
光周波数コム38は、周波数基準デバイス37からの基準周波数信号に基づいて、レーザ光を生成する。これにより、上記レーザ光の周波数を安定化させることができる。また、光周波数コム38は、上記レーザ光を量子もつれ光源31・34に出力する。量子もつれ光源31・34における上記光源励起レーザは、上記レーザ光に基づいて、光を生成する。これにより、上記光源励起レーザが出力する光の周波数を安定化することができる。
【0047】
さらに、光周波数コム38は、上記レーザ光をメモリ制御レーザ33に出力する。これにより、メモリ制御レーザ33が量子メモリ32・35に出力する光の周波数を安定化することができる。
【0048】
図2に示すように、本実施形態の量子通信システム1では、エンドノード11および中継ノード14に光周波数コム24・38がそれぞれ設けられているが、ベル測定ノード13には光周波数コムが設けられていない。これは、ベル測定ノード13には、量子もつれ光源21・31・34における光源励起レーザと、メモリ制御レーザ33との何れも設ける必要がないからである。従って、本実施形態の量子通信システム1は、全てのノードに光周波数コムを設ける従来の量子通信システムに比べて、装置規模の大型化を防止できる。
【0049】
また、光周波数コム24・38は、周波数基準デバイス23・37からの周波数基準に基づいて、上記光源励起レーザおよびメモリ制御レーザ33の光の周波数を安定化させている。これにより、上記光の周波数をさらに安定化させることができる。
【0050】
上記構成の量子通信システム1において、まず、エンドノード11における光源励起レーザと、中継ノード14における上記光源励起レーザおよびメモリ制御レーザ33を動作させる。次に、上記光源励起レーザおよびメモリ制御レーザ33が出力する光の周波数を、光周波数コム24・38を用いて安定化する。そして、ベル測定ノード13において、隣り合う2つのノードからのもつれ光子を用いて、ベル測定を実行する。これにより、量子通信システム1の装置規模の大型化を防止すると共に、量子通信の安定化を図ることができる。
【0051】
(付記事項)
なお、中継ノード14は、第1量子もつれ光源31および第2量子もつれ光源34に代えて、1台の光源励起レーザと、該光源励起レーザからの光を用いて、第1もつれ光子対および第2もつれ光子対をそれぞれ生成する第1共振器および第2共振器と、を含んでもよい。この場合、中継ノード14の光周波数コム38は、上記レーザ光を上記光源励起レーザに出力し、該光源励起レーザは、上記レーザ光に基づいて光を生成する。これにより、上記光源励起レーザが出力する光の周波数を安定化することができる。
【0052】
(量子もつれ光源)
図3は、エンドノード11における量子もつれ光源21の概略構成を示すブロック図である。なお、中継ノード14における量子もつれ光源31・34も同様の構成である。図3に示すように、量子もつれ光源21は、励起レーザ部41および共振部42を含む。
【0053】
励起レーザ部41は、光源励起レーザ43、光フィルタ45、光検出器46、および周波数安定化デバイス47を含む。
【0054】
光源励起レーザ43は、外部共振器型の半導体レーザ等である。光源励起レーザ43が生成した光は、一部が光フィルタ45に送出し、残りは共振部42に出力する。
【0055】
共振部42は、励起レーザ部41からの光を、例えば1.5μmの波長を有し、所定のスペクトル線幅以下であるもつれ光子対に変換して出射する共振器を含む。ここで所定のスペクトル線幅とは、例えば数MHzである。共振部42は、上記共振器の他、光子調整素子などを含む。
【0056】
光フィルタ45は、光源励起レーザ43からの光と、光周波数コム24からの光とに対し、フィルタリングを行う。これにより、光周波数コム24からの光に含まれるノイズを除去することができる。
【0057】
光検出器46は、光源励起レーザ43からの光と光周波数コム24からの光とを検出して、これらの光によるビート周波数を検知する。光検出器46は、上記ビート周波数を示すビート信号を周波数安定化デバイス47に送出する。
【0058】
周波数安定化デバイス47は、光検出器46からのビート信号に基づき、光源励起レーザ43が生成する光の周波数(波長)を安定化させる。具体的には、周波数安定化デバイス47は、上記ビート信号からエラー信号を生成するエラー信号生成デバイス、上記エラー信号に基づいて光源励起レーザ43を制御するサーボコントローラ、などを含む。これにより、光周波数コム24からの光によって波長が安定化された光を光源励起レーザ43が生成することができる。
【0059】
なお、共振部42は、上記共振器を安定化させるために、もつれ光子対の波長と同じ波長の光を上記共振器に入射する共振器安定化レーザをさらに含んでもよい。この場合、共振部42は、励起レーザ部41とほぼ同様の構成を有することにより、光周波数コム24からの光によって波長が安定化された光を上記共振器安定化レーザが生成することができる。同様に、メモリ制御レーザ33も、励起レーザ部41とほぼ同様の構成を有することにより、光周波数コム38からの光によって波長が安定化された光を生成することができる。
【0060】
(付記事項)
なお、第1量子もつれ光源31が出射する第1もつれ光子対の波長と、第1量子メモリ32が吸収できる光子の波長とが異なる場合がある。この場合、中継ノード14は、第1もつれ光子対の波長を、第1量子メモリ32が吸収できる光子の波長に変換する第1波長変換器を含めばよい。同様に、第2量子もつれ光源34が出射する第2もつれ光子対の波長と、第2量子メモリ35が吸収できる光子の波長とが異なる場合がある。この場合、中継ノード14は、第2もつれ光子対の波長を、第2量子メモリ35が吸収できる光子の波長に変換する第2波長変換器を含めばよい。
【0061】
さらに、中継ノード14は、第1波長変換器および第2波長変換器を動作させるための波長変換励起レーザを含めばよい。このとき、波長変換励起レーザが出力する光の波長は、光周波数コム38によって安定化されることが望ましい。
【0062】
また、エンドノード11は、量子もつれ光源21からのもつれ光子の一方を検出する単一光子検出器22代えて、上記もつれ光子の一方を記憶する量子メモリと、該量子メモリにおける光子の書込みおよび読出しを制御するメモリ制御レーザとを含んでもよい。この場合、中継ノード14の場合と同様に、メモリ制御レーザが出力する光の波長は、光周波数コム24によって安定化されることが望ましい。
【0063】
〔実施形態2〕
本発明の別の実施形態について、図4を参照して説明する。
【0064】
図4は、本実施形態係る量子通信システム2の概略構成を示すブロック図である。図4に示す量子通信システム2は、図1図3に示す量子通信システム1に比べて、周波数標準器51およびレーザ装置52をさらに含む点が異なり、その他の構成は同様である。
【0065】
周波数標準器51は、原子時計など、標準となる周波数である周波数標準を生成する。周波数標準器51は、生成した周波数標準をレーザ装置52に送信する。
【0066】
レーザ装置52は、周波数標準器51の周波数標準によって安定化された波長の光を生成する。レーザ装置52は、生成した光を、古典通信路CCを介して、送信ノード11a、中継ノード14、および受信ノード11bに出力する。これにより、量子通信システム2における送信ノード11a、中継ノード14、および受信ノード11bの全てを同期させることができ、安定した量子通信を行うことができる。
【0067】
なお、レーザ装置52は、上述のように周波数標準器を搭載した人工衛星から電波を介して受信した信号(基準周波数信号)に基づいて安定化された波長の光を生成してもよい。この場合、周波数標準器51を省略することができる。
【0068】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0069】
1、2 量子通信システム
11 エンドノード
11a 送信ノード
11b 受信ノード
12 量子中継部
13 ベル測定ノード(測定ノード)
14 中継ノード
21 量子もつれ光源
22 単一光子検出器
23 周波数基準デバイス
24 光周波数コム
31 第1量子もつれ光源
32 第1量子メモリ
33 メモリ制御レーザ
34 第2量子もつれ光源
35 第2量子メモリ
36 ベル測定器
37 周波数基準デバイス
38 光周波数コム
41 励起レーザ部
42 共振部
43 光源励起レーザ
44 光調整素子
45 光フィルタ
46 光検出器
47 周波数安定化デバイス
51 周波数標準器
52 レーザ装置
図1
図2
図3
図4